黒崎幸吉著 註解新約聖書 Web版

新共同訳士師記第9章

◆アビメレクの過ち

9章1節 エルバアルの子アビメレクはシケムに来て、母方のおじたちに会い、彼らと母の家族が属する一族全員とにこう言った。

9章2節 「シケムのすべての首長にこう言い聞かせてください。あなたたちにとって、エルバアルの息子七十人全部に治められるのと、一人の息子に治められるのと、どちらが得か。ただしわたしが、あなたたちの骨であり肉だということを心に留めよ。」

9章3節 母方のおじたちは、彼に代わってこれらの言葉をことごとくシケムのすべての首長に告げた。彼らは、「これは我々の身内だ」と思い、その心はアビメレクに傾いた。

9章4節 彼らがバアル・ベリトの神殿から銀七十をとってアビメレクに渡すと、彼はそれで命知らずのならず者を数名雇い入れ、自分に従わせた。

9章5節 彼はオフラにある父の家に来て、自分の兄弟であるエルバアルの子七十人を一つの石の上で殺した。末の子ヨタムだけは身を隠して生き延びた。

9章6節 シケムのすべての首長とベト・ミロの全員が集まり、赴いて、シケムの石柱のあるテレビンの木の傍らでアビメレクを王とした。

9章7節 このことがヨタムに知らされると、彼はゲリジム山の頂に行って立ち、大声を張り上げて言った。「シケムの首長たちよ。わたしの言うことを聞いてください。そうすれば、神はあなたたちの言うことを/聞き入れてくださる。

9章8節 木々が、だれかに油を注いで/自分たちの王にしようとして/まずオリーブの木に頼んだ。『王になってください。』

9章9節 オリーブの木は言った。『神と人に誉れを与える/わたしの油を捨てて/木々に向かって手を振りに/行ったりするものですか。』

9章10節 木々は、いちじくの木に頼んだ。『それではあなたが女王になってください。』

9章11節 いちじくの木は言った。『わたしの甘くて味のよい実を捨てて/木々に向かって手を振りに/行ったりするものですか。』

9章12節 木々は、ぶどうの木に頼んだ。『それではあなたが女王になってください。』

9章13節 ぶどうの木は言った。『神と人を喜ばせる/わたしのぶどう酒を捨てて/木々に向かって手を振りに/行ったりするものですか。』

9章14節 そこですべての木は茨に頼んだ。『それではあなたが王になってください。』

9章15節 茨は木々に言った。『もしあなたたちが誠意のある者で/わたしに油を注いで王とするなら/来て、わたしの陰に身を寄せなさい。そうでないなら、この茨から/火が出て、レバノンの杉を焼き尽くします。』

9章16節 さて、あなたたちはアビメレクを王としたが、それは誠意のある正しい行動だろうか。それがエルバアルとその一族を正当に遇し、彼の手柄にふさわしく報いることだろうか。

9章17節 わたしの父はあなたたちのために戦い、命をかけて、あなたたちをミディアンの手から救い出した。

9章18節 ところが今日、あなたたちはわたしの父の家に背いて立ち上がり、その息子七十人を一つの石の上で殺し、女奴隷の子アビメレクを、ただ自分たちの身内だからというだけで、シケムの首長たちの上に立てて王とした。

9章19節 もし今日、あなたたちがエルバアルとその一族とに対して誠意をもって正しく行動したのなら、アビメレクと共に喜び祝うがよい。彼もまたあなたたちと共に喜び祝うがよい。

9章20節 もしそうでなければ、アビメレクから火が出て、シケムの首長たちとベト・ミロをなめ尽くす。またシケムの首長たちとベト・ミロから火が出て、アビメレクをなめ尽くす。」

9章21節 ヨタムは逃げ去った。彼は逃げてベエルに行き、兄弟アビメレクを避けてそこに住んだ。

9章22節 一方、アビメレクは三年間イスラエルを支配下においていたが、

9章23節 神はアビメレクとシケムの首長の間に、険悪な空気を送り込まれたので、シケムの首長たちはアビメレクを裏切ることになった。

9章24節 こうしてエルバアルの七十人の息子に対する不法がそのままにされず、七十人を殺した兄弟アビメレクと、それに手を貸したシケムの首長たちの上に、血の報復が果たされることになる。

9章25節 シケムの首長たちは、山々の頂にアビメレクを待ち伏せる者を配置したが、彼らはそばを通りかかる旅人をだれかれなく襲った。そのことはやがてアビメレクの知るところとなった。

9章26節 エベドの子ガアルとその兄弟たちがシケムを通りかかったが、シケムの首長たちは彼を信用した。

9章27節 首長たちは野に出て、ぶどうを取り入れて踏み、祝宴を催し、神殿に行って飲んで食べ、アビメレクを嘲った。

9章28節 エベドの子ガアルは言った。「アビメレクとは何者か、その彼に仕えなければならないとすると、我々シケムの者も何者だろうか。彼はエルバアルの子、ゼブルがその役人で、彼らはシケムの父ハモルの人々に仕える者ではなかったか。なぜ我々が彼に仕えなければならないのか。

9章29節 この民がわたしの手に託されるなら、わたしはアビメレクを片づけてやるのに。」彼はアビメレクを念頭に言った。「お前の軍を増強して出て来い。」

9章30節 町の長ゼブルは、エベドの子ガアルの言葉を聞いて激しく怒り、

9章31節 使者をアルマにいるアビメレクのもとに送って、こう言わせた。「エベドの子ガアルとその兄弟がシケムに来て、この町をあなたに背かせようとけしかけています。

9章32節 早速夜のうちに行動を起こし、民を率い、野に待ち伏せして、

9章33節 明朝、日の出とともに町に攻撃をかけてください。ガアルとガアルの率いる民があなたを迎え撃とうと出て来るはずです。あなたは、思いのままに彼をあしらうことができます。」

9章34節 アビメレクと配下のすべての民は夜のうちに行動を起こし、四隊に分かれてシケムに向かい、そこで待ち伏せた。

9章35節 エベドの子ガアルが出て来て、町の門の入り口に立った。アビメレクは率いる民と共に待ち伏せの場所から立ち上がると、

9章36節 ガアルは、その民を見てゼブルに言った。「見よ、山々の頂から民が下りて来る。」ゼブルは、「あれは、山々の影なのに、あなたには人間のように見えるのでしょう」と答えた。

9章37節 ガアルはもう一度言った。「見よ、地の高みから人が下りて来る。エロン・メオネニムの道から一部隊がやって来る。」

9章38節 そこでゼブルは言った。「アビメレクとは何者か、その彼に我々が仕えなければならないとは、と述べたあなたの口はどこに行ったのですか。あれはあなたが軽蔑した民ではないのですか。すぐ出て行って戦ったらどうです。」

9章39節 ガアルは、シケムの首長たちの先頭に立って出て行き、アビメレクと戦った。

9章40節 しかし、アビメレクが追い上げ、ガアルは敗走することとなった。斬り倒された者は数多く、城門の入り口にまで及んだ。

9章41節 アビメレクはアルマにとどまり、ゼブルはガアルとその兄弟たちを追い払い、シケムにとどまれないようにした。

9章42節 翌日、民が野に出て行くと、アビメレクにその知らせが届けられた。

9章43節 彼は三部隊に分けた自分の民を指揮して、野に待ち伏せし、町から出て来る民を見つけしだい襲いかかって打ち殺した。

9章44節 アビメレクは、自ら率いる部隊と共に攻撃をかけて町の門を抑え、他の二部隊は野にいるすべての者を襲って打ち殺した。

9章45節 アビメレクは、その日一日中、その町と戦い、これを制圧し、町にいた民を殺し、町を破壊し、塩をまいた。

9章46節 ミグダル・シケムの首長は皆これを聞き、エル・ベリトの神殿の地下壕に入った。

9章47節 ミグダル・シケムの首長が皆、集まっていることがアビメレクに知らされると、

9章48節 アビメレクは、自分の率いる民をすべて伴ってツァルモン山に登り、斧を手に取って木の枝を切り、持ち上げて肩に担い、自分の率いる民に向かってこう言った。「わたしが何をするのか、お前たちは見た。急いで、お前たちも同じようにせよ。」

9章49節 民は皆それぞれ枝を切ると、アビメレクについて行って、それを地下壕の上に積み、そこにいる者を攻めたて、地下壕に火をつけた。ミグダル・シケムの人々、男女合わせて約千人が皆、こうして死んだ。

9章50節 アビメレクはまたテベツに向かい、テベツに対して陣を敷き、これを制圧したが、

9章51節 この町の中に堅固な塔があり、男も女も皆、町の首長たちと共にその中に逃げ込んで立てこもり、塔の屋上に上った。

9章52節 アビメレクはその塔のところまで来て、これを攻撃した。塔の入り口に近づき、火を放とうとしたとき、

9章53節 一人の女がアビメレクの頭を目がけて、挽き臼の上石を放ち、頭蓋骨を砕いた。

9章54節 彼は急いで武器を持つ従者を呼び、「剣を抜いてわたしにとどめを刺せ。女に殺されたと言われないために」と言った。従者は彼を刺し、彼は死んだ。

9章55節 イスラエルの人々はアビメレクが死んだのを見て、それぞれ自分の家へ帰って行った。

9章56節 神は、アビメレクが七十人の兄弟を殺して、父に加えた悪事の報復を果たされた。

9章57節 また神は、シケムの人々の行ったすべての悪事にもそれぞれ報復を果たされた。こうしてシケムの人々は、エルバアルの子ヨタムの呪いをその身に受けることとなった。


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