使徒行伝第23章
分類
6 捕囚のパウロ
21:17 - 28:31
8-1 エルサレムに於けるパウロ
21:17 - 23:30
6-1-6 パウロ議会の前に弁明す
22:30 - 23:10
23章1節 パウロ議會に目を注ぎて言ふ[引照]
口語訳 | パウロは議会を見つめて言った、「兄弟たちよ、わたしは今日まで、神の前に、ひたすら明らかな良心にしたがって行動してきた」。 |
塚本訳 | パウロは最高法院(の役人たち)を見つめて言った、「兄弟の方々、わたしは今日まで、神の前において良心に少しのやましい所なく歩いてきたのです。」 |
前田訳 | パウロは法院を見つめていった、「兄弟方、わたしはこんにちまで、神に対して全く良心的に生活してきました」と。 |
新共同 | そこで、パウロは最高法院の議員たちを見つめて言った。「兄弟たち、わたしは今日に至るまで、あくまでも良心に従って神の前で生きてきました。」 |
NIV | Paul looked straight at the Sanhedrin and said, "My brothers, I have fulfilled my duty to God in all good conscience to this day." |
註解: 少しも恐れる処なくまた疚しい処なき態度。尚パウロは前章群衆に対しては理論的ならず実験的事実を述べ、大祭司等に対しては闘争的態度となる。
『兄弟たちよ、
註解: 使4:8。使7:2。使22:1の如き敬称を用いないのはパウロの心持の闘争的であった事を示す。
我は今日に至るまで事毎に良心に從ひて神に事へたり』
註解: パウロはここに自己の良心に問うて少しも疚しからざる事実を告白した。これが大祭司及び議会に取りて全く甚だしき倨傲と見えた。
辞解
[事毎に良心に従いて] 原語直訳「凡ての善き良心を以て」。
[事え] politeuomai は神の国の「市民としての義務を果す」事、イエスをキリストと信ずる事も、この義務に良心的に従ったのであった。
23章2節 大祭司アナニヤ傍らに立つ者どもに、彼の口を撃つことを命ず。[引照]
口語訳 | すると、大祭司アナニヤが、パウロのそばに立っている者たちに、彼の口を打てと命じた。 |
塚本訳 | (これを聞いて)大祭司アナニヤは、自分のそばに立っていた者たちに命じてパウロの口を打たせた。 |
前田訳 | すると大祭司アナニヤはそばに立っていた者どもに彼の口を打つよう命じた。 |
新共同 | すると、大祭司アナニアは、パウロの近くに立っていた者たちに、彼の口を打つように命じた。 |
NIV | At this the high priest Ananias ordered those standing near Paul to strike him on the mouth. |
註解: パウロの言を倨傲なりとしこの言を発せる口を撃たしめた。
辞解
[アナニヤ] ネベデウスの子で乱暴且貪慾を以て有名なる大祭司であり、よく人を撃ちその財を奪った人であった。
23章3節 爰にパウロ言ふ『白く塗りたる壁よ、[引照]
口語訳 | そのとき、パウロはアナニヤにむかって言った、「白く塗られた壁よ、神があなたを打つであろう。あなたは、律法にしたがって、わたしをさばくために座についているのに、律法にそむいて、わたしを打つことを命じるのか」。 |
塚本訳 | するとパウロが言った、「白く塗った壁!こんどはあなたが神に打たれる番だ。律法に従ってわたしを裁判するために(そこに)坐っているそのあなたが、律法に背いてわたしを打つことを命令するのか。」 |
前田訳 | そこでパウロはいった、「白く塗った壁よ、神はあなたを打ちたまおう。あなたは律法に従ってわたしを裁くためにすわっているが、律法に背いてわたしを打つよう命ずるのか」と。 |
新共同 | パウロは大祭司に向かって言った。「白く塗った壁よ、神があなたをお打ちになる。あなたは、律法に従ってわたしを裁くためにそこに座っていながら、律法に背いて、わたしを打て、と命令するのですか。」 |
NIV | Then Paul said to him, "God will strike you, you whitewashed wall! You sit there to judge me according to the law, yet you yourself violate the law by commanding that I be struck!" |
註解: 外側は純白内部は泥土である。彼らの外貌に似もつかぬ内心の汚れを有つ大祭司等に向って最も適当せる批難の名称である。(マタ23:27参照)。
神なんぢを撃ち給はん、
註解: 不法に我がロを撃てる報復を神は為し給うであろう。これは呪詛の言ではなく未来の預言である。而して奇しくもこの預言は的中して其後大祭司アナニヤはユダヤ戦争の際に刺客の為に殺された。
なんぢ律法によりて我を審くために坐しながら、律法に悖りて我を撃つことを命ずるか』
註解: レビ19:15等より見ればパウロを撃たしめたのは明かに律法違反であった。尚本節のパウロの態度及び言語が如何に主イエスに似寄っているかを見よ(マタ23:27。ヨハ18:22、23)。パウロのこの罵詈は大祭司に対しては礼を失せるものであるけれどもパウロは大祭司が全く大祭司に相応しからざる態度に出ている為に、かく断乎たる非難を与えたのであった。
23章4節 傍らに立つ者いふ『なんぢ神の大祭司を罵るか』[引照]
口語訳 | すると、そばに立っている者たちが言った、「神の大祭司に対して無礼なことを言うのか」。 |
塚本訳 | そばに立っていた者たちが言った、「神の大祭司殿を罵るのか!」 |
前田訳 | そばに立っていた者どもはいった、「神の大祭司をののしるのか」と。 |
新共同 | 近くに立っていた者たちが、「神の大祭司をののしる気か」と言った。 |
NIV | Those who were standing near Paul said, "You dare to insult God's high priest?" |
註解: 神を罵り民の司を呪う事は律法に禁じられていた。パウロはこの点で非難を被った。
23章5節 パウロ言ふ『兄弟たちよ、我その大祭司たることを知らざりき。[引照]
口語訳 | パウロは言った、「兄弟たちよ、彼が大祭司だとは知らなかった。聖書に『民のかしらを悪く言ってはいけない』と、書いてあるのだった」。 |
塚本訳 | パウロがこたえた、「兄弟たち、大祭司殿とは思わなかったのだ。(悪かった。)”人民を納める者に無礼なことを言ってはならない”と(聖書に)書いてあるのだから。」 |
前田訳 | パウロはいった、「兄弟方、大祭司とは知りませんでした。確かに、『民の指導者を悪くいってはならない』と聖書にあります」と。 |
新共同 | パウロは言った。「兄弟たち、その人が大祭司だとは知りませんでした。確かに『あなたの民の指導者を悪く言うな』と書かれています。」 |
NIV | Paul replied, "Brothers, I did not realize that he was the high priest; for it is written: `Do not speak evil about the ruler of your people.' " |
註解: パウロは大祭司及び全議会の前に立っているため、その服装や、その座席の位置等により彼が大祭司たる事をさとり得ないはずが無い。ゆえにこの一句は皮肉なる諧謔として解すべきで(M0、H0、C1)、「その態度が律法の擁護者たるべき大祭司としてはあまりに相応しくないので、私は大祭司でないと思った」と云う如き意味である。これを或は(1)気付かなかったとか(Tコリ1:16。Tコリ12:2)、または(2)パウロの長い不在の為、大祭司を知らなかったとかまたは(3)彼の眼病が明視を妨げたとかまたは(4)パウロは態と偽ったとか其他種々の解釈は不充分である。
録して「なんぢの民の司をそしる可からず」とあればなり』
註解: この前に「もし大祭司たる事を知りしならば我は彼を罵らざりしならん」との意味の語を省略している。この引用は出21:28の援用でパウロは如何なる場合にも律法に忠実なる態度を明かにす。
23章6節 斯てパウロ、その一部はサドカイ人、その一部はパリサイ人たるを知りて、議會のうちに呼はりて言ふ『兄弟たちよ、我はパリサイ人にしてパリサイ人の子なり、我は死人の甦へることの希望につきて審かるるなり』[引照]
口語訳 | パウロは、議員の一部がサドカイ人であり、一部はパリサイ人であるのを見て、議会の中で声を高めて言った、「兄弟たちよ、わたしはパリサイ人であり、パリサイ人の子である。わたしは、死人の復活の望みをいだいていることで、裁判を受けているのである」。 |
塚本訳 | そのときパウロは(役人の)一派はサドカイ人、一派はパリサイ人であるのを見て取り、法院で叫んだ、「兄弟の方々、わたしはパリサイ人で、しかもパリサイ人の子です。いま死人の復活の希望のために裁判されているのです。(わたしは復活のキリストを見たと言いますから。)」 |
前田訳 | パウロは、一部がサドカイ人で一部がパリサイ人であるのを知り、法院で叫んだ、「兄弟方、わたしはパリサイ人で、しかもパリサイ人の子です。わたしは希望すなわち死人の復活について裁かれています」と。 |
新共同 | パウロは、議員の一部がサドカイ派、一部がファリサイ派であることを知って、議場で声を高めて言った。「兄弟たち、わたしは生まれながらのファリサイ派です。死者が復活するという望みを抱いていることで、わたしは裁判にかけられているのです。」 |
NIV | Then Paul, knowing that some of them were Sadducees and the others Pharisees, called out in the Sanhedrin, "My brothers, I am a Pharisee, the son of a Pharisee. I stand on trial because of my hope in the resurrection of the dead." |
註解: パリサイ人とサドカイ人とはその信仰の点に於ても、その性格、傾向、政治的立場に於ても対立して互に争っていた。パウロは自己の血統がパリサイ派に属する事を高調して、律法に忠実なる事に於ては非難さるべき理由なき事を示し、唯「希望と死人の復活」(原文直訳)即ち死人の復活を内容とする希望を持つ事が、彼が審かれる所以である事を主張し、パリサイ人とサドカイ人との間に闘争の好題目を投じたのであった。使21:21によればパウロの審かれる理由はこれと異る。恐らくパウロは使22:7以下の復活のイエスに関する弁論を指したのであろう。
辞解
[死人の甦えることの希望] 原語「希望と死人の復活」でこれを二つの事柄と解する説もあるけれども、多くの学者は「死人の復活を内容とする希望」と解す(B1、C1、M0、H0等)。
23章7節 斯く言ひしに因りて、パリサイ人とサドカイ人との間に紛爭おこりて、會衆相分れたり。[引照]
口語訳 | 彼がこう言ったところ、パリサイ人とサドカイ人との間に争論が生じ、会衆が相分れた。 |
塚本訳 | 彼がこう言うと、パリサイ人とサドカイ人とのあいだに意見の対立がおこり、法院が分裂した。 |
前田訳 | 彼がこういうと、パリサイ人とサドカイ人とに争いがおこり、会衆が分裂した。 |
新共同 | パウロがこう言ったので、ファリサイ派とサドカイ派との間に論争が生じ、最高法院は分裂した。 |
NIV | When he said this, a dispute broke out between the Pharisees and the Sadducees, and the assembly was divided. |
23章8節 (そは)サドカイ人は復活もなく御使も靈もなしと言ひ、パリサイ人は兩ながらありと云[ふ](へばなり)。[引照]
口語訳 | 元来、サドカイ人は、復活とか天使とか霊とかは、いっさい存在しないと言い、パリサイ人は、それらは、みな存在すると主張している。 |
塚本訳 | なぜならサドカイ人は復活も天使も霊もないと主張するのに対して、パリサイ人はこれを認めるからである。 |
前田訳 | それは、サドカイ人は復活も天使も霊もないといい、パリサイ人はこれらをみな受け入れているからである。 |
新共同 | サドカイ派は復活も天使も霊もないと言い、ファリサイ派はこのいずれをも認めているからである。 |
NIV | (The Sadducees say that there is no resurrection, and that there are neither angels nor spirits, but the Pharisees acknowledge them all.) |
註解: ザドカイ人は人間の死後の霊の存在を否定する理知派であった。従って御使の如き見えざる存在を否定しまた死者の復活を否定した。平常よりその性質傾向と是等の信仰問題に関して相一致しなかった彼らはこの際に大なる紛争を惹起した。
23章9節 遂に大なる喧噪となりてパリサイ人の中の學者數人、たちて爭ひて言ふ『われら此の人に惡しき事あるを見ず、もし靈または御使、かれに語りたるならば如何』[引照]
口語訳 | そこで、大騒ぎとなった。パリサイ派のある律法学者たちが立って、強く主張して言った、「われわれは、この人には何も悪いことがないと思う。あるいは、霊か天使かが、彼に告げたのかも知れない」。 |
塚本訳 | とうとう大騒ぎになった。数人のパリサイ派の聖書学者は立ち上がり、こう言ってはげしく論争した、「この人には何の悪いことも認められない。それに、もし彼に(ダマスコで)霊か天使かが語ったのだったら──(それこそ大変だ!)」 |
前田訳 | 大騒ぎになり、パリサイ派の学者数名が立ち上がって激論し、「この人には何も悪いことが見られない。もし霊か天使かが彼に語ったとすると−−」といった。 |
新共同 | そこで、騒ぎは大きくなった。ファリサイ派の数人の律法学者が立ち上がって激しく論じ、「この人には何の悪い点も見いだせない。霊か天使かが彼に話しかけたのだろうか」と言った。 |
NIV | There was a great uproar, and some of the teachers of the law who were Pharisees stood up and argued vigorously. "We find nothing wrong with this man," they said. "What if a spirit or an angel has spoken to him?" |
註解: パウロの策略は成功して彼らの間の争は益々激しくなった。divide et impera (分離せしめよ而して支配せよ)は実現した。而してパリサイ人の学者もパウロに味方した。而して使22:6-10にパウロの語りし処がもし霊または天使であったとせば、如何にしてそれを否定し得るやとサドカイ人に肉迫した。宗教的の争論に関してはユダヤ人は常に熱狂的となる。
23章10節 紛爭いよいよ激しくなりたれば、千卒長、パウロの彼らに引裂れんことを恐れ、兵卒どもに命じて下りゆかしめ、彼らの中より引取りて陣營に連れ來らしめたり。[引照]
口語訳 | こうして、争論が激しくなったので、千卒長は、パウロが彼らに引き裂かれるのを気づかって、兵卒どもに、降りて行ってパウロを彼らの中から力づくで引き出し、兵営に連れて来るように、命じた。 |
塚本訳 | こうして意見の対立が激しくなったので、千卒長はパウロが引き裂かれはしないかと心配し、(守備)部隊に命令して法院に下りてゆかせ、パウロを彼らの中から奪い取って兵営につれて来させた。 |
前田訳 | 争いが激しくなったので、千卒長はパウロが引き裂かれはしないかとおそれ、軍隊に、下っていってパウロを彼らの中から引き出して兵営に連れてゆくよう命じた。 |
新共同 | こうして、論争が激しくなったので、千人隊長は、パウロが彼らに引き裂かれてしまうのではないかと心配し、兵士たちに、下りていって人々の中からパウロを力ずくで助け出し、兵営に連れて行くように命じた。 |
NIV | The dispute became so violent that the commander was afraid Paul would be torn to pieces by them. He ordered the troops to go down and take him away from them by force and bring him into the barracks. |
註解: 千卒長は議会に於てパウロの罪状を明かにせんとしたけれども、その目的は達し得ず、唯パリサイ人の一部に「この人に悪しき事あるを見ず」と云うものがあったに過ぎなかった。紛争に対する処置は彼としては適切であった。
要義1 [議会に於けるパウロの態度]パウロが議会に於て大祭司を罵詈した事(3節)、大祭司を知らぬ振をした事(5節)及び、パリサイ人とサドカイ人とを争わしめて漁夫の利を占めし事(6-10節)等は普通の道徳的標準に照して考うる時は、決して立派な行為と云う事が出来ない。併し乍らパウロは型に嵌まった道徳家ではなかった。大祭司や議会の議員等は悉くパウロに対し反感を有し、彼を除かん事のみに熱心となっている輩であり、冷静にパウロの論述を聴きてその真理の前に屈伏する如き事は絶対に有り得ない輩であった。主イエスはこうした輩に対して沈黙の戦法を取り給うた(マタ26:63。マタ27:12-14。マコ14:61。ヨハ19:9)に反し、パウロは彼らに対し揶揄翻弄の手段に出でたのであった。我らはこのイエスの姿に於て神々しさを見、パウロの姿に大胆不敵の英雄を見る事が出来る。
要義2 [エルサレムの教会は如何なる態度を取りしか]使21:27以下の事件が起るや否や、ヤコブ及びその他の数万人の基督者はパウロに対して如何なる態度を取りしやは全く記録されて居ない。パウロを迫害せるユダヤ人の中に、是らの基督者も交りいたるならんと想像する事は、必ずしも無理ではない。もし然りとすれば、エルサレムの基督者はユダヤ教徒との間に何等の区別も無き事となり、結局に於てキリストの福音はエルサレムに於て滅亡した事となる。唯伝説によれば其後ヤコブはサドカイ派を主とするユダヤ人の為に迫害せられエルサレムに於て殉教の死を遂げた(六六年頃)との事であって、少数の者にはイエスに対する純粋の信仰が保たれていたものと思われる。是等が多数のユダヤ人に対して躓きとならざらんが為に努力した事は結局に於て彼らの多数がその信仰を失う事の結果となった。信仰の中心問題根本問題は如何なる場合もこれを明瞭にして置かなければならぬ。歴史の伝える処によれば是らのユダヤ的基督者は其後ユダヤ人に対する迫害の結果エルサレムを去りてヨルダン以東に移住し、遂に微々たる存在と化したとの事である。▲新しいイエスの福音は、ついにユダヤ主義の古い殻に入れておくことは出来なかった。生命の自由な活動と古い殻の保存とは両立しない。ユダヤ的基督教の消滅は自然でありまた当然であった。
6-1-7 パウロ、主イエスの幻象に接す
23:11
23章11節 その夜、主パウロの傍らに立ちて言ひ給ふ『雄々しかれ、汝エルサレムにて我につきて證をなしたる如く、ロマにても證をなすべし』[引照]
口語訳 | その夜、主がパウロに臨んで言われた、「しっかりせよ。あなたは、エルサレムでわたしのことをあかししたように、ローマでもあかしをしなくてはならない」。 |
塚本訳 | その夜、主が(現われ、)パウロに近づいて言われた、「安心せよ、あなたは(きっとローマに行くことができる。)エルサレムでわたしのことを証ししたと同じように、ローマでも証しをせねばならないのだから。」 |
前田訳 | その夜、主が彼のそばに立っていわれた、「しっかりなさい。エルサレムでわたしのことを証したように、あなたはローマでも証せねばならないから」と。 |
新共同 | その夜、主はパウロのそばに立って言われた。「勇気を出せ。エルサレムでわたしのことを力強く証ししたように、ローマでも証しをしなければならない。」 |
NIV | The following night the Lord stood near Paul and said, "Take courage! As you have testified about me in Jerusalem, so you must also testify in Rome." |
註解: この二日間の心身の過労の為に、且つ彼の愛する同胞の頑固無理解により、また彼に味方すべきエルサレムの基督者が甚だしく冷淡であった事のゆえに、パウロの心は甚だしく弱きを覚えた事であろう、この時主が彼にあらわれ、彼を励まし、彼がかつて理想し憧れていたロマ行を彼に告げ給うた。是により彼は暗夜に希望の光明を見るの思がした事であろう。
辞解
[証をなすべし] 「為さざるべからず」との意味。
6-1-8 パウロを殺さんとする陰謀より免る
23:12 - 23:25
23章12節 夜明になりてユダヤ人、徒黨を組み盟約を立てて、パウロを殺すまでは飮食せじと言ふ。[引照]
口語訳 | 夜が明けると、ユダヤ人らは申し合わせをして、パウロを殺すまでは飲食をいっさい断つと、誓い合った。 |
塚本訳 | 朝になると、ユダヤ人は互に結託して、パウロを殺すまでは食べもしない飲みもしないと、呪いをかけて誓った。 |
前田訳 | 夜が明けると、ユダヤ人は共謀して、パウロを殺すまでは、食べも飲みもしないと誓い合った。 |
新共同 | 夜が明けると、ユダヤ人たちは陰謀をたくらみ、パウロを殺すまでは飲み食いしないという誓いを立てた。 |
NIV | The next morning the Jews formed a conspiracy and bound themselves with an oath not to eat or drink until they had killed Paul. |
註解: 是等のユダヤ人は祭司長や議会の態度を手緩しとして、直接行動に出でんとして徒党を組んで誓約した。
辞解
[盟約を立て] 原語 anathematizô で「神に献げられる事」より転じて「亡ぼし尽される事」の意味となり再転して「呪はれる事」を意味す、誓の目的を達せざれば神に呪われ滅ぼされてもよろしと盟う事。
23章13節 この徒黨を結びたる者は四十人餘なり。[引照]
口語訳 | この陰謀に加わった者は、四十人あまりであった。 |
塚本訳 | この盟約に加わった者は四十人以上であった。 |
前田訳 | この陰謀に加わったものは四十人以上であった。 |
新共同 | このたくらみに加わった者は、四十人以上もいた。 |
NIV | More than forty men were involved in this plot. |
辞解
前節の「徒党」systrophê は結合する事、本節の「徒党」synômosia は共に誓う事。
23章14節 彼らは祭司長・長老らに往きて言ふ『われらパウロを殺すまでは何をも味ふまじと堅く盟約を立てたり。[引照]
口語訳 | 彼らは、祭司長たちや長老たちのところに行って、こう言った。「われわれは、パウロを殺すまでは何も食べないと、堅く誓い合いました。 |
塚本訳 | 彼らは大祭司連、長老たちのところに行って言った、「わたし達はパウロを殺すまでは何も口にしないことを、呪いをかけて固く誓いました。 |
前田訳 | 彼らは大祭司たち、長老たちのところへ行って、こういった、「われらはパウロを殺すまでは何も口に入れないことを堅く誓いました。 |
新共同 | 彼らは、祭司長たちや長老たちのところへ行って、こう言った。「わたしたちは、パウロを殺すまでは何も食べないと、固く誓いました。 |
NIV | They went to the chief priests and elders and said, "We have taken a solemn oath not to eat anything until we have killed Paul. |
23章15節 されば汝等なほ詳細に訊べんとする状して、彼を汝らの許に連れ下らすることを議會とともに千卒長に訴へよ、我等その近くならぬ間に殺す準備をなせり』[引照]
口語訳 | ついては、あなたがたは議会と組んで、彼のことでなお詳しく取調べをするように見せかけ、パウロをあなたがたのところに連れ出すように、千卒長に頼んで下さい。われわれとしては、パウロがそこにこないうちに殺してしまう手はずをしています」。 |
塚本訳 | だから、すぐあなた方は最高法院の方々と一緒に(行って)千卒長に、パウロのことをもっと詳しく取り調べたいという口実で、彼をあなた方のところにつれ下ってもらうように申し出ていただきたい。(決して迷惑はかけません。)わたし達はパウロが(法院に)近づく前に、彼を無き者にする手筈をしておきますから。」 |
前田訳 | それで、あなた方は法院と協力して、パウロについてもっと詳しく調べたいという口実で、千卒長に彼をあなた方のところに連れてくるよう申し出てください。われらは彼がここに近づく前に殺す用意があります」と。 |
新共同 | ですから今、パウロについてもっと詳しく調べるという口実を設けて、彼をあなたがたのところへ連れて来るように、最高法院と組んで千人隊長に願い出てください。わたしたちは、彼がここへ来る前に殺してしまう手はずを整えています。」 |
NIV | Now then, you and the Sanhedrin petition the commander to bring him before you on the pretext of wanting more accurate information about his case. We are ready to kill him before he gets here." |
註解: ユダヤ人らはパウロ暗殺の計画を祭司長、長老らに告げて彼らの共力を求め、彼らにその計略を授けた。議会中のパリサイ人にしてパウロに加担せる者を召集せるや否やは疑わし、恐らく正式に議会を召集する事を為ず、唯議会を召集する如くに装って千卒長に訴えんとしたのであろう。
辞解
[訴えよ] emphanizô はむしろ「表明す」と訳すべきである。二二節も同じ。
23章16節 パウロの姉妹の子この待伏の事をきき、[引照]
口語訳 | ところが、パウロの姉妹の子が、この待伏せのことを耳にし、兵営にはいって行って、パウロにそれを知らせた。 |
塚本訳 | するとパウロの姉妹の息子がこのたくらみを聞きこみ、兵営に入ってパウロに報告した。 |
前田訳 | パウロの姉妹の息子がこのたくらみを聞き、出かけて来て兵営に入り、パウロに報告した。 |
新共同 | しかし、この陰謀をパウロの姉妹の子が聞き込み、兵営の中に入って来て、パウロに知らせた。 |
NIV | But when the son of Paul's sister heard of this plot, he went into the barracks and told Paul. |
註解: パウロの姉妹の家は相当の地位にある人であったらしく議会に関する秘密を耳にする事が出来た。パウロ暗殺の計画が漏洩した事は勿論計画の拙劣さを示す。
往きて陣營に入りパウロに告げたれば、
註解: パウロの幽囚は比較的緩やかであったらしく、面会も出来る程であった。
23章17節 パウロ百卒長の一人を呼びて言ふ『この若者を千卒長につれ往け、告ぐる事あり』[引照]
口語訳 | そこでパウロは、百卒長のひとりを呼んで言った、「この若者を千卒長のところに連れて行ってください。何か報告することがあるようですから」。 |
塚本訳 | パウロは百卒長を一人呼びよせて言った、「この青年を千卒長の所につれて行ってもらいたい。何か報告することがあるようだから。」 |
前田訳 | パウロは百卒長のひとりを呼びよせていった、「この若者を千卒長のところに連れて行ってください。何か報告することがありますから」と。 |
新共同 | それで、パウロは百人隊長の一人を呼んで言った。「この若者を千人隊長のところへ連れて行ってください。何か知らせることがあるそうです。」 |
NIV | Then Paul called one of the centurions and said, "Take this young man to the commander; he has something to tell him." |
註解: パウロがロマ人としての権を有せし事がこうした場合多くの便宜を与えた事と思う。百卒長を自由に動かした事の如きも単なるユダヤ人には不可能の事であろう。
23章18節 百卒長これを携へ、千卒長に至りて言ふ『囚人パウロ我を呼びて、この若者なんぢに言ふべき事ありとて、汝に連れ往くことを請へり』[引照]
口語訳 | この百卒長は若者を連れて行き、千卒長に引きあわせて言った、「囚人のパウロが、この若者があなたに話したいことがあるので、あなたのところに連れて行ってくれるようにと、わたしを呼んで頼みました」。 |
塚本訳 | そこで百卒長は青年を連れて千卒長の所に出て言う、「囚人のパウロがわたしを呼んで、この青年をあなたの所につれて出るよう願い出ました。青年は何か申し上げることがあるようです。」 |
前田訳 | そこで百卒長は彼を連れて千卒長のところに行き、こういった、「囚人のパウロがわたしを呼んで、この若者をあなたのところへつれて出るよう頼みました。若者は何か申し上げることがあるそうです」と。 |
新共同 | そこで百人隊長は、若者を千人隊長のもとに連れて行き、こう言った。「囚人パウロがわたしを呼んで、この若者をこちらに連れて来るようにと頼みました。何か話したいことがあるそうです。」 |
NIV | So he took him to the commander. The centurion said, "Paul, the prisoner, sent for me and asked me to bring this young man to you because he has something to tell you." |
23章19節 千卒長その手を執り、[引照]
口語訳 | そこで千卒長は、若者の手を取り、人のいないところへ連れて行って尋ねた、「わたしに話したいことというのは、何か」。 |
塚本訳 | 千卒長は青年の手を取り、自分(たち)だけ引っ込んでたずねた、「わたしに報告することがあるというのは何か。」 |
前田訳 | 千卒長は彼の手をとり、ひとのいない所へ退いてたずねた、「わたしに報告することがあるというのは何か」と。 |
新共同 | 千人隊長は、若者の手を取って人のいない所へ行き、「知らせたいこととは何か」と尋ねた。 |
NIV | The commander took the young man by the hand, drew him aside and asked, "What is it you want to tell me?" |
註解: 若者をして臆する事なく語らしめんが為の態度である。千卒長の態度の老巧さとルカの想出が如何に生き生きとしているかを示す。
退きて、私に問ふ『われに告ぐる事とは何ぞ』
註解: 他人に聞かれざらん為の注意である事勿論である。
23章20節 若者いふ『ユダヤ人は、汝がパウロの事をなほ詳細に訊ぶる爲にとて、明日かれを議會に連れ下ることを汝に請はんと、申合せたり。[引照]
口語訳 | 若者が言った、「ユダヤ人たちが、パウロのことをもっと詳しく取調べをすると見せかけて、あす議会に彼を連れ出すように、あなたに頼むことに決めています。 |
塚本訳 | 青年が言った、「ユダヤ人たちは、法院がパウロについて何かもっと詳しくたずねたいという口実で、明日(もう一度)彼を法院につれ下ってもらうようにあなたに願い出ることを申し合わせています。 |
前田訳 | 彼はいった、「ユダヤ人たちは、明日あなたがパウロを法院にお連れのようお願いする申し合わせをしました。それはパウロについてもっと詳しく調べたいという口実によってです。 |
新共同 | 若者は言った。「ユダヤ人たちは、パウロのことをもっと詳しく調べるという口実で、明日パウロを最高法院に連れて来るようにと、あなたに願い出ることに決めています。 |
NIV | He said: "The Jews have agreed to ask you to bring Paul before the Sanhedrin tomorrow on the pretext of wanting more accurate information about him. |
註解: 異本に「汝が」の代りに「彼らが」または「それが」とあり前者の場合ユダヤ人を指し後者の場合議会を指す、後者が最もよく15節に適合する。
23章21節 汝その請に從ふな、彼らの中にて四十人餘の者、パウロを待伏せ、之を殺すまでは飮食せじと盟約を立て、今その準備をなして汝の許諾を待てり』[引照]
口語訳 | どうぞ、彼らの頼みを取り上げないで下さい。四十人あまりの者が、パウロを待伏せしているのです。彼らは、パウロを殺すまでは飲食をいっさい断つと、堅く誓い合っています。そして、いま手はずをととのえて、あなたの許可を待っているところなのです」。 |
塚本訳 | だからどうか彼の言葉に耳を傾けないでください。なにしろ彼らの中で四十人以上の者がパウロを待ち伏せており、彼を無き者にするまでは食べもしない飲みもしないと呪いをかけて誓って、いまは手筈ができて、ただあなたのお許しを待っているのですから。」 |
前田訳 | それで、彼らのいいなりにならないでください。彼らのうち四十人以上がパウロを待ち伏せしています。彼を殺すまでは食べも飲みもしないと誓い合って。今は用意ができ、あなたのお許しを待っています」と。 |
新共同 | どうか、彼らの言いなりにならないでください。彼らのうち四十人以上が、パウロを殺すまでは飲み食いしないと誓い、陰謀をたくらんでいるのです。そして、今その手はずを整えて、御承諾を待っているのです。」 |
NIV | Don't give in to them, because more than forty of them are waiting in ambush for him. They have taken an oath not to eat or drink until they have killed him. They are ready now, waiting for your consent to their request." |
註解: 「許諾」epangelia はまた「約束」とも訳される文字、パウロを議会に送る約束と見る事が出来る。
23章22節 ここに千卒長、若者に『これらの事を我に訴へたりと誰にも語るな』と命じて歸せり。[引照]
口語訳 | そこで千卒長は、「このことをわたしに知らせたことは、だれにも口外するな」と命じて、若者を帰した。 |
塚本訳 | そこで千卒長は、「このことをわたしに申し出た」ことは、だれにも口外しないようにと固く言いつけて、青年を帰した。 |
前田訳 | 千卒長は、「このことをわたしに知らせたことをだれにもいわないように」と命じて、若者を帰した。 |
新共同 | そこで千人隊長は、「このことをわたしに知らせたとは、だれにも言うな」と命じて、若者を帰した。 |
NIV | The commander dismissed the young man and cautioned him, "Don't tell anyone that you have reported this to me." |
辞解
[語る] 「口外する」「洩らす」の意。
[訴え] 15節を見よ。
23章23節 さて百卒長を兩三人よびて言ふ『今夜九時ごろカイザリヤに向けて往くために、兵卒二百、騎兵七十、槍をとる者二百を整へよ』[引照]
口語訳 | それから彼は、百卒長ふたりを呼んで言った、「歩兵二百名、騎兵七十名、槍兵二百名を、カイザリヤに向け出発できるように、今夜九時までに用意せよ。 |
塚本訳 | それから彼は百卒長を二人呼んで言いつけた、「今夜九時に出発してカイザリヤまで行くため、歩兵二百を準備せよ。それと騎兵七十、槍兵二百」と。 |
前田訳 | そして百卒長二人を呼んでいった、「今夜九時、カイサリアまで行くように、歩兵二百を用意せよ。それに騎兵七十と槍兵二百も。 |
新共同 | 千人隊長は百人隊長二人を呼び、「今夜九時カイサリアへ出発できるように、歩兵二百名、騎兵七十名、補助兵二百名を準備せよ」と言った。 |
NIV | Then he called two of his centurions and ordered them, "Get ready a detachment of two hundred soldiers, seventy horsemen and two hundred spearmen to go to Caesarea at nine tonight. |
註解: なぜこうした多数の護衛を付けたか不可解である。ロマ人を罪無きに捕縛したことの責任を軽くするために特にこれを優遇したのでないかと思われる。ベザ寫本によれば「そはユダヤ人がパウロを捕えてこれを殺し己は後に賄賂を取りしとて訴えられん事を恐れたる故なり」とあり。
辞解
[槍をとる者] dexiolabos は不明の語で諸説あり「投槍兵」の如きものか。
23章24節 また畜を備へ、パウロを乘せて安全に總督ペリクスの許に護送することを命じ、[引照]
口語訳 | また、パウロを乗せるために馬を用意して、彼を総督ペリクスのもとへ無事に連れて行け」。 |
塚本訳 | なおパウロを乗せて総督ペリクスの所に安全に送りとどけるため、馬の用意をするようにと。 |
前田訳 | なおパウロを乗せて安全に総督ペリクスのところに届けるため、馬を仕立てよ」と。 |
新共同 | また、馬を用意し、パウロを乗せて、総督フェリクスのもとへ無事に護送するように命じ、 |
NIV | Provide mounts for Paul so that he may be taken safely to Governor Felix." |
23章25節 かつ左のごとき書をかき贈る。[引照]
口語訳 | さらに彼は、次のような文面の手紙を書いた。 |
塚本訳 | (総督には)次のような趣意の手紙を書いた。 |
前田訳 | 彼は以下の趣旨の手紙を書いた。 |
新共同 | 次のような内容の手紙を書いた。 |
NIV | He wrote a letter as follows: |
註解: 24節は急に間接話法に変化す。「畜」を用意したのはパウロがこの数日の疲労の為歩行困難な為であり且つ騎兵のみにて護送する場合に備えたのであり(32節)、それが複数になっているのは万一ユダヤ人の襲撃に備うる為めの予備と見るべきであろう。
辞解
[左の如き] 直訳「こうした形式を有する」。
ペリクスはアグリツパ一世の娘ドロシラの夫で従ってアグリツパ二世(ドロシラの弟)の義兄に当る。またネロの寵臣ペラスの兄弟であった。後ネロ帝の時ユダヤ人の訴によりその身に危険が臨んだ時もペラスの援により罰を免れた。
6-1-9 千卒長の書簡
23:26 - 23:30
23章26節 『クラウデオ・ルシヤ謹みて總督ペリクス閣下の平安を祈る。[引照]
口語訳 | 「クラウデオ・ルシヤ、つつしんで総督ペリクス閣下の平安を祈ります。 |
塚本訳 | 「クラウデオ・ルシヤから総督ペリクス閣下に敬意を表します。 |
前田訳 | 「クラウデオ・ルシアが総督ペリクス閣下にごあいさついたします。 |
新共同 | 「クラウディウス・リシアが総督フェリクス閣下に御挨拶申し上げます。 |
NIV | Claudius Lysias, To His Excellency, Governor Felix: Greetings. |
註解: 当時行われし書簡の形式によれる前置きである。ヤコ1:1辞解参照。
23章27節 この人はユダヤ人に捕へられて殺されんとせしを、我そのロマ人なるを聞き、兵卒どもを率ゐ往きて救へり。[引照]
口語訳 | 本人のパウロが、ユダヤ人らに捕えられ、まさに殺されようとしていたのを、彼のローマ市民であることを知ったので、わたしは兵卒たちを率いて行って、彼を救い出しました。 |
塚本訳 | この者がユダヤ人に捕えられ、処刑されようとしているのを、ローマ市民であると聞いたので、手勢を率いて行って救い出しました。 |
前田訳 | この者がユダヤ人に捕えられて殺されようとしていたとき、ローマ人であると知りましたので、兵隊を率いて救い出しました。 |
新共同 | この者がユダヤ人に捕らえられ、殺されようとしていたのを、わたしは兵士たちを率いて救い出しました。ローマ帝国の市民権を持つ者であることが分かったからです。 |
NIV | This man was seized by the Jews and they were about to kill him, but I came with my troops and rescued him, for I had learned that he is a Roman citizen. |
註解: ルシヤは使21:30-34。使22:25以下の事実を巧みに曲げて自己に有利なる報告を与えている。いわゆる「役人根性」である。
23章28節 ユダヤ人の彼を訴ふる理由を知らんと欲して、その議會に引き往きたるに、[引照]
口語訳 | それから、彼が訴えられた理由を知ろうと思い、彼を議会に連れて行きました。 |
塚本訳 | そしてユダヤ人が彼を訴える罪状を調査しようと思い、彼らの最高法院につれて行きましたところ、 |
前田訳 | そしてユダヤ人が彼を訴える理由を知りたく思いまして、彼らの法院につれて行きました。 |
新共同 | そして、告発されている理由を知ろうとして、最高法院に連行しました。 |
NIV | I wanted to know why they were accusing him, so I brought him to their Sanhedrin. |
註解: 使22:30の事実に相当す。
23章29節 彼らの律法の問題につき、訴へられたるにて、死もしくは縛に當る罪の訴訟にあらざるを知りたり。[引照]
口語訳 | ところが、彼はユダヤ人の律法の問題で訴えられたものであり、なんら死刑または投獄に当る罪のないことがわかりました。 |
塚本訳 | 彼らの律法の問題について訴えられたことがわかり、死罪または監禁に当るいかなる犯罪もなく、 |
前田訳 | わかりましたのは、彼らの律法の問題について訴えられていて、死刑や牢獄に当たる何の犯罪もないことです。 |
新共同 | ところが、彼が告発されているのは、ユダヤ人の律法に関する問題であって、死刑や投獄に相当する理由はないことが分かりました。 |
NIV | I found that the accusation had to do with questions about their law, but there was no charge against him that deserved death or imprisonment. |
註解: 6節を意味す。千卒長は既にパウロの無罪を承認していた。唯ユダヤ人のゆえに彼を放免する事が出来なかった。
23章30節 又この人を害せんとする謀計ありと我に聞えたれば、われ俄にこれを汝のもとに送り、これを訴ふる者に、なんぢの前にて彼を訴へんことを命じたり』[引照]
口語訳 | しかし、この人に対して陰謀がめぐらされているとの報告がありましたので、わたしは取りあえず、彼を閣下のもとにお送りすることにし、訴える者たちには、閣下の前で、彼に対する申立てをするようにと、命じておきました」。 |
塚本訳 | かえって、この者に対して(ユダヤ人による暗殺の)陰謀があると通告されましたので、とりあえず閣下のもとに送ることにしました。告発人にも(直接)閣下の前で彼に対して供述するようにと、命じておきました。」 |
前田訳 | この者に対する陰謀があると報告されましたので、さっそく閣下のもとにお送りいたします。告発者たちにも、閣下の前で彼に対する訴えをするよう命じておきました」。 |
新共同 | しかし、この者に対する陰謀があるという報告を受けましたので、直ちに閣下のもとに護送いたします。告発人たちには、この者に関する件を閣下に訴え出るようにと、命じておきました。」 |
NIV | When I was informed of a plot to be carried out against the man, I sent him to you at once. I also ordered his accusers to present to you their case against him. |
註解: この書簡は本来はラテン語にて書かれたものをルカが後に調査して大略をギリシヤ語に書き直したものであろう。
6-2 カイザリヤに於けるパウロ
23:31 - 26:326-2-1 パウロ、カイザリヤに着く
23:31 - 23:35
23章31節 爰に兵卒ども命ぜられたる如くパウロを受けとりて、夜中アンテパトリスまで連れてゆき、[引照]
口語訳 | そこで歩兵たちは、命じられたとおりパウロを引き取って、夜の間にアンテパトリスまで連れて行き、 |
塚本訳 | さて歩兵らは命令されたとおり夜の間にパウロをアンテパトリスに連れて行ったが、 |
前田訳 | 歩兵らは、命じられたとおりパウロを引き受けて夜の間にアンテパトリスまで連れて行ったが、 |
新共同 | さて、歩兵たちは、命令どおりにパウロを引き取って、夜のうちにアンティパトリスまで連れて行き、 |
NIV | So the soldiers, carrying out their orders, took Paul with them during the night and brought him as far as Antipatris. |
註解: エルサレムよりアンテパトリスまでは五十六キロあり全速力にて夜通し歩いても翌朝七時より早くは着き得ない。
辞解
[アンテパトリス] ヘロデ大王の父アンテパテルの創立せる市でその名に因みて名付けられしもの。
23章32節 翌日これを騎兵に委ね、ともに往かしめて陣營に歸れり。[引照]
口語訳 | 翌日は、騎兵たちにパウロを護送させることにして、兵営に帰って行った。 |
塚本訳 | 翌日は騎兵(だけ)をパウロと共に行かせ、自分らは(エルサレムの)兵営に帰った。 |
前田訳 | 翌日は騎兵を彼とともに行かせ、自分たちは兵営に帰った。 |
新共同 | 翌日、騎兵たちに護送を任せて兵営へ戻った。 |
NIV | The next day they let the cavalry go on with him, while they returned to the barracks. |
註解: 歩兵及び擲槍兵はエルサレムの陣営に帰った。最早やユダヤ人の襲撃を受くる危険なしと見たからである。且つ騎兵は翌日もつづけて行進する事が出来た。
23章33節 騎兵はカイザリヤに入り、總督に書をわたし、パウロを其の前に立たしむ。[引照]
口語訳 | 騎兵たちは、カイザリヤに着くと、手紙を総督に手渡し、さらにパウロを彼に引きあわせた。 |
塚本訳 | 騎兵はカイザリヤに着いて手紙を総督に手渡し、パウロをもその前に引き出した。 |
前田訳 | 騎兵はカイサリアに着いて手紙を総督に手渡し、パウロをその前に立たせた。 |
新共同 | 騎兵たちはカイサリアに到着すると、手紙を総督に届け、パウロを引き渡した。 |
NIV | When the cavalry arrived in Caesarea, they delivered the letter to the governor and handed Paul over to him. |
註解: かくしてパウロはイエスと同じく異邦人の手に付された。神はかくして福音の異邦人に及ぶの道を開き給う。
23章34節 總督、書を讀みて、パウロのいづこの國の者たるかを問ひ、そのキリキヤ人なるを知りて、[引照]
口語訳 | 総督は手紙を読んでから、パウロに、どの州の者かと尋ね、キリキヤの出だと知って、 |
塚本訳 | 総督はこれを一読ののち、彼に何州の者であるかを尋ね、キリキヤの者と知ると、 |
前田訳 | 総督は手紙を読んでから彼にどの州の出であるかをたずね、キリキアの出と知ると、 |
新共同 | 総督は手紙を読んでから、パウロがどの州の出身であるかを尋ね、キリキア州の出身だと分かると、 |
NIV | The governor read the letter and asked what province he was from. Learning that he was from Cilicia, |
註解: キリキヤは皇帝領でありパウロはローマ市民であったのでカイザルの裁判権に服する事は当然であった。
辞解
[いづこの国] 原語「如何なる性質の国」を意味し、皇帝領か元老院所属地か等を知らんが為の問であった
23章35節 『汝を訴ふる者の來らんとき、尚つまびらかに汝のことを聽かん』と言ひ、かつ命じて、ヘロデでの官邸に之を守らしめたり。[引照]
口語訳 | 「訴え人たちがきた時に、おまえを調べることにする」と言った。そして、ヘロデの官邸に彼を守っておくように命じた。 |
塚本訳 | 「告発人が来た上で(改めて)審問する」と言って、ヘロデ(大王)の(建てた)総督官舎に監禁することを命令した。 |
前田訳 | 「告発者たちが来たときに調べよう」といって、ヘロデの官邸で彼を守るよう命じた。 |
新共同 | 「お前を告発する者たちが到着してから、尋問することにする」と言った。そして、ヘロデの官邸にパウロを留置しておくように命じた。 |
NIV | he said, "I will hear your case when your accusers get here." Then he ordered that Paul be kept under guard in Herod's palace. |
註解: 訊問は大祭司等の到着を待ちて行う事とし、ヘロデの官邸の牢獄の中にパウロを看守した。
辞解
[ヘロデの官邸] ヘロデ大王が自分の為に此地に建てた官邸で当時は総督の官邸として用いられていた。これに附属せる牢獄で普通の牢獄にあらざる事を示す。パウロはロマ人たるがゆえに優遇せられているものと見る事が出来る。
要義 [パウロを殺さんとせる盟約者に就て]パウロを殺すまでは飲食せじと盟いし人々が其後如何に成り行きしかにつきては何等の記事が無い。この四十人の誓約者は皆餓死したものとも思われず、恐らく適当なる遁辞を造り出して、その場面を糊塗したものであろう。人間的熱情は多くの場合誤謬を伴う。熱情を以て興奮せる場合、軽々しく誓う事の如きは慎まなければならない。
使徒行伝第24章
6-2-2 ペリクスの前に於けるパウロの弁論
24:1 - 24:21
24章1節 五日ののち、大祭司アナニヤ數人の長老およびテルトロと云ふ辯護士とともに下りてパウロを總督に訴ふ。[引照]
口語訳 | 五日の後、大祭司アナニヤは、長老数名と、テルトロという弁護人とを連れて下り、総督にパウロを訴え出た。 |
塚本訳 | 五日の後に、大祭司アナニヤは(最高法院の)長老数人とテルトロという弁護士とをつれて(カイザリヤに)下り、皆で総督に対しパウロに不利な申し出をした。 |
前田訳 | 五日の後、大祭司アナニヤは長老数人とテルトロという弁護士とともに下り、総督にパウロを訴えた。 |
新共同 | 五日の後、大祭司アナニアは、長老数名と弁護士テルティロという者を連れて下って来て、総督にパウロを訴え出た。 |
NIV | Five days later the high priest Ananias went down to Caesarea with some of the elders and a lawyer named Tertullus, and they brought their charges against Paul before the governor. |
註解: 五日を何れの日より数え始むべきかにつき諸説あり(11節註参照)、パウロがカイザリヤに到着した日より計算するを可とす。アナニヤは深くパウロを恨み親ら出向いてパウロを訴えた。テルトロはロマ人らしき名称である。弁護士は雄弁家で、弁論を以て訴訟を助けた。
6-2-2-イ テルトロの論告
24:2 - 24:9
24章2節 パウロ呼び出されたれば、[引照]
口語訳 | パウロが呼び出されたので、テルトロは論告を始めた。「ペリクス閣下、わたしたちが、閣下のお陰でじゅうぶんに平和を楽しみ、またこの国が、ご配慮によって、 |
塚本訳 | パウロが呼び出されると、テルトロは次のように告発の理由を述べ始めた。「ペリクス閣下、お蔭でわれわれは大なる泰平を楽しみ、また御高配によってこの国民のために改善が、 |
前田訳 | パウロが呼ばれると、テルトロは次のように告発しはじめた、「あなたのおかげで全き平和がおとずれ、お指図によってこの民に改善がなされました。 |
新共同 | -3節 パウロが呼び出されると、テルティロは告発を始めた。「フェリクス閣下、閣下のお陰で、私どもは十分に平和を享受しております。また、閣下の御配慮によって、いろいろな改革がこの国で進められています。私どもは、あらゆる面で、至るところで、このことを認めて称賛申し上げ、また心から感謝しているしだいです。 |
NIV | When Paul was called in, Tertullus presented his case before Felix: "We have enjoyed a long period of peace under you, and your foresight has brought about reforms in this nation. |
註解: 「呼び出され」とあって「引出され」と云わざる処にパウロに対する取扱振を示す(B1)。
テルトロ訴へ出でて言ふ『ペリクス閣下よ、われらは汝によりて太平を樂しみ、
24章3節 なんぢの先見によりて、此の國人のために時に隨ひ處に隨ひて、惡しき事の改められたるを感謝して罷まず。[引照]
口語訳 | あらゆる方面に、またいたるところで改善されていることは、わたしたちの感謝してやまないところであります。 |
塚本訳 | あらゆる方面、あらゆる所で行われていることを見て、われわれはあらゆる感謝を捧げる者であります。 |
前田訳 | ペリクス閣下、いつでもどこでもわれらはそれらを心からの感謝をもってお認めいたします。 |
新共同 | |
NIV | Everywhere and in every way, most excellent Felix, we acknowledge this with profound gratitude. |
註解: 雄弁家テルトロは先づ阿諛の言を以てペリクスに媚びた。ペリクスにつきては二三の小功績が伝えられれる以外格別の功績が記録せられず、ヨセフスの歴史によればその死後ユダヤ人は彼の残虐に怨嗟の声を発したとの事である(古代史20・8・9)。従ってテルトロの言が一片の阿諛である事は明らかである。
辞解
[先見] pronoia は神につきて多く用いられる語。
[時に随い] むしろ「凡ての事につき」と訳すべきである。
[感謝して罷まず] 「感謝を以てこれを受く」で有難く頂戴していると云う意味である。
[悪しき事の改められたる] diorthômata は「改革が行われたる事」。
24章4節 ここに喃々しく陳べて汝を妨ぐまじ、[引照]
口語訳 | しかし、ご迷惑をかけないように、くどくどと述べずに、手短かに申し上げますから、どうぞ、忍んでお聞き取りのほど、お願いいたします。 |
塚本訳 | しかし長くお耳をけがさないように、手短かに申し上げます。どうか(世に知られた)御寛容をもってお聞きくださるよう願います。 |
前田訳 | 長くおわずらわせしないため、手短に申しますから、寛大にお聞きくださるようお願いいたします。 |
新共同 | さて、これ以上御迷惑にならないよう手短に申し上げます。御寛容をもってお聞きください。 |
NIV | But in order not to weary you further, I would request that you be kind enough to hear us briefly. |
註解: 私訳「この上汝を妨げざらん為に」
願はくは寛容をもて我が少しの言を聽け。
註解: 私訳「汝の寛容を以て簡単に我ら〔の言〕に聴かん事を請う」職業的雄弁家の弁舌の口調である
24章5節 我等この人を見るに恰も疫病のごとくにて、[引照]
口語訳 | さて、この男は、疫病のような人間で、世界中のすべてのユダヤ人の中に騒ぎを起している者であり、また、ナザレ人らの異端のかしらであります。 |
塚本訳 | つまりこういうことです。この男は疫病のように、世界中のユダヤ人の間に紛争をひきおこし、またあのナザレ人の異端の首魁であることを、われわれは確かめました。 |
前田訳 | この男は疫病のような男で、全世界のユダヤ人に争いをおこし、ナザレ人の派の頭であることがわれらにわかりました。 |
新共同 | 実は、この男は疫病のような人間で、世界中のユダヤ人の間に騒動を引き起こしている者、『ナザレ人の分派』の主謀者であります。 |
NIV | "We have found this man to be a troublemaker, stirring up riots among the Jews all over the world. He is a ringleader of the Nazarene sect |
註解: その疫病を全世界に伝播する為に世界を馳廻りつつある事。
全世界のユダヤ人のあひだに騷擾をおこし、
註解: 是が罪状の第一で各地に騒擾を起す事である。即ち騒擾罪にしてカイザルに対する重罪である。
且ナザレ人の異端の首にして、
24章6節 宮をさへ涜さんとしたれば之を捕へたり。[引照]
口語訳 | この者が宮までも汚そうとしていたので、わたしたちは彼を捕縛したのです。〔そして、律法にしたがって、さばこうとしていたところ、 |
塚本訳 | そればかりか(異教人をつれ込んでエルサレムの)宮を犯そうとしましたので、彼を捕縛したのであります。 |
前田訳 | この男は宮をも汚そうとしましたので捕えました。〔われらの律法で裁こうとしましたが、 |
新共同 | この男は神殿さえも汚そうとしましたので逮捕いたしました。(†底本に節が欠落 異本訳<24:6b-8a>)そして、私どもの律法によって裁こうとしたところ、千人隊長リシアがやって来て、この男を無理やり私どもの手から引き離し、告発人たちには、閣下のところに来るようにと命じました。 |
NIV | and even tried to desecrate the temple; so we seized him. |
註解: 〔6節の後半及7節及8節の始めなし〕ナザレはイエスの幼時の故郷なる故、イエスを指すにナザレ人なる名称を以てし、これに軽蔑の意を含めてイエスのメシヤにあらざる事を風刺す(ヨハ1:46。ヨハ7:41、42)従ってナザレ人の異端は基督教を指す。パウロはその首即ち頭目、首魁と目せられ、是が罪状の第二である。而して罪状の第三として宮を涜さんとした事を挙げている。尚六節後半以下はベザ写本其他に「而して我らの律法に従いて審かんとせしに、(7)千卒長ルシヤ来り暴力を以て我らの手より奪い去り、(8)訴うる者を汝に来る様命じたり」とあり。この写本によれば次節の「この人」はルシヤと解する事が自然である。但し是等の挿入句は重要なる写本の多くに欠けている。
24章7節 [なし][引照]
口語訳 | 千卒長ルシヤが干渉して、彼を無理にわたしたちの手から引き離してしまい、 |
塚本訳 | [以下及び七、八前半無シ] |
前田訳 | 千卒長ルシアが来て無理に彼をわれらの手からとり、 |
新共同 | |
NIV | |
24章8節 汝この人に就きて訊さば我らの訴ふる所をことごとく知り得べし』[引照]
口語訳 | 彼を訴えた人たちには、閣下のところに来るようにと命じました。〕それで、閣下ご自身でお調べになれば、わたしたちが彼を訴え出た理由が、全部おわかりになるでしょう」。 |
塚本訳 | お取り調べになれば、われわれが告発しているこの一切のことを、御自身で彼(の口)からお聞きになることが出来ます。」 |
前田訳 | 彼を訴えるものにあなたのところに来るよう命じました。〕ご自身お調べになれば、われらが訴えていることすべてがおわかりになります」と。 |
新共同 | 閣下御自身でこの者をお調べくだされば、私どもの告発したことがすべてお分かりになるかと存じます。」 |
NIV | By examining him yourself you will be able to learn the truth about all these charges we are bringing against him." |
註解: 「この人」はパウロを指す、この方が前後の関係上自然である。
24章9節 ユダヤ人も之に加へて、誠にその如くなりと主張す。[引照]
口語訳 | ユダヤ人たちも、この訴えに同調して、全くそのとおりだと言った。 |
塚本訳 | ユダヤ人たちも事実その通りだと言って、一緒になって攻撃した。 |
前田訳 | ユダヤ人たちも、ことはそのとおりといって、共に攻めた。 |
新共同 | 他のユダヤ人たちもこの告発を支持し、そのとおりであると申し立てた。 |
NIV | The Jews joined in the accusation, asserting that these things were true. |
註解: 「加えて」は同意を表して追加せし事を示す。
6-2-2-ロ パウロの答弁
24:10 - 24:21
註解: 10-21はパウロがエルサレムに於て為せる二つの弁論と並ぶべき弁論で、10-13は5節前半の騒擾罪としての告訴に対する反駁であり、14-16はその信ずる処は正しき信仰である事を述べて5節後半に対する反駁をなし、17-21は宮を汚せる事無きを論じて6節に対する反駁を与えている。
24章10節 總督、首にて示しパウロに言はしめたれば、[引照]
口語訳 | そこで、総督が合図をして発言を促したので、パウロは答弁して言った。「閣下が、多年にわたり、この国民の裁判をつかさどっておられることを、よく承知していますので、わたしは喜んで、自分のことを弁明いたします。 |
塚本訳 | そこでパウロが答えた、総督が話すようにと合図をしたのである。「あなたが長年この国民の裁判官であ(り、よく下情に通じておられ)ることを承知しておりますので、安心して自分のことを弁明いたします。 |
前田訳 | 総督が話すよう合図したので、パウロは答えた、「多年あなたがこの民の裁判官であられることを知っておりますので、安心してわたしのことを弁明いたします。 |
新共同 | 総督が、発言するように合図したので、パウロは答弁した。「私は、閣下が多年この国民の裁判をつかさどる方であることを、存じ上げておりますので、私自身のことを喜んで弁明いたします。 |
NIV | When the governor motioned for him to speak, Paul replied: "I know that for a number of years you have been a judge over this nation; so I gladly make my defense. |
註解: 総督の威張っている態度が眼前に髣髴する。
答ふ『なんぢが年久しく、この國人の審判人たることを我は知るゆゑに、喜びて我が辯明をなさん。
註解: パウロは正当なる理由を挙げてペリクスに敬意を表している。テルトロの阿諛の言と比較せよ。
辞解
[年久しく] ペリクスは紀元五十二年頃より総督となった故、六七年の経験あり、パウロはこれを信頼の態度を以て賞揚した。
24章11節 なんぢ知り得べし、我が禮拜のためにエルサレムに上りてより僅か十二日に過ぎず、[引照]
口語訳 | お調べになればわかるはずですが、わたしが礼拝をしにエルサレムに上ってから、まだ十二日そこそこにしかなりません。 |
塚本訳 | (この人たちはわたしがエルサレムを騒がせたように言いますが、)わたしが礼拝のためエルサレムに上ってから十二日以上はたっていないことを、あなたは(容易に)お聞きになることが出来ます。(そんな短かい間に、どうして騒動など起こすことが出来ましょうか。) |
前田訳 | ご確認がおできのとおり、わたしが礼拝のためエルサレムへ上ってから十二日以上たってはいません。 |
新共同 | 確かめていただけば分かることですが、私が礼拝のためエルサレムに上ってから、まだ十二日しかたっていません。 |
NIV | You can easily verify that no more than twelve days ago I went up to Jerusalem to worship. |
註解: 短時日の間に5節前半の如き騒擾罪を起すはずもなくその遑もなき事を論ず。
辞解
[十二日] 精確に計上する事は至難であり従って種々の計上法あり、使21:27の「七日の終らんとする時」の起算点及日数が不明であり使24:1の五日の起算点が不明である。A1、M0等の計算法によれば第一日、エルサレム着(使21:15-17)。第二日、ヤコブとの面会(使21:18)。第三日、誓願(使21:26)。第七日目に騒擾起り捕縛さる(使21:27)。第八日に議会の前に立ち(使22:30。使23:1-10)、第九日目に陰謀を知り夜遅くエルサレムを連れ出され、翌日カイザリヤにつく(使23:12。使23:23、使23:31、32)。この日より起算して第五日目にアナニヤ、カイザリヤに来りてペリクスの前に立つ、即ち第十三日目なり(使24:1)。他も略類似の計算法による。この計算法は稍あわただしきが如きも学者の通説である。予はむしろヤコブに会いてより誓願を始むるまでの間に一二日の準備を要せるものと仮定しエルサレムを去るまでの日数を十二日と計算する方が事情に適すと信ず。「十二日に過ぎず」の中にカイザリヤ滞在の日数を加える事は無意昧であり且つあまりにあわただしきを感ずるからである。この「過ぎず」は現在動詞なれど上の如くに見る事も不可能ではない。
24章12節 また彼らは、我が宮にても會堂にても市中にても人と爭ひ、群衆を騷がしたるを見ず、[引照]
口語訳 | そして、宮の内でも、会堂内でも、あるいは市内でも、わたしがだれかと争論したり、群衆を煽動したりするのを見たものはありませんし、 |
塚本訳 | またこの人たちは、わたしがだれかと議論したり、民衆を煽動したりするのを、宮でも、礼拝堂でも、都の中でも見たことはないし、 |
前田訳 | この人たちは宮の中でわたしがだれかと議論したり、群衆を扇動したりするのを見たことはなく、諸会堂でも町の中でも同様です。 |
新共同 | 神殿でも会堂でも町の中でも、この私がだれかと論争したり、群衆を扇動したりするのを、だれも見た者はおりません。 |
NIV | My accusers did not find me arguing with anyone at the temple, or stirring up a crowd in the synagogues or anywhere else in the city. |
註解: 18節参照。6節の提訴に対する反駁である。
辞解
[争い] dialegomai は議論する事、即ちパウロはこの際エルサレムに於て福音を伝え、これに関する議論を為す事を控えた事を高調している。「群衆を騒がしたる」は「群衆の騒擾を起したる」。
24章13節 いま訴へたる我が事につきても證明すること能はざるなり。[引照]
口語訳 | 今わたしを訴え出ていることについて、閣下の前に、その証拠をあげうるものはありません。 |
塚本訳 | 今わたしを告発していることについて、あなたに証拠を提出することもで来ません。 |
前田訳 | 今わたしを訴えていることについて、この人たちは証拠立てができません。 |
新共同 | そして彼らは、私を告発している件に関し、閣下に対して何の証拠も挙げることができません。 |
NIV | And they cannot prove to you the charges they are now making against me. |
註解: テルトロ等はパウロに関する風評と、エルサレムに起れる騒擾を以てパウロが起したものとして訴えたけれども、これを証明する事は出来ない。
註解: 14-16は5節末の「ナザレ人の異端の首」なる訴に対する弁論。
24章14節 我ただ此の一事を汝に言ひあらはさん、即ち我は彼らが異端と稱ふる道に循ひて我が先祖たちの神につかへ、[引照]
口語訳 | ただ、わたしはこの事は認めます。わたしは、彼らが異端だとしている道にしたがって、わたしたちの先祖の神に仕え、律法の教えるところ、また預言者の書に書いてあることを、ことごとく信じ、 |
塚本訳 | しかしわたしは次のことは正直に認めます。わたしは(キリストの)道に従って、(この人たちと同じ)祖先の神を礼拝しております、この人たちはこれを異端と言って(そしって)おりますが。すなわちわたしは(モーセ)律法と預言書[聖書]とに書いてあることを全部信じ、 |
前田訳 | しかし次のことは認めます、わたしは彼らが異端という道に従って、われらの先祖の神に仕え、律法と預言とに書いてあることはすべて信じています。 |
新共同 | しかしここで、はっきり申し上げます。私は、彼らが『分派』と呼んでいるこの道に従って、先祖の神を礼拝し、また、律法に則したことと預言者の書に書いてあることを、ことごとく信じています。 |
NIV | However, I admit that I worship the God of our fathers as a follower of the Way, which they call a sect. I believe everything that agrees with the Law and that is written in the Prophets, |
註解: ユダヤ人は我らを異端と呼ぶけれども、キリストの福音は一つの新しき道であって、ユダヤ教に反対する異端ではない。従ってパウロの事うる神は「先祖たちの神」であってユダヤ人らの事うる神と同一である。
辞解
[異端] 本来「派」を意味するけれども(パリサイ派サドカイ派の如し)此処では悪しき意味に用う。
律法と預言者の書とに録したる事をことごとく信じ、
註解: 基督者は旧約聖書を否定せず悉くこれを信じ、且つそれがイエス・キリストによりて完成、成就せられし事を信じた。この意味に於てもユダヤ人の信仰と同一の道を進んでいるものである。
24章15節 かれら自らも待てるごとく、義者と不義者との復活あるべしと、神を仰ぎて望を懷くなり。[引照]
口語訳 | また、正しい者も正しくない者も、やがてよみがえるとの希望を、神を仰いでいだいているものです。この希望は、彼ら自身も持っているのです。 |
塚本訳 | (また)この人たち自身もいだいている(復活の希望、)正しい人と正しくない人との復活が来ようとしているという希望を、神に対して持っているのであります。 |
前田訳 | そしてこの人たち自身も抱いている神への希望を持っています。それは正しい人も正しくない人もやがて復活するということです。 |
新共同 | 更に、正しい者も正しくない者もやがて復活するという希望を、神に対して抱いています。この希望は、この人たち自身も同じように抱いております。 |
NIV | and I have the same hope in God as these men, that there will be a resurrection of both the righteous and the wicked. |
註解: 信仰に於て同一なるのみならず、希望に於ても同一である。即ち死者の復活の希望である。但しサドカイ派の人々はこれを信じなかったけれどもパウロはこれを無視して概括的に論じている。即ちパウロの信ずる処はユダヤ人らの信仰と本質的に同一であって、彼らに異端視せられ、迫害される理由なき事を意味す、尚ヨセフスはパリサイ人は不義者の復活を信ぜざる事を記しているけれども、間違っている(S2)。
24章16節 この故に、[引照]
口語訳 | わたしはまた、神に対しまた人に対して、良心に責められることのないように、常に努めています。 |
塚本訳 | それでわたし自身も(裁きの日の近いことを思って、)神と人とに対しやましくない良心を持つように、絶えず努力しているのであります。 |
前田訳 | それゆえわたし自身も神と人々に対して絶えずやましくない良心を持つよう努めております。 |
新共同 | こういうわけで私は、神に対しても人に対しても、責められることのない良心を絶えず保つように努めています。 |
NIV | So I strive always to keep my conscience clear before God and man. |
註解: 以上14、15節の如き信仰と希望とを有つゆえに
われ常に神と人とに對して良心の責なからんことを勉む。
註解: 信仰に伴う道徳生活にも充分に努力し、修養して神に仕うる事に於てもまた人に事うる事に於ても良心が咎められる如き事なき様にしているとの意。
辞解
[勉む] askô は訓練する事。
24章17節 我は多くの年を經てのち歸りきたり、我が民に施濟をなし、また献物をささげゐたりしが、[引照]
口語訳 | さてわたしは、幾年ぶりかに帰ってきて、同胞に施しをし、また、供え物をしていました。 |
塚本訳 | さて、(わたしが捕えられたのはこういう訳です。)わたしは同胞(である兄弟たち)に寄付金を持って来るため、また(宮で)献げ物をするため、幾年ぶりかに(エルサレムに)来たのですが、 |
前田訳 | わが民に施しをし、またささげものをするために、何年ぶりかで帰って来ました。 |
新共同 | さて、私は、同胞に救援金を渡すため、また、供え物を献げるために、何年ぶりかで戻って来ました。 |
NIV | "After an absence of several years, I came to Jerusalem to bring my people gifts for the poor and to present offerings. |
註解: 使18:22の後とすれば約四年後のエルサレム訪問となる。マケドニヤ、アカヤの信徒より金銭を醵出してエルサレムの基督者に施済をなす事はパウロの上京の目的であった、献物をささぐる為に上京せる事は他に記事なし、恐らく使21:26のナザレ人の誓願を指したのであろう。
辞解
本節は「幾年かの後わが民に施済をなし献物をささげんとて来り」と訳すべきで献物をささぐる事も上京の目的の様に見えるけれども、事実に悖るが為にパウロは他にささげものを為さんとの心組なりしと解す説あり。
[わが民] パウロの愛国心をあらわす。
24章18節 その時かれらは我が潔をなして宮にをるを見たるのみにて群衆もなく騷擾もなかりしなり。[引照]
口語訳 | そのとき、彼らはわたしが宮できよめを行っているのを見ただけであって、群衆もいず、騒動もなかったのです。 |
塚本訳 | 宮で清めをして献げ物をしている時に──別に人だかりもなく騒ぎもなかった──人々はわたしを見たのであります。 |
前田訳 | そのとき彼らは宮で清めを受けるわたしを見受けましたが、群衆もおらず、騒ぎもありませんでした。 |
新共同 | 私が清めの式にあずかってから、神殿で供え物を献げているところを、人に見られたのですが、別に群衆もいませんし、騒動もありませんでした。 |
NIV | I was ceremonially clean when they found me in the temple courts doing this. There was no crowd with me, nor was I involved in any disturbance. |
註解: 「その時」は献物をなしている時の事、「潔をなして」はナザレ人の誓願の為の潔であろう。即ちパウロはその時は自分だけで立派に静粛にユダヤ人として行動していた。煽動すべき群衆もなく、鎮静さるべき騒擾もなかった。
24章19節 然るにアジアより來れる數人のユダヤ人ありて――もし我に咎むべき事あらば、彼らが汝の前に出でて訴ふることを爲べきなり。[引照]
口語訳 | ところが、アジヤからきた数人のユダヤ人が—彼らが、わたしに対して、何かとがめ立てをすることがあったなら、よろしく閣下の前にきて、訴えるべきでした。 |
塚本訳 | 見たのはアジヤから来た数人のユダヤ人ですが、あの人たちはわたしに対して何か告発することがあるのなら、(自分で)あなたの前に出て(堂々と)告発すべきであったのです。 |
前田訳 | アジアから来た数名のユダヤ人はおりました。彼らこそ、わたしに何か責めることがあるならば、あなたの前に来て訴えるべきです。 |
新共同 | ただ、アジア州から来た数人のユダヤ人はいました。もし、私を訴えるべき理由があるというのであれば、この人たちこそ閣下のところに出頭して告発すべきだったのです。 |
NIV | But there are some Jews from the province of Asia, who ought to be here before you and bring charges if they have anything against me. |
註解: 不完全な文章で「ユダヤ人ありて」の次に「彼らこそ騒擾を惹起したのであった」との意を含蓄す。彼らは汝の前に訴うべきであるのに、これを為さずして却って騒擾を起し訴うべき理由なき祭司、長老等が訴えているとは全く理由なき事である。
24章20節 或はまた此處なる人々(自身こそ)、わが先に議會に立ちしとき、我に何の不義を認めしか言へ。[引照]
口語訳 | あるいは、何かわたしに不正なことがあったなら、わたしが議会の前に立っていた時、彼らみずから、それを指摘すべきでした。 |
塚本訳 | あるいはまた(ここにいる)この(エルサレムの)人たち自身も、わたしが最高法院の前に立ったとき、どんな不正が(わたしに)認められたか、言ってみたまえ! |
前田訳 | あるいは、ここにいる人たち自身も、わたしが法院に立ったとき、どんな不正を認めたかをいうべきです。 |
新共同 | さもなければ、ここにいる人たち自身が、最高法院に出頭していた私にどんな不正を見つけたか、今言うべきです。 |
NIV | Or these who are here should state what crime they found in me when I stood before the Sanhedrin-- |
註解: パウロは彼らに何等の根拠なき事を云っていた。
24章21節 唯われ彼らの中に立ちて「死人の甦へる事につきて我 今日汝らの前にて審かる」と呼はりし一言の他には[何もなかるべし]』[引照]
口語訳 | ただ、わたしは、彼らの中に立って、『わたしは、死人のよみがえりのことで、きょう、あなたがたの前でさばきを受けているのだ』と叫んだだけのことです」。 |
塚本訳 | 『わたしは死人の復活のためにきょうあなた達の前で裁判されているのです』と、みんなの中に立って叫んだその一言のほかに!」 |
前田訳 | 彼らの間に立って、『死人の復活について、きょうわたしはあなた方の前で裁かれている』とただひとこと叫んだだけです」。 |
新共同 | 彼らの中に立って、『死者の復活のことで、私は今日あなたがたの前で裁判にかけられているのだ』と叫んだだけなのです。」 |
NIV | unless it was this one thing I shouted as I stood in their presence: `It is concerning the resurrection of the dead that I am on trial before you today.'" |
註解: 「審かるべき点がありとすればこの一言(原語一声)だけであろう」と云うパウロの挑戦は聖なる皮肉である(B1、使23:6参照)。蓋しパリサイ人は死人の甦りを堅く信じていたからである。
6-2-3 ペリクスのパウロに対する態度
24:22 - 24:27
24章22節 ペリクスこの道のことを詳しく知りたれば、[引照]
口語訳 | ここでペリクスは、この道のことを相当わきまえていたので、「千卒長ルシヤが下って来るのを待って、おまえたちの事件を判決することにする」と言って、裁判を延期した。 |
塚本訳 | するとペリクスは(キリストの)道のことに非常に精通していたので、「千卒長ルシヤが(エルサレムから)下ってきた上で、(改めて)お前たちの事件の判決を下すことにする」と言って、裁判の延期を言い渡した。 |
前田訳 | ペリクスは、この道について詳しく知っていたので、裁判を延期した。そしていった、「千卒長ルシアが下ってきたとき、あなた方の事件の判決を下そう」と。 |
新共同 | フェリクスは、この道についてかなり詳しく知っていたので、「千人隊長リシアが下って来るのを待って、あなたたちの申し立てに対して判決を下すことにする」と言って裁判を延期した。 |
NIV | Then Felix, who was well acquainted with the Way, adjourned the proceedings. "When Lysias the commander comes," he said, "I will decide your case." |
註解: ペリクスがカイザリヤに職を有った関係上、または妻ドルシラがこの新宗教に興味を有っていたらしい関係上、パウロの弁駁及びユダヤ人の誹謗以上に詳しく基督教につき知っていたものと思はれる。
審判を延して言ふ
註解: 延期せる真の動機は26節の理由か、または速急に決定し得る材料なき為か、またはユダヤ人を怒らせない為か判然しない。この凡ての理由が働いたのであろう。
『千卒長ルシヤの下るを待ちて汝らの事を定むべし』
註解: 果して其後千卒長が下向せるや否や等は不明である。これは要するにペリクスの其場限りの遁辞であったらしい。
24章23節 かくて百卒長に命じパウロを守らせ、寛かならしめ、かつ友の之に事ふるをも禁ぜざらしむ。[引照]
口語訳 | そして百卒長に、パウロを監禁するように、しかし彼を寛大に取り扱い、友人らが世話をするのを止めないようにと、命じた。 |
塚本訳 | そして百卒長に命令して(引きつづき)パウロを監禁させたが、寛大に取り扱わせ、彼の仲間のだれでもが自由に奉仕できるようにした。 |
前田訳 | 彼は百卒長にパウロを監禁するよう命じたが、ゆるやかにし、仲間のものが彼の世話をするのをひとりも妨げないようにした。 |
新共同 | そして、パウロを監禁するように、百人隊長に命じた。ただし、自由をある程度与え、友人たちが彼の世話をするのを妨げないようにさせた。 |
NIV | He ordered the centurion to keep Paul under guard but to give him some freedom and permit his friends to take care of his needs. |
註解: 寛大なる幽閉であった。27節によれば鎖にて繋がれ居るものの如きも、必ずしも文字通り鎖の下にあったと解する必要はない。その弟子、同労者たち(ロマ16:7。コロ4:10。ピレ1:23)との会合談話等は自由であった。夫ゆえに彼の伝道の機会は失せなかった。
辞解
[寛かならしめ] 「休息を持たせ」。
[友] 原語「彼の所属者」一般的に云う。
24章24節 數日の後ペリクス、その妻なるユダヤ人の女ドルシラとともに來り、パウロを呼びよせてキリスト・イエスに對する信仰のことを聽き、[引照]
口語訳 | 数日たってから、ペリクスは、ユダヤ人である妻ドルシラと一緒にきて、パウロを呼び出し、キリスト・イエスに対する信仰のことを、彼から聞いた。 |
塚本訳 | 数日の後ペリクスは、ユダヤ人であるその妻ドルシラと一緒に(監禁の場所に)来て、パウロを呼び、キリスト・イエスに対する信仰の話を聞いた。 |
前田訳 | 数日ののち、ペリクスはユダヤ人である妻ドルシラといっしょに来て、パウロを呼び出し、キリスト・イエスへの信仰のことを聞いた。 |
新共同 | 数日の後、フェリクスはユダヤ人である妻のドルシラと一緒に来て、パウロを呼び出し、キリスト・イエスへの信仰について話を聞いた。 |
NIV | Several days later Felix came with his wife Drusilla, who was a Jewess. He sent for Paul and listened to him as he spoke about faith in Christ Jesus. |
註解: ドルシラはヘロデ・アグリツパ一世の娘でアグリツパ二世(使25:13。使26:1)の姉妹であった。その夫エメサの王アジズスを棄ててペリクスの妻となった。ペリクスの三度目の妻であった。ドルシラは放恣なる女で新宗教の伝道者たるパウロに対する好奇心よりその語る処を聞かんとし、ペリクスは彼女を喜ばせんとてパウロの囚われ居る獄(ヘロデの宮殿)に来てその話をきいた(ベザ写本による)。
24章25節 パウロが正義と節制と來らんとする審判とにつきて論じたる時、ペリクス懼れて答ふ『今は去れ、よき機を得てまた招かん』[引照]
口語訳 | そこで、パウロが、正義、節制、未来の審判などについて論じていると、ペリクスは不安を感じてきて、言った、「きょうはこれで帰るがよい。また、よい機会を得たら、呼び出すことにする」。 |
塚本訳 | ところがパウロの話は、義と、節制と、来るべき(最後の)裁きとについてだったので、ペリクスは恐ろしくなって、「本日はこれで帰ってよろしい。よい折があったら、また呼びにやるから」と言った。 |
前田訳 | パウロが義と節制と来たるべき裁きについて論じたので、ペリクスはおそろしくなっていった、「今のところはお帰りなさい。またの折に呼びにやります」と。 |
新共同 | しかし、パウロが正義や節制や来るべき裁きについて話すと、フェリクスは恐ろしくなり、「今回はこれで帰ってよろしい。また適当な機会に呼び出すことにする」と言った。 |
NIV | As Paul discoursed on righteousness, self-control and the judgment to come, Felix was afraid and said, "That's enough for now! You may leave. When I find it convenient, I will send for you." |
註解: パウロはペリクスとドルシラとの結婚の不正を知り、彼らの良心に向って破邪の剣を揮うの戦法を取った。ペリクスは自己の不義、不節制を責められ、来るべき審判を恐れてパウロの言を聴くにたえなかったのである。
24章26節 斯てパウロより金を與へられんことを望みて、尚しばしば彼を呼びよせては語れり。[引照]
口語訳 | 彼は、それと同時に、パウロから金をもらいたい下ごころがあったので、たびたびパウロを呼び出しては語り合った。 |
塚本訳 | 彼はまた同時に、パウロから(釈放願いの)金がもらえると望みをかけていた。そのため何度も何度もパウロを呼んで、話をした。 |
前田訳 | 同時に彼はパウロから金がもらえることを望んでいた。それでたびたび彼を呼びにやって話し合った。 |
新共同 | だが、パウロから金をもらおうとする下心もあったので、度々呼び出しては話し合っていた。 |
NIV | At the same time he was hoping that Paul would offer him a bribe, so he sent for him frequently and talked with him. |
註解: 多くの弟子がパウロにかしづくを見て、ペリクスはパウロの放免の為に彼らが容易に金銭を醵出するであろうと考えたのであろう。
24章27節 二年を經てポルシオ・フェスト、ペリクスの任に代りしが、ペリクス、ユダヤ人の意を迎へんとして、パウロを繋ぎたるままに差措けり。[引照]
口語訳 | さて、二か年たった時、ポルキオ・フェストが、ペリクスと交代して任についた。ペリクスは、ユダヤ人の歓心を買おうと思って、パウロを監禁したままにしておいた。 |
塚本訳 | (パウロが監禁されてから)二年たつと、ポルキオ・フェストがペリクスの後任になった。ペリクスはユダヤ人の機嫌を取ろうと思って、パウロをつないだままにしておいた。 |
前田訳 | 二年たつと、ポルキオ・フェストがペリクスの後任になった。ペリクスはユダヤ人の機嫌をとるため、パウロを逮捕したままにしておいた。 |
新共同 | さて、二年たって、フェリクスの後任者としてポルキウス・フェストゥスが赴任したが、フェリクスは、ユダヤ人に気に入られようとして、パウロを監禁したままにしておいた。 |
NIV | When two years had passed, Felix was succeeded by Porcius Festus, but because Felix wanted to grant a favor to the Jews, he left Paul in prison. |
註解: この二年間パウロが何を為したかは記録せられていない。獄中書簡がこの間のものであるとの有力なる説があるけれどもロマ説が一般に認められている。ルカは或はこの間に使徒行伝及び福音書の大部分を書いたのであろうと想像する学者もある。パウロは自由なる幽囚の下にあったので出来得るだけ人々に福音を伝えたのであろう。
辞解
[フエスト] フエストはペリクスよりも信望のある総督であった。
[繋ぎたるままに] これを再び新にパウロを鎖にて繋げるものと解する学者もあるけれども(H0)、始めより繋がれていたものと見る説が多い。予はこの「繋がれ」を必ずしも文字通り鎖にて繋ぐの意味に取る必要なしと思ふ。
要義 [パウロのカイザリヤに於ける生活]二年の年月はパウロに取リて決して短時日ではない。此の間をパウロは果して無為に過したのであろうか。何等の記事の残存せるものなき故確実に知り得ないけれども、ピリポは尚カイザリヤに居りしものと思うべく、従ってその周囲に相当の数の基督者がいたものと考えて差支が無い。パウロは或は是等の人々と福音につき語り、また是等の人々の伴い来れる求道者に道を伝えていた事と思ふ。ルカが是等の事実を記録しないのは幽囚中のパウロなるがゆえに謹慎の意味を以て沈黙したのであろう。またエペソ書、ピリピ書、コロサイ書、ピレモン書等の獄中書翰が多くの学者の主張する如くロマより認められ、カイザリヤよりでは無いにしても、それらの中にあらわれているパウロの信仰の深さ、キリストとの霊交の密接なる姿はカイザリヤに於ける二年間の幽囚の中に養われたものと見なければならない。もし然りとすればこの二年は決して無為の二年に非ず。パウロの信仰に更に一段の飛躍を与えた重要なる二年であると云わなければならない。神を信ずるもの為には凡ての事相働きて益とならざるはない。