黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第82篇

関根訳ヴェと神々

文語訳( )アサフのうた
口語訳アサフの歌

本篇に「神々」とあるは何を意味するやにつきて諸説あり、(1)イスラエルの支配者たち、(2)異邦の候伯たち、(3)天の使たち、(4)異教国の偶像神または民族神等種々に解せらる。本篇の内容よりいえば(1)が最も適切であって、イスラエルの支配者、その審判人らを地上における神の代表者と見、その職務を神より委任せられしものと見る思想をその極端まで押し進め、地上の支配者に最高の敬意を払いつゝ、最高の責任を負わしめしものと解することが適当である。而して結局において彼らもその責任を遂行し得ざるが故に、最後にエホバの支配と審判とを祈願することによってこの詩を終っている。


82篇1節(かみ)(エル)召集し給へるつどひの(なか)にたちたまふ。(かみ)は〔もろもろの〕(かみ)(がみ)即ちこの世の支配者たちのなかにありてその為せる事につき審判(さばき)をなしたまふ。

文語訳82篇1節 かみは(かみ)のつどひの(なか)にたちたまふ (かみ)はもろもろの(かみ)のなかに審判(さばき)をなしたまふ
口語訳82篇1節 神は神の会議のなかに立たれる。神は神々のなかで、さばきを行われる。
関根訳82篇1節 アサフの歌。ヤヴェは神の(つど)いのうちに立たれ、神々の真中で(さば)きを行なわれる。
新共同82篇1節 【賛歌。アサフの詩。】神は神聖な会議の中に立ち 神々の間で裁きを行われる。


82篇2節然るにもかかわらずなんぢらは(ただ)しからざる審判(さばき)をなし、不正を以てその民を取扱い、あしきものの()をかたよりみて彼らをしてその悪に相当する審判を受けしめず、かくて幾何時(いくそのとき)をへんとするや。汝ら神の代表としてかゝる有様にて居るべきにあらず。セラ。

文語訳82篇2節 なんぢらは(ただ)しからざる審判(さばき)をなし あしきものの()をかたよりみて幾何時(いくそのとき)をへんとするや セラ
口語訳82篇2節 「あなたがたはいつまで不正なさばきをなし、悪しき者に好意を示すのか。〔セラ
関根訳82篇2節 「いつまで君たちは不法な審きを行い、悪人どもにひいきするのか。セラ
新共同82篇2節 「いつまであなたたちは不正に裁き 神に逆らう者の味方をするのか。〔セラ


82篇3節よわきものと孤兒(みなしご)は最も憐れむべきでありこの世において無視せられ圧迫せらるゝもの故、彼らのために義しきさばきを為し、(くる)しむものと(とも)しきものとのために公平(こうへい)なる審判をほどこせ。

文語訳82篇3節 よわきものと孤兒(みなしご)とのためにさばき(くる)しむものと(とも)しきものとのために公平(こうへい)をほどこせ
口語訳82篇3節 弱い者と、みなしごとを公平に扱い、苦しむ者と乏しい者の権利を擁護せよ。
関根訳82篇3節 (しい)げられた者や孤児(みなしご)のために審き、貧しい者や乏しい者を義とせよ。
新共同82篇3節 弱者や孤児のために裁きを行い 苦しむ人、乏しい人の正しさを認めよ。


82篇4節(よわ)きものと(まづ)しきものとを無視せずしてこれをすくひ、(かれ)らをあしきものの()よりたすけいだせ。政治を為すものゝ最も重要なる任務は弱者、孤児、貧者を愛を以て助くるにあり。

文語訳82篇4節 (よわ)きものと(まづ)しきものとをすくひ彼等(かれら)をあしきものの()よりたすけいだせ
口語訳82篇4節 弱い者と貧しい者を救い、彼らを悪しき者の手から助け出せ」。
関根訳82篇4節 虐げられた者や貧者を救い、悪人どもの手から解きはなて。
新共同82篇4節 弱い人、貧しい人を救い 神に逆らう者の手から助け出せ。」


82篇5節以上の如き事がこの世における王たち支配者たちの任務であるにもかかわらずかれらはこの重要なる事柄を()ることなく(さと)ることなくして唯彼らの無智と肉の念とに捕われて(くら)(なか)をゆきめぐりぬ。彼らの悪政のために()のもろもろの(もとゐ)はうごき全地は平安を失いて動揺するに至りたり。

文語訳82篇5節 かれらは()ることなく(さと)ることなくして暗中(くらきなか)をゆきめぐりぬ ()のもろもろの(もとゐ)はうごきたり
口語訳82篇5節 彼らは知ることなく、悟ることもなくて、暗き中をさまよう。地のもろもろの基はゆり動いた。
関根訳82篇5節 彼らは知らず、悟らず、暗きうちをさ迷う。地のすべての柱はゆれ動く。
新共同82篇5節 彼らは知ろうとせず、理解せず 闇の中を行き来する。地の基はことごとく揺らぐ。


*82篇6節(われ)これらの王たち支配者たちを尊みていへらく『なんぢらは(かみ)なり、なんぢらはみな至上者(いとたかきもの)()なり』と。かく云いて汝らを地上における神の代表者として最高の地位を与えてあがめたり。

文語訳82篇6節 (われ)いへらく なんぢらは(かみ)なり なんぢらはみな至上者(いとたかきもの)()なりと
口語訳82篇6節 わたしは言う、「あなたがたは神だ、あなたがたは皆いと高き者の子だ。
関根訳82篇6節 わたしは言った、君たちこそ神々で、みないと高き者の子らなのだ、と。
新共同82篇6節 わたしは言った 「あなたたちは神々なのか 皆、いと高き方の子らなのか」と。


補註
ヨハネ10:34以下にイエスはこの節を引用して神の言を賜りし人を神ということの正しきことを主張し給う。


*82篇7節()れど(なんぢ)らはこの任務を果さず、この尊敬に相応しからざる行為を為したるにより普通一般の(ひと)のごとくに()に〔もろもろの〕(きみ)(たち)のなかの一人(ひとり)(ごと)(たふ)れん。

文語訳82篇7節 (され)どなんぢらは(ひと)のごとくに()にもろもろの(きみ)のなかの一人(ひとり)のごとく(たふ)れん
口語訳82篇7節 しかし、あなたがたは人のように死に、もろもろの君のひとりのように倒れるであろう」。
関根訳82篇7節 ところが君たちも人のように死に君侯たちと同じように没落するだろう」。
新共同82篇7節 しかし、あなたたちも人間として死ぬ。君侯のように、いっせいに没落する。


補註
本節より、逆に、もし彼らにして至高者の子たるに相応しくその任務を果たす場合には、彼らは不死たるを得べしとの想像を為すことを得。事実イエスの復活を想像せしむる如き心の状態である。


82篇8節(かみ)よ、地上の王たち侯たちはかゝる有様なれば、汝おきて全地(ぜんち)支配してこれを(さば)きたまへ、(なんぢ)イスラエルのみならずもろもろの《異邦(ことくに)》【國】を()ぎたまふべければなり。

文語訳82篇8節 (かみ)よおきて全地(ぜんち)をさばきたまへ (なんぢ)もろもろの(くに)()ぎたまふべければなり
口語訳82篇8節 神よ、起きて、地をさばいてください。すべての国民はあなたのものだからです。
関根訳82篇8節 ヴェよ、立ち上がって地を審いて下さい。あなたこそすべての国民(くにたみ)を支配し給うべきです。
新共同82篇8節 神よ、立ち上がり、地を裁いてください。あなたはすべての民を嗣業とされるでしょう。