黒崎幸吉著 註解新約聖書 Web版

新共同訳サムエル記下第3章

3章1節 サウル王家とダビデ王家との戦いは長引いたが、ダビデはますます勢力を増し、サウルの家は次第に衰えていった。

◆ヘブロンで生まれたダビデの息子

3章2節 ヘブロンで生まれたダビデの息子は次のとおりである。長男はアムノン、母はイズレエル人アヒノアム。

3章3節 次男はキルアブ、母はカルメル人ナバルの妻アビガイル。三男はアブサロム、ゲシュルの王タルマイの娘マアカの子。

3章4節 四男はアドニヤ、ハギトの子。五男はシェファトヤ、アビタルの子。

3章5節 六男はイトレアム、母はダビデの妻エグラ。以上がヘブロンで生まれたダビデの息子である。

◆アブネル、ダビデの側につく

3章6節 サウル王家とダビデ王家の戦いが続くうちに、サウル王家ではアブネルが実権を握るようになっていた。

3章7節 アヤの娘でリツパという名の女がいた。この女はサウルの側女であった。ある日イシュ・ボシェトはアブネルに、「なぜ父の側女と通じたのか」と言った。

3章8節 アブネルはイシュ・ボシェトの言葉に激しく怒って言った。「わたしをユダの犬どもの頭とでも言われるのですか。今日までわたしは、あなたの父上サウルの家とその兄弟、友人たちに忠実に仕えてきました。あなたをダビデの手に渡すこともしませんでした。それを今、あの女のことでわたしを罪に問おうとなさる。

3章9節 主がダビデに誓われたことを、わたしがダビデのために行わないなら、神がこのアブネルを幾重にも罰してくださるように。

3章10節 わたしは王権をサウルの家から移し、ダビデの王座をダンからベエル・シェバに至るイスラエルとユダの上に打ち立てる。」

3章11節 イシュ・ボシェトはアブネルを恐れ、もはや言葉を返すこともできなかった。

3章12節 アブネルはダビデのもとに使者を送って言った。「この地を誰のものと思われますか。わたしと契約を結べば、あなたの味方となって全イスラエルがあなたにつくように計らいましょう。」

3章13節 ダビデは答えた。「よろしい、契約を結ぼう。ただし、一つのことをわたしは要求する。すなわち、会いに来るときは、サウルの娘ミカルを必ず連れて来るように。さもなければ会いに来るには及ばない。」

3章14節 ダビデは、サウルの子イシュ・ボシェトに使者を遣わし、ペリシテ人の陽皮百枚を納めてめとった妻ミカルをいただきたい、と申し入れた。

3章15節 イシュ・ボシェトは人をやって、ミカルをその夫、ライシュの子パルティエルから取り上げた。

3章16節 パルティエルは泣きながらミカルを追い、バフリムまで来たが、アブネルに「もう帰れ」と言われて帰って行った。

3章17節 アブネルの言葉がイスラエルの長老たちに届いた。「あなたがたは、これまでもダビデを王にいただきたいと願っていた。

3章18節 それを実現させるべき時だ。主はダビデに、『わたしは僕ダビデの手によって、わたしの民イスラエルをペリシテ人の手から、またすべての敵の手から救う』と仰せになったのだ。」

3章19節 またアブネルは、ベニヤミンの人々とも直接話した後、イスラエルとベニヤミンの家全体との目に良いと映ったことについて直接ダビデに話そうと、ヘブロンのダビデのもとに行った。

3章20節 アブネルは二十人の部下を連れてヘブロンのダビデのもとに着いた。ダビデは酒宴を催してアブネルとその部下をもてなした。

3章21節 アブネルはダビデに言った。「わたしは立って行き、全イスラエルを主君である王のもとに集めましょう。彼らがあなたと契約を結べば、あなたはお望みのままに治めることができます。」

◆アブネル、暗殺される

3章21節 ダビデはアブネルを送り出し、アブネルは平和のうちに出発した。

3章22節 そこへダビデの家臣を率いたヨアブが多くの戦利品を携えて略奪から帰って来た。アブネルは平和のうちに送り出された後で、ヘブロンのダビデのもとにはいなかった。

3章23節 ヨアブと彼に同行していた全軍が到着すると、「ネルの子アブネルが王を訪ねて来ましたが、平和のうちに送り出されて去りました」とヨアブに告げる者があった。

3章24節 ヨアブは王のもとに行き、こう言った。「どうなさったのです。アブネルがあなたのもとにやって来たのに、なぜ送り出し、去らせてしまわれたのですか。

3章25節 ネルの子アブネルをよくご存じのはずではありませんか。あの男が来たのは、王を欺いて動静を探り、王のなさることをすべて調べるためなのです。」

3章26節 ヨアブはダビデのもとを引き下がると、アブネルを追って使いを出した。使いはボル・シラからアブネルを連れ戻した。ダビデはそのことを知らなかった。

3章27節 アブネルがヘブロンに戻ると、ヨアブは静かなところで話したいと言って城門の中に誘い込み、その場でアブネルの下腹を突いて殺し、弟アサエルの血に報いた。

3章28節 後にこれを聞いたダビデは言った。「ネルの子アブネルの血について、わたしとわたしの王国は主に対してとこしえに潔白だ。

3章29節 その血はヨアブの頭に、ヨアブの父の家全体にふりかかるように。ヨアブの家には漏出の者、重い皮膚病を病む者、糸紡ぎしかできない男、剣に倒れる者、パンに事欠く者が絶えることのないように。」

3章30節 ヨアブと弟のアビシャイがアブネルを殺したのは、ギブオンの戦いで彼らの弟アサエルをアブネルが殺したからであった。

3章31節 ダビデは、ヨアブとヨアブの率いる兵士全員に向かって、「衣服を裂き、粗布をまとい、悼み悲しんでアブネルの前を進め」と命じ、ダビデ王自身はアブネルのひつぎの後に従った。

3章32節 一同はアブネルをヘブロンに葬った。王はその墓に向かって声をあげて泣き、兵士も皆泣いた。

3章33節 王はアブネルを悼む歌を詠んだ。「愚か者が死ぬように/アブネルは死なねばならなかったのか。

3章34節 手を縛られたのでもなく/足に枷をはめられたのでもないお前が/不正を行う者の前に倒れるかのように/倒れねばならなかったのか。」兵士は皆、彼を悼んで更に泣いた。

3章35節 兵士は皆、まだ日のあるうちにダビデに食事をとらせようとやって来た。しかし、ダビデは誓って言った。「日の沈む前に、わたしがパンであれほかの何であれ、口にするようなことがあるなら、神が幾重にも罰してくださるように。」

3章36節 兵士は皆これを知って、良いことと見なした。王のすることは常に、兵士全員の目に良いと映った。

3章37節 すべての兵士、そして全イスラエルはこの日、ネルの子アブネルが殺されたのは王の意図によるものではなかったことを認めた。

3章38節 王は家臣に言った。「今日、イスラエルの偉大な将軍が倒れたということをお前たちは悟らねばならない。

3章39節 わたしは油を注がれた王であるとはいえ、今は無力である。あの者ども、ツェルヤの息子たちはわたしの手に余る。悪をなす者には主御自身がその悪に報いられるように。」


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