黒崎幸吉著 註解新約聖書 Web版使徒行伝

使徒行伝第24章

分類
6 捕囚のパウロ 21:17 - 28:31
6-2 カイザリヤに於けるパウロ 23:31 - 26:32
6-2-2 ペリクスの前に於けるパウロの弁論 24:1 - 24:21

24章1節 五日(いつか)ののち、(だい)祭司(さいし)アナニヤ數人(すにん)長老(ちゃうらう)およびテルトロと()辯護士(べんごし)とともに(くだ)りてパウロを總督(そうとく)(うった)ふ。[引照]

口語訳五日の後、大祭司アナニヤは、長老数名と、テルトロという弁護人とを連れて下り、総督にパウロを訴え出た。
塚本訳五日の後に、大祭司アナニヤは(最高法院の)長老数人とテルトロという弁護士とをつれて(カイザリヤに)下り、皆で総督に対しパウロに不利な申し出をした。
前田訳五日の後、大祭司アナニヤは長老数人とテルトロという弁護士とともに下り、総督にパウロを訴えた。
新共同五日の後、大祭司アナニアは、長老数名と弁護士テルティロという者を連れて下って来て、総督にパウロを訴え出た。
NIVFive days later the high priest Ananias went down to Caesarea with some of the elders and a lawyer named Tertullus, and they brought their charges against Paul before the governor.
註解: 五日を何れの日より数え始むべきかにつき諸説あり(11節註参照)、パウロがカイザリヤに到着した日より計算するを可とす。アナニヤは深くパウロを恨み(みずか)ら出向いてパウロを訴えた。テルトロはロマ人らしき名称である。弁護士は雄弁家で、弁論を以て訴訟を助けた。

6-2-2-イ テルトロの論告 24:2 - 24:9

24章2節 パウロ()(いだ)されたれば、[引照]

口語訳パウロが呼び出されたので、テルトロは論告を始めた。「ペリクス閣下、わたしたちが、閣下のお陰でじゅうぶんに平和を楽しみ、またこの国が、ご配慮によって、
塚本訳パウロが呼び出されると、テルトロは次のように告発の理由を述べ始めた。「ペリクス閣下、お蔭でわれわれは大なる泰平を楽しみ、また御高配によってこの国民のために改善が、
前田訳パウロが呼ばれると、テルトロは次のように告発しはじめた、「あなたのおかげで全き平和がおとずれ、お指図によってこの民に改善がなされました。
新共同-3節 パウロが呼び出されると、テルティロは告発を始めた。「フェリクス閣下、閣下のお陰で、私どもは十分に平和を享受しております。また、閣下の御配慮によって、いろいろな改革がこの国で進められています。私どもは、あらゆる面で、至るところで、このことを認めて称賛申し上げ、また心から感謝しているしだいです。
NIVWhen Paul was called in, Tertullus presented his case before Felix: "We have enjoyed a long period of peace under you, and your foresight has brought about reforms in this nation.
註解: 「呼び出され」とあって「引出され」と云わざる処にパウロに対する取扱振を示す(B1)。

テルトロ(うった)()でて()ふ『ペリクス閣下(かくか)よ、われらは(なんぢ)によりて太平(たいへい)(たの)しみ、

24章3節 なんぢの先見(せんけん)によりて、()國人(くにびと)のために(とき)(したが)(ところ)(したが)ひて、()しき(こと)(あらた)められたるを感謝(かんしゃ)して()まず。[引照]

口語訳あらゆる方面に、またいたるところで改善されていることは、わたしたちの感謝してやまないところであります。
塚本訳あらゆる方面、あらゆる所で行われていることを見て、われわれはあらゆる感謝を捧げる者であります。
前田訳ペリクス閣下、いつでもどこでもわれらはそれらを心からの感謝をもってお認めいたします。
新共同
NIVEverywhere and in every way, most excellent Felix, we acknowledge this with profound gratitude.
註解: 雄弁家テルトロは先づ阿諛(あゆ)の言を以てペリクスに媚びた。ペリクスにつきては二三の小功績が伝えられれる以外格別の功績が記録せられず、ヨセフスの歴史によればその死後ユダヤ人は彼の残虐に怨嗟(えんさ)の声を発したとの事である(古代史20・8・9)。従ってテルトロの言が一片の阿諛(あゆ)である事は明らかである。
辞解
[先見] pronoia は神につきて多く用いられる語。
[時に随い] むしろ「凡ての事につき」と訳すべきである。
[感謝して罷まず] 「感謝を以てこれを受く」で有難く頂戴していると云う意味である。
[悪しき事の改められたる] diorthômata は「改革が行われたる事」。

24章4節 ここに喃々(くどくど)しく()べて(なんぢ)(さまた)ぐまじ、[引照]

口語訳しかし、ご迷惑をかけないように、くどくどと述べずに、手短かに申し上げますから、どうぞ、忍んでお聞き取りのほど、お願いいたします。
塚本訳しかし長くお耳をけがさないように、手短かに申し上げます。どうか(世に知られた)御寛容をもってお聞きくださるよう願います。
前田訳長くおわずらわせしないため、手短に申しますから、寛大にお聞きくださるようお願いいたします。
新共同さて、これ以上御迷惑にならないよう手短に申し上げます。御寛容をもってお聞きください。
NIVBut in order not to weary you further, I would request that you be kind enough to hear us briefly.
註解: 私訳「この上汝を妨げざらん為に」

(ねが)はくは寛容(くわんよう)をもて()(すこ)しの(ことば)()け。

註解: 私訳「汝の寛容を以て簡単に我ら〔の言〕に聴かん事を請う」職業的雄弁家の弁舌の口調である

24章5節 我等(われら)この(ひと)()るに(あたか)疫病(えきびゃう)のごとくにて、[引照]

口語訳さて、この男は、疫病のような人間で、世界中のすべてのユダヤ人の中に騒ぎを起している者であり、また、ナザレ人らの異端のかしらであります。
塚本訳つまりこういうことです。この男は疫病のように、世界中のユダヤ人の間に紛争をひきおこし、またあのナザレ人の異端の首魁であることを、われわれは確かめました。
前田訳この男は疫病のような男で、全世界のユダヤ人に争いをおこし、ナザレ人の派の頭であることがわれらにわかりました。
新共同実は、この男は疫病のような人間で、世界中のユダヤ人の間に騒動を引き起こしている者、『ナザレ人の分派』の主謀者であります。
NIV"We have found this man to be a troublemaker, stirring up riots among the Jews all over the world. He is a ringleader of the Nazarene sect
註解: その疫病を全世界に伝播する為に世界を馳廻りつつある事。

全世界(ぜんせかい)のユダヤ(びと)のあひだに騷擾(さわぎ)をおこし、

註解: 是が罪状の第一で各地に騒擾(そうじょう)を起す事である。即ち騒擾(そうじょう)罪にしてカイザルに対する重罪である。

(かつ)ナザレ(びと)異端(いたん)(かしら)にして、

24章6節 (みや)をさへ(けが)さんとしたれば(これ)(とら)へたり。[引照]

口語訳この者が宮までも汚そうとしていたので、わたしたちは彼を捕縛したのです。〔そして、律法にしたがって、さばこうとしていたところ、
塚本訳そればかりか(異教人をつれ込んでエルサレムの)宮を犯そうとしましたので、彼を捕縛したのであります。
前田訳この男は宮をも汚そうとしましたので捕えました。〔われらの律法で裁こうとしましたが、
新共同この男は神殿さえも汚そうとしましたので逮捕いたしました。(†底本に節が欠落 異本訳<24:6b-8a>)そして、私どもの律法によって裁こうとしたところ、千人隊長リシアがやって来て、この男を無理やり私どもの手から引き離し、告発人たちには、閣下のところに来るようにと命じました。
NIVand even tried to desecrate the temple; so we seized him.
註解: 〔6節の後半及7節及8節の始めなし〕ナザレはイエスの幼時の故郷なる故、イエスを指すにナザレ人なる名称を以てし、これに軽蔑の意を含めてイエスのメシヤにあらざる事を風刺す(ヨハ1:46ヨハ7:41、42)従ってナザレ人の異端は基督教を指す。パウロはその首即ち頭目、首魁と目せられ、是が罪状の第二である。而して罪状の第三として宮を涜さんとした事を挙げている。尚六節後半以下はベザ写本其他に「而して我らの律法に従いて審かんとせしに、(7)千卒長ルシヤ来り暴力を以て我らの手より奪い去り、(8)訴うる者を汝に来る様命じたり」とあり。この写本によれば次節の「この人」はルシヤと解する事が自然である。但し是等の挿入句は重要なる写本の多くに欠けている。

24章7節 [なし][引照]

口語訳千卒長ルシヤが干渉して、彼を無理にわたしたちの手から引き離してしまい、
塚本訳[以下及び七、八前半無シ]
前田訳千卒長ルシアが来て無理に彼をわれらの手からとり、
新共同
NIV

24章8節 (なんぢ)この(ひと)()きて(ただ)さば(われ)らの(うった)ふる(ところ)をことごとく()()べし』[引照]

口語訳彼を訴えた人たちには、閣下のところに来るようにと命じました。〕それで、閣下ご自身でお調べになれば、わたしたちが彼を訴え出た理由が、全部おわかりになるでしょう」。
塚本訳お取り調べになれば、われわれが告発しているこの一切のことを、御自身で彼(の口)からお聞きになることが出来ます。」
前田訳彼を訴えるものにあなたのところに来るよう命じました。〕ご自身お調べになれば、われらが訴えていることすべてがおわかりになります」と。
新共同閣下御自身でこの者をお調べくだされば、私どもの告発したことがすべてお分かりになるかと存じます。」
NIVBy examining him yourself you will be able to learn the truth about all these charges we are bringing against him."
註解: 「この人」はパウロを指す、この方が前後の関係上自然である。

24章9節 ユダヤ(びと)(これ)(くは)へて、(まこと)にその(ごと)くなりと主張(しゅちゃう)す。[引照]

口語訳ユダヤ人たちも、この訴えに同調して、全くそのとおりだと言った。
塚本訳ユダヤ人たちも事実その通りだと言って、一緒になって攻撃した。
前田訳ユダヤ人たちも、ことはそのとおりといって、共に攻めた。
新共同他のユダヤ人たちもこの告発を支持し、そのとおりであると申し立てた。
NIVThe Jews joined in the accusation, asserting that these things were true.
註解: 「加えて」は同意を表して追加せし事を示す。

6-2-2-ロ パウロの答弁 24:10 - 24:21

註解: 10-21はパウロがエルサレムに於て為せる二つの弁論と並ぶべき弁論で、10-13は5節前半の騒擾(そうじょう)罪としての告訴に対する反駁であり、14-16はその信ずる処は正しき信仰である事を述べて5節後半に対する反駁(はんばく)をなし、17-21は宮を汚せる事無きを論じて6節に対する反駁(はんばく)を与えている。

24章10節 總督(そうとく)(かうべ)にて(しめ)しパウロに()はしめたれば、[引照]

口語訳そこで、総督が合図をして発言を促したので、パウロは答弁して言った。「閣下が、多年にわたり、この国民の裁判をつかさどっておられることを、よく承知していますので、わたしは喜んで、自分のことを弁明いたします。
塚本訳そこでパウロが答えた、総督が話すようにと合図をしたのである。「あなたが長年この国民の裁判官であ(り、よく下情に通じておられ)ることを承知しておりますので、安心して自分のことを弁明いたします。
前田訳総督が話すよう合図したので、パウロは答えた、「多年あなたがこの民の裁判官であられることを知っておりますので、安心してわたしのことを弁明いたします。
新共同総督が、発言するように合図したので、パウロは答弁した。「私は、閣下が多年この国民の裁判をつかさどる方であることを、存じ上げておりますので、私自身のことを喜んで弁明いたします。
NIVWhen the governor motioned for him to speak, Paul replied: "I know that for a number of years you have been a judge over this nation; so I gladly make my defense.
註解: 総督の威張っている態度が眼前に髣髴する。

(こた)ふ『なんぢが(とし)(ひさ)しく、この國人(くにびと)審判(さばき)(びと)たることを(われ)()るゆゑに、(よろこ)びて()辯明(べんめい)をなさん。

註解: パウロは正当なる理由を挙げてペリクスに敬意を表している。テルトロの阿諛(あゆ)の言と比較せよ。
辞解
[年久しく] ペリクスは紀元五十二年頃より総督となった故、六七年の経験あり、パウロはこれを信頼の態度を以て賞揚した。

24章11節 なんぢ()()べし、()禮拜(れいはい)のためにエルサレムに(のぼ)りてより(わず)十二(じふに)(にち)()ぎず、[引照]

口語訳お調べになればわかるはずですが、わたしが礼拝をしにエルサレムに上ってから、まだ十二日そこそこにしかなりません。
塚本訳(この人たちはわたしがエルサレムを騒がせたように言いますが、)わたしが礼拝のためエルサレムに上ってから十二日以上はたっていないことを、あなたは(容易に)お聞きになることが出来ます。(そんな短かい間に、どうして騒動など起こすことが出来ましょうか。)
前田訳ご確認がおできのとおり、わたしが礼拝のためエルサレムへ上ってから十二日以上たってはいません。
新共同確かめていただけば分かることですが、私が礼拝のためエルサレムに上ってから、まだ十二日しかたっていません。
NIVYou can easily verify that no more than twelve days ago I went up to Jerusalem to worship.
註解: 短時日の間に5節前半の如き騒擾(そうじょう)罪を起すはずもなくその(いとま)もなき事を論ず。
辞解
[十二日] 精確に計上する事は至難であり従って種々の計上法あり、使21:27の「七日の終らんとする時」の起算点及日数が不明であり使24:1の五日の起算点が不明である。A1、M0等の計算法によれば第一日、エルサレム着(使21:15-17)。第二日、ヤコブとの面会(使21:18)。第三日、誓願(使21:26)。第七日目に騒擾(そうじょう)起り捕縛さる(使21:27)。第八日に議会の前に立ち(使22:30使23:1-10)、第九日目に陰謀を知り夜遅くエルサレムを連れ出され、翌日カイザリヤにつく(使23:12使23:23使23:31、32)。この日より起算して第五日目にアナニヤ、カイザリヤに来りてペリクスの前に立つ、即ち第十三日目なり(使24:1)。他も(ほぼ)類似の計算法による。この計算法は(やや)あわただしきが如きも学者の通説である。予はむしろヤコブに会いてより誓願を始むるまでの間に一二日の準備を要せるものと仮定しエルサレムを去るまでの日数を十二日と計算する方が事情に適すと信ず。「十二日に過ぎず」の中にカイザリヤ滞在の日数を加える事は無意昧であり且つあまりにあわただしきを感ずるからである。この「過ぎず」は現在動詞なれど上の如くに見る事も不可能ではない。

24章12節 また(かれ)らは、()(みや)にても會堂(くわいだう)にても市中(しちゅう)にても(ひと)(あらそ)ひ、群衆(ぐんじゅう)(さわ)がしたるを()ず、[引照]

口語訳そして、宮の内でも、会堂内でも、あるいは市内でも、わたしがだれかと争論したり、群衆を煽動したりするのを見たものはありませんし、
塚本訳またこの人たちは、わたしがだれかと議論したり、民衆を煽動したりするのを、宮でも、礼拝堂でも、都の中でも見たことはないし、
前田訳この人たちは宮の中でわたしがだれかと議論したり、群衆を扇動したりするのを見たことはなく、諸会堂でも町の中でも同様です。
新共同神殿でも会堂でも町の中でも、この私がだれかと論争したり、群衆を扇動したりするのを、だれも見た者はおりません。
NIVMy accusers did not find me arguing with anyone at the temple, or stirring up a crowd in the synagogues or anywhere else in the city.
註解: 18節参照。6節の提訴に対する反駁(はんばく)である。
辞解
[争い] dialegomai は議論する事、即ちパウロはこの際エルサレムに於て福音を伝え、これに関する議論を為す事を控えた事を高調している。「群衆を(さわ)がしたる」は「群衆の騒擾(さわぎ)を起したる」。

24章13節 いま(うった)へたる()(こと)につきても證明(しょうめい)すること(あた)はざるなり。[引照]

口語訳今わたしを訴え出ていることについて、閣下の前に、その証拠をあげうるものはありません。
塚本訳今わたしを告発していることについて、あなたに証拠を提出することもで来ません。
前田訳今わたしを訴えていることについて、この人たちは証拠立てができません。
新共同そして彼らは、私を告発している件に関し、閣下に対して何の証拠も挙げることができません。
NIVAnd they cannot prove to you the charges they are now making against me.
註解: テルトロ等はパウロに関する風評と、エルサレムに起れる騒擾(さわぎ)を以てパウロが起したものとして訴えたけれども、これを証明する事は出来ない。

註解: 14-16は5節末の「ナザレ人の異端の首」なる訴に対する弁論。

24章14節 (われ)ただ()一事(いちじ)(なんぢ)()ひあらはさん、(すなは)(われ)(かれ)らが異端(いたん)(とな)ふる(みち)(したが)ひて()先祖(せんぞ)たちの(かみ)につかへ、[引照]

口語訳ただ、わたしはこの事は認めます。わたしは、彼らが異端だとしている道にしたがって、わたしたちの先祖の神に仕え、律法の教えるところ、また預言者の書に書いてあることを、ことごとく信じ、
塚本訳しかしわたしは次のことは正直に認めます。わたしは(キリストの)道に従って、(この人たちと同じ)祖先の神を礼拝しております、この人たちはこれを異端と言って(そしって)おりますが。すなわちわたしは(モーセ)律法と預言書[聖書]とに書いてあることを全部信じ、
前田訳しかし次のことは認めます、わたしは彼らが異端という道に従って、われらの先祖の神に仕え、律法と預言とに書いてあることはすべて信じています。
新共同しかしここで、はっきり申し上げます。私は、彼らが『分派』と呼んでいるこの道に従って、先祖の神を礼拝し、また、律法に則したことと預言者の書に書いてあることを、ことごとく信じています。
NIVHowever, I admit that I worship the God of our fathers as a follower of the Way, which they call a sect. I believe everything that agrees with the Law and that is written in the Prophets,
註解: ユダヤ人は我らを異端と呼ぶけれども、キリストの福音は一つの新しき道であって、ユダヤ教に反対する異端ではない。従ってパウロの事うる神は「先祖たちの神」であってユダヤ人らの事うる神と同一である。
辞解
[異端] 本来「派」を意味するけれども(パリサイ派サドカイ派の如し)此処では悪しき意味に用う。

律法(おきて)預言者(よげんしゃ)(ふみ)とに(しる)したる(こと)をことごとく(しん)じ、

註解: 基督者は旧約聖書を否定せず(ことごと)くこれを信じ、且つそれがイエス・キリストによりて完成、成就せられし事を信じた。この意味に於てもユダヤ人の信仰と同一の道を進んでいるものである。

24章15節 かれら(みづか)らも()てるごとく、義者(ぎしゃ)不義者(ふぎしゃ)との復活(よみがへり)あるべしと、(かみ)(あふ)ぎて(のぞみ)(いだ)くなり。[引照]

口語訳また、正しい者も正しくない者も、やがてよみがえるとの希望を、神を仰いでいだいているものです。この希望は、彼ら自身も持っているのです。
塚本訳(また)この人たち自身もいだいている(復活の希望、)正しい人と正しくない人との復活が来ようとしているという希望を、神に対して持っているのであります。
前田訳そしてこの人たち自身も抱いている神への希望を持っています。それは正しい人も正しくない人もやがて復活するということです。
新共同更に、正しい者も正しくない者もやがて復活するという希望を、神に対して抱いています。この希望は、この人たち自身も同じように抱いております。
NIVand I have the same hope in God as these men, that there will be a resurrection of both the righteous and the wicked.
註解: 信仰に於て同一なるのみならず、希望に於ても同一である。即ち死者の復活の希望である。但しサドカイ派の人々はこれを信じなかったけれどもパウロはこれを無視して概括的に論じている。即ちパウロの信ずる処はユダヤ人らの信仰と本質的に同一であって、彼らに異端視せられ、迫害される理由なき事を意味す、尚ヨセフスはパリサイ人は不義者の復活を信ぜざる事を記しているけれども、間違っている(S2)。

24章16節 この(ゆゑ)に、[引照]

口語訳わたしはまた、神に対しまた人に対して、良心に責められることのないように、常に努めています。
塚本訳それでわたし自身も(裁きの日の近いことを思って、)神と人とに対しやましくない良心を持つように、絶えず努力しているのであります。
前田訳それゆえわたし自身も神と人々に対して絶えずやましくない良心を持つよう努めております。
新共同こういうわけで私は、神に対しても人に対しても、責められることのない良心を絶えず保つように努めています。
NIVSo I strive always to keep my conscience clear before God and man.
註解: 以上14、15節の如き信仰と希望とを有つゆえに

われ(つね)(かみ)(ひと)とに(たい)して良心(りゃうしん)(せめ)なからんことを(つと)む。

註解: 信仰に伴う道徳生活にも充分に努力し、修養して神に仕うる事に於てもまた人に事うる事に於ても良心が咎められる如き事なき様にしているとの意。
辞解
[勉む] askô は訓練する事。

24章17節 (われ)(おほ)くの(とし)()てのち(かへ)りきたり、()(たみ)施濟(ほどこし)をなし、また献物(ささげもの)をささげゐたりしが、[引照]

口語訳さてわたしは、幾年ぶりかに帰ってきて、同胞に施しをし、また、供え物をしていました。
塚本訳さて、(わたしが捕えられたのはこういう訳です。)わたしは同胞(である兄弟たち)に寄付金を持って来るため、また(宮で)献げ物をするため、幾年ぶりかに(エルサレムに)来たのですが、
前田訳わが民に施しをし、またささげものをするために、何年ぶりかで帰って来ました。
新共同さて、私は、同胞に救援金を渡すため、また、供え物を献げるために、何年ぶりかで戻って来ました。
NIV"After an absence of several years, I came to Jerusalem to bring my people gifts for the poor and to present offerings.
註解: 使18:22の後とすれば約四年後のエルサレム訪問となる。マケドニヤ、アカヤの信徒より金銭を醵出(きょしゅつ)してエルサレムの基督者に施済(ほどこし)をなす事はパウロの上京の目的であった、献物(ささげもの)をささぐる為に上京せる事は他に記事なし、恐らく使21:26のナザレ人の誓願を指したのであろう。
辞解
本節は「幾年かの後わが民に施済(ほどこし)をなし献物(ささげもの)をささげんとて来り」と訳すべきで献物(ささげもの)をささぐる事も上京の目的の様に見えるけれども、事実に(もと)るが為にパウロは他にささげものを為さんとの心組なりしと解す説あり。
[わが民] パウロの愛国心をあらわす。

24章18節 その(とき)かれらは()(きよめ)をなして(みや)にをるを()たるのみにて群衆(ぐんじゅう)もなく騷擾(さわぎ)もなかりしなり。[引照]

口語訳そのとき、彼らはわたしが宮できよめを行っているのを見ただけであって、群衆もいず、騒動もなかったのです。
塚本訳宮で清めをして献げ物をしている時に──別に人だかりもなく騒ぎもなかった──人々はわたしを見たのであります。
前田訳そのとき彼らは宮で清めを受けるわたしを見受けましたが、群衆もおらず、騒ぎもありませんでした。
新共同私が清めの式にあずかってから、神殿で供え物を献げているところを、人に見られたのですが、別に群衆もいませんし、騒動もありませんでした。
NIVI was ceremonially clean when they found me in the temple courts doing this. There was no crowd with me, nor was I involved in any disturbance.
註解: 「その時」は献物(ささげもの)をなしている時の事、「潔をなして」はナザレ人の誓願の為の潔であろう。即ちパウロはその時は自分だけで立派に静粛にユダヤ人として行動していた。煽動すべき群衆もなく、鎮静さるべき騒擾(さわぎ)もなかった。

24章19節 (しか)るにアジアより(きた)れる數人(すにん)のユダヤ(びと)ありて――もし(われ)(とが)むべき(こと)あらば、(かれ)らが(なんぢ)(まへ)()でて(うった)ふることを()べきなり。[引照]

口語訳ところが、アジヤからきた数人のユダヤ人が—彼らが、わたしに対して、何かとがめ立てをすることがあったなら、よろしく閣下の前にきて、訴えるべきでした。
塚本訳見たのはアジヤから来た数人のユダヤ人ですが、あの人たちはわたしに対して何か告発することがあるのなら、(自分で)あなたの前に出て(堂々と)告発すべきであったのです。
前田訳アジアから来た数名のユダヤ人はおりました。彼らこそ、わたしに何か責めることがあるならば、あなたの前に来て訴えるべきです。
新共同ただ、アジア州から来た数人のユダヤ人はいました。もし、私を訴えるべき理由があるというのであれば、この人たちこそ閣下のところに出頭して告発すべきだったのです。
NIVBut there are some Jews from the province of Asia, who ought to be here before you and bring charges if they have anything against me.
註解: 不完全な文章で「ユダヤ人ありて」の次に「彼らこそ騒擾(さわぎ)を惹起したのであった」との意を含蓄す。彼らは汝の前に訴うべきであるのに、これを為さずして却って騒擾(さわぎ)を起し訴うべき理由なき祭司、長老等が訴えているとは全く理由なき事である。

24章20節 (あるひ)はまた此處(ここ)なる人々(ひとびと)自身(じしん)こそ)、わが(さき)議會(ぎくわい)()ちしとき、(われ)(なに)不義(ふぎ)(みと)めしか()へ。[引照]

口語訳あるいは、何かわたしに不正なことがあったなら、わたしが議会の前に立っていた時、彼らみずから、それを指摘すべきでした。
塚本訳あるいはまた(ここにいる)この(エルサレムの)人たち自身も、わたしが最高法院の前に立ったとき、どんな不正が(わたしに)認められたか、言ってみたまえ!
前田訳あるいは、ここにいる人たち自身も、わたしが法院に立ったとき、どんな不正を認めたかをいうべきです。
新共同さもなければ、ここにいる人たち自身が、最高法院に出頭していた私にどんな不正を見つけたか、今言うべきです。
NIVOr these who are here should state what crime they found in me when I stood before the Sanhedrin--
註解: パウロは彼らに何等の根拠なき事を云っていた。

24章21節 (ただ)われ(かれ)らの(うち)()ちて「死人(しにん)(よみが)へる(こと)につきて(われ) 今日(けふ)(なんぢ)らの(まへ)にて(さば)かる」と(よば)はりし一言(ひとこと)(ほか)には[(なに)もなかるべし]』[引照]

口語訳ただ、わたしは、彼らの中に立って、『わたしは、死人のよみがえりのことで、きょう、あなたがたの前でさばきを受けているのだ』と叫んだだけのことです」。
塚本訳『わたしは死人の復活のためにきょうあなた達の前で裁判されているのです』と、みんなの中に立って叫んだその一言のほかに!」
前田訳彼らの間に立って、『死人の復活について、きょうわたしはあなた方の前で裁かれている』とただひとこと叫んだだけです」。
新共同彼らの中に立って、『死者の復活のことで、私は今日あなたがたの前で裁判にかけられているのだ』と叫んだだけなのです。」
NIVunless it was this one thing I shouted as I stood in their presence: `It is concerning the resurrection of the dead that I am on trial before you today.'"
註解: 「審かるべき点がありとすればこの一言(原語一声)だけであろう」と云うパウロの挑戦は聖なる皮肉である(B1、使23:6参照)。蓋しパリサイ人は死人の甦りを堅く信じていたからである。

6-2-3 ペリクスのパウロに対する態度 24:22 - 24:27

24章22節 ペリクスこの(みち)のことを(くは)しく()りたれば、[引照]

口語訳ここでペリクスは、この道のことを相当わきまえていたので、「千卒長ルシヤが下って来るのを待って、おまえたちの事件を判決することにする」と言って、裁判を延期した。
塚本訳するとペリクスは(キリストの)道のことに非常に精通していたので、「千卒長ルシヤが(エルサレムから)下ってきた上で、(改めて)お前たちの事件の判決を下すことにする」と言って、裁判の延期を言い渡した。
前田訳ペリクスは、この道について詳しく知っていたので、裁判を延期した。そしていった、「千卒長ルシアが下ってきたとき、あなた方の事件の判決を下そう」と。
新共同フェリクスは、この道についてかなり詳しく知っていたので、「千人隊長リシアが下って来るのを待って、あなたたちの申し立てに対して判決を下すことにする」と言って裁判を延期した。
NIVThen Felix, who was well acquainted with the Way, adjourned the proceedings. "When Lysias the commander comes," he said, "I will decide your case."
註解: ペリクスがカイザリヤに職を有った関係上、または妻ドルシラがこの新宗教に興味を有っていたらしい関係上、パウロの弁駁(べんばく)及びユダヤ人の誹謗以上に詳しく基督教につき知っていたものと思はれる。

審判(さばき)(のば)して()

註解: 延期せる真の動機は26節の理由か、または速急に決定し得る材料なき為か、またはユダヤ人を怒らせない為か判然しない。この凡ての理由が働いたのであろう。

千卒長(せんそつちゃう)ルシヤの(くだ)るを()ちて(なんぢ)らの(こと)(さだ)むべし』

註解: 果して其後千卒長が下向せるや否や等は不明である。これは要するにペリクスの其場限りの遁辞(とんじ)であったらしい。

24章23節 かくて百卒長(ひゃくそつちゃう)(めい)じパウロを(まも)らせ、(ゆるや)かならしめ、かつ(とも)(これ)(つか)ふるをも(きん)ぜざらしむ。[引照]

口語訳そして百卒長に、パウロを監禁するように、しかし彼を寛大に取り扱い、友人らが世話をするのを止めないようにと、命じた。
塚本訳そして百卒長に命令して(引きつづき)パウロを監禁させたが、寛大に取り扱わせ、彼の仲間のだれでもが自由に奉仕できるようにした。
前田訳彼は百卒長にパウロを監禁するよう命じたが、ゆるやかにし、仲間のものが彼の世話をするのをひとりも妨げないようにした。
新共同そして、パウロを監禁するように、百人隊長に命じた。ただし、自由をある程度与え、友人たちが彼の世話をするのを妨げないようにさせた。
NIVHe ordered the centurion to keep Paul under guard but to give him some freedom and permit his friends to take care of his needs.
註解: 寛大なる幽閉であった。27節によれば鎖にて繋がれ居るものの如きも、必ずしも文字通り鎖の下にあったと解する必要はない。その弟子、同労者たち(ロマ16:7コロ4:10ピレ1:23)との会合談話等は自由であった。夫ゆえに彼の伝道の機会は失せなかった。
辞解
[寛かならしめ] 「休息を持たせ」。
[友] 原語「彼の所属者」一般的に云う。

24章24節 數日(すにち)(のち)ペリクス、その(つま)なるユダヤ(びと)(をんな)ドルシラとともに(きた)り、パウロを()びよせてキリスト・イエスに(たい)する信仰(しんかう)のことを()き、[引照]

口語訳数日たってから、ペリクスは、ユダヤ人である妻ドルシラと一緒にきて、パウロを呼び出し、キリスト・イエスに対する信仰のことを、彼から聞いた。
塚本訳数日の後ペリクスは、ユダヤ人であるその妻ドルシラと一緒に(監禁の場所に)来て、パウロを呼び、キリスト・イエスに対する信仰の話を聞いた。
前田訳数日ののち、ペリクスはユダヤ人である妻ドルシラといっしょに来て、パウロを呼び出し、キリスト・イエスへの信仰のことを聞いた。
新共同数日の後、フェリクスはユダヤ人である妻のドルシラと一緒に来て、パウロを呼び出し、キリスト・イエスへの信仰について話を聞いた。
NIVSeveral days later Felix came with his wife Drusilla, who was a Jewess. He sent for Paul and listened to him as he spoke about faith in Christ Jesus.
註解: ドルシラはヘロデ・アグリツパ一世の娘でアグリツパ二世(使25:13使26:1)の姉妹であった。その夫エメサの王アジズスを棄ててペリクスの妻となった。ペリクスの三度目の妻であった。ドルシラは放恣(ほうし)なる女で新宗教の伝道者たるパウロに対する好奇心よりその語る処を聞かんとし、ペリクスは彼女を喜ばせんとてパウロの囚われ居る獄(ヘロデの宮殿)に来てその話をきいた(ベザ写本による)。

24章25節 パウロが正義(ただしき)節制(せつせい)(きた)らんとする審判(さばき)とにつきて(ろん)じたる(とき)、ペリクス(おそ)れて(こた)ふ『(いま)()れ、よき(をり)()てまた(まね)かん』[引照]

口語訳そこで、パウロが、正義、節制、未来の審判などについて論じていると、ペリクスは不安を感じてきて、言った、「きょうはこれで帰るがよい。また、よい機会を得たら、呼び出すことにする」。
塚本訳ところがパウロの話は、義と、節制と、来るべき(最後の)裁きとについてだったので、ペリクスは恐ろしくなって、「本日はこれで帰ってよろしい。よい折があったら、また呼びにやるから」と言った。
前田訳パウロが義と節制と来たるべき裁きについて論じたので、ペリクスはおそろしくなっていった、「今のところはお帰りなさい。またの折に呼びにやります」と。
新共同しかし、パウロが正義や節制や来るべき裁きについて話すと、フェリクスは恐ろしくなり、「今回はこれで帰ってよろしい。また適当な機会に呼び出すことにする」と言った。
NIVAs Paul discoursed on righteousness, self-control and the judgment to come, Felix was afraid and said, "That's enough for now! You may leave. When I find it convenient, I will send for you."
註解: パウロはペリクスとドルシラとの結婚の不正を知り、彼らの良心に向って破邪(はじゃ)の剣を(ふる)うの戦法を取った。ペリクスは自己の不義、不節制を責められ、来るべき審判を恐れてパウロの言を聴くにたえなかったのである。

24章26節 (かく)てパウロより(きん)(あた)へられんことを(のぞ)みて、(なほ)しばしば(かれ)()びよせては(かた)れり。[引照]

口語訳彼は、それと同時に、パウロから金をもらいたい下ごころがあったので、たびたびパウロを呼び出しては語り合った。
塚本訳彼はまた同時に、パウロから(釈放願いの)金がもらえると望みをかけていた。そのため何度も何度もパウロを呼んで、話をした。
前田訳同時に彼はパウロから金がもらえることを望んでいた。それでたびたび彼を呼びにやって話し合った。
新共同だが、パウロから金をもらおうとする下心もあったので、度々呼び出しては話し合っていた。
NIVAt the same time he was hoping that Paul would offer him a bribe, so he sent for him frequently and talked with him.
註解: 多くの弟子がパウロにかしづくを見て、ペリクスはパウロの放免の為に彼らが容易に金銭を醵出(きょしゅつ)するであろうと考えたのであろう。

24章27節 二年(にねん)()てポルシオ・フェスト、ペリクスの(にん)(かわ)りしが、ペリクス、ユダヤ(びと)(こころ)(むか)へんとして、パウロを(つな)ぎたるままに差措(さしお)けり。[引照]

口語訳さて、二か年たった時、ポルキオ・フェストが、ペリクスと交代して任についた。ペリクスは、ユダヤ人の歓心を買おうと思って、パウロを監禁したままにしておいた。
塚本訳(パウロが監禁されてから)二年たつと、ポルキオ・フェストがペリクスの後任になった。ペリクスはユダヤ人の機嫌を取ろうと思って、パウロをつないだままにしておいた。
前田訳二年たつと、ポルキオ・フェストがペリクスの後任になった。ペリクスはユダヤ人の機嫌をとるため、パウロを逮捕したままにしておいた。
新共同さて、二年たって、フェリクスの後任者としてポルキウス・フェストゥスが赴任したが、フェリクスは、ユダヤ人に気に入られようとして、パウロを監禁したままにしておいた。
NIVWhen two years had passed, Felix was succeeded by Porcius Festus, but because Felix wanted to grant a favor to the Jews, he left Paul in prison.
註解: この二年間パウロが何を為したかは記録せられていない。獄中書簡がこの間のものであるとの有力なる説があるけれどもロマ説が一般に認められている。ルカは或はこの間に使徒行伝及び福音書の大部分を書いたのであろうと想像する学者もある。パウロは自由なる幽囚の下にあったので出来得るだけ人々に福音を伝えたのであろう。
辞解
[フエスト] フエストはペリクスよりも信望のある総督であった。
[繋ぎたるままに] これを再び新にパウロを鎖にて繋げるものと解する学者もあるけれども(H0)、始めより繋がれていたものと見る説が多い。予はこの「繋がれ」を必ずしも文字通り鎖にて繋ぐの意味に取る必要なしと思ふ。
要義 [パウロのカイザリヤに於ける生活]二年の年月はパウロに取リて決して短時日ではない。此の間をパウロは果して無為に過したのであろうか。何等の記事の残存せるものなき故確実に知り得ないけれども、ピリポは尚カイザリヤに居りしものと思うべく、従ってその周囲に相当の数の基督者がいたものと考えて差支が無い。パウロは或は是等の人々と福音につき語り、また是等の人々の伴い来れる求道者に道を伝えていた事と思ふ。ルカが是等の事実を記録しないのは幽囚中のパウロなるがゆえに謹慎の意味を以て沈黙したのであろう。またエペソ書、ピリピ書、コロサイ書、ピレモン書等の獄中書翰が多くの学者の主張する如くロマより(したた)められ、カイザリヤよりでは無いにしても、それらの中にあらわれているパウロの信仰の深さ、キリストとの霊交の密接なる姿はカイザリヤに於ける二年間の幽囚の中に養われたものと見なければならない。もし然りとすればこの二年は決して無為の二年に非ず。パウロの信仰に更に一段の飛躍を与えた重要なる二年であると云わなければならない。神を信ずるもの為には凡ての事相働きて益とならざるはない。

使徒行伝第25章
6-2-4 祭司長らフェストにパウロを訴う 25:1 - 25:5

25章1節 フェスト任國(にんこく)にいたりて三日(みっか)(のち)、カイザリヤよりエルサレムに(のぼ)りたれば、[引照]

口語訳さて、フェストは、任地に着いてから三日の後、カイザリヤからエルサレムに上ったところ、
塚本訳フェストは任地[ユダヤ州首都カイザリヤ]に着いて三日の後、カイザリヤからエルサレムに上った。
前田訳フェストは任地の州に着いて三日の後、カイサリアからエルサレムに上った。
新共同フェストゥスは、総督として着任して三日たってから、カイサリアからエルサレムへ上った。
NIVThree days after arriving in the province, Festus went up from Caesarea to Jerusalem,
註解: 任国の首府たるエルサレムに至急に上った事はその任務に忠実なる事の表示である。

25章2節 祭司長(さいしちゃう)(およ)びユダヤ(びと)重立(おもだ)ちたる(もの)ども、[引照]

口語訳祭司長たちやユダヤ人の重立った者たちが、パウロを訴え出て、
塚本訳大祭司連とユダヤの名士たちとはパウロに不利な申し出をして頼み、
前田訳大祭司らとユダヤ人の指導者たちは彼にパウロを訴え出、しきりに頼んで、
新共同-3節 祭司長たちやユダヤ人のおもだった人々は、パウロを訴え出て、彼をエルサレムへ送り返すよう計らっていただきたいと、フェストゥスに頼んだ。途中で殺そうと陰謀をたくらんでいたのである。
NIVwhere the chief priests and Jewish leaders appeared before him and presented the charges against Paul.
註解: この時の現職の祭司長はフアビであった。複数を用いているのは退職の祭司長をも含む、また「重立ちたる者」は「長老」(15節)とその他を含む。

パウロを(うった)へ[(これ)(そこな)はんとして]

註解: 二年の後にも彼らはパウロを殺さんとの願望を捨てなかった。カイザリヤにパウロがいる事は、彼らの脅威であったからであろう。それゆえに彼らはフエストの新任の機会を捕えて一挙に懸案を解決せしめんとした。
辞解
[之を害わんとし] 原文になし。
[訴え] emphanizô…kata は使24:1と同じく、相手の悪事を暴露する事。

25章3節 フェストの好意(かうい)にて[引照]

口語訳彼をエルサレムに呼び出すよう取り計らっていただきたいと、しきりに願った。彼らは途中で待ち伏せして、彼を殺す考えであった。
塚本訳自分たちのため特別の計らいをもって、パウロをエルサレムに呼んでもらいたいと願うのであった。途中で無き者にしようと、たくらんでいたのである。
前田訳パウロをエルサレムに移すよう特例を求めた。彼らは途中で彼を殺すようたくらんでいたのである。
新共同
NIVThey urgently requested Festus, as a favor to them, to have Paul transferred to Jerusalem, for they were preparing an ambush to kill him along the way.
註解: 原文「彼(パウロ)に反対する〔彼らに与する処の〕好意を求めて」で、フエストをしてパウロに反対し、祭司長らに好意を持たしめんとしたのであった。

(かれ)をエルサレムに()(いだ)されんことを(ねが)ふ。(かく)くて(みち)待伏(まちぶせ)し、(これ)(ころ)さんと(おも)へるなり。

註解: 彼らは今に至るも尚おパウロ殺害の志を()めなかった、その執拗さ実に驚くべきものがある。

25章4節 (しか)るにフェスト(こた)へて、パウロのカイザリヤに(とら)はれ()ることと(おの)(ほど)なく(かへ)るべき(こと)とを()げ、[引照]

口語訳ところがフェストは、パウロがカイザリヤに監禁してあり、自分もすぐそこへ帰ることになっていると答え、
塚本訳するとフェストは、パウロはカイザリヤに監禁されている、彼自身が大急ぎで出かけようと思っていると答え、
前田訳フェストは「パウロがカイサリアに監禁されていて、自分は早く出かける予定」と答えた。
新共同ところがフェストゥスは、パウロはカイサリアで監禁されており、自分も間もなくそこへ帰るつもりであると答え、
NIVFestus answered, "Paul is being held at Caesarea, and I myself am going there soon.

25章5節 『もし(かれ)()(ぜん)あらんには、(なんぢ)()のうち(しか)るべき(もの)ども(われ)とともに(くだ)りて(うった)ふベし』と()ふ。[引照]

口語訳そして言った、「では、もしあの男に何か不都合なことがあるなら、おまえたちのうちの有力者らが、わたしと一緒に下って行って、訴えるがよかろう」。
塚本訳「だから、もしあの男に何か不都合なことがあるなら、あなた方のうちの然るべき者が一緒に下っていって、訴えたらよかろう」と言う。
前田訳そしていった、「もしあの男に不都合なことがあるなら、あなた方の中で然るべき人たちがわたしといっしょに下っていって訴えるべきです」と。
新共同「だから、その男に不都合なところがあるというのなら、あなたたちのうちの有力者が、わたしと一緒に下って行って、告発すればよいではないか」と言った。
NIVLet some of your leaders come with me and press charges against the man there, if he has done anything wrong."
註解: フエストは二年前に同様の手段でパウロを殺さんとせる事実を知っていた為か、または自分でカイザリヤに用件が有り、そこにて審判する事を便としたのか、不明であるが、パウロをエルサレムに送る事を許さなかった。
辞解
[然るべき者] dunatoi は「有能なる者」「適せる者」「権力を保持している者」等種々に解せらる。「有力者」と云う如き訳字が適当ならん。

6-2-5 パウロ、フェストの前に審かる 25:6 - 25:12

25章6節 (かく)彼處(かしこ)八日(やうか)十日(とうか)ばかり()りてカイザリヤに(くだ)り、[引照]

口語訳フェストは、彼らのあいだに八日か十日ほど滞在した後、カイザリヤに下って行き、その翌日、裁判の席について、パウロを引き出すように命じた。
塚本訳フェストは彼らの間にせいぜい八日か十日滞在して、カイザリヤに下ってゆき、翌日裁判席に着いて、パウロを引き出すようにと命令した。
前田訳フェストは彼らのところに八日か十日滞在しただけでカイサリアへ下り、翌日、裁判席についてパウロを引き出すよう命じた。
新共同フェストゥスは、八日か十日ほど彼らの間で過ごしてから、カイサリアへ下り、翌日、裁判の席に着いて、パウロを引き出すように命令した。
NIVAfter spending eight or ten days with them, he went down to Caesarea, and the next day he convened the court and ordered that Paul be brought before him.
註解: フエストの初任の滞在日数としては普通である。

()くる()審判(さばき)()()し、(めい)じてパウロを引出(ひきいだ)さしむ。

註解: フエストは早速約束の如くパウロの裁判を開始した、エルサレムよりは彼と共に「有力者」がカイザリヤに下りてパウロを訴えた。

25章7節 その()(きた)りし(とき)、エルサレムより(くだ)りしユダヤ(びと)ら、これを取圍(とりかこ)みて樣々(さまざま)(おも)(つみ)()()てて(うった)ふれども(あかし)すること(あた)はず。[引照]

口語訳パウロが姿をあらわすと、エルサレムから下ってきたユダヤ人たちが、彼を取りかこみ、彼に対してさまざまの重い罪状を申し立てたが、いずれもその証拠をあげることはできなかった。
塚本訳パウロがあらわれると、エルサレムから下ってきていたユダヤ人たちは彼のまわりに立ち、多くの重い罪状を並べ立てたが、証明することが出来なかった。
前田訳彼が姿を現わすと、エルサレムから下って来たユダヤ人たちは彼をかこみ、多くの重い罪状を申し立てたが、それらを証拠立てることはできなかった。
新共同パウロが出廷すると、エルサレムから下って来たユダヤ人たちが彼を取り囲んで、重い罪状をあれこれ言い立てたが、それを立証することはできなかった。
NIVWhen Paul appeared, the Jews who had come down from Jerusalem stood around him, bringing many serious charges against him, which they could not prove.
註解: 内容は次節のパウロの弁明によりてこれを知る事を得。

25章8節 パウロは辯明(べんめい)して()ふ『(われ)はユダヤ(びと)律法(おきて)(たい)しても(みや)(たい)してもカイザルに(たい)しても(つみ)(をか)したる(こと)なし』[引照]

口語訳パウロは「わたしは、ユダヤ人の律法に対しても、宮に対しても、またカイザルに対しても、なんら罪を犯したことはない」と弁明した。
塚本訳パウロの方では、「わたしはユダヤ人の律法に対しても、宮に対しても、皇帝に対しても、何も罪を犯したことはありません」と弁明した。
前田訳パウロは弁明して、「ユダヤ人の律法に対しても、宮に対しても、皇帝(カイサル)に対しても、わたしは何の罪も犯していません」といった。
新共同パウロは、「私は、ユダヤ人の律法に対しても、神殿に対しても、皇帝に対しても何も罪を犯したことはありません」と弁明した。
NIVThen Paul made his defense: "I have done nothing wrong against the law of the Jews or against the temple or against Caesar."
註解: 前節の提訴はパウロの律法、宮、及びカイザルに対する重大なる犯罪についてであり、パウロは一々これを弁駁(べんばく)した。此中カイザルに対するものは此度始めてパウロに対して提起された訴であった、イエスに対するものと同様である。尚この時の論争中にも、19節によれば、イエスの復活の問題等が有った。ルカはここにこれを省略した。

25章9節 フェスト、ユダヤ(びと)(こころ)(むか)へんとしてパウロに(こた)へて()ふ『なんぢエルサレムに(のぼ)り、彼處(かしこ)にて()(まへ)(さば)かるることを(うけが)ふか』[引照]

口語訳ところが、フェストはユダヤ人の歓心を買おうと思って、パウロにむかって言った、「おまえはエルサレムに上り、この事件に関し、わたしからそこで裁判を受けることを承知するか」。
塚本訳しかしフェストはユダヤ人の機嫌を取ろうと思って、パウロに答えて言った、「お前はエルサレムに上って、そこでこのことにつきわたしの前で裁判されたいと思わないか。」
前田訳フェストはユダヤ人の機嫌をとろうとして、パウロに答えていった、「エルサレムへ上って、そこでこれらのことについてわたしの前で裁かれたいか」と。
新共同しかし、フェストゥスはユダヤ人に気に入られようとして、パウロに言った。「お前は、エルサレムに上って、そこでこれらのことについて、わたしの前で裁判を受けたいと思うか。」
NIVFestus, wishing to do the Jews a favor, said to Paul, "Are you willing to go up to Jerusalem and stand trial before me there on these charges?"
註解: もしフエストが直ちにパウロの無罪を宣告すればユダヤ人の怒を買う事は明かであった。またパウロはこの問に対して否定的の答を与うるならん事も明かであった。かくしてフエストは巧にパウロを無実の罪に陥る事より免れしめ、一方ユダヤ人に対して自己の立場を有利にした。ローマ市民を一旦ローマの裁判にかけて後これを地方の裁判に移す事は当人の承諾を必要とした。

25章10節 パウロ()ふ『(われ)はわが(さば)かるべきカイザルの審判(さばき)()(まへ)()ちをるなり。(なんぢ)()()るごとく、(われ)はユダヤ(びと)(そこな)ひしことなし。[引照]

口語訳パウロは言った、「わたしは今、カイザルの法廷に立っています。わたしはこの法廷で裁判されるべきです。よくご承知のとおり、わたしはユダヤ人たちに、何も悪いことをしてはいません。
塚本訳パウロが言った、「いまわたしは皇帝の裁判席の前に立っております。ここで裁判されるべきです。あなたも十分御承知のように、わたしはユダヤ人に対して、何も不正をした覚えはありません。
前田訳パウロはいった、「わたしは皇帝の裁判席の前に立っています。ここでわたしは裁かれるべきです。わたしがユダヤ人に対して何も不正をしなかったことは、あなたもよくご存じのとおりです。
新共同パウロは言った。「私は、皇帝の法廷に出頭しているのですから、ここで裁判を受けるのが当然です。よくご存じのとおり、私はユダヤ人に対して何も悪いことをしていません。
NIVPaul answered: "I am now standing before Caesar's court, where I ought to be tried. I have not done any wrong to the Jews, as you yourself know very well.

25章11節 ()しも(つみ)(をか)して()(あた)るべき(こと)をなしたらんには、()ぬるを(いと)はじ。()れど()人々(ひとびと)(うった)ふること(まこと)ならずば、(たれ)(われ)(かれ)らに(わた)すことを()じ、(われ)はカイザルに上訴(じゃうそ)せん』[引照]

口語訳もしわたしが悪いことをし、死に当るようなことをしているのなら、死を免れようとはしません。しかし、もし彼らの訴えることに、なんの根拠もないとすれば、だれもわたしを彼らに引き渡す権利はありません。わたしはカイザルに上訴します」。
塚本訳だから、もしわたしに不正が在り、何か死罪に当ることをしたのなら、わたしは(決して)死を免れようとする者ではありません。しかしもしこの人たちがわたしを告発することに何一つ根拠がなければ、何人もわたしを彼らに引き渡すことは出来ません。わたしは皇帝に上訴します。」
前田訳もしわたしが不正をし、何か死罪に当たることをしたのならば、わたしは死ぬことを免れようとはしません。しかしもしこの人たちがわたしを訴えることに根も葉もなければ、だれもわたしを彼らに引き渡すことはできません。わたしは皇帝に上訴します」と。
新共同もし、悪いことをし、何か死罪に当たることをしたのであれば、決して死を免れようとは思いません。しかし、この人たちの訴えが事実無根なら、だれも私を彼らに引き渡すような取り計らいはできません。私は皇帝に上訴します。」
NIVIf, however, I am guilty of doing anything deserving death, I do not refuse to die. But if the charges brought against me by these Jews are not true, no one has the right to hand me over to them. I appeal to Caesar!"
註解: パウロはエルサレムに往きてユダヤ人の議会の審判を受くる事は死より外なき事を知っていた。彼は故なき死よりもむしろ異教徒の王たるカイザルに訴えるの途を取った。パウロは以前よりの熱望たるロマ訪問の事、殊に使23:11のイエスの黙示をかくして実現せんとした。犬死は基督者の避くべき事であり、また政治的、法律的、社会的保護並に恩恵を受く可き事は、一般の人民と同一である。これは同一の義務を負うからである事は勿論である。ゆえにこうした場合カイザルに訴うる事は不正ではない。
辞解
[汝の能く知るごとく] フエストが如何にして此事をよく知ったかは解らない。恐らくこれは一の虚礼の辞であろう。

25章12節 (ここ)にフェスト陪席(ばいせき)(もの)(あひ)(はか)りて(こた)ふ『なんぢカイザルに上訴(じゃうそ)せんとす、カイザルの(もと)()くべし』[引照]

口語訳そこでフェストは、陪席の者たちと協議したうえ答えた、「おまえはカイザルに上訴を申し出た。カイザルのところに行くがよい」。
塚本訳そこでフェストは評議員会に諮問の上、(パウロに)答えた、「お前は皇帝に上訴した。皇帝の前に出頭しろ。」
前田訳そこでフェストは相談役と協議してから答えた、「あなたは皇帝に上訴した。皇帝の前に行きなさい」と。
新共同そこで、フェストゥスは陪審の人々と協議してから、「皇帝に上訴したのだから、皇帝のもとに出頭するように」と答えた。
NIVAfter Festus had conferred with his council, he declared: "You have appealed to Caesar. To Caesar you will go!"
註解: 「陪席の者」はローマの裁判の合議を為す人々、フエストはかくしてパウロのロマ行を承認した。
要義1 [パウロのカイザルに対する上訴の意義]パウロがもしこの場合カイザルに上訴しなかったとすれば、そしてエルサレムにて審かれる事を承諾しなかったとすればパウロは或は無罪放免となったかも知れない(使26:31、32)。併し乍らこうした事は従来二年間の経験によれば勿論期待する事が出来ず、かつたとえパウロの無罪が明瞭であっても王や総督はユダヤ人を恐れてパウロを放免する事が出来ず、恐らくパウロは今後無期限に留置されるより外なかったであろう。夫ゆえにパウロに取りては、エルサレムにて審かれて殺されるか、またはカイザリヤに留リて何時までも従来の如くに留置されるかまたはカイザルに上訴してロマに行くか、いずれか一の方法を選ばざるを得ざる立場に立たしめられたのであった。而してロマ行は彼が年末の切願であったのみならず(ロマ15:24ロマ15:28使19:21)、主イエスの証によりて更に確められ(使23:11)ているので、パウロはここにカイザルに上訴する以外に他に取るべき手段が無い羽目にまで追いつめられた事は全く神の御旨が成就したのであると信じたのであろう。かく考うる事は当時のパウロに取リて極めて自然である。而のみならずカイザルに上訴してロマの兵卒に護衛せられてロマに赴く事はユダヤ人の襲撃を免れる手段としても最も有効な手段であった。是等の理由からパウロは遂にカイザルに上訴する事を決するに至ったのであろう。
要義2 [基督者と訴訟]Tコリ6:1以下にパウロはコリントの信者が相互に相争いてこれを法廷に訴えし事を非難し、世を裁くべき聖徒が、不信者によりて審かれんとする事の不当を力説しているのを見る。この事は厳格なる意味に於てはパウロのこの場合に適用する事が出来ないけれども、同じく神の選民を以て任ずるユダヤ人相互が、彼らの卑しむ異教徒なるカイザルに訴える事は見方によってはコリント教会の出来事と同一である。夫ゆえにパウロが自らこうした訴を起した事は非難に値するが如くにも思われるけれども、パウロの場合は、本来ユダヤ人が彼を訴えたのであってパウロが始めより原告の立場に立ったのではなく、またパウロに対して反感を有し彼を殺さんとしているユダヤ人に、自己を任せる如き事は、無用の事であり、パウロはこうした事を為す程愚ではなかった。(▲パウロはキリスト・イエスの使徒としての自己を非常に重んじているのであった。)Tコリ6:1以下を以て基督者は法廷に訴訟を提起すべからずと云う律法を与えしものと解してはならない。むしろ、基督者は凡ての争を常に主に在る愛の精神を以て解決すべきである事を教えたものと解すべきである。従ってパウロの此場合に適合しない。▲▲特にこの場合は基督者同士の争いでないゆえ、基督者がこれを審くことは事実上不可能である。

6-2-6 アグリッパとフェスト 25:13 - 25:22

25章13節 數日(すにち)()(のち)、アグリッパ(わう)とベルニケとカイザリヤに(いた)りてフェストの安否(あんぴ)()ふ。[引照]

口語訳数日たった後、アグリッパ王とベルニケとが、フェストに敬意を表するため、カイザリヤにきた。
塚本訳数日たったのち、アグリッパ王[二世]と(妹の)ベルニケとがカイザリヤに来て、(信任の)フェストに敬意を表した。
前田訳何日かしてからアグリッパ王とペルニケとがカイサリアに来て、フェストにあいさつした。
新共同数日たって、アグリッパ王とベルニケが、フェストゥスに敬意を表するためにカイサリアに来た。
NIVA few days later King Agrippa and Bernice arrived at Caesarea to pay their respects to Festus.
註解: アグリツパ王はヘロデ大王の孫アグリツパ一世の子で幼時ロマの宮廷にて育てられ皇帝クラウデオに愛せられ、父死して其叔父にして妹ベルニケの婿たりしカルキス Chalcis の所領を受け、後王の称号を得てユダヤに赴任す、時に年三十、ユダヤ人とロマ人との間の難問題の解決に努力して皇帝に愛せらる。ベルニケはその妹で彼との間に不倫の関係を疑われ、また夫カルキスの死後キリキヤ王ホレモンと婚して間もなくこれを棄てた。後に皇帝ヴエスパシアヌス、テイトス等の寵妃となる等有数の妖婦であった。彼らはその任地の總督フエストを訪いてその間の関係を滑ならしめんとした。

25章14節 (おほ)くの()(とどま)りゐたれば、フェスト、パウロのことを(わう)()げて()ふ『ここにペリクスが囚人(めしうど)として(のこ)しおきたる一人(ひとり)(ひと)あり、[引照]

口語訳ふたりは、そこに何日間も滞在していたので、フェストは、パウロのことを王に話して言った、「ここに、ペリクスが囚人として残して行ったひとりの男がいる。
塚本訳そして幾日かそこに滞在している間に、フェストは王にパウロの事件を説明して言った、「ペリクスが(未決)囚人として残しているひとりの男がある。
前田訳そこにしばらく滞在していたので、フェストは王にパウロの事件を知らせて、いった、「ペリクスが囚人として残したひとりの男がいます。
新共同彼らが幾日もそこに滞在していたので、フェストゥスはパウロの件を王に持ち出して言った。「ここに、フェリクスが囚人として残していった男がいます。
NIVSince they were spending many days there, Festus discussed Paul's case with the king. He said: "There is a man here whom Felix left as a prisoner.
註解: 王はユダヤ人であり、且つ宮及び大祭司の専任の監督者である為、フエストは王の意見を聞かんとしたのであった。

25章15節 (われ)エルサレムに()りしとき、ユダヤ(びと)祭司長(さいしちゃう)長老(ちゃうらう)(これ)(うった)へて(つみ)(さだ)めんことを(ねが)ひしが、[引照]

口語訳わたしがエルサレムに行った時、この男のことを、祭司長たちやユダヤ人の長老たちが、わたしに報告し、彼を罪に定めるようにと要求した。
塚本訳(さきごろ)わたしがエルサレムに行った折、大祭司連とユダヤ人の長老たちとがその男について申し出て、有罪の判決を求めた。
前田訳わたしがエルサレムへ行ったとき、大祭司たちとユダヤ人の長老たちとがその男について訴え、罪に定めるよう求めました。
新共同わたしがエルサレムに行ったときに、祭司長たちやユダヤ人の長老たちがこの男を訴え出て、有罪の判決を下すように要求したのです。
NIVWhen I went to Jerusalem, the chief priests and elders of the Jews brought charges against him and asked that he be condemned.

25章16節 (われ)(こた)へて、(うった)へらるる(もの)(いま)(うった)ふる(もの)面前(めんぜん)にて辯明(べんめい)する(をり)(あた)へられぬ(まへ)(わた)すは、ロマ(びと)慣例(ならはし)にあらぬ(こと)()げたり。[引照]

口語訳そこでわたしは、彼らに答えた、『訴えられた者が、訴えた者の前に立って、告訴に対し弁明する機会を与えられない前に、その人を見放してしまうのは、ローマ人の慣例にはないことである』。
塚本訳わたしは、『いかなる被告人も、告発人と対決してその犯罪につき弁明の機会を得ないうちにこれを引き渡すのは、ローマ人の習慣でない』と答えて拒絶した。
前田訳彼らへわたしはこう答えました、『人はだれでも訴え手の面前で訴えについて弁明する機会を得ないまま引き渡されるのは、ローマ人の慣わしではない』と。
新共同わたしは彼らに答えました。『被告が告発されたことについて、原告の面前で弁明する機会も与えられず、引き渡されるのはローマ人の慣習ではない』と。
NIV"I told them that it is not the Roman custom to hand over any man before he has faced his accusers and has had an opportunity to defend himself against their charges.
註解: フエストはここにローマ人の正義観を高調して自己の処置の正しき事を示し、同時に、パウロの無罪を断言する事を躊躇してユダヤ人の歓心を求めていたのであった。

25章17節 この(ゆゑ)(かれ)()ここに(あつま)りたれば、(とき)(のば)さず(つぎ)()審判(さばき)()()し、(めい)じてかの(もの)引出(ひきいだ)さしむ。[引照]

口語訳それで、彼らがここに集まってきた時、わたしは時をうつさず、次の日に裁判の席について、その男を引き出させた。
塚本訳それで彼らはここに(わたしと)一緒に来たので、わたしは一刻の猶予もなく次の日裁判席について、その男を引き出すように命令した。
前田訳そこで彼らがここにいっしょに来たとき、わたしは事をのばさず、翌日裁判席について、その男を引き出すよう命じました。
新共同それで、彼らが連れ立って当地へ来ましたから、わたしはすぐにその翌日、裁判の席に着き、その男を出廷させるように命令しました。
NIVWhen they came here with me, I did not delay the case, but convened the court the next day and ordered the man to be brought in.
註解: 即刻裁判を開始した点に彼の勤勉さを示す。

25章18節 (うった)ふる(もの、)かれを(かこ)みて()ちしが、(()が)(おも)ひしごとき()しき(こと)(ひと)つも()ぶる(ところ)なし。[引照]

口語訳訴えた者たちは立ち上がったが、わたしが推測していたような悪事は、彼について何一つ申し立てはしなかった。
塚本訳告発人たちは彼のまわりに立ったが、わたしが想像していたような(政治上の)悪事についていかなる罪状も申し立てなかった。
前田訳訴え手はまわりに立ちましたが、わたしが想像していたような悪事については、何の罪状も申し立てませんでした。
新共同告発者たちは立ち上がりましたが、彼について、わたしが予想していたような罪状は何一つ指摘できませんでした。
NIVWhen his accusers got up to speak, they did not charge him with any of the crimes I had expected.
註解: フエストは恐らくパウロに何等かの大罪、例えば反逆罪の如きものがあるのではないかと考えていたのであろう。

25章19節 ただ己等(おのれら)宗教(しゅうけう)またはイエスと()(もの)()にたるを()きたりとパウロが主張(しゅちゃう)するなどに(くわん)する問題(もんだい)のみなれば、[引照]

口語訳ただ、彼と争い合っているのは、彼ら自身の宗教に関し、また、死んでしまったのに生きているとパウロが主張しているイエスなる者に関する問題に過ぎない。
塚本訳この男に対しての問題は、何か彼らの宗教に関してと、死んだイエスとかいう者を、パウロ(というその囚人)が、(今も)生きていると主張したことに関してであった。
前田訳彼らにはこの男について、自分たちの宗教に関して何か問題があり、とくに、イエスという死んだ人を生きているとパウロが主張したことに関してでした。
新共同パウロと言い争っている問題は、彼ら自身の宗教に関することと、死んでしまったイエスとかいう者のことです。このイエスが生きていると、パウロは主張しているのです。
NIVInstead, they had some points of dispute with him about their own religion and about a dead man named Jesus who Paul claimed was alive.
註解: フエストより見てユダヤ人とパウロとの争いは甚だ縁遠いものの様に思われた。律法の事、宮の事、及びイエスの復活の問題等(使18:15使23:29使26:3)皆フエストの興味を引かない問題であった。但しこのフエストの一言の中にパウロはイエスの復活を力強く主張した事を知る事が出来る。

25章20節 (かか)審理(しらべ)には(われ)當惑(たうわく)せし(ゆゑ)、かの(ひと)に「なんぢエルサレムに()き、彼處(かしこ)にて(さば)かるる(こと)(この)むか」と()ひしに、[引照]

口語訳これらの問題を、どう取り扱ってよいかわからなかったので、わたしは彼に、『エルサレムに行って、これらの問題について、そこでさばいてもらいたくはないか』と尋ねてみた。
塚本訳それでわたしとしてもこんな(勝手のわからぬ)ことの審理は閉口なので、エルサレムに行ってそこでこのことについて裁判されたくないかとたずねた。
前田訳わたしはこのようなことの調査に困惑したので、『エルサレムに行って、そこでこのことについて裁判されたくはないか』といいました。
新共同わたしは、これらのことの調査の方法が分からなかったので、『エルサレムへ行き、そこでこれらの件に関して裁判を受けたくはないか』と言いました。
NIVI was at a loss how to investigate such matters; so I asked if he would be willing to go to Jerusalem and stand trial there on these charges.
註解: 9節の動機を彼はここに言明せず自己の当惑を理由とす。

25章21節 パウロは上訴(じゃうそ)して皇帝(くわうてい)判決(はんけつ)()けん(ため)(まも)られんことを(ねが)ひしにより、(めい)じて(これ)をカイザルに(おく)るまで(まも)らせ()けり』[引照]

口語訳ところがパウロは、皇帝の判決を受ける時まで、このまま自分をとどめておいてほしいと言うので、カイザルに彼を送りとどける時までとどめておくようにと、命じておいた」。
塚本訳しかしパウロは、このまま保護されていて(ローマで皇帝)陛下の裁決を受けたいと上訴したので、彼を皇帝の所へ送りとどけるまで保護しておくようにと命令しておいた。」
前田訳しかしパウロは保護されて陛下の判決を受けたいと上訴したので、彼を皇帝のところへ送るまで保護するよう命じておきました」と。
新共同しかしパウロは、皇帝陛下の判決を受けるときまで、ここにとどめておいてほしいと願い出ましたので、皇帝のもとに護送するまで、彼をとどめておくように命令しました。」
NIVWhen Paul made his appeal to be held over for the Emperor's decision, I ordered him held until I could send him to Caesar."
註解: パウロはむしろローマの官憲の保護の下にローマに赴かんとしたのであるかも知れない。

25章22節 アグリッパ、フェストに()ふ『(われ)もその(ひと)()かんと(ほっ)す』フェスト()ふ『なんぢ明日(あす)かれに()くべし』[引照]

口語訳そこで、アグリッパがフェストに「わたしも、その人の言い分を聞いて見たい」と言ったので、フェストは、「では、あす彼から聞きとるようにしてあげよう」と答えた。
塚本訳アグリッパがフェストにいった、「わたしもその人の話を聞いてみたい。」フェストが言う、「あした聞かれるがよかろう。」
前田訳アグリッパはフェストにいった、「わたし自身もその人の話を聞きたいものです」と。フェストはいう、「あす、お聞きなさい」と。
新共同そこで、アグリッパがフェストゥスに、「わたしも、その男の言うことを聞いてみたいと思います」と言うと、フェストゥスは、「明日、お聞きになれます」と言った。
NIVThen Agrippa said to Festus, "I would like to hear this man myself." He replied, "Tomorrow you will hear him."
註解: アグリツパの言はフエストの期待した処であったので、早速その手はずをした。

6-2-7 アグリッパに対するフェストの申立て 25:23 - 25:27

25章23節 ()くる()アグリッパとベルニケと(おほい)威儀(ゐぎ)(ととの)へてきたり、千卒長(せんそつちゃう)(およ)()重立(おもだ)ちたる(もの)どもと(とも)訊問所(じんもんしょ)()りたれば、フェストの(めい)によりてパウロ引出(ひきいだ)さる。[引照]

口語訳翌日、アグリッパとベルニケとは、大いに威儀をととのえて、千卒長たちや市の重立った人たちと共に、引見所にはいってきた。すると、フェストの命によって、パウロがそこに引き出された。
塚本訳翌日アグリッパとベルニケは威風堂々と乗りこんで来て、千卒長やこの町の重立った人たちと共に謁見室に入り、パウロはフェストの命令によって引き出された。
前田訳翌日アグリッパとペルニケとは威儀を正して、千卒長や町のおもだった人々とともに謁見の間に入り、パウロはフェストの命令によって引き出された。
新共同翌日、アグリッパとベルニケが盛装して到着し、千人隊長たちや町のおもだった人々と共に謁見室に入ると、フェストゥスの命令でパウロが引き出された。
NIVThe next day Agrippa and Bernice came with great pomp and entered the audience room with the high ranking officers and the leading men of the city. At the command of Festus, Paul was brought in.
註解: 市の重立ちたる者は主として議員の如き人々であろう。ルカが特にベルニケをアグリツパと共に掲げまたその威儀を叙べている事は、裁く者と審かれる者との道徳的品性の高さの差はその外観の差異に反比例している事を諧謔(かいぎゃく)的に示したものと見る事が出来る。
辞解
[威儀を整え] 絢爛(けんらん)の美を以て修飾せる事。

25章24節 フェスト()ふ『アグリッパ(わう)(ならび)此處(ここ)()(すべ)ての(もの)よ、(なんぢ)らの()るこの(ひと)はユダヤの民衆(みんしゅう)(こぞ)りて、()かしおくべきにあらずと(よば)はりて、エルサレムにても此處(ここ)にても(われ)(うった)へし(もの)なり。[引照]

口語訳そこで、フェストが言った、「アグリッパ王、ならびにご臨席の諸君。ごらんになっているこの人物は、ユダヤ人たちがこぞって、エルサレムにおいても、また、この地においても、これ以上、生かしておくべきでないと叫んで、わたしに訴え出ている者である。
塚本訳そこでフェストは言う、「アグリッパ王ならびに臨席の諸君御一同、この人を見てください。エルサレムでもここでも、ユダヤ人全体が、もうこれ以上生かしておいてはならないと叫んで、わたしにせがんでいる人物である。
前田訳フェストはいう、「アグリッパ王ならびにご列席の方々、この人をごらんください。エルサレムでもここでも、ユダヤ人の全集団が、『もう生かしておくべきでない』と叫んで、わたしをせつくのはこの人のことです。
新共同そこで、フェストゥスは言った。「アグリッパ王、ならびに列席の諸君、この男を御覧なさい。ユダヤ人がこぞってもう生かしておくべきではないと叫び、エルサレムでもこの地でもわたしに訴え出ているのは、この男のことです。
NIVFestus said: "King Agrippa, and all who are present with us, you see this man! The whole Jewish community has petitioned me about him in Jerusalem and here in Caesarea, shouting that he ought not to live any longer.

25章25節 (しか)るに(われ)はその()(あた)るべき()しき(こと)(ひと)つだに(をか)したるを(みと)めねば、(かれ)(みづか)皇帝(くわうてい)上訴(じゃうそ)せんとする(まま)にその(もと)(おく)らんと(さだ)めたり。[引照]

口語訳しかし、彼は死に当ることは何もしていないと、わたしは見ているのだが、彼自身が皇帝に上訴すると言い出したので、彼をそちらへ送ることに決めた。
塚本訳しかしわたしには、彼が何一つ死罪に当ることをしていないことがわかった。かつこの人自身が、(皇帝)陛下に上訴したので、わたしは(ローマに)送ることに決定した。
前田訳わたしの判断ではこの人は何も死罪に当たることはしていません。しかしこの人自身、陛下に上訴しましたので、そちらに送ることに決めました。
新共同しかし、彼が死罪に相当するようなことは何もしていないということが、わたしには分かりました。ところが、この者自身が皇帝陛下に上訴したので、護送することに決定しました。
NIVI found he had done nothing deserving of death, but because he made his appeal to the Emperor I decided to send him to Rome.
註解: フエストは既にこの時パウロの無罪を認めていると云っても宜しい。

25章26節 (しか)して(かれ)につきて()(しゅ)上書(じゃうしょ)すべき(じつ)(じゃう)()ず。この(ゆゑ)(なんぢ)()のまへ、(こと)にアグリッパ(わう)よ、なんぢの(まへ)(ひき)いだし、訊問(しらべ)をなしてのち、上書(じゃうしょ)すべき箇條(かでう)()んと(おも)へり。[引照]

口語訳ところが、彼について、主君に書きおくる確かなものが何もないので、わたしは、彼を諸君の前に、特に、アグリッパ王よ、あなたの前に引き出して、取調べをしたのち、上書すべき材料を得ようと思う。
塚本訳ただ(困ることには、)主(陛下)になんの確かな事実も上書できない。だから(いま)彼をあなた方の前に、特に、アグリッパ王よ、あなたの前に引き出し、尋問したあとで、何か上書する資料を得ようと思う。
前田訳ただ、彼について何も確かなことをお上にお書きできません。それゆえ、彼をあなた方の前に、とくに、アグリッパ王、あなたの前に引き出したのは、尋問がすんでから、何か書くべきことを得るためです。
新共同しかし、この者について確実なことは、何も陛下に書き送ることができません。そこで、諸君の前に、特にアグリッパ王、貴下の前に彼を引き出しました。よく取り調べてから、何か書き送るようにしたいのです。
NIVBut I have nothing definite to write to His Majesty about him. Therefore I have brought him before all of you, and especially before you, King Agrippa, so that as a result of this investigation I may have something to write.
註解: 是はフエストの本音である。彼はパウロにつき録すべき罪状を確める事が出来なかったので、アグリツパ王の前に再びパウロを訊問し、これによりて訴訟の緒口を見出さしめんとしたのである。アグリツパがフエストよりもユダヤの事情に通じているとの見地からこれを利用したのであろう。

25章27節 囚人(めしうど)(おく)るに訴訟(うったへ)次第(しだい)()べざるは道理(ことわり)ならずと(おも)(ゆゑ)なり』[引照]

口語訳囚人を送るのに、その告訴の理由を示さないということは、不合理だと思えるからである」。
塚本訳(上官に)囚人を送る者が起訴の理由をも示さないのは、非常識と信ずるからである。」
前田訳囚人を送るに当たって、その罪状を示さないのは、不合理と思います」。
新共同囚人を護送するのに、その罪状を示さないのは理に合わないと、わたしには思われるからです。」
NIVFor I think it is unreasonable to send on a prisoner without specifying the charges against him."
註解: パウロのカイザルに対する上訴は如何なる方面より見ても充分の理由なきものであった。フエストはその理由書の作成に苦しんだのであった
要義 [史家ルカの技巧]ルカがこの記事を物する時、ベルニケをも記事の中に入れたことは(前にドルシラを入れたことも同様、使24:24)彼の史家としての驚くべき技巧である。これらの女性を舞台に上せることによりてパウロを裁く権力者たちの生活の雰囲気が如何に汚れていたかを無言の中に示して居り、これによりてパウロの人格と信仰とはいよいよ光輝を増し、かくして裁く者と審かれる者との価値が、神の前に、全く正反対であることを示しているのである。この場面における審判者はやがて神に審かれる所のものであり、審かれるパウロは神より栄光の冠を与えられて永遠の国に輝くに至るのである。