ルカ伝第17章
分類
8 神の国の教訓 14:1 - 18:30
8-3 神の国に入るもの 17:1 - 18:30
8-3-イ 人を躓かすな 17:1 - 17:2
(マタ18:6-7) (マコ9:42)
17章1節 イエス
口語訳 | イエスは弟子たちに言われた、「罪の誘惑が来ることは避けられない。しかし、それをきたらせる者は、わざわいである。 |
塚本訳 | それから弟子たちに言われた、「罪のいざないが来るのは致し方がない。だが、それを来させる人は禍だ。 |
前田訳 | 彼は弟子たちにいわれた、「つまずきが来ないようにはできない。しかしそれを来させる人はわざわいである。 |
新共同 | イエスは弟子たちに言われた。「つまずきは避けられない。だが、それをもたらす者は不幸である。 |
NIV | Jesus said to his disciples: "Things that cause people to sin are bound to come, but woe to that person through whom they come. |
17章2節 この
口語訳 | これらの小さい者のひとりを罪に誘惑するよりは、むしろ、ひきうすを首にかけられて海に投げ入れられた方が、ましである。 |
塚本訳 | この小さな者を一人でも罪にいざなうよりは、挽臼を頚にかけられて海に放り込まれる方が、その人の為である。 |
前田訳 | これら小さなもののひとりをつまずかせるよりは、ひき臼を首にかけられて海に投げ入れられたほうがその人にましである。 |
新共同 | そのような者は、これらの小さい者の一人をつまずかせるよりも、首にひき臼を懸けられて、海に投げ込まれてしまう方がましである。 |
NIV | It would be better for him to be thrown into the sea with a millstone tied around his neck than for him to cause one of these little ones to sin. |
註解: マタ18章参照。躓物は信仰の躓きで、そのために神から離れ信ずる者たちの交わりから離れるようになることである。人間は極めて弱いもので、弟子たちの中にも信仰を失う者があり、または道徳的の罪に陥り、または信者同志の間に争いが起る場合は絶無ではない。これらの事実が起る場合を考えてイエスは深い憂慮を覚え、かかる躓きを与える原因となる人々に対し大きい義憤を投げかけ給うた。躓きを引起す人が、一人の神の国の民の信仰を失わしめることは本人に不幸を与えるのみならず、天において神に対し大きい悲嘆を投げかけることである。それほど重い罪はない。かかる人はむしろ海中に沈められる方が遙かに幸福である。それ故イエスの弟子が最も注意しなければならないことは、イエスの血によって贖われし神の子たち ─ その中のいと小さき者の一人をも ─ を躓かせないことである。▲skandalon「躓き」は口語訳の「罪の誘惑」よりも内容は広い。
註解: 3、4節は躓きを与えないようにするための一つの重要なる注意であって、それは互に罪を戒めまた赦し合うことである。
17章3節
口語訳 | あなたがたは、自分で注意していなさい。もしあなたの兄弟が罪を犯すなら、彼をいさめなさい。そして悔い改めたら、ゆるしてやりなさい。 |
塚本訳 | (人を罪にいざなわぬよう)注意せよ。(また)もし兄弟が(あなたに対して)罪を犯したら、これを咎め、悔改めたら、赦してやりなさい。 |
前田訳 | 自ら気をつけよ。兄弟が罪を犯したら、いましめよ。悔い改めたら、ゆるしなさい。 |
新共同 | あなたがたも気をつけなさい。もし兄弟が罪を犯したら、戒めなさい。そして、悔い改めれば、赦してやりなさい。 |
NIV | So watch yourselves. "If your brother sins, rebuke him, and if he repents, forgive him. |
17章4節 もし
口語訳 | もしあなたに対して一日に七度罪を犯し、そして七度『悔い改めます』と言ってあなたのところへ帰ってくれば、ゆるしてやるがよい」。 |
塚本訳 | あなたに対して一日に七度罪を犯しても、七度『すまなかった』と言って、あなたの所へもどってきたら、七度赦してやらねばならない。」 |
前田訳 | 一日に七度あなたに罪を犯しても、七度あなたのところに来て、『改めます』というなら、ゆるしなさい」と。 |
新共同 | 一日に七回あなたに対して罪を犯しても、七回、『悔い改めます』と言ってあなたのところに来るなら、赦してやりなさい。」 |
NIV | If he sins against you seven times in a day, and seven times comes back to you and says, `I repent,' forgive him." |
註解: マタ18:15−22参照。兄弟たちの間に罪を犯せる者のある場合は公明正大に(マタ18:15−17)これを処置し、その間に不明朗な点、不透明な点が残ってはならない。すなわち責むべき点を責め、戒むべき点を戒めて、もし心から「悔改む」という場合心からこれを赦すべきである。しかしてその度数は無制限である。心から「悔改む」ということは勇気を要するけれどもこれを明白に言うことは、決して恥ではなく相手方との関係を以前にも増して親しくすることであり、かつその交わりを一段と高い水準に高揚する力を持っている。そして神との間にもまた一層の強く親しい交わりを得るようになる。
17章5節
口語訳 | 使徒たちは主に「わたしたちの信仰を増してください」と言った。 |
塚本訳 | 使徒たちが主に言った、「もっと信仰を下さい。」 |
前田訳 | 使徒たちが主にいった、「われらの信仰を増してください」と。 |
新共同 | 使徒たちが、「わたしどもの信仰を増してください」と言ったとき、 |
NIV | The apostles said to the Lord, "Increase our faith!" |
註解: ルカ9:10以来使徒に直接語り給うたのは本節以下である。使徒たちは1−4節のイエスの御言を聞き、その重い責任を感じてその信仰を増すことを主に請うた。これに対してイエスは如何にすれば信仰を増し得るかについて一言も教え給わず、また信仰を増すとは如何なることか、また信仰を増すことが必要であるかどうかにも觸れ給わず、単純に二つの比喩をもって使徒たちに答え給うた。
17章6節
口語訳 | そこで主が言われた、「もし、からし種一粒ほどの信仰があるなら、この桑の木に、『抜け出して海に植われ』と言ったとしても、その言葉どおりになるであろう。 |
塚本訳 | 主が言われた、「もしあなた達に芥子粒ほどでも信仰があれば、──(あなた達にはそれがないが、もしあれば)──この桑の木にむかい『抜けて海に植われ』と言っても、言うことを聞くであろう。 |
前田訳 | 主はいわれた、「からしの一粒ほどの信仰があれば、この桑の木に、『抜けて海に植われ』といってもいうことを聞こう。 |
新共同 | 主は言われた。「もしあなたがたにからし種一粒ほどの信仰があれば、この桑の木に、『抜け出して海に根を下ろせ』と言っても、言うことを聞くであろう。 |
NIV | He replied, "If you have faith as small as a mustard seed, you can say to this mulberry tree, `Be uprooted and planted in the sea,' and it will obey you. |
註解: (▲口語訳「その言葉どおりになるであろう」。文語訳「汝らに従うべし」の意訳と思われるが、直訳でかえって意味は明瞭であり信仰の力を示したものだから「あなたがたに従うであろう」の方が良いと思う。)信仰は如何に小さくとも絶大の力がある。この比喩のごとく、人間の力ではでき得ないことも信仰はこれを可能ならしめる。そしてそれは信仰そのものの本質によることであって信仰の大小によることではない。信仰は神との霊の一体的状態であるから如何に小さい信仰でもそこから神の力が働き出す、信仰は増そうと考えず、純粋なものにすることを考うべきである。
17章7節
口語訳 | あなたがたのうちのだれかに、耕作か牧畜かをする僕があるとする。その僕が畑から帰って来たとき、彼に『すぐきて、食卓につきなさい』と言うだろうか。 |
塚本訳 | ただ(次の譬を聞け。)あなた達のうちに耕作、あるいは牧畜をする僕を持っている人があって、その僕が畑からかえって来たとき、『すぐここに来て食事をしなさい』とその人は言うだろうか。 |
前田訳 | あなた方のだれかに農耕か牧畜をする僕があって、その僕が野らから帰ったとき、『すぐ来て食事しなさい』というだろうか。 |
新共同 | あなたがたのうちだれかに、畑を耕すか羊を飼うかする僕がいる場合、その僕が畑から帰って来たとき、『すぐ来て食事の席に着きなさい』と言う者がいるだろうか。 |
NIV | "Suppose one of you had a servant plowing or looking after the sheep. Would he say to the servant when he comes in from the field, `Come along now and sit down to eat'? |
17章8節
口語訳 | かえって、『夕食の用意をしてくれ。そしてわたしが飲み食いをするあいだ、帯をしめて給仕をしなさい。そのあとで、飲み食いをするがよい』と、言うではないか。 |
塚本訳 | むしろ反対に、『夕食の用意をして、わたしが食事をすますまで裾をひきからげて給仕をし、そのあとで食事をしなさい』と言うのではあるまいか。 |
前田訳 | むしろ、『夕食の用意をして、わたしが食事するまで帯をしめて仕え、そのあとで食事しなさい』というまいか。 |
新共同 | むしろ、『夕食の用意をしてくれ。腰に帯を締め、わたしが食事を済ますまで給仕してくれ。お前はその後で食事をしなさい』と言うのではなかろうか。 |
NIV | Would he not rather say, `Prepare my supper, get yourself ready and wait on me while I eat and drink; after that you may eat and drink'? |
17章9節
口語訳 | 僕が命じられたことをしたからといって、主人は彼に感謝するだろうか。 |
塚本訳 | 言いつけられたことをしたからとて、主人が僕に感謝するだろうか。 |
前田訳 | 命じられたことをしたからとて、主人は僕に感謝しようか。 |
新共同 | 命じられたことを果たしたからといって、主人は僕に感謝するだろうか。 |
NIV | Would he thank the servant because he did what he was told to do? |
17章10節 かくのごとく
口語訳 | 同様にあなたがたも、命じられたことを皆してしまったとき、『わたしたちはふつつかな僕です。すべき事をしたに過ぎません』と言いなさい」。 |
塚本訳 | そのようにあなた達も、(神に)命じられたことを皆なしとげた時、『われわれは役に立たない僕だ、せねばならぬことをしたまでだ。(褒美をいただく資格はない)』と言え。」 |
前田訳 | そのように、あなた方も、命じられたことをすべてなしとげたとき、『われらはお役に立たぬ僕です、すべきことをしただけです』といいなさい」と。 |
新共同 | あなたがたも同じことだ。自分に命じられたことをみな果たしたら、『わたしどもは取るに足りない僕です。しなければならないことをしただけです』と言いなさい。」 |
NIV | So you also, when you have done everything you were told to do, should say, `We are unworthy servants; we have only done our duty.'" |
註解: イエスの時代の社会状態を背景としてこの寓話を理解しなければならない。すなわち当時の僕は奴隷とも称し得べき性質のものであるから主人の要求が如何に多くともそれを果さなければならず、そしてそれを果した場合、主人は彼に対し特に感謝する必要もなく、また彼は主人に対して特に恩を被らせたということはできなかった。単に為すべきことを為した無益の僕であると自ら告白する心を有つべきであった。神と神の僕たるキリスト者殊にその使徒たちの関係は、全くかく有るべきである。神の命に従って全力を尽くして働いておりながら、何事をも為さないかのごとくに感ずる心を有つのが真の使徒の在り方でなければならない。すなわち神の前に徹底せる謙遜を有たなければならない。自分の信仰が増大したと考える時はすでにこの謙遜を失った時であり、また信仰を増したいと思う時は、増さるべき信仰そのものすら失われてしまった時である。
17章11節 イエス、エルサレムに
口語訳 | イエスはエルサレムへ行かれるとき、サマリヤとガリラヤとの間を通られた。 |
塚本訳 | エルサレムへ進んでおられた時のこと、サマリヤとガリラヤとの間を通られた。 |
前田訳 | エルサレムへ進まれるときのこと、彼はサマリアとガリラヤの間を通られた。 |
新共同 | イエスはエルサレムへ上る途中、サマリアとガリラヤの間を通られた。 |
NIV | Now on his way to Jerusalem, Jesus traveled along the border between Samaria and Galilee. |
17章12節
口語訳 | そして、ある村にはいられると、十人のらい病人に出会われたが、彼らは遠くの方で立ちとどまり、 |
塚本訳 | とある村に入ると、十人の癩病人に出合われた。彼らは(規則どおりに)遠くの方で立ち止まったまま、 |
前田訳 | ある村に入られると、十人のらい者に会われた。彼らは遠くで立ちどまり、 |
新共同 | ある村に入ると、重い皮膚病を患っている十人の人が出迎え、遠くの方に立ち止まったまま、 |
NIV | As he was going into a village, ten men who had leprosy met him. They stood at a distance |
17章13節
口語訳 | 声を張りあげて、「イエスさま、わたしたちをあわれんでください」と言った。 |
塚本訳 | 声をはりあげて、「イエス先生、どうぞお慈悲を」と言った。 |
前田訳 | 声をあげていった、「師の君イエスさま、おあわれみを」と。 |
新共同 | 声を張り上げて、「イエスさま、先生、どうか、わたしたちを憐れんでください」と言った。 |
NIV | and called out in a loud voice, "Jesus, Master, have pity on us!" |
17章14節 イエス
口語訳 | イエスは彼らをごらんになって、「祭司たちのところに行って、からだを見せなさい」と言われた。そして、行く途中で彼らはきよめられた。 |
塚本訳 | イエスは見て言われた、「(全快したことを世間に証明してもらうため、エルサレムの宮に)行って体を“祭司たちに見せなさい。”」すると行く途中で、(皆いつとはなしに体が)清まった。 |
前田訳 | 見ていわれた、「行って体を祭司たちに見せなさい」と。すると行くうちに清まった。 |
新共同 | イエスは重い皮膚病を患っている人たちを見て、「祭司たちのところに行って、体を見せなさい」と言われた。彼らは、そこへ行く途中で清くされた。 |
NIV | When he saw them, he said, "Go, show yourselves to the priests." And as they went, they were cleansed. |
註解: 「或村」の名は不明。サマリヤに近い村であったと想像される。癩病人の叫びに対するイエスの答は彼ら各々祭司の処に行き、その身を見せよということであり、彼らはそれに従って出掛けたのであった。彼らは何のために祭司に見せなければならないのかの理由を知り得なかったけれども、唯イエスを信じてその言に従った。その信仰の結果、彼らは途を往く間に潔められたのであった。彼らは如何に驚きまた喜んだであろう。
17章15節 その
口語訳 | そのうちのひとりは、自分がいやされたことを知り、大声で神をほめたたえながら帰ってきて、 |
塚本訳 | ところでそのうちの一人は自分が直ったのを見ると、大声で神を讃美しながら帰ってきて、 |
前田訳 | 彼らのひとりは、なおったのを見ると、大声で神をたたえて帰ってきた。 |
新共同 | その中の一人は、自分がいやされたのを知って、大声で神を賛美しながら戻って来た。 |
NIV | One of them, when he saw he was healed, came back, praising God in a loud voice. |
17章16節 イエスの
口語訳 | イエスの足もとにひれ伏して感謝した。これはサマリヤ人であった。 |
塚本訳 | イエスの足下にひれ伏してお礼を言った。それはサマリヤ人であった。 |
前田訳 | そしてお足もとにひれ伏して感謝した。その人はサマリア人であった。 |
新共同 | そして、イエスの足もとにひれ伏して感謝した。この人はサマリア人だった。 |
NIV | He threw himself at Jesus' feet and thanked him--and he was a Samaritan. |
註解: 不治の癩病が醫されたのであるからかくも歓喜と感謝と讃美が自然に溢れて来、イエスをメシヤとしてその前に平伏すことは当然であった。イエスはサマリヤ人をも偏り見ず、サマリヤ人はイエスをメシヤとして拝することを躊躇しなかった。神の国は当然かく有るべきはずである。
17章17節 イエス
口語訳 | イエスは彼にむかって言われた、「きよめられたのは、十人ではなかったか。ほかの九人は、どこにいるのか。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「十人とも清められたのではなかったか。九人はどこにいるか。 |
前田訳 | イエスはいわれた、「清まったのは十人ではなかったのか。九人はどこか。 |
新共同 | そこで、イエスは言われた。「清くされたのは十人ではなかったか。ほかの九人はどこにいるのか。 |
NIV | Jesus asked, "Were not all ten cleansed? Where are the other nine? |
17章18節 この
口語訳 | 神をほめたたえるために帰ってきたものは、この他国人のほかにはいないのか」。 |
塚本訳 | この外国人一人のほかには、(九人のユダヤ人のうちに)帰ってきて神に栄光を帰する者はだれもないのか。」 |
前田訳 | このよそもののほか帰って来て神に栄光を帰するものはだれもいないのか」と。 |
新共同 | この外国人のほかに、神を賛美するために戻って来た者はいないのか。」 |
NIV | Was no one found to return and give praise to God except this foreigner?" |
註解: 異邦人やサマリヤ人の信仰を見る毎に、イエスは常にユダヤ人の不信に関する悲哀を一層深め給うた。まずイスラエルの迷える羊のために遣され給えるイエスとしてこれにまさる苦痛はなかったであろう。この十人の癩病人の場合もその一例であり、この二節はそのイエスの悲哀の表顕であった。
17章19節 かくて
口語訳 | それから、その人に言われた、「立って行きなさい。あなたの信仰があなたを救ったのだ」。 |
塚本訳 | そしてその人に言われた、「さあ立って行きなさい。あなたの信仰がなおしたのだ。」 |
前田訳 | そしてその人にいわれた、「立って行きなさい。あなたの信仰があなたを救った」と。 |
新共同 | それから、イエスはその人に言われた。「立ち上がって、行きなさい。あなたの信仰があなたを救った。」 |
NIV | Then he said to him, "Rise and go; your faith has made you well." |
註解: 平伏している彼を起たせてその信仰を賞 め給うた。「救へり」はこの場合病の治癒を意味す。
17章20節
口語訳 | 神の国はいつ来るのかと、パリサイ人が尋ねたので、イエスは答えて言われた、「神の国は、見られるかたちで来るものではない。 |
塚本訳 | パリサイ人から神の国はいつ来るのかと尋ねられたとき、答えられた、「神の国は、(いつ来るのかと計算や)観測のできるようにしては来ない。 |
前田訳 | パリサイ人たちに神の国はいつ来るかとたずねられて、こう答えられた、「神の国は見える形では来ない。 |
新共同 | ファリサイ派の人々が、神の国はいつ来るのかと尋ねたので、イエスは答えて言われた。「神の国は、見える形では来ない。 |
NIV | Once, having been asked by the Pharisees when the kingdom of God would come, Jesus replied, "The kingdom of God does not come with your careful observation, |
17章21節 また「
口語訳 | また『見よ、ここにある』『あそこにある』などとも言えない。神の国は、実にあなたがたのただ中にあるのだ」。 |
塚本訳 | また『そら、ここに(ある)』とか、『かしこに(ある)』とか言うことも出来ない。神の国はあっと言う間に、あなた達の間にあらわれるのだから。」 |
前田訳 | また、『見よ、ここに』とか、『あそこに』ともいえない。見よ、神の国はあなた方のうちにある」と。 |
新共同 | 『ここにある』『あそこにある』と言えるものでもない。実に、神の国はあなたがたの間にあるのだ。」 |
NIV | nor will people say, `Here it is,' or `There it is,' because the kingdom of God is within you." |
註解: 「見ゆべき状 にて」は「観察に由て」の意、神の国の到来の場所を指摘することはできない。従ってその時日も不明である。それは神の国は人間の心の中にあり、神が人の心を支配し給う処に神の国があるからである。多くの註解者は「中に」が他の場合のごとくに en (= in)を用いずに entos(= withinまたはamong)を用いている点と、パリサイ人の心の中には神の国は無いとの理由とから、これを「神の国は汝らの間にあり」と訳し、神の国それ自身であるイエスが彼らの間に来り給うたことを指すと解しているけれども(B1、M0、Z0)、唯かく解する場合には神の国が見ゆべき状 にて来たこととなり、矛盾を生ずる訳である。そして「汝らの中に」は一般に「汝ら人間の中に」の意味に取ることができ、そしてそれは不信な人間の中にも神の国があるという意味ではなく、神の国が来る時はそれは人間の心の中に来るのだから「此處 」「彼處 」と見ゆべき状態では来ないという意味に取る方が適当であろう。現在動詞「在り」も一般的事実を表示すると見て差支えがない。そして「何時来るべきか」の問いに対しては何も答えられていないようであるが、それは以上のごとくに解すれば自然「何時」として概括的に答え得ないことも判明 るからであろう。なおこの「神の国」と次節以下の「人の子の日」とは別であることに注意すべし。▲なお「国」 Basileia は「支配」を意味するのであるから、これを「神の支配」と見て神の御旨に従う心の中に神の国がある訳であるから自然人間の群の中の此処彼処(ここかしこ)にある訳である。
17章22節 かくて
口語訳 | それから弟子たちに言われた、「あなたがたは、人の子の日を一日でも見たいと願っても見ることができない時が来るであろう。 |
塚本訳 | それから弟子たちに言われた、「(いまに苦しい試みの)日が来て、あなた達は、せめて一日でも人の子(わたし)の(栄光の)日に生きたいと願うけれども、許されない。 |
前田訳 | そして弟子たちにいわれた、「時が来る。そのときあなた方は一日でも人の子の日を見たいと思っても、見えまい。 |
新共同 | それから、イエスは弟子たちに言われた。「あなたがたが、人の子の日を一日だけでも見たいと望む時が来る。しかし、見ることはできないだろう。 |
NIV | Then he said to his disciples, "The time is coming when you will long to see one of the days of the Son of Man, but you will not see it. |
註解: 「人の子の日(複数)」はキリスト再臨の時の前後の期間である。弟子たちはその一日でも見たいと思う時が来るであろう。世界はイエスによって次第に完全に進み、救いは全世界に及び、ついに理想の世界が来ると考えたのであろう。しかしかかる意味および順序によるイエスの日はこれを見ることができないであろう。それは「人の子の日」は極めて突然に来るのであり、しかも我らの想像を絶した事実だからである。イエスは次にその再臨の光景を極めて表徴的に謎のごとくに説明し給う。なお21章にはさらにイエスの再臨について述べられており、マタイ伝24章がルカでは二つに分割され、別の場合に語り給うたこととなる。
17章23節 そのとき
口語訳 | 人々はあなたがたに、『見よ、あそこに』『見よ、ここに』と言うだろう。しかし、そちらへ行くな、彼らのあとを追うな。 |
塚本訳 | (その試みの時に、)『そら、かしこに(人の子が)』『そら、ここに』と言う者があるが、ついて行くな、追いまわすな。 |
前田訳 | 人々はあなた方に、『見よ、あそこに』『見よ、ここに』といおうが、出かけるな、追いかけるな。 |
新共同 | 『見よ、あそこだ』『見よ、ここだ』と人々は言うだろうが、出て行ってはならない。また、その人々の後を追いかけてもいけない。 |
NIV | Men will tell you, `There he is!' or `Here he is!' Do not go running off after them. |
17章24節 それ
口語訳 | いなずまが天の端からひかり出て天の端へとひらめき渡るように、人の子もその日には同じようであるだろう。 |
塚本訳 | その日に人の子(わたし)が来るのは、ちょうど稲妻がひらめいて、大空の下をこの端からかの端まで照りかがやかすよう(に、はっきりわかるの)であるから。 |
前田訳 | ちょうどいなずまが光って、天の下を端から端まで照らすように、人の子はその日に来ようから。 |
新共同 | 稲妻がひらめいて、大空の端から端へと輝くように、人の子もその日に現れるからである。 |
NIV | For the Son of Man in his day will be like the lightning, which flashes and lights up the sky from one end to the other. |
註解: 人の子の日は、この世が次第に進歩発達して到達する日ではなく、それはイエスの再臨によって極めて突然にしかも全世界に行渡ることあたかも電光が天の一方から他方まで輝くのと同様な有様で来るのである。それ故、偽預言者、偽キリストが(マタ24:24)「見よ彼処に」「見よ此処に」と言って汝らを迷わしても、それに迷わされてはならない。
17章25節 されど
口語訳 | しかし、彼はまず多くの苦しみを受け、またこの時代の人々に捨てられねばならない。 |
塚本訳 | しかし人の子はその前に多くの苦しみをうけ、この時代の人から排斥されねばならない。 |
前田訳 | しかしその前に人の子は多くの苦しみを受け、この世代に捨てられねばならない。 |
新共同 | しかし、人の子はまず必ず、多くの苦しみを受け、今の時代の者たちから排斥されることになっている。 |
NIV | But first he must suffer many things and be rejected by this generation. |
註解: 人の子がこの世を次第に完全な世に進歩せしめるのでもなく、また人の子がその完成せられし世界の上に君臨するのでもない。それはやがて来るのであるが、その前に人の子は苦難を受け、この世から棄てられなければならない。
17章26節 ノアの
口語訳 | そして、ノアの時にあったように、人の子の時にも同様なことが起るであろう。 |
塚本訳 | ちょうどノアの(洪水の)時にあったようなことが、人の子の(来る)日にも起るであろう。 |
前田訳 | ちょうどノアのときにおこったことが人の子の日にもおころう。 |
新共同 | ノアの時代にあったようなことが、人の子が現れるときにも起こるだろう。 |
NIV | "Just as it was in the days of Noah, so also will it be in the days of the Son of Man. |
17章27節 ノア
口語訳 | ノアが箱舟にはいる日まで、人々は食い、飲み、めとり、とつぎなどしていたが、そこへ洪水が襲ってきて、彼らをことごとく滅ぼした。 |
塚本訳 | “ノアが箱船に入った”日まで、人々が飲んだり食ったり、嫁にやったり取ったりしていると、洪水が来て、一人のこらず滅ぼしてしまった。 |
前田訳 | ノアが箱舟に入った日まで、人々は会い、飲み、めとり、とつぎしていたが、洪水が来て、ひとりのこらず滅ぼした。 |
新共同 | ノアが箱舟に入るその日まで、人々は食べたり飲んだり、めとったり嫁いだりしていたが、洪水が襲って来て、一人残らず滅ぼしてしまった。 |
NIV | People were eating, drinking, marrying and being given in marriage up to the day Noah entered the ark. Then the flood came and destroyed them all. |
17章28節 ロトの
口語訳 | ロトの時にも同じようなことが起った。人々は食い、飲み、買い、売り、植え、建てなどしていたが、 |
塚本訳 | ロトの時にも、ちょうど同じようなことがあった。人々が飲んだり食ったり、売ったり買ったり、植えたり建てたりしていると、 |
前田訳 | ロトのときにも似たことがおこった。人々は食い、飲み、買い、売り、植え、建てていたが、 |
新共同 | ロトの時代にも同じようなことが起こった。人々は食べたり飲んだり、買ったり売ったり、植えたり建てたりしていたが、 |
NIV | "It was the same in the days of Lot. People were eating and drinking, buying and selling, planting and building. |
17章29節 ロトのソドムを
口語訳 | ロトがソドムから出て行った日に、天から火と硫黄とが降ってきて、彼らをことごとく滅ぼした。 |
塚本訳 | ロトがソドムから出た日に、“(神は)天から火と硫黄とを降らせて、“一人のこらず滅ぼしてしまわれた。 |
前田訳 | ロトがソドムから出た日に、天から火と硫黄が降って、ひとりのこらず滅ぼした。 |
新共同 | ロトがソドムから出て行ったその日に、火と硫黄が天から降ってきて、一人残らず滅ぼしてしまった。 |
NIV | But the day Lot left Sodom, fire and sulfur rained down from heaven and destroyed them all. |
17章30節
口語訳 | 人の子が現れる日も、ちょうどそれと同様であろう。 |
塚本訳 | 人の子があらわれる日にも同じことが起るであろう。 |
前田訳 | 人の子が現われる日も同じようであろう。 |
新共同 | 人の子が現れる日にも、同じことが起こる。 |
NIV | "It will be just like this on the day the Son of Man is revealed. |
註解: 人の子の日はまず一般の世界の上に審判の日として顕れるであろう。そして審判は水と火とをもって行わる意味でノアとロトとが善き模範であった(各々引照の個所を参照すべし)。ノアの洪水の前にもソドムの滅亡の前にもこの世は非常な罪深い状態であり、その審判として洪水が起り火が降ったのであるけれども(創6:5、6、創6:13。創18:20)、27、28節では単に人々が日常普通の生活を行っていたことを記すのみであるのは、人の子の顕わる日の突然であることを示すことに中心があるからである。ただし、ノアとロトが救われたように人の子の日にも救われる者と滅ぼされる者とがあることは34、35節で知られる。
17章31節 その
口語訳 | その日には、屋上にいる者は、自分の持ち物が家の中にあっても、取りにおりるな。畑にいる者も同じように、あとへもどるな。 |
塚本訳 | その日には、屋根の上におる者は、(何か大切な)家財道具が家の中にあっても下におりて取り出そうとするな。畑におる者も同じく“(家に)もどる”な。 |
前田訳 | その日には、屋根の上にいるものは道具が家の中にあっても取りにおりるな。野らにいるものも、同じくもどるな。 |
新共同 | その日には、屋上にいる者は、家の中に家財道具があっても、それを取り出そうとして下に降りてはならない。同じように、畑にいる者も帰ってはならない。 |
NIV | On that day no one who is on the roof of his house, with his goods inside, should go down to get them. Likewise, no one in the field should go back for anything. |
口語訳 | ロトの妻のことを思い出しなさい。 |
塚本訳 | ロトの妻のことを思え。 |
前田訳 | ロトの妻を思い出しなさい。 |
新共同 | ロトの妻のことを思い出しなさい。 |
NIV | Remember Lot's wife! |
17章33節 おほよそ
口語訳 | 自分の命を救おうとするものは、それを失い、それを失うものは、保つのである。 |
塚本訳 | (この世の)命を保とうとする者は(永遠の)命を失い、(この世の命を)失う者は、(永遠に)生きながらえるであろう。 |
前田訳 | いのちを保とうとするものはそれを失い、失うものは生きつづけよう。 |
新共同 | 自分の命を生かそうと努める者は、それを失い、それを失う者は、かえって保つのである。 |
NIV | Whoever tries to keep his life will lose it, and whoever loses his life will preserve it. |
註解: 主の日が突然非常な激しい自然界の変動として起るであろうが、その時自分の生命や財産に執着したり、これを助けようとしてはならない。ロトの妻はソドムの滅亡に際し、その残してきた家や財産を惜しんで後を顧みて鹽 の柱と化した。その場合は凡てにおいてノアのごとくロトのごとく、唯主の御言のみに固く依り頼むべきである。なお33節は若干語句の相違をもって種々他の機会にも語られているのであるが(ルカ9:24=マコ8:35=マタ16:25およびマタ10:39。ヨハ12:25)ここではイエスの日における注意としてこれを解しなければならない。
17章34節 われ
口語訳 | あなたがたに言っておく。その夜、ふたりの男が一つ寝床にいるならば、ひとりは取り去られ、他のひとりは残されるであろう。 |
塚本訳 | わたしは言う、その晩、二人の男が一つ寝床にねていると、一人は(天に)連れてゆかれ、他の一人は(地上に)のこされる。 |
前田訳 | わたしはいう、その夜ふたりの男がひとつ寝床にいると、ひとりは移され、ひとりは残されよう。 |
新共同 | 言っておくが、その夜一つの寝室に二人の男が寝ていれば、一人は連れて行かれ、他の一人は残される。 |
NIV | I tell you, on that night two people will be in one bed; one will be taken and the other left. |
17章35節
口語訳 | ふたりの女が一緒にうすをひいているならば、ひとりは取り去られ、他のひとりは残されるであろう。〔 |
塚本訳 | 二人の女が一しょに臼をひいていると、一人は連れてゆかれるが、他の一人はのこされる。」 |
前田訳 | ふたりの女がいっしょに臼をひいていると、ひとりは移され、ひとりは残されよう。 |
新共同 | 二人の女が一緒に臼をひいていれば、一人は連れて行かれ、他の一人は残される。」 |
NIV | Two women will be grinding grain together; one will be taken and the other left. " |
註解: この二節は主の再臨の日に誰が天に挙げられて主と共にいることができるかは全く思いがけない事実となることを示す。全く同じような条件の下にいる二人の男、二人の女の間でも差別が起り、一人は主の許に取り上げられ一人は審判の世界に遺されるであろう。かくのごとく救いも審判も偕 にみな主の御旨のままに実行される時が来るのである。〔36節はなし〕
口語訳 | ふたりの男が畑におれば、ひとりは取り去られ、他のひとりは残されるであろう〕」。 |
塚本訳 | [無し] |
前田訳 | 〔ふたりの男が野らにいると、ひとりは移され、ひとりは残されよう〕」と。 |
新共同 | (†底本に節が欠落 異本訳)畑に二人の男がいれば、一人は連れて行かれ、他の一人は残される。 |
NIV |
17章37節
口語訳 | 弟子たちは「主よ、それはどこであるのですか」と尋ねた。するとイエスは言われた、「死体のある所には、またはげたかが集まるものである」。 |
塚本訳 | 弟子たちが尋ねる、(いつ)どこで(その裁きはありますか。)」彼らに言われた、「(時が来れば、いつでも。)死体のある所に、鷲も集まる。」 |
前田訳 | 弟子たちがたずねた、「主よ、それはどこですか」と。彼はいわれた、「死体のあるところに鷲も集まる」と。 |
新共同 | そこで弟子たちが、「主よ、それはどこで起こるのですか」と言った。イエスは言われた。「死体のある所には、はげ鷹も集まるものだ。」 |
NIV | "Where, Lord?" they asked. He replied, "Where there is a dead body, there the vultures will gather." |
註解: 人の子の日に関する前節までのような現象が何処に現われるかについての質問に対してイエスは極めて象徴的でかつ難解な答を与えており、従って多くの解釈が出て居るのであるが、(1)鷲が動物の屍体を発見することが困難であるように、このことが起る場所は知り難い(L2)。(2)屍体はユダヤ民族、鷲はローマの軍隊(B1)。(3)審判に適するもののある処で審判が行われること、すなわちキリストが審 かるべき者または救わるべき者を見出す処に審判が行われる(Z0)。(4)復活のキリストを屍体と見、そのキリストの許にTテサ4:17の雲の中に取り去られし聖徒(鷲のごとくに)が集る。その他種々の解あり、おそらく鷲が地上の屍体の上に飛び下るがごとく、審判を受くべき人間、すなわち「死ねる者」がある処に、神の使いが鷲のごとくに降って来てその審判を行うであろうとの意味であろう。すなわち(3)の解釈が正しい。一人は取られ一人は残されという事実はかくして行われるのである。
要義 [人の子の日]この日はイエスの弟子たちの待望の日であるにもかかわらず、その記述は極めて象徴的で難解である。唯上記のイエスの御言の中に明らかに知り得ることは、それが(1)イエスと密接な関係があること、(2)激しい審判が行われる日であること、(3)その中より救わるべきものが救われること、(4)苦難が急に襲いかかって来るから、如何なる場合でも自己の生命・財産等に心を奪われてはならないこと、そしてその時は不明であり、場所は漠然としているけれども、審判に相応しき者のいる凡ての処で行われるというようなことはほぼ確定的と考え得ることと思う。凡ての表徴をあまり具体的に解し過ぎることは、教訓の精神を没却する恐れがある。
ルカ伝第18章
8-3-チ 執拗なる祈りの必要 18:1 - 18:8
註解: 人の子の日(ルカ17:22−37)が突然顕れることに対して神の民、選ばれし者は切にこれを待ち望んでいるのであるが、それがために最も必要なのは祈りであるので1−14節に祈りについての二つの比喩を掲げている。
18章1節 また
口語訳 | また、イエスは失望せずに常に祈るべきことを、人々に譬で教えられた。 |
塚本訳 | なお、気を落さずに常に祈るべきことについて、一つの譬をひいて弟子たちに話された、 |
前田訳 | ひとつの譬えを弟子たちに話して気を落とさずに常に祈るべきことをいわれた、 |
新共同 | イエスは、気を落とさずに絶えず祈らなければならないことを教えるために、弟子たちにたとえを話された。 |
NIV | Then Jesus told his disciples a parable to show them that they should always pray and not give up. |
註解: 祈りは絶えず祈らなければならず、また祈りが直ちに聞かれないことがあっても沮喪 せず熱心に祈り続けることが必要である。多くの人は祈りを怠り易く、また意気沮喪 し易い。
18章2節 『
口語訳 | 「ある町に、神を恐れず、人を人とも思わぬ裁判官がいた。 |
塚本訳 | 「ある町に、神を恐れず、人を人とも思わない裁判官があった。 |
前田訳 | 「ある町に神をおそれず人も顧みぬ裁判人があった。 |
新共同 | 「ある町に、神を畏れず人を人とも思わない裁判官がいた。 |
NIV | He said: "In a certain town there was a judge who neither feared God nor cared about men. |
18章3節 その
口語訳 | ところが、その同じ町にひとりのやもめがいて、彼のもとにたびたびきて、『どうぞ、わたしを訴える者をさばいて、わたしを守ってください』と願いつづけた。 |
塚本訳 | またその町に一人の寡婦がいた。いつもその裁判官の所に来ては、『(早く裁判をして)わたしのため敵に仕返しをしてください』と言っていた。 |
前田訳 | またその町にひとりのやもめがいて、その裁判人のところによく来ては、『わたしのために相手方を制裁してください』といっていた。 |
新共同 | ところが、その町に一人のやもめがいて、裁判官のところに来ては、『相手を裁いて、わたしを守ってください』と言っていた。 |
NIV | And there was a widow in that town who kept coming to him with the plea, `Grant me justice against my adversary.' |
註解: 寡婦は弱者であり悪人に苦しめられ易い。神を畏れず人を顧みぬ裁判人は有力者のためには喜んで奉仕するけれども寡婦の請願には冷淡であった。
辞解
[屡次 ] 原語に無いけれども「往く」の未完了過去なる故かく訳す。
[仇を審 く] 「復讐す」とも訳す(ロマ12:19)。
18章4節 かれ
口語訳 | 彼はしばらくの間きき入れないでいたが、そののち、心のうちで考えた、『わたしは神をも恐れず、人を人とも思わないが、 |
塚本訳 | 裁判官はしばらくの間は取り合おうとしなかったが、あとでひそかに考えた、『わたしは神を恐れず、人を人とも思わないが、 |
前田訳 | 裁判人は長い間気乗りしなかったが、のちにひとり考えた、『わたしは神をおそれず、人も顧みないが、 |
新共同 | 裁判官は、しばらくの間は取り合おうとしなかった。しかし、その後に考えた。『自分は神など畏れないし、人を人とも思わない。 |
NIV | "For some time he refused. But finally he said to himself, `Even though I don't fear God or care about men, |
18章5節
口語訳 | このやもめがわたしに面倒をかけるから、彼女のためになる裁判をしてやろう。そうしたら、絶えずやってきてわたしを悩ますことがなくなるだろう』」。 |
塚本訳 | この寡婦はどうもうるさくて、やりきれないから、(裁判をして、)この女のために仕返しをしてやろう。そうしないと最後にはやって来て、わたしをどんなひどい目にあわせるか知れない。』」 |
前田訳 | このやもめはやっかいだからこの女に有利な裁きをしてやろう。さもないと、あげくのはてにやって来て当たり散らそう』と」。 |
新共同 | しかし、あのやもめは、うるさくてかなわないから、彼女のために裁判をしてやろう。さもないと、ひっきりなしにやって来て、わたしをさんざんな目に遭わすにちがいない。』」 |
NIV | yet because this widow keeps bothering me, I will see that she gets justice, so that she won't eventually wear me out with her coming!'" |
註解: この裁判人がついに腰を折ったのは正義感からでもなくまた義務の念からでも利益のためでもなかった。唯その寡婦の執拗なる懇請に負けたのであった。
辞解
[絶えず来りて我を悩さん] 直訳「来りてついに我を撲ちたたくであろう」(L2、B1)とのことで「悩す」 hupôpiazô は打撲によりて皮膚に青や黒い斑を出すこと、これがあまりに激しい言であるので現行訳のごとき意味に解しようとする説があるけれども訳語としては適当ではない。
18章6節
口語訳 | そこで主は言われた、「この不義な裁判官の言っていることを聞いたか。 |
塚本訳 | それから主は言われた、「この不埒な裁判官の言うことを聞け。 |
前田訳 | そして主はいわれた、「この不正な裁判人に耳傾けよ。 |
新共同 | それから、主は言われた。「この不正な裁判官の言いぐさを聞きなさい。 |
NIV | And the Lord said, "Listen to what the unjust judge says. |
18章7節 まして
口語訳 | まして神は、日夜叫び求める選民のために、正しいさばきをしてくださらずに長い間そのままにしておかれることがあろうか。 |
塚本訳 | (こんな男でもこのとおり。)まして神が、夜昼叫んでいるその選ばれた人々のために仕返し(の裁判)をせず、気長に放っておかれることがあろうか。 |
前田訳 | まして神は夜昼叫びつづける選ばれた人々のためによい裁きをせず、長い間放っておかれようか。 |
新共同 | まして神は、昼も夜も叫び求めている選ばれた人たちのために裁きを行わずに、彼らをいつまでもほうっておかれることがあろうか。 |
NIV | And will not God bring about justice for his chosen ones, who cry out to him day and night? Will he keep putting them off? |
18章8節
口語訳 | あなたがたに言っておくが、神はすみやかにさばいてくださるであろう。しかし、人の子が来るとき、地上に信仰が見られるであろうか」。 |
塚本訳 | わたしは言う、間もなく彼らのために仕返しをされるであろう。しかし人の子(わたし)が来るときに、はたして地上に信仰(をもつ人)が見当るだろうか!」 |
前田訳 | わたしはいう、間もなく彼らのためによい裁きをされよう。しかし、人の子が来るとき、はたして地上に信仰を見ようか」と。 |
新共同 | 言っておくが、神は速やかに裁いてくださる。しかし、人の子が来るとき、果たして地上に信仰を見いだすだろうか。」 |
NIV | I tell you, he will see that they get justice, and quickly. However, when the Son of Man comes, will he find faith on the earth?" |
註解: 選民は夜昼呼ばわりて最後の審判と救いの日の速やかに来らんことを祈っているのであるから、この切なる祈りに答えて神は必ずその審判を行い給い、選民の敵たるものを滅ぼし、選民を永遠の救いに入れ給うであろう。必ず速やかにこれを為し給うであろう。ただしキリストの再臨の時には果して地上に信仰を見い出し得るであろうか。それは見出し得ないであろうという意味である。人間の世界における信仰の将来は決して楽観することができない。イエスも常に信仰の前途につき消極的思想を持ち給うた。
辞解
「遅くとも」と訳された原語は難解である。あるいは(1)「彼らを忍び給わざらんや」(B1、Z0)と訳し、または(2)「彼は彼らのために遅延し給うや」(M0)と訳し、または「彼は敵に対し忍耐を用い給わんや」(L2)等種々に訳されるけれども適切な訳がない。(1)の説最も適当なるがごとし、現行訳は不精確なり。
要義 [熱心なる祈り]祈りは神を動かす力である。特に祈って倦 まない祈祷、毎日執拗に繰り返される祈りは遂に神を動かすに至るものである。ただしこれは徒 にエホバの御名を繰返すことではなく切なる願いをもって聞かれるまで神に迫ることである。祈りはかくあらねばならぬ。
18章9節 また
口語訳 | 自分を義人だと自任して他人を見下げている人たちに対して、イエスはまたこの譬をお話しになった。 |
塚本訳 | なお、自分(だけ)は信心深いとうぬぼれて人を軽蔑している者たちにも、この譬を話された。 |
前田訳 | また、自ら正しいと思い込んで他人を見さげているものどもにも、次の譬えを話された、 |
新共同 | 自分は正しい人間だとうぬぼれて、他人を見下している人々に対しても、イエスは次のたとえを話された。 |
NIV | To some who were confident of their own righteousness and looked down on everybody else, Jesus told this parable: |
18章10節 『
口語訳 | 「ふたりの人が祈るために宮に上った。そのひとりはパリサイ人であり、もうひとりは取税人であった。 |
塚本訳 | 「二人の人が祈りのために(エルサレムの)宮に上った。一人はパリサイ人、他の一人は税金取りであった。 |
前田訳 | 「ふたりの人が宮へ祈りに行った。ひとりはパリサイ人、もうひとりは取税人であった。 |
新共同 | 「二人の人が祈るために神殿に上った。一人はファリサイ派の人で、もう一人は徴税人だった。 |
NIV | "Two men went up to the temple to pray, one a Pharisee and the other a tax collector. |
註解: 自己を判断するのに神の前においてせず人と比較してする場合必ず不当なる自負高慢を生じ、自己を義と信じて他人を軽しめる。パリサイ人はほとんどみなこの種の人であった。パリサイ人と取税人はちょうど正反対の性格を有っている。
18章11節 パリサイ
口語訳 | パリサイ人は立って、ひとりでこう祈った、『神よ、わたしはほかの人たちのような貪欲な者、不正な者、姦淫をする者ではなく、また、この取税人のような人間でもないことを感謝します。 |
塚本訳 | パリサイ人は(得々と)ひとり進み出て、こう祈った、『神様、わたしはほかの人たちのように泥棒、詐欺師、姦淫する者でなく、また、この税金取りのような人間でもないことを感謝します。 |
前田訳 | パリサイ人は立ってひとりでこう祈った、『神よ、わたしはほかの人々のように盗み不正、姦淫せず、また、この取税人のようでもないことを感謝します。 |
新共同 | ファリサイ派の人は立って、心の中でこのように祈った。『神様、わたしはほかの人たちのように、奪い取る者、不正な者、姦通を犯す者でなく、また、この徴税人のような者でもないことを感謝します。 |
NIV | The Pharisee stood up and prayed about himself: `God, I thank you that I am not like other men--robbers, evildoers, adulterers--or even like this tax collector. |
18章12節
口語訳 | わたしは一週に二度断食しており、全収入の十分の一をささげています』。 |
塚本訳 | わたしは一週間に二度も断食し、(きまったものの一割税だけでなく、)一切の収入の一割税を納めております。』 |
前田訳 | 週に二度断食し、収入全体の一割の税を納めます』と。 |
新共同 | わたしは週に二度断食し、全収入の十分の一を献げています。』 |
NIV | I fast twice a week and give a tenth of all I get.' |
註解: これはまったく祈りというべきものではなく、神の前に自己宣伝を行っているいるにすぎず、また他の人の前に自己の優越を誇っているに過ぎない。11節は自分の道徳生活、12節はその宗教生活について自らの誇りを自己に対して述べている。「ほかの人」とか「この取税人」とかを自己との比較に引合いに出すことは彼の生活の特徴を示す、かくして己を義と信じて他人を軽しめるのである。
辞解
[一週のうち二度] 月曜日と木曜日。
18章13節
口語訳 | ところが、取税人は遠く離れて立ち、目を天にむけようともしないで、胸を打ちながら言った、『神様、罪人のわたしをおゆるしください』と。 |
塚本訳 | しかし税金取りは(罪に責められ、)遠く(うしろ)の方に立ったまま、目を天に向け(て祈りをささげ)ようともせず、ただ胸をうって、『神様、どうぞこの罪人のわたしをお赦しください』と言った。 |
前田訳 | 取税人は遠く離れて立ち、目を天に向けようともせず、ただ胸を打っていった、『神よ、この罪びとのわたしにおあわれみを」と。 |
新共同 | ところが、徴税人は遠くに立って、目を天に上げようともせず、胸を打ちながら言った。『神様、罪人のわたしを憐れんでください。』 |
NIV | "But the tax collector stood at a distance. He would not even look up to heaven, but beat his breast and said, `God, have mercy on me, a sinner.' |
註解: 「遙 に」は神の宮に近寄ることをすら苦痛に感じていることを示す。「目を天に向ける」のはユダヤ人の祈りの態度であるが、それすらできず、「胸を打ち」て耐え難き苦痛を感じつつ、神の前に自己の罪人であることを告白し、その憐みを請うたのであった。彼の胸中には自己を義とせんとする心が微塵もなかったのである。
18章14節 われ
口語訳 | あなたがたに言っておく。神に義とされて自分の家に帰ったのは、この取税人であって、あのパリサイ人ではなかった。おおよそ、自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高くされるであろう」。 |
塚本訳 | わたしは言う、あの人でなく、この人の方が(神から)信心深いとされて、家にかえっていった。自分を高くする者は皆低くされるが、自分を低くする者は高くされるのである。」 |
前田訳 | わたしはいう、義とされて家に帰ったのはこの人で、あの人ではない。だれでも、自らを高めるものは低められ、自らを低めるものは高められるから」と。 |
新共同 | 言っておくが、義とされて家に帰ったのは、この人であって、あのファリサイ派の人ではない。だれでも高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる。」 |
NIV | "I tell you that this man, rather than the other, went home justified before God. For everyone who exalts himself will be humbled, and he who humbles himself will be exalted." |
註解: 神の目には不義なる取税人が悔改めた姿が美しく見え、パリサイ人の自己に誇っている姿は醜く見えた。すなわち彼はパリサイ人よりも義とせられてシオンの宮から己が家に下って行った。
要義1 [自己の醜さを知ること]自己を真に罪人と感ずるはなかなか至難であるが、真の謙遜はこの点から発生するゆえにこの深い罪悪意識に至らないキリスト者は、不知不識 の間に自己を他人よりも高しと見る結果となり、ついにこのパリサイ人のごとくに神より義とされないようになる。いたずらに謙遜らしい用語を羅列するのが謙遜ではない。心がこの取税人のごとく、神の前に涙をもってその罪の赦しを請う時、始めて神によって義とされることができる。
要義2 [パリサイ型と取税人型]東洋人、殊に儒教の影響の下にある者は道徳律をもって自己を律する結果、自己の道徳的修養の結果を重視し、従ってその成果につき、神と人との前に誇ろうとするのである。これはパリサイ人の律法主義に極めて近い。彼らは人の目には立派な道徳家であるけれども、かえってそれだけ神の前に罪人として自己を告白することを知らない。反対にかかる道徳律によって束縛されなかった者は、自己の慾望を自由に放任しているためにかえって自己の罪深さを知りやすい地位にいることとなる。自ら高しとする道徳家は神の目には卑 しとされ、自己の罪を感じて神の前に自己を卑 しとする者は神によって高しとされる結果となる。
註解: 本節以後ルカはマルコ伝・マタイ伝の順序に従って記事を進めて行く。9:51より前節迄が所謂ルカの旅行記である。
18章15節 イエスの
口語訳 | イエスにさわっていただくために、人々が幼な子らをみもとに連れてきた。ところが、弟子たちはそれを見て、彼らをたしなめた。 |
塚本訳 | イエスにさわっていただこうとして、人々が幼児たちまでもつれて来ると、弟子たちが見て咎めた。 |
前田訳 | 人々が彼にさわっていただこうと幼子までも連れて来ると、弟子たちは見てたしなめた。 |
新共同 | イエスに触れていただくために、人々は乳飲み子までも連れて来た。弟子たちは、これを見て叱った。 |
NIV | People were also bringing babies to Jesus to have him touch them. When the disciples saw this, they rebuked them. |
18章16節 イエス
口語訳 | するとイエスは幼な子らを呼び寄せて言われた、「幼な子らをわたしのところに来るままにしておきなさい、止めてはならない。神の国はこのような者の国である。 |
塚本訳 | イエスは幼児を呼びよせたのち、(弟子たちに)こう言われた、「子供たちをわたしの所に来させよ、邪魔をするな。神の国はこんな(小さな)人たちのものである。 |
前田訳 | イエスは幼子を呼びよせていわれた、「子どもらをわたしのところに来させなさい。邪魔しないで。神の国はこんな人たちのものである。 |
新共同 | しかし、イエスは乳飲み子たちを呼び寄せて言われた。「子供たちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのような者たちのものである。 |
NIV | But Jesus called the children to him and said, "Let the little children come to me, and do not hinder them, for the kingdom of God belongs to such as these. |
18章17節 われ
口語訳 | よく聞いておくがよい。だれでも幼な子のように神の国を受けいれる者でなければ、そこにはいることは決してできない」。 |
塚本訳 | アーメン、わたしは言う、子供のように(すなおに)神の国(の福音)を受け入れる者でなければ、決してそこに入ることはできない。」 |
前田訳 | 本当にいう、子どものように神の国を受けなければ決してそこに入れまい」と。 |
新共同 | はっきり言っておく。子供のように神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない。」 |
NIV | I tell you the truth, anyone who will not receive the kingdom of God like a little child will never enter it." |
註解: 幼児をイエスに触って貰うことに何らかの祝福を感じて子らをイエスに連れ来るものが多かった。弟子たちはこのことが師をいたずらに煩わすことを恐れてこれを禁止した。然るにイエスはかえってその禁止を喜ばず、これを解いて幼児を彼に近付け給うた。そして神の国を受くる者はかくのごとき者であることを示し給うた。幼児が自己について誇るべき何ものをも持たず、唯単純なる偽らざる心をもってイエスに来り、イエスを喜ぶこの態度が、最もよく天国の民と神との関係を表示しているからである。
要義 [幼児のごとき信仰]幼児にも私慾が無いではない。否ある意味ではかえって強い私慾を有ち、自己中心主義である。唯幼児と大人との差異は、幼児は自己の自然のままを外に表わすのに反し、大人はこれを律法または道徳の上着をもって包もうとすることの差異である。かくして大人は常に偽善的であり、天真爛漫さを失い、何人にも心からの信頼を有ち得ないのに反し、幼児はその悪をも悪のままに表わし、その喜怒哀楽、満足不満など凡てが有りのままであり、しかも全き愛と全き信頼とをもってその母の懐にいだかれる。この点において、著しく大人と異なっている。キリスト者はキリスト者らしさなる律法の上衣をもって自己を覆い、偽善的生活を為すべきではない。神と人との前に自己を有りのままに示し、天真のまま自由なる生活を送り、そして全心全霊をもって主に依り頼むべきである。幼児のごとき信仰とはかかる信仰を指すと見るべきである。
18章18節
口語訳 | また、ある役人がイエスに尋ねた、「よき師よ、何をしたら永遠の生命が受けられましょうか」。 |
塚本訳 | ひとりの(最高法院の)役人が尋ねた、「善い先生、何をすれば永遠の命がいただけるでしょうか。」 |
前田訳 | ある役人が「よい先生、何をすれば永遠のいのちを継げましょうか」とたずねると、 |
新共同 | ある議員がイエスに、「善い先生、何をすれば永遠の命を受け継ぐことができるでしょうか」と尋ねた。 |
NIV | A certain ruler asked him, "Good teacher, what must I do to inherit eternal life?" |
註解: マタ19:22によれば、この「司」は青年であった。かつ23節によれば彼は大なる富をもつ金持ちの息子で品行方正(21節)であるだけでも稀なことであるのに、この青年はさらに深く人生の不可解を感じ、永遠の生命を明確に把握したいという熱望に駆られてイエスの許に来た稀に見る有望で立派な青年であった。ユダヤの教師たちは彼に満足を与え得なかった。
18章19節 イエス
口語訳 | イエスは言われた、「なぜわたしをよき者と言うのか。神ひとりのほかによい者はいない。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「なぜわたしを『善い』と言うのか。神お一人のほかに、だれも善い者はない。 |
前田訳 | イエスはいわれた、「なぜわたしを『よい』というのか。神おひとりのほかにだれもよいものはない。 |
新共同 | イエスは言われた。「なぜ、わたしを『善い』と言うのか。神おひとりのほかに、善い者はだれもいない。 |
NIV | "Why do you call me good?" Jesus answered. "No one is good--except God alone. |
註解: 第一にイエスはこの青年の「善き師よ」との呼びかけの中に、その心にある根本的欠陥を見出し給うた。すなわちこの青年は唯一の神の絶対性とその至善至愛について心が充たされておらず、その結果彼が人間と考えていたイエスに対し「善き師」と言い、人間としての普通の尊敬にやや阿諛 を交えたるごとき月並みの呼びかけをしたのであった。イエスのごとき天才は、些末 な事実から事物の真相の凡てを洞見する。イエスはかくして青年の心を単的に神に向けようとし給うたのであった。
18章20節
口語訳 | いましめはあなたの知っているとおりである、『姦淫するな、殺すな、盗むな、偽証を立てるな、父と母とを敬え』」。 |
塚本訳 | (するべきことは神の掟を守ることだけで、)掟はあなたが知っている通り。──“姦淫をしてはならない、殺してはならない、盗んではならない、偽りの証言をしてはならない、父と母とを敬え。”(ただこれだけである。)」 |
前田訳 | いましめはご承知のとおり、『姦淫するな、殺すな、盗むな、偽証するな、父と母を敬え』である」と。 |
新共同 | 『姦淫するな、殺すな、盗むな、偽証するな、父母を敬え』という掟をあなたは知っているはずだ。」 |
NIV | You know the commandments: `Do not commit adultery, do not murder, do not steal, do not give false testimony, honor your father and mother.' " |
註解: 第二にイエスはモーセの十誡の中、日常の対人関係の諸律法を列挙して彼に示し給うた。イエスはこれによって彼の罪をさとらしめ、彼を神に導こうとし給うたのであった。イエスの教えに何の新味もなかったのは彼にとって意外なことであった。それはユダヤの子供は幼時よりこれらを暗誦させられ、その実行を教え込まれていたからである。そしてそれだけでは、如何にしても永遠の生命を確保したことを感じないためにイエスに来たのであったから、今さらそれをイエスから聞こうとは思わなかった。
18章21節
口語訳 | すると彼は言った、「それらのことはみな、小さい時から守っております」。 |
塚本訳 | その人が言った、「それならみんな若い時から守っております。」 |
前田訳 | その人はいった、「それならみんな若いときから守っています」と。 |
新共同 | すると議員は、「そういうことはみな、子供の時から守ってきました」と言った。 |
NIV | "All these I have kept since I was a boy," he said. |
18章22節 イエス
口語訳 | イエスはこれを聞いて言われた、「あなたのする事がまだ一つ残っている。持っているものをみな売り払って、貧しい人々に分けてやりなさい。そうすれば、天に宝を持つようになろう。そして、わたしに従ってきなさい」。 |
塚本訳 | イエスは聞いて言われた、「もう一つ欠けている。持っているものをことごとく売って、(その金を)貧乏な人に分けてやりなさい。そうすれば天に宝を積むことができる。それから来て、わたしの弟子になりなさい。」 |
前田訳 | イエスはそれを聞いていわれた、「まだひとつ足りない。持ちものを皆売って貧しい人々に分け与えなさい。そうすれば天に宝を得よう。それから来てわたしに従いなさい」と。 |
新共同 | これを聞いて、イエスは言われた。「あなたに欠けているものがまだ一つある。持っている物をすべて売り払い、貧しい人々に分けてやりなさい。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい。」 |
NIV | When Jesus heard this, he said to him, "You still lack one thing. Sell everything you have and give to the poor, and you will have treasure in heaven. Then come, follow me." |
註解: イエスはこの青年の心の病根を見出し給うた。それは彼が全心全霊をもって神に依り頼み得ず、自分の財寳に依り頼んでいることであった。それ故イエスは彼の心をその財産から断ち切って、これをすべてイエスに向けようとした。それ故にその資産を全部売却して貧者に分配すること、そしてイエスに従うべきことを彼にすすめた。この行為が貧民救助のためとか社会政策のために必要であり、それを為せば永遠の生命をその褒賞として与えられるであろうとの意ではない。またイエスはここで彼に経済政策の原理を教えているのでもない。彼の心を資産より離して神に向けようとし給うたのであった。
辞解
[足らぬこと] leipô は「残っていること」の意。
18章23節
口語訳 | 彼はこの言葉を聞いて非常に悲しんだ。大金持であったからである。 |
塚本訳 | 彼はこれを聞き、しょげてしまった。非常な金持であったのである。 |
前田訳 | 彼はそれを聞いて落胆した。大金持であったからである。 |
新共同 | しかし、その人はこれを聞いて非常に悲しんだ。大変な金持ちだったからである。 |
NIV | When he heard this, he became very sad, because he was a man of great wealth. |
註解:些細 な資産でも凡てこれを施して無一物になることはほとんど凡ての人にとって困難であるからこの青年が憂鬱になったのも無理からぬことである。
辞解
[悲しむ] perilupos 悲しみに取囲まれるの意。
18章24節 イエス
口語訳 | イエスは彼の様子を見て言われた、「財産のある者が神の国にはいるのはなんとむずかしいことであろう。 |
塚本訳 | 彼を見ると、イエスは言われた、「物持が神の国に入るのは、なんとむずかしいことだろう。 |
前田訳 | 彼を見てイエスはいわれた、「資産家が神の国に入るのは何とむずかしいことか。 |
新共同 | イエスは、議員が非常に悲しむのを見て、言われた。「財産のある者が神の国に入るのは、なんと難しいことか。 |
NIV | Jesus looked at him and said, "How hard it is for the rich to enter the kingdom of God! |
18章25節
口語訳 | 富んでいる者が神の国にはいるよりは、らくだが針の穴を通る方が、もっとやさしい」。 |
塚本訳 | 金持が神の国に入るよりは、駱駝が縫針のめどを通る方がたやすい。」 |
前田訳 | らくだが針の穴を通るほうが金持が神の国に入るよりはやさしい」と。 |
新共同 | 金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」 |
NIV | Indeed, it is easier for a camel to go through the eye of a needle than for a rich man to enter the kingdom of God." |
註解: 駱駝が針の穴を通ることができないのであるから富者は神の国に入ることができないこととなる。そしてそれは事実である。ただし人間の力をもってはできないという意味であって神には能わざる処がない。
18章26節
口語訳 | これを聞いた人々が、「それでは、だれが救われることができるのですか」と尋ねると、 |
塚本訳 | 聞いている人たちが言った、「それでは、だれが救われることが出来るのだろう。」 |
前田訳 | 聞いている人々はいった、「それならだれが救われえよう」と。 |
新共同 | これを聞いた人々が、「それでは、だれが救われるのだろうか」と言うと、 |
NIV | Those who heard this asked, "Who then can be saved?" |
註解: 人々の中には弟子たちもあった(マタ、マコ)。彼らの多くは貧しき人々であったにも関わらず、なお救われることの困難を感じた理由は、(1)青年の立派さに打たれかかる真面目さをもっても神の国に入り得ないのだろうかと感じたこと、(2)もし財産を凡て売って貧民に施さなければならないならば貧者といえども容易にできることではないと感じたこと、そして(3)これは幾分本文の意味以外に逸脱しているが、もし弟子たちにイエスの心を見る目があったとすれば、イエスが棄てよと命じ給うた資産の意味は単に動産や不動産のみではなく、知識、健康、経験、地位、身分等、凡て人がそれに依り頼んでいる処のあらゆるものを包含すべきであることを悟ったのであろう。
18章27節 イエス
口語訳 | イエスは言われた、「人にはできない事も、神にはできる」。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「人間に出来ないことが、神には出来る。」 |
前田訳 | 彼はいわれた、「人にできないことが神にはおできになる」と。 |
新共同 | イエスは、「人間にはできないことも、神にはできる」と言われた。 |
NIV | Jesus replied, "What is impossible with men is possible with God." |
註解: 人間の力で他の人間を救うことができず、また自分の力で自分を救うことができない。しかし神は駱駝をして針の穴を通らしめ、富者を神の国に入らしむることを得たもう。
18章28節 ペテロ
口語訳 | ペテロが言った、「ごらんなさい、わたしたちは自分のものを捨てて、あなたに従いました」。 |
塚本訳 | ペテロが(イエスに)言った、「でも、わたし達はこの通り、自分の持ち物をすててあなたの弟子になりました。」 |
前田訳 | ペテロがいった、「ごらんのとおり、われらは自分のものを捨ててあなたに従いました」と。 |
新共同 | するとペトロが、「このとおり、わたしたちは自分の物を捨ててあなたに従って参りました」と言った。 |
NIV | Peter said to him, "We have left all we had to follow you!" |
註解: ペテロは彼ら弟子たちが、その所有をすててイエスに従っていることを想い出して喜びにたえず、これこそ神によって為さしめられた処であり、これならば神の国に入り得るであろうことを思って、その心持をイエスに告白した。
18章29節 イエス
口語訳 | イエスは言われた、「よく聞いておくがよい。だれでも神の国のために、家、妻、兄弟、両親、子を捨てた者は、 |
塚本訳 | 彼らに言われた、「アーメン、わたしは言う、神の国のために家や妻や兄弟や親や子を捨てた者で、 |
前田訳 | 彼らにいわれた、「本当にいう、だれでも神の国のために家や妻や兄弟や両親や子を捨てたものは、 |
新共同 | イエスは言われた。「はっきり言っておく。神の国のために、家、妻、兄弟、両親、子供を捨てた者はだれでも、 |
NIV | "I tell you the truth," Jesus said to them, "no one who has left home or wife or brothers or parents or children for the sake of the kingdom of God |
18章30節
口語訳 | 必ずこの時代ではその幾倍もを受け、また、きたるべき世では永遠の生命を受けるのである」。 |
塚本訳 | この世でその幾倍を、また来るべき世では永遠の命を受けない者は一人もない。」 |
前田訳 | この時代ではそのいく倍を、来たるべき世では永遠のいのちを受ける」と。 |
新共同 | この世ではその何倍もの報いを受け、後の世では永遠の命を受ける。」 |
NIV | will fail to receive many times as much in this age and, in the age to come, eternal life." |
註解: 私慾のために家族を遺棄し、資産を浪費するものは、家族や資産を失うのみならず自己の生命をも失い、神の国のために家族を棄て、資産を費やすものは今の世においても数倍を受け、これに加うるに永遠の生命を必ず受ける。事実、神より与えられる日々の糧は巨万の富にまさる価値があり、神より与えられる家族は肉による家族に、さらにその上に神に在る親しさを与えられ、肉によらざる家族は肉身にもまされる父母兄弟となる(マタ12:46−50)。
要義1 [道徳や財寳は永生を得るに足らず]財寳はこの世の生活に安全と快楽とを与え、道徳はこの世において栄誉と信用とを得しめる。しかしそれらは永遠の生命に到達する保証とはならない。永遠の生命はただ神の生命に連なること、すなわち神のみに依り頼むことによりてのみこれを得ることができる。神の生命のみが永遠であるが故である。
要義2 [一を欠く]誰しも確かなる信仰を欲しない者はなく、永遠の生命を確保したいと思わない者はない。しかるにそれが非常に困難なのは、自分の心の中に何か一つの離し難いものがあり、自分の心がそれに執着しているからである。それがこの富める青年の場合のごとくに資産であることもあろう。または自分の家族、地位、身分、恋愛、名誉、学識、習慣、伝統などである場合もあろう。何れにしても、それを棄て得ないものがある場合、それが信仰に入ることの妨げを為す。神に対する祈りをもって神の力によりこれを断ち切る時、そこに永遠の生命が与えられる。
分類
9 ユダヤにおけるイエス 18:31 - 21:38
9-1 ユダヤ人に対する警告 18:31 - 19:48
9-1-イ 受難の予告(その三) 18:31 - 18:34
(マタ20:17-19) (マコ10:32-34)
18章31節 イエス
口語訳 | イエスは十二弟子を呼び寄せて言われた、「見よ、わたしたちはエルサレムへ上って行くが、人の子について預言者たちがしるしたことは、すべて成就するであろう。 |
塚本訳 | イエスは(また)十二人(の弟子だけ)をそばに呼んで、こう話された、「さあ、いよいよわたし達はエルサレムへ上るのだ。人の子(わたし)について預言者たちが(聖書に)書いてあることは、ことごとく成就する。 |
前田訳 | 彼は十二人を呼びよせていわれた、「さあ、われらはエルサレムへ上る。人の子について預言者たちが書いたことはすべて成就しよう。 |
新共同 | イエスは、十二人を呼び寄せて言われた。「今、わたしたちはエルサレムへ上って行く。人の子について預言者が書いたことはみな実現する。 |
NIV | Jesus took the Twelve aside and told them, "We are going up to Jerusalem, and everything that is written by the prophets about the Son of Man will be fulfilled. |
18章32節
口語訳 | 人の子は異邦人に引きわたされ、あざけられ、はずかしめを受け、つばきをかけられ、 |
塚本訳 | ──異教人に引き渡されて、なぶられ、いじめられ、唾をかけられ、 |
前田訳 | 人の子は異邦人に渡され、あざけられ、はずかしめられ、唾せられ、 |
新共同 | 人の子は異邦人に引き渡されて、侮辱され、乱暴な仕打ちを受け、唾をかけられる。 |
NIV | He will be handed over to the Gentiles. They will mock him, insult him, spit on him, flog him and kill him. |
18章33節
口語訳 | また、むち打たれてから、ついに殺され、そして三日目によみがえるであろう」。 |
塚本訳 | ついに鞭で打たれて殺されるのである。しかし三日目に復活する。」 |
前田訳 | 鞭打たれて、殺されよう。そして三日目に復活しよう」と。 |
新共同 | 彼らは人の子を、鞭打ってから殺す。そして、人の子は三日目に復活する。」 |
NIV | On the third day he will rise again." |
註解: 第三回受難の予告である。第一回(ルカ9:22)、第二回(ルカ9:44)に比して益々その内容が詳しくなっていることの差があるだけである。いよいよイエスの十字架が近付いて来たからである。
18章34節
口語訳 | 弟子たちには、これらのことが何一つわからなかった。この言葉が彼らに隠されていたので、イエスの言われた事が理解できなかった。 |
塚本訳 | 弟子たちはこのことが全くわからなかった。この言葉(の意味)が彼らに隠されていて、(イエスの)言われたことが呑み込めなかったのである。 |
前田訳 | 彼らはこのことが、ひとつもわからなかった。このことばは彼らに隠されていて、いわれたことがつかめなかったのである。 |
新共同 | 十二人はこれらのことが何も分からなかった。彼らにはこの言葉の意味が隠されていて、イエスの言われたことが理解できなかったのである。 |
NIV | The disciples did not understand any of this. Its meaning was hidden from them, and they did not know what he was talking about. |
註解: ルカ9:45註および要義参照。イエスの言の意味が解らないのではなく、またかかる事件が起らないだろうと考えたわけでもなかったにも関わらず、このイエスの苦難の預言がその意義の真の深さにおいて彼らに理解されなかった。神のことに関しては二種の理解がある。一は理性をもってする理解であり、二は霊をもってする理解である。弟子たちはイエスの言葉をこの第二の意味において理解しなかった。
18章35節 イエス、エリコに
口語訳 | イエスがエリコに近づかれたとき、ある盲人が道ばたにすわって、物ごいをしていた。 |
塚本訳 | エリコの(町の)近くに来られた時のこと、ひとりの盲人が道ばたに坐って物乞いをしていた。 |
前田訳 | 彼がエリコに近づかれたときのこと、ある目しいが道ばたにすわって物乞いしていた。 |
新共同 | イエスがエリコに近づかれたとき、ある盲人が道端に座って物乞いをしていた。 |
NIV | As Jesus approached Jericho, a blind man was sitting by the roadside begging. |
18章36節
口語訳 | 群衆が通り過ぎる音を耳にして、彼は何事があるのかと尋ねた。 |
塚本訳 | 群衆が通り過ぎる音を聞くと、あれは何ごとかとたずねた。 |
前田訳 | 群衆が通る音を聞いて、あれは何ごとかとたずねた。 |
新共同 | 群衆が通って行くのを耳にして、「これは、いったい何事ですか」と尋ねた。 |
NIV | When he heard the crowd going by, he asked what was happening. |
註解: 当時は過越の祭が近付いていたので各方面よりの都上りの群衆がこの途を通っていた。それらの巡礼者がイエスおよび弟子たちの一群の都上りを聞いてその周囲に集って来、自然イエスを中心として大きい群衆が動いており、盲人にも何事があるのかと思われこれを質問したのであろう。マタ20:29。マコ10:46にはエリコを出づる時とあり少しく相違があるけれども、同一の事件についての異なった言伝えであろう。
18章37節
口語訳 | ところが、ナザレのイエスがお通りなのだと聞かされたので、 |
塚本訳 | 人々がナザレ人イエスのお通りだとおしえてやると、 |
前田訳 | 人々がナザレ人イエスのお通りと告げると、 |
新共同 | 「ナザレのイエスのお通りだ」と知らせると、 |
NIV | They told him, "Jesus of Nazareth is passing by." |
18章38節
口語訳 | 声をあげて、「ダビデの子イエスよ、わたしをあわれんで下さい」と言った。 |
塚本訳 | 盲人は、「ダビデの子のイエス様、どうぞお慈悲を」と言って叫んだ。 |
前田訳 | 目しいは叫んだ、「ダビデの子イエスさま、おあわれみを」と。 |
新共同 | 彼は、「ダビデの子イエスよ、わたしを憐れんでください」と叫んだ。 |
NIV | He called out, "Jesus, Son of David, have mercy on me!" |
18章39節
口語訳 | 先頭に立つ人々が彼をしかって黙らせようとしたが、彼はますます激しく叫びつづけた、「ダビデの子よ、わたしをあわれんで下さい」。 |
塚本訳 | 先頭に立っていた人たちが叱りつけて黙らせようとしたが、かえってますます、「ダビデのお子様、どうぞお慈悲を」と叫びつづけた。 |
前田訳 | 先頭に立つ人々が黙るようにたしなめると、目しいはますます叫びつづけた、「ダビデの子、おあわれみを」と。 |
新共同 | 先に行く人々が叱りつけて黙らせようとしたが、ますます、「ダビデの子よ、わたしを憐れんでください」と叫び続けた。 |
NIV | Those who led the way rebuked him and told him to be quiet, but he shouted all the more, "Son of David, have mercy on me!" |
註解: この盲人はナザレのイエスに関して知っており、また彼がメシヤとして来給うたことをも信じていたもののようである。従って彼は是非ともこのイエスに目を開けてもらいたいと熱望し、人の止めるのをも顧みず声を上げた。真理を求めて叫ぶ者には他人の言は耳に入らない。最もよくイエスを理解し得るべき学者、パリサイ人らがイエスを拒み、かえってかかる無智の盲人がイエスを信じた。この事実はユダヤ人に多くの警告を与うべきであった。
18章40節 イエス
口語訳 | そこでイエスは立ちどまって、その者を連れて来るように、とお命じになった。彼が近づいたとき、 |
塚本訳 | イエスは立ち止まって、盲人をつれてくるように命じられた。盲人が近づいてくると尋ねられた。 |
前田訳 | イエスは立ち止まって、目しいを連れて来るよう命じられた。目しいが近づくとたずねられた、 |
新共同 | イエスは立ち止まって、盲人をそばに連れて来るように命じられた。彼が近づくと、イエスはお尋ねになった。 |
NIV | Jesus stopped and ordered the man to be brought to him. When he came near, Jesus asked him, |
註解: イエスは遙かに盲人の声をきき、その真摯なのに動かされ、盲人を自分の許に呼び寄せ給うた。
かれ
18章41節 イエス
口語訳 | 「わたしに何をしてほしいのか」とおたずねになると、「主よ、見えるようになることです」と答えた。 |
塚本訳 | 「何をしてもらいたいのか。」彼がこたえた、「主よ、見えるようになりたい。」 |
前田訳 | 「何をしてもらいたいのか」と。答えた、「主よ、目が見えますように」と。 |
新共同 | 「何をしてほしいのか。」盲人は、「主よ、目が見えるようになりたいのです」と言った。 |
NIV | "What do you want me to do for you?" "Lord, I want to see," he replied. |
18章42節 イエス
口語訳 | そこでイエスは言われた、「見えるようになれ。あなたの信仰があなたを救った」。 |
塚本訳 | そこでイエスが、「見えるようになれ。あなたの信仰がなおした」と言われると、 |
前田訳 | イエスはいわれた、「見えるようになれ。あなたの信仰があなたを救った」と。 |
新共同 | そこで、イエスは言われた。「見えるようになれ。あなたの信仰があなたを救った。」 |
NIV | Jesus said to him, "Receive your sight; your faith has healed you." |
18章43節
口語訳 | すると彼は、たちまち見えるようになった。そして神をあがめながらイエスに従って行った。これを見て、人々はみな神をさんびした。 |
塚本訳 | たちどころに見えるようになって、神を讃美しながらイエスについて行った。人々は皆これを見て、神に讃美をささげた。 |
前田訳 | たちまち目が見えた。そして神をあがめながら彼に従って行った。これを見て人々は皆神に讃美をささげた。 |
新共同 | 盲人はたちまち見えるようになり、神をほめたたえながら、イエスに従った。これを見た民衆は、こぞって神を賛美した。 |
NIV | Immediately he received his sight and followed Jesus, praising God. When all the people saw it, they also praised God. |
註解: 世の人々からは全く無視され邪魔物視いされている一人の盲人をもイエスはその愛をもって顧み給う。この世において無視される不幸の人はかえって神の愛を専らにする幸福者である。この盲人はイエスの御言によって直に醫され、彼の心は神を讃美しイエスに従った。かくして民もまたイエスの御業により、イスラエルの神を讃美せざるを得なかった。