黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第79篇

関根訳み栄えのために

文語訳( )アサフのうた
口語訳アサフの歌

本篇の性質につきては74篇諸言を見よ。本篇内容においても形式においても第74篇に極似している。1−4節に敵の為に聖所が涜されしこと、5−9節にエホバに対する愁訴、9−13節に祈願を述ぶ。


〔1〕苦難(1−4)
79篇1節あゝ(かみ)よ、〔もろもろの〕汝を信ぜざる異邦人(ことくにびと)(ら)はなんぢの嗣業(ゆづり)()なるパレスチナををかし、なんぢの(きよ)(みや)をけがしエルサレムを〔こぼちて〕礫堆(いしづか)となして汝の聖地をことごとく荒し、

文語訳79篇1節 あゝ(かみ)よ もろもろの異邦人(ことくにびと)はなんぢの嗣業(ゆづり)()ををかし なんぢの聖宮(きよきみや)をけがしエルサレムをこぼちて礫堆(いしづか)となし
口語訳79篇1節 神よ、もろもろの異邦人はあなたの嗣業の地を侵し、あなたの聖なる宮をけがし、エルサレムを荒塚としました。
関根訳79篇1節 アサフの歌。ヤヴェよ、異教の民はあなたの嗣業を侵し、あなたの聖なる宮居(みやい)を汚し、エルサレムを廃墟にした。
新共同79篇1節 【賛歌。アサフの詩。】神よ、異国の民があなたの嗣業を襲い あなたの聖なる神殿を汚し エルサレムを瓦礫の山としました。


79篇2節なんぢの(しもベ)(ら)なるイスラエルの民のしかばねを葬る能わざるままに(そら)(とり)(あた)へて()となし、なんぢの聖徒(せいと)(にく)露天に放置して()のけものにあたへ、

文語訳79篇2節 なんぢの()ベ)のしかばねをそらの(とり)(あた)へて()となし なんじの聖徒(せいと)(にく)()のけものにあたへ
口語訳79篇2節 彼らはあなたのしもべのしかばねを空の鳥に与えてえさとし、あなたの聖徒の肉を地の獣に与え、
関根訳79篇2節 彼らはあなたの(しもべ)らの(かばね)(そら)の鳥の餌食として、聖徒の肉を地の獣に与えた。
新共同79篇2節 あなたの僕らの死体を空の鳥の餌とし あなたの慈しみに生きた人々の肉を 地の獣らの餌としました。


79篇3節彼らの死屍はその()をエルサレムのめぐりに(みづ)のごとく(なが)したり、されどこの悲しむべき有様を見て、これに手を下すものなく、(これ)をはうむる(ひと)なし。この悲惨なる有様に放置せらるゝより外なきまでに聖地はその敵の蹂躙する処となりぬ。

文語訳79篇3節 その()をエルサレムのめぐりに(みづ)のごとく(なが)したり されど(これ)をはうむる(ひと)なし
口語訳79篇3節 その血をエルサレムのまわりに水のように流し、これを葬る人がありませんでした。
関根訳79篇3節 その血をエルサレムのまわりに水のように注ぎ、彼らを葬る人すらなかった。
新共同79篇3節 彼らは、エルサレムの周囲に この人々の血を水のように流します。葬る者もありません。


79篇4節われらはかかる憐むべき姿となり果てたれば隣人(となりびと)にそしられ四周(めくり)のひとびとに(あなど)られ(あざけ)らるゝものとなれり。彼らは我らを見て嘲弄の目を向け、我らの神を瀆すに至る。

文語訳79篇4節 われらは隣人(となりびと)にそしられ四周(めぐり)のひとびとに(あなど)られ(あざけ)らるゝものとなれり
口語訳79篇4節 われらは隣り人にそしられ、まわりの人々に侮られ、あざけられる者となりました。
関根訳79篇4節 われらは隣り人に(はず)かしめられ、周りの人々に(あざけ)られ、そしられた。
新共同79篇4節 わたしたちは近隣の民に辱められ 周囲の民に嘲られ、そしられています。


〔2〕愁訴(5−8)
79篇5節エホバよ、()くて我らをこの恥辱に放置して幾何時(いくそのとき ) (いか)りたまふや、我らを救い給わざるや、なんぢのねたみは()のごとく()ゆるか。汝はイスラエルの偶像崇拝に対しねたみの心を起し給えるや(申命4:24)。

文語訳79篇5節 ヱホバよ(かく)幾何時(いくそのとき)をへたまふや (なんぢ)とこしへに(いか)りたまふや なんぢのねたみは()のごとく()ゆるか
口語訳79篇5節 主よ、いつまでなのですか。とこしえにお怒りになられるのですか。あなたのねたみは火のように燃えるのですか。
関根訳79篇5節 ヴェよ、いつまでですか。あなたの怒りは永久につづき、あなたの(ねた)みは火のように燃えるのか。
新共同79篇5節 主よ、いつまで続くのでしょう。あなたは永久に憤っておられるのでしょうか。あなたの激情は火と燃え続けるのでしょうか。


*79篇6節(ねが)はくは(なんぢ)()らざる不信の民にして、我らを迫むる異邦人(ことくにびと)聖名(みな)をよばず汝に依頼まざる〔もろもろの〕(くに)(ぐに))のうへに御怒(みいかり)をそゝぎたまへ。

文語訳79篇6節 (ねが)はくはなんぢを()らざることくにびと聖名(みな)をよばざるもろもろの(くに)のうへに烈怒(みいかり)をそゝぎたまへ
口語訳79篇6節 どうか、あなたを知らない異邦人と、あなたの名を呼ばない国々の上にあなたの怒りを注いでください。
関根訳79篇6節 (いきどお)りをあなたを知らない異教の民に注ぎ、み名を呼ばない国々の上に注いで下さい。
新共同79篇6節 御怒りを注いでください あなたを知ろうとしない異国の民の上に あなたの御名を呼び求めない国々の上に。


補註
6、7節はエレミヤ10:25に再び顕れている。エレミヤ記のこの部分がもしエレミヤの筆になったものでないとすれば、この詩篇の方が古くエレミヤ記はこれより引用せるものであろう。なお本篇に「異邦人」なる語がしばしば表れて来るがこれは「神を信ぜざる者」との意味を含む。


*79篇7節(そは)かれらは汝の民なる我らヤコブを()み、その住處(すみか)をあらしたればなり。

文語訳79篇7節 かれらはヤコブを()みその住處(すみか)をあらしたればなり
口語訳79篇7節 彼らはヤコブを滅ぼし、そのすみかを荒したからです。
関根訳79篇7節 彼らはヤコブを()らい、その牧場を荒らしたからです。
新共同79篇7節 彼らはヤコブを食いものにし その住みかを荒廃させました。


79篇8節われらにむかひて先祖(とほつおや)のよこしまなるわざを記念(きねん)その為に我らをかかる苦難にあわしめたまふなかれ、(ねが)はくはなんぢの憐憫(あはれみ)〔をもて〕(すみや)かにわれらを(むか)へ《んことを、》【たまへ】(そは)われらは〔(おと)されて〕かかる苦難に陥れられしことによりて(はなは)だしく(ひく)く《せられ》【なり】たればなり。我らかくも心卑下らしめられし以上今や汝の救いに与るべき時は来れるなり。

文語訳79篇8節 われらにむかひて先祖(とほつおや)のよこしまなるわざを記念(きねん)したまふなかれ(ねが)はくはなんぢの憐憫(あはれみ)をもて(すみや)かにわれらを(むか)へたまへ われらは(おと)されて(はなは)だしく(ひく)くなりたればなり
口語訳79篇8節 われらの先祖たちの不義をみこころにとめられず、あわれみをもって、すみやかにわれらを迎えてください。われらは、はなはだしく低くされたからです。
関根訳79篇8節 われらの先の日の罪を想い出さず、(あわ)れみが早くわれらに先立って下さい。われらは衰えはてているのです。
新共同79篇8節 どうか、わたしたちの昔の悪に御心を留めず 御憐れみを速やかに差し向けてください。わたしたちは弱り果てました。


〔3〕祈願(9−13)
79篇9節われらの(すくひ)(かみ)よ、汝は我らをかかる状態に放置し給うべきにあらず、我らかかる恥辱の中にあることは汝の御名に相応しからず、願わくは御名(みな)榮光(えいくわう)のために(われ)らをたすけ、御名(みな)のためにわれらを(すく)ひ、われらの(つみ)をのぞきたまへ。汝が我らをこの苦難より救い給うことは汝の御名の為なればなり。

文語訳79篇9節 われらのすくひの(かみ)(みな)のえいくわうのために我儕(われら)をたすけ(みな)のためにわれらを(すく)ひ われらの(つみ)をのぞきたまへ
口語訳79篇9節 われらの救の神よ、み名の栄光のためにわれらを助け、み名のためにわれらを救い、われらの罪をおゆるしください。
関根訳79篇9節 われらの救いの神よ、み名の栄光の故にわれらを助け、み名の故にわれらを救い、われらの罪を贖って下さい。
新共同 79篇9節 わたしたちの救いの神よ、わたしたちを助けて あなたの御名の栄光を輝かせてください。御名のために、わたしたちを救い出し わたしたちの罪をお赦しください。


79篇10節いかなれば神を知らざる異邦人(ことくにびと)我らを嘲弄していふ『かれらの(かみ)はいづくにありや彼らの神は彼らを助けざるにあらずや』と。(ねが)はくは我らの敵を亡ぼすことにより(なんぢ)僕等(しもべら)敵のためにながされし()(むくい)を、われらの目前(まのあたり)になして、汝の在し給うことを異邦人(ことくにびと)にしらしめその見せしめとならしめたまへ。

文語訳79篇10節 いかなれば異邦人(ことくにびと)はいふ かれらの(かみ)はいつくにありやと (ねが)はくはなんぢの僕等(しもべら)がながされし()(むくい)をわれらの目前(まのあたり)になして異邦人(ことくにびと)にしらしめたまへ
口語訳79篇10節 どうして異邦人は言うのでしょう、「彼らの神はどこにいるのか」と。あなたのしもべらの流された血の報いをわれらのまのあたりになして、異邦人に知らせてください。
関根訳79篇10節 何故(なぜ)異教の民は「彼らの神はどこにいる」と言いつづけるのか。流されたあなたの僕らの血の報いを異教の民の中に眼のあたり、見せて下さい。
新共同79篇10節 どうして異国の民に言わせてよいでしょうか 「彼らの神はどこにいる」と。あなたの僕らの注ぎ出された血に対する報復を 異国の民の中で、わたしたちが 目の前に見ることができますように。


79篇11節ねがはくは(なんぢ)のみまへに、とらはれ(びと)嘆息(なげき)のとどかんことを、かくして汝が彼らの苦難を思い給わんことを、またなんぢの(おほい)なる能力(みちから)により《()子等(こら)》【死にさだめられし者】即ち死の中にある如き苦難を嘗めつつある俘囚の子等をまもりて(ながら)へしめたまへ。

文語訳79篇11節 ねがはくは(なんぢ)のみまへにとらはれびとの嘆息(なげき)のとゞかんことを なんぢの(おほい)なる能力(みちから)により()にさだめられし(もの)をまもりて(ながら)へしめたまヘ
口語訳79篇11節 捕われ人の嘆きをあなたのみ前にいたらせ、あなたの大いなる力により、死に定められた者を守りながらえさせてください。
関根訳79篇11節 捕われ人の歎きをみ前にいたらせ、み腕の力によって死に定められた者を休ませ、
新共同79篇11節 捕われ人の嘆きが御前に届きますように。御腕の力にふさわしく 死に定められている人々を 生き長らえさせてください。


79篇12節(しゆ)よ、汝に敵するわれらの隣人(となりびと)のなんぢをそしりたる(そしり)七倍(ななかさ)ましてその(ふところ)にむくいかへし彼らをして深く恥づるに至らしめたまへ。

文語訳79篇12節 一主(しゆ)よわれらの隣人(となりびと)のなんぢをそしりたる(そしり)七倍(ななかさ)ましてその(ふところ)にむくいかへしたまへ
口語訳79篇12節 主よ、われらの隣り人があなたをそしったそしりを七倍にして彼らのふところに報い返してください。
関根訳79篇12節 われらの隣り人があなたに加えた辱かしめを七倍にして彼らの(ふところ)に報復して下さい、主よ。
新共同79篇12節 主よ、近隣の民のふところに あなたを辱めた彼らの辱めを 七倍にして返してください。


79篇13節さらばわれらなんぢの(たみ)、なんぢの草苑(まき)(ひつじ)この苦難の中より救いださるゝが故に永遠(とこしへ)になんぢに感謝(かんしや)その頌辭(たたへごと)世々(よよ)あらはさん。これを望みて我らはこの苦難の中に希望を失わずに居ることができる。

文語訳79篇13節 (さら)ばわれらなんぢの(たみ)なんぢの草苑(まき)のひつじは 永遠(とこしへ)になんぢに感謝(かんしや)しその頌辭(たたへごと)世々(よよ)あらはさん
口語訳79篇13節 そうすれば、あなたの民、あなたの牧の羊は、とこしえにあなたに感謝し、世々あなたをほめたたえるでしょう。
関根訳79篇13節 しかしわれらはあなたの民、牧の羊、われらは永遠にあなたに感謝し、代々あなたのみ栄を語りつげよう。
新共同79篇13節 わたしたちはあなたの民 あなたに養われる羊の群れ。とこしえに、あなたに感謝をささげ 代々に、あなたの栄誉を語り伝えます。