黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第147篇

関根訳自然と歴史の神


エホバのあわれみ及びその支配に対する讃美(1−11)及びエホバが殊にイスラエルに対し、エルサレムに対して示し給える恩恵につきエホバを讃美せんとするのが(12−20)本篇の内容である。ネヘミヤ12:27−43に録されしエルサレムの石垣が修覆せられし時の祝賀の行列においてこの歌がうたわれたのであると断定することは困難であるのみならず、それにしては幾分この歌に具体性を欠く如くに思われるけれども少くともその時代または少しくその後においてエルサレムの民が平和と歓喜の中にエホバを讃美し得る時代において作られし礼拝用の歌であると考うべきであろう。全篇他の旧き詩の影響を受けているけれども、単なる模倣ではなくそれ自身静かなる歓喜に充たされているのを見る。なお次篇以下も同様の調子の詩である。七十人訳では本篇が二篇に分れており、共に「ハガイ及びゼカリヤのうた」の表題あり。


〔1〕エホバの恩恵と統治とをほめたゝえよ(1−11)
*147篇1節《ヤハ》【エホバ】をほめたゝへよ(ハレルヤ)、《そは()(こと)なり、》 われらの(かみ)を《ほめうたへ、》【ほめうたふは善き事なり】(そは)(たの)しきことなり、(たた)へまつるはよろしきに(かな)へり。我等の当然に為すべき事にして又最も楽しき事は神を賛美する事なり。

文語訳147篇1節 ヱホバをほめたゝへよ われらの(かみ)をほめうたうは()きことなり (たの)しきことなり (たた)へまつるはよろしきに(かな)へり
口語訳147篇1節 主をほめたたえよ。われらの神をほめうたうことはよいことである。主は恵みふかい。さんびはふさわしいことである。
関根訳147篇1節 をほめ讃えよ。げにわれらの神をほめ歌うはよきかな、げに讃美の歌はわれらの神にふさわしい。
新共同147篇1節 ハレルヤ。わたしたちの神をほめ歌うのはいかに喜ばしく 神への賛美はいかに美しく快いことか。


補註
初頭のハレルヤを文章の中に入れて私訳の如くによむ、七十人訳はこの読方を為し、別にハレルヤなる表題をかゝぐ。


147篇2節エホバは曾て荒廃に帰したるエルサレムの石垣再びきづき、国亡びて各地に散らされしイスラエルのさすらへる(もの)再びイスラエルの地にあつめたまふ。

文語訳147篇2節 ヱホバはエルサレムをきづき イスラエルのさすらへる(もの)をあつめたまふ
口語訳147篇2節 主はエルサレムを築き、イスラエルの追いやられた者を集められる。
関根訳147篇2節 ヴェはエルサレムを建てイスラエルの散らされた者を集める。
新共同147篇2節 主はエルサレムを再建し イスラエルの追いやられた人々を集めてくださる。


147篇3節エホバは悲しみのために(こゝろ)の《くだかれたる》【くだけたる】ものを(いや)し、その《(いたみ)》【傷】をつゝみてかれらをなぐさめ醫したまふ。

文語訳147篇3節 ヱホバは(こころ)のくだけたるものを(いや)し その(きず)をつゝみたまふ
口語訳147篇3節 主は心の打ち砕かれた者をいやし、その傷を包まれる。
関根訳147篇3節 心の痛める者を(いや)しその傷を包まれる。
新共同147篇3節 打ち砕かれた心の人々を癒し その傷を包んでくださる。


147篇4節エホバは無限の宇宙を御手の中に支配し〔もろもろの〕(ほし)(かず)をかぞへて、すべてこれに()をあたへたまふ。

文語訳147篇4節 ヱホバはもろもろの(ほし)(かず)をかぞへて すべてこれに()をあたへたまふ
口語訳147篇4節 主はもろもろの星の数を定め、すべてそれに名を与えられる。
関根訳147篇4節 星の数を数えそのすべての名を呼ばれる。
新共同147篇4節 主は星に数を定め それぞれに呼び名をお与えになる。


147篇5節われらの(しゆ)はおほいなり、その能力(ちから)もまた(おほい)なり、その《聰明(さとり)》【智慧】はきはまりなし。我らかゝるエホバを讃美し彼に依頼まざるべからず。

文語訳147篇5節 われらの(しゆ)はおほいなり その能力(ちから)もまた(おほい)なり その智慧(ちゑ)はきはまりなし
口語訳147篇5節 われらの主は大いなる神、力も豊かであって、その知恵ははかりがたい。
関根訳 147篇5節 われらの主は大いにして力に満ちその知恵はきわめがたい。
新共同147篇5節 わたしたちの主は大いなる方、御力は強く 英知の御業は数知れない。


147篇6節エホバはこの世の悪しき人々とは正反対に柔和(にうわ)なるものが強暴なるものに圧迫されんとするとき之をさゝへて高くあげ、自ら高ぶりて柔和なるものをしえたぐる()しきものを(ば)()にひきおとし(たま)ふ。

文語訳147篇6節 ヱホバは柔和(にうわ)なるものをさゝへ ()しきものを()にひきおとし(たま)
口語訳147篇6節 主はしえたげられた者をささえ、悪しき者を地に投げ捨てられる。
関根訳147篇6節 ヴェは柔和な者を助けおこし悪しき者を地に伏させる。
新共同147篇6節 主は貧しい人々を励まし 逆らう者を地に倒される。


147篇7節エホバに感謝(かんしや)してうたへ、(こと)にあはせてわれらの(かみ)をほめうたヘ。

文語訳147篇7節 ヱホバに感謝(かんしや)してうたへ (こと)にあはせてわれらの(かみ)をほめうたへ
口語訳147篇7節 主に感謝して歌え、琴にあわせてわれらの神をほめうたえ。
関根訳147篇7節 讃美をもてヤヴェに答え、琴をもてわれらの神をほめ歌え。
新共同147篇7節 感謝の献げ物をささげて主に歌え。竪琴に合わせてわたしたちの神にほめ歌をうたえ。


147篇8節エホバはまた自然界を支配したまい、(くも)をもて(てん)をおほひ、()のために(あめ)をそなへ て地に作物を生ぜしめ、〔もろもろの〕(やま)(やま))に(くさ)をはえしめ、

文語訳147篇8節 ヱホバは(くも)をもて(てん)をおほひ ()のために(あめ)をそなへ もろもろの(やま)(くさ)をはえしめ
口語訳147篇8節 主は雲をもって天をおおい、地のために雨を備え、もろもろの山に草をはえさせ、
関根訳147篇8節 彼は雲をもって天をおおい、地のために雨を備え、山々に草を生えさす。
新共同147篇8節 主は天を雲で覆い、大地のために雨を備え 山々に草を芽生えさせられる。


147篇9節くひものを(けもの)にあたへ、また()()(がらす)にあたへたまふ。かくエホバは凡てのものに凡ての必要物をそなえたまう、エホバのめぐみと力とはほむべきかな。

文語訳147篇9節 くひものを(けもの)にあたへ(また)なく小鴉(こがらす)にあたへたまふ
口語訳147篇9節 食物を獣に与え、また鳴く小がらすに与えられる。
関根訳147篇9節 獣にその食物を与え、(からす)の子らにその呼び求めるものを与える。
新共同147篇9節 獣や、烏のたぐいが求めて鳴けば 食べ物をお与えになる。


147篇10節エホバは戦争に於て(むま)のちからに依頼むこと(よろこ)びたまはず、戦場に馳駆する(ひと)(あし)の速きにほこることをよみしたまはず。唯エホバにのみ依頼む事をよろこびたまう。

文語訳147篇10節 ヱホバは(むま)のちからを(よろこ)びたまはず (ひと)(あし)をよみしたまはず
口語訳147篇10節 主は馬の力を喜ばれず、人の足をよみせられない。
関根訳147篇10節 彼は戦馬(いくさうま)の力を喜ばす人の脚力をよしとされぬ。
新共同147篇10節 主は馬の勇ましさを喜ばれるのでもなく 人の足の速さを望まれるのでもない。


147篇11節エホバはおのれを(おそ)るゝものと、おのれの憐憫(あはれみ)をのぞむものとを(よみ)したまふ。

文語訳147篇11節 ヱホバはおのれを(おそ)るゝものと おのれの憐憫(あはれみ)をのぞむものとを(よみ)したまふ
口語訳 147篇11節 主はおのれを恐れる者とそのいつくしみを望む者とをよみせられる。
関根訳147篇11節 ヴェは彼を(おそ)れる者とその恵みを待ち望む者をよしとされる。
新共同147篇11節 主が望まれるのは主を畏れる人 主の慈しみを待ち望む人。


〔2〕エルサレムよエホバをたゝえよ(12−20)
147篇12節エルサレムよ、エホバを〔ほめ〕たゝへよ、 シオンよ、なんぢの(かみ)をほめたゝへよ。

文語訳147篇12節 エルサレムよヱホバをほめたゝへよ シオンよなんぢの(かみ)をほめたゝへよ
口語訳147篇12節 エルサレムよ、主をほめたたえよ。シオンよ、あなたの神をほめたたえよ。
関根訳147篇12節 エルサレムよ、ヤヴェをほめよ、シオンよ、君の神をほめ讃えよ。
新共同147篇12節 エルサレムよ、主をほめたたえよ シオンよ、あなたの神を賛美せよ。


147篇13節(そは)エホバはなんぢの(もん)を再建しそ關木(くわんのき)をかたうして敵の攻撃より安全ならしめ、(なんぢ)のうちなる子等(こら)をさきはひ(たま)ひたればなり。

文語訳147篇13節 ヱホバはなんぢの(もんく)關木(くわんのき)をかたうし (なんぢ)のうちなる子輩(こら)をさきはひ(たま)ひたればなり
口語訳147篇13節 主はあなたの門の貫の木を堅くし、あなたのうちにいる子らを祝福されるからである。
関根訳147篇13節 げに彼は君の門の(かんぬき)をかたくしその中の君の子らを祝される。
新共同147篇13節 主はあなたの城門のかんぬきを堅固にし あなたの中に住む子らを祝福してくださる。


147篇14節エホバは(なんぢ)の〔すべての〕四方の(さかひ)に《平和(へいわ)》【やはらぎ】をあたへ、その旧き約束にしたがい*いと()(むぎ)をもて(なんぢ)をあかしめたまふ。汝らかくして平和にして幸福なる生涯を送る事を得。

文語訳147篇14節 ヱホバは(なんぢ)のすべての(さかひ)にやはらぎをあたへ いと()(むぎ)をもて(なんぢ)をあかしめたまふ
口語訳147篇14節 主はあなたの国境を安らかにし、最も良い麦をもってあなたを飽かせられる。
関根訳147篇14節 君の領域(さかい)に平和を与え、豊かな小麦で君を飽かしめる。
新共同147篇14節 あなたの国境に平和を置き あなたを最良の麦に飽かせてくださる。


補註
「いとよき麥」は原語「麥の脂」。


147篇15節エホバはその《おほせ》【いましめ】を()にくだし人々をして之を守らしめたまふ、その聖言(みことば)はいとすみやかにはしる。かくして全地を聖言を以て支配したまう。

文語訳147篇15節 ヱホバはそのいましめを()にくだしたまふ その聖言(みことば)はいとすみやかにはしる
口語訳147篇15節 主はその戒めを地に下される。そのみ言葉はすみやかに走る。
関根訳147篇15節 彼は地にその(ことば)を送り、その言葉は速やかに走る。
新共同147篇15節 主は仰せを地に遣わされる。御言葉は速やかに走る。


147篇16節エホバは(ゆき)をひつじの()(ごと)くふらせ、(しも)(はひ)のごとくにまきたまふ。

文語訳147篇16節 ヱホバは(ゆき)をひつじの()のごとくふらせ (しも)(はひ)のごとくにまきたまふ
口語訳147篇16節 主は雪を羊の毛のように降らせ、霜を灰のようにまかれる。
関根訳147篇16節 彼は羊の毛のように雪を降らし霜を灰のようにまき散らす。
新共同147篇16節 羊の毛のような雪を降らせ 灰のような霜をまき散らし


147篇17節エホバは(こほり)雹の如き(かたまり)となして》【つちくれのごとくに】(なげう)ちたまふ、たれかその寒冷(さむさ)にたふることをえんや。

文語訳147篇17節 ヱホバは(こほり)を つちくれのごとくに(なげう)ちたまふ、 たれかその寒冷(さむさ)にたふることをえんや
口語訳147篇17節 主は氷をパンくずのように投げうたれる。だれがその寒さに耐えることができましょうか。
関根訳147篇17節 氷をぱんくずのように投げ与え、その寒さのために水はこおる。
新共同147篇17節 氷塊をパン屑のように投げられる。誰がその冷たさに耐ええよう。


147篇18節この寒さに対してエホバ聖言(みことば)をくだして()れを()かし、そのあたたかき(かぜ)をふかしめたまへば〔もろもろの〕(みづ)はながる。かくエホバは自然の寒暑をも支配し給う。

文語訳147篇18節 ヱホバ聖言(みことば)をくだしてこれを(とか)し その(かぜ)をふかしめたまへばもろもろの(みづ)はながる
口語訳147篇18節 主はみ言葉を下してこれを溶かし、その風を吹かせられると、もろもろの水は流れる。
関根訳147篇18節 その言葉を送って氷をとかしその風を吹かせると水は流れる。
新共同147篇18節 御言葉を遣わされれば、それは溶け 息を吹きかけられれば、流れる水となる。


147篇19節然のみならずエホバはそのみことばをヤコブに(しめ)し、その〔もろもろの〕《法規(のり)》【律法】とその審判(さばき)とをイスラエルにしめしたまふ。かくしてイスラエルはエホバの特別の指導の下に在り。

文語訳147篇19節 ヱホバはそのみことばをヤコブに(しめ)し そのもろもろの律法(おきて)とその審判(さばき)とをイスラエルにしめしたまふ
口語訳147篇19節 主はそのみ言葉をヤコブに示し、そのもろもろの定めと、おきてとをイスラエルに示される。
関根訳147篇19節 その言葉をヤコブに告げその(のり)と戒めをイスラエルに告げる。
新共同147篇19節 主はヤコブに御言葉を イスラエルに掟と裁きを告げられる。


147篇20節エホバは《すべての異邦(ことくに)を》【いづれの國をも】かくあしらひたまひしにあらず、エホバの〔もろもろの〕審判(さばき)の義しさをかれらはしらざるなり、《ヤハ》【エホバ】をほめたゝへよ(ハレルヤ)

文語訳147篇20節 ヱホバはいづれの(くに)をも如此(かく)あしらひたまひしにあらず ヱホバのもろもろの審判(さばき)をかれらはしらざるなりヱホバをほめたゝへよ
口語訳147篇20節 主はいずれの国民をも、このようにはあしらわれなかった。彼らは主のもろもろのおきてを知らない。主をほめたたえよ。
関根訳147篇20節 すべての民族(やから)にそうされたのでなく戒めを彼らには教え給わなかった。ヤをほめ讃えよ。
新共同147篇20節 どの国に対しても このように計らわれたことはない。彼らは主の裁きを知りえない。ハレルヤ。