黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第48篇

関根訳神の都

文語訳コラの()のうたなり讃美(さんび)なり
口語訳コラの子の歌、さんび
関根訳48篇1節うた、コラの子の歌。
新共同48篇1節【歌。賛歌。コラの子の詩。】

万軍のエホバの都なるシオンの山エルサレムの市の讃歌である。現実のシオンの山(全市を包含せる意味に解すべし)の讃美は、やがて一つの理想的の姿に高められ、ついにエホバの支配が全世界に及ぶことの預見的指示を含むに至っている。このエホバに守らるる都は絶対に安全であり、幸福と栄誉とはその中に充溢れる。神の恩恵とその現実の教えとを体験せる人の言である。1−8はエホバがシオンをその危機より救い給えること。9−14はエホバの豊なる恩恵に対する讃美である。詩篇46、47篇と共に一団の詩を形成している。なおこの詩を具体的の戦勝に関するエホバへの讃美と見る人はこれをセナケリブのエルサレム攻撃その他に結付けるけれどもかく特定の戦勝に結付けることは不適当である。


〔1〕エホバはシオンを護り給う(1−8)
48篇1節エホバは(おほい)なり、かれはその座位をシオンの山に置き給う、このわれらの(かみ)(みやこ)なるエルサレムそのきよき(やま)なるシオンのうへにてかれの御業とその稜威とその恩恵との故に(いた)くほめたたへられたまふ《べきなり。》【べし】

文語訳48篇1節 ヱホバは(おほい)なり われらの(かみみ)(みやこ)そのきよき(やま)のうへにて(いた)くほめたたへられたまふべし
口語訳48篇1節 主は大いなる神であって、われらの神の都、その聖なる山で、大いにほめたたえらるべき方である。
関根訳48篇2節 ヴェは大いにしてわれらの神の都でいともほめ(たた)えられるべくその聖なる山は
新共同48篇2節 大いなる主、限りなく賛美される主。わたしたちの神の都にある聖なる山は


48篇2節シオンの(やま)もろもろの山の上に《たかく(そび)えてうるはしく、全地(ぜんち)(よろこ)びなり、そこは神の住み給うと称せらるる所謂*(きた)(はし)にして*大王(だいわう)なるエホバ(みやこ)なり。》【きたの(はし)たかくしてうるはしく喜悦(よろこび)()にあまねくあたふ、ここは(おほい)なる(わう)のみやこなり】全世界の民らはこの神の都の美しさを仰ぎ見て満足れる喜悦に入ることを得。

文語訳48篇2節 シオンの(やま)はきたの(はし)たかくしてうるはしく喜悦(よろこび)()にあまねくあたふ ここは(おほい)なる(わう)のみやこなり
口語訳48篇2節 シオンの山は北の端が高くて、うるわしく、全地の喜びであり、大いなる王の都である。
関根訳48篇3節 (うる)わしく高くそびえ全地の喜び、シオンの山は極北の山大王の都。
新共同48篇3節 高く美しく、全地の喜び。北の果ての山、それはシオンの山、力ある王の都。


補註
「北の端」はシオンの山がエルサレムの北の端にあるとの意味に解する説と、異教の思想に神々は極北の山に住むとの神話あり、この思想をここに応用したるものと解する説あり、後者ならん。「大なる王」は本来アツシリヤ、バビロニヤ等の王を指すけれどもここではこれをエホバの神に敵用す。


48篇3節シオンの山にある神の住家たるその〔もろもろの〕殿(との)のうちに(かみ)在して凡ての敵を討ち破り、近寄り得ざる(たか)(やぐら)たる(こと)(しめ)(たま)へり。》【おのれをたかき櫓としてあらはしたまへり】

文語訳48篇3節 そのもろもろの殿(との)のうちに(かみ)はおのれをたかき(やぐら)としてあらはしたまへり
口語訳48篇3節 そのもろもろの殿のうちに神はみずからを高きやぐらとして現された。
関根訳48篇4節 神はその砦その(やぐら)として知られる。
新共同48篇4節 その城郭に、砦の塔に、神は御自らを示される。


48篇4節(そは)()よ、王等(わうたち)連合してエルサレムを攻めんとて相集(あいあつ)まりて攻め寄せ来り、(とも)国境を越えて侵入せり。》【つどひあつまりて偕にすぎゆきぬ】

文語訳48篇4節 みよ王等(わうたち)はつどひあつまりて(とも)にすぎゆきぬ
口語訳48篇4節 見よ、王らは相会して共に進んできたが、
関根訳48篇5節 げにも見よ、王たちは(つど)い来りともに襲い来った。
新共同48篇5節 見よ、王たちは時を定め、共に進んで来た。


*48篇5節かれらは〔(みやこ)を〕《みるや(いな)や、その都の美しさとその中にエホバの在し給うを知りおどろきおそれ、()()れり。》【みてあやしみ且おそれて忽ちのがれされり】

文語訳48篇5節 かれらは(みやこ)をみてあやしみ(かつ)おそれて(たちま)ちのがれされり
口語訳48篇5節 彼らは都を見るや驚き、あわてふためき、急ぎ逃げ去った。
関根訳48篇6節 彼らは見て、(たちま)ち恐れあわて、ふためいた。
新共同48篇6節 彼らは見て、ひるみ、恐怖に陥って逃げ去った。


補註
三つの動詞を接続詞なしに連結しているのは(私訳参照)切迫せる心持を示す。この詩を実際の出来事と見る有力なる根拠の一つで、これをセナケリブの軍の敗北と解する学者が多い。


*48篇6節かれは神の都を攻めて敗走するが故に戰慄(をののき)はかれらにのぞみ、その苦痛(くるしみ)()をうまんとする(をんな)のごとし。神に敵するものの末路はみなかくの如し。

文語訳48篇6節 戰慄(をののき)はかれらにのぞみその苦痛(くるしみ)()をうまんとする(をんな)のごとし
口語訳48篇6節 おののきは彼らに臨み、その苦しみは産みの苦しみをする女のようであった。
関根訳48篇7節 おののきがそこで彼らを捕えた、子を生む女の如き不安が。
新共同48篇7節 そのとき彼らを捕えたおののきは 産みの苦しみをする女のもだえ


補註
列王上21:27以下。


48篇7節なんぢは破壊的の力をもつ東風(こちかぜ)を《もて》【おこして】各地に航行する*タルシシの巨大なる(ふね)をやぶりたまふごとく、その力を以て容易に神の都に敵するものを滅ぼしたまう。

文語訳48篇7節 なんぢは東風(こちかぜ)をおこしてタルシシの(ふね)をやぶりたまふ
口語訳48篇7節 あなたは東風を起してタルシシの舟を破られた。
関根訳48篇8節 あたかも東風がタルシシの船をこぼつときのように。
新共同48篇8節 東風に砕かれるタルシシュの船。


補註
歴代下20:36以下。


48篇8節(さき)に〕われらが神の約束として言い伝えられしことを(きき)しごとく、(いま)われらは目のあたりこれを《見たり、萬軍(ばんぐん)のエホバの(みやこ)われらの(かみ)(みやこ)(おい)て。(かみ)はこれ(エルサレムの都シオンの山)》【萬軍のエホバの都われらの神のみやこにて之を見ることをえたり、神はこの都】をとこしへまで(かた)くしたまはん。もしイスラエルがその神の誡を守るならば、神はこれまでの恩恵の如く永遠にこの都に栄誉を与え給うべし。セラ。

文語訳48篇8節 (さき)にわれらが()きしごとく(いま)われらは萬軍(ばんぐん)のヱホバの(みやこ)われらの(かみ)のみやこにて(これ)をみることをえたり (かみ)はこの(みやこ)をとこしへまで(かた)くしたまはん セラ
口語訳48篇8節 さきにわれらが聞いたように、今われらは万軍の主の都、われらの神の都でこれを見ることができた。神はとこしえにこの都を堅くされる。[セラ
関根訳48篇9節 われらが耳にしたそのままをわれらは見た、万軍のヤヴェの町、われらの神の都で。神は永遠に都をかたくされる。セラ
新共同48篇9節 聞いていたことをそのまま、わたしたちは見た 万軍の主の都、わたしたちの神の都で。神はこの都をとこしえに固く立てられる。〔セラ


〔2〕神の仁慈とその栄光(9−14)
48篇9節(かみ)よ、われらはなんぢの(みや)のうちにて汝がこの民の勝利を確保し給えることにつきて(なんぢの)仁慈(みいつくしみ)をおもへり。

文語訳48篇9節 (かみ)(われ)らはなんぢの(みや)のうちにて仁慈(みいつくしみ)をおもへり
口語訳48篇9節 神よ、われらはあなたの宮のうちであなたのいつくしみを思いました。
関根訳48篇10節 われらはあなたの宮で、神よ、あなたの恵みについて思いめぐらした。
新共同48篇10節 神よ、神殿にあってわたしたちは あなたの慈しみを思い描く。



48篇10節(かみ)よ、なんぢの(ほまれ)はその御名(みな)のごとく()(はて)にまで(およ)《び、》【べり】全世界挙って汝を頌え汝の御名を呼ぶに至り、而してこの世界を統べ給うなんぢの右手(みぎのて)は《正義(せいぎ)》【ただしき】にて()てり。汝は正義をもて世界を治め給う。

文語訳48篇10節 (かみ)よなんぢの(ほまれ)はその(みな)のごとく()(はて)にまでおよべり なんぢの右手(みぎのて)はたゞしきにて()てり
口語訳48篇10節 神よ、あなたの誉は、あなたのみ名のように、地のはてにまで及びます。あなたの右の手は勝利で満ちています。
関根訳48篇0節 神の都
48篇11節 神よ、あなたのみ名のようにあなたの誉れは地の果てに及ぶ。あなたの右の手は義に満ち
新共同48篇11節 神よ、賛美は御名と共に地の果てに及ぶ。右の御手には正しさが溢れている。


48篇11節なんぢの〔もろもろの〕審判(さばき)にてエルサレムなる神の都に敵するものは滅ぼさる。こ《の(ゆゑ)に》【によりて】*シオンの(やま)とその山の立つエルサレムの都はよろこび、*ユダの(むすめ)たちなるその町々凱歌をあげてたのしむべし。

文語訳48篇11節 なんぢのもろもろの審判(さばき)によりてシオンの(やま)はよろこびユダの女輩(むすめたち)はたのしむべし
口語訳48篇11節 あなたのさばきのゆえに、シオンの山を喜ばせ、ユダの娘を楽しませてください。
関根訳48篇12節 シオンの山は喜びユダの娘たちは歓呼する、あなたの(さば)きの故に。
新共同48篇12節 あなたの裁きのゆえに シオンの山は喜び祝い ユダのおとめらは喜び躍る。


補註
本節を97:8と共に「シオンの山よ、よろこべ。ユダの女たちよ、たのしめ」と訳することもできる。「ユダの女」はその市邑を指す。


48篇12節エルサレムの民よ、また各地に散り居るイスラエルの民よ、来ってシオンの周圍(まはり)をありき、(あまね)くめぐりてその危機を脱して昔のままに輝くその都を眺め、安全に保たれ居るその(やぐら)をかぞへよ。

文語訳48篇12節 シオンの周圍(まはり)をあるき(あまね)くめぐりてその(やぐら)をかぞへよ
口語訳48篇12節 シオンのまわりを歩き、あまねくめぐって、そのやぐらを数え、
関根訳48篇13節 シオンを囲み、そのまわりを歩きその見張りの塔を数えよ。
新共同48篇13節 シオンの周りをひと巡りして見よ。塔の数をかぞえ


48篇13節その無事に残れる堅き石垣(いしがき)に《(こころ)をとめよ、》【目をとめよ】その〔もろもろの〕殿(との)(どの))を《(めぐ)れ、》【みよ】なんぢら〔これを〕それらの如何に立派に保たれ居るかを後代(のちのよ)にかたりつたへんが(ため)なり。

文語訳48篇13節 その石垣(いしがき)()をとめよ そのもろもろの殿(との)をみよ なんぢらこれを後代(のちのよ)にかたりつたへんが(ため)なり
口語訳48篇13節 その城壁に心をとめ、そのもろもろの殿をしらべよ。これはあなたがたが後の代に語り伝えるためである。
関根訳48篇14節 君たちの心をその城壁にとめその櫓をかえりみよ。君たちが後の代に語り伝えんため、
新共同48篇14節 城壁に心を向け、城郭に分け入って見よ。後の代に語り伝えよ


48篇14節そはこのエルサレムの都に住み給う(かみ)はいや遠長(とほなが)にわれらの(かみ)にましまして永遠に我らを守り給いわれらを*(しぬ)るまでみちびきたまはん。

文語訳48篇14節 そはこの(かみ)はいや遠長(とほなが)にわれらの(かみ)にましましてわれらを()ぬるまでみちびきたまはん
口語訳48篇14節 これこそ神であり、世々かぎりなくわれらの神であって、とこしえにわれらを導かれるであろう。
関根訳48篇15節 これは神のものであると。永遠にいますわれらの神、彼はとことわにわれらを導かれる。
新共同48篇15節 この神は世々限りなくわたしたちの神 死を越えて、わたしたちを導いて行かれる、と。


補註
「死ぬるまで」は前後の関係に適合せざるを以て、これを母音を変更して「永遠に」と読むか、またはこれを次篇の表題が誤ってここに入りしものと解し、「女音のしらべにあはせて」(46篇表題に同じ)と読む。