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黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第91篇

関根訳守られる者


荒野の試誘(こころみ)においてサタンがイエスに対して引用せる句(11、12節)を含むを以て有名なる詩である。2、9節に第一人称の主語が混入する為に難解であり、種々の変更が試みられているけれども、本註解の如くに解してその困難を除くことができる。神がイスラエルの民を特別に保護し給うべきことを強調する詩であって、イスラエルの人々にとりてその選民たる意識信念を燃やすに与って力があったに相違ない。而してイエスはその荒野の試誘(こころみ)において、もし神の子なりとせばこの特別の保護が彼に加わるであろうと考え、この点をサタンが誘惑したのであった。1−8、9−13、14−16の三段よりなる。


〔1〕エホバ汝を掩い給わん(1−8)
*91篇1節至高者(いとたかきもの)《を隠家(かくれが)として(すま)(もの)は》【のもとなる隠れたるところ住ふその人は】彼を信じこれに依頼むが故にその人は全能者(ぜんのうしや)(かげ)かくれその保護の中にやどらん。

文語訳91篇1節 至上者(いとたかきもの)のもとなる(かく)れたるところにすまふその(ひと)全能者(ぜんのうしや)(かげ)にやどらん
口語訳91篇1節 いと高き者のもとにある隠れ場に住む人、全能者の陰にやどる人は
関根訳91篇1節 いと高き者の守りの中にある者、全能者の蔭にかくれる者、
新共同91篇1節 いと高き神のもとに身を寄せて隠れ 全能の神の陰に宿る人よ


補註
本節は一見同一事を二回繰返している如くに見ゆるため、種々の変更または補充をなさんとする説あり、ただし強いてその必要を認めず。


*91篇2節われはわが信仰によりエホバのことを()べて『エホバはわが仇に対する避所(さけどころ)、わが敵を防ぐ(しろ)、わが苦難の中によりたのむ(かみ)なり』といはん。

文語訳91篇2節 われヱホバのことを()べて ヱホバはわが避所(さけどころ)わが(しろ)わがよりたのむ(かみ)なりといはん
口語訳91篇2節 主に言うであろう、「わが避け所、わが城、わが信頼しまつるわが神」と。
関根訳91篇2節 その者はヤヴェに向かって言え、「わが避け所、わが城、わがより頼むわが神よ」と。
新共同91篇2節 主に申し上げよ 「わたしの避けどころ、砦 わたしの神、依り頼む方」と。


補註
本節は詩人が自己の信仰を明示し、これを理由としてイスラエルの上に神の守護があることを断定する。


91篇3節わがかく云う所以はそは(かみ)なんぢを特に危険よりまもりて獵人(かりうど)のわなと《壊滅的(くわいめつてき)の》【毒をながす】惡疫(えやみ)よりたすけいだしたまふべければなり。

文語訳91篇3節 そは(かみ)なんぢを獵人(かりうど)のわなと(どく)をながす疫癘(えやみ)よりたすけいだしたまふべければなり
口語訳91篇3節 主はあなたをかりゅうどのわなと、恐ろしい疫病から助け出されるからである。
関根訳91篇3節 まことに彼は君を鳥捕りのわなと滅びの穴から救い出される。
新共同91篇3節 神はあなたを救い出してくださる 仕掛けられた罠から、陥れる言葉から。


91篇4節かれエホバはその(はね)をもてなんぢを(おほ)ひたまはん、なんぢはあたかも雛が母雞の翼の下にかくるゝ如くその(つばさ)(した)にかくれて敵の攻撃を免れん、その眞實(まこと)決して変わることなく我らを敵の矢より守る(たて)なり、(こだて)なり。

文語訳91篇4節 かれその(はね)をもてなんぢを(おほ)ひたまはん なんぢその(つばさ)(した)にかくれん その眞實(まこと)(たて)なり(こだて)なり
口語訳91篇4節 主はその羽をもって、あなたをおおわれる。あなたはその翼の下に避け所を得るであろう。そのまことは大盾、また小盾である。
関根訳91篇4節 彼はその羽で君をおおい、君はその翼のもとに避け所をうる。彼の真実(まこと)こそ盾または小盾。
新共同91篇4節 神は羽をもってあなたを覆い 翼の下にかばってくださる。神のまことは大盾、小盾。


91篇5節時には(よる)敵の夜襲 の如き(おそ)るべきこと》【おどろくべきこと】あり、(ひる)はとびきたる()あり。

文語訳91篇5節 (よる)はおどろくべきことあり(ひる)はとびきたる()あり
口語訳91篇5節 あなたは夜の恐ろしい物をも、昼に飛んでくる矢をも恐れることはない。
関根訳91篇5節 君は夜脅かすものの前にも昼飛びくる矢にも
新共同91篇5節 夜、脅かすものをも 昼、飛んで来る矢をも、恐れることはない。


91篇6節また時には幽暗(くらき)にはあゆむ惡疫(えやみ)あり、日午(ひる)には《(ほろ)ぼす破壊(はくわい)あり、》【そこなふ勵しき疾あり】されどなんぢは特別に神の守護の下に置かるゝ故(おそ)るることあらじ。

文語訳91篇6節 幽暗(くらき)にはあゆむ疫癘(えやみ)あり日午(ひる)にはそこなふ(はげ)しき(やまひ)あり されどなんぢ(おそ)るゝことあらじ
口語訳91篇6節 また暗やみに歩きまわる疫病をも、真昼に荒す滅びをも恐れることはない。
関根訳91篇6節 暗闇にとびまわる疫病にも真昼に荒らす(はげ)しい病いにも恐れることはない。
新共同91篇6節 暗黒の中を行く疫病も 真昼に襲う病魔も


91篇7節戦争に於て千人(せんにん)はなんぢの(ひだり)にたふれ、萬人(ばんにん)はなんぢの(みぎ)にたふる、されど汝はかかる場合にも特に神の守護の下に置かるゝが故にその災害(わざはひ)はなんぢに(ちか)づくことなからん。

文語訳91篇7節 千人(せんにん)はなんぢの(ひだり)にたふれ萬人(ばんにん)はなんぢの(みぎ)にたふる されどその災害(わざはひ)はなんぢに(ちか)づくことなからん
口語訳91篇7節 たとい千人はあなたのかたわらに倒れ、万人はあなたの右に倒れても、その災はあなたに近づくことはない。
関根訳91篇7節 千人は君のわきにたおれ、万人は君の右わきにたおれる。しかしそれは君にはとどかない。
新共同91篇7節 あなたの傍らに一千の人 あなたの右に一万の人が倒れるときすら あなたを襲うことはない。


91篇8節なんぢの()はたゞこの(こと)即ち汝が特に神に守られ、他の人々が滅ぼさるゝも汝のみその中より救わるゝ事()るのみ、なんぢ()しき者のむくいられて遂に亡ぼさるゝ()ん。

文語訳91篇8節 なんぢの()はたゞこの(こと)をみるのみ なんぢ惡者(あしき)のむくいを()
口語訳91篇8節 あなたはただ、その目をもって見、悪しき者の報いを見るだけである。
関根訳91篇8節 君はただ君の眼でしかと見るであろう。悪者が報いを受けるのを認めるであろう。
新共同91篇8節 あなたの目が、それを眺めるのみ。神に逆らう者の受ける報いを見ているのみ。


〔2〕エホバ汝を助け給わん(9−13)
*91篇9節《エホバよ、(なんぢ)はわが避所(さけどころ)(いま)せば》【なんぢ曩にいへり、エホバはわが避所なりと】なんぢイスラエルこそは至高者(いとたかきもの)をその住居(すまゐ)となしたれば、

文語訳91篇9節 なんぢ(さき)にいへりヱホバはわが避所(さけどころ)なりと なんぢ至上者(いとたかきもの)をその住居(すまひ)となしたれば
口語訳91篇9節 あなたは主を避け所とし、いと高き者をすまいとしたので、
関根訳91篇9節 君には、ヤヴェが君の避け所であり、君はいと高き者を君の支えとしたのだから
新共同91篇9節 あなたは主を避けどころとし いと高き神を宿るところとした。


補註
本節の前半も前述2節補註と同様なり。


91篇10節その特別の守護により災害(わざはひ)なんぢにいたらず苦難(なやみ)なんぢの幕屋(まくや)(ちか)づかじ。

文語訳91篇10節 災害(わざはひ)なんぢにいたらず苦難(なやみ)なんぢの幕屋(まくや)(ちか)づかじ
口語訳91篇10節 災はあなたに臨まず、悩みはあなたの天幕に近づくことはない。
関根訳91篇10節 災禍は君に出あうことはなく、悩みは君の幕屋に近づか ない。
新共同91篇10節 あなたには災難もふりかかることがなく 天幕には疫病も触れることがない。


91篇11節そは至高者(いとたかきもの)なんぢを愛するが故に、汝のためにその使者達(つかひたち)におほせて汝を見守らせ、(なんぢ)があゆむもろもろの(みち)になんぢを(まも)らせ(たま)へばなり(マタイ4:6。ルカ4:10、11)

文語訳91篇11節 そは至上者(いとたかきもの)なんぢのためにその使者輩(つかひたち)におほせて (なんぢ)があゆむもろもろの(みち)になんぢを(まも)らせ(たま)へばなり
口語訳91篇11節 これは主があなたのために天使たちに命じて、あなたの歩むすべての道であなたを守らせられるからである。
関根訳91篇11節 まことに彼はその使いたちに命じて、君のすべての道で君を守らせる。
新共同91篇11節 主はあなたのために、御使いに命じて あなたの道のどこにおいても守らせてくださる。


91篇12節かれら()にてなんぢの足の石にふれざらんために(なんぢ)をさゝへん。たとい宮の頂より飛び下ることあるとも汝は傷くことなからん。

文語訳91篇12節 かれら()にてなんぢの(あし)(いし)にふれざらんために(なんぢ)をさゝへん
口語訳91篇12節 彼らはその手で、あなたをささえ、石に足を打ちつけることのないようにする。
関根訳91篇12節 彼らはその(たなごころ)に君をのせて君の足が石にぶつからないようにする。
新共同91篇12節 彼らはあなたをその手にのせて運び 足が石に当たらないように守る。


91篇13節(なんぢ)(しゝ)(まむし)とをふみ、牡獅(わかきしゝ)(へび)とを足の下にふみにじらん。かくするもかれらは汝を害することなからん。

文語訳91篇13節 なんぢは(しし)(まむし)とをふみ壯獅(わかきしし)(へび)とを(あし)(した)にふみにじらん
口語訳91篇13節 あなたはししと、まむしとを踏み、若いししと、へびとを足の下に踏みにじるであろう。
関根訳91篇13節 君は獅子(しし)と毒蛇をふみつけ、若獅子と大蛇をふみにじる。
新共同91篇13節 あなたは獅子と毒蛇を踏みにじり 獅子の子と大蛇を踏んで行く。


91篇14節


〔3〕エホバの宣(14−16)
(かれ)即ちこの詩人を以て代表せらるゝイスラエルはその(あい)(われ)にそゝげるがゆゑに、(われ)これを仇の手に放置せずしてこれを(たす)けん、かれ()()をしりて我を信ずるが(ゆゑ)(われ)(これ)神の民に相応しき(たか)(ところ)におかん。

文語訳91篇14節 (かれ)その(あい)をわれにそゝげるがゆゑに(われ)これを(たす)けん かれわが()をしるがゆゑに(われ)これを高處(たかきところ)におかん
口語訳91篇14節 彼はわたしを愛して離れないゆえに、わたしは彼を助けよう。彼はわが名を知るゆえに、わたしは彼を守る。
関根訳91篇14節 「彼はわたしに心を寄せる故に、わたしは彼を救う。わが名を知る故に、わたしは彼を守る。
新共同91篇14節 「彼はわたしを慕う者だから 彼を災いから逃れさせよう。わたしの名を知る者だから、彼を高く上げよう。


91篇15節かれ祈に於て(われ)をよばゞ、(われ)こたへて彼の願を容れん、(われ)その苦難(なやみ)のときに彼を棄てず彼と(とも)にをりて(これ)をたすけ、(これ)をあがめてこれを栄光を以て飾らん。

文語訳91篇15節 かれ(われ)をよばゞ(われ)こたへん(われ)その苦難(なやみ)のときに(とも)にをりて(これ)をたすけ(これ)をあがめん
口語訳91篇15節 彼がわたしを呼ぶとき、わたしは彼に答える。わたしは彼の悩みのときに、共にいて、彼を救い、彼に光栄を与えよう。
関根訳91篇15節 彼がわたし を呼ぶとき、わたしは彼に答え、苦難のときに彼とともにあり、彼を助けてこれを栄えさせる。
新共同91篇15節 彼がわたしを呼び求めるとき、彼に答え 苦難の襲うとき、彼と共にいて助け 彼に名誉を与えよう。


91篇16節われ長壽(ながきいのち)をもてかれを()らはしめ、彼に多くの幸を与え(かつ)わが救をしめさん。

文語訳91篇16節 われ長壽(ながきいのち)をもてかれを()らはしめ(かつ)わが(すくひ)をしめさん
口語訳91篇16節 わたしは長寿をもって彼を満ち足らせ、わが救を彼に示すであろう。
関根訳91篇16節 わたしは彼を長寿をもって飽きたらせ、わが救いを彼に示そう」。
新共同91篇16節 生涯、彼を満ち足らせ わたしの救いを彼に見せよう。」