黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第63篇

関根訳神を待つ

文語訳( )ユダの()にありしときに()めるダビデのうた
口語訳ユダの野にあったときによんだダビデの歌
関根訳63篇1節ダビデの歌、彼がユダの荒野にいた時の。
新共同63篇1節【賛歌。ダビデの詩。ダビデがユダの荒れ野にいたとき。】

本篇の特長はその高き信仰的情熱であって、作者の全心全霊、全肉体をもって神に恋いしたう心が顕われているのを見る。人格的神の観念が最も豊かに表われている詩であるといわれている。9節以下は詩句の調子が著しく低調となっているけれども、これは作者が現実に立帰った時の心持を示すものと解して、充分理解し得る処である。作者は自己を「王」(11節)と呼んでいる故ダビデの作と見ることが不可能ではないけれども、この部分は後日の添加であるとするならば何人の作かは不明である。唯古き詩であることは確かであり、またいかにもダビデらしき詩である。本篇は全体一つの思想の流れであって区分することは困難である。また61、62篇、42、43篇と相類似し、古来朝の讃美歌として用いられていた。


63篇1節ああ(かみ)よ、なんぢはわが力の(エル)なり、われ〔*(せち)に〕なんぢをたづねもとむ、霊的枯渇のために(みず)なき(かわ)きおとろへたる()に《ありて》【あるごとく】水を求むる心の切なるが如くわが霊魂(たましひ)は《(なんぢ)(たい)して(かわ)き》【かわきて汝をのぞみ】わが肉體(にくたい)はなんぢを()ひしたふ。焦るる思いを以て汝を恋う。

文語訳63篇1節 ああ(かみ)よなんぢはわが(かみ)なり われ(せつ)になんぢをたつねもとむ (みづ)なき(かわ)きおとろへたる()にあるごとくわが靈魂(たましひ)はかわきて(なんぢ)をのぞみ わが肉體(にくたい)はなんぢを()ひしたふ
口語訳63篇1節 神よ、あなたはわたしの神、わたしは切にあなたをたずね求め、わが魂はあなたをかわき望む。水なき、かわき衰えた地にあるように、わが肉体はあなたを慕いこがれる。
関根訳63篇2節 わが神、ヤヴェよ、わたしはあなたを尋ね求める。わが魂は乾いてあなたをしたう。水のない、乾き衰えた地にあるようにわが(からだ)もあなたを恋いしたう。
新共同63篇2節 神よ、あなたはわたしの神。わたしはあなたを捜し求め わたしの魂はあなたを渇き求めます。あなたを待って、わたしのからだは 乾ききった大地のように衰え 水のない地のように渇き果てています。


補註
「切に汝をたづね求む」は原文一字で「朝早く汝をたづぬ」とも訳し得るので本篇が朝の讃美歌として用いらるるに至った。


63篇2節【曩にも我かくのごとく】《(われ)なんぢの》凡てわれらの願を充すことを得給う()能力(ちから)凡ての上に輝き給う()榮光(さかえ)とを()ん《とて》【ことをねがひ】聖所(せいじよ)にありて《かくの(ごと)くに切なる思慕の心を以て(なんぢ)()()めたり。》【目をなんぢより離れしめざりき】

文語訳63篇2節 (さき)にも(われ)かくのごとく大權(みちから)榮光(みさかえ)とをみんことをねがひ聖所(せいじよ)にありて()をなんぢより(はな)れしめざりき
口語訳63篇2節 それでわたしはあなたの力と栄えとを見ようと、聖所にあって目をあなたに注いだ。
関根訳63篇3節 それ故あなたの力と栄えとを見ようとして聖所にあってわたしは切にあなたを求めた。
新共同63篇3節 今、わたしは聖所であなたを仰ぎ望み あなたの力と栄えを見ています。


63篇3節なんぢの能力と栄光とのみならず、その仁慈(いつくしみ)我にとって何ものにも代え得ざるわが生命(いのち)にも(まさ)れるゆゑに、この仁慈に恵まれしわが口唇(くちびる)感謝に溢れてなんぢを*()たたえまつらん。

文語訳63篇3節 なんぢの仁慈(いつくしみ)はいのちにも(まさ)れるゆゑにわが口唇(くちびる)はなんぢを()めまつらん
口語訳63篇3節 あなたのいつくしみは、いのちにもまさるゆえ、わがくちびるはあなたをほめたたえる。
関根訳63篇4節 あなたの恵みは生命にもまさる故わが唇はあなたをほめ(たた)える。
新共同63篇4節 あなたの慈しみは命にもまさる恵み。わたしの唇はあなたをほめたたえます。


補註
「讃む」は5節の「讃む」と別の文字。


63篇4節()感謝と賛美に溢れし心を以て われはわが()くるあひだ、(なんぢ)を《祝福(しゆくふく)し》【いはひ】()()によりて祈り求むる為にわが()をあげん。

文語訳63篇4節 (かく)われはわが()くるあひだ(なんぢ)をいはひ(みな)によりてわが()をあげん
口語訳63篇4節 わたしは生きながらえる間、あなたをほめ、手をあげて、み名を呼びまつる。
関根訳63篇5節 それ故わたしはわが生命のある限りあなたをあがめまつり、あなたのみ名によってわが手をあげる。
新共同63篇5節 命のある限り、あなたをたたえ 手を高く上げ、御名によって祈ります。


*63篇5節、6節われ心渇くままに終夜まどろむことを得ず(とこ)にありて(なんぢ)(おも)ひいで*()()くるままになんぢを《(おも)(めぐ)らさん》【深く思はん】(とき)、わがたましひは汝の能力と仁慈とに充され(ずゐ)(あぶら)とにて(もてな)さるるごとく()くことを()、わが(くち)黙すことを得ずしてよろこびの口唇(くちびる)をもてなんぢを*()めたたへん。

文語訳63篇5節 -6 われ(とこ)にありて(なんぢ)をおもひいで()()くるままになんぢを(ふか)くおもはん(とき))わがたましひは(ずい)(あぶら)とにて(もてな)さるゝごとく()くことをえ わが(くち)はよろこびの口唇(くちびる)をもてなんぢを()めたたへん
口語訳63篇5節 -6 わたしが床の上であなたを思いだし、夜のふけるままにあなたを深く思うとき、わたしの魂は髄とあぶらとをもってもてなされるように飽き足り、わたしの口は喜びのくちびるをもってあなたをほめたたえる。
関根訳63篇6節 わが魂は髄と油をもってもてなされるように飽き足り、わが唇は喜びをたたえわが口はあなたをほめまつる。
63篇7節 わが床にあってあなたを(おも)い起こし夜のふけるままにあなたのことを思うとき
新共同63篇6節 わたしの魂は満ち足りました 乳と髄のもてなしを受けたように。わたしの唇は喜びの歌をうたい わたしの口は賛美の声をあげます。
63篇7節 床に就くときにも御名を唱え あなたへの祈りを口ずさんで夜を過ごします。


補註
5、6、7節。この三節の関連につき緒説あり。(1)現行訳の如きもの、(2)6節を7節と連絡せしむるもの、(3)6節を括弧に入れ5節と7節とを関連せしむるもの。「夜の更くるまで」ユダヤ人は夜を三更に区分し、ロマ人は四更に区分す。「髄」は実際は食うことができなかった(レビ3:16、17)。


*63篇7節〔そは〕なんぢわが(たすけ)となりたまひたれば、(われ)なんぢの愛護の御(つばさ)のかげに(いり)てよろこび《の聲をあげん。》【たのしまん】

文語訳63篇7節 そはなんぢわが(たすけ)となりたまひたれば(われ)なんぢの(つばさ)のかげに入りてよろこびたのしまん
口語訳63篇7節 あなたはわたしの助けとなられたゆえ、わたしはあなたの翼の陰で喜び歌う。
関根訳63篇8節 あなたはわが助けとなられ、あなたの翼の(かげ)でわたしは喜ぶ。
新共同63篇8節 あなたは必ずわたしを助けてくださいます。あなたの翼の陰でわたしは喜び歌います。


63篇8節わがたましひは汝を離るることあたわずして(なんぢ)(した)()ふ、而して汝の(みぎ)()()その大なる能力をもてわれを(ささ)ふるなり。

文語訳63篇8節 わがたましひはなんぢを慕追(したひお)ふ みぎの(みて)はわれを(ささ)ふるなり
口語訳63篇8節 わたしの魂はあなたにすがりつき、あなたの右の手はわたしをささえられる。
関根訳63篇9節 わが魂はあなたの後をおいすがりまことにあなたの右の手はわたしを支える。
新共同63篇9節 わたしの魂はあなたに付き従い あなたは右の御手でわたしを支えてくださいます。


63篇9節されどわがたましひを(ほろぼ)さんとて(たづ)ねもとむるものはわれ神の愛護の下にあれば、彼は殺されて()のふかきところ即ち陰府の中にゆき、

文語訳63篇9節 (され)どわがたましひを(ほろ)ぼさんとて(たづ)ねもとむるものは()のふかきところにゆき
口語訳63篇9節 しかしわたしの魂を滅ぼそうとたずね求める者は地の深き所に行き、
関根訳 63篇10節 しかし故なくわが生命を求めるものは地の深きところにおもむく。
新共同63篇10節 わたしの命を奪おうとする者は必ず滅ぼされ 陰府の深みに追いやられますように。


63篇10節(また)戦に敗れて*つるぎの《(ちから)に》【刃に】わたされ、屍骸は野に棄てられて()(いぬ)()るところとなるべし。

文語訳63篇10節 (また)つるぎの()にわたされ野犬(のいぬ)()るところとなるべし
口語訳63篇10節 つるぎの力にわたされ、山犬のえじきとなる。
関根訳63篇11節 彼らは剣の刃に渡され、山犬の喰うところとなろう。
新共同63篇11節 剣にかかり、山犬の餌食となりますように。


補註
「つるぎの刃」は直訳「つるぎの手」、英改訳「つるぎの力」とあり日本訳はその誤植ならんか。


63篇11節しかれども(わう)神に依り頼むが故に(かみ)をよろこばん、*(かみ)によりて(ちかひ)をたつるものはみなその誓果されてこれによりて(ほこ)ることを()ん、神の審判その上に下るに及べば虚偽(いつはり)をいふものの(くち)はふさがるべければなり。

文語訳63篇11節 しかれども(わう)(かみ)をよろこばん (かみ)によりて(ちかひ)をたつるものはみな(ほこ)ることをえん 虚僞(いつはり)をいふものの(くち)はふさがるべければなり
口語訳63篇11節 しかし王は神にあって喜び、神によって誓う者はみな誇ることができる。偽りを言う者の口はふさがれるからである。
関根訳63篇12節 王はヤヴェにあって喜ぶ。彼によって誓う者はみな誇ることが出来る。
新共同63篇12節 神によって、王は喜び祝い 誓いを立てた者は誇りますように。偽って語る口は、必ず閉ざされますように。


補註
「神よりて」は「王によりて」とする方可なりとする説あり(サムエル前17:55。25:26。同後11:11。15:21。)