テトスへの書

 

[本書簡の特質]本書に関する大体の事柄は牧会書簡の緒言としてテモテ前書の緒言の中に詳述した。すなわちパウロはローマにおける第一回幽囚より解放せられし後、イスパニヤに往き、さらに転じて東方に伝道したと伝えられているのであるが、その伝道旅行においてテトスを伴い、これと共にクレテ島に行き、そこにテトスを残してさらにギリシャに渡り、やがて来るべき冬をニコポリスにおいて過さんとし、そこに到着する前に本書をテトスに送ってニコポリスに来るべく命じたのであった(3:12)。しかるにパウロは恐らくニコポリスに到着する以前にローマ官憲に捕縛され、ローマに護送されたのであろう。本書簡はそれ故に主としてテトスに牧会上の諸注意を与うることに注意している。

 

[テトスについて]信徒行伝15章に録さるるいわゆる使徒会議においてパウロとバルナバはアンテオケよりエルサレムに赴いた。その時テトスは異邦人キリスト者の代表または雛型のごとき意味においてエルサレムに伴い行かれた。その後パウロは第二回伝道旅行においてテトスを伴い、これをエペソよりコリントに遣わし(Uコリ2:13)、エルサレムに送るべき救済資金の募集のことを掌らしめた(Uコリ78章参照)。この点においてテトスはパウロを助くること多大であった。ローマにおけるパウロの第一回幽囚より解放せられし後の事柄につきては上記本書簡の特質つきての項を見よ。

 

「本書簡の内容」テトスのクレテにおける職務に関し注意を与えたのが本書簡である。すなわちパウロがクレテにおいて完成し得ざりしものの完成として全島に教会を起し、長老、監督を任命すべきこと、ユダヤ的キリスト者を制すべきこと、婦人の信徒に対する注意等をその内容とす。なおテモテ前後書と同じく、パウロは直接にテトスに以上の教訓を与えたに相違がないけれども、なおこれを信徒一般に徹底せしめんがために書簡として送ったものと思われる。