ルカ伝第18章
分類
8 神の国の教訓 14:1 - 18:30
8-3 神の国に入るもの 17:1 - 18:30
8-3-チ 執拗なる祈りの必要 18:1 - 18:8
註解: 人の子の日(ルカ17:22−37)が突然顕れることに対して神の民、選ばれし者は切にこれを待ち望んでいるのであるが、それがために最も必要なのは祈りであるので1−14節に祈りについての二つの比喩を掲げている。
18章1節 また
口語訳 | また、イエスは失望せずに常に祈るべきことを、人々に譬で教えられた。 |
塚本訳 | なお、気を落さずに常に祈るべきことについて、一つの譬をひいて弟子たちに話された、 |
前田訳 | ひとつの譬えを弟子たちに話して気を落とさずに常に祈るべきことをいわれた、 |
新共同 | イエスは、気を落とさずに絶えず祈らなければならないことを教えるために、弟子たちにたとえを話された。 |
NIV | Then Jesus told his disciples a parable to show them that they should always pray and not give up. |
註解: 祈りは絶えず祈らなければならず、また祈りが直ちに聞かれないことがあっても沮喪 せず熱心に祈り続けることが必要である。多くの人は祈りを怠り易く、また意気沮喪 し易い。
18章2節 『
口語訳 | 「ある町に、神を恐れず、人を人とも思わぬ裁判官がいた。 |
塚本訳 | 「ある町に、神を恐れず、人を人とも思わない裁判官があった。 |
前田訳 | 「ある町に神をおそれず人も顧みぬ裁判人があった。 |
新共同 | 「ある町に、神を畏れず人を人とも思わない裁判官がいた。 |
NIV | He said: "In a certain town there was a judge who neither feared God nor cared about men. |
18章3節 その
口語訳 | ところが、その同じ町にひとりのやもめがいて、彼のもとにたびたびきて、『どうぞ、わたしを訴える者をさばいて、わたしを守ってください』と願いつづけた。 |
塚本訳 | またその町に一人の寡婦がいた。いつもその裁判官の所に来ては、『(早く裁判をして)わたしのため敵に仕返しをしてください』と言っていた。 |
前田訳 | またその町にひとりのやもめがいて、その裁判人のところによく来ては、『わたしのために相手方を制裁してください』といっていた。 |
新共同 | ところが、その町に一人のやもめがいて、裁判官のところに来ては、『相手を裁いて、わたしを守ってください』と言っていた。 |
NIV | And there was a widow in that town who kept coming to him with the plea, `Grant me justice against my adversary.' |
註解: 寡婦は弱者であり悪人に苦しめられ易い。神を畏れず人を顧みぬ裁判人は有力者のためには喜んで奉仕するけれども寡婦の請願には冷淡であった。
辞解
[屡次 ] 原語に無いけれども「往く」の未完了過去なる故かく訳す。
[仇を審 く] 「復讐す」とも訳す(ロマ12:19)。
18章4節 かれ
口語訳 | 彼はしばらくの間きき入れないでいたが、そののち、心のうちで考えた、『わたしは神をも恐れず、人を人とも思わないが、 |
塚本訳 | 裁判官はしばらくの間は取り合おうとしなかったが、あとでひそかに考えた、『わたしは神を恐れず、人を人とも思わないが、 |
前田訳 | 裁判人は長い間気乗りしなかったが、のちにひとり考えた、『わたしは神をおそれず、人も顧みないが、 |
新共同 | 裁判官は、しばらくの間は取り合おうとしなかった。しかし、その後に考えた。『自分は神など畏れないし、人を人とも思わない。 |
NIV | "For some time he refused. But finally he said to himself, `Even though I don't fear God or care about men, |
18章5節
口語訳 | このやもめがわたしに面倒をかけるから、彼女のためになる裁判をしてやろう。そうしたら、絶えずやってきてわたしを悩ますことがなくなるだろう』」。 |
塚本訳 | この寡婦はどうもうるさくて、やりきれないから、(裁判をして、)この女のために仕返しをしてやろう。そうしないと最後にはやって来て、わたしをどんなひどい目にあわせるか知れない。』」 |
前田訳 | このやもめはやっかいだからこの女に有利な裁きをしてやろう。さもないと、あげくのはてにやって来て当たり散らそう』と」。 |
新共同 | しかし、あのやもめは、うるさくてかなわないから、彼女のために裁判をしてやろう。さもないと、ひっきりなしにやって来て、わたしをさんざんな目に遭わすにちがいない。』」 |
NIV | yet because this widow keeps bothering me, I will see that she gets justice, so that she won't eventually wear me out with her coming!'" |
註解: この裁判人がついに腰を折ったのは正義感からでもなくまた義務の念からでも利益のためでもなかった。唯その寡婦の執拗なる懇請に負けたのであった。
辞解
[絶えず来りて我を悩さん] 直訳「来りてついに我を撲ちたたくであろう」(L2、B1)とのことで「悩す」 hupôpiazô は打撲によりて皮膚に青や黒い斑を出すこと、これがあまりに激しい言であるので現行訳のごとき意味に解しようとする説があるけれども訳語としては適当ではない。
18章6節
口語訳 | そこで主は言われた、「この不義な裁判官の言っていることを聞いたか。 |
塚本訳 | それから主は言われた、「この不埒な裁判官の言うことを聞け。 |
前田訳 | そして主はいわれた、「この不正な裁判人に耳傾けよ。 |
新共同 | それから、主は言われた。「この不正な裁判官の言いぐさを聞きなさい。 |
NIV | And the Lord said, "Listen to what the unjust judge says. |
18章7節 まして
口語訳 | まして神は、日夜叫び求める選民のために、正しいさばきをしてくださらずに長い間そのままにしておかれることがあろうか。 |
塚本訳 | (こんな男でもこのとおり。)まして神が、夜昼叫んでいるその選ばれた人々のために仕返し(の裁判)をせず、気長に放っておかれることがあろうか。 |
前田訳 | まして神は夜昼叫びつづける選ばれた人々のためによい裁きをせず、長い間放っておかれようか。 |
新共同 | まして神は、昼も夜も叫び求めている選ばれた人たちのために裁きを行わずに、彼らをいつまでもほうっておかれることがあろうか。 |
NIV | And will not God bring about justice for his chosen ones, who cry out to him day and night? Will he keep putting them off? |
18章8節
口語訳 | あなたがたに言っておくが、神はすみやかにさばいてくださるであろう。しかし、人の子が来るとき、地上に信仰が見られるであろうか」。 |
塚本訳 | わたしは言う、間もなく彼らのために仕返しをされるであろう。しかし人の子(わたし)が来るときに、はたして地上に信仰(をもつ人)が見当るだろうか!」 |
前田訳 | わたしはいう、間もなく彼らのためによい裁きをされよう。しかし、人の子が来るとき、はたして地上に信仰を見ようか」と。 |
新共同 | 言っておくが、神は速やかに裁いてくださる。しかし、人の子が来るとき、果たして地上に信仰を見いだすだろうか。」 |
NIV | I tell you, he will see that they get justice, and quickly. However, when the Son of Man comes, will he find faith on the earth?" |
註解: 選民は夜昼呼ばわりて最後の審判と救いの日の速やかに来らんことを祈っているのであるから、この切なる祈りに答えて神は必ずその審判を行い給い、選民の敵たるものを滅ぼし、選民を永遠の救いに入れ給うであろう。必ず速やかにこれを為し給うであろう。ただしキリストの再臨の時には果して地上に信仰を見い出し得るであろうか。それは見出し得ないであろうという意味である。人間の世界における信仰の将来は決して楽観することができない。イエスも常に信仰の前途につき消極的思想を持ち給うた。
辞解
「遅くとも」と訳された原語は難解である。あるいは(1)「彼らを忍び給わざらんや」(B1、Z0)と訳し、または(2)「彼は彼らのために遅延し給うや」(M0)と訳し、または「彼は敵に対し忍耐を用い給わんや」(L2)等種々に訳されるけれども適切な訳がない。(1)の説最も適当なるがごとし、現行訳は不精確なり。
要義 [熱心なる祈り]祈りは神を動かす力である。特に祈って倦 まない祈祷、毎日執拗に繰り返される祈りは遂に神を動かすに至るものである。ただしこれは徒 にエホバの御名を繰返すことではなく切なる願いをもって聞かれるまで神に迫ることである。祈りはかくあらねばならぬ。
18章9節 また
口語訳 | 自分を義人だと自任して他人を見下げている人たちに対して、イエスはまたこの譬をお話しになった。 |
塚本訳 | なお、自分(だけ)は信心深いとうぬぼれて人を軽蔑している者たちにも、この譬を話された。 |
前田訳 | また、自ら正しいと思い込んで他人を見さげているものどもにも、次の譬えを話された、 |
新共同 | 自分は正しい人間だとうぬぼれて、他人を見下している人々に対しても、イエスは次のたとえを話された。 |
NIV | To some who were confident of their own righteousness and looked down on everybody else, Jesus told this parable: |
18章10節 『
口語訳 | 「ふたりの人が祈るために宮に上った。そのひとりはパリサイ人であり、もうひとりは取税人であった。 |
塚本訳 | 「二人の人が祈りのために(エルサレムの)宮に上った。一人はパリサイ人、他の一人は税金取りであった。 |
前田訳 | 「ふたりの人が宮へ祈りに行った。ひとりはパリサイ人、もうひとりは取税人であった。 |
新共同 | 「二人の人が祈るために神殿に上った。一人はファリサイ派の人で、もう一人は徴税人だった。 |
NIV | "Two men went up to the temple to pray, one a Pharisee and the other a tax collector. |
註解: 自己を判断するのに神の前においてせず人と比較してする場合必ず不当なる自負高慢を生じ、自己を義と信じて他人を軽しめる。パリサイ人はほとんどみなこの種の人であった。パリサイ人と取税人はちょうど正反対の性格を有っている。
18章11節 パリサイ
口語訳 | パリサイ人は立って、ひとりでこう祈った、『神よ、わたしはほかの人たちのような貪欲な者、不正な者、姦淫をする者ではなく、また、この取税人のような人間でもないことを感謝します。 |
塚本訳 | パリサイ人は(得々と)ひとり進み出て、こう祈った、『神様、わたしはほかの人たちのように泥棒、詐欺師、姦淫する者でなく、また、この税金取りのような人間でもないことを感謝します。 |
前田訳 | パリサイ人は立ってひとりでこう祈った、『神よ、わたしはほかの人々のように盗み不正、姦淫せず、また、この取税人のようでもないことを感謝します。 |
新共同 | ファリサイ派の人は立って、心の中でこのように祈った。『神様、わたしはほかの人たちのように、奪い取る者、不正な者、姦通を犯す者でなく、また、この徴税人のような者でもないことを感謝します。 |
NIV | The Pharisee stood up and prayed about himself: `God, I thank you that I am not like other men--robbers, evildoers, adulterers--or even like this tax collector. |
18章12節
口語訳 | わたしは一週に二度断食しており、全収入の十分の一をささげています』。 |
塚本訳 | わたしは一週間に二度も断食し、(きまったものの一割税だけでなく、)一切の収入の一割税を納めております。』 |
前田訳 | 週に二度断食し、収入全体の一割の税を納めます』と。 |
新共同 | わたしは週に二度断食し、全収入の十分の一を献げています。』 |
NIV | I fast twice a week and give a tenth of all I get.' |
註解: これはまったく祈りというべきものではなく、神の前に自己宣伝を行っているいるにすぎず、また他の人の前に自己の優越を誇っているに過ぎない。11節は自分の道徳生活、12節はその宗教生活について自らの誇りを自己に対して述べている。「ほかの人」とか「この取税人」とかを自己との比較に引合いに出すことは彼の生活の特徴を示す、かくして己を義と信じて他人を軽しめるのである。
辞解
[一週のうち二度] 月曜日と木曜日。
18章13節
口語訳 | ところが、取税人は遠く離れて立ち、目を天にむけようともしないで、胸を打ちながら言った、『神様、罪人のわたしをおゆるしください』と。 |
塚本訳 | しかし税金取りは(罪に責められ、)遠く(うしろ)の方に立ったまま、目を天に向け(て祈りをささげ)ようともせず、ただ胸をうって、『神様、どうぞこの罪人のわたしをお赦しください』と言った。 |
前田訳 | 取税人は遠く離れて立ち、目を天に向けようともせず、ただ胸を打っていった、『神よ、この罪びとのわたしにおあわれみを」と。 |
新共同 | ところが、徴税人は遠くに立って、目を天に上げようともせず、胸を打ちながら言った。『神様、罪人のわたしを憐れんでください。』 |
NIV | "But the tax collector stood at a distance. He would not even look up to heaven, but beat his breast and said, `God, have mercy on me, a sinner.' |
註解: 「遙 に」は神の宮に近寄ることをすら苦痛に感じていることを示す。「目を天に向ける」のはユダヤ人の祈りの態度であるが、それすらできず、「胸を打ち」て耐え難き苦痛を感じつつ、神の前に自己の罪人であることを告白し、その憐みを請うたのであった。彼の胸中には自己を義とせんとする心が微塵もなかったのである。
18章14節 われ
口語訳 | あなたがたに言っておく。神に義とされて自分の家に帰ったのは、この取税人であって、あのパリサイ人ではなかった。おおよそ、自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高くされるであろう」。 |
塚本訳 | わたしは言う、あの人でなく、この人の方が(神から)信心深いとされて、家にかえっていった。自分を高くする者は皆低くされるが、自分を低くする者は高くされるのである。」 |
前田訳 | わたしはいう、義とされて家に帰ったのはこの人で、あの人ではない。だれでも、自らを高めるものは低められ、自らを低めるものは高められるから」と。 |
新共同 | 言っておくが、義とされて家に帰ったのは、この人であって、あのファリサイ派の人ではない。だれでも高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる。」 |
NIV | "I tell you that this man, rather than the other, went home justified before God. For everyone who exalts himself will be humbled, and he who humbles himself will be exalted." |
註解: 神の目には不義なる取税人が悔改めた姿が美しく見え、パリサイ人の自己に誇っている姿は醜く見えた。すなわち彼はパリサイ人よりも義とせられてシオンの宮から己が家に下って行った。
要義1 [自己の醜さを知ること]自己を真に罪人と感ずるはなかなか至難であるが、真の謙遜はこの点から発生するゆえにこの深い罪悪意識に至らないキリスト者は、不知不識 の間に自己を他人よりも高しと見る結果となり、ついにこのパリサイ人のごとくに神より義とされないようになる。いたずらに謙遜らしい用語を羅列するのが謙遜ではない。心がこの取税人のごとく、神の前に涙をもってその罪の赦しを請う時、始めて神によって義とされることができる。
要義2 [パリサイ型と取税人型]東洋人、殊に儒教の影響の下にある者は道徳律をもって自己を律する結果、自己の道徳的修養の結果を重視し、従ってその成果につき、神と人との前に誇ろうとするのである。これはパリサイ人の律法主義に極めて近い。彼らは人の目には立派な道徳家であるけれども、かえってそれだけ神の前に罪人として自己を告白することを知らない。反対にかかる道徳律によって束縛されなかった者は、自己の慾望を自由に放任しているためにかえって自己の罪深さを知りやすい地位にいることとなる。自ら高しとする道徳家は神の目には卑 しとされ、自己の罪を感じて神の前に自己を卑 しとする者は神によって高しとされる結果となる。
註解: 本節以後ルカはマルコ伝・マタイ伝の順序に従って記事を進めて行く。9:51より前節迄が所謂ルカの旅行記である。
18章15節 イエスの
口語訳 | イエスにさわっていただくために、人々が幼な子らをみもとに連れてきた。ところが、弟子たちはそれを見て、彼らをたしなめた。 |
塚本訳 | イエスにさわっていただこうとして、人々が幼児たちまでもつれて来ると、弟子たちが見て咎めた。 |
前田訳 | 人々が彼にさわっていただこうと幼子までも連れて来ると、弟子たちは見てたしなめた。 |
新共同 | イエスに触れていただくために、人々は乳飲み子までも連れて来た。弟子たちは、これを見て叱った。 |
NIV | People were also bringing babies to Jesus to have him touch them. When the disciples saw this, they rebuked them. |
18章16節 イエス
口語訳 | するとイエスは幼な子らを呼び寄せて言われた、「幼な子らをわたしのところに来るままにしておきなさい、止めてはならない。神の国はこのような者の国である。 |
塚本訳 | イエスは幼児を呼びよせたのち、(弟子たちに)こう言われた、「子供たちをわたしの所に来させよ、邪魔をするな。神の国はこんな(小さな)人たちのものである。 |
前田訳 | イエスは幼子を呼びよせていわれた、「子どもらをわたしのところに来させなさい。邪魔しないで。神の国はこんな人たちのものである。 |
新共同 | しかし、イエスは乳飲み子たちを呼び寄せて言われた。「子供たちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのような者たちのものである。 |
NIV | But Jesus called the children to him and said, "Let the little children come to me, and do not hinder them, for the kingdom of God belongs to such as these. |
18章17節 われ
口語訳 | よく聞いておくがよい。だれでも幼な子のように神の国を受けいれる者でなければ、そこにはいることは決してできない」。 |
塚本訳 | アーメン、わたしは言う、子供のように(すなおに)神の国(の福音)を受け入れる者でなければ、決してそこに入ることはできない。」 |
前田訳 | 本当にいう、子どものように神の国を受けなければ決してそこに入れまい」と。 |
新共同 | はっきり言っておく。子供のように神の国を受け入れる人でなければ、決してそこに入ることはできない。」 |
NIV | I tell you the truth, anyone who will not receive the kingdom of God like a little child will never enter it." |
註解: 幼児をイエスに触って貰うことに何らかの祝福を感じて子らをイエスに連れ来るものが多かった。弟子たちはこのことが師をいたずらに煩わすことを恐れてこれを禁止した。然るにイエスはかえってその禁止を喜ばず、これを解いて幼児を彼に近付け給うた。そして神の国を受くる者はかくのごとき者であることを示し給うた。幼児が自己について誇るべき何ものをも持たず、唯単純なる偽らざる心をもってイエスに来り、イエスを喜ぶこの態度が、最もよく天国の民と神との関係を表示しているからである。
要義 [幼児のごとき信仰]幼児にも私慾が無いではない。否ある意味ではかえって強い私慾を有ち、自己中心主義である。唯幼児と大人との差異は、幼児は自己の自然のままを外に表わすのに反し、大人はこれを律法または道徳の上着をもって包もうとすることの差異である。かくして大人は常に偽善的であり、天真爛漫さを失い、何人にも心からの信頼を有ち得ないのに反し、幼児はその悪をも悪のままに表わし、その喜怒哀楽、満足不満など凡てが有りのままであり、しかも全き愛と全き信頼とをもってその母の懐にいだかれる。この点において、著しく大人と異なっている。キリスト者はキリスト者らしさなる律法の上衣をもって自己を覆い、偽善的生活を為すべきではない。神と人との前に自己を有りのままに示し、天真のまま自由なる生活を送り、そして全心全霊をもって主に依り頼むべきである。幼児のごとき信仰とはかかる信仰を指すと見るべきである。
18章18節
口語訳 | また、ある役人がイエスに尋ねた、「よき師よ、何をしたら永遠の生命が受けられましょうか」。 |
塚本訳 | ひとりの(最高法院の)役人が尋ねた、「善い先生、何をすれば永遠の命がいただけるでしょうか。」 |
前田訳 | ある役人が「よい先生、何をすれば永遠のいのちを継げましょうか」とたずねると、 |
新共同 | ある議員がイエスに、「善い先生、何をすれば永遠の命を受け継ぐことができるでしょうか」と尋ねた。 |
NIV | A certain ruler asked him, "Good teacher, what must I do to inherit eternal life?" |
註解: マタ19:22によれば、この「司」は青年であった。かつ23節によれば彼は大なる富をもつ金持ちの息子で品行方正(21節)であるだけでも稀なことであるのに、この青年はさらに深く人生の不可解を感じ、永遠の生命を明確に把握したいという熱望に駆られてイエスの許に来た稀に見る有望で立派な青年であった。ユダヤの教師たちは彼に満足を与え得なかった。
18章19節 イエス
口語訳 | イエスは言われた、「なぜわたしをよき者と言うのか。神ひとりのほかによい者はいない。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「なぜわたしを『善い』と言うのか。神お一人のほかに、だれも善い者はない。 |
前田訳 | イエスはいわれた、「なぜわたしを『よい』というのか。神おひとりのほかにだれもよいものはない。 |
新共同 | イエスは言われた。「なぜ、わたしを『善い』と言うのか。神おひとりのほかに、善い者はだれもいない。 |
NIV | "Why do you call me good?" Jesus answered. "No one is good--except God alone. |
註解: 第一にイエスはこの青年の「善き師よ」との呼びかけの中に、その心にある根本的欠陥を見出し給うた。すなわちこの青年は唯一の神の絶対性とその至善至愛について心が充たされておらず、その結果彼が人間と考えていたイエスに対し「善き師」と言い、人間としての普通の尊敬にやや阿諛 を交えたるごとき月並みの呼びかけをしたのであった。イエスのごとき天才は、些末 な事実から事物の真相の凡てを洞見する。イエスはかくして青年の心を単的に神に向けようとし給うたのであった。
18章20節
口語訳 | いましめはあなたの知っているとおりである、『姦淫するな、殺すな、盗むな、偽証を立てるな、父と母とを敬え』」。 |
塚本訳 | (するべきことは神の掟を守ることだけで、)掟はあなたが知っている通り。──“姦淫をしてはならない、殺してはならない、盗んではならない、偽りの証言をしてはならない、父と母とを敬え。”(ただこれだけである。)」 |
前田訳 | いましめはご承知のとおり、『姦淫するな、殺すな、盗むな、偽証するな、父と母を敬え』である」と。 |
新共同 | 『姦淫するな、殺すな、盗むな、偽証するな、父母を敬え』という掟をあなたは知っているはずだ。」 |
NIV | You know the commandments: `Do not commit adultery, do not murder, do not steal, do not give false testimony, honor your father and mother.' " |
註解: 第二にイエスはモーセの十誡の中、日常の対人関係の諸律法を列挙して彼に示し給うた。イエスはこれによって彼の罪をさとらしめ、彼を神に導こうとし給うたのであった。イエスの教えに何の新味もなかったのは彼にとって意外なことであった。それはユダヤの子供は幼時よりこれらを暗誦させられ、その実行を教え込まれていたからである。そしてそれだけでは、如何にしても永遠の生命を確保したことを感じないためにイエスに来たのであったから、今さらそれをイエスから聞こうとは思わなかった。
18章21節
口語訳 | すると彼は言った、「それらのことはみな、小さい時から守っております」。 |
塚本訳 | その人が言った、「それならみんな若い時から守っております。」 |
前田訳 | その人はいった、「それならみんな若いときから守っています」と。 |
新共同 | すると議員は、「そういうことはみな、子供の時から守ってきました」と言った。 |
NIV | "All these I have kept since I was a boy," he said. |
18章22節 イエス
口語訳 | イエスはこれを聞いて言われた、「あなたのする事がまだ一つ残っている。持っているものをみな売り払って、貧しい人々に分けてやりなさい。そうすれば、天に宝を持つようになろう。そして、わたしに従ってきなさい」。 |
塚本訳 | イエスは聞いて言われた、「もう一つ欠けている。持っているものをことごとく売って、(その金を)貧乏な人に分けてやりなさい。そうすれば天に宝を積むことができる。それから来て、わたしの弟子になりなさい。」 |
前田訳 | イエスはそれを聞いていわれた、「まだひとつ足りない。持ちものを皆売って貧しい人々に分け与えなさい。そうすれば天に宝を得よう。それから来てわたしに従いなさい」と。 |
新共同 | これを聞いて、イエスは言われた。「あなたに欠けているものがまだ一つある。持っている物をすべて売り払い、貧しい人々に分けてやりなさい。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい。」 |
NIV | When Jesus heard this, he said to him, "You still lack one thing. Sell everything you have and give to the poor, and you will have treasure in heaven. Then come, follow me." |
註解: イエスはこの青年の心の病根を見出し給うた。それは彼が全心全霊をもって神に依り頼み得ず、自分の財寳に依り頼んでいることであった。それ故イエスは彼の心をその財産から断ち切って、これをすべてイエスに向けようとした。それ故にその資産を全部売却して貧者に分配すること、そしてイエスに従うべきことを彼にすすめた。この行為が貧民救助のためとか社会政策のために必要であり、それを為せば永遠の生命をその褒賞として与えられるであろうとの意ではない。またイエスはここで彼に経済政策の原理を教えているのでもない。彼の心を資産より離して神に向けようとし給うたのであった。
辞解
[足らぬこと] leipô は「残っていること」の意。
18章23節
口語訳 | 彼はこの言葉を聞いて非常に悲しんだ。大金持であったからである。 |
塚本訳 | 彼はこれを聞き、しょげてしまった。非常な金持であったのである。 |
前田訳 | 彼はそれを聞いて落胆した。大金持であったからである。 |
新共同 | しかし、その人はこれを聞いて非常に悲しんだ。大変な金持ちだったからである。 |
NIV | When he heard this, he became very sad, because he was a man of great wealth. |
註解:些細 な資産でも凡てこれを施して無一物になることはほとんど凡ての人にとって困難であるからこの青年が憂鬱になったのも無理からぬことである。
辞解
[悲しむ] perilupos 悲しみに取囲まれるの意。
18章24節 イエス
口語訳 | イエスは彼の様子を見て言われた、「財産のある者が神の国にはいるのはなんとむずかしいことであろう。 |
塚本訳 | 彼を見ると、イエスは言われた、「物持が神の国に入るのは、なんとむずかしいことだろう。 |
前田訳 | 彼を見てイエスはいわれた、「資産家が神の国に入るのは何とむずかしいことか。 |
新共同 | イエスは、議員が非常に悲しむのを見て、言われた。「財産のある者が神の国に入るのは、なんと難しいことか。 |
NIV | Jesus looked at him and said, "How hard it is for the rich to enter the kingdom of God! |
18章25節
口語訳 | 富んでいる者が神の国にはいるよりは、らくだが針の穴を通る方が、もっとやさしい」。 |
塚本訳 | 金持が神の国に入るよりは、駱駝が縫針のめどを通る方がたやすい。」 |
前田訳 | らくだが針の穴を通るほうが金持が神の国に入るよりはやさしい」と。 |
新共同 | 金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」 |
NIV | Indeed, it is easier for a camel to go through the eye of a needle than for a rich man to enter the kingdom of God." |
註解: 駱駝が針の穴を通ることができないのであるから富者は神の国に入ることができないこととなる。そしてそれは事実である。ただし人間の力をもってはできないという意味であって神には能わざる処がない。
18章26節
口語訳 | これを聞いた人々が、「それでは、だれが救われることができるのですか」と尋ねると、 |
塚本訳 | 聞いている人たちが言った、「それでは、だれが救われることが出来るのだろう。」 |
前田訳 | 聞いている人々はいった、「それならだれが救われえよう」と。 |
新共同 | これを聞いた人々が、「それでは、だれが救われるのだろうか」と言うと、 |
NIV | Those who heard this asked, "Who then can be saved?" |
註解: 人々の中には弟子たちもあった(マタ、マコ)。彼らの多くは貧しき人々であったにも関わらず、なお救われることの困難を感じた理由は、(1)青年の立派さに打たれかかる真面目さをもっても神の国に入り得ないのだろうかと感じたこと、(2)もし財産を凡て売って貧民に施さなければならないならば貧者といえども容易にできることではないと感じたこと、そして(3)これは幾分本文の意味以外に逸脱しているが、もし弟子たちにイエスの心を見る目があったとすれば、イエスが棄てよと命じ給うた資産の意味は単に動産や不動産のみではなく、知識、健康、経験、地位、身分等、凡て人がそれに依り頼んでいる処のあらゆるものを包含すべきであることを悟ったのであろう。
18章27節 イエス
口語訳 | イエスは言われた、「人にはできない事も、神にはできる」。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「人間に出来ないことが、神には出来る。」 |
前田訳 | 彼はいわれた、「人にできないことが神にはおできになる」と。 |
新共同 | イエスは、「人間にはできないことも、神にはできる」と言われた。 |
NIV | Jesus replied, "What is impossible with men is possible with God." |
註解: 人間の力で他の人間を救うことができず、また自分の力で自分を救うことができない。しかし神は駱駝をして針の穴を通らしめ、富者を神の国に入らしむることを得たもう。
18章28節 ペテロ
口語訳 | ペテロが言った、「ごらんなさい、わたしたちは自分のものを捨てて、あなたに従いました」。 |
塚本訳 | ペテロが(イエスに)言った、「でも、わたし達はこの通り、自分の持ち物をすててあなたの弟子になりました。」 |
前田訳 | ペテロがいった、「ごらんのとおり、われらは自分のものを捨ててあなたに従いました」と。 |
新共同 | するとペトロが、「このとおり、わたしたちは自分の物を捨ててあなたに従って参りました」と言った。 |
NIV | Peter said to him, "We have left all we had to follow you!" |
註解: ペテロは彼ら弟子たちが、その所有をすててイエスに従っていることを想い出して喜びにたえず、これこそ神によって為さしめられた処であり、これならば神の国に入り得るであろうことを思って、その心持をイエスに告白した。
18章29節 イエス
口語訳 | イエスは言われた、「よく聞いておくがよい。だれでも神の国のために、家、妻、兄弟、両親、子を捨てた者は、 |
塚本訳 | 彼らに言われた、「アーメン、わたしは言う、神の国のために家や妻や兄弟や親や子を捨てた者で、 |
前田訳 | 彼らにいわれた、「本当にいう、だれでも神の国のために家や妻や兄弟や両親や子を捨てたものは、 |
新共同 | イエスは言われた。「はっきり言っておく。神の国のために、家、妻、兄弟、両親、子供を捨てた者はだれでも、 |
NIV | "I tell you the truth," Jesus said to them, "no one who has left home or wife or brothers or parents or children for the sake of the kingdom of God |
18章30節
口語訳 | 必ずこの時代ではその幾倍もを受け、また、きたるべき世では永遠の生命を受けるのである」。 |
塚本訳 | この世でその幾倍を、また来るべき世では永遠の命を受けない者は一人もない。」 |
前田訳 | この時代ではそのいく倍を、来たるべき世では永遠のいのちを受ける」と。 |
新共同 | この世ではその何倍もの報いを受け、後の世では永遠の命を受ける。」 |
NIV | will fail to receive many times as much in this age and, in the age to come, eternal life." |
註解: 私慾のために家族を遺棄し、資産を浪費するものは、家族や資産を失うのみならず自己の生命をも失い、神の国のために家族を棄て、資産を費やすものは今の世においても数倍を受け、これに加うるに永遠の生命を必ず受ける。事実、神より与えられる日々の糧は巨万の富にまさる価値があり、神より与えられる家族は肉による家族に、さらにその上に神に在る親しさを与えられ、肉によらざる家族は肉身にもまされる父母兄弟となる(マタ12:46−50)。
要義1 [道徳や財寳は永生を得るに足らず]財寳はこの世の生活に安全と快楽とを与え、道徳はこの世において栄誉と信用とを得しめる。しかしそれらは永遠の生命に到達する保証とはならない。永遠の生命はただ神の生命に連なること、すなわち神のみに依り頼むことによりてのみこれを得ることができる。神の生命のみが永遠であるが故である。
要義2 [一を欠く]誰しも確かなる信仰を欲しない者はなく、永遠の生命を確保したいと思わない者はない。しかるにそれが非常に困難なのは、自分の心の中に何か一つの離し難いものがあり、自分の心がそれに執着しているからである。それがこの富める青年の場合のごとくに資産であることもあろう。または自分の家族、地位、身分、恋愛、名誉、学識、習慣、伝統などである場合もあろう。何れにしても、それを棄て得ないものがある場合、それが信仰に入ることの妨げを為す。神に対する祈りをもって神の力によりこれを断ち切る時、そこに永遠の生命が与えられる。
分類
9 ユダヤにおけるイエス 18:31 - 21:38
9-1 ユダヤ人に対する警告 18:31 - 19:48
9-1-イ 受難の予告(その三) 18:31 - 18:34
(マタ20:17-19) (マコ10:32-34)
18章31節 イエス
口語訳 | イエスは十二弟子を呼び寄せて言われた、「見よ、わたしたちはエルサレムへ上って行くが、人の子について預言者たちがしるしたことは、すべて成就するであろう。 |
塚本訳 | イエスは(また)十二人(の弟子だけ)をそばに呼んで、こう話された、「さあ、いよいよわたし達はエルサレムへ上るのだ。人の子(わたし)について預言者たちが(聖書に)書いてあることは、ことごとく成就する。 |
前田訳 | 彼は十二人を呼びよせていわれた、「さあ、われらはエルサレムへ上る。人の子について預言者たちが書いたことはすべて成就しよう。 |
新共同 | イエスは、十二人を呼び寄せて言われた。「今、わたしたちはエルサレムへ上って行く。人の子について預言者が書いたことはみな実現する。 |
NIV | Jesus took the Twelve aside and told them, "We are going up to Jerusalem, and everything that is written by the prophets about the Son of Man will be fulfilled. |
18章32節
口語訳 | 人の子は異邦人に引きわたされ、あざけられ、はずかしめを受け、つばきをかけられ、 |
塚本訳 | ──異教人に引き渡されて、なぶられ、いじめられ、唾をかけられ、 |
前田訳 | 人の子は異邦人に渡され、あざけられ、はずかしめられ、唾せられ、 |
新共同 | 人の子は異邦人に引き渡されて、侮辱され、乱暴な仕打ちを受け、唾をかけられる。 |
NIV | He will be handed over to the Gentiles. They will mock him, insult him, spit on him, flog him and kill him. |
18章33節
口語訳 | また、むち打たれてから、ついに殺され、そして三日目によみがえるであろう」。 |
塚本訳 | ついに鞭で打たれて殺されるのである。しかし三日目に復活する。」 |
前田訳 | 鞭打たれて、殺されよう。そして三日目に復活しよう」と。 |
新共同 | 彼らは人の子を、鞭打ってから殺す。そして、人の子は三日目に復活する。」 |
NIV | On the third day he will rise again." |
註解: 第三回受難の予告である。第一回(ルカ9:22)、第二回(ルカ9:44)に比して益々その内容が詳しくなっていることの差があるだけである。いよいよイエスの十字架が近付いて来たからである。
18章34節
口語訳 | 弟子たちには、これらのことが何一つわからなかった。この言葉が彼らに隠されていたので、イエスの言われた事が理解できなかった。 |
塚本訳 | 弟子たちはこのことが全くわからなかった。この言葉(の意味)が彼らに隠されていて、(イエスの)言われたことが呑み込めなかったのである。 |
前田訳 | 彼らはこのことが、ひとつもわからなかった。このことばは彼らに隠されていて、いわれたことがつかめなかったのである。 |
新共同 | 十二人はこれらのことが何も分からなかった。彼らにはこの言葉の意味が隠されていて、イエスの言われたことが理解できなかったのである。 |
NIV | The disciples did not understand any of this. Its meaning was hidden from them, and they did not know what he was talking about. |
註解: ルカ9:45註および要義参照。イエスの言の意味が解らないのではなく、またかかる事件が起らないだろうと考えたわけでもなかったにも関わらず、このイエスの苦難の預言がその意義の真の深さにおいて彼らに理解されなかった。神のことに関しては二種の理解がある。一は理性をもってする理解であり、二は霊をもってする理解である。弟子たちはイエスの言葉をこの第二の意味において理解しなかった。
18章35節 イエス、エリコに
口語訳 | イエスがエリコに近づかれたとき、ある盲人が道ばたにすわって、物ごいをしていた。 |
塚本訳 | エリコの(町の)近くに来られた時のこと、ひとりの盲人が道ばたに坐って物乞いをしていた。 |
前田訳 | 彼がエリコに近づかれたときのこと、ある目しいが道ばたにすわって物乞いしていた。 |
新共同 | イエスがエリコに近づかれたとき、ある盲人が道端に座って物乞いをしていた。 |
NIV | As Jesus approached Jericho, a blind man was sitting by the roadside begging. |
18章36節
口語訳 | 群衆が通り過ぎる音を耳にして、彼は何事があるのかと尋ねた。 |
塚本訳 | 群衆が通り過ぎる音を聞くと、あれは何ごとかとたずねた。 |
前田訳 | 群衆が通る音を聞いて、あれは何ごとかとたずねた。 |
新共同 | 群衆が通って行くのを耳にして、「これは、いったい何事ですか」と尋ねた。 |
NIV | When he heard the crowd going by, he asked what was happening. |
註解: 当時は過越の祭が近付いていたので各方面よりの都上りの群衆がこの途を通っていた。それらの巡礼者がイエスおよび弟子たちの一群の都上りを聞いてその周囲に集って来、自然イエスを中心として大きい群衆が動いており、盲人にも何事があるのかと思われこれを質問したのであろう。マタ20:29。マコ10:46にはエリコを出づる時とあり少しく相違があるけれども、同一の事件についての異なった言伝えであろう。
18章37節
口語訳 | ところが、ナザレのイエスがお通りなのだと聞かされたので、 |
塚本訳 | 人々がナザレ人イエスのお通りだとおしえてやると、 |
前田訳 | 人々がナザレ人イエスのお通りと告げると、 |
新共同 | 「ナザレのイエスのお通りだ」と知らせると、 |
NIV | They told him, "Jesus of Nazareth is passing by." |
18章38節
口語訳 | 声をあげて、「ダビデの子イエスよ、わたしをあわれんで下さい」と言った。 |
塚本訳 | 盲人は、「ダビデの子のイエス様、どうぞお慈悲を」と言って叫んだ。 |
前田訳 | 目しいは叫んだ、「ダビデの子イエスさま、おあわれみを」と。 |
新共同 | 彼は、「ダビデの子イエスよ、わたしを憐れんでください」と叫んだ。 |
NIV | He called out, "Jesus, Son of David, have mercy on me!" |
18章39節
口語訳 | 先頭に立つ人々が彼をしかって黙らせようとしたが、彼はますます激しく叫びつづけた、「ダビデの子よ、わたしをあわれんで下さい」。 |
塚本訳 | 先頭に立っていた人たちが叱りつけて黙らせようとしたが、かえってますます、「ダビデのお子様、どうぞお慈悲を」と叫びつづけた。 |
前田訳 | 先頭に立つ人々が黙るようにたしなめると、目しいはますます叫びつづけた、「ダビデの子、おあわれみを」と。 |
新共同 | 先に行く人々が叱りつけて黙らせようとしたが、ますます、「ダビデの子よ、わたしを憐れんでください」と叫び続けた。 |
NIV | Those who led the way rebuked him and told him to be quiet, but he shouted all the more, "Son of David, have mercy on me!" |
註解: この盲人はナザレのイエスに関して知っており、また彼がメシヤとして来給うたことをも信じていたもののようである。従って彼は是非ともこのイエスに目を開けてもらいたいと熱望し、人の止めるのをも顧みず声を上げた。真理を求めて叫ぶ者には他人の言は耳に入らない。最もよくイエスを理解し得るべき学者、パリサイ人らがイエスを拒み、かえってかかる無智の盲人がイエスを信じた。この事実はユダヤ人に多くの警告を与うべきであった。
18章40節 イエス
口語訳 | そこでイエスは立ちどまって、その者を連れて来るように、とお命じになった。彼が近づいたとき、 |
塚本訳 | イエスは立ち止まって、盲人をつれてくるように命じられた。盲人が近づいてくると尋ねられた。 |
前田訳 | イエスは立ち止まって、目しいを連れて来るよう命じられた。目しいが近づくとたずねられた、 |
新共同 | イエスは立ち止まって、盲人をそばに連れて来るように命じられた。彼が近づくと、イエスはお尋ねになった。 |
NIV | Jesus stopped and ordered the man to be brought to him. When he came near, Jesus asked him, |
註解: イエスは遙かに盲人の声をきき、その真摯なのに動かされ、盲人を自分の許に呼び寄せ給うた。
かれ
18章41節 イエス
口語訳 | 「わたしに何をしてほしいのか」とおたずねになると、「主よ、見えるようになることです」と答えた。 |
塚本訳 | 「何をしてもらいたいのか。」彼がこたえた、「主よ、見えるようになりたい。」 |
前田訳 | 「何をしてもらいたいのか」と。答えた、「主よ、目が見えますように」と。 |
新共同 | 「何をしてほしいのか。」盲人は、「主よ、目が見えるようになりたいのです」と言った。 |
NIV | "What do you want me to do for you?" "Lord, I want to see," he replied. |
18章42節 イエス
口語訳 | そこでイエスは言われた、「見えるようになれ。あなたの信仰があなたを救った」。 |
塚本訳 | そこでイエスが、「見えるようになれ。あなたの信仰がなおした」と言われると、 |
前田訳 | イエスはいわれた、「見えるようになれ。あなたの信仰があなたを救った」と。 |
新共同 | そこで、イエスは言われた。「見えるようになれ。あなたの信仰があなたを救った。」 |
NIV | Jesus said to him, "Receive your sight; your faith has healed you." |
18章43節
口語訳 | すると彼は、たちまち見えるようになった。そして神をあがめながらイエスに従って行った。これを見て、人々はみな神をさんびした。 |
塚本訳 | たちどころに見えるようになって、神を讃美しながらイエスについて行った。人々は皆これを見て、神に讃美をささげた。 |
前田訳 | たちまち目が見えた。そして神をあがめながら彼に従って行った。これを見て人々は皆神に讃美をささげた。 |
新共同 | 盲人はたちまち見えるようになり、神をほめたたえながら、イエスに従った。これを見た民衆は、こぞって神を賛美した。 |
NIV | Immediately he received his sight and followed Jesus, praising God. When all the people saw it, they also praised God. |
註解: 世の人々からは全く無視され邪魔物視いされている一人の盲人をもイエスはその愛をもって顧み給う。この世において無視される不幸の人はかえって神の愛を専らにする幸福者である。この盲人はイエスの御言によって直に醫され、彼の心は神を讃美しイエスに従った。かくして民もまたイエスの御業により、イスラエルの神を讃美せざるを得なかった。
ルカ伝第19章
9-1-ハ ザアカイ、イエスを迎う 19:1 - 19:10
註解: 1−10節のザアカイの物語はルカ伝特有。
口語訳 | さて、イエスはエリコにはいって、その町をお通りになった。 |
塚本訳 | エリコに入って、(そこを)通っておられた。 |
前田訳 | 彼はエリコヘ入って町をお通りであった。 |
新共同 | イエスはエリコに入り、町を通っておられた。 |
NIV | Jesus entered Jericho and was passing through. |
19章2節
口語訳 | ところが、そこにザアカイという名の人がいた。この人は取税人のかしらで、金持であった。 |
塚本訳 | すると、(町に)名をザアカイという人がいた。この人は税金取りの頭で、金持であった。 |
前田訳 | そこにザアカイという名の人がいた。取税人の頭で、金持であった。 |
新共同 | そこにザアカイという人がいた。この人は徴税人の頭で、金持ちであった。 |
NIV | A man was there by the name of Zacchaeus; he was a chief tax collector and was wealthy. |
註解: 前章終りの盲人はエリコの入口すなわち東にて醫され、ザアカイの出来事はエリコの西側で起った。エリコは香料の産地でその税額も多いので大きい収税署があり、取税長も置かれていた。彼は富んでいたということは多くの取税人と共通の現象であったろう。この物語も学者パリサイ人らの不信と、彼らが軽蔑する取税人の信仰とを示している。
辞解
[ザアカイ] ヘブル語で「罪無き」「正しき」等の意味。
19章3節 イエスの
口語訳 | 彼は、イエスがどんな人か見たいと思っていたが、背が低かったので、群衆にさえぎられて見ることができなかった。 |
塚本訳 | イエスがどんな人か見ようとしたが、背が低いので、群衆のため見ることが出来なかった。 |
前田訳 | イエスがどんな方か見ようとしたが、背が低いので、群衆のため果たさなかった。 |
新共同 | イエスがどんな人か見ようとしたが、背が低かったので、群衆に遮られて見ることができなかった。 |
NIV | He wanted to see who Jesus was, but being a short man he could not, because of the crowd. |
19章4節
口語訳 | それでイエスを見るために、前の方に走って行って、いちじく桑の木に登った。そこを通られるところだったからである。 |
塚本訳 | それで先の方に駈けていって、桑無花果の木に上った。そこを通られるところを見ようとしたのである。 |
前田訳 | それで彼を見ようと前のほうへ駆け出して桑の木にのぼった。そこをお通りのところであったからである。 |
新共同 | それで、イエスを見るために、走って先回りし、いちじく桑の木に登った。そこを通り過ぎようとしておられたからである。 |
NIV | So he ran ahead and climbed a sycamore-fig tree to see him, since Jesus was coming that way. |
註解: ザアカイはイエスのことを以前より聞き及んでいたのであろう。彼の態度の中に是非ともイエスを見んとの熱情がこもっていることが窺われる。これは好奇心からではなく、彼の内心の霊的飢渇がイエスによって醫されるであろうことを感じたからである。
辞解
[思へど] 「熱心に求めつつあった」こと、未完了過去形で継続的動作でしきりにこれを欲したことを示す。
「イエスを見んとて」は訳語を欠く。
19章5節 イエス
口語訳 | イエスは、その場所にこられたとき、上を見あげて言われた、「ザアカイよ、急いで下りてきなさい。きょう、あなたの家に泊まることにしているから」。 |
塚本訳 | イエスはその場所に来られると、ザアカイを見上げて言われた、「ザアカイ、急いで下りておいで。きょうはあなたの家に泊まることになっているから。」 |
前田訳 | イエスはその場所へ来られると、目をあげていわれた、「ザアカイよ、急いでお降り。きょうはあなたの家に泊まることになっているから」と。 |
新共同 | イエスはその場所に来ると、上を見上げて言われた。「ザアカイ、急いで降りて来なさい。今日は、ぜひあなたの家に泊まりたい。」 |
NIV | When Jesus reached the spot, he looked up and said to him, "Zacchaeus, come down immediately. I must stay at your house today." |
註解: (▲「べし」は dei で「必要」を示す。ここでは「汝の家に宿らなければならない」でザアカイの熱心がイエスをここに到らしめた。)如何にしてイエスがザアカイの名を知り給うたかは判らないが(同行者の中に彼を知る者があってイエスにその名を示したか、または彼の霊的直観力によったものと解する以外に途はない)、少なくともザアカイの熱心な心持は、これを洞察し給うたことは疑いない。イエスの使命感(10節)はザアカイの心に共鳴したのであった。イエスを我が家に宿すこと、イエスが我が心の中に主となり給うこと、これにまされる幸福はない。
口語訳 | そこでザアカイは急いでおりてきて、よろこんでイエスを迎え入れた。 |
塚本訳 | ザアカイは急いで下りてきて、喜んでお迎えした。 |
前田訳 | ザアカイは急いで降りて、よろこんでお迎えした。 |
新共同 | ザアカイは急いで降りて来て、喜んでイエスを迎えた。 |
NIV | So he came down at once and welcomed him gladly. |
19章7節
口語訳 | 人々はみな、これを見てつぶやき、「彼は罪人の家にはいって客となった」と言った。 |
塚本訳 | 皆がこれを見て、イエスは(税金取りのような)罪人の所に入りこんで宿を取った、と言ってぶつぶつ呟いた。 |
前田訳 | 皆はこれを見て、「彼は罪びとのところに入って客となった」といってつぶやいた。 |
新共同 | これを見た人たちは皆つぶやいた。「あの人は罪深い男のところに行って宿をとった。」 |
NIV | All the people saw this and began to mutter, "He has gone to be the guest of a `sinner.'" |
註解: 一般のユダヤ人からは異邦人のごとくに疎遠に扱われ、罪人として卑しめられていたザアカイの家に、彼が心中深く崇拝して止まなかったイエスが突然宿り給うのであるからザアカイの喜びは大きかった。あたかも我ら罪人の心の中にイエスが宿り給うた時の喜びに等しい。ただし旧い伝統に支配されている一般のユダヤ人は、イエスのこの態度について呟き、彼を非難した。
辞解
[客となれり] 「旅装を解く」「宿る」の意。
19章8節 ザアカイ
口語訳 | ザアカイは立って主に言った、「主よ、わたしは誓って自分の財産の半分を貧民に施します。また、もしだれかから不正な取立てをしていましたら、それを四倍にして返します」。 |
塚本訳 | しかしザアカイは進み出て主に言った、「主よ、わたしは(誓って)財産の半分を貧乏な人たちに施します。人からゆすり取ったものは四倍にして返します。」 |
前田訳 | しかしザアカイは立って主にいった、「主よ、わたしは財産の半分を貧しい人々に施します。また、もし人から何かゆすったならば四倍にして返します」と。 |
新共同 | しかし、ザアカイは立ち上がって、主に言った。「主よ、わたしは財産の半分を貧しい人々に施します。また、だれかから何かだまし取っていたら、それを四倍にして返します。」 |
NIV | But Zacchaeus stood up and said to the Lord, "Look, Lord! Here and now I give half of my possessions to the poor, and if I have cheated anybody out of anything, I will pay back four times the amount." |
註解: イエスより何らの要求もないのであったが、その心中に自己の罪を感ずる心が起って来、かつイエスが、彼の砕けた心を受納れ給うに相違ないことを感じ、その悔改めと歓喜の心の表顕として所有の半を貧者に施し、不正の方法で取ったものがある場合四倍にして償うことを申出た。四倍は窃盗の場合の規定にあり(出21:37)。ただし資産を施したり、または償ったりする分量の多少が問題ではなく、その心の態度が問題である。
辞解
[誣 ひ訴へて人より取る] sukophanteô は密輸出を行う者を暴露する人を指した語、これが濫用されるので訳語のごとき意味となる(ルカ3:14)。
19章9節 イエス
口語訳 | イエスは彼に言われた、「きょう、救がこの家にきた。この人もアブラハムの子なのだから。 |
塚本訳 | イエスが(人々に)言われた、「救いは(きょう、)この家に入った。(人でなしのように言われる)この人も、やはり(あなた達と同じ)アブラハムの末だから。 |
前田訳 | イエスは彼にいわれた、「きょう救いがこの家に入った。彼もまたアブラハムの子である。 |
新共同 | イエスは言われた。「今日、救いがこの家を訪れた。この人もアブラハムの子なのだから。 |
NIV | Jesus said to him, "Today salvation has come to this house, because this man, too, is a son of Abraham. |
註解: 「来たれり」 egeneto 「成れり」で、発生したこと、救いは個人的であるけれども、主人の信仰は一家を信仰に導く起因となることが多い(ヨハ4:53。使3:25)。
辞解
[アブラハムの子] ユダヤ人、彼も当然救わるべき人である。
19章10節 それ
口語訳 | 人の子がきたのは、失われたものを尋ね出して救うためである」。 |
塚本訳 | 人の子(わたし)は“滅びうせた者をさがして”救うために来たのである。」 |
前田訳 | 人の子が来たのは失われたものを探して救うためである」と。 |
新共同 | 人の子は、失われたものを捜して救うために来たのである。」 |
NIV | For the Son of Man came to seek and to save what was lost." |
註解: イエスがこの世に来給うた目的がザアカイの場合に実現した。イエスの喜びが推察される。
要義 [富める青年とザアカイ]ルカ18:18以下の富める青年の場合は、イエスはその全財産を売って貧者に施すことがその救いに必要であることを教えられ、ザアカイの場合はその幾分を施す決心をしただけで、救いがその家に起ったことを喜ばれた。この二つの事実を見ても知り得る通り、人の霊魂の救いは、それが神のみに依り頼むか如何かに懸かっているのであって、資産の処分の方法または程度の問題ではない。もしイエスが富める青年にその資産の半分を売って貧者に施せと命じ給い、もし青年がこれに従ったとしても、もし彼の心が他の半分に依り頼んでいたならば、彼は永遠の生命を得ることができなかったであろう。富の分配問題は社会問題、経済問題としては重要な問題であるけれども信仰問題の中心課題ではない。
19章11節
口語訳 | 人々がこれらの言葉を聞いているときに、イエスはなお一つの譬をお話しになった。それはエルサレムに近づいてこられたし、また人々が神の国はたちまち現れると思っていたためである。 |
塚本訳 | 人々がこれを聞いているとき、さらに一つの譬を話された。それはイエスが(いよいよ)エルサレムに近づかれたので、今にも神の国が現われるように人々が考えたからである。 |
前田訳 | 人々がこれを聞いているとき、彼はもうひとつの譬えを話された。それは、彼がエルサレムに近づかれて、神の国がたちまち現われると人々が思ったからである。 |
新共同 | 人々がこれらのことに聞き入っているとき、イエスは更に一つのたとえを話された。エルサレムに近づいておられ、それに、人々が神の国はすぐにも現れるものと思っていたからである。 |
NIV | While they were listening to this, he went on to tell them a parable, because he was near Jerusalem and the people thought that the kingdom of God was going to appear at once. |
註解: 富める青年への訓戒、ザアカイの悔改めとその教訓等を聞き、人々はこのイエスこそメシヤであり、彼のエルサレム行きによって神の国がたちどころに実現するであろうと考えたので ─ 弟子たちもその例に洩れなかった。彼らはルカ18:31、32を解し得なかったからである ─ イエスはその誤謬を訂正し、神の国の完成はイエスの再臨の時であり、それまでの間に各人には地上の生活における責務が与えられ、やがてキリスト来りて各人が如何にその任務を果したかを審べ、その成果を精算するであろうことを告げ給うた。使徒たちの場合はそれが福音伝道の任務である。
19章12節
口語訳 | それで言われた、「ある身分の高い人が、王位を受けて帰ってくるために遠い所へ旅立つことになった。 |
塚本訳 | それで言われた、「ある高貴な人が王の位を授かって来るために、遠い国に行った。 |
前田訳 | 彼はいわれた、「ある高貴な人が王位を受けて来るために遠いところへ旅立った。 |
新共同 | イエスは言われた。「ある立派な家柄の人が、王の位を受けて帰るために、遠い国へ旅立つことになった。 |
NIV | He said: "A man of noble birth went to a distant country to have himself appointed king and then to return. |
註解: 彼は還って来る時には王としての権威をもって来るであろう。キリストの再臨はすなわちその時である。例えばヘロデ王の死後その子アケラオがローマに行き、皇帝からユダヤの王の位を受けようとした場合のごときがその実例である。
19章13節
口語訳 | そこで十人の僕を呼び十ミナを渡して言った、『わたしが帰って来るまで、これで商売をしなさい』。 |
塚本訳 | (出かける時、)彼は十人の僕を呼んで、一ミナ[五万円]ずつ十ミナを渡し、『かえって来るまで(これで)商売をしておけ』と言った。 |
前田訳 | その人は十人の僕を呼んで十ミナを渡していった、『わたしの留守中これで商売しなさい』と。 |
新共同 | そこで彼は、十人の僕を呼んで十ムナの金を渡し、『わたしが帰って来るまで、これで商売をしなさい』と言った。 |
NIV | So he called ten of his servants and gave them ten minas. `Put this money to work,' he said, `until I come back.' |
註解: 「僕」は使徒その他の弟子たちで、各々に一ミナを付したのは人間としての仕事の種類は異なってもその使命の価値は神の目に同一であることを示す。
辞解
[一ミナ] 銀としては(15節)約20日分の労働賃に相当している。なおマタ25:14−30との差別については附記を見よ。
19章14節
口語訳 | ところが、本国の住民は彼を憎んでいたので、あとから使者をおくって、『この人が王になるのをわれわれは望んでいない』と言わせた。 |
塚本訳 | ところが国民は彼を憎んでいたので、あとから使者をやって、『われわれはこの人を王に戴きたくない』と言わせた。 |
前田訳 | 住民は彼を憎んでいたので、あとから使いをやっていわせた、『われらはこの人を王に戴きたくない』と。 |
新共同 | しかし、国民は彼を憎んでいたので、後から使者を送り、『我々はこの人を王にいただきたくない』と言わせた。 |
NIV | "But his subjects hated him and sent a delegation after him to say, `We don't want this man to be our king.' |
註解: イエスの死後も世の人はイエスを信じようとしない。彼の王たるべき人であることを認めようともしない。なおアケラオの王位継承に反対して人民はローマ皇帝に訴えたことがあるが、この寓話に類似しており、イエスはその事実に暗示を得たのかもしれない(Z0)。「不義なる裁判人」(ルカ18:2−8)「不義なる支配人」(ルカ16:1−13)等のごとく、イエスは神の国のことにつき悪しきものの比喩を自由に用い給うたのであるからこの場合もアケラオの例を念頭に置いたとしても不思議ではない。この三つの寓話とも他の三福音書にないのは、あるいはこの点が憂慮されて除かれていたのかもしれない。これをルカのみ採り入れたのであるとも考えられる。
19章15節
口語訳 | さて、彼が王位を受けて帰ってきたとき、だれがどんなもうけをしたかを知ろうとして、金を渡しておいた僕たちを呼んでこさせた。 |
塚本訳 | さて、その人は王の位を授かって帰ってくると、だれがどんな風に商売をしたか知ろうとして、金を渡しておいた僕たちを呼ばせた。 |
前田訳 | さてその人が王位を受けて帰ると、だれが何を商売したかを知るために、金を渡しておいた僕らを呼ばせた。 |
新共同 | さて、彼は王の位を受けて帰って来ると、金を渡しておいた僕を呼んで来させ、どれだけ利益を上げたかを知ろうとした。 |
NIV | "He was made king, however, and returned home. Then he sent for the servants to whom he had given the money, in order to find out what they had gained with it. |
註解: 王の権を受けて帰ったことはあたかもキリストが王として再臨し給う時に相当する。そしてその時、使徒たちや弟子たちの任務の遂行如何につき知らんとするであろう。
19章16節
口語訳 | 最初の者が進み出て言った、『ご主人様、あなたの一ミナで十ミナをもうけました』。 |
塚本訳 | 第一の者があらわれて言った、『御主人、あなたの一ミナは十ミナをかせぎました。』 |
前田訳 | 第一のものが現われて、いった、『ご主人、あなたの一ミナは十ミナをもうけました』と。 |
新共同 | 最初の者が進み出て、『御主人様、あなたの一ムナで十ムナもうけました』と言った。 |
NIV | "The first one came and said, `Sir, your mina has earned ten more.' |
19章17節
口語訳 | 主人は言った、『よい僕よ、うまくやった。あなたは小さい事に忠実であったから、十の町を支配させる』。 |
塚本訳 | 主人が言った、『感心々々、善い僕よ、ごく小さなことに忠実であったから、十の町の支配権を持たせる。』 |
前田訳 | 主人はいった、『よい僕、小事に忠実であったから、十の町の権限を与えよう』と。 |
新共同 | 主人は言った。『良い僕だ。よくやった。お前はごく小さな事に忠実だったから、十の町の支配権を授けよう。』 |
NIV | "`Well done, my good servant!' his master replied. `Because you have been trustworthy in a very small matter, take charge of ten cities.' |
註解: 十ミナを得たことに対して十の町の司たることは賞が大きすぎるようであるが、天国において得る賞の大きさは我らの想像を絶するものであろう。
19章18節
口語訳 | 次の者がきて言った、『ご主人様、あなたの一ミナで五ミナをつくりました』。 |
塚本訳 | 第二の者が来て言った、『御主人、あなたの一ミナは五ミナをこしらえました。』 |
前田訳 | 第二のものが来ていった、『ご主人、あなたの一ミナは五ミナをつくりました』と。 |
新共同 | 二番目の者が来て、『御主人様、あなたの一ムナで五ムナ稼ぎました』と言った。 |
NIV | "The second came and said, `Sir, your mina has earned five more.' |
19章19節
口語訳 | そこでこの者にも、『では、あなたは五つの町のかしらになれ』と言った。 |
塚本訳 | これにも言った、『あなたも五つの町を支配せよ。』 |
前田訳 | これにもいった、『あなたには五つの町の権限を』と。 |
新共同 | 主人は、『お前は五つの町を治めよ』と言った。 |
NIV | "His master answered, `You take charge of five cities.' |
註解: マタ25:21−23の場合は同じく全力を尽くした者は能力の大小に関係なく全く同一の賞詞を主人より受けているけれども、この場合は、金銭を委托されし者の任務遂行の誠実さが問題とされているので17節の同一の賞詞を与えられず、利益に相当なる賞が与えられる。
19章20節 また
口語訳 | それから、もうひとりの者がきて言った、『ご主人様、さあ、ここにあなたの一ミナがあります。わたしはそれをふくさに包んで、しまっておきました。 |
塚本訳 | またほかの者が来て言った、『御主人、これがあなたの一ミナです。風呂敷に包んでしまっておきました。 |
前田訳 | もうひとりが来ていった、『ご主人、これがあなたの一ミナです。ふくさに包んでしまっておきました。 |
新共同 | また、ほかの者が来て言った。『御主人様、これがあなたの一ムナです。布に包んでしまっておきました。 |
NIV | "Then another servant came and said, `Sir, here is your mina; I have kept it laid away in a piece of cloth. |
19章21節 これ
口語訳 | あなたはきびしい方で、おあずけにならなかったものを取りたて、おまきにならなかったものを刈る人なので、おそろしかったのです』。 |
塚本訳 | あなたは預けないものを取り立て、まかないものを刈り取られる厳しい方だから、恐ろしかったのです。』 |
前田訳 | あなたはきびしい方で、預けぬものを取り立て、まかぬものを刈られるので、こわかったのです』と。 |
新共同 | あなたは預けないものも取り立て、蒔かないものも刈り取られる厳しい方なので、恐ろしかったのです。』 |
NIV | I was afraid of you, because you are a hard man. You take out what you did not put in and reap what you did not sow.' |
19章22節
口語訳 | 彼に言った、『悪い僕よ、わたしはあなたの言ったその言葉であなたをさばこう。わたしがきびしくて、あずけなかったものを取りたて、まかなかったものを刈る人間だと、知っているのか。 |
塚本訳 | 彼に言う、『悪い僕よ、あなたのその言葉で罰してやろう。このわたしが、預けないものを取り立て、まかないものを刈り取る厳しい人間だと知っていたのか。 |
前田訳 | 彼はいう、『悪い僕、いまそちらの口から出たことばでそちらを裁こう。わたしがきびしい人で、預けぬものを取り立て、まかぬものを刈ると知っていたのか。 |
新共同 | 主人は言った。『悪い僕だ。その言葉のゆえにお前を裁こう。わたしが預けなかったものも取り立て、蒔かなかったものも刈り取る厳しい人間だと知っていたのか。 |
NIV | "His master replied, `I will judge you by your own words, you wicked servant! You knew, did you, that I am a hard man, taking out what I did not put in, and reaping what I did not sow? |
19章23節
口語訳 | では、なぜわたしの金を銀行に入れなかったのか。そうすれば、わたしが帰ってきたとき、その金を利子と一緒に引き出したであろうに』。 |
塚本訳 | では、なぜわたしの金を銀行に預けなかったか。そうすればかえって来たとき、利子をつけて受け取ることができたのに。』 |
前田訳 | では、なぜわたしの金を銀行に預けなかったか。そうすれば帰ったとき利子つきで受け取れたのに』と。 |
新共同 | ではなぜ、わたしの金を銀行に預けなかったのか。そうしておけば、帰って来たとき、利息付きでそれを受け取れたのに。』 |
NIV | Why then didn't you put my money on deposit, so that when I came back, I could have collected it with interest?' |
註解: もし汝に誠実さがあるならば、自己の能力を考慮して最も適当な処置を取ることを知ったであろう。これを為さなかったのは汝の不誠実の結果である。
19章24節 かくて
口語訳 | そして、そばに立っていた人々に、『その一ミナを彼から取り上げて、十ミナを持っている者に与えなさい』と言った。 |
塚本訳 | それからそばに立っていた人たちに言った、『その一ミナをその男から取り上げて、十ミナを持っている者に渡しなさい。 |
前田訳 | そして居合わせた人々にいった、『その一ミナを取りあげて十ミナを持っているものに渡しなさい』と。 |
新共同 | そして、そばに立っていた人々に言った。『その一ムナをこの男から取り上げて、十ムナ持っている者に与えよ。』 |
NIV | "Then he said to those standing by, `Take his mina away from him and give it to the one who has ten minas.' |
19章25節
口語訳 | 彼らは言った、『ご主人様、あの人は既に十ミナを持っています』。 |
塚本訳 | |
前田訳 | 〔彼らはいった、『ご主人、あの人はもう十ミナ持っています』と〕。 |
新共同 | 僕たちが、『御主人様、あの人は既に十ムナ持っています』と言うと、 |
NIV | "`Sir,' they said, `he already has ten!' |
19章26節 「われ
口語訳 | 『あなたがたに言うが、おおよそ持っている人には、なお与えられ、持っていない人からは、持っているものまでも取り上げられるであろう。 |
塚本訳 | わたしは言う、だれでも持っている人は(さらに)与えられるが、持たぬ人は、持っているものまでも取り上げられるであろう。 |
前田訳 | 『わたしはいう、だれでも、持つ人は与えられ、持たぬ人は持つものまで取りあげられよう。 |
新共同 | 主人は言った。『言っておくが、だれでも持っている人は、更に与えられるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられる。 |
NIV | "He replied, `I tell you that to everyone who has, more will be given, but as for the one who has nothing, even what he has will be taken away. |
註解: 信仰はこれを働かせることによって益々力を加えられ、これを眠らせることによって益々萎縮する。自己の使命の全力を尽くすことによって始めて神の心に叶う結果を得ることができる。
19章27節
口語訳 | しかしわたしが王になることを好まなかったあの敵どもを、ここにひっぱってきて、わたしの前で打ち殺せ』」。 |
塚本訳 | ところで、わたしを王に戴くことを好まなかったあの敵どもをここに引っ張ってきて、わたしの見ている前で斬り殺してしまえ。』」 |
前田訳 | しかし、わたしを王に戴きたがらなかったあの敵どもをここに引いて来て、わたしの目の前で斬り殺せ』」と。 |
新共同 | ところで、わたしが王になるのを望まなかったあの敵どもを、ここに引き出して、わたしの目の前で打ち殺せ。』」 |
NIV | But those enemies of mine who did not want me to be king over them--bring them here and kill them in front of me.'" |
註解: ルカ19:14節の叛逆者は王の前にて殺される。イエスに反抗し続ける者は、その再臨の時、彼の前で審 かれるであろう。以上の寓話により神の国が成るのはイエスのエルサレム入りによって来たらず、イエスはまず苦難を受けて十字架の死を遂げなければならず、そして昇天して神の御許に行き、やがて再び来りて死ぬる者と生ける者とを審 き給うまで、地上においては神はその福音の伝道を使徒たち弟子たちに托し給うであろう。而していよいよイエス、王として再び来り給う場合は各人によってその運命に著しい差異が生ずるであろう。この点を今から考慮しなければならない。
附記 マタ25:14−30とこの寓話とが如何なる関係を持つかは決定に困難である。多くの類似点を持つのであるが、詳細に観察する場合さらに多くの差別がある。(一)マタ25章の場合は主人の旅行不在中の問題であり、本章の場合は主人が王の権を受けて帰る場合の問題である。従って前者においては使命の達成という点に重点を置き、後者においては、王を迎える態度に重点を置く。(二)マタイの場合は能力に応じて預けられた金額が相違し、ルカの場合はみな同一であった。(三)従ってマタイの場合は褒賞が功績の程度如何にかかわらず同一であり、ルカの場合はその成績の差異を責務を果すことの心の熱心に比例するものと見てその褒賞を異にしている。(四)その他これに伴える若干の小差別があるのであるが、要するにマタイとルカとはこの寓話の中心点を異にして編纂したのであるか、またかかる二種の伝説が伝わったのであるかは不明である。もし後者とすればイエスは時に異なったしかも類似した二つの寓話を語られたのであるか、または同一の寓話が聴く者の心の置き所の異なるに従って、かかる二種の異なった物語として残されたものであろう。これらの問題については決定的な説はない。
要義 [能力の差異と使命の平等]各人に能力の種類および程度の差異があり、これによってこの世においてその人の与えられる職業や地位は異なっている。ある者は大臣となりある者は属吏 となる。ある者は学者となりある者は職工となる(タラントの例)。しかしこれらの差異にかかわらずその使命はみな同一の重要さを持つ(ミナの例)。その故は各神より与えられた使命だからである。ゆえに自己の使命を果さない大臣よりも、その使命を完全に果した属吏 の方が神の喜び給うところであり、その使命をその能力に応じて完全に果した大臣と属吏 とは同一の賞与に与ることができる(マタ25:21、23)。そして天国においては、地上におけると異なり、能力の差異によって地位が定められず、使命を完遂する程度によって定められるのであって、地上において完全に使命を果した者はこの世において卑 い地位の者でも高い栄誉を得て多くの責任を負わしめられ、少なく果した者は少ない栄誉を得、少ない責任を負わしめられる(ルカ19:17、19)。そして使命を果さない者、またはイエスに叛いた者は天国における栄誉に与ることができず、外に棄てられることとなる。それ故に我らは地上において神より与えられし使命を完全に果たさなければならず、またこれが同時に天国における褒賞と責任とに関係があることを知らなければならない。キリスト者であっても、その使命を果すことを怠った者は天国において恥じしめられるであろう。
19章28節 イエス
口語訳 | イエスはこれらのことを言ったのち、先頭に立ち、エルサレムへ上って行かれた。 |
塚本訳 | このことを話したのち、イエスは進んでエルサレムへと上って行かれた。 |
前田訳 | これらのことを話してから、彼は前進してエルサレムヘ上られた。 |
新共同 | イエスはこのように話してから、先に立って進み、エルサレムに上って行かれた。 |
NIV | After Jesus had said this, he went on ahead, going up to Jerusalem. |
註解: イエスの態度はルカ9:51の場合と異ならず、御顔を真直ぐにエルサレムに向けて進み、自ら先頭に立ち、弟子たちを後に従わしめ給うた。死が彼を待っているいることを予知しつつ11−27節の比喩の実現に向って進み給うた。
註解: 29−40節はイエスが驢馬に乗ってエルサレムに入り給う時の光景を叙す。驢馬は軍馬と異なり平和の君の入城に相応しい。
19章29節 オリブといふ
口語訳 | そしてオリブという山に沿ったベテパゲとベタニヤに近づかれたとき、ふたりの弟子をつかわして言われた、 |
塚本訳 | いわゆるオリブ山の中腹にあるベテパゲとベタニヤとの近くに来られると、こう言って弟子を二人使いにやられた、 |
前田訳 | いわゆるオリブ山にあるベテパゲとベタニアとに近づかれると、ふたりの弟子をつかわして、 |
新共同 | そして、「オリーブ畑」と呼ばれる山のふもとにあるベトファゲとベタニアに近づいたとき、二人の弟子を使いに出そうとして、 |
NIV | As he approached Bethphage and Bethany at the hill called the Mount of Olives, he sent two of his disciples, saying to them, |
註解: オリブ山はエルサレムの東にありケデロンの谷を隔ててエルサレムの宮と相対す。その山頂よりはエルサレムとその神殿の全貌を見下ろすことができる。ベテパゲはオリブ山の西南、ベタニヤは東南の麓にあり、エリコの方よりエルサレムに上るにはベタニヤが先であるが、弟子たちはエルサレム中心に考えてベテパゲを先に言い慣らしたためにこの順に録されたのであろう。ベテパゲよりは下り坂となってケデロンの小川を渡る途となる。
[イエス]
註解: この二人の弟子が誰であったかは不明。
19章30節 『
口語訳 | 「向こうの村へ行きなさい。そこにはいったら、まだだれも乗ったことのないろばの子がつないであるのを見るであろう。それを解いて、引いてきなさい。 |
塚本訳 | 向いの村まで行ってきなさい。村に入ると、かつてだれも乗ったことのない一匹の子驢馬がつないであるのが見える。それを解いて引いてきてもらいたい。 |
前田訳 | こういわれた、「向かいの村へ行きなさい。そこに入ると、だれも乗ったことのない子ろばが一匹つないであるのが見えよう。それを解いて引いて来なさい。 |
新共同 | 言われた。「向こうの村へ行きなさい。そこに入ると、まだだれも乗ったことのない子ろばのつないであるのが見つかる。それをほどいて、引いて来なさい。 |
NIV | "Go to the village ahead of you, and as you enter it, you will find a colt tied there, which no one has ever ridden. Untie it and bring it here. |
註解: イエスはエルサレム入城のために人の乗りたることなき驢馬の子を用いんとし給うた。未だ一回も使用しない動物のみが神の用に供えらるべきだからである(民19:2。申21:3。Tサム6:7)。死期が近付いて益々鋭敏の度を加えたイエスの霊眼がかかる驢馬の子のいることを直観したものと見るべきであろう。この驢馬の所有主がイエスの知人であり、イエスは驢馬のことを知っていたと解する(Z0)説はこの記事からは断定することができない。
辞解
[向ひの村] ベタニヤからはオリブ山の山側を隔てて向側となる。
19章31節
口語訳 | もしだれかが『なぜ解くのか』と問うたら、『主がお入り用なのです』と、そう言いなさい」。 |
塚本訳 | もし『なぜ解くか』と尋ねる者があったら、『主がお入用です』と、こう言えばよろしい。」 |
前田訳 | もし、『なぜ解くか』とたずねるものがあったら、『主のご用』といいなさい」と。 |
新共同 | もし、だれかが、『なぜほどくのか』と尋ねたら、『主がお入り用なのです』と言いなさい。」 |
NIV | If anyone asks you, `Why are you untying it?' tell him, `The Lord needs it.'" |
註解: 主の必要とし給うものは無条件にこれを提供するのが人間の義務である。驢馬を曳き往く理由としてこれで充分であった。ただし普通の場合ならば、未知の人がかかる理由を述べただけで、他人の所有物を持ち去ることはできないのであるから、この場合一種の奇蹟的了解が彼らの間に行われるであろうことをイエスは予知したものと見るべきであろう。
19章32節
口語訳 | そこで、つかわされた者たちが行って見ると、果して、言われたとおりであった。 |
塚本訳 | 使の者たちが行って見ると、はたしてイエスの言葉どおりであった。 |
前田訳 | 使いが行くと、はたしていわれたとおりであった。 |
新共同 | 使いに出された者たちが出かけて行くと、言われたとおりであった。 |
NIV | Those who were sent ahead went and found it just as he had told them. |
註解: 彼らはこの不思議な適中に驚いたことが文章の裏面にあらわれている。神の御言に服 う者に失敗はあり得ない。
19章33節 かれら
口語訳 | 彼らが、そのろばの子を解いていると、その持ち主たちが、「なぜろばの子を解くのか」と言ったので、 |
塚本訳 | 子驢馬を解いているとき、持ち主たちが「なぜ子驢馬を解くか」と言ったので、 |
前田訳 | 子ろばを解いているとき、持ち主たちが、「なぜ子ろばを解くか」といったので、 |
新共同 | ろばの子をほどいていると、その持ち主たちが、「なぜ、子ろばをほどくのか」と言った。 |
NIV | As they were untying the colt, its owners asked them, "Why are you untying the colt?" |
口語訳 | 「主がお入り用なのです」と答えた。 |
塚本訳 | 「主がお入用です」とこたえた。 |
前田訳 | 「主のご用」と答えた。 |
新共同 | 二人は、「主がお入り用なのです」と言った。 |
NIV | They replied, "The Lord needs it." |
註解: 凡てがイエスの預見し預言し給える通りに実現した。この凡ての事実が、イエスの最後のエルサレム入城の事実に伴える奇蹟的進展と見るべきであろう。
19章35節 かくて
口語訳 | そしてそれをイエスのところに引いてきて、その子ろばの上に自分たちの上着をかけてイエスをお乗せした。 |
塚本訳 | 二人はそれをイエスの所に引いてきて、自分たちの着物を子驢馬の上に投げかけ、イエスをお乗せした。 |
前田訳 | ふたりはそれをイエスのところへ引いて来て、自分たちの着物を子ろばの上に投げかけ、イエスをお乗せした。 |
新共同 | そして、子ろばをイエスのところに引いて来て、その上に自分の服をかけ、イエスをお乗せした。 |
NIV | They brought it to Jesus, threw their cloaks on the colt and put Jesus on it. |
註解: 弟子たちは自分の衣を驢馬にかけてイエスを乗せ、彼らの主を思う真心を表白した。そえにもかかわらず驢馬に乗って入城し給うイエスの姿は、極めて貧弱なものであったに相違ない。軍馬に鞍を置ける凱旋将軍が大軍を率い、堂々として入城するのに比して極めて貧弱であった。しかしこれこそ平和の君の入城に相応しいものであった。ゼカ9:9の預言はかくして成就したことがマタ21:5に録されているのもそのためである。肉の人間は軍馬に跨れる凱旋将軍を喜び、霊の人は柔和なる姿をもって驢馬の子に乗り、十字架の死に向って進み給う神の子イエスを喜ぶ。
19章36節 その
口語訳 | そして進んで行かれると、人々は自分たちの上着を道に敷いた。 |
塚本訳 | イエスが進んでゆかれると、人々はその着物を道に敷いた。 |
前田訳 | 彼が進まれると、人々はその着物を道に敷いた。 |
新共同 | イエスが進んで行かれると、人々は自分の服を道に敷いた。 |
NIV | As he went along, people spread their cloaks on the road. |
註解: 徒歩者を非常にいたわる時または尊敬する時は衣や敷物を地上に布く例があった。人々のイエスに対する心からの尊敬の表示である。かかる群集が数日の後にイエスを十字架に釘 けよと叫んだ。頼りないのは群衆の心理である。
19章37節 オリブ
口語訳 | いよいよオリブ山の下り道あたりに近づかれると、大ぜいの弟子たちはみな喜んで、彼らが見たすべての力あるみわざについて、声高らかに神をさんびして言いはじめた、 |
塚本訳 | すでにオリブ山の降り口近くに来られたとき、弟子の群は皆喜んで、彼らが見た(イエスの)あらゆる奇跡の(すばらしさの)ゆえに、こう言って大声に神を讃美し始めた。── |
前田訳 | すでにオリブ山の降り口に近づかれたとき、弟子の群れは皆よろこんで、彼らが見たあらゆる奇跡ゆえに大声で神を讃美しはじめた。彼らはいった、 |
新共同 | イエスがオリーブ山の下り坂にさしかかられたとき、弟子の群れはこぞって、自分の見たあらゆる奇跡のことで喜び、声高らかに神を賛美し始めた。 |
NIV | When he came near the place where the road goes down the Mount of Olives, the whole crowd of disciples began joyfully to praise God in loud voices for all the miracles they had seen: |
註解: 「能力ある御業につき」はマタイ、マルコに無し、イエスを歓迎せる理由の主なるものは、その奇蹟を見たからであった。その奇蹟力をもってエルサレムに入り、エルサレムを中心に神の国を建設し給うであろうと考えたのが、群衆や弟子たちの当時の心持であった。然るにイエスはその歓呼の中を真直ぐに十字架に向って進み給うた。
辞解
[弟子たち] 広義に用いられている。
19章38節 『
口語訳 | 「主の御名によってきたる王に、祝福あれ。天には平和、いと高きところには栄光あれ」。 |
塚本訳 | “主の御名にて来られる”王に、“祝福あれ。”天には平安、いと高き所には栄光あれ! |
前田訳 | 「祝福あれ、主のみ名によって来たもう王に、天には平和いと高きところには栄光あれ」と。 |
新共同 | 「主の名によって来られる方、王に、/祝福があるように。天には平和、/いと高きところには栄光。」 |
NIV | "Blessed is the king who comes in the name of the Lord!" "Peace in heaven and glory in the highest!" |
註解: 「主」は「エホバ」に相当す。イエスは地上の「王」として来り給う。地上には暗黒と恥辱とがあるのみであるが、イエス王として来り給いて地上に光明と栄光とが下ったのである。詩118:26の歓呼に相当す。ただし群衆のこの歓迎はやがて一変して彼の上に注がれた詛いとなった(ルカ23:18、ルカ23:23)。イエスがやがて再び来り給う時再びこの歓呼が真の意味で聞かれるであろう(ルカ13:35参照)。なおこの一節異本多し。
19章39節
口語訳 | ところが、群衆の中にいたあるパリサイ人たちがイエスに言った、「先生、あなたの弟子たちをおしかり下さい」。 |
塚本訳 | 群衆の中にいた数人のパリサイ人がイエスに言った、「先生、お弟子たちを叱ってください。」 |
前田訳 | 群衆の中の数人のパリサイ人が彼にいった、「先生、お弟子たちをおたしなめください」と。 |
新共同 | すると、ファリサイ派のある人々が、群衆の中からイエスに向かって、「先生、お弟子たちを叱ってください」と言った。 |
NIV | Some of the Pharisees in the crowd said to Jesus, "Teacher, rebuke your disciples!" |
註解: パリサイ人は群衆や弟子のイエスに対する歓呼が普通でなかったのでこれを嫌悪しまたこれを嫉ましく思ったのであろう。その不体裁を制止することをイエスに求めた。ダビデ王がエホバの櫃 の前に踊ったのを見てサウルの女ミカルがこれを賤しめたのと同様、人は外貌を見、神は心を見る(Uサム6:14−16)。
19章40節
口語訳 | 答えて言われた、「あなたがたに言うが、もしこの人たちが黙れば、石が叫ぶであろう」。 |
塚本訳 | 答えて言われた、「わたしは言う、この人たちが黙ったら、石が叫ぶであろう。」 |
前田訳 | 彼は答えられた、「わたしはいう、この人たちが黙れば、石が叫ぼう」と。 |
新共同 | イエスはお答えになった。「言っておくが、もしこの人たちが黙れば、石が叫びだす。」 |
NIV | "I tell you," he replied, "if they keep quiet, the stones will cry out." |
註解: イエスのエルサレム入城とその十字架の死による人類の救済とは宇宙的事件であり、天と地はみな歓呼の声を挙げつつあるのであるから、人間もこれに伴って歓呼することは当然である。たといこれを制止しても神の御業の力を制止することができず、石すら叫ぶであろうから無駄である。イエスは喜んで群衆と弟子の歓呼を受納れ給うた。最後の二節はルカ伝特有である。
要義1 [イエスの凱旋]イエスは平和の戦に勝ちたる凱旋将軍の態度をもってエルサレムに入城し給うた。しかしながらこの凱旋将軍は、多くの将兵や家臣に君臨してこれを駆使し、金銀宝石の王冠と錦繍綾羅 の玉座をもって自己を飾ることをせず、多くの人の贖償としてその生命を与え、十字架の上にその血汐を流さんがために入城し給うたのであった。そしてこの死は彼の恥辱ではなく光栄であり、敗北ではなく彼の永遠の勝利であった。この世の凱旋将軍は多くの人の血を己がために灌 がしめ、己は栄誉と権勢とを恣 にし、神の国の凱旋将軍は多くの人のために己が血を灌 ぎて彼らを生かし、己は恥辱と苦難との中に死して人々に光栄と祝福とを与え給う、軍馬と驢馬との差は、適切にこの両者の差異を表徴する。
要義2 [主の用なり]主がこれを要し給う場合、我らは直ちにそれを主に献げなければならない。我らは主の用のために造られたのであるから、主に用いられることは我らの存在の目的である。主一度呼び給えば、我らは我らの持てる凡てのもの、己が生命をすら直ちに主にささげるのである。これが我らの最大の喜びであり、我らの生存の意義の達成である。
19章41節
口語訳 | いよいよ都の近くにきて、それが見えたとき、そのために泣いて言われた、 |
塚本訳 | いよいよ(エルサレムが)近くなって(はじめて)都が見えると、イエスは都(に臨もうとしている裁き)を思い、声をあげて泣きだされた。 |
前田訳 | 近づいて都が見えると、都のために泣いて、いわれた、 |
新共同 | エルサレムに近づき、都が見えたとき、イエスはその都のために泣いて、 |
NIV | As he approached Jerusalem and saw the city, he wept over it |
註解: ベテパゲよりケデロン川に沿いてオリブ山の裾を下り行く時、エルサレムの都は左手に絵画のごとくに浮び上る。イエスはイスラエルの信仰の中心とも言うべきエルサレムの不信を思い、やがてその上に下るべき神の審判を思っていたく慟哭し給うた。▲エルサレムはイスラエルの神制政治の主都であり、神の人類救済の経綸を象徴する中心地であった。従って大なる歓喜と期待とをもって神の子を迎うべきであった。然るにイスラエルを迎えたのは頼りない民衆の一部に過ぎず、その主脳者は如何にしてイエスを殺そうかとの計画に苦心していた。神の都が神の子を拒む、その結果エルサレムは滅亡より外にないことをイエスは明白に予感し給うた。
辞解
[泣く] kleiô はヨハ11:35の「涙を流す」 dakruô と異なり声を立てて慟哭すること、イエスの悲嘆の爆発であった。
19章42節 『ああ
口語訳 | 「もしおまえも、この日に、平和をもたらす道を知ってさえいたら……しかし、それは今おまえの目に隠されている。 |
塚本訳 | そして言われた、「(ああエルサレム、)お前ももし(「平安を見る」という自分の名のように、)きょうでも平安への道が見えたなら(まだ遅くはないのに!)しかし今それはお前の目に隠されている。 |
前田訳 | 「もしきょうの日におまえにも平和への道が見えたなら!しかし今はそれがおまえの目から隠されている。 |
新共同 | 言われた。「もしこの日に、お前も平和への道をわきまえていたなら……。しかし今は、それがお前には見えない。 |
NIV | and said, "If you, even you, had only known on this day what would bring you peace--but now it is hidden from your eyes. |
註解: 神に対する反逆者は神の審判の下に在り、そこに平和はない。神との間の平和、およびこれより生ずる我らの心の平和は唯イエス・キリストを信ずることである。これは今日中に決定すべく迫られている緊迫せる問題である。もし今日直ちに悔改めてイエスを受けるならばエルサレムは審判を免れるであろう。しかしこのことは彼らの目に隠されていた。これを思いイエスは慟哭を禁じ得なかった。
19章43節 (
口語訳 | いつかは、敵が周囲に塁を築き、おまえを取りかこんで、四方から押し迫り、 |
塚本訳 | やがて時が来て、敵はお前のまわりに塁を築き、お前を取り巻いて四方から攻め立て、 |
前田訳 | 時が来て、敵がおまえのまわりに塁を築き、おまえを取り巻いて四方から攻め、 |
新共同 | やがて時が来て、敵が周りに堡塁を築き、お前を取り巻いて四方から攻め寄せ、 |
NIV | The days will come upon you when your enemies will build an embankment against you and encircle you and hem you in on every side. |
19章44節
口語訳 | おまえとその内にいる子らとを地に打ち倒し、城内の一つの石も他の石の上に残して置かない日が来るであろう。それは、おまえが神のおとずれの時を知らないでいたからである」。 |
塚本訳 | お前と、そこにいる“お前の子供たちを地べたに叩きつけ、”お前の中に、そのまま重なっている石が一つもないようにするであろう。恩恵の時を知らなかった罰である。」 |
前田訳 | おまえとおまえの子らとを地に倒し、重なっている石がおまえのうちにひとつもなくさせよう。おまえが神の顧みの時を知らなかったためである」と。 |
新共同 | お前とそこにいるお前の子らを地にたたきつけ、お前の中の石を残らず崩してしまうだろう。それは、神の訪れてくださる時をわきまえなかったからである。」 |
NIV | They will dash you to the ground, you and the children within your walls. They will not leave one stone on another, because you did not recognize the time of God's coming to you." |
註解: 神の審判によりエルサレムは敵に包囲され、住民は殺され城壁は破壊されるであろう。これは神がイスラエルを顧みて救い主を遣し給うたことを知らないためである。この記事が紀元七十年ローマの軍隊によるエルサレムの滅亡の際に実現した。そのためにこの二節を事後の預言と解し、ルカ伝がその事件の後に録されたとする説の理由として掲げられているけれども、必ずしもかく解さなければならない理由はない。イザ29:3。詩137:9(七十人訳)等より一般の戦争の光景を録したものと考えることができる。「眷顧 の時」は神が人類を救わんために子イエスを遣し給うた時。
19章45節 かくて
口語訳 | それから宮にはいり、商売人たちを追い出しはじめて、 |
塚本訳 | やがて(エルサレムに着いて)イエスは宮に入り、物を売る者を追い出し始めて、 |
前田訳 | 宮に入ると、彼は物売りを追い出しはじめて、 |
新共同 | それから、イエスは神殿の境内に入り、そこで商売をしていた人々を追い出し始めて、 |
NIV | Then he entered the temple area and began driving out those who were selling. |
19章46節
口語訳 | 彼らに言われた、「『わが家は祈の家であるべきだ』と書いてあるのに、あなたがたはそれを盗賊の巣にしてしまった」。 |
塚本訳 | こう言われた、「“わたしの家は祈りの家であらねばならぬ”と(聖書に)書いてあるのに、あなた達はそれを“強盗の巣”にしてしまった。」 |
前田訳 | こういわれた、「『わが家は祈りの家たるべきである』と聖書にあるのに、あなた方はそれを強盗の巣にしてしまった」と。 |
新共同 | 彼らに言われた。「こう書いてある。『わたしの家は、祈りの家でなければならない。』/ところが、あなたたちはそれを強盗の巣にした。」 |
NIV | "It is written," he said to them, "`My house will be a house of prayer' ; but you have made it `a den of robbers.' " |
註解: 宮潔めの記事はマタ21:12、13。マコ11:15−19に詳細に掲げられている故、その箇所を参照すべし。イエスはエルサレムの宮がその本質を失い、俗人の私慾に汚され、殊に祭司階級の営利の場所とされているのを見るに忍びずついに憤怒の鞭を揮 ってこれを潔め給うた。宮潔めのことは39−44節の記事が先行する場合に、最も適切にイエスの心境を理解することができる。ルカはかかる意味でこの事件を記したものと見るべきであろう。
要義 [エルサレムの滅亡の預言]もしある学者たちの想像するごとく、ルカがこの福音書を紀元七十年、すなわちローマ軍によってエルサレムが攻略された後に書いたものとすれば、43、44節は「事後の預言」として認められるのであるが、これをエルサレム陥落前に録したものとすれば(緒言を見よ)この預言は極めて適切に事実に中 っていると言わなければならない。そしてイエスのごとき霊的眼光を有する人は数十年後に起るべき事実を達観することは決して不可能ではない。それはかかる人は神の御意を最も深く理解しており、かつ、イスラエル(エルサレムはその中心的代表的存在)が如何に神の御旨を拒みつつあるかを知っている故、神の審判がエルサレムに下ることは如何にしても避け得ないことを直感し得るからである。そして都市の上に審判が下るということは地震等の天災か、敵軍の侵入による等の原因によることが多い以上、イエスがかかる預言を為し給うたことは決して承認し得ない事実ではない。否イエスの脳裡には明かにエルサレムの断末魔の光景が浮び出でたことであろう。預言者の言を蔑する群衆は禍である。
19章47節 イエス
口語訳 | イエスは毎日、宮で教えておられた。祭司長、律法学者また民衆の重立った者たちはイエスを殺そうと思っていたが、 |
塚本訳 | イエスは毎日宮で教えておられた。大祭司連、聖書学者たち、それに国の名士たちも、イエスを殺そうと思ったが、 |
前田訳 | 彼は日ごとに宮で教えておられた。大祭司、学者、民のおもだったものたちは彼を殺そうと思ったが、 |
新共同 | 毎日、イエスは境内で教えておられた。祭司長、律法学者、民の指導者たちは、イエスを殺そうと謀ったが、 |
NIV | Every day he was teaching at the temple. But the chief priests, the teachers of the law and the leaders among the people were trying to kill him. |
19章48節
口語訳 | 民衆がみな熱心にイエスに耳を傾けていたので、手のくだしようがなかった。 |
塚本訳 | どう仕様もなかった。だれもかれも皆イエスの話に聞きとれていたからである。 |
前田訳 | どうすることもできなかった。民が皆彼に耳傾けて心酔していたからである。 |
新共同 | どうすることもできなかった。民衆が皆、夢中になってイエスの話に聞き入っていたからである。 |
NIV | Yet they could not find any way to do it, because all the people hung on his words. |
註解: イエスの最後の一週間、すなわち受難週間のイエスの活動(20:1−22:38)と、これに対するユダヤ人の首脳者たちの敵対的態度をこの二節に要約している。息詰る瞬間の光景である。神に仕えていると自認している祭司・律法学者たちが、最も激しく神の子を迫害するという事実は、全く奇怪の至りであるが、この事実は今日もなお存することを忘れてはならない。