黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第26篇

関根訳平らかな地

文語訳( )ダビデの(うた)
口語訳ダビデの歌

世人一般殊にその上流に位する者が殺戮(9節)収賄(10節)等をなしつつある間に、多くの困難と戦いて自己の正義と真実とを維持しつつある者のエホバに対する力強き叫びである。まず自己の正義を試験せんことをエホバに求め(1−3)、次に彼がいかに悪しき者よりの分離と神の宮への礼拝とに努力しつつあるかを叙べ(4−8)、罪人と同一視せられざらんことを神に祈りて(9−11)、その聴かるる確信をもって(12)本篇を結ぶ。本篇は多くの点において詩篇25に類似しているけれども罪の告白とその赦しを求むることなき点において異る、これ自己と罪人とを比較する詩である以上当然である。またこの詩を疫病その他の災害の際に義者と不義者とが同一の運命に逢わんとする際に作られしものと見るは皮相の見方である。


〔1〕エホバよわが完全を験し給え(1−3)
26篇1節エホバよ、ねがはくはわれを*(さば)て我が正邪を見分けたまへ、われは心を一つにして真実と敬虔とを専らとし、このわが完全(またき)よりて()あゆみ《また》【たり、然のみならず】悪しき者の勢力強く誘惑多き中にありてわれたゆたはず堅くエホバに依ョ(よりたの)めり。これ決して容易の業にあらざりき。

文語訳26篇1節 ヱホバよねがはくはわれを(さば)きたまへ われわが完全(またき)によりてあゆみたり (しか)のみならず(われ)たゆたはずヱホバに依ョ(よりたの)めり
口語訳26篇1節 主よ、わたしをさばいてください。わたしは誠実に歩み、迷うことなく主に信頼しています。
関根訳26篇1節 ダビデによる。ヤヴェよ、わたしを審いて下さい。わたしは(まった)きに歩み、よろめくことなく、ヤヴェに信頼しました。
新共同26篇1節 【ダビデの詩。】主よ、あなたの裁きを望みます。わたしは完全な道を歩いてきました。主に信頼して、よろめいたことはありません。


補註
「審き」7:8、9の意味のさばき。


26篇2節それ故にエホバよ、われを*(ただ)て我が中に不義ありや否やを見また(われを)*(こころ)て我が中に正義の認むべきものありや否やを見たまへ、またわが心情の宿る(むらと)思想や意思の宿るこころとを*(ねり)きよめて我より純金を錬り分けたまへ。

文語訳26篇2節 ヱホバよわれを(ただ)しまた(こころ)みたまへ わが(むらと)とこゝろとを()りきよめたまへ
口語訳26篇2節 主よ、わたしをためし、わたしを試み、わたしの心と思いとを練りきよめてください。
関根訳26篇2節 ヴェよ、わたしを(こころ)み、(ため)して下さい。わたしの(むらと)と心を試験して下さい。
新共同26篇2節 主よ、わたしを調べ、試み はらわたと心を火をもって試してください。


補註
「糺す」「試む」「錬る」はいずれも冶金術に関して用いらる。


26篇3節そは(なんぢ)のいつくしみ如何なる時にもわが眼前(まのあたり)にあり、(われ)はなんぢの眞理(まこと)によりて《あゆめるが故に、我かく大胆に我を汝の聖前にさし出すこと恐れざればなり。》【あゆめり】

文語訳26篇3節 そは(なんぢ)のいつくしみわが眠前(まのあたり)にあり (われ)はなんぢの眞理(まこと)によりてあゆめり
口語訳26篇3節 あなたのいつくしみはわたしの目の前にあり、わたしはあなたのまことによって歩みました。
関根訳26篇3節 まことにあなたの恵みはわが前にありわたしはあなたの真実(まこと)に歩みました。
新共同26篇3節 あなたの慈しみはわたしの目の前にあり あなたのまことに従って歩き続けています。


〔2〕我が正義と我が信仰とを見そなわし給え(4−8)
*26篇4節汝に明かなるごとくわれは真実を欠ける(むな)しき(ひと)とともに(すわ)らざりき、かかる者と永く交ることは我が真実の心の許さざるところなればなり。またわれ(あく)をいつはりかざる(もの)とともには*ゆかじ。彼らの中に出入りしてこれと交ることは耐え難きことなればなり。

文語訳26篇4節 われは(むな)しき(ひと)とともに(すわ)らざりき (あく)をいつはりかざる(もの)とともにはゆかじ
口語訳 26篇4節 わたしは偽る人々と共にすわらず、偽善者と交わらず、
関根訳26篇4節 わたしは(むな)しい人たちと同席したことはなく偽りの人たちとことを共にしません。
新共同26篇4節 偽る者と共に座らず 欺く者の仲間に入らず


補註
4−5節、詩篇1:1を回想すべし。「ゆかじ」は「入らじ」で「出入する」ことは交際することを意味す。


26篇5節我は汝の民の會を好むが故に(あく)をなすものの(つどひ)をにくみ、彼らと交らずまたかかる()しき(もの)(とも)(すわ)ることをせじ。かくして我は悪を行う者より離れて汝に来る。この世の生活においてはかかる態度を取ることは容易ならず、また多くの迫害もこれに伴う、されど我これを敢行せり。

文語訳26篇5節 (あく)をなすものの(つどひ)をにくみ惡者(あしきもの)とともにすわることをせじ
口語訳26篇5節 悪を行う者のつどいを憎み、悪しき者と共にすわることをしません。
関根訳26篇5節 わたしは悪を行なう者の(つど)いを憎み悪人と一緒に座ることをしません。
新共同26篇5節 悪事を謀る者の集いを憎み 主に逆らう者と共に座ることをしません。


26篇6節而のみならず、(われ)汝エホバの家を愛するが故に()をあらひて己を潔め、この(つみ)なきをあらはす、あたかも祭司が祭壇に近づく時その手を洗うがごとし。エホバよ、かくてわれ汝に近づき、礼拝の儀式における如くなんぢの祭壇(さいだん)*めぐり、

文語訳26篇6節 われ()をあらひて(つみ)なきをあらはす ヱホバよ(かく)てなんぢの祭壇(さいだん)をめぐり
口語訳26篇6節 主よ、わたしは手を洗って、罪のないことを示し、あなたの祭壇をめぐって、
関根訳26篇6節 わたしは手を洗って(きよ)きことを示しあなたの祭壇をめぐって
新共同26篇6節 主よ、わたしは手を洗って潔白を示し あなたの祭壇を廻り


補註
「めぐり」は円形または半円形に取りまくこと、または祭壇の周囲を旋回すること。


26篇7節汝を讃美する歌をもて感謝(かんしや)(こゑ)(きこ)えしめ、祭司が説教を為す場合の如くすべてなんぢの(くす)しき(みわざ)をのべつたへん。

文語訳26篇7節 感謝(かんしや)のこゑを()こえしめ すべてなんぢの(くす)しき(みわざ)をのべつたへん
口語訳26篇7節 感謝の歌を声高くうたい、あなたのくすしきみわざをことごとくのべ伝えます。
関根訳26篇7節 感謝の声をひびかせあなたのすべての奇しきみ業を語ります。
新共同26篇7節 感謝の歌声を響かせ 驚くべき御業をことごとく語り伝えます。


26篇8節エホバよ、われはかくして汝を讃美し礼拝してなんぢのまします(いへ)と、なんぢが榮光(えいくわう)の《()む》【とどまる】(ところ)とをいつくしむ。それ故にこの世の悪しき者の會(つどい)をきらい、その邸宅とその栄華とを忌む。

文語訳26篇8節 ヱホバよ(われ)なんぢのまします(いへ)となんぢが榮光(えいくわう)のとゞまる(ところ)とをいつくしむ
口語訳26篇8節 主よ、わたしはあなたの住まわれる家と、あなたの栄光のとどまる所とを愛します。
関根訳26篇8節 わたしはあなたの栄光のとどまる所、あなたの家のその所を愛します。
新共同26篇8節 主よ、あなたのいます家 あなたの栄光の宿るところをわたしは慕います。


〔3〕悪しき者と共に数え給う勿れ(9−12)
26篇9節我はかかる態度をもって生活し、これがために多くの苦難を味いつつあるが故に(ねが)はくはわがたましひを罪人(つみびと)のたましいとともに、わが生命(いのち)()をながす(もの)とともに《取集(とりあつ)め》【取收め】同じ審判の下に立たしめ(たま)ふなかれ。

文語訳26篇9節 (ねが)はくはわがたましひを罪人(つみびと)とともに わが生命(いのち)()をながす(もの)とともに取收(とりをさ)めたまふなかれ
口語訳26篇9節 どうか、わたしを罪びとと共に、わたしのいのちを、血を流す人々と共に、取り去らないでください。
関根訳26篇9節 わが魂を罪人と一緒に、わが生命を血を流す人と共に取り去らないで下さい。
新共同26篇9節 わたしの魂を罪ある者の魂と共に わたしの命を流血を犯す者の命と共に 取り上げないでください。


26篇10節かかる(ひと)は多くは権力者や支配階級の人々であってそ()にはあしきくはだてあり、神を無視して己が利のために多くの悪しき事を謀り、その(みぎ)()賄賂(まひなひ)にてみつ。しかも彼らはこの世においてその勢力を張り、己が欲するままを行ってその力に誇る。

文語訳26篇10節 かゝる(ひと)()にはあしきくはだてあり その(みぎ)()賄賂(まひなひ)にてみつ
口語訳26篇10節 彼らの手には悪い企てがあり、彼らの右の手は、まいないで満ちています。
関根訳26篇10節 その人たちの手には恥ずべきことがあり、その右の手はまいないで一杯です。
新共同26篇10節 彼らの手は汚れた行いに馴れ その右の手には奪った物が満ちています。


26篇11節されどわれは、今後も同じくわが完全(またき)によりてあゆまん、されば(ねが)はくは多くの困難の中よりわれをあがなひ、深きなやみの中にある(われ)をあはれみたまへ。然らざれば我は悪しき者の中にありて終まで耐え忍ぶこと能わざればなり。

文語訳26篇11節 されどわれはわが完全(またき)によりてあゆまん (ねが)はくはわれをあがなひ(われ)をあはれみたまへ
口語訳26篇11節 しかしわたしは誠実に歩みます。わたしをあがない、わたしをあわれんでください。
関根訳26篇11節 しかしわたしは全きに歩みます。わたしを(あがな)い、わたしを憐れんで下さい。
新共同26篇11節 わたしは完全な道を歩きます。わたしを憐れみ、贖ってください。


26篇12節然りエホバよ、汝はたしかに我が祈をきゝ我を救い給う。かくしてわがあしは険悪なる途より導き出されて広くして楽しき平坦(たひらか)なるところにたつに至れり、ああわが救はかくして全うせられたり。われ〔*もろもろの〕(つどひ)のなかにて讃美のうたをもてエホバを()めまつらん。

文語訳26篇12節 わがあしは平垣(たひらか)なるところにたつ われもろもろの(つどひ)のなかにてヱホバを()めまつらん
口語訳26篇12節 わたしの足は平らかな所に立っています。わたしは会衆のなかで主をたたえましょう。
関根訳26篇12節 わが脚は平らかな地に立っています。わたしは集いの中でヤヴェをほめ(たた)えましょう。
新共同26篇12節 わたしの足はまっすぐな道に立っています。聖歌隊と共にわたしは主をたたえます。


補註
「もろもろの會」カーハールの複数。