ルカ伝第20章
分類
9 ユダヤにおけるイエス 18:31 - 21:38
9-2 ユダヤ人の反抗 20:1 - 21:4
9-2-イ イエスの権威 20:1 - 20:8
(マタ21:23-27) (マコ11:27-33)
20章1節
口語訳 | ある日、イエスが宮で人々に教え、福音を宣べておられると、祭司長や律法学者たちが、長老たちと共に近寄ってきて、 |
塚本訳 | ある日、イエスが宮で人々を教え、福音を説いておられた時のこと、大祭司連、聖書学者が長老たちと共に進み寄って、 |
前田訳 | ある日、宮で民を教え、福音を説いておられたときのこと、大祭司と学者が長老たちと進み出て、 |
新共同 | ある日、イエスが神殿の境内で民衆に教え、福音を告げ知らせておられると、祭司長や律法学者たちが、長老たちと一緒に近づいて来て、 |
NIV | One day as he was teaching the people in the temple courts and preaching the gospel, the chief priests and the teachers of the law, together with the elders, came up to him. |
註解: イエスの教訓は神学者のいわゆる福音すなわち十字架による罪の赦しの福音という狭い意味の福音ではなかった。唯、神がその独り子を遣して人類を救い給うという意味において彼の語り給う処はみな福音であった。
20章2節 イエスに
口語訳 | イエスに言った、「何の権威によってこれらの事をするのですか。そうする権威をあなたに与えたのはだれですか、わたしたちに言ってください」。 |
塚本訳 | イエスに言った、「なんの権威であんなことを(宮で)するのか。あの権威を授けた者はだれか、言ってもらいたい。」 |
前田訳 | 彼にいった、「何の権威でこれらのことをするのか、だれがこの権威をあなたに与えたか、いってください」と。 |
新共同 | 言った。「我々に言いなさい。何の権威でこのようなことをしているのか。その権威を与えたのはだれか。」 |
NIV | "Tell us by what authority you are doing these things," they said. "Who gave you this authority?" |
註解: イエスの奇蹟や、教訓や、また時には宮潔めのごとく他人の為し得ないことをイエスが自由に為し、祭司や長老のごとき宗教界の権威者を全く眼中に置かないその態度を彼らは非難しようとし、まずそのことを為す権威をイエスが果して主張し得るや否やを試みんとし、その権威の性質と出所とを彼に問うた。彼らにとっては人間の造った制度によって人類が授けた権威が必要と思われた。制度としての教会の権威もこの類である。
20章3節
口語訳 | そこで、イエスは答えて言われた、「わたしも、ひと言たずねよう。それに答えてほしい。 |
塚本訳 | 答えて言われた、「ではわたしからも一つ尋ねる。それにこたえよ。 |
前田訳 | 答えていわれた、「わたしもひとつたずねたいことがある。それをいってもらいたい。 |
新共同 | イエスはお答えになった。「では、わたしも一つ尋ねるから、それに答えなさい。 |
NIV | He replied, "I will also ask you a question. Tell me, |
20章4節 ヨハネのバプテスマは
口語訳 | ヨハネのバプテスマは、天からであったか、人からであったか」。 |
塚本訳 | ──ヨハネの洗礼は天(の神)から(授かったの)であったか、それとも人間からか。」 |
前田訳 | ヨハネの洗礼は天からであったか人からであったか」と。 |
新共同 | ヨハネの洗礼は、天からのものだったか、それとも、人からのものだったか。」 |
NIV | John's baptism--was it from heaven, or from men?" |
註解: イエスは彼らの問いに直接に答えず、彼ら自身に答えしめようとして彼らに反問を発し給うた。すなわちヨハネのバプテスマは天より権威を受けてこれを行ったのかまたは人より権威を受けてこれを行ったかとの問いであった。イエスはもとよりこれを「天からの権威」によるものと考えたのであった。ヨハネはイエスと同じく何人からもかかる権威を授けられなかったからである。
20章5節
口語訳 | 彼らは互に論じて言った、「もし天からだと言えば、では、なぜ彼を信じなかったのか、とイエスは言うだろう。 |
塚本訳 | 彼はひそかに考えた、「もし『天から』と言えば、『なぜヨハネを信じなかったか』と言うであろうし、 |
前田訳 | 彼らは互いに論じあった、「もし、『天から』といえば、『なぜ彼を信じなかったか』といおう。 |
新共同 | 彼らは相談した。「『天からのものだ』と言えば、『では、なぜヨハネを信じなかったのか』と言うだろう。 |
NIV | They discussed it among themselves and said, "If we say, `From heaven,' he will ask, `Why didn't you believe him?' |
20章6節 もし「
口語訳 | しかし、もし人からだと言えば、民衆はみな、ヨハネを預言者だと信じているから、わたしたちを石で打つだろう」。 |
塚本訳 | もし『人間から』と言えば、人民どもは(冒涜だと言って)皆でわたし達を石で打ち殺すにちがいない。彼らはヨハネを預言者だと信じこんでいるのだから。」 |
前田訳 | もし、『人から』といえば、民が皆でわれらを石打ちしよう。民はヨハネが預言者であると思い込んでいるから」と。 |
新共同 | 『人からのものだ』と言えば、民衆はこぞって我々を石で殺すだろう。ヨハネを預言者だと信じ込んでいるのだから。」 |
NIV | But if we say, `From men,' all the people will stone us, because they are persuaded that John was a prophet." |
註解: イエスは巧みに彼らを、ヂレンマに陥れ給うた。彼らはヨハネに対しても、イエスに対すると同様に真面目に物事を考えず、単に自己の擁護にのみ専念していた。すなわちヨハネを受納れこれを信ずることは彼らの地位身分の高さに対してこれを恥じ、反対にヨハネには正当の権威なしとしてこれを排斥することは、群衆の反感を恐れ自己の安全を脅かすことであり、その何れにも態度を定め得ずにいる状態であった。真理を愛する者はかかる態度に出ることはできない。
口語訳 | それで彼らは「どこからか、知りません」と答えた。 |
塚本訳 | そこで、どこからか知らない、と答えた。 |
前田訳 | そこで、「どこからか知らない」と答えた。 |
新共同 | そこで彼らは、「どこからか、分からない」と答えた。 |
NIV | So they answered, "We don't know where it was from." |
20章8節 イエス
口語訳 | イエスはこれに対して言われた、「わたしも何の権威によってこれらの事をするのか、あなたがたに言うまい」。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「ではなんの権威であんなことをするか、わたしも言わない。」 |
前田訳 | イエスはいわれた、「わたしも、何の権威でこれらのことをするのか、あなた方にいわない」と。 |
新共同 | すると、イエスは言われた。「それなら、何の権威でこのようなことをするのか、わたしも言うまい。」 |
NIV | Jesus said, "Neither will I tell you by what authority I am doing these things." |
註解: この答えざる答によってイエスの確信が彼らに明かにされたことであろう。イエスはヨハネを天より遣されし先駆者と信じ給うた。従ってイエス自身はさらに一層天より遣されし者であることを確信し給うた。然らば何故に単純にそのことを祭司、学者、長老等に告げなかったか。それは彼らに押付け得る事柄ではなく、彼らの心が開かれているや否やの問題であったからである。たといこれを告げてもヨハネの場合と同じく彼らはこれを信じなかったであろう。
要義 [真理と便益]真理は便益と両立しない場合も、真理は真理なるが故にこれを受容れなければならない。それが自己に利益を与うるや否やはこれを問題としてはならない。信仰を世俗的利害と両立せしめようとする時、そこに不純なる動機が混入し、真理を真理として受容れる心を失ってしまう。宗教の堕落はほとんど凡ての場合その原因をここに持っている。
20章9節 かくて
口語訳 | そこでイエスは次の譬を民衆に語り出された、「ある人がぶどう園を造って農夫たちに貸し、長い旅に出た。 |
塚本訳 | そして人々にこの譬を話し出された、「ある人が“葡萄畑をつくり、”小作人たちに貸して長い旅行に出かけた。 |
前田訳 | 民にこの譬えを話しだされた、「ある人がぶどう園を作り、農夫たちに貸して長い旅に出た。 |
新共同 | イエスは民衆にこのたとえを話し始められた。「ある人がぶどう園を作り、これを農夫たちに貸して長い旅に出た。 |
NIV | He went on to tell the people this parable: "A man planted a vineyard, rented it to some farmers and went away for a long time. |
註解: 権威の問題によって祭司や学者たちの心事の陋劣 さを見たイエスは進んでこの譬を語り出で、彼らの態度が何を意味するか、またこれによって神の子イエスの上に臨むべき運命が何であるかを示し給う。この場合イザ5:1−7がイエスの比喩の基礎であることは明かである。すなわち葡萄園を作ったというのは、ある人すなわち「神」が特にイスラエルを選んで自分のための農園となし、これをその農夫であるイスラエルの祭司長老等に委托して、「遠く旅立し」しばらくその葡萄園を彼らの為すままに任せていたことを示す(なおマタ21:33参照)。そして彼らは神の農園を耕作すべき農夫でありながらその農園を私用しているとの意味である。
20章10節
口語訳 | 季節になったので、農夫たちのところへ、ひとりの僕を送って、ぶどう園の収穫の分け前を出させようとした。ところが、農夫たちは、その僕を袋だたきにし、から手で帰らせた。 |
塚本訳 | (収穫の)時が来たので、葡萄畑の収穫の分け前を納めさせるために、一人の使用人を小作人の所に使いにやった。しかし小作人はそれをなぐりつけ、手ぶらでおい返した。 |
前田訳 | 季節になったので、農夫たちにひとりの僕をつかわして、ぶどう園の収穫の分け前を納めさせようとした。しかし農夫たちは彼をなぐって、手ぶらで追い帰した。 |
新共同 | 収穫の時になったので、ぶどう園の収穫を納めさせるために、僕を農夫たちのところへ送った。ところが、農夫たちはこの僕を袋だたきにして、何も持たせないで追い返した。 |
NIV | At harvest time he sent a servant to the tenants so they would give him some of the fruit of the vineyard. But the tenants beat him and sent him away empty-handed. |
註解: 僕はイスラエルの歴史においては預言者に相当する。イスラエルは預言者を迫害してその警告に耳を貸さず、彼らの罪を反省せず、神より委托された農園を私慾をもって支配していた。
20章11節
口語訳 | そこで彼はもうひとりの僕を送った。彼らはその僕も袋だたきにし、侮辱を加えて、から手で帰らせた。 |
塚本訳 | さらにほかの使用人を一人やると、それをもなぐりつけ、かつ侮辱した上、手ぶらでおい返した。 |
前田訳 | さらにもうひとりの僕をやったが、それをもなぐって、はずかしめて、手ぶらで追い帰した。 |
新共同 | そこでまた、ほかの僕を送ったが、農夫たちはこの僕をも袋だたきにし、侮辱して何も持たせないで追い返した。 |
NIV | He sent another servant, but that one also they beat and treated shamefully and sent away empty-handed. |
註解: 預言者を迫害する程度が以前よりも一層甚だしくなり、イスラエルの不信は増加わった。
20章12節 なほ
口語訳 | そこで更に三人目の者を送ったが、彼らはこの者も、傷を負わせて追い出した。 |
塚本訳 | かさねて第三の者をやると、これも怪我をさせて(葡萄畑から)放り出した。 |
前田訳 | さらに第三のものをやると、これをも怪我させて追い出した。 |
新共同 | 更に三人目の僕を送ったが、これにも傷を負わせてほうり出した。 |
NIV | He sent still a third, and they wounded him and threw him out. |
註解: 葡萄園の主は忍耐深くも三度までその使いを遣して、農夫より所得を納めようとした。これは当然の要求であった。神が人類よりその凡ての霊魂と才能と所有とを要求し給うことも、また、これと同様に神の当然の権利である。人類はこれらの農夫と同じく、この神の要求を彼らに伝うる者を迫害する。
20章13節
口語訳 | ぶどう園の主人は言った、『どうしようか。そうだ、わたしの愛子をつかわそう。これなら、たぶん敬ってくれるだろう』。 |
塚本訳 | そこで葡萄畑の持ち主が考えた、『どうしたものだろう。…よし、最愛の(独り)息子を使にやろう。これなら多分恐れ入るにちがいない。』 |
前田訳 | ぶどう園の主人はいった、『どうしよう。よし、わがいとし子をやろう。きっとこれならおそれいろう』と。 |
新共同 | そこで、ぶどう園の主人は言った。『どうしようか。わたしの愛する息子を送ってみよう。この子ならたぶん敬ってくれるだろう。』 |
NIV | "Then the owner of the vineyard said, `What shall I do? I will send my son, whom I love; perhaps they will respect him.' |
註解: 如何に農夫が私慾の奴隷であっても、主人の子ならばこれを尊敬するであろうと考えた。神はその独り子をイスラエルに遣したならば、如何に頑固なイスラエルでも、ことによればと彼を敬うであろうと考えた。
辞解
「或は之を敬ふなるべし」と神が言い給うたところに注意すべし、神は如何に堕落せる人類に対しても、始めより絶望し給わない。万一の希望をこれにかけ給う。
20章14節
口語訳 | ところが、農夫たちは彼を見ると、『あれはあと取りだ。あれを殺してしまおう。そうしたら、その財産はわれわれのものになるのだ』と互に話し合い、 |
塚本訳 | すると小作人たちはそれを見て、互に相談して、『これは相続人だ。殺してしまおう。そしてその財産をおれ達のものにしよう』と言いながら、 |
前田訳 | 農夫たちは彼を見て互いに話しあった、『これは跡継ぎだ。殺そう。そうすれば財産はわれらのものだ』と。 |
新共同 | 農夫たちは息子を見て、互いに論じ合った。『これは跡取りだ。殺してしまおう。そうすれば、相続財産は我々のものになる。』 |
NIV | "But when the tenants saw him, they talked the matter over. `This is the heir,' they said. `Let's kill him, and the inheritance will be ours.' |
20章15節 かくてこれを
口語訳 | 彼をぶどう園の外に追い出して殺した。そのさい、ぶどう園の主人は、彼らをどうするだろうか。 |
塚本訳 | 葡萄畑の外に放り出して殺してしまった(という話)。それで(尋ねるが、)葡萄畑の持ち主は小作人たちをどうするだろうか。 |
前田訳 | そして彼をぶどう園の外に追い出して殺した、そこで、ぶどう園の主人は農夫たちをどうしようか。 |
新共同 | そして、息子をぶどう園の外にほうり出して、殺してしまった。さて、ぶどう園の主人は農夫たちをどうするだろうか。 |
NIV | So they threw him out of the vineyard and killed him. "What then will the owner of the vineyard do to them? |
註解: この行為により、農夫どもがその主人に対して絶対的反逆の態度を明かにしたのであった。人類はイエスを殺すことによって神に対する絶対的反逆の態度を明かにした。人類殊にその選民イスラエルの罪は、神の子を殺すことによってその頂点に達したのであった。
さらば
20章16節
口語訳 | 彼は出てきて、この農夫たちを殺し、ぶどう園を他の人々に与えるであろう」。人々はこれを聞いて、「そんなことがあってはなりません」と言った。 |
塚本訳 | (もちろん)来てこの小作人たちを殺し、葡萄畑をほかの人に貸すにちがいない。」人々はこれを聞いて(驚いて)言った、「とんでもない、そんなことが!」 |
前田訳 | 来て農夫たちを殺し、ぶどう園をほかの人たちに渡そう」と。人々はそれを聞いていった、「とんでもない」と。 |
新共同 | 戻って来て、この農夫たちを殺し、ぶどう園をほかの人たちに与えるにちがいない。」彼らはこれを聞いて、「そんなことがあってはなりません」と言った。 |
NIV | He will come and kill those tenants and give the vineyard to others." When the people heard this, they said, "May this never be!" |
註解: マタ21:41の場合は祭司、長老たちが答えたことになっており、本節ではイエスが自問自答をなし給うたことになっている。すなわち神がイスラエルに与えた選民たる特権を奪い、これを他の者に与え給うとの意味である。事実イスラエルはイエスを拒んだことにより福音は異邦人に伝わったのであった。
註解: 祭司、長老たちはイエスのこの御言が彼らおよびイスラエルに当てていることを感受したのであろう。イスラエルがその選民たる特権を失うようなことがあっては大変であるとの心持を言い表しているのはそのためである。
20章17節 イエス
口語訳 | そこで、イエスは彼らを見つめて言われた、「それでは、『家造りらの捨てた石が隅のかしら石になった』と書いてあるのは、どういうことか。 |
塚本訳 | イエスは彼らをじっと見て言われた、「では、こう(聖書に)書いてあるのはなんの意味であるか。──”大工たちが(役に立たぬと)捨てた石、それが隅の土台石になった。” |
前田訳 | 彼は人々を見つめていわれた、「では、聖書にこうあるのはどういうことか、『家造りが捨てた石、それが隅の土台石になった』。 |
新共同 | イエスは彼らを見つめて言われた。「それでは、こう書いてあるのは、何の意味か。『家を建てる者の捨てた石、/これが隅の親石となった。』 |
NIV | Jesus looked directly at them and asked, "Then what is the meaning of that which is written: "`The stone the builders rejected has become the capstone ' ? |
20章18節
口語訳 | すべてその石の上に落ちる者は打ち砕かれ、それがだれかの上に落ちかかるなら、その人はこなみじんにされるであろう」。 |
塚本訳 | (救世主なる)その石の上に(つまづき)倒れる人は一人のこらず打ち砕かれ、(最後の裁きの日に)その石が倒れかかる人は、粉微塵になるであろう。」 |
前田訳 | その石の上に倒れるものは皆打ち砕かれ、また、その石が倒れかかる人は粉々になろう」と。 |
新共同 | その石の上に落ちる者はだれでも打ち砕かれ、その石がだれかの上に落ちれば、その人は押しつぶされてしまう。」 |
NIV | Everyone who falls on that stone will be broken to pieces, but he on whom it falls will be crushed." |
註解: 「目を注 め」て特に聴者の注意を曳き彼らの心の中に御言の楔 を打ち込み給う。イエスは詩118:22を引用し、イエスはイスラエルに棄てられ給いながら、それがかえって神の国の家の隅の首石 となり、最も重要な石となり給うことを示している。そしてイエスに躓いてその上に倒れるものは砕かれて亡び、またイエスが審判の力をもって人の上に落ちる時その人は微塵に打砕かれる。祭司・長老・学者らはイエスを棄ててしまい、これを十字架に殺そうとしているけれども、このイエスがやがて神の国の首石 として、凡て彼に躓き彼に敵する者を滅ぼし給うであろうことを示す。
20章19節
口語訳 | このとき、律法学者たちや祭司長たちはイエスに手をかけようと思ったが、民衆を恐れた。いまの譬が自分たちに当てて語られたのだと、悟ったからである。 |
塚本訳 | この時聖書学者と大祭司連は、イエスが自分たちに当て付けてこの譬を言われたことを知ったので、(怒って)イエスに手をかけようと思ったが、人民(が騒ぎ出すの)を恐れた。 |
前田訳 | このとき学者と大祭司は、彼が自分たちに当ててこの譬えを話されたことを知って、彼に手をかけようとしたが、民をおそれていた。 |
新共同 | そのとき、律法学者たちや祭司長たちは、イエスが自分たちに当てつけてこのたとえを話されたと気づいたので、イエスに手を下そうとしたが、民衆を恐れた。 |
NIV | The teachers of the law and the chief priests looked for a way to arrest him immediately, because they knew he had spoken this parable against them. But they were afraid of the people. |
註解: この一節は次節よりも前節に密接に連絡すると見る方が適当である(マタ21:45、46参照)。「この時」は直訳「この同じ時刻に」すなわち「その時直ちに」の意。当時エルサレムの宗教界の首脳者たる祭司長や学者は、神の葡萄園たるイスラエルを委托された農夫であった。彼らはイスラエルの歴史により、預言者たちを迫害したのはその宗教家であったことを知っていた。またイエスが彼らを指してそのことを諷刺したのであることをも悟った。これは同時にイエスが自己を神の愛子たる世嗣であると主張し給う意味であることをも彼らは悟ったのであった(13、14節)。一方に彼らの自己に対する誇り、すなわち彼らの固執している形式と伝統のみが真の宗教であるとの思想、また他方に不知不識 の間に彼らを動かしている自己保存、私利擁護の本能が彼らをしてイエスに敵対せしめ、これが彼らを盲目ならしめてイエスが神の子であるとの主張を涜神的なるものと考えしめたのであった。単純なる真理を誤認しまたは見落すものは多くの場合職業的宗教家である。
要義 [職業宗教家の陥る危険]自己保身、私益擁護の本能は必ずしも宗教家に限ったことではなく、万人共通であるが、この本能は宗教に関する限り、最も致命的な禍害を与えるのである。それは宗教殊にキリスト教においては自己を支配するものは自己ではなく神であるべきはずだからである。そして自己保存の本能は人の心を真理に対して晦 まし、盲目ならしめる恐るべき作用をなす。キリスト教も教団としての自己保存、職業宗教家としての自己保身の本能に支配されるならば、その結果真理として受納れる能力を失ってしまう。
註解: 葡萄園と農夫の比喩によってイエスから痛撃を喰わされた彼らは、イエスに対して正面より迫害や闘争をなさず、間接に意地悪い方法でイエスを陥れようとした。カイザルに対する納貢の可否がその一つであった。
20章20節 かくて
口語訳 | そこで、彼らは機会をうかがい、義人を装うまわし者どもを送って、イエスを総督の支配と権威とに引き渡すため、その言葉じりを捕えさせようとした。 |
塚本訳 | そこで彼らはイエスをつけねらい、信心深そうな風をした回し者をやった。イエスの言葉質をとって、総督の役所や官庁に引き渡すためであった。 |
前田訳 | 彼らは折をうかがい、義人をよそおう回し者をやった。ことばの端をとらえて総督の支配と権威に引き渡すためであった。 |
新共同 | そこで、機会をねらっていた彼らは、正しい人を装う回し者を遣わし、イエスの言葉じりをとらえ、総督の支配と権力にイエスを渡そうとした。 |
NIV | Keeping a close watch on him, they sent spies, who pretended to be honest. They hoped to catch Jesus in something he said so that they might hand him over to the power and authority of the governor. |
註解: イエスの教訓には正面より反対すべき何ものも無かったので、彼らはイエスの言を故意に曲解して彼を罪ありとして司に付す機会を捉えんとした。このために遣された間諜 はマタ22:15、16。マコ12:13によればパリサイ人とヘロデ党の人々であった(それらの箇所の註参照)。
辞解
[機を窺ひ]羂 をかけて獲物を狙うこと。
[司] ローマより派遣された総督(E0)。
[義人の様したる] 真面目に問題の解決をイエスに求めるふりをしてイエスに質問した。
20章21節
口語訳 | 彼らは尋ねて言った、「先生、わたしたちは、あなたの語り教えられることが正しく、また、あなたは分け隔てをなさらず、真理に基いて神の道を教えておられることを、承知しています。 |
塚本訳 | 回し者がイエスに尋ねた、「先生、あなたは正直に物を言い、また教えられ、すこしもわけ隔てをせず、本当のことを言って神の道を教えられることをよく承知しております。 |
前田訳 | 彼らはたずねた、「先生、あなたは正しく言い、かつ教え、別け隔てをなさらず、真実をもって神の道をお教えのことを存じております。 |
新共同 | 回し者らはイエスに尋ねた。「先生、わたしたちは、あなたがおっしゃることも、教えてくださることも正しく、また、えこひいきなしに、真理に基づいて神の道を教えておられることを知っています。 |
NIV | So the spies questioned him: "Teacher, we know that you speak and teach what is right, and that you do not show partiality but teach the way of God in accordance with the truth. |
20章22節 われら
口語訳 | ところで、カイザルに貢を納めてよいでしょうか、いけないでしょうか」。 |
塚本訳 | (それでお尋ねしますが、わたし達は異教人である)皇帝に、貢を納めてよろしいでしょうか、よろしくないでしょうか。」 |
前田訳 | われらは皇帝(カイサル)に貢(みつぎ)を納めてよいですか、よくないですか」と。 |
新共同 | ところで、わたしたちが皇帝に税金を納めるのは、律法に適っているでしょうか、適っていないでしょうか。」 |
NIV | Is it right for us to pay taxes to Caesar or not?" |
註解: 21節は22節の答を引出す準備であり、しかもイエスにとって最も不利益な答を引出すための陥穽 であった。21節はそれ自身としては、イエスの性格を正確に捕捉しているのであるが、唯、彼らはイエスの唱うる神の国と、彼らの考えていた地上の国との差別を知らなかった。22節の質問は「善し」と答うる場合、ユダヤの国粋主義者たる熱心党やパリサイ人は、これに反対の立場を取り、「悪し」と答うる場合ヘロデ党はローマの官憲に対する反逆の扇動者としてこれを罪することができる巧妙なる質問であった。
口語訳 | イエスは彼らの悪巧みを見破って言われた、 |
塚本訳 | 彼らの悪賢い考えを見破って言われた、 |
前田訳 | 彼らの悪巧みを見抜いていわれた、 |
新共同 | イエスは彼らのたくらみを見抜いて言われた。 |
NIV | He saw through their duplicity and said to them, |
20章24節 『デナリを
口語訳 | 「デナリを見せなさい。それにあるのは、だれの肖像、だれの記号なのか」。「カイザルのです」と、彼らが答えた。 |
塚本訳 | 「デナリ銀貨を見せなさい。そこにはだれの肖像と銘があるか。」「皇帝のがあります」と彼らが言った。 |
前田訳 | 「デナリ銀貨を見せなさい。そこにはだれの像と銘があるか」と。彼らはいった、「皇帝のです」と。 |
新共同 | 「デナリオン銀貨を見せなさい。そこには、だれの肖像と銘があるか。」彼らが「皇帝のものです」と言うと、 |
NIV | "Show me a denarius. Whose portrait and inscription are on it?" |
20章25節 イエス
口語訳 | するとイエスは彼らに言われた、「それなら、カイザルのものはカイザルに、神のものは神に返しなさい」。 |
塚本訳 | イエスは彼らに言われた、「それなら皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返せ。」 |
前田訳 | 彼はいわれた、「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返せ」と。 |
新共同 | イエスは言われた。「それならば、皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい。」 |
NIV | "Caesar's," they replied. He said to them, "Then give to Caesar what is Caesar's, and to God what is God's." |
註解: 当時ユダヤ人の人頭税としてローマの政府に納める税金にはデナリ貨幣が用いられていた。それにはローマの統治権が及んでいる表示としてカイザルの像と記号とが刻印されていた。イエスはこれを利用して、巧みに神に対する義務と地上の支配者に対する義務との関係を彼らに教え給うた。すなわち本来、我らの身も心も凡て「神のもの」であるが、神が地上の政治をカイザルに委任したのであるから(ロマ13:1、2、7)、その範囲においてカイザルに納むべきものがある故、それは当然カイザルのものであり、貨幣の表面の印刻はそのことを示したものであるとの意味である。これはイエスの瓢箪鯰 主義や八方美人主義ではなく、イエスの神の国観の高さを示す適確なる真理の告白である。真理の上に堂々闊歩する者は決して小人の羂 に陥ることはない。
20章26節 かれら
口語訳 | そこで彼らは、民衆の前でイエスの言葉じりを捕えることができず、その答に驚嘆して、黙ってしまった。 |
塚本訳 | 彼らは民衆の前でイエスの言葉質をとることができず、そのうけこたえぶりに驚きながら黙ってしまった。 |
前田訳 | 彼らは民の前でことばの端をとれず、そのうえ答えぶりにおどろいたので、黙りこんだ。 |
新共同 | 彼らは民衆の前でイエスの言葉じりをとらえることができず、その答えに驚いて黙ってしまった。 |
NIV | They were unable to trap him in what he had said there in public. And astonished by his answer, they became silent. |
註解: イエスの答は、彼をローマの官憲に引渡すこともできず、またユダヤの極右黨にも口実を与えない巧妙な答であった。彼を陥れようとした間諜 も、彼に対して施す術を持たなかった。
要義1 [政権と宗教]制度としての宗教は政治的権力の擁護があれば安易に存続し繁栄する、これに反し政権の圧迫の下には萎縮し、また往々にして消滅する。同様に政治は宗教的信仰を利用することによって成功し、これを無視または排斥することによって失敗する。それ故に制度としての宗教と政治的権力とは往々にして苟合 し妥協し易いものである。その結果宗教は政権に阿附 してその真理を歪曲することとなり易く、またはその存在を擁護するために政権を利用し易い。また政権は宗教が純粋にその真理を主張することを厭 い、権力をもってこれを左右せんとし宗教はまた自己を擁護せんために政権を利用して真理を圧迫する。納貢問題をもってイエスの言を捕捉しようとしたのも、この関係を利用しようとしたのであった。宗教はそれが制度としての存在を超越する場合、始めて政治的権力から完全に独立することができる。かくして始めて信仰の純真さを保持することができると同時に政権をしてその有るべき場所に在らしむることができる。
要義2 [何がカイザルの物であるか]万物が神のものである以上、この世にカイザルにのみ専属する物はあり得ない。しかし神はこの世の秩序を維持するために必要なる権をこの世の支配者に与え給う(ロマ13:1−3)。支配者は神の御旨に反せざる範囲において神の御旨を行うためにこの世の物の上に権威を持っている。その意味でそれらはカイザルの物であり、カイザルにそれらを帰することによって人間は神に従うこととなるのである。この世の支配者に服 ってその命令を遵奉し、納税の義務を果すことも結局において神の御意に反することではなく反って神の御旨を行うことである。神の物とカイザルの物とは区別され対立している別物ではなく、神よりカイザルに委任せられし物と、神のみに属せしめられる物との差別である。
註解: パリサイ人らに代ってサドカイ人(マタ3:7辞解参照)もまたイエスを言によって捕えんとした。彼らは復活を否定する立場をとっているのでイエスをこの点で問い詰めようとした。
20章27節 また
口語訳 | 復活ということはないと言い張っていたサドカイ人のある者たちが、イエスに近寄ってきて質問した、 |
塚本訳 | 復活の存在を否定するサドカイ人が数人近寄って、イエスにこう言って質問した、 |
前田訳 | 復活の存在を否定するサドカイ人が数人近よって彼にたずねた、 |
新共同 | さて、復活があることを否定するサドカイ派の人々が何人か近寄って来て、イエスに尋ねた。 |
NIV | Some of the Sadducees, who say there is no resurrection, came to Jesus with a question. |
20章28節 『
口語訳 | 「先生、モーセは、わたしたちのためにこう書いています、『もしある人の兄が妻をめとり、子がなくて死んだなら、弟はこの女をめとって、兄のために子をもうけねばならない』。 |
塚本訳 | 「先生、モーセは(その律法に、)“もし死んだ兄に、”妻があって“子がない場合には、弟はその女をめとり、兄の家をつぐべき子をもうけよ”とわたし達のために書いています。 |
前田訳 | 「先生、モーセはわれらのために書いています、『妻のある兄が死んで子がなければ、弟がその女をめとって兄のためにたねをもうけよ』と、 |
新共同 | 「先生、モーセはわたしたちのために書いています。『ある人の兄が妻をめとり、子がなくて死んだ場合、その弟は兄嫁と結婚して、兄の跡継ぎをもうけねばならない』と。 |
NIV | "Teacher," they said, "Moses wrote for us that if a man's brother dies and leaves a wife but no children, the man must marry the widow and have children for his brother. |
註解: 申25:5の規定を指す。これは男系血統を重視するユダヤの習慣によったものであって、弟によって生れた子を死去した兄の子と見なし、これを兄の嗣子としたのであった。
20章29節 さて
口語訳 | ところで、ここに七人の兄弟がいました。長男は妻をめとりましたが、子がなくて死に、 |
塚本訳 | ところで(ここに)七人の兄弟があって、長男が妻をめとったが、子がなくて死に、 |
前田訳 | さて、七人の兄弟があって、長男が妻をめとり、子なしで死に、 |
新共同 | ところで、七人の兄弟がいました。長男が妻を迎えましたが、子がないまま死にました。 |
NIV | Now there were seven brothers. The first one married a woman and died childless. |
口語訳 | そして次男、三男と、次々に、その女をめとり、 |
塚本訳 | (この律法に従って、)次男、 |
前田訳 | 次男も、 |
新共同 | 次男、 |
NIV | The second |
口語訳 | 七人とも同様に、子をもうけずに死にました。 |
塚本訳 | 三男と、(つぎつぎに)その女をめとり、ついに七人とも同様に子を残さず死んで、 |
前田訳 | 三男もその女をめとり、同様に七人とも子を残さずに死んで、 |
新共同 | 三男と次々にこの女を妻にしましたが、七人とも同じように子供を残さないで死にました。 |
NIV | and then the third married her, and in the same way the seven died, leaving no children. |
口語訳 | のちに、その女も死にました。 |
塚本訳 | しまいにはその女も死んでしまいました。 |
前田訳 | そののちにその女も死にました、 |
新共同 | 最後にその女も死にました。 |
NIV | Finally, the woman died too. |
20章33節 されば
口語訳 | さて、復活の時には、この女は七人のうち、だれの妻になるのですか。七人とも彼女を妻にしたのですが」。 |
塚本訳 | すると(もし復活があるなら、)復活の折には、この女はその(七人の)うちのだれの妻になるのでしょうか。七人ともその女を妻にしましたから。」 |
前田訳 | 復活に際しては、この女はだれの妻になりましょうか」と。 |
新共同 | すると復活の時、その女はだれの妻になるのでしょうか。七人ともその女を妻にしたのです。」 |
NIV | Now then, at the resurrection whose wife will she be, since the seven were married to her?" |
註解: これはサドカイ人が復活を否定する論拠の一つとして有力なるものであったに相違ない。復活の時一人の女が七人の男子の妻となることは甚だ不合理であるとするならば、復活そのものもまた不合理であるというのである。この難問に対してイエスが如何に答えるか、彼らは固唾を呑んでその答を待ちイエスが答弁に窮することを望んでいた。
20章34節 イエス
口語訳 | イエスは彼らに言われた、「この世の子らは、めとったり、とついだりするが、 |
塚本訳 | イエスは言われた、「この世の人はめとり嫁ぐけれども、 |
前田訳 | イエスはいわれた、「この世の子らはめとり、とつぐ。 |
新共同 | イエスは言われた。「この世の子らはめとったり嫁いだりするが、 |
NIV | Jesus replied, "The people of this age marry and are given in marriage. |
20章35節 かの
口語訳 | かの世にはいって死人からの復活にあずかるにふさわしい者たちは、めとったり、とついだりすることはない。 |
塚本訳 | あの世にはいる資格を与えられて、死人の中から復活する者は、めとることもなく嫁ぐこともない。 |
前田訳 | しかし、あの世に入って、死人から復活するにふさわしいとされるものは、めとりもとつぎもしない。 |
新共同 | 次の世に入って死者の中から復活するのにふさわしいとされた人々は、めとることも嫁ぐこともない。 |
NIV | But those who are considered worthy of taking part in that age and in the resurrection from the dead will neither marry nor be given in marriage, |
20章36節
口語訳 | 彼らは天使に等しいものであり、また復活にあずかるゆえに、神の子でもあるので、もう死ぬことはあり得ないからである。 |
塚本訳 | 復活によって生まれる彼らは、天使と同じであり、神の子であるので、もはや死ぬことが出来ない、(従って子を産む必要がない)からである。 |
前田訳 | 彼らは復活の子らであり、天使にひとしく、神の子らであって、もはや死ねないからである。 |
新共同 | この人たちは、もはや死ぬことがない。天使に等しい者であり、復活にあずかる者として、神の子だからである。 |
NIV | and they can no longer die; for they are like the angels. They are God's children, since they are children of the resurrection. |
註解: イエスの来世に関する思想の一部がここに示されている。永遠の生命をもってかの世に甦るに相応しい者は、死ということが無いので従って結婚の必要がない。天の御使いたちと同じく、復活して神の子供とせられるのである。従ってこの世における夫婦関係がかの世にまでも継続するのではない。ただし復活の朝に、かの世において親子・兄弟・夫婦等が互に相認識し得ないものかどうかはここに考えられていないが、互に認識し得るものと考うべきであろう。
辞解
「かの世に入ること」と「甦ること」との二つが「相応し」に懸かっている。ただしこれを二つの別の事実と見る(B1)よりも同一事実と見るべきである。
20章37節
口語訳 | 死人がよみがえることは、モーセも柴の篇で、主を『アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神』と呼んで、これを示した。 |
塚本訳 | 死人が復活することは、(聖書にはっきり書いてある。)モーセも茨の薮の(燃える話の)ところで、主を“アブラハムの神、またイサクの神、またヤコブの神(である)”と言ってこれを示している。 |
前田訳 | 死人が復活することは、モーセも柴のくだりで、主を『アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神』と呼んで示している。 |
新共同 | 死者が復活することは、モーセも『柴』の個所で、主をアブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神と呼んで、示している。 |
NIV | But in the account of the bush, even Moses showed that the dead rise, for he calls the Lord `the God of Abraham, and the God of Isaac, and the God of Jacob.' |
20章38節
口語訳 | 神は死んだ者の神ではなく、生きている者の神である。人はみな神に生きるものだからである」。 |
塚本訳 | ところで神は死人の神ではなく、生きている者の神である。神に対しては、すべての者が生きているのだから。(してみるとアブラハム、イサクなども皆復活して、今生きているわけではないか。)」 |
前田訳 | 神は死者の神でなく生者の神である。すべてのものが神によって生きているから」と。 |
新共同 | 神は死んだ者の神ではなく、生きている者の神なのだ。すべての人は、神によって生きているからである。」 |
NIV | He is not the God of the dead, but of the living, for to him all are alive." |
註解: 出3:6をここに引用して、凡ての人が神の前に死なずに生きていることの証拠として掲げている。もしアブラハム、イサク、ヤコブが死と共に全く存在しないものならば、神はもはや彼らの神ではあり得ないはずである。神がモーセに向ってかく言い給える所以は、神の前には彼らがなお生きていたからである。従ってやがて時至って彼らが甦るべきことは当然である。38節末尾の一句はルカ特有である。
辞解
[柴の條 ] マコ12:27辞解を見よ。
「皆」は以上の三人のみならず、死人の中より甦るに相応しい者は皆の意。
20章39節
口語訳 | 律法学者のうちのある人々が答えて言った、「先生、仰せのとおりです」。 |
塚本訳 | すると数人の聖書学者までが、「先生、りっぱなお答えです」と言った。 |
前田訳 | すると数人の学者が答えた、「先生、よいお答えです」と。 |
新共同 | そこで、律法学者の中には、「先生、立派なお答えです」と言う者もいた。 |
NIV | Some of the teachers of the law responded, "Well said, teacher!" |
註解: 学者はサドカイ人の中に属していない人々であったに相違ない。パリサイ人の一人であったろう。イエスが快刀乱麻を断つごとくに答えたことに対して感嘆し、同時に彼らのサドカイ人と意見を異にする根拠を説明してもらったことを喜んだのであった。
20章40節
口語訳 | 彼らはそれ以上何もあえて問いかけようとしなかった。 |
塚本訳 | 彼らはもう何一つ、問おうとしなかった。 |
前田訳 | もはや彼らは何ひとつたずねようとしなかった。 |
新共同 | 彼らは、もはや何もあえて尋ねようとはしなかった。 |
NIV | And no one dared to ask him any more questions. |
註解: この「彼ら」は「学者ら」ではなく、サドカイ人らを指すと見るべきである(Z0)。サドカイ人の沈黙せしめられたのを見て、学者らが賞讃の叫びを挙げたのであった。
要義 [イエスの来世観]イエスの再臨に関する思想は次章に記されているが、27−40節の復活観の中にもイエスの来世観の一部を窺うことができる。すなわち肉体的に死んでも神を信じ神に生きる者は、霊的に不滅であって神に対して生きており、これがやがて不死の体を与えられて復活するということである。霊的生命の厳存 ─ 殊に神に在るものの永遠の生命を明白に体験せるイエスにとっては、肉体の死と共にその霊の生命も死滅するものと考えることは不可能であった。すでにそれが不死である以上、やがてそれが復活体を与えられることを想像するこは当然の理論である。かかることについてイエスは当時一般人の思想に支配されたと見るよりも、霊魂の実在を最も明白に把握したために、復活については寸毫 も疑い得なかったと見るべきであろう。イエスがすでに確信していたものを我らが疑うとすれば、それには充分なる根拠があることが必要である。近代科学は未だ不充分であって復活を否定するだけの権威はない。
20章41節 イエス
口語訳 | イエスは彼らに言われた、「どうして人々はキリストをダビデの子だと言うのか。 |
塚本訳 | イエスは人々に言われた、「人はどういう訳で、救世主はダビデの子である、と言うのであろうか。 |
前田訳 | 彼らにいわれた、「どうして人々はキリストをダビデの子というのか。 |
新共同 | イエスは彼らに言われた。「どうして人々は、『メシアはダビデの子だ』と言うのか。 |
NIV | Then Jesus said to them, "How is it that they say the Christ is the Son of David? |
註解: ダビデ王の子孫の中からメシヤすなわちキリストが生れることがイスラエルの信念であった。その結果キリストをダビデの子と呼ぶのが一般に行われ、群衆はしばしばイエスをかく呼んだ。イエスはその称呼を直接に否み給わなかったけれども、その意味を誤解しないようにかつキリストの真の意味を明かにするように次の注意を与え給うた。イエスは聖書に対する独特の烱眼 を持ち給うた。
20章42節 ダビデ
口語訳 | ダビデ自身が詩篇の中で言っている、『主はわが主に仰せになった、 |
塚本訳 | ダビデ自身が詩篇の中でこう言っているではないか。──“(神なる)主はわが主(救世主)に仰せられた、『わたしの右に坐りなさい、 |
前田訳 | ダビデ自身『詩篇』でいう、 |
新共同 | ダビデ自身が詩編の中で言っている。『主は、わたしの主にお告げになった。「わたしの右の座に着きなさい。 |
NIV | David himself declares in the Book of Psalms: "`The Lord said to my Lord: "Sit at my right hand |
20章43節 われ
口語訳 | あなたの敵をあなたの足台とする時までは、わたしの右に座していなさい』。 |
塚本訳 | わたしがあなたの敵を(征服して)あなたの足台にしてやるまで』と。” |
前田訳 | 『主はわが主にいわれた、わが右に座せよ、わたしがなんじの敵をなんじの足台にするまで』と。 |
新共同 | わたしがあなたの敵を/あなたの足台とするときまで」と。』 |
NIV | until I make your enemies a footstool for your feet."' |
20章44節 ダビデ
口語訳 | このように、ダビデはキリストを主と呼んでいる。それなら、どうしてキリストはダビデの子であろうか」。 |
塚本訳 | だから、ダビデが(このように)救世主を主と呼んでいるのに、どういう訳で(その救世主が)ダビデの子であろうか。」 |
前田訳 | ダビデがこのようにキリストを主と呼ぶのに、どうしてダビデの子であろうか」と。 |
新共同 | このようにダビデがメシアを主と呼んでいるのに、どうしてメシアがダビデの子なのか。」 |
NIV | David calls him `Lord.' How then can he be his son?" |
註解: マコ12:35註参照。イエスは詩110:1を引用してキリストがダビデ王以上のものでなければならないことを証明し給う。すなわちダビデ王はキリストを「わが主」と呼ぶ以上はそれはその子(子孫)を呼んだのではなく、従ってキリストはダビデの子以上であるというのである。ダビデはイスラエルの尊崇する王者であるがキリストはさらにそれ以上でなければならないことをイエスは示さんとし給うたのであった。この詩は近代の学者によりダビデ王の作でないものと考えられ、従って「わが主」はその詩人の讃称の目的となれる「王」を指すと解されている。 これが正しいとしても、イエスの御言が全部誤ったということはできない。イエスは当時一般にこの詩をメシヤ預言と解していたので、その立場からメシヤすなわちキリストとダビデとの真の関係を明かにしたのであった。すなわちキリストがダビデの子以上である理由はこの詩にダビデがかく言ったからではなく、本質的にそうであるからである。その事実を理解せしむるためにはこの詩を当時の人の解釈に従って引用することが最もで適当であった。たといダビデがかく言わなくともイエスにはダビデ以上であることの自信があったに相違ない。
20章45節
口語訳 | 民衆がみな聞いているとき、イエスは弟子たちに言われた、 |
塚本訳 | 民衆が皆聞いているまえで、弟子たちに言われた。 |
前田訳 | 民が皆聞いているとき、弟子たちにいわれた、 |
新共同 | 民衆が皆聞いているとき、イエスは弟子たちに言われた。 |
NIV | While all the people were listening, Jesus said to his disciples, |
註解: 1−44節にイエスに対抗した人々はみな去った後の出来事であったと見るべきである。
20章46節 『
口語訳 | 「律法学者に気をつけなさい。彼らは長い衣を着て歩くのを好み、広場での敬礼や会堂の上席や宴会の上座をよろこび、 |
塚本訳 | 「聖書学者に用心せよ。あの人たちは(人の目につくように)長い衣を着て歩くことが好きで、市場で挨拶されることや、礼拝堂の上席、宴会の上座を喜び、 |
前田訳 | 「学者に心せよ。彼らは長い衣を着て歩むことを好み、広場でのあいさつ、会堂の上席、食卓の上座をよろこび、 |
新共同 | 「律法学者に気をつけなさい。彼らは長い衣をまとって歩き回りたがり、また、広場で挨拶されること、会堂では上席、宴会では上座に座ることを好む。 |
NIV | "Beware of the teachers of the law. They like to walk around in flowing robes and love to be greeted in the marketplaces and have the most important seats in the synagogues and the places of honor at banquets. |
註解: イエスは学者らの偽善を指摘して弟子たち並びに民衆に警戒を与え給う。第一に学者は虚栄心の固まりである。「長き衣」は華美な上衣、公衆の中に尊敬されることは敬礼・上座・上席等にあらわれる。学者の最も欲する処は、かかる態度によって多くの人から外部的尊敬をかち得んとすることであった。
口語訳 | やもめたちの家を食い倒し、見えのために長い祈をする。彼らはもっときびしいさばきを受けるであろう」。 |
塚本訳 | また寡婦の家を食いつぶし、長く、見かけばかりの祈りをする。あの人たちは人一倍きびしい裁きを受けるであろう。」 |
前田訳 | やもめの家を食いつぶし、見かけの長い祈りをする。彼らの受ける裁きは人一倍きびしかろう」と。 |
新共同 | そして、やもめの家を食い物にし、見せかけの長い祈りをする。このような者たちは、人一倍厳しい裁きを受けることになる。」 |
NIV | They devour widows' houses and for a show make lengthy prayers. Such men will be punished most severely." |
註解: 寡婦の弱さと無援とに乗じてその家を自分たちの自由にすること。
註解: 外面的に敬虔らしさを装う、そして内心は狼のごとくにかかる人々を喰い荒す。
註解: 一般人が同一の行為を為す場合よりも、民衆の指導者をもって任ずる彼らの責任は一層重く、従って神の審判は一層甚だしく厳格である。これは同時に弟子たちへの警戒でもあった。
要義 [学者、宗教家の危険]学者、宗教家等は最も多く虚栄的、偽善的になりやすいものである。それは彼らには金銭や権力において成功すべき途がなく、ただ名誉のみが彼らの唯一の望みであるためである。そして彼らは神にあって永遠の栄誉を求めず、唯人間の前に一時的栄誉を求めるが故に、虚栄的、偽善的とならざるを得ない。かくして一面人間の前に自己を飾るためにその反動として他面常人すら容易に陥らない罪に陥ることが往々にしてあり得るのである。これは真に恐るべく警戒すべきことである。もし彼らが偽善と虚栄とをもって自己を飾らず、天真爛漫その弱点を掩わないならば、反動的の大罪からも免れ得たであろう。
ルカ伝第21章
9-2-ト 貧者のレプタ 21:1 - 21:4
(マコ12:41-44)
21章1節 イエス
口語訳 | イエスは目をあげて、金持たちがさいせん箱に献金を投げ入れるのを見られ、 |
塚本訳 | それから目をあげて、金持たちが賽銭箱に賽銭を入れるのを見ておられた。 |
前田訳 | 彼は目をあげて金持が賽銭箱に寄付を入れるのを見ておられた。 |
新共同 | イエスは目を上げて、金持ちたちが賽銭箱に献金を入れるのを見ておられた。 |
NIV | As he looked up, Jesus saw the rich putting their gifts into the temple treasury. |
註解: ルカはこの辺の記事はマルコに依存している。賽銭函は宮の中に置かれていた。富者は人の前に誇り顔に多くの賽銭を投入れたのであった(マコ12:41)。イエスは不快な気持ちでこれを眺め給うたのであろう。
21章2節 また
口語訳 | また、ある貧しいやもめが、レプタ二つを入れるのを見て |
塚本訳 | またある貧しそうな寡婦がレプタ銅貨[五円]二つをそこに入れるのを見て、 |
前田訳 | また、ある貧しいやもめが、レプタふたつをそこに入れるのを見て、いわれた、 |
新共同 | そして、ある貧しいやもめがレプトン銅貨二枚を入れるのを見て、 |
NIV | He also saw a poor widow put in two very small copper coins. |
註解: 原文には「またある女、しかも貧しき寡婦の」とあり、富める男子に比し、貧しくかつ労働力なき女子にしてしかも夫を失える寡婦であることが、その生活苦の並々ならぬことを示している。レプタ(単数レプトン)は最小の貨幣、マコ12:42辞解参照。
21章3節 『われ
口語訳 | 言われた、「よく聞きなさい。あの貧しいやもめはだれよりもたくさん入れたのだ。 |
塚本訳 | 言われた、「本当にわたしは言う、あの貧乏な寡婦はだれよりも多く入れた。 |
前田訳 | 「本当にいう、この貧しいやもめはだれよりも多く入れた。 |
新共同 | 言われた。「確かに言っておくが、この貧しいやもめは、だれよりもたくさん入れた。 |
NIV | "I tell you the truth," he said, "this poor widow has put in more than all the others. |
21章4節
口語訳 | これらの人たちはみな、ありあまる中から献金を投げ入れたが、あの婦人は、その乏しい中から、持っている生活費全部を入れたからである」。 |
塚本訳 | この人たちは皆あり余る中から賽銭を入れたのに、あの婦人は乏しい中から、持っていた生活費を皆入れたのだから。」 |
前田訳 | この人たちは皆あり余る中から入れたが、彼女は乏しい中から持っていた身代をすっかり入れたから」と。 |
新共同 | あの金持ちたちは皆、有り余る中から献金したが、この人は、乏しい中から持っている生活費を全部入れたからである。」 |
NIV | All these people gave their gifts out of their wealth; but she out of her poverty put in all she had to live on." |
註解: 貧者の一燈、富者の万燈である。神の目にはこの寡婦の献げ物が最も大きい献げ物であった。神は物質の量を見ず、ささぐる者の心を見給う。同様に神は人間の事業の大小を見ず、神と人とに対する奉仕の精神、愛の心の大小を見給う。
要義1 [献金の大小]献金の多少は、金額の多少ではない。しかし金額が少ないのが常にこの寡婦の場合のごとくに大なる献金を意味するわけではない。神に対する信仰と感謝の念の欠乏のために少ない献金を為す場合も決して稀ではない。「己が有てる生命の料をことごとく投げ入れた」寡婦の態度とその心とを、凡てのキリスト者が倣うべきことをイエスは教え給うたのであった。
要義2 [金額の多少と仕事の大小]神の目には富者の万燈よりもこの貧しき寡婦の一燈が大きいものに見えた。しかし普通に考えられる処によればこれは信仰的価値は大であっても社会的効果はやはり富者の万燈が大きいと信じられている。しかしながら事実果してそうであろうか、人の目に大きく見えるものが必ずしも大きい結果を来たすとはかぎらない。大きい金額、大衆の運動などは結局僅少な結果を来たすに過ぎず、人の目に小さく見える愛の行為、信仰の生活はかえって社会的にも大きい結果を来たすものであることを知らねばならぬ。イエスの生活は人間の目には小さい生涯であったけれどもその結果の大きさは無限である。
21章5節
口語訳 | ある人々が、見事な石と奉納物とで宮が飾られていることを話していたので、イエスは言われた、 |
塚本訳 | ある人たちが(イエスに)宮がりっぱな石と献納品とで飾られていることを話すと、言われた、 |
前田訳 | ある人々が宮について、立派な石や献納品で飾られていることを話すと、彼はいわれた、 |
新共同 | ある人たちが、神殿が見事な石と奉納物で飾られていることを話していると、イエスは言われた。 |
NIV | Some of his disciples were remarking about how the temple was adorned with beautiful stones and with gifts dedicated to God. But Jesus said, |
註解: 「或る人々」は、マタ24:1には「弟子たち」マコ13:1には「弟子の一人」とあり、また「石と獻物 」はマタイには「建物」、マルコには「石と建物」とありそれぞれ異なっているが終末の光景の説明としては何れであっても差支えがない。彼らはエルサレムの宮の壮麗なのに目も魂も奪われていた。然るにイエスは神に反する者の上に臨むべき審判の立場からこの宮について考えていた。着眼の相違を見よ。
辞解
[獻物 ] 宮に献納されその中に飾られている諸種の寄進物。
21章6節 『なんぢらが
口語訳 | 「あなたがたはこれらのものをながめているが、その石一つでもくずされずに、他の石の上に残ることもなくなる日が、来るであろう」。 |
塚本訳 | 「あなた達が(今)見ているこれらの物は、このまま重なっている石が一つもなくなるほど、くずれてしまう日が来るであろう。」 |
前田訳 | 「あなた方が見ているこれらのものは、石の上に石がひとつも重なっていなくなるほどに崩れてしまう時が来よう」と。 |
新共同 | 「あなたがたはこれらの物に見とれているが、一つの石も崩されずに他の石の上に残ることのない日が来る。」 |
NIV | "As for what you see here, the time will come when not one stone will be left on another; every one of them will be thrown down." |
註解: エルサレムの宮の崩壊をイエスは預言し給い、この預言は紀元七十年に実現した。
21章7節
口語訳 | そこで彼らはたずねた、「先生、では、いつそんなことが起るのでしょうか。またそんなことが起るような場合には、どんな前兆がありますか」。 |
塚本訳 | 彼らがイエスに尋ねた、「先生、では、そのことはいつ起りましょうか。また、(世の終りが来て)このことがおころうとする時には、どんな前兆がありましょうか。」 |
前田訳 | 彼らはたずねた、「先生、それはいつでしょうか。それがおころうとするときにはどんな兆しがありましょうか」と。 |
新共同 | そこで、彼らはイエスに尋ねた。「先生、では、そのことはいつ起こるのですか。また、そのことが起こるときには、どんな徴があるのですか。」 |
NIV | "Teacher," they asked, "when will these things happen? And what will be the sign that they are about to take place?" |
註解: 弟子たちはエルサレムに対する神の審判は、イエスの再臨および神の国の復興と同時に来ること、而してそれが間もなく来るであろうと信じていた。それ故に、エルサレムの宮殿の破壊される時と、イエスの再臨の前兆が何であるかについて質問したのであった。
21章8節 イエス
口語訳 | イエスが言われた、「あなたがたは、惑わされないように気をつけなさい。多くの者がわたしの名を名のって現れ、自分がそれだとか、時が近づいたとか、言うであろう。彼らについて行くな。 |
塚本訳 | そこでこう話された。──「迷わされないように気をつけよ。いまに多くの人があらわれて、『(救世主は)わたしだ』とか、『(最後の)時は近づいた』とか言って、わたしの名を騙るにちがいないから。そんな人たちのあとを追うな。 |
前田訳 | 彼はいわれた、「迷わされぬよう気をつけよ。多くのものがわが名をかたって現われ、『わたしがそれだ。時は近づいた』といおう。それらの人々について行くな。 |
新共同 | イエスは言われた。「惑わされないように気をつけなさい。わたしの名を名乗る者が大勢現れ、『わたしがそれだ』とか、『時が近づいた』とか言うが、ついて行ってはならない。 |
NIV | He replied: "Watch out that you are not deceived. For many will come in my name, claiming, `I am he,' and, `The time is near.' Do not follow them. |
註解: イエスは前節の質問に対して直接に答えず、世の終末そのものとその兆 とに区別を立て偽預言者に惑わされないように間接の警戒を与え給う。真の「時」と「兆 」とは信仰によって見分けなければならない。かかる時が近付いて来ると偽キリスト偽預言者が多く顕れて人々を惑わす。
21章9節
口語訳 | 戦争と騒乱とのうわさを聞くときにも、おじ恐れるな。こうしたことはまず起らねばならないが、終りはすぐにはこない」。 |
塚本訳 | 戦争や暴動と聞いた時に、びっくりするな。それらのことはまず”おこらねばならないことである”が、しかし(まだ)すぐ最後ではないのだから。」 |
前田訳 | 戦争や暴動と聞いたときにおそれるな。それらはまずおこらねばならないが、すぐに世の終わりにはならない」と。 |
新共同 | 戦争とか暴動のことを聞いても、おびえてはならない。こういうことがまず起こるに決まっているが、世の終わりはすぐには来ないからである。」 |
NIV | When you hear of wars and revolutions, do not be frightened. These things must happen first, but the end will not come right away." |
註解: 世の終りのように思われる大事件が次々に起って来るが、それを恐れてはならない。イエスは世の終末の光景を弟子たちに解説しようとはせず、弟子たちをして、世の終末の前に襲い来るべき凡ての困難を自覚せしめ、これによって信仰を捨てることがないように彼らを守らんとし給う。イエスの愛の深さを見るべきである。イエスは徹頭徹尾愛の実行家に在し給う。彼らを恐怖に陥れるものの第一は戦争と騒亂 であるが、それが終末の兆 ではない。
辞解
[騒亂 ] akatastasis 秩序を破壊すること。
21章10節 また
口語訳 | それから彼らに言われた、「民は民に、国は国に敵対して立ち上がるであろう。 |
塚本訳 | それから言われた、「(世の終りが来る前に、)“民族は民族に、国は国に向かって(敵となって)立ち上がり、” |
前田訳 | またいわれた、「民は民に国は国に向かって立ちあがり、 |
新共同 | そして更に、言われた。「民は民に、国は国に敵対して立ち上がる。 |
NIV | Then he said to them: "Nation will rise against nation, and kingdom against kingdom. |
註解: 社会的混乱である。民族相互間、または人種と人種の間、または国と国との間に争闘が起る。現時の世界の情勢もまさにかくのごとくである。これがキリストの再臨の近付きつつある証拠である。
21章11節 かつ
口語訳 | また大地震があり、あちこちに疫病やききんが起り、いろいろ恐ろしいことや天からの物すごい前兆があるであろう。 |
塚本訳 | また大地震や、ここかしこに疫病や飢饉があり、いろいろな恐ろしいこと、また天に驚くべき前兆があらわれるであろう。 |
前田訳 | 大地震やあちこちに疫病や飢饉があり、おそろしいことや天からの大きな兆しがあろう。 |
新共同 | そして、大きな地震があり、方々に飢饉や疫病が起こり、恐ろしい現象や著しい徴が天に現れる。 |
NIV | There will be great earthquakes, famines and pestilences in various places, and fearful events and great signs from heaven. |
註解: 地上には種々の天災、不幸が起り、また天よりは大なる懼るべき兆 が起って来る。キリスト再臨の前にはかかる事件が頻発し、世の終りを予感せしめる。地震・疫病・飢饉は地上に起る神の罰であり、天よりの兆 は天体の異変や天より地に降る種々の天災を指す。
辞解
[懼るべき事と天よりの大なる兆 ] 「天よりの大なる懼るべき兆 」の意味である。
21章12節 すべて
口語訳 | しかし、これらのあらゆる出来事のある前に、人々はあなたがたに手をかけて迫害をし、会堂や獄に引き渡し、わたしの名のゆえに王や総督の前にひっぱって行くであろう。 |
塚本訳 | しかしすべてこれらのことがある前に、人々はあなた達に手をかけて迫害する。すなわち礼拝堂や牢屋に引き渡し、またわたしゆえに、王や総督の前に引き出すであろう。 |
前田訳 | しかしこれらすべての前に人々はあなた方に手を下して迫害しよう。会堂や牢に引き渡し、わが名のゆえに王や総督の前に引き出そう。 |
新共同 | しかし、これらのことがすべて起こる前に、人々はあなたがたに手を下して迫害し、会堂や牢に引き渡し、わたしの名のために王や総督の前に引っ張って行く。 |
NIV | "But before all this, they will lay hands on you and persecute you. They will deliver you to synagogues and prisons, and you will be brought before kings and governors, and all on account of my name. |
註解: 天災地変よりも前に迫害が起る。キリスト者は権力を保持する有司の前に犯罪人として曳かれる。すなわち政治的法律的手段による迫害が襲って来る。「わが名のために」は全部に関係あると見るべきで、従って「即ち」の次に置くべきである。
口語訳 | それは、あなたがたがあかしをする機会となるであろう。 |
塚本訳 | これは結局あなた達が(福音を)証しする結果となるのである。 |
前田訳 | それはあなた方が証をする機会となろう。 |
新共同 | それはあなたがたにとって証しをする機会となる。 |
NIV | This will result in your being witnesses to them. |
註解: かかる迫害がかえって福音の証となる。
辞解
[機 となる] apobainô は「変化する」「転化する」等の意。迫害が証に転化すること。
21章14節 されば
口語訳 | だから、どう答弁しようかと、前もって考えておかないことに心を決めなさい。 |
塚本訳 | だから(前もって)弁明の準備をしておかないことに、心を決めなさい。 |
前田訳 | 弁明の準備をせぬよう心に決めよ。 |
新共同 | だから、前もって弁明の準備をするまいと、心に決めなさい。 |
NIV | But make up your mind not to worry beforehand how you will defend yourselves. |
註解: かかる場合、答弁や弁解の仕方を前もって苦慮することをしてはならない。堅く心を定めてかかることを為さざらんことを決心すべきである。迫害は肉体的苦痛のみであるが、かかる苦慮は無益に魂をも苦しめるのみならず、かかる取越苦労はかえって答弁を掻き乱す。
辞解
[預 じめ思慮 る] promeletaô は取越し苦労をすること。なお演説等の場合は原稿を作り予行演習を為すことなどにも用いている。
21章15節 われ
口語訳 | あなたの反対者のだれもが抗弁も否定もできないような言葉と知恵とを、わたしが授けるから。 |
塚本訳 | いかなる反対者も、反抗し弁駁することの出来ない言葉の知恵を、わたしが授けるから。 |
前田訳 | わたしがことばと知恵を授けよう。それにはいかなる反対者もさからい、抗弁できまい。 |
新共同 | どんな反対者でも、対抗も反論もできないような言葉と知恵を、わたしがあなたがたに授けるからである。 |
NIV | For I will give you words and wisdom that none of your adversaries will be able to resist or contradict. |
註解: 王や司たちに対して答弁をする場合に何らの予備なしにも非常なる雄弁と智慧とが神の力によって豊かに与えられ凡ての反対者をして対抗し得ざらしめ、反対論を為し得ざらしめることをイエスは彼らに約束し給う。イエスに信頼する者は、かかる場合にも何ら恐れるに足りない。▲「言い逆ひ」 anthistêmi は「反抗する」、「言い消す」 antilegô は「抗弁する」。
21章16節
口語訳 | しかし、あなたがたは両親、兄弟、親族、友人にさえ裏切られるであろう。また、あなたがたの中で殺されるものもあろう。 |
塚本訳 | あなた達はまた親、兄弟、親族、友人からまで(裁判所に)引き渡される。殺される者もあろう。 |
前田訳 | あなた方は両親、兄弟、親戚、友人からも裏切られよう。殺されるものもあろう。 |
新共同 | あなたがたは親、兄弟、親族、友人にまで裏切られる。中には殺される者もいる。 |
NIV | You will be betrayed even by parents, brothers, relatives and friends, and they will put some of you to death. |
21章17節
口語訳 | また、わたしの名のゆえにすべての人に憎まれるであろう。 |
塚本訳 | またわたしの弟子であるために皆から憎まれる。 |
前田訳 | わが名のゆえに皆から憎まれよう。 |
新共同 | また、わたしの名のために、あなたがたはすべての人に憎まれる。 |
NIV | All men will hate you because of me. |
註解: キリストの名を信ずることにより、最も親しい家族にさえも憎まれ殺されるであろう。キリスト者となることの困難はここにある。そしてこの事実は、世の終末に近付くに従って益々甚だしいことになるであろう。キリストを信ずることによって家族間に不和が生ずる例は、今日も非常に多い。
口語訳 | しかし、あなたがたの髪の毛一すじでも失われることはない。 |
塚本訳 | しかしあなた達の髪の毛一本も決して無くならない。 |
前田訳 | しかしあなた方の髪の毛一本も失われまい。 |
新共同 | しかし、あなたがたの髪の毛の一本も決してなくならない。 |
NIV | But not a hair of your head will perish. |
註解: 髪の毛一筋までも神の守護の下に置かれるであろう。すなわち神の絶対的守護の下に立ち得るに至るであろう。それ故にキリスト者はエルサレムの破滅と世の終末を目前にしていながら、神の絶対的守護の下に霊の絶対的平安を持つことができる。
口語訳 | あなたがたは耐え忍ぶことによって、自分の魂をかち取るであろう。 |
塚本訳 | あなた達は忍耐によって、自分の(まことの)命をかち取ることができる。 |
前田訳 | 忍耐によってあなた方はおのがいのちをかち得よう。 |
新共同 | 忍耐によって、あなたがたは命をかち取りなさい。」 |
NIV | By standing firm you will gain life. |
註解: 「終りまで耐え忍ぶ者は救わるべし」(マタ24:13。マコ13:13)というに同じ、非常なる迫害の下に必要なのは忍耐である。イエスの弟子らは迫害下における忍耐によってその生命を獲得することができる。以上は7節における弟子たちの問いに対してのイエスの答であった。イエスが彼らに教えんとし給いしことは、再臨の兆 やエルサレム滅亡の時期ではなくそれらの事件とこれに伴う聖徒の迫害に対して彼らの取るべき態度すなわち忍耐を教え給うたのであった。イエスは全く空論を好み給わなかった。
辞解
[霊魂を得べし] また「生命を獲得せん」とも訳され、永遠の生命はこの信仰的忍耐をもって確実に保持し獲得し得ることを示したのである。
註解: 本節以下はエルサレムの滅亡のいよいよ接近した場合の状況を録す。必ずしもルカが紀元七十年のエルサレム陥落を知ってこれを録したのであると見る必要はないが20−24節の記述がマタ24:15−22。マコ13:14−20と異なっていることは、エルサレムの滅亡に関するイエスの預言(ルカ19:43)が具体的に実現される時が次第に切迫せることをルカは直感したことと、また「荒す憎むべき者」(マタ24:15。マコ13:14)のごときダニエル書の預言はテオピロ(ルカ1:4)のごとき異邦の貴族には、興味なきことであったため、これを具体化したのであろう。
21章20節
口語訳 | エルサレムが軍隊に包囲されるのを見たならば、そのときは、その滅亡が近づいたとさとりなさい。 |
塚本訳 | しかしエルサレムが(ローマの)軍勢に囲まれるのを見たら、その滅亡が近づいたと知れ。 |
前田訳 | エルサレムが軍勢に囲まれるのを見たら、その滅亡が近いと知れ。 |
新共同 | 「エルサレムが軍隊に囲まれるのを見たら、その滅亡が近づいたことを悟りなさい。 |
NIV | "When you see Jerusalem being surrounded by armies, you will know that its desolation is near. |
註解: この福音書が記されてから数年後に、ローマの将軍テトスによりこの預言が事実となった。神の子を十字架に釘 るエルサレムは必ず神の審判に服しなければならない。
辞解
[亡び] erêmôsis は荒廃の意味。
21章21節 その
口語訳 | そのとき、ユダヤにいる人々は山へ逃げよ。市中にいる者は、そこから出て行くがよい。また、いなかにいる者は市内にはいってはいけない。 |
塚本訳 | その時ユダヤ(の平地)におる者は(急いで)山に逃げよ。都の中におる者は立ち退け。田舎におる者は都に入るな。 |
前田訳 | そのときユダヤにいるものは山にのがれよ。都の中にいるものは立ち退け。田舎にいるものは都に入るな。 |
新共同 | そのとき、ユダヤにいる人々は山に逃げなさい。都の中にいる人々は、そこから立ち退きなさい。田舎にいる人々は都に入ってはならない。 |
NIV | Then let those who are in Judea flee to the mountains, let those in the city get out, and let those in the country not enter the city. |
註解: 大都市が空襲によって荒廃に帰せられる時の実際を経験した者は、この語の意味を充分に理解することができる。すなわちエルサレムおよびその附近に停滞する者は何人も災害を免れることができないほどその災禍は急速かつ激甚である。
21章22節 これ
口語訳 | それは、聖書にしるされたすべての事が実現する刑罰の日であるからだ。 |
塚本訳 | これは(聖書に)書いてあることが皆成就する“(神の)刑罰の日”だからである。 |
前田訳 | それは聖書に書かれていることすべてが成就する刑罰の日である。 |
新共同 | 書かれていることがことごとく実現する報復の日だからである。 |
NIV | For this is the time of punishment in fulfillment of all that has been written. |
註解: イエスを拒みこれを十字架に釘 るユダヤ民族は神の審判を受けねばならず、それがまずその首都エルサレムにおいて実現するであろう。そのことは聖書にすでに預言されているとおりである(エレ5:29。ホセ9:7。マラ3:1、5)。
註解: 23、24節は禍害の甚大なることを示す。
21章23節 その
口語訳 | その日には、身重の女と乳飲み子をもつ女とは、不幸である。地上には大きな苦難があり、この民にはみ怒りが臨み、 |
塚本訳 | それらの日には、身重の女と乳飲み子をもつ女とは、ああかわいそうだ!この(ユダヤの)地には大きな艱難が、この民には(神の)怒りが臨むのだから。 |
前田訳 | それらの日には、身重の女と乳のみ子を持つ女は気の毒だ。この地には大きな苦しみが、この民には怒りがのぞもうから。 |
新共同 | それらの日には、身重の女と乳飲み子を持つ女は不幸だ。この地には大きな苦しみがあり、この民には神の怒りが下るからである。 |
NIV | How dreadful it will be in those days for pregnant women and nursing mothers! There will be great distress in the land and wrath against this people. |
註解: これらの女子は逃げることに非常な困難を覚えるからである。
註解: ユダヤの地すなわちイスラエルの国には艱難が来り、イスラエルの民には神の怒りが臨む。
辞解
[地] 世界とか地球とかいう広い意味ではなく、イスラエルの地のこと。
[艱難 ] andnchê「苦悩」のこと。
21章24節
口語訳 | 彼らはつるぎの刃に倒れ、また捕えられて諸国へ引きゆかれるであろう。そしてエルサレムは、異邦人の時期が満ちるまで、彼らに踏みにじられているであろう。 |
塚本訳 | 彼らは剣の刃にたおれ、あるいは捕虜となってあらゆる国々に散らされ、また“エルサレムは”(いわゆる)異教人時代が終るまで、“異教人に踏みにじられる”であろう。 |
前田訳 | 彼らは剣の刃にたおれ、あらゆる国々に捕虜となり、異邦人の時代が終わるまで、エルサレムは異邦人に踏みにじられよう。 |
新共同 | 人々は剣の刃に倒れ、捕虜となってあらゆる国に連れて行かれる。異邦人の時代が完了するまで、エルサレムは異邦人に踏み荒らされる。」 |
NIV | They will fall by the sword and will be taken as prisoners to all the nations. Jerusalem will be trampled on by the Gentiles until the times of the Gentiles are fulfilled. |
註解: 神の怒りは、敵軍の侵入の形で彼らの上に降るであろう。その結果彼らエルサレムの民は剣で殺されるかまたは捕虜となって遠い外国に曳いて行かれるであろう。すなわちユダヤ国の滅亡であり、神の選民の上への審判である。
註解: 異邦人が救われてその数が満つる時が来るまで(ロマ11:12、ロマ11:25)異邦人はユダヤ人を蹂躙 り、エルサレムの支配権を握りユダヤ民族を支配するであろう(黙11:2)。
辞解
[異邦人の時] (1)異邦人が審判を行う期間、(2)異邦人が優勢を保持している期間、(3)異邦人が恩恵を受けている期間等に解されているけれども(E1)この三者は同時に起っている一つの事実である。
21章25節 また
口語訳 | また日と月と星とに、しるしが現れるであろう。そして、地上では、諸国民が悩み、海と大波とのとどろきにおじ惑い、 |
塚本訳 | すると日と月と星とに(世の終りの不思議な)前兆があらわれ、地上では“海がどよめき荒れ狂うため、国々の民は”周章てふためき怖じまどい、 |
前田訳 | 日と月と星に兆しがあろう。地上では海が波立って荒れるため、諸民が怖じまどい、 |
新共同 | 「それから、太陽と月と星に徴が現れる。地上では海がどよめき荒れ狂うので、諸国の民は、なすすべを知らず、不安に陥る。 |
NIV | "There will be signs in the sun, moon and stars. On the earth, nations will be in anguish and perplexity at the roaring and tossing of the sea. |
21章26節
口語訳 | 人々は世界に起ろうとする事を思い、恐怖と不安で気絶するであろう。もろもろの天体が揺り動かされるからである。 |
塚本訳 | 全世界に臨もうとしていることを思って、恐ろしさのあまり悶え死にする者があろう。“もろもろの天体が”震われるからである。 |
前田訳 | 全世界にのぞむべきことを思って、もだえ死ぬものがあろう。もろもろの天体が揺られるからである。 |
新共同 | 人々は、この世界に何が起こるのかとおびえ、恐ろしさのあまり気を失うだろう。天体が揺り動かされるからである。 |
NIV | Men will faint from terror, apprehensive of what is coming on the world, for the heavenly bodies will be shaken. |
註解: エルサレムの滅亡は、地方的出来事であるが、キリスト再臨の前にはさらに全世界に亙 り、天地の自然の中に大なる変動が起り、天には日月星晨 に不思議なる変化が起り、地には海と濤 とに鳴動が起って恐るべき天災の来ることを告ぐるもののごとくであるため諸国の民は周章狼狽して為す処を知らず(aporia)そのために「なやみ」「緊迫」に陥り進退きわまってしまう(sunechomai ルカ12:50)。そして一般の人々は全世界に臨まんとすることに対する恐怖と予期とのために息絶えるであろう。それは天の万軍、すなわち全宇宙が震い動かされるほど大きい変動がおこるであろうからである。すなわちキリスト再臨の前にはエルサレムの滅亡だけではなく天地が転倒するばかりの大変動が起りまた起らんとするためにユダヤ人のみならず全世界の凡ての人々が恐怖混迷に陥り、魂も消え失せんとするであろうとのことである。原文の文勢を今少しく忠実に解釈すれば「而して日と月と星とに兆あらん。また地には海と波との鳴動に狼狽せる国々の民のなやみあらん。人々は全世界に臨まんとすることに対する恐怖と予期によって魂消え失せん。そは天の万象震い動かんとすればなり」。
辞解
[兆 ] sêmeia は「不思議」とも訳され奇蹟的現象を指す。
[海と浪との鳴動] 社会現象の形容と見るよりも、名状すべからざる恐ろしさを有する自然の異変を指すと見るべきである。
[なやみ] sunochê は圧迫されて動きがとれなくなること。
[狼狽 へ] aporia は「為す処を知らざること」。
[膽 を失ふ] apopsychô はまた「息絶える」意味にも用う。
[天の萬象] 原語「天の万軍」「天の諸 の権力 」で、日月星晨 等の天体のみならず宇宙の秩序を維持すると考えられている諸種の力をも含む。
21章27節
口語訳 | そのとき、大いなる力と栄光とをもって、人の子が雲に乗って来るのを、人々は見るであろう。 |
塚本訳 | するとその時、人々は“人の子(わたし)が”大いなる権力と栄光とをもって、“雲に乗って来るのを”見るであろう。 |
前田訳 | そのとき、人々は人の子が大きな力と栄光をもって雲に乗って来るのを見よう。 |
新共同 | そのとき、人の子が大いなる力と栄光を帯びて雲に乗って来るのを、人々は見る。 |
NIV | At that time they will see the Son of Man coming in a cloud with power and great glory. |
註解: イエス・キリストの再臨は以上のごとき天地の大変動の中に起るであろう。全世界の人は恐れふためき、生きる心だに無くなったその時人の子は能力 と栄光とをもって来り給う。全世界の絶望のただ中に、イエスにおいて完全なる希望が顕れるのである。イエスはその「能力」をもって世界を平定し、その「栄光」をもって世界を照し給うであろう。
21章28節 これらの
口語訳 | これらの事が起りはじめたら、身を起し頭をもたげなさい。あなたがたの救が近づいているのだから」。 |
塚本訳 | それでこれらのことがおこり始めたら、体を伸ばし、頭をあげなさい。あなた達のあがない(の時)が近づいたのだから。」 |
前田訳 | これらがはじまれば、体をのばし、頭をあげよ。あなた方のあがないが近づいたのだから」と。 |
新共同 | このようなことが起こり始めたら、身を起こして頭を上げなさい。あなたがたの解放の時が近いからだ。」 |
NIV | When these things begin to take place, stand up and lift up your heads, because your redemption is drawing near." |
註解: 多くの人々が恐ろしい天変地異の中に困憊 絶望の中にある時、イエスを信ずる者は、上を仰ぎ、首を挙げてその贖罪を待ち望む態度を取ることができるのである。それ故に世界が益々混沌として来るに従って、キリスト者は益々希望に燃えることができる。
辞解
[これらの事] 8−27節に示された諸々の事件。これを25−27節(M0、E0)と限る必要はない。8−27節の凡ての事変がイエスの再臨の近い証拠である。
21章29節 また
口語訳 | それから一つの譬を話された、「いちじくの木を、またすべての木を見なさい。 |
塚本訳 | (こう言ったあと、)また一つの譬をひいて彼らに話された。──「無花果の木をはじめ、すべての木を見なさい。 |
前田訳 | 彼はまたひとつの譬えを彼らに話された、「いちじくの木などすべての木を見なさい。 |
新共同 | それから、イエスはたとえを話された。「いちじくの木や、ほかのすべての木を見なさい。 |
NIV | He told them this parable: "Look at the fig tree and all the trees. |
21章30節
口語訳 | はや芽を出せば、あなたがたはそれを見て、夏がすでに近いと、自分で気づくのである。 |
塚本訳 | すでに芽が出ると、それを見て、ひとりでにはや夏が近いと知るのである。 |
前田訳 | すでに芽が出ると、それを見て、あなた方はおのずとはや夏が近いと知る。 |
新共同 | 葉が出始めると、それを見て、既に夏の近づいたことがおのずと分かる。 |
NIV | When they sprout leaves, you can see for yourselves and know that summer is near. |
21章31節
口語訳 | このようにあなたがたも、これらの事が起るのを見たなら、神の国が近いのだとさとりなさい。 |
塚本訳 | そのようにあなた達も、これらのことがおこるのを見たら、神の国が近くに来ていることを知れ。 |
前田訳 | そのようにあなた方も、これらがおこるのを見たら、神の国が近づいていると知れ。 |
新共同 | それと同じように、あなたがたは、これらのことが起こるのを見たら、神の国が近づいていると悟りなさい。 |
NIV | Even so, when you see these things happening, you know that the kingdom of God is near. |
註解: 夏来たらんとする時は、無花果でもその他の樹でも芽を吹き出す、芽を見て夏の近いことを知ることができる。これと同様に以上に示したような事件が起って来るとそれは神の国が近い証拠である。それ故これらの天変地異を見るごとに、キリスト者は益々神の国の近いことを知り希望に充されて欣喜雀躍 し、この世の人は反対に周章狼狽 、畏怖困憊 する。
21章32節 われ
口語訳 | よく聞いておきなさい。これらの事が、ことごとく起るまでは、この時代は滅びることがない。 |
塚本訳 | アーメン、わたしは言う、(これらのことが)一つのこらずおこってしまうまでは、この時代は決して消え失せない。 |
前田訳 | 本当にいう、すべてがおこるまでこの時代は決して過ぎ去らない。 |
新共同 | はっきり言っておく。すべてのことが起こるまでは、この時代は決して滅びない。 |
NIV | "I tell you the truth, this generation will certainly not pass away until all these things have happened. |
21章33節
口語訳 | 天地は滅びるであろう。しかしわたしの言葉は決して滅びることがない。 |
塚本訳 | 天地は消え失せる、しかし(今言った)わたしの言葉は決して消え失せない。 |
前田訳 | 天と地は過ぎ去ろう。しかしわがことばは決して過ぎ去るまい。 |
新共同 | 天地は滅びるが、わたしの言葉は決して滅びない。」 |
NIV | Heaven and earth will pass away, but my words will never pass away. |
註解: イエスは異常なる自信をもって前節までの教説を保証し給うた。すなわちイエスの再臨とこの世の終りの前には上述するごとき諸々の現象は間違いなく起るというのである。そしてたとい天地が過ぎ往くことがあってもイエスのこの言は過ぎ往くことのないことを確信し、これを弟子たちに保証し給うた。このことは、世界に臨む天変地異や人間社会の動乱はイエスを信じない者にとっては畏るべき敵であるけれども、イエスを信ずる者にとてはあがないの時の近きを知らされたことを意味し、ますますその救いの近きを知る歓喜の日である。それ故たとい恐るべき天変地異が起ってもキリスト者の心には平安と幸福とが宿っている。
註解: イエスの再臨は以上のごとき天地の大変動と人類社会の動乱や革命等の後に起るのであるからキリスト者もこれらの困難を通過しなければならない。それらの困難の中に在ってもイエスを待望み、困難の中を通過してイエスの前に立たなければならない。
21章34節
口語訳 | あなたがたが放縦や、泥酔や、世の煩いのために心が鈍っているうちに、思いがけないとき、その日がわなのようにあなたがたを捕えることがないように、よく注意していなさい。 |
塚本訳 | 注意せよ、大酒を呑み、二日酔いをし、またこの世のことを心配して、頭が鈍くなっていると、“罠が”落ちるように、だしぬけにかの日があなた達に臨まないとはかぎらない。 |
前田訳 | 気をつけよ、放縦、酩酊、世のわずらいに心が鈍るうちに、いきなりかの日がわなのようにあなた方にのぞまないように。 |
新共同 | 「放縦や深酒や生活の煩いで、心が鈍くならないように注意しなさい。さもないと、その日が不意に罠のようにあなたがたを襲うことになる。 |
NIV | "Be careful, or your hearts will be weighed down with dissipation, drunkenness and the anxieties of life, and that day will close on you unexpectedly like a trap. |
註解: (私訳)「汝ら暴飲と酩酊と生活の煩労のために汝らの心を鈍らせ、かくしてかの日が羂 のごとく突然汝らの上に来ることなきよう自ら注意せよ」。世界が混乱し、不安であればあるほど、人々の心は刹那的享楽に誘惑され毎日の生活に逐われ易い。そしてこれによってその苦痛を忘れまたはそれから免れようとするのである。しかしかかる者にとっては主の日は突然として来ること、あたかも羂 が獲物の前に突然現われるのと同様であり、かくしてキリスト者もその羂 の中に陥ってしまう。かかることが無いように注意し、常に緊張せる信仰的生活をもって主の日を待望んでいなければならない。
21章35節 これは
口語訳 | その日は地の全面に住むすべての人に臨むのであるから。 |
塚本訳 | その日は“地の”全面“に住んでいる者に”一人のこらず襲いかかるのだから。 |
前田訳 | その日は全地の上に住むものすべてにのぞむから。 |
新共同 | その日は、地の表のあらゆる所に住む人々すべてに襲いかかるからである。 |
NIV | For it will come upon all those who live on the face of the whole earth. |
註解: 「主の日」は全世界の全人類に臨むのであって、キリスト者のみに臨むのではない。それ故に、油断をしているキリスト者にとっては主の日は突然襲い来り、その動乱異変の中に巻き込まれてしまう。なお前節の「羂 のごとく」を本節に入れて読む節があるけれども現行訳の方が適当である。
21章36節 この
口語訳 | これらの起ろうとしているすべての事からのがれて、人の子の前に立つことができるように、絶えず目をさまして祈っていなさい」。 |
塚本訳 | 目を覚まして常に祈っておれ、すべてこれら将来の出来ごとからのがれて、人の子(わたし)の前に立ち得るようにと。」 |
前田訳 | 目を覚ましてつねに祈れ、これら来たるべきことすべてをのがれて、人の子の前に立ちうるように」と。 |
新共同 | しかし、あなたがたは、起ころうとしているこれらすべてのことから逃れて、人の子の前に立つことができるように、いつも目を覚まして祈りなさい。」 |
NIV | Be always on the watch, and pray that you may be able to escape all that is about to happen, and that you may be able to stand before the Son of Man." |
註解: それ故にキリスト者の日常生活は目を覚まし、霊の目を明かにして祈りつづけ、これらの凡ての禍害を逃れ、その中に巻き込まれず、その中を通過して人の子の前に立つことでなければならぬ。
要義 [世の終末とキリストの再臨]この問題は種々の困難なる内容を有しているために、ある者は全然これを信ぜず、ある者は象徴的の言葉をすら全部具体化して奇怪なる未来像を描いてこれを信じようとしているのであるが、この双方とも聖書を正しく解する途ではない。
世の終末においてキリストが再び来り給うということは、神の独り子に在し給うイエスにとっては当然のことでなければならない。そしてそれは、未来の出来事である故今から詳細を知ることができないが、消極的にはそれは非キリストの顕現と区別さるべきこと、また、戦争や、天変地異や、信徒の迫害や、エルサレムの陥落や、自然界の異変とも区別さるべきであることをイエスは教えたのであった。しかしこれらのことはイエスの再臨と無関係なのではなく、凡てがその前兆であり、これなしには再臨は起らず、これらが悉 く起ってからキリストの再臨が起るのである。そしてこれらのことの苦難の中で多くの人の信仰が試され、ある者はその苦痛に堪え得ずして主の日を待望む信仰を失い、享楽と生活に心を奪われてしまう。唯目を覚して祈祷を常にする者のみ、この苦難の中にあって仰ぎて首を挙げ、それらより救い出されて人の子の前に立つことができるのである。イエスがこの終末の教説をなし給うたのは、これによって世の終末の如何に関し好奇心を持たせるためではなく、信徒の決心と態度とが如何にあるべきかを教え給うたのである。
註解: 本節および次節はエルサレムにおけるイエスの活動を収約的に記録したのである。
21章37節 イエス
口語訳 | イエスは昼のあいだは宮で教え、夜には出て行ってオリブという山で夜をすごしておられた。 |
塚本訳 | イエスは(毎日)昼のあいだは宮で教え、夜は(都を)出ていって、いわゆるオリブ山で夜を過ごされた。 |
前田訳 | 彼は昼の間、宮で教え、夜は出ていわゆるオリブ山に行って泊まられた。 |
新共同 | それからイエスは、日中は神殿の境内で教え、夜は出て行って「オリーブ畑」と呼ばれる山で過ごされた。 |
NIV | Each day Jesus was teaching at the temple, and each evening he went out to spend the night on the hill called the Mount of Olives, |
21章38節
口語訳 | 民衆はみな、み教を聞こうとして、いつも朝早く宮に行き、イエスのもとに集まった。 |
塚本訳 | 人々は皆宮で話を聞こうとして、早起きして彼の所にあつまった。 |
前田訳 | 民は皆宮で話を聞こうと早起きして彼のところに集まった。 |
新共同 | 民衆は皆、話を聞こうとして、神殿の境内にいるイエスのもとに朝早くから集まって来た。 |
NIV | and all the people came early in the morning to hear him at the temple. |
註解: ルカ19:47、48。
辞解
[宿る] 必ずしも山に野宿したという意味に取る必要はない。
[朝とく] またの意味は「熱心に」でこの両者相通ずる。