黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第145篇

関根訳讃美
新共同(アルファベットによる詩)

文語訳( )ダビデの讃美(さんび)のうた
口語訳ダビデのさんびの歌

第145−150篇は讃美の詩集として全詩篇の最後に置かれ本篇はその冒頭に置かれている。讃美(テヒラー)なる題名は本篇特有のものであるけれどもこれが全詩篇に対する称呼として用いられている(テヒリーム)。神に関するあらゆる属性につき神を讃美し神をほめたゝへており、殊に神が万民の王に在し給うことを強調している。本篇も一個人の作ではあるけれどもその個人の人格思想が全然イスラエルに同化帰一し、イスラエルと共に歓び共に歎き、共にエホバを讃美しているのであって、従ってイスラエルを主題とする詩であるということができる。145−150篇は思想ならびに用語において相類似し、同一の作者か少くとも同一時代の作と見ることを得、礼拝用として作られたものと見るべきであり従って比較的後代のものに属す。紀元前三世紀頃より遡ってネヘミヤ時代のものであろう。本篇はアルファベット順に排列せられているけれども唯13節と14節との間に(ヌン)を欠いている。脱落せるものか、または言伝によればアモス5:2の不吉なる句がヌンに始まる故なりとのことである。或は然らん、本篇はイロハ歌たる性質上断片的であり、一句一句味わるべきものである。


145篇1節א(アれフ))わが(かみ)(わう)よ、汝は全世界を支配する王にして神に在したまう、われ(なんぢ)をあがめ、 世々(よゝ)永遠にかぎりなく聖名(みな)を《*祝福(しゆくふく)せん。》【ほめまつらん】

文語訳145篇1節 わがかみ(わう)よわれ(なんぢ)をあがめ (よよ)々かぎりなく聖名(みな)をほめまつらん
口語訳145篇1節 わが神、王よ、わたしはあなたをあがめ、世々かぎりなくみ名をほめまつります。
関根訳145篇1節 ダビデの讃美の歌。王なるわが神よ、わたしはあなたを(あが)め、とこしなえにみ名をほめまつる。
新共同145篇1節 【賛美。ダビデの詩。】わたしの王、神よ、あなたをあがめ 世々限りなく御名をたたえます。


補註
1-4に「ほめ」「ためたゝふ」と訳されし五つの場合は三つの異なる原語を用う、それ故に本篇の私訳はこれに従って区別した。その他の節にもこの区別を明かにした。


145篇2節ב(べーと))われ()ごとに(なんぢ)を《祝福(しゆくふく)し》【ほめ】世々(よゝ)かぎりなく聖名(みな)*ほめたゝへん。

文語訳145篇2節 われ()ごとに(なんぢ)をほめ (よよ)々かぎりなく聖名(みな)をほめたゝへん
口語訳145篇2節 わたしは日ごとにあなたをほめ、世々かぎりなくみ名をほめたたえます。
関根訳145篇2節 日毎にあなたをほめまつりとこしえにみ名を(たた)える。
新共同145篇2節 絶えることなくあなたをたたえ 世々限りなく御名を賛美します。


145篇3節ג(ギメる))エホバは(おほい)して全智全能の神にましませば(いと)も《*ほめたゝふ》【ほむ】べきかな、その(おほい)なることは無限にして人智を以て之を(たづ)ねしることかたし。

文語訳145篇3節 ヱホバは(おほい)にましませば(いと)もほむべきかな その(おほい)なることは(たづ)ねしることかたし
口語訳145篇3節 主は大いなる神で、大いにほめたたえらるべきです。その大いなることは測り知ることができません。
関根訳145篇3節 ヴェは大いにしていたく讃えらるべく、その大いなること量り知れない。
新共同145篇3節 大いなる主、限りなく賛美される主 大きな御業は究めることもできません。


145篇4節ד(ダれと))この()はかの()にむかひて代々限りなくなんぢの事跡(みわざ)を《*たゝへ》【ほめたゝへ】なんぢの大能(たいのう)のはたらきを()べつたへん。

文語訳145篇4節 この()はかの()にむかひてなんぢの事跡(みわざ)をほめたゝへ なんぢの大能(たいのう)のはたらきを()べつたへん
口語訳145篇4節 この代はかの代にむかってあなたのみわざをほめたたえ、あなたの大能のはたらきを宣べ伝えるでしょう。
関根訳145篇4節 この世代()は次の世代にみ業を語り、あなたの大いなる力を告げ知らせよ。
新共同145篇4節 人々が、代々に御業をほめたたえ 力強い御業を告げ知らせますように。


145篇5節ה(ヘー))われ(なんぢ)の ほまれの《稜威(みいづ)榮光( えいくわう)と》【榮光ある稜威と】なんぢの(くす)しき*みわざ(の(こと)ども)とを(ふか)(おも)はん。

文語訳145篇5節 われ(なんぢ)のほまれの榮光(えいくわう)ある稜威(みいづ)となんぢの(くす)しきみわざとを(ふか)くおもはん
口語訳145篇5節 わたしはあなたの威厳の光栄ある輝きと、あなたのくすしきみわざとを深く思います。
関根訳145篇5節 あなたの栄光の輝きについて彼らは語れ、奇しきみ業をわたしは歌おう。
新共同145篇5節 あなたの輝き、栄光と威光 驚くべき御業の数々をわたしは歌います。


補註
「みわざの事ども」の「事ども」(現行訳には欠けている)なる文字を少しく変更して「彼らは言ふ」とすれば本節は「かれらは(又は人は)汝のほまれの稜威の榮光をかたり、我は汝の奇しきみわざを深く思はん」となり次節と相対応することとなる。七十人訳はかく訳す。


145篇6節ו(ワウ)(ひと)はなんぢのおそるべき動作(はたらき)のいきほひをかたり、(われ)はなんぢの(おほい)なることを()べつたへん。かくして人も我も挙って汝のあらゆる栄光とあらゆる御業をたゝえん。

文語訳145篇6節 (ひと)はなんぢのおそるべき動作(はたらき)のいきほひをかたり (われ)はなんぢの(おほい)なることを()べつたへん
口語訳145篇6節 人々はあなたの恐るべきはたらきの勢いを語り、わたしはあなたの大いなることを宣べ伝えます。
関根訳145篇6節 恐るべきみ業の力について彼らは述べよ、あなたの大いなることをわたしは伝えよう。
新共同145篇6節 人々が恐るべき御力について語りますように。大きな御業をわたしは数え上げます。


145篇7節ז(ザイン))かれらは(なんぢ)(おほい)なる(めぐみ)の《(おも)()》【跡】をいひいで、なんぢの()をほめうたはん。汝がその義を以て悪しき者をさばきその恵を以てイスラエルを救い給える事はかれらの歓喜と讃美の源となるなり。

文語訳145篇7節 かれらはなんぢの(おほい)なる(めぐみ)(あと)をいひいで なんぢの()をほめうたはん
口語訳145篇7節 彼らはあなたの豊かな恵みの思い出を言いあらわし、あなたの義を喜び歌うでしょう。
関根訳145篇7節 あなたの大いなる恵みの継承を語り告げあなたの義について喜び歌えよ。
新共同145篇7節 人々が深い御恵みを語り継いで記念とし 救いの御業を喜び歌いますように。


145篇8節ח(へと))エホバは(めぐみ)ふかく憐情(さなけ)みち、また(いか)りたまふことおそく、憐憫(あはれみ)おほいなり(出エジプト34:6、7)。実にエホバは愛に充ちたまう。

文語訳145篇8節 ヱホバは(めぐみ)ふかく憐情(なさけ)みち また(いか)りたまふことおそく憐憫(あはれみ)おほいなり
口語訳145篇8節 主は恵みふかく、あわれみに満ち、怒ることおそく、いつくしみ豊かです。
関根訳145篇8節 ヴェは恵み深く、あわれみに富み怒ることおそく、いつくしみ豊か。
新共同145篇8節 主は恵みに富み、憐れみ深く 忍耐強く、慈しみに満ちておられます。


145篇9節ט(テと))エホバはイスラエルのみならずよろづの(もの)(めぐみ)あり、その(ふか)憐情(さなけ)【憐憫】はみわざの(うへ)にあまねし。凡ての被造物も、凡ての歴史も神の御事跡であり神の憐情の表顕である。

文語訳145篇9節 ヱホバはよろづの(もの)にめぐみあり そのふかき憐憫(あはれみ)はみわざの(うへ)にあまねし
口語訳145篇9節 主はすべてのものに恵みがあり、そのあわれみはすべてのみわざの上にあります。
関根訳145篇9節 ヴェはすべての者によくそのあわれみはすべてのみ業の上にある。
新共同145篇9節 主はすべてのものに恵みを与え 造られたすべてのものを憐れんでくださいます。


145篇10節י(ヨど))エホバよ、(なんぢ)のすべての事業(みわざ)なる天地万有はなんぢのあわれみにつきて汝感謝(かんしや)し、なんぢの聖徒(せいと)汝の救につき(なんぢ)を《祝福(しゆくふく)せん。》【ほめん】

文語訳145篇10節 ヱホバよ(なんぢ)のすべての事跡(みわざ)はなんぢに感謝(かんしや)し なんぢの聖徒(せいと)はなんぢをほめん
口語訳145篇10節 主よ、あなたのすべてのみわざはあ なたに感謝し、あなたの聖徒はあなたをほめまつるでしょう。
関根訳145篇10節 ヴェよ、あなたのみ業はあなたをほめ聖徒たちはあなたをほめまつる。
新共同145篇10節 主よ、造られたものがすべて、あなたに感謝し あなたの慈しみに生きる人があなたをたたえ


145篇11節כ(カふ))かれらは御國(みくに)榮光(えいくわう)の如何に耀かしきかをかたり、(なんぢ)のみちからを()べつたへて、

文語訳145篇11節 かれらは御國(みくに)のえいくわうをかたり (なんぢ)のみちからを()べつたへて
口語訳145篇11節 彼らはみ国の栄光を語り、あなたのみ力を宣べ、
関根訳145篇11節 あなたのみ国の栄えを彼らはのべ大いなる力を彼らは語る。
新共同145篇11節 あなたの主権の栄光を告げ 力強い御業について語りますように。


145篇12節ל(らメど))その大能(たいのう)のはたらきと、そのみくにの《稜威(みいつ)榮光(えいくわう)》【榮光あるみいつ】とを(ひと)()らにしらすべし。

文語訳145篇12節 その大能(たいのう)のはたらきと そのみくにの榮光(えいくわう)あるみいづとを(ひと)子輩(こら)にしらすべし
口語訳145篇12節 あなたの大能のはたらきと、み国の光栄ある輝きとを人の子に知らせるでしょう。
関根訳145篇12節 人の子らにあなたの大いなる力を知らしめ、み国の栄えある輝きを知らしめるため。
新共同145篇12節 その力強い御業と栄光を 主権の輝きを、人の子らに示しますように。


*145篇13節מ(メム))なんぢの(くに)亡ぶる事なきとこしへの(くに)なり、なんぢの政治(まつりごと)この世の国々の政治と異りよろづ()にたゆることなし。

文語訳145篇13節 なんぢの(くこ)はとこしへの(くこ)なり なんぢの政治(まつりごと)はよろづ()にたゆることなし
口語訳145篇13節 あなたの国はとこしえの国です。あなたのまつりごとはよろずよに絶えることはありません。
関根訳145篇13節 あなたのみ国はとこしえの国、あなたの支配は代々に続く。
新共同145篇13節 あなたの主権はとこしえの主権 あなたの統治は代々に。


補註
13と14との間に七十人訳は「エホバはそのもろもろの御言に於て真実に在したまひそのもろもろの御わざに於て聖くいましたまふ」とあり。この節の真偽は問題視されているけれども、真正なりとすればヌンを以て始まる節が欠けないこととなる。


*145篇14節ס(サメく))エホバは恵深く在し弱き者をあわれみ給うが故にすべて(たふ)れんとする(もの)をさゝへ、 ((すべ)て)かゞむ(もの)(なほ)くたゝしめて彼らを倒れしめず之を力づけたまふ。

文語訳145篇14節 ヱホバはすべて(たふ)れんとする(もの)をさゝへ かがむものを(なほ)くたゝしめたまふ
口語訳145篇14節 主はすべて倒れんとする者をささえ、すべてかがむ者を立たせられます。
関根訳145篇14節 ヴェは倒れようとするすべての者を支え、すべてのかがむ者を立たせる。
新共同145篇14節 主は倒れようとする人をひとりひとり支え うずくまっている人を起こしてくださいます。


145篇15節ע(アイン))よろづのものの()その必要を与えられんとてなんぢを()ち、なんぢは(とき)にしたがひ必要に応じてかれらに(かて)をあたへ(たま)ふ。

文語訳145篇15節 よろづのものの()はなんぢを()ち なんぢは(とき)にしたがひてかれらに(かて)をあたへ(たま)
口語訳145篇15節 よろずのものの目はあなたを待ち望んでいます。あなたは時にしたがって彼らに食物を与えられます。
関根訳145篇15節 すべての者の眼はあなたを待ち望む。あなたは時に応じて彼らに食物を与えられる。
新共同145篇15節 ものみながあなたに目を注いで待ち望むと あなたはときに応じて食べ物をくださいます。


145篇16節פ(ぺー))なんぢ(みて)をひらきて惜しみなく施し給い もろもろの( )けるものの願望(ねがひ)をあかしめたまふ。

文語訳145篇16節 なんぢ(みて)をひらきてもろもろの()けるものの願望(ねがひ)をあかしめたまふ
口語訳145篇16節 あなたはみ手を開いて、すべての生けるものの願いを飽かせられます。
関根訳145篇16節 あなたはみ手を開いて、生ける者すべてを良きもので飽かせられる。
新共同145篇16節 すべて命あるものに向かって御手を開き 望みを満足させてくださいます。


145篇17節צ(ツアデー))エホバはそのすべての(みち)にたゞしくして不義を行い給うことなくそのすべての作爲(みわざ)にめぐみふかくしてあわれみ給わざることなし。

文語訳145篇17節 ヱホバはそのすべての(みち)にたゞしく そのすべての作爲(みわざ)にめぐみふかし
口語訳145篇17節 主はそのすべての道に正しく、そのすべてのみわざに恵みふかく、
関根訳145篇17節 ヴェはそのすべての道に(ただ)しく、すべてのみ業に恵み深い。
新共同145篇17節 主の道はことごとく正しく 御業は慈しみを示しています。


145篇18節ק(コふ))すべて祈によりてエホバをよぶもの、単に形式的にあらず(まこと)をもて(これ)をよぶものにエホバは之を救わんとて(ちか)くましますなり。

文語訳145篇18節 すべてヱホバをよぶもの (まこと)をもて(これ)をよぶものに ヱホバは(ちか)くましますなり
口語訳145篇18節 すべて主を呼ぶ者、誠をもって主を呼ぶ者に主は近いのです。
関根訳145篇18節 ヴェは彼を呼ぶすべての者に近く、真実(まこと)をもって彼を呼ぶすべての者に近い。
新共同145篇18節 主を呼ぶ人すべてに近くいまし まことをもって呼ぶ人すべてに近くいまし


145篇19節ר(レシ))エホバはおのれをおそるゝもの畏を以てエホバに近付きエホバにその願をのぶるもの願望(ねがひ)をみちたらしめ、その苦難の中にて発する號呼(さけび)をききて(これ)をすくひたまふ。

文語訳145篇19節 ヱホバは(おのれ)をおそるゝものの願望(ねがひ)をみちたらしめ その號呼(さけび)をきゝて(これ)をすくひたまふ
口語訳145篇19節 主はおのれを恐れる者の願いを満たし、またその叫びを聞いてこれを救われます。
関根訳145篇19節 彼を(おそ)れる者の願いを満たし彼らの叫びを聞いて彼らを助ける。
新共同145篇19節 主を畏れる人々の望みをかなえ 叫びを聞いて救ってくださいます。


145篇20節ש(シン))エホバはおのれを畏るゝのみならず(いつく)しむものをすべて(まも)りたまへど()しき(もの)をことごとく(ほろ)ぼしたまはん。

文語訳145篇20節 ヱホバはおのれを(いつく)しむものをすべて(まも)りたまへど 惡者(あしきもの)をことごとく(ほろ)ぼしたまはん
口語訳145篇20節 主はおのれを愛する者をすべて守られるが、悪しき者をことごとく滅ぼされます。
関根訳145篇20節 ヴェは彼を愛するすべての者を守り、すべての悪しき者を滅ぼされる。
新共同145篇20節 主を愛する人は主に守られ 主に逆らう者はことごとく滅ぼされます。


145篇21節ת(タウ)エホバはかゝる神、かゝる王に在したまうが故にわが(くち)はエホバの頌美(ほまれ)をかたり、全世界の*(すべ)ての(ひと)》【よろづの民】は世々(よゝ)かぎりなく、その(きよ)御名(みな)を《祝福(しゆくふく)せん。》【ほめまつるべし】

文語訳145篇21節 わが(くち)はヱホバの頌美(ほまれ)をかたり ようつの(たみ)(よよ)々かぎりなくそのきよき(みな)をほめまつるべし
口語訳145篇21節 わが口は主の誉を語り、すべての肉なる者は世々かぎりなくその聖なるみ名をほめまつるでしょう。
関根訳 145篇21節 わが口はヤヴェの讃美を語る。すべての肉なる者はその聖なるみ名をほめよ、とこしなえに。
新共同145篇21節 わたしの口は主を賛美します。すべて肉なるものは 世々限りなく聖なる御名をたたえます。


補註
「よろづの民」の原語は「凡ての肉」で万人のこと。