黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第53篇

関根訳愚かな者

文語訳( )マハラツ(樂器の名、あるいはいふ調べの名)にあはせて伶長(うたのかみ)にうたはしめたるダビデの教訓(をしへ)のうた
口語訳聖歌隊の指揮者によってマハラテのしらべにあわせてうたわせたダビデのマスキールの歌
関根訳53篇1節聖歌隊の指揮者に、マハラテ式に、ダビデのマスキールの歌。
新共同53篇1節【指揮者によって。マハラトに合わせて。マスキール。ダビデの詩。】

マハラツは哀調を帯びたる曲の意味ならんとの説あり、本篇は大体において第14篇と同一であって、唯「エホバ」を「神」に変更せることと5節が14:5、6と著しき差異があることと他に1、2の小さき差異があるだけである。それ故に諸言も註解も補註もこれを14篇に譲り、唯差異ある箇所のみに註を施すこととする。この差異が故意の変更なりや自然の変化なりやにつき論あれどおそらく、不明なる原文が二種の読み方において伝えられるものであろう。


〔1〕人類の堕落(1−3)
53篇1節(おろか)なるものは(こころ)のうちに(かみ)なしといへり、かれらは(くさ)れたり、かれらは(にく)むべき不義(ふぎ)をおこなへり(14:1は「憎むべき行為をなせり」とあり)(ぜん)をおこなふ(もの)なし。

文語訳53篇1節 (おろ)かなるものは(こころ)のうちに(かみ)なしといへり かれらは(くさ)れたりかれらは(にく)むべき不義(ふぎ)をおこなへり(ぜん)をおこなふ(もの)なし
口語訳53篇1節 愚かな者は心のうちに「神はない」と言う。彼らは腐れはて、憎むべき不義をおこなった。善を行う者はない。
関根訳53篇2節 愚かな者はその心の中に神はないという。彼らは汚れた憎むべき不法を行なった。善を行なう者はいない。
新共同53篇2節 神を知らぬ者は心に言う 「神などない」と。人々は腐敗している。忌むべき行いをする。善を行う者はいない。


53篇2節(かみ)(てん)より(ひと)()をのぞみて(さと)るものと(かみ)をたづぬる(もの)とありやなしやを(14:2は「ありやと」とあり、ただし原文は同一なり)()たまひしに、

文語訳53篇2節 (かみ)(てん)より(ひと)()をのぞみて(さと)るものと(かみ)をたづぬる(もの)とありやなしやを()たまひしに
口語訳53篇2節 神は天から人の子を見おろして、賢い者、神を尋ね求める者があるかないかを見られた。
関根訳53篇3節 神が天から人の子らを見下ろし、賢い者、神を求める者がいるか、どうか御覧になった。
新共同53篇3節 神は天から人の子らを見渡し、探される 目覚めた人、神を求める人はいないか、と。


53篇3節みな退(しり)ぞきて(14:3は「みな逆きいでて」とあり、原語も形は類似せる別語を用う)ことごとく(けが)れたり、(ぜん)をなすものなし一人(ひとり)だになし。

文語訳53篇3節 みな退(しりぞ)きてことごとく(けが)れたり(ぜん)をなすものなし一人(ひとり)だになし
口語訳53篇3節 彼らは皆そむき、みなひとしく堕落した。善を行う者はない、ひとりもない。
関根訳53篇4節 ところがみな迷い出て、くされはて善を行なう者などいない。一人もいない。
新共同53篇4節 だれもかれも背き去った。皆ともに、汚れている。善を行う者はいない。ひとりもいない。


〔2〕悪しき者は暴力を振う(4−6)
53篇4節不義(ふぎ)をおこなふものは(14:4はこの間に「みな」の文字あり)(さと)りなきか、かれらは《パンをくふ》【ものくふ】ごとくわが(たみ)をくらひ、また(かみ)(14:4は「エホバ」)をよばふことをせざるなり。

文語訳53篇4節 不義(ふぎ)をおこなふものは知覺(さとり)なきか かれらは(もの)くふごとくわが(たみ)をくらひ また(かみ)をよばふことをせざるなり
口語訳53篇4節 悪を行う者は悟りがないのか。彼らは物食うようにわが民を食らい、また神を呼ぶことをしない。
関根訳53篇5節 悪をなす者は分からないのか。彼らはパンを食うように、わが民を食い、ヤハヴェを呼ぶことをしないのだ。
新共同53篇5節 悪を行う者は知っているはずではないか パンを食らうかのようにわたしの民を食らい 神を呼び求めることをしない者よ。


53篇5節5節は14:5、6とは全く異る(かかる(とき))かれら即ち神の民の敵たる者何ら(おそ)るべきことのなき〔とき〕即ち平気で過し得べきはずのとき(おほい)におそれたり、(これ)彼らにとっては全く意外にも(かみ)はなんぢイスラエルの民にむかひて(えい)をつらぬるもの即ち汝に敵するもの(ほね)をちらしたまへばなり。(かみ)かくしてかれら敵たるもの(すて)たまひしによりて(なんぢ)かれらを(はづか)しめ彼らに向いて勝誇ることを得たり。

文語訳53篇5節 かれらは(おそ)るべきことのなきときに(おほい)におそれたり (かみ)はなんぢにむかひて(えい)をつらぬるものの(ほね)をちらしたまへばなり (かみ)かれらを()てたまひしによりて(なんぢ)かれらを(はづか)しめたり
口語訳53篇5節 彼らは恐るべきことのない時に大いに恐れた。神はよこしまな者の骨を散らされるからである。神が彼らを捨てられるので、彼らは恥をこうむるであろう。
関根訳53篇6節 しかしそこで彼らは大いに恐れた。何故ならヤハヴェは彼らを散らされたからである。不虔(ふけん)な者は恥をかく。ヤハヴェは彼らを棄てられるからである。
新共同53篇6節 それゆえにこそ、大いに恐れるがよい かつて、恐れたこともなかった者よ。あなたに対して陣を敷いた者の骨を 神はまき散らされた。神は彼らを退けられ、あなたは彼らを辱めた。


53篇6節(ねが)はくはシオンよりイスラエルの(すくひ)のいでんことを、(かみ)その(たみ)*とらはれたるを(かへ)したまふ(とき)、ヤコブはよろこびイスラエルは(たのし)まん。

文語訳53篇6節 (ねが)はくはシオンよりイスラエルの(すくひ)のいでんことを (かみ)その(たみ)のとらはれたるを(かへ)したまふときヤコブはよろこびイスラエルは(たの)しまん
口語訳53篇6節 どうか、シオンからイスラエルの救が出るように。神がその民の繁栄を回復される時、ヤコブは喜び、イスラエルは楽しむであろう。
関根訳53篇7節 どうかシオンからイスラエルの救いが出るように。ヤハヴェがその民の運命を転換されるときヤコブは喜び、イスラエルは楽しむであろう。
新共同53篇7節 どうか、イスラエルの救いが シオンから起こるように。神が御自分の民、捕われ人を連れ帰られるとき ヤコブは喜び躍り イスラエルは喜び祝うであろう。


補註
「とらはれたるを返す」はむしろ「幸福を回復し」と読むべしとする説有力なり。