黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第64篇

関根訳審き

文語訳( )伶長(うたのかみ)にうたはしめたるダビデのうた
口語訳聖歌隊の指揮者によってうたわせたダビデの歌
関根訳64篇1節聖歌隊の指揮者に、ダビデの歌。
新共同64篇1節【指揮者によって。賛歌。ダビデの詩。】

義者に敵する者の上に神の審判が下ることを示す詩。1−6において詩の作者の祈と彼に敵する者の奸計、讒謗の数々を掲げ、7−10において忽然これに対する神の審判を示す。而してこの罪悪と審判とは互に相対応し、義者を傷わんとする矢(3節)は神の矢にて酬いられ(7節)、隠れて彼らが為せる事は(4節)凡ての人に見られ(8節)、彼ら羂を設けしも(5節)彼ら自ら躓き(8節)、かくして義者に完全なる勝利が臨むに至ることを示す。


〔1〕祈り(1−2)
64篇1節(かみ)よ、わがなやみを訴えてなげく(とき)、わが(こゑ)をききこれに耳を傾けわれをあわれみたまへ、わが生命(いのち)を〔まもりて〕(あた)のおそれより《保護(ほご)し》【脱かれしめ】仇の攻撃に対し安らかならしめたまへ。

文語訳64篇1節 (かみ)よわがなげくときわが(こゑ)をきゝたまへ わが生命(いのち)をまもりて(あた)のおそれより(まぬか)れしめたまへ
口語訳64篇1節 神よ、わたしが嘆き訴えるとき、わたしの声をお聞きください。敵の恐れからわたしの命をお守りください。
関根訳64篇2節 ヴェよ、わが(なげ)きの声を聞いて下さい、敵の脅かしからわが生命を守って下さい。
新共同64篇2節 神よ、悩み訴えるわたしの声をお聞きください。敵の脅威からわたしの命をお守りください。


64篇2節ねがはくは、【汝われをかくして】(あく)をなすものの《陰謀(いんぼう)と》【陰かなる謀略よりまぬかれしめ】不義(ふぎ)(おこな)(もの)の《騒擾(さうじやう)と》【喧嘩】より《(われ)をかくしその陰謀より免れしめ、その不義の騒ぎの中に陥らざらしめ(たま)へ。》【まぬかれしめ給へ】彼らは密かに我を陥れんとするなり。

文語訳64篇2節 ねがはくは(なんぢ)われをかくして(あく)をなすものの(ひそ)かなる謀略(はかりごと)よりまぬかれしめ不義(ふぎ)をおこなふものの喧嘩(かまびすしき)よりまぬかれしめ(たま)
口語訳64篇2節 わたしを隠して、悪を行う者のひそかなはかりごとから免れさせ、不義を行う者のはかりごとから免れさせてください。
関根訳64篇3節 わたしを悪人のひそかな計画(はかりごと)から不法を行なう者の(つど)いから隠して下さい。
新共同64篇3節 わたしを隠してください さいなむ者の集いから、悪を行う者の騒ぎから。


〔2〕悪を為す者の態度(3−6)
64篇3節かれらは(つるぎ)のごとくおのが(した)をとぎ、その舌を以て人を刺し殺し《その(にが)(ことば)*()()り、》【その弓をはり矢をつがへるごとく苦き言をはなち】これを以て人を射てこれに苦痛を与え、

文語訳64篇3節 かれらは(つるぎ)のごとくおのが(した)をとぎその(ゆみ)をはり()をつがへるごとく苦言(にがきことば)をはなち
口語訳64篇3節 彼らはその舌をつるぎのようにとぎ、苦い言葉を矢のように放ち、
関根訳64篇4節 彼らはその舌を剣のように鋭くし毒を含んだ言葉を矢のように(とが)らせるのです。
新共同64篇4節 彼らは舌を鋭い剣とし 毒を含む言葉を矢としてつがえ


補註
「矢を張る」は意味を成さず「弓を張る」とすべしとの理由より本文を幾分変更して「矢の如くに苦き言を鋭くせり」その他の訳が試みられており、現行訳にもこの苦心の跡が見える。


64篇4節(かく)れたるところにて(また)(もの)即ち正しき生活を送る我の如き者()んとす、彼らは公然に我らに立向うことを得ざるが故なり。それ故に彼らは(には)かにこれを()*おそるることなし。かくして彼らはその企図に成功す。

文語訳64篇4節 (かく)れたるところにて全者(またきもの)()んとす (にはか)にこれを()ておそるゝことなし
口語訳64篇4節 隠れた所から罪なき者を射ようとする。にわかに彼を射て恐れることがない。
関根訳 64篇5節 それは隠れた所で罪なき者を射るためであり、彼らは罪なき者を突如射て、少しも恐れません。
新共同64篇5節 隠れた所から無垢な人を射ようと構え 突然射かけて、恐れもしません。


補註
「おそるることなし」は些細の変更を加えて「人に見らるる事なし」と訳することができる。有力なる説である。


*64篇5節また《()しき企圖(くはだて)(みづか)らを(つよ)くして且つ心の中に()ふ》【たがひにあしき企圖をはげまし*共にはかりて】ひそかに(わな)をまう《けんと、》【く】()くていふ『(たれ)か《*かれら》【われら】を()ん』と。悪に強き豪胆なる心を以て彼らは悪を企て羂を設け、誰にも見出さるることなからんことを信じて恐るることなく義者を迫害する。

文語訳64篇5節 また彼此(たがひ)にあしき企圖(くはだて)をはげまし(とも)にはかりてひそかに(わな)をまうく(かく)ていふ(たれ)かわれらを()んと
口語訳64篇5節 彼らは悪い企てを固くたもち、共にはかり、ひそかにわなをかけて言う、「だれがわれらを見破ることができるか。
関根訳64篇6節 彼らは悪事に固執しひそかにわなを設けて思うには「誰が自分たちを見ているものか、
新共同64篇6節 彼らは悪事にたけ、共謀して罠を仕掛け 「見抜かれることはない」と言います。


補註
本節の訳は英改訳を誤訳せし形跡あり、原語に近く私訳を試む。「共にはかり」は英訳 Commune の誤訳で原語サーフアルは「数える」「宣言する」「物語る」等の意、この場合は心竊に語った意味。「われらを」は意訳。


64篇6節かれらは何なりと悪事を為さんとて不義(ふぎ)(さぐ)(もと)め》【さまざまの不義をたづねいだし】て〔()ふ〕『(われ)らは《熱心(ねつしん)なる探求(たんきう)完成(くわんせい)せり》』【懇ろにたづね終れり』 と。かくして彼らはその為さんと企てし悪を為すなり、げにおのおのの(うち)のおもひと(こころ)とは汲みても尽きざる狡計に満ちて甚だふかし。

文語訳64篇6節 かれらはさまざまの不義(ふぎ)をたづねいだして()ふわれらは(ねんご)ろにたづね(をは)れりと おのおのの(うち)のおもひと(こころ)とはふかし
口語訳64篇6節 だれがわれらの罪をたずね出すことができるか。われらは巧みに、はかりごとを考えめぐらしたのだ」と。人の内なる思いと心とは深い。
関根訳64篇7節 この完全犯罪を注視しているものか」と。注視している者はよく見ている、人の内心と奥深き心の底を。
新共同64篇7節 巧妙に悪を謀り 「我らの謀は巧妙で完全だ。人は胸に深慮を隠す」と言います。


〔3〕神は審判き給う(7−10)
64篇7節3−6節の示す如く敵は深き悪計を以て我を苦しめる(しか)はあれど(かみ)かかる者を看過し給わず()にてかれらを()たまふべし、かれらは(には)かに(きず)をうけん。かくして彼らに対する審判は全うせらる。

文語訳64篇7節 (しか)はあれど(かみ)()にてかれらを()たまふべし かれらは(にはか)(きず)をうけん
口語訳64篇7節 しかし神は矢をもって彼らを射られる。彼らはにわかに傷をうけるであろう。
関根訳64篇8節 ヴェは矢をもって彼らを射る。突如彼らは傷をうける。
新共同64篇8節 神は彼らに矢を射かけ 突然、彼らは討たれるでしょう。


*64篇8節()くて《(かれ)らの(した)の言う処(はん)して(かれ)らは(つまづ)かしめられん、》【かれらの舌は其身にさからふが故に遂にかれらは躓かん】これを()るものはその審判の恐るべきをみてみな(のが)れさるべし。

文語訳64篇8節 (かく)てかれらの(した)其身(そのみ)にさからふがゆゑに(つひ)にかれらは(つまつ)かん これを()るものみな(のが)れさるべし
口語訳64篇8節 神は彼らの舌のゆえに彼らを滅ぼされる。彼らを見る者は皆そのこうべを振るであろう。
関根訳64篇9節 彼は舌の罪の故に彼らを倒し、彼らを見る者はみな逃げ去る。
新共同64篇9節 自分の舌がつまずきのもとになり 見る人は皆、頭を振って侮るでしょう。


補註
前半難解の箇所、原文に混乱あるやも知れず、文字に変更を加えて「その舌の罪は彼らを躓かしめ」と読ましむる説あり。


64篇9節もろもろの(ひと)この神の審判を見ておそれん、(しか)して(かみ)のみわざをのべつたへ、その()したまへることを《(さと)る》【考ふ】べし。審判は滅ぼさんが為にあらず救わんが為なり。

文語訳 64篇9節 もろもろの(ひと)はおそれん(しか)して(かみ)のみわざをのべつたへ その()したまへることを(かんが)ふべし
口語訳64篇9節 その時すべての人は恐れ、神のみわざを宣べ伝え、そのなされた事を考えるであろう。
関根訳64篇10節 すべての人は恐れつつ神のなす所を告げ知らせそのみわざを悟る。
新共同64篇10節 人は皆、恐れて神の働きを認め 御業に目覚めるでしょう。


64篇10節(ただ)しき(もの)はエホバをよろこびて《(これ)をその避所(さけどころ)とせん》【之によりたのまん】すべて(こころ)のなほき(もの)(みな)神の恩恵によりて護られしことをほこることを()ん。神の審判は実に奇しきかな。

文語訳64篇10節 義者(たゞしきもの)はヱホバをよろこびて(これ)によりたのまん すべて(こころ)のなほきものは(みな)ほこることを()
口語訳64篇10節 正しい人は主にあって喜び、かつ主に寄り頼む。すべて心の直き者は誇ることができる。
関根訳64篇11節 (ただ)しき者よ、ヤヴェにあって喜べ、ヤヴェを避け所とせよ、心直き者はみな誇るべし。
新共同64篇11節 主に従う人は主を避けどころとし、喜び祝い 心のまっすぐな人は皆、主によって誇ります。