黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第69篇

関根訳神の家への熱心

文語訳( )百合花(ゆりのはな)にあはせて伶長(うたのかみ)にうたはしめたるダビデのうた
口語訳聖歌隊の指揮者によってゆりの花のしらべにあわせてうたわせたダビデの歌
関根訳69篇1節聖歌隊の指揮者に、「ゆり」式に、ダビデの歌。
新共同69篇1節【指揮者によって。「ゆり」に合わせて。ダビデの詩。】

本篇は第22篇を除き最も多く新約聖書に引用せられている詩であって、その作者の苦悩と信頼の姿がイエスの受難に酷似している点より、これをイエスの預言と解したためである。4節(ヨハネ15:25)、9節(ヨハネ2:17。ロマ15:3)、21節(ヨハネ19:28、29)、22、23節(ロマ11:9)、25節(行伝1:20)等その著しき場合である。作者はダビデと見るよりも、エレミヤとする説が行われている。神のために迫害を受くること、作者の境遇が類似の点多きこと、敵に対する詛の態度、ユダの回復に対する預言、用語等著しくエレミヤに類似していることは事実だからである。しかしながらそれだけでエレミヤの作と決定することができず、唯少くともエレミヤに類似せる性格と信仰とを持ちて、そのために苦しめられし人の詩と解することによりて、本篇の真の意義を解することができるのみである。而して本篇がイエスの受難の預言として取扱われているのもイエスの性格がエレミヤに似ていることの自然の結果である。本篇は全体を六つの部分に分つことができる。敵より受くる迫害とこれに対する詛と神がその中より救い給うことの確信および祈願とが美しく織り出されている。


〔1〕苦難の愁訴(1−6)
69篇1節(かみ)よ、ねがはくは(われ)この断末魔の苦しみより(すく)ひたまへ、(そは)大水(おほみづ)〔ながれきたりて〕わががたましひにまでおよべ(ばな)り。わが霊魂は今やまさにこの苦難の大水に呑み尽されんとす。

文語訳69篇1節 (かみ)よねがはくは(われ)をすくひたまへ 大水(おほみつ)ながれきたりて()がたましひにまでおよべり
口語訳69篇1節 神よ、わたしをお救いください。大水が流れ来て、わたしの首にまで達しました。
関根訳69篇2節 ヴェよ、わたしをお救い下さい。大水がわたしの(のど)までとどいたからです。
新共同69篇2節 神よ、わたしを救ってください。大水が喉元に達しました。


69篇2節われ(たち)()なき*(ふか)(ひぢ)(なか)(しづ)《み、藻掻くに従い益々これを脱し得ざるに至り(みづ)(ふか)きにおちいり、洪水(こうずゐ)わが(うへ)(あふ)れたり。》【めり、われ深水におちいる、おほ水わが(うへ)にあふれすぐ】今や溺れ死ぬるより外になし。

文語訳69篇2節 われ立止(たちど)なきふかき(ひぢ)(なか)にしづめり われ深水(ふかきみづ)におちいる おほみづわが(うへ)をあふれすぐ
口語訳69篇2節 わたしは足がかりもない深い泥の中に沈みました。わたしは深い水に陥り、大水がわたしの上を流れ過ぎました。
関根訳69篇3節 わたしは深い(どろ)の中に立つ瀬もなく沈んだ。水の深みに落ちて、流れがわが上にあふれた。
新共同69篇3節 わたしは深い沼にはまり込み 足がかりもありません。大水の深い底にまで沈み 奔流がわたしを押し流します。


補註
「ふかき泥」パレスチナにはこの種の泥沼多し。


69篇3節われ苦しさのあまり叫びつづけたる為この《さけび》【歎息】によりてつかれ〔たり、〕わが(のど)その為にやけ付くばかりにかわき、わが()はわが(かみ)の来り助け給うをまちわびておとろへぬ。

文語訳69篇3節 われ歎息(なげき)によりてつかれたり わが(のど)はかわき わが()はわが(かみ)をまちわびておとろへぬ
口語訳69篇3節 わたしは叫びによって疲れ、わたしののどはかわき、わたしの目は神を待ちわびて衰えました。
関根訳69篇4節 わたしは叫びつづけたので疲れ、わが(のど)はかわきわが眼はわが神を待ちわびて衰えた。
新共同69篇4節 叫び続けて疲れ、喉は涸れ わたしの神を待ち望むあまり 目は衰えてしまいました。


69篇4節(ゆゑ)なくしてわれを(にく)(もの)わが(かしら)()よりもおほく(ヨハネ15:25)(いつは)りの》【謂れなくして】理由を設けて我を謗るわが(あた)《にして》【となり】*(われ)をほろぼさんとするものの勢力(いきほひ)つよし、我は故なきに多くの敵に迫害せらる、それが為にわれ(かす)めざりしものをもあたかも掠めし如くに誣いられて(つくの)はせらる。

文語訳69篇4節 (ゆゑ)なくしてわれをにくむ(もの)わが かしらの()よりもおほく( いはれ)なくしてわが(あた)となり(われ)をほろぼさんとするものの勢力(いきほひ)つよし われ(かす)めざりしものをも(つくの)はせらる
口語訳69篇4節 ゆえなく、わたしを憎む者はわたしの頭の毛よりも多く、偽ってわたしの敵となり、わたしを滅ぼそうとする者は強いのです。わたしは盗まなかった物をも償わなければならないのですか。
関根訳69篇5節 故なくわたしを憎む者はわが(かしら)の毛よりも多くわたしを滅ぼそうとする偽りの敵の力は強い。わたしが奪ったものでないものも(つぐな)わねばならない。
新共同69篇5節 理由もなくわたしを憎む者は この頭の髪よりも数多く いわれなくわたしに敵意を抱く者 滅ぼそうとする者は力を増して行きます。わたしは自分が奪わなかったものすら 償わねばなりません。


補註
「我をほろぼさんとする者云々」を少しく変更して「我が骨よりも多し」または「我が髪よりも多し」と読む説あり。


69篇5節かかる苦難が我に臨める所以は我が罪に対する罰なり(かみ)よ、なんぢはわが(おろか)なること、即ち愚にして罪を犯して居ること()りたまふ、わが《(とが)》【もろもろの罪】はみな汝の御前にあきらかにして(なんぢ)にかくれざるなり。故に汝、多くの苦難を以て我を罰し給うとも我において何らの抗議を出すこと能わず、さはあれど

文語訳69篇5節 (かみ)よなんぢはわが(おろ)かなるをしりたまふ わがもろもろの(つみ)はなんぢにかくれざるなり
口語訳69篇5節 神よ、あなたはわたしの愚かなことを知っておられます。わたしのもろもろのとがはあなたに隠れることはありません。
関根訳69篇6節 ヴェよ、あなたはわが愚かを知りたもう。わたしの罪はあなたから隠れることは出来ません。
新共同69篇6節 神よ、わたしの愚かさは、よくご存じです。罪過もあなたには隠れもないことです。


69篇6節萬軍(ばんぐん)のエホバ、(しゆ)よ、わが苦難は唯我のみの問題にあらず、エホバを信ずる凡ての者に関ることなれば、ねがはくは(なんぢ)()(のぞ)(もの)《の》【を】わが(ゆゑ)によりて即ち汝を信ずる我の苦しむが為に(はづか)しめられ、エホバ在し給わざる如くに誹らるることなからしめたまへ。イスラエルの(かみ)よ、ねがはくはなんぢを(もと)むる(もの)《の》【を】わが(ゆゑ)によりて(はぢ)をおはしめらるることなからしめたまへ。われは罪深し、されど我もまた汝を待望み汝を求む、かかる者なる我をこの大なる苦難の中に恥を負わしめ給うなかれ。

文語訳69篇6節 萬軍(ばんぐん)のヱホバ(しゆ)よ ねがはくは(なんぢ)をまちのぞむ(もの)をわが(ゆゑ)によりて(はつか)しめらるゝことなからしめたまへ スラエルの(かみ)よねがはくはなんぢを(もと)むる(もの)をわが(ゆゑ)によりて(はち)をおはしめらるゝことなからしめたまへ
口語訳69篇6節 万軍の神、主よ、あなたを待ち望む者がわたしの事によって、はずかしめられることのないようにしてください。イスラエルの神よ、あなたを求める者がわたしの事によって、恥を負わせられることのないようにしてください。
関根訳69篇7節 主なる万軍のヤヴェよ、あなたを待ち望む者がわが故に恥をこうむらず、あなたを求める者がわが故に辱かしめられることのないように、イスラエルの神よ。
新共同69篇7節 万軍の主、わたしの神よ あなたに望みをおく人々が わたしを恥としませんように。イスラエルの神よ あなたを求める人々が わたしを屈辱としませんように。


〔2〕我が苦難(7−12)
69篇7節(7−12節はイエスの受難を心に描きつつ読むべし)(そは)わが苦しむは我が罪の為のみにあらず、(われ)(なんぢ)のために(そしり)をおひ、(はぢ)はわが(かほ)をおほひたればなり。もしわれ汝の御旨に忠実ならざりしならばかかる謗と恥とを負わざりしならん。

文語訳69篇7節 (われ)はなんぢのために(そしり)をおひ(はち)はわが(かほ)をおほひたればなり
口語訳69篇7節 わたしはあなたのためにそしりを負い、恥がわたしの顔をおおったのです。
関根訳69篇8節 何故ならあなたの故にわたしは恥を負い辱かしめはわが顔をおおったからです。
新共同69篇8節 わたしはあなたゆえに嘲られ 顔は屈辱に覆われています。


69篇8節われわが兄弟(はらから)には旅人(たびびと)のごとく疎遠なる取扱いをうけ、*わが(はは)()即ち最も親しかるべき同腹の兄弟には外人(あだしびと)のごとく無関係なるものとなれり。汝の故に我は我が肉親にすら遠ざけられ我が家の者は我が敵となれり。

文語訳69篇8節 われわが兄弟(はらから)には放人(たびびと)のごとく わが(はは)()には外人(あだしびと)のごとくなれり
口語訳69篇8節 わたしはわが兄弟には、知らぬ者となり、わが母の子らには、のけ者となりました。
関根訳69篇9節 わたしはわが兄弟には未知の人となりわが母の子らには知られざる者のようになった。
新共同69篇9節 兄弟はわたしを失われた者とし 同じ母の子らはわたしを異邦人とします。


補註
「わが母の子」は同母兄弟を指す、最も親しかるべき間柄。


69篇9節そは*(なんぢ)(いへ)なるまことのイスラエルをおもふ熱心(ねつしん)われをくらひわれを焼き尽し(なんぢ)をそしるものの(そしり)われにおよべり。人々はわれをそしることによりて汝をそしる者となり、汝をそしるが故にまた我をもそしるに至れり(ヨハネ15:19、20)。

文語訳69篇9節 そはなんぢの(いへ)をおもふ熱心(ねつしん)われをくらひ(なんぢ)をそしるものの(そしり)われにおよべり
口語訳69篇9節 あなたの家を思う熱心がわたしを食いつくし、あなたをそしる者のそしりがわたしに及んだからです。
関根訳69篇10節 何故ならあなたの家への熱心がわたしを喰いつくしあなたをそしる者のそしりがわたしに臨んだから。
新共同69篇10節 あなたの神殿に対する熱情が わたしを食い尽くしているので あなたを嘲る者の嘲りが わたしの上にふりかかっています。


補註
「汝の家」は一般に「神の宮」を指すけれどもここではこれに関連してイスラエル全体を神の家と見る。


*69篇10節《われ、わが霊魂(たましひ)断食(だんじき)しつつ()(かなし)めり、されどこれ(われ)(たい)する(そしり)となれり。》【われ涙をながして食をたちわが霊魂をなげかすれば反りて之によりて謗をうく】世は我が心を知らず、神の為のなげきはかえって我がそしらるる因となれり。

文語訳69篇10節 われ(なみだ)をながして(しよく)をたち わが靈魂(たましひ)をなげかすれば(かへ)りてこれによりて(そしり)をうく
口語訳69篇10節 わたしが断食をもってわたしの魂を悩ませば、かえってそれによってそしりをうけました。
関根訳69篇11節 わたしが断食して自分を苦しめればかえってわたしは多くのそしりを受ける。
新共同69篇11節 わたしが断食して泣けば そうするからといって嘲られ


補註
前半種々の読み方あり、私訳はデリツチによる。


69篇11節われ悲しみと嘆きに耐えかねて麁布(あらたへ)をころもとなししに彼らは我が心を理解せずこのことはかえって彼らの嘲弄の原因となり、かれらが諺語(ことわざ)となりぬ。

文語訳69篇11節 われ麁布(あらたへ)をころもとなししにかれらが諺語(ことわざ)となりぬ
口語訳69篇11節 わたしが荒布を衣とすれば、かえって彼らのことわざとなりました。
関根訳69篇12節 わたしが荒布をわが身にまとえばかえって彼らのあざけりの的となる。
新共同69篇12節 粗布を衣とすれば それもわたしへの嘲りの歌になります。


69篇12節町の*(かど)にすわる(もの)その雑談の中にわがうへを《かたり、彼らにとりて我が態度ははなはだ奇矯なるものの如くに見えて我が噂に耽り、醉酒家(よひどれもの)(うた)(また)(われ)がうへを(かた)る。〕》【かたり、われは酔狂たるものに謳ひはやされたり】歌謡を以てさえも我が上を嘲弄す、我は最早や天下に我が身を置くべき場所さえ無きに至れり。

文語訳69篇12節 (かど)にすわる(もの)はわがうへをかたる われは醉狂(ゑひしれ)たるものに(うた)ひはやされたり
口語訳69篇12節 わたしは門に座する者の話題となり、酔いどれの歌となりました。
関根訳69篇13節 門に座する者はわたしのことを語り酒飲みの歌もわたしのことを語っている。
新共同69篇13節 町の門に座る人々はわたしを非難し 強い酒に酔う者らはわたしのことを歌います。


補註
「門にすはる者」門は都市の中枢機関の所在地であり市民の集合地である。そこに坐する者は市の主要の人物。


〔3〕わが祈り(13−18)
69篇13節(13−18節はゲツセマネの祈を心に描きつつ読むべし)(しか)はあれどエホバよ、(われ)汝の御心にかなう(めぐみ)(とき)(なんぢ)(いの)る、(ねが)はくは(かみ)よ、なんぢの憐憫(あはれみ)のおほきによりてわが苦難をあわれみ(なんぢ)のすくひの眞實(まこと)をもて我をこのなやみより救い出すことによりて(われ)のいのりにこたへ(たま)へ。

文語訳69篇13節 (しか)はあれどヱホバよ われは(めぐみ)のときに(なんぢ)にいのる ねがはくは(かみ)よなんぢの憐憫(あはれみ)のおほきによりて(なんぢ)のすくひの眞實(まこと)をもて(われ)にこたへたまへ
口語訳69篇13節 しかし主よ、わたしはあなたに祈ります。神よ、恵みの時に、あなたのいつくしみの豊 かなるにより、わたしにお答えください。
関根訳69篇14節 しかしわが祈りは、ヤヴェよ、恵みの時にあなたにいたる。神よ、あなたの恵みの大いなるにより、あなたの救いの真実(まこと)をもって、わたしに答えて下さい。
新共同69篇14節 あなたに向かってわたしは祈ります。主よ、御旨にかなうときに 神よ、豊かな慈しみのゆえに わたしに答えて確かな救いをお与えください。


69篇14節ねがはくはわが陥れられし(2節)(ひぢ)のなかより(われ)汝の御手を以てたすけいだして(しづ)まざらしめたまへ、我が力を以て我はこの泥を脱し得ざればなり、また(われ)をにくむものより。《(みづ)(ふか)(ところ)》【深き水】よりたすけいだしたまへ。

文語訳69篇14節 ねがはくは(ひぢ)のなかより(われ)をたすけいだして(しづ)まざらしめたまへ (われ)をにくむものより深水(ふかきみづ)よりたすけいだしたまへ
口語訳69篇14節 あなたのまことの救により、わたしを泥の中に沈まぬよう助け出してください。わたしを憎む者から、また深い水からわたしを助け出してください。
関根訳69篇15節 わたしが(ひじ)の中に沈まないよう、わたしを救いわたしを憎む者と水の深みからわたしを救って下さい。
新共同69篇15節 泥沼にはまり込んだままにならないように わたしを助け出してください。わたしを憎む者から 大水の深い底から助け出してください


69篇15節大水(おほみづ)われを(おほ)ふことなく、(ふち)われをのむことなく、(あな)その(くち)をわがうへに()づることなからしめたまへ。われ曩に(1、2節)既にこれを汝に訴えたり、汝の救なくばわれまさにその中に溺れんとす。

文語訳69篇15節 大水(おほみづ)われを(おほ)ふことなく(ふち)われをのむことなく(あな)その(くち)をわがうへに()づることなからしめたまへ
口語訳69篇15節 大水がわたしの上を流れ過ぎることなく、淵がわたしをのむことなく、穴がその口をわたしの上に閉じることのないようにしてください。
関根訳69篇16節 水がわが上にあふれることなく、深い水がわたしを呑みこまないように、井戸がその口をわたしの上に閉じることのないように。
新共同69篇16節 奔流がわたしを押し流すことのないように 深い沼がわたしをひと呑みにしないように 井戸がわたしの上に口を閉ざさないように。


69篇16節エホバよ、ねがはくはわが祈の声をききわれにこたへたまへ、なんぢの仁慈(いつくしみ)うるはしければ我が苦難を見のがし給わざるべければなり。なんぢの憐憫(あはれみ)《の(おほ)きによりて》【はおほし】われに(かへ)りきたり我をこの恥より逃れしめたまへ。

文語訳69篇16節 ヱホバよねがはくは(われ)にこたへたまへ なんぢの仁慈(いつくしみ)うるはしければなり なんぢの憐憫(あはれみ)はおほしわれに(かへ)りきたりたまへ
口語訳69篇16節 主よ、あなたのいつくしみの深きにより、わたしにお答えください。あなたのあわれみの豊かなるにより、わたしを顧みてください。
関根訳69篇17節 ヴェよ、あなたの豊かな恵みに従ってわたしに答えあなたの多くの(あわ)れみによってわたしを顧みて下さい。
新共同69篇17節 恵みと慈しみの主よ、わたしに答えてください 憐れみ深い主よ、御顔をわたしに向けてください。


69篇17節(みかほ)をなんぢの(しもべ)にかくして僕をして絶望に陥らしめたまふなかれ、《そはわれになやみあればなり、》【われ迫りくるしめり】ねがはくは(すみやか)(われ)にこたへたまへ。我をして何時までもこの耐え得ざる苦しみの中に留らしむるなかれ。

文語訳69篇17節 (みかほ)をなんぢの(しもべ)にかくしたまふなかれ われ(せま)りくるしめり ねがはくは(すみや)かにわれに(われ)にこたへたまへ
口語訳69篇17節 あなたの顔をしもべに隠さないでください。わたしは悩んでいるのです。すみやかにわたしにお答えください。
関根訳69篇18節 み顔をあなたの(しもべ)から隠さないで下さい。わたしは苦しんでいます、早くわたしに答えて下さい。
新共同69篇18節 あなたの僕に御顔を隠すことなく 苦しむわたしに急いで答えてください。


69篇18節ねがわくは我を遠く離れ給わずわがたましひに(ちか)くよりて(これ)をあがなひ、仇の手よりこれを救い出しわが(あた)のゆゑに彼らに誹謗の口実を与えざらんが為に(われ)をすくひ(たま)へ。

文語訳69篇18節 わがたましひに(ちか)くよりて(これ)をあがなひわが(あた)のゆゑに(われ)をすくひたまへ
口語訳69篇18節 わたしに近く寄って、わたしをあがない、わが敵のゆえにわたしをお救いください。
関根訳 69篇19節 わが魂に近く寄ってこれを(あがな)い、わが敵の故にわたしを買い取って下さい。
新共同69篇19節 わたしの魂に近づき、贖い 敵から解放してください。


〔4〕我を慰むる者なし(19−21)
69篇19節(なんぢ)はわがうくる(そしり)(はぢ)侮辱(あなどり)とを()りたまへり、わが(てき)はみな(なんぢ)のみまへにあり。わが苦難は一つとして汝にかくるることなし。

文語訳69篇19節 (なんぢ)はわがうくる(そしり)とはぢと侮辱(あなどり)とをしりたまへり わが(てき)はみな(なんぢ)のみまへにあり
口語訳69篇19節 あなたはわたしの受けるそしりと、恥と、はずかしめとを知っておられます。わたしのあだは皆あなたの前にあります。
関根訳69篇20節 あなたはわがそしり、わが恥、わが辱かしめを知り給う。わたしの敵はみなあなたの前にあります。
新共同69篇20節 わたしが受けている嘲りを 恥を、屈辱を、あなたはよくご存じです。わたしを苦しめる者は、すべて御前にいます。


69篇20節誹謗(そしり)わが(こころ)をくだきぬれば、(われ)*死ぬるばかりなり、》【いたくわづらへり】われわが苦しみに対し憐憫(あはれみ)をあたふる(もの)同情を表する者をまちたれどかかるものは一人(ひとり)だになく(なぐさ)むるものを(まち)たれど、一人(ひとり)をも()ざりき。人より同情を得んとすることもまた絶望となれり。

文語訳69篇20節 讖謗(そしり)わが(こころ)をくだきぬれば(われ)いたくわづらへり われ憐憫(あわれみ)をあたふる(もの)をまちたれど一人(ひとり)だになく (なぐさ)むるものを()ちたれど一人(ひとり)をもみざりき
口語訳69篇20節 そしりがわたしの心を砕いたので、わたしは望みを失いました。わたしは同情する者を求めたけれども、ひとりもなく、慰める者を求めたけれども、ひとりも見ませんでした。
関根訳69篇21節 そしりはわが心を砕き、わたしは病み同情を探し求めたけれども、どこにもなく慰める者を求めたけれども見出さなかった。
新共同69篇21節 嘲りに心を打ち砕かれ わたしは無力になりました。望んでいた同情は得られず 慰めてくれる人も見いだせません。


補註
「いたくわづらへり」の原語は意味不明の語、私訳の如くに取る説多し。


69篇21節然のみならず反対にかれらは(にがき)(くさ)をわが食物(くひもの)にあたへ、わが(かわ)けるときに()をのませたり。かくして彼らは我が苦痛にさらに大なる苦痛を与えたり。

文語訳69篇21節 かれらは苦草(にがきくさ)をわがくひものにあたへ わが(かわ)けるときに()をのませたり
口語訳69篇21節 彼らはわたしの食物に毒を入れ、わたしのかわいた時に酢を飲ませました。
関根訳69篇22節 彼らはわが食物に毒を入れわが渇いた時に酢を飲ませた。
新共同69篇22節 人はわたしに苦いものを食べさせようとし 渇くわたしに酢を飲ませようとします。


〔5〕我はわが仇を詛う(22−28)
69篇22節ねがはくは彼等(かれら)のまへなる歓喜の食卓(しよくたく)》【筵】は変りて彼らを陥るる*(わな)》【網】となり、《安泰(やすらか)なるものの陷穽(おとしあな)となれ。》【そのたのむ安逸はつひに羂となれ】

文語訳69篇22節 ねがはくは彼等(かれら)のまへなる(えん)(あみ)となり そのたのむ安逸(やすき)はつひに(わな)となれ
口語訳69篇22節 彼らの前の食卓を網とし、彼らが犠牲をささげる祭を、わなとしてください。
関根訳69篇23節 彼らの食卓はその前でわなとなりその宴席は(あみ)となれ。
新共同69篇23節 どうか、彼らの食卓が彼ら自身に罠となり 仲間には落とし穴となりますように。


補註
私訳「わな」は網の意味もあるけれどもこの場合「わな」を適当とす。


69篇23節願はくは我らをくるしめしその()をくらくして()えしめず、われらに向って立ちしその(こし)をつねにふるはしめ(たま)へ。かくして彼らの上に大なる苦痛を与えて彼らを懲しめたまえ。

文語訳69篇23節 その()をくらくして()えしめず その(こし)をつねにふるはしめたまへ
口語訳69篇23節 彼らの目を暗くして見えなくし、彼らの腰を常に震わせ、
関根訳69篇24節 彼ら の眼は暗くなって、見えなくなり彼らの腰をたえず、よろめかせて下さい。
新共同69篇24節 彼らの目を暗くして 見ることができないようにし 腰は絶えず震えるようにしてください。


69篇24節(ねが)はくはなんぢの忿恚(いきどほり)をかれらの(うへ)にそそぎ、(なんぢ)の《はげしき(いかり)》【いかりの猛烈】をかれらに《(およ)ぼし》【追及かせ】たまへ。彼らはかく審かるるに相応しきなり。

文語訳69篇24節 (ねが)はくはなんぢの忿恚(いきどほり)をかれらのうへにそそぎ汝のいかりの猛烈(はげしき)をかれらに追及(おひし)かせたまへ
口語訳69篇24節 あなたの憤りを彼らの上にそそぎ、あなたの激しい怒りを彼らに追いつかせてください。
関根訳69篇25節 あなたの怒りを彼らの上に注ぎ、あなたの燃える憤りを彼らに臨ませて下さい。
新共同69篇25節 あなたの憤りを彼らに注ぎ 激しい怒りで圧倒してください。


69篇25節かれらの(いへ)を《()()てしめよ、》【むなしくせよ】その幕屋(まくや)()(ひと)あらざれ。》【人をすまはするなかれ】かくして汝の敵の凡ての家を滅亡に至らしめよ。

文語訳69篇25節 かれらの(いへ)をむなしくせよ その幕屋(まくや)(ひと)をすまはするなかれ
口語訳69篇25節 彼らの宿営を荒し、ひとりもその天幕に住まわせないでください。
関根訳69篇26節 彼らの宿る所は荒地となりその幕屋には住む者がなくなるように。
新共同69篇26節 彼らの宿営は荒れ果て 天幕には住む者もなくなりますように。


69篇26節(そは)かれらは汝に敵するのみならずなんぢがこらしめんとて()ちたまひたる(もの)を《迫害(はくがい)し、》【せめ】て更に一層の苦痛をこれに与え、なんぢが愛の鞭を以て(きずつ)けたまひたるものの(いたみ)さも快心にたえざるものの如くにかたりふるればなり。

文語訳69篇26節 かれらはなんぢが()ちたまひたる(もの)をせめ なんぢが(きずつ)けたまひたるものの(いたみ)をかたりふるればなり
口語訳69篇26節 彼らはあなたが撃たれた者を迫害し、あなたが傷つけられた者をさらに苦しめるからです。
関根訳69篇27節 何故ならあなたの撃たれた者を彼らは迫害しあなたに傷つけられた者の痛みを彼らは増し加えるから。
新共同69篇27節 あなたに打たれた人を、彼らはなおも迫害し あなたに刺し貫かれた人の痛みを話の種にします。


69篇27節ねがはくはかれらの不義(ふぎ)不義(ふぎ)(くは)へて彼らをして益々悪しき者たらしめなんぢの()にあづからせ(たま)ふなかれ。

文語訳69篇27節 ねがはくはかれらの不義(ふぎ)不義(ふぎ)をくはへてなんぢの()にあづからせ(たま)ふなかれ
口語訳69篇27節 彼らに、罰に罰を加え、あなたの赦免にあずからせないでください。
関根訳69篇28節 彼らの罪責を加えに加え、あなたの義に(あずか)らせないで下さい。
新共同69篇28節 彼らの悪には悪をもって報い 恵みの御業に 彼らを決してあずからせないでください。


69篇28節かれらはこの世に生くべきものならねば之*生命(いのち)(ふみ)よりけして(ただ)しきものとともに(しる)さるることなからしめたまへ。

文語訳69篇28節 かれらを生命(いのち)(ふみ)よりけして(ただし)きものとともに(しる)さるゝことなからしめたまへ
口語訳69篇28節 彼らをいのちの書から消し去って、義人のうちに記録されることのないようにしてください。
関根訳69篇29節 彼らが生命の書から消され、彼らが(ただ)しい者と一緒に記録されることのないように。
新共同69篇29節 命の書から彼らを抹殺してください。あなたに従う人々に並べて そこに書き記さないでください。


補註
「生命の書」は旧約時代においては未だ「永遠の生命の書」なる意味には発展せず。


〔6〕われは歓びて感謝せん(*29−36)
69篇29節()くてわれはこれらの敵の故にくるしみ、(かつ)うれひあり、(かみ)よ、ねがはくは(なんぢ)(すくひ)われを(たか)(ところ)に《おきこれらの敵より、またこれらのなやみより遠ざけたまはんことを。》【おかんことを】

文語訳69篇29節 (かく)てわれはくるしみ(かつ)うれひあり (かみ)よねがはくはなんぢの(すくひ)われを高處(たかきところ)におかんことを
口語訳69篇29節 しかしわたしは悩み苦しんでいます。神よ、あなたの救がわたしを高い所に置かれますように。
関根訳69篇30節 しかしわたしは乏しく、悩んでいる。ヤヴェよ、あなたの救いがわたしを(まも)って下さい。
新共同69篇30節 わたしは卑しめられ、苦痛の中にあります。神よ、わたしを高く上げ、救ってください。


補註
29−36節においては本篇初頭の沈痛なる気分が一掃せられ希望と歓喜と感謝とに充てる姿となる。


69篇30節かくして我を救い給わばわれ(うた)をもて(かみ)御名(みな)をほめたたへ、感謝(かんしや)をもて(かみ)をあがめまつらん。

文語訳69篇30節 われ(うた)をもて(かみ)(みな)をほめたたへ感謝(かんしや)をもて(かみ)をあがめまつらん
口語訳69篇30節 わたしは歌をもって神の名をほめたたえ、感謝をもって神をあがめます。
関根訳69篇31節 わたしは歌をもってヤヴェのみ名をほめ感謝の歌をもって彼をたたえよう。
新共同69篇31節 神の御名を賛美してわたしは歌い 御名を告白して、神をあがめます。


69篇31節この感謝と讃美こそはまことに神の喜び給う処なれ、()牡牛(をうし)または(つの)(ひづめ)とある(ちから)つよき牡牛(をうし)をささげものとしてささぐるにまさりてエホバよろこびたまはん。

文語訳69篇31節 ()はをうしまたは(つの)(ひづめ)とある(ちから)つよき牡牛(をうし)にまさりてヱホバよろこびたまはん
口語訳69篇31節 これは雄牛または角とひずめのある雄牛にまさって主を喜ばせるでしょう。
関根訳69篇32節 それは雄牛、角とひづめのある雄牛にまさってヤヴェに悦ばれる。
新共同69篇32節 それは雄牛のいけにえよりも 角をもち、ひづめの割れた牛よりもなお 主に喜ばれることでしょう。


69篇32節(へりくだ)(もの)(これ)()て《よろこばん、》【よろこべり】(かみ)をしたふ(もの)よ、(なんぢ)らの(こころ)()くべし。神の為に苦しむ者の救わるることは凡て彼を信ずるものの最大のよろこびなればなり。

文語訳69篇32節 謙遜者(へりくだるもの)はこれを()てよろこべり (かみ)をしたふ(もの)よなんぢらの(こころ)はいくべし
口語訳69篇32節 へりくだる者は、これを見て喜べ。神を求める者よ、あなたがたの心を生きかえらせよ。
関根訳69篇33節 柔和なる者はこれを見て喜ぶ、ヤヴェを求める者よ、君たちの心は生きる。
新共同69篇33節 貧しい人よ、これを見て喜び祝え。神を求める人々には 健やかな命が与えられますように。


69篇33節エホバは(とも)しきもの《に》【の聲を】きき、その俘囚(とらはれびと)をかろしめ(たま)はざればなり。

文語訳69篇33節 ヱホバは(とも)しきものの(こゑ)をきゝその俘囚(とらはれびと)をかろしめたまはざればなり
口語訳69篇33節 主は乏しい者に聞き、その捕われ人をかろしめられないからである。
関根訳69篇34節 まことにヤヴェは貧しき者に聴きその(とら)われ人を軽しめ給わない。
新共同69篇34節 主は乏しい人々に耳を傾けてくださいます。主の民の捕われ人らを 決しておろそかにはされないでしょう。


69篇34節(てん)()と》【天地はエホバをほめ】蒼海(おほうみ)とその(なか)にうごく(あら)ゆるものとはエホバを()めまつるべし。我も(30節)人も(32節)天地万物もみな挙りてエホバをほめたたうるに至らん。

文語訳69篇34節 天地(あめつち)はヱホバをほめ蒼海(おほうみ)とその(なか)にうごくあらゆるものとはヱホバを()めまつるべし
口語訳69篇34節 天と地は主をほめたたえ、海とその中に動くあらゆるものは主をほめたたえよ。
関根訳69篇35節 天と地と、海とすべてのその中にあるものは彼をほめよ。
新共同 69篇35節 天よ地よ、主を賛美せよ 海も、その中にうごめくものもすべて。


69篇35節(そは)(かみ)はシオンをすくひ、イスラエルの国を興し、ユダの《町々(まちまち)を》【もろもろの邑を】()てたまふべければなり、かれらは其處(そこ)にすみ()つこれをおのが(もの)とせん。世界的神の国はかくしてエルサレムを中心に建てらるるに至らん。

文語訳69篇35節 (かみ)はシオンをすくひユダのもろもろの(まち)()てたまふべければなり かれらは其處(そこ)にすみ(かつ)これをおのが(もの)とせん
口語訳69篇35節 神はシオンを救い、ユダの町々を建て直されるからである。そのしもべらはそこに住んでこれを所有し、
関根訳69篇36節 まことにヤヴェはシオンを救いユダの町々を建てたもう。彼らはそこに住まい、それを()る。
新共同69篇36節 神は必ずシオンを救い ユダの町々を再建してくださる。彼らはその地に住み、その地を継ぐ。


69篇36節その(しもべ)(すゑ)(また)これを()て神の国を永遠ならしめその御名(みな)をいつくしむ(もの)その(なか)にすまん。彼らはこれをその永遠の住家とせん。

文語訳69篇36節 その(しもべ)のすゑも(また)これを()ぎその(みな)をいつくしむ(もの)その(なか)にすまん
口語訳69篇36節 そのしもべらの子孫はこれを継ぎ、み名を愛する者はその中に住むであろう。
関根訳69篇37節 その(しもべ)(すえ)はそれを()ぎそのみ名を愛する者はそこに住むであろう。
新共同69篇37節 主の僕らの子孫はそこを嗣業とし 御名を愛する人々はその地に住み着く。