黒崎幸吉著 註解新約聖書 Web版使徒行伝
使徒行伝第22章
分類
6 捕囚のパウロ
21:17 - 28:31
8-1 エルサレムに於けるパウロ
21:17 - 23:30
6-1-4 パウロ、群集に向って語る
22:1 - 22:21
22章1節 『兄弟たち親たちよ、[引照]
口語訳 | 「兄弟たち、父たちよ、いま申し上げるわたしの弁明を聞いていただきたい」。 |
塚本訳 | 「兄弟の方々、お父さん方、聞いてください、今弁明します。」── |
前田訳 | 「兄弟方、父がた、今わたしのする弁明をお聞きください」。 |
新共同 | 「兄弟であり父である皆さん、これから申し上げる弁明を聞いてください。」 |
NIV | "Brothers and fathers, listen now to my defense." |
註解: 祭司、長老たちもいた為にかく呼んだのである。パウロは己を殺さんとする人々に対しても正しき礼節を尽した。
今なんぢらに對する辯明を聽け』
註解: この弁明は主としてパウロ自身の何たるか、及び如何にしてキリストを見しか、如何にキリストより福音の宣伝を命ぜられしかより成る。
22章2節 人々そのヘブルの語を語るを聞きてますます靜になりたれば、又いふ。[引照]
口語訳 | パウロが、ヘブル語でこう語りかけるのを聞いて、人々はますます静粛になった。 |
塚本訳 | ヘブライ語で話しかけるのを聞くと、人々はますます静かになった。パウロは言う。── |
前田訳 | ヘブライ語で話しかけるのを聞いて、人々はますます静かになった。彼はいう、 |
新共同 | パウロがヘブライ語で話すのを聞いて、人々はますます静かになった。パウロは言った。 |
NIV | When they heard him speak to them in Aramaic, they became very quiet. Then Paul said: |
註解: 民衆はパウロのヘブル語を聞きて案外の感に打たれた。思いがけない事実を聴き得るにあらずやと静に耳を傾けた。パウロはこれを利用してその経験を述べる事が出来た。
22章3節 『我はユダヤ人にてキリキヤのタルソに生れしが、此の都にて育てられ、ガマリエルの足下にて先祖たちの律法の嚴しき方に遵ひて教へられ、今日の汝らのごとく神に對して熱心なる者なりき。[引照]
口語訳 | そこで彼は言葉をついで言った、「わたしはキリキヤのタルソで生れたユダヤ人であるが、この都で育てられ、ガマリエルのひざもとで先祖伝来の律法について、きびしい薫陶を受け、今日の皆さんと同じく神に対して熱心な者であった。 |
塚本訳 | 「わたしはキリキヤのタルソで生まれたユダヤ人ですが、この(エルサレムの)都で育てられ、ガマリエル(先生)の膝下で先祖の律法によって厳格な教育をうけ、今日の皆さんと同様、神に対して熱心家でありました。 |
前田訳 | 「わたしはユダヤ人で、キリキアのタルソで生まれ、この町で育てられ、ガマリエルの足もとで先祖の律法についてきびしい教育を受け、こんにちの皆さんと同じように神への熱心家でした。 |
新共同 | 「わたしは、キリキア州のタルソスで生まれたユダヤ人です。そして、この都で育ち、ガマリエルのもとで先祖の律法について厳しい教育を受け、今日の皆さんと同じように、熱心に神に仕えていました。 |
NIV | "I am a Jew, born in Tarsus of Cilicia, but brought up in this city. Under Gamaliel I was thoroughly trained in the law of our fathers and was just as zealous for God as any of you are today. |
註解: このパウロの言を聞きて群衆はパウロに対して思いがけなき親しみを感じ、尊敬をいだくに至った事と思う。
辞解
[タルソ] 使9:11辞解参照。
[ガマリエル] 使5:34註参照。
[律法の厳しき方] パリサイ派の中にも二つの流れあり厳しき方をヒレル派、稍寛大なるをシヤンマイ派と云う。
22章4節 我この道を迫害し、男女を縛りて獄に入れ、死にまで至らしめしことは[引照]
口語訳 | そして、この道を迫害し、男であれ女であれ、縛りあげて獄に投じ、彼らを死に至らせた。 |
塚本訳 | わたしはこの(キリストの)道を迫害し、男女の別なく(信者を)しばって牢に入れ、殺すことをも辞さなかったのであります。 |
前田訳 | わたしはこの道を迫害し、男も女も縛って牢に引き渡し、死に至らせるほどでした。 |
新共同 | わたしはこの道を迫害し、男女を問わず縛り上げて獄に投じ、殺すことさえしたのです。 |
NIV | I persecuted the followers of this Way to their death, arresting both men and women and throwing them into prison, |
22章5節 大祭司も凡ての長老も我に就きて證するなり。[引照]
口語訳 | このことは、大祭司も長老たち一同も、証明するところである。さらにわたしは、この人たちからダマスコの同志たちへあてた手紙をもらって、その地にいる者たちを縛りあげ、エルサレムにひっぱってきて、処罰するため、出かけて行った。 |
塚本訳 | このことは大祭司をはじめ元老院全体も、わたしのために証人になられるにちがいない。わたしはその方々からダマスコに居る(ユダヤ教の)兄弟たちあての添書までもらって、出かけて行ったのです。そこにいる(この道の)者をも縛ってエルサレムに引いてきて、罰するためでありました。 |
前田訳 | これは大祭司も長老会議全体も証するとおりです。彼らからダマスコにいる兄弟たちへの手紙までも受け取って出かけました。そこにいる人々をも縛ってエルサレムに連れてきて罰するためでした。 |
新共同 | このことについては、大祭司も長老会全体も、わたしのために証言してくれます。実は、この人たちからダマスコにいる同志にあてた手紙までもらい、その地にいる者たちを縛り上げ、エルサレムへ連行して処罰するために出かけて行ったのです。」 |
NIV | as also the high priest and all the Council can testify. I even obtained letters from them to their brothers in Damascus, and went there to bring these people as prisoners to Jerusalem to be punished. |
註解: 使8:3参照。パウロは如何に律法と伝統とに対して熱心であり、基督者を迫害せしかを群衆に告ぐる事によりて、群衆の主張に対し充分に同情と理解とがある事を明かにし、群衆を己が方に引寄せんとした。而してその当時、今より二十余年前にパウロの所為を後援せる祭司及び長老たちの中には、今この群衆の中に在る者も無きにはあらざる事を思い彼らの証言を期待して自己の言の確実さを保証した。
辞解
[この道] 使9:2註参照。
我は彼等より兄弟たちへの書を受けて、ダマスコに寓り居る者どもを縛り、
22章6節 エルサレムに曳き來りて罰を受けしめんとて彼處にゆけり。[引照]
口語訳 | 旅をつづけてダマスコの近くにきた時に、真昼ごろ、突然、つよい光が天からわたしをめぐり照した。 |
塚本訳 | ところが進んでいってダマスコに近づくと、昼ごろ、突然、天から強い光がさしてわたしのまわりに輝いた。 |
前田訳 | 歩いてダマスコに近づくと、真昼ごろ、突然天から強い光がわたしのまわりに輝きました。 |
新共同 | 「旅を続けてダマスコに近づいたときのこと、真昼ごろ、突然、天から強い光がわたしの周りを照らしました。 |
NIV | "About noon as I came near Damascus, suddenly a bright light from heaven flashed around me. |
註解: (原典は是までを五節として区分す)使9:2に同一の記事あり、パウロはエルサレムの基督者を迫害し、更に進んでダマスコに逃れし基督者をも捕えてエルサレムに曳き来らんとした。
辞解
[兄弟たち] ユダヤ人の事。
[ダマスコに寓り居る] 原文「ダマスコへ〔行きそこに〕居る」と云う如き含蓄あり、エルせレムを逃れし信者なる事を暗示す。6-11節につきては使9:3-8註を参照すべし、二者殆んど同一なり。
往きてダマスコに近づきたるに、正午ごろ忽ち大なる光、天より出でて我を環り照せり。
註解: 使9:3に「正午ごろ」と「大なる」とを欠く、ルカ自身必ずしもこの両者及び使26:13-18を機械的に一致せしめんとしなかった事を示す。
22章7節 その時われ地に倒れ、かつ我に語りて「サウロ、サウロ、何ぞ我を迫害するか」といふ聲を聞き、[引照]
口語訳 | わたしは地に倒れた。そして、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか』と、呼びかける声を聞いた。 |
塚本訳 | わたしは地べたに倒れて、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか』と言う声を聞いた。 |
前田訳 | わたしは地に倒れ、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか』という声を聞きました。 |
新共同 | わたしは地面に倒れ、『サウル、サウル、なぜ、わたしを迫害するのか』と言う声を聞いたのです。 |
NIV | I fell to the ground and heard a voice say to me, `Saul! Saul! Why do you persecute me?' |
註解: 使26:14に「刺ある策を蹴るは難し」との追加あり、サウロはその当時のパウロの名。
22章8節 「主よ、なんぢは誰ぞ」と答へしに「われは汝が迫害するナザレのイエスなり」と言ひ給へり。[引照]
口語訳 | これに対してわたしは、『主よ、あなたはどなたですか』と言った。すると、その声が、『わたしは、あなたが迫害しているナザレ人イエスである』と答えた。 |
塚本訳 | わたしは答えた、『主よ、あなたはどなたですか。』わたしに言われた、『わたしだ、君が迫害しているナザレ人イエスだ。』 |
前田訳 | わたしは答えました、『主よ、あなたはどなたですか』と。わたしにいわれました、『わたしはあなたが迫害しているナザレ人イエスである』と。 |
新共同 | 『主よ、あなたはどなたですか』と尋ねると、『わたしは、あなたが迫害しているナザレのイエスである』と答えがありました。 |
NIV | "`Who are you, Lord?' I asked. "`I am Jesus of Nazareth, whom you are persecuting,' he replied. |
22章9節 偕に居る者ども光は見しが、我に語る者の聲は聞かざりき。[引照]
口語訳 | わたしと一緒にいた者たちは、その光は見たが、わたしに語りかけたかたの声は聞かなかった。 |
塚本訳 | 連れの者たちは光は見えたが、わたしにお話になる方の声は聞こえなかった。 |
前田訳 | 連れの人々は光は見ましたが、わたしと語られる方の声は聞きませんでした。 |
新共同 | 一緒にいた人々は、その光は見たのですが、わたしに話しかけた方の声は聞きませんでした。 |
NIV | My companions saw the light, but they did not understand the voice of him who was speaking to me. |
22章10節 われ復いふ「主よ、我なにを爲すべきか」主いひ給ふ「起ちてダマスコに往け、なんぢの爲すべき定りたる事は彼處にて悉とく告げらるべし」[引照]
口語訳 | わたしが『主よ、わたしは何をしたらよいでしょうか』と尋ねたところ、主は言われた、『起きあがってダマスコに行きなさい。そうすれば、あなたがするように決めてある事が、すべてそこで告げられるであろう』。 |
塚本訳 | わたしは言った、『主よ、何をしたらよいのでしょうか。』主は言われた、『起きてダマスコ(の町)まで行け。そうすればそこで一切は告げられる。君のすることは決めてある。』 |
前田訳 | わたしはいいました、『主よ、わたしは何をすべきですか』と。主はいわれました、『起きてダマスコへ行きなさい。そうすれば、そこであなたがするよう定められたすべてのことが告げられよう』と。 |
新共同 | 『主よ、どうしたらよいでしょうか』と申しますと、主は、『立ち上がってダマスコへ行け。しなければならないことは、すべてそこで知らされる』と言われました。 |
NIV | "`What shall I do, Lord?' I asked. "`Get up,' the Lord said, `and go into Damascus. There you will be told all that you have been assigned to do.' |
註解: 使9:6に稍簡略にこれを記す、使9:7には「同行の人物言うこと能わずして立ちたりしが」とあり。尚9、10節と使9:7及び使26:14との関係につきては使9:7註参照。
22章11節 我は、かの光の晃耀にて目見えずなりたれば、偕にをる者に手を引かれてダマスコに入りたり。[引照]
口語訳 | わたしは、光の輝きで目がくらみ、何も見えなくなっていたので、連れの者たちに手を引かれながら、ダマスコに行った。 |
塚本訳 | わたしはその光のまばゆさのために目が見えないので、連れの者たちに手を引かれてダマスコに行きました。 |
前田訳 | その光の輝きで目が見えなかったので、連れの人々に手を引かれてダマスコに行きました。 |
新共同 | わたしは、その光の輝きのために目が見えなくなっていましたので、一緒にいた人たちに手を引かれて、ダマスコに入りました。 |
NIV | My companions led me by the hand into Damascus, because the brilliance of the light had blinded me. |
註解: かくて「三日のあいだ見えずまた飲食せざりき」(使9:9)
22章12節 爰に律法に據れる敬虔の人にして其の町に住む凡てのユダヤ人に令聞あるアナニヤという者あり。[引照]
口語訳 | すると、律法に忠実で、ダマスコ在住のユダヤ人全体に評判のよいアナニヤという人が、 |
塚本訳 | すると(ダマスコに)アナニヤという人がいた。律法的に信心深く、そこに住むユダヤ人全体に評判がよかったが、 |
前田訳 | すると、アナニヤという、律法に忠実で敬虔な人がいました。そこに住むユダヤ人全体に評判のよい人でした。 |
新共同 | ダマスコにはアナニアという人がいました。律法に従って生活する信仰深い人で、そこに住んでいるすべてのユダヤ人の中で評判の良い人でした。 |
NIV | "A man named Ananias came to see me. He was a devout observer of the law and highly respected by all the Jews living there. |
註解: 使9:10-16参照。「律法に據れる敬虔の人」は彼のユダヤ人たる事を意味し、異邦人にしてユダヤ教に帰依せる人との区別を示す、ユダヤ人に令聞ある事を指摘せる所以は群衆の信用を得る為の巧なる証明法である。彼は弟子の一人であった(使9:10)。パウロは或る群衆に向っては此事を言わなかったのかも知れない。
22章13節 彼われに來り傍らに立ちて「兄弟サウロよ、見ることを得よ」と言ひたれば、その時、仰ぎて彼を見たり。[引照]
口語訳 | わたしのところにきて、そばに立ち、『兄弟サウロよ、見えるようになりなさい』と言った。するとその瞬間に、わたしの目が開いて、彼の姿が見えた。 |
塚本訳 | わたしの所に来て近寄り、『兄弟サウロよ、見えるようになれ!』と言った。するとその瞬間に(見えるようになって、)わたしは彼を見上げた。 |
前田訳 | 彼がわたしのそばに来て立ち、『兄弟サウロよ、見えるようにおなりなさい』といいました。そのときわたしは彼を見上げることができました。 |
新共同 | この人がわたしのところに来て、そばに立ってこう言いました。『兄弟サウル、元どおり見えるようになりなさい。』するとそのとき、わたしはその人が見えるようになったのです。 |
NIV | He stood beside me and said, `Brother Saul, receive your sight!' And at that very moment I was able to see him. |
註解: アナニヤがパウロを訪れるに至った事情につきては使9:10-16を見よ、尚使9:17-19に一層詳細に記さる、これを参照すべし。
辞解
[仰ぎて彼を見たり] anablepô は「視力を快復せる」意味にも解する事を得。
22章14節 かれ又いふ「我らの先祖の神は、なんぢを選びて御意を知らしめ、又かの義人を見、その御口の聲を聞かしめんと為給へり。[引照]
口語訳 | 彼は言った、『わたしたちの先祖の神が、あなたを選んでみ旨を知らせ、かの義人を見させ、その口から声をお聞かせになった。 |
塚本訳 | アナニヤは言った、『わたし達の先祖の神はあなたを選んで御心を知らせ、また正しい人(である主イエス)を見せ、その口から声をお聞かせになったが、 |
前田訳 | 彼はいいました、『われらの先祖の神はあなたを定めて、み心を知り、義にいます方を見、その口から声を聞くようになさいました。 |
新共同 | アナニアは言いました。『わたしたちの先祖の神が、あなたをお選びになった。それは、御心を悟らせ、あの正しい方に会わせて、その口からの声を聞かせるためです。 |
NIV | "Then he said: `The God of our fathers has chosen you to know his will and to see the Righteous One and to hear words from his mouth. |
註解: パウロが途中にイエスを見、その御声を聞き神の御旨を知ったのは、アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神の選による事である。即ちイスラエルの民に約束を与え給える神の選である。ゆえに決して偶然の事ではなく、またイエスを信ずる事は決してイスラエルの先祖の神に叛く事ではない。
22章15節 これは汝の見聞したる事につきて、凡ての人に對し彼の證人とならん爲なり。[引照]
口語訳 | それはあなたが、その見聞きした事につき、すべての人に対して、彼の証人になるためである。 |
塚本訳 | それはあなたがいま見たこと聞いたことにつき、全人類に対してその方のために証人になるからだ。 |
前田訳 | それはあなたが見、また聞いたことについて、すべての人々の前にその方の証人になるためです。 |
新共同 | あなたは、見聞きしたことについて、すべての人に対してその方の証人となる者だからです。 |
NIV | You will be his witness to all men of what you have seen and heard. |
註解: 福音を伝える事は見聞したる事実を伝える事である。思索による理論を伝える事ではない。パウロはこの事実の証人として選ばれたのであった。
22章16節 今なんぞ躊躇ふか、起て、その御名を呼び、バプテスマを受けて汝の罪を洗ひ去れ」[引照]
口語訳 | そこで今、なんのためらうことがあろうか。すぐ立って、み名をとなえてバプテスマを受け、あなたの罪を洗い落しなさい』。 |
塚本訳 | さあ、何をためらっているのか。(すぐ)立って、主の名を呼んで洗礼を受け、罪を洗いおとしなさい。』 |
前田訳 | さあ、なぜためらうのですか。立って、彼のみ名を呼びながら洗礼を受け、罪を洗いとりなさい』と。 |
新共同 | 今、何をためらっているのです。立ち上がりなさい。その方の名を唱え、洗礼を受けて罪を洗い清めなさい。』」 |
NIV | And now what are you waiting for? Get up, be baptized and wash your sins away, calling on his name.' |
註解: アナニヤはパウロを督促してバプテスマを受けしめた。パウロはアナニヤより自己の使命につき示された事を群衆に語る事によりて、それが全く神の御旨によるものである事を明かにせんとしたのであった。
22章17節 斯て我エルサレムに歸り、[引照]
口語訳 | それからわたしは、エルサレムに帰って宮で祈っているうちに、夢うつつになり、 |
塚本訳 | それからわたしはエルサレムに帰って宮で祈っていると、我を忘れた心地になって |
前田訳 | わたしがエルサレムへ帰って宮で祈っていますと、恍惚としまして、 |
新共同 | 「さて、わたしはエルサレムに帰って来て、神殿で祈っていたとき、我を忘れた状態になり、 |
NIV | "When I returned to Jerusalem and was praying at the temple, I fell into a trance |
註解: 使9:26。ガラ1:18のエルサレム行に相当するならん。即ちアラビヤの荒野及びダマスコに於て三年を経過せる後であった。
宮にて祈りをるとき、
註解: 今パウロはこの宮を汚せる罪を問はれているけれども、彼はユダヤ人一般と同じく宮に祈を為していたのであった。
我を忘れし心地して主を見奉るに
註解: 恍惚状態、法悦境とも云うべき心理状態となってイエスを見た。
我に斯く言ひ給ふ、
22章18節 「なんぢ急げ、早くエルサレムを去れ、人々われに係る汝の證を受けぬ故なり」[引照]
口語訳 | 主にまみえたが、主は言われた、『急いで、すぐにエルサレムを出て行きなさい。わたしについてのあなたのあかしを、人々が受けいれないから』。 |
塚本訳 | 主にお目にかかった。主は言われた、『急いで、すぐさまエルサレムを出てゆけ。ここの人々は君がわたしの証しをしても、受け入れないのだから。』 |
前田訳 | 彼にまみえました。彼はいわれました、『急いで、すぐエルサレムを出なさい。人々はわたしについてのあなたの証を受け入れまいから』と。 |
新共同 | 主にお会いしたのです。主は言われました。『急げ。すぐエルサレムから出て行け。わたしについてあなたが証しすることを、人々が受け入れないからである。』 |
NIV | and saw the Lord speaking. `Quick!' he said to me. `Leave Jerusalem immediately, because they will not accept your testimony about me.' |
註解: 使9:29に記されし所と相違するが如くに見えるけれども、ルカの記事は客観的に当時の事情を示し、パウロの語は主観的に自己に示されし黙示によったのである。尚ガラ2:2と使15:2との相違もこれと同様の理由による。ガラ2:2註参照。
22章19節 我いふ「主よ、我さきに汝を信ずる者を獄に入れ、諸會堂にて之を扑ち、[引照]
口語訳 | そこで、わたしが言った、『主よ、彼らは、わたしがいたるところの会堂で、あなたを信じる人々を獄に投じたり、むち打ったりしていたことを、知っています。 |
塚本訳 | しかしわたしはこたえた、『主よ、このわたしは、(今まで)あなたを信ずる者を牢に入れたり礼拝堂で打たせたりしていたことが、あの人たちにはわかっております。 |
前田訳 | わたしはいいました、『主よ、彼らは知っております、このわたしがあなたを信ずるものたちを牢に入れ、諸会堂で笞打っていたことを。 |
新共同 | わたしは申しました。『主よ、わたしが会堂から会堂へと回って、あなたを信じる者を投獄したり、鞭で打ちたたいたりしていたことを、この人々は知っています。 |
NIV | "`Lord,' I replied, `these men know that I went from one synagogue to another to imprison and beat those who believe in you. |
註解: 「諸会堂にて」を「会堂毎に」と訳し「獄に入れ」の前に置くべきである。
22章20節 又なんぢの證人ステパノの血の流されしとき、我もその傍らに立ちて之を可しとし、殺す者どもの衣を守りしことは、彼らの知る所なり」[引照]
口語訳 | また、あなたの証人ステパノの血が流された時も、わたしは立ち合っていてそれに賛成し、また彼を殺した人たちの上着の番をしていたのです』。 |
塚本訳 | またあなたの殉教者ステパノの血が流された時、わたしもそばに立っていてそれに賛成し、ステパノをやっつける人たちの上着の番をしていました。』 |
前田訳 | あなたの証人ステパノの血が流されたとき、わたし自身そこに立っていまして、それを認め、彼を殺す人々の上着の番をしていました』。 |
新共同 | また、あなたの証人ステファノの血が流されたとき、わたしもその場にいてそれに賛成し、彼を殺す者たちの上着の番もしたのです。』 |
NIV | And when the blood of your martyr Stephen was shed, I stood there giving my approval and guarding the clothes of those who were killing him.' |
註解: 使7:57、58。使8:1-3の事実を云う。パウロがこの事実を以てイエスに抗議せる意味は二様に取る事が出来る。(1)は、我はかく基督者を迫害せる者であったから今急にキリストの福音を説くも彼らは容易に信じないであろうから、今暫く時を与え給えと祈願せる意味に取る説であり、(2)は基督者の迫害者たるわれが、今や一変してその福音を宣伝する様になっている事は、非常なる変化故、ユダヤ人も必ずこれを信ずるに相違なき故、暫く我をエルサレムに止め給えとの意味に解する説である。(2)がパウロの心に近いものと思われる。
22章21節 われに言ひ給ふ「往け、我なんぢを遠く異邦人に遣すなり」と』[引照]
口語訳 | すると、主がわたしに言われた、『行きなさい。わたしが、あなたを遠く異邦の民へつかわすのだ』」。 |
塚本訳 | 主はわたしに言われた、『行け、わたしが君を遠く異教人につかわすのだから。』」 |
前田訳 | 主はいわれました、『行きなさい、わたしはあなたを遠く異邦人へとつかわそう』」と。 |
新共同 | すると、主は言われました。『行け。わたしがあなたを遠く異邦人のために遣わすのだ。』」 |
NIV | "Then the Lord said to me, `Go; I will send you far away to the Gentiles.'" |
註解: 主イエスはパウロの懇請を容れ給わず、その御意のままにこれを異邦人に遣し給うた(「我なんじを」の我は意味を強める語である)。パウロはかくて主の御言に従ってその使命に向ったのである。尚お異邦人の使徒としての任命は使9:15。使26:17等により回心と同時に行われし如くであるけれども、パウロに取りてはこの時最も明瞭に主の御声を聞いたのであった。17-20節は使9:29の補充的記事と見るべきである。
6-1-5 パウロ、ロマの市民権を利用す
22:22 - 22:29
22章22節 人々きき居たりしが、此の言に及び、聲を揚げて言ふ『斯くのごとき者をば地より除け、生しおくべき者ならず』[引照]
口語訳 | 彼の言葉をここまで聞いていた人々は、このとき、声を張りあげて言った、「こんな男は地上から取り除いてしまえ。生かしおくべきではない」。 |
塚本訳 | (静かに聞いていた)人々は、(主から異教人につかわされたのだという)パウロのこの言葉まで聞くと、声を張りあげて言った、「こんな奴は地の上から片付けろ。生かしておいてはならない!」 |
前田訳 | 人々は聞いていたが、パウロのことばがここまで来ると、声をあげていった、「この男を地の上から除けよ。生かしておくべきでない」と。 |
新共同 | パウロの話をここまで聞いた人々は、声を張り上げて言った。「こんな男は、地上から除いてしまえ。生かしてはおけない。」 |
NIV | The crowd listened to Paul until he said this. Then they raised their voices and shouted, "Rid the earth of him! He's not fit to live!" |
註解: パウロの弁論はこの言(21節)で中断された。イスラエルの神がそのメシヤに関する福音を異邦人に伝えしむると云う如き事は、彼らイスラエル人に対する大なる侮辱と感じたのであった。「地より除け」は地はこうした穢わしき者を載するに耐えずとの意。
22章23節 斯く叫びつつ其の衣を脱ぎすて、塵を空中に撒きたれば、[引照]
口語訳 | 人々がこうわめき立てて、空中に上着を投げ、ちりをまき散らす始末であったので、 |
塚本訳 | こう叫んで、(石打ちをしようと)上着を脱ぎすてたり、砂を空中にまき散らしたりしたので、 |
前田訳 | 彼らはわめき、上着を投げ、ほこりを空中に投げたので、 |
新共同 | 彼らがわめき立てて上着を投げつけ、砂埃を空中にまき散らすほどだったので、 |
NIV | As they were shouting and throwing off their cloaks and flinging dust into the air, |
註解: 「脱ぎすて」はまた「振ふ」の意味にも解せられ、衣を脱ぎて空中に振り動かせる事、塵を空中に撒く事は悔恨、嫌悪等の激しき情を表わす為に行う態度(ヨブ2:12。Uサム16:13。黙18:19)。この両者何れもパウロに対する激しき憤慨の情を示す示威的行動である。パウロは千卒長の手中にある為に直ちに彼を石にて打つ事は出来なかった。
22章24節 千卒長、人々が何故パウロにむかひて斯く叫び呼はるかを知らんとし、[引照]
口語訳 | 千卒長はパウロを兵営に引き入れるように命じ、どういうわけで、彼に対してこんなにわめき立てているのかを確かめるため、彼をむちの拷問にかけて、取り調べるように言いわたした。 |
塚本訳 | 千卒長はパウロを兵営につれ込み、拷問にかけて取り調べるようにと命令した。どういう訳で人々が彼に向かってこんなにどなっているのかを、調査しようとしたのであった。 |
前田訳 | 千卒長は彼を兵営に引き入れるよう命じ、どういうわけで人々がこのように彼に叫んでいるかを知るために、拷問して取り調べるよういいつけた。 |
新共同 | 千人隊長はパウロを兵営に入れるように命じ、人々がどうしてこれほどパウロに対してわめき立てるのかを知るため、鞭で打ちたたいて調べるようにと言った。 |
NIV | the commander ordered Paul to be taken into the barracks. He directed that he be flogged and questioned in order to find out why the people were shouting at him like this. |
註解: 千卒長はパウロのヘブル語を解せざりしならん、群衆の怒号をききパウロに何等かの罪過があるものと推定しその理由を知らんとした。
鞭うちて訊ぶることを命じて、彼を陣營に曳き入れしむ。
註解: 拷問によりて訊問する事は奴隷に対して行われる方法で一般には特別の場合の外禁じられていたけれども、地方の官憲に於ては濫りに行われていた。
22章25節 革鞭をあてんとてパウロを引き張りし時、[引照]
口語訳 | 彼らがむちを当てるため、彼を縛りつけていた時、パウロはそばに立っている百卒長に言った、「ローマの市民たる者を、裁判にかけもしないで、むち打ってよいのか」。 |
塚本訳 | (兵卒らが)鞭で打つため(拷問柱に)しばりつけた時、パウロはそこに立っていた百卒長に言った、「あなたたちはローマ市民たる者を、しかも(正式の)裁判もせずに、鞭打ってもよろしいのか。」 |
前田訳 | 笞打つため彼を縛ると、パウロはそこに立っていた百卒長にいった、「あなた方にはローマ人を裁判なしで笞打つことが許されているのか」と。 |
新共同 | パウロを鞭で打つため、その両手を広げて縛ると、パウロはそばに立っていた百人隊長に言った。「ローマ帝国の市民権を持つ者を、裁判にかけずに鞭で打ってもよいのですか。」 |
NIV | As they stretched him out to flog him, Paul said to the centurion standing there, "Is it legal for you to flog a Roman citizen who hasn't even been found guilty?" |
註解: 「引き張り」はうつ伏せに臥せしむる事、「革鞭を以てパウロを縛りしとき」と訳する事は適当ではない。
かれ傍らに立つ百卒長に言ふ『ロマ人たる者を罪も定めずして鞭うつは可きか』
註解: パウロはこの拷問の取扱の不当なる事を考え、この時も亦(使16:37参照)そのローマの市民権を利用して自己を保護した。神の器であったパウロはあらゆる正しき手段を以て自己の肉体をも守る事を正当と信じたのである。
22章26節 百卒長これを聞きて千卒長に往き、告げて言ふ『なんぢ何をなさんとするか、此の人はロマ人なり』[引照]
口語訳 | 百卒長はこれを聞き、千卒長のところに行って報告し、そして言った、「どうなさいますか。あの人はローマの市民なのです」。 |
塚本訳 | 百卒長はこれを聞くと、(驚いて)千卒長のところに行って報告した、「なんということを、しようとされているのです。あの男はローマ市民です。」 |
前田訳 | それを聞いて百卒長は千卒長のところへいって報告していった、「どうなさいますか、あの人はローマ人です」と。 |
新共同 | これを聞いた百人隊長は、千人隊長のところへ行って報告した。「どうなさいますか。あの男はローマ帝国の市民です。」 |
NIV | When the centurion heard this, he went to the commander and reported it. "What are you going to do?" he asked. "This man is a Roman citizen." |
註解: 百卒長のおどろきと心配とを示す。
22章27節 千卒長、きたりて言ふ『なんぢはロマ人なるか、我に告げよ』かれ言ふ『然り』[引照]
口語訳 | そこで、千卒長がパウロのところにきて言った、「わたしに言ってくれ。あなたはローマの市民なのか」。パウロは「そうです」と言った。 |
塚本訳 | そこで千卒長が来てパウロに言った、「聞かせてくれ、ほんとうに君はローマ市民なのか。」「そうです」とパウロが言った。 |
前田訳 | 千卒長がパウロのところに来ていった、「わたしにいいなさい。あなたはローマ人ですか」と。彼はいった、「そうです」と。 |
新共同 | 千人隊長はパウロのところへ来て言った。「あなたはローマ帝国の市民なのか。わたしに言いなさい。」パウロは、「そうです」と言った。 |
NIV | The commander went to Paul and asked, "Tell me, are you a Roman citizen?" "Yes, I am," he answered. |
註解: 千卒長の言は驚きと軽蔑との混合の如き語気あり。
22章28節 千卒長こたふ『我は多くの金をもて此の民籍を得たり』[引照]
口語訳 | これに対して千卒長が言った、「わたしはこの市民権を、多額の金で買い取ったのだ」。するとパウロは言った、「わたしは生れながらの市民です」。 |
塚本訳 | 千卒長が答えた、「わたしはかなりの金を出してこの市民権を手に入れた。」パウロは言った、「いや、わたしは生まれながら(の市民)です。」 |
前田訳 | 千卒長はいった、「わたしは大金を出してこの市民権を得ました」と。パウロはいった、「わたしは生まれながらです」と。 |
新共同 | 千人隊長が、「わたしは、多額の金を出してこの市民権を得たのだ」と言うと、パウロは、「わたしは生まれながらローマ帝国の市民です」と言った。 |
NIV | Then the commander said, "I had to pay a big price for my citizenship." "But I was born a citizen," Paul replied. |
註解: ローマ政府はその歳入の不足を補う目的を以て市民権を高価に売却した。
パウロ言ふ『我は生れながらなり』
註解: パウロの父または祖先が如何にしてローマの市民権を得たかは明かでない。功労ある者または富者或は社会的地位ある者に与えられる例であった。ローマ市民権はこれに伴い種々の特権を有っていた。
22章29節 爰に訊べんとせし者どもは直ちに去り、千卒長はそのロマ人なるを知り之を縛りしことを懼れたり。[引照]
口語訳 | そこで、パウロを取り調べようとしていた人たちは、ただちに彼から身を引いた。千卒長も、パウロがローマの市民であること、また、そういう人を縛っていたことがわかって、恐れた。 |
塚本訳 | すると取り調べようとしていた者たちは即座に彼から手を引き、千卒長も、パウロがローマ市民であると知ると、彼を(不法に)縛らせたので恐ろしくなった。 |
前田訳 | すると、取り調べようとしていたものたちは、すぐ彼から離れた。千卒長は、彼がローマ人で、その彼を縛っていたことを知っておそれた。 |
新共同 | そこで、パウロを取り調べようとしていた者たちは、直ちに手を引き、千人隊長もパウロがローマ帝国の市民であること、そして、彼を縛ってしまったことを知って恐ろしくなった。 |
NIV | Those who were about to question him withdrew immediately. The commander himself was alarmed when he realized that he had put Paul, a Roman citizen, in chains. |
註解: パウロを鞭うちて訊べんとせし者どもはかくする事の違法にして、所罰が却って彼らに及ぶ事を知りて直ちに去り、千卒長もこれを恐れた。併し縛る事は不法でないので其後もパウロは囚人として捕えられていた。
6-1-6 パウロ議会の前に弁明す
22:30 - 23:10
22章30節 明くる日、千卒長かれが何故ユダヤ人に訴へられしか、確なる事を知らんと欲して彼の縛を解き、命じて祭司長らと全議會とを呼び集め、パウロを曳き出して其の前に立たしめたり。[引照]
口語訳 | 翌日、彼は、ユダヤ人がなぜパウロを訴え出たのか、その真相を知ろうと思って彼を解いてやり、同時に祭司長たちと全議会とを召集させ、そこに彼を引き出して、彼らの前に立たせた。 |
塚本訳 | 翌日千卒長は、なぜパウロがユダヤ人に訴えられたのか確かな理由を知ろうと思い、彼(の鎖)を解いて、大祭司連をはじめ全最高法院に命令して集まらせた。そしてパウロを(兵営から宮の庭に)つれ下り、彼らの前に立たせた。 |
前田訳 | 翌日、千卒長はなぜパウロがユダヤ人に訴えられたか、確かなことを知ろうとして、彼の鎖をとき、大祭司らと全法院の召集を命じ、パウロをつれ下して彼らの前に立たせた。 |
新共同 | 翌日、千人隊長は、なぜパウロがユダヤ人から訴えられているのか、確かなことを知りたいと思い、彼の鎖を外した。そして、祭司長たちと最高法院全体の召集を命じ、パウロを連れ出して彼らの前に立たせた。 |
NIV | The next day, since the commander wanted to find out exactly why Paul was being accused by the Jews, he released him and ordered the chief priests and all the Sanhedrin to assemble. Then he brought Paul and had him stand before them. |
註解: 一旦捕縛せしパウロを不明の理由の下に放免する事も出来ず、ユダヤ人の訴うる理由を精確に知る事が必要となり、翌日この処置を取りパウロを祭司長及び議会の前に曳き出した。是は千卒長として至当なる処置であった。かくて群衆の前に自己を弁護せるパウロは、次に祭司長と議会の前に自己を弁護する事の必要を生ずるに至った。
要義1 [パウロとユダヤ人]パウロは熱烈なる愛国者であり、その同胞の救われんが為には自らは滅亡するとも意としない心を有っていた。こうした同胞が彼を解せずして彼を迫害する事はパウロに取って非常なる苦痛であった。併し乍ら真の愛国者は何れの時代に於ても偽の愛国者または固陋の愛国者より誤解せられるのであって、パウロもこの運命を免れなかった。彼の苦痛は如何ばかりなりしか思いやられる次第である。斯くて彼は遂にロマ皇帝に訴うる必要を生ずるに至った。福音を自由に伝える事の可否をユダヤ人の判断に任せる事が出来なかったからである。
要義2 [何故パウロの弁明がユダヤ人を怒らせたか]1-21節のパウロの弁明は自己の身分経歴(1-5節)、ダマスコ途上のイエスの顕現(6-11節)、アナニヤとの邂逅(12-16節)、エルサレムに於ける主の幻影(17-21節)に過ぎず何等ユダヤ人に対する直接の攻撃を含まなかった。併し乍ら事実は最大の雄弁であって、ユダヤ人はパウロの真摯なる体験をききつつ彼に顕れたまいしイエスの事をきき、そのイエスを十字架につけたのは彼ら自身である事を思いて彼らの心が痛く剌されたのであった。凡て真摯なる体験の事実ほど力あるものはない。パウロはこの体験によりて最も力強き弁論を為したのである。
使徒行伝第23章
23章1節 パウロ議會に目を注ぎて言ふ[引照]
口語訳 | パウロは議会を見つめて言った、「兄弟たちよ、わたしは今日まで、神の前に、ひたすら明らかな良心にしたがって行動してきた」。 |
塚本訳 | パウロは最高法院(の役人たち)を見つめて言った、「兄弟の方々、わたしは今日まで、神の前において良心に少しのやましい所なく歩いてきたのです。」 |
前田訳 | パウロは法院を見つめていった、「兄弟方、わたしはこんにちまで、神に対して全く良心的に生活してきました」と。 |
新共同 | そこで、パウロは最高法院の議員たちを見つめて言った。「兄弟たち、わたしは今日に至るまで、あくまでも良心に従って神の前で生きてきました。」 |
NIV | Paul looked straight at the Sanhedrin and said, "My brothers, I have fulfilled my duty to God in all good conscience to this day." |
註解: 少しも恐れる処なくまた疚しい処なき態度。尚パウロは前章群衆に対しては理論的ならず実験的事実を述べ、大祭司等に対しては闘争的態度となる。
『兄弟たちよ、
註解: 使4:8。使7:2。使22:1の如き敬称を用いないのはパウロの心持の闘争的であった事を示す。
我は今日に至るまで事毎に良心に從ひて神に事へたり』
註解: パウロはここに自己の良心に問うて少しも疚しからざる事実を告白した。これが大祭司及び議会に取りて全く甚だしき倨傲と見えた。
辞解
[事毎に良心に従いて] 原語直訳「凡ての善き良心を以て」。
[事え] politeuomai は神の国の「市民としての義務を果す」事、イエスをキリストと信ずる事も、この義務に良心的に従ったのであった。
23章2節 大祭司アナニヤ傍らに立つ者どもに、彼の口を撃つことを命ず。[引照]
口語訳 | すると、大祭司アナニヤが、パウロのそばに立っている者たちに、彼の口を打てと命じた。 |
塚本訳 | (これを聞いて)大祭司アナニヤは、自分のそばに立っていた者たちに命じてパウロの口を打たせた。 |
前田訳 | すると大祭司アナニヤはそばに立っていた者どもに彼の口を打つよう命じた。 |
新共同 | すると、大祭司アナニアは、パウロの近くに立っていた者たちに、彼の口を打つように命じた。 |
NIV | At this the high priest Ananias ordered those standing near Paul to strike him on the mouth. |
註解: パウロの言を倨傲なりとしこの言を発せる口を撃たしめた。
辞解
[アナニヤ] ネベデウスの子で乱暴且貪慾を以て有名なる大祭司であり、よく人を撃ちその財を奪った人であった。
23章3節 爰にパウロ言ふ『白く塗りたる壁よ、[引照]
口語訳 | そのとき、パウロはアナニヤにむかって言った、「白く塗られた壁よ、神があなたを打つであろう。あなたは、律法にしたがって、わたしをさばくために座についているのに、律法にそむいて、わたしを打つことを命じるのか」。 |
塚本訳 | するとパウロが言った、「白く塗った壁!こんどはあなたが神に打たれる番だ。律法に従ってわたしを裁判するために(そこに)坐っているそのあなたが、律法に背いてわたしを打つことを命令するのか。」 |
前田訳 | そこでパウロはいった、「白く塗った壁よ、神はあなたを打ちたまおう。あなたは律法に従ってわたしを裁くためにすわっているが、律法に背いてわたしを打つよう命ずるのか」と。 |
新共同 | パウロは大祭司に向かって言った。「白く塗った壁よ、神があなたをお打ちになる。あなたは、律法に従ってわたしを裁くためにそこに座っていながら、律法に背いて、わたしを打て、と命令するのですか。」 |
NIV | Then Paul said to him, "God will strike you, you whitewashed wall! You sit there to judge me according to the law, yet you yourself violate the law by commanding that I be struck!" |
註解: 外側は純白内部は泥土である。彼らの外貌に似もつかぬ内心の汚れを有つ大祭司等に向って最も適当せる批難の名称である。(マタ23:27参照)。
神なんぢを撃ち給はん、
註解: 不法に我がロを撃てる報復を神は為し給うであろう。これは呪詛の言ではなく未来の預言である。而して奇しくもこの預言は的中して其後大祭司アナニヤはユダヤ戦争の際に刺客の為に殺された。
なんぢ律法によりて我を審くために坐しながら、律法に悖りて我を撃つことを命ずるか』
註解: レビ19:15等より見ればパウロを撃たしめたのは明かに律法違反であった。尚本節のパウロの態度及び言語が如何に主イエスに似寄っているかを見よ(マタ23:27。ヨハ18:22、23)。パウロのこの罵詈は大祭司に対しては礼を失せるものであるけれどもパウロは大祭司が全く大祭司に相応しからざる態度に出ている為に、かく断乎たる非難を与えたのであった。
23章4節 傍らに立つ者いふ『なんぢ神の大祭司を罵るか』[引照]
口語訳 | すると、そばに立っている者たちが言った、「神の大祭司に対して無礼なことを言うのか」。 |
塚本訳 | そばに立っていた者たちが言った、「神の大祭司殿を罵るのか!」 |
前田訳 | そばに立っていた者どもはいった、「神の大祭司をののしるのか」と。 |
新共同 | 近くに立っていた者たちが、「神の大祭司をののしる気か」と言った。 |
NIV | Those who were standing near Paul said, "You dare to insult God's high priest?" |
註解: 神を罵り民の司を呪う事は律法に禁じられていた。パウロはこの点で非難を被った。
23章5節 パウロ言ふ『兄弟たちよ、我その大祭司たることを知らざりき。[引照]
口語訳 | パウロは言った、「兄弟たちよ、彼が大祭司だとは知らなかった。聖書に『民のかしらを悪く言ってはいけない』と、書いてあるのだった」。 |
塚本訳 | パウロがこたえた、「兄弟たち、大祭司殿とは思わなかったのだ。(悪かった。)”人民を納める者に無礼なことを言ってはならない”と(聖書に)書いてあるのだから。」 |
前田訳 | パウロはいった、「兄弟方、大祭司とは知りませんでした。確かに、『民の指導者を悪くいってはならない』と聖書にあります」と。 |
新共同 | パウロは言った。「兄弟たち、その人が大祭司だとは知りませんでした。確かに『あなたの民の指導者を悪く言うな』と書かれています。」 |
NIV | Paul replied, "Brothers, I did not realize that he was the high priest; for it is written: `Do not speak evil about the ruler of your people.' " |
註解: パウロは大祭司及び全議会の前に立っているため、その服装や、その座席の位置等により彼が大祭司たる事をさとり得ないはずが無い。ゆえにこの一句は皮肉なる諧謔として解すべきで(M0、H0、C1)、「その態度が律法の擁護者たるべき大祭司としてはあまりに相応しくないので、私は大祭司でないと思った」と云う如き意味である。これを或は(1)気付かなかったとか(Tコリ1:16。Tコリ12:2)、または(2)パウロの長い不在の為、大祭司を知らなかったとかまたは(3)彼の眼病が明視を妨げたとかまたは(4)パウロは態と偽ったとか其他種々の解釈は不充分である。
録して「なんぢの民の司をそしる可からず」とあればなり』
註解: この前に「もし大祭司たる事を知りしならば我は彼を罵らざりしならん」との意味の語を省略している。この引用は出21:28の援用でパウロは如何なる場合にも律法に忠実なる態度を明かにす。
23章6節 斯てパウロ、その一部はサドカイ人、その一部はパリサイ人たるを知りて、議會のうちに呼はりて言ふ『兄弟たちよ、我はパリサイ人にしてパリサイ人の子なり、我は死人の甦へることの希望につきて審かるるなり』[引照]
口語訳 | パウロは、議員の一部がサドカイ人であり、一部はパリサイ人であるのを見て、議会の中で声を高めて言った、「兄弟たちよ、わたしはパリサイ人であり、パリサイ人の子である。わたしは、死人の復活の望みをいだいていることで、裁判を受けているのである」。 |
塚本訳 | そのときパウロは(役人の)一派はサドカイ人、一派はパリサイ人であるのを見て取り、法院で叫んだ、「兄弟の方々、わたしはパリサイ人で、しかもパリサイ人の子です。いま死人の復活の希望のために裁判されているのです。(わたしは復活のキリストを見たと言いますから。)」 |
前田訳 | パウロは、一部がサドカイ人で一部がパリサイ人であるのを知り、法院で叫んだ、「兄弟方、わたしはパリサイ人で、しかもパリサイ人の子です。わたしは希望すなわち死人の復活について裁かれています」と。 |
新共同 | パウロは、議員の一部がサドカイ派、一部がファリサイ派であることを知って、議場で声を高めて言った。「兄弟たち、わたしは生まれながらのファリサイ派です。死者が復活するという望みを抱いていることで、わたしは裁判にかけられているのです。」 |
NIV | Then Paul, knowing that some of them were Sadducees and the others Pharisees, called out in the Sanhedrin, "My brothers, I am a Pharisee, the son of a Pharisee. I stand on trial because of my hope in the resurrection of the dead." |
註解: パリサイ人とサドカイ人とはその信仰の点に於ても、その性格、傾向、政治的立場に於ても対立して互に争っていた。パウロは自己の血統がパリサイ派に属する事を高調して、律法に忠実なる事に於ては非難さるべき理由なき事を示し、唯「希望と死人の復活」(原文直訳)即ち死人の復活を内容とする希望を持つ事が、彼が審かれる所以である事を主張し、パリサイ人とサドカイ人との間に闘争の好題目を投じたのであった。使21:21によればパウロの審かれる理由はこれと異る。恐らくパウロは使22:7以下の復活のイエスに関する弁論を指したのであろう。
辞解
[死人の甦えることの希望] 原語「希望と死人の復活」でこれを二つの事柄と解する説もあるけれども、多くの学者は「死人の復活を内容とする希望」と解す(B1、C1、M0、H0等)。
23章7節 斯く言ひしに因りて、パリサイ人とサドカイ人との間に紛爭おこりて、會衆相分れたり。[引照]
口語訳 | 彼がこう言ったところ、パリサイ人とサドカイ人との間に争論が生じ、会衆が相分れた。 |
塚本訳 | 彼がこう言うと、パリサイ人とサドカイ人とのあいだに意見の対立がおこり、法院が分裂した。 |
前田訳 | 彼がこういうと、パリサイ人とサドカイ人とに争いがおこり、会衆が分裂した。 |
新共同 | パウロがこう言ったので、ファリサイ派とサドカイ派との間に論争が生じ、最高法院は分裂した。 |
NIV | When he said this, a dispute broke out between the Pharisees and the Sadducees, and the assembly was divided. |
23章8節 (そは)サドカイ人は復活もなく御使も靈もなしと言ひ、パリサイ人は兩ながらありと云[ふ](へばなり)。[引照]
口語訳 | 元来、サドカイ人は、復活とか天使とか霊とかは、いっさい存在しないと言い、パリサイ人は、それらは、みな存在すると主張している。 |
塚本訳 | なぜならサドカイ人は復活も天使も霊もないと主張するのに対して、パリサイ人はこれを認めるからである。 |
前田訳 | それは、サドカイ人は復活も天使も霊もないといい、パリサイ人はこれらをみな受け入れているからである。 |
新共同 | サドカイ派は復活も天使も霊もないと言い、ファリサイ派はこのいずれをも認めているからである。 |
NIV | (The Sadducees say that there is no resurrection, and that there are neither angels nor spirits, but the Pharisees acknowledge them all.) |
註解: ザドカイ人は人間の死後の霊の存在を否定する理知派であった。従って御使の如き見えざる存在を否定しまた死者の復活を否定した。平常よりその性質傾向と是等の信仰問題に関して相一致しなかった彼らはこの際に大なる紛争を惹起した。
23章9節 遂に大なる喧噪となりてパリサイ人の中の學者數人、たちて爭ひて言ふ『われら此の人に惡しき事あるを見ず、もし靈または御使、かれに語りたるならば如何』[引照]
口語訳 | そこで、大騒ぎとなった。パリサイ派のある律法学者たちが立って、強く主張して言った、「われわれは、この人には何も悪いことがないと思う。あるいは、霊か天使かが、彼に告げたのかも知れない」。 |
塚本訳 | とうとう大騒ぎになった。数人のパリサイ派の聖書学者は立ち上がり、こう言ってはげしく論争した、「この人には何の悪いことも認められない。それに、もし彼に(ダマスコで)霊か天使かが語ったのだったら──(それこそ大変だ!)」 |
前田訳 | 大騒ぎになり、パリサイ派の学者数名が立ち上がって激論し、「この人には何も悪いことが見られない。もし霊か天使かが彼に語ったとすると−−」といった。 |
新共同 | そこで、騒ぎは大きくなった。ファリサイ派の数人の律法学者が立ち上がって激しく論じ、「この人には何の悪い点も見いだせない。霊か天使かが彼に話しかけたのだろうか」と言った。 |
NIV | There was a great uproar, and some of the teachers of the law who were Pharisees stood up and argued vigorously. "We find nothing wrong with this man," they said. "What if a spirit or an angel has spoken to him?" |
註解: パウロの策略は成功して彼らの間の争は益々激しくなった。divide et impera (分離せしめよ而して支配せよ)は実現した。而してパリサイ人の学者もパウロに味方した。而して使22:6-10にパウロの語りし処がもし霊または天使であったとせば、如何にしてそれを否定し得るやとサドカイ人に肉迫した。宗教的の争論に関してはユダヤ人は常に熱狂的となる。
23章10節 紛爭いよいよ激しくなりたれば、千卒長、パウロの彼らに引裂れんことを恐れ、兵卒どもに命じて下りゆかしめ、彼らの中より引取りて陣營に連れ來らしめたり。[引照]
口語訳 | こうして、争論が激しくなったので、千卒長は、パウロが彼らに引き裂かれるのを気づかって、兵卒どもに、降りて行ってパウロを彼らの中から力づくで引き出し、兵営に連れて来るように、命じた。 |
塚本訳 | こうして意見の対立が激しくなったので、千卒長はパウロが引き裂かれはしないかと心配し、(守備)部隊に命令して法院に下りてゆかせ、パウロを彼らの中から奪い取って兵営につれて来させた。 |
前田訳 | 争いが激しくなったので、千卒長はパウロが引き裂かれはしないかとおそれ、軍隊に、下っていってパウロを彼らの中から引き出して兵営に連れてゆくよう命じた。 |
新共同 | こうして、論争が激しくなったので、千人隊長は、パウロが彼らに引き裂かれてしまうのではないかと心配し、兵士たちに、下りていって人々の中からパウロを力ずくで助け出し、兵営に連れて行くように命じた。 |
NIV | The dispute became so violent that the commander was afraid Paul would be torn to pieces by them. He ordered the troops to go down and take him away from them by force and bring him into the barracks. |
註解: 千卒長は議会に於てパウロの罪状を明かにせんとしたけれども、その目的は達し得ず、唯パリサイ人の一部に「この人に悪しき事あるを見ず」と云うものがあったに過ぎなかった。紛争に対する処置は彼としては適切であった。
要義1 [議会に於けるパウロの態度]パウロが議会に於て大祭司を罵詈した事(3節)、大祭司を知らぬ振をした事(5節)及び、パリサイ人とサドカイ人とを争わしめて漁夫の利を占めし事(6-10節)等は普通の道徳的標準に照して考うる時は、決して立派な行為と云う事が出来ない。併し乍らパウロは型に嵌まった道徳家ではなかった。大祭司や議会の議員等は悉くパウロに対し反感を有し、彼を除かん事のみに熱心となっている輩であり、冷静にパウロの論述を聴きてその真理の前に屈伏する如き事は絶対に有り得ない輩であった。主イエスはこうした輩に対して沈黙の戦法を取り給うた(マタ26:63。マタ27:12-14。マコ14:61。ヨハ19:9)に反し、パウロは彼らに対し揶揄翻弄の手段に出でたのであった。我らはこのイエスの姿に於て神々しさを見、パウロの姿に大胆不敵の英雄を見る事が出来る。
要義2 [エルサレムの教会は如何なる態度を取りしか]使21:27以下の事件が起るや否や、ヤコブ及びその他の数万人の基督者はパウロに対して如何なる態度を取りしやは全く記録されて居ない。パウロを迫害せるユダヤ人の中に、是らの基督者も交りいたるならんと想像する事は、必ずしも無理ではない。もし然りとすれば、エルサレムの基督者はユダヤ教徒との間に何等の区別も無き事となり、結局に於てキリストの福音はエルサレムに於て滅亡した事となる。唯伝説によれば其後ヤコブはサドカイ派を主とするユダヤ人の為に迫害せられエルサレムに於て殉教の死を遂げた(六六年頃)との事であって、少数の者にはイエスに対する純粋の信仰が保たれていたものと思われる。是等が多数のユダヤ人に対して躓きとならざらんが為に努力した事は結局に於て彼らの多数がその信仰を失う事の結果となった。信仰の中心問題根本問題は如何なる場合もこれを明瞭にして置かなければならぬ。歴史の伝える処によれば是らのユダヤ的基督者は其後ユダヤ人に対する迫害の結果エルサレムを去りてヨルダン以東に移住し、遂に微々たる存在と化したとの事である。▲新しいイエスの福音は、ついにユダヤ主義の古い殻に入れておくことは出来なかった。生命の自由な活動と古い殻の保存とは両立しない。ユダヤ的基督教の消滅は自然でありまた当然であった。
6-1-7 パウロ、主イエスの幻象に接す
23:11
23章11節 その夜、主パウロの傍らに立ちて言ひ給ふ『雄々しかれ、汝エルサレムにて我につきて證をなしたる如く、ロマにても證をなすべし』[引照]
口語訳 | その夜、主がパウロに臨んで言われた、「しっかりせよ。あなたは、エルサレムでわたしのことをあかししたように、ローマでもあかしをしなくてはならない」。 |
塚本訳 | その夜、主が(現われ、)パウロに近づいて言われた、「安心せよ、あなたは(きっとローマに行くことができる。)エルサレムでわたしのことを証ししたと同じように、ローマでも証しをせねばならないのだから。」 |
前田訳 | その夜、主が彼のそばに立っていわれた、「しっかりなさい。エルサレムでわたしのことを証したように、あなたはローマでも証せねばならないから」と。 |
新共同 | その夜、主はパウロのそばに立って言われた。「勇気を出せ。エルサレムでわたしのことを力強く証ししたように、ローマでも証しをしなければならない。」 |
NIV | The following night the Lord stood near Paul and said, "Take courage! As you have testified about me in Jerusalem, so you must also testify in Rome." |
註解: この二日間の心身の過労の為に、且つ彼の愛する同胞の頑固無理解により、また彼に味方すべきエルサレムの基督者が甚だしく冷淡であった事のゆえに、パウロの心は甚だしく弱きを覚えた事であろう、この時主が彼にあらわれ、彼を励まし、彼がかつて理想し憧れていたロマ行を彼に告げ給うた。是により彼は暗夜に希望の光明を見るの思がした事であろう。
辞解
[証をなすべし] 「為さざるべからず」との意味。
6-1-8 パウロを殺さんとする陰謀より免る
23:12 - 23:25
23章12節 夜明になりてユダヤ人、徒黨を組み盟約を立てて、パウロを殺すまでは飮食せじと言ふ。[引照]
口語訳 | 夜が明けると、ユダヤ人らは申し合わせをして、パウロを殺すまでは飲食をいっさい断つと、誓い合った。 |
塚本訳 | 朝になると、ユダヤ人は互に結託して、パウロを殺すまでは食べもしない飲みもしないと、呪いをかけて誓った。 |
前田訳 | 夜が明けると、ユダヤ人は共謀して、パウロを殺すまでは、食べも飲みもしないと誓い合った。 |
新共同 | 夜が明けると、ユダヤ人たちは陰謀をたくらみ、パウロを殺すまでは飲み食いしないという誓いを立てた。 |
NIV | The next morning the Jews formed a conspiracy and bound themselves with an oath not to eat or drink until they had killed Paul. |
註解: 是等のユダヤ人は祭司長や議会の態度を手緩しとして、直接行動に出でんとして徒党を組んで誓約した。
辞解
[盟約を立て] 原語 anathematizô で「神に献げられる事」より転じて「亡ぼし尽される事」の意味となり再転して「呪はれる事」を意味す、誓の目的を達せざれば神に呪われ滅ぼされてもよろしと盟う事。
23章13節 この徒黨を結びたる者は四十人餘なり。[引照]
口語訳 | この陰謀に加わった者は、四十人あまりであった。 |
塚本訳 | この盟約に加わった者は四十人以上であった。 |
前田訳 | この陰謀に加わったものは四十人以上であった。 |
新共同 | このたくらみに加わった者は、四十人以上もいた。 |
NIV | More than forty men were involved in this plot. |
辞解
前節の「徒党」systrophê は結合する事、本節の「徒党」synômosia は共に誓う事。
23章14節 彼らは祭司長・長老らに往きて言ふ『われらパウロを殺すまでは何をも味ふまじと堅く盟約を立てたり。[引照]
口語訳 | 彼らは、祭司長たちや長老たちのところに行って、こう言った。「われわれは、パウロを殺すまでは何も食べないと、堅く誓い合いました。 |
塚本訳 | 彼らは大祭司連、長老たちのところに行って言った、「わたし達はパウロを殺すまでは何も口にしないことを、呪いをかけて固く誓いました。 |
前田訳 | 彼らは大祭司たち、長老たちのところへ行って、こういった、「われらはパウロを殺すまでは何も口に入れないことを堅く誓いました。 |
新共同 | 彼らは、祭司長たちや長老たちのところへ行って、こう言った。「わたしたちは、パウロを殺すまでは何も食べないと、固く誓いました。 |
NIV | They went to the chief priests and elders and said, "We have taken a solemn oath not to eat anything until we have killed Paul. |
23章15節 されば汝等なほ詳細に訊べんとする状して、彼を汝らの許に連れ下らすることを議會とともに千卒長に訴へよ、我等その近くならぬ間に殺す準備をなせり』[引照]
口語訳 | ついては、あなたがたは議会と組んで、彼のことでなお詳しく取調べをするように見せかけ、パウロをあなたがたのところに連れ出すように、千卒長に頼んで下さい。われわれとしては、パウロがそこにこないうちに殺してしまう手はずをしています」。 |
塚本訳 | だから、すぐあなた方は最高法院の方々と一緒に(行って)千卒長に、パウロのことをもっと詳しく取り調べたいという口実で、彼をあなた方のところにつれ下ってもらうように申し出ていただきたい。(決して迷惑はかけません。)わたし達はパウロが(法院に)近づく前に、彼を無き者にする手筈をしておきますから。」 |
前田訳 | それで、あなた方は法院と協力して、パウロについてもっと詳しく調べたいという口実で、千卒長に彼をあなた方のところに連れてくるよう申し出てください。われらは彼がここに近づく前に殺す用意があります」と。 |
新共同 | ですから今、パウロについてもっと詳しく調べるという口実を設けて、彼をあなたがたのところへ連れて来るように、最高法院と組んで千人隊長に願い出てください。わたしたちは、彼がここへ来る前に殺してしまう手はずを整えています。」 |
NIV | Now then, you and the Sanhedrin petition the commander to bring him before you on the pretext of wanting more accurate information about his case. We are ready to kill him before he gets here." |
註解: ユダヤ人らはパウロ暗殺の計画を祭司長、長老らに告げて彼らの共力を求め、彼らにその計略を授けた。議会中のパリサイ人にしてパウロに加担せる者を召集せるや否やは疑わし、恐らく正式に議会を召集する事を為ず、唯議会を召集する如くに装って千卒長に訴えんとしたのであろう。
辞解
[訴えよ] emphanizô はむしろ「表明す」と訳すべきである。二二節も同じ。
23章16節 パウロの姉妹の子この待伏の事をきき、[引照]
口語訳 | ところが、パウロの姉妹の子が、この待伏せのことを耳にし、兵営にはいって行って、パウロにそれを知らせた。 |
塚本訳 | するとパウロの姉妹の息子がこのたくらみを聞きこみ、兵営に入ってパウロに報告した。 |
前田訳 | パウロの姉妹の息子がこのたくらみを聞き、出かけて来て兵営に入り、パウロに報告した。 |
新共同 | しかし、この陰謀をパウロの姉妹の子が聞き込み、兵営の中に入って来て、パウロに知らせた。 |
NIV | But when the son of Paul's sister heard of this plot, he went into the barracks and told Paul. |
註解: パウロの姉妹の家は相当の地位にある人であったらしく議会に関する秘密を耳にする事が出来た。パウロ暗殺の計画が漏洩した事は勿論計画の拙劣さを示す。
往きて陣營に入りパウロに告げたれば、
註解: パウロの幽囚は比較的緩やかであったらしく、面会も出来る程であった。
23章17節 パウロ百卒長の一人を呼びて言ふ『この若者を千卒長につれ往け、告ぐる事あり』[引照]
口語訳 | そこでパウロは、百卒長のひとりを呼んで言った、「この若者を千卒長のところに連れて行ってください。何か報告することがあるようですから」。 |
塚本訳 | パウロは百卒長を一人呼びよせて言った、「この青年を千卒長の所につれて行ってもらいたい。何か報告することがあるようだから。」 |
前田訳 | パウロは百卒長のひとりを呼びよせていった、「この若者を千卒長のところに連れて行ってください。何か報告することがありますから」と。 |
新共同 | それで、パウロは百人隊長の一人を呼んで言った。「この若者を千人隊長のところへ連れて行ってください。何か知らせることがあるそうです。」 |
NIV | Then Paul called one of the centurions and said, "Take this young man to the commander; he has something to tell him." |
註解: パウロがロマ人としての権を有せし事がこうした場合多くの便宜を与えた事と思う。百卒長を自由に動かした事の如きも単なるユダヤ人には不可能の事であろう。
23章18節 百卒長これを携へ、千卒長に至りて言ふ『囚人パウロ我を呼びて、この若者なんぢに言ふべき事ありとて、汝に連れ往くことを請へり』[引照]
口語訳 | この百卒長は若者を連れて行き、千卒長に引きあわせて言った、「囚人のパウロが、この若者があなたに話したいことがあるので、あなたのところに連れて行ってくれるようにと、わたしを呼んで頼みました」。 |
塚本訳 | そこで百卒長は青年を連れて千卒長の所に出て言う、「囚人のパウロがわたしを呼んで、この青年をあなたの所につれて出るよう願い出ました。青年は何か申し上げることがあるようです。」 |
前田訳 | そこで百卒長は彼を連れて千卒長のところに行き、こういった、「囚人のパウロがわたしを呼んで、この若者をあなたのところへつれて出るよう頼みました。若者は何か申し上げることがあるそうです」と。 |
新共同 | そこで百人隊長は、若者を千人隊長のもとに連れて行き、こう言った。「囚人パウロがわたしを呼んで、この若者をこちらに連れて来るようにと頼みました。何か話したいことがあるそうです。」 |
NIV | So he took him to the commander. The centurion said, "Paul, the prisoner, sent for me and asked me to bring this young man to you because he has something to tell you." |
23章19節 千卒長その手を執り、[引照]
口語訳 | そこで千卒長は、若者の手を取り、人のいないところへ連れて行って尋ねた、「わたしに話したいことというのは、何か」。 |
塚本訳 | 千卒長は青年の手を取り、自分(たち)だけ引っ込んでたずねた、「わたしに報告することがあるというのは何か。」 |
前田訳 | 千卒長は彼の手をとり、ひとのいない所へ退いてたずねた、「わたしに報告することがあるというのは何か」と。 |
新共同 | 千人隊長は、若者の手を取って人のいない所へ行き、「知らせたいこととは何か」と尋ねた。 |
NIV | The commander took the young man by the hand, drew him aside and asked, "What is it you want to tell me?" |
註解: 若者をして臆する事なく語らしめんが為の態度である。千卒長の態度の老巧さとルカの想出が如何に生き生きとしているかを示す。
退きて、私に問ふ『われに告ぐる事とは何ぞ』
註解: 他人に聞かれざらん為の注意である事勿論である。
23章20節 若者いふ『ユダヤ人は、汝がパウロの事をなほ詳細に訊ぶる爲にとて、明日かれを議會に連れ下ることを汝に請はんと、申合せたり。[引照]
口語訳 | 若者が言った、「ユダヤ人たちが、パウロのことをもっと詳しく取調べをすると見せかけて、あす議会に彼を連れ出すように、あなたに頼むことに決めています。 |
塚本訳 | 青年が言った、「ユダヤ人たちは、法院がパウロについて何かもっと詳しくたずねたいという口実で、明日(もう一度)彼を法院につれ下ってもらうようにあなたに願い出ることを申し合わせています。 |
前田訳 | 彼はいった、「ユダヤ人たちは、明日あなたがパウロを法院にお連れのようお願いする申し合わせをしました。それはパウロについてもっと詳しく調べたいという口実によってです。 |
新共同 | 若者は言った。「ユダヤ人たちは、パウロのことをもっと詳しく調べるという口実で、明日パウロを最高法院に連れて来るようにと、あなたに願い出ることに決めています。 |
NIV | He said: "The Jews have agreed to ask you to bring Paul before the Sanhedrin tomorrow on the pretext of wanting more accurate information about him. |
註解: 異本に「汝が」の代りに「彼らが」または「それが」とあり前者の場合ユダヤ人を指し後者の場合議会を指す、後者が最もよく15節に適合する。
23章21節 汝その請に從ふな、彼らの中にて四十人餘の者、パウロを待伏せ、之を殺すまでは飮食せじと盟約を立て、今その準備をなして汝の許諾を待てり』[引照]
口語訳 | どうぞ、彼らの頼みを取り上げないで下さい。四十人あまりの者が、パウロを待伏せしているのです。彼らは、パウロを殺すまでは飲食をいっさい断つと、堅く誓い合っています。そして、いま手はずをととのえて、あなたの許可を待っているところなのです」。 |
塚本訳 | だからどうか彼の言葉に耳を傾けないでください。なにしろ彼らの中で四十人以上の者がパウロを待ち伏せており、彼を無き者にするまでは食べもしない飲みもしないと呪いをかけて誓って、いまは手筈ができて、ただあなたのお許しを待っているのですから。」 |
前田訳 | それで、彼らのいいなりにならないでください。彼らのうち四十人以上がパウロを待ち伏せしています。彼を殺すまでは食べも飲みもしないと誓い合って。今は用意ができ、あなたのお許しを待っています」と。 |
新共同 | どうか、彼らの言いなりにならないでください。彼らのうち四十人以上が、パウロを殺すまでは飲み食いしないと誓い、陰謀をたくらんでいるのです。そして、今その手はずを整えて、御承諾を待っているのです。」 |
NIV | Don't give in to them, because more than forty of them are waiting in ambush for him. They have taken an oath not to eat or drink until they have killed him. They are ready now, waiting for your consent to their request." |
註解: 「許諾」epangelia はまた「約束」とも訳される文字、パウロを議会に送る約束と見る事が出来る。
23章22節 ここに千卒長、若者に『これらの事を我に訴へたりと誰にも語るな』と命じて歸せり。[引照]
口語訳 | そこで千卒長は、「このことをわたしに知らせたことは、だれにも口外するな」と命じて、若者を帰した。 |
塚本訳 | そこで千卒長は、「このことをわたしに申し出た」ことは、だれにも口外しないようにと固く言いつけて、青年を帰した。 |
前田訳 | 千卒長は、「このことをわたしに知らせたことをだれにもいわないように」と命じて、若者を帰した。 |
新共同 | そこで千人隊長は、「このことをわたしに知らせたとは、だれにも言うな」と命じて、若者を帰した。 |
NIV | The commander dismissed the young man and cautioned him, "Don't tell anyone that you have reported this to me." |
辞解
[語る] 「口外する」「洩らす」の意。
[訴え] 15節を見よ。
23章23節 さて百卒長を兩三人よびて言ふ『今夜九時ごろカイザリヤに向けて往くために、兵卒二百、騎兵七十、槍をとる者二百を整へよ』[引照]
口語訳 | それから彼は、百卒長ふたりを呼んで言った、「歩兵二百名、騎兵七十名、槍兵二百名を、カイザリヤに向け出発できるように、今夜九時までに用意せよ。 |
塚本訳 | それから彼は百卒長を二人呼んで言いつけた、「今夜九時に出発してカイザリヤまで行くため、歩兵二百を準備せよ。それと騎兵七十、槍兵二百」と。 |
前田訳 | そして百卒長二人を呼んでいった、「今夜九時、カイサリアまで行くように、歩兵二百を用意せよ。それに騎兵七十と槍兵二百も。 |
新共同 | 千人隊長は百人隊長二人を呼び、「今夜九時カイサリアへ出発できるように、歩兵二百名、騎兵七十名、補助兵二百名を準備せよ」と言った。 |
NIV | Then he called two of his centurions and ordered them, "Get ready a detachment of two hundred soldiers, seventy horsemen and two hundred spearmen to go to Caesarea at nine tonight. |
註解: なぜこうした多数の護衛を付けたか不可解である。ロマ人を罪無きに捕縛したことの責任を軽くするために特にこれを優遇したのでないかと思われる。ベザ寫本によれば「そはユダヤ人がパウロを捕えてこれを殺し己は後に賄賂を取りしとて訴えられん事を恐れたる故なり」とあり。
辞解
[槍をとる者] dexiolabos は不明の語で諸説あり「投槍兵」の如きものか。
23章24節 また畜を備へ、パウロを乘せて安全に總督ペリクスの許に護送することを命じ、[引照]
口語訳 | また、パウロを乗せるために馬を用意して、彼を総督ペリクスのもとへ無事に連れて行け」。 |
塚本訳 | なおパウロを乗せて総督ペリクスの所に安全に送りとどけるため、馬の用意をするようにと。 |
前田訳 | なおパウロを乗せて安全に総督ペリクスのところに届けるため、馬を仕立てよ」と。 |
新共同 | また、馬を用意し、パウロを乗せて、総督フェリクスのもとへ無事に護送するように命じ、 |
NIV | Provide mounts for Paul so that he may be taken safely to Governor Felix." |
23章25節 かつ左のごとき書をかき贈る。[引照]
口語訳 | さらに彼は、次のような文面の手紙を書いた。 |
塚本訳 | (総督には)次のような趣意の手紙を書いた。 |
前田訳 | 彼は以下の趣旨の手紙を書いた。 |
新共同 | 次のような内容の手紙を書いた。 |
NIV | He wrote a letter as follows: |
註解: 24節は急に間接話法に変化す。「畜」を用意したのはパウロがこの数日の疲労の為歩行困難な為であり且つ騎兵のみにて護送する場合に備えたのであり(32節)、それが複数になっているのは万一ユダヤ人の襲撃に備うる為めの予備と見るべきであろう。
辞解
[左の如き] 直訳「こうした形式を有する」。
ペリクスはアグリツパ一世の娘ドロシラの夫で従ってアグリツパ二世(ドロシラの弟)の義兄に当る。またネロの寵臣ペラスの兄弟であった。後ネロ帝の時ユダヤ人の訴によりその身に危険が臨んだ時もペラスの援により罰を免れた。
6-1-9 千卒長の書簡
23:26 - 23:30
23章26節 『クラウデオ・ルシヤ謹みて總督ペリクス閣下の平安を祈る。[引照]
口語訳 | 「クラウデオ・ルシヤ、つつしんで総督ペリクス閣下の平安を祈ります。 |
塚本訳 | 「クラウデオ・ルシヤから総督ペリクス閣下に敬意を表します。 |
前田訳 | 「クラウデオ・ルシアが総督ペリクス閣下にごあいさついたします。 |
新共同 | 「クラウディウス・リシアが総督フェリクス閣下に御挨拶申し上げます。 |
NIV | Claudius Lysias, To His Excellency, Governor Felix: Greetings. |
註解: 当時行われし書簡の形式によれる前置きである。ヤコ1:1辞解参照。
23章27節 この人はユダヤ人に捕へられて殺されんとせしを、我そのロマ人なるを聞き、兵卒どもを率ゐ往きて救へり。[引照]
口語訳 | 本人のパウロが、ユダヤ人らに捕えられ、まさに殺されようとしていたのを、彼のローマ市民であることを知ったので、わたしは兵卒たちを率いて行って、彼を救い出しました。 |
塚本訳 | この者がユダヤ人に捕えられ、処刑されようとしているのを、ローマ市民であると聞いたので、手勢を率いて行って救い出しました。 |
前田訳 | この者がユダヤ人に捕えられて殺されようとしていたとき、ローマ人であると知りましたので、兵隊を率いて救い出しました。 |
新共同 | この者がユダヤ人に捕らえられ、殺されようとしていたのを、わたしは兵士たちを率いて救い出しました。ローマ帝国の市民権を持つ者であることが分かったからです。 |
NIV | This man was seized by the Jews and they were about to kill him, but I came with my troops and rescued him, for I had learned that he is a Roman citizen. |
註解: ルシヤは使21:30-34。使22:25以下の事実を巧みに曲げて自己に有利なる報告を与えている。いわゆる「役人根性」である。
23章28節 ユダヤ人の彼を訴ふる理由を知らんと欲して、その議會に引き往きたるに、[引照]
口語訳 | それから、彼が訴えられた理由を知ろうと思い、彼を議会に連れて行きました。 |
塚本訳 | そしてユダヤ人が彼を訴える罪状を調査しようと思い、彼らの最高法院につれて行きましたところ、 |
前田訳 | そしてユダヤ人が彼を訴える理由を知りたく思いまして、彼らの法院につれて行きました。 |
新共同 | そして、告発されている理由を知ろうとして、最高法院に連行しました。 |
NIV | I wanted to know why they were accusing him, so I brought him to their Sanhedrin. |
註解: 22:30の事実に相当す。
23章29節 彼らの律法の問題につき、訴へられたるにて、死もしくは縛に當る罪の訴訟にあらざるを知りたり。[引照]
口語訳 | ところが、彼はユダヤ人の律法の問題で訴えられたものであり、なんら死刑または投獄に当る罪のないことがわかりました。 |
塚本訳 | 彼らの律法の問題について訴えられたことがわかり、死罪または監禁に当るいかなる犯罪もなく、 |
前田訳 | わかりましたのは、彼らの律法の問題について訴えられていて、死刑や牢獄に当たる何の犯罪もないことです。 |
新共同 | ところが、彼が告発されているのは、ユダヤ人の律法に関する問題であって、死刑や投獄に相当する理由はないことが分かりました。 |
NIV | I found that the accusation had to do with questions about their law, but there was no charge against him that deserved death or imprisonment. |
註解: 6節を意味す。千卒長は既にパウロの無罪を承認していた。唯ユダヤ人のゆえに彼を放免する事が出来なかった。
23章30節 又この人を害せんとする謀計ありと我に聞えたれば、われ俄にこれを汝のもとに送り、これを訴ふる者に、なんぢの前にて彼を訴へんことを命じたり』[引照]
口語訳 | しかし、この人に対して陰謀がめぐらされているとの報告がありましたので、わたしは取りあえず、彼を閣下のもとにお送りすることにし、訴える者たちには、閣下の前で、彼に対する申立てをするようにと、命じておきました」。 |
塚本訳 | かえって、この者に対して(ユダヤ人による暗殺の)陰謀があると通告されましたので、とりあえず閣下のもとに送ることにしました。告発人にも(直接)閣下の前で彼に対して供述するようにと、命じておきました。」 |
前田訳 | この者に対する陰謀があると報告されましたので、さっそく閣下のもとにお送りいたします。告発者たちにも、閣下の前で彼に対する訴えをするよう命じておきました」。 |
新共同 | しかし、この者に対する陰謀があるという報告を受けましたので、直ちに閣下のもとに護送いたします。告発人たちには、この者に関する件を閣下に訴え出るようにと、命じておきました。」 |
NIV | When I was informed of a plot to be carried out against the man, I sent him to you at once. I also ordered his accusers to present to you their case against him. |
註解: この書簡は本来はラテン語にて書かれたものをルカが後に調査して大略をギリシヤ語に書き直したものであろう。
6-2 カイザリヤに於けるパウロ
23:31 - 26:32
6-2-1 パウロ、カイザリヤに着く
23:31 - 23:35
23章31節 爰に兵卒ども命ぜられたる如くパウロを受けとりて、夜中アンテパトリスまで連れてゆき、[引照]
口語訳 | そこで歩兵たちは、命じられたとおりパウロを引き取って、夜の間にアンテパトリスまで連れて行き、 |
塚本訳 | さて歩兵らは命令されたとおり夜の間にパウロをアンテパトリスに連れて行ったが、 |
前田訳 | 歩兵らは、命じられたとおりパウロを引き受けて夜の間にアンテパトリスまで連れて行ったが、 |
新共同 | さて、歩兵たちは、命令どおりにパウロを引き取って、夜のうちにアンティパトリスまで連れて行き、 |
NIV | So the soldiers, carrying out their orders, took Paul with them during the night and brought him as far as Antipatris. |
註解: エルサレムよりアンテパトリスまでは五十六キロあり全速力にて夜通し歩いても翌朝七時より早くは着き得ない。
辞解
[アンテパトリス] ヘロデ大王の父アンテパテルの創立せる市でその名に因みて名付けられしもの。
23章32節 翌日これを騎兵に委ね、ともに往かしめて陣營に歸れり。[引照]
口語訳 | 翌日は、騎兵たちにパウロを護送させることにして、兵営に帰って行った。 |
塚本訳 | 翌日は騎兵(だけ)をパウロと共に行かせ、自分らは(エルサレムの)兵営に帰った。 |
前田訳 | 翌日は騎兵を彼とともに行かせ、自分たちは兵営に帰った。 |
新共同 | 翌日、騎兵たちに護送を任せて兵営へ戻った。 |
NIV | The next day they let the cavalry go on with him, while they returned to the barracks. |
註解: 歩兵及び擲槍兵はエルサレムの陣営に帰った。最早やユダヤ人の襲撃を受くる危険なしと見たからである。且つ騎兵は翌日もつづけて行進する事が出来た。
23章33節 騎兵はカイザリヤに入り、總督に書をわたし、パウロを其の前に立たしむ。[引照]
口語訳 | 騎兵たちは、カイザリヤに着くと、手紙を総督に手渡し、さらにパウロを彼に引きあわせた。 |
塚本訳 | 騎兵はカイザリヤに着いて手紙を総督に手渡し、パウロをもその前に引き出した。 |
前田訳 | 騎兵はカイサリアに着いて手紙を総督に手渡し、パウロをその前に立たせた。 |
新共同 | 騎兵たちはカイサリアに到着すると、手紙を総督に届け、パウロを引き渡した。 |
NIV | When the cavalry arrived in Caesarea, they delivered the letter to the governor and handed Paul over to him. |
註解: かくしてパウロはイエスと同じく異邦人の手に付された。神はかくして福音の異邦人に及ぶの道を開き給う。
23章34節 總督、書を讀みて、パウロのいづこの國の者たるかを問ひ、そのキリキヤ人なるを知りて、[引照]
口語訳 | 総督は手紙を読んでから、パウロに、どの州の者かと尋ね、キリキヤの出だと知って、 |
塚本訳 | 総督はこれを一読ののち、彼に何州の者であるかを尋ね、キリキヤの者と知ると、 |
前田訳 | 総督は手紙を読んでから彼にどの州の出であるかをたずね、キリキアの出と知ると、 |
新共同 | 総督は手紙を読んでから、パウロがどの州の出身であるかを尋ね、キリキア州の出身だと分かると、 |
NIV | The governor read the letter and asked what province he was from. Learning that he was from Cilicia, |
註解: キリキヤは皇帝領でありパウロはローマ市民であったのでカイザルの裁判権に服する事は当然であった。
辞解
[いづこの国] 原語「如何なる性質の国」を意味し、皇帝領か元老院所属地か等を知らんが為の問であった
23章35節 『汝を訴ふる者の來らんとき、尚つまびらかに汝のことを聽かん』と言ひ、かつ命じて、ヘロデでの官邸に之を守らしめたり。[引照]
口語訳 | 「訴え人たちがきた時に、おまえを調べることにする」と言った。そして、ヘロデの官邸に彼を守っておくように命じた。 |
塚本訳 | 「告発人が来た上で(改めて)審問する」と言って、ヘロデ(大王)の(建てた)総督官舎に監禁することを命令した。 |
前田訳 | 「告発者たちが来たときに調べよう」といって、ヘロデの官邸で彼を守るよう命じた。 |
新共同 | 「お前を告発する者たちが到着してから、尋問することにする」と言った。そして、ヘロデの官邸にパウロを留置しておくように命じた。 |
NIV | he said, "I will hear your case when your accusers get here." Then he ordered that Paul be kept under guard in Herod's palace. |
註解: 訊問は大祭司等の到着を待ちて行う事とし、ヘロデの官邸の牢獄の中にパウロを看守した。
辞解
[ヘロデの官邸] ヘロデ大王が自分の為に此地に建てた官邸で当時は総督の官邸として用いられていた。これに附属せる牢獄で普通の牢獄にあらざる事を示す。パウロはロマ人たるがゆえに優遇せられているものと見る事が出来る。
要義 [パウロを殺さんとせる盟約者に就て]パウロを殺すまでは飲食せじと盟いし人々が其後如何に成り行きしかにつきては何等の記事が無い。この四十人の誓約者は皆餓死したものとも思われず、恐らく適当なる遁辞を造り出して、その場面を糊塗したものであろう。人間的熱情は多くの場合誤謬を伴う。熱情を以て興奮せる場合、軽々しく誓う事の如きは慎まなければならない。