黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第141篇

関根訳悪に抵抗する祈り

文語訳( )ダビデのうた
口語訳ダビデの歌

初代キリスト教会においては詩63篇を朝の讃美歌とし本篇を夕の讃美歌として用いていた(2節を見よ)、作詩者は自己の生活を正しくして悪を免れんこと及び敵の攻撃迫害を免れることを祈っている。自己反省の色彩強く、敵を詛う心持において割合ひ弱い(10節)、中に難解の句あり(5−7)。


141篇1節エホバよ、(われ)たすけを求めてなんぢを()ばふ。ねがはくは(すみや)かにわれにきたりわれを救いたまへ、われ祈の中に(なんぢ)をよばふとき、わが(こゑ)(みみ)をかたぶけわが祈を聴きたまへ。

文語訳141篇1節 ヱホバよ(われ)なんぢを(よば)ふ ねがはくは(すみゃ)かにわれにきたりたまへ われ(なんぢ)をよばふときわが(こゑ)(みみ)をかたぶけたまヘ
口語訳141篇1節 主よ、わたしはあなたに呼ばわります。すみやかにわたしをお助けください。わたしがあなたに呼ばわるとき、わが声に耳を傾けてください。
関根訳141篇1節 ダビデの歌。ヤヴェよ、わたしはあなたを呼ぶ、わたしの所へ急いで来て下さい。わたしがあなたを呼ぶ時わが声を聞いて下さい。
新共同141篇1節 【賛歌。ダビデの詩。】主よ、わたしはあなたを呼びます。速やかにわたしに向かい あなたを呼ぶ声に耳を傾けてください。


141篇2節われは祭壇にささぐる(かう)》【薫物(たきもの)】の香りが聖前に立ちのぼる(ごと)くにわが(いのり)をみまへにささげ(黙示5:8。8:3、4)(ゆふべ)の《*素祭(そさい)》【そなへもの】の(ごと)くにわが祈としてわが()を《あぐ。》【あげて聖前にさゝげんことを願ふ】

文語訳141篇2節 われは薫物(たきもの)のごとくにわが(いのり)をみまへにさゝげ (ゆふべ)のそなへものの(ごと)くにわが()をあげて聖前(みまへ)にさゝげんことをねがふ
口語訳141篇2節 わたしの祈を、み前にささげる薫香のようにみなし、わたしのあげる手を、夕べの供え物のようにみなしてください。
関根訳141篇2節 わが祈りは薫香のように(ひろ)げられたわが()は夕の犠牲のようにあなたの前に向かうことが出来ますように。
新共同141篇2節 わたしの祈りを御前に立ち昇る香りとし 高く上げた手を 夕べの供え物としてお受けください。


補註
「そなへもの」はミンハーでこの場合一般のそなえものと見ることができるけれども、むしろ「香」を以て燔祭を代表せしめミンハーをその本来の意義に取り素祭と訳するを可とす(レビ2:1)。


141篇3節エホバよ、ねがはくはわが(くち)門守(かどもり)をおき【て】わが口より悪しき言を出さゞらしめわがくちびるの()《に見張(みは)りをおきたまへ。》【をまもりたまへ】かくして濫に人を誹謗する事なからしめたまえ。

文語訳141篇3節 ヱホバよねがはくはわが(くち)門守(かどもり)をおきて わがくちびるの()をまもりたまへ
口語訳141篇3節 主よ、わが口に門守を置いて、わがくちびるの戸を守ってください。
関根訳141篇3節 ヴェよ、わが口に見張りを置きわが唇の戸の戸締まりをして下さい。
新共同141篇3節 主よ、わたしの口に見張りを置き 唇の戸を守ってください。


141篇4節(あしき)(こと)誘われわが(こゝろ)(かたぶ)かしめて、邪曲(よこしま)をおこなふ《人々(ひとびと)》【者】とともに()しきわざにあづからしめ(たま)ふなかれ、人は往々にして一人にて行い得ざる悪事を儕輩と共に敢て行うに至るものなり。(また)我を誘惑せんとするかれらの美味(うまきもの)をくらはしめたまふなかれ。之に誘われて遂に大なる罪に陥るなり。

文語訳141篇4節 惡事(あしきこと)にわがこゝろを(かたぶ)かしめて 邪曲(よこしま)をおこなふ(もの)とともに()しきわざにあつからしめ(たま)ふなかれ (また)かれらの珍饈(うまきもの)をくらはしめたまふなかれ
口語訳141篇4節 悪しき事にわが心を傾けさせず、不義を行う人々と共に悪しきわざにあずからせないでください。また彼らのうまき物を食べさせないでください。
関根訳141篇4節 わたしの心を悪事に傾け悪を行なう人々と一緒にわたしが不法な行ないに加わることがないように、わたしが彼らの美味を一緒に口にすることがないように。
新共同141篇4節 わたしの心が悪に傾くのを許さないでください。悪を行う者らと共にあなたに逆らって 悪事を重ねることのありませんように。彼らの与える好餌にいざなわれませんように。


141篇5節悪しき者の甘き誘惑とは反対に義しき者の苦きこらしめありされど(ただ)しき(もの)われをうつとも、(われ)はこれを恨むる事なく却って之を其の人の(いつく)しみとし、感謝を以て之を受け、その(われ)をせむるを却ってよろこびの時に用うる(かしら)のあぶらとせん、わが(かしら)(これ)(いな)まず、よろこびて義しきものの叱責をうけ、かれらが《*(あく)()(とき)も、われはかれらを恨まず、なほ(われ)(いの)らん。》【禍害にあふときもわが祈はたえじ】

文語訳141篇5節 義者(ただしきもの)われをうつとも(われ)はこれを(いつくしみ)とし その(われ)をせむるを(かしら)のあぶらとせん わが(かしら)はこれを(いな)まず かれらが禍害(わざはひ)にあふときもわが(いのり)はたえじ
口語訳141篇5節 正しい者にいつくしみをもってわたしを打たせ、わたしを責めさせてください。しかし悪しき者の油をわがこうべにそそがせないでください。わが祈は絶えず彼らの悪しきわざに敵しているからです。
関根訳141篇5節 (ただ)しい者がわたしを打ってもよい。敬虔(けいけん)な者がわたしをこらしてもよい。悪人の油がわが頭に注がれることがないように。わが祈りは彼らの悪に抵抗しているのですから。
新共同141篇5節 主に従う人がわたしを打ち 慈しみをもって戒めてくれますように。わたしは油で頭を整えることもしません 彼らの悪のゆえに祈りをささげている間は。


補註
末尾の意味不明、現行訳は稍無理なり。


*141篇6節我がこの心持は何人も理解し得ざれどもその悪を行う審士(さばきびと)はいはほの(がけ)になげられて不幸なる死を遂ぐる時来らん、その時に至ってかれら始めてわが(ことば)《を()かん、そは(あま)ければなり。》【の甘美によりて聽くことをすべし】

文語訳141篇6節 その審士(さばきびと)はいはほの(がけ)になげられん かれらわがことばの甘美(あまき)によりて()くことをすべし
口語訳141篇6節 彼らはおのれを罪に定める者にわたされるとき、主のみ言葉のまことなることを学ぶでしょう。
関根訳141篇6節 彼らは(さば)き手の手に陥る時ヤヴェの言葉の(たえ)なるを聞くでしょう。
新共同141篇6節 彼らの支配者がことごとく 岩の傍らに投げ落とされますように。彼らはわたしの言葉を聞いて喜んだのです。


補註
6、7の二節は全然意味不明で非常に難解なので種々の解釈及び種々の変更が加えられているけれども、採用するに足るものはない。或はこの二節は他よりの混入か。


*141篇7節われらに迫害が来るときは(ひと)つちを(たがへ)穿(うが)時にその土や石を散す(ごと)く、(われ)らの(ほね)(はか)(くち)(ちら)さる。

文語訳141篇7節 (ひと)つちを(たがへ)しうがつがごとく我儕(われら)のほねははかの(くち)にちらさる
口語訳141篇7節 人が岩を裂いて地の上に打ち砕くように、彼らの骨は陰府の口にまき散らされるでしょう。
関根訳141篇7節 地上に木端(こっぱ)や石ころが散らされるように彼らの骨は陰府の口のために散らされるでしょう。
新共同141篇7節 「あたかも地を裂き、地を割ったかのように わたしたちの骨は陰府の口に散らされている。」


*141篇8節されど(しゆ)エホバよ、わが()わが不幸を顧みずしてなほ(なんぢ)にむかふ、(われ)なんぢに依ョ(よりたの)めり。(ねが)はくはわが靈魂(たましひ)を《そゝぎ(いだ)死に至らしめたまふなかれ。》【ともしきまゝに捨おきたまふなかれ】

文語訳141篇8節 されど(しゆ)ヱホバよ わが()はなほ(なんぢ)にむかふ (われ)なんぢに依頼(よりたの)めり ねがはくはわが靈魂(たましひ)をともしきまゝに()ておきたまふなかれ
口語訳141篇8節 しかし主なる神よ、わが目はあなたに向かっています。わたしはあなたに寄り頼みます。わたしを助けるものもないままに捨ておかないでください。
関根訳141篇8節 わが主なるヤヴェよ、わが眼はあなたに向けられています。わたしはあなたを避け所とします。わが魂を裸のままにしないで下さい。
新共同 141篇8節 主よ、わたしの神よ、わたしの目をあなたに向け あなたを避けどころとします。わたしの魂をうつろにしないでください。


補註
「されど」は原語「何となれば」である、従って7節に連絡せず。


141篇9節願わくは(われ)をまもりて、かれらがわが(ため)にまうくる(わな)(の())と、邪曲(よこしま)(おこな)(もの)の《()》【機(をし)】とをまぬかれしめ之に陥る事なからしめたまへ。

文語訳141篇9節 (われ)をまもりてかれらがわがためにまうくる(わな)と よこしまを(おこな)ふものの(おし)とをまぬかれしめたまへ
口語訳141篇9節 わたしを守って、彼らがわたしのために設けたわなと、悪を行う者のわなとをのがれさせてください。
関根訳141篇9節 彼らがわたしのために設けた落し穴、不法を行なう者の置いたわなからわたしを守って下さい。
新共同141篇9節 どうか、わたしをお守りください。わたしに対して仕掛けられた罠に 悪を行う者が掘った落とし穴に陥りませんように。


141篇10節【われは全くのがれん】願はくはあしきものをその我らを陥れんとして設けしおのれの(あみ)におちいらしめたまへ、《(われ)はその(とき)にのがれいでん。》

文語訳141篇10節 われは(また)くのがれん あしきものをおのれの(あみ)におちいらしめたまへ
口語訳141篇10節 わたしがのがれると同時に、悪しき者をおのれの網に陥らせてください。
関根訳141篇10節 悪人が自分の穴に落ちる時もわたしは一人でその上を過ぎゆくでしょう。
新共同141篇10節 主に逆らう者が皆、主の網にかかり わたしは免れることができますように。