黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第132篇

関根訳王国の基礎

文語訳( )(みやこ)まうでの(うた)
口語訳都もうでの歌

本篇はダビデが如何なる心持を以てシオンに神の宮を建てしかを考え、エホバはこれを喜びその契約の櫃と共にその住居なるシオンの宮に入り給わんことを乞い、而してこれと共にダビデの家に祝福を垂れ、その裔をダビデの位に坐せしめ給わんことを求むる心持を歌ったものである。即ちエホバの約束によればダビデの家とシオンの邑とは共に祝福せらるゝことを意味す。受膏者(メシヤ、キリスト、10節、17節)はこの詩人がこの詩を作れる時の王と見るべきであり、霊的の意味においてイエス・キリストの預言となる。従ってこの詩は全体としてメシヤ預言の詩と見ることを得、作詩の年代についてはこれを後代に置く説が通説であるけれども、ソロモンがエホバの契約の櫃を幕屋より神の宮に移す時(歴代下5:5以下)の歌と見るを最も適当とす、これを後代の作として見る場合でもその詩人が自己をソロモンの時の立場に置きて作れるものと見なければならない。8、9、10節等は歴代下6:14−42のソロモンの祈に自由に引用せられているのを見る。


〔1〕ダビデの事を憶えたまえ(1−5)
132篇1節エホバよ、(ねが)はくはダビデの(ため)に、彼が神の宮を建てんが為に受けしそのもろもろの(うれへ)(歴代上22:14)をこゝろに()めたまへ。

文語訳132篇1節 ヱホバよねがはくはダビデの(ため)にそのもろもろの(うれへ)をこゝうに()めたまヘ
口語訳132篇1節 主よ、ダビデのために、そのもろもろの辛苦をみこころにとめてください。
関根訳132篇1節 都もうでの歌。ヤヴェよ、ダビデに対しそのすべての労苦を想い出し給え。
新共同132篇1節 【都に上る歌。】主よ、御心に留めてください ダビデがいかに謙虚にふるまったかを。


*132篇2節ダビデ、エホバにちかひ、ヤコブの全能者(ぜんのうしや)なるイスラエルの神にうけひていふ。

文語訳132篇2節 ダビデ、ヱホバにちかひヤコブの全能者(ぜんのうしや)にうけひていふ
口語訳132篇2節 ダビデは主に誓い、ヤコブの全能者に誓いを立てて言いました、
関根訳132篇2節 彼はヤヴェに向かって誓いヤコブの強き者に誓約を立てた、
新共同132篇2節 彼は主に誓い ヤコブの勇者である神に願をかけました。


補註
ダビデが実際かゝる誓を為ししことは記録せられず単に詩人の自由なる表顕と見るべきである。


*132篇3節『われエホバのためにその居りたまうべき(ところ)をたづねいだし、ヤコブの全能者(ぜんのうしや)のためにその永く留りたまうべき居所(すまひ)をもとめ()るまでは、

文語訳132篇3節 4節、5節 われヱホバのために(ところ)をたづねいだし ヤコブの全能者(ぜんのうしや)のために居所(すまひ)をもとめうるまでは 我家(わがいへ)幕屋(まくや)にいらず わが臥床(ふしど)にのぼらず わが()をねぶらしめず わが眼瞼(まなぶた)をとぢしめざるべしと
口語訳132篇3節 4節、5節 「わたしは主のために所を捜し出し、ヤコブの全能者のためにすまいを求め得るまでは、わが家に入らず、わが寝台に上らず、わが目に眠りを与えず、わがまぶたにまどろみを与えません」。
関根訳132篇3節 「わたしは決してわが住居なる幕屋に入らず、しつらえたわが床に上らない。
132篇4節 わが眼に眠りを与えず、わがまぶたに休みを与えない、
132篇5節 わたしがヤヴェのために一つの所を、ヤコブの強き者のために住家を見出すまでは」と。
新共同132篇3節 「わたしは決してわたしの家に、天幕に入らず わたしの寝室に、寝床に上らず
132篇4節 わたしの目に眠りを与えず まぶたにまどろむことを許すまい
132篇5節 主のために一つの場所を見いだし ヤコブの勇者である神のために 神のいますところを定めるまでは。」


補註
3-5はダビデがこれを実行せしにあらず、詩人の誇張なり。(編集者註:文語訳、口語訳共に3-5節は合節となっているため、3節にまとめて記載。ただし黒崎註解書ではそれぞれ独立した節として取り扱って註を書き加えているいるため、4節5節も註付きで追加した。関根訳、新共同訳は文語訳に合わせて3節の欄にまとめて表示した。)


132篇4節我独り安楽に過すべきにあらざれば(わが)(いへ)幕屋(まくや)にいらず、わが臥床(ふしど)にのぼらず、



132篇5節わが()をねぶらしめず、わが眼瞼(まなぶた)をとぢしめざるべし』と。ダビデはサムエル後7:2に言える如き苦痛を心にいだいていた。



〔2〕エホバよその居所に住みたまえ(6−10)
132篇6節われら*エフラタ即ちキリアテヤリムにて(これ)をきゝたり即ちエホバの櫃が二十年間もそこに駐れるをきゝたり。また、*ヤアル即ちキリアテヤリム()にて契約の櫃を()とめたり。

文語訳132篇6節 われらエフラタにて(これ)をきゝヤアルの()にて()とめたり
口語訳132篇6節 見よ、われらはエフラタでそれを聞き、ヤアルの野でそれを見とめた。
関根訳132篇6節 見よ、われらそれについてエフラタで聞き、ヤアルの野でそれを見出した。
新共同132篇6節 見よ、わたしたちは聞いた それがエフラタにとどまっていると。ヤアルの野でわたしたちはそれを見いだした。


補註
「エフラタ」は本来ベツレヘムを意味しているけれども本節には意味をなさず、又エフライム説もあれども、それよりもむしろ稍無理な点もあれどデリッチの説に従いキリアテアリムの別名と解するを可とす、同様に「ヤアル」もキリアテアリム(即ちキリヤト・エアリームでヤアルの複数形)を指すと解す。キリアテアリムは二十年の間契約の櫃の置かれし所なり(サムエル前6:21)。尚ヤアルは「森」の意。


132篇7節われらはそのエホバの在し給う居所(すまひ)にゆきて、その《足臺(あしだい)》【承足】のまへに俯伏(ひれふ)してエホバに拝をなさん。

文語訳132篇7節 われらはその居所(すまひ)にゆきて その承足(しようそく)のまへに俯伏(ひれふ)さん
口語訳132篇7節 「われらはそのすまいへ行って、その足台のもとにひれ伏そう」。
関根訳132篇7節 いざ、われら彼の住家にいたり、その足台の前に平伏(ひれふ)そう。
新共同132篇7節 わたしたちは主のいます所に行き 御足を置かれる所に向かって伏し拝もう。


132篇8節而して言わんエホバよ、ねがはくは()きて、なんぢの稜威(みいづ)(ひつ)とともに今新に造られしなんぢの安息所(やすみどころ)にいりたまへ。

文語訳132篇8節 ヱホバよねがはくは()きて なんぢの稜威(みいつ)(ひつ)とともになんぢの安居所(やすみどころ)にいりたまへ
口語訳132篇8節 主よ、起きて、あなたの力のはこと共に、あなたの安息所におはいりください。
関根訳132篇8節 ヴェよ、立ち上がってあなたも、あなたの力ある箱も休み所に()り給え。
新共同132篇8節 主よ、立ち上がり あなたの憩いの地にお進みください あなた御自身も、そして御力を示す神の箱も。


132篇9節(なんぢ)祭司(さいし)たちは()の衣()て義しき心を以て汝に仕え、なんぢの聖徒(せいと)(ら)はみな汝を迎えて(よろこ)びよばふべし。

文語訳132篇9節 なんぢの祭司(さいし)たちは()()なんぢの聖徒(せいと)はみな(よろこ)び よばふべし
口語訳132篇9節 あなたの祭司たちに義をまとわせ、あなたの聖徒たちに喜び呼ばわらせてください。
関根訳132篇9節 あなたの祭司たちは力を身にまとい聖徒たちは喜びよばわる。
新共同132篇9節 あなたに仕える祭司らは正義を衣としてまとい あなたの慈しみに生きる人々は 喜びの叫びをあげるでしょう。


132篇10節なんぢの(しもべ)ダビデに与え給える約束のために、なんぢの*受膏者(じゆかうじや)(メシヤ、キリスト)たる王(ソロモンか)(おも)をしりぞけたまふなかれ。かれの上に汝の恩恵を施したまえ。

文語訳132篇10節 なんぢの(しもべ)ダビデのために なんぢの受膏者(じゆかうじや)(おも)をしりぞけたまふなかれ
口語訳132篇10節 あなたのしもべダビデのために、あなたの油そそがれた者の顔を、しりぞけないでください。
関根訳132篇10節 あなたの(しもべ)ダビデのためメシアを退け給うな。
新共同132篇10節 ダビデはあなたの僕 あなたが油注がれたこの人を 決してお見捨てになりませんように。


補註
10及び17の「受膏者」、「一つの角」等はダビデの裔より出づる王(この場合恐らくソロモン)を指して詩人がこれを理想化したものであって直接にイエスを指したのではないけれども、シオンの山、ダビデの裔に関するエホバの約束がイエスにおいて霊的意味に完成せられしを思う時、これをイエスに関する預言と見ることができる。


〔3〕エホバの約束(11−18)
132篇11節エホバ眞實(まこと)をもてダビデに(ちか)ひたまひたれば如何なる場合にも(これ)にたがふことあらじ、(いは)く『われ(なんぢ)()よりいでし(もの)をなんぢの座位(くらゐ)()せしめん(サムエル後7:12)。汝の子孫は汝の後継者となるべし。

文語訳132篇11節 ヱホバ眞實(まこと)をもてダビデに(ちか)ひたまひたれば(これ)にたがふことあらじ、(いは)く『われ(なんぢ)()よりいでし(もの)をなんぢの座位(くらゐ)にざせしめん
口語訳132篇11節 主はまことをもってダビデに誓われたので、それにそむくことはない。すなわち言われた、「わたしはあなたの身から出た子のひとりを、あなたの位につかせる。
関根訳132篇11節 ヴェはダビデに真実(まこと)をもて誓いそれからはずれることはない。「君の胎の実をわたしは君のために王位にすえよう。
新共同132篇11節 主はダビデに誓われました。それはまこと。思い返されることはありません。「あなたのもうけた子らの中から 王座を継ぐ者を定める。


132篇12節なんぢの子等(こら)もしわが(をし)ふる契約(けいやく)證詞(あかし)とをまもらば、この条件さえも充たすならばかれらの子孫(こら)もまた永遠(とこしへ)になんぢの座位(くらゐ)にざすべし』と(サムエル後7:16.歴代下6:16)。かくしてダビデの座位は永遠にその子孫に約束せられしなり。

文語訳132篇12節 なんぢの子輩(こら)もしわがをしふる契約(けいやく)證詞(あかし)とをまもらばかれらの子輩(こら)もまた永遠(とこしへ)になんぢの座位(くらゐ)にざすべしと
口語訳132篇12節 もしあなたの子らがわたしの教える契約と、あかしとを守るならば、その子らもまた、とこしえにあなたの位に座するであろう」。
関根訳132篇12節 君の子らがわが契約を守りわたしの教えるわが(あか)しを守るならば彼らの子らもとこしえまで君の王位に座するであろう」。
新共同132篇12節 あなたの子らがわたしの契約と わたしが教える定めを守るなら 彼らの子らも、永遠に あなたの王座につく者となる。」


132篇13節またシオンにつきてはエホバはシオンを(えら)びておのが居所(すみか)にせんとのぞみたまへり。

文語訳132篇13節 ヱホバはシオンを(えら)びておのが居所(すみか)にせんとのぞみたまへり
口語訳132篇13節 主はシオンを選び、それをご自分のすみかにしようと望んで言われた、
関根訳132篇13節 まことにヤヴェはシオンを選び御自分の住居として望まれた。
新共同132篇13節 主はシオンを選び そこに住むことを定められました。


132篇14節それ故にかれ(いは)く、これは永遠(とこしへ)にわが安息(やすみ)(どころ)なり、われこゝに()まん、そはこの土地は我が心にかない、われ(これ)をのぞみたればなり。

文語訳132篇14節 (いは)くこれは永遠(とこしへ)にわが安居處(やすみどころ)なり われこゝに()まん そはわれ(これ)をのぞみたればなり
口語訳132篇14節 「これはとこしえにわが安息所である。わたしはこれを望んだゆえ、ここに住む。
関根訳132篇14節 「これはとこしえまでわが休み所、そこにわたしは住む、自ら望んだのだから。
新共同132篇14節 「これは永遠にわたしの憩いの地。ここに住むことをわたしは定める。


132篇15節われシオンの土地に食糧を欠乏せしむる事なく、その(かて)をゆたかに(しゆく)し、《パン》【くひもの】をもてその貧者(まづしきもの)をあかしめん。

文語訳132篇15節 われシオンの(かて)をゆたかに(しゆく)し くひものをもてその貧者(まづしきもの)をあかしめん
口語訳132篇15節 わたしはシオンの糧食を豊かに祝福し、食物をもってその貧しい者を飽かせる。
関根訳132篇15節 その食物をわたしは豊かに祝し、貧しき者をパンをもって飽かせよう。
新共同132篇15節 シオンの食糧を豊かに祝福し 乏しい者に飽きるほどのパンを与えよう。


132篇16節且つその祭司たちにも恩恵を施し、われ(すくひ)をもてその祭司(さいし)たちに()かれらはその救の衣をきて汝の御前に立たん、その聖徒(せいと)(ら)は〔みな〕*(こゑ)たからかによろこびよばふべし。

文語訳132篇16節 われ(すくひ)をもてその祭司(さいし)たちに()せん その聖徒(せいと)はみな(こゑ)たからかによろこびよばふべし
口語訳132篇16節 またわたしはその祭司たちに救を着せる。その聖徒たちは声高らかに喜び呼ばわるであろう。
関根訳132篇16節 その祭司たちに救いを着せ、聖徒たちは大いに喜ぶであろう。
新共同132篇16節 祭司らには、救いを衣としてまとわせる。わたしの慈しみに生きる人は 喜びの叫びを高くあげるであろう。


補註
「聲高らかに」は原語になし、語声上かく訳することが適当である。


132篇17節われダビデのためにかしこに シオンの山に於て(ひと)つの(つの)*はえしめその力を以て支配せしめん、(われ) わが*受膏者(じゆかうじや)メシヤたる王者のためにその家系の連綿として栄ゆる事を表徴すべき燈火(ともしび)をそなへたり。それ故にダビデの家はシオンの山に於て永遠に滅ぶる事なからん。

文語訳132篇17節 われダビデのためにかしこに(ひと)つの(つの)をはえしめん わが受膏者(じゆかうじや)のために燈火(ともしび)をそなへたり
口語訳132篇17節 わたしはダビデのためにそこに一つの角をはえさせる。わたしはわが油そそがれた者のために一つのともしびを備えた。
関根訳132篇17節 そこでわたしはダビデのために一つの角を輝かせわがメシアのために燈火を用意する。
新共同132篇17節 ダビデのために一つの角をそこに芽生えさせる。わたしが油を注いだ者のために一つの灯を備える。


補註
「はえしめん」の原語はエレミヤ23:5。3:15等において預言的に用いらる。


132篇18節而してわれはダビデの裔を守り、かれの(あた)(はぢ)()之を打滅さん、されどかれ(のために)はその王位を表徴する*冠弁(かんむり)とこしえまでもさかゆべし。

文語訳132篇18節 われかれの(あた)にはぢを()せん されどかれはその冠弁(かんむり)さかゆべし
口語訳132篇18節 わたしは彼の敵に恥を着せる。しかし彼の上にはその冠が輝くであろう」。
関根訳132篇18節 その敵たちにわたしは恥を着せる、しかし彼の上には王冠がきらめく」。
新共同132篇18節 彼の敵には、恥を衣としてまとわせる。王冠はダビデの上に花開くであろう。」


補註
「冠弁」は大祭司の冠にも用うる語。従ってダビデの裔は王にして同時に祭司たることを暗示するものとも見ることを得。