黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第6篇

関根訳欺  き

文語訳( )八音(やつのね)ある(こと)にあはせて伶長(うたのかみ)にうたはしめたるダビデのうた
口語訳聖歌隊の指揮者によってシェミニテにあわせ琴をもってうたわせたダビデの歌
関根訳6篇1節聖歌隊の指揮者に、琴とともに、八音(やつのね)で、ダビデの歌。
新共同6篇1節【指揮者によって。伴奏付き。第八調。賛歌。ダビデの詩。】

この詩の作者はその敵より死ぬるばかりの苦難を受け、そのためになやみ悶え、この苦痛の原因を自己の罪に対する神の怒と感じてますます苦しむ心を歌ったもので、七懺悔詩(6。32。38。51。102。130。143)の一つである。2節の「醫したまへ」よりこの詩を重病中の作と見る説あれどその必要なし。


〔1〕エホバに対する祈り(1−3)
6篇1節エホバよ、我この苦痛をたえ得ざれば、ねがはくは我が罪を赦し*忿恚(いきどほり)をもて(われ)をせめ給うなかれ、われ汝の忿恚にたえず、また(はげ)しき(いかり)をもて(われ)をこらしめたまふなかれ。我この困苦に耐うる力を失わんとしつつあり。

文語訳6篇1節 ヱホバよねがはくは忿恚(いきどほり)をもて(われ)をせめ(はげ)しき(いかり)をもて(われ)をこらしめたまふなかれ
口語訳6篇1節 主よ、あなたの怒りをもって、わたしを責めず、あなたの激しい怒りをもって、わたしを懲らしめないでください。
関根訳6篇2節 ヴェよ、あなたの怒りによってわたしを罰し給うな、あなたの(いきどおり)によってわたしをこらし給うな。
新共同6篇2節 主よ、怒ってわたしを責めないでください 憤って懲らしめないでください。


補註
「忿恚」作者は自己に来れる苦難を自分の罪に対する神の怒のためと感じた。


6篇2節エホバよ、われ深くわが罪を悔ゆればわれを(あはれ)みたまへ、(そは)もし汝われを憐みてその怒を和げ、われをこの苦難より救い給うにあらざれば、われこの苦悶のために(しぼ)みおとろふ《ればなり》【るなり】、エホバよ、(われ)この大なる苦痛より*(いや)したまへ、(そは)わが*(ほね)の髄までも全身わななきふるふ(が(ゆえ)なり)。

文語訳6篇2節 ヱホバよわれを(あは)れみたまへ われ(しぼ)みおとろふるなり ヱホバよわれを(いや)したまへ わが(ほね)わななきふるふ
口語訳6篇2節 主よ、わたしをあわれんでください。わたしは弱り衰えています。主よ、わたしをいやしてください。わたしの骨は悩み苦しんでいます。
関根訳6篇3節 ヴェよ、わたしを憐れんで下さい。わたしは衰えはてるのです。ヤヴェよ、わたしを(いや)し給え、げにわたしの骨はおののきふるえる。
新共同6篇3節 主よ、憐れんでください わたしは嘆き悲しんでいます。主よ、癒してください、わたしの骨は恐れ


補註
「醫したまへ」必ずしも肉体的病と見る必要はない。「骨わななきふるふ」骨格が動揺すれば全身立つことができない。


6篇3節(また)わが肉体のみならず霊魂(たましひ)さへも大海の浪のごとく(いた)くふるひわななく(ヨハネ12:27)我は到底この苦痛に耐うるを得ず。ああエホバよ、かくて(いく)何時(そのとき)をへたまふや。何時まで予をかかる苦しき状態に置き給うや。

文語訳6篇3節 わが靈魂(たましひ)さへも(いた)くふるひわななく ヱホバよかくて幾何時(いくそのとき)をへたまふや
口語訳6篇3節 わたしの魂もまたいたく悩み苦しんでいます。主よ、あなたはいつまでお怒りになるのですか。
関根訳6篇4節 わが魂もいたく恐れおののいている。ああヤヴェよ、かくて何時(いつ)まで。
新共同6篇4節 わたしの魂は恐れおののいています。主よ、いつまでなのでしょう。


〔2〕エホバに対する訴え(4−7)
6篇4節エホバよ、我を離れ給うことなく(かへ)て我をなやみより救い出し(たま)え、わがたましひを滅亡に棄て措き給うことなくこれを(すく)ひたまへ、我には罪をあがなうべき何の功績もなく、唯なんぢの仁慈(いつくしみ)(ゆゑ)をもて(われ)をたすけ我を救いたまへ。

文語訳6篇4節 ヱホバよ(かへ)りたまへ わがたましひを(すく)ひたまへ なんぢの仁慈(いつくしみ)(ゆゑ)をもて(われ)をたすけたまへ
口語訳6篇4節 主よ、かえりみて、わたしの命をお救いください。あなたのいつくしみにより、わたしをお助けください。
関根訳6篇5節 ヴェよ、こちらを見て下さい、わが魂を救って下さい。あなたの恵みの故にわたしを助け給え。
新共同6篇5節 主よ、立ち帰り わたしの魂を助け出してください。あなたの慈しみにふさわしく わたしを救ってください。


6篇5節そはもし汝今にして我を救い給わずば、我はこの苦痛の中に死ぬるより外なく、而して*()にありてはこの世との交通の途は絶え、もはや(なんぢ)をおもひいづることな《く》【し】永遠に汝より離れざるを得ず、また死人の置かるる*陰府(よみ)にありてはもはや神の御顔を見ることを得ざれば(たれ)かなんぢに感謝(かんしや)せん。神に対する感謝もなく想い出もなく、唯神の怒の下にある世界こそ、全く寂寥と恐怖との極みなれ

文語訳6篇5節 そは()にありては(なんぢ)をおもひいづることなし 陰府(よみ)にありては(たれ)かなんぢに感謝(かんしや)せん
口語訳6篇5節 死においては、あなたを覚えるものはなく、陰府においては、だれがあなたをほめたたえることができましょうか。
関根訳6篇6節 何故なら死後にはあなたを(おも)い出すこともなく陰府(よみ)にあっては誰があなたに感謝するだろう。
新共同6篇6節 死の国へ行けば、だれもあなたの名を唱えず 陰府に入れば だれもあなたに感謝をささげません。


補註
「死」「陰府」、陰府は地下の深処で死者の居る処と考えられ、死によりて人は神およびこの世との関係を断つものと考えられた。


6篇6節これを思いてわれ歎息(なげき)にてつかれたり、このまゝに死ぬ如き事ありては、我は全く神より棄てられん、これを思いて(われ)よなよな泣きくずおれて、わが(とこ)なみだの川にただよはせ、(なみだ)をもてわが*(ふすま)をひたせり。

文語訳6篇6節 われ歎息(なげき)にてつかれたり (われ)よなよな(とこ)をただよはせ(なみだ)をもてわが(ふすま)をひたせり
口語訳6篇6節 わたしは嘆きによって疲れ、夜ごとに涙をもって、わたしのふしどをただよわせ、わたしのしとねをぬらした。
関根訳6篇7節 わたしは欺きのために疲れはてた。夜毎(よごと)にわたしの寝床をひたし涙をもってわたしの床をぬらす。
新共同6篇7節 わたしは嘆き疲れました。夜ごと涙は床に溢れ、寝床は漂うほどです。


補註
「衾をひたせり」は原語「衾を溶かせり」。


6篇7節わが()うれへによりておとろへ、物見る力すら無きに至り、わが肉体も精神ももろもろの(あた)ゆゑに( お)て衰えはてぬ。かくて我は絶望の中より汝にさけぶ故に、願わくは我が叫の声をききたまえ。

文語訳6篇7節 わが()うれへによりておとろへ もろもろの(あた)ゆゑに()いぬ
口語訳6篇7節 わたしの目は憂いによって衰え、もろもろのあだのゆえに弱くなった。
関根訳6篇8節 わたしの眼は悲しみのために曇りわがすべての(あだ)故に衰えた。
新共同6篇8節 苦悩にわたしの目は衰えて行き わたしを苦しめる者のゆえに 老いてしまいました。


〔3〕エホバ祈を聴き給う(8−10)
6篇8節エホバは我が砕けたる心を嘉し給い、我が祈を聴き給えり、さればなんぢら邪曲(よこしま)をおこないて我を苦しめ、我を損な(もの)(ことごと)(われ)をはなれよ、もはや我を迫むるは徒然なり。そはエホバはわが(なく)こゑをききたまひて我を赦し、我を救い給い《たればなり。》【たり】

文語訳6篇8節 なんぢら邪曲(よこしま)をおこなふ(もの)ことごとく(われ)をはなれよ ヱホバはわが()くこゑをきゝたまひたり
口語訳6篇8節 すべて悪を行う者よ、わたしを離れ去れ。主はわたしの泣く声を聞かれた。
関根訳6篇9節 すべて悪を為す者よ、わたしから離れ去れ、げにヤヴェはわが泣く声を聞き給うた。
新共同6篇9節 悪を行う者よ、皆わたしを離れよ。主はわたしの泣く声を聞き


6篇9節エホバはかくしてついにわが懇求(ねがひ)をききたまへり、やがて今後ともエホバわが(いのり)をうけてこれを聴き入れたまはん。

文語訳6篇9節 ヱホバわが懇求(ねがひ)をきゝたまへり ヱホバわが(いのり)をうけたまはん
口語訳6篇9節 主はわたしの願いを聞かれた。主はわたしの祈をうけられる。
関根訳6篇10節 ヴェはわたしの訴えを聞きヤヴェはわたしの祈りを受け給う。
新共同6篇10節 主はわたしの嘆きを聞き 主はわたしの祈りを受け入れてくださる。


6篇10節わがもろもろの(あた)エホバが我を責め、我を怒り給うものと思いおれど、今やエホバの援我に及べるを見てはぢて(おほい)*おぢまどひ、《たちまちにして恥ぢて退かん。》【あわただしく(はぢ)てしりぞきぬ】かくして我はエホバの恩恵により凡ての仇より救出され、凡ての苦難より免れ、罪を赦されて歓喜に充さるるに至らん。

文語訳6篇10節 わがもろもろの(あた)ははぢて(おほい)におぢまどひ あわただしく()ぢてしりぞきぬ
口語訳6篇10節 わたしの敵は恥じて、いたく悩み苦しみ、彼らは退いて、たちどころに恥をうけるであろう。
関根訳6篇11節 わたしの敵はみないたく驚き恥をこうむり、直ちに退くであろう。
新共同6篇11節 敵は皆、恥に落とされて恐れおののき たちまち退いて、恥に落とされる。


補註
「おぢまどひ」は、2、3節の「わななきふるふ」と同語。