黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第72篇

関根訳秩序としての義

文語訳( )ソロモンのうた
口語訳ソロモンの歌

第二巻の末尾にあるこの詩はソロモンの治世を美化し理想化することによりてエホバの支配を讃美せるものであり、而してエホバの支配を、その地上の代表者である王の支配について讃美しているのである。従って全篇王の正義による支配を頌へ、王の國即ちその統治が全世界に及ばん事を祈願し、而して王の上に神の祝福を祈りその聖壽無窮を祈って居るのを見る。従ってこの詩はソロモンの作かまたはソロモンについて歌えるものと見ることが事実に最も適当しているけれども、如何なる王といえどもその支配を理想化することにより、この詩の作者または主題となることを得。この理想化の結果本篇はメシヤ王国の詩として最も適当であり、事実霊的メシヤ王国においてのみこの詩の理想が最も完全に実現せらるるに至るのである。1−7節は王の義しき統治を祈り、8−14節はその世界的支配を希求し、15−17節は王の万歳を祈る、18、19、20節は第三篇全体の結尾なり。


〔1〕主の義しき統治に対する希望(1−7)
72篇1節(かみ)よ、ねがはくは(なんぢ)の〔もろもろの〕公平なる審判(さばき)を行う心(わう)にあたへ、なんぢの()(わう)()にして今位に即ける王にあたへたまへ。王は地上において汝の代表者なればなり。

文語訳72篇1節 (かみ)よねがはくは(なんぢ)のもろもろの審判(さばき)(わう)にあたへ なんぢの()(わう)()にあたへたまへ
口語訳72篇1節 神よ、あなたの公平を王に与え、あなたの義を王の子に与えてください。
関根訳72篇1節 ソロモンによる。ヤヴェよ、あなたの正しさを王に与え、あなたの義を王の子に与えて下さい。
新共同72篇1節 【ソロモンの詩。】神よ、あなたによる裁きを、王に あなたによる恵みの御業を、王の子に お授けください。


72篇2節かれは((せい)()をもてなんぢの(たみ)をさばき、公平(こうへい)をもて(くる)しむものを(さば)かん(王者の徳の最も高きことの表われは弱者に対する公平なる裁判なり)

文語訳72篇2節 かれは()をもてなんぢの(たみ)をさばき公牛(こうへい)をもて(くる)しむものを(さば)かん
口語訳72篇2節 彼は義をもってあなたの民をさばき、公平をもってあなたの貧しい者をさばくように。
関根訳72篇2節 彼が義をもってあなたの民を審き、正しさをもってあなたの貧しい者を審くように。
新共同72篇2節 王が正しくあなたの民の訴えを取り上げ あなたの貧しい人々を裁きますように。


72篇3節(せい)()によりて(やま)(をか)に富めるパレスチナの土地(たみ)平康(やすき)を《(きた)らす》【あたふ】べし。

文語訳72篇3節 ()によりて(やま)(をか)とは(たみ)平康(やすき)をあたふべし
口語訳72篇3節 もろもろの山と丘とは義によって民に平和を与えるように。
関根訳72篇3節 山々は民に平和をもたらし丘は義をもたらすように。
新共同72篇3節 山々が民に平和をもたらし 丘が恵みをもたらしますように。


72篇4節かれは殊に鰥寡孤独(かんかこどく)をあわれみ、その(たみ)のくるしむもののために公平なる審判(さばき)をなし、(とも)しきものの子等(こら)恵みてこれをすくひ、かかる弱者を(しへた)ぐるものを(くだ)きたまはん。

文語訳72篇4節 かれは(たみ)のくるしむ(もの)のために審判(さばき)をなし(とも)しきものの子輩(こら)をすくひ(しへた)ぐるものを(くだ)きたまはん
口語訳72篇4節 彼は民の貧しい者の訴えを弁護し、乏しい者に救を与え、しえたげる者を打ち砕くように。
関根訳72篇4節 彼は民の貧しい者のために裁きしいたげを行なう者を砕いて、貧窮の子らを救うように。
新共同72篇4節 王が民を、この貧しい人々を治め 乏しい人の子らを救い 虐げる者を砕きますように。


72篇5節かれらは《*日月(じつげつ)とともに永遠(とこしへ)(なんぢ)をおそれん。》【日と月とのあらんかぎり世々おしなべて汝をおそるべし】

文語訳72篇5節 かれらは()(つき)とのあらんかぎり(よよ)々おしなべて(なんぢ)をおそるべし
口語訳72篇5節 彼は日と月とのあらんかぎり、世々生きながらえるように。
関根訳72篇5節 彼は日とともに生き続け月のあらん限り代々生き続けるように。
新共同72篇5節 王が太陽と共に永らえ 月のある限り、代々に永らえますように。


補註
「日月と共に」は直訳「太陽と共に及び月の前に」となる。「汝をおそれん」は少しく文字を修正して「彼はながらへん」とすれば前後の関係に適す、七十人訳はかく読みたるものの如し。


72篇6節かれは牧草を()りとれる後の(まき)())にふる(あめ)のごとく、その恩恵を以て全国をうるおし、(つち)をうるほす白雨(むらさめ)のごとくその支配する地の上に()らん。》【のぞまん】かくて彼は全地のよろこびとならん。

文語訳72篇6節 かれは()りとれる(まき)にふる(あめ)のごとく(つち)をうるほす白雨(むらさめ)のごとくのぞまん
口語訳72篇6節 彼は刈り取った牧草の上に降る雨のごとく、地を潤す夕立のごとく臨むように。
関根訳72篇6節 彼は牧に下る露のように下り地をうるおす夕立のように臨むように。
新共同72篇6節 王が牧場に降る雨となり 地を潤す豊かな雨となりますように。


72篇7節かれの()(ただ)しき(もの)その所を得て(さか)え、平和(へいわ)*(つき)のうするまで永遠までも(ゆたか)ならん。

文語訳72篇7節 かれの()にたゞしき(もの)はさかえ平和(へいわ)(つき)のうするまで(ゆた)かならん
口語訳72篇7節 彼の世に義は栄え、平和は月のなくなるまで豊かであるように。
関根訳72篇7節 彼の治世()に義は栄え平和は月のなくなるまで満ちるように。
新共同72篇7節 生涯、神に従う者として栄え 月の失われるときまでも 豊かな平和に恵まれますように。


補註
月は消失することがない。


〔2〕王の世界的統治(8−14)
72篇8節(かれ)は》【またその政治は】*(うみ)より(うみ)《まで、》【にいたり】*(かは)より()のはて《まで支配(しはい)せん。》【におよぶべし】全世界は彼の善政の布かるる処とならん。

文語訳72篇8節 またその政治(まつりごと)(うみ)より(うみ)にいたり(かは)より()のはてにおよぶべし
口語訳72篇8節 彼は海から海まで治め、川から地のはてまで治めるように。
関根訳72篇8節 彼は海から海まで河から地の果てまで治めるように。
新共同72篇8節 王が海から海まで 大河から地の果てまで、支配しますように。


補註
「海より海に」云々は出エジプト23:31の思想の引用。「河」はユーフラテ河。


72篇9節アラビヤの種族の如き()にをる(もの)はその王に服従してその(まへ)(かが)み、そり(あた)征服せられて地に伏し(ちり)をなめん。

文語訳72篇9節 ()にをる(もの)はそのまへに(かが)み その(あた)(ちり)をなめん
口語訳72篇9節 彼のあだは彼の前にかがみ、彼の敵はちりをなめるように。
関根訳72篇9節 その敵は彼の前にかがみその仇は(ちり)をなめるように。
新共同72篇9節 砂漠に住む者が彼の前に身を屈め 敵が塵をなめますように。


*72篇10節地中海の西端なるスペインの海港タルシシおよび地中海の島々(しまじま)(わう)たちは彼の臣下となりて彼に(みつぎ)ををさめ、アラビヤの東南端なるシバと、アフリカの東岸セバ等遠くの富裕なる国々(わう)たちは彼に敬意を表して禮物(いやしろ)をささげん、

文語訳72篇10節 タルシシおよび(しまじま)々の(わう)たちは(みつぎ)ををさめシバとセバの(わう)たちは禮物(いやしろ)をささげん
口語訳72篇10節 タルシシおよび島々の王たちはみつぎを納め、シバとセバの王たちは贈り物を携えて来るように。
関根訳72篇10節 タルシシと島々の王たちは贈り物をもたらしシェバとセバの王たちは貢物を入れるように。
新共同72篇10節 タルシシュや島々の王が献げ物を シェバやセバの王が貢ぎ物を納めますように。


補註
10、11節。ソロモンの治世を思い起さしめられる。


*72篇11節もろもろの(わう)はそのまへに俯伏(ひれふ)て臣従をちかいもろもろの(くに)(たみ))はかれにつかへん。

文語訳72篇11節 もろもろの(わう)はそのまへに俯伏(ひれふ)し もろもろの(くに)はかれにつかへん
口語訳72篇11節 もろもろの王は彼の前にひれ伏し、もろもろの国民は彼に仕えるように。
関根訳72篇11節 すべての王たちは彼の前に平伏(ひれふ)しすべての(やから)は彼に仕えるように。
新共同72篇11節 すべての王が彼の前にひれ伏し すべての国が彼に仕えますように。


72篇12節(そは)かれは暴力による征服者に非ず、恩恵に富める王者であり(とも)しき(もの)をその(さけ)ぶときにすくひ、(たす)けなき(くる)しむ(もの)を〔たすけ、〕

文語訳72篇12節 かれは(とも)しき(もの)をその(さけ)ぶときにすくひ (たすけ)なき(くる)しむ(もの)をたすけ
口語訳72篇12節 彼は乏しい者をその呼ばわる時に救い、貧しい者と、助けなき者とを救う。
関根訳72篇12節 げに彼は助けを求める貧窮の者と助け手なき貧しい者を救う。
新共同72篇12節 王が助けを求めて叫ぶ乏しい人を 助けるものもない貧しい人を救いますように。


72篇13節(よわ)きものと(とも)しき(もの)とをあはれみ、これに力と助けを与え、(とも)しきもの必要を強く感じているもの霊魂(たましひ)をすくひ、

文語訳72篇13節 (よわ)きものと(とも)しき(もの)とをあはれみ(とも)しきものの靈魂(たましひ)をすくひ
口語訳72篇13節 彼は弱い者と乏しい者とをあわれみ、乏しい者のいのちを救い、
関根訳72篇13節 乏しい者と貧窮の者をあわれみ貧しい者の生命を救い
新共同72篇13節 弱い人、乏しい人を憐れみ 乏しい人の命を救い


72篇14節かれらのたましひを暴虐(しへたげ)強暴(あらび)圧制と暴力とよりあがなひたまふ、その()すなわち彼らの生命はみまへに(たふと)かるべし。王は人民の中の弱者に殊にその思いを注ぐ。

文語訳72篇14節 かれらのたましひを暴虐(しへたげ)強暴(あらび)とよりあがなひたまふ その()はみまへに(たふと)かるべし
口語訳72篇14節 彼らのいのちを、しえたげと暴力とからあがなう。彼らの血は彼の目に尊い。
関根訳72篇14節 圧制と暴力から彼らの生命を(あがな)う。彼らの血はその眼に貴重だからである。
新共同72篇14節 不法に虐げる者から彼らの命を贖いますように。王の目に彼らの血が貴いものとされますように。


〔3〕王よ生命長かれ(15−17)
72篇15節*かれ〔ら〕は(ながら)ふべし、聖寿無窮。この王に対し(ひと)はシバの黄金(こがね)をささげ〔て〕彼をあがめかれのために(つね)にいのりてその幸福を求め、終日(ひねもす)かれを《祝福(しゆくふく)せん。》【いははん】

文語訳72篇15節 かれらは(ながら)ふべし (ひと)はシバの黄金(こがね)をささげてかれのために(つね)にいのり終日(ひねもす)かれをいははん
口語訳72篇15節 彼は生きながらえ、シバの黄金が彼にささげられ、彼のために絶えず祈がささげられ、ひねもす彼のために祝福が求められるように。
関根訳72篇15節 彼は生き、シェバの金が彼に与えられ人はたえず彼のために祈り日毎に彼を祝するように。
新共同72篇15節 王が命を得ますように。彼にシェバの黄金がささげられますように。彼のために人々が常に祈り 絶え間なく彼を祝福しますように。


補註
「かれら」は原文「かれ」現行訳は英改訳によれるもので、「かれ」を前節の「かれら」と同一と解するもの。


72篇16節然のみならず王の善政の為に国民は繁栄し(くに)のうち五穀(たなつもの)ゆたかにして、その()はレバノンの香柏の(ごと)く、(やま)のいただきにそよぎ、(まち)人々(ひとびと)()(くさ)のごとく(さか)《えん。》【ゆべし】

文語訳72篇16節 (くに)のうち五穀(たなつもの)ゆたかにしてその()はレバノンのごとく(やま)のいただきにそよぎ(まち)人々(ひとびと)()(くさ)のごとく(さか)ゆべし
口語訳72篇16節 国のうちには穀物が豊かにみのり、その実はレバノンのように山々の頂に波打ち、人々は野の草のごとく町々に栄えるように。
関根訳72篇16節 その地には穀物が満ちあふれ山々の頂きにも群を()いレバノンのようにその()は栄え野の草のように盛んならんことを。
新共同72篇16節 この地には、一面に麦が育ち 山々の頂にまで波打ち その実りはレバノンのように豊かで 町には人が地の青草ほどにも茂りますように。


72篇17節かれの()は《永遠(とこしへ)(そん)し、その()太陽(たいやう)(まへ)に、すなわち太陽の照りかがやく限り*(かた)()たん、》【つねにたえずかれの名は日の久しきごとくに絶ゆることなし】また神がアブラハムの子孫に約束し給いし如く(創世12:3。17:4−8)(ひと)はかれによりて福祉(さいはひ)をえ〔ん〕、もろもろの(くに)(びと))はかれをさいはひなる(もの)ととなへん。

文語訳72篇17節 かれの()はつねにたえず かれの()()(ひさ)しきごとくに()ゆることなし (ひと)はかれによりて福祉(さいはひ)をえん もろもろの(くに)はかれをさいはひなる(もの)ととなへん
口語訳72篇17節 彼の名はとこしえに続き、その名声は日のあらん限り、絶えることのないように。人々は彼によって祝福を得、もろもろの国民は彼をさいわいなる者ととなえるように。
関根訳72篇17節 彼の名はとこしえに続き日のあらん限りその名は栄えすべての族は彼にあって祝福され彼をほめたたえるであろう。
新共同72篇17節 王の名がとこしえに続き 太陽のある限り、その名が栄えますように。国々の民は皆、彼によって祝福を受け 彼を幸いな人と呼びますように。


補註
「絶ゆることなし」を文字を少しく修正して「堅く立つ」と訳す。七十人訳もこれによる。


〔4〕頌栄(18−20)
72篇18節《ほむべきかなイスラエルの(かみ)なるエホバ(かみ)、ただ(かれ)のみ(くす)しき御業(みわざ)をなしたまふ。》【ただイスラエルの神のみ奇しき御業をなしたまへり、神エホバはほむべきかな】

文語訳72篇18節 ただイスラエルの(かみ)のみ(くす)しき事跡(みわざ)をなしたまへり (かみ)ヱホバはほむべきかな
口語訳72篇18節 イスラエルの神、主はほむべきかな。ただ主のみ、くすしきみわざをなされる。
関根訳72篇18節 イスラエルの神ヤヴェはほむべきかな、彼はひとり不思議なるわざをなし給う。
新共同72篇18節 主なる神をたたえよ イスラエルの神 ただひとり驚くべき御業を行う方を。


72篇19節その榮光(えいくわう)の(()()は《永遠(とこしへ)に》【世々に】ほむべきかな、全地(ぜんち)はその榮光(えいくわう)にて滿()つべし。アーメン、アーメン。

文語訳72篇19節 その榮光(えいくわう)()はよよにほむべきかな全地(ぜんち)はその榮光(えいくわう)にて滿()つべし アーメン アーメン
口語訳72篇19節 その光栄ある名はとこしえにほむべきかな。全地はその栄光をもって満たされるように。アァメン、アァメン。
関根訳72篇19節 その栄あるみ名はとこしえにほむべきかな、その栄光は全地に満ちる。アーメン、アーメン。
新共同72篇19節 栄光に輝く御名をとこしえにたたえよ 栄光は全地を満たす。アーメン、アーメン。


72篇20節ヱッサイの()ダビデの(いのり)なるこの詩篇集*をはりぬ。

文語訳72篇20節 エサイの()ダビデの(いのり)はをはりぬ
口語訳72篇20節 エッサイの子ダビデの祈は終った。
関根訳72篇20節 イシャイの子、ダビデの祈りは終わった。
新共同72篇20節 エッサイの子ダビデの祈りの終り。


補註
「終りぬ」この詩集の編者はこの以後のダビデのうたにつき知らざるものと見なければならぬ。