黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第37篇

関根訳心を悩ますな
新共同(アルファベットによる詩)

文語訳( )ダビデのうた
口語訳ダビデの歌

本篇は9、25、34篇等と共に「イロハ歌」に属し、四行毎に(中に三行および五行の処もあり)アルファベットの文字の順に始められている。内容は悪人が栄え義者が苦しむことの矛盾を如何にして解決すべきかを論じており、その解決として結局において悪人は滅び善人は栄ゆることを信じこれを待望みつつ忍耐すべきことを教えている。来世の進行の明瞭ならざりし旧約時代においては、義しき者をして信仰を失わざらしめ、または不平、羨望に陥らざらしめんがためにはこれより外に解決の途がなく、かつその解決はこれを凡ての場合に適用して必ずしも真ならざるがごとくに見ゆるけれども、結局においてその真理たることを知ることができるのである。その故は、永遠の国においては神の報償は完全に行わるるに至り、現世においても、霊的意味においてはこれが完全に行われるからである。故に新約の光に照らしてこの詩を読む時、この詩は確かに「摂理の鏡」(テルトゥリアヌス)であり、また「聖徒の忍耐茲にあり」(ルーテル)と云わるるとおりである。なお詩73篇はこの思想をさらに高揚し、ヨブ記箴言等にもこの思想が表われていることに注意すべきである。なお本篇はイロハ歌の特徴としてやや断片的であるけれども、大体四つの部分に区分することができる(1−11。12−20。21-31。32−40)。


〔1〕不義者の栄ゆるを羨む勿れ(1−11)
37篇1節א(アれフ)(あく)をなすものがたとい如何にこの世において成功者となるともそ(ゆゑ)をもて汝らの(こころ)をなやめいらだたしむる勿れ、また不義(ふぎ)をおこなふ(もの)にむかひてたとい如何に富み栄えて居るにしても(ねたみ)をおこすなかれ。

文語訳37篇1節 (あく)をなすものの(ゆゑ)をもて(こころ)をなやめ 不義(ふぎ)をおこなふ(もの)にむかひて(ねたみ)をおこすなかれ
口語訳37篇1節 悪をなす者のゆえに、心を悩ますな。不義を行う者のゆえに、ねたみを起すな。
関根訳37篇1節 ダビデの歌。悪をなす者のために心を悩ましたり、不義を行なう者のためにいらだったりしないように。
新共同37篇1節 【ダビデの詩。】悪事を謀る者のことでいら立つな。不正を行う者をうらやむな。


37篇2節その故はかれらはやがて(くさ)のごとく*かりとられて凋みはて*(あをきな)のごとく(うち)(しを)るべければなり。悪しきものの栄華は唯一時の夢の如し、決して之をうらやみ嫉むべきにあらず。

文語訳37篇2節 かれらはやがて(くさ)のごとくかりとられ(あをきな)のごとく打萎(うちしを)るべければなり
口語訳37篇2節 彼らはやがて草のように衰え、青菜のようにしおれるからである。
関根訳37篇2節 その人たちは草のようにたちまち枯れ青草のようにしおれてしまうのだから。
新共同37篇2節 彼らは草のように瞬く間に枯れる。青草のようにすぐにしおれる。


補註
「かりとられ」は「枯れしぼむ」意味もあり。「青菜」は「野菜の青色」。


37篇3節ב(べーと)この世の栄枯や成功不成功を眼中に置かず、唯エホバによりたのみて(ぜん)をおこなへ、たとい約束の地たるこの《()》【國】は他国に比して貧しく苦難多くとも汝ら約束の民はここにとどまり、この世の美味を以てせず*眞實(まこと)をもて(かて)とせよ。これこそ永遠に至るの糧である。

文語訳37篇3節 ヱホバによりたのみて(ぜん)をおこなへ この(くに)にとゞまり眞實(まこと)をもて(かて)とせよ
口語訳37篇3節 主に信頼して善を行え。そうすればあなたはこの国に住んで、安きを得る。
関根訳37篇3節 ヴェに信頼して善を行なえ、この地に留まって真実(まこと)をもって(かて)とせよ。
新共同37篇3節 主に信頼し、善を行え。この地に住み着き、信仰を糧とせよ。


補註
「真実を以て糧とせよ」は他に種々の解釈あり。


37篇4節この世の栄誉や権勢を以て歓喜とせず、エホバによりて歓喜(よろこび)をなせ、エホバはたといこの世の栄華を汝に与えずともなんぢ《の》【が】真より出づる正しき(こころ)のねがひを(なんぢ)にあたへたまはん。

文語訳37篇4節 ヱホバによりて歡喜(よろこび)をなせ ヱホバはなんぢが(こころ)のねがひを(なんぢ)にあたへたまはん
口語訳37篇4節 主によって喜びをなせ。主はあなたの心の願いをかなえられる。
関根訳 37篇4節 ヴェによって喜び楽しめ、彼は君の心の願いをかなえて下さるだろう。
新共同37篇4節 主に自らをゆだねよ 主はあなたの心の願いをかなえてくださる。


37篇5節ג(ギメる)(なんぢ)(みち)に横たわるあらゆる苦しみをエホバに*ゆだね〔よ〕、(かれ)によりたの〔め、さらば(かれ)は〕【まば】*(これ)()しとげ、汝の願を充し汝を喜ばしめ給わん、また

文語訳37篇5節 なんぢの(みち)をヱホバにゆだねよ (かれ)によりたのまば(これ)をなしとげ
口語訳37篇5節 あなたの道を主にゆだねよ。主に信頼せよ、主はそれをなしとげ、
関根訳37篇5節 君の道をヤヴェにゆだねよ、彼に頼めば彼は行動し、
新共同37篇5節 あなたの道を主にまかせよ。信頼せよ、主は計らい


補註
「ゆだね」はエホバの上にあらゆる辛苦を「まろばし」かけること。「之を為し」は簡単であるが、前節を受ける。


37篇6節悪しき人汝をそしり汝を罪すともエホバは(なんぢ)()(ひかり)のごとく、(なんぢ)審判(さばき)午日(まひる)のごとくあきらかにしたまはん。》【光のごとくなんぢの義をあきらかにし、午日のごとくなんぢの訟をあきらかにしたまはん】それ故に汝らは唯エホバに依頼みて世を恐れずして正義を行え。

文語訳37篇6節 (ひかり)のごとくなんぢの()をあきらかにし午日(まひる)のごとくなんぢの(うたへ)をあきらかにしたまはん
口語訳37篇6節 あなたの義を光のように明らかにし、あなたの正しいことを真昼のように明らかにされる。
関根訳37篇6節 君の義を光のようにあらわし君の公正を真昼のように明らかにして下さる。
新共同37篇6節 あなたの正しさを光のように あなたのための裁きを 真昼の光のように輝かせてくださる。


37篇7節ד(ダれと)如何に心中憤慨にたえざることありとも、濫りにエホバに向って呟くことなくなんぢエホバのまへに(くち)をつぐみ、その来りて汝を助け給うまでは信仰を以て(しの)びて《かれ》【これ】を待望(まちのぞ)め、やがて彼は公平なる審判を行い給わん。おのがあゆむ悪しき(みち)《に》【をあゆみて】(さか)ゆるものの(ゆゑ)をもて、またあしき謀略(はかりごと)なしつつ而も成功を以て之をとぐる(ひと)(ゆゑ)をもて(こころ)をなやむるなかれ。その栄は一時でありその謀略はやがて失敗に帰せしめられん。

文語訳37篇7節 なんぢヱホバのまへに(くち)をつぐみ(しの)びてこれを俟望(まちのぞ)め おのが(みち)をあゆみて (さか)ゆるものの(ゆゑ)をもて あしき謀略(はかりごと)をとぐる(ひと)(ゆゑ)をもて(こころ)をなやむるなかれ
口語訳37篇7節 主の前にもだし、耐え忍びて主を待ち望め。おのが道を歩んで栄える者のゆえに、悪いはかりごとを遂げる人のゆえに、心を悩ますな。
関根訳37篇7節 ヴェの前に黙して、彼を待て。世渡りのうまい者のために心を悩ますな、ずるいことをしている者のために。
新共同37篇7節 沈黙して主に向かい、主を待ち焦がれよ。繁栄の道を行く者や 悪だくみをする者のことでいら立つな。


37篇8節ה(へー)それ故に悪しき者栄ゆるとも之に対する(いかり)をやめ、忿恚(いきどほり)をすてよ、(こころ)をなやむるなかれ、これ信仰なき行為なるが故に結局において(あく)を《なすに(すぎ)ぎず。》【おこなふ(かた)にうつらん】故に汝らの激情は忍耐を以て之を抑圧することが必要である。

文語訳37篇8節 (いかり)をやめ忿恚(いきどほり)をすてよ (こころ)をなやむるなかれ これ(あく)をおこなふ(かた)にうつらん
口語訳37篇8節 怒りをやめ、憤りを捨てよ。心を悩ますな、これはただ悪を行うに至るのみだ。
関根訳37篇8節 怒りをやめ、(いきどお)りをすてよ、心を悩ますな、それは悪に誘われることだ。
新共同37篇8節 怒りを解き、憤りを捨てよ。自分も悪事を謀ろうと、いら立ってはならない。


37篇9節そは(あく)をおこなふものは現在如何に栄華を極むるともやがては(たち)(ほろぼ)され、之に反して正義を行い忍耐を以てエホバを待望(まちのぞ)むものは神の約束し給えるイスラエルの*地》【國】をつぐべければなり。

文語訳37篇9節 そは(あく)をおこなふものは(たち)(ほろぼ)され、エホバを待望(まちのぞ) むものは(くに)をつぐべければなり
口語訳37篇9節 悪を行う者は断ち滅ぼされ、主を待ち望む者は国を継ぐからである。
関根訳37篇9節 悪を行なう者はたち滅ぼされヤヴェを待ち望む者こそ地を()ぐからである。
新共同37篇9節 悪事を謀る者は断たれ 主に望みをおく人は、地を継ぐ。


補註
「地を嗣ぐ」ことは始めは約束の地イスラエルを嗣ぐことであったが、次第に終末的に考えらるるに至った。例、イザヤ57:13。60:21。65:9。


37篇10節ו(ワウ))あしきものは一時は如何に勢力ありとも、暫く忍耐して居らば(ひさ)しからずして自然に自己の罪のためにうせん、(なんぢ)*細密(こまか)に〕そのかつて華やかなりし(ところ)をおもひみるとももはや消え去りてあることなからん。

文語訳37篇10節 あしきものは(ひさ)しからずしてうせん なんぢ細密(こまか)にその(ところ)をおもひみるともあることなからん
口語訳37篇10節 悪しき者はただしばらくで、うせ去る。あなたは彼の所をつぶさに尋ねても彼はいない。
関根訳37篇10節 今しばらくすれば悪人は消え失せ君がその跡を尋ねてももういないだろう。
新共同37篇10節 しばらくすれば、主に逆らう者は消え去る。彼のいた所を調べてみよ、彼は消え去っている。


補註
「細密に」は意訳としてもやや叮嚀に過ぐ、英改訳によれるものならん。


*37篇11節されど忍耐を以てエホバを待望む柔和(にうわ)なるもの》【謙るもの】はエホバの恩恵によりて()》【國】を()ぎ、イスラエルの約束の地を得るのみならず、やがてはイエスの宣いし如く(マタイ5:5)永遠の神の国を嗣ぎ(おほい)なる平安(やすき)()(たのし)まん。》【また平安のゆたかなるを樂まん】この約束を信じて柔和なる心を以て静に待望むのが神の民の態度である。

文語訳37篇11節 されど(へりくだ)るものは(くに)をつぎ また平安(やすき)のゆたかなるを(たの)しまん
口語訳37篇11節 しかし柔和な者は国を継ぎ、豊かな繁栄をたのしむことができる。
関根訳37篇11節 柔和な者は地を嗣ぎ豊かな平安を喜び楽しむことが出来よう。
新共同37篇11節 貧しい人は地を継ぎ 豊かな平和に自らをゆだねるであろう。


補註
マタイ5:5の山上の垂訓に引用せらる。


〔2〕エホバは悪しき者を審き給う(12−20)
37篇12節ז(ザイン)()しきものは(ただ)しきものを嫉み、これを除かんとて之に《むかひて悪計(あくけい)》【*さからはんとて謀略】をめぐらし、(これ)にむかひて憎悪にもえて切歯(はがみ)す。かかる中にあって義しきものの心は安きを得ず。

文語訳37篇12節 ()しきものは(ただし)きものにさからはんとて謀略(はかりごと)をめぐらし(これ)にむかひて切齒(はがみ)
口語訳37篇12節 悪しき者は正しい者にむかってはかりごとをめぐらし、これにむかって歯がみする。
関根訳37篇12節 悪人は義人に向かって悪いことをたくらみ義人に向かって歯ぎしりする。
新共同37篇12節 主に従う人に向かって 主に逆らう者はたくらみ、牙をむくが


補註
現行訳「さからはんと」はやや強過ぎる。


37篇13節されども(しゆ)あたかもかかる者を問題にだに為給わざるものの如くあしきものを(わら)ひたまはん、(そは)エホバにおいて少しも手を下し給わずとも*かれがその悪の為に滅ぶべき()やがて間もなくきたるを()(たま)へばなり。主は之を知り給うが故に唯悪しき者の所為をあざ笑い給う。人は之を見得ざるが為に苦しみ恨む。

文語訳37篇13節 (しゆ)はあしきものを(わら)ひたまはん かれが()のきたるを()たまへばなり
口語訳37篇13節 しかし主は悪しき者を笑われる、彼の日の来るのを見られるからである。
関根訳37篇13節 主は悪人を嘲笑(ちょうしょう)される。彼の日の来ることを見ておられるから。
新共同37篇13節 主は彼を笑われる。彼に定めの日が来るのを見ておられるから。


補註
「かれが日」は死ぬべき日、悪しき者は神が之を罰するまでもなく、自然に亡ぶるものとして言表わさるることに注意すべし。


37篇14節ח(へと))あしきものは(つるぎ)をぬき(ゆみ)をはりて(くる)しむものと(まづ)しきものとをたふし、(おこな)(なほ)きものを(ころ)さんとせり。悪しきもののかかる行為は悉くエホバの御旨に反対する。そはエホバは苦しむもの貧しきものをあわれみ、行い直きものを護り給う故なり。

文語訳37篇14節 あしきものは(つるぎ)をぬき(ゆみ)をはりて(くる)しむものと(まづ)しきものとをたふし(おこなひ)なほきものを(ころ)さんとせり
口語訳37篇14節 悪しき者はつるぎを抜き、弓を張って、貧しい者と乏しい者とを倒し、直く歩む者を殺そうとする。
関根訳37篇14節 悪人は剣を抜き、弓をつがえ弱い者、貧しい者を倒そうとし直く歩む者を殺そうとした。
新共同37篇14節 主に逆らう者は剣を抜き、弓を引き絞り 貧しい人、乏しい人を倒そうとし まっすぐに歩む人を屠ろうとするが


37篇15節あしきものはかく義しきものを迫害すされどその行為は決して成功することなく却ってその(つるぎ)はおのが(むね)をさして自らその報をうけ、その(ゆみ)はをられて用にたえざるに至るべし。エホバの審判を下すまでもなく彼らの悪は自ら彼らの上に還り来らん。

文語訳37篇15節 されどその(つるぎ)はおのが(むね)をさしその(ゆみ)はをらるべし
口語訳37篇15節 しかしそのつるぎはおのが胸を刺し、その弓は折られる。
関根訳37篇15節 彼らの剣は自分の胸をさしその弓は折られるであろう。
新共同37篇15節 その剣はかえって自分の胸を貫き 弓は折れるであろう。


37篇16節ט(テと)(ただ)しき(ひと)のもてる《少量(せうりやう)は》【ものの少きは】(おほ)くの()しきものの《()てる多量(たりやう)》【豊なる】にまされり。財物の量は問題にあらず、その財宝が如何にして得られしかが問題である。浄財は少量たりとも貴重であり不浄財は如何に多量であっても結局何の役にも立たない。

文語訳37篇16節 義人(ただしきひと)のもてるもののすくなきは (おほ)くの()しきものの(ゆか)かなるにまされり
口語訳37篇16節 正しい人の持ち物の少ないのは、多くの悪しきの者の豊かなのにまさる。
関根訳37篇16節 義人の持つ少しのものは悪人の多くの財にまさる。
新共同37篇16節 主に従う人が持っている物は僅かでも 主に逆らう者、権力ある者の富にまさる。


37篇17節そは()しきものの(かひな)その悪のむくいとして遂に敗滅に帰するまでにをらるれど、エホバは(ただ)しきものを(たす)(さゝ)(たま)へばなり。故に悪しきものの多くの富も之と共に亡び、義しきものの些少の宝もやがてはエホバの祝福を受くるに至らん。

文語訳37篇17節 そは()しきものの(かひな)はをらるれどヱホバは(ただし)きものを扶持(たすけささへ)たまへばなり
口語訳37篇17節 悪しき者の腕は折られるが、主は正しい者を助けささえられるからである。
関根訳37篇17節 悪人の腕は折られるがヤヴェは義人を支えられるから。
新共同37篇17節 主は御自分に逆らう者の腕を折り 従う人を支えてくださる。


37篇18節י(ヨど))エホバは完全(まつた)きもの非難すべき点なき義しき者の〔*もろもろの〕()すなわちその生活の有様ことごとく()りたまふ。全智のエホバの目には一として映らざるものはない、而して(かれ)は神の御旨に叶う日を送るが故にそ嗣業(ゆずり)はかぎりなく(ひさ)しからん。彼らは永遠にその嗣業に与ることを得。

文語訳37篇18節 ヱホバは完全(まつたき)もののもろもろの()をしりたまふ かれらの嗣業(ゆづり)はかぎりなく(ひさ)しからん
口語訳37篇18節 主は全き者のもろもろの日を知られる。彼らの嗣業はとこしえに続く。
関根訳37篇18節 ヴェは全き者の日々を知り彼らの嗣業はとこしえに続く。
新共同37篇18節 無垢な人の生涯を 主は知っていてくださる。彼らはとこしえに嗣業を持つであろう。


補註
「もろもろの」は意訳。


37篇19節かれらは禍害(わざはひ)にあふことも無きにしもあらず、されどもそのとき彼らは神の守護によりてその禍害より救い出されて (はぢ)をおはず饑饉(うゑどし)()にも不思議なる神の援によりてあくことを()ん。エホバによりたのむ者の上には、奇跡的救いが行われる。

文語訳37篇19節 かれらは禍害(わざはひ)にあふとき(はぢ)をおはず饑饉(うゑどし)()にもあくことを()
口語訳37篇19節 彼らは災の時にも恥をこうむらず、ききんの日にも飽き足りる。
関根訳37篇19節 災いの臨む時も恥をこうむらず、飢饉(ききん)の日々にもあき足りる。
新共同37篇19節 災いがふりかかっても、うろたえることなく 飢饉が起こっても飽き足りていられる。


*37篇20節כ(カふ)反対にあしき(もの)たとい一時栄えゆくとも遂にはほろび、エホバのあたは牧場(まき)の《(うつく)しさ》【さかえ】の《(ごと)やがて時至ればきえうせ、かまどより立ちのぼる(けむり)となりて》【枯るるがごとくうせ煙のごとく】跡方もなく()えゆかん。エホバが御手を下し給うを待たずして彼らは己が罪によりて滅亡に至る。

文語訳37篇20節 あしき(もの)はほろびヱホバのあたは牧場(まき)のさかえの()るるがごとくうせ(けぶり)のごとく()えゆかん
口語訳37篇20節 しかし、悪しき者は滅び、主の敵は牧場の栄えの枯れるように消え、煙のように消えうせる。
関根訳37篇20節 悪人は滅び、ヤヴェの敵は牧場の栄えのように枯れ煙のように消え失せるからである。
新共同37篇20節 しかし、主に逆らい敵対する者は必ず滅びる 献げ物の小羊が焼き尽くされて煙となるように。


〔3〕エホバは義者を恵み給う(21−31)
*37篇21節ל(らメど))あしき(もの)結局において神の祝福を受け得ざるが故に他人よりものかりて(つくの)はず、借財を弁償し得ざる如きあわれむべき運命に陥り(ただ)しきものは神の恩恵を豊に受くるによりて自らも(めぐみ)ありて(ほどこ)しあたふることを得るに至るのである。

文語訳37篇21節 あしき(もの)はものかりて(つくの)はず (ただし)きものは(めぐみ)ありて(ほどこ)しあたふ
口語訳37篇21節 悪しき者は物を借りて返すことをしない。しかし正しい人は寛大で、施し与える。
関根訳37篇21節 悪人は借りても返すことが出来ない。義人は人にめぐみ与えることが出来る。
新共同37篇21節 主に逆らう者は、借りたものも返さない。主に従う人は憐れんで施す。


補註
申命15:6。28:12の実現と見るべきで、悪人の借倒しと善人の慈善とを批判したものではない。


37篇22節(その(ゆえ)は)〔(かみ)の〕ことほぎたまふただしき(ひと)約束の()》【國】をつぎ、〔(かみ)の〕(のろ)ひたまふあしき(ひと)(たち)(ほろぼ)さる《べければなり。》【べし】

文語訳37篇22節 (かみ)のことほぎたまふ(ひと)(くに)をつぎ (かみ)ののろひたまふ(ひと)斷滅(たちほろ)ぼさるべし
口語訳37篇22節 主に祝福された者は国を継ぎ、主にのろわれた者は断ち滅ぼされる。
関根訳37篇22節 神が祝福される者は地を嗣ぎ彼が(のろ)う者はたち滅ぼされるからである。
新共同37篇22節 神の祝福を受けた人は地を継ぐ。神の呪いを受けた者は断たれる。


*37篇23節מ(メム)義しき(ひと)(あゆみ)は、己が心のままを為すにあらずエホバによりて(さだ)めらる、之に従って歩む《その(みち)》【そのゆく途】を〔エホバ〕よろこび《たまふ。》【たまへり】

文語訳37篇23節 (ひと)のあゆみはヱホバによりて(さだ)めらる そのゆく(みち)をヱホバよろこびたまへり
口語訳37篇23節 人の歩みは主によって定められる。主はその行く道を喜ばれる。
関根訳37篇23節 人の歩みはヤヴェによって定められその道を彼は堅くされる。
新共同 37篇23節 主は人の一歩一歩を定め 御旨にかなう道を備えてくださる。


補註
23節bは「エホバの途をかれはよろこぶ」とも訳す。


37篇24節(たと)ひその(ひと)その途にありてつまづきたふるることありとも、それは一時的であり、また軽き程度に過ぎず、(また)くうちふせらるることなし、エホバかれが()を〔たすけ〕(ささ)へたまへばなり。エホバの定め給う途を歩むものは幸福なるかな。

文語訳37篇24節 (たとひ)その(ひと)たふるゝことありとも(また)くうちふせらるゝことなし ヱホバかれが()をたすけ(ささ)へたまへばなり
口語訳37篇24節 たといその人が倒れても、全く打ち伏せられることはない、主がその手を助けささえられるからである。
関根訳37篇24節 彼が倒れても倒れたままにはならない、ヤヴェがその手を支えておられるから。
新共同37篇24節 人は倒れても、打ち捨てられるのではない。主がその手をとらえていてくださる。


37篇25節נ(ヌン))われむかし(とし)わかくして(いま)おい長き人生の経験を嘗めたれど未だかつて(ただ)しき(もの)世の凡ての人にすてられ、(あるひ)はその(すゑ)(かて)こひありくを()しことなし。それ故に義しきを行う為に受くる一時の困難は決して憂うべきものにはあらず。

文語訳37篇25節 われむかし(とし)わかくして(いま)おいたれど 義者(ただしきもの)のすてられ (ある)はその(すゑ)(かて)こひありくを()しことなし
口語訳37篇25節 わたしは、むかし年若かった時も、年老いた今も、正しい人が捨てられ、あるいはその子孫が食物を請いあるくのを見たことがない。
関根訳37篇25節 わたしは昔若者で今は年老いたが義人が()てられ、その子孫が糧に困るのを見たことはない。
新共同37篇25節 若いときにも老いた今も、わたしは見ていない 主に従う人が捨てられ 子孫がパンを乞うのを。


37篇26節ただしきものはその一生涯の間貧しきことなく終日(ひねもす)めぐみありて苦しむものに()しあたふ。それにも関らず自ら貧困に苦しむことなく、またその(すゑ)はさいはひなり。

文語訳37篇26節 たゞしきものは終日(ひねもす)めぐみありて()しあたふ その(すゑ)はさいはひなり
口語訳37篇26節 正しい人は常に寛大で、物を貸し与え、その子孫は祝福を得る。
関根訳37篇26節 彼はいつも恵んで貸し与えその子孫は祝福されるにきまっている。
新共同37篇26節 生涯、憐れんで貸し与えた人には 祝福がその子孫に及ぶ。


37篇27節ס(サメく)(あく)をはなれて(ぜん)をなせ、()らばなんぢ《とこしへに幸福を以て世に()むことを()ん。》【の住居とこしへならん】

文語訳37篇27節 (あく)をはなれて(ぜん)をなせ (さら)ばなんぢの住居(すまひ)とこしへならん
口語訳37篇27節 悪をさけて、善を行え。そうすれば、あなたはとこしえに住むことができる。
関根訳37篇27節 悪を離れ、善を行なえ、そうすれば君はとこしえに住むことが出来る。
新共同37篇27節 悪を避け、善を行えば とこしえに、住み続けることができる。


37篇28節(そは)エホバは公平(こうへい)なる審判をこのみ、その御旨に従って生くる聖徒(せいと)をすてたまはざればなり。《不義者(ふぎしや)永遠(とこしへ)(ほろ)ぼされ》【*かれらはとこしへにまもりたすけらるれど】()しきもののすゑはエホバのまもりを得ることができず、結局()(ほろぼ)さるべし。

文語訳37篇28節 ヱホバは公平(こうへい)をこのみ その聖徒(せいと)をすてたまはざればなり かれらは永遠(とこしへ)にまもりたすけらるれど()しきもののすゑは斷滅(たちほろ)ぼさるべし
口語訳37篇28節 主は公義を愛し、その聖徒を見捨てられないからである。正しい者はとこしえに助け守られる。しかし、悪しき者の子孫は断ち滅ぼされる。
関根訳37篇28節 ヴェは公義を愛しその聖徒を見棄てることはないからである。彼らはとこしえに守られ悪人の子孫はたち滅ぼされる。
新共同 37篇28節 主は正義を愛される。主の慈しみに生きる人を見捨てることなく とこしえに見守り 主に逆らう者の子孫を断たれる。


補註
「かれらはとこしへにまもらるれど」はおそらく七十人訳の原文たるべき「不正なるものは永遠に滅ぼされ」の誤記ならん、かく解すれば原文に欠けている(アイン)の節が補充されることとなる。


37篇29節ただしきものは《()》【國】をつぎ《とこしへにその(うえ)()まん。》【その中にすまひてとこしへに及ばん】

文語訳37篇29節 たゞしきものは(くに)をつぎ その(なか)にすまひてとこしへに(およ)ばん
口語訳37篇29節 正しい者は国を継ぎ、とこしえにその中に住むことができる。
関根訳37篇29節 義人は地を嗣ぎいつまでもそこに住むことが出来る。義人の口は知恵を語りその舌は公義を述べる。
新共同37篇29節 主に従う人は地を継ぎ いつまでも、そこに住み続ける。


37篇30節פ(ぺー))ただしきものの(くち)智慧(ちゑ)をかたり、愚なること、虚しきことはその口より出でずその(した)公平(こうへい)なる審判をのぶ。

文語訳37篇30節 たゞしきものの(くち)智惠(ちゑ)をかたり その(した)公平(こうへい)をのぶ
口語訳37篇30節 正しい者の口は知恵を語り、その舌は公義を述べる。
関根訳37篇30節 義人の口は知恵を語りその舌は公義を述べる。
新共同37篇30節 主に従う人は、口に知恵の言葉があり その舌は正義を語る。


37篇31節かれが(かみ)の《律法(おきて)》《法》はその(こころ)にあり、心よりその律法にしたがいそのあゆみは〔(ひと)(あゆみ)だに〕すべることあらじ。神その御手を以て彼を支え給うが故なり。

文語訳37篇31節 かれが(かみ)(のり)はそのこゝろにあり そのあゆみは一歩(ひとあゆみ)だにすべることあらじ
口語訳37篇31節 その心には神のおきてがあり、その歩みはすべることがない。
関根訳37篇31節 その神の律法が心のうちにあり、彼の歩みはよろめくことがない。
新共同37篇31節 神の教えを心に抱き よろめくことなく歩む。


〔4〕悪しき者は亡び義しきものは在う(32−40)
37篇32節צ(ツアデー))あしきものは(ただ)しきものを最も忌み嫌い之を待伏(まちぶせ)して》【ひそみうかがひて】(これ)をころさんとはかる。義しき者はかくして常に生命の危険にさらされて居るのであってエホバの守護なくばその生命は常に風前の燈火の如くである。

文語訳37篇32節 あしきものは義者(ただしきもの)をひそみうかゞひて(これ)をころさんとはかる
口語訳37篇32節 悪しき者は正しい人をうかがい、これを殺そうとはかる。
関根訳37篇32節 悪人は義人を殺そうとして折をうかがっていても
新共同37篇32節 主に逆らう者は待ち構えて 主に従う人を殺そうとする。


37篇33節しかるにエホバは(ただ)しき(もの)をあしきものの()にのこしおき悪しき者の自由にせらるることを許したまはず、たとい人はこの義人を謗ることあるもエホバは審判(さばき)のときに(つみな)ひたまふことなし。それ故に悪しき者の凡ての企てはみな悉く画餅に帰せん。

文語訳37篇33節 ヱホバは義者(ただしきもの)をあしきものの()にのこしおきたまはず 審判(さばき)のときに(つみな)ひたまふことなし
口語訳37篇33節 主は正しい人を悪しき者の手にゆだねられない、またさばかれる時、これを罪に定められることはない。
関根訳37篇33節 ヴェは義人をその手にゆだねることはせず悪人が(さば)かれる時、彼を悪しとされる。
新共同37篇33節 主は御自分に従う人がその手中に陥って裁かれ 罪に定められることをお許しにならない。


37篇34節ק(コふ)正義を行いて酬いられず不義者が栄えゆくを見ることあるも決して失望せずにエホバを待望(まちのぞ)みて疑わず、エホバの示し給うその(みち)をまもれ、さらば汝世の人よりは如何に賤めらるるともエホバ(なんぢ)高く衆人の上にあげてエホバの約束し給える()》【國】をつがせたまはん、その反対に なんぢ は今得意顔に誇り居る()しき(もの)(たち)(ほろぼ)さるるその姿《を》【(とき)にこれを】()ん。

文語訳37篇34節 ヱホバを俟望(まちのぞ)みてその(みち)をまもれ さらば(なんぢ)をあげて(くに)をつがせたまはん なんぢ惡者(あしきもの)のたちほろぼさるゝ(とき)にこれをみん
口語訳37篇34節 主を待ち望め、その道を守れ。そうすれば、主はあなたを上げて、国を継がせられる。あなたは悪しき者の断ち滅ぼされるのを見るであろう。
関根訳37篇34節 ヴェを待ち望み、その道を守れ。彼は君を高くして地を嗣がせて下さる。君は悪人がたち滅ぼされるのを見るであろう。
新共同37篇34節 主に望みをおき、主の道を守れ。主はあなたを高く上げて 地を継がせてくださる。あなたは逆らう者が断たれるのを見るであろう。


*37篇35節ר(レシ))《われ()るに()しきものは狂暴(きやうぼう)にして(みどり)(したた)自然生(しぜんせい)()(ごと)くにはびこる。》【我あしきものの猛くしてはびこれるを見るに生立ちたる地にさかえしげれる樹のごとし】かれは四方にその力を伸ばして猛威を振う。

文語訳37篇35節 (われ)あしきものの(たけ)くしてはびこれるを()るに生立(おひた)ちたる()にさかえしげれる()のごとし
口語訳37篇35節 わたしは悪しき者が勝ち誇って、レバノンの香柏のようにそびえたつのを見た。
関根訳37篇35節 わたしはかつて悪人が栄え緑のいと杉のように盛んなのを見た。
新共同37篇35節 主に逆らう者が横暴を極め 野生の木のように勢いよくはびこるのを わたしは見た。


補註
本節の私訳は他の場合と同じくできるだけ原文の簡潔さを写さんとしたものである。原文は六字よりなる。


37篇36節(しか)して(ひと)(かたはら)()ぐるに》【然れどもかれは逝けり】()よ、前に繁茂せる偉大なる樹木も今や《あらずなりぬ。》【たちまちに無くなりぬ】われ(これ)をたづねしかど彼は既に亡び失せてもはや()(いだ)さざりき。》【遇うことをえざりき】悪しきものの栄華やその勢力のはかなさは凡てかくの如し。

文語訳37篇36節 (しか)れどもかれは()ぎゆけり ()よたちまちに()くなりぬ われ(これ)をたづねしかど()ふことをえざりき
口語訳37篇36節 しかし、わたしが通り過ぎると、見よ、彼はいなかった。わたしは彼を尋ねたけれども見つからなかった。
関根訳37篇36節 その後そこを通るともう見当らず探してみたが見つからなかった。
新共同37篇36節 しかし、時がたてば彼は消えうせ 探しても、見いだすことはできないであろう。


37篇37節ש(シン)それ故に悪しきものを無視して(また)(ひと)()をそそぎ(なほ)(ひと)()よ、注意して彼らを見ることによりて人の進むべき途を学べ、平和(へいわ)(ひと)》【和平なる人】には後裔(のち)りて子孫益々栄ゆれど、

文語訳37篇37節 完人(またきひと)()をそゝぎ直人(なほきひと)をみよ 和平(おだやか)なる(ひと)には(のち)あれど
口語訳37篇37節 全き人に目をそそぎ、直き人を見よ。おだやかな人には子孫がある。
関根訳37篇37節 正しきを守り、直きを心がけよ。そのような人の終わりは平安である。
新共同37篇37節 無垢であろうと努め、まっすぐに見ようとせよ。平和な人には未来がある。


37篇38節(つみ)ををかすものらは(とも)にほろぼされて自らの存在を失い(あし)きものの後裔(のち)はかならず()たるべければなり。子孫の運命はかくの如くその祖先の行為の如何によりて定まる。

文語訳37篇38節 (つみ)ををかすものらは(とも)にほろぼされ()しきものの(のち)はかならず()たるべければなり
口語訳37篇38節 しかし罪を犯す者どもは共に滅ぼされ、悪しき者の子孫は断たれる。
関根訳37篇38節 (とが)を犯す者は共に滅ぼされ悪人の終わりは絶滅である。
新共同37篇38節 背く者はことごとく滅ぼされ 主に逆らう者の未来は断たれる。


37篇39節ת(タウ)(ただ)しきものの(すくひ)はエホバよりいづ、エホバはかれらが辛苦(くるしみ)のときの避所なる保砦(とりで)なり。エホバにありて人は凡ての辛苦より免るることを得。

文語訳37篇39節 たゞしきものの(すくひ)はヱホバよりいづ ヱホバはかれらが辛苦(くるしみ)のときの保砦(とりで)なり
口語訳37篇39節 正しい人の救は主から出る。主は彼らの悩みの時の避け所である。
関根訳37篇39節 義人の救いはヤヴェから臨み、艱難(かんなん)の時にも彼は彼らの避け所である。
新共同37篇39節 主に従う人の救いは主のもとから来る 災いがふりかかるとき 砦となってくださる方のもとから。


37篇40節エホバはかれらを(たす)け、かれらを敵の手より解放(ときはな)ちたまふ、エホバはかれらを()しき(もの)より解放(ときはな)ちて(すく)ひたまふ、かれらはエホバを避所(さけどころ)とすればなり。義しきものはエホバに依頼むことによりて永遠の幸福に入ることを得。

文語訳37篇40節 ヱホバはかれらを(たす)け かれらを解脱(ときはな)ちたまふ ヱホバはかれらを惡者(あしきもの)よりときはなちて(すく)ひたまふ かれらはヱホバをその避所(さけどころ)とすればなり
口語訳37篇40節 主は彼らを助け、彼らを解き放ち、彼らを悪しき者どもから解き放って救われる。彼らは主に寄り頼むからである。
関根訳37篇40節 ヴェは彼らを助け、彼らを救い出される。悪人から彼らを救い出してこれを救われる。彼らは彼を避け所としているからである。
新共同37篇40節 主は彼を助け、逃れさせてくださる 主に逆らう者から逃れさせてくださる。主を避けどころとする人を、主は救ってくださる。