黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第80篇

関根訳イスラエルの回復

文語訳( )證詞(あかし)百合花(ゆりのほな)といへる調(しらべ)にあはせて伶長(うたのかみ)にうたはしめたるアサフの歌
口語訳聖歌隊の指揮者によってゆりの花のしらべにあわせてうたわせたアサフのあかしの歌
関根訳80篇1節聖歌隊の指揮者に「あかしのゆり」式に、アサフの歌。
新共同80篇1節【指揮者によって。「ゆり」に合わせて。定め。アサフの詩。賛歌。】

アツシリヤ軍がイスラエルを圧迫せる当時の作と見る説、バビロン俘囚中の詩と見る説等種々あり。パレスチナがしきりに敵の蹂躙する処となりつゝある有様は(12、13節)むしろバビロンに囚わるるに至れる頃の詩と見るべきが如し、而して詩人は神をイスラエルの牧者と見、またはその農夫と見その羊またはその葡萄園を守り給い回復し給わんことを祈る詩である。3、7、19節は折返しの如くにエホバの救を求むる声である。1−3節にエホバを呼び、4−7節に神の怒の下にある苦難を訴え、8−13節にエホバの憐憫とその憐憫より遠ざかれる有様を述べ、14−19節にエホバの救を懇求する。


〔1〕エホバを呼び求む(1−3)
80篇1節イスラエルの民をその羊の如くに牧し給う牧者(ぼくしや)なるエホバよ、ひつじの(むれ)のごとく*ヨセフの子孫なるイスラエルの民(みちび)(たま)ふものよ、 (みゝ)をかたぶけて我らの訴をきゝたまへ、契約の櫃の上のめぐみの座にケルビムのうへに()したまふものよ、我らを救わんが為にその(ひかり)をはなちたまへ。

文語訳80篇1節 イスラエルの牧者(ばくしや)よひつじの(むれ)のごとくヨセフを(みちび)きたまふものよ (みみ)をかたぶけたまヘ ケルビムのうへに()したまふものよ (ひかり)をはなちたまへ
口語訳80篇1節 イスラエルの牧者よ、羊の群れのようにヨセフを導かれる者よ、耳を傾けてください。ケルビムの上に座せられる者よ、光を放ってください。
関根訳80篇2節 イスラエルの牧者よ、耳を傾けて下さい、ヨセフを牧の羊のように導く者よ、ケルビムの上に座し、光をはなって下さい、
新共同80篇2節 イスラエルを養う方 ヨセフを羊の群れのように導かれる方よ 御耳を傾けてください。ケルビムの上に座し、顕現してください


補註
ヨセフは北方の支族を代表す。


80篇2節イスラエルの民、殊にその北方の民*エフライム、ベニヤミン、マナセの(まへ)イスラエルの民の先頭に立ちてなんぢの(ちから)をふりおこし、(きた)りて(われ)らを(すく)ひたまへ。

文語訳80篇2節 エフライム、ベニヤミン、マナセの(まへ)になんぢの(ちから)をふりおこし(きた)りてわれらを(すく)ひたまへ
口語訳80篇2節 エフライム、ベニヤミン、マナセの前にあなたの力を振り起し、来て、われらをお救いください。
関根訳80篇3節 エフライム、ベニヤミン、マナセの前に。み力をふるい起こし、われらの救いのために来て下さい。
新共同80篇3節 エフライム、ベニヤミン、マナセの前に。目覚めて御力を振るい わたしたちを救うために来てください。


補註
エフライム、ベニヤミン、マナセ等北方支族を以て全イスラエルを代表せしめんとする思想はアサフ詩集の特徴である。アサフは北方支族の一人ならんか。


*80篇3節(かみ)よ、ふたゝびわれらをその故国に*(かへ)し、暗きに泣く者の上になんぢの聖顏(みかほ)のひかりをてらしたまへ(民数6:25)()らばわれら(すくひ)をえ再び汝の栄光を仰ぎ見ることを得ん。

文語訳80篇3節 (かみ)よふたゝびわれらを(かへ)し なんぢの聖顏(みかほ)のひかりをてらしたまへ (さら)ばわれら(すくひ)をえん
口語訳80篇3節 神よ、われらをもとに返し、み顔の光を照してください。そうすればわれらは救をえるでしょう。
関根訳80篇4節 ヴェよ、われらを元に返しみ顔の光を照らして、われらを救って下さい。
新共同80篇4節 神よ、わたしたちを連れ帰り 御顔の光を輝かせ わたしたちをお救いください。


補註
7、19節と同一の折返をなす。「歸し」はまた「立歸らしめ」とも訳し、神に立帰らしめの意味と解することもできる。かくすれば俘囚とは関係なきこととなる。


〔2〕我らの苦難を見そなわしたまえ(4−7)
80篇4節*萬軍(ばんぐん)(かみ)エホバよ、なんぢその(たみ)(いのり)に《さからひて》【むかひて】その祈を聴き納れず、(いづれ)(とき)まで(いか)をつづけたまふや。

文語訳80篇4節 ばんぐんの(かみ)ヱホバよなんぢその(たみ)(いのり)にむかひて(いづ)れのときまで(いか)りたまふや
口語訳80篇4節 万軍の神、主よ、いつまで、その民の祈にむかってお怒りになるのですか。
関根訳80篇5節 万軍のヤヴェよ、いつまで怒り給うのか、あなたの民の祈りにかかわらず。
新共同80篇5節 万軍の神、主よ、あなたの民は祈っています。いつまで怒りの煙をはき続けられるのですか。


補註
「萬軍の神エホバ」(エホバ、エろヒーム、ツエバオーと)天地万物を支配する力の神にしてイスラエルの救の神。


80篇5節(なんぢ)かれらにひねもす泣き悲しまして(なみだ)(かて)をくらはせ、《*量器(ます)にみつる(なみだ)を》【涙を量器にみつるほどあたへて】()ましめ(たま)へり。我らの悲しみは溢るゝばかりなり。

文語訳80篇5節 (なんぢ)かれらになみだの(かて)をくらはせ(なみだ)量器(ます)にみちみつるほどあたへて()ましめ(たま)へり
口語訳80篇5節 あなたは涙のパンを彼らに食わせ、多くの涙を彼らに飲ませられました。
関根訳80篇6節 あなたはわれらに涙のパンを喰らわせ、涙の鉢から飲ませた。
新共同80篇6節 あなたは涙のパンをわたしたちに食べさせ なお、三倍の涙を飲ませられます。


補註
「量器に充つる」は原語「三分の一」で不明の語、もし一バテの三分の一とすれば約十二リットル程となる。


80篇6節(なんぢ)われらを隣人(となりびと)*あひあらそふ種料(たねぐさ)となしたまふ、イスラエルを中心に諸国民は互に相争う。われらの(あた)はたがひにあざわらへり。かくして我らは諸国民の嘲弄の的となりぬ。

文語訳80篇6節 (なんぢ)われらを隣人(となりびと)のあひあらそふ種料(たねぐさ)となしたまふ われらの(あた)はたがひにあざわらへり
口語訳80篇6節 あなたはわれらを隣り人のあざけりとし、われらの敵はたがいにあざわらいました。
関根訳80篇7節 われらを隣り人の争いの(まと)とし敵はわれらを(あざけ)り笑う。
新共同80篇7節 わたしたちは近隣の民のいさかいの的とされ 敵はそれを嘲笑います。


補註
「あひあらそふ種料」は子音の順序を変更すれば44:14の「頭ふらるる者」となり本節の場合は一層適切となる。


80篇7節萬軍(ばんぐん)(かみ)よ、ふたたびわれらを(かへ)したまへ、(なんぢ)のみかほの(ひかり)をてらしたまへ、さらばわれら(すくひ)をえん(3節参照)

文語訳80篇7節 萬軍(ばんぐん)(かみ)よふたゝびわれらを(かへ)したまへ (なんぢ)のみかほの(ひかり)をてらしたまへ さらばわれら(すくひ)をえん
口語訳80篇7節 万軍の神よ、われらをもとに返し、われらの救われるため、み顔の光を照してください。
関根訳80篇8節 万軍のヤヴェよ、われらを元に返し、み顔の光を照らして、われらを救って下さい。
新共同80篇8節 万軍の神よ、わたしたちを連れ帰り 御顔の光を輝かせ わたしたちをお救いください。


〔3〕神の民とその現状(8−13)
80篇8節(なんぢ)なんぢの葡萄(ぶだう)()なるその民イスラエル をエジプトより(たづさ)へいだし、荒野の中を導きてカナンに至らしめ〔もろもろの〕《異邦人(ことくにびと)》【國人】をおひしりぞけて、(これ)その嗣業たるべきカナンの地にうゑたまへり。

文語訳80篇8節 なんぢ葡萄(ぶだう)()をエジプトより(たづさ)へいだしもろもろの國人(くにびと)をおひしりぞけて(これ)をうゑたまへり
口語訳80篇8節 あなたは、ぶどうの木をエジプトから携え出し、もろもろの国民を追い出して、これを植えられました。
関根訳80篇9節 あなたは葡萄(ぶどう)をエジプトから移し植え、諸国民を追放してそれを植えられた。
新共同80篇9節 あなたはぶどうの木をエジプトから移し 多くの民を追い出して、これを植えられました。


80篇9節(なんぢ)そのまへに凡ての敵を追払いその定住すべき()をまうけたまひしかば、その葡萄樹は(ふか)()ざして(くに)にはびこれり。

文語訳80篇9節 (なんぢ)そのまへに()をまうけたまひしかば(ふか)()ざして(くに)にはびこれり
口語訳80篇9節 あなたはこれがために地を開かれたので、深く根ざして、国にはびこりました。
関根訳80篇10節 あなたは先住民を追い払い葡萄の根をよく根づかせ、これを国中にはびこらせた。
新共同80篇10節 そのために場所を整え、根付かせ この木は地に広がりました。


80篇10節かくしてイスラエルの民は益々栄えに栄え、その(かげ)全地到る処の〔もろもろの〕(やま)(やま)〕をおほひ、その(えだ)ヘルモンの山に繁る(かみ)香柏(かうはく)のごとくにてありき。

文語訳80篇10節 その(かげ)はもろもろの(やま)をおほひ そのえだは(かみ)香柏(かうはく)のごとくにてありき
口語訳80篇10節 山々はその影でおおわれ、神の香柏はその枝でおおわれました。
関根訳80篇11節 山々はその蔭におおわれ、丈高き杉もそのつるにからまれた。
新共同80篇11節 その陰は山々を覆い 枝は神々しい杉をも覆いました。


80篇11節その()はえだを西方にひろげて(うみ)にまでのべ、その若枝(わかえ)東にひろげてユウフラテの(かは)にまでのべたり。イスラエルの栄えは実にかくまでに至りしなり。

文語訳80篇11節 その()はえだを(うみ)にまでのべ その若枝(わかえ)(かは)にまでのべたり
口語訳80篇11節 これはその枝を海にまでのべ、その若枝を大川にまでのべました。
関根訳80篇12節 あなたはその枝をのばして大海に、その若枝を大河にまでいたらせた。
新共同80篇12節 あなたは大枝を海にまで 若枝を大河にまで届かせられました。


80篇12節然るに(なんぢ)いかなればその葡萄園を保管する(かき)をくづして(みち)ゆくすべての(ひと)摘取(つみと)らせたまふや。今やイスラエルの地は何らの防禦もなく諸国民の荒すにまかされたり。

文語訳80篇12節 (なんぢ)いかなればその(かき)をくづして(みち)ゆくすべての(ひと)摘取(つみと)らせたまふや
口語訳80篇12節 あなたは何ゆえ、そのかきをくずして道ゆくすべての人にその実を摘み取らせられるのですか。
関根訳80篇13節 何故あなたは今垣をこぼち過ぎ行く者にその実をつませるのか。
新共同80篇13節 なぜ、あなたはその石垣を破られたのですか。通りかかる人は皆、摘み取って行きます。


80篇13節はやしの(ゐのこ)はこれをあらし、()のあらき(けもの)はこれをくらふ。野獣の如き異邦の民は、今や全パレスチナを荒しつつあり。如何なれば神の園はかくも荒廃に帰するに至りしや。

文語訳80篇13節 はやしの(ゐのこ)はこれをあらし()のあらき(けもの)はこれをくらふ
口語訳80篇13節 林のいのししはこれを荒し、野のすべての獣はこれを食べます。
関根訳80篇14節 森の(いのしし)はそれを荒らし、野の獣はそれを食う。
新共同80篇14節 森の猪がこれを荒らし 野の獣が食い荒らしています。


〔4〕エホバよ救い給え(14−19)
80篇14節あゝ萬軍(ばんぐん)(かみ)エホバよ、ねがはくは(かへ)りたまへ、帰りて再びイスラエルを回復し給え。(てん)より俯視(ふしみ)てこの葡萄(ぶだう)()をかへりみ、これを敵の手より救い出し、

文語訳80篇14節 あゝ萬軍(ばんぐん)(かみ)よねがはくは(かへ)りたまへ (てん)より俯視(ふしみ)てこの葡萄(ぶだう)()をかへりみ
口語訳80篇14節 万軍の神よ、再び天から見おろして、このぶどうの木をかえりみてください。
関根訳80篇15節 万軍のヤヴェよ、帰り給え。天より見おろして、よく見て下さい、この葡萄をかえりみて下さい。
新共同80篇15節 万軍の神よ、立ち帰ってください。天から目を注いで御覧ください。このぶどうの木を顧みてください


*80篇15節なんぢが(みぎ)()にてうゑたまへるものなる大切なるイスラエルの民、また汝が自己(みづから)のために(つよ)くなしたまへる《()》【枝】をまもりたまへ。

文語訳80篇15節 なんぢが(みぎ)()にてうゑたまへるもの自己(みづから)のために(つよ)くなしたまへる(えだ)をまもりたまへ
口語訳80篇15節 あなたの右の手の植えられた幹と、みずからのために強くされた枝とをかえりみてください。
関根訳80篇16節 心にかけて下さい、右のみ手の植えられた者を、御自身のために育てられた子を。
新共同80篇16節 あなたが右の御手で植えられた株を 御自分のために強くされた子を。


補註
難解の一節。


80篇16節もし現在の如き有様に放置し給わばその()()にて()かれ、また()りたふさる、遂に全く死滅するに至るより外なくかれらは聖顏(みかほ)のいかりにて(ほろ)ぶ。

文語訳80篇16節 その()()にて()かれまた()りたふさる かれらは聖顏(みかほ)のいかりにて(ほろ)
口語訳80篇16節 彼らは火をもってこれを焼き、これを切り倒しました。彼らをみ顔のとがめによって滅ぼしてください。
関根訳80篇17節 燃えさかる火でこれを焼いた者があなたの(おびや)かしによって滅びるように。
新共同80篇17節 それを切り、火に焼く者らは 御前に咎めを受けて滅ぼされますように。


80篇17節ねがはくはなんぢの()をその(みぎ)()造る処なる重要なる(ひと)即ちイスラエルのうへにおき自己(みづから)のためにつよくなしたまへる(ひと)()なるイスラエルの民のうへにおきたまへ。

文語訳80篇17節 ねがはくはなんぢの()をその(みぎ)()(ひと)のうへにおき自己(みづから)のためにつよくなしたまへる(ひと)()のうへにおきたまへ
口語訳80篇17節 しかしあなたの手をその右の手の人の上におき、みずからのために強くされた人の子の上においてください。
関根訳80篇18節 み手があなたの右に立つ人を守り御自身のために育てられた人の子の上にあらんことを。
新共同80篇18節 御手があなたの右に立つ人の上にあり 御自分のために強められた 人の子の上にありますように。


80篇18節さらばわれら(なんぢ)を《(はな)()る》【しりぞき離るゝ】ことなからん。(ねが)はくはこの死に瀕せるわれらを(いか)したまへ、われら感謝と歓喜の声をあげて汝の御名(みな)をよばん。

文語訳80篇18節 さらばわれら(なんぢ)をしりぞき(はな)るゝことなからん (ねが)はくはわれらを()かしたまへ われら(みな)をよばん
口語訳80篇18節 そうすれば、われらはあなたを離れ退くことはありません。われらを生かしてください。われらはあなたのみ名を呼びます。
関根訳80篇19節 われらはあなたから(はず)れない、われらを生かし、み名を呼ばせて下さい。
新共同80篇19節 わたしたちはあなたを離れません。命を得させ、御名を呼ばせてください。


80篇19節あゝ萬軍(ばんぐん)(かみ)エホバよ、ふたたび我等(われら)をかへして我らの祖国に至らしめたまへ、なんぢの聖顏(みかほ)のひかりを暗きに泣く我らの上に(てら)したまへ、()らばわれら(すくひ)をえん(3、7節参照)

文語訳80篇19節 あゝ萬軍(ばんぐん)(かみ)ヱホバよふたたび我儕(われら)をかへしたまへ なんちの聖顏(みかほ)のひかりを(てら)したまへ (さら)ばわれら(すくひ)をえん
口語訳80篇19節 万軍の神、主よ、われらをもとに返し、み顔の光を照してください。そうすればわれらは救をえるでしょう。
関根訳80篇20節 万軍のヤヴェよ、われらを元に返し、み顔の光を照らして、われらを救って下さい。
新共同80篇20節 万軍の神、主よ、わたしたちを連れ帰り 御顔の光を輝かせ わたしたちをお救いください。