黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第17篇

関根訳わが義をまもる神

文語訳( )ダビデの祈禱(いのり)
口語訳ダビデの祈

本篇は心情に於いて16篇に類似し、作者のエホバに対する絶対の信頼と、エホバの法規に対する絶対の服従とを基礎として、敵よりの救を呼び求め神の救を祈り、而して神の祝福と神と共に住むの希望とを以て結んで居る。ダビデの詩らしき多くの内容を有って居る詩の一つである。


〔1〕祈りをききたまえ(1−2)
17篇1節ああエホバ(ゑほば)よ、(ただ)しき我が祈をききたまへ、敵より受くる艱みの中にさけぶわが《*(さけ)び》【哭く聲】にみこころをとめたまへ、救を求むるいつはりなき口唇(くちびる)よりいづる()切なる誠なる祈りに(みみ)(かたむ)けたまへ。わが切なる願は、わが全心より迸り出づる祈の聴かれんことなり。

文語訳17篇1節 あゝヱホバよ公義(ただしき)をきゝたまへ わが哭聲(なくこゑ)にみこゝろをとめたまへ いつはりなき口唇(くちびる)よりいづる()がいのりに(みみ)をかたぶけたまへ
口語訳17篇1節 主よ、正しい訴えを聞き、わたしの叫びにみ心をとめ、偽りのないくちびるから出るわたしの祈に耳を傾けてください。
関根訳17篇1節 ダビデの祈り。ヤヴェよ、わが義に聞き給え、わが願いに聴き偽りなき唇の祈りに耳をかし給え。
新共同17篇1節 【祈り。ダビデの詩。】主よ、正しい訴えを聞き わたしの叫びに耳を傾け 祈りに耳を向けてください。わたしの唇に欺きはありません。


補註
「哭く聲」カン高き叫声。


17篇2節ねがはくはわが正邪を審判する宣告(せんこく)が、誤ることなき汝のみまへよりいでて、正しく見給うなんぢの()我が正義と公平(こうへい)をみたまはんことを。人は我に対し誤れる判断を下し、我を不義をもって責むることありとも、汝見給い審き給うが故に我が心は安し。願くはこの審判汝より出でんことを。

文語訳17篇2節 ねがはくはわが宣告(せんこく)みまへよりいでてなんぢの目公平(めこうへい)をみたまはんことを
口語訳17篇2節 どうかわたしについての宣告がみ前から出て、あなたの目が公平をみられるように。
関根訳17篇2節 わが義がみ前から出であなたの眼がわが正しきを見給うように。
新共同17篇2節 御前からわたしのために裁きを送り出し あなた御自身の目をもって公平に御覧ください。


〔2〕我は義しく振舞えり(3−5)
17篇3節なんぢわが(こころ)をこころみてその中に悪ありやを見、また(よる)心の静まれる時われにのぞみ〔たまへり。〕我が心の如何を験し(かく)てわれの善悪正邪(ただ)したまへど我が心の中に(なに)()づべき(こと)》【我になにの惡念ある】をも()()でたまはざりき。我はかくも良心の咎なき行動を取りつつあり、従ってまたわが*(くち)(つみ)(をか)すことなからん。かくまでも我は言行において汝の律法を守り居るなり。

文語訳17篇3節 なんぢわが(こころ)をこゝろみ また(よる)われにのぞみたまへり (かく)てわれを(ただ)したまへど(われ)になにの惡念(あしきおもひ)あるをも見出(みい)でたまはざりき わが(くち)はつみを(をか)すことなからん
口語訳17篇3節 あなたがわたしの心をためし、夜、わたしに臨み、わたしを試みられても、わたしのうちになんの悪い思いをも見いだされないでしょう。わたしの口も罪を犯しません。
関根訳17篇3節 あなたはわが心を(ため)し、夜わたしを(おとな)いわたしをこころみて、何の恥ずべきことも見出し給わぬ。わが口も罪を犯すことはない、
新共同17篇3節 -4節 あなたはわたしの心を調べ、夜なお尋ね 火をもってわたしを試されますが 汚れた思いは何ひとつ御覧にならないでしょう。わたしの口は人の習いに従うことなく あなたの唇の言葉を守ります。暴力の道を避けて


補註
「わが口は罪を犯すことなからん」は「我が思いは我が口を超ゆることなし」その他異訳あり。


17篇4節*(ひと)行爲(おこなひ)《は如何にもあれ》【のことを云はば】(われ)なんぢのく(くちびる)(ことば)により汝の訓諭をまもり*(あら)ぶるものの(みち)にならわず彼らと行動を共にすることをさけたり。

文語訳17篇4節 (ひと)行爲(おこなひ)のことをいはゞ(われ)なんぢのくちびるの(ことば)によりて(あら)ぶるものの(みち)をさけたり
口語訳17篇4節 人のおこないの事をいえば、あなたのくちびるの言葉によって、わたしは不法な者の道を避けました。
関根訳17篇4節 他の人々の行なうように。あなたの唇の(ことば)をわたしは守った。(あら)びを行なう者の途から 5節 わが足は遠ざかり、わが歩みはあなたの道でよろめくことがない。


補註
「人の行為のことをいはば」は「人の行為は如何様であっても」と訳する方が適当である。「暴ぶるもの」強盗等を指す。


17篇5節わが(あゆみ)はかたくなんぢの*(みち)にたちて濫りに悪しきものの途に迷い出でず、わが(あし)汝の言によりて支えらるるが故によろめくことなかりき。

文語訳17篇5節 わが(あゆみ)はかたくなんぢの(みち)にたち わが(あし)はよろめくことなかりき
口語訳17篇5節 わたしの歩みはあなたの道に堅く立ち、わたしの足はすべることがなかったのです。
新共同17篇5節 あなたの道をたどり 一歩一歩、揺らぐことなく進みます。


補註
「途」は4節の「途」と異り、踏み固めた途を指す。


〔3〕我を守りたまえ(6−9)
17篇6節*(われ)は)かかるものなればこそ(かみ)よ、《(なんぢ)()びまつれり、(なんぢ)つねに(われ)にこたへわが祈をきき入れたまへばなり。》【なんぢ我にこたへたまふ、我なんぢをよべり】(ねが)はくは汝の常になし給いしごとく(なんぢ)(みみ)をかたぶけて、わが()ぶるところをきき(たま)へ。我を忘れ、我を無視し給うなかれ。

文語訳17篇6節 (かみ)よなんぢ(われ)にこたへたまふ(われ)なんぢをよべり ねがはくは(なんぢ)(みみ)をかたぶけてわが()ぶるところをきゝたまへ
口語訳17篇6節 神よ、わたしはあなたに呼ばわります。あなたはわたしに答えられます。どうか耳を傾けて、わたしの述べることをお聞きください。
関根訳17篇6節 わたしはあなたに呼ばわる、あなたはわたしに答え給う、神よ、あなたの耳をわたしに傾けわが言葉を聞き給え。
新共同17篇6節 あなたを呼び求めます 神よ、わたしに答えてください。わたしに耳を向け、この訴えを聞いてください。


補註
「我」は強意。


17篇7節なんぢに依ョ(よりたの)むものを*(みぎの)()をもて(あた)するものより(すく)ひたまふものよ、ねがはくは汝に依頼みて汝を避所とする者を敵の手より救うことによりなんぢの《仁慈(いつくしみ)をを(たへ)ならしめたまへ。》【妙なる仁慈をあらはしたまへ】

文語訳17篇7節 なんぢに依ョ(よりたの)むものを右手(みぎのて)をもて(あた)するもの より(すく)ひたまふ(もの)よ ねがはくはなんぢの(たへ)なる仁慈(いつくしみ)をあらはしたまへ
口語訳17篇7節 寄り頼む者をそのあだから右の手で救われる者よ、あなたのいつくしみを驚くばかりにあらわし、
関根訳17篇7節 あなたの(たえ)なる恵みをあらわし給え、あなたのみ力に逆らう者から逃れあなたに隠れる者を助け給う者よ。
新共同17篇7節 慈しみの御業を示してください。あなたを避けどころとする人を 立ち向かう者から 右の御手をもって救ってください。


補註
「右の手をもて」を「依頼むもの」(現─逃るるもの)に懸ける説あり、「右手の下に逃るる者」となる。即ち「汝の右手の下に逃れるゝものを立ちむかう仇より救い給うものよ」となる。


17篇8節(ねが)はくはわれを目の(ひとみ)のごとくにまもり、人がその全身の注意を集中してその目をまもるがごとくにエホバの仁慈を集中して我をまもり、雌鳥がその雛を翼の下に掩いかくすがごとく我を(なんぢ)*つばさの(かげ)にかくし給え。

文語訳17篇8節 (ねが)はくはわれを(ひとみ)のごとくにまもり(なんぢ)のつばさの(かげ)にかくし
口語訳17篇8節 ひとみのようにわたしを守り、みつばさの陰にわたしを隠し、
関根訳17篇8節 わたしを眼のひとみのように守りあなたのみ翼の(かげ)にわたしを隠し給え、
新共同17篇8節 瞳のようにわたしを守り あなたの翼の陰に隠してください。


補註
「つばさの蔭」は雌鳥がその雛をまもる貌(申命32:10、11)。


17篇9節(われ)(くる)しめなやます()しき(もの)(われ)()りかこむ*意地悪(いぢわる)(てき)より〔われをかくしたまへ。〕》【我をなやむるあしき者また我をかこみてわが命をそこなはんとする仇よりのがれしめ給へ】

文語訳17篇9節 (われ)をなやむるあしき(もの)また(われ)をかこみてわが(いのち)をそこなはんとする(あた)よりのがれしめ(たま)
口語訳17篇9節 わたしをしえたげる悪しき者から、わたしを囲む恐ろしい敵から、のがれさせてください。
関根訳17篇9節 わたしを圧倒する悪しき者と(はげ)しくわたしを囲むわが敵の前から。
新共同17篇9節 あなたに逆らう者がわたしを虐げ 貪欲な敵がわたしを包囲しています。


補註
「わが命をそこなはんとする仇」は「生命懸けの仇」と訳するを可とす。「意地悪き敵」と私訳した。


〔4〕敵の状態(10−12)
17篇10節かれらは*おのが(こころ)をふさぎ心を頑固にして神の言を受けずその(くち)をもて(ほこ)りかにものいへり。心は真理に対して塞がれ、口は虚偽と高慢とをもって心にもなきことを言う。

文語訳17篇10節 かれらはおのが(こころ)をふさぎ その(くち)をもて(ほこり)かにものいへり
口語訳17篇10節 彼らはその心を閉じて、あわれむことなく、その口をもって高ぶって語るのです。
関根訳17篇10節 彼らは油をもってその心を閉ざし、その口は不敵なことを語る。
新共同17篇10節 彼らは自分の肥え太った心のとりことなり 口々に傲慢なことを言います。


補註
「おのが心をふさぎ」は原文「かれらの脂は堅く閉じ」で意味不明、筆写の誤か。


17篇11節〔いづこにまれ〕()(ところ)にてわれらを(うち)(かこ)み、我らをして自由に行動するを得ざらしめわれらを打ちたたき()にたふさんと()をとむ。かくして彼らは常に我らを狙う。

文語訳17篇11節 いづこにまれ()くところにてわれらを打圍(うちかこ)み われらを()にたふさんと()をとむ
口語訳17篇11節 彼らはわたしを追いつめ、わたしを囲み、わたしを地に投げ倒さんと、その目をそそぎます。
関根訳17篇11節 彼らは今わが歩みを囲み、地に打ち倒そうとその眼を向ける。
新共同17篇11節 わたしに攻め寄せ、わたしを包囲し 地に打ち倒そうとねらっています。


17篇12節かれは常に我らを害せんと企て、我らを(かき)()かんといらだつ(しし)のごとく恐るべき存在であり、(しの)びやかなるところに(ひそ)みまつ(わか)(しし)のごとし。一寸の油断もできない敵である。

文語訳17篇12節 かれは抓裂(かきさ)かんといらだつ(しし)のごとく(しのびや)かなるところに(ひそ)みまつ壯獅(わかしし)のごとし
口語訳17篇12節 彼らはかき裂かんと、いらだつししのごとく、隠れた所にひそみ待つ子じしのようです。
関根訳17篇12節 獲物をうかがう獅子、隠れた所にひそむ若獅子に似ている。
新共同17篇12節 そのさまは獲物を求めてあえぐ獅子 待ち伏せる若い獅子のようです。


〔5〕敵より救われんことの祈り(13−15)
17篇13節敵はかくも多く、かくも強ければエホバよ、敵に対って()ちたまへ、ねがはくはかれに(たち)(むか)ひて御力をもてこれをたふし、御劍(みつるぎ)をもて()しきものよりわが霊魂(たましひ)をすくひたまへ。我は汝の救を待望む。

文語訳17篇13節 ヱホバよ()ちたまへ ねがはくはかれに立對(たちむか)ひてこれをたふし御劍(みつるぎ)をもて()しきものよりわが靈魂(たましひ)をすくひたまへ
口語訳17篇13節 主よ、立ちあがって、彼らに立ちむかい、彼らを倒してください。つるぎをもって悪しき者からわたしのいのちをお救いください。
関根訳17篇13節 ヴェよ、立ち上がり、立ち向かい、彼を打ち倒し給え、あなたの剣でわが魂を悪しき者から救い給え。
新共同17篇13節 主よ、立ち上がってください。御顔を向けて彼らに迫り、屈服させてください。あなたの剣をもって逆らう者を撃ち わたしの魂を助け出してください。


*17篇14節エホバよ、汝の強き()()をもて〔(ひと)より(われ)をたすけいだしたまへ。〕おのがうくべき(もの)をこの()の生涯の中にてうけ、(なんぢ)のたからにてその(はら)()たさるゝ()(ひと)の如き富み栄えつゝある悪しき人より〔(われ)をたすけいだし(たま)へ。〕かれらは現世において凡ての充足を味いつつ我らを迫害する。かれらはおほくの()にあきたり、その家庭は子女の多きに賑い、而して彼らはその(とみ)をを使い果し得ずしてこれををさなごに(のこ)す。かくして彼らは現世において凡ての幸福をほしいままにし、我らは現世においてあらゆる不幸を嘗める。罪なき我らは苦しみ、罪深き彼らはこの世に栄える。しかしながらそれはこの世限りのことである。見ゆるものは暫時にして見えぬものは限りがない(コリント後4:18)。

文語訳17篇14節 ヱホバよ(みて)をもて(ひと)より(われ)をたすけいだしたまへ おのがうくべき(もの)をこの()にてうけ (なんぢ)のたからにてその(はら)をみたさるゝ世人(よのひと)より(われ)をたすけいだし(たま)へ かれらはおほくの()にあきたり その(とみ)ををさなごに(のこ)
口語訳17篇14節 主よ、み手をもって人々からわたしをお救いください。すなわち自分の分け前をこの世で受け、あなたの宝をもってその腹を満たされる世の人々からわたしをお救いください。彼らは多くの子に飽き足り、その富を幼な子に残すのです。
関根訳17篇14節 あなたのみ手に歯向かう者は、ヤヴェよ、死に定められ悲しみはこの生で彼らの受くべきもの。しかしあなたにかくまわれる者はあなたがその腹を満たし彼らはその子らにあき足り、その富をその子孫に残す。
新共同17篇14節 主よ、御手をもって彼らを絶ち、この世から絶ち 命ある者の中から彼らの分を絶ってください。しかし、御もとに隠れる人には 豊かに食べ物をお与えください。子らも食べて飽き、子孫にも豊かに残すように。


補註
難解の一節。


17篇15節かく彼らは見ゆるものに富む、されど*(われ)不義をはなれ()にありて聖顔(みかほ)()るが故にこの世の貧困と苦難は何でもない、やがて永遠の眠より*()さむるとき、顔を合せて相見え(コリント前13:12)汝の御容(みかたち)をもて(あき)()ることをえん。この希望を思うて我が心は躍り我が苦労は消える。

文語訳17篇15節 されどわれは()にありて聖顏(みかほ)をみ ()さむるとき容光(みかたち)をもて飽足(あきた)ることをえん
口語訳17篇15節 しかしわたしは義にあって、み顔を見、目ざめる時、みかたちを見て、満ち足りるでしょう。
関根訳17篇15節 わたしは義にあってあなたのみ顔を見、目覚める時、み姿をみてあき足りるであろう。
新共同17篇15節 わたしは正しさを認められ、御顔を仰ぎ望み 目覚めるときには御姿を拝して 満ち足りることができるでしょう。


補註
「われは」強意法、「目ざむる時」は永遠の眠より目ざむる時の意ならん、詩人の想いの中にこの永遠の目ざめ、すなわち復活が預言的に閃いたのであろう。復活の教義が行われたのは俘囚以後であるけれどもその預知は当時すでに存在した。詩人の霊感である。