黒崎幸吉著 註解新約聖書 Web版

新共同訳創世記第29章

◆ラバンの家に着く

29章1節 ヤコブは旅を続けて、東方の人々の土地へ行った。

29章2節 ふと見ると、野原に井戸があり、そのそばに羊が三つの群れになって伏していた。その井戸から羊の群れに、水を飲ませることになっていたからである。ところが、井戸の口の上には大きな石が載せてあった。

29章3節 まず羊の群れを全部そこに集め、石を井戸の口から転がして羊の群れに水を飲ませ、また石を元の所に戻しておくことになっていた。

29章4節 ヤコブはそこにいた人たちに尋ねた。「皆さんはどちらの方ですか。」「わたしたちはハランの者です」と答えたので、

29章5節 ヤコブは尋ねた。「では、ナホルの息子のラバンを知っていますか。」「ええ、知っています」と彼らが答えたので、

29章6節 ヤコブは更に尋ねた。「元気でしょうか。」「元気です。もうすぐ、娘のラケルも羊の群れを連れてやって来ます」と彼らは答えた。

29章7節 ヤコブは言った。「まだこんなに日は高いし、家畜を集める時でもない。羊に水を飲ませて、もう一度草を食べさせに行ったらどうですか。」

29章8節 すると、彼らは答えた。「そうはできないのです。羊の群れを全部ここに集め、あの石を井戸の口から転がして羊に水を飲ませるのですから。」

29章9節 ヤコブが彼らと話しているうちに、ラケルが父の羊の群れを連れてやって来た。彼女も羊を飼っていたからである。

29章10節 ヤコブは、伯父ラバンの娘ラケルと伯父ラバンの羊の群れを見るとすぐに、井戸の口へ近寄り石を転がして、伯父ラバンの羊に水を飲ませた。

29章11節 ヤコブはラケルに口づけし、声をあげて泣いた。

29章12節 ヤコブはやがて、ラケルに、自分が彼女の父の甥に当たり、リベカの息子であることを打ち明けた。ラケルは走って行って、父に知らせた。

29章13節 ラバンは、妹の息子ヤコブの事を聞くと、走って迎えに行き、ヤコブを抱き締め口づけした。それから、ヤコブを自分の家に案内した。ヤコブがラバンに事の次第をすべて話すと、

29章14節 ラバンは彼に言った。「お前は、本当にわたしの骨肉の者だ。」

◆ヤコブの結婚

29章14節 ヤコブがラバンのもとにひと月ほど滞在したある日、

29章15節 ラバンはヤコブに言った。「お前は身内の者だからといって、ただで働くことはない。どんな報酬が欲しいか言ってみなさい。」

29章16節 ところで、ラバンには二人の娘があり、姉の方はレア、妹の方はラケルといった。

29章17節 レアは優しい目をしていたが、ラケルは顔も美しく、容姿も優れていた。

29章18節 ヤコブはラケルを愛していたので、「下の娘のラケルをくださるなら、わたしは七年間あなたの所で働きます」と言った。

29章19節 ラバンは答えた。「あの娘をほかの人に嫁がせるより、お前に嫁がせる方が良い。わたしの所にいなさい。」

29章20節 ヤコブはラケルのために七年間働いたが、彼女を愛していたので、それはほんの数日のように思われた。

29章21節 ヤコブはラバンに言った。「約束の年月が満ちましたから、わたしのいいなずけと一緒にならせてください。」

29章22節 ラバンは土地の人たちを皆集め祝宴を開き、

29章23節 夜になると、娘のレアをヤコブのもとに連れて行ったので、ヤコブは彼女のところに入った。

29章24節 ラバンはまた、女奴隷ジルパを娘レアに召し使いとして付けてやった。

29章25節 ところが、朝になってみると、それはレアであった。ヤコブがラバンに、「どうしてこんなことをなさったのですか。わたしがあなたのもとで働いたのは、ラケルのためではありませんか。なぜ、わたしをだましたのですか」と言うと、

29章26節 ラバンは答えた。「我々の所では、妹を姉より先に嫁がせることはしないのだ。

29章27節 とにかく、この一週間の婚礼の祝いを済ませなさい。そうすれば、妹の方もお前に嫁がせよう。だがもう七年間、うちで働いてもらわねばならない。」

29章28節 ヤコブが、言われたとおり一週間の婚礼の祝いを済ませると、ラバンは下の娘のラケルもヤコブに妻として与えた。

29章29節 ラバンはまた、女奴隷ビルハを娘ラケルに召し使いとして付けてやった。

29章30節 こうして、ヤコブはラケルをめとった。ヤコブはレアよりもラケルを愛した。そして、更にもう七年ラバンのもとで働いた。

◆ヤコブの子供

29章31節 主は、レアが疎んじられているのを見て彼女の胎を開かれたが、ラケルには子供ができなかった。

29章32節 レアは身ごもって男の子を産み、ルベンと名付けた。それは、彼女が、「主はわたしの苦しみを顧みて(ラア)くださった。これからは夫もわたしを愛してくれるにちがいない」と言ったからである。

29章33節 レアはまた身ごもって男の子を産み、「主はわたしが疎んじられていることを耳にされ(シャマ)、またこの子をも授けてくださった」と言って、シメオンと名付けた。

29章34節 レアはまた身ごもって男の子を産み、「これからはきっと、夫はわたしに結び付いて(ラベ)くれるだろう。夫のために三人も男の子を産んだのだから」と言った。そこで、その子をレビと名付けた。

29章35節 レアはまた身ごもって男の子を産み、「今度こそ主をほめたたえ(ヤダ)よう」と言った。そこで、その子をユダと名付けた。しばらく、彼女は子を産まなくなった。


[前 章][次 章]