改定版の序

Web版での変更箇所は青色にて追記しました。編集者)

 

 本註解書は昭和四(一九二九)年七月にその第一巻としてコリント前後書を発行し、昭和二五(一九五〇)年十月にルカ伝を刊行して十巻全部を完了したのであった。此の二十一年間に著者に於いて学問的及び体験的の若干の進歩及び変化を免れなかった事と、発行所明和書院の廃業により刊行上種々の不便があった事と、紙型の損傷が次第に加わった事と、殊に本年四月口語訳聖書が日本聖書協会から発行されたので文語約と口語訳との比較研究が必要となって来た事等の理由、及び是迄幾度か実行しようとして果し得なかった誤植の訂正をも兼ねて今回改訂版を発行する事とした。改訂の諸点は

口語訳の本文を欄外に並記した事

Web版では口語訳を含め5翻訳を掲載した。詳細は「凡例」13項参照)

註解の不完全な部分を訂正し、不足な部分を下欄に補充した事

Web版ではこれを註解、辞解、要義に組み込んだ。詳細は「凡例」12項参照

であって、之に由って聖書研究に対する本書の便益は一層増して来て居る事と思う。

 本註解書発行以来二十六年余を経過して居るけれども本書に対する需要は少しも減少しない事は、取りも直さず日本人の聖書研究の熱意が盛である事の証拠であって喜ぶべき事実であると云わなければならない。その為にも此の改訂版は更に一層の貢献を為し得る事と思う。

 尚お本改訂版の発行箇所を旧日英堂の後身であり、横尾留冶氏の女婿によって旧日英同堂跡で経営されて居る立花書房とする事とした。偶々(たまたま)横尾氏は去る七月三十一日九十三歳の老齢を以って永眠されたのであって、本改訂版の発刊は同氏の記念出版ともなった訳である。又今年は恩師内村鑑三先生の昇天二五周年に相当するので著者が師に対する新なる感謝の記念ともなしたいと思う。

 序い此の註解に口語訳を使用する事を快諾された日本聖書協会に対し茲に甚深の謝意を表明する。

昭和三十(一九五五)年一二月

著者