黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第97篇

関根訳喜び


他の詩篇および預言書等より思想と用語とを引用して巧にこれを集輯せる詩で、独創的なるものは存在せず、切実なる体験の声は聴くことができないけれども、詩人の高邁なる思想と巧妙なる技工とにより、極めて高き調子の詩を形成している。1−6、7−12の平均せる二つの部分より成る。


〔1〕エホバは稜威を以て統治め給う(1−6)
97篇1節エホバは統治(すべをさ)めたまふ、彼の統治の下に(ぜん)()はたのしみ、(おほ)くの*島々(しまじま)はよろこぶべし。エホバはその御国を新に興したまひたればなり。

文語訳97篇1節 ヱホバは統御(すべをさ)めたまふ 全地(ぜんち)はたのしみ(おほ)くの島々(しまじま)はよろこぶべし
口語訳97篇1節 主は王となられた。地は楽しみ、海に沿った多くの国々は喜べ。
関根訳97篇1節 ヴェは王となれらた。地よ、よろこび呼ばわれ、多くの島々も喜べよ。
新共同97篇1節 主こそ王。全地よ、喜び躍れ。多くの島々よ、喜び祝え。


補註
「島々」は海岸地方の意味もあり当時としては地中海岸および地中海の島嶼を指せるものと解す、第二イザヤ書の預言の中に多く出づる句。


*97篇2節かつてシナイの山において然りしが如くエホバの威光は耀き出でて(くも)とくらきとはその周環(めぐり)にあり、その審き給うにあたりては(せい)()公平(こうへい)とはその寶座(みくら)(もとゐ)なり。

文語訳97篇2節 (くも)とくらきとはその周環(めぐり)にあり ()公平(こうへい)とはその寳座(みくら)のもとゐなり
口語訳97篇2節 雲と暗やみとはそのまわりにあり、義と正とはそのみくらの基である。
関根訳97篇2節 雲と暗闇はその周りにあり、義と公平はその御位(みくら)(もと)
新共同97篇2節 密雲と濃霧が主の周りに立ちこめ 正しい裁きが王座の基をなす。


補註
89:14。


97篇3節()〔あり、〕そのみまへにすゝみ、彼に敵対するその四周(まはり)(てき)をやきつくす。何ものもエホバの稜威の前に立ち得るものなし。

文語訳97篇3節 ()ありそのみまへにすゝみ その四周(まはり)(てき)をやきつくす
口語訳97篇3節 火はそのみ前に行き、そのまわりのあだを焼きつくす。
関根訳97篇3節 火はそのみ前に行き、その周りの敵どもを焼きつくす。
新共同97篇3節 火は御前を進み 周りの敵を焼き滅ぼす。


*97篇4節エホバのいなびかりは恐るべき光を放ちて世界(せかい)を《てらし》【てらす】()これを()てふるへり。

文語訳97篇4節 ヱホバのいなびかりは世界(せかい)をてらす ()これを()てふるへり
口語訳97篇4節 主のいなずまは世界を照し、地は見ておののく。
関根訳97篇4節 その稲妻は世界を照らし、地はそれを見て震えた。
新共同97篇4節 稲妻は世界を照らし出し 地はそれを見て、身もだえし


補註
77:18。


*97篇5節〔もろもろの〕(やま)(やま))はエホバのみまへ、全地(ぜんぢ)(しゆ)のみまへにてその怒の火の熱によりて(らふ)のごとくとけぬ。

文語訳97篇5節 もろもろの(やま)はヱホバのみまへ全地(ぜんち)(しゆ)のみまへにて(らふ)のごとくとけぬ
口語訳97篇5節 もろもろの山は主のみ前に、全地の主のみ前に、ろうのように溶けた。
関根訳97篇5節 山々はヤヴェの前に、全地の主の前にろうのようにとけた。
新共同 97篇5節 山々は蝋のように溶ける 主の御前に、全地の主の御前に。


補註
ミカ1:4。


97篇6節諸天(しよてん)》【もろもろの天】はその審判によりて神の()をあらはし《もろもろの》【よろづの】(たみ)はその審判を行い給ふ神の榮光(えいくわう)をみたり。

文語訳97篇6節 もろもろの(てん)はその()をあらはし よろづの(たみ)はその榮光(えいくわう)をみたり
口語訳97篇6節 もろもろの天はその義をあらわし、よろずの民はその栄光を見た。
関根訳97篇6節 天はその義をあらわし、すべての国民(くにたみ)はその栄光を見た。
新共同97篇6節 天は主の正しさを告げ知らせ すべての民はその栄光を仰ぎ見る。


〔2〕偶像をはなれて義しきを行え(7−12)
*97篇7節すべて人間の手にてきざめる(ざう)につかへ、内容なく生命なき(むな)しきものによりて(みづか)(ほこ)るものはそれらより何らの救をも得ること能わずして恥辱(はづかしめ)をうくべし、多くの国民が神として仕うるもろもろの(かみ)(がみ))よ、みなエホバをふしをがめ。

文語訳97篇7節 すべてきざめる(ざう)につかへ(むな)しきものによりてみつから(ほこ)るものは恥辱(はづかしめ)をうくべし もろもろの(かみ)よみなヱホバをふしをがめ
口語訳97篇7節 すべて刻んだ像を拝む者、むなしい偶像をもってみずから誇る者ははずかしめをうける。もろもろの神は主のみ前にひれ伏す。
関根訳97篇7節 すべて偶像を拝む者空(むな)しい像を誇る者は恥じる。すべての神々は彼の前に(ひざまず)く。
新共同97篇7節 すべて、偶像に仕える者 むなしい神々を誇りとする者は恥を受ける。神々はすべて、主に向かってひれ伏す。


補註
これを以て異教の神々の実在を信じたものと見るよりも、唯かゝる信仰が異邦人の間に存在したる事実をそのまゝに受納れたものと見るべきである。故によしそれらの神々が実在するとしてもそれらはエホバをふし拝むことによりて真の意味の神たる性質を失うこととなる。七十人訳にこれを「天の使たち」と訳したのもその為であろう。ヘブル1:6はこの七十人訳の引用であろう。


97篇8節エホバよ、なんぢの審判(さばき)のゆゑにより、汝が全地を審き給うことの為にシオンの山によりて代表せらるゝイスラエルの民はききてよろこび、ユダの女等(むすめら)なるその民はみな(たのし)めり。これにまされる喜ばしき音信はなきが故なり。

文語訳97篇8節 ヱホバよなんぢの審判(さばき)のゆゑにより シオンはきゝてよろこびユダの女輩(むすめら)はみな(たの)しめり
口語訳97篇8節 主よ、あなたのさばきのゆえに、シオンは聞いて喜び、ユダの娘たちは楽しむ。
関根訳97篇8節 シオンは聞いて喜び、ユダの娘たちは、ヤヴェよ、あなたの(さば)きの故に喜び呼ばわる。
新共同97篇8節 シオンは聞いて喜び祝い ユダのおとめらは喜び躍る 主よ、あなたの裁きのゆえに。


97篇9節エホバよ、なんぢ全地(ぜんち)のうへにましまして至高(いとたか)く、汝にまさりて高きものはなく〔なんぢ〕もろもろの(かみ)(がみ))のうへにましましてそれらに比して至尊(いとたふと)し。

文語訳97篇9節 ヱホバよなんぢ全地(ぜんち)のうへにましまして至高(いとたか)く なんぢもろもろの(かみ)のうへにましまして至貴(いとたふと)
口語訳97篇9節 主よ、あなたは全地の上にいまして、いと高く、もろもろの神にまさって大いにあがめられます。
関根訳97篇9節 まことにヤヴェよ、あなたは全地の上にいと高く、すべての神々の上に高く上げられる。
新共同97篇9節 あなたは主、全地に君臨されるいと高き神。神々のすべてを超え、あがめられる神。


97篇10節この至高きエホバは義をもて審き給う、それ故にエホバを(いつく)しむ(もの)よ、(あく)をにくめ、これエホバの最も好み給う処なり。エホバはその聖徒(せいと)のたましひをまもり、(これ)をあしきものの()より(たす)けいだしたまふ。

文語訳97篇10節 ヱホバを(いつく)しむものよ(あく)をにくめ ヱホバはその聖徒(せいと)のたましひをまもり (これ)をあしきものの()より(たす)けいだしたまふ
口語訳97篇10節 主は悪を憎む者を愛し、その聖徒のいのちを守り、これを悪しき者の手から助け出される。
関根訳 97篇10節 ヴェを愛する者よ、悪を憎め、彼はその聖徒の生命を守り、悪しき者の手から彼らを救う。
新共同97篇10節 主を愛する人は悪を憎む。主の慈しみに生きる人の魂を主は守り 神に逆らう者の手から助け出してくださる。


97篇11節*(ひかり)(ただ)しき(ひと)のためにまかれ、欣喜(よろこび)はこゝろ(なほ)きもののために〔()かれたり。〕エホバの御旨を行うものには光と喜びとが豊かに播き散さるゝなり。

文語訳97篇11節 (ひかり)はたゞしき(ひと)のためにまかれ 欣喜(よろこび)はこゝろ(なほ)きもののために()かれたり
口語訳97篇11節 光は正しい人のために現れ、喜びは心の正しい者のためにあらわれる。
関根訳97篇11節 光は義しき者のために蒔かれ、喜びは心直き者のために()かれる。
新共同97篇11節 神に従う人のためには光を 心のまっすぐな人のためには喜びを 種蒔いてくださる。


補註
「光は・・・・・・まかれ」は光が散らさるゝこと、ただし「まかれ」の原語を母音を変更して「上り」と訳することができ、この方が「光」のためは適当であるけれども「欣喜」の方には適当しない。


97篇12節義人(たゞしきひと)よ、エホバによりて(よろこ)べ、彼こそはその救主に在し給うが故なり、またその(きよ)御名(みな)感謝(かんしや)せよ。エホバより以外にあがむべき御名無ければなり。

文語訳97篇12節 義人(ただしきひと)よヱホバによりて(よろこ)べ そのきよき(みな)感謝(かんしや)せよ
口語訳97篇12節 正しき人よ、主によって喜べ、その聖なるみ名に感謝せよ。
関根訳97篇12節 義しき者よ、ヤヴェにあって喜べ、その(きよ)きみ名に感謝せよ。
新共同97篇12節 神に従う人よ、主にあって喜び祝え。聖なる御名に感謝をささげよ。