黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第35篇

関根訳義とされるための祈り

文語訳ダビデのうた
口語訳ダビデの歌

本篇はダビデの作らしさを最も多分に所有している詩の一つである。サムエル前19−26章の間にダビデがサウルのために如何に執拗に迫害せられていたか、またダビデを嫉み、恩を仇で返す同僚が如何に多かったかが記されており、本篇はダビデのその心境を詩に表顕したものと見て、甚だ適切である。エレミヤをもって本篇の作者と見んとする節あれども1−3節はこれに相応しからず、やはりダビデの作と見ることが最も適切である。国民全体を詩の主体と見ることも同様に不適当である。なお本篇および7、69、109等の諸篇には敵に対する激しき詛が叫ばれており、敵のために救を祈る新約の思想より見て読むにたえざるがごとき場合無きにあらざれど、これは作者の私情を歌ったのではなく、エホバの選の器を迫害する者をエホバに適する者と見、これに対するエホバの怒を自己の身に燃やし、これをエホバに訴えてその援を叫び求めたものである。純粋に私心を超越する者は自己の敵を神の敵と見る。本篇はこれを三部分に分つことができる(1−10。11−18。19−28)。各部は感謝をもって結ばれている。


〔1〕エホバよわがために戦いたまえ(1−10)
*35篇1節エホバよ、ねがはくは(われ)対し反抗しあらそふ(もの)に向ってわが正しき故を以て之とあらそひ、(われ)を攻め之とたたかふものにむかいて我が援軍となりて之とたたかひたまへ。

文語訳35篇1節 ヱホバよねがはくは(われ)にあらそふ(もの)とあらそひ (われ)とたゝかふものと(たたか)ひたまへ
口語訳35篇1節 主よ、わたしと争う者とあらそい、わたしと戦う者と戦ってください。
関根訳35篇1節 ダビデの歌。ヤヴェよ、わたしと争う者と争いわたしと戦う者と戦って下さい。
新共同35篇1節 【ダビデの詩。】主よ、わたしと争う者と争い わたしと戦う者と戦ってください。


補註
1−3節はエホバを軍人に見立てる擬人法。


35篇2節願わくは汝軍人となり(たて)大盾(おほだて)とをとりてわが(たすけ)にたちいでわれに手むかうものを防ぎたまへ。

文語訳35篇2節 (たて)大盾(おほだて)とをとりてわが(たすけ)にたちいでたまへ
口語訳35篇2節 盾と大盾とを執って、わたしを助けるために立ちあがってください。
関根訳35篇2節 盾と円盾(まるたて)をとって立ってわたしを助けて下さい。
新共同35篇2節 大盾と盾を取り 立ち上がってわたしを助けてください。


*35篇3節(われ)()ひせまる(もの)(むか)ひて(ほこ)斧刀(おの)とをぬき》【戟をぬきいだしたまひて我におひせまるものの途をふさぎ】彼らをして我に近寄らしめず、(かつ)わがなやみ苦しむ霊魂(たましひ)に『われは(なんぢ)(すくひ)なり』といひて我が心を安らかしめたまへ。

文語訳35篇3節 (ほこ)をぬきいだしたまひて(われ)におひせまるものの(みち)をふさぎ(かつ)わが靈魂(たましひ)にわれはなんぢの(すくひ)なりといひたまへ
口語訳35篇3節 やりと投げやりとを抜いて、わたしに追い迫る者に立ちむかい、「わたしはおまえの救である」と、わたしに言ってください。
関根訳35篇3節 (やり)(おの)を備えてわたしを追う者に立ち向かい、わが魂に向かって「わたしはお前の救いだ」と言って下さい。
新共同35篇3節 わたしに追い迫る者の前に 槍を構えて立ちふさがってください。どうか、わたしの魂に言ってください 「お前を救おう」と。


補註
3節aの現行訳「ふさぎ」は本文になし。「ふさぎ」なる文字はおそらく誤訳で、斧の如き形の武器の一種(おそらく青龍刀の如きものか)の名称ならんとのこと、然りとすれば「途を」なる文字を補充する必要なく3節aは「我に追い迫る者に向ひて戟と斧刀とを抜き」となる。私訳は之による。


35篇4節(ねが)はくは、わが霊魂(たましひ)をたづぬるものわが生命を奪わんと求むるものその企てに失敗することによりて(はぢ)をえて*いやしめられ、われ《に(たい)し、()しき(こと)(くはだ)つる》【をそこなはんと謀る】ものの、退(しりぞ)けられてその計画は空しきに帰し、(あわ)てふためかんことを。エホバよ、我に敵する者は汝に敵するものなり、願わくは彼らの凡ての企図を画餅に帰せしめ給え。

文語訳35篇4節 (ねが)はくはわが靈魂(たましひ)をたづぬるものの(はぢ)をえていやしめられ (われ)をそこなはんと(はか)るものの退(しりぞ)けられて(あわ)てふためかんことを
口語訳 35篇4節 どうか、わたしの命を求める者をはずかしめ、いやしめ、わたしにむかって悪をたくらむ者を退け、あわてふためかせてください。
関根訳35篇4節 わが生命を求める者が恥じあわてわが災いをはかる者が恥じて後に退かんことを。
新共同35篇4節 わたしの命を奪おうとする者は 恥に落とされ、嘲りを受けますように。わたしに災いを謀る者は 辱めを受けて退きますように。


補註
「いやしめられ」も恥をかかされて当惑すること。


35篇5節ねがはくはかれらがその為さんとする凡ての事柄において失敗すること(かぜ)(まへ)なる粃糠(もみがら)のごとくなり、風に吹き飛ばされエホバの使者(つかひ)におひやられて跡形もなきに至らんことを。

文語訳35篇5節 ねがはくはかれらが(かぜ)のまへなる粃糠(もみがら)のごとくなりヱホバの使者(つかひ)におひやられんことを
口語訳35篇5節 彼らを風の前のもみがらのようにし、主の使に彼らを追いやらせてください。
関根訳35篇5節 彼らが風の前のもみがらのようにならんことを。ヤヴェの使いが彼らを打ち倒さんことを。
新共同35篇5節 風に飛ぶもみ殻となった彼らが 主の使いに追い払われますように。


35篇6節(ねが)はくはエホバよ、悪を行うかれらの(みち)をくらくして歩むに困難ならしめ、(すべ)らかにして彼らを辷らしめ、エホバの使者(つかひ)にかれらを()ひゆかしめたまはんことを。彼らはかくして暗黒と滑路とにまろびつつ追いまくられるであおう。

文語訳35篇6節 (ねが)はくはかれらの(みち)をくらくし(すべ)らかにしヱホバの使者(つかひ)にかれらを()ひゆかしめたまはんことを
口語訳35篇6節 彼らの道を暗く、なめらかにし、主の使に彼らを追い行かせてください。
関根訳35篇6節 彼らの道は暗く危うき道となりヤヴェの使いが彼らを追跡するように。
新共同35篇6節 道を暗闇に閉ざされ、足を滑らせる彼らに 主の使いが追い迫りますように。


35篇7節かれらは(ゆゑ)なく(われ)《に(たい)して》【をとらへんとて】*(あみ)を《ふせ、》【あなにふせ】我をこの網の中に捕えんとし、(ゆゑ)なくわが霊魂(たましひ)《に(たい)して》【をそこなはんとて】(あな)をうがちたればなり。悪むべきかな彼らの奸計、詛わるべきかな彼らの態度、

文語訳35篇7節 かれらは(ゆゑ)なく(われ)をとらへんとて(あみ)をあなにふせ (ゆゑ)なくわが靈魂(たましひ)をそこなはんとて(あな)をうがちたればなり
口語訳35篇7節 彼らはゆえなくわたしのために網を隠し、ゆえなくわたしのために穴を掘ったからです。
関根訳35篇7節 彼らは故なくわたしに向かって網をもうけ故なくわたしのために落し穴を掘ったからだ。
新共同35篇7節 彼らは無実なわたしを滅ぼそうと網を張り わたしの魂を滅ぼそうと落とし穴を掘りました。


補註
「網をあなにふせ」の「あなに」は本節後半に移さるべきものならんとの説は有力なり、私訳は之による。


35篇8節(ねが)はくは*(かれ)〔ら〕がただ我をのみ迫害せんと熱中し、己が滅亡につきて(おも)ひよらぬ()却って彼の上にほろび(きた)り、我を陥れんとて(おの)がふせたる(あみ)が却って逆に《かれを(とら)へ》【にとらへられ】てその罪に対する罰が明かにせられ(みづか)らその(ほろび)におちいらんことを。かくしてかれの奸計は我を捕えずして却って彼自身をとらうるに至らん、これエホバが彼に与え給う罰である。

文語訳35篇8節 (ねが)はくはかれらが(おも)ひよらぬ()にほろびきたり(おの)がふせたる(あみ)にとらへられ(みづか)らその(ほろび)におちいらんことを
口語訳35篇8節 不意に滅びを彼らに臨ませ、みずから隠した網にとらえられ、彼らを滅びに陥らせてください。
関根訳35篇8節 わなが不意に彼をつかまえそのもうけた網が彼を捕え彼がわなにかからんことを。
新共同35篇8節 どうか、思わぬ時に破滅が臨み 彼らが自ら張った網に掛かり 破滅に落ちますように。


補註
「彼ら」は原文「彼」であるが敵の多くをまとめて一人格として考えたのであろう。またサウルの如き特定の一人を指したものと解する学者もある。


35篇9節()るときはわが切なる祈は聴かれ、わが霊魂(たましひ) エホバの為し給ふ奇しき御業を見て エホバによりてよろこび、その凡ての敵の悪計より救い出し給う(すくひ)をもて(たの)しまん。救のよろこびはかくして我が心に充つるに至らん。

文語訳35篇9節 ()るときわが靈魂(たましひ)はヱホバによりてよろこび その(すくひ)をもて(たの)しまん
口語訳35篇9節 そのときわが魂は主によって喜び、その救をもって楽しむでしょう。
関根訳35篇9節 しかしわが魂はヤヴェにあって喜び彼の救いを喜び楽しもう。
新共同35篇9節 わたしの魂は主によって喜び躍り 御救いを喜び楽しみます。


35篇10節わがすべての(ほね)よろこびにわななき、わが全身の骨髄までも感謝に充たされていはん、エホバよ、《(たれ)(なんぢ)(たぐ)ふべきものあらん、誰か汝に打勝ち得るものあらん、(なんぢ)はくるしむもの憐むべきもの力強(ちからつよ)(もの)の圧迫の下よりたすけいだし、(また)くるしむ(もの)(まづ)しきものを略奪者(りやくだつしや)の搾取の手より〔たすけいだしたまふ。〕》【汝はくるしむものを之にまさりて力つよきものより、また、くるしむもの貧しきものを掠めうばふ者よりたすけいだし給ふ、誰かなんぢに比ふべき者あらんと】かくてエホバに依り頼む者は凡ての苦難の中より援け出さる。

文語訳35篇10節 わがすべての(ほね)はいはん ヱホバよ(なんぢ)はくるしむものを(これ)にまさりて(ちから)つよきものより (また)くるしむもの(まづ)しきものを(かす)めうばふ(もの)よりたすけいだし(たま)(たれ)かなんぢに(たぐ)ふべき(もの)あらんと
口語訳35篇10節 わたしの骨はことごとく言うでしょう、「主よ、だれかあなたにたぐうべき者がありましょう。あなたは弱い者を強い者から助け出し、弱い者と貧しい者を、かすめ奪う者から助け出される方です」と。
関根訳35篇10節 わがすべての骨は言うであろう、「ヤヴェよ、誰か貴神(あなた)の如き者があろう、弱き者をより強き者から救い弱き者、貧しき者を強奪者から救う者」。
新共同35篇10節 わたしの骨はことごとく叫びます。「主よ、あなたに並ぶものはありません。貧しい人を強い者から 貧しく乏しい人を搾取する者から 助け出してくださいます。」


〔2〕忘恩者より受くる理由なき迫害(11−18)
*35篇11節暴虐(ぼうぎやく)なる》【こころあしき】(あかし)(びと)おこりて全然無実の罪を我に衣せわが全く与り(しら)ざることを我が為したるものとして之に対し弁解せよと(なじ)りとふ。

文語訳35篇11節 こゝろあしき證人(あかしびと)おこりてわが()らざることを(なじ)りとふ
口語訳35篇11節 悪意のある証人が起って、わたしの知らない事をわたしに尋ねる。
関根訳35篇11節 悪意ある証人は立ってわたしの知らぬことをわたしに尋ねる。
新共同35篇11節 不法の証人が数多く立ち、わたしを追及しますが わたしの知らないことばかりです。


補註
サムエル前24:9。


*35篇12節かれらは(あく)をもて〔わが〕(ぜん)にむくい恩を返すに仇を以てし()がたましひわが生命依仗(よるべ)なき淋しき孤独なるものとせり。我が周囲の凡ての人は我を陥れんとし、また我を害することに熱中する、かくして我独りそのただ中にありて之と戦う。

文語訳35篇12節 かれらは(あく)をもてわが(ぜん)にむくい()がたましひを依仗(よるべ)なきものとせり
口語訳35篇12節 彼らは悪をもってわたしの善に報い、わが魂を寄るべなき者とした。
関根訳35篇12節 彼らはわたしに善を報いるに悪をもってしわが生命をすら取ろうとする。
新共同35篇12節 彼らはわたしの善意に悪意をもってこたえます。わたしの魂を滅ぼそうとして、子供を奪いました。


補註
サムエル前24:17以下。


35篇13節()れどわれは彼らに対して凡ての愛を以て振舞いかれらが(やみ)しときには我が悲しみを表わすために麁服(あらたへ)をつけて彼らと苦しみを共にし祈祷に身を委ねんために斷食(だんじき)()て》【糧をたちて】わが*霊魂(たましひ)を《なやまし》【くるしめ】たり。彼らの為にする*わが(いのり)幾度祈りても心を去らず、常に再びわがふところにかへりきたれり。

文語訳 35篇13節 (され)どわれかれらが()みしときには麁服(あらたへ)をつけ(かて)をたちてわが靈魂(たましひ)をくるしめたり わが(いのり)はふところにかへれり
口語訳35篇13節 しかし、わたしは彼らが病んだとき、荒布をまとい、断食してわが身を苦しめた。わたしは胸にこうべをたれて祈った、
関根訳35篇13節 しかしわたしは彼らの病気の時、荒布をまとい断食してわが身を苦しめたものだ、----わが祈りがわが胸に帰らんことを----
新共同35篇13節 彼らが病にかかっていたとき わたしは粗布をまとって断食し、魂を苦しめ 胸の内に祈りを繰り返し


補註
「霊魂をなやます」(現−くるしめ)は断食を指す術語。レビ16:29、31。23:27、32。民数29:7参照。「わが祈はふところにかへれり」は苦痛を以て顔を胸にあてて祈る時の貌を指すと解する説もあり。


*35篇14節彼らのなやめる時、あたかも《わが(とも)、わが兄弟(きやうだい)(たい)するごとく全力を尽くして愛を以てわれは振舞(ふるま)ひ》【わがかれに作せることはわが友わが兄弟にことならず】(はは)()にありてなげくがごとく哀愁の極喪服(もふく)をまとひ》【哀しみ】うなたれたり。

文語訳35篇14節 わがかれに()せることはわが(とも)わが兄弟(はらから)にことならず(はは)()にありて痛哭(なげく)がごとく(かな)しみうなたれたり
口語訳35篇14節 ちょうど、わが友、わが兄弟のために悲しんだかのように。わたしは母をいたむ者のように悲しみうなだれて歩きまわった。
関根訳35篇14節 丁度友や兄弟に対するように、わたしは母のために喪に服する者のように悲しみうなだれて歩んだのだった。
新共同35篇14節 彼らの友、彼らの兄弟となり 母の死を悼む子のように嘆きの衣をまとい うなだれて行き来したのに


補註
原文難解、文字の順序に狂いあるならん。


*35篇15節かくの如く我は最も親しき肉身にもまさりて彼らのためになげき苦しみたり(され)どかれらは、この恩を忘れ果て却って我を悪み嫌い、わがよろめき(たふ)れんとせし(とき)(よろこ)びつどひ来りて我を取囲み、わが《()らざるもの、*浮浪(ふらう)のもの》【知ざりしとき匪類】までも何処よりとなくあつまりきたりて(われ)をせめ、われを()きてやめざりき。

文語訳35篇15節 (され)どかれらはわが(たふ)れんとせしとき(よろこ)びつどひ わが()らざりしとき匪類(をこのもの)あつまりきたりて(われ)をせめ われを()きてやめざりき
口語訳35篇15節 しかし彼らはわたしのつまずくとき、喜びつどい、ともに集まってわたしを責めた。わたしの知らない他国の者はわたしをののしってやめなかった。
関根訳35篇15節 ところがわたしが(つまず)いた時、彼らは喜んで集まって来、一緒になってわたしを打ちわたしの知らない者たちはわたしをかき裂きわたしを中傷してはばからなかった。
新共同35篇15節 わたしが倒れれば彼らは喜び、押し寄せます。わたしに向かって押し寄せ わたしの知らないことについてわたしを打ち とめどもなく引き裂きます。


補註
難解の一節。「浮浪のもの」はまた「誹謗するもの」「跛者」等とも訳さる。


35篇16節かれらは《野鄙(やひ)なる*諧謔屋(かいぎやくや)》【洒宴にて穢きことをのぶる嘲笑者】のごとく何ら我を怨むる理由だになきに関らず(われ)にむかひて()をかみならせり。我が愛せし者のみならず、我が知らざる者までも我を敵とし我をあざける、我如何にしてこの苦痛にたえ得んや。

文語訳35篇16節 かれらは酒宴(しゆえん)にて(きたな)きことをのぶる嘲笑者(あざけりびと)のごとく(われ)にむかひて()をかみならせり
口語訳35篇16節 彼らはますます、けがす言葉をもってあざけり、わたしにむかって歯をかみならした。
関根訳35篇16節 わたしをあざける者たちはわたしを囲みわたしに向かって歯をかみならした。
新共同35篇16節 神を無視する者がわたしを囲んで嘲笑い わたしに向かって歯をむき出します。


補註
「諧謔屋」と私訳せる原語は「菓子の嘲笑者」で菓子を貰って嘲笑諧謔をなすを職とする者の意、殊更に嘲笑を為して衣食する徒輩。


35篇17節(しゆ)よ、助けの御手を下し給わずして何時(いつ)まで空しく(なが)めたまふや、》【いたづらに見るのみにして幾何時をへたまふや】、(ねが)はくはわが霊魂(たましひ)のかれらにほろぼさるるを(のが)れしめ、わがかけがえ無き生命(いのち)をわかき(しし)の餌食となることより〔まぬかれしめたまへ。〕

文語訳35篇17節 (しゆ)よいたづらに()るのみにして幾何時(いくそのとき)をへたまふや (ねが)はくはわがたましひの彼等(かれら)にほろぼさるゝを(のが)れしめ わが生命(いのち)をわかき(しし)よりまぬかれしめたまへ
口語訳35篇17節 主よ、いつまであなたはなが めておられますか、わたしを彼らの破壊から、わたしのいのちを若きししから救い出してください。
関根訳35篇17節 主よ、いつまで眺めていたもうのか。()えたける者からわが生命を救い獅子の前からわが魂を救って下さい。
新共同35篇17節 主よ、いつまで見ておられるのですか。彼らの謀る破滅から わたしの魂を取り返してください。多くの若い獅子からわたしの身を救ってください。


35篇18節汝この願をきき給うが故にわれ啻に一個人としてのみならず(おほい)なる(つどひ)にありてその救につきてなんぢに感謝(かんしや)し、イスラエルのみならず(おほ)くの(たみ)のなかにて(なんぢ)をほめたたへん。

文語訳35篇18節 われ(おほい)なる(つどひ)にありてなんぢに感謝(かんしや)し おほくの(たみ)のなかにて(なんぢ)をほめたゝへん
口語訳35篇18節 わたしは大いなるつどいの中で、あなたに感謝し、多くの民の中で、あなたをほめたたえるでしょう。
関根訳35篇18節 大いなる集いの中でわたしはあなたをほめ、強き民とともにわたしはあなたをほめ(たた)えたい。
新共同35篇18節 優れた会衆の中であなたに感謝をささげ 偉大な民の中であなたを賛美できますように。


〔3〕祈願と感謝(19−28)
35篇19節*虚偽(いつはり)をもて理由なきに(われ)(あた)するものの我が神の救を得ざるを見てわが(ゆゑ)によろこぶ如きことを(ゆる)したまふなかれ、かかることはエホバに相応しからぬことなり、また(ゆゑ)なくして(われ)をにくむ(もの)の〔たがひに〕我らの苦悩をよろこびて意地悪き()くばせする如きことなからしめたまへ。

文語訳35篇19節 虚僞(いつはり)をもてわれに(あた)するもののわが(ゆゑ)によろこぶことを(ゆる)したまふなかれ(ゆゑ)なくして(われ)をにくむ(もの)のたがひに(めくばせ)することなからしめたまへ
口語訳35篇19節 偽ってわたしの敵となった者どものわたしについて喜ぶことを許さないでください。ゆえなく、わたしを憎む者どものたがいに目くばせすることを許さないでください。
関根訳35篇19節 偽りを言うわが敵がわたしの故に喜ぶことなく故なくわたしを憎む者が目くばせし合って喜ぶことのないように。
新共同35篇19節 敵が不当に喜ぶことがありませんように。無実なわたしを憎む者が 侮りの目で見ることがありませんように。


補註
「虚偽をもて我に仇するもの」はまた「虚偽の仇人」とも訳す。19節bを主イエスは一の預言と見給うた。


35篇20節(そは)かれらは常に悪意と争闘とを好みて平安(やすき)(かた)らず、《*()のおだやかなる(もの)(たい)してあざむきの(ことば)(たくら)み、》【あざむきの言をつくりまうけて國内におだやかにすまふ者をそこなはんと謀る】この世に安穏なる生活を営む者を殊更に陥れ、彼らに苦難を与うることを喜び、

文語訳35篇20節 かれらは平安(やすき)をかたらず あざむきの(ことば)をつくりまうけて國内(くにのうち)におだやかにすまふ(もの)をそこなはんと(はか)
口語訳35篇20節 彼らは平和を語らず、国のうちに穏やかに住む者にむかって欺きの言葉をたくらむからです。
関根訳35篇20節 彼らは平和のことを語らず、この地につつましく生きる者たちに向かい悪い計画をめぐらすから。
新共同35篇20節 彼らは平和を語ることなく この地の穏やかな人々を欺こうとしています。


補註
「地のおだやかなる者」はこの地上において静かなる平穏の生活を送る人。


35篇21節(しか)のみならず〕(われ)にむかひて(くち)をあけひろげ、我を嘲りて『ああ、*()よや、()よや、われらの()これを()たり何たる憐むべき姿ぞや』といへ(ばな)り。かく云いて彼らは我に向ってその凶悪なる心を表わすことをば

文語訳35篇21節 (しか)のみならず(われ)にむかひて(くち)をあけひろげ あゝ()よや()よやわれらの()これをみたりといへり
口語訳35篇21節 彼らはわたしにむかって口をあけひろげ、「あはぁ、あはぁ、われらの目はそれを見た」と言います。
関根訳35篇21節 彼らはわたしに向かってその口をひろげて言う、ヒヤ、ヒヤ、われらの眼はそれを見た、と。
新共同35篇21節 わたしに向かえば、大口を開けて嘲笑い 「この目で見た」と言います。


補註
「視よや視よや」は「ヘアハヘアハ」なる間投詞。


*35篇22節 エホバよ、(なんぢ)すでにこれを()たまへり、彼らの悪は汝の目にかくるることなし、ねがはくは(もだ)したまふなかれ、言を出して彼らを審き給え、(しゆ)よ、われに(とほ)ざかりたまふなかれ。来りて我を彼らの手より救い給え。

文語訳35篇22節 ヱホバよ(なんぢ)すでにこれを()たまへり ねがはくは(もだ)したまふなかれ(しゆ)よわれに(とほ)ざかりたまふなかれ
口語訳35篇22節 主よ、あなたはこれを見られました。もださないでください。主よ、わたしに遠ざからないでください。
関根訳35篇22節 ヴェよ、見て下さい、黙し給うな。主よ、わたしから遠ざからないで下さい。
新共同35篇22節 主よ、あなたは御覧になっています。沈黙なさらないでください。わたしの主よ、遠く離れないでください。


補註
22−24節にエホバの御名が種々に云いあらわされている。


35篇23節わが(かみ)よ、わが(しゆ)よ、おきたまへ、()めたまへ、《わが(さば)きのために、(また)わが(うたへ)のために。》【ねがはくはわがために審判(さばき)をなし、わが(うたへ)ををさめたまへ】何時までも眠りて臥したまうなかれ。

文語訳35篇23節 わが(かみ)よわが(しゆ)よ おきたまへ()めたまへ ねがはくはわがために審判(さばき)をなし わが(うたへ)ををさめたまへ
口語訳35篇23節 わが神、わが主よ、わがさばきのため、わが訴えのために奮いたち、目をさましてください。
関根訳35篇23節 わが義のために、わが神、わが主よ、わが争いのために、起きて目覚めて下さい。
新共同35篇23節 わたしの神、わたしの主よ、目を覚まし 起き上がり、わたしのために裁きに臨み わたしに代わって争ってください。


35篇24節わが(かみ)エホバよ、なんぢの()にしたがひて(われ)をさばきたまへ、我は汝に対して不義をいだくことなければなり、もし汝之を為し給わずばわが(こと)によりて彼らは神に勝ちたりと思惟して喜ばん。かくしてかれらに歓喜(よろこび)をえしめたまふなかれ。

文語訳35篇24節 わが(かみ)ヱホバよ なんぢの()にしたがひて(われ)をさばきたまへ わが(こと)によりてかれらに歡喜(よろこび)をえしめたまふなかれ
口語訳35篇24節 わが神、主よ、あなたの義にしたがってわたしをさばき、わたしの事について彼らを喜ばせないでください。
関根訳35篇24節 ヴェよ、あなたの義に従ってわたしを(さば)き、わが神よ、わが故に彼らを喜ばせないで下さい。
新共同35篇24節 主よ、わたしの神よ あなたの正しさによって裁いてください。敵が喜んで


35篇25節かれらに()(こころ)(うち)にて《()よ、(ねが)ひの(ごと)くなれり、》【ああここちよきかな視よこれわが願ひしところなり】といはしめ(たま)ふなかれ、(また)われらかれを()みつくせりといはしめ彼らを誇らしめたまふなかれ。彼らをして我を呑み尽さんとするその凡ての願を虚しからしめたまえ。

文語訳35篇25節 かれらにその心裡(こころのうち)にて あゝこゝちよきかな()よこれわが(ねが)ひしところなりといはしめたまふなかれ (また)われらかれを()みつくせりといはしめたまふなかれ
口語訳35篇25節 彼らにその心のうちで、「あはぁ、われらの願ったことが達せられた」と言わせないでください。また彼らに「われらは彼を滅ぼしつくした」と言わせないでください。
関根訳35篇25節 彼らがその心の中で言うことがないように、ヒヤ、ヒヤ、いい気味だ、と。彼らが言うことがないように、やっつけてやった、と。
新共同35篇25節 「うまく行った」と心の中で言いませんように。「ひと呑みにした」と言いませんように。


35篇26節(ねが)はくはわが《不幸(ふかう)》【害はるる】を(よろこ)ぶものの却って汝の罰を被って《ともに()(あか)らみ》【皆はぢて惶てふためき】(われ)にむかひて〔ほこらかに〕(たか)ぶるものの汝によりて打ち砕かるることによりて却って(はぢ)とはづかしめとを()んことを。

文語訳35篇26節 (ねが)はくはわが(そこ)なはるゝを(よろこ)ぶもの(みな)はぢて(あわ)てふためき (われ)にむかひてほこりかに(たか)ぶるものの(はぢ)とはづかしめとを()んことを
口語訳35篇26節 わたしの災を喜ぶ者どもをともに恥じ、あわてふためかせてください。わたしにむかって誇りたかぶる者どもに恥と、はずかしめとを着せてください。
関根訳35篇26節 わたしの不幸を喜ぶ者がみな恥じあわてるように、わたしに向かって大言壮語する者が恥と恥辱におおわれるように。
新共同 35篇26節 苦難の中にいるわたしを嘲笑う者が 共に恥と嘲りを受け わたしに対して尊大にふるまう者が 恥と辱めを衣としますように。


35篇27節之に反しわが()知りてこれを(よろこ)ぶ》【よみする】(もの)をば、(よろこ)び《(さけ)ばしめ》【謳はしめ】(おほい)なるかなエホバ、その(しもべ)*さいはひを(よろこ)びたまふと(つね)にいはしめたまへ。その為にはわが凡ての敵を打ち滅ぼし、我が義をしてとこしえに勝を得しめたまえ。

文語訳35篇27節 わが()をよみする(もの)をばよろこび(うた)はしめ(おほい)なるかなヱホバその(しもべ)のさいはひを(よろこ)びたまふと(つね)にいはしめたまへ
口語訳35篇27節 わたしの義を喜ぶ者をば喜びの声をあげて喜ばせ、「そのしもべの幸福を喜ばれる主は大いなるかな」とつねに言わせてください。
関根訳35篇27節 わたしが義とされるのを喜ぶ者が歓呼し、いつもヤヴェは大いなるかなと言いうるように、その(しもべ)の平安を喜ぶ者が。
新共同35篇27節 わたしが正しいとされることを望む人々が 喜び歌い、喜び祝い 絶えることなく唱えますように 「主をあがめよ 御自分の僕の平和を望む方を」と。


補註
「さいはひ」はまた「平安」を意味す。


35篇28節かくしてわが(した)終日(ひねもす)なんぢの()となんぢの(ほまれ)とを*かたらん。ひねもす語りつづくるともとこしえにたゆることあらじ。

文語訳35篇28節 わが(した)終日(ひねもす)なんぢの()となんぢの(ほまれ)とをかたらん
口語訳35篇28節 わたしの舌はひねもすあなたの義と、あなたの誉とを語るでしょう。
関根訳35篇28節 そうすればわが舌はあなたの義を語り、日毎にあなたのほまれを語り告げるでしょう。
新共同35篇28節 わたしの舌があなたの正しさを歌い 絶えることなくあなたを賛美しますように。


補註
「かたる」は原語「黙想する」の意味あり、心に黙想しつつ独語的に語ること、「念ず」と訳すべし。