使徒行伝第25章
分類
6 捕囚のパウロ
21:17 - 28:31
6-2 カイザリヤに於けるパウロ
23:31 - 26:32
6-2-4 祭司長らフェストにパウロを訴う
25:1 - 25:5
25章1節 フェスト
口語訳 | さて、フェストは、任地に着いてから三日の後、カイザリヤからエルサレムに上ったところ、 |
塚本訳 | フェストは任地[ユダヤ州首都カイザリヤ]に着いて三日の後、カイザリヤからエルサレムに上った。 |
前田訳 | フェストは任地の州に着いて三日の後、カイサリアからエルサレムに上った。 |
新共同 | フェストゥスは、総督として着任して三日たってから、カイサリアからエルサレムへ上った。 |
NIV | Three days after arriving in the province, Festus went up from Caesarea to Jerusalem, |
註解: 任国の首府たるエルサレムに至急に上った事はその任務に忠実なる事の表示である。
25章2節
口語訳 | 祭司長たちやユダヤ人の重立った者たちが、パウロを訴え出て、 |
塚本訳 | 大祭司連とユダヤの名士たちとはパウロに不利な申し出をして頼み、 |
前田訳 | 大祭司らとユダヤ人の指導者たちは彼にパウロを訴え出、しきりに頼んで、 |
新共同 | -3節 祭司長たちやユダヤ人のおもだった人々は、パウロを訴え出て、彼をエルサレムへ送り返すよう計らっていただきたいと、フェストゥスに頼んだ。途中で殺そうと陰謀をたくらんでいたのである。 |
NIV | where the chief priests and Jewish leaders appeared before him and presented the charges against Paul. |
註解: この時の現職の祭司長はフアビであった。複数を用いているのは退職の祭司長をも含む、また「重立ちたる者」は「長老」(15節)とその他を含む。
パウロを
註解: 二年の後にも彼らはパウロを殺さんとの願望を捨てなかった。カイザリヤにパウロがいる事は、彼らの脅威であったからであろう。それゆえに彼らはフエストの新任の機会を捕えて一挙に懸案を解決せしめんとした。
辞解
[之を害わんとし] 原文になし。
[訴え] emphanizô…kata は使24:1と同じく、相手の悪事を暴露する事。
口語訳 | 彼をエルサレムに呼び出すよう取り計らっていただきたいと、しきりに願った。彼らは途中で待ち伏せして、彼を殺す考えであった。 |
塚本訳 | 自分たちのため特別の計らいをもって、パウロをエルサレムに呼んでもらいたいと願うのであった。途中で無き者にしようと、たくらんでいたのである。 |
前田訳 | パウロをエルサレムに移すよう特例を求めた。彼らは途中で彼を殺すようたくらんでいたのである。 |
新共同 | |
NIV | They urgently requested Festus, as a favor to them, to have Paul transferred to Jerusalem, for they were preparing an ambush to kill him along the way. |
註解: 原文「彼(パウロ)に反対する〔彼らに与する処の〕好意を求めて」で、フエストをしてパウロに反対し、祭司長らに好意を持たしめんとしたのであった。
註解: 彼らは今に至るも尚おパウロ殺害の志を罷 めなかった、その執拗さ実に驚くべきものがある。
25章4節
口語訳 | ところがフェストは、パウロがカイザリヤに監禁してあり、自分もすぐそこへ帰ることになっていると答え、 |
塚本訳 | するとフェストは、パウロはカイザリヤに監禁されている、彼自身が大急ぎで出かけようと思っていると答え、 |
前田訳 | フェストは「パウロがカイサリアに監禁されていて、自分は早く出かける予定」と答えた。 |
新共同 | ところがフェストゥスは、パウロはカイサリアで監禁されており、自分も間もなくそこへ帰るつもりであると答え、 |
NIV | Festus answered, "Paul is being held at Caesarea, and I myself am going there soon. |
25章5節 『もし
口語訳 | そして言った、「では、もしあの男に何か不都合なことがあるなら、おまえたちのうちの有力者らが、わたしと一緒に下って行って、訴えるがよかろう」。 |
塚本訳 | 「だから、もしあの男に何か不都合なことがあるなら、あなた方のうちの然るべき者が一緒に下っていって、訴えたらよかろう」と言う。 |
前田訳 | そしていった、「もしあの男に不都合なことがあるなら、あなた方の中で然るべき人たちがわたしといっしょに下っていって訴えるべきです」と。 |
新共同 | 「だから、その男に不都合なところがあるというのなら、あなたたちのうちの有力者が、わたしと一緒に下って行って、告発すればよいではないか」と言った。 |
NIV | Let some of your leaders come with me and press charges against the man there, if he has done anything wrong." |
註解: フエストは二年前に同様の手段でパウロを殺さんとせる事実を知っていた為か、または自分でカイザリヤに用件が有り、そこにて審判する事を便としたのか、不明であるが、パウロをエルサレムに送る事を許さなかった。
辞解
[然るべき者] dunatoi は「有能なる者」「適せる者」「権力を保持している者」等種々に解せらる。「有力者」と云う如き訳字が適当ならん。
25章6節
口語訳 | フェストは、彼らのあいだに八日か十日ほど滞在した後、カイザリヤに下って行き、その翌日、裁判の席について、パウロを引き出すように命じた。 |
塚本訳 | フェストは彼らの間にせいぜい八日か十日滞在して、カイザリヤに下ってゆき、翌日裁判席に着いて、パウロを引き出すようにと命令した。 |
前田訳 | フェストは彼らのところに八日か十日滞在しただけでカイサリアへ下り、翌日、裁判席についてパウロを引き出すよう命じた。 |
新共同 | フェストゥスは、八日か十日ほど彼らの間で過ごしてから、カイサリアへ下り、翌日、裁判の席に着いて、パウロを引き出すように命令した。 |
NIV | After spending eight or ten days with them, he went down to Caesarea, and the next day he convened the court and ordered that Paul be brought before him. |
註解: フエストの初任の滞在日数としては普通である。
註解: フエストは早速約束の如くパウロの裁判を開始した、エルサレムよりは彼と共に「有力者」がカイザリヤに下りてパウロを訴えた。
25章7節 その
口語訳 | パウロが姿をあらわすと、エルサレムから下ってきたユダヤ人たちが、彼を取りかこみ、彼に対してさまざまの重い罪状を申し立てたが、いずれもその証拠をあげることはできなかった。 |
塚本訳 | パウロがあらわれると、エルサレムから下ってきていたユダヤ人たちは彼のまわりに立ち、多くの重い罪状を並べ立てたが、証明することが出来なかった。 |
前田訳 | 彼が姿を現わすと、エルサレムから下って来たユダヤ人たちは彼をかこみ、多くの重い罪状を申し立てたが、それらを証拠立てることはできなかった。 |
新共同 | パウロが出廷すると、エルサレムから下って来たユダヤ人たちが彼を取り囲んで、重い罪状をあれこれ言い立てたが、それを立証することはできなかった。 |
NIV | When Paul appeared, the Jews who had come down from Jerusalem stood around him, bringing many serious charges against him, which they could not prove. |
註解: 内容は次節のパウロの弁明によりてこれを知る事を得。
25章8節 パウロは
口語訳 | パウロは「わたしは、ユダヤ人の律法に対しても、宮に対しても、またカイザルに対しても、なんら罪を犯したことはない」と弁明した。 |
塚本訳 | パウロの方では、「わたしはユダヤ人の律法に対しても、宮に対しても、皇帝に対しても、何も罪を犯したことはありません」と弁明した。 |
前田訳 | パウロは弁明して、「ユダヤ人の律法に対しても、宮に対しても、皇帝(カイサル)に対しても、わたしは何の罪も犯していません」といった。 |
新共同 | パウロは、「私は、ユダヤ人の律法に対しても、神殿に対しても、皇帝に対しても何も罪を犯したことはありません」と弁明した。 |
NIV | Then Paul made his defense: "I have done nothing wrong against the law of the Jews or against the temple or against Caesar." |
註解: 前節の提訴はパウロの律法、宮、及びカイザルに対する重大なる犯罪についてであり、パウロは一々これを弁駁 した。此中カイザルに対するものは此度始めてパウロに対して提起された訴であった、イエスに対するものと同様である。尚この時の論争中にも、19節によれば、イエスの復活の問題等が有った。ルカはここにこれを省略した。
25章9節 フェスト、ユダヤ
口語訳 | ところが、フェストはユダヤ人の歓心を買おうと思って、パウロにむかって言った、「おまえはエルサレムに上り、この事件に関し、わたしからそこで裁判を受けることを承知するか」。 |
塚本訳 | しかしフェストはユダヤ人の機嫌を取ろうと思って、パウロに答えて言った、「お前はエルサレムに上って、そこでこのことにつきわたしの前で裁判されたいと思わないか。」 |
前田訳 | フェストはユダヤ人の機嫌をとろうとして、パウロに答えていった、「エルサレムへ上って、そこでこれらのことについてわたしの前で裁かれたいか」と。 |
新共同 | しかし、フェストゥスはユダヤ人に気に入られようとして、パウロに言った。「お前は、エルサレムに上って、そこでこれらのことについて、わたしの前で裁判を受けたいと思うか。」 |
NIV | Festus, wishing to do the Jews a favor, said to Paul, "Are you willing to go up to Jerusalem and stand trial before me there on these charges?" |
註解: もしフエストが直ちにパウロの無罪を宣告すればユダヤ人の怒を買う事は明かであった。またパウロはこの問に対して否定的の答を与うるならん事も明かであった。かくしてフエストは巧にパウロを無実の罪に陥る事より免れしめ、一方ユダヤ人に対して自己の立場を有利にした。ローマ市民を一旦ローマの裁判にかけて後これを地方の裁判に移す事は当人の承諾を必要とした。
25章10節 パウロ
口語訳 | パウロは言った、「わたしは今、カイザルの法廷に立っています。わたしはこの法廷で裁判されるべきです。よくご承知のとおり、わたしはユダヤ人たちに、何も悪いことをしてはいません。 |
塚本訳 | パウロが言った、「いまわたしは皇帝の裁判席の前に立っております。ここで裁判されるべきです。あなたも十分御承知のように、わたしはユダヤ人に対して、何も不正をした覚えはありません。 |
前田訳 | パウロはいった、「わたしは皇帝の裁判席の前に立っています。ここでわたしは裁かれるべきです。わたしがユダヤ人に対して何も不正をしなかったことは、あなたもよくご存じのとおりです。 |
新共同 | パウロは言った。「私は、皇帝の法廷に出頭しているのですから、ここで裁判を受けるのが当然です。よくご存じのとおり、私はユダヤ人に対して何も悪いことをしていません。 |
NIV | Paul answered: "I am now standing before Caesar's court, where I ought to be tried. I have not done any wrong to the Jews, as you yourself know very well. |
25章11節
口語訳 | もしわたしが悪いことをし、死に当るようなことをしているのなら、死を免れようとはしません。しかし、もし彼らの訴えることに、なんの根拠もないとすれば、だれもわたしを彼らに引き渡す権利はありません。わたしはカイザルに上訴します」。 |
塚本訳 | だから、もしわたしに不正が在り、何か死罪に当ることをしたのなら、わたしは(決して)死を免れようとする者ではありません。しかしもしこの人たちがわたしを告発することに何一つ根拠がなければ、何人もわたしを彼らに引き渡すことは出来ません。わたしは皇帝に上訴します。」 |
前田訳 | もしわたしが不正をし、何か死罪に当たることをしたのならば、わたしは死ぬことを免れようとはしません。しかしもしこの人たちがわたしを訴えることに根も葉もなければ、だれもわたしを彼らに引き渡すことはできません。わたしは皇帝に上訴します」と。 |
新共同 | もし、悪いことをし、何か死罪に当たることをしたのであれば、決して死を免れようとは思いません。しかし、この人たちの訴えが事実無根なら、だれも私を彼らに引き渡すような取り計らいはできません。私は皇帝に上訴します。」 |
NIV | If, however, I am guilty of doing anything deserving death, I do not refuse to die. But if the charges brought against me by these Jews are not true, no one has the right to hand me over to them. I appeal to Caesar!" |
註解: パウロはエルサレムに往きてユダヤ人の議会の審判を受くる事は死より外なき事を知っていた。彼は故なき死よりもむしろ異教徒の王たるカイザルに訴えるの途を取った。パウロは以前よりの熱望たるロマ訪問の事、殊に使23:11のイエスの黙示をかくして実現せんとした。犬死は基督者の避くべき事であり、また政治的、法律的、社会的保護並に恩恵を受く可き事は、一般の人民と同一である。これは同一の義務を負うからである事は勿論である。ゆえにこうした場合カイザルに訴うる事は不正ではない。
辞解
[汝の能く知るごとく] フエストが如何にして此事をよく知ったかは解らない。恐らくこれは一の虚礼の辞であろう。
25章12節
口語訳 | そこでフェストは、陪席の者たちと協議したうえ答えた、「おまえはカイザルに上訴を申し出た。カイザルのところに行くがよい」。 |
塚本訳 | そこでフェストは評議員会に諮問の上、(パウロに)答えた、「お前は皇帝に上訴した。皇帝の前に出頭しろ。」 |
前田訳 | そこでフェストは相談役と協議してから答えた、「あなたは皇帝に上訴した。皇帝の前に行きなさい」と。 |
新共同 | そこで、フェストゥスは陪審の人々と協議してから、「皇帝に上訴したのだから、皇帝のもとに出頭するように」と答えた。 |
NIV | After Festus had conferred with his council, he declared: "You have appealed to Caesar. To Caesar you will go!" |
註解: 「陪席の者」はローマの裁判の合議を為す人々、フエストはかくしてパウロのロマ行を承認した。
要義1 [パウロのカイザルに対する上訴の意義]パウロがもしこの場合カイザルに上訴しなかったとすれば、そしてエルサレムにて審かれる事を承諾しなかったとすればパウロは或は無罪放免となったかも知れない(使26:31、32)。併し乍らこうした事は従来二年間の経験によれば勿論期待する事が出来ず、かつたとえパウロの無罪が明瞭であっても王や総督はユダヤ人を恐れてパウロを放免する事が出来ず、恐らくパウロは今後無期限に留置されるより外なかったであろう。夫ゆえにパウロに取りては、エルサレムにて審かれて殺されるか、またはカイザリヤに留リて何時までも従来の如くに留置されるかまたはカイザルに上訴してロマに行くか、いずれか一の方法を選ばざるを得ざる立場に立たしめられたのであった。而してロマ行は彼が年末の切願であったのみならず(ロマ15:24、ロマ15:28。使19:21)、主イエスの証によりて更に確められ(使23:11)ているので、パウロはここにカイザルに上訴する以外に他に取るべき手段が無い羽目にまで追いつめられた事は全く神の御旨が成就したのであると信じたのであろう。かく考うる事は当時のパウロに取リて極めて自然である。而のみならずカイザルに上訴してロマの兵卒に護衛せられてロマに赴く事はユダヤ人の襲撃を免れる手段としても最も有効な手段であった。是等の理由からパウロは遂にカイザルに上訴する事を決するに至ったのであろう。
要義2 [基督者と訴訟]Tコリ6:1以下にパウロはコリントの信者が相互に相争いてこれを法廷に訴えし事を非難し、世を裁くべき聖徒が、不信者によりて審かれんとする事の不当を力説しているのを見る。この事は厳格なる意味に於てはパウロのこの場合に適用する事が出来ないけれども、同じく神の選民を以て任ずるユダヤ人相互が、彼らの卑しむ異教徒なるカイザルに訴える事は見方によってはコリント教会の出来事と同一である。夫ゆえにパウロが自らこうした訴を起した事は非難に値するが如くにも思われるけれども、パウロの場合は、本来ユダヤ人が彼を訴えたのであってパウロが始めより原告の立場に立ったのではなく、またパウロに対して反感を有し彼を殺さんとしているユダヤ人に、自己を任せる如き事は、無用の事であり、パウロはこうした事を為す程愚ではなかった。(▲パウロはキリスト・イエスの使徒としての自己を非常に重んじているのであった。)Tコリ6:1以下を以て基督者は法廷に訴訟を提起すべからずと云う律法を与えしものと解してはならない。むしろ、基督者は凡ての争を常に主に在る愛の精神を以て解決すべきである事を教えたものと解すべきである。従ってパウロの此場合に適合しない。▲▲特にこの場合は基督者同士の争いでないゆえ、基督者がこれを審くことは事実上不可能である。
25章13節
口語訳 | 数日たった後、アグリッパ王とベルニケとが、フェストに敬意を表するため、カイザリヤにきた。 |
塚本訳 | 数日たったのち、アグリッパ王[二世]と(妹の)ベルニケとがカイザリヤに来て、(信任の)フェストに敬意を表した。 |
前田訳 | 何日かしてからアグリッパ王とペルニケとがカイサリアに来て、フェストにあいさつした。 |
新共同 | 数日たって、アグリッパ王とベルニケが、フェストゥスに敬意を表するためにカイサリアに来た。 |
NIV | A few days later King Agrippa and Bernice arrived at Caesarea to pay their respects to Festus. |
註解: アグリツパ王はヘロデ大王の孫アグリツパ一世の子で幼時ロマの宮廷にて育てられ皇帝クラウデオに愛せられ、父死して其叔父にして妹ベルニケの婿たりしカルキス Chalcis の所領を受け、後王の称号を得てユダヤに赴任す、時に年三十、ユダヤ人とロマ人との間の難問題の解決に努力して皇帝に愛せらる。ベルニケはその妹で彼との間に不倫の関係を疑われ、また夫カルキスの死後キリキヤ王ホレモンと婚して間もなくこれを棄てた。後に皇帝ヴエスパシアヌス、テイトス等の寵妃となる等有数の妖婦であった。彼らはその任地の總督フエストを訪いてその間の関係を滑ならしめんとした。
25章14節
口語訳 | ふたりは、そこに何日間も滞在していたので、フェストは、パウロのことを王に話して言った、「ここに、ペリクスが囚人として残して行ったひとりの男がいる。 |
塚本訳 | そして幾日かそこに滞在している間に、フェストは王にパウロの事件を説明して言った、「ペリクスが(未決)囚人として残しているひとりの男がある。 |
前田訳 | そこにしばらく滞在していたので、フェストは王にパウロの事件を知らせて、いった、「ペリクスが囚人として残したひとりの男がいます。 |
新共同 | 彼らが幾日もそこに滞在していたので、フェストゥスはパウロの件を王に持ち出して言った。「ここに、フェリクスが囚人として残していった男がいます。 |
NIV | Since they were spending many days there, Festus discussed Paul's case with the king. He said: "There is a man here whom Felix left as a prisoner. |
註解: 王はユダヤ人であり、且つ宮及び大祭司の専任の監督者である為、フエストは王の意見を聞かんとしたのであった。
25章15節
口語訳 | わたしがエルサレムに行った時、この男のことを、祭司長たちやユダヤ人の長老たちが、わたしに報告し、彼を罪に定めるようにと要求した。 |
塚本訳 | (さきごろ)わたしがエルサレムに行った折、大祭司連とユダヤ人の長老たちとがその男について申し出て、有罪の判決を求めた。 |
前田訳 | わたしがエルサレムへ行ったとき、大祭司たちとユダヤ人の長老たちとがその男について訴え、罪に定めるよう求めました。 |
新共同 | わたしがエルサレムに行ったときに、祭司長たちやユダヤ人の長老たちがこの男を訴え出て、有罪の判決を下すように要求したのです。 |
NIV | When I went to Jerusalem, the chief priests and elders of the Jews brought charges against him and asked that he be condemned. |
25章16節
口語訳 | そこでわたしは、彼らに答えた、『訴えられた者が、訴えた者の前に立って、告訴に対し弁明する機会を与えられない前に、その人を見放してしまうのは、ローマ人の慣例にはないことである』。 |
塚本訳 | わたしは、『いかなる被告人も、告発人と対決してその犯罪につき弁明の機会を得ないうちにこれを引き渡すのは、ローマ人の習慣でない』と答えて拒絶した。 |
前田訳 | 彼らへわたしはこう答えました、『人はだれでも訴え手の面前で訴えについて弁明する機会を得ないまま引き渡されるのは、ローマ人の慣わしではない』と。 |
新共同 | わたしは彼らに答えました。『被告が告発されたことについて、原告の面前で弁明する機会も与えられず、引き渡されるのはローマ人の慣習ではない』と。 |
NIV | "I told them that it is not the Roman custom to hand over any man before he has faced his accusers and has had an opportunity to defend himself against their charges. |
註解: フエストはここにローマ人の正義観を高調して自己の処置の正しき事を示し、同時に、パウロの無罪を断言する事を躊躇してユダヤ人の歓心を求めていたのであった。
25章17節 この
口語訳 | それで、彼らがここに集まってきた時、わたしは時をうつさず、次の日に裁判の席について、その男を引き出させた。 |
塚本訳 | それで彼らはここに(わたしと)一緒に来たので、わたしは一刻の猶予もなく次の日裁判席について、その男を引き出すように命令した。 |
前田訳 | そこで彼らがここにいっしょに来たとき、わたしは事をのばさず、翌日裁判席について、その男を引き出すよう命じました。 |
新共同 | それで、彼らが連れ立って当地へ来ましたから、わたしはすぐにその翌日、裁判の席に着き、その男を出廷させるように命令しました。 |
NIV | When they came here with me, I did not delay the case, but convened the court the next day and ordered the man to be brought in. |
註解: 即刻裁判を開始した点に彼の勤勉さを示す。
25章18節
口語訳 | 訴えた者たちは立ち上がったが、わたしが推測していたような悪事は、彼について何一つ申し立てはしなかった。 |
塚本訳 | 告発人たちは彼のまわりに立ったが、わたしが想像していたような(政治上の)悪事についていかなる罪状も申し立てなかった。 |
前田訳 | 訴え手はまわりに立ちましたが、わたしが想像していたような悪事については、何の罪状も申し立てませんでした。 |
新共同 | 告発者たちは立ち上がりましたが、彼について、わたしが予想していたような罪状は何一つ指摘できませんでした。 |
NIV | When his accusers got up to speak, they did not charge him with any of the crimes I had expected. |
註解: フエストは恐らくパウロに何等かの大罪、例えば反逆罪の如きものがあるのではないかと考えていたのであろう。
25章19節 ただ
口語訳 | ただ、彼と争い合っているのは、彼ら自身の宗教に関し、また、死んでしまったのに生きているとパウロが主張しているイエスなる者に関する問題に過ぎない。 |
塚本訳 | この男に対しての問題は、何か彼らの宗教に関してと、死んだイエスとかいう者を、パウロ(というその囚人)が、(今も)生きていると主張したことに関してであった。 |
前田訳 | 彼らにはこの男について、自分たちの宗教に関して何か問題があり、とくに、イエスという死んだ人を生きているとパウロが主張したことに関してでした。 |
新共同 | パウロと言い争っている問題は、彼ら自身の宗教に関することと、死んでしまったイエスとかいう者のことです。このイエスが生きていると、パウロは主張しているのです。 |
NIV | Instead, they had some points of dispute with him about their own religion and about a dead man named Jesus who Paul claimed was alive. |
註解: フエストより見てユダヤ人とパウロとの争いは甚だ縁遠いものの様に思われた。律法の事、宮の事、及びイエスの復活の問題等(使18:15。使23:29。使26:3)皆フエストの興味を引かない問題であった。但しこのフエストの一言の中にパウロはイエスの復活を力強く主張した事を知る事が出来る。
25章20節
口語訳 | これらの問題を、どう取り扱ってよいかわからなかったので、わたしは彼に、『エルサレムに行って、これらの問題について、そこでさばいてもらいたくはないか』と尋ねてみた。 |
塚本訳 | それでわたしとしてもこんな(勝手のわからぬ)ことの審理は閉口なので、エルサレムに行ってそこでこのことについて裁判されたくないかとたずねた。 |
前田訳 | わたしはこのようなことの調査に困惑したので、『エルサレムに行って、そこでこのことについて裁判されたくはないか』といいました。 |
新共同 | わたしは、これらのことの調査の方法が分からなかったので、『エルサレムへ行き、そこでこれらの件に関して裁判を受けたくはないか』と言いました。 |
NIV | I was at a loss how to investigate such matters; so I asked if he would be willing to go to Jerusalem and stand trial there on these charges. |
註解: 9節の動機を彼はここに言明せず自己の当惑を理由とす。
25章21節 パウロは
口語訳 | ところがパウロは、皇帝の判決を受ける時まで、このまま自分をとどめておいてほしいと言うので、カイザルに彼を送りとどける時までとどめておくようにと、命じておいた」。 |
塚本訳 | しかしパウロは、このまま保護されていて(ローマで皇帝)陛下の裁決を受けたいと上訴したので、彼を皇帝の所へ送りとどけるまで保護しておくようにと命令しておいた。」 |
前田訳 | しかしパウロは保護されて陛下の判決を受けたいと上訴したので、彼を皇帝のところへ送るまで保護するよう命じておきました」と。 |
新共同 | しかしパウロは、皇帝陛下の判決を受けるときまで、ここにとどめておいてほしいと願い出ましたので、皇帝のもとに護送するまで、彼をとどめておくように命令しました。」 |
NIV | When Paul made his appeal to be held over for the Emperor's decision, I ordered him held until I could send him to Caesar." |
註解: パウロはむしろローマの官憲の保護の下にローマに赴かんとしたのであるかも知れない。
25章22節 アグリッパ、フェストに
口語訳 | そこで、アグリッパがフェストに「わたしも、その人の言い分を聞いて見たい」と言ったので、フェストは、「では、あす彼から聞きとるようにしてあげよう」と答えた。 |
塚本訳 | アグリッパがフェストにいった、「わたしもその人の話を聞いてみたい。」フェストが言う、「あした聞かれるがよかろう。」 |
前田訳 | アグリッパはフェストにいった、「わたし自身もその人の話を聞きたいものです」と。フェストはいう、「あす、お聞きなさい」と。 |
新共同 | そこで、アグリッパがフェストゥスに、「わたしも、その男の言うことを聞いてみたいと思います」と言うと、フェストゥスは、「明日、お聞きになれます」と言った。 |
NIV | Then Agrippa said to Festus, "I would like to hear this man myself." He replied, "Tomorrow you will hear him." |
註解: アグリツパの言はフエストの期待した処であったので、早速その手はずをした。
25章23節
口語訳 | 翌日、アグリッパとベルニケとは、大いに威儀をととのえて、千卒長たちや市の重立った人たちと共に、引見所にはいってきた。すると、フェストの命によって、パウロがそこに引き出された。 |
塚本訳 | 翌日アグリッパとベルニケは威風堂々と乗りこんで来て、千卒長やこの町の重立った人たちと共に謁見室に入り、パウロはフェストの命令によって引き出された。 |
前田訳 | 翌日アグリッパとペルニケとは威儀を正して、千卒長や町のおもだった人々とともに謁見の間に入り、パウロはフェストの命令によって引き出された。 |
新共同 | 翌日、アグリッパとベルニケが盛装して到着し、千人隊長たちや町のおもだった人々と共に謁見室に入ると、フェストゥスの命令でパウロが引き出された。 |
NIV | The next day Agrippa and Bernice came with great pomp and entered the audience room with the high ranking officers and the leading men of the city. At the command of Festus, Paul was brought in. |
註解: 市の重立ちたる者は主として議員の如き人々であろう。ルカが特にベルニケをアグリツパと共に掲げまたその威儀を叙べている事は、裁く者と審かれる者との道徳的品性の高さの差はその外観の差異に反比例している事を諧謔 的に示したものと見る事が出来る。
辞解
[威儀を整え]絢爛 の美を以て修飾せる事。
25章24節 フェスト
口語訳 | そこで、フェストが言った、「アグリッパ王、ならびにご臨席の諸君。ごらんになっているこの人物は、ユダヤ人たちがこぞって、エルサレムにおいても、また、この地においても、これ以上、生かしておくべきでないと叫んで、わたしに訴え出ている者である。 |
塚本訳 | そこでフェストは言う、「アグリッパ王ならびに臨席の諸君御一同、この人を見てください。エルサレムでもここでも、ユダヤ人全体が、もうこれ以上生かしておいてはならないと叫んで、わたしにせがんでいる人物である。 |
前田訳 | フェストはいう、「アグリッパ王ならびにご列席の方々、この人をごらんください。エルサレムでもここでも、ユダヤ人の全集団が、『もう生かしておくべきでない』と叫んで、わたしをせつくのはこの人のことです。 |
新共同 | そこで、フェストゥスは言った。「アグリッパ王、ならびに列席の諸君、この男を御覧なさい。ユダヤ人がこぞってもう生かしておくべきではないと叫び、エルサレムでもこの地でもわたしに訴え出ているのは、この男のことです。 |
NIV | Festus said: "King Agrippa, and all who are present with us, you see this man! The whole Jewish community has petitioned me about him in Jerusalem and here in Caesarea, shouting that he ought not to live any longer. |
25章25節
口語訳 | しかし、彼は死に当ることは何もしていないと、わたしは見ているのだが、彼自身が皇帝に上訴すると言い出したので、彼をそちらへ送ることに決めた。 |
塚本訳 | しかしわたしには、彼が何一つ死罪に当ることをしていないことがわかった。かつこの人自身が、(皇帝)陛下に上訴したので、わたしは(ローマに)送ることに決定した。 |
前田訳 | わたしの判断ではこの人は何も死罪に当たることはしていません。しかしこの人自身、陛下に上訴しましたので、そちらに送ることに決めました。 |
新共同 | しかし、彼が死罪に相当するようなことは何もしていないということが、わたしには分かりました。ところが、この者自身が皇帝陛下に上訴したので、護送することに決定しました。 |
NIV | I found he had done nothing deserving of death, but because he made his appeal to the Emperor I decided to send him to Rome. |
註解: フエストは既にこの時パウロの無罪を認めていると云っても宜しい。
25章26節
口語訳 | ところが、彼について、主君に書きおくる確かなものが何もないので、わたしは、彼を諸君の前に、特に、アグリッパ王よ、あなたの前に引き出して、取調べをしたのち、上書すべき材料を得ようと思う。 |
塚本訳 | ただ(困ることには、)主(陛下)になんの確かな事実も上書できない。だから(いま)彼をあなた方の前に、特に、アグリッパ王よ、あなたの前に引き出し、尋問したあとで、何か上書する資料を得ようと思う。 |
前田訳 | ただ、彼について何も確かなことをお上にお書きできません。それゆえ、彼をあなた方の前に、とくに、アグリッパ王、あなたの前に引き出したのは、尋問がすんでから、何か書くべきことを得るためです。 |
新共同 | しかし、この者について確実なことは、何も陛下に書き送ることができません。そこで、諸君の前に、特にアグリッパ王、貴下の前に彼を引き出しました。よく取り調べてから、何か書き送るようにしたいのです。 |
NIV | But I have nothing definite to write to His Majesty about him. Therefore I have brought him before all of you, and especially before you, King Agrippa, so that as a result of this investigation I may have something to write. |
註解: 是はフエストの本音である。彼はパウロにつき録すべき罪状を確める事が出来なかったので、アグリツパ王の前に再びパウロを訊問し、これによりて訴訟の緒口を見出さしめんとしたのである。アグリツパがフエストよりもユダヤの事情に通じているとの見地からこれを利用したのであろう。
25章27節
口語訳 | 囚人を送るのに、その告訴の理由を示さないということは、不合理だと思えるからである」。 |
塚本訳 | (上官に)囚人を送る者が起訴の理由をも示さないのは、非常識と信ずるからである。」 |
前田訳 | 囚人を送るに当たって、その罪状を示さないのは、不合理と思います」。 |
新共同 | 囚人を護送するのに、その罪状を示さないのは理に合わないと、わたしには思われるからです。」 |
NIV | For I think it is unreasonable to send on a prisoner without specifying the charges against him." |
註解: パウロのカイザルに対する上訴は如何なる方面より見ても充分の理由なきものであった。フエストはその理由書の作成に苦しんだのであった
要義 [史家ルカの技巧]ルカがこの記事を物する時、ベルニケをも記事の中に入れたことは(前にドルシラを入れたことも同様、使24:24)彼の史家としての驚くべき技巧である。これらの女性を舞台に上せることによりてパウロを裁く権力者たちの生活の雰囲気が如何に汚れていたかを無言の中に示して居り、これによりてパウロの人格と信仰とはいよいよ光輝を増し、かくして裁く者と審かれる者との価値が、神の前に、全く正反対であることを示しているのである。この場面における審判者はやがて神に審かれる所のものであり、審かれるパウロは神より栄光の冠を与えられて永遠の国に輝くに至るのである。
使徒行伝第26章
6-2-8 パウロ、アグリッパ王の前に弁明す
26:1 - 26:23
26章1節 アグリッパ、パウロに
口語訳 | アグリッパはパウロに、「おまえ自身のことを話してもよい」と言った。そこでパウロは、手をさし伸べて、弁明をし始めた。 |
塚本訳 | アグリッパがパウロに、「自分のために陳述しても差し支えない」と言うと、パウロは(演説家のように)手をのばした姿勢で弁明した。── |
前田訳 | アグリッパはパウロにいった、「自らについて発言してよろしい」と。そこでパウロは手をのばして弁明した、 |
新共同 | アグリッパはパウロに、「お前は自分のことを話してよい」と言った。そこで、パウロは手を差し伸べて弁明した。 |
NIV | Then Agrippa said to Paul, "You have permission to speak for yourself." So Paul motioned with his hand and began his defense: |
註解: パウロが手を伸べて論じ出した態度は堂々たるものであった。演説家の態度である。パウロの手には或は鎖があったであろう。この弁明はパウロの演説中の白眉である。
26章2節 『アグリッパ
口語訳 | 「アグリッパ王よ、ユダヤ人たちから訴えられているすべての事に関して、きょう、あなたの前で弁明することになったのは、わたしのしあわせに思うところであります。 |
塚本訳 | 「アグリッパ王よ、わたしはユダヤ人に起訴されている一切のことについて、きょう王の前に弁明できる自分を仕合わせと思います。 |
前田訳 | 「アグリッパ王、わたしがユダヤ人から訴えられているすべてのことについて、きょう御前で弁明しうるわたしをさいわいと思います。 |
新共同 | 「アグリッパ王よ、私がユダヤ人たちに訴えられていることすべてについて、今日、王の前で弁明させていただけるのは幸いであると思います。 |
NIV | "King Agrippa, I consider myself fortunate to stand before you today as I make my defense against all the accusations of the Jews, |
26章3節
口語訳 | あなたは、ユダヤ人のあらゆる慣例や問題を、よく知り抜いておられるかたですから、わたしの申すことを、寛大なお心で聞いていただきたいのです。 |
塚本訳 | あなたはユダヤ人のあらゆる慣例や、(面倒な)問題を、最もよく知っておられる方だからです。ついては、どうかしばらく御清聴を願います。 |
前田訳 | あなたはユダヤ人の慣わしと問題とに、もっともよく通じておいでだからです。それで、忍耐をもってお聞きください。 |
新共同 | 王は、ユダヤ人の慣習も論争点もみなよくご存じだからです。それで、どうか忍耐をもって、私の申すことを聞いてくださるように、お願いいたします。 |
NIV | and especially so because you are well acquainted with all the Jewish customs and controversies. Therefore, I beg you to listen to me patiently. |
註解: ユダヤ人の種族であり且つその王であるアグリツパの前に弁明する事はパウロに取りては全ユダヤ人に対する福音の宣言を意味していた。殊に彼はやがてロマに赴かんとしている時であったので、彼はこれをユダヤ国民に対する最後の辞と考えたのであろう。殊にアグリツパがユダヤ人の習慣や要求を知っていた事はパウロに好都合であり、彼はこれを喜びとした。
辞解
[ユダヤ人] 冠詞を用いず、漠然と一般にユダヤ人を指す。
註解: 4-8節はパウロの信仰とユダヤ教との関係を叙述す。
26章4節 わが
口語訳 | さて、わたしは若い時代には、初めから自国民の中で、またエルサレムで過ごしたのですが、そのころのわたしの生活ぶりは、ユダヤ人がみんなよく知っているところです。 |
塚本訳 | 若い時からのわたしの生活は、初めから(ユダヤ)国民の中で、しかもエルサレムですごしましたので、ユダヤ人は皆知っております。 |
前田訳 | わたしが始めから同胞の中で、またエルサレムで過ごしました若い時の生活は、すべてのユダヤ人が知っております。 |
新共同 | さて、私の若いころからの生活が、同胞の間であれ、またエルサレムの中であれ、最初のころからどうであったかは、ユダヤ人ならだれでも知っています。 |
NIV | "The Jews all know the way I have lived ever since I was a child, from the beginning of my life in my own country, and also in Jerusalem. |
註解: パウロは先づ第一に自己の過去の生活の何たりしかをその幼時に遡って証明し、本来ユダヤ人と極めて密接なる関係に在る者なる事を示してアグリツパの理解を助けた。
辞解
「始より」と「幼き時より」とは同じ事を繰返したので、パウロはこれにより強くその始めの時代を聴者に印象付けんとしているのであった。
26章5節
口語訳 | 彼らはわたしを初めから知っているので、証言しようと思えばできるのですが、わたしは、わたしたちの宗教の最も厳格な派にしたがって、パリサイ人としての生活をしていたのです。 |
塚本訳 | 以前からわたしを知っている彼らは、証人になる気さえあれば、わたしが国の宗教の最も厳格な派に従って、(すなわち)バリサイ人として生活したことを、知っているのです。 |
前田訳 | 彼らは前からわたしを知っておりますので、証言しようと思えばできるのですが、わたしはわれらの宗教のもっともきびしい派に従って、すなわちパリサイ人として生活しました。 |
新共同 | 彼らは以前から私を知っているのです。だから、私たちの宗教の中でいちばん厳格な派である、ファリサイ派の一員として私が生活していたことを、彼らは証言しようと思えば、証言できるのです。 |
NIV | They have known me for a long time and can testify, if they are willing, that according to the strictest sect of our religion, I lived as a Pharisee. |
註解: ユダヤ人の中でもパリサイ人は最も厳格に律法を守り、その中でもヒレル派は殊に厳格であった。パウロは斯くしてユダヤ人中のユダヤ人とも云うべきで律法を無視する如き心は始めより全く有たなかった。
辞解
[もし証せんと思わば] 半面に彼らがこれを希望せざるべしとの想像を含む、何となればこの事実を認むる事はパウロの改心によりて基督の福音の偉大さと真実さを証明する事となるからである(B1)。
[始より] 前節と同じくパウロの幼時の生活を彼らをして思い出さしめん為である。
[知れり] proginôskô は 「前より知っている」の意で、パウロがこれにて四度過去の事を強調している事となる。
26章6節
口語訳 | 今わたしは、神がわたしたちの先祖に約束なさった希望をいだいているために、裁判を受けているのであります。 |
塚本訳 | それで、今わたしが(こうして)ここに立って裁判を受けているのは、神がわたし達の先祖に与えられた(救世主の)約束に対して希望を持っているからです。 |
前田訳 | そして今、わたしが裁かれて立っているのは、神がわれらの先祖にお与えの約束への希望のためです。 |
新共同 | 今、私がここに立って裁判を受けているのは、神が私たちの先祖にお与えになった約束の実現に、望みをかけているからです。 |
NIV | And now it is because of my hope in what God has promised our fathers that I am on trial today. |
註解: この希望はイスラエル復興の希望であり、神の約束し給う処であった(引照)。パウロはこの希望がイエスの復活によりて真の意味に成就せし事を信じたるがゆえに審かれるのである。即ちユダヤ人と同一の信仰の基礎の上に立ちつつ而かもユダヤ人に審かれるとは甚だ謂 れなき事である。
26章7節
口語訳 | わたしたちの十二の部族は、夜昼、熱心に神に仕えて、その約束を得ようと望んでいるのです。王よ、この希望のために、わたしはユダヤ人から訴えられています。 |
塚本訳 | わたし達十二族(全ユダヤ民族)は(今なお)この約束を実現していただきたいと望んで、夜昼熱心に(神に)奉仕しております。(ところが不思議なことに、)王よ、この約束の希望について、わたしは(同族の)ユダヤ人に訴えられたのです。 |
前田訳 | われらの十二部族は、夜昼絶え間なく神に仕えて、この約束のものを得る希望をもっております。王よ、わたしはこの希望についてユダヤ人に訴えられているのです。 |
新共同 | 私たちの十二部族は、夜も昼も熱心に神に仕え、その約束の実現されることを望んでいます。王よ、私はこの希望を抱いているために、ユダヤ人から訴えられているのです。 |
NIV | This is the promise our twelve tribes are hoping to see fulfilled as they earnestly serve God day and night. O king, it is because of this hope that the Jews are accusing me. |
註解: ユダヤ人の昼夜の絶えざる祈は、この希望の約束に到達せん事であった。而も彼らはこの希望が既に成就せし事を告げられてもこれを信じなかった。
辞解
[(イスラエルの)十二の族] 「十二の族」の中十の族はバビロンの捕囚より帰らずにいわゆるデイアスポラ diaspora 散り居る民となったが、それにも関らずユダヤ人はヤコブの十二人の子の子孫と信じていた。
註解: ユダヤ人の切に待望む希望を信じその実現を主張した為にユダヤ人に訴えられる事は、全く不合理であるとの主張を含む。パウロに取りてはユダヤ人の希望とイエスの復活とは密接なる関係があり、イエスの復活を信ずるがゆえに彼は審かれるのである。此ゆえに次節を以てこの点を反駁 する。
26章8節
口語訳 | 神が死人をよみがえらせるということが、あなたがたには、どうして信じられないことと思えるのでしょうか。 |
塚本訳 | (あなた方はイエスの復活を信ぜず、従って彼が約束の救世主であることを信じようとされませんけれども、)神が死人を生きかえらせるということが、あなた方にはなぜそんなに信じ難いことと思われるのでしょうか。 |
前田訳 | 神が死人たちを復活なさるということを、なぜあなた方は信じられないとお考えですか。 |
新共同 | 神が死者を復活させてくださるということを、あなたがたはなぜ信じ難いとお考えになるのでしょうか。 |
NIV | Why should any of you consider it incredible that God raises the dead? |
註解: 万能の神に取りては能わざる事は一も無い。ゆえに神が死人を甦えらせ給う事を信じ得ない理由はない。夫ゆえに自分の信仰は何等イスラエルの信仰と矛盾する処が無い。
辞解
[汝等] ここでパウロは一般のユダヤ人にその論鋒を向ける。
註解: 9-18節は復活のイエスとパウロの使徒職との関係を叙述す。
26章9節
口語訳 | わたし自身も、以前には、ナザレ人イエスの名に逆らって反対の行動をすべきだと、思っていました。 |
塚本訳 | ところで実はこう言うわたしも、(かつては)ナザレ人のイエスの(救世主という)名に対して大いに反抗すべきであると考え、 |
前田訳 | わたしもナザレ人イエスの名に大いに反対せねばならぬと思いました。 |
新共同 | 実は私自身も、あのナザレの人イエスの名に大いに反対すべきだと考えていました。 |
NIV | "I too was convinced that I ought to do all that was possible to oppose the name of Jesus of Nazareth. |
註解: パウロも本来は基督教を嫌った。此処までは今のユダヤ人と同様の心持であった。
辞解
[イエスの名に逆いて云々] 具体的にはイエスの名を信じこれを呼ぶ者に対して反対の行動を取る事。
26章10節
口語訳 | そしてわたしは、それをエルサレムで敢行し、祭司長たちから権限を与えられて、多くの聖徒たちを獄に閉じ込め、彼らが殺される時には、それに賛成の意を表しました。 |
塚本訳 | エルサレムで実際それをやったのです。すなわち大祭司連から全権を受けて多くの聖徒を牢に閉じこめ、また彼らが処刑されるときそれに賛成したのは、だれあろうこのわたしでありました。 |
前田訳 | エルサレムでもそれを実行し、大祭司たちから権限を受けて、自ら多くの聖徒を牢に閉じこめ、彼らが殺されるときそれに賛成しました。 |
新共同 | そして、それをエルサレムで実行に移し、この私が祭司長たちから権限を受けて多くの聖なる者たちを牢に入れ、彼らが死刑になるときは、賛成の意思表示をしたのです。 |
NIV | And that is just what I did in Jerusalem. On the authority of the chief priests I put many of the saints in prison, and when they were put to death, I cast my vote against them. |
註解: 彼の基督教徒に対する迫害はエルサレムに始まった。是等の事実につきては使7:58。使8:1-3。使9:1-3参照。
辞解
[聖徒] 迫害を加えし当時は、これを聖徒と思わず神の敵と考えていた。
[これに同意し] 原語、一票を投じた事、即ち賛意を表せる事を意味す。
[かれら] ステパノ及び他の殉教者。
26章11節
口語訳 | それから、いたるところの会堂で、しばしば彼らを罰して、無理やりに神をけがす言葉を言わせようとし、彼らに対してひどく荒れ狂い、ついに外国の町々にまで、迫害の手をのばすに至りました。 |
塚本訳 | わたしはまたあらゆる礼拝堂でしばしば罰をもって彼らを強要して、(イエスを)冒涜させようとしました。そして彼にむかい猛り狂って、(ユダヤの)国の外の町々にまで行って、迫害をつづけたのであります。 |
前田訳 | また、あらゆる会堂で、しばしば彼らを罰してみ名を汚すことを強い、彼らに激しく怒り狂って、国外の町々まで行って迫害をつづけました。 |
新共同 | また、至るところの会堂で、しばしば彼らを罰してイエスを冒涜するように強制し、彼らに対して激しく怒り狂い、外国の町にまでも迫害の手を伸ばしたのです。」 |
NIV | Many a time I went from one synagogue to another to have them punished, and I tried to force them to blaspheme. In my obsession against them, I even went to foreign cities to persecute them. |
註解: 猛烈なる迫害を叙べて自己のユダヤ人としての過去を明示す、こうした者が一変して基督者となる事は神の力にあらざれば不可能である。
辞解
[諸会堂にて] 会堂毎にと云う意味でエルサレム中の会堂を一々捜索せる事。
[涜言 ] イエスに対する涜言 、またはイエスを神とする事は神に対する涜言 であるとの事。
[外国] パレスチナの外。
[町] 「町々」でダマスコに行く途上の町々を指すと見るべきであろう。
26章12節
口語訳 | こうして、わたしは、祭司長たちから権限と委任とを受けて、ダマスコに行ったのですが、 |
塚本訳 | こんな次第で、わたしは大祭司連から全権と委任とを受け、(迫害のため)ダマスコに進んでゆくと、 |
前田訳 | このようにして、大祭司たちから権限と委任を受けてダマスコへと進んでいるとき、 |
新共同 | 「こうして、私は祭司長たちから権限を委任されて、ダマスコへ向かったのですが、 |
NIV | "On one of these journeys I was going to Damascus with the authority and commission of the chief priests. |
26章13節
口語訳 | 王よ、その途中、真昼に、光が天からさして来るのを見ました。それは、太陽よりも、もっと光り輝いて、わたしと同行者たちとをめぐり照しました。 |
塚本訳 | 王よ、昼に、途中で、天から輝く太陽にもまさる光がさして、わたしと、同行の者たちとのまわりを照らすのを見ました。 |
前田訳 | 王よ、昼ごろ、途中で、天から太陽の輝きにまさる光が、わたしと連れの人たちとのまわりを照らすのを見ました。 |
新共同 | その途中、真昼のことです。王よ、私は天からの光を見たのです。それは太陽より明るく輝いて、私とまた同行していた者との周りを照らしました。 |
NIV | About noon, O king, as I was on the road, I saw a light from heaven, brighter than the sun, blazing around me and my companions. |
註解: 使9:1-3。使22:4-6。
辞解
[王よ] と呼びかけて、この特別なる事実に対する注意を促す、尚パウロの弁舌益々熱し来るを見るべし。
26章14節
口語訳 | わたしたちはみな地に倒れましたが、その時ヘブル語でわたしにこう呼びかける声を聞きました、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか。とげのあるむちをければ、傷を負うだけである』。 |
塚本訳 | わたし達が皆地上に倒れると、ヘブライ語で、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか。刺の棒は蹴っても無駄だ』とわたしに言う声を聞きました。 |
前田訳 | われらは皆、地に倒れ、わたしはヘブライ語で、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか、刺の棒を打つのは難しい』という声を聞きました。 |
新共同 | 私たちが皆地に倒れたとき、『サウル、サウル、なぜ、わたしを迫害するのか。とげの付いた棒をけると、ひどい目に遭う』と、私にヘブライ語で語りかける声を聞きました。 |
NIV | We all fell to the ground, and I heard a voice saying to me in Aramaic, `Saul, Saul, why do you persecute me? It is hard for you to kick against the goads.' |
註解: ヘブル語即ちアラム語は当時パレスチナ地方に行われ、イエスもこの語を以て語り給うたものと思われる。パウロはこの時はギリシヤ語で語っていたに相違ない。そして恐らくヘブル語にて主の言葉を繰返したかも知れない。「刺ある策を云々」は多く用いられるギリシヤの格言、刺ある策を蹴る牛の如く、愚なる反抗であって自己を傷つけるのみなる事を意味す。
26章15節 われ
口語訳 | そこで、わたしが『主よ、あなたはどなたですか』と尋ねると、主は言われた、『わたしは、あなたが迫害しているイエスである。 |
塚本訳 | わたしは言った、『主よ、あなたはどなたですか。』主が言われた、『わたしだ、君が迫害しているイエスだ。 |
前田訳 | わたしはいいました、『主よ、あなたはどなたですか』と。主がいわれました、『わたしはあなたが迫害しているイエスだ。 |
新共同 | 私が、『主よ、あなたはどなたですか』と申しますと、主は言われました。『わたしは、あなたが迫害しているイエスである。 |
NIV | "Then I asked, `Who are you, Lord?' "`I am Jesus, whom you are persecuting,' the Lord replied. |
26章16節
口語訳 | さあ、起きあがって、自分の足で立ちなさい。わたしがあなたに現れたのは、あなたがわたしに会った事と、あなたに現れて示そうとしている事とをあかしし、これを伝える務に、あなたを任じるためである。 |
塚本訳 | さあ、起きて、“自分の足で立て。”わたしが(今)現われたのは、君を選んで、わたしを見たことと、(今からも)君に現われて示すこととの証人として、わたしに仕えさせるためである。 |
前田訳 | しかし起き上がって、自分の足で立ちなさい。わたしがあなたに現われたのは、あなたを僕として、またわたしを見たことと、これから示されるであろうこととの証人として定めたからである。 |
新共同 | 起き上がれ。自分の足で立て。わたしがあなたに現れたのは、あなたがわたしを見たこと、そして、これからわたしが示そうとすることについて、あなたを奉仕者、また証人にするためである。 |
NIV | `Now get up and stand on your feet. I have appeared to you to appoint you as a servant and as a witness of what you have seen of me and what I will show you. |
註解: イエスはここにパウロの使徒職への召命を宣言し給う。イエスの前に平伏したるパウロはここに新なる人間として起ち上らしめられ、使徒として立てられた。使徒の職務は従者としてつかえまた証する事であり、その内容は(1)パウロの目撃せる事実(2)イエスがパウロに現れて示し給える事柄(直訳、我が汝に現されし事実)即ちイエスの復活、イエスの黙示等。
26章17節
口語訳 | わたしは、この国民と異邦人との中から、あなたを救い出し、あらためてあなたを彼らにつかわすが、 |
塚本訳 | (かずかずの迫害や危険がのぞむが心配するな。)わたしは君をこの(イスラエルの)民(の手)から、また”異教人(の手)から”“(かならず)救い出してやる。”“彼らの中にわたしが君を遣わすのは、” |
前田訳 | わたしはあなたを民からまた異教徒から救い出す。あなたを異邦人へつかわすのは、 |
新共同 | わたしは、あなたをこの民と異邦人の中から救い出し、彼らのもとに遣わす。 |
NIV | I will rescue you from your own people and from the Gentiles. I am sending you to them |
註解: 「この民」はユダヤ人、従ってこの民及び異邦人は全世界の民と云うに同じ、イエスはパウロを是らの凡ての民の迫害より助け出し給う、これパウロに取りて大なる安心の原因であった。またイエスはパウロを全世界(「彼ら」即ちこの民及び異邦人)に遣し給う、即ち全人類への使徒である。
26章18節 その
口語訳 | それは、彼らの目を開き、彼らをやみから光へ、悪魔の支配から神のみもとへ帰らせ、また、彼らが罪のゆるしを得、わたしを信じる信仰によって、聖別された人々に加わるためである』。 |
塚本訳 | 彼らの“目をあけて”彼らが“暗闇から光に、”悪魔の権力から神に帰るため、そうして彼らがわたしに対する信仰によって罪の赦しを得、きよめられた人たちの仲間に入れていただくためである』と。 |
前田訳 | その目を開き、彼らを闇から光へ、悪魔の権力から神へと向け、彼らがわたしへの信仰によって罪の許しを受け、聖められたものの中で(神の国の)相続をするためである』と。 |
新共同 | それは、彼らの目を開いて、闇から光に、サタンの支配から神に立ち帰らせ、こうして彼らがわたしへの信仰によって、罪の赦しを得、聖なる者とされた人々と共に恵みの分け前にあずかるようになるためである。』」 |
NIV | to open their eyes and turn them from darkness to light, and from the power of Satan to God, so that they may receive forgiveness of sins and a place among those who are sanctified by faith in me.' |
註解: 本節はパウロの使徒職の目的を示す。即ち伝道の目的の要約である。その目的は(1)開目。霊の事を見得る様にする事。(2)転向。全く新なる生涯に入る、即ち(イ)罪と苦難と絶望の暗黒世界より正義と歓喜と希望の光明の世界に転向する。(ロ)サタンの権威の下にある状態より神の国への転向。(3)賜与 。(イ)罪が赦される事。(ロ)聖徒と共に嗣業を受ける事。而して是らはイエスに対する信仰によるのである。この一節は新生命に入る事の要約とも言うべきものであり、伝道の目的の如何を明示している。是等の状態が実現しないならば、未だ信仰に入りたるものと云う事が出来ない。
辞解
[光] 神は光であり(Tヨハ1:5)、イエスは真の光である(ヨハ1:9)。この光は「暗黒」の中に照り(ヨハ1:5)、暗黒はこれを把握しない(ヨハ1:5)。
[サタン] 自ら神に叛き、また人を支配しこれを神に叛 かしめる。
[潔められたる者] 聖徒即ち基督者。
[嗣業] 永遠に神の国を嗣ぎその祝福に与る事。
26章19節 この
口語訳 | それですから、アグリッパ王よ、わたしは天よりの啓示にそむかず、 |
塚本訳 | アグリッパ王よ、(こんな栄光ある職を受けたのです。)それゆえ、わたしはこの天からの示しにそむかず、 |
前田訳 | それゆえ、アグリッパ王よ、わたしは天からの示しに背かず、 |
新共同 | 「アグリッパ王よ、こういう次第で、私は天から示されたことに背かず、 |
NIV | "So then, King Agrippa, I was not disobedient to the vision from heaven. |
26章20節
口語訳 | まず初めにダマスコにいる人々に、それからエルサレムにいる人々、さらにユダヤ全土、ならびに異邦人たちに、悔い改めて神に立ち帰り、悔改めにふさわしいわざを行うようにと、説き勧めました。 |
塚本訳 | まずダマスコとエルサレムとの人たちに、ユダヤ全国に、それから異教人に、悔改めて神に帰り、悔改めにふさわしいわざをするようにと告げました。 |
前田訳 | まずダマスコで、さらにエルサレムで、ユダヤ全国で、そして異教徒に、悔い改めて神に向かい、悔い改めにふさわしいわざをするよう告げました。 |
新共同 | ダマスコにいる人々を初めとして、エルサレムの人々とユダヤ全土の人々、そして異邦人に対して、悔い改めて神に立ち帰り、悔い改めにふさわしい行いをするようにと伝えました。 |
NIV | First to those in Damascus, then to those in Jerusalem and in all Judea, and to the Gentiles also, I preached that they should repent and turn to God and prove their repentance by their deeds. |
註解: 19-23はパウロがイエスの召命に応じて為せる活動を記す。パウロは第一にそのイエスを宣伝えるは天よりの顕示に従ったのであった事につき特に王の注意を促し、次に順次に全世界にその福音の宣伝をなしたる事を告げる。宣伝の内容は(1)罪よりの悔改め、(2)サタンの権威より神に立帰る事、(3)悔改にかなう行を為す事である。この間に一点の責むべき処なく迫害せらるべき理由は一も無い。
辞解
[アグリツパ王よ] 特に王の注意を要する処に用う(2、13節)。
[「悔改め」と神に「立ちかえる事」] 同一の心の両面である。これを別々の事とし前者を主としてユダヤ人、後者を主として異邦人に適用すとする事(B1)は適当ではない。
26章21節
口語訳 | そのために、ユダヤ人は、わたしを宮で引き捕えて殺そうとしたのです。 |
塚本訳 | そのためユダヤ人はわたしを宮でつかまえて、殺害しようと企てたのです。 |
前田訳 | このためにユダヤ人はわたしを宮で捕えて殺そうとしました。 |
新共同 | そのためにユダヤ人たちは、神殿の境内にいた私を捕らえて殺そうとしたのです。 |
NIV | That is why the Jews seized me in the temple courts and tried to kill me. |
26章22節
口語訳 | しかし、わたしは今日に至るまで神の加護を受け、このように立って、小さい者にも大きい者にもあかしをなし、預言者たちやモーセが、今後起るべきだと語ったことを、そのまま述べてきました。 |
塚本訳 | しかし神の助けをこうむり、今日まで(こうして)立って、小さい者にも大きい者にも証しをしているのです。それも預言書とモーセ[聖書]とが、将来必ずおこると語った以外のことは、何も言いません。 |
前田訳 | ところが神から助けを受けてこんにちまで堅く立ち、小さいものにも大きいものにも証をしています。預言者とモーセとが起こらねばならぬ、といったことのほかは、何もいいません。 |
新共同 | ところで、私は神からの助けを今日までいただいて、固く立ち、小さな者にも大きな者にも証しをしてきましたが、預言者たちやモーセが必ず起こると語ったこと以外には、何一つ述べていません。 |
NIV | But I have had God's help to this very day, and so I stand here and testify to small and great alike. I am saying nothing beyond what the prophets and Moses said would happen-- |
註解: 上述の如き全く理由なき事の為にユダヤ人はパウロを迫害した。パウロが今尚生存しているのは全く神の助による事である。而してパウロは尚も凡ての人に福音の証 を為しているのである。
辞解
[証 をなし] またこれを受動態に読み「小なる者よりも大なる者よりも証 せられ」と解する説あれど(M0)、現行訳の如く解するを可とす。
註解: 福音の証明として宣伝えた処は全く旧約聖書(預言者及びモーセ)の預言の成就せる事柄のみであった。夫ゆえにユダヤ人より反対せらるべき筋合は全く無い。
辞解
[預言者及びモーセ] 「律法と預言者」と云うと同じく旧約聖書を指す。
[来るべし] 「成るべし」と訳してもよろし。
26章23節
口語訳 | すなわち、キリストが苦難を受けること、また、死人の中から最初によみがえって、この国民と異邦人とに、光を宣べ伝えるに至ることを、あかししたのです」。 |
塚本訳 | すなわち、救世主は死なねばならないこと、彼は死人の中から最初に復活して、(イスラエルの)民にも異教人にも光を伝えねばならないことを…」 |
前田訳 | すなわち、キリストは苦しみ、死人の中から最初に復活して光を民にも異教徒にも伝えねばならぬということです」。 |
新共同 | つまり私は、メシアが苦しみを受け、また、死者の中から最初に復活して、民にも異邦人にも光を語り告げることになると述べたのです。」 |
NIV | that the Christ would suffer and, as the first to rise from the dead, would proclaim light to his own people and to the Gentiles." |
註解: イザ53:1以下其他によりメシヤの受難は預言せられていたけれども、ユダヤ人はこれを信じなかった(Tコリ1:23。ガラ5:11)。而してエホバは光である事(イザ2:5)の最もよき証明はイエスが最先に甦えり給える事であった。
辞解
[最先に死人の中より甦える事によりて] 「死人の復活の最初の者として」と訳すべきである。
要義 [パウロの弁明の意義及び価値]このパウロの弁明はユダヤ教及びユダヤ人に対する基督教及び基督者の最も有力なる弁明である。其故はパウロ自身ユダヤ人中のユダヤ人たるのみならず、イエス・キリストの福音はこのパウロをも改宗せしむるの力あり、而してパウロの使徒職はイスラエルの父祖の神、詳しく云えばその子なるイエスより直接に授けられ、その宣ぶる処は旧約聖書に預言される処であり、万民の救に関る事である。夫ゆえにユダヤ人をして真のイスラエルたらしむるものはこの復活し給えるイエスを信ずる事である。この福音を宣伝える以外に何も無きパウロが、ユダヤ人より迫害される事は全く謂 れなき事であると云うのがパウロの弁明である。ユダヤ教と基督教とが如何に密接なる関係にあるかを明かにするに最も力ある弁論である。
26章24節 パウロ
口語訳 | パウロがこのように弁明をしていると、フェストは大声で言った、「パウロよ、おまえは気が狂っている。博学が、おまえを狂わせている」。 |
塚本訳 | 彼がこのように弁明したとき、フェストが大声で(それをさえぎって)言う、「パウロ、お前は気が狂っている。博学がお前を狂わせたのだ。」 |
前田訳 | 彼がこのように弁明すると、フェストは大声でいった、「パウロ、あなたは狂っている。博学があなたを狂わせている」と。 |
新共同 | パウロがこう弁明していると、フェストゥスは大声で言った。「パウロ、お前は頭がおかしい。学問のしすぎで、おかしくなったのだ。」 |
NIV | At this point Festus interrupted Paul's defense. "You are out of your mind, Paul!" he shouted. "Your great learning is driving you insane." |
註解: フエストはユダヤ人の宗教を解せす、パウロの堂々たる言論は彼の全く理解せざる処であり、従ってこれを狂人の言と思った。彼は神の恩恵がパウロをしてこうした者たらしめた事を知らず、唯パウロの神学上の博学の為に常軌を佚 したものと考えた(B1)。それゆえにフエストは遂に耐え切れないで大声を発してパウロを遮ったのであった。信仰が徹底せる場合狂人と思われる事が多い。
26章25節 パウロ
口語訳 | パウロが言った、「フェスト閣下よ、わたしは気が狂ってはいません。わたしは、まじめな真実の言葉を語っているだけです。 |
塚本訳 | パウロが言う、「フェスト閣下、気は狂っておりません。わたしは正気で真理の言葉を話しています。 |
前田訳 | パウロはいう、「フェスト閣下、わたしは狂ってはいません。真理と良識のことばを話しています。 |
新共同 | パウロは言った。「フェストゥス閣下、わたしは頭がおかしいわけではありません。真実で理にかなったことを話しているのです。 |
NIV | "I am not insane, most excellent Festus," Paul replied. "What I am saying is true and reasonable. |
註解: パウロは落付いてフエストに答える。
辞解
[フエスト閣下よ] なる表顕は落付いた心持を示す。
[慥 なる] sôphrosunê は謹みあり思慮ある事。
26章26節
口語訳 | 王はこれらのことをよく知っておられるので、王に対しても、率直に申し上げているのです。それは、片すみで行われたのではないのですから、一つとして、王が見のがされたことはないと信じます。 |
塚本訳 | (いま言った)これらのことは(アグリッパ)王がよく御承知だから、わたしも王に率直に話をしているのです。これらのことが何か王に隠れているとは信じ得ないからです。これは(公然エルサレムで行われ、決してこそこそと)片隅で行われたのではありません。 |
前田訳 | 王はこれらのことをご承知ですから、わたしも率直にお話ししています。これらのことの中で王のお気づきでないことがあるとは思いません。これは片隅でなされたのではないからです。 |
新共同 | 王はこれらのことについてよくご存じですので、はっきりと申し上げます。このことは、どこかの片隅で起こったのではありません。ですから、一つとしてご存じないものはないと、確信しております。 |
NIV | The king is familiar with these things, and I can speak freely to him. I am convinced that none of this has escaped his notice, because it was not done in a corner. |
註解: パウロはフエストの無理解なるを見、アグリツパ王の或程度までこれらの事を理解する故その弁論を王の前に叙べたのであると主張している。而して上述の如き事実、殊にイエスの受難と復活との如き事柄は隠密の中に行われたのではなく、白昼堂々として公衆の前に行われたのであって、王に取りて皆知られている事であると主張する。これに対してアグリツパ王はこれを否定する事が出来なかった。この有様を見てパウロは進んで次節の突撃を王に向って試みた。パウロの勇気と大胆と確信と自己の運命如何を全く眼中に置かざる態度とを見よ。
26章27節 アグリッパ
口語訳 | アグリッパ王よ、あなたは預言者を信じますか。信じておられると思います」。 |
塚本訳 | アグリッパ王よ、王は預言者たち(の言葉)を信じておられますか。(ユダヤ人たるあなたは、もちろん)信じておられると思いますが。」 |
前田訳 | アグリッパ王、預言者たちをお信じですか。わたしはお信じと思います」。 |
新共同 | アグリッパ王よ、預言者たちを信じておられますか。信じておられることと思います。」 |
NIV | King Agrippa, do you believe the prophets? I know you do." |
註解: 単刀直入アグリツパをして周章狼狽せしめた。「信ず」と答えんか、直ちにキリスト・イエスをも信ぜざる可からざる事となり「信ぜず」と云わんか、ユダヤ人たるに相応しからざる事となる。
26章28節 アグリッパ、パウロに
口語訳 | アグリッパがパウロに言った、「おまえは少し説いただけで、わたしをクリスチャンにしようとしている」。 |
塚本訳 | するとアグリッパがパウロに、「お前はいとも簡単にわたしを説き伏せてクリスチャンにしようとしている。」 |
前田訳 | アグリッパはパウロにいう、「間もなくあなたはわたしを説得してキリスト教徒にしようとする」と。 |
新共同 | アグリッパはパウロに言った。「短い時間でわたしを説き伏せて、キリスト信者にしてしまうつもりか。」 |
NIV | Then Agrippa said to Paul, "Do you think that in such a short time you can persuade me to be a Christian?" |
註解: そう簡単には行かないとの反語的意義をこの中に読むべきである。
辞解
本節は短文であるけれども解釈上の難関である。
[説くこと僅にして] en oligôi の二字で(1)普通「短時間で」の意味に用いられ、ここでもかく解すべしとする学者があり、また(2)日本訳の如く「僅の言葉で」と解しまた(3)「僅かの労苦を以て」または(4)「殆んど」とする説あり何れも夫々の難点があるが(1)を適当と思う、尚次節を見よ。
[「たらしめんとするか」] 「・・・となさんと説得するか」とある写本、「・・・なし得ると信ずるか」とある写本あり、この両者稍 意味を異にすまたこれを反語または諧謔 と解せずして、正直なる告白と見る説あり。
[キリステアン] 「キリステアン」なる語には幾分軽蔑の語気あり、我が国人が「ヤソ」と云う場合の如し。
26章29節 パウロ
口語訳 | パウロが言った、「説くことが少しであろうと、多くであろうと、わたしが神に祈るのは、ただあなただけでなく、きょう、わたしの言葉を聞いた人もみな、わたしのようになって下さることです。このような鎖は別ですが」。 |
塚本訳 | パウロがいった、「簡単にせよ面倒にせよ、わたしが神に祈りたいのは、王だけでなく、きょうわたしの話を聞いておられる方々が皆、このわたしのような者になられることであります。もっともこの鎖だけは別として!」 |
前田訳 | パウロはいう、「間もなくであってもなくても、わたしは神に祈ります、あなただけでなく、きょうわたしの話をお聞きの人が皆、わたしのようになられることを。ただしこの鎖は別としてです」と。 |
新共同 | パウロは言った。「短い時間であろうと長い時間であろうと、王ばかりでなく、今日この話を聞いてくださるすべての方が、私のようになってくださることを神に祈ります。このように鎖につながれることは別ですが。」 |
NIV | Paul replied, "Short time or long--I pray God that not only you but all who are listening to me today may become what I am, except for these chains." |
註解: 囚人パウロは王、総督及び一座の衆星の前に於て、彼らを恰 も無きものの如くに振舞っている。イエスと共に万物を神より賜わっているパウロとしてはまことに左も有るべきである。パウロは王侯の位よりも、巨万の富よりも、彼の信仰を喜び誇っていた。「この縲絏なくして」は彼の一流の諧謔 を匂わせて彼の言をして一層力あるものたらしめているのを見る。
辞解
[多きにもせよ] 写本により en megallôi または en pollôi を用う、意味は前節の en oligôi と共に種々の困難あり、パウロは言葉のあやにこれを用いたものと見るべきで精確に意味付くる必要なきものと思惟す。
26章30節 ここに
口語訳 | それから、王も総督もベルニケも、また列席の人々も、みな立ちあがった。 |
塚本訳 | 王が、つづいて総督とベルニケおよび列席の者が立ち上がった。 |
前田訳 | 王と、それから総督とベルニケと列席の人々が立ち上がった。 |
新共同 | そこで、王が立ち上がり、総督もベルニケや陪席の者も立ち上がった。 |
NIV | The king rose, and with him the governor and Bernice and those sitting with them. |
註解: 王はパウロの追及にたえかね、且つその無罪を認めて第一に立上り、次にその位階の順に従って立上った。
26章31節
口語訳 | 退場してから、互に語り合って言った、「あの人は、死や投獄に当るようなことをしてはいない」。 |
塚本訳 | そして退場しながら話し合って言った、「あの男は何一つ死罪や監禁に当ることをしていない。」 |
前田訳 | そして立ち去りながら互いに話し合っていた、「あの人は死罪や監禁に当たることを何ひとつしていない」と。 |
新共同 | 彼らは退場してから、「あの男は、死刑や投獄に当たるようなことは何もしていない」と話し合った。 |
NIV | They left the room, and while talking with one another, they said, "This man is not doing anything that deserves death or imprisonment." |
註解: 使23:29。使25:25にも彼の無罪は認められたのであった。これで第三回目である。ローマの官憲は初期の基督教徒に対し大体に於て公平なる取扱をしていた。
26章32節 アグリッパ、フェストに
口語訳 | そして、アグリッパがフェストに言った、「あの人は、カイザルに上訴していなかったら、ゆるされたであろうに」。 |
塚本訳 | そしてアグリッパはフェストに言った、「あの男はもし皇帝に上訴していなかったら、(今でも)釈放が出来るのに。」 |
前田訳 | アグリッパはフェストにいった、「あの人は、もし皇帝に上訴していなかったら、釈放されえたのに」と。 |
新共同 | アグリッパ王はフェストゥスに、「あの男は皇帝に上訴さえしていなければ、釈放してもらえただろうに」と言った。 |
NIV | Agrippa said to Festus, "This man could have been set free if he had not appealed to Caesar." |
註解: 既に一旦上訴した以上(使25:11)は、飽くまでもそれが有効でありまたアグリツパ及びフエストは彼を無罪放免する事によってユダヤ人の怒を買う事を欲しなかったので、パウロは遂にローマに送られる事となった。而して是が神の御旨であったのである。