使徒行伝第21章
分類
5 異邦に於けるパウロの伝道
13:1 - 21:16
5-4 パウロの第三伝道旅行
18:23 - 21:6
5-4-8 ミレトよりツロまで
21:1 - 21:6
口語訳 | さて、わたしたちは人々と別れて船出してから、コスに直航し、次の日はロドスに、そこからパタラに着いた。 |
塚本訳 | わたし達(一八節マデノ「ワタシ達記録」ノ記者ヲ含ムパウロ一行)は(やっと)彼らを振り切って船出して、まっすぐに進んでコスに、次の日ロドスに、そこからパタラ(港)に着いた。 |
前田訳 | 彼らと無理に別れてわれらは船出し、コスに直行し、翌日ロドスに、そこからバタラに着いた。 |
新共同 | わたしたちは人々に別れを告げて船出し、コス島に直航した。翌日ロドス島に着き、そこからパタラに渡り、 |
NIV | After we had torn ourselves away from them, we put out to sea and sailed straight to Cos. The next day we went to Rhodes and from there to Patara. |
辞解
[別れて] apospaô 無理に引離しての意味で別れ難きを別れた事が暗示される。
註解: コスはエーゲ海の小島で葡萄酒及び高貴なる織物を産す。
註解: ロドスは島名で同名の港あり、パタラはリキヤ州の一海港。
21章2節
口語訳 | ここでピニケ行きの舟を見つけたので、それに乗り込んで出帆した。 |
塚本訳 | そこで(折よく)ピニケへ直航の船を見つけたので、それに乗って船出した。 |
前田訳 | そこでフェニキア行きの船を見つけたので、それに乗って船出した。 |
新共同 | フェニキアに行く船を見つけたので、それに乗って出発した。 |
NIV | We found a ship crossing over to Phoenicia, went on board and set sail. |
註解: 是までは内海航路の小船を借切っていたのであったと想像されるのであるが此処からペニケ即ちフエニキヤ行きの船に乗り込んだ。パレスチナ行の船を態 と避けたのであろう。
21章3節 クプロを
口語訳 | やがてクプロが見えてきたが、それを左手にして通りすぎ、シリヤへ航行をつづけ、ツロに入港した。ここで積荷が陸上げされることになっていたからである。 |
塚本訳 | クプロ(島)が見えたが、それを左手にしたままシリヤへの船路をつづけ、ツロで上陸した。その船はそこへ積荷をおろすことになっていた。 |
前田訳 | キプロスが見えたが、それを左にしたままシリアに向かって船旅をし、ツロに上陸した。そこで船が積荷をおろすことになっていたからである。 |
新共同 | やがてキプロス島が見えてきたが、それを左にして通り過ぎ、シリア州に向かって船旅を続けてティルスの港に着いた。ここで船は、荷物を陸揚げすることになっていたのである。 |
NIV | After sighting Cyprus and passing to the south of it, we sailed on to Syria. We landed at Tyre, where our ship was to unload its cargo. |
註解: 海上平穏無事にこの遠距離を航海した。尚ルカの記載が使20:5以下本書の終までに於て特に詳細であるのは、この部分を録せる時日がこの時を距 る事遠からざる為と見る事が出来る。または、此部分は彼の日記ならんとの推測もある。
辞解
[此処にて] 「此処に」と訳すべきで陸揚の方向を示す。
[卸さんとすればなり] 「卸し居たればなり」とするを可とす。
[著きたり] 「下り行けり」で船より陸に下りて行った事。
▲すなわち私訳すれば「・・・ツロに下船した。船がその荷を卸していたからである」すなわち荷揚げの時間を利用して七日間の滞在の余裕を得たのであった。
口語訳 | わたしたちは、弟子たちを捜し出して、そこに七日間泊まった。ところが彼らは、御霊の示しを受けて、エルサレムには上って行かないようにと、しきりにパウロに注意した。 |
塚本訳 | わたし達は(その間に主の)弟子たちをさがし出し、そこに七日滞在した。彼らは御霊に示されてパウロに、エルサレムに上ってはいけないとくりかえし言った。 |
前田訳 | 弟子たちを見つけ出して、われらはそこに七日滞在した。彼らは、み霊に示されて、パウロにエルサレムに上らぬよう、いいつづけた。 |
新共同 | わたしたちは弟子たちを探し出して、そこに七日間泊まった。彼らは“霊”に動かされ、エルサレムへ行かないようにと、パウロに繰り返して言った。 |
NIV | Finding the disciples there, we stayed with them seven days. Through the Spirit they urged Paul not to go on to Jerusalem. |
註解: ツロの如き大市に小数の基督者がいた場合これを見出す事は容易ではない、併し彼らが相逢える時の喜びは如何ばかりであったろう。
かれら
註解: パウロは同じ聖霊に促されてエルサレムに上らんとす。聖霊自身矛盾せる二つの命令を下すはずが無い。本節の場合は聖霊の賜物を受くる事少き人々に示された事柄であって、聖霊の啓示も時に人間の欲望によりて歪められる事が有る事を示す、本節の場合聖霊は彼らにパウロの受難を示し給うたのであろう、それに彼らは己が希望を加えてパウロを引留めんとしたのであろう(M0、B1、C1、H0等)。唯彼らにこの自己の希望と聖霊の働きとの区別が明かで無かった。
21章5節
口語訳 | しかし、滞在期間が終った時、わたしたちはまた旅立つことにしたので、みんなの者は、妻や子供を引き連れて、町はずれまで、わたしたちを見送りにきてくれた。そこで、共に海岸にひざまずいて祈り、 |
塚本訳 | しかし(忠告に従わず、七日の)日が過ぎてわたし達が旅立つと、皆が妻子をつれて町外れまで見送りに来た。わたし達は海岸にひざまずいて祈り、 |
前田訳 | しかし、滞在の日が過ぎると、われらは出かけて歩きはじめた。皆は妻子とともにわれらを町はずれまで見送りに来た。われらは海岸にひざまずいて祈り、 |
新共同 | しかし、滞在期間が過ぎたとき、わたしたちはそこを去って旅を続けることにした。彼らは皆、妻や子供を連れて、町外れまで見送りに来てくれた。そして、共に浜辺にひざまずいて祈り、 |
NIV | But when our time was up, we left and continued on our way. All the disciples and their wives and children accompanied us out of the city, and there on the beach we knelt to pray. |
註解: 基督者同志の美しき友情をここにも見る事が出来る。少数の基督者なる故、従ってその妻子とも親しむ機会を得たのであった。町の外までは相当の距離があったものと考えられる。
註解: 人無き浜辺は祈に適す。彼らは訣別の祈を為 たのである。
21章6節
口語訳 | 互に別れを告げた。それから、わたしたちは舟に乗り込み、彼らはそれぞれ自分の家に帰った。 |
塚本訳 | 互に別れを惜しんだ。それからわたし達は船に乗り、その人たちは家に帰った。 |
前田訳 | 互いに別れを惜しんだ。そしてわれらは船に乗り、彼らは家に帰った。 |
新共同 | 互いに別れの挨拶を交わし、わたしたちは船に乗り込み、彼らは自分の家に戻って行った。 |
NIV | After saying good-by to each other, we went aboard the ship, and they returned home. |
註解: 美しき離別の光景であった。この船は前に船荷を卸しつつあった船である。平和なる旅行の前途に物凄き黒雲が横たわっている事に注意すべし、ルカの叙述の巧妙さは驚くばかりである。
21章7節 ツロをいでトレマイに
口語訳 | わたしたちは、ツロからの航行を終ってトレマイに着き、そこの兄弟たちにあいさつをし、彼らのところに一日滞在した。 |
塚本訳 | さてわたし達はツロを出、トレマイに着いて(無事に長い)航海を終り、(トレマイの)兄弟たちに挨拶して、一日だけ彼らのところに泊まった。 |
前田訳 | われらはツロからの航海を終えてプトレマイスに着き、兄弟たちにあいさつしてから、一日彼らのところに泊まった。 |
新共同 | わたしたちは、ティルスから航海を続けてプトレマイスに着き、兄弟たちに挨拶して、彼らのところで一日を過ごした。 |
NIV | We continued our voyage from Tyre and landed at Ptolemais, where we greeted the brothers and stayed with them for a day. |
註解: 原文は「我ら船路の終りにツロよりトレマイに着きたり」と云う如き意、トレマイはツロとカイザリヤの途中にある海港。
註解: この地の信徒は恐らくパウロを知らないのであろう。而もパウロは彼らを訪う事を怠らなかった。
かれらの
註解: 親交の程度が深く無かった為に滞在も自然に短かった。
口語訳 | 翌日そこをたって、カイザリヤに着き、かの七人のひとりである伝道者ピリポの家に行き、そこに泊まった。 |
塚本訳 | 翌日立って(陸路)カイザリヤに行き、七人の(世話役の)一人である伝道者ピリポの家に入って、泊まった。 |
前田訳 | 翌日そこを発ってカイサリアに行き、七人のひとりである伝道者ピリポの家に入って泊まった。 |
新共同 | 翌日そこをたってカイサリアに赴き、例の七人の一人である福音宣教者フィリポの家に行き、そこに泊まった。 |
NIV | Leaving the next day, we reached Caesarea and stayed at the house of Philip the evangelist, one of the Seven. |
註解: この間を徒歩旅行に費した事となる。
註解: ピリポは七人の一人で、「七人」は使6:3、5の執事を指す。使8:5-40に於てその伝道の記事が掲げられ、其後カイザリヤに伝道者 euangelistês として定住していた。エルサレムの信徒が迫害によりて散された為に執事の必要が無くなったので彼は伝道者として活動した。
21章9節 この
口語訳 | この人に四人の娘があったが、いずれも処女であって、預言をしていた。 |
塚本訳 | ピリポに預言をする未婚の娘が四人あった。 |
前田訳 | 彼に四人の娘があり、預言するおとめたちであった。 |
新共同 | この人には預言をする四人の未婚の娘がいた。 |
NIV | He had four unmarried daughters who prophesied. |
註解: Tコリ14:1以下の預言する能力を有てる娘であった。四人とも悉 くこうした女子である事は特別の恩恵である。彼らが処女たる事を特記せる所以は独身生活を奨励する意味に於てではなく、父を助けて四人とも伝道に従事するは著しき事実であるからであろう。
21章10節
口語訳 | 幾日か滞在している間に、アガボという預言者がユダヤから下ってきた。 |
塚本訳 | 幾日も滞在しているうちに、ユダヤからアガボという預言者が下ってきたが、 |
前田訳 | 幾日か滞在すると、ユダヤからアガボという預言者が下って来た。 |
新共同 | 幾日か滞在していたとき、ユダヤからアガボという預言する者が下って来た。 |
NIV | After we had been there a number of days, a prophet named Agabus came down from Judea. |
註解: このアガボは使11:28の預言者と同一人ならん、ルカが未知の人としてこれを記載せる所以は使徒行伝の最後の部分を彼は最初に日記様に記録せるものならんとの想像を裏書する。
21章11節
口語訳 | そして、わたしたちのところにきて、パウロの帯を取り、それで自分の手足を縛って言った、「聖霊がこうお告げになっている、『この帯の持ち主を、ユダヤ人たちがエルサレムでこのように縛って、異邦人の手に渡すであろう』」。 |
塚本訳 | わたし達の所に来てパウロの帯を取り、(それで)自分の手と足とを縛って言った、「聖霊がこう言われる、『この帯の持ち主は、エルサレムでこのようにユダヤ人から縛られ、異教人の手に引き渡される』と。」 |
前田訳 | われらのところに来てパウロの帯をとり、自分の足と手とを縛っていった、「聖霊がこう仰せです、『この帯の持ち主をユダヤ人がエルサレムでこのように縛り、異邦人の手に引き渡そう』」と。 |
新共同 | そして、わたしたちのところに来て、パウロの帯を取り、それで自分の手足を縛って言った。「聖霊がこうお告げになっている。『エルサレムでユダヤ人は、この帯の持ち主をこのように縛って異邦人の手に引き渡す。』」 |
NIV | Coming over to us, he took Paul's belt, tied his own hands and feet with it and said, "The Holy Spirit says, `In this way the Jews of Jerusalem will bind the owner of this belt and will hand him over to the Gentiles.'" |
註解: 預言は屡々 表徴的に示されまた表わされる(T列22:11。イザ20:22-4)。而してこの預言は全くそのままに実現されるに至った(使22:24)。
21章12節 われら
口語訳 | わたしたちはこれを聞いて、土地の人たちと一緒になって、エルサレムには上って行かないようにと、パウロに願い続けた。 |
塚本訳 | これを聞くと、わたし達も土地の人も、エルサレムに上らないようにと懇願した。 |
前田訳 | これを聞いて、われらも土地の人々も彼がエルサレムに上らないよう勧めた。 |
新共同 | わたしたちはこれを聞き、土地の人と一緒になって、エルサレムへは上らないようにと、パウロにしきりに頼んだ。 |
NIV | When we heard this, we and the people there pleaded with Paul not to go up to Jerusalem. |
註解: かくして引留めんとせし事は弟子たちの師を思ふ真情であり、また軽々しく危険に近付く事は常識の許さざる処である故、弟子たちがかくパウロを引留めし事は正しい事である。聖霊は彼らにパウロを引留めよとは命じ給わなかった。
21章13節 その
口語訳 | その時パウロは答えた、「あなたがたは、泣いたり、わたしの心をくじいたりして、いったい、どうしようとするのか。わたしは、主イエスの名のためなら、エルサレムで縛られるだけでなく、死ぬことをも覚悟しているのだ」。 |
塚本訳 | その時パウロは答えた、「あなた達は泣いて、わたしの心をくじいて、どうしようというのか。わたしは主イエスの御名のためなら、エルサレムで縛られることはもちろん、死ぬことさえも覚悟しているのだ。」 |
前田訳 | そのときパウロは答えた、「あなた方は泣いて、わが心をくじいて、何をするのですか。わたしは主イエスのみ名のために、エルサレムで縛られることばかりでなく、死ぬことも覚悟しています」と。 |
新共同 | そのとき、パウロは答えた。「泣いたり、わたしの心をくじいたり、いったいこれはどういうことですか。主イエスの名のためならば、エルサレムで縛られることばかりか死ぬことさえも、わたしは覚悟しているのです。」 |
NIV | Then Paul answered, "Why are you weeping and breaking my heart? I am ready not only to be bound, but also to die in Jerusalem for the name of the Lord Jesus." |
註解: パウロは自分の死は既に覚悟していた故少しもこれを恐れなかったけれども、カイザリヤの人々の悲嘆を見ては心挫かれる思をせざるを得なかった。併し乍らパウロはこの人情に打勝ち専ら聖霊命じ給うままに従って行く決心をしていた。如何に親切なる忠告と雖 も、時に聖霊の御言に反する場合あり、こうした時はこれに従う事が出来ない。マタ16:22、23のイエスの態度を參照すべし。
辞解
[覚悟せり] 「覚悟して居ればなり」で理由を示す。
21章14節
口語訳 | こうして、パウロが勧告を聞きいれてくれないので、わたしたちは「主のみこころが行われますように」と言っただけで、それ以上、何も言わなかった。 |
塚本訳 | 彼が一向に聞き入れようとしないので、わたし達は、「主の御心が成りますように!」と言って、口をつぐんだ。 |
前田訳 | 彼が聞き入れないので、われらは、「主のみ心が成りますように」といって黙った。 |
新共同 | パウロがわたしたちの勧めを聞き入れようとしないので、わたしたちは、「主の御心が行われますように」と言って、口をつぐんだ。 |
NIV | When he would not be dissuaded, we gave up and said, "The Lord's will be done." |
註解: 弟子たちもパウロの頑固なのは、決して単に彼の心が頑固な為ではなくそれがパウロの言う如く主の御意である事を覚った。たといパウロは死ぬるとしても主の御旨ならばせん方なしとしたのが彼らの態度であった、止むに止まれない聖霊の強迫に遭う時、我らは如何なる代価を払ってもこれに従わなければならない。▲パウロがエルサレム行きを固執したのは、エルサレムのユダヤ人基督者の中にパウロの律法に対する態度について、パウロに反対する者が多いことと、信者以外のユダヤ人には一層この傾向が多いためであった。すなわちこの間の誤解を解くことと和解をすることとが彼の目的であった。
21章15節 この
口語訳 | 数日後、わたしたちは旅装を整えてエルサレムへ上って行った。 |
塚本訳 | (カイザリヤ滞在)数日の後、わたし達は旅支度をしてエルサレムへと上っていった。 |
前田訳 | 数日ののち、われらは支度をしてエルサレムへ上っていった。 |
新共同 | 数日たって、わたしたちは旅の準備をしてエルサレムに上った。 |
NIV | After this, we got ready and went up to Jerusalem. |
註解: 「行李を整え」の原語は唯一回用いられているのみで種々に解せらる、「馬に荷を積み」と解する説あり(ラムゼー)、此場合適当ならん、カイザリヤよりエルサレムまでは百キロ余あり、徒歩旅行としても荷物は重荷となる。
21章16節 カイザリヤに
口語訳 | カイザリヤの弟子たちも数人、わたしたちと同行して、古くからの弟子であるクプロ人マナソンの家に案内してくれた。わたしたちはその家に泊まることになっていたのである。 |
塚本訳 | カイザリヤの(主の)弟子たち数人も一緒に来て、クプロ人マナソンという古い弟子の家に案内した。わたし達は彼のところに泊めてもらった。 |
前田訳 | カイサリアの弟子たちの数名もいっしょに来て、古い弟子であるキプロス人ムナソンのところに案内した。われらはそこに泊めてもらった。 |
新共同 | カイサリアの弟子たちも数人同行して、わたしたちがムナソンという人の家に泊まれるように案内してくれた。ムナソンは、キプロス島の出身で、ずっと以前から弟子であった。 |
NIV | Some of the disciples from Caesarea accompanied us and brought us to the home of Mnason, where we were to stay. He was a man from Cyprus and one of the early disciples. |
註解: ベザ写本にこの道行を稍 詳しく記している。恐らくカイザリヤ、エルサレム間を一泊もしくは二泊しその中の一夜をマナソンの家に過したのであろう。パウロは彼を知らなかったのでカイザリヤ人の案内は此際有効であった。
辞解
後半原文やや簡単に過ぎ別種の訳も可能である。
[旧き弟子] 恐らく使1:15の百二十名の一人ならん、クプロ人である関係上パウロはバルナバより間接にこの人の事を聴いていたかも知れない。マナソンにつきては他に知られて居ない。
分類
6 捕囚のパウロ
21:17 - 28:31
8-1 エルサレムに於けるパウロ
21:17 - 23:30
6-1-1 兄弟と面会祈願を為す
21:17 - 21:26
21章17節 エルサレムに
口語訳 | わたしたちがエルサレムに到着すると、兄弟たちは喜んで迎えてくれた。 |
塚本訳 | エルサレムにつくと、兄弟たちが喜んで迎えてくれた。 |
前田訳 | エルサレムに着くと、兄弟たちが喜んでわれらを迎えてくれた。 |
新共同 | わたしたちがエルサレムに着くと、兄弟たちは喜んで迎えてくれた。 |
NIV | When we arrived at Jerusalem, the brothers received us warmly. |
註解: 多くの兄弟たちの中に反パウロ派もあることゆえ歓迎したのはその一部であろう。
21章18節
口語訳 | 翌日パウロはわたしたちを連れて、ヤコブを訪問しに行った。そこに長老たちがみな集まっていた。 |
塚本訳 | 翌日パウロはわたし達と一緒に(主の兄弟の)ヤコブの所に行った。長老たちも皆集まっていた。 |
前田訳 | 翌日、パウロはわれらとともにヤコブを訪れた。長老たちもすべて集まっていた。 |
新共同 | 翌日、パウロはわたしたちを連れてヤコブを訪ねたが、そこには長老が皆集まっていた。 |
NIV | The next day Paul and the rest of us went to see James, and all the elders were present. |
註解: 翌日パウロは旅の疲を医して後公式にヤコブの所を訪ねた。集り居るは長老たちであった、使徒をこの中に含ませる事は差支が無いけれどもペテロやヨハネ等の主要なる人物は多く伝道の為エルサレムを去っていたのであろう。このヤコブは主の兄弟ヤコブである(使12:17。使15:13)。
21章19節 パウロその
口語訳 | パウロは彼らにあいさつをした後、神が自分の働きをとおして、異邦人の間になさった事どもを一々説明した。 |
塚本訳 | パウロは彼らに挨拶したあと、神が自分の伝道によって異教人の間でされたことを、詳しく話してきかせた。 |
前田訳 | 彼らにあいさつしてから、パウロは神が彼の奉仕を通じて異邦人の間になさったことをひとつひとつ話した。 |
新共同 | パウロは挨拶を済ませてから、自分の奉仕を通して神が異邦人の間で行われたことを、詳しく説明した。 |
NIV | Paul greeted them and reported in detail what God had done among the Gentiles through his ministry. |
註解: パウロはヤコブ及び長老たちにその伝道の成績を報告した。「勤労」は原語 diakonia 奉仕または執事の仕事を意味する故、この中にマケドニヤ、アカヤ等に於ける醵金 の事柄をも報告したものと見るべきである。こうした多額の醵金 は驚くべき神の働きである。
21章20節
口語訳 | 一同はこれを聞いて神をほめたたえ、そして彼に言った、「兄弟よ、ご承知のように、ユダヤ人の中で信者になった者が、数万にものぼっているが、みんな律法に熱心な人たちである。 |
塚本訳 | 彼らはこれを聞いてしばし神を讃美していたが、やがて言った、「兄弟よ、ユダヤ人ですでに信者になった者が実に何万とあるが、みんな(モーセ)律法に熱心であることは、あなたも認めている。 |
前田訳 | 彼らはそれを聞いて神をたたえていたが、こうもいった、「兄弟よ、お認めのように、ユダヤ人の中で信徒になったものが数万あり、みな律法に熱心です。 |
新共同 | これを聞いて、人々は皆神を賛美し、パウロに言った。「兄弟よ、ご存じのように、幾万人ものユダヤ人が信者になって、皆熱心に律法を守っています。 |
NIV | When they heard this, they praised God. Then they said to Paul: "You see, brother, how many thousands of Jews have believed, and all of them are zealous for the law. |
註解: ユダヤ人基督者がかく多くありしに関らず迫害が起らなかった事は、彼らは嘗 てパウロが然りし如く(ガラ1:14)律法に熱心であったからであった。ユダヤ教徒に取りては律法を守る事が大事件であってイエスがメシヤなりや否やは小問題に見えたからである。何時の世の中でも、一般の宗教信者は大事と小事とを見分け得ない。
辞解
[数万人] 原語は漠然たる多数を意味す。
21章21節
口語訳 | ところが、彼らが伝え聞いているところによれば、あなたは異邦人の中にいるユダヤ人一同に対して、子供に割礼を施すな、またユダヤの慣例にしたがうなと言って、モーセにそむくことを教えている、ということである。 |
塚本訳 | ところが彼らは、あなたが異教人の中にいるすべてのユダヤ人に、子供に割礼を施してはならない、(ユダヤ人の)習慣にしたがって歩いてもいけないと言って、モーセ(律法)に背くように教えているという噂を聞いている。 |
前田訳 | ところが彼らがあなたについて聞かされているのは、異邦人の中にいるすべてのユダヤ人に、子供に割礼をするな、慣わしに従って歩むな、といって、モーセに背くよう教えている、ということです。 |
新共同 | この人たちがあなたについて聞かされているところによると、あなたは異邦人の間にいる全ユダヤ人に対して、『子供に割礼を施すな。慣習に従うな』と言って、モーセから離れるように教えているとのことです。 |
NIV | They have been informed that you teach all the Jews who live among the Gentiles to turn away from Moses, telling them not to circumcise their children or live according to our customs. |
註解: パウロの真の態度はかくの如くに誤り伝えられていた。パウロはユダヤ人たると異邦人たるとを問わず、是らが自由問題であり、救と関係なき事として各人の自由に任せていた(Tコリ7:6、Tコリ7:19。Tコリ10:25。コロ2:11、コロ2:16。ロマ14:3。ガラ5:6)。唯その律法主義者(律法の行為によりて義とされる事を主張する者)に対する激しき争闘の為に、かく誤解される事は多くあった(ガラ5:2の如きかく誤解される恐あり)。ガラ3:1-6を見よ。併し乍らこれは要するにパウロの「信仰のみによりて義とされる」事の意味が充分に理解せられざるが為であって、何れの国何れの時代に於てもこれは困難なる事柄である。
21章22節
口語訳 | どうしたらよいか。あなたがここにきていることは、彼らもきっと聞き込むに違いない。 |
塚本訳 | ついては、どうしたらよいだろうか。どの道、あなたが(ここに)来ていることは彼らの耳にはいるにちがいない。── |
前田訳 | それで、どうしましょう。あなたが来られたことは、きっと彼らの耳にはいるでしょう。 |
新共同 | いったい、どうしたらよいでしょうか。彼らはあなたの来られたことをきっと耳にします。 |
NIV | What shall we do? They will certainly hear that you have come, |
註解: 彼らは集り来って如何なる問題を起すやも計り難い。
辞解
[如何にすべきか] 「さらば如何にすべきか」とも訳されている(Tコリ14:15)。問題を提出して結論を引出す場合に用う、ロマ3:9参照。
口語訳 | ついては、今わたしたちが言うとおりのことをしなさい。わたしたちの中に、誓願を立てている者が四人いる。 |
塚本訳 | だからわれわれの言うとおりにしないか。われわれのあいだに(ナジル人の)誓願を立てた者(で、金がなくて願果たしのできない者)が四人ほどいる。 |
前田訳 | それゆえ、われらのいうとおりになさい。われらの中に誓いを立てたものが四人います。 |
新共同 | だから、わたしたちの言うとおりにしてください。わたしたちの中に誓願を立てた者が四人います。 |
NIV | so do what we tell you. There are four men with us who have made a vow. |
註解: ヤコブ及び長老等はパウロに対して何等の疑惑も持たなかった。唯パウロをして無事にエルサレム訪問の目的を達せしめん為に忠告を与えるのであった。
註解: 「我らの中に」とあるより判断すれば彼らも基督者であった。それにも関らずこうした迷信に近き行為を為していた事は、当時のユダヤ的基督者の信仰の程度の低かった事と、旧き習慣は容易に脱却し得ざる事と、而してモーセの律法は尚重大なる規律として残っていた事とを示す。この誓願は多分ナザレ人の誓願であろう(M0、H0)。使18:18参照。
21章24節
口語訳 | この人たちを連れて行って、彼らと共にきよめを行い、また彼らの頭をそる費用を引き受けてやりなさい。そうすれば、あなたについて、うわさされていることは、根も葉もないことで、あなたは律法を守って、正しい生活をしていることが、みんなにわかるであろう。 |
塚本訳 | あなたはその人たちを引き受け、一緒に清めをして、彼らのために(願果たしの)費用を立て替えて頭を剃らせてやったらどうだろう。そうすれば、みんながあなたについて噂を聞いたことが根も葉もないことで、あなた自身は律法を守って歩いていることがわかるだろう。 |
前田訳 | この人たちを引きうけて、あなたもいっしょに清めをし、彼が頭を剃る費用をお払いなさい。そうすれば皆が、あなたについてうわさされていることが何でもないことで、あなた自身も律法を守って生活していることがわかるでしょう。 |
新共同 | この人たちを連れて行って一緒に身を清めてもらい、彼らのために頭をそる費用を出してください。そうすれば、あなたについて聞かされていることが根も葉もなく、あなたは律法を守って正しく生活している、ということがみんなに分かります。 |
NIV | Take these men, join in their purification rites and pay their expenses, so that they can have their heads shaved. Then everybody will know there is no truth in these reports about you, but that you yourself are living in obedience to the law. |
註解: ナザレ人の誓願の終了の時は髪を剃りてこれを祭壇の火に焼き、其他犠牲の供物を必要とした為に、相当の費用を要し、貧しき者に取りて屡々 重荷であった。その為に富裕なる者が彼らの為に出金して誓願を終えしむる事があり、これは善行としてたたえられていた。
さらば
註解: 世間一般の事件に於ては百の議論よりも一の事実が良き証明となる。ヤコブその他の長老はこの案を提出して、一はパウロの態度を検査し、一は反パウロ派に対するパウロの擁護の手段とせんとした。この方法は一見智慧ある巧なる手段方法の如くであるけれども実は甚だ拙なるものであり決して根本的な解決法では無かった。またこうした行為そのものが信仰違反と称し得られないにしても少くとも、高き程度に於ける信仰的行為ではなかった。夫ゆえにたとえパウロがこれに加わったにしてもパウロは他の人々と同一の心持を以てこれに參加する事は出来なかった。唯彼は愛のゆえに、平和を欲する事の為にこれを受諾したのであった(26節)。▲正義に違反する行為にあらざる限り協調的態度は必要であった。ただ信仰そのものいついて誤解を招かない様に注意しなければならない。
21章25節
口語訳 | 異邦人で信者になった人たちには、すでに手紙で、偶像に供えたものと、血と、絞め殺したものと、不品行とを、慎むようにとの決議が、わたしたちから知らせてある」。 |
塚本訳 | しかし(これはユダヤ人の信者だけのことで、)信者になった異教人については、(あなたも知っているように、)偶像に供えた物と、血と、絞め殺した動物と、不品行とを遠ざけるべきことを取り決めて、すでに書き送った。」 |
前田訳 | 信徒になった異邦人については、偶像に供えたものと、血と、絞め殺した生物と、不身持ちとを避けるべきことを決めて手紙を書きました」と。 |
新共同 | また、異邦人で信者になった人たちについては、わたしたちは既に手紙を書き送りました。それは、偶像に献げた肉と、血と、絞め殺した動物の肉とを口にしないように、また、みだらな行いを避けるようにという決定です。」 |
NIV | As for the Gentile believers, we have written to them our decision that they should abstain from food sacrificed to idols, from blood, from the meat of strangled animals and from sexual immorality." |
註解: 使15:20、使15:29。異邦人の信者につきては律法よりの自由があった。ゆえにこの一節を加へし所以はパウロに対する要求は単にユダヤ人に対する場合のみである事を示したのである。是れ一面に於てパウロに対して許容せる自由の報として此度の問題解決の為に努力する事を要望せる如き心持を此中に汲取る事が出来る。
21章26節
口語訳 | そこでパウロは、その次の日に四人の者を連れて、彼らと共にきよめを受けてから宮にはいった。そしてきよめの期間が終って、ひとりびとりのために供え物をささげる時を報告しておいた。 |
塚本訳 | そこでパウロはその人たちを引き受け、次の日一緒に清めをして宮に入ってゆき、“清めの日数が”満ちてひとりびとりの(願果たしの)ために捧げ物を捧げる日のことを、(祭司に)告げた。 |
前田訳 | そこでパウロはその人たちを引きうけ、次の日いっしょに清めをして宮に入り、清めの日々が終わって、ひとりひとりのために供え物をする日を告げた。 |
新共同 | そこで、パウロはその四人を連れて行って、翌日一緒に清めの式を受けて神殿に入り、いつ清めの期間が終わって、それぞれのために供え物を献げることができるかを告げた。 |
NIV | The next day Paul took the men and purified himself along with them. Then he went to the temple to give notice of the date when the days of purification would end and the offering would be made for each of them. |
註解: 後半私訳「潔の日の満ちたる事を告げ各人のために献物をささぐるまでに到れり」誓願をなせる人々は少くとも三十日の期間潔めを為す必要があった。パウロの如くそれらの人々の為に費用を出して共同に誓願を為す場合は恐らく短期間を以て同様に有効と認められ、他の人々と同一視せられ普通の潔め(民19:12。民31:19、民31:23。U歴29:5、U歴29:34。U歴30:17の如き)の日数七日(27節)にて完了したのであろう(S2参照)。潔の日充ちたる事を告げたのは祭司に告げたのであった。而してやがて献物を捧げんとした時に不慮の禍害が彼に臨んだのである。
要義1 [ヤコブの解決案]律法主義的なるエルサレムの基督者と、信仰絶対主義のパウロ一派との間には、所詮完全なる一致は不可能であった。少くともヤコブはパウロをしてその所信を披瀝 し、反対者と論戦せしむるの方法を取るべきであった。然るに誓願の式に加わらしむる事を申出したるは、唯外観的一致を来さしめんとするに過ぎざる拙なる解決法であった。パウロがこれを拒絶しなかったのは、拒絶する事によりて彼の目的とせる教会の一致を空しくせん事を憂へ、またヤコブの好意を受くる事を至当と考えたのであろう。
要義2 [パウロの態度は偽善にあらずや]パウロがヤコブ其他の長老たちの要請に応じて、誓願の式に参加した事は、ガラ2:3-5、ガラ2:13、14。ガラ5:2-4を叫べる彼には相応しからずとし、或は彼のこの行動を非難し、或はこの記事を捏造の記事と見る学者があるけれども、パウロの此度のエルサレム行の目的は、ユダヤ人の基督者と異邦人の基督者との間にキリストにある一体の事実を具現せんとするに在った故、パウロはTコリ9:20の主義に従い、またテモテに割礼を施した時の心持を以て(使16:3)この誓願に参加したのであった。第一義の事柄に就きてペテロの顔をも恐れずしてこれと争ったパウロは、第二義以下の事柄につきては偽善者と称されるをも恐れずしてこれを譲歩した。ここに却って彼の偉大さがある。この行動を以て彼の怯懦 の結果と見るは誤である。もし彼がユダヤ的基督者の迫害を恐れたのであるならば始めよりエルサレムに上らなかったであろう。また彼のこの試が失敗に帰したがゆえに彼の行為まで非難すべきではない。結果の失敗は行為の善悪を決定しない。イエスの十字架を見よ。
21章27節
口語訳 | 七日の期間が終ろうとしていた時、アジヤからきたユダヤ人たちが、宮の内でパウロを見かけて、群衆全体を煽動しはじめ、パウロに手をかけて叫び立てた、 |
塚本訳 | そして(パウロのための)七日(の清めの日)が終ろうとしている時、アジヤ(のエペソ)から来たユダヤ人たちはパウロを宮で見かけると、群衆をことごとく騒ぎ立たせ、彼に手をかけて、 |
前田訳 | 七日が終わろうとしていたとき、アジアから来たユダヤ人がパウロを宮の中で見かけ、群衆全体を騒がせて彼に手をかけ、 |
新共同 | 七日の期間が終わろうとしていたとき、アジア州から来たユダヤ人たちが神殿の境内でパウロを見つけ、全群衆を扇動して彼を捕らえ、 |
NIV | When the seven days were nearly over, some Jews from the province of Asia saw Paul at the temple. They stirred up the whole crowd and seized him, |
註解: 「七日」に冠詞あり、既定または明瞭なる七日である。前節註参照。アジヤより来りしユダヤ人はパウロの顔を知っている者が多く、直ちに彼を発見した。エルサレムの人々はバウロの顔をあまり知らない。「宮」はこの場合神殿とその周囲のイスラエル人の庭の部分で異邦人の庭の内側を総称する。そこには制札 あり異邦人の入る事が禁じられていた。
21章28節 『イスラエルの
口語訳 | 「イスラエルの人々よ、加勢にきてくれ。この人は、いたるところで民と律法とこの場所にそむくことを、みんなに教えている。その上に、ギリシヤ人を宮の内に連れ込んで、この神聖な場所を汚したのだ」。 |
塚本訳 | 叫んだ、「イスラエル人諸君、手を貸してくれ!これはだれにでも、どこででも、(イスラエルの)民と律法とこの場所[宮]とを軽蔑することを教える男だ。なおその上に、(規則にそむいて)異教人までも宮につれ込んで、この神聖な場所はけがされてしまった。」 |
前田訳 | こう叫んだ、「イスラエル人の方々、手助けしてください。これは、だれにも、どこでも、民と律法とこの所に逆らうことを教える男です。その上、ギリシア人をも宮に連れ込んで、この聖なる所を汚したのです」と。 |
新共同 | こう叫んだ。「イスラエルの人たち、手伝ってくれ。この男は、民と律法とこの場所を無視することを、至るところでだれにでも教えている。その上、ギリシア人を境内に連れ込んで、この聖なる場所を汚してしまった。」 |
NIV | shouting, "Men of Israel, help us! This is the man who teaches all men everywhere against our people and our law and this place. And besides, he has brought Greeks into the temple area and defiled this holy place." |
註解: イスラエルの民、モーセの律法、エルサレムの宮の三者はユダヤ人の宗教の三要素とも云うべき重要なるものであった。従ってこれに反する事を教う事は彼らに取りて許すべからざる非愛国的反逆行為であった。但し勿論パウロはかく教えたのではなく、真のイスラエル(ガラ6:16)、完き律法(ロマ13:10)、心の宮(Tコリ3:16)につき教えたのであった。真の愛国は固陋 の愛国者よりは反逆者の如くに思われる。
21章29節 かれら
口語訳 | 彼らは、前にエペソ人トロピモが、パウロと一緒に町を歩いていたのを見かけて、その人をパウロが宮の内に連れ込んだのだと思ったのである。 |
塚本訳 | 前にエペソ人トロピモが都で彼と一緒にいるのを彼らは見たので、その人をパウロが宮につれ込んだと思ったのである。 |
前田訳 | 彼らは前にエペソ人トロピモが町で彼といっしょにいるのを見たので、パウロがその人を宮に連れ込んだと思ったのである。 |
新共同 | 彼らは、エフェソ出身のトロフィモが前に都でパウロと一緒にいたのを見かけたので、パウロが彼を境内に連れ込んだのだと思ったからである。 |
NIV | (They had previously seen Trophimus the Ephesian in the city with Paul and assumed that Paul had brought him into the temple area.) |
註解: 異邦人を宮(異邦人の庭以内)に入れる事は死刑を以て禁止せられていた。パウロに対し反感と邪推とを懐いていた彼らはパウロとトロピモが共に市中を歩いていたのを見て直ちに宮の中に引入れたものと速断した。平日に於けるパウロの自由な行動を見ていた彼らは、かく推定したのであろう。
辞解
[トロピモ] 使20:4参照。
21章30節
口語訳 | そこで、市全体が騒ぎ出し、民衆が駆け集まってきて、パウロを捕え、宮の外に引きずり出した。そして、すぐそのあとに宮の門が閉ざされた。 |
塚本訳 | そこで都中が騒ぎ出し、民衆が駈けあつまって来て、パウロをつかまえて宮の外に引きずり出した。そしてすぐ(宮の)門はとざされた。 |
前田訳 | そこで町全体が動揺し、民衆が駆けより、パウロを捕えて宮の外へ引きずり出した。そしてすぐ門が閉ざされた。 |
新共同 | それで、都全体は大騒ぎになり、民衆は駆け寄って来て、パウロを捕らえ、境内から引きずり出した。そして、門はどれもすぐに閉ざされた。 |
NIV | The whole city was aroused, and the people came running from all directions. Seizing Paul, they dragged him from the temple, and immediately the gates were shut. |
註解: こうした問題に関して極端に敏感なるユダヤ人らはこの叫びにより騒然として馳せ集まり、パウロを宮の中にて殺害する事により宮を汚さん事を恐れてこれを宮の外に曳出し、門を鎖して再び彼を入れない事とした。
辞解
[市中みな] 誇張せる言い方であるが、騒擾 の大なりし事を示す。
21章31節
口語訳 | 彼らがパウロを殺そうとしていた時に、エルサレム全体が混乱状態に陥っているとの情報が、守備隊の千卒長にとどいた。 |
塚本訳 | 人々がパウロを殺そうとしていたとき、エルサレム中が混乱しているという報告が(守備)部隊の千卒長に届いた。 |
前田訳 | 彼らがパウロを殺そうとしていたとき、エルサレムじゅうが混乱しているとの情報が、守備隊の千卒長に届いた。 |
新共同 | 彼らがパウロを殺そうとしていたとき、エルサレム中が混乱状態に陥っているという報告が、守備大隊の千人隊長のもとに届いた。 |
NIV | While they were trying to kill him, news reached the commander of the Roman troops that the whole city of Jerusalem was in an uproar. |
註解: 千卒長は神殿地域の西北隅にあるアントニアの櫓 に屯 していて、市中の騒擾 の風評が立ち上って千卒長の耳に達した。
21章32節 かれ
口語訳 | そこで、彼はさっそく、兵卒や百卒長たちを率いて、その場に駆けつけた。人々は千卒長や兵卒たちを見て、パウロを打ちたたくのをやめた。 |
塚本訳 | 千卒長はさっそく兵卒と百卒長らとを率いて、(アントニヤの兵営から)彼らのところに駈けくだった。千卒長と兵卒らとを見ると、彼らはパウロを打つことをやめた。 |
前田訳 | 彼はさっそく兵卒と百卒長らを率いて彼らのところに駆けつけた。彼らは千卒長と兵卒らとを見ると、パウロを打つのをやめた。 |
新共同 | 千人隊長は直ちに兵士と百人隊長を率いて、その場に駆けつけた。群衆は千人隊長と兵士を見ると、パウロを殴るのをやめた。 |
NIV | He at once took some officers and soldiers and ran down to the crowd. When the rioters saw the commander and his soldiers, they stopped beating Paul. |
註解: 速かに騒擾 を鎮圧する為に部下を率いて櫓 より馳せ下った。
かれら
註解: ローマの守備兵は警察権を行使していた。
21章33節
口語訳 | 千卒長は近寄ってきてパウロを捕え、彼を二重の鎖で縛っておくように命じた上、パウロは何者か、また何をしたのか、と尋ねた。 |
塚本訳 | 千卒長は近づいてパウロをつかまえ、鎖二つでつなぐようにと命令したのち、これはいったい何者であるか、何をしたのかと問うた。 |
前田訳 | 千卒長は近づいて彼を捕え、二つの鎖で縛るよう命じた。そして彼がだれで、何をしたかをたずねた。 |
新共同 | 千人隊長は近寄ってパウロを捕らえ、二本の鎖で縛るように命じた。そして、パウロが何者であるのか、また、何をしたのかと尋ねた。 |
NIV | The commander came up and arrested him and ordered him to be bound with two chains. Then he asked who he was and what he had done. |
註解: パウロを繋ぐ事によりて彼の逃亡を禦ぐと同時に、民衆より隔離する事によりて彼を保護する巧なる処置を取った。
その
註解: この二つの問は事件の性質を明確にするに必要なる点であった。
21章34節
口語訳 | しかし、群衆がそれぞれ違ったことを叫びつづけるため、騒がしくて、確かなことがわからないので、彼はパウロを兵営に連れて行くように命じた。 |
塚本訳 | しかし群衆のめいめいがそれぞれ違ったことをどなり、騒々しくて確かなことを知ることが出来ないので、パウロを兵営につれて行くようにと命令した。 |
前田訳 | しかし、群衆の中でおのおのが他とちがったことを叫びつづけ、騒がしくて確かなことを知りえないので、彼を兵営につれてゆくよう命じた。 |
新共同 | しかし、群衆はあれやこれやと叫び立てていた。千人隊長は、騒々しくて真相をつかむことができないので、パウロを兵営に連れて行くように命じた。 |
NIV | Some in the crowd shouted one thing and some another, and since the commander could not get at the truth because of the uproar, he ordered that Paul be taken into the barracks. |
註解: 罪状不明であったのでその儘 放免する事が出来ず、アントニアの陣営に曳き来らしめた。
21章35節
口語訳 | パウロが階段にさしかかった時には、群衆の暴行を避けるため、兵卒たちにかつがれて行くという始末であった。 |
塚本訳 | しかし彼が(宮の庭から兵営へ上る)階段にさしかかった時には、群衆の暴動のために、とうとう兵卒らにかつがれた。 |
前田訳 | 階段にさしかかったとき、彼は群衆の暴行のため、兵卒にかつぎ上げられねばならなかった。 |
新共同 | パウロが階段にさしかかったとき、群衆の暴行を避けるために、兵士たちは彼を担いで行かなければならなかった。 |
NIV | When Paul reached the steps, the violence of the mob was so great he had to be carried by the soldiers. |
註解:櫓 には階段より上らなければならなかった。群衆と兵卒との間の紛争が手に取る如くに描かれている。目撃者の筆になる事を示す、当時のローマの政府及び軍隊は基督者の為にはむしろこれを保護する場合が多かった。後に至ってその形勢は一変した。
21章36節 これ
口語訳 | 大ぜいの民衆が「あれをやっつけてしまえ」と叫びながら、ついてきたからである。 |
塚本訳 | 民衆の群が「あれを片付けろ」と叫びながら、あとについて来たからである。 |
前田訳 | 大勢の民衆が「あれを殺せ」と叫びながらついて来た。 |
新共同 | 大勢の民衆が、「その男を殺してしまえ」と叫びながらついて来たからである。 |
NIV | The crowd that followed kept shouting, "Away with him!" |
註解: マコ15:13、ルカ23:18の群衆の叫びを思わしむ。群集の声は往々にして神の御旨に対する反逆である。
21章37節 パウロ
口語訳 | パウロが兵営の中に連れて行かれようとした時、千卒長に、「ひと言あなたにお話してもよろしいですか」と尋ねると、千卒長が言った、「おまえはギリシヤ語が話せるのか。 |
塚本訳 | 兵営につれ込まれようとしたとき、パウロが(ギリシヤ語で)千卒長に、「よろしかったら一言申し上げたいのですが」と言うと、千卒長が言った、「ギリシヤ語がわかるのか。 |
前田訳 | 兵営に連れ込まれようとしたとき、パウロが千卒長に、「ひとこと申し上げてよいですか」というと、千卒長はいった、「ギリシア語を知っているのか。 |
新共同 | パウロは兵営の中に連れて行かれそうになったとき、「ひと言お話ししてもよいでしょうか」と千人隊長に言った。すると、千人隊長が尋ねた。「ギリシア語が話せるのか。 |
NIV | As the soldiers were about to take Paul into the barracks, he asked the commander, "May I say something to you?" "Do you speak Greek?" he replied. |
註解: パウロの心はこうした生命の危険に曝 されつつも、自己につきては何事も考えず唯ユダヤ人にイエスの福音を伝える事に集中されていた。夫故階段に上りかけし機会を利用して群衆に福音を伝えんとしたのである。その大胆さと心の余裕と、頓智 と而して福音の為には何事をも恐れざる勇気とを見よ、千卒長がパウロのギリシヤ語をききておどろきたる有様を想像すべし。
21章38節
口語訳 | では、もしかおまえは、先ごろ反乱を起した後、四千人の刺客を引き連れて荒野へ逃げて行ったあのエジプト人ではないのか」。 |
塚本訳 | ではお前は、この間一揆を起こして刺客を四千人も荒野に連れだした(あの)エジプト人ではないのか。」 |
前田訳 | それならお前は先ごろ暴動をおこして刺客四千人を荒野に連れ出したあのエジプト人ではないのか」と。 |
新共同 | それならお前は、最近反乱を起こし、四千人の暗殺者を引き連れて荒れ野へ行った、あのエジプト人ではないのか。」 |
NIV | "Aren't you the Egyptian who started a revolt and led four thousand terrorists out into the desert some time ago?" |
註解: この疑問詞 ouk ara は否定的の答を予期せしもの。このエジプト人はヨセフスの歴史によればネロ帝(紀元54-68)の時にローマの政府を転覆せんとして起れる偽預言者で、刺客四千(ヨセフスの歴史によれば三万)を率いてオリブ山に登りエルサレムの滅亡を眺めんとして遂にペリクスに破られて逃亡した。千卒長は疑ひつつも事によったらこの反逆者が何れからか現れて来たのかとも考えたのであろう。
辞解
[刺客]懐剣 を懐 にして人を殺す事を常習とする匪賊 の如きもの。
21章39節 パウロ
口語訳 | パウロは答えた、「わたしはタルソ生れのユダヤ人で、キリキヤのれっきとした都市の市民です。お願いですが、民衆に話をさせて下さい」。 |
塚本訳 | パウロが言った、「わたしはユダヤ人です。キリキヤの名もない町ではないタルソの市民です。お願いします、あの民衆に話をすることを許してください。」 |
前田訳 | パウロはいった、「わたしはユダヤ人で、タルソの出身です。キリキアの有名な町の市民です。お願いですが、民衆に話すことをお許しください」と。 |
新共同 | パウロは言った。「わたしは確かにユダヤ人です。キリキア州のれっきとした町、タルソスの市民です。どうか、この人たちに話をさせてください。」 |
NIV | Paul answered, "I am a Jew, from Tarsus in Cilicia, a citizen of no ordinary city. Please let me speak to the people." |
註解: パウロの身分に関する誇がここにあらわれている。
辞解
[鄙しからぬ市] 「相当に人に知られている市」の事。
註解: 自己の立場を弁明せんが為である事をパウロは千卒長に告げたのであろう。
21章40節
口語訳 | 千卒長が許してくれたので、パウロは階段の上に立ち、民衆にむかって手を振った。すると、一同がすっかり静粛になったので、パウロはヘブル語で話し出した。 |
塚本訳 | 許されると、パウロは階段の上に立ち、民衆に向かって手で合図をし、すっかり静かになったとき、ヘブライ語[アラミ語]で話しかけた。── |
前田訳 | 許されると、パウロは階段の上に立ち、民衆に手で合図をし、すっかり静かになったとき、ヘブライ語で話しかけた。 |
新共同 | 千人隊長が許可したので、パウロは階段の上に立ち、民衆を手で制した。すっかり静かになったとき、パウロはヘブライ語で話し始めた。 |
NIV | Having received the commander's permission, Paul stood on the steps and motioned to the crowd. When they were all silent, he said to them in Aramaic : |
註解: 千卒長はパウロのギリシヤ語とその身分とに驚きて語る事を許し、群衆はパウロの態度とそのヘブル語即ちシロ・カルデヤ語(またアラム語と称されるもの)を聞いておどろいて沈黙した。この間をパウロは天馬空を行くが如くに、その弁証論を吐露したのである。
要義1 [パウロに対する誤解]パウロはトロピモを宮の中に入れたものとしてユダヤ人の迫害を受けた。是は事実に相違していたけれども、実は平生に於けるパウロの自由なる行動を目撃していた彼らとしては無理もなき誤解であった。もしこの誤解を恐れるならばパウロも普通のユダヤ人と同じく異邦人に遠ざからなければならない。併し是はパウロには出来なかった。パウロはユダヤ人の規則を破ってまでも、トロピモを宮の中に曳入れる事はしなかったけれども、トロピモと共に市中を歩む事を恐れなかった。李下 に冠を正さず瓜田 に靴を脱がざる注意は或程度まで必要であるが、重大なる真理の証明の為に必要なる場合は他人の誤解を恐れてはならない。
要義2 [パウロの伝道の熱心さ]熱心は我らに思いがけなき智慧を与える。パウロはユダヤ人らに迫害せられローマの兵士に捕えられて将にアントニアの兵営に曳き行かれんとしてその階段を上りかけていた。普通ならば、早く兵舎の中に入りてその危険を免れる事を望む処であるのに、パウロはこの機会を利用して、階段の上より群衆に向ってキリストの福音を証せんとした。大胆不敵の態度である。神を思う熱心が彼をしてこの巧なる智慧を有たしめたのであった。伝道の為に必要なものは学問よりも、雄弁よりも、牧会学よりも、むしろ伝道の熱心である。
要義3 [至高の真理は大衆に誤解される]パウロは「民と律法とこの所とに悖 れることを人々に教うる者」(28節)として非難せられ、また「聖なる所を汚すもの」と誤解された。然るに事実パウロの主張する処は肉によれるイスラエルを高めて霊のイスラエルたらしめん事であり(ガラ6:18)、モーセの律法を一層完全なるキリストの律法(Tコリ9:21。ガラ6:2)、愛の律法(ロマ13:10)たらしむる事であり、我らの体を神の宮たらしむる事(Tコリ3:16)であった。且 パウロは神の宮を汚す事は心に罪をいだき、神の子イエスを拒む事であると主張した。こうした高き主張は一般イスラエルの悟る処とならず、却って彼を以てイスラエルの伝統に反する反逆者として彼を迫害した。何時の時代も最高の真理は誤解と迫害とを受ける。
使徒行伝第22章
6-1-4 パウロ、群集に向って語る
22:1 - 22:21
口語訳 | 「兄弟たち、父たちよ、いま申し上げるわたしの弁明を聞いていただきたい」。 |
塚本訳 | 「兄弟の方々、お父さん方、聞いてください、今弁明します。」── |
前田訳 | 「兄弟方、父がた、今わたしのする弁明をお聞きください」。 |
新共同 | 「兄弟であり父である皆さん、これから申し上げる弁明を聞いてください。」 |
NIV | "Brothers and fathers, listen now to my defense." |
註解: 祭司、長老たちもいた為にかく呼んだのである。パウロは己を殺さんとする人々に対しても正しき礼節を尽した。
註解: この弁明は主としてパウロ自身の何たるか、及び如何にしてキリストを見しか、如何にキリストより福音の宣伝を命ぜられしかより成る。
22章2節
口語訳 | パウロが、ヘブル語でこう語りかけるのを聞いて、人々はますます静粛になった。 |
塚本訳 | ヘブライ語で話しかけるのを聞くと、人々はますます静かになった。パウロは言う。── |
前田訳 | ヘブライ語で話しかけるのを聞いて、人々はますます静かになった。彼はいう、 |
新共同 | パウロがヘブライ語で話すのを聞いて、人々はますます静かになった。パウロは言った。 |
NIV | When they heard him speak to them in Aramaic, they became very quiet. Then Paul said: |
註解: 民衆はパウロのヘブル語を聞きて案外の感に打たれた。思いがけない事実を聴き得るにあらずやと静に耳を傾けた。パウロはこれを利用してその経験を述べる事が出来た。
22章3節 『
口語訳 | そこで彼は言葉をついで言った、「わたしはキリキヤのタルソで生れたユダヤ人であるが、この都で育てられ、ガマリエルのひざもとで先祖伝来の律法について、きびしい薫陶を受け、今日の皆さんと同じく神に対して熱心な者であった。 |
塚本訳 | 「わたしはキリキヤのタルソで生まれたユダヤ人ですが、この(エルサレムの)都で育てられ、ガマリエル(先生)の膝下で先祖の律法によって厳格な教育をうけ、今日の皆さんと同様、神に対して熱心家でありました。 |
前田訳 | 「わたしはユダヤ人で、キリキアのタルソで生まれ、この町で育てられ、ガマリエルの足もとで先祖の律法についてきびしい教育を受け、こんにちの皆さんと同じように神への熱心家でした。 |
新共同 | 「わたしは、キリキア州のタルソスで生まれたユダヤ人です。そして、この都で育ち、ガマリエルのもとで先祖の律法について厳しい教育を受け、今日の皆さんと同じように、熱心に神に仕えていました。 |
NIV | "I am a Jew, born in Tarsus of Cilicia, but brought up in this city. Under Gamaliel I was thoroughly trained in the law of our fathers and was just as zealous for God as any of you are today. |
註解: このパウロの言を聞きて群衆はパウロに対して思いがけなき親しみを感じ、尊敬をいだくに至った事と思う。
辞解
[タルソ] 使9:11辞解参照。
[ガマリエル] 使5:34註参照。
[律法の厳しき方] パリサイ派の中にも二つの流れあり厳しき方をヒレル派、稍 寛大なるをシヤンマイ派と云う。
22章4節
口語訳 | そして、この道を迫害し、男であれ女であれ、縛りあげて獄に投じ、彼らを死に至らせた。 |
塚本訳 | わたしはこの(キリストの)道を迫害し、男女の別なく(信者を)しばって牢に入れ、殺すことをも辞さなかったのであります。 |
前田訳 | わたしはこの道を迫害し、男も女も縛って牢に引き渡し、死に至らせるほどでした。 |
新共同 | わたしはこの道を迫害し、男女を問わず縛り上げて獄に投じ、殺すことさえしたのです。 |
NIV | I persecuted the followers of this Way to their death, arresting both men and women and throwing them into prison, |
22章5節
口語訳 | このことは、大祭司も長老たち一同も、証明するところである。さらにわたしは、この人たちからダマスコの同志たちへあてた手紙をもらって、その地にいる者たちを縛りあげ、エルサレムにひっぱってきて、処罰するため、出かけて行った。 |
塚本訳 | このことは大祭司をはじめ元老院全体も、わたしのために証人になられるにちがいない。わたしはその方々からダマスコに居る(ユダヤ教の)兄弟たちあての添書までもらって、出かけて行ったのです。そこにいる(この道の)者をも縛ってエルサレムに引いてきて、罰するためでありました。 |
前田訳 | これは大祭司も長老会議全体も証するとおりです。彼らからダマスコにいる兄弟たちへの手紙までも受け取って出かけました。そこにいる人々をも縛ってエルサレムに連れてきて罰するためでした。 |
新共同 | このことについては、大祭司も長老会全体も、わたしのために証言してくれます。実は、この人たちからダマスコにいる同志にあてた手紙までもらい、その地にいる者たちを縛り上げ、エルサレムへ連行して処罰するために出かけて行ったのです。」 |
NIV | as also the high priest and all the Council can testify. I even obtained letters from them to their brothers in Damascus, and went there to bring these people as prisoners to Jerusalem to be punished. |
註解: 使8:3参照。パウロは如何に律法と伝統とに対して熱心であり、基督者を迫害せしかを群衆に告ぐる事によりて、群衆の主張に対し充分に同情と理解とがある事を明かにし、群衆を己が方に引寄せんとした。而してその当時、今より二十余年前にパウロの所為 を後援せる祭司及び長老たちの中には、今この群衆の中に在る者も無きにはあらざる事を思い彼らの証言を期待して自己の言の確実さを保証した。
辞解
[この道] 使9:2註参照。
22章6節 エルサレムに
口語訳 | 旅をつづけてダマスコの近くにきた時に、真昼ごろ、突然、つよい光が天からわたしをめぐり照した。 |
塚本訳 | ところが進んでいってダマスコに近づくと、昼ごろ、突然、天から強い光がさしてわたしのまわりに輝いた。 |
前田訳 | 歩いてダマスコに近づくと、真昼ごろ、突然天から強い光がわたしのまわりに輝きました。 |
新共同 | 「旅を続けてダマスコに近づいたときのこと、真昼ごろ、突然、天から強い光がわたしの周りを照らしました。 |
NIV | "About noon as I came near Damascus, suddenly a bright light from heaven flashed around me. |
註解: (原典は是までを五節として区分す)使9:2に同一の記事あり、パウロはエルサレムの基督者を迫害し、更に進んでダマスコに逃れし基督者をも捕えてエルサレムに曳き来らんとした。
辞解
[兄弟たち] ユダヤ人の事。
[ダマスコに寓り居る] 原文「ダマスコへ〔行きそこに〕居る」と云う如き含蓄あり、エルせレムを逃れし信者なる事を暗示す。6-11節につきては使9:3-8註を参照すべし、二者殆んど同一なり。
註解: 使9:3に「正午ごろ」と「大なる」とを欠く、ルカ自身必ずしもこの両者及び使26:13-18を機械的に一致せしめんとしなかった事を示す。
22章7節 その
口語訳 | わたしは地に倒れた。そして、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか』と、呼びかける声を聞いた。 |
塚本訳 | わたしは地べたに倒れて、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか』と言う声を聞いた。 |
前田訳 | わたしは地に倒れ、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか』という声を聞きました。 |
新共同 | わたしは地面に倒れ、『サウル、サウル、なぜ、わたしを迫害するのか』と言う声を聞いたのです。 |
NIV | I fell to the ground and heard a voice say to me, `Saul! Saul! Why do you persecute me?' |
註解: 使26:14に「刺ある策を蹴るは難し」との追加あり、サウロはその当時のパウロの名。
22章8節 「
口語訳 | これに対してわたしは、『主よ、あなたはどなたですか』と言った。すると、その声が、『わたしは、あなたが迫害しているナザレ人イエスである』と答えた。 |
塚本訳 | わたしは答えた、『主よ、あなたはどなたですか。』わたしに言われた、『わたしだ、君が迫害しているナザレ人イエスだ。』 |
前田訳 | わたしは答えました、『主よ、あなたはどなたですか』と。わたしにいわれました、『わたしはあなたが迫害しているナザレ人イエスである』と。 |
新共同 | 『主よ、あなたはどなたですか』と尋ねると、『わたしは、あなたが迫害しているナザレのイエスである』と答えがありました。 |
NIV | "`Who are you, Lord?' I asked. "`I am Jesus of Nazareth, whom you are persecuting,' he replied. |
22章9節
口語訳 | わたしと一緒にいた者たちは、その光は見たが、わたしに語りかけたかたの声は聞かなかった。 |
塚本訳 | 連れの者たちは光は見えたが、わたしにお話になる方の声は聞こえなかった。 |
前田訳 | 連れの人々は光は見ましたが、わたしと語られる方の声は聞きませんでした。 |
新共同 | 一緒にいた人々は、その光は見たのですが、わたしに話しかけた方の声は聞きませんでした。 |
NIV | My companions saw the light, but they did not understand the voice of him who was speaking to me. |
22章10節 われ
口語訳 | わたしが『主よ、わたしは何をしたらよいでしょうか』と尋ねたところ、主は言われた、『起きあがってダマスコに行きなさい。そうすれば、あなたがするように決めてある事が、すべてそこで告げられるであろう』。 |
塚本訳 | わたしは言った、『主よ、何をしたらよいのでしょうか。』主は言われた、『起きてダマスコ(の町)まで行け。そうすればそこで一切は告げられる。君のすることは決めてある。』 |
前田訳 | わたしはいいました、『主よ、わたしは何をすべきですか』と。主はいわれました、『起きてダマスコへ行きなさい。そうすれば、そこであなたがするよう定められたすべてのことが告げられよう』と。 |
新共同 | 『主よ、どうしたらよいでしょうか』と申しますと、主は、『立ち上がってダマスコへ行け。しなければならないことは、すべてそこで知らされる』と言われました。 |
NIV | "`What shall I do, Lord?' I asked. "`Get up,' the Lord said, `and go into Damascus. There you will be told all that you have been assigned to do.' |
註解: 使9:6に稍 簡略にこれを記す、使9:7には「同行の人物言うこと能わずして立ちたりしが」とあり。尚9、10節と使9:7及び使26:14との関係につきては使9:7註参照。
22章11節
口語訳 | わたしは、光の輝きで目がくらみ、何も見えなくなっていたので、連れの者たちに手を引かれながら、ダマスコに行った。 |
塚本訳 | わたしはその光のまばゆさのために目が見えないので、連れの者たちに手を引かれてダマスコに行きました。 |
前田訳 | その光の輝きで目が見えなかったので、連れの人々に手を引かれてダマスコに行きました。 |
新共同 | わたしは、その光の輝きのために目が見えなくなっていましたので、一緒にいた人たちに手を引かれて、ダマスコに入りました。 |
NIV | My companions led me by the hand into Damascus, because the brilliance of the light had blinded me. |
註解: かくて「三日のあいだ見えずまた飲食せざりき」(使9:9)
22章12節
口語訳 | すると、律法に忠実で、ダマスコ在住のユダヤ人全体に評判のよいアナニヤという人が、 |
塚本訳 | すると(ダマスコに)アナニヤという人がいた。律法的に信心深く、そこに住むユダヤ人全体に評判がよかったが、 |
前田訳 | すると、アナニヤという、律法に忠実で敬虔な人がいました。そこに住むユダヤ人全体に評判のよい人でした。 |
新共同 | ダマスコにはアナニアという人がいました。律法に従って生活する信仰深い人で、そこに住んでいるすべてのユダヤ人の中で評判の良い人でした。 |
NIV | "A man named Ananias came to see me. He was a devout observer of the law and highly respected by all the Jews living there. |
註解: 使9:10-16参照。「律法に據 れる敬虔の人」は彼のユダヤ人たる事を意味し、異邦人にしてユダヤ教に帰依せる人との区別を示す、ユダヤ人に令聞 ある事を指摘せる所以は群衆の信用を得る為の巧なる証明法である。彼は弟子の一人であった(使9:10)。パウロは或る群衆に向っては此事を言わなかったのかも知れない。
22章13節
口語訳 | わたしのところにきて、そばに立ち、『兄弟サウロよ、見えるようになりなさい』と言った。するとその瞬間に、わたしの目が開いて、彼の姿が見えた。 |
塚本訳 | わたしの所に来て近寄り、『兄弟サウロよ、見えるようになれ!』と言った。するとその瞬間に(見えるようになって、)わたしは彼を見上げた。 |
前田訳 | 彼がわたしのそばに来て立ち、『兄弟サウロよ、見えるようにおなりなさい』といいました。そのときわたしは彼を見上げることができました。 |
新共同 | この人がわたしのところに来て、そばに立ってこう言いました。『兄弟サウル、元どおり見えるようになりなさい。』するとそのとき、わたしはその人が見えるようになったのです。 |
NIV | He stood beside me and said, `Brother Saul, receive your sight!' And at that very moment I was able to see him. |
註解: アナニヤがパウロを訪れるに至った事情につきては使9:10-16を見よ、尚使9:17-19に一層詳細に記さる、これを参照すべし。
辞解
[仰ぎて彼を見たり] anablepô は「視力を快復せる」意味にも解する事を得。
22章14節 かれ
口語訳 | 彼は言った、『わたしたちの先祖の神が、あなたを選んでみ旨を知らせ、かの義人を見させ、その口から声をお聞かせになった。 |
塚本訳 | アナニヤは言った、『わたし達の先祖の神はあなたを選んで御心を知らせ、また正しい人(である主イエス)を見せ、その口から声をお聞かせになったが、 |
前田訳 | 彼はいいました、『われらの先祖の神はあなたを定めて、み心を知り、義にいます方を見、その口から声を聞くようになさいました。 |
新共同 | アナニアは言いました。『わたしたちの先祖の神が、あなたをお選びになった。それは、御心を悟らせ、あの正しい方に会わせて、その口からの声を聞かせるためです。 |
NIV | "Then he said: `The God of our fathers has chosen you to know his will and to see the Righteous One and to hear words from his mouth. |
註解: パウロが途中にイエスを見、その御声を聞き神の御旨を知ったのは、アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神の選による事である。即ちイスラエルの民に約束を与え給える神の選である。ゆえに決して偶然の事ではなく、またイエスを信ずる事は決してイスラエルの先祖の神に叛く事ではない。
22章15節 これは
口語訳 | それはあなたが、その見聞きした事につき、すべての人に対して、彼の証人になるためである。 |
塚本訳 | それはあなたがいま見たこと聞いたことにつき、全人類に対してその方のために証人になるからだ。 |
前田訳 | それはあなたが見、また聞いたことについて、すべての人々の前にその方の証人になるためです。 |
新共同 | あなたは、見聞きしたことについて、すべての人に対してその方の証人となる者だからです。 |
NIV | You will be his witness to all men of what you have seen and heard. |
註解: 福音を伝える事は見聞したる事実を伝える事である。思索による理論を伝える事ではない。パウロはこの事実の証人として選ばれたのであった。
22章16節
口語訳 | そこで今、なんのためらうことがあろうか。すぐ立って、み名をとなえてバプテスマを受け、あなたの罪を洗い落しなさい』。 |
塚本訳 | さあ、何をためらっているのか。(すぐ)立って、主の名を呼んで洗礼を受け、罪を洗いおとしなさい。』 |
前田訳 | さあ、なぜためらうのですか。立って、彼のみ名を呼びながら洗礼を受け、罪を洗いとりなさい』と。 |
新共同 | 今、何をためらっているのです。立ち上がりなさい。その方の名を唱え、洗礼を受けて罪を洗い清めなさい。』」 |
NIV | And now what are you waiting for? Get up, be baptized and wash your sins away, calling on his name.' |
註解: アナニヤはパウロを督促してバプテスマを受けしめた。パウロはアナニヤより自己の使命につき示された事を群衆に語る事によりて、それが全く神の御旨によるものである事を明かにせんとしたのであった。
口語訳 | それからわたしは、エルサレムに帰って宮で祈っているうちに、夢うつつになり、 |
塚本訳 | それからわたしはエルサレムに帰って宮で祈っていると、我を忘れた心地になって |
前田訳 | わたしがエルサレムへ帰って宮で祈っていますと、恍惚としまして、 |
新共同 | 「さて、わたしはエルサレムに帰って来て、神殿で祈っていたとき、我を忘れた状態になり、 |
NIV | "When I returned to Jerusalem and was praying at the temple, I fell into a trance |
註解: 使9:26。ガラ1:18のエルサレム行に相当するならん。即ちアラビヤの荒野及びダマスコに於て三年を経過せる後であった。
註解: 今パウロはこの宮を汚せる罪を問はれているけれども、彼はユダヤ人一般と同じく宮に祈を為していたのであった。
註解: 恍惚状態、法悦境とも云うべき心理状態となってイエスを見た。
22章18節 「なんぢ
口語訳 | 主にまみえたが、主は言われた、『急いで、すぐにエルサレムを出て行きなさい。わたしについてのあなたのあかしを、人々が受けいれないから』。 |
塚本訳 | 主にお目にかかった。主は言われた、『急いで、すぐさまエルサレムを出てゆけ。ここの人々は君がわたしの証しをしても、受け入れないのだから。』 |
前田訳 | 彼にまみえました。彼はいわれました、『急いで、すぐエルサレムを出なさい。人々はわたしについてのあなたの証を受け入れまいから』と。 |
新共同 | 主にお会いしたのです。主は言われました。『急げ。すぐエルサレムから出て行け。わたしについてあなたが証しすることを、人々が受け入れないからである。』 |
NIV | and saw the Lord speaking. `Quick!' he said to me. `Leave Jerusalem immediately, because they will not accept your testimony about me.' |
註解: 使9:29に記されし所と相違するが如くに見えるけれども、ルカの記事は客観的に当時の事情を示し、パウロの語は主観的に自己に示されし黙示によったのである。尚ガラ2:2と使15:2との相違もこれと同様の理由による。ガラ2:2註参照。
22章19節
口語訳 | そこで、わたしが言った、『主よ、彼らは、わたしがいたるところの会堂で、あなたを信じる人々を獄に投じたり、むち打ったりしていたことを、知っています。 |
塚本訳 | しかしわたしはこたえた、『主よ、このわたしは、(今まで)あなたを信ずる者を牢に入れたり礼拝堂で打たせたりしていたことが、あの人たちにはわかっております。 |
前田訳 | わたしはいいました、『主よ、彼らは知っております、このわたしがあなたを信ずるものたちを牢に入れ、諸会堂で笞打っていたことを。 |
新共同 | わたしは申しました。『主よ、わたしが会堂から会堂へと回って、あなたを信じる者を投獄したり、鞭で打ちたたいたりしていたことを、この人々は知っています。 |
NIV | "`Lord,' I replied, `these men know that I went from one synagogue to another to imprison and beat those who believe in you. |
註解: 「諸会堂にて」を「会堂毎に」と訳し「獄に入れ」の前に置くべきである。
22章20節
口語訳 | また、あなたの証人ステパノの血が流された時も、わたしは立ち合っていてそれに賛成し、また彼を殺した人たちの上着の番をしていたのです』。 |
塚本訳 | またあなたの殉教者ステパノの血が流された時、わたしもそばに立っていてそれに賛成し、ステパノをやっつける人たちの上着の番をしていました。』 |
前田訳 | あなたの証人ステパノの血が流されたとき、わたし自身そこに立っていまして、それを認め、彼を殺す人々の上着の番をしていました』。 |
新共同 | また、あなたの証人ステファノの血が流されたとき、わたしもその場にいてそれに賛成し、彼を殺す者たちの上着の番もしたのです。』 |
NIV | And when the blood of your martyr Stephen was shed, I stood there giving my approval and guarding the clothes of those who were killing him.' |
註解: 使7:57、58。使8:1-3の事実を云う。パウロがこの事実を以てイエスに抗議せる意味は二様に取る事が出来る。(1)は、我はかく基督者を迫害せる者であったから今急にキリストの福音を説くも彼らは容易に信じないであろうから、今暫く時を与え給えと祈願せる意味に取る説であり、(2)は基督者の迫害者たるわれが、今や一変してその福音を宣伝する様になっている事は、非常なる変化故、ユダヤ人も必ずこれを信ずるに相違なき故、暫く我をエルサレムに止め給えとの意味に解する説である。(2)がパウロの心に近いものと思われる。
22章21節 われに
口語訳 | すると、主がわたしに言われた、『行きなさい。わたしが、あなたを遠く異邦の民へつかわすのだ』」。 |
塚本訳 | 主はわたしに言われた、『行け、わたしが君を遠く異教人につかわすのだから。』」 |
前田訳 | 主はいわれました、『行きなさい、わたしはあなたを遠く異邦人へとつかわそう』」と。 |
新共同 | すると、主は言われました。『行け。わたしがあなたを遠く異邦人のために遣わすのだ。』」 |
NIV | "Then the Lord said to me, `Go; I will send you far away to the Gentiles.'" |
註解: 主イエスはパウロの懇請 を容れ給わず、その御意のままにこれを異邦人に遣し給うた(「我なんじを」の我は意味を強める語である)。パウロはかくて主の御言に従ってその使命に向ったのである。尚お異邦人の使徒としての任命は使9:15。使26:17等により回心と同時に行われし如くであるけれども、パウロに取りてはこの時最も明瞭に主の御声を聞いたのであった。17-20節は使9:29の補充的記事と見るべきである。
22章22節
口語訳 | 彼の言葉をここまで聞いていた人々は、このとき、声を張りあげて言った、「こんな男は地上から取り除いてしまえ。生かしおくべきではない」。 |
塚本訳 | (静かに聞いていた)人々は、(主から異教人につかわされたのだという)パウロのこの言葉まで聞くと、声を張りあげて言った、「こんな奴は地の上から片付けろ。生かしておいてはならない!」 |
前田訳 | 人々は聞いていたが、パウロのことばがここまで来ると、声をあげていった、「この男を地の上から除けよ。生かしておくべきでない」と。 |
新共同 | パウロの話をここまで聞いた人々は、声を張り上げて言った。「こんな男は、地上から除いてしまえ。生かしてはおけない。」 |
NIV | The crowd listened to Paul until he said this. Then they raised their voices and shouted, "Rid the earth of him! He's not fit to live!" |
註解: パウロの弁論はこの言(21節)で中断された。イスラエルの神がそのメシヤに関する福音を異邦人に伝えしむると云う如き事は、彼らイスラエル人に対する大なる侮辱と感じたのであった。「地より除け」は地はこうした穢わしき者を載するに耐えずとの意。
22章23節
口語訳 | 人々がこうわめき立てて、空中に上着を投げ、ちりをまき散らす始末であったので、 |
塚本訳 | こう叫んで、(石打ちをしようと)上着を脱ぎすてたり、砂を空中にまき散らしたりしたので、 |
前田訳 | 彼らはわめき、上着を投げ、ほこりを空中に投げたので、 |
新共同 | 彼らがわめき立てて上着を投げつけ、砂埃を空中にまき散らすほどだったので、 |
NIV | As they were shouting and throwing off their cloaks and flinging dust into the air, |
註解: 「脱ぎすて」はまた「振ふ」の意味にも解せられ、衣を脱ぎて空中に振り動かせる事、塵を空中に撒く事は悔恨、嫌悪等の激しき情を表わす為に行う態度(ヨブ2:12。Uサム16:13。黙18:19)。この両者何れもパウロに対する激しき憤慨の情を示す示威的行動である。パウロは千卒長の手中にある為に直ちに彼を石にて打つ事は出来なかった。
22章24節
口語訳 | 千卒長はパウロを兵営に引き入れるように命じ、どういうわけで、彼に対してこんなにわめき立てているのかを確かめるため、彼をむちの拷問にかけて、取り調べるように言いわたした。 |
塚本訳 | 千卒長はパウロを兵営につれ込み、拷問にかけて取り調べるようにと命令した。どういう訳で人々が彼に向かってこんなにどなっているのかを、調査しようとしたのであった。 |
前田訳 | 千卒長は彼を兵営に引き入れるよう命じ、どういうわけで人々がこのように彼に叫んでいるかを知るために、拷問して取り調べるよういいつけた。 |
新共同 | 千人隊長はパウロを兵営に入れるように命じ、人々がどうしてこれほどパウロに対してわめき立てるのかを知るため、鞭で打ちたたいて調べるようにと言った。 |
NIV | the commander ordered Paul to be taken into the barracks. He directed that he be flogged and questioned in order to find out why the people were shouting at him like this. |
註解: 千卒長はパウロのヘブル語を解せざりしならん、群衆の怒号をききパウロに何等かの罪過があるものと推定しその理由を知らんとした。
註解: 拷問によりて訊問する事は奴隷に対して行われる方法で一般には特別の場合の外禁じられていたけれども、地方の官憲に於ては濫りに行われていた。
22章25節
口語訳 | 彼らがむちを当てるため、彼を縛りつけていた時、パウロはそばに立っている百卒長に言った、「ローマの市民たる者を、裁判にかけもしないで、むち打ってよいのか」。 |
塚本訳 | (兵卒らが)鞭で打つため(拷問柱に)しばりつけた時、パウロはそこに立っていた百卒長に言った、「あなたたちはローマ市民たる者を、しかも(正式の)裁判もせずに、鞭打ってもよろしいのか。」 |
前田訳 | 笞打つため彼を縛ると、パウロはそこに立っていた百卒長にいった、「あなた方にはローマ人を裁判なしで笞打つことが許されているのか」と。 |
新共同 | パウロを鞭で打つため、その両手を広げて縛ると、パウロはそばに立っていた百人隊長に言った。「ローマ帝国の市民権を持つ者を、裁判にかけずに鞭で打ってもよいのですか。」 |
NIV | As they stretched him out to flog him, Paul said to the centurion standing there, "Is it legal for you to flog a Roman citizen who hasn't even been found guilty?" |
註解: 「引き張り」はうつ伏せに臥 せしむる事、「革鞭を以てパウロを縛りしとき」と訳する事は適当ではない。
かれ
註解: パウロはこの拷問の取扱の不当なる事を考え、この時も亦(使16:37参照)そのローマの市民権を利用して自己を保護した。神の器であったパウロはあらゆる正しき手段を以て自己の肉体をも守る事を正当と信じたのである。
22章26節
口語訳 | 百卒長はこれを聞き、千卒長のところに行って報告し、そして言った、「どうなさいますか。あの人はローマの市民なのです」。 |
塚本訳 | 百卒長はこれを聞くと、(驚いて)千卒長のところに行って報告した、「なんということを、しようとされているのです。あの男はローマ市民です。」 |
前田訳 | それを聞いて百卒長は千卒長のところへいって報告していった、「どうなさいますか、あの人はローマ人です」と。 |
新共同 | これを聞いた百人隊長は、千人隊長のところへ行って報告した。「どうなさいますか。あの男はローマ帝国の市民です。」 |
NIV | When the centurion heard this, he went to the commander and reported it. "What are you going to do?" he asked. "This man is a Roman citizen." |
註解: 百卒長のおどろきと心配とを示す。
22章27節
口語訳 | そこで、千卒長がパウロのところにきて言った、「わたしに言ってくれ。あなたはローマの市民なのか」。パウロは「そうです」と言った。 |
塚本訳 | そこで千卒長が来てパウロに言った、「聞かせてくれ、ほんとうに君はローマ市民なのか。」「そうです」とパウロが言った。 |
前田訳 | 千卒長がパウロのところに来ていった、「わたしにいいなさい。あなたはローマ人ですか」と。彼はいった、「そうです」と。 |
新共同 | 千人隊長はパウロのところへ来て言った。「あなたはローマ帝国の市民なのか。わたしに言いなさい。」パウロは、「そうです」と言った。 |
NIV | The commander went to Paul and asked, "Tell me, are you a Roman citizen?" "Yes, I am," he answered. |
註解: 千卒長の言は驚きと軽蔑との混合の如き語気あり。
22章28節
口語訳 | これに対して千卒長が言った、「わたしはこの市民権を、多額の金で買い取ったのだ」。するとパウロは言った、「わたしは生れながらの市民です」。 |
塚本訳 | 千卒長が答えた、「わたしはかなりの金を出してこの市民権を手に入れた。」パウロは言った、「いや、わたしは生まれながら(の市民)です。」 |
前田訳 | 千卒長はいった、「わたしは大金を出してこの市民権を得ました」と。パウロはいった、「わたしは生まれながらです」と。 |
新共同 | 千人隊長が、「わたしは、多額の金を出してこの市民権を得たのだ」と言うと、パウロは、「わたしは生まれながらローマ帝国の市民です」と言った。 |
NIV | Then the commander said, "I had to pay a big price for my citizenship." "But I was born a citizen," Paul replied. |
註解: ローマ政府はその歳入の不足を補う目的を以て市民権を高価に売却した。
パウロ
註解: パウロの父または祖先が如何にしてローマの市民権を得たかは明かでない。功労ある者または富者或は社会的地位ある者に与えられる例であった。ローマ市民権はこれに伴い種々の特権を有っていた。
22章29節
口語訳 | そこで、パウロを取り調べようとしていた人たちは、ただちに彼から身を引いた。千卒長も、パウロがローマの市民であること、また、そういう人を縛っていたことがわかって、恐れた。 |
塚本訳 | すると取り調べようとしていた者たちは即座に彼から手を引き、千卒長も、パウロがローマ市民であると知ると、彼を(不法に)縛らせたので恐ろしくなった。 |
前田訳 | すると、取り調べようとしていたものたちは、すぐ彼から離れた。千卒長は、彼がローマ人で、その彼を縛っていたことを知っておそれた。 |
新共同 | そこで、パウロを取り調べようとしていた者たちは、直ちに手を引き、千人隊長もパウロがローマ帝国の市民であること、そして、彼を縛ってしまったことを知って恐ろしくなった。 |
NIV | Those who were about to question him withdrew immediately. The commander himself was alarmed when he realized that he had put Paul, a Roman citizen, in chains. |
註解: パウロを鞭うちて訊べんとせし者どもはかくする事の違法にして、所罰が却って彼らに及ぶ事を知りて直ちに去り、千卒長もこれを恐れた。併し縛る事は不法でないので其後もパウロは囚人として捕えられていた。
22章30節
口語訳 | 翌日、彼は、ユダヤ人がなぜパウロを訴え出たのか、その真相を知ろうと思って彼を解いてやり、同時に祭司長たちと全議会とを召集させ、そこに彼を引き出して、彼らの前に立たせた。 |
塚本訳 | 翌日千卒長は、なぜパウロがユダヤ人に訴えられたのか確かな理由を知ろうと思い、彼(の鎖)を解いて、大祭司連をはじめ全最高法院に命令して集まらせた。そしてパウロを(兵営から宮の庭に)つれ下り、彼らの前に立たせた。 |
前田訳 | 翌日、千卒長はなぜパウロがユダヤ人に訴えられたか、確かなことを知ろうとして、彼の鎖をとき、大祭司らと全法院の召集を命じ、パウロをつれ下して彼らの前に立たせた。 |
新共同 | 翌日、千人隊長は、なぜパウロがユダヤ人から訴えられているのか、確かなことを知りたいと思い、彼の鎖を外した。そして、祭司長たちと最高法院全体の召集を命じ、パウロを連れ出して彼らの前に立たせた。 |
NIV | The next day, since the commander wanted to find out exactly why Paul was being accused by the Jews, he released him and ordered the chief priests and all the Sanhedrin to assemble. Then he brought Paul and had him stand before them. |
註解: 一旦捕縛せしパウロを不明の理由の下に放免する事も出来ず、ユダヤ人の訴うる理由を精確に知る事が必要となり、翌日この処置を取りパウロを祭司長及び議会の前に曳き出した。是は千卒長として至当なる処置であった。かくて群衆の前に自己を弁護せるパウロは、次に祭司長と議会の前に自己を弁護する事の必要を生ずるに至った。
要義1 [パウロとユダヤ人]パウロは熱烈なる愛国者であり、その同胞の救われんが為には自らは滅亡するとも意としない心を有っていた。こうした同胞が彼を解せずして彼を迫害する事はパウロに取って非常なる苦痛であった。併し乍ら真の愛国者は何れの時代に於ても偽の愛国者または固陋 の愛国者より誤解せられるのであって、パウロもこの運命を免れなかった。彼の苦痛は如何ばかりなりしか思いやられる次第である。斯くて彼は遂にロマ皇帝に訴うる必要を生ずるに至った。福音を自由に伝える事の可否をユダヤ人の判断に任せる事が出来なかったからである。
要義2 [何故パウロの弁明がユダヤ人を怒らせたか]1-21節のパウロの弁明は自己の身分経歴(1-5節)、ダマスコ途上のイエスの顕現(6-11節)、アナニヤとの邂逅 (12-16節)、エルサレムに於ける主の幻影(17-21節)に過ぎず何等ユダヤ人に対する直接の攻撃を含まなかった。併し乍ら事実は最大の雄弁であって、ユダヤ人はパウロの真摯なる体験をききつつ彼に顕れたまいしイエスの事をきき、そのイエスを十字架につけたのは彼ら自身である事を思いて彼らの心が痛く剌されたのであった。凡て真摯なる体験の事実ほど力あるものはない。パウロはこの体験によりて最も力強き弁論を為したのである。