黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第28篇

関根訳病者の祈り

文語訳ダビデの(うた)
口語訳ダビデの歌

詩26篇と同じくエホバに対する祈願哀訴とその願いの聴かれしことに対する感謝と讃美とより成る。祈の聴かれんこと、悪人に対して正しき報いの与えられんことがその祈願であり、その祈がきかれしことを感謝しつつ、イスラエルの民の救を求めているダビデ王の作らしさを充分に示している。然りとすればこの詩もダビデがアブサロムに迫害せられし時の作と解すべきである。


〔1〕祈願(1−5)
28篇1節ああエホバよ、われこの迫害の苦悩の中にありて声をしぼりて(なんぢ)をよばん、汝ききたまえ。わが(いは)わが依り頼む処のエホバよ、ねがはくは(われ)(むか)ひて*暗唖(おふし)となり我が声を聴かず我に答えざるものとなりたまふなかれ、なんぢ(もだ)したまはば(おそ)らくはわれ耐え得ずして*陰府(よみ)にくだる》【墓にいる】ものとひとしからん。暗黒と絶望とのみが我々を支配するに至らん。

文語訳28篇1節 あゝヱホバよわれ(なんぢ)をよばん わが(いは)よねがはくは(われ)にむかひて暗唖(おふし)となりたまふなかれ なんぢ(もだ)したまはゞ(おそ)らくはわれ(はか)にいるものとひとしからん
口語訳28篇1節 主よ、わたしはあなたにむかって呼ばわります。わが岩よ、わたしにむかって耳しいとならないでください。もしあなたが黙っておられるならば、おそらく、わたしは墓に下る者と等しくなるでしょう。
関根訳28篇1節 ダビデによる。ヤヴェよ、あなたはわたしに呼ばわる。わが岩よ、わたしに向かってだまっていないで下さい。あなたがわたしに何もおっしゃらないとわたしは穴に降る者と同じことになります。
新共同28篇1節 【ダビデの詩。】主よ、あなたを呼び求めます。わたしの岩よ わたしに対して沈黙しないでください。あなたが黙しておられるなら わたしは墓に下る者とされてしまいます。


補註
「暗唖となりたまふなかれ」は詩篇においてしばしば用いらる(35:22。39:12。83:1等)。「陰府」(現−墓)は原語「坑」で死人の住む場所と想像せらるる処。


28篇2節この絶大なる苦しみの中よりわれ(なんぢ)にむかひてさけび聖所(せいじよ)(おく)なる至聖所、汝の降り給う所にむかひて()をあげて汝に祈をささぐるとき、願わくはわが懇求(ねがひ)のこゑをききたまへ。

文語訳28篇2節 われ(なんぢ)にむかひてさけび聖所(せいじよ)(おく)にむかひて()をあぐるときわが懇求(ねがひ)のこゑをきゝたまへ
口語訳28篇2節 わたしがあなたにむかって助けを求め、あなたの至聖所にむかって手をあげるとき、わたしの願いの声を聞いてください。
関根訳28篇2節 わたしがあなたに向かって叫び、あなたの至聖所に向かって手を上げる時わが(なげ)きの声を聞いて下さい。
新共同28篇2節 嘆き祈るわたしの声を聞いてください。至聖所に向かって手を上げ あなたに救いを求めて叫びます。


28篇3節あしき(ひと)また邪曲(よこしま)をおこなふ(もの)こそ審判の座に曳き行かるることは当然なれども、かかる者とともに正しきを行える(われ)をとらへてあたかも囚人に対するごとくにひきゆき(たま)ふなかれ、かれらはその(となり)にやはらぎを(かた)り、如何にも愛に充ち居るごとくに見ゆれども、(こころ)には殘害(そこなひ)をいだきて我を迫害しけり。

文語訳28篇3節 あしき(ひと)また邪曲(よこしま)をおこなふ(もの)とともに(われ)をとらへてひきゆき(たま)ふなかれ かれらはその(となり)にやはらぎをかたれども(こころ)には殘害(そこなひ)をいだけり
口語訳28篇3節 悪しき者および悪を行う者らと共にわたしを引き行かないでください。彼らはその隣り人とむつまじく語るけれども、その心には害悪をいだく者です。
関根訳28篇3節 わたしを悪人や不法を行なう者と一緒にとり去らないで下さい。彼らはその友と親しげに話していてもその心には悪いことをたくらんでいます。
新共同28篇3節 神に逆らう者、悪を行う者と共に わたしを引いて行かないでください。彼らは仲間に向かって平和を口にしますが 心には悪意を抱いています。


28篇4節その(わざ)にしたがひ、そのなす(あく)にしたがひて(かれ)らに相当の酬いをあたへ、その()の《仕業(しわざ)》【行爲】にしたがひてこれに報を(あた)へ、これにその()くべきものすなわち当然の罰をむくいたまへ。

文語訳28篇4節 その(わざ)にしたがひそのなす(あく)にしたがひて彼等(かれら)にあたへ その()行爲(なしわざ)にしたがひて(あた)へこれにその()くべきものを(むく)いたまへ
口語訳28篇4節 どうぞ、そのわざにしたがい、その悪しき行いにしたがって彼らに報い、その手のわざにしたがって彼らに報い、その受くべき罰を彼らに与えてください。
関根訳28篇4節 その行ないに応じて彼らに報いてください、その悪い行動にふさわしく。彼らの手のわざに応じて彼らに報い、彼らに当然の報いをして下さい。
新共同28篇4節 その仕業、悪事に応じて彼らに報いてください。その手のなすところに応じて 彼らに報い、罰してください。


28篇5節(そは)かれらはエホバの〔もろもろ〕の(わざ)とその《御手(みて)(わざ)》【御手のなしわざ】とをかへりみず、神を無視し、その約束も(サムエル後7章)その支配もこれを無視して憚ら《ざればなり。》【ず】〔この(ゆゑ)に〕エホバかれらを(こぼ)ちて(たて)たまふことなからん。これ彼らに与えらるる当然の報なり。

文語訳28篇5節 かれらはヱホバのもろもろの(わざ)とその(みて)のなしわざとをかへりみず この(ゆゑ)にヱホバかれらを(こぼ)ちて()てたまふことなからん
口語訳28篇5節 彼らは主のもろもろのみわざと、み手のわざとを顧みないゆえに、主は彼らを倒して、再び建てられることはない。
関根訳28篇5節 彼らはヤヴェのみわざに眼をとめずそのみ手のわざをかえりみないので彼は彼らを滅ぼし再び彼らを建てられることはない。
新共同28篇5節 主の御業、御手の業を彼らは悟ろうとしません。彼らを滅ぼし、再び興さないでください。


〔2〕讃美(6−9)
*28篇6節エホバは()むべきかな、そはわが《懇求(ねがひ)》【祈】のこゑをききたまひたればなり。エホバはわが祈をきいて我を迫むる者より我を助け出したまえり。

文語訳28篇6節 ヱホバは()むべきかな わが(いのり)のこゑをきゝたまひたり
口語訳28篇6節 主はほむべきかな。主はわたしの願いの声を聞かれた。
関根訳28篇6節 ヴェはほむべきかな、げに彼はわが歎きの歌を聞き給うた。
新共同28篇6節 主をたたえよ。嘆き祈るわたしの声を聞いてくださいました。


補註
本節より作者の気分が一変するけれども、これは一般に哀願詩曲の定形で詩27篇のごとく甚しくはない、故に別人の作または異れる場合の作と見る必要がない。


28篇7節エホバは敵を打つわが(ちから)敵の火矢を防ぐわが(たて)なり、わが(こころ)これに依ョ(よりたの)みたれば、かれ我がために敵を打ち給いしが故に(われ)たすけをえ〔たり、〕《(しか)して》【然るゆゑに】わが(こころ)いたくよろこ《びたれば》【ぶ】われ(うた)をもてエホバの大なる恩恵をほめまつらん。

文語訳28篇7節 ヱホバはわが(ちから)わが(たて)なり わがこゝろこれに依ョ(よりたの)みたれば(われ)たすけをえたり ()るゆゑにわが(こころ)いたくよろこぶ われ(うた)をもてほめまつらん
口語訳28篇7節 主はわが力、わが盾。わたしの心は主に寄り頼む。わたしは助けを得たので、わたしの心は大いに喜び、歌をもって主をほめたたえる。
関根訳28篇7節 ヴェはわが力、わが盾、わが心は彼に依り頼む、わたしは若がえって心は喜び、わが歌をもって彼をほめたたえる。
新共同28篇7節 主はわたしの力、わたしの盾 わたしの心は主に依り頼みます。主の助けを得てわたしの心は喜び躍ります。歌をささげて感謝いたします。


*28篇8節エホバはその(たみ)イスラエルのちからなり、彼により頼みてイスラエルは救を得、彼はまたその預言者、祭司のみならず殊にその王たる*受膏者(じゆかうじや)のすくひの(しろ)なり。

文語訳28篇8節 ヱホバはその(たみ)のちからなり その受膏者(じゆかうじや)のすくひの(しろ)なり
口語訳28篇8節 主はその民の力、その油そそがれた者の救のとりでである。
関根訳28篇8節 ヴェはその民に力、彼こそそのメシアの救いの(とりで)
新共同28篇8節 主は油注がれた者の力、その砦、救い。


補註
「受膏者」は詩篇においてはみな「王」に適用さる(グンケル)。8−9節に急に民族的の思想が入っているのはこの詩のダビデらしさである。彼は王としての自分とイスラエルの民とを同一視していた。


28篇9節なんぢの(たみ)イスラエルをすくひ、なんぢの嗣業(ゆづり)たるこの民をさきはひ、(かつ)これをやしなひて益々栄えしめ、(これ)をとこしなへに(いだ)きたすけたまへ。

文語訳28篇9節 なんぢの(たみ)をすくひなんぢの嗣業(ゆづり)をさきはひ(かつ)これをやしなひ(これ)をとこしなへに(いだ)きたすけたまへ
口語訳28篇9節 どうぞ、あなたの民を救い、あなたの嗣業を恵み、彼らの牧者となって、とこしえに彼らをいだき導いてください。
関根訳28篇9節 どうかあなたの民を救って下さい、あなたの嗣業を祝し、永遠(とこしえ)に彼らを養い、はぐくんで下さい。
新共同28篇9節 お救いください、あなたの民を。祝福してください、あなたの嗣業の民を。とこしえに彼らを導き養ってください。