マタイ伝第14章
分類
5 イエス逆境に陥りたまう 11:1 - 16:12
5-4 イエス退きて弟子を訓練し給う 14:1 - 16:12
5-4-イ ヨハネの死とイエス 14:1 - 14:12
(マコ6:14-29) (ルカ9:7-9)
14章1節 そのころ、國守ヘロデ、イエスの噂をききて、[引照]
口語訳 | そのころ、領主ヘロデはイエスのうわさを聞いて、 |
塚本訳 | そのころ、イエスの評判が領主ヘロデ・アンテパスの耳にはいった。 |
前田訳 | そのころ領主ヘロデがイエスのうわさを聞いて |
新共同 | そのころ、領主ヘロデはイエスの評判を聞き、 |
NIV | At that time Herod the tetrarch heard the reports about Jesus, |
註解: ガリラヤの国守ヘロデ・アンテパスはヘロデ王の子であった。「宮廷には種々の出来事の噂が盛んに行われるものであるけれども、霊的な事柄はいかに広く知れ渡っても、めったにそこに達しない」(B1)。この頃になってようやくその噂が達したのである。この世のことに忙しきものは霊界の大事実を逸することが多い。
14章2節 侍臣どもに言ふ『これバプテスマのヨハネなり。かれ死人の中より甦へりたり、さればこそ此等の能力その内に働くなれ』[引照]
口語訳 | 家来に言った、「あれはバプテスマのヨハネだ。死人の中からよみがえったのだ。それで、あのような力が彼のうちに働いているのだ」。 |
塚本訳 | 「これは洗礼者ヨハネにちがいない。あれが死人の中から生きかえったのだ、それだからあんな(不思議な)力が彼の中に働いている」とヘロデは家来に言った。 |
前田訳 | 家来にいった、「これは洗礼者ヨハネだ。あれが死人の中から復活したからこそ彼の中に力がはたらいている」と。 |
新共同 | 家来たちにこう言った。「あれは洗礼者ヨハネだ。死者の中から生き返ったのだ。だから、奇跡を行う力が彼に働いている。」 |
NIV | and he said to his attendants, "This is John the Baptist; he has risen from the dead! That is why miraculous powers are at work in him." |
註解: ナザレはその同郷人なる理由をもって神の子イエスを拒み、ヘロデはイエスの能力を聞きつつも自己の良心の呵責より、彼を信ずることを得ずして、彼をヨハネの再来として彼に対して恐怖を有つに至った。肉はいずれの方面よりするも神の子を否むのがその本質である。
14章3節 ヘロデ先に、己が兄弟ピリポの妻ヘロデヤの爲にヨハネを捕へ、縛りて獄に入れたり。[引照]
口語訳 | というのは、ヘロデは先に、自分の兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことで、ヨハネを捕えて縛り、獄に入れていた。 |
塚本訳 | それにはこういう訳がある。──ヘロデは(前に)その兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことから、ヨハネを捕らえ、しばって牢に入れたことがあった。 |
前田訳 | それはこうである。ヘロデが兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことでヨハネを捕えてしばり、牢に入れた。 |
新共同 | 実はヘロデは、自分の兄弟フィリポの妻ヘロディアのことでヨハネを捕らえて縛り、牢に入れていた。 |
NIV | Now Herod had arrested John and bound him and put him in prison because of Herodias, his brother Philip's wife, |
14章4節 ヨハネ、ヘロデに『かの女を納るるは宜しからず』と言ひしに因る。[引照]
口語訳 | すなわち、ヨハネはヘロデに、「その女をめとるのは、よろしくない」と言ったからである。 |
塚本訳 | ヨハネがヘロデに、「あなたはあの婦人を妻にするのはよろしくない」と言ったからである。 |
前田訳 | それは、ヨハネが彼に、「あの女をめとるのはよくない」といったからである。 |
新共同 | ヨハネが、「あの女と結婚することは律法で許されていない」とヘロデに言ったからである。 |
NIV | for John had been saying to him: "It is not lawful for you to have her." |
註解: マコ6:20によればヘロデはヨハネを畏敬し、その教えを聞いたとのことである。彼にも神の与え給える良心はあった。然るにヘロデヤの誘惑に勝つことができず遂にその権力を濫用し、彼をマケラス(J)の獄に投じた。
14章5節 かくてヘロデ、ヨハネを殺さんと思へど、群衆を懼れたり。群衆ヨハネを預言者とすればなり。[引照]
口語訳 | そこでヘロデはヨハネを殺そうと思ったが、群衆を恐れた。彼らがヨハネを預言者と認めていたからである。 |
塚本訳 | ヘロデはヨハネを殺したいと考えたが、民衆はヨハネを預言者と思っていたので、彼ら(が騒ぎ出すの)を恐れた。 |
前田訳 | ヘロデは彼を殺したく思いつつも彼を預言者とあがめる群衆がこわかった。 |
新共同 | ヘロデはヨハネを殺そうと思っていたが、民衆を恐れた。人々がヨハネを預言者と思っていたからである。 |
NIV | Herod wanted to kill John, but he was afraid of the people, because they considered him a prophet. |
註解: 左右いずれにせんかと迷う時、悪を行わしめんとする原因とこれを行わしめざらんとする原因とが必ず共に存する。一方ヘロデヤがあると同時に他方群衆があった。ヘロデはこの間に板挿みとなって苦しんでいた。かかる際に取るべき途はいずれの事情をも顧みずして神に遵うことである。ヘロデヤはヘロデとピリポの姪に当っている。
14章6節 然るにヘロデの誕生日に當り、ヘロデヤの娘その席上に舞をまひてヘロデを喜ばせたれば、[引照]
口語訳 | さてヘロデの誕生日の祝に、ヘロデヤの娘がその席上で舞をまい、ヘロデを喜ばせたので、 |
塚本訳 | ところでヘロデの誕生祝いがあったとき、ヘロデヤの娘が満座の中で舞をまい、ヘロデを喜ばせた。 |
前田訳 | ヘロデの誕生祝いにヘロデヤの娘が皆の中でおどったのが彼の気に入った。 |
新共同 | ところが、ヘロデの誕生日にヘロディアの娘が、皆の前で踊りをおどり、ヘロデを喜ばせた。 |
NIV | On Herod's birthday the daughter of Herodias danced for them and pleased Herod so much |
14章7節 ヘロデ之に何にても求むるままに與へんと誓へり。[引照]
口語訳 | 彼女の願うものは、なんでも与えようと、彼は誓って約束までした。 |
塚本訳 | そのためヘロデは娘に、願うものはなんでもやろう、と誓いまで立てて約束した。 |
前田訳 | そこで彼は誓って、望みのものを彼女に与える約束をした。 |
新共同 | それで彼は娘に、「願うものは何でもやろう」と誓って約束した。 |
NIV | that he promised with an oath to give her whatever she asked. |
註解: ▲独裁専制者に共通の態度で、東洋の歴史にもこの例が多い。
辞解
[ヘロデヤの娘] サロメである。ヘロデヤとピリポとの間の子。
14章8節 娘その母に唆かされて言ふ『バプテスマのヨハネの首を盆に載せてここに賜はれ』[引照]
口語訳 | すると彼女は母にそそのかされて、「バプテスマのヨハネの首を盆に載せて、ここに持ってきていただきとうございます」と言った。 |
塚本訳 | 娘は母の入り知恵で、「洗礼者ヨハネの首を盆にのせて、今ここに戴きます」と言う。 |
前田訳 | 彼女は母にそそのかされて、「洗礼者ヨハネの首をここで盆にのせてわたしにください」という。 |
新共同 | すると、娘は母親に唆されて、「洗礼者ヨハネの首を盆に載せて、この場でください」と言った。 |
NIV | Prompted by her mother, she said, "Give me here on a platter the head of John the Baptist." |
註解: 昔淫婦イゼベルはエリヤを憎みし如く、今姦婦ヘロデヤは第二のエリヤなるヨハネを憎み、娘を教唆したのである。
14章9節 王憂ひたれど、その誓と席に在る者とに對して、之を與ふることを命じ、[引照]
口語訳 | 王は困ったが、いったん誓ったのと、また列座の人たちの手前、それを与えるように命じ、 |
塚本訳 | 王は悲しんだが、列座の人々の前で立てた誓いの手前、それを与えるように命じ、 |
前田訳 | 王は悲しんだが、誓いと客との手前それを与えよと命じ、 |
新共同 | 王は心を痛めたが、誓ったことではあるし、また客の手前、それを与えるように命じ、 |
NIV | The king was distressed, but because of his oaths and his dinner guests, he ordered that her request be granted |
註解: ヘロデは自己の良心の呵責と群衆の反対とを憂えたけれども、その席にある群臣の顔の前にその威厳を示す必要よりこれを実行した。神を知らざる王侯のこの種の行為は、古来いずれの国にも行われている。
14章10節 人を遣し獄にてヨハネの首を斬り、[引照]
口語訳 | 人をつかわして、獄中でヨハネの首を切らせた。 |
塚本訳 | 人をやって牢でヨハネの首をはねさせた。 |
前田訳 | 人をやって牢でヨハネの首をはねさせた。 |
新共同 | 人を遣わして、牢の中でヨハネの首をはねさせた。 |
NIV | and had John beheaded in the prison. |
14章11節 その首を盆にのせて持ち來らしめ、之を少女に與ふ。少女はこれを母に捧ぐ。[引照]
口語訳 | その首は盆に載せて運ばれ、少女にわたされ、少女はそれを母のところに持って行った。 |
塚本訳 | 首は盆にのせて持ってきて少女に渡され、少女は母に持っていった。 |
前田訳 | 首は盆にのせて持って来られて少女に渡された。彼女はそれを母に持って行った。 |
新共同 | その首は盆に載せて運ばれ、少女に渡り、少女はそれを母親に持って行った。 |
NIV | His head was brought in on a platter and given to the girl, who carried it to her mother. |
註解: これによりて祝宴は変じて凄愴たる光景を呈した。この世の歓楽には常にこの悲惨が踵を接している。マケラスよりチベリアスまで往復二日余を要することより、この祝宴はチベリアスではなくマケラスにて行われたのであろうとの節がある。
14章12節 ヨハネの弟子たち來り、屍體を取りて葬り、往きて、イエスに告ぐ。[引照]
口語訳 | それから、ヨハネの弟子たちがきて、死体を引き取って葬った。そして、イエスのところに行って報告した。 |
塚本訳 | ヨハネの弟子たちは来てなきがらを引き取って葬り、行ってイエスに報告した。 |
前田訳 | ヨハネの弟子が来て死体を引き取って葬り、イエスのところへ行って告げた。 |
新共同 | それから、ヨハネの弟子たちが来て、遺体を引き取って葬り、イエスのところに行って報告した。 |
NIV | John's disciples came and took his body and buried it. Then they went and told Jesus. -- Mt 15:32-38 |
5-4-ロ イエス5千人を養い給う 14:13 - 14:21(マコ6:30-44) (ルカ9:10-17) (ヨハ6:1-14)
14章13節 イエス[之を]聞きて人を避け、其處より舟にのりて寂しき處に往き給ひしを群衆ききて町々より徒歩にて從ひゆく。[引照]
口語訳 | イエスはこのことを聞くと、舟に乗ってそこを去り、自分ひとりで寂しい所へ行かれた。しかし、群衆はそれと聞いて、町々から徒歩であとを追ってきた。 |
塚本訳 | これを聞くと、イエスは自分(と弟子たち)だけ、そこから舟で人里はなれた所へ立ちのかれた。すると群衆はそれと聞いて、町々から陸を歩いてついて行った。 |
前田訳 | これを聞いてイエスはひとりそこを去って舟で人里遠くへ行かれた。群衆はそれを聞いて町々から徒歩で彼に従った。 |
新共同 | イエスはこれを聞くと、舟に乗ってそこを去り、ひとり人里離れた所に退かれた。しかし、群衆はそのことを聞き、方々の町から歩いて後を追った。 |
NIV | When Jesus heard what had happened, he withdrew by boat privately to a solitary place. Hearing of this, the crowds followed him on foot from the towns. |
註解: ヨハネの死とヘロデの言(マタ14:2)とを聞き給い、静かにヨハネのことを思いて祈り給わんため、又人々の風評が高まることによりて、益々ヘロデを恐れしめないがために人を避け給うたのであろう(マコ6:31によれば十二弟子が伝道旅行より帰って来て休養のためということになっている)。しかしながら群衆の熱心はイエスをして一人静かに在らしむることを妨げた、蓋しヨハネの死は群衆の悲憤を起し、その眼を益々熱心にイエスに向けるに至ったからであろう。五千人の群衆がどこまでも彼に従うことはそのためであったと想像される。
14章14節 イエス出でて大なる群衆を見、これを憫みて、その病める者を醫し給へり。[引照]
口語訳 | イエスは舟から上がって、大ぜいの群衆をごらんになり、彼らを深くあわれんで、そのうちの病人たちをおいやしになった。 |
塚本訳 | イエスは(舟から)上がって多くの群衆を見ると、かわいそうになり、その中の病人をなおされた。 |
前田訳 | 舟からあがると多くの群衆が見えた。そこで彼らをあわれみ、その中の病人をいやされた。 |
新共同 | イエスは舟から上がり、大勢の群衆を見て深く憐れみ、その中の病人をいやされた。 |
NIV | When Jesus landed and saw a large crowd, he had compassion on them and healed their sick. |
註解: イエスは遂に其の群衆を顧みざるを得ず、その祈りの場所より「出でて」その愛を群衆に注ぎ出し給うた。
14章15節 夕になりたれば、弟子たち御許に來りて言ふ『ここは寂しき處、はや時も晩し、群衆を去らしめ、村々に往きて、己が爲に食物を買はせ給へ』[引照]
口語訳 | 夕方になったので、弟子たちがイエスのもとにきて言った、「ここは寂しい所でもあり、もう時もおそくなりました。群衆を解散させ、めいめいで食物を買いに、村々へ行かせてください」。 |
塚本訳 | 夕方になると、弟子たちはイエスのそばに来て言った、「ここは人里はなれた所、それにもう時間も過ぎました。だから群衆を解散させ、村々に行って自分で食べる物を買わせてください。」 |
前田訳 | 夕になると弟子たちが彼のところに来ていった、「ここは人里遠く、もう時もおそくなりました。群衆を解散させて、村々に行って自分の食べ物を買わせてください」と。 |
新共同 | 夕暮れになったので、弟子たちがイエスのそばに来て言った。「ここは人里離れた所で、もう時間もたちました。群衆を解散させてください。そうすれば、自分で村へ食べ物を買いに行くでしょう。」 |
NIV | As evening approached, the disciples came to him and said, "This is a remote place, and it's already getting late. Send the crowds away, so they can go to the villages and buy themselves some food." |
14章16節 イエス言ひ給ふ『かれら往くに及ばず、汝ら之に食物を與へよ』[引照]
口語訳 | するとイエスは言われた、「彼らが出かけて行くには及ばない。あなたがたの手で食物をやりなさい」。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「買いに行くには及ばない。あなた達が自分で食べさせてやったらよかろう。」 |
前田訳 | イエスは彼らにいわれた、「行くに及ばない。あなた方が彼らに食べ物を与えなさい」と。 |
新共同 | イエスは言われた。「行かせることはない。あなたがたが彼らに食べる物を与えなさい。」 |
NIV | Jesus replied, "They do not need to go away. You give them something to eat." |
註解: 弟子たちの眼中には人間の自然性(飢)と周囲の事情(時刻、場所)とのみがあった。イエスは彼らに向いて信仰の上に立つことを教えんとし給うたのである。「汝ら」に注意せよ、イエスは群衆を食せしむる全責任を、弟子等の信仰による奇跡に負わしめたのである。
14章17節 弟子たち言ふ『われらが此處にもてるは、唯五つのパンと二つの魚とのみ』[引照]
口語訳 | 弟子たちは言った、「わたしたちはここに、パン五つと魚二ひきしか持っていません」。 |
塚本訳 | 彼らが言う、「ここにはパン五つと、魚二匹しか持ちあわせがありません。」 |
前田訳 | 弟子たちはいう、「ここにはパン五つと魚二匹しかありません」と。 |
新共同 | 弟子たちは言った。「ここにはパン五つと魚二匹しかありません。」 |
NIV | "We have here only five loaves of bread and two fish," they answered. |
註解: 彼らには打算より以上に出ることができなかった。
14章18節 イエス言ひ給ふ『それを我に持ちきたれ』[引照]
口語訳 | イエスは言われた、「それをここに持ってきなさい」。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「それをここに持ってきなさい。」 |
前田訳 | 彼はいわれた、「それをわたしのところに持って来なさい」と。 |
新共同 | イエスは、「それをここに持って来なさい」と言い、 |
NIV | "Bring them here to me," he said. |
註解: 我らはすべての無力、無能にかかわらず、それをそのままイエスに携え行き、イエスの祝福を受くるとき、彼はいかなる境遇をもこれを祝福に変じ給う。
14章19節 かくて群衆に命じて草の上に坐せしめ、五つのパンと二つの魚とを取り、天を仰ぎて祝し、パンを裂きて、弟子たちに與へ給へば、弟子たち之を群衆に與ふ。[引照]
口語訳 | そして群衆に命じて、草の上にすわらせ、五つのパンと二ひきの魚とを手に取り、天を仰いでそれを祝福し、パンをさいて弟子たちに渡された。弟子たちはそれを群衆に与えた。 |
塚本訳 | それから群衆に命じて草の上に座らせ、(いつも家長がするように、)その五つのパンと二匹の魚を(手に)取り、天を仰いで(神を)讃美したのち、パンを裂いて弟子たちに渡されると、弟子たちは群衆に渡した。 |
前田訳 | そして群衆に草の上にすわるように命じ、パン五つと魚二匹をとり、天を仰いで感謝し、パンを裂いて弟子たちに与えられた。弟子たちはそれを群衆に与えた。 |
新共同 | 群衆には草の上に座るようにお命じになった。そして、五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで賛美の祈りを唱え、パンを裂いて弟子たちにお渡しになった。弟子たちはそのパンを群衆に与えた。 |
NIV | And he directed the people to sit down on the grass. Taking the five loaves and the two fish and looking up to heaven, he gave thanks and broke the loaves. Then he gave them to the disciples, and the disciples gave them to the people. |
註解: イエスが弟子たち又は群衆と食事を共にし給う時の態度は常にかくのごとく、ユダヤの家庭における家父の態度であった(マタ15:36。マタ26:26-27。ルカ24:30)。
14章20節 凡ての人食ひて飽く、裂きたる餘を集めしに十二の筐に滿ちたり。[引照]
口語訳 | みんなの者は食べて満腹した。パンくずの残りを集めると、十二のかごにいっぱいになった。 |
塚本訳 | 皆が食べて満腹した。そして余ったパンの屑を拾うと、十二の篭に一ぱいあった。 |
前田訳 | 皆が食べて満ち足りた。余りのくずを拾うと、十二の籠に満ちた。 |
新共同 | すべての人が食べて満腹した。そして、残ったパンの屑を集めると、十二の籠いっぱいになった。 |
NIV | They all ate and were satisfied, and the disciples picked up twelve basketfuls of broken pieces that were left over. |
14章21節 食ひし者は、女と子供とを除きて凡そ五千人なりき。[引照]
口語訳 | 食べた者は、女と子供とを除いて、おおよそ五千人であった。 |
塚本訳 | 食べた者は、女、子供ぬきで、男五千人ばかりであった。 |
前田訳 | 食べた人は女こどもを別にして五千人ほどであった。 |
新共同 | 食べた人は、女と子供を別にして、男が五千人ほどであった。 |
NIV | The number of those who ate was about five thousand men, besides women and children. |
註解: 五つのパンをもって五千人を養い給うキリストが、パンの余りを集め給うことは無用のごとくに見える。しかしながらキリストは全く無用なる我らをも拾いて救い上げ給うことを思う時、このことの理由を解することができる。▲この奇蹟及びマタ15:32−39の四千人の賜食の奇蹟は心理的なものかまた物質的なものか、、また物質的変化とすれば、いかにしてかかることが可能であるか等は、現代の科学では説明が不可能であるが、将来説明の可能な時代が到来しないとも言えない。それまではその霊的意味を汲むに留めて置かなければならぬ。
要義 [イエス我らを養い給う]我らは生活上の問題については常に肉の思いに支配せられ、自己の収入のいかなりや、いかにしてパンを獲る途ありや、今の中にパンを求むる必要なきや等、種々の事情にのみ目を配り、打算によってのみ事を決せんとする場合が多い。弟子たちもその例に漏れなかった。彼らは五つのパンと二匹の魚とを見てこれでは到底足りないと信じた。日暮れて途遠し最早この機を失したならば彼らを飢えしむるであろうと憂慮した。今日キリスト教会においてもかかる憂慮が多い。空しく外界の事情のみを眺めて打算によりて事を行わんとする。かかることは肉の眼には賢く見ゆるけれどもこれ主の御旨ではない、主は我らがすべてを彼に任せて唯彼に従うべきことを命じ給う。而してすべての欠乏、すべての事情を「我に携え来れ」と宣う。而して我ら彼の御旨に従う時、彼はこれらの事情を祝福し、欠乏の究極より満盈の絶頂に我らを移し給うのである。「我は生命のパンなり、我にきたる者は飢えず」(ヨハ6:35)。我ら霊的のみならず肉的にもこの確信の上に立つべきである。
5-4-ハ イエス海の上を歩み給う 14:22 - 14:33(マコ6:49-52) (ヨハ[原書ではルカ、編者修正]6:14-21)
14章22節 イエス直ちに弟子たちを強ひて舟に乘らせ、自ら群衆をかへす間に、彼方の岸に先に往かしむ。[引照]
口語訳 | それからすぐ、イエスは群衆を解散させておられる間に、しいて弟子たちを舟に乗り込ませ、向こう岸へ先におやりになった。 |
塚本訳 | それからすぐイエスは弟子たちを強いて舟に乗らせ、向う岸に先発させられた、群衆を解散させる間に。 |
前田訳 | それからすぐ弟子たちを強いて舟に乗せ、彼が群衆を解散させる間に向こう岸へ先に行くようにされた。 |
新共同 | それからすぐ、イエスは弟子たちを強いて舟に乗せ、向こう岸へ先に行かせ、その間に群衆を解散させられた。 |
NIV | Immediately Jesus made the disciples get into the boat and go on ahead of him to the other side, while he dismissed the crowd. |
註解: ヨハ6:15の誘惑より弟子たちを遠ざけんが為に、「強いて」彼方の岸に渡らせたイエスは我らの信仰の鍛錬の為に時として強いて我らを離し給う。
14章23節 かくて群衆を去らしめてのち、祈らんとて竊に山に登り、夕になりて獨そこにゐ給ふ。[引照]
口語訳 | そして群衆を解散させてから、祈るためひそかに山へ登られた。夕方になっても、ただひとりそこにおられた。 |
塚本訳 | そして群衆を解散させると、祈りのため自分だけ山に上られた。暗くなってもひとりそこにおられた。 |
前田訳 | 彼は群衆を解散させてから自分だけ山に上って祈られた。夕方になってもひとりでそこにおられた。 |
新共同 | 群衆を解散させてから、祈るためにひとり山にお登りになった。夕方になっても、ただひとりそこにおられた。 |
NIV | After he had dismissed them, he went up on a mountainside by himself to pray. When evening came, he was there alone, |
註解: 唯独り神と共にいて、祈り給う瞬間が、イエスの休養であり又力の快復であった。イエスも我らと同じ人間性を完全に具備し給うたことがわかる。
辞解
[夕] 15節の「夕」は夕刻より夜半まで、本節は夜半より明方までをいう(M0)。
14章24節 舟ははや陸より數丁はなれ、風逆ふによりて波に難されゐたり。[引照]
口語訳 | ところが舟は、もうすでに陸から数丁も離れており、逆風が吹いていたために、波に悩まされていた。 |
塚本訳 | (弟子たちの)舟はすでに幾スタデオも(一スタデオは約五分の一キロ)陸を離れていたが、向い風のため波になやまされていた。 |
前田訳 | 舟はすでに陸から数スタデオも離れていて、向かい風のため波になやまされていた。 |
新共同 | ところが、舟は既に陸から何スタディオンか離れており、逆風のために波に悩まされていた。 |
NIV | but the boat was already a considerable distance from land, buffeted by the waves because the wind was against it. |
註解: 信者はイエスを離れる時必ずこの世の風浪に悩まされる。
14章25節 夜明の四時ごろ、イエス海の上を歩みて、彼らに到り給ひしに、[引照]
口語訳 | イエスは夜明けの四時ごろ、海の上を歩いて彼らの方へ行かれた。 |
塚本訳 | 第四夜回りのころ(すなわち夜明けの三時ごろ、)イエスは湖の上を歩いて彼らの所に来られた。 |
前田訳 | 夜明けの三時すぎに彼は湖の上を歩いて彼らのところへ来られた。 |
新共同 | 夜が明けるころ、イエスは湖の上を歩いて弟子たちのところに行かれた。 |
NIV | During the fourth watch of the night Jesus went out to them, walking on the lake. |
14章26節 弟子たち其の海の上を歩み給ふを見て心騷ぎ、變化の者なりと言ひて懼れ叫ぶ。[引照]
口語訳 | 弟子たちは、イエスが海の上を歩いておられるのを見て、幽霊だと言っておじ惑い、恐怖のあまり叫び声をあげた。 |
塚本訳 | 弟子たちはイエスが湖の上を歩いておられるのを見ると、幽霊だと思って肝をつぶし、恐ろしさのあまり叫んだ。 |
前田訳 | 弟子たちは彼が湖の上を歩かれるのを見ると、おどろいて、幽霊だといい、おののいて叫んだ。 |
新共同 | 弟子たちは、イエスが湖上を歩いておられるのを見て、「幽霊だ」と言っておびえ、恐怖のあまり叫び声をあげた。 |
NIV | When the disciples saw him walking on the lake, they were terrified. "It's a ghost," they said, and cried out in fear. |
註解: イエスの身体は時に地上の物質界の法則に支配せられざるごとき現象を呈した、或は彼の力によりて水を支配したものと見ることができよう。いずれにしてもこれが事実であったことは弟子たちの驚愕を見ても知ることができる。患難の中に苦しむ者にとって、イエスの援助は超自然的方法をもって来る。
14章27節 イエス直ちに彼らに語りて言ひたまふ『心安かれ、我なり、懼るな』[引照]
口語訳 | しかし、イエスはすぐに彼らに声をかけて、「しっかりするのだ、わたしである。恐れることはない」と言われた。 |
塚本訳 | しかしイエスはすぐ彼らに話しかけて言われた、「安心せよ、わたしだ。こわがることはない。」 |
前田訳 | イエスはすぐに語りかけられた、「安心なさい、わたしだ、こわがることはない」と。 |
新共同 | イエスはすぐ彼らに話しかけられた。「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない。」 |
NIV | But Jesus immediately said to them: "Take courage! It is I. Don't be afraid." |
註解: 我ら人生の荒波に船出してその風浪に漂わされ沈むは今かと死を待つ時に、イエスのこの語を思い出すべきである。その風波の最中にイエスは必ず我らに近付き、この言を語り給う。
14章28節 ペテロ答へて言ふ『主よ、もし汝ならば我に命じ、水を蹈みて御許に到らしめ給へ』[引照]
口語訳 | するとペテロが答えて言った、「主よ、あなたでしたか。では、わたしに命じて、水の上を渡ってみもとに行かせてください」。 |
塚本訳 | ペテロが答えた、「主よ、あなたでしたら、どうかわたしに命令して、水の上を歩いてあなたの所へ行かせてください。」 |
前田訳 | ペテロは答えた、「主よ、あなたなら、わたしに命じて水の上を歩いてそこまで行かせてください」と。 |
新共同 | すると、ペトロが答えた。「主よ、あなたでしたら、わたしに命令して、水の上を歩いてそちらに行かせてください。」 |
NIV | "Lord, if it's you," Peter replied, "tell me to come to you on the water." |
註解: この節より31節までは他の福音書にこれを欠く。イエスを迎うるペテロの熱心と歓喜とは彼をして、一刻の猶予をも待遠しと思わしめた。それにも関わらず彼は自己の熱心によりて行動せず、主の命を待ったのは彼の信従の態度の立派であったことを示す。
14章29節 『來れ』と言ひ給へば、ペテロ舟より下り、水の上を歩みてイエスの許に往く。[引照]
口語訳 | イエスは、「おいでなさい」と言われたので、ペテロは舟からおり、水の上を歩いてイエスのところへ行った。 |
塚本訳 | 「こちらに来なさい」とイエスが言われた。ペテロは舟から下り、水の上を歩いてイエスの所へ行った。 |
前田訳 | 彼はいわれた、「来なさい」と。そこでペテロは舟からおりて水の上をイエスのほうへ歩いて行った。 |
新共同 | イエスが「来なさい」と言われたので、ペトロは舟から降りて水の上を歩き、イエスの方へ進んだ。 |
NIV | "Come," he said. Then Peter got down out of the boat, walked on the water and came toward Jesus. |
註解: 主の命がある場合にすべての事情境遇困難を顧みず、即時にこれに従う時、主の力はこれに加わり奇跡的結果が生じて来るのである。ペテロが水の上を歩むことができたのも信仰によりて、絶対に主の御言に従ったからである(ヨシ3:15、16)。▲「精神」の本質とそれが物質に及ぼす力の物理的研究が進めば、この現象を説明し得るに至る時が来るであろう。
14章30節 然るに風を見て懼れ、沈みかかりければ、叫びて言ふ『主よ、我を救ひたまへ』[引照]
口語訳 | しかし、風を見て恐ろしくなり、そしておぼれかけたので、彼は叫んで、「主よ、お助けください」と言った。 |
塚本訳 | しかし(いま一足という所で)強い風を見たため、おじけがつき、沈みかけたので、「主よ、お助けください」と叫んだ。 |
前田訳 | しかし風を見ておそれ、沈みかけたので叫んだ、「主よ、お助けを」と。 |
新共同 | しかし、強い風に気がついて怖くなり、沈みかけたので、「主よ、助けてください」と叫んだ。 |
NIV | But when he saw the wind, he was afraid and, beginning to sink, cried out, "Lord, save me!" |
註解: 主を仰ぎ見つつある間はペテロは水上を歩くことができた。然るに一旦風に心が奪われるに及んで最早その力を失ったのである。これ我らの信仰生活の事実である。我ら専心に主を仰ぎ見て進む間はいかに困難なる境遇もこれを乗切ることができるけれども、一度困難なる事情に心が奪われ、主を離れるに至れば、人は皆その事情の中に没落してしまうのである。しかしたといかかる過に陥ることがあっても我らは絶望するに及ばない、「主よ、我を救いたまえ」と彼を呼びかけることができるからである。
14章31節 イエス直ちに御手を伸べ、これを捉へて言ひ給ふ『ああ信仰うすき者よ、何ぞ疑ふか』[引照]
口語訳 | イエスはすぐに手を伸ばし、彼をつかまえて言われた、「信仰の薄い者よ、なぜ疑ったのか」。 |
塚本訳 | イエスはすぐ手をのばし、ペテロをつかまえて言われる、「信仰の小さい人よ!なぜ疑うのか。」 |
前田訳 | ただちにイエスは手をのべて彼をつかんでいわれる、「小信もの、なぜ疑ったか」と。 |
新共同 | イエスはすぐに手を伸ばして捕まえ、「信仰の薄い者よ、なぜ疑ったのか」と言われた。 |
NIV | Immediately Jesus reached out his hand and caught him. "You of little faith," he said, "why did you doubt?" |
註解: 「主よ、我を救いたまえ」との叫びに応じて、主は御手を差出して我らを捉え給う、何等の恩恵であろうか(詩145:14)。しかしながら我らは主を仰ぎ見て少しも疑わず、いかなる困難をも顧みずして進むべきである。ロトのごとくに辛うじて救い出されるものは主の御心をあまりに多く傷め奉る者である。
14章32節 相共に舟に乘りしとき、風やみたり。[引照]
口語訳 | ふたりが舟に乗り込むと、風はやんでしまった。 |
塚本訳 | そして二人が舟に乗ると、風はやんだ。 |
前田訳 | 彼らが舟にあがると、風は凪いだ。 |
新共同 | そして、二人が舟に乗り込むと、風は静まった。 |
NIV | And when they climbed into the boat, the wind died down. |
14章33節 舟に居る者どもイエスを拜して言ふ『まことに汝は神の子なり』[引照]
口語訳 | 舟の中にいた者たちはイエスを拝して、「ほんとうに、あなたは神の子です」と言った。 |
塚本訳 | 舟にいた人たちは、「あなたは確かに神の子です」と言ってイエスをおがんだ。 |
前田訳 | 舟の中のものはひれ伏して彼にいった、「本当にあなたは神の子です」と。 |
新共同 | 舟の中にいた人たちは、「本当に、あなたは神の子です」と言ってイエスを拝んだ。 |
NIV | Then those who were in the boat worshiped him, saying, "Truly you are the Son of God." |
註解: イエスの栄光と奇蹟とを見て彼らはイエスを拝せざるを得ざるに至った。イエスに向って「汝は神の子なり」と告白することは天の父より与えられし聖霊の働きである(マタ16:16)。
5-4-ニ イエス、ゲネサレに還り給う 14:34 - 14:36(マコ6:53-56)
14章34節 遂に渡りてゲネサレの地に著きしに、[引照]
口語訳 | それから、彼らは海を渡ってゲネサレの地に着いた。 |
塚本訳 | ついに(湖を)渡ってゲネサレの地に着いた。 |
前田訳 | 湖を渡って彼らはゲネサレの地に来た。 |
新共同 | こうして、一行は湖を渡り、ゲネサレトという土地に着いた。 |
NIV | When they had crossed over, they landed at Gennesaret. |
14章35節 その處の人々イエスを認めて、あまねく四方に人をつかはし、又すべての病める者を連れきたり、[引照]
口語訳 | するとその土地の人々はイエスと知って、その附近全体に人をつかわし、イエスのところに病人をみな連れてこさせた。 |
塚本訳 | 所の人はイエスと知って、その付近に隅なく人をやっ(て知らせ)たので、人々は病人を皆イエスのところにつれて来て、 |
前田訳 | 彼と知ってそこの人々は周辺の地にくまなく人をつかわしたので、人々は病人を皆彼のところに連れて来た。 |
新共同 | 土地の人々は、イエスだと知って、付近にくまなく触れ回った。それで、人々は病人を皆イエスのところに連れて来て、 |
NIV | And when the men of that place recognized Jesus, they sent word to all the surrounding country. People brought all their sick to him |
14章36節 ただ御衣の總にだに觸らしめ給はんことを願ふ、觸りし者はみな醫されたり。[引照]
口語訳 | そして彼らにイエスの上着のふさにでも、さわらせてやっていただきたいとお願いした。そしてさわった者は皆いやされた。 |
塚本訳 | せめて着物の裾にさわらせてほしいとイエスに願った。さわった者はみな直った。 |
前田訳 | そして彼の着物の裾にだけでもさわらせてもらうよう願った。さわったものは皆いやされた。 |
新共同 | その服のすそにでも触れさせてほしいと願った。触れた者は皆いやされた。 |
NIV | and begged him to let the sick just touch the edge of his cloak, and all who touched him were healed. |
註解: ゲネサレはガリラヤの海の西北岸の平原である。イエスの福音を信じて人々をイエスの許に連れ来れ、さらば彼らは皆救われるであろう。
マタイ伝第15章
5-4-ホ 伝統の墨守を戒め給う 15:1 - 15:20
(マコ7:1-23)
15章1節 ここにパリサイ人・學者ら、エルサレムより來りてイエスに言ふ、[引照]
口語訳 | ときに、パリサイ人と律法学者たちとが、エルサレムからイエスのもとにきて言った、 |
塚本訳 | そのころパリサイ人と聖書学者たちがエルサレムからイエスの所に来て、 |
前田訳 | そのころパリサイ人や学者がエルサレムからイエスのところへ来ていう、 |
新共同 | そのころ、ファリサイ派の人々と律法学者たちが、エルサレムからイエスのもとへ来て言った。 |
NIV | Then some Pharisees and teachers of the law came to Jesus from Jerusalem and asked, |
註解: これらの人は遠路イエスを訪うたのを見れば、定めし熱心にして権威ある人々であったろう(B1)。この頃よりイエスに対するパリサイ人らの反感が益々露骨になってきた。
15章2節 『なにゆゑ汝の弟子は、古への人の言傳を犯すか、食事のときに手を洗はぬなり』[引照]
口語訳 | 「あなたの弟子たちは、なぜ昔の人々の言伝えを破るのですか。彼らは食事の時に手を洗っていません」。 |
塚本訳 | 「あなたの弟子はなぜ先祖の言伝えをふみにじるのか。食事をする時に手を洗わないではないか」と言った。 |
前田訳 | 「なぜあなたの弟子は先祖のいい伝えを破るのですか、パンを食べるとき手を洗わないとは」と。 |
新共同 | 「なぜ、あなたの弟子たちは、昔の人の言い伝えを破るのですか。彼らは食事の前に手を洗いません。」 |
NIV | "Why do your disciples break the tradition of the elders? They don't wash their hands before they eat!" |
註解: モーセの律法と共に、或は往々にしてそれ以上に古人の言伝えを重んずるのがパリサイ人らの主張であった。そしてこの言伝えに反することは彼らにとって非常に重大事であった。ラビ・アキバは牢獄の中において少量の水しか与えられなかった時、たとい渇きのために死すとも手を洗わずに食することを肯ぜずとの信念より、この少量の水にて手を洗ったとのことである。迷誤に基く熱信は往々にして非常に愚なることをも大問題と信じ、これを死守することを忠信なるかのごとくに思い易いものである。我が国にもかかる例は多い。マコ7:3、4には尚この種の言伝えを詳細に例示している。
15章3節 答へて言ひ給ふ『なにゆゑ汝らは、また汝らの言傳によりて神の誡命を犯すか。[引照]
口語訳 | イエスは答えて言われた、「なぜ、あなたがたも自分たちの言伝えによって、神のいましめを破っているのか。 |
塚本訳 | 彼らに答えられた、「では(わたしも)一つ尋ねる、あなた達も自分の言伝えで神の掟をふみにじっているが、あれはどうしたのか。 |
前田訳 | 彼は答えられた、「あなた方にしても、自分のいい伝えだからとて神の掟を破るのはなぜか。 |
新共同 | そこで、イエスはお答えになった。「なぜ、あなたたちも自分の言い伝えのために、神の掟を破っているのか。 |
NIV | Jesus replied, "And why do you break the command of God for the sake of your tradition? |
註解: 第二節の質問と同じ文言を用い、殊に言伝えと神の誡命とを対比して反問し給うことにより、彼らの誤りを明かにし給うた。
15章4節 即ち神は「父母を敬へ」と言ひ「父または母を罵る者は必ず殺さるべし」と言ひたまへり。[引照]
口語訳 | 神は言われた、『父と母とを敬え』、また『父または母をののしる者は、必ず死に定められる』と。 |
塚本訳 | 神は、“父と母を敬え、”また“父または母を罵る者は必ず死に処せられる”と言われたのに、 |
前田訳 | 神はいわれた、『父と母を敬え』と。また、『父または母をののしるものは死刑』と。 |
新共同 | 神は、『父と母を敬え』と言い、『父または母をののしる者は死刑に処せられるべきである』とも言っておられる。 |
NIV | For God said, `Honor your father and mother' and `Anyone who curses his father or mother must be put to death.' |
註解: 旧約聖書中(引照参照)に示すがごとく、聖書は強く孝を説いている。然るに彼らはこれを実行せず、かえって次のごとき遁辞を造り出していた。
15章5節 然るに汝らは「誰にても父または母に對ひて、我が負ふ所のものは供物となりたりと言はば、[引照]
口語訳 | それだのに、あなたがたは『だれでも父または母にむかって、あなたにさしあげるはずのこのものは供え物です、と言えば、 |
塚本訳 | あなた達はこう言うのだから。──『父または母にむかって、わたしがあなたに差し上げるはずのものは(神への)供え物にする、と言う者は、 |
前田訳 | しかしあなた方はいう、『父または母に、あなたがわたしから当てがわれているものは供え物です、というものは |
新共同 | それなのに、あなたたちは言っている。『父または母に向かって、「あなたに差し上げるべきものは、神への供え物にする」と言う者は、 |
NIV | But you say that if a man says to his father or mother, `Whatever help you might otherwise have received from me is a gift devoted to God,' |
15章6節 父または母を敬ふに及ばず」と言ふ。斯くその言傳によりて神の言を空しうす。[引照]
口語訳 | 父または母を敬わなくてもよろしい』と言っている。こうしてあなたがたは自分たちの言伝えによって、神の言を無にしている。 |
塚本訳 | 父または母を敬わなくてよろしい(、扶養の義務をまぬかれる)』と。こうして、あなた達は自分の言伝えで神の言葉を反故にしている。 |
前田訳 | 父または母を敬わなくてもよい』と。かくて、あなた方は自らのいい伝えのゆえに神のことばを無にする。 |
新共同 | 父を敬わなくてもよい』と。こうして、あなたたちは、自分の言い伝えのために神の言葉を無にしている。 |
NIV | he is not to `honor his father ' with it. Thus you nullify the word of God for the sake of your tradition. |
註解: 「我が負ふ所のものは供物となりたり」とは一つの誓約の形式をなしている語であって、その語の示す意味は父母を扶養すべき物資を宮に供物として捧げてしまうことを意味する。しかし実際は必ずしも事実これを捧ぐる必要があるのではなく、唯かかる誓いの語を発するだけで、神に誓える理由をもって父母を扶養する義務を免除されるというのである。かかる言伝えを楯として不孝の行為に出でても、彼らは形式的敬虔と、その結果なるこの誓約の効力とに重きを置きてかかる行為を許していた。イエスは神の言の精神をかかる形式をもって蹂躙することの極悪なることを示し給うたのである。このイエスの反駁がパリサイ人を沈黙せしめしを見れば、彼らといえどもこの種の不孝の行為を心より是認しなかったのであろう。唯形式や言伝えをあまりに重視する場合には、かかる誤りに陥ることあるは注意しなければならぬ。森有礼の暗殺されし原因もこの種の理由であった。
辞解
[我が負う所のものは供物となりたり] 「負う所のもの」とは父母が我らに要求し得るもの、すなわち父母を扶養すべき義務のこと、「供物」とは神殿に捧ぐる供物であってマコ7:11にはヘブル語の原語コルバンを用いている。このコルバンは神に捧ぐるの意味より転じて、神に誓ってあるものを断つ場合(レビ27章。民30章)に用いるようになった。「我に肴は供物となれり」といえば、神に誓って肴を断つの意味となった。この意味が自己に断つことより転じて他人にも与えないことを意味するようになり、遂には父母に対してもこの誓いを用いることによりて、その扶養の義務を尽くす必要なしと解せざるを得ざる言伝えが生ずるに至ったのである。
15章7節 僞善者よ、宜なる哉、イザヤは汝らに就きて能く預言せり。曰く、[引照]
口語訳 | 偽善者たちよ、イザヤがあなたがたについて、こういう適切な預言をしている、 |
塚本訳 | 偽善者たち!イザヤはあなた達のことをこう言って預言しているが、うまいものである。── |
前田訳 | 偽善者よ、イザヤがあなた方について預言したのは当たっている、いわく、 |
新共同 | 偽善者たちよ、イザヤは、あなたたちのことを見事に預言したものだ。 |
NIV | You hypocrites! Isaiah was right when he prophesied about you: |
15章8節 「この民は口唇にて我を敬ふ、されど其の心は我に遠ざかる。[引照]
口語訳 | 『この民は、口さきではわたしを敬うが、その心はわたしから遠く離れている。 |
塚本訳 | “この民は口先でわたし[神]を敬いながら、その心は遠くわたしから離れている。 |
前田訳 | 『この民は口でわたしを敬うが、心はわたしから遠い。 |
新共同 | 『この民は口先ではわたしを敬うが、/その心はわたしから遠く離れている。 |
NIV | "`These people honor me with their lips, but their hearts are far from me. |
註解: イエスは憤慨のあまり、彼らを面前において「偽善者よ」と叱責し給うた。イエスは今日のキリスト者らが考うるごとき、いわゆる上品な紳士ではなかった。イザヤの預言(引照参照)は寔によくイスラエルの民の実情を穿っていた。心は神を離れておりながら口唇をもって「主よ、主よ」と呼び、教会の儀式礼典をもって敬虔を装うことは、イエスの最も忌み嫌い給いし偽善であった。
15章9節 ただ徒らに我を拜む。人の訓誡を教とし教へて」』[引照]
口語訳 | 人間のいましめを教として教え、無意味にわたしを拝んでいる』」。 |
塚本訳 | 彼らは(熱心に)わたしを拝むが無駄である、彼らが教えとして教えているのは、人間の(作った)規則であるから。”」 |
前田訳 | 彼らはわたしを拝んでもむなしい。彼らが教えとするのは人間の掟であるから』」と。 |
新共同 | 人間の戒めを教えとして教え、/むなしくわたしをあがめている。』」 |
NIV | They worship me in vain; their teachings are but rules taught by men.' " |
註解: 心が神に近付きて始めて真の礼拝をささぐることができ、また神の誡命を守ることができる。心が神より遠ざかっている場合は内容の空なる礼拝であり、又神よりの直接の誡命に接することができない結果、人の言伝え等が過度に重んぜられるに至るのである。
15章10節 かくて群衆を呼び寄せて言ひたまふ『聽きて悟れ。[引照]
口語訳 | それからイエスは群衆を呼び寄せて言われた、「聞いて悟るがよい。 |
塚本訳 | それから群衆を呼びよせて言われた、「聞いて悟れ。 |
前田訳 | 群衆を呼んでいわれた、「聞いて悟れ、 |
新共同 | それから、イエスは群衆を呼び寄せて言われた。「聞いて悟りなさい。 |
NIV | Jesus called the crowd to him and said, "Listen and understand. |
15章11節 口に入るものは人を汚さず、されど口より出づるものは、これ人を汚すなり』[引照]
口語訳 | 口にはいるものは人を汚すことはない。かえって、口から出るものが人を汚すのである」。 |
塚本訳 | 口に入るものは人をけがさない。口から出るもの、これが人をけがす。」 |
前田訳 | 口に入るものは人をけがさず、口から出るものこそ人をけがす」と。 |
新共同 | 口に入るものは人を汚さず、口から出て来るものが人を汚すのである。」 |
NIV | What goes into a man's mouth does not make him `unclean,' but what comes out of his mouth, that is what makes him `unclean.'" |
註解: 伝説旧慣に囚われざる群衆は、パリサイ人らよりも遥かにこの真理を悟るに適した心を有っていたであろう。彼らはイエスとパリサイ人との間の論談中はこれを興味を覚えずしてその場を離れていたのであろう。ゆえにイエスは彼らを呼び寄せ、パリサイ人らの言説に惑わされぬようにこれを教え給うた、この御言の説明は十六節以下にある。
15章12節 ここに弟子たち御許に來りていふ『御言をききてパリサイ人の躓きたるを知り給ふか』[引照]
口語訳 | そのとき、弟子たちが近寄ってきてイエスに言った、「パリサイ人たちが御言を聞いてつまずいたことを、ご存じですか」。 |
塚本訳 | あとで弟子たちが来てイエスに言う、「パリサイ人がお話を聞いて腹を立てたことを御存じですか。」 |
前田訳 | そこへ弟子たちが来ていう、「パリサイ人がおことばを聞いてつまずいたのをご存じですか」と。 |
新共同 | そのとき、弟子たちが近寄って来て、「ファリサイ派の人々がお言葉を聞いて、つまずいたのをご存じですか」と言った。 |
NIV | Then the disciples came to him and asked, "Do you know that the Pharisees were offended when they heard this?" |
註解: パリサイ人らはイエスの真理の言に躓いた。旧き言伝えや死せる形式を墨守する者は常に真理に躓く者である。
15章13節 答へて言ひ給ふ『わが天の父の植ゑ給はぬ[もの](植物)は、みな拔かれん。[引照]
口語訳 | イエスは答えて言われた、「わたしの天の父がお植えにならなかったものは、みな抜き取られるであろう。 |
塚本訳 | イエスは答えられた、「わたしの天の父上がお植えにならないものは皆、引き抜かれる。 |
前田訳 | 彼は答えられた、「天のわが父がお植えでない作物は皆抜かれる。 |
新共同 | イエスはお答えになった。「わたしの天の父がお植えにならなかった木は、すべて抜き取られてしまう。 |
NIV | He replied, "Every plant that my heavenly Father has not planted will be pulled up by the roots. |
註解: 選ばれて信仰に入ることは皆天の父の御業である(引照参照)。父に選ばれて救われし者より外は皆亡ぼされるであろう。
15章14節 彼らを捨ておけ、盲人を手引する盲人なり、盲人もし盲人を手引せば、二人とも穴に落ちん』[引照]
口語訳 | 彼らをそのままにしておけ。彼らは盲人を手引きする盲人である。もし盲人が盲人を手引きするなら、ふたりとも穴に落ち込むであろう」。 |
塚本訳 | あの人たちを放っておけ。盲人の手引をする盲人だ。盲人が盲人の手引をすれば、二人とも穴に落ちよう。」 |
前田訳 | 彼らにかまうな。彼らは目しいを案内する目しいである。目しいが目しいを案内すると両方とも穴に落ちよう」と。 |
新共同 | そのままにしておきなさい。彼らは盲人の道案内をする盲人だ。盲人が盲人の道案内をすれば、二人とも穴に落ちてしまう。」 |
NIV | Leave them; they are blind guides. If a blind man leads a blind man, both will fall into a pit." |
註解: 彼らは直ちに裁かるべき者であるけれども、悔改めに導かんとて暫く彼らを、その為すがままに放任し給う(ロマ1:24。ロマ2:3)。パリサイ人らは真理に対する盲人である(ヨハ9:40、41。ロマ2:19)。悔改めずば、彼らは「穴」すなわち地獄に陥るであろう。
15章15節 ペテロ答へて言ふ『その譬を我らに解き給へ』[引照]
口語訳 | ペテロが答えて言った、「その譬を説明してください」。 |
塚本訳 | ペテロが口を出して言った、「さっきの譬を説明してください。」 |
前田訳 | ペテロがいった、「譬えを説明してください」と。 |
新共同 | するとペトロが、「そのたとえを説明してください」と言った。 |
NIV | Peter said, "Explain the parable to us." |
15章16節 イエス言ひ給ふ『なんぢらも今なほ悟りなきか。[引照]
口語訳 | イエスは言われた、「あなたがたも、まだわからないのか。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「あなた達までがまだ悟らないのか。 |
前田訳 | 彼はいわれた、「あなた方さえもまだわからないのか。 |
新共同 | イエスは言われた。「あなたがたも、まだ悟らないのか。 |
NIV | "Are you still so dull?" Jesus asked them. |
註解: 十一節の譬は弟子らにも難解であったと見える、彼らはその霊的意義を捕え兼ねたのであろう。
15章17節 凡て口に入るものは腹にゆき、遂に厠に棄てらるる事を悟らぬか。[引照]
口語訳 | 口にはいってくるものは、みな腹の中にはいり、そして、外に出て行くことを知らないのか。 |
塚本訳 | すべて口に入るものは、腹を通って便所に落ちる(から、人をけがさない)ことが解らないのか。 |
前田訳 | すべて口に入るものは、腹に入って厠に落とされることを知らないのか。 |
新共同 | すべて口に入るものは、腹を通って外に出されることが分からないのか。 |
NIV | "Don't you see that whatever enters the mouth goes into the stomach and then out of the body? |
註解: ▲「かわやに棄てらる」を口語訳で「外に出て行く」と訳したのは、聖書に「かわや」などという語はけがらわしいとか、イエスがかかる下品な言葉を語るのは相応しくないとの考えからかも知れないが、余計な心配である。イエスの天真爛漫さを冒涜した人間的虚飾の訳語である。
15章18節 されど口より出づるものは心より出づ、これ人を汚すものなり。[引照]
口語訳 | しかし、口から出て行くものは、心の中から出てくるのであって、それが人を汚すのである。 |
塚本訳 | しかし口から出るものは心から出るので、そちらは人をけがす。 |
前田訳 | 口から発するものは心から出るので、それが人をけがす。 |
新共同 | しかし、口から出て来るものは、心から出て来るので、これこそ人を汚す。 |
NIV | But the things that come out of the mouth come from the heart, and these make a man `unclean.' |
15章19節 それ心より惡しき念いづ、すなはち殺人・姦淫・淫行・竊盜・僞證・誹謗、[引照]
口語訳 | というのは、悪い思い、すなわち、殺人、姦淫、不品行、盗み、偽証、誹りは、心の中から出てくるのであって、 |
塚本訳 | 心から悪い考えが出るからである。人殺し、姦淫、不品行、盗み、偽証、悪口(など)。 |
前田訳 | 悪意、殺人、姦淫、不義、盗み、偽証、けがしごとは心から出る。 |
新共同 | 悪意、殺意、姦淫、みだらな行い、盗み、偽証、悪口などは、心から出て来るからである。 |
NIV | For out of the heart come evil thoughts, murder, adultery, sexual immorality, theft, false testimony, slander. |
15章20節 これらは人を汚すものなり、されど洗はぬ手にて食する事は人を汚さず』[引照]
口語訳 | これらのものが人を汚すのである。しかし、洗わない手で食事することは、人を汚すのではない」。 |
塚本訳 | 人をけがすのこれで、洗わぬ手で食事をすることは人をけがさない。」 |
前田訳 | これらが人をけがすので、洗わぬ手で食べることは人をけがさない」と。 |
新共同 | これが人を汚す。しかし、手を洗わずに食事をしても、そのことは人を汚すものではない。」 |
NIV | These are what make a man `unclean'; but eating with unwashed hands does not make him `unclean.'" |
註解: ここにイエスは外部より人間の内に入り来るもの(すなわち飲食物)と内部より外部に表われて来るもの(すなわち言語、行為)とを区別し、前者は人を汚すことができないけれども、後者は心の中に悪念が充ちおりこれが外部に表顕するものであって、これがその人を汚すものであるから、先ずこの心を洗うことが必要であることを教え給うたのである。ここに列挙せられし罪過の詳細はマルコ伝を見よ。これらは「人より出づるもの」(マコ7:15)又は「心より出づるもの」と称すべきであって、すべてを「口より出づるもの」と名づけることは不適当である。唯「口より入るもの」との対立上「口より出づるもの」といい給うたのである。要するに人間の心が腐敗して悪の住む処であることをイエスはここに明言しているのであって、人間の原罪を承認し給うたものと見るべきである。
要義 [伝統は真理を排斥する]旧き歴史を有っている国家、社会、家庭等には殊に多くの伝統があってその人民、家族を束縛する場合が多い。かかる場合にもしそれが伝統なるがゆえに尊まれ、これを破るべからずものと信じられるならば、遂には真理を排斥し、旧来の陋習を操守することをもって正義と信ずるような極めて愚なる結果となるのである。ゆえに伝統はそれが真理である場合にのみ尊まるべきであって、然らざる場合はいかに旧き言伝といえどもこれを棄てなければならない。然らざれば遂に真理そのものを棄てなければならない場合に立至るであろう。
キリスト者といえどもこの過誤に陥り得るのであって、旧来の伝統なるがゆえのみにこれを棄て兼ねて、遂に真理を排斥しキリストの教訓に違反している場合は非常に多い。彼らはこのパリサイ人のごとく盲人であって盲人の手引きを為しているのである。これ実に最大の危険である。
5-4-ヘ カナンの女を恵み給う 15:21 - 15:28(マコ7:24-30)
15章21節 イエスここを去りてツロとシドンとの地方に往き給ふ。[引照]
口語訳 | さて、イエスはそこを出て、ツロとシドンとの地方へ行かれた。 |
塚本訳 | イエスはそこを出て、ツロとシドンとの地方に引っ込まれた。 |
前田訳 | イエスはそこを去ってツロとシドンの地方に退かれた。 |
新共同 | イエスはそこをたち、ティルスとシドンの地方に行かれた。 |
NIV | Leaving that place, Jesus withdrew to the region of Tyre and Sidon. |
註解: パリサイ人らの反対が益々高まりつつあったので彼らを離れてツロ、シドンのごときパレスチナの西海岸にあたる異邦人の地方に往き給うた、この時よりイエスの伝道に一期限が画せられ、主としてその弟子たちに向いてイエスの贖罪の死について語り給う。
15章22節 視よ、カナンの女その邊より出できたり、叫びて『主よ、ダビデの子よ、我を憫み給へ、わが娘、惡鬼につかれて甚く苦しむ』と言ふ。[引照]
口語訳 | すると、そこへ、その地方出のカナンの女が出てきて、「主よ、ダビデの子よ、わたしをあわれんでください。娘が悪霊にとりつかれて苦しんでいます」と言って叫びつづけた。 |
塚本訳 | すると、その地方生まれの一人のカナンの女が出てきて叫んだ、「主よ、ダビデのお子様よ、どうぞお慈悲を。娘がひどく悪鬼に苦しめられています。」 |
前田訳 | すると見よ、そのあたりの出のカナンの女が来て叫んだ、「あわれんでください、主よ、ダビデのみ子よ、娘が悪霊になやんでいます」と。 |
新共同 | すると、この地に生まれたカナンの女が出て来て、「主よ、ダビデの子よ、わたしを憐れんでください。娘が悪霊にひどく苦しめられています」と叫んだ。 |
NIV | A Canaanite woman from that vicinity came to him, crying out, "Lord, Son of David, have mercy on me! My daughter is suffering terribly from demon-possession." |
註解: 「カナンの女」はイスラエルの民族に属せざる異邦人の女である。彼がイエスを「ダビデの子」と呼ぶのを見ても、イエスがメシヤたることの風評は当時既にこの地方に行われていたことが分る。この女の心にはすでにイエスに対する絶対信頼の態度があった。
辞解
[カナン人] 元パレスチナの住民であった、後北方に移住してフェニシヤ/フェニキヤ国民となった。
15章23節 されどイエス一言も答へ給はず。弟子たち來り請ひて言ふ『女を歸したまへ、我らの後より叫ぶなり』[引照]
口語訳 | しかし、イエスはひと言もお答えにならなかった。そこで弟子たちがみもとにきて願って言った、「この女を追い払ってください。叫びながらついてきていますから」。 |
塚本訳 | しかしイエスは一言も答えられなかった。弟子たちが来て、願って言った、「願いをかなえてやって、(早く)この女を追い払ってください。どなりながらついて来ますから。」 |
前田訳 | しかし彼からはひとこともお答えがなかった。弟子たちが来てお願いした、「この女をどけてください。叫んでつけて来ますから」と。 |
新共同 | しかし、イエスは何もお答えにならなかった。そこで、弟子たちが近寄って来て願った。「この女を追い払ってください。叫びながらついて来ますので。」 |
NIV | Jesus did not answer a word. So his disciples came to him and urged him, "Send her away, for she keeps crying out after us." |
註解: あたかも己が子に棄てられて路頭に迷う老父が、他人の子より扶養を受くるごとき場合に、これを喜ぶと共にその悲しみいやまさると同じく、イエスは神の経綸に従い、先ずイスラエルを救い、これより救いを全世界に及ぼし給うべきであったのに、このイスラエルの人々の中に最も信仰的種族として誇っていたパリサイ人らは彼を拒み、彼は淋しく異邦の境に放浪を続け給いし際とて、このカナンの女の信仰はかえって深く彼の心を動かし奉ったものであろう。この女の信仰によりてイスラエルの不信は益々深くイエスの心に浮び来り、彼女に答えんとする気分が消えてしまった。イエスの答え給わなかったのは、彼女に対する愛がなかったからではなく、更に深くイスラエルを愛し給うたからである。これに対し弟子たちの「うるさいから早く癒して下さい」との要求は、平凡そのものであった。女の信仰をもイエスの悩みをも理解しなかったのである。
15章24節 答へて言ひたまふ『我はイスラエルの家の失せたる羊のほかに遣されず』[引照]
口語訳 | するとイエスは答えて言われた、「わたしは、イスラエルの家の失われた羊以外の者には、つかわされていない」。 |
塚本訳 | イエスは答えられた、「わたしはイスラエルの家のいなくなった羊だけにしか、遣わされていない。」 |
前田訳 | 彼は答えられた、「わたしがつかわされたのはイスラエルの家のうせた羊にだけである」と。 |
新共同 | イエスは、「わたしは、イスラエルの家の失われた羊のところにしか遣わされていない」とお答えになった。 |
NIV | He answered, "I was sent only to the lost sheep of Israel." |
註解: イスラエルの不信を悲しむ御心がこの女の信仰によりていよいよ高められしこの際、弟子たちが主の御心を少しも解しないのを見て、イエスはその御心に溢れるイスラエルに対する切愛を吐露し給うた。この御言の裏面には「然るにイスラエルの失せたる羊は我を受けないとは、何たる悲しきことであろう」との意味が含まれている。
辞解
[失せたる羊] 牧者を見失って迷い出ている羊。「エホバは我が牧者なり」又イエスは「羊の大牧者」(ヘブ13:20)に在し給う。彼を離れて我らは失せたる羊である。
15章25節 女きたり拜して言ふ『主よ、我を助けたまへ』[引照]
口語訳 | しかし、女は近寄りイエスを拝して言った、「主よ、わたしをお助けください」。 |
塚本訳 | するとその女が来て、しきりに願って言った、「主よ、お助けください。」 |
前田訳 | 彼女は来てイエスにひれ伏していう、「主よ、お助けを」と。 |
新共同 | しかし、女は来て、イエスの前にひれ伏し、「主よ、どうかお助けください」と言った。 |
NIV | The woman came and knelt before him. "Lord, help me!" she said. |
15章26節 答へて言ひたまふ『子供のパンをとりて小狗に投げ與ふるは善からず』[引照]
口語訳 | イエスは答えて言われた、「子供たちのパンを取って小犬に投げてやるのは、よろしくない」。 |
塚本訳 | イエスは答えられた、「子供たちのパンを取り上げて、(異教の)小犬どもに投げてやるのはよろしくない。」 |
前田訳 | 彼はいわれた、「子のパンを取って犬に投げるのはよくない」と。 |
新共同 | イエスが、「子供たちのパンを取って小犬にやってはいけない」とお答えになると、 |
NIV | He replied, "It is not right to take the children's bread and toss it to their dogs." |
註解: 女の熱心はイエスの無関心と、弟子たちの不親切とによりて少しもひるまなかった、叫ぶだけでは足らず遂にイエスを拝してその助けを求めた。これに対するイエスの御答えは一見甚だ冷淡にして愛なき御言のごとくに聞えていた。しかしそうではなく、イエスには小狗なる異邦人を救う前に、子供なるイスラエルを救う熱望が止み難いのであった。ここにその悩める御心をそのまま吐露し給うたのである。
15章27節 女いふ『然り、主よ、小狗も主人の食卓よりおつる食屑を食ふなり』[引照]
口語訳 | すると女は言った、「主よ、お言葉どおりです。でも、小犬もその主人の食卓から落ちるパンくずは、いただきます」。 |
塚本訳 | しかし女は言った、「主よ、是非どうぞ!小犬どもも、御主人の食卓から落ちるパン屑をいただくのですから。」 |
前田訳 | 彼女はいった、「主よ、ごもっともですが、犬も主人の食卓から落ちるくずを食べます」と。 |
新共同 | 女は言った。「主よ、ごもっともです。しかし、小犬も主人の食卓から落ちるパン屑はいただくのです。」 |
NIV | "Yes, Lord," she said, "but even the dogs eat the crumbs that fall from their masters' table." |
註解: 女の心は謙遜と信頼とに満ちていた。彼女は主の恵みを当然の権利として要求せず無価値なる彼女に対する特別の恩恵としてこれを求めた、而してイエスが繰返しこれを拒み給うがごとく見えていても、尚イエスの愛を疑わずしてイエスに依り頼んだ。我らの信仰と祈りもまたかくのごとくに強く、又謙遜でかつ忍耐深くなければならない。
15章28節 ここにイエス答へて言ひたまふ『をんなよ、汝の信仰は大なるかな、願のごとく汝になれ』娘この時より癒えたり。[引照]
口語訳 | そこでイエスは答えて言われた、「女よ、あなたの信仰は見あげたものである。あなたの願いどおりになるように」。その時に、娘はいやされた。 |
塚本訳 | そこでイエスは答えられた、「ああ、女の人、りっぱな信仰だ。願いどおりに成れ。」すると、ちょうどその時から、娘は直った。 |
前田訳 | そこでイエスは答えられた、「女の人、あなたの信仰は大きい。望みがかなえられるように」と。するとそのときから彼女の娘はなおった。 |
新共同 | そこで、イエスはお答えになった。「婦人よ、あなたの信仰は立派だ。あなたの願いどおりになるように。」そのとき、娘の病気はいやされた。 |
NIV | Then Jesus answered, "Woman, you have great faith! Your request is granted." And her daughter was healed from that very hour. |
註解: ここに始めてイエスの御心は、イスラエルに対する悩みより脱して女の信仰に向けられた、そしてその信仰を讃美賞嘆し給うたのである。信仰をもって祈る者に対してイエスは今も尚「願いのごとく汝になれ」と宣う。
要義1 [神の恩恵異邦人に及ぶ]神の言は先ずイスラエルに宣伝えらるべきであった、然るに彼らこれを拒み、イエスを十字架に釘けたがために救いは異邦人に及んだのである
(使13:46。使28:28。ロマ11:11)
。されどアブラハムに対する神の約束(創12:3)、その他のイスラエルに対する神の諸々の約束は空に帰したのではない。必ず充たされる時があるのである。この物語においてもパリサイ人らがイエスを拒んだことによりて、恩恵がカナンの一婦人に及んだのは、イエスの十字架のなやみとこれにより異邦人に救いが及ぶことが予表されていると見ることができる。
要義2 [イエスがカナンの婦人を救うことをなぜに拒み給いしか]この理由を予は前掲註解のごとくに解した。ただしこれは通説ではない。かかる篤信の婦人の求めにイエスが応じ給わないことは、いかにもイエスらしくないのでこの箇所は種々の解釈をもって説明されている。或はイエスは彼女の信仰を試さんがために、表面彼女の乞いを容れ給わないかのごとくに装ったのであると解し、又はイエスの目的は彼女の信仰を表顕する機会を与えんとするにあったと説明し、又は実際イエスはイスラエルを救うことを主要事と考え、彼女を救うことを欲し給わなかったのであると説明し、又はイエスはこれによりて、神と異邦人との間の関係を表徴的に示さんとし給えるものと解釈する等がこれである。果してこれらの解釈中のいずれがイエスの御心であったかはこれを決定することができない。各人その欲する解釈を取ることが自由である。唯この各々にそれぞれ欠点があることもまた免れることができないことを念頭に置くことが必要である。イエスの御心は我らの心によりて解釈し尽くすべくあまりに高くあまりに深い。
要義3 [小狗の如き信仰]自ら神の国のために大なる働きをなして、神の国の食卓に傲然として坐することができると考えるものは、神の御旨に叶えるものではない。自らは救わるべき価値なきにもかかわらず、神の恩恵によりて神の子とされることの光栄を心から感謝するもののみ、神の御旨に叶えるものである。自ら卑しとするものは天国において高しとされるものである。カナンの女のごときこの意味において最も大なる信仰を有っていたのである。
5-4-ト 群集の病気を癒し給う 15:29 - 15:31(マコ7:31-37)
15章29節 イエス此處を去り、ガリラヤの海邊にいたり、而して山に登り、そこに坐し給ふ。[引照]
口語訳 | イエスはそこを去って、ガリラヤの海べに行き、それから山に登ってそこにすわられた。 |
塚本訳 | それからイエスはそこを去って、ガリラヤ湖のほとりにかえり、山に上ってそこに坐られた。 |
前田訳 | そこを去ってイエスはガリラヤ湖畔へ来て山に上ってそこにすわられた。 |
新共同 | イエスはそこを去って、ガリラヤ湖のほとりに行かれた。そして、山に登って座っておられた。 |
NIV | Jesus left there and went along the Sea of Galilee. Then he went up on a mountainside and sat down. |
註解: ガリラヤ湖の東岸を経て来給うたのであった(マコ7:31)。カリラヤ湖畔の山上はイエスの好んで赴き給いし処であった(マタ5:1)。
15章30節 大なる群衆、跛者・不具・盲人・唖者および他の多くの者を連れ來りて、イエスの足下に置きたれば、醫し給へり。[引照]
口語訳 | すると大ぜいの群衆が、足なえ、不具者、盲人、おし、そのほか多くの人々を連れてきて、イエスの足もとに置いたので、彼らをおいやしになった。 |
塚本訳 | 大勢の群衆が足なえ、片輪、盲人、唖、そのほか多くの者をつれてイエスの所に来て、足もとに置いたので、それをなおされた。 |
前田訳 | 多くの群衆が足なえ、不具の人、目しい、唖者、そのほか多くの病人を連れてイエスのところへ来て、お足もとに置いたのでそれをいやされた。 |
新共同 | 大勢の群衆が、足の不自由な人、目の見えない人、体の不自由な人、口の利けない人、その他多くの病人を連れて来て、イエスの足もとに横たえたので、イエスはこれらの人々をいやされた。 |
NIV | Great crowds came to him, bringing the lame, the blind, the crippled, the mute and many others, and laid them at his feet; and he healed them. |
註解: これらの癒されしものの中、果して幾何がイエスの真の弟子となりしかを思う時、世には自己の益を求めんがためにイエスに来る者の多きに反し、自己を捧げてイエスの弟子となるもの少なきを思わざるを得ない。唯イエスはかかる結果を眼中に置き給わなかった。彼ら憐れみてその来るがままにこれを癒し給うた。
15章31節 群衆は、唖者の物いひ、不具の癒え、跛者の歩み、盲人の見えたるを見て之を怪しみ、イスラエルの神を崇めたり。[引照]
口語訳 | 群衆は、おしが物を言い、不具者が直り、足なえが歩き、盲人が見えるようになったのを見て驚き、そしてイスラエルの神をほめたたえた。 |
塚本訳 | 群衆は唖が物を言い、片輪が直り、足なえが歩きまわり、盲人が目が見えるようになったのを見て驚き、イスラエルの神を讃美した。 |
前田訳 | 唖者が語り、不具の人がなおり、足なえが歩き、目しいが見るのを見て群衆はおどろき、イスラエルの神を讃美した。 |
新共同 | 群衆は、口の利けない人が話すようになり、体の不自由な人が治り、足の不自由な人が歩き、目の見えない人が見えるようになったのを見て驚き、イスラエルの神を賛美した。 |
NIV | The people were amazed when they saw the mute speaking, the crippled made well, the lame walking and the blind seeing. And they praised the God of Israel. |
註解: 唯悲しむべきことには彼らはこれを見てもイエスのメシヤにして神の子に在し給うことを覚えるに至らなかった。
5-4-チ イエス四千人を養い給う 15:32 - 15:39(マコ8:1-10)
15章32節 イエス弟子たちを召して言ひ給ふ『われ此の群衆をあはれむ、既に三日われと偕にをりて食ふべき物なし。飢ゑたるままにて歸らしむるを好まず、恐らくは途にて疲れ果てん』[引照]
口語訳 | イエスは弟子たちを呼び寄せて言われた、「この群衆がかわいそうである。もう三日間もわたしと一緒にいるのに、何も食べるものがない。しかし、彼らを空腹のままで帰らせたくはない。恐らく途中で弱り切ってしまうであろう」。 |
塚本訳 | イエスは弟子たちを呼び寄せて言われた、「群衆がかわいそうだ。もう三日もわたしをはなれずにいるので、何も食べるものを持っていない。空腹のままで帰したくない。途中でへたばってしまうかも知れない。」 |
前田訳 | イエスは弟子たちを呼びよせていわれた、「群衆が気の毒だ。わたしのところに三日もいるのに、食べものがない。空腹のままでは帰したくない。途中で力つきるといけないから」。 |
新共同 | イエスは弟子たちを呼び寄せて言われた。「群衆がかわいそうだ。もう三日もわたしと一緒にいるのに、食べ物がない。空腹のままで解散させたくはない。途中で疲れきってしまうかもしれない。」 |
NIV | Jesus called his disciples to him and said, "I have compassion for these people; they have already been with me three days and have nothing to eat. I do not want to send them away hungry, or they may collapse on the way." |
註解: イエスを信頼して彼に従う者のためには、イエス自ら食うべきものを備え給うことは寔に感謝すべき事柄である。ゆえに我ら安んじて先ず神の国と神の義を求めることができる。群衆がその飢えをも忘れて三日間彼に従えることは彼と共に在ることのいかに幸いであったかを示している。
15章33節 弟子たち言ふ『この寂しき地にて、斯く大なる群衆を飽かしむべき多くのパンを、何處より得べき』[引照]
口語訳 | 弟子たちは言った、「荒野の中で、こんなに大ぜいの群衆にじゅうぶん食べさせるほどたくさんのパンを、どこで手に入れましょうか」。 |
塚本訳 | 弟子たちが言う、「この荒野で、いったいどこから、こんなに大勢の人を満腹させるほど沢山のパンを買って来ましょうか。」 |
前田訳 | 弟子たちはいう、「こんなに大勢の群衆が満腹するほどのパンを、このさびしいところでどこから手に入れましょう」。 |
新共同 | 弟子たちは言った。「この人里離れた所で、これほど大勢の人に十分食べさせるほどのパンが、どこから手に入るでしょうか。」 |
NIV | His disciples answered, "Where could we get enough bread in this remote place to feed such a crowd?" |
註解: 「主よ彼らに必要のパンを与え給え」と祈ることが弟子たちの第一の務めであった。これを為さずしてどこにパンを得んかと、先ず事務的の事を考えることは我らの陥り易い過ちである。
15章34節 イエス言ひ給ふ『パン幾つあるか』彼らいふ『七つ、また小き魚すこしあり』[引照]
口語訳 | イエスは弟子たちに「パンはいくつあるか」と尋ねられると、「七つあります。また小さい魚が少しあります」と答えた。 |
塚本訳 | イエスが言われる、「手許にいくつパンがあるか。」「七つ、それと小魚が少しです」とこたえた。 |
前田訳 | イエスはいわれる、「そこにパンが幾つあるか」。彼らはいった、「七つ、それに小魚が少しです」と。 |
新共同 | イエスが「パンは幾つあるか」と言われると、弟子たちは、「七つあります。それに、小さい魚が少しばかり」と答えた。 |
NIV | "How many loaves do you have?" Jesus asked. "Seven," they replied, "and a few small fish." |
註解: イエスは必要な場合には石を化してパンとなすことをも知り給う。ゆえに弟子の憂慮はイエスにとって無関係であった。
15章35節 イエス群衆に命じて地に坐せしめ、[引照]
口語訳 | そこでイエスは群衆に、地にすわるようにと命じ、 |
塚本訳 | イエスは群衆に命じて地面にすわらせ、 |
前田訳 | 彼は群衆に地面にすわるよう命じ、 |
新共同 | そこで、イエスは地面に座るように群衆に命じ、 |
NIV | He told the crowd to sit down on the ground. |
15章36節 七つのパンと魚とを取り、謝して之をさき弟子たちに與へ給へば、弟子たちこれを群衆に與ふ。[引照]
口語訳 | 七つのパンと魚とを取り、感謝してこれをさき、弟子たちにわたされ、弟子たちはこれを群衆にわけた。 |
塚本訳 | その七つのパンと魚とを(手に)取り、(神に)感謝して(パンを)裂き、弟子たちに渡されると、弟子たちは群衆に渡した。 |
前田訳 | 七つのパンと魚を取り、感謝して裂き、弟子たちに与えられると、弟子たちは群衆に与えた。 |
新共同 | 七つのパンと魚を取り、感謝の祈りを唱えてこれを裂き、弟子たちにお渡しになった。弟子たちは群衆に配った。 |
NIV | Then he took the seven loaves and the fish, and when he had given thanks, he broke them and gave them to the disciples, and they in turn to the people. |
註解: イエスにとりては四千人を養うべき奇蹟を行い給うこの場合と、少数にて共に食事をする場合との間に、その態度に少しの差別もなかった。ここに彼の無限の力を見ることができる。この力の主に在し給う彼を信ずるものは平安である。彼は唯父なる神に感謝をささげ給うた。イエスにとってはすべてが感謝の源であった。
15章37節 凡ての人くらひて飽き、裂きたる餘を拾ひしに、七つの籃に滿ちたり。[引照]
口語訳 | 一同の者は食べて満腹した。そして残ったパンくずを集めると、七つのかごにいっぱいになった。 |
塚本訳 | 皆が食べて満腹した。そして余った(パンの)屑を拾うと、七つの篭に一ぱいあった。 |
前田訳 | 皆が食べて満腹した。余りのくずを拾うと、七つの籠が満ちた。 |
新共同 | 人々は皆、食べて満腹した。残ったパンの屑を集めると、七つの籠いっぱいになった。 |
NIV | They all ate and were satisfied. Afterward the disciples picked up seven basketfuls of broken pieces that were left over. |
註解: マタ14:20註参照。▲本節の「籃」は spuris で14:20の「筺」は kophinos である。spuris(籃)の方は大形で人間が入れる位のもの、使9:25。口語訳でこの区別を無くしたのは遺憾である。
15章38節 食ひし者は、女と子供とを除きて四千人なりき。[引照]
口語訳 | 食べた者は、女と子供とを除いて四千人であった。 |
塚本訳 | 食べた者は、女、子供ぬきで、男四千人であった。 |
前田訳 | 食べた人は女こどもは別として四千人であった。 |
新共同 | 食べた人は、女と子供を別にして、男が四千人であった。 |
NIV | The number of those who ate was four thousand, besides women and children. |
15章39節 イエス群衆をかへし、舟に乘りてマガダンの地方に往き給へり。[引照]
口語訳 | そこでイエスは群衆を解散させ、舟に乗ってマガダンの地方へ行かれた。 |
塚本訳 | イエスは群衆を解散させたのち、舟に乗ってマガダン地方に行かれた。 |
前田訳 | イエスは群衆を解散させて舟に乗り、マガダンの地方へ行かれた。 |
新共同 | イエスは群衆を解散させ、舟に乗ってマガダン地方に行かれた。 |
NIV | After Jesus had sent the crowd away, he got into the boat and went to the vicinity of Magadan. |
註解: マガダンは場所不詳の地である。マコ8:10にはダルマヌタとあり、マガダンは異本にマグダラとあり、マグダラはガリラヤ湖の西岸であってこの場合には適当していない。
附記 この第二の奇蹟は第十四章十六節以下の記事に類似し、かつマタイ伝とマルコ伝にのみに存するとの理由の下に同一の奇蹟に対する二つの記事であると解する学者が多い。しかし場所、人数、事情等すべて異なり、器物までも種類の異なるものであり、いなかる点より比較しても同一事件であることの証拠はない。学者がかかる空しき疑問を起すの根拠は、かかる奇蹟は二度行わることはなからんとの漠然たる推測と、33節の弟子たちの質問が、もし以前に五千人を養える奇蹟があったとすれば、不可解であるという極めて不充分なる理由からである。