黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第7篇

関根訳神の審判

文語訳( )ベニヤミンの(ひと)クシの(ことば)につきダビデ、ヱホバに(むか)ひてうたへるシガヨンの(うた)
口語訳ベニヤミンびとクシのことについてダビデが主にむかってうたったシガヨンの歌
関根訳7篇1節ダビデのシガヨーンの歌。ベニヤミン人クシのことについて、彼がヤヴェに向かって歌ったもの。
新共同7篇1節【シガヨン。ダビデの詩。ベニヤミン人クシュのことについてダビデが主に向かって歌ったもの。】

義しき者に対する激しき迫害は結局においてエホバの審きを受けて、義しき者の勝利に帰することの確信をもって歌える詩である。自己の正義に対する確信と、義しき者を必ず護り給うエホバの神に対する信頼とが全詩を貫いている。サムエル前19−26章の記事を読み、サウルに迫害さるゝダビデの詩としてこれを読むべし。クシの何人なるかは不明である。多分サウルの輩下の一人でダビデを讒言せる者の名であろう。この不明の名が表題の中に残っている事は、この表題、従ってこの詩の極めて古きことを示す。シガヨンは激情に動かされて歌う歌の意ならん。


篇補註
本篇中に難解な箇所多し、古き詩なるが為ならん。


〔1〕我は正し、我を救い給え(1−5)
7篇1節わが(かみ)エホバよ、(われ)今理由なくして多くの仇より激しき迫害を受けているけれども決して汝を疑うことをせず唯(なんぢ)によりたのむ、汝は我が避所に在し給う。(ねが)はくは我を殺さんと図るすべての(おひ)せまるものより(われ)をすくひて彼らの害を免れしめ(われ)をたすけて彼らを防がしめたまへ。

文語訳7篇1節 わが(かみ)ヱホバよわれ(なんぢ)によりたのむ (ねが)はくはすべての()ひせまるものより(われ)をすくひ(われ)をたすけたまへ
口語訳7篇1節 わが神、主よ、わたしはあなたに寄り頼みます。どうかすべての追い迫る者からわたしを救い、わたしをお助けください。
関根訳7篇2節 わが神ヤヴェよ、わたしはあなたの中に隠れる。わたしを迫害するすべての者からわたしを助けわたしを救って下さい。
新共同7篇2節 わたしの神、主よ、あなたを避けどころとします。わたしを助け、追い迫る者から救ってください。


7篇2節もし汝我を援け給うにあらずばおそらくは、*かれ、(サウル)我を悪しき者として(しし)(ごと)くわが霊魂(たましひ)わが生命をかき(やぶ)(たす)くるものなき()にさきてずたずたに()ん。

文語訳7篇2節 おそらくはかれ(しし)(ごと)くわが靈魂(たましひ)をかきやぶり(たす)くるものなき()にさきてずたずたに()
口語訳7篇2節 さもないと彼らは、ししのように、わたしをかき裂き、助ける者の来ないうちに、引いて行くでしょう。
関根訳7篇3節 救う者も助ける者もないままに人が獅子(しし)のようにわが生命をかき裂く事のないように。
新共同7篇3節 獅子のようにわたしの魂を餌食とする者から だれも奪い返し、助けてくれないのです。


補註
「かれ」単数、サウルを指すならん。


7篇3節わが(かみ)エホバよ、もしわれ彼らの云うごとくに*()よこしまなる(こと)をなししならんには、(もし)またわが()彼らの唱うるごときよこしまの(まつは)りをらんには、

文語訳7篇3節 わが(かみ)ヱホバよ もしわれ比事(このこと)をなししならんには わが()によこしまの(まつ)はりをらんには
口語訳7篇3節 わが神、主よ、もしわたしがこの事を行ったならば、もしわたしの手によこしまな事があるならば、
関根訳7篇4節 わが神ヤヴェよ、わたしが()しこの事をしたならば、わが手の中に不義があるならば、
新共同7篇4節 わたしの神、主よ もしわたしがこのようなことをしたのなら わたしの手に不正があり


補註
「此の事」と云いて一般に理解さるる程、内容は明かなる事柄であった。


7篇4節《若しわれ恩を仇として禍害(わざはひ)をもて(した)しき(もの)にむくいたらんには ── (われ)(ゆえ)なく(あだ)する(もの)をも(すく)ひしなり ── 

文語訳7篇4節 (ゆゑ)なく(あた)するものをさへ(たす)けしに禍害(わざはひ)をもてわが(とも)にむくいしならんには
口語訳7篇4節 もしわたしの友に悪をもって報いたことがあり、ゆえなく、敵のものを略奪したことがあるならば、
関根訳7篇5節 わが友に悪を返し故なくわたしを苦しめる者を奪い(かす)めたことがあれば、
新共同7篇5節 仲間に災いをこうむらせ 敵をいたずらに見逃したなら


7篇5節我に対する罰として(あだ)をしてわがたましひを()ひて(これ)をとらしめ、わが生命(いのち)(つち)()みにじらしめ、わが神より与えられし*(さかえ)(ちり)(なか)()らしめ(たま)へ。》【(ゆゑ)なく(あた)ずるものをさへ(たす)けしに禍害(わざはひ)をもてわが(とも)にむくいしならんには、よし仇人(あだびと)わがたましひを(おひ)とらへ、わが生命(いのち)をつちにふみにじりわが(さかえ)(ちり)におくとも、その()すにまかせよ】もし我に罪あらば我はかかる刑罰をすら甘んじて受けるであろう。セラ。

文語訳7篇5節 よし仇人(あたびと)わがたましひを()ひとらへ わが生命(いのち)をつちにふみにじり わが(さかえ)(ちり)におくとも その()すにまかせよ セラ
口語訳7篇5節 敵にわたしを追い捕えさせ、わたしの命を地に踏みにじらせ、わたしの魂をちりにゆだねさせてください。[セラ
関根訳7篇6節 敵がわが生命を追跡し追い迫ってわが生命を地にふみにじりわが栄えを(ちり)に伏させてもよい。セラ
新共同7篇6節 敵がわたしの魂に追い迫り、追いつき わたしの命を地に踏みにじり わたしの誉れを塵に伏せさせても当然です。〔セラ


補註
[栄」を生命または心の意味にも解し得るけれども(16:9。30:12。57:8)、ここでは普通の意味に取る方可。


〔2〕エホバよ審き給え(6−11)
7篇6節エホバよ、かかる非道なる仇に対いてなんぢの(いかり)をもて()き、わが(あた)のいきどほりにむかひて()上りて彼らをこらしめたまへ、(3:7。9:19。10:12。44:23等)またわがために()をさまして我が苦しみに目を止め(たま)へ、なんぢは審判(さばき)をおほせ(いだ)したまへり。審き給うことは汝の御旨なればなり。

文語訳7篇6節 ヱホバよなんぢの(いかり)をもて()きわが(あた)のいきどほりにむかひて()ちたまへ わがために()をさましたまへ なんぢは審判(さばき)をおほせ(いだ)したまへり
口語訳7篇6節 主よ、怒りをもって立ち、わたしの敵の憤りにむかって立ちあがり、わたしのために目をさましてください。あなたはさばきを命じられました。
関根訳7篇7節 ヴェよ、あなたの怒りをもって立ち上がり、わが敵への(いきどおり)をもって自らをもたげわがために目覚めて、審判(さばき)を命じ給え。
新共同7篇7節 主よ、敵に対して怒りをもって立ち上がり 憤りをもって身を起こし わたしに味方して奮い立ち 裁きを命じてください。


7篇7節その審判のためには証人として(たみ)ら》【もろもろの國人(くにびと)】の(つどひ)がなんぢのまはりに(つど)はしめ、(その)(うへ)なる*高座(たかみくら))審判主として()し》【かへり】たまえ。

文語訳7篇7節 もろもろの國人(くにびと)(つどひ)をなんぢのまはりに(つど)はしめ 其上(そのうへ)なる高座(たかみくら)にかへりたまへ
口語訳7篇7節 もろもろの民をあなたのまわりにつどわせ、その上なる高みくらにおすわりください。
関根訳7篇8節 もろもろの民の集いをしてあなたを囲ませあなたはその上に高御座(たかみくら)に座し給え。
新共同7篇8節 諸国をあなたの周りに集わせ 彼らを超えて高い御座に再び就いてください。


補註
「高座にかへりたまへ」は審判が終って帰るという意味よりも、「坐したまへ」の意味と解する方適当である。


7篇8節エホバは全世界の審判主に在し給えば〔もろもろの〕(たみ)(ら)にさばきを(おこな)ひたまふ。我が仇も我も汝の審判の下にあり。エホバよ、願わくは仇の言の真偽をためし、わが正義(ただしき)とわが(うち)なる完全(またき)とにしたがひて(われ)をさばき給へ、我は何らの疚(やま)しきことなく、欠けたることもなし(これは敵の非難する諸点につき云う、絶対の無罪完全の意味ではない)。

文語訳7篇8節 ヱホバはもろもろの(たみ)にさばきを(おこな)ひたまふ ヱホバよわが 正義(ただしき)とわが(うち)なる 完全(またき)とにしたがひて(われ)をさばきたまへ
口語訳7篇8節 主はもろもろの民をさばかれます。主よ、わたしの義と、わたしにある誠実とに従って、わたしをさばいてください。
関根訳7篇9節 ヴェはもろもろの民を(さば)かれる。ヤヴェよ、わが義とわれの(まった)きに従ってわたしを審き給え。
新共同7篇9節 主よ、諸国の民を裁いてください。主よ、裁きを行って宣言してください お前は正しい、とがめるところはないと。


*7篇9節(ねが)はくは(あし)きものがその行う処曲事(ひがわざ)によって我を害することなきようこれをたちて(ただ)しきものを(かた)くしこれをして永遠に栄えしめたまへ、(ただ)しき(かみ)(ひと)上辺を見ず深くそのこころと(むらと)とをさぐり()人の感情も思想もみなこれを明かに認識したまふ。それ故になんぢ審き給うとき悪しきものは滅ぼされ、義しき者は永遠に堅く立たしめられる。

文語訳7篇9節 ねがはくは()しきものの曲事(ひがわざ)をたちて(ただし)きものを(かた)くしたまへ たゞしき(かみ)(ひと)のこころと(むらと)とをさぐり()りたまふ
口語訳7篇9節 どうか悪しき者の悪を断ち、正しき者を堅く立たせてください。義なる神よ、あなたは人の心と思いとを調べられます。
関根訳7篇10節 悪しき者の悪に報い、(ただ)しき者を立たせ給え。義しき神は心と(むらと)とを探り知られる。
新共同7篇10節 あなたに逆らう者を災いに遭わせて滅ぼし あなたに従う者を固く立たせてください。心とはらわたを調べる方 神は正しくいます。


補註
(エレミヤ11:20。17:10。20:12。ヘブル4:12。黙示2:23)。


7篇10節 わが*(たて)をとるものわが守護者となり給うもの(こころ)のなほきものを救(ひたま)ふ(かみ)にして、我は己の義を確信するが故に彼に依頼みて毫も恐るることなきなり。

文語訳7篇10節 わが(たて)をとるものは(こころ)のなほきものをすくふ(かみ)なり
口語訳7篇10節 わたしを守る盾は神である。神は心の直き者を救われる。
関根訳7篇11節 わが上なる盾は神、彼は心の直き者を救われる。
新共同7篇11節 心のまっすぐな人を救う方 神はわたしの盾。


補註
「盾」は大盾、5:12。


7篇11節而してこの*(かみ)はただしき審士(さばきびと)にして不義を見遁し給うことなく、不義に対してはひごとに忿恚(いきどほり)をおこし(たま)*(える)なるが故に、われに対する仇の不義に対しても大なる忿恚を発し給うは当然なり。

文語訳7篇11節 (かみ)はたゞしき審士(さばきびと)ひごとに忿恚(いきどほり)をおこしたまふ(かみ)なり
口語訳7篇11節 神は義なるさばきびと、日ごとに憤りを起される神である。
関根訳7篇12節 神は義しき審き主、神は日毎に憤りを起こされる。
新共同7篇12節 正しく裁く神 日ごとに憤りを表す神。


補註
前の「神」はエロヒーム、後の「神」はエル。


〔2〕神の義しきさばき(12−17)
7篇12節(ひと)もしその悪を悔い改めて立ちかへらずば、*(かみ)はその(つるぎ)をとぎ、その(ゆみ)をはりてかまへ、戦闘の準備をして彼に立ちむかい給い、

文語訳7篇12節 (ひと)もしかへらずば(かみ)はその(つるぎ)をとぎ その(ゆみ)をはりてかまへ
口語訳7篇12節 もし人が悔い改めないならば、神はそのつるぎをとぎ、その弓を張って構え、
関根訳7篇13節 まことに敵は再びその剣をとぎ、弓をつがえてねらう。
新共同7篇13節 立ち帰らない者に向かっては、剣を鋭くし 弓を引き絞って構え


補註
「神は」原文になし、従ってこれを「其人は」とも読むことを得、かく解すれば12、13節はダビデの仇人がダビデを迫害するための武装を意味することとなる。


7篇13節これに()(うつは)をそなへて彼を死に至らしめ、その()()をそへて彼を焼き尽し (たま)はん。 かくして神の審きは完膚なきまでにわが仇の上に下らん。

文語訳7篇13節 これに()(うつは)をそなへ その()()をそへたまはん
口語訳7篇13節 また死に至らせる武器を備え、その矢を火矢とされる。
関根訳7篇14節 だが彼は自らのために死の武器をかまえ、その矢を火矢とする。
新共同7篇14節 殺戮の武器を備え 炎の矢を射かけられます。


7篇14節()よ、彼の審判彼の上に望むが故にその(ひと)はよこしまを(うま)んとして産に臨める婦のごとくにくるしむ、人を害せんとしてかえって自ら苦しむことは神の審判による、彼はまた殘害(そこなひ)をはらみ虚偽(いつはり)をうむなり。彼らの手によって凡ての悪事が行わることは取りもなおさず神の審判である。

文語訳7篇14節 ()よその(ひと)はよこしまを()まんとしてくるしむ 殘害(そこなひ)をはらみ虚僞(いつはり)をうむなり
口語訳7篇14節 見よ、悪しき者は邪悪をはらみ、害毒をやどし、偽りを生む。
関根訳7篇15節 みよ、彼は不義をやどし、不法をはらみ、偽りを生む。
新共同7篇15節 御覧ください、彼らは悪をみごもり 災いをはらみ、偽りを生む者です。


7篇15節また彼は我を陥れんとして(あな)をほりてふかくし、我を狙うにかかわらず、我はこれに陥らずして(おのれ)がつくれるその(みぞ)におちいれり。彼らは我を害せんとして自己の墓穴をほる。

文語訳7篇15節 また(あな)をほりてふかくし(おのれ)がつくれるその(みぞ)におちいれり
口語訳7篇15節 彼は穴を掘って、それを深くし、みずから作った穴に陥る。
関根訳7篇16節 彼は穴をうがち、それを掘り、自らつくったその落し穴に陥る。
新共同7篇16節 落とし穴を掘り、深くしています 仕掛けたその穴に自分が落ちますように。


7篇16節その殘害(そこなひ)我に来たらずして神の御手によりておのが(かうべ)にかへり、その強暴(あらび)己が思に反しておのが頭上(いただき)にくだらん。神の審判は実に鮮やかに悪しき者の上に降る。

文語訳7篇16節 その殘害(そこなひ)はおのが(かうべ)にかへり その強暴(あらび)はおのが頭上(いただき)にくだらん
口語訳7篇16節 その害毒は自分のかしらに帰り、その強暴は自分のこうべに下る。
関根訳7篇17節 その禍害(わざわい)は彼の(こうべ)に帰り、その暴逆はその頭上に下る。
新共同7篇17節 災いが頭上に帰り 不法な業が自分の頭にふりかかりますように。


7篇17節かくして我は我が義の故に救わるるが故にわれその神の()《のゆえ故に》【によりて】エホバに感謝(かんしゃ)し、いとたかきエホバの御名(みな)をほめうたはん。

文語訳7篇17節 われその()によりてヱホバに感謝(かんしや)し いとたかきヱホバの(みな)をほめうたはん
口語訳7篇17節 わたしは主にむかって、その義にふさわしい感謝をささげ、いと高き者なる主の名をほめ歌うであろう。
関根訳7篇18節 わたしはヤヴェをその義の故にほめ(たた)えいと高きヤヴェのみ名を歌おう。
新共同7篇18節 正しくいます主にわたしは感謝をささげ いと高き神、主の御名をほめ歌います。