マタイ伝第26章
分類
9 イエスの受難問題 21:1 - 27:26
9-6 受難前の出来事 26:1 - 27:26
9-6-イ イエスの死期近づく 26:1 - 26:5
(マコ14:1-2) (ルカ22:1-2)
26章1節 イエスこれらの言をみな語りをへて、弟子たちに言ひ給ふ[引照]
口語訳 | イエスはこれらの言葉をすべて語り終えてから、弟子たちに言われた。 |
塚本訳 | イエスはこれらの話をことごとく終えた時、弟子たちに言われた、 |
前田訳 | イエスがこれらのことばを皆終えられたときのこと、弟子たちにいわれた、 |
新共同 | イエスはこれらの言葉をすべて語り終えると、弟子たちに言われた。 |
NIV | When Jesus had finished saying all these things, he said to his disciples, |
26章2節 『なんぢらの知るごとく、二日の後は過越[の祭]なり、[引照]
口語訳 | 「あなたがたが知っているとおり、ふつかの後には過越の祭になるが、人の子は十字架につけられるために引き渡される」。 |
塚本訳 | 「知っているとおり、あさっては過越の祭である。(その日)人の子(わたし)は十字架につけられるために(敵の手に)引き渡される。」 |
前田訳 | 「あなた方の知るように、二日後に過越(すぎこし)になる。そのとき人の子は引き渡されて十字架につけられよう」と。 |
新共同 | 「あなたがたも知っているとおり、二日後は過越祭である。人の子は、十字架につけられるために引き渡される。」 |
NIV | "As you know, the Passover is two days away--and the Son of Man will be handed over to be crucified." |
註解: ゆえにこの日はニサンの月の十三日であった。
辞解
[過越] イスラエルの三大節の第一であって、ニサンの月の十四日より二十一日まで一週間これを祝う。イスラエルがエジプトにおいて羔羊の血によりて救われ、エジプトより逃れ出づることの記念日である、キリストの死はこの羔羊の死によりて表徴せられている(出12:1-51。その他を見よ)。
人の子は十字架につけられん爲に賣らるベし』
註解: イエスは過越の祭と己の十字架との時間的一致を預言し給うた。この両者はその意義においても一致している(Tコリ5:7)。
26章3節 そのとき祭司長・民の長老ら、カヤパといふ大祭司の中庭に集り、[引照]
口語訳 | そのとき、祭司長たちや民の長老たちが、カヤパという大祭司の中庭に集まり、 |
塚本訳 | 折りしも大祭司連と国の長老たちは、カヤパという大祭司の官邸に集まり、 |
前田訳 | そのころ大祭司や民の長老らがカヤパという大祭司の邸に集まり、 |
新共同 | そのころ、祭司長たちや民の長老たちは、カイアファという大祭司の屋敷に集まり、 |
NIV | Then the chief priests and the elders of the people assembled in the palace of the high priest, whose name was Caiaphas, |
註解: 彼らはユダヤ人の衆議所の議員として、ユダヤ人中の最有力者であった。
26章4節 詭計をもてイエスを捕へ、かつ殺さんと相議りたれど、[引照]
口語訳 | 策略をもってイエスを捕えて殺そうと相談した。 |
塚本訳 | 計略でイエスを捕えて殺そうと決議した。 |
前田訳 | イエスを計略で捕えて殺そうと相談した。 |
新共同 | 計略を用いてイエスを捕らえ、殺そうと相談した。 |
NIV | and they plotted to arrest Jesus in some sly way and kill him. |
註解: イエスは神の御旨に従って十字架の苦しみを受けんと用意しつつある間に彼らは詭計をもって彼を捕えて殺さんとした、この著しき対照を見よ。職業化せる宗教家は常に権謀術数をもってその生命となしている。
26章5節 又いふ『まつりの間は爲すべからず、恐らくは民の中に亂起らん』[引照]
口語訳 | しかし彼らは言った、「祭の間はいけない。民衆の中に騒ぎが起るかも知れない」。 |
塚本訳 | しかし「(早く片付けよう。)祭の時(に手を下して)はいけない。人民どもの間に騒動がおこると困る」と言っていた。 |
前田訳 | しかし彼らはいった、「祭りの時はよそう。民の間に騒ぎがおこるといけない」と。 |
新共同 | しかし彼らは、「民衆の中に騒ぎが起こるといけないから、祭りの間はやめておこう」と言っていた。 |
NIV | "But not during the Feast," they said, "or there may be a riot among the people." |
註解: 当時過越の祭のために各地方、殊にガリラヤよりも多くの人エルサレムに集っていた。彼らの中にはイエスをメシヤと信ずる者も多かった、ゆえにこの際大事を決行して人民が騒擾を起すことあらんことを恐れたのである。但しユダの裏切によりてこの予定を変更し、神の予定が実現した。
9-6-ロ マリア香膏をイエスに塗る 26:6 - 26:13(マコ14:3-9) (ヨハ12:1-8)
26章6節 イエス、ベタニヤにて癩病人シモンの家に居給ふ時、[引照]
口語訳 | さて、イエスがベタニヤで、らい病人シモンの家におられたとき、 |
塚本訳 | イエスがベタニヤで癩病人シモンの家におられるとき、 |
前田訳 | イエスがベタニアでらい者シモンの家におられると、 |
新共同 | さて、イエスがベタニアで重い皮膚病の人シモンの家におられたとき、 |
NIV | While Jesus was in Bethany in the home of a man known as Simon the Leper, |
註解: この物語はルカ7:36以下の物語に類似しているけれども、全く別事実である。ただヨハ12:1−8はこれと同一事実の記録。シモンはイエスに癒されし癩病人であろう。この出来事の起った日は21:1より前であったのを、ユダの裏切の問題と関連せしめんためにここに揚げたのであろう(ヨハ12:1以下参照)。
26章7節 ある女、[引照]
口語訳 | ひとりの女が、高価な香油が入れてある石膏のつぼを持ってきて、イエスに近寄り、食事の席についておられたイエスの頭に香油を注ぎかけた。 |
塚本訳 | 一人の女が非常に価の高い香油のはいった石膏の壷を持って近寄り、食卓についておられるイエスの頭に(香油をすっかり)注ぎかけた。 |
前田訳 | 高価な香油の壺を持ってひとりの女が近より、食卓につかれた彼の頭に注ぎかけた。 |
新共同 | 一人の女が、極めて高価な香油の入った石膏の壺を持って近寄り、食事の席に着いておられるイエスの頭に香油を注ぎかけた。 |
NIV | a woman came to him with an alabaster jar of very expensive perfume, which she poured on his head as he was reclining at the table. |
註解: ヨハ12:3によればこの女はベタニヤのマルタの妹マリヤであった。匿名とせる理由についてはヨハ11:57附記。
石膏の壺に入りたる貴き香油を持ちて、近づき來り、食事の席に就き居給ふイエスの首に注げり。
註解: 人はこのマリヤのごとく己の有てる最も貴きものをキリストに献げなければならない。マリヤのキリストに対する愛はかくも深きものであった。ヨハ12:3にはイエスの御足にこれを塗ったと記されている。双方とも事実であって各記者がその一方のみを記したのであろう。
26章8節 弟子たち之を見て憤ほり言ふ『何故かく濫なる費をなすか。[引照]
口語訳 | すると、弟子たちはこれを見て憤って言った、「なんのためにこんなむだ使をするのか。 |
塚本訳 | 弟子たちはこれを見て、憤慨して言った、「なぜこんなもったいないことをするのだろう。 |
前田訳 | 弟子たちはそれを見ていきどおっていう、「このぜいたくは何のためか。 |
新共同 | 弟子たちはこれを見て、憤慨して言った。「なぜ、こんな無駄遣いをするのか。 |
NIV | When the disciples saw this, they were indignant. "Why this waste?" they asked. |
26章9節 之を多くの金に賣りて、貧しき者に施すことを得たりしものを』[引照]
口語訳 | それを高く売って、貧しい人たちに施すことができたのに」。 |
塚本訳 | これは高く売れて、貧乏な人に施しが出来たのに。」 |
前田訳 | これは高く売れて貧しい人々に施せたのに」と。 |
新共同 | 高く売って、貧しい人々に施すことができたのに。」 |
NIV | "This perfume could have been sold at a high price and the money given to the poor." |
註解: かかる事を発言せるはイスカリオテのユダであった、ヨハ12:4。しかし内心他の弟子も同一の心を持っていた。彼らは外部に顕われし行為のみを重んじた結果、イエスに対する心よりの愛と讃美とが欠けていた。この点においてマリヤは彼らに比して遥によきことを為していたのである。律法的立場をもって信仰の子を審判くこと(ガラ4:29)は今も昔も変りがない。一定の道徳形式を決定してこれをもって他を審くことは信仰の自由に対する反逆である。
26章10節 イエス之を知りて言ひたまふ『何ぞこの女を惱すか、我に善き事をなせるなり。[引照]
口語訳 | イエスはそれを聞いて彼らに言われた、「なぜ、女を困らせるのか。わたしによい事をしてくれたのだ。 |
塚本訳 | それと知ってイエスは言われた、「なぜこの婦人をいじめるのか。わたしに良いことをしてくれたではないか。 |
前田訳 | イエスはそれを知って彼らにいわれた、「なぜこの女の人をいじめるのか、わたしによいことをしてくれたのに。 |
新共同 | イエスはこれを知って言われた。「なぜ、この人を困らせるのか。わたしに良いことをしてくれたのだ。 |
NIV | Aware of this, Jesus said to them, "Why are you bothering this woman? She has done a beautiful thing to me. |
註解: マリヤはその行為がかくのごとき善行であることを知らずして、ただキリストに対する愛とキリストの死の切迫せる予感より無意識にこれを行ったのであろう、弟子たちの道理ある非難の前に彼女はなやんでいた。しかしながらイエスは打算的行為を嫌いて信仰より出づる行為を貴び給う。ルカ10:38−42。ゆえにここに彼女の行為を弟子たちに弁護し給うた。
26章11節 貧しき者は常に汝らと偕にをれど、我は常に偕に居らず。[引照]
口語訳 | 貧しい人たちはいつもあなたがたと一緒にいるが、わたしはいつも一緒にいるわけではない。 |
塚本訳 | 貧乏な人はいつもあなた達と一しょにいるが、わたしはいつも(一しょに)いるわけではない。 |
前田訳 | 貧しい人々はいつもあなた方のところにいるが、わたしはいつもではない。 |
新共同 | 貧しい人々はいつもあなたがたと一緒にいるが、わたしはいつも一緒にいるわけではない。 |
NIV | The poor you will always have with you, but you will not always have me. |
26章12節 この女の我が體に香油を注ぎしは、わが葬りの備をなせるなり。[引照]
口語訳 | この女がわたしのからだにこの香油を注いだのは、わたしの葬りの用意をするためである。 |
塚本訳 | この婦人がわたしの体に香油をかけてくれたのは、わたしを葬るためである。 |
前田訳 | 彼女がわたしの体にこの香油をかけてくれたのはわたしを葬るためであった。 |
新共同 | この人はわたしの体に香油を注いで、わたしを葬る準備をしてくれた。 |
NIV | When she poured this perfume on my body, she did it to prepare me for burial. |
註解: 天地の創造以来の最大の事件ともいうべきイエスの十字架が切迫していた。これに対して無感覚でいることはイエスを愛しない証である。イエスを愛せずして真に貧者を愛することができない。而して貧者は常にこの世に絶えることがない、ゆえにマリヤが無意識にイエスの葬りのために油を注いだことは、この際における最も善き行為であった。
26章13節 まことに汝らに告ぐ、全世界いずこにても、この福音の宣傅へらるる處には、この女のなしし事も記念として語らるベし』[引照]
口語訳 | よく聞きなさい。全世界のどこででも、この福音が宣べ伝えられる所では、この女のした事も記念として語られるであろう」。 |
塚本訳 | アーメン、わたしは言う、世界中どこでも(今後)この福音の説かれる所では、この婦人のしたことも、その記念のために一しょに語りつたえられるであろう。」 |
前田訳 | 本当にいう、全世界この福音が伝えられるところ、この女の人のしたことも彼女をおぼえて語られよう」と。 |
新共同 | はっきり言っておく。世界中どこでも、この福音が宣べ伝えられる所では、この人のしたことも記念として語り伝えられるだろう。」 |
NIV | I tell you the truth, wherever this gospel is preached throughout the world, what she has done will also be told, in memory of her." |
註解: イエスの福音はその死を中心としている、従ってこの死を飾れるマリヤの行為はこの福音と共に亡びない。現今までもこの行為が光を放っているのである。
要義 [愛の神秘]マリヤがキリストに油を注いだ理由は、恐らく彼女自身これを知らなかったのであろう。唯キリストに対する愛が彼女をしてその最もよきものを献ぐるに至らしめ、而してこの行為が、彼女自身の予想せざりし重大なる意義を有っていたのであろう。我らは計画や打算や予測や習慣や、模倣等によって事をなす場合に失敗し、これに反し純なる愛のみより迸り出でし行為が最も深い意義を有っていることを後から発見する場合が多い。キリストの最も喜び給いしことは彼を愛することであり、キリストに対して最も意義深い行為は彼を愛する行為であることを我らはマリヤの行為によりて学ぶことができる。
9-6-ハ ユダ、イエスを付さんとす 26:14 - 26:16(マコ14:10-11) (ルカ22:3-6)
26章14節 ここに十二弟子の一人イスカリオテのユダといふ者、祭司長らの許にゆきて言ふ[引照]
口語訳 | 時に、十二弟子のひとりイスカリオテのユダという者が、祭司長たちのところに行って |
塚本訳 | そのあと、イスカリオテのユダという十二人の(弟子の)一人が大祭司連の所に行って、 |
前田訳 | そのとき、イスカリオテのユダといわれる十二人のひとりが大祭司のところへ出かけて、いわく、 |
新共同 | そのとき、十二人の一人で、イスカリオテのユダという者が、祭司長たちのところへ行き、 |
NIV | Then one of the Twelve--the one called Judas Iscariot--went to the chief priests |
註解: この時よりユダはイエスを付さんとした。十二弟子の一人ともいうべき者すらかかる罪に陥ることを見るならば、我らは一層戒心することが必要である。蓋し、サタンは常に我らを狙い、最も重大な瞬間において我らを捕えて罪を犯すに至らしむるが故である。ゆえに我らに一瞬間の油断もあってはならない。
26章15節 『なんぢらに彼を付さば、何ほど我に與へんとするか』彼ら銀三十を量り出せり。[引照]
口語訳 | 言った、「彼をあなたがたに引き渡せば、いくらくださいますか」。すると、彼らは銀貨三十枚を彼に支払った。 |
塚本訳 | 「いくらくれますか、あの男をあなた達に売ってもいいが」と言った。“彼らは(シケル)銀貨三十枚[六万円]を払い渡した。 |
前田訳 | 「いくらくれますか、わたしが彼をあなた方に引き渡しましょう」と。彼らは銀貨三十を払った。 |
新共同 | 「あの男をあなたたちに引き渡せば、幾らくれますか」と言った。そこで、彼らは銀貨三十枚を支払うことにした。 |
NIV | and asked, "What are you willing to give me if I hand him over to you?" So they counted out for him thirty silver coins. |
註解: 銀三十は奴隷の代価であった(出21:32)。この事実はゼカ11:12の預言が実現したのである。ユダは既にイエスに従うことの自己に何らの利益を与えざるを思い、かつ6−13節におけるごとく特にイエスに叱責せられしことを恨み、イエスを離れ去らんと決心したのであろう。既にこの決心をした以上銀三十はたとい少額であっても彼はこれを得んとしたのであろう。多くの註解家の試るごとく、僅か銀三十を得んためにイエスを付したのであると解する時には、貪慾なるユダがあまりに少額のために動かされしこととなりて不可解であるけれども、むしろユダがイエスを棄てし原因は、彼に従ってメシヤの国における高貴権勢の地位を占めんとする野心が絶望に帰したからであって、銀三十は俗にいう「行きがけの駄賃」と見るならば解釈上の困難は除かれるであろう。従ってこの銀三十より推測せるユダに関する種々の異なれる推測は、根拠なきものとなるであろう。
辞解
[銀三十] 三十シケルで、一シケルは一円三十銭程に当たる。
26章16節 ユダこの時よりイエスを付さんと好き機を窺ふ。[引照]
口語訳 | その時から、ユダはイエスを引きわたそうと、機会をねらっていた。 |
塚本訳 | この時からユダは、イエスを引き渡すよい機会をねらっていた。 |
前田訳 | 彼はそのときからイエスを引き渡すによい折をうかがっていた。 |
新共同 | そのときから、ユダはイエスを引き渡そうと、良い機会をねらっていた。 |
NIV | From then on Judas watched for an opportunity to hand him over. |
註解: ヨハ13:2、ヨハ13:27とルカ22:3等を比較すれば、悪魔が彼に入りし時刻の些細の差があるけれども、勿論かかることを精確に時刻をもって見るべきものではない。
要義 [イスカリオテのユダと我ら]我らもし自己の安心、自己の思想の満足等、すべて自己の欲望を充さんがためにイエスに行くならば、必ず失望して彼を棄てるであろう。そしてユダのごとく或は金銭上、或はその他の最も誘われ易き方面に誘われて行くであろう。我らはただ自己の罪の赦を受けんがためにイエスに行き、彼に仕えんがために彼に従わなければならぬ。一旦キリスト教に入りて後にこれを離れて他に自己の利益となり、自己の要求を満足せしむべき方面に嚮い、かえってキリスト教に向って悪声を放つに至るものあるは、このユダと同一の心理である。我らもし自己中心の立場においてイエスに来るならば、いかなる機会にこのユダと同一の行動に出でないとも限らないのであって、我らは各自、自己の中よりこのユダの姿を逐い出さなければならない。
9-6-ニ 最後の晩餐 26:17 - 26:30(マコ14:12-26) (ルカ22:7-20、39)
26章17節 除酵祭の初の日、弟子たちイエスに來りて言ふ『過越の食をなし給ふために、何處に我らが備ふる事を望み給ふか』[引照]
口語訳 | さて、除酵祭の第一日に、弟子たちはイエスのもとにきて言った、「過越の食事をなさるために、わたしたちはどこに用意をしたらよいでしょうか」。 |
塚本訳 | 種なしパンの祭の初めの日(の朝)、弟子たちがイエスの所に来て言った、「どこで過越のお食事の支度をしましょうか。」 |
前田訳 | 種なしパンの祭りの初日に弟子たちがイエスのところへ来て行った、「どこで過越のお食事を用意しましょうか」と。 |
新共同 | 除酵祭の第一日に、弟子たちがイエスのところに来て、「どこに、過越の食事をなさる用意をいたしましょうか」と言った。 |
NIV | On the first day of the Feast of Unleavened Bread, the disciples came to Jesus and asked, "Where do you want us to make preparations for you to eat the Passover?" |
註解: この日は木曜日でニサンの月の十四日であった、イエスは律法の命ずる処を従順に守り給うたことを見ることができる。「過越の食をなす」原語「過越を食す」で過越の小羊を食う意味。
26章18節 イエス言ひたまふ『都にゆき、某のもとに到りて「師いふ、わが時近づけり。われ弟子たちと共に過越を汝の家にて守らん」と言へ』[引照]
口語訳 | イエスは言われた、「市内にはいり、かねて話してある人の所に行って言いなさい、『先生が、わたしの時が近づいた、あなたの家で弟子たちと一緒に過越を守ろうと、言っておられます』」。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「都のだれそれの所まで行って、『わたしの時は近づいた。あなたの所で弟子たちと一しょに過越の食事をまもる、と先生が言われる』と言いなさい。」 |
前田訳 | 彼はいわれた、「町のだれそれのところへ行っていえ、先生が、『わが時は近い、あなたのところで弟子たちと過越をしよう』といわれる」と。 |
新共同 | イエスは言われた。「都のあの人のところに行ってこう言いなさい。『先生が、「わたしの時が近づいた。お宅で弟子たちと一緒に過越の食事をする」と言っています。』」 |
NIV | He replied, "Go into the city to a certain man and tell him, `The Teacher says: My appointed time is near. I am going to celebrate the Passover with my disciples at your house.'" |
註解: 「都」はエルサレムであってこの時イエスは未だベタニヤに居給うた(6節)。「某」は何らかの理由でマタイがその名を記さなかったのであろう。「我が時」はイエスの死すべき時を指す。イエスはこの晩餐が彼の地上における最後のものであることを知り給うた。マコ14:13。ルカ22:7にはこの物語の奇跡的方面が一層詳細に記されている。
26章19節 弟子たちイエスの命じ給ひし如くして、過越の備をなせり。[引照]
口語訳 | 弟子たちはイエスが命じられたとおりにして、過越の用意をした。 |
塚本訳 | 弟子たちはイエスに命じられたとおりにして、過越の食事の支度をした。 |
前田訳 | 弟子たちはイエスが命じられたようにして過越の用意をした。 |
新共同 | 弟子たちは、イエスに命じられたとおりにして、過越の食事を準備した。 |
NIV | So the disciples did as Jesus had directed them and prepared the Passover. |
26章20節 日暮れて十二弟子とともに席に就きて、[引照]
口語訳 | 夕方になって、イエスは十二弟子と一緒に食事の席につかれた。 |
塚本訳 | 夕方になると、イエスは十二人の弟子たちをつれて席につかれた。 |
前田訳 | 夕になると、彼は十二人と食事につかれた。 |
新共同 | 夕方になると、イエスは十二人と一緒に食事の席に着かれた。 |
NIV | When evening came, Jesus was reclining at the table with the Twelve. |
註解: イエスは家長、弟子は家族のごとき資格をもって彼らは過越の食をとった。
26章21節 食するとき言ひ給ふ『まことに汝らに告ぐ、汝らの中の一人われを賣らん』[引照]
口語訳 | そして、一同が食事をしているとき言われた、「特にあなたがたに言っておくが、あなたがたのうちのひとりが、わたしを裏切ろうとしている」。 |
塚本訳 | 彼らが食事をしているとき、言われた、「アーメン、わたしは言う、あなた達のうちの一人が、わたしを(敵に)売ろうとしている!」 |
前田訳 | 彼らの食事中いわれた、「本当にいう、あなた方のひとりがわたしを引き渡そう」と。 |
新共同 | 一同が食事をしているとき、イエスは言われた。「はっきり言っておくが、あなたがたのうちの一人がわたしを裏切ろうとしている。」 |
NIV | And while they were eating, he said, "I tell you the truth, one of you will betray me." |
註解: イエスは既にその死を予見し給うのは勿論、その死に至るべき順序をも予感し給うた。弟子たちは勿論これを知ることができない。この出来事の前後には神秘的なる雲霧がイエスの周囲にとざされていた。
26章22節 弟子たち甚く憂ひて、おのおの『主よ、我なるか』と言ひいでしに、[引照]
口語訳 | 弟子たちは非常に心配して、つぎつぎに「主よ、まさか、わたしではないでしょう」と言い出した。 |
塚本訳 | (これを聞くと)弟子たちはすっかり悲しくなって、「主よ、わたしではないでしょう!」(「わたしではないでしょう!」)と、ひとりびとりイエスに言い始めた。 |
前田訳 | 彼らはたいそう悲しんでひとりひとりいいはじめた、「主よ、わたしのことですか」と。 |
新共同 | 弟子たちは非常に心を痛めて、「主よ、まさかわたしのことでは」と代わる代わる言い始めた。 |
NIV | They were very sad and began to say to him one after the other, "Surely not I, Lord?" |
註解: 何人も「自分だけは大丈夫そんなことはしない」といい得る者はない。人はかかる高慢なる考えを起す時かえって失敗に陥る。弟子たちが「我なるか」と甚く憂いて問うたのはまことに謙遜にして正しき態度である。
26章23節 答へて言ひたまふ『我とともに手を鉢に入るる者われを賣らん。[引照]
口語訳 | イエスは答えて言われた、「わたしと一緒に同じ鉢に手を入れている者が、わたしを裏切ろうとしている。 |
塚本訳 | イエスは答えられた、「わたしと一しょに同じ鉢から食べている者、それがわたしを売る。 |
前田訳 | 彼は答えられた、「わたしとともに手を鉢に入れて食べているものがわたしを引き渡そう。 |
新共同 | イエスはお答えになった。「わたしと一緒に手で鉢に食べ物を浸した者が、わたしを裏切る。 |
NIV | Jesus replied, "The one who has dipped his hand into the bowl with me will betray me. |
註解: ユダヤ地方の食事においては醤油のごときものを皿に入れ二三人共同にその中にパンを浸して食事をするの習慣があった、ゆえにここでは我と共に現に食事をしている者との意味(Z0)。或は丁度イエスと同時に鉢に手を入れし者と解する人もある。ヨハ13:26は更に一層この事実を限定している。
26章24節 人の子は己に就きて録されたる如く逝くなり。[引照]
口語訳 | たしかに人の子は、自分について書いてあるとおりに去って行く。しかし、人の子を裏切るその人は、わざわいである。その人は生れなかった方が、彼のためによかったであろう」。 |
塚本訳 | 人の子(わたし)は聖書に書いてあるとおりに死んでゆく。だが人の子を売るその人は、ああかわいそうだ!生まれなかった方がよっぽど仕合わせであった。」 |
前田訳 | 人の子は聖書にあるとおりに去り行く。わざわいなのは人の子を引き渡すその人!その人は生まれなければよかったのに」と。 |
新共同 | 人の子は、聖書に書いてあるとおりに、去って行く。だが、人の子を裏切るその者は不幸だ。生まれなかった方が、その者のためによかった。」 |
NIV | The Son of Man will go just as it is written about him. But woe to that man who betrays the Son of Man! It would be better for him if he had not been born." |
註解: 「逝く」は原語は「去り行く」意味であって死ぬという意味はない。即ちキリストは己につきて預言せられしごとく苦難を経て栄光に入り父の御許に行くことに定まっておりこれを人の計画によりて変更することはできない。
されど人の子を賣る者は禍害なるかな、その人は生れざりし方よかりしものを』
註解: キリストは予定せられしごとき方法をもって死を遂げ給うべきであるけれども、彼を売る者の罪はそれだから軽いという訳には行かない。神の子キリストを売るの罪は、人間の犯し得る最大の罪であってあたかも国民として皇太子を敵に売渡すがごとき大罪である。かかる罪を犯す者は禍である。生れなかったならば遥に幸福であったろう。
辞解
[売る者] 原語「売るその人」であってその人を二度繰り返していることに注意しなければならぬ。
26章25節 イエスを賣るユダ答へて言ふ『ラビ、我なるか』イエス言ひ給ふ『なんぢの言へる如し』[引照]
口語訳 | イエスを裏切ったユダが答えて言った、「先生、まさか、わたしではないでしょう」。イエスは言われた、「いや、あなただ」。 |
塚本訳 | イエスを売るユダが口を出した、「先生、わたしではないでしょう。」彼に言われる、「いや、そうかも知れない。」 |
前田訳 | 彼を引き渡すユダが答えた。「わたしのことですか、先生」と。彼はいわれる、「あなたのいうとおり」と。 |
新共同 | イエスを裏切ろうとしていたユダが口をはさんで、「先生、まさかわたしのことでは」と言うと、イエスは言われた。「それはあなたの言ったことだ。」 |
NIV | Then Judas, the one who would betray him, said, "Surely not I, Rabbi?" Jesus answered, "Yes, it is you." |
註解: この問答はマタイ伝のみにあるのであって他の福音書にはない。少くともこの問答はイエスとユダとの間にのみ行われたとみるべきである、何となれば他の使徒らはこれを知らなかったから(ルカ22:23。ヨハ13:28−29)。この時ユダは席を立ちて去ったのであろう。
26章26節 彼ら食しをる時、イエス、パンをとり、祝してさき、弟子たちに與へて言ひ給ふ[引照]
口語訳 | 一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、祝福してこれをさき、弟子たちに与えて言われた、「取って食べよ、これはわたしのからだである」。 |
塚本訳 | (ユダが立ち去ったあと、)彼らが食事をしているとき、イエスは(いつものように)パンを(手に)取り、(神を)賛美して裂き、弟子たちに渡して言われた、「取って食べなさい、これはわたしの体である。」 |
前田訳 | 食事中イエスはパンを取り祝福して裂き、弟子たちに与えていわれた、「取ってお食べ。これはわが体である」と。 |
新共同 | 一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、賛美の祈りを唱えて、それを裂き、弟子たちに与えながら言われた。「取って食べなさい。これはわたしの体である。」 |
NIV | While they were eating, Jesus took bread, gave thanks and broke it, and gave it to his disciples, saying, "Take and eat; this is my body." |
註解: 過越の食事が余程進行してから後26−29節の特別の御言をイエスが述べ給いしことが、その後の聖餐式の起源となった、しかしこれに関する最も古き記事はTコリ11:23−26である。
辞解
[祝し] 神に感謝しその祝福を祈り
『取りて食へ、これは我が體なり』
註解: イエスはパンを割くことによりてその死を示し給い、これを食うことによりて人類の罪のために死に給うイエスを完全に受けて、これを自分のものとなすべきことを教え給う(ヨハ6:51以下)。
26章27節 また酒杯をとりて謝し、彼らに與へて言ひ給ふ『なんぢら皆この酒杯より飮め。[引照]
口語訳 | また杯を取り、感謝して彼らに与えて言われた、「みな、この杯から飲め。 |
塚本訳 | また杯を取り、(神に)感謝したのち、彼らに渡して言われた、「皆この杯から飲みなさい。 |
前田訳 | そして、杯を取り、感謝して彼らに与えていわれた、「皆この杯からお飲み。 |
新共同 | また、杯を取り、感謝の祈りを唱え、彼らに渡して言われた。「皆、この杯から飲みなさい。 |
NIV | Then he took the cup, gave thanks and offered it to them, saying, "Drink from it, all of you. |
26章28節 これは契約のわが血なり、多くの人のために、罪の赦を得させんとて流す所のものなり。[引照]
口語訳 | これは、罪のゆるしを得させるようにと、多くの人のために流すわたしの契約の血である。 |
塚本訳 | これは多くの人の罪を赦されるために流す、わたしの“約束の血”であるから。 |
前田訳 | これはわが契約の血、多くの人の罪のゆるしのために流すもの。 |
新共同 | これは、罪が赦されるように、多くの人のために流されるわたしの血、契約の血である。 |
NIV | This is my blood of the covenant, which is poured out for many for the forgiveness of sins. |
註解: キリストはまさに十字架にその血を流さんとし給う処であって、これは全人類の罪の贖のためであった。而してこの血を飲む者、換言すればキリストの贖を信じてキリストを受け、その生命を受くる者はこの罪の赦しを自分のものとすることができるのである。而してこの血はモーセがシナイ山においてイスラエルの民にそそげる契約の血(出24:8)と同じく、神と人との契約の印となれる血であって、前者は旧き契約であって人は律法を遵守することによりて救われることの約束であり、後者は新しき契約(新約)であって(Tコリ11:25)、キリストを信ずることによりて功なくして義とされることの約束である。モーセの場合には血をそそいだに過ぎなかったけれどもイエスはこれを飲むことを命じ給うた、前者は外部より与えられる律法であり、後者は内部より更生する新生命である。
26章29節 われ汝らに告ぐ、わが父の國にて新しきものを汝らと共に飮む日までは、われ今より後この葡萄の果より成るものを飮まじ』[引照]
口語訳 | あなたがたに言っておく。わたしの父の国であなたがたと共に、新しく飲むその日までは、わたしは今後決して、ぶどうの実から造ったものを飲むことをしない」。 |
塚本訳 | しかしわたしは言う、わたしの父上の国で、あなた達と一しょに新しいのを飲むその日まで、わたしは今後決して、この、葡萄の木から出来たものを飲まない。」 |
前田訳 | わたしはいいおく、わが父の国であなた方とともに新しいのを飲むその日まで、わたしはこれから決してこのぶどうの実のものを飲むまい」と。 |
新共同 | 言っておくが、わたしの父の国であなたがたと共に新たに飲むその日まで、今後ぶどうの実から作ったものを飲むことは決してあるまい。」 |
NIV | I tell you, I will not drink of this fruit of the vine from now on until that day when I drink it anew with you in my Father's kingdom." |
註解: キリストが弟子たちと共にパンを食し葡萄酒を飲み給うことは、この世においてはこれが終りであった。而して彼が再び来給いて、すべてのサタンの力を亡ぼし、国を父なる神に付し給う時(Tコリ15:24)に復活の弟子たちと共に新なる葡萄酒を飲み給う時までは、もはや再び葡萄酒を飲み給わないであろう。即ちこれが彼にとっての最後であって、その臨終が近付き彼の再臨の時までこのことが再び繰返されないことを示し給うた。ゆえに弟子たちはこの以後常にこの主の晩餐の式を繰返し「主の死を示してその来りたまふ時にまで及ぶ」(Tコリ11:26)のである。ゆえに聖餐式はキリスト昇天より再臨までの間のものである。
26章30節 彼ら讃美を歌ひて後オリブ山に出でゆく。[引照]
口語訳 | 彼らは、さんびを歌った後、オリブ山へ出かけて行った。 |
塚本訳 | (食事がすむと、)みなで讃美歌をうたったのち、オリブ山へ出かけた。(もう真夜中すぎであった。) |
前田訳 | 彼らは讃美歌をうたってからオリブ山へと出かけた。 |
新共同 | 一同は賛美の歌をうたってから、オリーブ山へ出かけた。 |
NIV | When they had sung a hymn, they went out to the Mount of Olives. |
註解: 詩篇113乃至118篇を二部に分ちて前半(113−114)を過越の食の途中に後半(115−118)をその終りに歌う習慣であった、これをハレルと称していた。
要義1 [過越の祭について] (出12:1以下参照)エホバ神、モーセをしていよいよ最後にイスラエルをエジプトより導き出さしめんとし給うとき、エホバは王パロ以下全エジプトの家庭の長子をことごとく撃ち給い、家畜の初子にまで及んだ。唯イスラエル人のみはエホバの命に従い「疵なき当歳の牡の羔羊」(キリストの型)を屠り、その血を門口の両柱と鴨居とに塗り置きしため、エホバは血を見てその家の前を「過越し」給い、イスラエルの長子を救い給うた。これより後ユダヤ人は毎年これを記念せんがためにニサンの月の十四日に過越の羊を食し十五日より七日間この過越の祭を行って来たのである。
その過越の祭の最初の晩に過越の食を共にする習慣があった。即ち夕刻宮において屠られし羔羊又は犢を闇暗のとざす頃に家々に持ち帰り十人以上の人々をもってこれを食うのである。即ち初めに家父は葡萄酒の杯を取り感謝の祈をもってこれを飲みてこれを会衆に回わし、次に過越の羔羊の焼きたるもの及び付属の食物亞にパンが供えられ、第二の酒杯が一巡して後家父は同じくパンを感謝をもって割き、「これ我らの先祖がエジプトにおいて食せる悩みのパンなり」と言いて会衆に渡し、次に同様にして羔羊を食する。讃美は第二の酒杯の前と最後の酒杯の後とに歌われ、始めに詩113、114篇、後には115−118篇を歌う。この過越の祭がキリストの型であった。屠られる羔羊は十字架上のキリストであり(Tコリ5:7)その葡萄酒はキリストの血である。あたかもイスラエルがパロの束縛より放たれてエジプトを出づるがごとくに、キリスト者は罪の束縛より放たれて神の国に入る。このことを表徴せしものが聖餐式である。
要義2 [聖餐式について] 聖餐式に与ることによりて、我らのために肉を割き血を流して、御自身を我らに与え給えるキリストを記念することができるのであって、キリストによりて罪を贖われ救に入れられしキリスト者にとりては、その最も愛し奉るキリストを追憶し、その再び来り給うを待つことほどその心をよろこばすものはない。ゆえに聖餐式は単にこれを一片の儀式たらしめずして、心よりキリストを記念しつつこれを行うことによってその真の意義を発揮するのである。信仰により心よりキリストの体と血とを受くる時、パンと葡萄酒との性質に関する歴史上の多くの論争は無用に帰してしまうのであって(Tコリ11:35の要義参照)、我らはかかる論争の世界を超越して直接にキリストを追憶記念するのが聖餐の真の目的である。「我が記念として之を行へ」(Tコリ11:24、25)なる命令は福音書にこれを見出すことができない(ルカ22:14−23の付記参照)。けれどもイエスが聖餐を過越の食に対立すべきものたらしめ給いし意味は、明らかにこれを感得し得るのであって、この意味においてイエスは無言の命令を発し給えるものと解することができる。ただしこの命令は、これが形式的反覆を命じ給えるものにあらざることは、イエスの全態度よりこれを推定することができる。
9-6-ホ イエス、弟子の躓を預言し給う 26:31 - 26:35(マコ14:27-31) (ルカ22:31-34)
26章31節 ここにイエス弟子たちに言ひ給ふ『今宵なんぢら皆われに就きて躓かん「われ牧羊者を打たん、さらば群の羊散るべし」と録されたるなり。[引照]
口語訳 | そのとき、イエスは弟子たちに言われた、「今夜、あなたがたは皆わたしにつまずくであろう。『わたしは羊飼を打つ。そして、羊の群れは散らされるであろう』と、書いてあるからである。 |
塚本訳 | その時イエスは弟子たちに言われる、「今夜あなた達は一人のこらずわたしにつまずくであろう。(聖書に)“わたしは羊飼いを打つ、羊の群はちりぢりになるであろう”と書いてあるからである。(羊飼はわたし、羊はあなた達である。) |
前田訳 | そのときイエスは彼らにいわれる、「今夜あなた方は皆わたしにつまずこう。聖書にいわく、『われは羊飼いを打とう、すると群れの羊は散らされよう』と。 |
新共同 | そのとき、イエスは弟子たちに言われた。「今夜、あなたがたは皆わたしにつまずく。『わたしは羊飼いを打つ。すると、羊の群れは散ってしまう』/と書いてあるからだ。 |
NIV | Then Jesus told them, "This very night you will all fall away on account of me, for it is written: "`I will strike the shepherd, and the sheep of the flock will be scattered.' |
註解: キリストはこの預言(引照参照)を思い巡らしていかに淋しき予感に打たれ給うたことであろう。これは弟子たちに取ってもまた思いがけなき予告であった。彼らは終までイエスに対し忠実に止まり得るものと確信していた。彼らは人間の肉の弱さを知らなかったのである。
辞解
[なんぢら皆] 文章の首にあり、強き意味を有つ。
26章32節 されど我よみがへりて後、なんぢらに先立ちてガリラヤに往かん』[引照]
口語訳 | しかしわたしは、よみがえってから、あなたがたより先にガリラヤへ行くであろう」。 |
塚本訳 | しかしわたしは復活した後、あなた達より先にガリラヤに行く。(そこでまた会おう。)」 |
前田訳 | しかしわたしがよみがえってのちにわたしはあなた方に先立ってガリラヤへ行こう」。 |
新共同 | しかし、わたしは復活した後、あなたがたより先にガリラヤへ行く。」 |
NIV | But after I have risen, I will go ahead of you into Galilee." |
註解: そこにまた始めのごとく我が羊を牧うであろう。この預言は実現した(マタ28:16以下)。
26章33節 ペテロ答へて言ふ『假令みな汝に就きて躓くとも我はいつまでも躓かじ』[引照]
口語訳 | するとペテロはイエスに答えて言った、「たとい、みんなの者があなたにつまずいても、わたしは決してつまずきません」。 |
塚本訳 | するとペテロは答えた、「仰せのとおり皆があなたにつまずいても、このわたしは断じてつまずきません。」 |
前田訳 | ペテロは答えて彼にいう、「たとえ皆があなたにつまずいてもわたしは決してつまずきますまい」と。 |
新共同 | するとペトロが、「たとえ、みんながあなたにつまずいても、わたしは決してつまずきません」と言った。 |
NIV | Peter replied, "Even if all fall away on account of you, I never will." |
註解: 我は罪を犯さなくなったと言い得る者は一人もない。高慢と軽率がペテロをしてこの失敗を為さしめたのである。
26章34節 イエス言ひ給ふ『まことに汝に告ぐ、こよひ鷄鳴く前に、なんぢ三たび我を否むベし』[引照]
口語訳 | イエスは言われた、「よくあなたに言っておく。今夜、鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」。 |
塚本訳 | イエスはペテロに言われた、「アーメン、わたしは言う、今夜、鶏が鳴く前に、三度、あなたはわたしを知らないと言う。」 |
前田訳 | イエスは彼にいわれる、「本当にいう、今夜にわとりが鳴く前に、三たびあなたはわたしを知らないといおう」と。 |
新共同 | イエスは言われた。「はっきり言っておく。あなたは今夜、鶏が鳴く前に、三度わたしのことを知らないと言うだろう。」 |
NIV | "I tell you the truth," Jesus answered, "this very night, before the rooster crows, you will disown me three times." |
註解: 我らが我ら自身を知るよりもよく主は我らを知り給う。我らのいかなるものなりやは我ら自ら考うるよりも更に確実に聖霊によりて聖書の中に示されている。ペテロの断言と決心に反して彼に関するこの預言は遂に実現した(マタ26:75)。
26章35節 ペテロ言ふ『我なんぢと共に死ぬべき事ありとも汝を否まず』弟子たち皆かく言へり。[引照]
口語訳 | ペテロは言った、「たといあなたと一緒に死なねばならなくなっても、あなたを知らないなどとは、決して申しません」。弟子たちもみな同じように言った。 |
塚本訳 | ペテロが言う、「たとえご一しょに死なねばならなくても、あなたを知らないなどとは、決して申しません。」(ほかの)弟子たちも皆、口をそろえてそう言った。 |
前田訳 | ペテロは彼にいう、「たとえあなたとともに死なねばならぬとも、決してあなたを知らぬとはいいますまい」。すべての弟子も同じようにいった。 |
新共同 | ペトロは、「たとえ、御一緒に死なねばならなくなっても、あなたのことを知らないなどとは決して申しません」と言った。弟子たちも皆、同じように言った。 |
NIV | But Peter declared, "Even if I have to die with you, I will never disown you." And all the other disciples said the same. |
註解: 弟子たちの決心は真面目で且つ堅かった。しかし肉による決心はサタンに敗られ易い。後に弟子たちの上に聖霊が注がれるに及んで(使2:1以下)彼らは新に生れ更り、主イエスを否まずして殉教の死を遂ぐることを得るに至った(ヨハ21:20)。
9-6-ヘ ゲッセマネの祈り 26:36 - 26:46(マコ14:32-42) (ルカ22:40-46)
26章36節 ここにイエス彼らと共にゲツセマネといふ處にいたりて、弟子たちに言ひ給ふ『わが彼處にゆきて祈る間、なんぢら此處に坐せよ』[引照]
口語訳 | それから、イエスは彼らと一緒に、ゲツセマネという所へ行かれた。そして弟子たちに言われた、「わたしが向こうへ行って祈っている間、ここにすわっていなさい」。 |
塚本訳 | ほどなくイエスは弟子たちと一しょに(オリブ山の麓の)ゲッセマネという地所に着くと、弟子たちに言われる、「わたしがあちらへ行って祈っている間、ここに坐って(待って)おれ。」 |
前田訳 | それからイエスは弟子たちとゲツセマネというところに来て、彼らにいわれる、「わたしがあそこへ行って祈る間ここにすわっていなさい」と。 |
新共同 | それから、イエスは弟子たちと一緒にゲツセマネという所に来て、「わたしが向こうへ行って祈っている間、ここに座っていなさい」と言われた。 |
NIV | Then Jesus went with his disciples to a place called Gethsemane, and he said to them, "Sit here while I go over there and pray." |
註解: 「此處に坐せよ」は最も容易なる命令であった。次にイエスは「我と共に目を覺ましをれ」(38節)と命じ給い、最後に「目を覺まし且つ祈れ」(41節)と命じ給うた。イエスの感情の高潮に達するに従い、弟子たちに対する要求も益々切になってきた。
辞解
[ゲツセマネ] ケデロンの小川の東、オリブ山の麓なる小園であった(ヨハ18:1)。この名称は多分「搾油所」を意味するらしい。
26章37節 かくてペテロとゼベダイの子二人とを伴ひゆき、憂ひ悲しみ出でて言ひ給ふ、[引照]
口語訳 | そしてペテロとゼベダイの子ふたりとを連れて行かれたが、悲しみを催しまた悩みはじめられた。 |
塚本訳 | そしてペテロとゼベダイの子二人(だけ)を連れて(奥の方へ)ゆかれると、(急に)悲しみおののき始められた。 |
前田訳 | そして、ペテロとゼベダイのふたりの子を伴ううちに悲しみなやみはじめられた。 |
新共同 | ペトロおよびゼベダイの子二人を伴われたが、そのとき、悲しみもだえ始められた。 |
NIV | He took Peter and the two sons of Zebedee along with him, and he began to be sorrowful and troubled. |
註解: 「悲しみ出でて」は原語「悲しみ始めて」であって、この時よりイエスはその受難の死につきて苦悶し始め給うた。その死の肉体的苦痛は勿論であるがそれよりも更に一層苦痛であったのは、イエスが人類の罪を負うて自ら罪人となり(Uコリ5:21)神より詛わるものとなり(ガラ3:13)て、神の御顔を見失い給うことであった。彼は他のいかなる苦痛にも優りてこの苦痛に堪え難かった。
26章38節 『わが心いたく憂ひて死ぬばかりなり。汝ら此處に止りて我と共に目を覺しをれ』[引照]
口語訳 | そのとき、彼らに言われた、「わたしは悲しみのあまり死ぬほどである。ここに待っていて、わたしと一緒に目をさましていなさい」。 |
塚本訳 | それから彼らに言われる、「“心がめいって”“死にたいくらいだ。”ここをはなれずに、わたしと一しょに目を覚ましていてくれ。」 |
前田訳 | そして彼らにいわれる、「わが心は悲しみをこえて死ぬほどである。ここにいて共に目覚めていよ」。 |
新共同 | そして、彼らに言われた。「わたしは死ぬばかりに悲しい。ここを離れず、わたしと共に目を覚ましていなさい。」 |
NIV | Then he said to them, "My soul is overwhelmed with sorrow to the point of death. Stay here and keep watch with me." |
註解: イエスの憂いはただ彼独りこれを知っていた。何人も彼とその悲しみを共にし得ざる性質のものであった。ただイエスはその愛する弟子たちが彼と共に目を覚しおり、その師に降り掛らんとする大事を幾分にても感得することを望み給うた。
26章39節 少し進みゆきて、平伏し祈りて言ひ給ふ『わが父よ、もし得べくば此の酒杯を我より過ぎ去らせ給へ。[引照]
口語訳 | そして少し進んで行き、うつぶしになり、祈って言われた、「わが父よ、もしできることでしたらどうか、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。しかし、わたしの思いのままにではなく、みこころのままになさって下さい」。 |
塚本訳 | そしてなお少し(奥に)進んでいって、俯けに倒れ、祈って言われた、「お父様、出来ることなら、どうかこの杯がわたしの前を通りすぎますように。しかし、わたしの願いどおりでなく、お心のとおりになればよいのです。」 |
前田訳 | そして少し進んでうつむけに伏し、祈っていわれる、「わが父上、できることならこの杯がわたしを通りすぎますように。しかしわが願いのままでなく、み心のままに」と。 |
新共同 | 少し進んで行って、うつ伏せになり、祈って言われた。「父よ、できることなら、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。しかし、わたしの願いどおりではなく、御心のままに。」 |
NIV | Going a little farther, he fell with his face to the ground and prayed, "My Father, if it is possible, may this cup be taken from me. Yet not as I will, but as you will." |
註解: 平伏して祈ることは最大の謙遜の姿である。「もし得べくは」といいてイエスは父の御意に対する従順の態度を示し給うた。「酒杯」は苦難と死とを示す。イエスは完全に我らと同じ肉体を有つ人間に在し給うた。ゆえに苦難と死はイエスにとっても同じ苦杯であった。のみならずイエスの贖罪の死は彼の霊的存在の全否定であり、全く父より離れるの苦痛であった。
されど我が意の儘にとにはあらず、御意のままに爲し給へ』
註解: イエスの父に対する希願そのものが既に充分なる謙遜の表われであった。かかる絶大なる苦難に際してその希願のいかに従順なりしことよ。しかるにイエスはこの従順なる希願より進んでここに絶対服従の態度に出で給うた。いかにつらくとも苦しくとも我が意のままになることは決して望ます、ただ御意のままに為し給えと祈り給うた。己の苦痛を忍びても父の御意の成らんことを祈ること、これ父に対する完全なる服従である。
26章40節 弟子たちの許にきたり、その眠れるを見てペテロに言ひ給ふ『なんぢら斯く一時も我と共に目を覺し居ること能はぬか。[引照]
口語訳 | それから、弟子たちの所にきてごらんになると、彼らが眠っていたので、ペテロに言われた、「あなたがたはそんなに、ひと時もわたしと一緒に目をさましていることが、できなかったのか。 |
塚本訳 | やがて弟子たちの所に来て、彼らが眠っているのを見ると、ペテロに言われる、「あなた達、そんなに、たった一時間もわたしと一しょに目を覚ましておられないのか。 |
前田訳 | 弟子たちのところへ来て眠っているのを見、ペテロにいわれる、「そのようにあなた方は一時間もわたしとともに目覚めていられなかったのか。 |
新共同 | それから、弟子たちのところへ戻って御覧になると、彼らは眠っていたので、ペトロに言われた。「あなたがたはこのように、わずか一時もわたしと共に目を覚ましていられなかったのか。 |
NIV | Then he returned to his disciples and found them sleeping. "Could you men not keep watch with me for one hour?" he asked Peter. |
註解: 弟子たちも勿論憂いていた(ルカ22:45)。しかし彼らの憂いはイエスのそれに比すべくもなかった。イエスの祈が長引くにつれて彼らは疲労のために眠りに落ちた。これに対しイエスは、尚も目を覚ましおることを要求し給う。神が人類を愛してこれを救わんがために苦しみ給うのに対し、我らは彼と共にいかに苦しんでも足らない筈である。然るに人類が充分にその苦悶を感じ得ないのは、この弟子たちがイエスの苦悶を感じ得なかったと同じである。人間の罪性のいかに深いかを思うべきである。
26章41節 誘惑に陷らぬやう、目を覺しかつ祈れ。實に心は熱すれども肉體よわきなり』[引照]
口語訳 | 誘惑に陥らないように、目をさまして祈っていなさい。心は熱しているが、肉体が弱いのである」。 |
塚本訳 | 目を覚まして、誘惑に陥らないように祈っていなさい。心ははやっても、体が弱いのだから。」 |
前田訳 | 目覚めて祈れ、試みにあわないように。心ははやるが体は弱い」と。 |
新共同 | 誘惑に陥らぬよう、目を覚まして祈っていなさい。心は燃えても、肉体は弱い。」 |
NIV | "Watch and pray so that you will not fall into temptation. The spirit is willing, but the body is weak." |
註解: 眠っている間にサタンは我らの心に悪しき種を播き我らを誘惑する(マタ13:25)。我らの心が緊張を欠く時最もサタンに乗ぜられ易い時である。心はたとい熱していてすら肉体よわきために眠りに陥るのである。ゆえに目を覚まして祈ることが必要である。人間には心と肉との戦いがある。目を覚すことと祈りとによりて肉に打勝たなければならぬ。イエスはその絶大の苦悶の中にもなお弟子たちの霊を護ることを忘れ給わなかった。
26章42節 また二度ゆき祈りて言ひ給ふ『わが父よ、この酒杯もし我飮までは過ぎ去りがたくば、御意のままに成し給へ』[引照]
口語訳 | また二度目に行って、祈って言われた、「わが父よ、この杯を飲むほかに道がないのでしたら、どうか、みこころが行われますように」。 |
塚本訳 | また二度目に向こうへ行って、祈られた、「お父様、どうしてもわたしが飲まねば通りすぎない杯ならば、どうかお心のままになさってください。」 |
前田訳 | 二度目に彼らを離れて祈られた、「わが父上、もしわたしが飲まねばこれを通りすごすことができませんのなら、あなたのみ心が行なわれますように」と。 |
新共同 | 更に、二度目に向こうへ行って祈られた。「父よ、わたしが飲まないかぎりこの杯が過ぎ去らないのでしたら、あなたの御心が行われますように。」 |
NIV | He went away a second time and prayed, "My Father, if it is not possible for this cup to be taken away unless I drink it, may your will be done." |
註解: この第二の祈りはイエスの絶対の従順の表顕であって「死に至るまで十字架の死に至るまで順ひ給ふ」(ピリ2:8)ことの祈りである。彼の祈りは御意ならばこの酒杯を飲まんことの祈りであった、これによりて彼はますますその十字架に近付き給うた。
26章43節 復きたりて彼らの眠れるを見たまふ、是その目疲れたるなり。[引照]
口語訳 | またきてごらんになると、彼らはまた眠っていた。その目が重くなっていたのである。 |
塚本訳 | また来て見られると、彼らはまたもや眠っていた。(悲しみのために疲れて、)瞼が重かったのである。 |
前田訳 | また来てみると彼らは眠っていた。まぶたが重かったのである。 |
新共同 | 再び戻って御覧になると、弟子たちは眠っていた。ひどく眠かったのである。 |
NIV | When he came back, he again found them sleeping, because their eyes were heavy. |
註解: 夜遅くなっていたので弟子たちの疲労は益々加わったのであろう。一方十二弟子の一人なるユダはイエスを付さんがために頻りに活動しつつあった間にペテロ、ヤコブ、ヨハネ等は眠りに陥っていた。人は神に支配されるか又は悪魔に支配される時、最も強くなることができる。ペテロ以下の無力は我らの肉の姿である。
26章44節 また離れゆきて、三たび同じ言にて祈り給ふ。[引照]
口語訳 | それで彼らをそのままにして、また行って、三度目に同じ言葉で祈られた。 |
塚本訳 | イエスは彼らをのこして、もう一度向こうに行き、また同じ言葉で、三度目に祈られた。 |
前田訳 | 彼らを離れて三度目に祈り、同じことばを繰り返された。 |
新共同 | そこで、彼らを離れ、また向こうへ行って、三度目も同じ言葉で祈られた。 |
NIV | So he left them and went away once more and prayed the third time, saying the same thing. |
註解: 「御意のままに成し給へ」なる祈りは父なる神にも必要であった、もし父なる神がイエスのこの受難に対する憂苦に耐えないのを見給うならば、十字架の上に彼を附け給うことに非常なる苦痛を感じ給うたことであろう。しかるにイエスのこの泰然たる態度を見給いて、その予定し給える人類の救拯を成就し得給うた。イエスはこの祈りにより、自己の苦痛を逃れんことよりも一層切に父の御意に苦痛を与えざらんとし給うたのである。
26章45節 而して弟子たちの許に來りて言ひ給ふ『今は眠りて休め。視よ、時近づけり、人の子は罪人らの手に付さるるなり。[引照]
口語訳 | それから弟子たちの所に帰ってきて、言われた、「まだ眠っているのか、休んでいるのか。見よ、時が迫った。人の子は罪人らの手に渡されるのだ。 |
塚本訳 | それから弟子たちの所に来て、(また眠っているのを見ると)言われる、「もっと眠りたいのか。休みたいのか。そら、人の子が罪人どもの手に渡される時が近づいた。 |
前田訳 | そして弟子たちのところへ来ていわれる、「まだ眠っているのか、休んでいるのか。見よ、時が近づいた。人の子は罪びとの手に渡される。 |
新共同 | それから、弟子たちのところに戻って来て言われた。「あなたがたはまだ眠っている。休んでいる。時が近づいた。人の子は罪人たちの手に引き渡される。 |
NIV | Then he returned to the disciples and said to them, "Are you still sleeping and resting? Look, the hour is near, and the Son of Man is betrayed into the hands of sinners. |
註解: いよいよ罪人らの手に付されることを決心し、この苦杯を父より受け給いて、彼の心はもはや落附いた。弟子たちが目を覚して祈りをもって彼に仕える必要の時刻が過ぎ去った。そこでイエスは間もなく罪人らの手に付されるけれども、それまでの間できるだけ休めよと弟子たちに命じ給うた(Z0)。(これを諧諧謔的にこれからは休みたくとも休めないだろうとの意に解する節もある〔M0〕。)
辞解
[今は] 原語の loipon は「余りの時間は」という意味(Z0)。
26章46節 起きよ、我ら往くべし。視よ、我を賣るもの近づけり』[引照]
口語訳 | 立て、さあ行こう。見よ、わたしを裏切る者が近づいてきた」。 |
塚本訳 | 立て。行こう。見よ、わたしを売る者が近づいてきた!」 |
前田訳 | 起きよ、行こう。見よ、わたしを引き渡すものが近づいた」と。 |
新共同 | 立て、行こう。見よ、わたしを裏切る者が来た。」 |
NIV | Rise, let us go! Here comes my betrayer!" |
註解: 弟子たちに休息を命じ給うや否やユダの近附くを見給いて、止むを得ず彼らを起し給うたこの御言は非常に切迫せる状態を示している。
要義 [ゲッセマネの祈について] なぜにイエスはその近付きつつある死に対して、かくも苦悶し給えるかについては種々の解釈がある。しかし聖書にはイエス御自身の言葉としてはその理由を掲げていない。或はこの苦悶の中にイエスがその恐るべき残酷なる死を予想して苦しみ給えること、即ち完全なる人間として我らと同じ弱さを持ち給えることを示すものと見ることができよう(M0)。しかしながらこれのみをこの苦悶の原因と見るならば、この苦悶は彼としてはあまりに大き過ぎるように思われる。ゆえに予は多くの宗教改革家の解釈と同じくこれは全世界の罪を負いて神より審判かれ、神より離されることの苦痛であったことを思わざるを得ない。主イエスのごとく一瞬間たりとも父よりその目を離し給わず、又父なる神もその愛子としてこれをいつくしみ給える場合、罪人として父より離され審判かれることの苦痛は堪え得なかったことはこれを想像することができる(尚56節要義参照)。
而してこの祈の中心点は「此の杯を我より過ぎ去らせ給へ」よりもむしろ「御意のままに成し給へ」にあると見るべきであって、この絶対の服従がなかったならば、父なる神はその十字架の贖を成就し給うについていかに苦痛を覚え給いしか。おそらく十字架の贖はこの絶対的服従なしに成就できなかったであろう。死に至るまで従わんとするこの祈こそ実に地上において為されし祈の最大なるものであり、人類の祈の範である。而してこれにより人類の歴史は変わった。
9-6-ト イエス捕らわれ給う 26:47 - 26:56(マコ14:43-52) (ルカ22:47-53) (ヨハ18:2-12)
26章47節 なほ語り給ふほどに、視よ、十二弟子の一人なるユダ來る、祭司長・民の長老らより遣されたる大なる群衆、劍と棒とをもちて之に伴ふ。[引照]
口語訳 | そして、イエスがまだ話しておられるうちに、そこに、十二弟子のひとりのユダがきた。また祭司長、民の長老たちから送られた大ぜいの群衆も、剣と棒とを持って彼についてきた。 |
塚本訳 | イエスの言葉がまだ終らぬうちに、見よ、十二人の一人のユダが来た。大祭司連、国の長老から派遣された大勢の人の群が、剣や棍棒を持ってついて来た。 |
前田訳 | まだ彼が話しておられるとき、見よ、十二人のひとりユダが来た。剣や棒を持った多くの群衆がいっしょであった。彼らは大祭司や民の長老につかわされていた。 |
新共同 | イエスがまだ話しておられると、十二人の一人であるユダがやって来た。祭司長たちや民の長老たちの遣わした大勢の群衆も、剣や棒を持って一緒に来た。 |
NIV | While he was still speaking, Judas, one of the Twelve, arrived. With him was a large crowd armed with swords and clubs, sent from the chief priests and the elders of the people. |
註解: 金曜日、ニサンの月の十五日である。イエスを捕えんとするものは神の代表者ともいうべき祭司長や民の代表者なる長老であり、ルカ22:52、その先頭に立ちて来るものはその愛する弟子の一人であった。人類全体の代表として神の子を拝すべき彼らが第一に彼を殺すのを見ても人類の罪の大なることがわかる。人類は神の子を殺して自ら神のものを私有せんとするのである(マタ21:33−41)。かかる罪人らの罪を赦さんがために、自らその罪を負い給うイエスの愛を思い見よ。
26章48節 イエスを賣る者あらかじめ合圖を示して言ふ『わが接吻する者はそれなり、之を捕へよ』[引照]
口語訳 | イエスを裏切った者が、あらかじめ彼らに、「わたしの接吻する者が、その人だ。その人をつかまえろ」と合図をしておいた。 |
塚本訳 | イエスを売る者は、「わたしが接吻するのがその人だ。それを捕えよ」と、(あらかじめ)合図をきめておいた。 |
前田訳 | 彼を引き渡すものが合図していった、「わたしが口づけするのがその人です。彼を捕えなさい」と。 |
新共同 | イエスを裏切ろうとしていたユダは、「わたしが接吻するのが、その人だ。それを捕まえろ」と、前もって合図を決めていた。 |
NIV | Now the betrayer had arranged a signal with them: "The one I kiss is the man; arrest him." |
註解: ユダヤ人は親密なる間柄、又は師弟の間においては、相逢う時も相別れる時も接吻をもってその愛を示し「シャローム」(安かれ)との挨拶の言を交す習慣があった。ロマ16:16。Tコリ16:20等。
26章49節 かくて直ちにイエスに近づき『ラビ、安かれ』といひて接吻したれば、[引照]
口語訳 | 彼はすぐイエスに近寄り、「先生、いかがですか」と言って、イエスに接吻した。 |
塚本訳 | そこでいきなりイエスに近寄って、「先生、御機嫌よう」と言って接吻した。 |
前田訳 | ただちにイエスに近づいて、「ごきげんよう、先生」といって口づけした。 |
新共同 | ユダはすぐイエスに近寄り、「先生、こんばんは」と言って接吻した。 |
NIV | Going at once to Jesus, Judas said, "Greetings, Rabbi!" and kissed him. |
註解: 人は堕落して悪魔の捕囚となる時、いかなる悪事をも為すの勇気が与えられる。十二弟子の一人であったユダも、この時となっては最大の偽善を行いつつその師を付すことを敢てした。表面に接吻しつつ心をもって人を詛い、これを売ることは世の常習である。ユダはこの程度まで堕落したのである。
26章50節 イエス言ひたまふ『友よ、何とて來る』[引照]
口語訳 | しかし、イエスは彼に言われた、「友よ、なんのためにきたのか」。このとき、人々が進み寄って、イエスに手をかけてつかまえた。 |
塚本訳 | イエスはユダに言われた、「友よ、そのために来たのではあるまいが!」その時人々が進み寄って、イエスに手をかけて捕えた。 |
前田訳 | イエスはいわれた、「友よ、そのために来たのか」と。そのとき彼らは近づいてイエスに手をかけて捕えた。 |
新共同 | イエスは、「友よ、しようとしていることをするがよい」と言われた。すると人々は進み寄り、イエスに手をかけて捕らえた。 |
NIV | Jesus replied, "Friend, do what you came for." Then the men stepped forward, seized Jesus and arrested him. |
註解: 「友よ」の原語ヘタイロスhetairos を呼びかけに用いる場合は、相手方に対して不満足の心持を有っている場合である(マタ20:13。マタ22:12。詩41:9)。イエスは彼を裁き給わず、なおも彼の良心に訴え給うた。
このとき人々すすみてイエスに手をかけて捕ふ。
註解: ヨハ18:6によればイエスを捕えんとせる者どもは、イエスの御言によりて一旦地に倒れたとのことである。神の独子に手をかくることにより人類はその罪の絶頂に到達した。
26章51節 視よ、イエスと偕にありし者のひとり、手をのべ劍を拔きて、大祭司の僕をうちて、その耳を切り落せり。[引照]
口語訳 | すると、イエスと一緒にいた者のひとりが、手を伸ばして剣を抜き、そして大祭司の僕に切りかかって、その片耳を切り落した。 |
塚本訳 | すると、見よ、イエスと一しょにいた一人の人が手をのばして剣を抜き、大祭司の下男に切りかかって片耳をそぎ落してしまった。 |
前田訳 | すると見よ、イエスの連れのひとりが手をのべて剣を抜き、大祭司の僕に切りつけてその耳をそいだ。 |
新共同 | そのとき、イエスと一緒にいた者の一人が、手を伸ばして剣を抜き、大祭司の手下に打ちかかって、片方の耳を切り落とした。 |
NIV | With that, one of Jesus' companions reached for his sword, drew it out and struck the servant of the high priest, cutting off his ear. |
註解: これはペテロであった(ヨハ18:10)。三福音書の記されし頃ペテロはなお在世中であったために、ユダヤ人の当局との間に不都合が生じないようにその名を秘したのであろう(M0)。ペテロの態度は師を思うの熱情より出でた行為であった。しかし父の御言に遵うことは一層高き行為であることを思わなければならない。
26章52節 ここにイエス彼に言ひ給ふ『なんぢの劍をもとに收めよ、すべて劍をとる者は劍にて亡ぶるなり。[引照]
口語訳 | そこで、イエスは彼に言われた、「あなたの剣をもとの所におさめなさい。剣をとる者はみな、剣で滅びる。 |
塚本訳 | その時イエスが言われる、「剣を鞘におさめよ。剣による者は皆、剣によって滅びる。 |
前田訳 | するとイエスはいわれる、「なんじの剣をさやにおさめよ。剣をとるものは剣に滅びる。 |
新共同 | そこで、イエスは言われた。「剣をさやに納めなさい。剣を取る者は皆、剣で滅びる。 |
NIV | "Put your sword back in its place," Jesus said to him, "for all who draw the sword will die by the sword. |
註解: 古来劒をもって征服せし英傑にして劒によって倒されなかった例はない。真の勝利は正義の上に立ちて暴力を用いず、正義の力をもって勝つことである。肉体は殺されることありとも正義は必ず勝つ(ヨハ16:33)。
26章53節 我わが父に請ひて、十二軍に餘る御使を今あたへらるること能はずと思ふか。[引照]
口語訳 | それとも、わたしが父に願って、天の使たちを十二軍団以上も、今つかわしていただくことができないと、あなたは思うのか。 |
塚本訳 | それとも、父上にお願いして十二軍団以上の天使を今すぐ送っていただくことが、わたしに出来ないと思うのか。 |
前田訳 | それとも、わが父上に願って十二軍団以上の使いをすぐわたしに送ってもらうことがわたしにできないと思うのか。 |
新共同 | わたしが父にお願いできないとでも思うのか。お願いすれば、父は十二軍団以上の天使を今すぐ送ってくださるであろう。 |
NIV | Do you think I cannot call on my Father, and he will at once put at my disposal more than twelve legions of angels? |
註解: イエスが敵に捕えられ給うのは彼に彼自身を防御する力がなかったからではない。彼もし父に請うならば父は今直にも十二軍にも余る御使の軍勢を遣わし給い、彼の敵を打ち亡ぼし給うであろう。ゆえに勿論ペテロの加勢を必要とするものではない。イエスが敵にその身をまかせ給うのは、これが聖書に示されしごとく父の御意であるからである。
辞解
[十二軍] 一軍(レギオン)は六千人。
26章54節 もし然せば、斯くあるべく録したる聖書はいかで成就すべき』[引照]
口語訳 | しかし、それでは、こうならねばならないと書いてある聖書の言葉は、どうして成就されようか」。 |
塚本訳 | しかしそれでは、かならずこうなる、とある聖書の言葉は、どうして成就するのか。」 |
前田訳 | それならば、かくならねばならぬという聖書はいかに成就するのか」と。 |
新共同 | しかしそれでは、必ずこうなると書かれている聖書の言葉がどうして実現されよう。」 |
NIV | But how then would the Scriptures be fulfilled that say it must happen in this way?" |
註解: 聖書全体がイエスの受難の死の預言であると見ることができる。イエスはこれが父の御意であると信じてこれに服従し給うたのである。ゆえにイエスの死は強制されたのではなく、又敵より陥れられたのでもなく、全くその自由意志よりその生命を捨て給うたのである(ヨハ10:18)。
26章55節 この時イエス群衆に言ひ給ふ『なんぢら強盜に向ふごとく劍と棒とをもち、我を捕へんとて出で來るか。我は日々宮に坐して教へたりしに、汝ら我を捕へざりき。[引照]
口語訳 | そのとき、イエスは群衆に言われた、「あなたがたは強盗にむかうように、剣や棒を持ってわたしを捕えにきたのか。わたしは毎日、宮ですわって教えていたのに、わたしをつかまえはしなかった。 |
塚本訳 | その時イエスは群の人々に言われた、「強盗にでも向かうように、剣や棍棒を持ってつかまえに来たのか。わたしは毎日宮で坐って教えていたのに、捕えずにおいて、(どうして今、こんな真夜中に来たのか。) |
前田訳 | 同時にイエスは群衆にいわれた、「強盗に向かうかのように剣と棒を持ってわたしを捕えに来たのか。日ごと宮にすわって教えたのに、あなた方はわたしを捕えなかった。 |
新共同 | またそのとき、群衆に言われた。「まるで強盗にでも向かうように、剣や棒を持って捕らえに来たのか。わたしは毎日、神殿の境内に座って教えていたのに、あなたたちはわたしを捕らえなかった。 |
NIV | At that time Jesus said to the crowd, "Am I leading a rebellion, that you have come out with swords and clubs to capture me? Every day I sat in the temple courts teaching, and you did not arrest me. |
註解: 今汝らは、汝らを救わんがために宮において教えし我をあたかも強盗のごとくに捕えた。しかしながら我再び来る時はあたかも盗人の夜来るがごとくに来りて汝らを裁くであろう(Tテサ5:1−3)。
26章56節 されどかくの如くなるは、みな預言者たちの書の成就せん爲なり』[引照]
口語訳 | しかし、すべてこうなったのは、預言者たちの書いたことが、成就するためである」。そのとき、弟子たちは皆イエスを見捨てて逃げ去った。 |
塚本訳 | しかしこれはみな、(救世主は罪人のようにあつかわれるという)預言者たちの聖書の言葉が成就するためにおこったのである。」その時弟子たちは皆イエスをすてて逃げた。 |
前田訳 | これはすべて預言者の書物が成就するためにおこったことである」と。そのとき弟子たちはみな彼を見捨てて逃げ去った。 |
新共同 | このすべてのことが起こったのは、預言者たちの書いたことが実現するためである。」このとき、弟子たちは皆、イエスを見捨てて逃げてしまった。 |
NIV | But this has all taken place that the writings of the prophets might be fulfilled." Then all the disciples deserted him and fled. |
註解: これによりてイエスは群衆に向い、己の捕われ給う理由を示し、間接にそのメシヤに在し給うことを教え給うた。
ここに弟子たち皆イエスを棄てて逃げさりぬ。
註解: ヨハ16:32の実現である。この時のイエスの淋しさはいかばかりであったろうか。この時こそイエスは天上天下ただ独りのみとなり給うた。弟子たちすらも皆罪人の群に入り、ただイエス一人全人類の罪を負うてゴルゴタの上に殺され給うた。しかし父の御手が彼の上に下り彼を復活せしめ給うた。我ら父と共なる時、全世界我に敵対するもなおこれに向って勝ち誇ることができる。
要義 [劔をとるものは劍にて滅ぶ]ここに一方真理の上に立ちて他に狡計をも暴力をも用いず、友なく、同志なく、権力も富もなきイエスと、他方狡計と暴力と同志と権力と富とを有する祭司長その他との明らかなる対照が我らの目の前に呈出されているのを見ることができる。而してその勝敗は一見明かであって勝は後者にあることを疑う者はない。しかるに事実はしからずしてイエスは勝者であって今日に至るまで人心を支配し、後者すべてやがて地上より失せてしまった。この真理は今日もなお真理であって、我ら真理の上に立たんとするものは他の何ものにもよらずして唯一人立つの決心を必要とするのである。これ弱きがごとくにして弱からず、ついには最後の勝利者となるのである。
9-6-チ 議会の前のイエス 26:57 - 26:68(マコ14:53-65) (ルカ22:54-71) (ヨハ18:13-16)
26章57節 イエスを捕へたる者ども、學者・長老らの集り居る大祭司カヤパの許に曳きゆく。[引照]
口語訳 | さて、イエスをつかまえた人たちは、大祭司カヤパのところにイエスを連れて行った。そこには律法学者、長老たちが集まっていた。 |
塚本訳 | 人々はイエスを捕らえると、大祭司カヤパの所に引いていった。そこには(前もって最高法院の役人、すなわち大祭司連、)聖書学者、長老たちが集まっていた。 |
前田訳 | イエスを捕えた人々は彼を大祭司カヤパのところへ連れて行った。そこには学者や長老が集まっていた。 |
新共同 | 人々はイエスを捕らえると、大祭司カイアファのところへ連れて行った。そこには、律法学者たちや長老たちが集まっていた。 |
NIV | Those who had arrested Jesus took him to Caiaphas, the high priest, where the teachers of the law and the elders had assembled. |
註解: ヨハ18:12-23にアンナスのことを記してこれを補充している。学者、長老らは衆議所の議員でイエスの捕縛せられて引き来られるのを待っていた。
26章58節 ペテロ遠く離れ、イエスに從ひて大祭司の中庭まで到り、その成行を見んとて、そこに入り下役どもと共に坐せり。[引照]
口語訳 | ペテロは遠くからイエスについて、大祭司の中庭まで行き、そのなりゆきを見とどけるために、中にはいって下役どもと一緒にすわっていた。 |
塚本訳 | ペテロは見えがくれにイエスについて大祭司の官邸まで行き、中(庭)へ入って下役らと一しょに坐っていた、成り行きを見ようとしたのである。 |
前田訳 | ペテロは遠くから彼について大祭司の邸(やしき)に至り、中に入って下役らとともにすわった。結果を見ようとしたのである。 |
新共同 | ペトロは遠く離れてイエスに従い、大祭司の屋敷の中庭まで行き、事の成り行きを見ようと、中に入って、下役たちと一緒に座っていた。 |
NIV | But Peter followed him at a distance, right up to the courtyard of the high priest. He entered and sat down with the guards to see the outcome. |
註解: ペテロは半ば憂い半ば恐れて遠く従った。結局イエスの成行を見届けんとするがその目的であった。下役と共に坐したのは見あらわされないためであった。このペテロの行動は真実と虚偽との混合であった。この二者が混ずる時必ず後者が勝ちを制する。
26章59節 祭司長らと全議會と、イエスを死に定めんとて、いつはりの證據を求めたるに、[引照]
口語訳 | さて、祭司長たちと全議会とは、イエスを死刑にするため、イエスに不利な偽証を求めようとしていた。 |
塚本訳 | 大祭司連をはじめ全最高法院は、イエスを死刑にしようとしてしきりにイエスに不利な偽証をさがした。 |
前田訳 | 大祭司と全法院(サンヘドリン)はイエスを死刑にしようとして彼に不利な偽証を探しつづけた。 |
新共同 | さて、祭司長たちと最高法院の全員は、死刑にしようとしてイエスにとって不利な偽証を求めた。 |
NIV | The chief priests and the whole Sanhedrin were looking for false evidence against Jesus so that they could put him to death. |
26章60節 多くの僞證者いでたれども得ず。[引照]
口語訳 | そこで多くの偽証者が出てきたが、証拠があがらなかった。しかし、最後にふたりの者が出てきて |
塚本訳 | しかし偽証は多く出たが、(証拠は)見つからなかった。最後に二人の者が出て |
前田訳 | 多くの偽証人が出たが証拠は見つからなかった。ついにふたりのものが出ていった、 |
新共同 | 偽証人は何人も現れたが、証拠は得られなかった。最後に二人の者が来て、 |
NIV | But they did not find any, though many false witnesses came forward. Finally two came forward |
註解: 偽りの証を立てるものは、その要求せる刑罰を自ら受けなければならないことが律法に定められていた(申19:19)。この律法を祭司長ら自ら破らんとしているのである。律法によりて神の前に義たらんとする者、教権を握り、正統なる教会に属することをもって神の前に義とされることを信ずる者は、この種の矛盾を敢てして自らこれに心付かず、かえって正しきを行っていると信ずる場合がある。イエスの場合においては祭司長らは死刑に処し得べき証拠(民35:30。申17:6。申19:15)を求めたけれども結局その目的を達することができなかった。
後に二人の者いでて言ふ
26章61節 『この人は「われ神の宮を毀ち三日にて建て得ベし」と云へり』[引照]
口語訳 | 言った、「この人は、わたしは神の宮を打ちこわし、三日の後に建てることができる、と言いました」。 |
塚本訳 | 言った、「この人は『神のお宮をこわして、三日のうちに建てて見せる』と言った。」 |
前田訳 | 「この人は『神の宮をこわして三日のうちに建てうる』といった」と。 |
新共同 | 「この男は、『神の神殿を打ち倒し、三日あれば建てることができる』と言いました」と告げた。 |
NIV | and declared, "This fellow said, `I am able to destroy the temple of God and rebuild it in three days.'" |
註解: 人を死刑に処するには二人の証人を必要とした。この証人の語はイエス御自身の語(ヨハ2:19)とは異なっている。すなわち彼らは有意識か無意識に偽証を為したのである。些細の語句の変更が重大なる結果を引起すことがある。
26章62節 大祭司たちてイエスに言ふ『この人々が汝に對して立つる證據に何をも答へぬか』[引照]
口語訳 | すると、大祭司が立ち上がってイエスに言った、「何も答えないのか。これらの人々があなたに対して不利な証言を申し立てているが、どうなのか」。 |
塚本訳 | そこで大祭司は立ち上がってイエスに言った、「何も答えないのか。この人たちは(あんなに)お前に不利益な証言をしているが、あれはどうだ。」 |
前田訳 | そこで大祭司は立ちあがってイエスにいった、「何も答えないのか、この人たちがおまえに不利な証言をしているのに」と。 |
新共同 | そこで、大祭司は立ち上がり、イエスに言った。「何も答えないのか、この者たちがお前に不利な証言をしているが、どうなのか。」 |
NIV | Then the high priest stood up and said to Jesus, "Are you not going to answer? What is this testimony that these men are bringing against you?" |
註解: この原文を「汝は何も答えざるか、この人々が汝に対して立つる証拠は何ぞや」と二つの疑問として読む説が多い。イエスは彼らの偽証に対して答え給わなかったために、大祭司は心いら立ちてこの質問を発したものであろう。イエスが答え給わなかった理由は、恐らくかかる言葉尻の争を為すべきあまりに荘厳なる瞬間であるからであろう。▲「対して」は原文「反対して」の意。
26章63節 されどイエス默し居給ひたれば、大祭司いふ『われ汝に命ず、活ける神に誓ひて我らに告げよ、汝はキリスト、神の子なるか』[引照]
口語訳 | しかし、イエスは黙っておられた。そこで大祭司は言った、「あなたは神の子キリストなのかどうか、生ける神に誓ってわれわれに答えよ」。 |
塚本訳 | しかしイエスは黙っておられた。大祭司が言った、「生ける神に誓ってわれわれにこたえよ。お前が、神の子救世主か。」 |
前田訳 | しかしイエスは黙っておられた。大祭司は彼にいった、「生ける神に誓って命ずる。答えよ。おまえは神の子キリストか」。 |
新共同 | イエスは黙り続けておられた。大祭司は言った。「生ける神に誓って我々に答えよ。お前は神の子、メシアなのか。」 |
NIV | But Jesus remained silent. The high priest said to him, "I charge you under oath by the living God: Tell us if you are the Christ, the Son of God." |
註解: これが裁判の際に被告を誓わしむる形式であって、これに対する答弁は神に誓えるものと見做された。大祭司がイエスを陥れんとせる要点はイエスが己を神とするや否やの点であった(ヨハ5:18)。人間にして己を神とするものは神を涜すものであって殺されるべきことは当然である。レビ24:16。
26章64節 イエス言ひ給ふ『なんぢの言へる如し。かつ我なんぢらに告ぐ、今より後、なんぢら人の子の全能者の右に坐し、天の雲に乘りて來るを見ん』[引照]
口語訳 | イエスは彼に言われた、「あなたの言うとおりである。しかし、わたしは言っておく。あなたがたは、間もなく、人の子が力ある者の右に座し、天の雲に乗って来るのを見るであろう」。 |
塚本訳 | イエスは(はじめて口を開いて)彼に言われる、「(そう言われるなら)御意見にまかせる。だが、わたしは言う、あなた方は今後“人の子(わたし)が”“大能の(神の)右に坐り、”“天の雲に乗って来るのを”見るであろう。」 |
前田訳 | イエスはいわれる、「仰せのとおり。しかし、わたしはいう、今からのち人の子が大能の神の右にすわって天の雲に乗って来るのをあなた方は見よう」と。 |
新共同 | イエスは言われた。「それは、あなたが言ったことです。しかし、わたしは言っておく。あなたたちはやがて、/人の子が全能の神の右に座り、/天の雲に乗って来るのを見る。」 |
NIV | "Yes, it is as you say," Jesus replied. "But I say to all of you: In the future you will see the Son of Man sitting at the right hand of the Mighty One and coming on the clouds of heaven." |
註解: イエスはここに御自身の神の子に在し給うこと、及び復活して神の右に坐し給うこと、而してダニ7:13の示すごとく天の雲に乗りて人類を裁かんがために再臨し給うことを断言し給うた。イエスの神性と復活と再臨とはイエスの口より出でし彼の確実なる信念であった。イエスがこれを言い給えることは重大なることであって、その死を賭してにあらざればかかることを言うことができない。イエスはその神の子に在し給うことを証するがためには死をもいとい給わなかったのである。イエスの神性と復活と再臨とを否定する者は、イエスのこの確信を否定しなければならぬ。▲▲イエスがエルサレムに上るのには死を覚悟しなければならなかったのは、この告白をしなければならなかったからであった。マタ16:21。
26章65節 ここに大祭司おのが衣を裂きて言ふ『かれ涜言をいへり、何ぞ他に證人を求めん。視よ、なんぢら今この涜言をきけり。[引照]
口語訳 | すると、大祭司はその衣を引き裂いて言った、「彼は神を汚した。どうしてこれ以上、証人の必要があろう。あなたがたは今このけがし言を聞いた。 |
塚本訳 | そこで大祭司は自分の上着を引き裂いて言った、「冒涜だ!これ以上、なんで証人の必要があろう。諸君は今ここに(おのれを神の子とする許しがたい)冒涜を聞かれた。 |
前田訳 | そのとき大祭司は衣を裂いていった、「彼は神をけがした。そのうえ何の証人がいろう。今あなた方はけがしを聞いた。 |
新共同 | そこで、大祭司は服を引き裂きながら言った。「神を冒涜した。これでもまだ証人が必要だろうか。諸君は今、冒涜の言葉を聞いた。 |
NIV | Then the high priest tore his clothes and said, "He has spoken blasphemy! Why do we need any more witnesses? Look, now you have heard the blasphemy. |
26章66節 いかに思ふか』[引照]
口語訳 | あなたがたの意見はどうか」。すると、彼らは答えて言った、「彼は死に当るものだ」。 |
塚本訳 | (この者の処分について)お考えを承りたい。」「死罪を相当とする」と彼らが答えた。 |
前田訳 | 何とお考えか」と。彼らは答えた、「死罪にあたる」と。 |
新共同 | どう思うか。」人々は、「死刑にすべきだ」と答えた。 |
NIV | What do you think?" "He is worthy of death," they answered. |
註解: 衣を裂くことは異常なる苦悩の場合、又は涜神的言語が耳に入りたる場合であった。大祭司はイエスの神の子に在し給うことを信じなかった。ゆえにイエスの御言を涜神的の言葉と解したのである。ゆえにレビ24:16によりて死に値しているのであった。而して群衆をこの言葉の証人たらしめたのである。
答へて言ふ『かれは死に當れり』
註解: 六日前に「ダビデの子にホサナ」(マタ21:9)と言いてイエスを迎えし同じ群衆は今や一転して「彼は死に当れり」と叫ぶ様になった。いずれの世においても付和雷同は群衆の常であって彼らに頼むことができない。最も罪深きものはこの群衆心理を利用して自己の利益を擁護し真理を拒む者である。
26章67節 ここに彼等その御顏に唾し、拳にて搏ち、或者どもは手掌にて批きて言ふ[引照]
口語訳 | それから、彼らはイエスの顔につばきをかけて、こぶしで打ち、またある人は手のひらでたたいて言った、 |
塚本訳 | それから(法院の役人のある者は)イエスの顔に唾をかけ、拳でうち、ある者は(目隠しをして)棒でたたきながら、 |
前田訳 | そして彼らは彼の顔に唾し、挙で打ち、あるものは棒でたたきながら、 |
新共同 | そして、イエスの顔に唾を吐きかけ、こぶしで殴り、ある者は平手で打ちながら、 |
NIV | Then they spit in his face and struck him with their fists. Others slapped him |
註解: 神を涜す者はあらゆる侮辱に逢うもなお足らない。ただし彼ら(大祭司、長老、群衆)はこれによりて神を侮辱していたのであることを常に念頭に置くべきである。
26章68節 『キリストよ、我らに預言せよ、汝をうちし者は誰なるか』[引照]
口語訳 | 「キリストよ、言いあててみよ、打ったのはだれか」。 |
塚本訳 | 「おい救世主、だれがぶったか、当ててみろ」と言った。 |
前田訳 | 「キリストよ、おまえを打ったのはだれか当ててみよ」といった。 |
新共同 | 「メシア、お前を殴ったのはだれか。言い当ててみろ」と言った。 |
NIV | and said, "Prophesy to us, Christ. Who hit you?" |
註解: キリストに打ちしものを言い当てることを要求して彼を愚弄した。キリスト再臨の時、彼を打ちし者共は皆彼を見て歎くであろう(黙1:7)。
要義 [キリストもし神の子に在さば如何]マタ16:16はペテロの告白であった、ここにはイエス自らその神の子なることを証し給う。このことは我らにとって極めて重大なる問題を提供する。もし我らまことに唯一の神を信じているならば、もし人あり自ら神の子なりと称する時、我らの彼に対して取り得る態度は唯二つだけである。その一は彼を涜神者として殺すことであり、その二は彼を真に活ける神の子なりと信ずることである。イエスのこの告白に対し人類はこの二つに別れなければならない。キリスト者はイエスの栄光と満ち足れる徳とその復活し給えることとを見て彼が神の子と信ずる者であり、不信者は彼を十字架にかけて殺す者である。
9-6-リ ペテロ、イエスを否む 26:69 - 26:75(マコ14:66-72) (ルカ22:56-61) (ヨハ18:17-27)
26章69節 ペテロ外にて中庭に坐しゐたるに、一人の婢女きたりて言ふ『なんぢもガリラヤ人イエスと偕にゐたり』[引照]
口語訳 | ペテロは外で中庭にすわっていた。するとひとりの女中が彼のところにきて、「あなたもあのガリラヤ人イエスと一緒だった」と言った。 |
塚本訳 | ペテロは外で中庭に坐っていた。すると一人の女中が寄ってきて、「あなたもあのガリラヤ人イエスと一しょだった」と言った。 |
前田訳 | ペテロは外で中庭にすわっていた。そこへ召使いが来ていった、「あなたもガリラヤ人イエスといっしょにいました」と。 |
新共同 | ペトロは外にいて中庭に座っていた。そこへ一人の女中が近寄って来て、「あなたもガリラヤのイエスと一緒にいた」と言った。 |
NIV | Now Peter was sitting out in the courtyard, and a servant girl came to him. "You also were with Jesus of Galilee," she said. |
註解: 何人も自分を知らないであろうと思っていたペテロにとって、この不意の一撃は非常なる驚駭であった。人は自分の罪はすべての人が知っていると考うべきである。
26章70節 かれ凡ての人の前に肯はずして言ふ『われは汝の言ふことを知らず』[引照]
口語訳 | するとペテロは、みんなの前でそれを打ち消して言った、「あなたが何を言っているのか、わからない」。 |
塚本訳 | しかしペテロは皆の前で、「何をあなたが言っているのかわからない」と言って打ち消した。 |
前田訳 | しかし彼は皆の前でそれを否み、「あなたのいうことがわからない」といった。 |
新共同 | ペトロは皆の前でそれを打ち消して、「何のことを言っているのか、わたしには分からない」と言った。 |
NIV | But he denied it before them all. "I don't know what you're talking about," he said. |
註解: 自分の安全を計らんがために偽を言うことはキリストの一弟子、キリストの教会の礎石と言われるペテロにとりては、寔に不似合なことであると言わなければならない。しかしながら彼はここに人間の肉の弱さをそのまま暴露したのであって、自分の安全を要求する本能が不用意の中にその実相を顕わしたのである。ここに人間の罪性がペテロにおいて顕われていることは、「義人なし一人だになし」との言の真理なることを裏書する(ロマ3:10)。
26章71節 かくて門まで出で往きたるとき、他の婢女かれを見て、其處にをる者どもに向ひて『この人はナザレ人イエスと偕にゐたり』と言へるに、[引照]
口語訳 | そう言って入口の方に出て行くと、ほかの女中が彼を見て、そこにいる人々にむかって、「この人はナザレ人イエスと一緒だった」と言った。 |
塚本訳 | そして玄関に出てゆくと、ほかの女中がペテロを見て、そこにいる人たちに「この人はあのナザレ人イエスと一しょだった」と言う。 |
前田訳 | 彼が玄関のほうへ出て行くと、もうひとりの召使いが彼を見てそこにいる人々にいう、「この人はナザレ人イエスといっしょにいました」と。 |
新共同 | ペトロが門の方に行くと、ほかの女中が彼に目を留め、居合わせた人々に、「この人はナザレのイエスと一緒にいました」と言った。 |
NIV | Then he went out to the gateway, where another girl saw him and said to the people there, "This fellow was with Jesus of Nazareth." |
26章72節 重ねて肯はず、契ひて『我はその人を知らず』といふ。[引照]
口語訳 | そこで彼は再びそれを打ち消して、「そんな人は知らない」と誓って言った。 |
塚本訳 | ペテロは誓いまで立てて、「そんな男は知らない」と、また打ち消した。 |
前田訳 | そこで誓って、「その人を知らない」とふたたび否んだ。 |
新共同 | そこで、ペトロは再び、「そんな人は知らない」と誓って打ち消した。 |
NIV | He denied it again, with an oath: "I don't know the man!" |
註解: マタ16:16のペテロの告白と比較して何たる差違であろうか。あたかもイエスを知らざるもののごとく冷淡なる語を用いて彼を「その人」と呼ぶに至ったペテロの心事を悲しむべきである。しかも彼はこの罪を再び犯した。人はその罪を悔改むること遅き場合には、試誘は繰返して来るものであることを学ばなければならぬ。
辞解
[ナザレ人イエス] 当時イエスなる名称を有てる人は少なくなかった、彼らと区別するためにナザレ人イエスと言ったのである。マタ2:23。
26章73節 暫くして其處に立つ者ども近づきてペテロに言ふ『なんぢも慥にかの黨與なり、汝の國訛なんぢを表せり』[引照]
口語訳 | しばらくして、そこに立っていた人々が近寄ってきて、ペテロに言った、「確かにあなたも彼らの仲間だ。言葉づかいであなたのことがわかる」。 |
塚本訳 | しばらくすると、そこに立っていた人たちが寄ってきてペテロに言った、「確かにあなたもあの仲間だ。あなたの国訛りでもそれがわかる。」 |
前田訳 | しばらくしてそこに立っている人たちが近づいてペテロにいった、「たしかにあなたもあの仲間だ。あなたのなまりでお里が知れる」と。 |
新共同 | しばらくして、そこにいた人々が近寄って来てペトロに言った。「確かに、お前もあの連中の仲間だ。言葉遣いでそれが分かる。」 |
NIV | After a little while, those standing there went up to Peter and said, "Surely you are one of them, for your accent gives you away." |
註解: 発見せられんとする危険が益々近付いて来たにも関わらず(ヨハ18:26を見よ)、尚主イエスの身の上を思いて去り兼ねしペテロの美わしき心事を汲むべきである。而して一方ペテロには尚自己の安全を保護せんとする本能が働きつつあった。これがすべての人間の常態であって、人はその奥深く罪に支配せられつつ尚ある程度までの道徳美を発露しているのである。我らはここにペテロにおいて我ら自身の姿を見ることができる。
26章74節 ここにペテロ盟ひかつ契ひて『我その人を知らず』と言ひ出づるをりしも、鷄鳴きぬ。[引照]
口語訳 | 彼は「その人のことは何も知らない」と言って、激しく誓いはじめた。するとすぐ鶏が鳴いた。 |
塚本訳 | そこでペテロは、「そんな男は知らない。(これが嘘なら、呪われてもよい)」と、幾たびも呪いをかけて誓った。するとすぐ鶏が鳴いた。 |
前田訳 | そこで彼は呪って誓いはじめた、「あの人は知らない」と。折しもにわとりが鳴いた。 |
新共同 | そのとき、ペトロは呪いの言葉さえ口にしながら、「そんな人は知らない」と誓い始めた。するとすぐ、鶏が鳴いた。 |
NIV | Then he began to call down curses on himself and he swore to them, "I don't know the man!" Immediately a rooster crowed. |
註解: ペテロはここに「盟ひかつ契ひ」てこの罪の上塗りをした。かかる折りしも鶏が鳴いたことは最も適切な時機であった。
辞解
[盟ひ] katathematizeinは「詛う」という意味で常に悪しき意味に用いる。
26章75節 ペテロ『にはとり鳴く前に、なんぢ三度われを否まん』と、イエスの言ひ給ひし御言を思ひだし、外に出でて甚く泣けり。[引照]
口語訳 | ペテロは「鶏が鳴く前に、三度わたしを知らないと言うであろう」と言われたイエスの言葉を思い出し、外に出て激しく泣いた。 |
塚本訳 | ペテロは、「鶏が鳴く前に、三度、わたしを知らないと言う」と言われたイエスの言葉を思い出し、外に出ていって、さめざめと泣いた。 |
前田訳 | そこでペテロは、にわとりが鳴く前に三度自分を知らないといおうとのイエスのことばを思い出した。そして外へ出て、さめざめと泣いた。 |
新共同 | ペトロは、「鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」と言われたイエスの言葉を思い出した。そして外に出て、激しく泣いた。 |
NIV | Then Peter remembered the word Jesus had spoken: "Before the rooster crows, you will disown me three times." And he went outside and wept bitterly. |
註解: 我らは神の言をききつつ往々にして罪を犯す以前にこれを思い出さずして、後に至りてこれを思い泣き悲しむことがある。この場合のペテロがそれであった、神の言を常に心から離してはならないのはこのためである。
要義 [ペテロと我ら]主を否みしペテロの罪は深い。唯我らはこのペテロの中に人間の肉の働きをさながらに見ることができるのであって、我らも今日この世の中にありてキリストに対する信仰を勇敢に告白し得ざる場合なかりしやを顧みなければならなぬ。もしそれがあるならば、そこにこのペテロの罪に等しき罪が働いているのであって、我らを愛して我らのために十字架に釘き給いしイエスを、我らの安全のために否むことになるのである。ペテロの罪は他人の問題にあらず我らの問題である。
注記 [四福音書の記事の相違]この物語の内容につきては四福音書にかなりの重大なる差異があり、この差異を調和せんとしても到底不可能である。唯各福音書の記者がこの物語によりペテロの例をもって我らを教えんとすることに主眼を置いたのであってこの点においては完全に一致している。唯、ここに至る事実上の経過などはさほどに重視しなかったのであろう。
マタイ伝第27章
9-6-ヌ イエス、ピラトに付され給う 27:1 - 27:2
(マコ15:1) (ルカ23:1) (ヨハ18:28)
27章1節 夜明けになりて、[引照]
口語訳 | 夜が明けると、祭司長たち、民の長老たち一同は、イエスを殺そうとして協議をこらした上、 |
塚本訳 | 夜が明けると、大祭司連、国の長老たち(全最高法院)は満場一致でイエスを死刑にする決議をした。 |
前田訳 | 朝になると、大祭司や民の長老は一致してイエスを死刑にする決議をした。 |
新共同 | 夜が明けると、祭司長たちと民の長老たち一同は、イエスを殺そうと相談した。 |
NIV | Early in the morning, all the chief priests and the elders of the people came to the decision to put Jesus to death. |
註解: この日はイエスの十字架につき給える日であった。
凡ての祭司長・民の長老ら、イエスを殺さんと相議り、
註解: 祭司長、長老ら衆議所の役員全員が集まって来た、彼らの考えは皆イエスを殺すことに一致した。彼らはイエスをもって民を惑わすものと考えたのである。無意識に自己の属する階級の利益を擁護せんとし、有意識に従来の伝統思想をもって無謬のものと見てこれに反するものを迫害することは、いづれの時代においてもその特権階級の通弊である。
27章2節 遂に之を縛り、曳きゆきて總督ピラトに付せり。[引照]
口語訳 | イエスを縛って引き出し、総督ピラトに渡した。 |
塚本訳 | それから彼を縛り、引いていって総督ピラトに渡した。 |
前田訳 | そして彼を縛って連れ出し、総督ピラトに引き渡した。 |
新共同 | そして、イエスを縛って引いて行き、総督ピラトに渡した。 |
NIV | They bound him, led him away and handed him over to Pilate, the governor. |
註解: ピラトは紀元26年より10年間ユダヤの総督であって、ローマ政府の官吏である。ユダヤ人らはピラトの決定を経ざればイエスを死刑に処することができないので彼に付した。
9-6-ル ユダの最後 27:3 - 27:10
27章3節 ここにイエスを賣りしユダ、その死に定められ給ひしを見て悔い、[引照]
口語訳 | そのとき、イエスを裏切ったユダは、イエスが罪に定められたのを見て後悔し、銀貨三十枚を祭司長、長老たちに返して |
塚本訳 | その時イエスを売ったユダは、イエスの判決が決まったのを見て後悔し、(受け取ったシケル)銀貨三十枚を大祭司連、長老たちに返して、 |
前田訳 | イエスを売ったユダは彼が判決を受けるのを見て悔い、銀貨三十を大祭司と長老に返した。そしていう、 |
新共同 | そのころ、イエスを裏切ったユダは、イエスに有罪の判決が下ったのを知って後悔し、銀貨三十枚を祭司長たちや長老たちに返そうとして、 |
NIV | When Judas, who had betrayed him, saw that Jesus was condemned, he was seized with remorse and returned the thirty silver coins to the chief priests and the elders. |
註解: ユダはイエスがかかる運命に陥り給うべしとは考えなかったのか、もしくは始めに漠然と予想したことが眼前に事実となったので、その感じを新たにしたのであろう。ただユダの悔いは神の前に自己の罪を悔改めて心を新たにしたのではなく、自己の行為の結果を見てこれを為さなければよかったと思う心持である。
辞解
[悔い] 原語metamelomaiはこの意味であって「後悔する」に当たる、「悔改め」と訳されるmetanoeô、metanoia は「懺悔する」「懺悔」に当たっている。新約聖書にては多く後者を用い、前者は五回用いられているのみである
(マタ21:29、マタ21:32。マタ27:3。Uコリ7:8。ヘブ7:21)
。
祭司長・長老らに、かの三十の銀をかへして言ふ、
註解: 彼はその行為の結果を見て悔いたので、その結果をできるだけ早く打消そうとしてその得し銀を返さんとしたのである。しかし我らの罪はその結果を消滅せしむることによって消すことはできない。
27章4節 『われ罪なきの血を賣りて罪を犯したり』[引照]
口語訳 | 言った、「わたしは罪のない人の血を売るようなことをして、罪を犯しました」。しかし彼らは言った、「それは、われわれの知ったことか。自分で始末するがよい」。 |
塚本訳 | 「罪もない(人の)血を売って、悪いことをした」と言った。彼らがこたえた、「われわれの知ったことではない。お前が自分で始末しろ!」 |
前田訳 | 「わたしは清らかな血を引き渡して罪を犯した」と。彼らはいった、「われらの知ったことではない。自分で始末せよ」と。 |
新共同 | 「わたしは罪のない人の血を売り渡し、罪を犯しました」と言った。しかし彼らは、「我々の知ったことではない。お前の問題だ」と言った。 |
NIV | "I have sinned," he said, "for I have betrayed innocent blood." "What is that to us?" they replied. "That's your responsibility." |
註解: 彼はその心の暗黒に掩われて、もはやイエスのメシヤに在し給うことを認めなかった(B1)。ゆえにこれを単に「罪なき血」と言うだけであった。彼の後悔は「世の憂」であって「神に従う憂」ではなかった(Uコリ7:10)。
辞解
[罪なき血] haima athôon「死の罰に相当せざる人」「死の責任を負うべからざる人」を意味す、24節を見よ。
彼らいふ『われら何ぞ干らん、汝みづから當るべし』
註解: 「我らに責任はない、貴様の責任ではないか」と言う語気であって、神を知らざる者はその罪を共にして後にその責任を逃れんとする。24節もこれと同じ。
27章5節 彼その銀を聖所に投げすてて去り、ゆきて自ら縊れたり。[引照]
口語訳 | そこで、彼は銀貨を聖所に投げ込んで出て行き、首をつって死んだ。 |
塚本訳 | ユダは銀貨を宮に投げ込んで去り、行って首をくくった。 |
前田訳 | そこで彼は銀貨を宮に投げて立ち去り、行って首をくくった。 |
新共同 | そこで、ユダは銀貨を神殿に投げ込んで立ち去り、首をつって死んだ。 |
NIV | So Judas threw the money into the temple and left. Then he went away and hanged himself. |
註解: 聖所は祭司以外には何人も入るべからざる場所である。ユダは絶望の余りこの暴挙に出たのである。
27章6節 祭司長らその銀をとりて言ふ『これは血の價なれば、宮の庫に納むるは可からず』[引照]
口語訳 | 祭司長たちは、その銀貨を拾いあげて言った、「これは血の代価だから、宮の金庫に入れるのはよくない」。 |
塚本訳 | 大祭司連は銀貨を取りのけながら言った、「人殺しの代金だから、賽銭箱に入れるのはよろしくない。」 |
前田訳 | 大祭司は銀貨を手にしていった、「これを宮の献金に入れることはゆるされない、血の代金だから」と。 |
新共同 | 祭司長たちは銀貨を拾い上げて、「これは血の代金だから、神殿の収入にするわけにはいかない」と言い、 |
NIV | The chief priests picked up the coins and said, "It is against the law to put this into the treasury, since it is blood money." |
註解: 申23:18の意味を汲めば血の価は妓女や狗の値よりも一層エホバの憎み給う者であると考えなければならぬ。祭司長らはこの意味よりこの銀を宮の庫に納めなかった。
27章7節 かくて相議り、その銀をもて陶工の畑を買ひ、旅人らの墓地とせり。[引照]
口語訳 | そこで彼らは協議の上、外国人の墓地にするために、その金で陶器師の畑を買った。 |
塚本訳 | そこで決議の上、その金で「瀬戸物屋の畑」(と言われた土地)を買って無縁墓地をつくった。 |
前田訳 | 彼らは相談してそれで陶器師の畑を買って外人墓地にした。 |
新共同 | 相談のうえ、その金で「陶器職人の畑」を買い、外国人の墓地にすることにした。 |
NIV | So they decided to use the money to buy the potter's field as a burial place for foreigners. |
註解: この地所は伝説によれば、ヒノムの谷の東南エルサレムと谷を挟んで相対するところであると称せられている。
辞解
[旅人] ユダヤ人または改宗者にしてエルサレムに来りおる中に死亡せる者、異邦人を含まず。
27章8節 之によりて其の畑は、今に至るまで血の畑と稱へらる。[引照]
口語訳 | そのために、この畑は今日まで血の畑と呼ばれている。 |
塚本訳 | そのため、この畑は今日まで「血の畑」と呼ばれる。 |
前田訳 | それゆえにその畑は今日まで血の畑と呼ばれる。 |
新共同 | このため、この畑は今日まで「血の畑」と言われている。 |
NIV | That is why it has been called the Field of Blood to this day. |
註解: 「血の畑」に相当するヘブル語はアケル、ダマ(使1:19)である。「今に至るまで」はマタイがこの書を記す時に至るまで。
27章9節 ここに預言者エレミヤによりて云はれたる言は成就したり。[引照]
口語訳 | こうして預言者エレミヤによって言われた言葉が、成就したのである。すなわち、「彼らは、値をつけられたもの、すなわち、イスラエルの子らが値をつけたものの代価、銀貨三十を取って、 |
塚本訳 | その時、預言者エレミヤをもって言われた言葉が成就した。──“わたしは、値ぶみされた人、すなわちイスラエルの子孫たちが値ぶみした人の代金、銀貨三十枚を取って、 |
前田訳 | かくて預言者エレミヤのことばが成就した。いわく、「彼らは銀貨三十すなわちイスラエルの子らが人間につけた値段の金を取って |
新共同 | こうして、預言者エレミヤを通して言われていたことが実現した。「彼らは銀貨三十枚を取った。それは、値踏みされた者、すなわち、イスラエルの子らが値踏みした者の価である。 |
NIV | Then what was spoken by Jeremiah the prophet was fulfilled: "They took the thirty silver coins, the price set on him by the people of Israel, |
註解: この預言はエレミヤ記にはなくゼカ11:12、13の七十人訳の文字をさらに幾分変更せるものであろう(なおこの引用があまりに原文と異なりかつエレミヤとゼカリヤとの誤認があるために他に種々の説明が与えられている。
曰く『かくて彼ら値積られしもの、即ちイスラエルの子らが値積りし者の價の銀三十をとりて、
27章10節 陶工の畑の代に之を與へたり。主の我に命じ給ひし如し』[引照]
口語訳 | 主がお命じになったように、陶器師の畑の代価として、その金を与えた」。 |
塚本訳 | 主が”わたしに“命じられたように、それを瀬戸物屋の畑の代金として渡した。” |
前田訳 | 主がわたしに命じられたように陶器師の畑の代として与えた」と。 |
新共同 | 主がわたしにお命じになったように、彼らはこの金で陶器職人の畑を買い取った。」 |
NIV | and they used them to buy the potter's field, as the Lord commanded me." |
註解: 七十人訳もヘブル語もこれと異なった字句から成っている。マタイはその記憶からこの両者の字句を適当に混合引用してユダの事件の預言としてこれを解したものであろう。この引用の意味はイスラエルの子らがその牧者たるエホバ神に対する報酬(「値積られしもの」はエホバのことを指す)を銀三十をもって値積ったのであるが、この銀三十を彼ら(すなわち祭司ら)が取って陶工の畑を買ったのであって、これがユダがキリストを売りてその金をもって祭司らが陶工の畑を買ったことの預言となったのであると解しているのである。この内容はエレ19:1−5とも異り又ゼカ11:12、13とも異っている。ただベンヒノムの谷の南がアケルダマの場所に相当しているごとくであるので、かかる変更を与えて引用したものであろう(Z0)。
要義 [懺悔と後悔]懺悔は従来の心の態度を全部悪しと認めてその心を一新することを意味し、後悔は新に憂慮することであって自己の特定の行為又は思想を後より悔いて、その結果につき憂慮することである。Uコリ7章、に示すごとく前者は「神に従うの憂慮」であって、神に対して「まことに相済まない」との感じであり後者は「世の憂い」であって「困ったことになった」との感じである。前者は我らをして救に至らしめ、後者は我らをして死に至らしむる。この二者一見相類似しているにかかわらず、非常に相異っているのである。
附記 [ユダの死について]使1:18、19とこことは同一事件の内容を異にしているのであって、ユダの死に方もアケルダマの名称の由来も共に両者の間に差異があり、いかにしてもこれを調和することができない。おそらくユダの死はイエスの捕縛及び十字架の死とほとんど同時であったので、その混雑のために弟子たちには確実なる事実を捉える余裕がなく、後日に至りて種々の異れる伝説を生じたのであろう。
9-6-ヲ ピラトの裁判 27:11 - 27:26
(マコ15:2-21) (ルカ23:11-25) (ヨハ18:29-19:16)
27章11節 さてイエス、總督の前に立ち給ひしに、總督問ひて言ふ『なんぢはユダヤ人の王なるか』[引照]
口語訳 | さて、イエスは総督の前に立たれた。すると総督はイエスに尋ねて言った、「あなたがユダヤ人の王であるか」。イエスは「そのとおりである」と言われた。 |
塚本訳 | さて、イエスが総督の前に立たれると、総督はイエスに問うた、「お前が、ユダヤ人の王か。(お前はその廉で訴えられているが。)」イエスは言われた、「(そう言われるなら)御意見にまかせる。」 |
前田訳 | イエスが総督の前に立たされると、総督は彼に問うた、「おまえはユダヤ人の王か」と。イエスはいわれた、「仰せのとおり」と。 |
新共同 | さて、イエスは総督の前に立たれた。総督がイエスに、「お前がユダヤ人の王なのか」と尋問すると、イエスは、「それは、あなたが言っていることです」と言われた。 |
NIV | Meanwhile Jesus stood before the governor, and the governor asked him, "Are you the king of the Jews?" "Yes, it is as you say," Jesus replied. |
註解: 第二節と連絡している。この質問はユダヤ人が彼に対して訴えし語によったものである(ルカ23:2)。この返答いかんは彼自身に何らの興味もなかった(ルカ23:4)。
イエス言ひ給ふ『なんぢの言ふが如し』
註解: 先にイエスは「キリスト、神の子なるか」との質問に対して「汝の言える如し」と答え給い(マタ26:64)、ここにまた「ユダヤ人の王なるか」との質問に対し同じ答を発し給うたのはこの二つの事柄が最も大切な事柄であって、イエスは人類の救主に在し給うと共にユダヤ人の王としてダビデの位に座し給う御方であったからである。ゆえにこれを明らかにし給うことだけは、イエスも少しも躊躇し給わなかった。
27章12節 祭司長・長老ら訴ふれども、何をも答へ給はず。[引照]
口語訳 | しかし、祭司長、長老たちが訴えている間、イエスはひと言もお答えにならなかった。 |
塚本訳 | 大祭司連、長老たちから(いろいろと)訴えられたが、何もお答えにならなかった。 |
前田訳 | そして大祭司や長老による訴えには何もお答えがなかった。 |
新共同 | 祭司長たちや長老たちから訴えられている間、これには何もお答えにならなかった。 |
NIV | When he was accused by the chief priests and the elders, he gave no answer. |
註解: 答うる必要がなかったからである。イエスが神の子メシヤに在し、ユダヤ人の王に在すことを語り給える以上、これを信ずるや否やの決定がユダヤ人の責任に帰せられているのであって、答うべきはむしろユダヤ人であってイエスではない。
27章13節 ここにピラト彼に言ふ『聞かぬか、彼らが汝に對して如何におほくの證據を立つるを』[引照]
口語訳 | するとピラトは言った、「あんなにまで次々に、あなたに不利な証言を立てているのが、あなたには聞えないのか」。 |
塚本訳 | するとピラトが言った、「あんなにお前に不利益な証言をしているのが聞えないのか。」 |
前田訳 | そこでピラトが彼にいう、「こんなに不利な証言をしているのが聞こえないのか」と。 |
新共同 | するとピラトは、「あのようにお前に不利な証言をしているのに、聞こえないのか」と言った。 |
NIV | Then Pilate asked him, "Don't you hear the testimony they are bringing against you?" |
註解: ピラトはむしろイエスの口より答弁を出さしめて、彼に有利な判決を与えんとしたのであろう。
27章14節 されど總督の甚く怪しむまで、一言をも答へ給はず。[引照]
口語訳 | しかし、総督が非常に不思議に思ったほどに、イエスは何を言われても、ひと言もお答えにならなかった。 |
塚本訳 | イエスはただの一言もお答えにならなかったので、総督は不思議でならなかった。 |
前田訳 | 彼からひとこともお答えがないので総督はたいそう不思議に思った。 |
新共同 | それでも、どんな訴えにもお答えにならなかったので、総督は非常に不思議に思った。 |
NIV | But Jesus made no reply, not even to a single charge--to the great amazement of the governor. |
註解: 荘厳な沈黙である。人を救わんがためには多くの語をもって語り給いしイエスも、自己を救わんがためには一言も語り給わなかった。語るも黙するもただ人類に対する愛のみより出でていた。
27章15節 祭の時には、總督群衆の望にまかせて、囚人一人を之に赦す例あり。[引照]
口語訳 | さて、祭のたびごとに、総督は群衆が願い出る囚人ひとりを、ゆるしてやる慣例になっていた。 |
塚本訳 | さて総督は(過越の)祭の都度、民衆の望む囚人を一人だけ(特赦によって)赦すことにしていた。 |
前田訳 | 祭りの折に総督が民衆の望む囚人ひとりをゆるす習慣があった。 |
新共同 | ところで、祭りの度ごとに、総督は民衆の希望する囚人を一人釈放することにしていた。 |
NIV | Now it was the governor's custom at the Feast to release a prisoner chosen by the crowd. |
註解: これカイザルが総督に与えし特権であったらしい、この習慣の起源は不明である(シューラー)。
27章16節 ここにバラバといふ隱れなき囚人あり。[引照]
口語訳 | ときに、バラバという評判の囚人がいた。 |
塚本訳 | ところがその時、バラバ(・イエス)と言う評判の囚人がいたので、 |
前田訳 | そのときバラバという評判の囚人がいた。 |
新共同 | そのころ、バラバ・イエスという評判の囚人がいた。 |
NIV | At that time they had a notorious prisoner, called Barabbas. |
註解: 経外聖書には彼の名をイエス・バラバと記している。バラバは「父の子」の意味であって、彼の名は偶然ながら主イエスの名と酷似していた。彼は有名なる騒擾罪、殺人罪を犯せる囚人であった。ルカ23:19。
27章17節 されば人々の集れる時、ピラト言ふ『なんぢら我が誰を赦さんことを願ふか。バラバなるか、キリストと稱ふるイエスなるか』[引照]
口語訳 | それで、彼らが集まったとき、ピラトは言った、「おまえたちは、だれをゆるしてほしいのか。バラバか、それとも、キリストといわれるイエスか」。 |
塚本訳 | ピラトは人々が集まってきたとき言った、「どちらを赦してもらいたいか、バラバ(・イエス)か、救世主と言われるイエスか。」 |
前田訳 | 人々が集まったときピラトはいった。「どちらをゆるしてあげようか、バラバか、キリストといわれるイエスか」と。 |
新共同 | ピラトは、人々が集まって来たときに言った。「どちらを釈放してほしいのか。バラバ・イエスか。それともメシアといわれるイエスか。」 |
NIV | So when the crowd had gathered, Pilate asked them, "Which one do you want me to release to you: Barabbas, or Jesus who is called Christ?" |
27章18節 これピラト彼らのイエスを付ししは嫉に因ると知る故なり。[引照]
口語訳 | 彼らがイエスを引きわたしたのは、ねたみのためであることが、ピラトにはよくわかっていたからである。 |
塚本訳 | ピラトは人々が妬みからイエスを引き渡したことを知っていたのである。 |
前田訳 | ピラトは人々が妬みからイエスを引き渡したことを知っていたからである。 |
新共同 | 人々がイエスを引き渡したのは、ねたみのためだと分かっていたからである。 |
NIV | For he knew it was out of envy that they had handed Jesus over to him. |
註解: 一方バラバは有名なる囚人であり、他方イエスの付され給いし原因は嫉に過ぎないことをピラトは了知しているので、この二人の中の一人を赦す場合にイエスを赦さんことを願うであろうと思ったのであろう。
27章19節 彼なほ審判の座にをる時、その妻、人を遣して言はしむ『かの義人に係ることを爲な、我けふ夢の中にて彼の故にさまざま苦しめり』[引照]
口語訳 | また、ピラトが裁判の席についていたとき、その妻が人を彼のもとにつかわして、「あの義人には関係しないでください。わたしはきょう夢で、あの人のためにさんざん苦しみましたから」と言わせた。 |
塚本訳 | ピラトが裁判席に着いているとき、その妻が彼の所に人をやって、「その正しい人に関係しないでください。その人のおかげで、昨夜夢で散々な目にあいましたから」と言わせた。 |
前田訳 | ピラトが席にすわっているとき、彼の妻が人をやっていわせた、「あの義人に何もしないでください。あの人の夢で昨夜苦しみました」と。 |
新共同 | 一方、ピラトが裁判の席に着いているときに、妻から伝言があった。「あの正しい人に関係しないでください。その人のことで、わたしは昨夜、夢で随分苦しめられました。」 |
NIV | While Pilate was sitting on the judge's seat, his wife sent him this message: "Don't have anything to do with that innocent man, for I have suffered a great deal today in a dream because of him." |
註解: 伝説によれば妻の名はクラウデヤ・プロクラであった。彼女はおそらくイエスのことを耳にし内心に尊敬を表していたのであろう。この夢は神の御旨を示す意味はなく、正直なる女性の直観に往々利害を基礎とせる政治家等の判断よりも正しきものがあることを示すものと見るべきであろう。この夢の記事はマタイ伝特有である。
27章20節 祭司長・長老ら、群衆にバラバ[の赦されん事]を請はしめ、イエスを亡さんことを勸む。[引照]
口語訳 | しかし、祭司長、長老たちは、バラバをゆるして、イエスを殺してもらうようにと、群衆を説き伏せた。 |
塚本訳 | しかし大祭司連、長老たちは、バラバの命乞いをして、イエスを殺してもらえと群衆を説きつけた。 |
前田訳 | 大祭司と長老はバラバをゆるしてイエスを殺してもらえと民衆を説得した。 |
新共同 | しかし、祭司長たちや長老たちは、バラバを釈放して、イエスを死刑に処してもらうようにと群衆を説得した。 |
NIV | But the chief priests and the elders persuaded the crowd to ask for Barabbas and to have Jesus executed. |
註解: 扇動する祭司長、扇動される群衆、いずれも神の前に誠実をもっていない。神の前に不誠実なる者には正義と不義の観念するらも撹乱されるのであって、バラバとイエスとの間の優劣すらも誤せられるに至っている。
27章21節 總督こたへて彼らに言ふ『二人の中いづれを我が赦さん事を願ふか』彼らいふ『バラバなり』[引照]
口語訳 | 総督は彼らにむかって言った、「ふたりのうち、どちらをゆるしてほしいのか」。彼らは「バラバの方を」と言った。 |
塚本訳 | 総督は彼らに言った、「二人のうち、どちらを赦してもらいたいのか。」「バラバを!」と彼らが言った。 |
前田訳 | 総督はいった、「ふたりのうちどれをゆるしてもらいたいか」と。彼らはいった、「バラバを」と。 |
新共同 | そこで、総督が、「二人のうち、どちらを釈放してほしいのか」と言うと、人々は、「バラバを」と言った。 |
NIV | "Which of the two do you want me to release to you?" asked the governor. "Barabbas," they answered. |
註解: 彼は群衆の意向に従わんとしているのである。自己の内心にイエスを赦さんことを希望しているにも関わらず、明瞭なる正義感、真理観なき政治家ピラトは群衆の反抗を買うことを無益のことと考え、この打算よりイエスの処置を定めんとした。
27章22節 ピラト言ふ『さらばキリストと稱ふるイエスを我いかにすべきか』[引照]
口語訳 | ピラトは言った、「それではキリストといわれるイエスは、どうしたらよいか」。彼らはいっせいに「十字架につけよ」と言った。 |
塚本訳 | ピラトが言う、「では、救世主と言われるイエスをどうしようか。」みんなが、「十字架につけるのだ」と言う。 |
前田訳 | ピラトはいう、「キリストといわれるイエスはどうしよう」と。彼らは皆いう、「十字架につけよ」と。 |
新共同 | ピラトが、「では、メシアといわれているイエスの方は、どうしたらよいか」と言うと、皆は、「十字架につけろ」と言った。 |
NIV | "What shall I do, then, with Jesus who is called Christ?" Pilate asked. They all answered, "Crucify him!" |
註解: ピラトの態度のいかに不徹底なることよ。責任の地位にありながらその責任を免れんとする人の態度はこれである。
皆いふ『十字架につくべし』
註解: 神より極刑に処せらるべき罪人らはかえって神の子に対して十字架の極刑を要求しているのである。人間の反逆的生活がその頂点に達した状態である。
27章23節 ピラト言ふ『かれ何の惡事をなしたるか』彼ら烈しく叫びていふ『十字架につくべし』[引照]
口語訳 | しかし、ピラトは言った、「あの人は、いったい、どんな悪事をしたのか」。すると彼らはいっそう激しく叫んで、「十字架につけよ」と言った。 |
塚本訳 | ピラトは言った、「いったいどんな悪事をはたらいたというのか。」しかし人々はいよいよ激しく、「十字架につけるのだ」と叫びつづけた。 |
前田訳 | 彼はいう、「何の悪をしたのか」と。彼らはますます叫んで「十字架につけよ」といった。 |
新共同 | ピラトは、「いったいどんな悪事を働いたというのか」と言ったが、群衆はますます激しく、「十字架につけろ」と叫び続けた。 |
NIV | "Why? What crime has he committed?" asked Pilate. But they shouted all the louder, "Crucify him!" |
註解: ピラトがしきりにイエスを赦さんことを努力せる有様はヨハ19:1−16に詳しく記されている(その註 参照)。要するにピラトは常識と善意とを具えていた行政官であるけれども、正義の上に立ちて動かざる士ではなかった。
27章24節 ピラトは何の效なく反つて亂にならんとするを見て、[引照]
口語訳 | ピラトは手のつけようがなく、かえって暴動になりそうなのを見て、水を取り、群衆の前で手を洗って言った、「この人の血について、わたしには責任がない。おまえたちが自分で始末をするがよい」。 |
塚本訳 | ピラトは(自分のすることが)なんの甲斐もないばかりか、かえって騒動が起りそうなのを見て、水を取り寄せ、群衆の前で手を洗って言った、「わたしはこの人の血(を流すこと)に責任をもたない。お前たちが自分で始末しろ。」 |
前田訳 | ピラトはすべてがむだなばかりで騒動になりそうなのを見て、水を取って群衆の前で手を洗っていう、「わたしはこの人の血にかかりあいはない。あなた方が始末せよ」と。 |
新共同 | ピラトは、それ以上言っても無駄なばかりか、かえって騒動が起こりそうなのを見て、水を持って来させ、群衆の前で手を洗って言った。「この人の血について、わたしには責任がない。お前たちの問題だ。」 |
NIV | When Pilate saw that he was getting nowhere, but that instead an uproar was starting, he took water and washed his hands in front of the crowd. "I am innocent of this man's blood," he said. "It is your responsibility!" |
註解: 彼は結果を予想して恐怖した。結果に対する打算より事を定めんとする者は必ず誤る。群集の熱狂に対してピラトはその度を失ったのである。
水をとり群衆のまへに手を洗ひて言ふ『この人の血につきて我は罪なし、汝等みづから當れ』
註解: 手を洗うことはユダヤ人の所作であって、ある事件に無関係なることを示さんとする場合にこれを行ったのを、ローマ人なるピラトがこの場合に応用した。かくして彼はその負うべき責任を免れんとしたのである。されど彼は勿論その責任を免れることができない。
辞解
[我は罪なし] 4節「罪なき血」の註参照「汝らみづから当れ」4節に同じ、ユダヤ人の慣用語である。使18:15。
27章25節 民みな答へて言ふ『其の血は、我らと我らの子孫とに歸すべし』[引照]
口語訳 | すると、民衆全体が答えて言った、「その血の責任は、われわれとわれわれの子孫の上にかかってもよい」。 |
塚本訳 | 民衆全体が答えた、「その男の血のことなら、われわれが孫子の代まで引き受けた。」 |
前田訳 | 民は皆いった、「彼の血はわれらと子孫の上に」と。 |
新共同 | 民はこぞって答えた。「その血の責任は、我々と子孫にある。」 |
NIV | All the people answered, "Let his blood be on us and on our children!" |
註解: 「よろしい引受けた」「よし全責任を負うであろう」など言う意味である(Uサム1:16。T列2:37)。混乱の際における群衆のこの言は、やがて彼らに対して下った神の審判の預言であったことが後に至って明らかにせられた。事実イエスの血はユダヤ人とその子孫とに帰し、彼らの今日の運命を招致しているのである。
27章26節 ここにピラト、バラバを彼らに赦し、イエスを鞭うちて、十字架につくる爲に付せり。[引照]
口語訳 | そこで、ピラトはバラバをゆるしてやり、イエスをむち打ったのち、十字架につけるために引きわたした。 |
塚本訳 | そこでピラトはバラバを赦してやり、イエスの方は鞭打ったのち、十字架につけるため(兵卒)に引き渡した。 |
前田訳 | そこでバラバをゆるしてやり、イエスは鞭打ってから、十字架につけるために引き渡した。 |
新共同 | そこで、ピラトはバラバを釈放し、イエスを鞭打ってから、十字架につけるために引き渡した。 |
NIV | Then he released Barabbas to them. But he had Jesus flogged, and handed him over to be crucified. |
註解: かくしてイエスは神の御旨に従いて十字架につくことに定められ給うた、而してユダヤ人もロマ人もその罪深き性質をもってイエスを殺すことによりて、神がその御旨を遂行し給うことの器となった。
辞解
[鞭ち] 罪人を処罰する前に先ず彼を鞭うつのがローマの習慣であった。「付せり」はローマの兵卒に付すこと。
分類
10 イエスの受難 27:27 - 27:66
10-1 イエス嘲笑せられ給う 27:27 - 27:31
(マコ15:16-20)
27章27節 ここに總督の兵卒ども、イエスを官邸につれゆき、全隊を御許に集め、[引照]
口語訳 | それから総督の兵士たちは、イエスを官邸に連れて行って、全部隊をイエスのまわりに集めた。 |
塚本訳 | それから総督の兵卒らはイエスを総督官舎(プライトリオン)に連れてゆき、(王の茶番狂言を見せるために)全部隊を彼のまわりに集めた。 |
前田訳 | 総督の兵隊はイエスを本営に連れて行き、全部隊を彼のまわりに集めた。 |
新共同 | それから、総督の兵士たちは、イエスを総督官邸に連れて行き、部隊の全員をイエスの周りに集めた。 |
NIV | Then the governor's soldiers took Jesus into the Praetorium and gathered the whole company of soldiers around him. |
註解: 裁判及び鞭打は官邸の前面にて行われた。「全隊」はその官邸の衛兵で兵卒はその一部である。彼らはイエスの周囲に集りて彼を嘲弄して楽しまんとしているのである。あたかも今日の異教徒がイエスを嘲弄するのと同一の心理である。而してこの嘲弄が無意識にイエスをメシヤとしユダヤ人の王として崇め、無意識にイエスに関する預言を成就していることは驚くべき事実である。
27章28節 その衣をはぎて、緋色の上衣をきせ、[引照]
口語訳 | そしてその上着をぬがせて、赤い外套を着せ、 |
塚本訳 | そしてイエスの着物をはいで(自分たちの)緋の外套をきせ、 |
前田訳 | そして着物を脱がせて緋の外套を着せ、 |
新共同 | そして、イエスの着ている物をはぎ取り、赤い外套を着せ、 |
NIV | They stripped him and put a scarlet robe on him, |
註解: 王のごとき服装をもってイエスを飾った。11節のイエスの答をききて彼を愚弄したのである。霊の盲者に取っては真理の言も狂人の囈言のごとくに聴ゆる。
辞解
[緋色の上衣] chlamusは軍服で王侯もこれを着用した。ヨハ19:2。マコ15:17には紫色となっている。
27章29節 茨の冠冕を編みて、その首に冠らせ、[引照]
口語訳 | また、いばらで冠を編んでその頭にかぶらせ、右の手には葦の棒を持たせ、それからその前にひざまずき、嘲弄して、「ユダヤ人の王、ばんざい」と言った。 |
塚本訳 | 茨で冠を編んで頭にかぶらせ、右手に葦(の棒)をもたせて(王に仕立てたのち、)その前にひざまずき、「ユダヤ人の王、万歳!」と言ってなぶった。 |
前田訳 | 茨で冠を編んで頭にのせ、右手に葦を持たせ、その前にひざまずいて、「ユダヤ人の王万歳」といってあざけった。 |
新共同 | 茨で冠を編んで頭に載せ、また、右手に葦の棒を持たせて、その前にひざまずき、「ユダヤ人の王、万歳」と言って、侮辱した。 |
NIV | and then twisted together a crown of thorns and set it on his head. They put a staff in his right hand and knelt in front of him and mocked him. "Hail, king of the Jews!" they said. |
註解: 一種の刺のある茨を編みて冠となし、彼を王者のごとにく飾って嘲弄した。彼に苦痛を与うるの目的ではなかった。
葦を右の手にもたせ、且その前に跪づき、嘲弄して言ふ『ユダヤ人の王、安かれ』
註解: イエスを誇大妄想狂のごときものとして愚弄したのである。もしイエスが神の子でないならば彼は明らかに狂人であった。我らももし彼を信じないならば、このローマの兵卒の態度をもって彼に対すべきである。この中間にいるのは不徹底の態度である。
辞解
[安かれ] 「今日は」と言うべきごとき挨拶の語。マタ26:48註参照。
27章30節 また之に唾し、かの葦をとりて其の首を叩く。[引照]
口語訳 | また、イエスにつばきをかけ、葦の棒を取りあげてその頭をたたいた。 |
塚本訳 | それから唾をかけ、葦(の棒)を取りあげて頭をたたいた。 |
前田訳 | そして彼に唾し、葦を取って頭をたたいた。 |
新共同 | また、唾を吐きかけ、葦の棒を取り上げて頭をたたき続けた。 |
NIV | They spit on him, and took the staff and struck him on the head again and again. |
27章31節 かく嘲弄してのち、上衣を剥ぎて、故の衣をきせ、十字架につけんとて曳きゆく。[引照]
口語訳 | こうしてイエスを嘲弄したあげく、外套をはぎ取って元の上着を着せ、それから十字架につけるために引き出した。 |
塚本訳 | こうしてなぶった後、外套を脱がせてもとの着物を着せ、十字架につけるために引いていった。 |
前田訳 | あざけってから外套を脱がせてもとの着物を着せ、十字架につけるために連れて行った。 |
新共同 | このようにイエスを侮辱したあげく、外套を脱がせて元の服を着せ、十字架につけるために引いて行った。 |
NIV | After they had mocked him, they took off the robe and put his own clothes on him. Then they led him away to crucify him. |
註解: このすべての嘲弄を静かに受け給えるイエスの御姿を思うべきである。イエスの御心の中には彼らを憐れむの念が満ち溢れておったのであろう。我らを迫害する人々に対しても我らはこの態度に出なければならない。
10-2 イエス十字架に釘き給う 27:32 - 27:44(マコ15:21-32) (ルカ23:26-43) (ヨハ19:17-27)
27章32節 その出づる時、シモンといふクレネ人にあひしかば、強ひて之にイエスの十字架をおはしむ。[引照]
口語訳 | 彼らが出て行くと、シモンという名のクレネ人に出会ったので、イエスの十字架を無理に負わせた。 |
塚本訳 | (都を)出ると、シモンと言うクレネ人に出くわしたので、兵卒らはこの人に有無を言わせずイエスの十字架を負わせた。(イエスにはもう負う力がなかったのである。) |
前田訳 | 町を出るとシモンというクレネ人に出会ったので兵隊は強いて十字架を負わせた。 |
新共同 | 兵士たちは出て行くと、シモンという名前のキレネ人に出会ったので、イエスの十字架を無理に担がせた。 |
NIV | As they were going out, they met a man from Cyrene, named Simon, and they forced him to carry the cross. |
註解: 総督の官邸を出て、始めの程は当時の習慣により、イエス自らその十字架を負い給うたヨハ19:17。その重さに耐え給わないのを兵卒は見たのであろう。クレネ人シモンなる者に強てその十字架を負わしめた、シモンは苦しかったであろう。されど強て負わされしこの十字架こそ彼の幸福の源であった。我らも往々好まざるに強てイエスの十字架を負わなければならない場合がある。されどその時こそ真に喜ぶべき時である。
辞解
[シモン] マコ15:21によれば、アレキサンデルとルフとの父で、このルフ(原語ルフオス)はロマ16:13のルポス(原語ルフオス)と同人であるとすればシモンの家庭にキリストを信ずる人が出たこととなる幸なる結果を生じた。
27章33節 かくてゴルゴタといふ處、即ち髑髏の地にいたり、[引照]
口語訳 | そして、ゴルゴタ、すなわち、されこうべの場、という所にきたとき、 |
塚本訳 | ゴルゴダという所──すなわち「髑髏の所」──に着くと、 |
前田訳 | 彼らがゴルゴタというところすなわち骸骨の所につくと、 |
新共同 | そして、ゴルゴタという所、すなわち「されこうべの場所」に着くと、 |
NIV | They came to a place called Golgotha (which means The Place of the Skull). |
註解: この地点は今日確定することができない。エルサレムの聖墳寺のある処か又はエルサレムの北の小丘であろうと考えられている。この名称はその地形が髑髏に似ていることから取ったのであろう。
27章34節 苦味を混ぜたる葡萄酒を飮ませんとしたるに、嘗めて、飮まんとし給はず。[引照]
口語訳 | 彼らはにがみをまぜたぶどう酒を飲ませようとしたが、イエスはそれをなめただけで、飲もうとされなかった。 |
塚本訳 | 人々は(苦痛をやわらげるために)“苦艾”を混ぜた葡萄酒を“飲ませようとした”が、なめただけで、飲もうとされなかった。 |
前田訳 | にがよもぎを混ぜたぶどう酒を飲ませようとしたが、なめただけで飲もうとされなかった。 |
新共同 | 苦いものを混ぜたぶどう酒を飲ませようとしたが、イエスはなめただけで、飲もうとされなかった。 |
NIV | There they offered Jesus wine to drink, mixed with gall; but after tasting it, he refused to drink it. |
註解: ユダヤ人は死刑囚を処刑する前に麻酔剤としてこの種の飲料(マルコには没薬とあり)を用いた。イエスがこれを嘗め給えるは、この同情ある美わしき習慣を嘉し給うたのであろう。そしてこれを飲み給わなかったのは彼は十字架の苦痛をことごとく味い給うことが必要であったからである。
27章35節 彼らイエスを十字架につけてのち、[引照]
口語訳 | 彼らはイエスを十字架につけてから、くじを引いて、その着物を分け、 |
塚本訳 | 兵卒らはイエスを十字架につけると、“籤を引いて”その“着物を自分たちで分けた”のち、 |
前田訳 | 彼を十字架につけてから、彼らはくじを引いて彼の着物を分け、 |
新共同 | 彼らはイエスを十字架につけると、くじを引いてその服を分け合い、 |
NIV | When they had crucified him, they divided up his clothes by casting lots. |
註解: 御手と御足に釘にて十字架に打ちつけるのである。この処刑法は非常なる苦痛を伴った。
籤をひきて其の衣をわかち、
註解: 詩22:18の預言が成就したのである(ヨハ19:24)。
27章36節 且そこに坐して、イエスを守る。[引照]
口語訳 | そこにすわってイエスの番をしていた。 |
塚本訳 | そこに坐って見張りをしていた。 |
前田訳 | そこにすわって見張っていた。 |
新共同 | そこに座って見張りをしていた。 |
NIV | And sitting down, they kept watch over him there. |
27章37節 その首の上に『これはユダヤ人の王イエスなり』と記したる罪標を置きたり。[引照]
口語訳 | そしてその頭の上の方に、「これはユダヤ人の王イエス」と書いた罪状書きをかかげた。 |
塚本訳 | イエスの頭の上にはこれはユダヤ人の王イエスであると書いた罪状が掲げられた。 |
前田訳 | 彼の頭の上には、「これはユダヤ人の王イエスである」と書かれた捨札がかかげられた。 |
新共同 | イエスの頭の上には、「これはユダヤ人の王イエスである」と書いた罪状書きを掲げた。 |
NIV | Above his head they placed the written charge against him: THIS IS JESUS, THE KING OF THE JEWS. |
註解: ヘブル、ロマ、ギリシヤの三国語にて記し十字架の頂に打ちつけたのである。ヨハ19:20。罪標の文字は四福音書皆小異があるけれども、いずれも単に意味を示したものと見れば解釈上の困難はない。この標語は偶然にもイエスの御資格を示し、あたかもユダヤ人を審判くもののごとくに見えたであろう。ゆえに彼らはこれに反対してこれを書き換えんことを要求したけれども、ピラトは承認しなかった(ヨハ19:20−22)。
27章38節 ここにイエスとともに二人の強盜、十字架につけられ、一人はその右に、一人はその左におかる。[引照]
口語訳 | 同時に、ふたりの強盗がイエスと一緒に、ひとりは右に、ひとりは左に、十字架につけられた。 |
塚本訳 | その時イエスと共に二人の強盗が、一人は右に、一人は左に十字架につけられた。 |
前田訳 | そのとき彼とともに強盗がふたり十字架につけられた、ひとりは右にひとりは左に。 |
新共同 | 折から、イエスと一緒に二人の強盗が、一人は右にもう一人は左に、十字架につけられていた。 |
NIV | Two robbers were crucified with him, one on his right and one on his left. |
註解: この二人の運命が次の瞬間において天地の差異を生ずるに至ることを誰が予想したであろう。
27章39節 往來の者どもイエスを譏り、首を振りていふ、[引照]
口語訳 | そこを通りかかった者たちは、頭を振りながら、イエスをののしって |
塚本訳 | 通りかかった人々が“頭をふりながら、”イエスを冒涜して |
前田訳 | 通りがかりの人々は頭を振ってイエスをののしっていった、 |
新共同 | そこを通りかかった人々は、頭を振りながらイエスをののしって、 |
NIV | Those who passed by hurled insults at him, shaking their heads |
註解: これらの群衆の中にはかつて衣や樹枝を途に敷きて、イエスを迎えた者もあったであろう。頼るべからざるは人心である。
辞解
[首を振る] 何事かを拒む場合の身振り。ことに詩22:8(新共同訳)によれば悪意の嘲笑の態度である。
27章40節 『宮を毀ちて三日のうちに建つる者よ、[引照]
口語訳 | 言った、「神殿を打ちこわして三日のうちに建てる者よ。もし神の子なら、自分を救え。そして十字架からおりてこい」。 |
塚本訳 | こう言った、「お宮をこわして三日で建てるという人、自分を救ってみろ。神の子なら、十字架から下りてこい。」 |
前田訳 | 「宮をこわして三日のうちに建てるものよ、自らを救え、もし神の子なら十字架からおりよ」と。 |
新共同 | 言った。「神殿を打ち倒し、三日で建てる者、神の子なら、自分を救ってみろ。そして十字架から降りて来い。」 |
NIV | and saying, "You who are going to destroy the temple and build it in three days, save yourself! Come down from the cross, if you are the Son of God!" |
註解: 彼らの激しき嘲弄にもかかわらず、イエスは三日目に死人の中より甦り給うて、その毀たれし身体の宮を再び建て給うた。我らの復活に対して嘲笑する輩も、やがてキリスト再び来給う時、我らが立派に復活しているのを見なければならない。
もし神の子ならば己を救へ、十字架より下りよ』
註解: もし神の子イエスがその能力のみを用い給うごとき御方に在しましたならば、容易に己を救って十字架より下りることができ給うたであろう(ヨハ10:18。マタ26:53)。しかるに彼の愛は己を救うにはあまりに深かった。彼は人類に対する愛ゆえに十字架より下りず己を救い給わなかった。群衆はこの愛を理解しなかったのである。
27章41節 祭司長らもまた同じく、學者・長老らとともに嘲弄して言ふ、[引照]
口語訳 | 祭司長たちも同じように、律法学者、長老たちと一緒になって、嘲弄して言った、 |
塚本訳 | 同じように大祭司連も、聖書学者、長老と一しょに、こう言ってなぶった、 |
前田訳 | 同じように大祭司らも学者も長老とともにあざけっていった、 |
新共同 | 同じように、祭司長たちも律法学者たちや長老たちと一緒に、イエスを侮辱して言った。 |
NIV | In the same way the chief priests, the teachers of the law and the elders mocked him. |
註解: イエスを嘲弄せる者は、始めに兵卒(27−31節)、次に群衆(39、40節)、次に祭司長、学者、長老ら(41−43節)而して最後に共に十字架につけられたる強盗どもであった(44節)、すべての人類を代表せるものと見るべきである。
27章42節 『人を救ひて己を救ふこと能はず。彼はイスラエルの王なり、[引照]
口語訳 | 「他人を救ったが、自分自身を救うことができない。あれがイスラエルの王なのだ。いま十字架からおりてみよ。そうしたら信じよう。 |
塚本訳 | 「あの男、人は救ったが、自分は救えない。イスラエルの王様じゃないか。今すぐ十字架から下りてくるがよい。そうしたら信じてやるのに! |
前田訳 | 「彼は他人を救って自らを救えない。イスラエルの王で、今十字架からおりて来るなら、彼を信じよう。 |
新共同 | 「他人は救ったのに、自分は救えない。イスラエルの王だ。今すぐ十字架から降りるがいい。そうすれば、信じてやろう。 |
NIV | "He saved others," they said, "but he can't save himself! He's the King of Israel! Let him come down now from the cross, and we will believe in him. |
註解: 彼らは嘲笑の語としてこれを言ったのであるけれども実は事実を言っているのであった。実際イエスは人を救いて己を救うことができなかった、否人を救わんがために己を殺し給うたのである。
いま十字架より下りよかし、さらば我ら彼を信ぜん。
註解: 「ユダヤ人は徴を請」いて(Tコリ1:22)、彼が奇跡的に十字架より下りんことを要求しているけれども、キリスト者は彼が十字架より下り給わずして十字架の贖を成就し給いしがゆえに彼を信じるのである。
27章43節 彼は神に依り頼めり、神かれを愛しまば今すくひ給ふベし「我は神の子なり」と云へり』[引照]
口語訳 | 彼は神にたよっているが、神のおぼしめしがあれば、今、救ってもらうがよい。自分は神の子だと言っていたのだから」。 |
塚本訳 | “彼は神にたよっている。神が可愛がっておられるなら、”今すぐ“救ってくださろう”だ。『わたしは神の子だ』と言ったから。」 |
前田訳 | 彼が神に頼り、神のみ心なら、今彼は救われよう。われは神の子といったではないか」。 |
新共同 | 神に頼っているが、神の御心ならば、今すぐ救ってもらえ。『わたしは神の子だ』と言っていたのだから。」 |
NIV | He trusts in God. Let God rescue him now if he wants him, for he said, `I am the Son of God.'" |
註解: 彼らはさらにその罵詈を進め、神の彼を助け給わざるは彼が神の子に在し給わざる証拠であるとして彼を嘲弄した。かくして彼らは図らずも詩22:7、8の預言を充したのである。
27章44節 ともに十字架につけられたる強盜どもも、同じ事をもてイエスを罵れり。[引照]
口語訳 | 一緒に十字架につけられた強盗どもまでも、同じようにイエスをののしった。 |
塚本訳 | 一しょに十字架につけられた強盗たちも、同じようにイエスを罵った。 |
前田訳 | ともに十字架にかけられた強盗も同じように彼をののしった。 |
新共同 | 一緒に十字架につけられた強盗たちも、同じようにイエスをののしった。 |
NIV | In the same way the robbers who were crucified with him also heaped insults on him. |
註解: ルカ23:39−43にこの中の一人の悔改めにつきて記さる。彼は後に悔改めたものであろう。
10-3 イエス息絶え給う 27:45 - 27:56(マコ15:33-41) (ルカ23:44-49) (ヨハ21:28-30)
27章45節 晝の十二時より地の上あまねく暗くなりて、三時に及ぶ。[引照]
口語訳 | さて、昼の十二時から地上の全面が暗くなって、三時に及んだ。 |
塚本訳 | 昼の十二時から地の上が全部暗闇になってきて、三時までつづいた。 |
前田訳 | 正午から闇が全地をおおって三時までつづいた。 |
新共同 | さて、昼の十二時に、全地は暗くなり、それが三時まで続いた。 |
NIV | From the sixth hour until the ninth hour darkness came over all the land. |
註解: 特殊の自然現象の変調であって普通の日蝕ではない。この時刻より以後に起れる天然界の現象は、世の終においてキリスト地上の民を裁き給う時に起るべき現象の縮図であると見るべきである。イエスの十字架において人類の罪の審判が行われたからである。地上あまねく暗くなったのはマタ24:29の光景に相当している。
27章46節 三時ごろイエス大聲に叫びて『エリ、エリ、レマ、サバクタニ』と言ひ給ふ。わが神、わが神、なんぞ我を見棄て給ひしとの意なり。[引照]
口語訳 | そして三時ごろに、イエスは大声で叫んで、「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」と言われた。それは「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。 |
塚本訳 | 三時ごろ、イエスは大声を出して“エリ エリ レマ サバクタニ!”と叫ばれた。これは“わたしの神様、わたしの神様、なぜ、わたしをお見捨てになりましたか!”である。 |
前田訳 | 三時ごろイエスは大声で叫んで「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」といわれた。「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てですか」である。 |
新共同 | 三時ごろ、イエスは大声で叫ばれた。「エリ、エリ、レマ、サバクタニ。」これは、「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。 |
NIV | About the ninth hour Jesus cried out in a loud voice, <"Eloi, Eloi, lama> --which means, "My God, my God, why have you forsaken me?" |
註解: ここにイエスは人類の罪を負い、罪人となり給い、神より棄てられ給うた。一瞬間も神より離れ給わなかったイエスが神を見失い、神の審判を受け給う際の苦悶の叫びがこのエリ、エリ、レマ、サバクタニであった。もしイエスが我らに代ってこの叫びを出し給わなかったならば、すべての人類は世の終りにおいてこの声を発しなければならないであろう。イエスは詩22:1の冒頭にあるこの一句をもってその贖罪の死を示し給うたのである。この目的を達して彼は再び神の愛によりて復活し給うた。彼は死の苦痛を訴えているのではなく、「ただ神に棄てられ給いし苦痛を叫んでいるのである」(B1)。
27章47節 そこに立つ者のうち或人々これを聞きて『彼はエリヤを呼ぶなり』と言ふ。[引照]
口語訳 | すると、そこに立っていたある人々が、これを聞いて言った、「あれはエリヤを呼んでいるのだ」。 |
塚本訳 | そこに立っていた人たちのうちにはこれを聞いて、「あの人はエリヤを呼んでいるのだ」と言った者が何人かあった。(エリをエリヤと聞きちがえたらしい。) |
前田訳 | そこに立っていた何人かが、それを聞いて、「彼はエリヤを呼んでいる」といった。 |
新共同 | そこに居合わせた人々のうちには、これを聞いて、「この人はエリヤを呼んでいる」と言う者もいた。 |
NIV | When some of those standing there heard this, they said, "He's calling Elijah." |
註解: 群衆はこれを聞きちがえて(ヨハ12:28、29の場合のごとく G1)エリヤを呼ぶのであると思った。
27章48節 直ちにその中の一人はしりゆきて海綿をとり、酸き葡萄酒を含ませ、葦につけてイエスに飮ましむ。[引照]
口語訳 | するとすぐ、彼らのうちのひとりが走り寄って、海綿を取り、それに酢いぶどう酒を含ませて葦の棒につけ、イエスに飲ませようとした。 |
塚本訳 | そのうちの一人がすぐ駆けていって、海綿をとり、“酸っぱい葡萄酒を”ふくませ、葦(の棒の先)につけて、イエスに“飲ませようとした。”(しかしお受けにならなかった。) |
前田訳 | そのひとりがすぐ駆けていって、海綿をとり、すっぱいぶどう酒をふくませ、葦につけて飲ませようとした。 |
新共同 | そのうちの一人が、すぐに走り寄り、海綿を取って酸いぶどう酒を含ませ、葦の棒に付けて、イエスに飲ませようとした。 |
NIV | Immediately one of them ran and got a sponge. He filled it with wine vinegar, put it on a stick, and offered it to Jesus to drink. |
註解: 酸き葡萄酒はローマの兵卒の平日の飲料であった。彼らの中にも幾分イエスの苦しみに同情するものもあった。
27章49節 その他の者ども言ふ『まて、エリヤ來りて彼を救ふや否や、我ら之を見ん』[引照]
口語訳 | ほかの人々は言った、「待て、エリヤが彼を救いに来るかどうか、見ていよう」。 |
塚本訳 | 「(もう少し生かしておいて、)エリヤが救いに来るかどうか、見ていよう」とほかの人々が言った。 |
前田訳 | ほかのものどもはいった、「エリヤが救いに来るか見ていよう」と。 |
新共同 | ほかの人々は、「待て、エリヤが彼を救いに来るかどうか、見ていよう」と言った。 |
NIV | The rest said, "Now leave him alone. Let's see if Elijah comes to save him." |
註解: 「待て」は酸き葡萄酒を飲ますることを一寸待てという意味ではなく(マコ15:36)、「しばらく様子を見てみよう」との意味、彼らはイエスの生命がエリヤによりて救われることに一縷の望をつないでいた。
27章50節 イエス再び大聲に呼はりて息絶えたまふ。[引照]
口語訳 | イエスはもう一度大声で叫んで、ついに息をひきとられた。 |
塚本訳 | しかしイエスはふたたび(何か)大声で叫ばれると共に、息が切れた。 |
前田訳 | イエスはふたたび大声に叫んで息絶えられた。 |
新共同 | しかし、イエスは再び大声で叫び、息を引き取られた。 |
NIV | And when Jesus had cried out again in a loud voice, he gave up his spirit. |
註解: かくしてイエスは死に給うた。福音書はイエスの死の意義はこれを説明せず、ただ簡単に死の事実を掲げており、書簡や使徒行伝にこの説明を譲っている。
27章51節 視よ、聖所の幕、上より下まで裂けて二つとなり、[引照]
口語訳 | すると見よ、神殿の幕が上から下まで真二つに裂けた。また地震があり、岩が裂け、 |
塚本訳 | その途端に、宮の(聖所の)幕が上から下まで真っ二つに裂けた。そして地が震い、岩が裂け、 |
前田訳 | すると見よ、宮の幕が上から下まで二つに裂け、地が震え、岩々が裂けた。 |
新共同 | そのとき、神殿の垂れ幕が上から下まで真っ二つに裂け、地震が起こり、岩が裂け、 |
NIV | At that moment the curtain of the temple was torn in two from top to bottom. The earth shook and the rocks split. |
註解: 聖所の幕は、聖所と至聖所とを隔てている幕であって、従来は大祭司が年に一回至聖所に入ることができたのみであった。ゆえにこの幕が避けたのは旧約の犠牲の時代が終り人々の至聖所に入ることが自由となったことを示している。すなわちキリストの死によりてすべての人が「キリストの肉体たる帳を経て我らに開き給える新しき活ける路より憚らずして至聖所に入ることを得」るのである(ヘブ10:19)。
また地震ひ、磐さけ、
註解: 世の終りに天地に大変動が起ることの予表である。
27章52節 墓ひらけて、眠りたる聖徒の屍體おほく活きかへり、[引照]
口語訳 | また墓が開け、眠っている多くの聖徒たちの死体が生き返った。 |
塚本訳 | 墓が開いて、眠っていた多くの聖者たちの体が生きかえり、 |
前田訳 | そして墓が開いて、眠っていた多くの聖者の体が起きあがった。 |
新共同 | 墓が開いて、眠りについていた多くの聖なる者たちの体が生き返った。 |
NIV | The tombs broke open and the bodies of many holy people who had died were raised to life. |
27章53節 イエスの復活ののち墓をいで、聖なる都に入りて、多くの人に現れたり。[引照]
口語訳 | そしてイエスの復活ののち、墓から出てきて、聖なる都にはいり、多くの人に現れた。 |
塚本訳 | 墓から出てきて、イエスの復活の後、聖なる都(エルサレム)に入って多くの人に現われた。 |
前田訳 | そしてイエスの復活ののち墓から出て聖都に入り、多くの人に現われた。 |
新共同 | そして、イエスの復活の後、墓から出て来て、聖なる都に入り、多くの人々に現れた。 |
NIV | They came out of the tombs, and after Jesus' resurrection they went into the holy city and appeared to many people. |
註解: すべてが世の終末の予表であったと同じく、この聖徒の復活もまた世の終末にイエスの再臨の再にすべての聖徒の復活することの予表であった。この人類史上の最も重要なる機会における特別の神秘的出来事はこれを具体的に完全に記述することはできないのであって、いかなる姿において復活し、またこの復活せる聖徒らはその後どこへ行きしや等については記されていない。ただ当時の人々はこの場合に世の終末の縮図を幻のごとくに示されたものであろう。
27章54節 百卒長および之と共にイエスを守りゐたる者ども、地震とその有りし事とを見て甚く懼れ『實に彼は神の子なりき』と言へり。[引照]
口語訳 | 百卒長、および彼と一緒にイエスの番をしていた人々は、地震や、いろいろのできごとを見て非常に恐れ、「まことに、この人は神の子であった」と言った。 |
塚本訳 | 百卒長および一しょにイエスの見張りをしていた兵卒らは、地震とこれらの出来事とを見てすっかり恐ろしくなり、「この人は、確かに神の子であった」と言った。 |
前田訳 | 百卒長やいっしょにイエスを見張っていたものは地震やこれらのことを見て、たいそうおそれ、「本当に彼は神の子であった」といった。 |
新共同 | 百人隊長や一緒にイエスの見張りをしていた人たちは、地震やいろいろの出来事を見て、非常に恐れ、「本当に、この人は神の子だった」と言った。 |
NIV | When the centurion and those with him who were guarding Jesus saw the earthquake and all that had happened, they were terrified, and exclaimed, "Surely he was the Son of God!" |
註解: 彼らはイエスの口より出づる証言(マタ26:64)をばこれを単純に信ずることができず、地震とその他の出来事を見て神の審判なることを知りて懼れて始めて彼を信じた。
27章55節 その處にて遙に望みゐたる多くの女あり、イエスに事へてガリラヤより從ひ來りし者どもなり。[引照]
口語訳 | また、そこには遠くの方から見ている女たちも多くいた。彼らはイエスに仕えて、ガリラヤから従ってきた人たちであった。 |
塚本訳 | またそこには、遠くの方から眺めていた女たちが沢山いた。これはガリラヤからイエスについて来て、仕えていた人たちである。 |
前田訳 | そこでは多くの女たちが遠くから見守っていた。彼女らはガリラヤからイエスについて来て仕えていた。 |
新共同 | またそこでは、大勢の婦人たちが遠くから見守っていた。この婦人たちは、ガリラヤからイエスに従って来て世話をしていた人々である。 |
NIV | Many women were there, watching from a distance. They had followed Jesus from Galilee to care for his needs. |
註解: イエスが最後にエルサレムに上り給う時に従い来りし婦人たちであって、弟子たちがイエスを棄て去りし後にもこれらの婦人はなお彼を離れなかった。彼らが主としてイエスの臨終の目撃者であった。
27章56節 その中には、マグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフとの母マリヤ、及びゼベダイの子らの母などもゐたり。[引照]
口語訳 | その中には、マグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフとの母マリヤ、またゼベダイの子たちの母がいた。 |
塚本訳 | そのうちにはマグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフとの母マリヤ、およびゼベダイの子らの母がいた。 |
前田訳 | そのうちにはマグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフの母マリヤとゼベダイの子らの母がいた。 |
新共同 | その中には、マグダラのマリア、ヤコブとヨセフの母マリア、ゼベダイの子らの母がいた。 |
NIV | Among them were Mary Magdalene, Mary the mother of James and Joses, and the mother of Zebedee's sons. |
註解: マグダラのマリヤはヨハ12:1のマリヤとは別人であり又ルカ7:36の婦人とも混同してはならない。ヤコブとヨセフの母はアルパヨ(又の名はクロパ)の妻、ゼベダイの子ら(ヤコブとヨハネ)の母はサロメと称していた(マコ15:40)。
要義 [エリ、エリ、レマ、サバクタニについて]この語があまりに弱々しき響きをもっているので、キリストを信じることを欲せざる異教徒はこれに対して非難を浴せ、あたかもイエスがその臨終に際してその醜態を暴露せるもののごとく論じているのである。されどこれはイエスの死の意義を解せざるものの言である。イエスを信ぜし多くの聖徒が非常なる迫害の中に泰然たる態度を取り、従容として死に就いたことは教会歴史によって知ることができる事実である。ヨブすらも「彼われを殺すとも我は彼に依頼まん」(ヨブ13:15)と言っている。しかるを況んや彼らの主に在し給うイエスにおいて、その死に対する恐怖のためにかかる女々しき言を発し給うごときことはあるはずがない。この御言は全く彼が我らの罪を負いて神に棄てられ給いし瞬間の苦痛の叫びである。イエスの贖罪は神及イエスの御心に何らの実感をも起さざる外部的形式的代理関係ではない。実際神はイエスの上に人類の罪を置きてイエスを罪人と認め給い、イエスは神の御旨を奉じて人類に対する神の愛心より人類の罪を引受け給うた、神の審判がこの罪人なるイエスの上に下る時、神はイエスを棄て給いイエスはこの叫びを発し給うたのである。これ世の終において人類の発すべかりし叫声であった。幸にイエスを信ずるものはその罪を赦され世の終においてこの叫声を発することなしに喜びをもってイエスを迎え神の聖前に立つことができるのである。
10-4 ヨセフ、イエスを葬る 27:57 - 27:61(マコ15:42-47) (ルカ23:50-56) (ヨハ19:31-42)
27章57節 日暮れて、ヨセフと云ふアリマタヤの富める人きたる。彼もイエスの弟子なるが、[引照]
口語訳 | 夕方になってから、アリマタヤの金持で、ヨセフという名の人がきた。彼もまたイエスの弟子であった。 |
塚本訳 | 夕方になると、アリマタヤ生まれの金持でヨセフという人が来た。彼もイエスの弟子であった。 |
前田訳 | 夕になるとアリマタヤの出でヨセフという名の裕福な人が来た。彼もイエスの弟子であった。 |
新共同 | 夕方になると、アリマタヤ出身の金持ちでヨセフという人が来た。この人もイエスの弟子であった。 |
NIV | As evening approached, there came a rich man from Arimathea, named Joseph, who had himself become a disciple of Jesus. |
註解: このヨセフは衆議所の一員であったのでルカ23:50、エルサレム中に住んでいたのであろう。彼は密かにイエスの弟子となっていた(ヨハ19:38)。日没して安息日とならぬ中に屍体を埋めなければならなかった。ゆえに彼は未だ日全く没せぬ中にそこに行ったのである。
辞解
[アリマタヤ] エルサレムの北五里のラマなりとの説、またはエルサレムの北西十八里のラマタイムなりとの説(G1、G2、A1スミス)等あり。
27章58節 ピラトに往きてイエスの屍體を請ふ。ここにピラト之を付すことを命ず。[引照]
口語訳 | この人がピラトの所へ行って、イエスのからだの引取りかたを願った。そこで、ピラトはそれを渡すように命じた。 |
塚本訳 | この人がピラトの所に行って、イエスの体(の下げ渡し)を乞うた。そこでピラトはそれを渡すように命じた。 |
前田訳 | 彼はピラトのところへイエスの体をもらいに行った。そこでピラトはそれを渡すように命じた。 |
新共同 | この人がピラトのところに行って、イエスの遺体を渡してくれるようにと願い出た。そこでピラトは、渡すようにと命じた。 |
NIV | Going to Pilate, he asked for Jesus' body, and Pilate ordered that it be given to him. |
註解: ローマの官憲は死刑囚の屍に対する権利をもっていたので、ヨセフはピラトにこれを請うたのである。ヨセフのごとき高き地位の人が死刑囚の屍に対して礼を厚くしてこれを葬るごときは異常なる事柄であった。「彼は勿論多くの人の非難や反対を覚悟してこれを為なければならなかった。彼がこれを断行することができたのは神の恵によるのである」(C1)。
辞解
[屍體] 原語ソーマ sôma「體」 イエスの屍體をば福音書の記者は皆これを屍體プトーマ ptôma と言わず「體」と言っている、「ソーマ」も屍體の意味にも用いられるけれども「プトーマ」のごとく「死」の観念を多く含まない。
27章59節 ヨセフ屍體をとりて淨き亞麻布につつみ、[引照]
口語訳 | ヨセフは死体を受け取って、きれいな亜麻布に包み、 |
塚本訳 | ヨセフは体を受け取り、清らかな亜麻布で包み、 |
前田訳 | ヨセフは体を受け取り、清らかな亜麻布で包み、 |
新共同 | ヨセフはイエスの遺体を受け取ると、きれいな亜麻布に包み、 |
NIV | Joseph took the body, wrapped it in a clean linen cloth, |
註解: 囚人の屍体は囚人の墓地に埋られるか、または露天に放置して鷲の餌食とするのを常としていた。しかるにイエスの死体が浄き亜麻布につつまれたことは、彼の栄光の始めであるということができる(B1)。香料を用いしこと(ヨハ19:40)についてはマタイはこれを省略している。
27章60節 岩にほりたる己が新しき墓に納め、[引照]
口語訳 | 岩を掘って造った彼の新しい墓に納め、そして墓の入口に大きい石をころがしておいて、帰った。 |
塚本訳 | 岩に掘らせた自分の新しい墓にそれを納め、墓の入口に大きな石をころがしておいて、立ち去った。 |
前田訳 | 岩に掘った自らの新しい墓に納めた。そして大きな石を墓の入口にころがして立ち去った。 |
新共同 | 岩に掘った自分の新しい墓の中に納め、墓の入り口には大きな石を転がしておいて立ち去った。 |
NIV | and placed it in his own new tomb that he had cut out of the rock. He rolled a big stone in front of the entrance to the tomb and went away. |
註解: 新しき墓は古き死体によりて穢されず、イエスを葬るに適当なる場所であった。又この墓より復活するものはイエスより以外になきことを証明することができた。この墓がヨセフの所有であったことは他の福音書には記されず、ヨハネ伝(ヨハ19:42)によればむしろしからざるもののごとくに思われる。恐らくヨセフがこの墓を買取りて主の埋葬に供したものであろう。
墓の入口に大なる石を轉しおきて去りぬ。
註解: 岩石より成る地盤に穴を掘りてこれを墓となし、その上に石を転してこれを塞ぎ置く墓地はユダヤ地方に多く残っている。
27章61節 其處にはマグダラのマリヤと他のマリヤと墓に向ひて坐しゐたり。[引照]
口語訳 | マグダラのマリヤとほかのマリヤとが、墓にむかってそこにすわっていた。 |
塚本訳 | マグダラのマリヤともう一人のマリヤとはそこにのこって、墓の方を向いて坐っていた。 |
前田訳 | そこにマグダラのマリヤともうひとりのマリヤがいて、墓のほうを向いてすわっていた。 |
新共同 | マグダラのマリアともう一人のマリアとはそこに残り、墓の方を向いて座っていた。 |
NIV | Mary Magdalene and the other Mary were sitting there opposite the tomb. |
註解: 男の弟子たちは一人も残らず去った後に、この二人のみ主を偲ぶ心の切なるがためにその墓側を去りかねていた。イエスに対する純真なる愛がそこに顕われている。男子の弟子たちもイエスを愛していたけれども彼らの心には野心、名誉心等があったがためにその愛心の発露が妨げられたのであった。
10-5 イエスの墓固めらる 27:62 - 27:66
27章62節 あくる日、即ち準備日の翌日、祭司長らとパリサイ人らとピラトの許に集りて言ふ、[引照]
口語訳 | あくる日は準備の日の翌日であったが、その日に、祭司長、パリサイ人たちは、ピラトのもとに集まって言った、 |
塚本訳 | あくる日、すなわち支度日[金曜日]の次の日[安息日]に、大祭司連とパリサイ人とはピラトの所に集まって |
前田訳 | あくる日、すなわち準備日(そなえび)(金曜)の翌日、大祭司とパリサイ人がピラトのところへ来ていう、 |
新共同 | 明くる日、すなわち、準備の日の翌日、祭司長たちとファリサイ派の人々は、ピラトのところに集まって、 |
NIV | The next day, the one after Preparation Day, the chief priests and the Pharisees went to Pilate. |
註解: 準備日は金曜日であって安息日の前日に当る。その翌日故土曜日すなわち安息日である。ニサンの月の十六日。彼らはイエスの死後もなおその恐怖を除くことができず、イエスの復活の風説を恐れてこれを防がんと企てた。而してその計画がかえってイエスの復活の事実であることを証明する材料となったことに注意せよ。人間が狡猾や計略をもって神に敵せんとしてかえって自己を壊るに至ることは恐るべき神の力である。
27章63節 『主よ、かの惑すもの生き居りし時「われ三日の後に甦へらん」と言ひしを、我ら思ひいだせり。[引照]
口語訳 | 「長官、あの偽り者がまだ生きていたとき、『三日の後に自分はよみがえる』と言ったのを、思い出しました。 |
塚本訳 | 言った、「閣下、あの嘘つきがまだ生きている時、『自分は(死んで)三日の後に復活する』と言ったことを思い出しました。 |
前田訳 | 「閣下、あのうそつきがまだ生きているとき『わたしは三日ののちによみがえる』といったことが思い出されます。 |
新共同 | こう言った。「閣下、人を惑わすあの者がまだ生きていたとき、『自分は三日後に復活する』と言っていたのを、わたしたちは思い出しました。 |
NIV | "Sir," they said, "we remember that while he was still alive that deceiver said, `After three days I will rise again.' |
註解: 祭司長らやパリサイ人らは自ら教権主義の迷誤に陥っていた結果、かえってキリストをもって人を惑わす者と思っていた。真理は往々にしてかえって人を惑わすもののごとくに思われる場合がある(Uコリ6:8)。イエスの復活の預言は弟子たちのみならず、祭司長、パリサイ人らにも知れ渡っていた。彼らはこれを思い出して又更に新なる憂慮を加えたのである。自ら真理の上に立たざるもの、政策と方便によりて立っているものは常に憂慮と恐怖が絶えることがない。
27章64節 されば命じて三日に至るまで墓を固めしめ給へ、恐らくはその弟子ら來りて之を盜み、「彼は死人の中より甦へれり」と民に言はん。[引照]
口語訳 | ですから、三日目まで墓の番をするように、さしずをして下さい。そうしないと、弟子たちがきて彼を盗み出し、『イエスは死人の中から、よみがえった』と、民衆に言いふらすかも知れません。そうなると、みんなが前よりも、もっとひどくだまされることになりましょう」。 |
塚本訳 | だから三日目まで墓を警備するように命令してください。そうでないと、弟子たちが来て盗んでいって、人々に『イエスは死人の中から復活した』と言いふらさないとはかぎりません。そうなると、このあとの方の嘘は、(自分は救世主だと言った)前の(嘘)よりも始末が悪いでしょう。」 |
前田訳 | それゆえ三日目まで墓を守るよう命じてください。さもないと、弟子たちが来て彼を盗み、民に『彼が死人の中からよみがえった』ということでしょう。するとこのあとのほうのうそは前の(イエスの)より悪いでしょう」と。 |
新共同 | ですから、三日目まで墓を見張るように命令してください。そうでないと、弟子たちが来て死体を盗み出し、『イエスは死者の中から復活した』などと民衆に言いふらすかもしれません。そうなると、人々は前よりもひどく惑わされることになります。」 |
NIV | So give the order for the tomb to be made secure until the third day. Otherwise, his disciples may come and steal the body and tell the people that he has been raised from the dead. This last deception will be worse than the first." |
註解: 彼らのこの計画が不思議にもかえってイエスの復活の確証となった。何となれば番兵により墓を固めることにより何人もその屍体を盗むことができないはずであったのに、イエスの体はその墓の中に無かったからである。彼らが弟子たちが偽を言うならんと恐れたのは自己の心事から連想したのである。
然らば後の惑は前のよりも甚だしからん』
註解: 彼らは人民を愛して彼らを迷誤に陥れざらんことを努力しているごとくに見える。彼ら自身も然りと信じていたであろう。しかしながら彼らに二つの誤謬があった。その一は彼ら自身が迷誤に陥っていたことを知らなかったことである。その二は彼らの心中に不知不識(知らずしらず)の間に、自己の利益、地位、権限を防衛せんとする本能が働いていたことである。この二者が働く時保守的愛国者はキリスト教徒を迫害し、誤れるキリスト者は真理を主張する同信者を迫害しつつ、自ら正しきを行っているかのごとくに誤信するのである。
27章65節 ピラト言ふ『なんぢらに番兵あり、往きて力限り固めよ』[引照]
口語訳 | ピラトは彼らに言った、「番人がいるから、行ってできる限り、番をさせるがよい」。 |
塚本訳 | ピラトが言った、「番兵をかしてやる。行って、せいぜい(墓を)警備するがよかろう。」 |
前田訳 | ピラトは彼らにいった、「番兵をつかわしましょう。行ってできるだけ見張りなさい」と。 |
新共同 | ピラトは言った。「あなたたちには、番兵がいるはずだ。行って、しっかりと見張らせるがよい。」 |
NIV | "Take a guard," Pilate answered. "Go, make the tomb as secure as you know how." |
註解: 「なんぢらに番兵あり」は「汝らに番兵を与う」との意味であって、祭司長らが兵隊を所有していたのではない。「力限り」は原語「知るごとく」であって「汝らの知っている最善の方法で」との意味である。このピラトの返答は極めて簡潔であって、「兵隊をやるから勝手に好きなようにし給え」というがごとき語気を含み速やかに彼らを去らしめて自己の責任を回避せんとの心持を示している。
27章66節 乃ち彼らゆきて石に封印し、番兵を置きて墓を固めたり。[引照]
口語訳 | そこで、彼らは行って石に封印をし、番人を置いて墓の番をさせた。 |
塚本訳 | そこで彼らは行って(入口の)石に封印し、番兵を置いて墓を警備した。 |
前田訳 | そこで彼らは行って墓を守り、番兵とともに石を封印した。 |
新共同 | そこで、彼らは行って墓の石に封印をし、番兵をおいた。 |
NIV | So they went and made the tomb secure by putting a seal on the stone and posting the guard. |
註解: 封印を施したのは、番兵自身をも疑いてこれを為したのであって、彼らはこれだけの手段を取ればそれで安心であると思ったのである。
要義 [人間の計画と神の目的の成就]人間がいかに用意周到に計画をなし、神の目的に反する事柄のために努力しても、神はかえってその人間の計画をば失敗に帰せしめつつ、その人間の業を利用して、神御自身の目的の達成の手段となし給うことは驚くべき神の知恵と言わなければならない。キリストの受難とその十字架の前後の諸々の事件は一方より見れば全く人間の計画の遂行に過ぎず、しかも一時はこの計画が成功せるもののごとく見えたるにも関わらず神はこの人間の計画を虚しきに帰せしめ、かえって人間の業を利用して十字架の贖によりその愛の目的を達し給うた。その他の事柄においても同様であって、例えば神の福音によらずして、否、福音を迫害して、神によらざる幸福なる社会と人生とを創造せんとする努力が行われることは、昔も今も又今後といえども同様であるが、神はこれらの計画を空しきに帰せしめつつ、これを利用してその御旨を成就し給う。近世における欧州の文明は、神の国の実現であるかのごとき誇を持っておったけれども、神はこれをまさに虚しきに帰せしめんとしつつあり給うと同時に、この文明を利用して福音を全世界に伝え給うた。神の御旨がなることは感謝すべきことである。