註解新約聖書完成に際して

 

今回『ルカ伝』がいよいよ発行されることとなった。是が註解新約聖書の第十冊であり之で新約全部を完成した事となる。顧ると昭和三年(一九二八年)此の註解に着手し翌四年に東京日英堂より『コリント前後書』が発行されてから既に二十年余の歳月が経過した。其の間に日支事変・太平洋戦争を経て日本の敗戦と言う空前の事件が起こったけれども幸いに空爆下にも私の生命が保たれ此の仕事が続けられたことは感謝にたへない。そして終戦後は明和書院に於いて此の事業を継承し不完全ながら新約全部を完成し、茲にその最終冊を送ることが出来ることになったのは全く神の特別の御護りによった事であると思う。

 敗戦後日本に聖書研究の猛烈なる欲求が起こりつつあり、その欲求に対して本註解十巻が幾分の参考になり得るならば、予の二十余年の苦心は十二分に報いられた事と思う。

 

一九五〇(昭和二十五)年九月

 

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