黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第47篇

関根訳神の支配

文語訳( )伶長(うたのかみ)にうたはしめたるコラの()のうた
口語訳聖歌隊の指揮者によってうたわせたコラの子の歌
関根訳47篇1節聖歌隊の指揮者に、コラの子のための、歌。
新共同47篇1節【指揮者によって。コラの子の詩。賛歌。】

神の民イスラエルが全世界を支配するに至るべき理想を胸にいだける詩人が、エホバが全治を治しめす王に在すことを信ずるが故にその理想の実現を想像してエホバをたたえし歌である。実際に起った戦争に勝ちたる際の歌と見るよりもイスラエルの勢力が近隣を圧したる時の作と見るべきが如くである。ユダヤ人の会堂ではこれを新年の歌として用い、キリスト教会にてはこれを昇天日の讃美歌として用う。この詩はエホバの全地における支配を高調するが故にメシヤ預言の詩と解されていることは正しい見方である。新約の立場より見る場合、霊のイスラエルを通して神の支配は全世界に及ぶ。1−4、5−9の二部に区別することを得。


〔1〕エホバは統べ治めたまう(1−4)
47篇1節全世界のもろもろのたみ(ら)よ、王の勝利を祝しつつ()をうち、歓喜(よろこび)(こゑ)をあげ、(かみ)にむかひてさけべ。この歓喜の叫びは全世界に響き渡らん。

文語訳47篇1節 もろもろのたみよ()をうち歡喜(よろこび)のこゑをあげ(かみ)にむかひてさけべ
口語訳47篇1節 もろもろの民よ、手をうち、喜びの声をあげ、神にむかって叫べ。
関根訳47篇2節 すべての国民(くにたみ)は手を打ち、ヤヴェに向かって喜びの声をあげよ。
新共同47篇2節 すべての民よ、手を打ち鳴らせ。神に向かって喜び歌い、叫びをあげよ。


47篇2節《そは》いとたかきエホバはおそるべく、凡てその敵を打破りたまいまた()をあまねく(しろ)しめす(おほい)なる(わう)にてましませばなり。エホバはイスラエルのみならず全地をその所領として支配し給う。

文語訳47篇2節 いとたかきヱホバはおそるべく また()をあまねく(しろ)しめす(おほい)なる(わう)にてましませばなり
口語訳47篇2節 いと高き主は恐るべく、全地をしろしめす大いなる王だからである。
関根訳47篇3節 げにいと高きヤヴェは恐るべく全地の大いなる王にいます。
新共同47篇3節 主はいと高き神、畏るべき方 全地に君臨される偉大な王。


*47篇3節エホバは〔もろもろの〕ことくにの(たみ)(ら)をわれらに(まつろ)はせ、我々イスラエルをしてこれを支配せしめ〔もろもろの〕(くに)(ぐに))をわれらの足下(あしのもと)に〔まつろはせたまふ。〕かくしてイスラエルはエホバによりて全世界を治むることを約束せらる。

文語訳47篇3節 ヱホバはもろもろの(たみ)をわれらに(まつろ)はせ もろもろの(くに)をわれらの足下(あしのもと)にまつろはせたまふ
口語訳47篇3節 主はもろもろの民をわれらに従わせ、もろもろの国をわれらの足の下に従わせられた。
関根訳47篇4節 彼は多くの国民をわれらの(もと)(くだ)らせ、多くの(やから)をわれらの足下(あしもと)に下す。
新共同47篇4節 諸国の民を我らに従わせると宣言し 国々を我らの足もとに置かれた。


補註
3−4節の動詞の時称を如何に訳すべきかにつき諸種の説あり、これを一般的真理を表顕するものと見ることが最も適当である。過去の事実または未来に起るべきことの推定等は不適当なり。


*47篇4節(また)そのいつくしみたまふヤコブ即ちイスラエルの民(ほまれ)し、また誇とする嗣業(ゆづり)をわれらのために(えら)びたま《ふ。》【はん】神はイスラエルを愛し給うが故にかかる嗣業を与え給う。セラ。

文語訳47篇4節 (また)そのいつくしみたまふヤコブが(ほまれ)とする嗣業(ゆずり)をわれらのために(えら)びたまはん セラ
口語訳47篇4節 主はその愛されたヤコブの誇をわれらの嗣業として、われらのために選ばれた。[セラ
関根訳47篇5節 彼はわれらを選んでその嗣業とし、誇高きヤコブを選んでこれを愛した。セラ
新共同47篇5節 我らのために嗣業を選び 愛するヤコブの誇りとされた。〔セラ


〔2〕神をほめうたえ(5−9)
47篇5節 (かみ)降りてイスラエルと共に戦いて勝を得たまいたる後民衆の勝鬨をあげよろこびさけぶ(こゑ)とともに再び天にのぼり、エホバはラッパの(こゑ)とともにのぼりたまへり。

文語訳47篇5節 (かみ)はよろこびさけぶ(こゑ)とともにのぼり ヱホバはラッパの(こゑ)とともにのぼりたまへり
口語訳47篇5節 神は喜び叫ぶ声と共にのぼり、主はラッパの声と共にのぼられた。
関根訳47篇6節 神は歓呼の声の中に上りヤヴェはラッパの声とともに上られた。
新共同47篇6節 神は歓呼の中を上られる。主は角笛の響きと共に上られる。


47篇6節かく神は高く上りたまいたればほめうたへ、(かみ)をほめうたへ、頌歌(ほめうた)へ、われらの(わう)なる神をほめうたへ。幾たびほめうたいても足ることなし。

文語訳47篇6節 ほめうたへ(かみ)をほめうたへ頌歌(ほめうた)へわれらの(わう)をほめうたへ
口語訳47篇6節 神をほめうたえよ、ほめうたえよ、われらの王をほめうたえよ、ほめうたえよ。
関根訳47篇7節 われらの神に向かって歌いつづけわれらの王に向かって歌いつづけよ。
新共同47篇7節 歌え、神に向かって歌え。歌え、我らの王に向かって歌え。


*47篇7節かみは《全地(ぜんち)の》【地にあまねく】(わう)《に(いま)せば》【なれば】なり、ヘ訓(をしへ)のうたをうたひてほめよ。

文語訳47篇7節 かみは()にあまねく(わう)なればなり 教訓(をしへ)のうたをうたひてほめよ
口語訳47篇7節 神は全地の王である。巧みな歌をもってほめうたえよ。
関根訳47篇8節 げに神は全地の王にいます。知恵をもって歌え。
新共同47篇8節 神は、全地の王 ほめ歌をうたって、告げ知らせよ。


補註
7−9節 「全地の王」としてエホバを考えることはイスラエルの民族神たる思想を遥に超越せる思想なり、イザヤ19:25を見よ。ただし旧約時代には血統によるイスラエルの民族中心の思想を脱し得なかったけれども、新約に至ってこのイスラエルは霊のイスラエルとなり(ロマ9:8。ガラテヤ6:16)信仰によるものは如何なる人種にても皆アブラハムの子となる(ロマ9:7、8、26。ガラテヤ3:7、29)。この意味に取りて本篇はこの世界国家の王としてエホバの神を見ることができ、一つの預見的預言的思想となる。「教訓のうた」はまた「悟をもて」または「巧なる歌をもて」等の意あり。


*47篇8節(かみ)は〔もろもろの〕(くに)(ぐに))をすべをさめたまふ、唯にイスラエルのみならず、而して(かみ)はその(きよ)座位(みくら)にすわりて国々を統治したまふ。

文語訳47篇8節 (かみ)はもろもろの(くに)をすべをさめたまふ (かみ)はそのきよき寶座(みくら)にすわりたまふ
口語訳47篇8節 神はもろもろの国民を統べ治められる。神はその聖なるみくらに座せられる。
関根訳47篇9節 神は多くの民族(たみ)の上に王となった。神はその聖なる御座に座した。
新共同47篇9節 神は諸国の上に王として君臨される。神は聖なる王座に着いておられる。


*47篇9節〔もろもろの〕(たみ)(ら)の諸侯(きみたち)エホバの御許につどひきたり、アブラハムの(かみ)(たみ)となれり、かくして全世界は皆アブラハムの神なるエホバの民となる、()諸国の軍勢の持つ〔もろもろの〕(たて)(かみ)のものなり、神は結局これらを以て全地を一つとなし給う、(かみ)はいとたふとし。いと高きにあげられたまえり。

文語訳47篇9節 もろもろのたみの諸侯(きみたち)はつどひきたりてアブラハムの(かみ)(たみ)となれり ()のもろもろの(たて)(かみ)のものなり(かみ)はいとたふとし
口語訳47篇9節 もろもろの民の君たちはつどい来て、アブラハムの神の民となる。地のもろもろの盾は神のものである。神は大いにあがめられる。
関根訳47篇10節 多くの国民の貴き者はアブラハムの神の民に加えさせられた。げにヤヴェは地を()べ治める者彼は大いにあがめられるべきである。
新共同47篇10節 諸国の民から自由な人々が集められ アブラハムの神の民となる。地の盾となる人々は神のもの。神は大いにあがめられる。