黒崎幸吉著 旧約聖書略註 Web版 詩篇





詩篇 第86篇

関根訳貧しき者

文語訳( )ダビデの祈禱(いのり)
口語訳ダビデの祈

本篇は他の多くの詩篇および出エジプト記、イザヤ書、エレミヤ記等よりの断片的引用を繋ぎ合せて作れるモザイク的の詩篇であって、ダビデの祈祷の心持を模倣せるものである。従って全篇を通じて独創的なるもの、個性的なるひらめきを欠いているけれども、本篇の作者が聖書に精通せる敬虔なる人であったことは、その豊富なる引用および、「主」なる呼称を七回も用い、また自己を呼ぶに「僕」「はしための子」等の語を用うる心構えを以てもこれを知ることができる。1−7節に祈願の心を歌い、8−17節に神の能力と恩恵とを讃美しこれに依頼む心とを歌う。


〔1〕祈願(1−7)
86篇1節エホバよ、なんぢ我が祈の声に(みゝ)をかたぶけ〔て〕われ叫ぶとき(われ)にこたへたまへ、(われ)もろもろの苦難のためにくるしみかつ(とも)しければなり(17:6。40:17)

文語訳86篇1節 ヱホバよなんぢ(みみ)をかたぶけて(われ)にこたへたまへ (われ)はくるしみかつ(とも)しければなり
口語訳86篇1節 主よ、あなたの耳を傾けて、わたしにお答えください。わたしは苦しみかつ乏しいからです。
関根訳86篇1節 ダビデの祈り。ヤヴェよ、耳を傾け、わたしに答え給え。げにわたしは乏しく、貧しい。
新共同86篇1節 【祈り。ダビデの詩。】主よ、わたしに耳を傾け、答えてください。わたしは貧しく、身を屈めています。


86篇2節ねがはくはわが靈魂(たましひ)多くの誘惑と滅亡よりまもりたまへ、われ(かみ)《に(あい)せらるる》【をうやまふ】(もの)なればなり。わが(かみ)よ、(なんぢ)依頼(よりたの)めるなんぢの(しもべ)もろもろの苦痛より(すく)ひたまへ。彼は唯汝にのみ望をつなぐが故なり。

文語訳86篇2節 ねがはくはわが靈魂(たましひ)をまもりたまへ われ(かみ)をうやまふ(もの)なればなり わが(かみ)よなんぢに依頼(よりたの)める(なんぢ)のしもべを(すく)(たま)
口語訳86篇2節 わたしのいのちをお守りください。わたしは神を敬う者だからです。あなたに信頼するあなたのしもべをお救いください。あなたはわたしの神です。
関根訳86篇2節 わが魂をまもり給え。わたしは神につく者です。あなたに信頼する(しもべ)を助け、
新共同86篇2節 わたしの魂をお守りください わたしはあなたの慈しみに生きる者。あなたの僕をお救いください あなたはわたしの神 わたしはあなたに依り頼む者。


86篇3節(しゆ)よ、われを(あはれ)みたまへ、われこの苦難の中に ありて終日(ひねもす)なんぢによばふ(57:1、2)

文語訳86篇3節 (しゆ)よわれを(あは)れみたまへ われ終日(ひねもす)なんぢによばふ
口語訳86篇3節 主よ、わたしをあわれんでください。わたしはひねもすあなたに呼ばわります。
関根訳86篇3節 主よ、わたしをあわれみ給え。わたしは終日あなたを呼んでいるのです。
新共同86篇3節 主よ、憐れんでください 絶えることなくあなたを呼ぶわたしを。


86篇4節なんぢの(しもべ)のたましひを汝の恩恵によりて(よろこ)ばせたまへ(90:15)、(そは)(しゆ)よ、わが靈魂(たましひ)はなんぢを(あほ)ぎ《のぞめばなり。》【のぞむ】我はただ主にのみわが凡ての望を置くなり(25:1)。

文語訳86篇4節 なんぢの(しもべ)のたましひを(よろこ)ばせたまへ (しゆ)よわが靈魂(たましひ)はなんぢを(あふ)ぎのぞむ
口語訳86篇4節 あなたのしもべの魂を喜ばせてください。主よ、わが魂はあなたを仰ぎ望みます。
関根訳86篇4節 あなたの僕の魂を喜ばせ給え、主よ、わたしはわが魂をあなたに向かってもたげるのです。
新共同86篇4節 あなたの僕の魂に喜びをお与えください。わたしの魂が慕うのは 主よ、あなたなのです。


86篇5節(しゆ)よ、なんぢは(めぐみ)ふかくまた (ゆるし) をこのみ〔たまふ。〕 (なんぢ)によばふ(すべ)てのものを(ゆた)かにあはれみたまふ((ゆゑ)なり)。

文語訳86篇5節 (しゆ)よなんぢは(めぐみ)ふかくまた(ゆるし)をこのみたまふ (なんぢ)によばふ(すべ)てのものを(ゆた)かにあはれみたまふ
口語訳86篇5節 主よ、あなたは恵みふかく、寛容であって、あなたに呼ばわるすべての者にいつくしみを豊かに施されます。
関根訳86篇5節 げに主よ、あなたは恵み深く、ゆるしに富み、すべてあなたを呼ぶ者をゆたかにあわれみ給う。
新共同86篇5節 主よ、あなたは恵み深く、お赦しになる方。あなたを呼ぶ者に 豊かな慈しみをお与えになります。


86篇6節エホバよ、わがいのりに(みゝ)をかたぶけ、わが懇求(ねがひ)のこゑをきゝたまへ(55:1、2)

文語訳86篇6節 ヱホバよわがいのりに(みみ)をかたぶけ わが懇求(ねがひ)のこゑをきゝたまへ
口語訳86篇6節 主よ、わたしの祈に耳を傾け、わたしの願いの声をお聞きください。
関根訳86篇6節 ヴェよ、わが祈りに耳をかし、わが(なげ)きの声にきき給え。
新共同86篇6節 主よ、わたしの祈りをお聞きください。嘆き祈るわたしの声に耳を向けてください。


86篇7節われわが患難(なやみ)()助を求めてなんぢに(よば)はん、なんぢはこの叫びをきゝて(われ)にこたへたまふ《べければなり。》【べし】(17:6)

文語訳86篇7節 われわが患難(なやみ)()になんぢに(よば)はん なんぢは(われ)にこたへたまふべし
口語訳86篇7節 わたしの悩みの日にわたしはあなたに呼ばわります。あなたはわたしに答えられるからです。
関根訳86篇7節 わが悩みの日に、わたしはあなたを呼ぶ、げにあなたはわたしに答え給う。
新共同86篇7節 苦難の襲うときわたしが呼び求めれば あなたは必ず答えてくださるでしょう。


〔2〕神に対する讃美と信頼(8−17)
86篇8節(しゆ)よ、全世界に数多く存する如くに考えられて居る〔もろもろの〕(かみ)(がみ))のなかに、(なんぢ)にひとしきものはなく、汝に比肩すべきものはなし、また(なんぢ)のみわざに(ひと)しきものはなし。如何なる神か汝の如き御業をなすことを得んや(出エジプト15:11)。

文語訳86篇8節 (しゆ)よもろもろの(かみ)のなかに(なんぢ)にひとしきものはなく(なんぢ)のみわざにr(ひと)しきものはなし
口語訳86篇8節 主よ、もろもろの神のうちにあなたに等しい者はなく、また、あなたのみわざに等しいものはありません。
関根訳86篇8節 神々の中に、主よ、あなたの如き神はなく、あなたのなさったみ業にしくものはない。
新共同86篇8節 主よ、あなたのような神は神々のうちになく あなたの御業に並ぶものはありません。


*86篇9節(しゆ)よ、なんぢの(つく)れるもろもろの(くに)今は叛きて汝を信ぜずといえどもやがてはみななんぢの(まへ)にきたりて伏拜(ふしをが)まん、かれらは聖名(みな)をあがむるに至り、聖名の栄光をあぐるに至るべし(22:27。イザヤ24:15等)

文語訳86篇9節 (しゆ)よなんぢの(つく)れるもろもろの(くに)はなんぢの(まへ)にきたりて伏拜(ふしをが)まん かれらは聖名(みな)をあがむべし
口語訳86篇9節 主よ、あなたが造られたすべての国民はあなたの前に来て、伏し拝み、み名をあがめるでしょう。
関根訳86篇9節 すべての異国の民はあなたのもとに来り、主よ、あなたのみ前に平伏(ひれふ)し、み名を讃える。
新共同86篇9節 主よ、あなたがお造りになった国々はすべて 御前に進み出て伏し拝み、御名を尊びます。


補註
本節は雄大なるメシヤ思想をあらわしている点において注意すべき一節である。


86篇10節(そは)なんぢは(おほい)《に(いま)し》【なり】(くす)しき御業(みわざ)をなしたまふ((ゆゑ)なり)、《(なんぢ)(ただ)ひとり》【唯なんぢのみ】(かみ)にましませり。その他の神は神にして神にあらず(77:13、14)

文語訳86篇10節 なんぢは(おほい)なり (くす)しき事跡 (みわざ)をなしたまふ (ただ) なんぢのみ(かみ)にましませり
口語訳86篇10節 あなたは大いなる神で、くすしきみわざをなされます。ただあなたのみ、神でいらせられます。
関根訳86篇10節 げにあなたは大いにして、奇しき業をなし給う。あなたのみ、神にいます。
新共同86篇10節 あなたは偉大な神 驚くべき御業を成し遂げられる方 ただあなたひとり、神。


86篇11節エホバよ、我らが踏み行うべきなんぢの(みち)をわれに(をし)へたまへ(27:11)(われ)なんぢの眞理(まこと)《に》【を】従いてあゆまん、ねがはくは(われ)をして(こゝろ)ひとつに専心専念に聖名(みな)をおそれしめたまへ。これによりて始めて汝の真理に歩むことを得ん。

文語訳86篇11節 ヱホバよなんぢの(みち)をわれに(をし)へたまへ(われ)なんぢの眞理(まこと)をあゆまん ねがはくは(われ)をして(こころ)ひとつに聖名(みな)をおそれしめたまへ
口語訳86篇11節 主よ、あなたの道をわたしに教えてください。わたしはあなたの真理に歩みます。心をひとつにしてみ名を恐れさせてください。
関根訳86篇11節 ヴェよ、あなたの道をわたしに教え給え。わたしはあなたの真実(まこと)に歩む。心を一つにして、み名を(おそ)れさせ給え。
新共同86篇11節 主よ、あなたの道をお教えください。わたしはあなたのまことの中を歩みます。御名を畏れ敬うことができるように 一筋の心をわたしにお与えください。


86篇12節(しゆ)わが(かみ)よ、我心(われこゝろ)をつくして(なんぢ)をほめたたへ、とこしへに聖名(みな)をあがめまつらん(57:9)

文語訳86篇12節 (しゆ)わが(かみ)我心(われこころ)をつくして(なんぢ)をほめたゝへ とこしへに聖名(みな)をあがめまつらん
口語訳86篇12節 わが神、主よ、わたしは心をつくしてあなたに感謝し、とこしえに、み名をあがめるでしょう。
関根訳86篇12節 わが神よ、わたしは心をつくしてあなたをほめ、とこしえにみ名をあがめまつるでしょう。
新共同86篇12節 主よ、わたしの神よ 心を尽くしてあなたに感謝をささげ とこしえに御名を尊びます。


86篇13節そはなんぢの憐憫(あはれみ)はわれに(おほい)《にして》【なり】わがたましひを陰府(よみ)のふかき(ところ)に滅び失することより(たす)けいだし《たまひたればなり、》【たまへり】(56:13。申命32:22)

文語訳86篇13節 そはなんぢの憐憫(あはれみ)はわれに(おほい)なり わがたましひを陰府(よみ)のふかき(ところ)より(たす)けいだしたまへり
口語訳86篇13節 わたしに示されたあなたのいつくしみは大きく、わが魂を陰府の深い所から助け出されたからです。
関根訳86篇13節 げにあなたの恵みはわが上に大きく、あなたは下なる陰府からわが魂を救い給う。
新共同86篇13節 あなたの慈しみはわたしを超えて大きく 深い陰府から わたしの魂を救い出してくださいます。


86篇14節(かみ)よ、*たかぶれるものは(われ)にさからひて(おこ)りたち、我を非難し我を苦しめ、(あら)ぶる(ひと)(つどひ)はわがたましひをもとめ、我を迫害する()くてなんぢを(おの)がまへに()ず汝の真理に従いて歩まざりき(54:3)

文語訳86篇14節 (かみ)よたかぶれるものは(われ)にさからひて(おこ)りたち (あら)ぶる(ひと)(つどひ)はわがたましひをもとめ (かく)てなんぢを(おの)がまへに()かざりき
口語訳86篇14節 神よ、高ぶる者はわたしに逆らって起り、荒ぶる者の群れはわたしのいのちを求め、彼らは自分の前にあなたを置くことをしません。
関根訳86篇14節 神よ、高ぶる者はわたしに向かって立ち上がり、荒ぶる者の群はわたしの生命(いのち)をねらい、あなたはその眼中にない。
新共同86篇14節 神よ、傲慢な者がわたしに逆らって立ち 暴虐な者の一党がわたしの命を求めています。彼らはあなたを自分たちの前に置いていません。


補註
「たかぶれるもの」の原語につきては54:3補註参照。本篇は最も多く25−28篇、54−57篇より引用せるものの如し。


86篇15節されど(しゆ)よ、なんぢは隣閥(あはれみ)とめぐみとにとみ、《(いか)ることおそく》【怒をおそくし】(いつく)しみと眞理(まこと)とにゆたかなる(かみ)にましませり(出エジプト34:6)

文語訳86篇15節 されど(しゆ)よなんぢは隣閥(あはれみ)とめぐみとにとみ(いかり)をおそくし(いつく)しみと眞實(まこと)とにゆたかなる(かみ)にましませり
口語訳86篇15節 しかし主よ、あなたはあわれみと恵みに富み、怒りをおそくし、いつくしみと、まこととに豊かな神でいらせられます。
関根訳86篇15節 主よ、あなたはあわれみと恵みに満つる神、怒ることおそく、いつくしみと真実に富み給う。
新共同86篇15節 主よ、あなたは情け深い神 憐れみに富み、忍耐強く 慈しみとまことに満ちておられる。


86篇16節されば汝は我をかゝる有様にすておき給わず(われ)をかへりみ、(われ)をあはれみたまへ、ねがはくは(なんぢ)のしもべに能力(みちから)(あた)てこの苦難に打勝たしめ(なんぢ)のはしための()このなやみよりすくひたまへ(25:16。116:16)

文語訳86篇16節 (われ)をかへりみ(われ)をあはれみたまへ ねがはくは(なんぢ)のしもべに能力(みちから)(あた)(なんぢ)のはしための()をすくひたまへ
口語訳86篇16節 わたしをかえりみ、わたしをあわれみ、あなたのしもべにみ力を与え、あなたのはしための子をお救いください。
関根訳86篇16節 わたしにみ顔を向け、わたしをあわれみ給え。み力をあなたの僕に与え、あなたに忠実な子を助け給え。
新共同86篇16節 わたしに御顔を向け、憐れんでください。御力をあなたの僕に分け与え あなたのはしための子をお救いください。


86篇17節(われ)対してめぐみの(しるし)をあらはしたまへ、さらばわれを苦しめわれをにくむ(もの)これを()て《()ぢしめられん、》【恥をいだかん】そはエホバよ、(なんぢ)彼らを打砕き給うことにより(われ)をたすけ、(われ)をなぐさめたまへばなり。

文語訳86篇17節 (われ)にめぐみの憑據(しるし)をあらはしたまへ(さら)ばわれをにくむ(もの)これをみて(はぢ)をいだかん そはヱホバよなんぢ(われ)をたすけ(われ)をなぐさめたまへばなり
口語訳86篇17節 わたしに、あなたの恵みのしるしをあらわしてください。そうすれば、わたしを憎む者どもはわたしを見て恥じるでしょう。主よ、あなたはわたしを助け、わたしを慰められたからです。
関根訳86篇17節 恵みの(しるし)をわたしに行ない給え。わたしを憎む者はそれを見て、恥じるであろう。ヤヴェよ、わたしを助け、慰める者はあなただからです。
新共同86篇17節 良いしるしをわたしに現してください。それを見て わたしを憎む者は恥に落とされるでしょう。主よ、あなたは必ずわたしを助け 力づけてくださいます。