黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第68篇

関根訳シオンに(いま)す神

文語訳( )伶長(うたのかみ)にうたはしめたるダビデのうたなり讃美(さんび)なり
口語訳聖歌隊の指揮者によってうたわせたダビデの歌、さんび
関根訳68篇1節聖歌隊の指揮者に、ダビデの歌、うた。
新共同68篇1節【指揮者によって。ダビデの詩。賛歌。歌。】

終末的詩篇であって、エホバがイスラエルを中心としてついに全世界を支配し給うに至ることを歌える雄大なる歌である。作者の脳裏に浮べる光景は過去におけるイスラエルの歴史であり、その中に顕われし神の御手による救と勝利の経験であった。将来においてもその如き手段をもって神はイスラエルを救い給うのみならず、凡てのイスラエルの敵、すなわち神の敵を打滅して全世界がシオンの山エルサレムの市、その聖所を中心としてこれに集り、諸王は来りて献物をささぐるに至ることを預言せるものである。イスラエルの選民意識が強くここに表顕せられていると同時に、エホバの神が必ず最後の勝利者、支配者となり給うことの強き確信が全篇に旺溢しているのを見る。何時時代の作なりやにつきては古くはヨシア時代より新しくはマカベウス時代に至るまで学者の説に上らない時代はないと云い得る位、区々の説が行われている。この事実はこの詩の作られし時代の不明なる証拠と見ることができる。唯その中に比較的新しき文字があることと、第二イザヤ(イザヤ40−66章)の中に多くの類似を見出し得ることと、旧約聖書の所々(例えば­モーセの祝福、申命33章。デボラの歌、士師5章)に類似せる点ある等により、後世模倣時代の作であり、バビロン俘囚後の作と見ることが最も真に近いということができる。
この詩はその機構の雄大なるがために古来正義の戦を戦わんとせし多くの信仰の勇士に強き確信を与えし処のものであった。なおこの詩の文言の中にはおそらく多くの混乱があり、また歴史上の事実の中に一つの思想を織込んでいる関係上、意味不明の点少からず難解の箇所が多い。本文の私訳はできるだけ原文を変更せずに試みた結果に過ぎず、多くの異説あり、また本文に多大の変更を敢えてする説の存すること勿論である。全篇大別して三部とすることができる。1−6節は序言、7−18節は過去の歴史の回顧による未来の預言、19−35節は現在および将来に関する詩作者の想像である。


〔1〕序言(1−6)
*68篇1節(かみ)()(たま)ふ、その(てき)はちらされ、(かみ)をにくむ(もの)聖前(みまへ)より(のが)れん。》【ねがはくは神おきたまへ、その仇はことごとくちり神をにくむものはみまへよりにげさらんことを】神一度び起上り給えば、如何なる敵も風前の燈の如くに亡ぶ。

文語訳68篇1節 ねがはくは(かみ)おきたまへ その(あた)はことごとくちり (かみ)をにくむものは(みまへ)よりにげさらんことを
口語訳68篇1節 神よ、立ちあがって、その敵を散らし、神を憎む者をみ前から逃げ去らせてください。
関根訳68篇2節 ヴェが立ち上がられると、彼の敵は散らされ彼を憎む者はみ前から逃げ去る。
新共同68篇2節 神は立ち上がり、敵を散らされる。神を憎む者は御前から逃げ去る。


補註
現行訳の如く祈願の意味に訳することは有力なる学者の反対する処である。なお本節は民数10:35のモーセの祈を引用したものである。


68篇2節風の為に(けぶり)のおひやらるる(ごと)ひとたまりも無く(なんぢ)かれらを(おひ)()(たま)はん、》【かれらを驅逐りたまへ】*(あし)(もの)()(まへ)(らふ)のとくる(ごと)(かみ)聖前(みまへ)にて《(ほろ)びん。》【ほろぶべし】悪しき者にして神の前に立ち得る者はあることなし。

文語訳68篇2節 (けぶり)のおひやらるゝごとくかれらを驅逐(おひや)りたまへ ()しきものは()のまへに(らふ)のとくるごとく (かみ)のみまへにてほろぶべし
口語訳68篇2節 煙の追いやられるように彼らを追いやり、ろうの火の前に溶けるように悪しき者を神の前に滅ぼしてください。
関根訳68篇3節 去りゆく煙が消え去るように火の前にろうが()けるように悪しき者はヤヴェの前から滅び失せる。
新共同68篇3節 煙は必ず吹き払われ、蝋は火の前に溶ける。神に逆らう者は必ず御前に滅び去る。


補註
2、3節「惡しき者」は異邦人、「義しき者」はイスラエルであると彼らは信じていた。


68篇3節されど《*(ただ)しき(もの)(よろこ)ばん、(かみ)聖前(みまへ)にて(よろこ)ばん、(かつ)(よろこ)びを()(よろこ)ばん。》【義しき者には歓喜あり、かれら神のみ前にてよろこびをどらん實にたのしみて喜ばん】義しき者は神の聖前における無限の祝福を喜ぶことができる。

文語訳68篇3節 されど(ただし)きものには歡喜(よろこび)あり かれら(かみ)(みまへ)にてよろこびをど'らん()にたのしみて(よろこ)ばん
口語訳68篇3節 しかし正しい者を喜ばせ、神の前に喜び踊らせ、喜び楽しませてください。
関根訳68篇4節 しかし義人はヤヴェの前に喜びおどりいたく喜び楽しむ。
新共同68篇4節 神に従う人は誇らかに喜び祝い 御前に喜び祝って楽しむ。


68篇4節(かみ)《に向ひて讃美せよ、》【のみまへにうたへ】その御名(みな)を《ほめうたへよ。》【ほめたたへよ】その御業は恩恵と真理とに充つるが故なり。而して神はあたかも東邦の王者の行幸の如く、またイザヤ40:3に録さるる如く荒野を通りて来り給う、この馬に()りて(荒野(あらの)を)すぐる(もの)のために、 その妨害となるべき不信と不義とを除き、その歩み給ふべき 大道(おほぢ)をきづけ、かれの()*ヤハとよぶ、その聖前(まへ)に《(よろこ)べ。》【よろこびをどれ】

文語訳68篇4節 (かみ)のみまへにうたへ その(みな)をほめたたへよ()りて()をすぐる(もの)のために大道(おほち)をきづけ かれの()をヤハとよぶ その(まへ)によろこびをどれ
口語訳68篇4節 神にむかって歌え、そのみ名をほめうたえ。雲に乗られる者にむかって歌声をあげよ。その名は主、そのみ前に喜び踊れ。
関根訳68篇5節 ヴェに向かって歌え、そのみ名をほめよ、雲に乗られる者にその道をそなえよ、ヤはそのみ名、彼の前に歓呼せよ。
新共同68篇5節 神に向かって歌え、御名をほめ歌え。雲を駆って進む方に道を備えよ。その名を主と呼ぶ方の御前に喜び勇め。


補註
ヤハはヤーヴエー(エホバ)の略、ハレルーヤのヤー。


68篇5節人の近づくべきもなき(きよ)住居(すまゐ)にまします(かみ)かえって己を卑くして人を愛し給う神、人の顧みざる憐むべきみなし()ためには親しき(ちち)、やもめのためには義しき審きをなし給う審士(さばきびと)なり。

文語訳68篇5節 きよき住居(すまひ)にまします(かみ)はみなしごの(ちぢ)やもめの審士(さばきびと)なり
口語訳68篇5節 その聖なるすまいにおられる神はみなしごの父、やもめの保護者である。
関根訳68篇6節 彼はみなしごの父、やもめの保護者、ヤヴェはその聖なるみ住居におられる。
新共同68篇6節 神は聖なる宮にいます。みなしごの父となり やもめの訴えを取り上げてくださる。


68篇6節(かみ)人にすてられしさびしきよるべなきものを救い出して家族(やから)(うち)に《(すま)はしめ》【をらしめ】敵に捕われて苦しめる囚人(めしうど)をときて福祉(さいはひ)にみちびきたまふ、されど神に服わざる反逆者(はんぎやくしや)》【そむくもの】は審きを受けてうるほひなき()に《すまん。》【すめり】かくして神の民と神の敵、義しき者と悪しき者とは神の聖前において截然として二分せらるる運命を有つ、これ人類の当然の帰結なり。

文語訳68篇6節 (かみ)はよるべなきものを家族(やから)(うち)にをらしめ囚人(めしうど)をときて福祉(さいはひ)にみちびきたまふ されど悖逆者(そむくもの)はうるほひなき()にすめり
口語訳68篇6節 神は寄るべなき者に住むべき家を与え、めしゅうどを解いて幸福に導かれる。しかしそむく者はかわいた地に住む。
関根訳68篇7節 ヴェは身寄りなき者を家に帰らせ囚人を解いて歌い手とする。しかし逆らう者は乾いた地に住む。
新共同68篇7節 神は孤独な人に身を寄せる家を与え 捕われ人を導き出して清い所に住ませてくださる。背く者は焼けつく地に住まねばならない。


〔2〕過去の歴史の回想(7−18)
*68篇7節(かみ)よ、イスラエルがエジプトを出でてカナンに向えるときなんぢはイスラエルの(たみ)にさきだちいでて((あら)()をすすみゆきたま《ふに、》【ひき】セラ(ここにセラを入れて後に来る詩句を一層印象的ならしむ、19節も同じ意味)

文語訳68篇7節 (かみ)よなんぢは(たみ)にさきだちいでて()をすすみゆきたまひき セラ
口語訳68篇7節 神よ、あなたが民に先だち出て、荒野を進み行かれたとき、[セラ
関根訳68篇8節 ヴェよ、あなたがその民の前に先立ち荒野を歩まれたとき、セラ
新共同68篇8節 神よ、あなたが民を導き出し 荒れ果てた地を行進されたとき〔セラ


補註
7、8節 デボラの歌(士師5:4、5)と略同一の字句、なお「シナイの山すら・・・・・・ふるひ動けり」と訳するのが通説である


*68篇8節そのとき天地に大なる変動あり()ふるひ雷、雹、雨霰(あられ)となりて(てん)(かみ)聖前(みまへ)に《(したた)る、()れイスラエルの(かみ)なる(エホバ)聖前(みまえ)()けるシナイの光景なり。》【漏る、シナイの山すら神イスラエルの神のみ前にふるひうごけり】

文語訳68篇8節 そのとき()ふるひ(てん)かみのみまへに()る シナイの(やま)すら(かみ)イスラエルの(かみ)(みまへ)にふるひうごけり
口語訳68篇8節 シナイの主なる神の前に、イスラエルの神なる神の前に、地は震い、天は雨を降らせました。
関根訳68篇9節 地はふるえ、天もしたたらせた、シナイの神なるヤヴェのみ前イスラエルの神ヤヴェのみ前に。
新共同68篇9節 地は震え、天は雨を滴らせた シナイにいます神の御前に 神、イスラエルの神の御前に。


68篇9節*(かみ)よ、なんぢの嗣業(ゆづり)()なるカナンの地のつかれおとろへて無力なるものとなり果てたるとき、(ゆたか)なる(あめ)をふらせ豊なる恩恵を加え(これ)をかたくしたまへり。

文語訳68篇9節 (かみ)よなんぢの嗣業(ゆづり)()のつかれおとろへたるとき(ゆた)かなる(あめ)をふらせて(これ)をかたくしたまへり
口語訳68篇9節 神よ、あなたは豊かな雨を降らせて、疲れ衰えたあなたの嗣業の地を回復され、
関根訳68篇10節 ヴェよ、あなたは豊かな雨を降らせあなたの嗣業なる疲れた地を建て直された。
新共同68篇10節 神よ、あなたは豊かに雨を賜り あなたの衰えていた嗣業を固く立てて


補註
本節はマナと鶉の物語(出エジプト16:4)を意味すと解する説が多く行われているけれども、やはりカナンの地に対する多くの恩恵と解するを可とす。


68篇10節(さき)に〕(なんぢ)の《*部落(ぶらく)》【公會】なるイスラエルはその(なか)に《()む、》【とどまれり】(かみ)よ、(なんぢ)(めぐみ)をもて(まづ)しきもののために(そなへ)をなしたま《ふ。》【ひき】かくして神の民は神と共に住み、その貧しき者は神の恵の中に生く。

文語訳68篇10節 (さき)になんぢの公會(こうくわい)はその(なか)にとどまれり (かみ)よなんぢは(めぐみ)をもて(まづ)しきもののために預備(そなへ)をなしたまひき
口語訳68篇10節 あなたの群れは、そのうちにすまいを得ました。神よ、あなたは恵みをもって貧しい者のために備えられました。
関根訳68篇11節 彼らはあなたの食物で飽き足りる、ヤヴェよあなたは貧しき者に良きものを(たま)う。
新共同68篇11節 あなたの民の群れをその地に住ませてくださった。恵み深い神よ あなたは貧しい人にその地を備えられた。


補註
「部落」の意、ただし問題多き文字。


68篇11節(しゆ)みことばを(たま)《へば、》【ふ】その音信(おとづれ)をのぶる(をんな)は《(おほい)なる(むれ)をなす。》【多くして群をなせり】神の嘉信殊にその勝利の嘉信は多くの婦女子が歌い躍りつつこれを祝することによりて全国民に告知する。

文語訳68篇11節 (しゆ)みことばを(たま)ふ その佳音(おとづれ)をのぶる婦女(をんな)はおほくして(むれ)をなせり
口語訳68篇11節 主は命令を下される。おとずれを携えた女たちの大いなる群れは言う、
関根訳68篇12節 主はみ言葉を与えられる。喜びの音信(おとずれ)を伝える者の大いなる群れ。
新共同68篇12節 主は約束をお与えになり 大勢の女たちが良い知らせを告げる


68篇12節萬軍(ばんぐん)(わう)たちはエホバの前に敗れて逃げ()又逃(またに)げ、》【もろもろの軍旅の王たちはにげさる、逃去りたれば】イスラエルの軍はその分獲物を携えて凱旋し(いへ)《に()む》【なる】婦女(をんな)はその掠物(えもの)をわかつ。神はその勝利を以てイスラエルの家の婦女子をも恵み給う。

文語訳68篇12節 もろもろの軍族(いくさ)(わう)たちはにげさる 逃去(にげさ)りたれば(いへ)なる婦女(をんな)はその掠物(えもの)をわかつ
口語訳68篇12節 「もろもろの軍勢の王たちは逃げ去り、逃げ去った」と。家にとどまる女たちは獲物を分ける、
関根訳68篇13節 軍勢を率いる王たちは逃げに逃げた。家の前庭で分捕物が分けられる。
新共同68篇13節 「王たちは軍勢と共に逃げ散る、逃げ散る」と。家にいる美しい女も戦利品を分けている。


*68篇13節なんぢら怠惰なる生活を送って(ひつじ)(をり)の《(たにま)にふすとも、なお平和と富とは汝に恵まるることあたかも白銀(しろかね)におほはれし鴿(はと)のつばさ、黄金(こがね)(おほ)はれしその(はね)〔の(ごと)し〕。》【うちにふすときは鴿のつばさの白銀におほはれその毛の黄金におほはるるがごとし】

文語訳68篇13節 なんぢら(ひつじ)(をり)のうちにふすときは鴿(はと)のつばさの白銀(しろかね)におほはれその()黄金(こがね)におほはるゝがごとし
口語訳68篇13節 たとい彼らは羊のおりの中にとどまるとも。はとの翼は、しろがねをもっておおわれ、その羽はきらめくこがねをもっておおわれる。
関根訳68篇14節 君らは羊のおりの中に留まるのか。鳩の翼は銀をもって(おお)われその羽毛は輝く金をもって蔽われる。
新共同68篇14節 あなたたちは二つの鞍袋の間に横たわるのか。鳩の翼は銀に、羽は黄金に被われている。


補註
難解の一節。


68篇14節全能者(ぜんのうしや)かしこにて(わう)たちを打ち敗りこれをちらし《(たま)ふ》【給へる】ときは*サルモンの(やま)に《(ゆき)()るが(ごと)し。》【雪ふりたるがごとくなりき】風に吹かれて散乱する雪片は敗れて散さる王たちを想起さしむ。

文語訳68篇14節 全能者(ぜんのうしや)かしこにて列王(わうたち)をちらし(たま)へるときはサルモンの(やま)(ゆき)ふりたるがごとくなりき 
口語訳68篇14節 全能者がかしこで王たちを散らされたとき、ザルモンに雪が降った。
関根訳68篇15節 全能者(そこで)王たちを散らされたとき黒い山に雪が降った。
新共同68篇15節 全能者が王たちを散らされるとき ツァルモン山に雪が降るであろう。


補註
「サルモンの山」はシケムに近き山、本節も難解の一節。


68篇15節*バシャンの(やま)神の造り給える美しき(かみ)(やま)なり、バシャンの(やま)峨々として聳ゆる(みね)(おほ)き》【かさなれる】(やま)なり。

文語訳68篇15節 バシャンのやまは(かみ)(やま)なりバシャンのやまは(みね)かさなれる(やま)なり
口語訳68篇15節 神の山、バシャンの山、峰かさなる山、バシャンの山よ。
関根訳68篇16節 神の山、蛇の山、(そび)え立つ山、蛇の山よ、
新共同68篇16節 神々しい山、バシャンの山 峰を連ねた山、バシャンの山


補註
「バシヤンの山」はガリラヤ湖の東バシヤン地方の連山かまたはヘルモンの山を指す。


68篇16節(みね)(おほ)(やま)(やま)よ、》【峰重れるもろもろの山よ】なんぢらかかる美しき神の山にてありながら如何(いか)なれば(かみ)の《()まんと(ほつ)(たま)へる(やま)即ちシオンの山を》【住所にえらびたまへる山を】ねたみ()るや、《()に》【さはれ】エホバは永遠(とこしへ)に〔この(やま)に〕()みたまはん。汝ら妬み見るも徒爾(とじ)なり、エホバの住み給うシオンの山は実に如何なる山にもまさりてうるわし。

文語訳68篇16節 (みね)かさなれるもろもろの(やま)よ なんぢら(いか)なれば(かみ)佳所(すまひ)にえらびたまへる(やま)をねたみ()るや()はれヱホバは永遠(とこしへ)にこの(やま)にすみたまはん
口語訳68篇16節 峰かさなるもろもろの山よ、何ゆえ神がすまいにと望まれた山をねたみ見るのか。まことに主はとこしえにそこに住まわれる。
関根訳68篇17節 何故君たち聳え立つ山々はヤヴェがその住家(すみか)として望みヤヴェが永遠に住まわれる山を敵視するのか。
新共同68篇17節 峰を連ねた山よ、なぜ、うかがうのか 神が愛して御自分の座と定められた山を 主が永遠にお住みになる所を。


68篇17節(かみ)戰車(いくさぐるま)*よろづに(よろづ)をかさね、千々(ちぢ)千々(ちぢ)(くは)ふ、(しゆ)その(なか)に《います、その有様はさながら(きよ)きシナイなり。》【いませり、聖所にいますがごとくシナイの山にいまししがごとし】

文語訳68篇17節 (かみ)戰車(いくさぐるま)はよろづに(よろづ)をかさね(ちぢ)にちぢをくはふ (しゆ)その(なか)にいませり 聖所(せいじよ)にいますがごとくシナイの(やま)にいまししがごとし
口語訳68篇17節 主は神のいくさ車幾千万をもって、シナイから聖所に来られた。
関根訳68篇18節 ヴェの戦車は幾千万。主はシナイから聖所に来られた。
新共同 68篇18節 神の戦車は幾千、幾万 主はそのただ中にいます。シナイの神は聖所にいます。


補註
「萬に萬を云々」は原語「萬の二倍、千の反覆」。


*68篇18節なんぢ(たか)(ところ)にのぼり、天の栄光の中に入り給い虜者(とりこ)をとりこにしてひきゐ、多くの者を御許に服わせ給い、禮物(いやしろ)(ひと)のなかよりも叛逆者(そむくもの)のなかよりも(うけ)たまへり、かくして万民を征服し終りてヤハの(かみ)ここに(すみ)たまはん(ため)なり。パウロはエペソ4:8に本節を引用しキリストの復活と聖霊の賜物の説明とした。

文語訳68篇18節 なんぢ高處(たかきところ)にのぼり虜者(とりこ)をとりこにしてひきゐ禮物(いやしろ)(ひと)のなかよりも叛逆者(そむくもの)のなかよりも()けたまへり ヤハの(かみ)ここに()みたまはんが(ため)なり
口語訳68篇18節 あなたはとりこを率い、人々のうちから、またそむく者のうちから贈り物をうけて、高い山に登られた。主なる神がそこに住まわれるためである。
関根訳68篇19節 あなたは高き所に上られ、(とりこ)をひきい人々から贈り物を受けられた。・・・・・・・・・・・・
新共同68篇19節 主よ、神よ あなたは高い天に上り、人々をとりことし 人々を貢ぎ物として取り、背く者も取られる。彼らはそこに住み着かせられる。


補註
難解の句、パウロがエペソ4:8に引用せるもの。なお、「禮物を人のなかより受けたまへり、ヤハの神、叛逆者と共に住み給わん為なり」とも読む。


〔3〕現在及将来におけるエホバの支配の完成(19−35)
68篇19節日々(ひごと)にわれらの()をおひたまふ(しゆ)、われらの(すく)ひの(かみ)はほむべきかな。彼は一日たりとも我らの重荷を負ひ給わざるなし。かくして最後の勝利の日に及ばん。セラ。

文語訳68篇19節 日々(ひごと)にわれらの()をおひたまふ(しゆ)われらのすくひの(かみ)はほむべきかな セラ
口語訳68篇19節 日々にわれらの荷を負われる主はほむべきかな。神はわれらの救である。[セラ
関根訳68篇20節 日毎にわれらのために重荷を負われる主はほむべきかな。神はわれらの救いである。セラ
新共同68篇20節 主をたたえよ 日々、わたしたちを担い、救われる神を。〔セラ


68篇20節(かみ)は《我らの數々(かずかず)(すくひ)の》【しばしばわれらを助けたまへる】(エル)なり、()よりのがれうるは(しゆ)エホバに()る。エホバなくして我らの救はなし。

文語訳68篇20節 (かみ)はしばしばわれらを(たす)けたまへる(かみ)なり ()よりのがれうるは(しゆ)ヱホバに()
口語訳68篇20節 われらの神は救の神である。死からのがれ得るのは主なる神による。
関根訳68篇21節 神はわれらにとって多くの救いの神、死よりも逃れうるのは主ヤヴェによる。
新共同68篇21節 この神はわたしたちの神、救いの御業の神 主、死から解き放つ神。


68篇21節()に)(かみ)はその(あた)(かうべ)《と(とが)のなかに(あゆ)むものの*(かみ)おほき顱頂(いただき)とを()ちやぶり(たま)ふ。》【を撃やぶりたまはん、愆のなかにとどまるものの髪おほき顱頂をうちやぶりたまはん】

文語訳68篇21節 (かみ)はその(あた)のかうべを()ちやぶりたまはん (とが)のなかにとどまるものの(かみげ)おほき顱頂(いただき)をうちやぶりたまはん
口語訳68篇21節 神はその敵のこうべを打ち砕き、おのがとがの中に歩む者の毛深い頭のいただきを打ち砕かれる。
関根訳68篇22節 げにヤヴェはその敵の頭を砕かれる、罪の中を歩む者の毛深い脳天を。
新共同68篇22節 神は必ず御自分の敵の頭を打ち 咎のうちに歩み続ける者の 髪に覆われた頭を打たれる。


補註
「髪おほき顱頂」は戦場にある兵士の頭を指す。ここでは敵の兵士を意味す。


68篇22節(しゆ)いへらく(われ)バシャンより〔かれらを〕(たづさ)へかへり、(うみ)のふかき(ところ)よりたづさへ(かへ)らん。たとい敵は如何なる山奥如何なる海底に逃るるとも主は必ず彼らを携え帰りてこれに報を与え給う。

文語訳68篇22節 (しゆ)いへらく(われ)バシャンよりかれらを(たづさ)へかへり(うみ)のふかき(ところ)よりたづさへ(かへ)らん
口語訳68篇22節 主は言われた、「わたしはバシャンから彼らを携え帰り、海の深い所から彼らを携え帰る。
関根訳68篇23節 主は言われた、蛇の山からわたしは連れ戻す、海の深みからわたしは連れ戻す。
新共同68篇23節 主は言われる。「バシャンの山からわたしは連れ帰ろう。海の深い底から連れ帰ろう。


68篇23節()くてなんぢの(あし)を〔そのあたの〕()にひたし、《なんぢの(いぬ)(した)(なんぢ)(あた)よりその(ぶん)()ん。》【之をなんぢの犬の舌になめしめん】敵は完全に戮り尽されて、犬すらもこれをその餌とするに至らん。

文語訳68篇23節 (かく)てなんぢの(あし)をそのあたの()にひたし(これ)をなんぢの(いぬ)(した)になめしめん
口語訳68篇23節 あなたはその足を彼らの血に浸し、あなたの犬の舌はその分け前を敵から得るであろう」と。
関根訳68篇24節 君の足が彼らの血で洗われ君の犬の舌が分け前を敵から得られるように。
新共同68篇24節 あなたは敵を打って足をその血に浸し あなたの犬も分け前として敵の血に舌を浸す。」


68篇24節かくして神は凡ての敵を打破りてその聖所に入り給う。(かみ)よ、《(ひと)はなんぢの行幸(みゆき)》【すべての人はなんぢの進み行きたまふ】を()たり、わが(かみ)わが(わう)聖所(せいじよ)に《()りたまふ行幸(みゆき)なり。》【すすみゆきたまふを見たり】

文語訳68篇24節 (かみ)よすべての(ひと)はなんぢの進行(すすみゆ)きたまふをみたり わが(かみ)わが(わう)聖所(せいじよ)にすすみゆきたまふを()たり
口語訳68篇24節 神よ、人々はあなたのこうごうしい行列を見た。わが神、わが王の、聖所に進み行かれるのを見た。
関根訳68篇25節 ヴェよ、人々はあなたの行進を見た、わが神、わが王が聖所へと行進されるのを。
新共同68篇25節 神よ、あなたの行進が見える。わたしの神、わたしの王は聖所に行進される。


68篇25節この聖所への神の行幸を祝いよろこびて【皷うつ童女のなかにありて】(うた)ふものは(まへ)にゆき、(こと)ひくものは(あと)に《したがひ、*(つづみ)うつ童女(をとめ)は眞中にあり。》【したがへり】

文語訳68篇25節 (つづみ)うつ童女(をとめ)のなかにありて(うた)ふものは(まへ)にゆき(こと)ひくものは(あと)にしたがへり
口語訳68篇25節 歌う者は前に行き、琴をひく者はあとになり、おとめらはその間にあって手鼓を打って言う、
関根訳68篇26節 歌うたう者は先立ち、琴をひく者は殿(しんがり)となり(つづみ)をとる乙女らは真中(まなか)を行く。
新共同68篇26節 歌い手を先頭に、続いて楽を奏する者 おとめらの中には太鼓を打つ者。


補註
「鼓」はタンブーリン。童女が両端にいたと見るよりも中央にいたと見るべく、母音符を変更して私訳の如くに読む(グンケル)。


68篇26節この奉祝の楽隊につれてなんぢら〔すべての〕((つど)()にて(かみ)をほめよ、イスラエルの(みなもと)より()づるものなるなんぢらイスラエルの民よ、(しゆ)をほめまつれ。

文語訳68篇26節 なんぢらすべての(つどひ)にて(かみ)をほめよ イスラエルのみなもとより()づるなんぢらよ(しゆ)をほめまつれ
口語訳68篇26節 「大いなる集会で神をほめよ。イスラエルの源から出た者よ、主をほめまつれ」と。
関根訳68篇27節 集いの中でヤヴェをたたえよ、ヤヴェをイスラエルの群れの中から。
新共同68篇27節 聖歌隊によって神をたたえよ イスラエルの源からの主を。


68篇27節このつどいを見わたすに彼處(かしこ)にかれらの首脳者としてこれ()ぶる年若(としわか)きベニヤミンあり、ユダの諸侯(きみたち)とその群衆(ともがら)とあり、南方において代表的なる種族なり。また北方においてはゼブルンの諸侯(きみたち)、ナフタリの諸侯(きみたち)あり。全イスラエルはこのエホバの勝利を祝しつつあり。

文語訳68篇27節 彼處(かしこ)にかれらを()ぶるとしわかきベニヤミンあり ユダの諸侯(きみたち)とその群衆(ともがら)とありまたゼブルンのきみたちナフタリの諸侯(きみたち)あり
口語訳68篇27節 そこに彼らを導く年若いベニヤミンがおり、その群れの中にユダの君たちがおり、ゼブルンの君たち、ナフタリの君たちがいる。
関根訳 68篇28節 かしこにベニヤミンあり、年若くして率いユダの君候(きみ)たちは多くの群衆の中にありゼブロンの君候たち、ナフタリの君候たちもいる。
新共同68篇28節 若いベニヤミンがそこで彼らを統率する。ユダの君侯らは彼らの指導者 ゼブルンの君侯ら、ナフタリの君侯らもいる。


68篇28節なんぢの(かみ)イスラエルをして全世界を支配せんが為になんぢの(ちから)を《()べ》【たて】たまへり。イスラエルの使命はかくして神より出づ、(かみ)よ、なんぢ(われ)らのためになしたまひしことを《(つよ)くしたまへ。》【かたくし給ヘ】

文語訳68篇28節 なんぢの(かみ)はなんぢの(ちから)をたてたまへり(かみ)よなんぢ我儕(われら)のためになしたまひし(こと)をかたくしたまへ
口語訳68篇28節 神よ、あなたの大能を奮い起してください。われらのために事をなされた神よ、あなたの力をお示しください。
関根訳68篇29節 ヴェよ、あなたの力を奮い起こし、ヤヴェよ、あなたがわれらのために建てられたものを強め給え。
新共同68篇29節 あなたの神は命じられる あなたが力を帯びることを。神よ、力を振るってください わたしたちのために行動を起こしてください。


68篇29節ヱルサレムなるなんぢの(みや)の《ゆゑに》【ために】世界の諸国の(わう)たちは汝にまつろう証拠としてなんぢに禮物(いやしろ)をささげん。

文語訳68篇29節 エルサレムなるなんぢの(みや)のために列王(わうたち)なんぢに禮物(いやしろ)をささげん
口語訳68篇29節 エルサレムにあるあなたの宮のために、王たちはあなたに贈り物をささげるでしょう。
関根訳68篇30節 いと高き者よ、エルサレムはあなたの宮、王たちはあなたのもとに贈り物をもたらす。
新共同68篇30節 あなたの神殿からエルサレムの上に。あなたのもとに王たちは献げ物を携えて来ます。


68篇30節ねがはくは(あし)()(けもの)なる河馬また鰐の如き、またむらがれる牡牛(おうし)小牛(こうし)のごとき〔もろもろの〕(たみ)(ら)即ちエジプトの如きまたその他の異邦人のごとき民をいましめてかれらに白銀(しろかね)をたづさへ(きた)り、《(まつろ)はしめたまへ、》【自ら服(まつろ)ふことを為しめたまへ】、(かみ)はたたかひを(この)む〔もろもろの〕(たみ)(ら)をちらしたまへり。

文語訳68篇30節 ねがはくは葦間(あしま)(けもの)むらがれる粘犢(をうしこうし)のごときもろもろの(たみ)をいましめてかれらに白銀(しろがね)をたつさへきたり みづから(まつろ)ふことを()しめたまへ (かみ)はたたかひを(この)むもろもろの(たみ)をちらしたまへり
口語訳68篇30節 葦の中に住む獣、もろもろの民の子牛を率いる雄牛の群れをいましめてください。みつぎ物をむさぼる者たちを足の下に踏みつけ、戦いを好むもろもろの民を散らしてください。
関根訳68篇31節 (あし)の茂みにすむ獣をこらし給え、雄牛とその子らの群を。彼らは銀を求めて諸国民をふみにじり戦いを好んで諸国民を散らした。
新共同68篇31節 叱咤してください、葦の茂みに住む獣を 諸国の民を子牛のように伴う猛牛の一群を 銀の品々を踏みにじるものを。闘いを望む国々の民を散らしてください。


68篇31節かくして何れの処にも神に敵する者は一人もなく諸侯(きみたち)はエジプトよりきたりて降を乞いエテオピアはあわただしく(かみ)にむかひて()をのべてその服従の意思を表示せん。

文語訳68篇31節 諸侯(きみたち)はエジプトよりきたり エテオピアはあわただしく(かみ)にむかひて()をのべん
口語訳68篇31節 青銅をエジプトから持ちきたらせ、エチオピヤには急いでその手を神に伸べさせてください。
関根訳68篇32節 エジプトの商人は青い布をもたらし、クシはその手の(わざ)をヤヴェにささげる。
新共同68篇32節 エジプトから青銅の品々が到来し クシュは、神に向かって手を伸べる。


68篇32節()の〔もろもろの〕《王國(わうこく)》【くに】よ、《(かみ)(むか)ひて讃美(さんび)し、》【神のまへにうたへ】(しゆ)をほめうたへ。全世界はかくしてエホバを讃めたたうるに至らん。セラ。

文語訳68篇32節 ()のもろもろのくによ (かみ)のまへにうたへ(しゆ)をほめうたへ セラ
口語訳68篇32節 地のもろもろの国よ、神にむかって歌え、主をほめうたえ。[セラ
関根訳68篇33節 地のもろもろの王国よ、ヤヴェに向かって歌え、主をほめうたえ、セラ
新共同68篇33節 地の王国よ、共に神に向かって歌い 主にほめ歌をうたえ〔セラ


68篇33節かくして神は諸天の上にのぼり給う。この(ふる)き》【上古よりの】(てん)(てん)にのりたま(もの)にむかひて〔うたへ、〕みよ、(しゆ)はみこゑを(いだ)したまふ、《(ちから)》【勢力】ある()(こゑ)《なり。》【をいだしたまふ】この力ある御声を以て全世界に命令し全世界を統べ給う。

文語訳68篇33節 上古(いにしへ)よりの(てん)(てん)にのりたまふ(もの)にむかひてうたへ みよ(しゆ)はみこゑを(いだ)したまふ勢力(いきほひ)ある(みこゑ)をいだしたまふ
口語訳68篇33節 いにしえからの天の天に乗られる主にむかってほめうたえ。見よ、主はみ声を出し、力あるみ声を出される。
関根訳68篇34節 天を乗り行く者。原初の天を乗り行く者を。見よ、彼はそのみ声、力あるみ声を上げられる。
新共同68篇34節 いにしえよりの高い天を駆って進む方に。神は御声を、力強い御声を発せられる。


68篇34節なんぢらちからを(かみ)()せよ、神より外にこの力を帯ぶる者なし。その稜威(みいつ)はイスラエルの(うへ)にとどまり、その大能(みちから)(くも)のなかにあり。かくして神はイスラエルを祝し全世界を統治め給う。

文語訳68篇34節 なんぢらちからを(かみ)()せよ その稜威(みいつ)はイスラエルの(うへ)にとどまり その大能(みちから)(くも)のなかにあり
口語訳68篇34節 力を神に帰せよ。その威光はイスラエルの上にあり、その力は雲の中にある。
関根訳68篇35節 力をヤヴェに帰せよ、イスラエルのいと高き者に。その威厳とその力は雲の中にある。
新共同68篇35節 力を神に帰せよ。神の威光はイスラエルの上にあり 神の威力は雲の彼方にある。


68篇35節(かみ)聖所(せいじよ)にありて(おそ)るべきかな、》【神のおそるべき状はきよき所よりあらはる】イスラエルの(かみ)(かれこそ)はその(たみ)にちからと勢力(いきほひ)とをあたへたまふ、(かみ)はほむべきかな。

文語訳68篇35節 (かみ)のおそるべき(さま)はきよき(ところ)よりあらはる イスラエルの(かみ)はその(たみ)にちからと勢力(いきほひ)とをあたへたまふ (かみ)はほむべきかな
口語訳68篇35節 神はその聖所で恐るべく、イスラエルの神はその民に力と勢いとを与えられる。神はほむべきかな。
関根訳68篇36節 ヴェはその聖所の故に恐るべくげにイスラエルの神こそ民に力と勝利とを与えられる。ヤヴェはほむべきかな。
新共同68篇36節 神よ、あなたは聖所にいまし、恐るべき方。イスラエルの神は御自分の民に力と権威を賜る。神をたたえよ。