ルカ伝第3章
分類
2 準備時代
1:5 - 4:13
2-3 イエス出現の準備 3:1 - 4:13
2-3-イ バプテスマのヨハネの出現 3:1 - 3:14
(マタ3:1-10) (マコ1:1-6)
口語訳 | 皇帝テベリオ在位の第十五年、ポンテオ・ピラトがユダヤの総督、ヘロデがガリラヤの領主、その兄弟ピリポがイツリヤ・テラコニテ地方の領主、ルサニヤがアビレネの領主、 |
塚本訳 | (ローマの)皇帝テベリオの治世の十五年目、ポンテオ・ピラトはユダヤの総督、ヘロデ・(アンテパス)はガリラヤの領主、その兄弟ピリポはイツリヤおよびテラコニテ地方の領主、ルサニヤはアビレネの領主、 |
前田訳 | 皇帝ティベリウスの治世第十五年、ポンテオ・ピラトはユダヤの総督、ヘロデはガリラヤの領主、その兄弟ピリポはイツリアとテラコニテ地方の領主、ルサニヤはアビレネの領主、 |
新共同 | 皇帝ティベリウスの治世の第十五年、ポンティオ・ピラトがユダヤの総督、ヘロデがガリラヤの領主、その兄弟フィリポがイトラヤとトラコン地方の領主、リサニアがアビレネの領主、 |
NIV | In the fifteenth year of the reign of Tiberius Caesar--when Pontius Pilate was governor of Judea, Herod tetrarch of Galilee, his brother Philip tetrarch of Iturea and Traconitis, and Lysanias tetrarch of Abilene-- |
註解: ルカの自任する精確なる研究の結果、世界史と福音の歴史との年代の関連をここに示している。他の福音書は年代につき極めて漠然としている故、ルカのこの一節は非常に貴重なる唯一の史料である。ただしテベリオ(チベリウス)は紀元十四年八月十九日に死去せるアウグスト(アウグスツス)の後を継承したのでその第十五年は紀元二十八−九年となる。ただしかく解することはやや年代が遅すぎるので(ルカ3:23節)、テベリオが摂政の位に即いた年すなわち紀元十二年(十一年末か)より起算する説ありこの説を採る(E0、Z0)と第十五年は二十六年頃となり23節とも適合する。
ポンテオ・ピラトはユダヤの
註解: 第五代目のユダヤ総督(二十六−三十六年)であった。
ヘロデはガリラヤ
註解: ヘロデ大王の死後、その領地はその三人の子に分割され各々その一つを支配して分封の国守と称していた。このヘロデはヘロデ・テンテパスで紀元前四年より紀元三十九年までガリラヤとペレヤを支配していた。このヘロデがその弟の妻ヘロデヤを奪った王である(19節)。
その
註解: 紀元前四年より期限三三年(三四年か)まで支配す。
辞解
[イツリヤ及びテラコニテの地] 「地」が単数なので問題があり、同一地方に二つの別名があると解する説、または「地」をテラコニテのみに関係せしめんとする説があるけれどもむしろ二つの地方が行政的に合併されて一地方と目されるに至ったものであろう。フレー湖とヘルモン山との間にあり、カイザリヤピリピを含む地方。なおヨセフスによればピリポの領地はその他にも及んでいる。
ルサニヤはアビレネ
註解: ルサニヤはユダヤ人にあらず、またイエスの歴史とも関係なき人故、何故ルカがこれをここに加えたのかは不明である。唯この地は三七−四四年間はヘロデ大王の孫アグリッパ一世(使12:1−23)に帰属し、さらに五三〜一〇〇年間はアグリッパ二世に属しており、イスラエルの地の一部と見られたからであろう(Z0。使25:13−26:32)。アビレネはダマスコの西北十六キロ。
口語訳 | アンナスとカヤパとが大祭司であったとき、神の言が荒野でザカリヤの子ヨハネに臨んだ。 |
塚本訳 | (そして)アンナスとカヤパとが大祭司であった時、神の(お召しの)言葉が、(ユダヤの)荒野でザカリヤの子ヨハネにくだった。 |
前田訳 | アンナスとカヤパが大祭司であったとき、荒野にいたザカリヤの子ヨハネに神のことばがのぞんだ。 |
新共同 | アンナスとカイアファとが大祭司であったとき、神の言葉が荒れ野でザカリアの子ヨハネに降った。 |
NIV | during the high priesthood of Annas and Caiaphas, the word of God came to John son of Zechariah in the desert. |
註解: 「大祭司」は原語単数、大祭司は本来一人より外無し、当時はカヤパが大祭司であった (マタ26:3、マタ26:57。ヨハ11:49。ヨハ18:13以下) 。唯アンナスはカヤパの舅で紀元七−一四年大祭司であったが、その退職後も勢力を振るっていた(ヨハ18:12)。それ故に大祭司として取扱った。カヤパは一七〜三五年職に在った。
註解: エレ1:2に類似す。ルカは特に旧約的表現法を用いた。以上第1節およびピラトの就任の時等より考え、バプテスマのヨハネの登場は紀元二十六年と見るべきこととなる。神の言が人の上に臨む時その人は預言者となる。
口語訳 | 彼はヨルダンのほとりの全地方に行って、罪のゆるしを得させる悔改めのバプテスマを宣べ伝えた。 |
塚本訳 | そこでヨハネは(救世主の道を用意するため、)ヨルダン川沿岸の地全体へ行って、罪を赦されるための悔改めの洗礼を説いた。 |
前田訳 | そこで彼はヨルダンの沿岸一帯に行って罪のゆるしへの悔い改めの洗礼を説いた。 |
新共同 | そこで、ヨハネはヨルダン川沿いの地方一帯に行って、罪の赦しを得させるために悔い改めの洗礼を宣べ伝えた。 |
NIV | He went into all the country around the Jordan, preaching a baptism of repentance for the forgiveness of sins. |
註解: ガリラヤ湖と死海の間のヨルダン河の両岸を指す。マタイ伝・マルコ伝には荒野とあり。
註解: 罪の赦しを得んがためには全心全霊をもってする悔改めが必要である。この悔改めを形に表わしたものがヨハネのバプテスマであった。
3章4節
口語訳 | それは、預言者イザヤの言葉の書に書いてあるとおりである。すなわち「荒野で呼ばわる者の声がする、『主の道を備えよ、その道筋をまっすぐにせよ』。 |
塚本訳 | 預言者イザヤの預言集に書いてあるとおりである。──“荒野に叫ぶ者の声はひびく、「主の道を用意し、“その”道筋をまっすぐにせよ。 |
前田訳 | 預言者イザヤの書に書かれているとおりである。いわく、「荒野に呼ぶものの声がする、主の道をそなえ、彼の行く手を直くせよ。 |
新共同 | これは、預言者イザヤの書に書いてあるとおりである。「荒れ野で叫ぶ者の声がする。『主の道を整え、/その道筋をまっすぐにせよ。 |
NIV | As is written in the book of the words of Isaiah the prophet: "A voice of one calling in the desert, `Prepare the way for the Lord, make straight paths for him. |
3章5節
口語訳 | すべての谷は埋められ、すべての山と丘とは、平らにされ、曲ったところはまっすぐに、わるい道はならされ、 |
塚本訳 | すべての谷は埋められすべての山と丘とは低うされ、曲った道はまっすぐに、でこぼこ道は平らになるであろう。 |
前田訳 | すべての谷は埋められ、すべての山と丘とは低められ、曲がったところはまっすぐに、荒れた道は平らになろう。 |
新共同 | 谷はすべて埋められ、/山と丘はみな低くされる。曲がった道はまっすぐに、/でこぼこの道は平らになり、 |
NIV | Every valley shall be filled in, every mountain and hill made low. The crooked roads shall become straight, the rough ways smooth. |
3章6節
口語訳 | 人はみな神の救を見るであろう」。 |
塚本訳 | かくして全人類一人のこらず神の救いにあずかるであろう。」” |
前田訳 | 人皆が神の救いを見よう」と。 |
新共同 | 人は皆、神の救いを仰ぎ見る。』」 |
NIV | And all mankind will see God's salvation.'" |
註解: ヨハネの荒野におけるバプテスマはイザヤの預言(イザ40:3−5)の成就せるものであった。あたかも王者の行幸に際し、その先駆者が呼ばわりつつ行幸の道路の凸凹を坦 かならしむるごとく、ヨハネはイエスの先駆として、メシヤの来臨の準備をなし、人の心の欠陥を埋め、その高慢不遜を卑からしめ、その邪曲を直くし、その険悪さを滑らかならしめんとするのである。かくして神の救いが現れるであろう。マタイ・マルコ伝はイザ40:4、5の引用を略している。
3章7節 さてヨハネ、バプテスマを
口語訳 | さて、ヨハネは、彼からバプテスマを受けようとして出てきた群衆にむかって言った、「まむしの子らよ、迫ってきている神の怒りから、のがれられると、おまえたちにだれが教えたのか。 |
塚本訳 | それでヨハネは、彼から洗礼を受けようとしてでて来た群衆に言った、「蝮の末ども、(わたしから洗礼を受けて)来るべき(神の)怒り(の裁き)を免れるようにと、だれがおしえたのか。 |
前田訳 | ヨハネは彼から洗礼されに来た群衆にいった、「まむしの末よ、来たるべき怒りをのがれるようだれが教えたか。 |
新共同 | そこでヨハネは、洗礼を授けてもらおうとして出て来た群衆に言った。「蝮の子らよ、差し迫った神の怒りを免れると、だれが教えたのか。 |
NIV | John said to the crowds coming out to be baptized by him, "You brood of vipers! Who warned you to flee from the coming wrath? |
口語訳 | だから、悔改めにふさわしい実を結べ。自分たちの父にはアブラハムがあるなどと、心の中で思ってもみるな。おまえたちに言っておく。神はこれらの石ころからでも、アブラハムの子を起すことができるのだ。 |
塚本訳 | (ほんとうに悔改めたのか。)それなら(洗礼を受けるだけでなく、)悔改めにふさわしい実を結べ。『われわれの先祖はアブラハムである(から大丈夫だ)』などという考えを起してはならない。わたしは言う、神はそこらの石ころからでも、アブラハムの子供を造ることがお出来になるのだ。 |
前田訳 | 悔い改めにふさわしい実を結べ。われらには父アブラハムがある、などとの考えをおこすな。わたしはいう、神はこれらの石からアブラハムの子をおこしたもう。 |
新共同 | 悔い改めにふさわしい実を結べ。『我々の父はアブラハムだ』などという考えを起こすな。言っておくが、神はこんな石ころからでも、アブラハムの子たちを造り出すことがおできになる。 |
NIV | Produce fruit in keeping with repentance. And do not begin to say to yourselves, `We have Abraham as our father.' For I tell you that out of these stones God can raise up children for Abraham. |
註解: 単にバプテスマを形式的に受けたとて、罪を赦され、神の怒りの審判を避け得ると思ってはならない。かく考える汝らはあたかも蝮が野火を避けて逃れんとして逃げ廻るようなものである。汝らはまず悔改めに相応しき行為をしなければならぬ。行為に表われない悔改めは真の悔改めではない。最も忌むべきものは功利主義的信仰(自己の審判を免れたいという)と偽善的信仰(悔改めたように見せかけて悔改めないために行為の果を結ばない)とである。
辞解
このヨハネの叱責はマタ3:7にはパリサイ人とサドカイ人とに対する叱責として録されている。
[蝮の裔] 上記註のごとくに解する説があるけれども、また単に「最も嫌悪すべき存在」として近寄ることも許さない心持とも見ることができる。
なんぢら「
註解: ユダヤ人の民族的血統は、救いに何の役にも立たない。神は肉を見ず霊を見給う。神はユダヤ人以外の如何なる種族よりも真のアブラハムの子らを起して真のユダヤ人たらしむることができる。
3章9節
口語訳 | 斧がすでに木の根もとに置かれている。だから、良い実を結ばない木はことごとく切られて、火の中に投げ込まれるのだ」。 |
塚本訳 | 斧はいますでに木の根に置いてある。だから、良い実を結ばない木はどんな木でも、切られて火の中に投げ込まれる。」 |
前田訳 | はや、斧は木の根に置かれている。よい実を結ばぬ木は皆切られて火に投げ込まれる」と。 |
新共同 | 斧は既に木の根元に置かれている。良い実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる。」 |
NIV | The ax is already at the root of the trees, and every tree that does not produce good fruit will be cut down and thrown into the fire." |
註解: 切迫せる審判を示して悔改めの一刻も猶予すべからざるを教えている。而して火にて焼かれるかこれを逃れるかは要するに善き果を結ぶや否やに在る。以上7b以下はマタ3:7−10とほとんど逐語的に一致していることに注意すべし。
3章10節
口語訳 | そこで群衆が彼に、「それでは、わたしたちは何をすればよいのですか」と尋ねた。 |
塚本訳 | 群衆が尋ねた、「では、わたし達はどうすればよいのですか。」 |
前田訳 | 群衆はたずねた、「それならわれらは何をすべきですか」と。 |
新共同 | そこで群衆は、「では、わたしたちはどうすればよいのですか」と尋ねた。 |
NIV | "What should we do then?" the crowd asked. |
註解: 悔改めにかなう果の何たるかを問う。彼らはおそらく非常に高邁 なる善行かまたは非常に厳格なる律法を行うことを命ぜられるであろうと考えたのであろう。然るにヨハネの答えは至って平凡であった。
3章11節
口語訳 | 彼は答えて言った、「下着を二枚もっている者は、持たない者に分けてやりなさい。食物を持っている者も同様にしなさい」。 |
塚本訳 | ヨハネが答えた、「下着を二枚持っている者は、持たない者に分けてやれ。食べる物を持っている者も、同じようにせよ。」 |
前田訳 | 彼は答えた、「下着を二枚持つものは持たぬものに分けよ。食物を持つものも同じようにせよ」と。 |
新共同 | ヨハネは、「下着を二枚持っている者は、一枚も持たない者に分けてやれ。食べ物を持っている者も同じようにせよ」と答えた。 |
NIV | John answered, "The man with two tunics should share with him who has none, and the one who has food should do the same." |
註解: 何ら特別に高尚な道徳でもなく、また特別に厳格な規律でもなく、唯一般の苦しんでいる人々に対して同情と愛の行為を行うべしというのであった。悔改めはこれを可能ならしめる。ヨハネのこの答はヨハネの偉大さを示し、旧約の律法を超越して新約の愛の教えに一歩を踏み入れたことを表わす。
3章12節
口語訳 | 取税人もバプテスマを受けにきて、彼に言った、「先生、わたしたちは何をすればよいのですか」。 |
塚本訳 | 税金取りも洗礼を受けに来たが、ヨハネに言った、「先生、わたし達はどうすればよいのですか。」 |
前田訳 | 取税人も洗礼されに来ていった、「先生、われらは何をすべきですか」と。 |
新共同 | 徴税人も洗礼を受けるために来て、「先生、わたしたちはどうすればよいのですか」と言った。 |
NIV | Tax collectors also came to be baptized. "Teacher," they asked, "what should we do?" |
3章13節
口語訳 | 彼らに言った、「きまっているもの以上に取り立ててはいけない」。 |
塚本訳 | 彼らに言った、「きまったもの以上、何も取り立てるな。」 |
前田訳 | 彼はいった、「きめられたもの以上に何も取り立てるな」と。 |
新共同 | ヨハネは、「規定以上のものは取り立てるな」と言った。 |
NIV | "Don't collect any more than you are required to," he told them. |
註解: 10節の一般人の外にルカは12節のユダヤ人(取税人)と14節の異邦人とを代表的に登場させているが、勿論これで全部ではない。ヨハネは取税人に対してはその最も陥りやすき貪慾の罪に陥らぬよう戒めた。極めて平凡であるがしかし適切である。
3章14節
口語訳 | 兵卒たちもたずねて言った、「では、わたしたちは何をすればよいのですか」。彼は言った、「人をおどかしたり、だまし取ったりしてはいけない。自分の給与で満足していなさい」。 |
塚本訳 | 兵卒も「このわたし達は、どうすればよいのですか」と尋ねると、言った、「だれをもゆすらず、しぼり取らず、給料で満足せよ。」 |
前田訳 | 兵卒もたずねた、「われらも、何をすべきですか」と。彼はいった、「だれもゆすらず、かたらず、給与で満足せよ」と。 |
新共同 | 兵士も、「このわたしたちはどうすればよいのですか」と尋ねた。ヨハネは、「だれからも金をゆすり取ったり、だまし取ったりするな。自分の給料で満足せよ」と言った。 |
NIV | Then some soldiers asked him, "And what should we do?" He replied, "Don't extort money and don't accuse people falsely--be content with your pay." |
註解: 兵卒の陥りやすき誘惑は暴力を用いて人を脅迫することである。而してこれらは多く自己の浪費が原因となりて悪心を起すのであるから、給料をもって足れりとすることを学ばなければならない。なお10−14節は他の福音書にない。おそらく多くの人の間に言い伝えられた物語であろう。
要義 [バプテスマのヨハネの道徳訓]主イエスの先駆として登場したヨハネの道徳的教訓としては、10−14節はあまりに低調であるように感ずるのであるが、この平凡なる道徳を実行し得るや否やが、すでに大なる問題であり、これを真面目に解決せんとして人はみな悔改めの必要に迫られるのである。さらに高きイエスの山上の垂訓を実行することは、聖霊のバプテスマによる新生にあらざれば到底できない。先駆者ヨハネの要求したのは普通の道徳的水準であった。しかし人にはこれすら容易にできない。これすらできない処に、人間の弱さと罪とがある。いたずらに高い道徳訓を民衆に強いないのは、イエスの先駆者たるに最も相応しき態度であった。
口語訳 | 民衆は救主を待ち望んでいたので、みな心の中でヨハネのことを、もしかしたらこの人がそれではなかろうかと考えていた。 |
塚本訳 | 民衆は(救世主を)待ち望んでいたので皆心の中で、もしかしたらこのヨハネが救世主ではあるまいかと考えていると、 |
前田訳 | 民の待望は久しく、皆心の中でヨハネについて、もしやキリストではないかと考えていた。 |
新共同 | 民衆はメシアを待ち望んでいて、ヨハネについて、もしかしたら彼がメシアではないかと、皆心の中で考えていた。 |
NIV | The people were waiting expectantly and were all wondering in their hearts if John might possibly be the Christ. |
註解: メシヤすなわちキリストの出現を切に望んでいたのが、当時の一般のユダヤ人の心であった。
みな
註解: はたしてキリストなりや不明の心持を示す。「ことによったらこの人こそ(autos)キリストなのではないだろうか」との意。
3章16節 ヨハネ
口語訳 | そこでヨハネはみんなの者にむかって言った、「わたしは水でおまえたちにバプテスマを授けるが、わたしよりも力のあるかたが、おいでになる。わたしには、そのくつのひもを解く値うちもない。このかたは、聖霊と火とによっておまえたちにバプテスマをお授けになるであろう。 |
塚本訳 | ヨハネがみんなに言った、「わたしは水で洗礼を授けているが、わたしよりも力のある方が(あとから)来られる。わたしはその方の靴の紐をとく値打もない者である。その方は聖霊と(裁きの)火とで洗礼をお授けになる。 |
前田訳 | しかしヨハネは皆に明言した、「わたしはあなた方を水で洗礼するが、わたしより偉い方が来られる。わたしはその靴のひもを解くにも値しない。彼はあなた方を聖霊と火で洗礼なさろう。 |
新共同 | そこで、ヨハネは皆に向かって言った。「わたしはあなたたちに水で洗礼を授けるが、わたしよりも優れた方が来られる。わたしは、その方の履物のひもを解く値打ちもない。その方は、聖霊と火であなたたちに洗礼をお授けになる。 |
NIV | John answered them all, "I baptize you with water. But one more powerful than I will come, the thongs of whose sandals I am not worthy to untie. He will baptize you with the Holy Spirit and with fire. |
3章17節
口語訳 | また、箕を手に持って、打ち場の麦をふるい分け、麦は倉に納め、からは消えない火で焼き捨てるであろう」。 |
塚本訳 | その手に箕をもって、(すぐ)脱穀場の掃除をしようとしておられる。すなわち麦は集めて倉に入れ、籾殻は消えぬ火で焼きすてられるのである。(聖霊と火の洗礼とはこれである。)」 |
前田訳 | 箕(み)を手にし、打ち場でより分けをなさろう。麦は倉に入れ、籾殻(もみがら)は消えぬ火で焼かれよう」と。 |
新共同 | そして、手に箕を持って、脱穀場を隅々まできれいにし、麦を集めて倉に入れ、殻を消えることのない火で焼き払われる。」 |
NIV | His winnowing fork is in his hand to clear his threshing floor and to gather the wheat into his barn, but he will burn up the chaff with unquenchable fire." |
註解: この二節についてはマタ3:11、12。マコ1:7、8。ヨハ1:26、27参照。水は人の行為を洗うだけであるが、聖霊は一方人を新生せしめ、他方火をもって不純なるものを焼き尽くす。かくしてイエスのバプテスマによりて人間は一方において聖霊による新たなる存在として救われ他方不純なる者は火にて焼き尽くされる。イエスのバプテスマはこの意味においてあたかも農夫がその麦を収穫する時の姿に比すべく、救われる者は麦のごとく倉に納められ、審判を受けて滅ぼされる者は永遠の火にて焼かれる恐るべき運命に逢着 する。
▲口語訳に「麦をふるい分け」と訳された diakathairô (異本 diakatharizô) は打場を奇麗に片付けること。
3章18節 ヨハネこの
口語訳 | こうしてヨハネはほかにもなお、さまざまの勧めをして、民衆に教を説いた。 |
塚本訳 | ヨハネはそのほかなお多くの訓戒をあたえながら、民衆に福音を伝えた。 |
前田訳 | 彼はこのほかにも多くの勧めをなし、民に福音を伝えた。 |
新共同 | ヨハネは、ほかにもさまざまな勧めをして、民衆に福音を告げ知らせた。 |
NIV | And with many other words John exhorted the people and preached the good news to them. |
註解: 「勧め」もまたヨハネの教訓の内容をなしていた。単に叱責のみがその凡てではない。
3章19節
口語訳 | ところが領主ヘロデは、兄弟の妻ヘロデヤのことで、また自分がしたあらゆる悪事について、ヨハネから非難されていたので、 |
塚本訳 | ところが領主ヘロデは、その兄弟(ピリポ)の妻ヘロデヤ(との結婚)のことについて、また自分の行ったすべての悪事について、ヨハネから非難されたので、 |
前田訳 | しかし領主ヘロデは、兄弟の妻ヘロデヤのことや自分のした悪のすべてについてヨハネから責められたので、 |
新共同 | ところで、領主ヘロデは、自分の兄弟の妻ヘロディアとのことについて、また、自分の行ったあらゆる悪事について、ヨハネに責められたので、 |
NIV | But when John rebuked Herod the tetrarch because of Herodias, his brother's wife, and all the other evil things he had done, |
3章20節
口語訳 | 彼を獄に閉じ込めて、いろいろな悪事の上に、もう一つこの悪事を重ねた。 |
塚本訳 | ヨハネを牢に閉じこめ、(これまでの)ありとあらゆる悪事に、もう一つこの悪事をつけたした。 |
前田訳 | すべての悪にこのことを加えた−−ヨハネを牢に閉じ込めたのである。 |
新共同 | ヨハネを牢に閉じ込めた。こうしてヘロデは、それまでの悪事にもう一つの悪事を加えた。 |
NIV | Herod added this to them all: He locked John up in prison. |
註解: ヨハネは当時の暴君ヘロデに対し、少しもその面を憚 らずしてその凡ての悪行を非難した。これは生命を犠牲にすることなしにはでき得ないことであった。果然ヘロデは彼を後に獄に投ずることにより、さらにその悪の上塗りをした。その後の出来事についてはルカ7:18−35参照。
要義 [ヨハネの性格と態度]ヨハネは自ら正しと信ずる処に向って真直ぐに進み行き、何ものをもまた何人をも恐れない性格であって、またこの性格に従って勇敢に行動した。それ故に彼は世人と相伍して世の人と共に一般社会の汚穢の中に留まることができず、自ら荒野に出でて仙人の生活を送った。かかる生活を送ったことが一面において人々を引付け、ヨハネを預言者として崇めしめた原因であり、また彼の悔改めの叫びが人々の心に深く響いた原因であった。自ら実行せざることを人に教えても何らの権威もない。また彼が悪と信ずることは王の行為であっても忌憚 なく大小ともこれを叱責し、ついにこれが自己の不幸となることを少しも恐れなかった。かかる性格であるにもかかわらず、かかる種類の人間に特有の傲慢さがなく、その弟子がイエスの弟子となることを喜び、またその弟子や民衆を自己と同じ荒野の生活や禁慾生活に強制せず、また律法主義をもって人々を束縛せず、普通の道徳をもって彼らを導いた。己を処するに厳であったために、よし他人に求むるに寛であっても、なおそれが強い力をもって人に迫ったのであった。かくして多くの人々を真面目なものとしたことが、ヨハネが主イエスの先駆者たる責任を果す所以であった。
3章21節
口語訳 | さて、民衆がみなバプテスマを受けたとき、イエスもバプテスマを受けて祈っておられると、天が開けて、 |
塚本訳 | さて民衆が皆(ヨハネから)洗礼を受けた時、イエスも洗礼を受けて祈っておられると、天が開けて、 |
前田訳 | 民が皆洗礼を受けたとき、イエスも洗礼を受けて祈っておられると、天が開いて、 |
新共同 | 民衆が皆洗礼を受け、イエスも洗礼を受けて祈っておられると、天が開け、 |
NIV | When all the people were being baptized, Jesus was baptized too. And as he was praying, heaven was opened |
註解: 他の福音書と異なり、ここではイエスは何時何処で、誰よりバプテスマを受け給えるやにつき詳述していない。おそらく次節の出来事に重点を置いたためであろう(▲ルカ伝のみからイエスの受洗を解釈すれば、イエスは一般民衆と全く同じ立場に自己を置き、その間に何等の区別を置かれなかった。そして民衆が罪を悔改めるのを全面的に支持することを示すためにイエスも受洗されたのであろう。もしイエスが受洗を拒んだならばイエスの無罪を知らない民衆は、自分たちの受洗につき躓いたかも知れない。ここにイエスの愛があった)。「祈り」はルカ伝において主イエスにつきしばしば録されており、祈りの人イエスを髣髴せしめる。何故イエスがバプテスマを受け給いしやにつきてはマタ3:15註および要義参照。なお次節の要義を見よ。
3章22節
口語訳 | 聖霊がはとのような姿をとってイエスの上に下り、そして天から声がした、「あなたはわたしの愛する子、わたしの心にかなう者である」。 |
塚本訳 | 聖霊が鳩のような形で彼の上に下ってきた。そして「あなたは(いま)わたしの“最愛の子、”わたしの心にかなった”」という声が天からきこえてきた。 |
前田訳 | 聖霊が鳩のような形で彼の上にくだった。そして天から声がした。いわく、「あなたこそわがいとし子、わがよみするもの」と。 |
新共同 | 聖霊が鳩のように目に見える姿でイエスの上に降って来た。すると、「あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」という声が、天から聞こえた。 |
NIV | and the Holy Spirit descended on him in bodily form like a dove. And a voice came from heaven: "You are my Son, whom I love; with you I am well pleased." |
註解: 天よりの幻象と声とはイエスの生涯における最大事件であり、これによってイエスはその公生涯に発足し給うたのであった。イエスは聖霊によって母の胎内に宿り、その降誕後も常に神の恵みの下に成長し給い、十二歳の時すでに異常なる霊的直覚を示し給うたけれども、その内から燃え上る子心にも関らず、神より遣わされた神の子として当然にその使命に立上がる決心は未だ明らかにされなかった。それがこの天よりの幻象と声とによってイエスに確然たる決心ができたものと解すべきである。換言すればこれまでも心の中にかくあるべしと感じておられた神の御旨が、あたかも任命式における宣言のごとくに公然とイエスおよび列び居れる人々の前に宣言されたのであった。神の悦び給う愛子であることが一旦明らかにかつ公然にされた以上、イエスは徹頭徹尾神の御旨のままに生き給うより外になかった。
辞解
天よりの声が「汝は我が子なり、我今日汝を生めり」とある写本(D0)および古文献がある。詩2:7(七十人訳)の引用である。これをルカ伝の本来の形ならんとする興味ある研究についてはZ0を見よ。
要義 [何故イエスはバプテスマを受け給いしや]この重要なる問題につきマタイ伝はそのマタ3:15に録しているのであるが(註および要義参照)、イエスの心に悔改むべきものが有ったと考えることができず、おそらく当時イエスの中に益々盛り上がって来る「神の子意識」とこれに伴う使命感とは、抑えんとして抑えることができず、従ってイエスにとっては、断然神の召しに応じて立ち上がるべき何らかの機会を求めておられたのではあるまいか。その時ヨハネよりバプテスマを受ける民衆が、みな断然たる決意をもって悔改めのバプテスマを受けるその有様を見て、イエスにも自然これを「正しき事」(マタ3:15)と感じて同様にバプテスマを受くるに到り給うたのであろう。ここに到るまでに聖霊の推進作用があったことは当然である。しかるに図らずもこの時天よりの幻象と声とがあったことはイエスにとって最も重大な出来事であって、イエスの生涯の一大飛躍はこの時に起ったのである。
3章23節 イエスの、[
口語訳 | イエスが宣教をはじめられたのは、年およそ三十歳の時であって、人々の考えによれば、ヨセフの子であった。ヨセフはヘリの子、 |
塚本訳 | このイエスは(伝道を)始められたとき、三十歳ばかりであった。(聖霊による子であったが、)世間ではヨセフの子と思われていた。ヨセフはヘリの子、 |
前田訳 | このイエスは働きはじめのころ三十歳ほどで、ヨセフの子と思われていた。ヨセフはヘリの子、 |
新共同 | イエスが宣教を始められたときはおよそ三十歳であった。イエスはヨセフの子と思われていた。ヨセフはエリの子、それからさかのぼると、 |
NIV | Now Jesus himself was about thirty years old when he began his ministry. He was the son, so it was thought, of Joseph, the son of Heli, |
註解: 嬰児イエスを殺さんとしたヘロデ大王は紀元前四年に死去し、而して本章1節のテベリオ・カイザルの在位十五年が前記註のごとく紀元二十六年とすれば御年凡 そ三十となる。「思はれ給へり」はルカ1:35の事実に対する説明として附加えられている。
ヨセフの
2-3-ホ イエスの系図 3:24 - 3:38
(マタ1:1-16)
3章24節 その
口語訳 | それから、さかのぼって、マタテ、レビ、メルキ、ヤンナイ、ヨセフ、 |
塚本訳 | ヘリはマタテの、マタテはレビの、レビはメルキの、メルキはヤンナイの、ヤンナイはヨセフの、 |
前田訳 | その先はマタテ、レビ、メルキ、ヤンナイ、ヨセフ、 |
新共同 | マタト、レビ、メルキ、ヤナイ、ヨセフ、 |
NIV | the son of Matthat, the son of Levi, the son of Melki, the son of Jannai, the son of Joseph, |
註解: 本節より38節までは主イエスの祖先の系図であるが、マタ1:1−16の系図との間に著しき差異があるので学者の論議の的となっている。ただしマタイがアブラハム以前に遡らなかったことはユダヤ人を主として録された福音書であったためであり、ルカがアダムまで遡ったのはルカがイエスの福音を全人類的に取扱ったことと、イエスを第二のアダムと見るパウロの思想の影響と見るべきであろう。なおマタイがその録せる系図の中に数人の婦人の名を交えたのに反し、ルカはこれを無視したのは系図にマタイと同様の意義を含めようとしなかったためであろう(この点マタ1:17要義参照)。なおダビデ以後マタイはソロモンの系図により、ルカはナタンの系図によっており、途中ゾロバベル、シャルテル(マタイ伝に日本訳語を異にすることは誤り)において両者の一致を見るのみであって全く異った系図を追うている。これらに関する説明については次の附記参照。
附記 [ルカによるイエスの系図とマタイによるそれとの関係について]
この難問題の解決につき種々の説が唱えられている。詳細はここに録すに不適当なる故梗概を以下に記す。すなわち、
1. 両者の中ルカ伝をマリヤの系図なりとする説(3:23を「ヨセフの子と思はれ給へり。〔されど実はマリヤの子にて〕その父はエリ」との意味に解す)。
2. 二者の一つを血脈による系図、他を法的系図と見る。すなわち養子と実子との相違と見る。
3. 申25:5−10により兄の死後その妻を娶る規定があるが(ルカ20:28。マタ22:24。マコ12:19)ヨセフの父ヤコブ(マタ1:16)はその兄ヘリ(ルカ3:23)の死後その妻を娶り、兄ヘリのために子ヨセフを挙げたと見る。而してヘリとヤコブを同母異父兄弟とする。
等であるが、何れも細目に至って種々の難問題を生じ、未だ充分なる解決に到達していない。ルカはおそらくマタイの系図またはその原資料を知らず、自ら研究の結果独特の資料または伝説に到達したのであろう。
3章25節 マタテヤ、アモス、ナホム、エスリ、ナンガイ、[引照]
口語訳 | マタテヤ、アモス、ナホム、エスリ、ナンガイ、 |
塚本訳 | ヨセフはマタテヤの、マタテヤはアモスの、アモスはナホムの、ナホムはエリスの、エリスはナンガイの、 |
前田訳 | マタテヤ、アモス、ナホム、エスリ、ナンガイ、 |
新共同 | マタティア、アモス、ナウム、エスリ、ナガイ、 |
NIV | the son of Mattathias, the son of Amos, the son of Nahum, the son of Esli, the son of Naggai, |
3章26節 マハテ、マタテヤ、シメイ、ヨセク、ヨダ、[引照]
口語訳 | マハテ、マタテヤ、シメイ、ヨセク、ヨダ、 |
塚本訳 | ナンガイはマハテの、マハテはマタテヤの、マタテヤはシメイの、シメイはヨセクの、ヨセクはヨダの、 |
前田訳 | マハテ、マタテヤ、シメイ、ヨセク、ヨダ、 |
新共同 | マハト、マタティア、セメイン、ヨセク、ヨダ、 |
NIV | the son of Maath, the son of Mattathias, the son of Semein, the son of Josech, the son of Joda, |
口語訳 | ヨハナン、レサ、ゾロバベル、サラテル、ネリ、 |
塚本訳 | ヨダはヨハナンの、ヨハナンはレサの、レサはゾロバベルの、ゾロバベルはサラテルの、サラテルはネリの、 |
前田訳 | ヨハナン、レサ、ゾロバベル、サラテル、ネリ、 |
新共同 | ヨハナン、レサ、ゼルバベル、シャルティエル、ネリ、 |
NIV | the son of Joanan, the son of Rhesa, the son of Zerubbabel, the son of Shealtiel, the son of Neri, |
註解: マタ1:12にゼルベバルと発音す(文語訳、口語訳共にゾロバベルとなっている:編者追加)。
サラテル、
註解: マタ1:12にサラテルとあり、以上二人においてマタイとルカは系図が合流している。
ネリ、
3章28節 メルキ、アデイ、コサム、エルマダム、エル、[引照]
口語訳 | メルキ、アデイ、コサム、エルマダム、エル、 |
塚本訳 | ネリはメルキの、メルキはアデイの、アデイはコサムの、コサムはエルマダムの、エルマダムはエルの、 |
前田訳 | メルキ、アデイ、コサム、エルマダム、エル、 |
新共同 | メルキ、アディ、コサム、エルマダム、エル、 |
NIV | the son of Melki, the son of Addi, the son of Cosam, the son of Elmadam, the son of Er, |
口語訳 | ヨシュア、エリエゼル、ヨリム、マタテ、レビ、 |
塚本訳 | エルはヨシュアの、ヨシュアはエリエゼルの、エリエゼルはヨリムの、ヨリムはマタテの、マタテはレビの、 |
前田訳 | ヨシュア、エリエゼル、ヨリム、マタテ、レビ、 |
新共同 | ヨシュア、エリエゼル、ヨリム、マタト、レビ、 |
NIV | the son of Joshua, the son of Eliezer, the son of Jorim, the son of Matthat, the son of Levi, |
註解: (原音イエス)
エリエゼル、ヨリム、マタテ、レビ、
3章30節 シメオン、ユダ、ヨセフ、ヨナム、エリヤキム、[引照]
口語訳 | シメオン、ユダ、ヨセフ、ヨナム、エリヤキム、 |
塚本訳 | レビはシメオンの、シメオンはユダの、ユダはヨセフの、ヨセフはヨナムの、ヨナムはエリヤキムの、 |
前田訳 | シメオン、ユダ、ヨセフ、ヨナム、エリヤキム、 |
新共同 | シメオン、ユダ、ヨセフ、ヨナム、エリアキム、 |
NIV | the son of Simeon, the son of Judah, the son of Joseph, the son of Jonam, the son of Eliakim, |
口語訳 | メレヤ、メナ、マタタ、ナタン、ダビデ、 |
塚本訳 | エリヤキムはメレヤの、メレヤはメナの、メナはマタタの、マタタはナタンの、ナタンはダビデの、 |
前田訳 | メレヤ、メナ、マタタ、ナタン、ダビデ、 |
新共同 | メレア、メンナ、マタタ、ナタン、ダビデ、 |
NIV | the son of Melea, the son of Menna, the son of Mattatha, the son of Nathan, the son of David, |
註解: ダビデ以下アブラハム(34節)までは大体マタイ伝と一致す(マタ1:2-6)
口語訳 | エッサイ、オベデ、ボアズ、サラ、ナアソン、 |
塚本訳 | ダビデはエッサイの、エッサイはオベデの、オベデはボアズの、ボアズはサラの、サラはナアソンの、 |
前田訳 | エッサイ、オベデ、ボアズ、サラ、ナアソン、 |
新共同 | エッサイ、オベド、ボアズ、サラ、ナフション、 |
NIV | the son of Jesse, the son of Obed, the son of Boaz, the son of Salmon, the son of Nahshon, |
註解: (異本サルモン マタ1:5)
ナアソン、
口語訳 | アミナダブ、アデミン、アルニ、エスロン、パレス、ユダ、 |
塚本訳 | ナアソンはアミナダブの、アミナダブはアデミンの、アデミンはアルニの、アルニはエスロンの、エスロンはパレスの、パレスはユダの、 |
前田訳 | アミナダブ、アデミン、アルニ、エスロン、パレス、ユダ、 |
新共同 | アミナダブ、アドミン、アルニ、ヘツロン、ペレツ、ユダ、 |
NIV | the son of Amminadab, the son of Ram, the son of Hezron, the son of Perez, the son of Judah, |
註解: (マタ1:3には以上二人の代りにアラムとあり)
エスロン、パレス、ユダ、
口語訳 | ヤコブ、イサク、アブラハム、テラ、ナホル、 |
塚本訳 | ユダはヤコブの、ヤコブはイサクの、イサクはアブラハムの、アブラハムはテラの、テラはナホルの、 |
前田訳 | ヤコブ、イサク、アブラハム、テラ、ナホル、 |
新共同 | ヤコブ、イサク、アブラハム、テラ、ナホル、 |
NIV | the son of Jacob, the son of Isaac, the son of Abraham, the son of Terah, the son of Nahor, |
註解: 以下はマタイ伝になし、以下は創5:1−52。創11:10−26による。なおT歴1:1−27参照。
テラ、ナホル、
口語訳 | セルグ、レウ、ペレグ、エベル、サラ、 |
塚本訳 | ナホルはセルグの、セルグはレウの、レウはペレグの、ペレグはエベルの、エベルはサラの、 |
前田訳 | セルグ、レウ、ペレグ、エベル、サラ、 |
新共同 | セルグ、レウ、ペレグ、エベル、シェラ、 |
NIV | the son of Serug, the son of Reu, the son of Peleg, the son of Eber, the son of Shelah, |
口語訳 | カイナン、アルパクサデ、セム、ノア、ラメク、 |
塚本訳 | サラはカイナンの、カイナンはアルパクサデの、アルパクサデはセムの、セムはノアの、ノアはラメクの、 |
前田訳 | カイナン、アルパクサデ、セム、ノア、ラメク、 |
新共同 | カイナム、アルパクシャド、セム、ノア、レメク、 |
NIV | the son of Cainan, the son of Arphaxad, the son of Shem, the son of Noah, the son of Lamech, |
註解: このカイナンは創世記、歴代誌などになし、これを欠く写本あり。
アルパクサデ、セム、ノア、ラメク、
3章37節 メトセラ、エノク、ヤレデ、マハラレル、カイナン、[引照]
口語訳 | メトセラ、エノク、ヤレデ、マハラレル、カイナン、 |
塚本訳 | ラメクはメトセラの、メトセラはエノクの、エノクはヤレデの、ヤレデはマハラレルの、マハラレルはカイナンの、 |
前田訳 | メトセラ、エノク、ヤレデ、マハラレル、カイナン、 |
新共同 | メトシェラ、エノク、イエレド、マハラルエル、ケナン、 |
NIV | the son of Methuselah, the son of Enoch, the son of Jared, the son of Mahalalel, the son of Kenan, |
3章38節 エノス、セツ、アダム[に
口語訳 | エノス、セツ、アダム、そして神にいたる。 |
塚本訳 | カイナンはエノスの、エノスはセツの、セツはアダムの、アダムは神の子、である。 |
前田訳 | エノス、セツ、アダム。アダムは神の子である。 |
新共同 | エノシュ、セト、アダム。そして神に至る。 |
NIV | the son of Enosh, the son of Seth, the son of Adam, the son of God. |
註解: 最後は上記のごとく「アダム、神」と簡単に訳すべきである。ルカはかく無造作に神をアダムの父と記すことによりイエスが神の子に在し給うことは何ら差支えなきこと、またイエスが第二のアダムに在し給うことを暗示しているものと見ることができる。
ルカ伝第4章
2-3-ヘ 荒野の
(マタ4:1-11) (マコ1:13)
4章1節 さてイエス
口語訳 | さて、イエスは聖霊に満ちてヨルダン川から帰り、 |
塚本訳 | さてイエスは聖霊に満たされ、ヨルダン川から(ガリラヤへ)帰られた。(その途中)御霊によって四十日のあいだ荒野を引き回されながら、 |
前田訳 | イエスは聖霊に満たされてヨルダン川から帰られた。 |
新共同 | さて、イエスは聖霊に満ちて、ヨルダン川からお帰りになった。そして、荒れ野の中を“霊”によって引き回され、 |
NIV | Jesus, full of the Holy Spirit, returned from the Jordan and was led by the Spirit in the desert, |
口語訳 | 荒野を四十日のあいだ御霊にひきまわされて、悪魔の試みにあわれた。そのあいだ何も食べず、その日数がつきると、空腹になられた。 |
塚本訳 | 悪魔の誘惑にあわれた。その間何も食べず、四十日が終ると、空腹を覚えられた。 |
前田訳 | そして霊に導かれて荒野の中に四十日おられ、悪魔の試みにあわれた。その間何も食べず、終わるころ飢えられた。 |
新共同 | 四十日間、悪魔から誘惑を受けられた。その間、何も食べず、その期間が終わると空腹を覚えられた。 |
NIV | where for forty days he was tempted by the devil. He ate nothing during those days, and at the end of them he was hungry. |
註解: ルカ3:23の出来事に連絡す。この時イエスは特に聖霊が充ち溢れることを感じ給い、いよいよその使命を果たすべき公生涯に入らんとしてなお充分にその決意を堅くし、また果してイエス自身が神の子たることの天よりの宣言に相応しきや否やを確認するために断食しつつ神に祈ることの必要を感じ給うたと思われる。聖霊に満されてここに神の子イエスと人の子イエスとの闘いが始まった。この時悪魔が彼に戦いを挑んだのである。
辞解
[聖霊にて満ち] 「聖霊によりて満たされ」。
[聖霊に導かれ] マタ4:1と異なり「御霊に在りて引き廻され」の意。
[四十日] 四十は聖書にしばしば用いられる数字、地的完全を意味す(黙示録註解緒言および引照1参照)。
この
4章3節
口語訳 | そこで悪魔が言った、「もしあなたが神の子であるなら、この石に、パンになれと命じてごらんなさい」。 |
塚本訳 | すると悪魔が言った、「神の子なら、(そんなにひもじい思いをせずとも、)この石ころに、パンになれと命令したらどうです。 |
前田訳 | 悪魔はいった、「神の子なら、この石にパンになれといいなさい」と。 |
新共同 | そこで、悪魔はイエスに言った。「神の子なら、この石にパンになるように命じたらどうだ。」 |
NIV | The devil said to him, "If you are the Son of God, tell this stone to become bread." |
註解: 人間の場合においても、その人の信仰の有無は誘惑に遭って始めて試験され、而して誘惑はその人に慾求が起って始めてそこに向けられる。イエスの場合もこれと同様であった。御霊に在りて導き廻され、荒野の中を彷徨 しつつあった間はサタンはイエスに向って襲いかかる機会を得ず、イエスはその神の子たる自覚を試す機会がなかった。悪魔はイエスの猛烈なる飢餓をきっかけにイエスを神より隔離して、その神に対する忠誠に破綻を来さしめんとした。すなわちイエスの神の子意識を利用して、飢餓を免れる必要上より止むを得ないとの口実の下に、神に従わず悪魔の言に従ってイエスの力を用いしめんとした。イエスには神の子たる意識と上よりの証言があり、また石をパンに化する能力があった。唯この際神の命によらず、また神の与え給うパンを待たずして悪魔の言に従いその力を用い給うたならば、イエスの心は神を離れて悪魔に従うたこととなり悪魔の目的は完遂されたこととなる。
4章4節 イエス
口語訳 | イエスは答えて言われた、「『人はパンだけで生きるものではない』と書いてある」。 |
塚本訳 | イエスは答えられた、「“パンがなくとも人は生きられる”と(聖書に)書いてある。」 |
前田訳 | イエスは答えられた、「『人はパンだけで生きるのではない』と聖書にある」と。 |
新共同 | イエスは、「『人はパンだけで生きるものではない』と書いてある」とお答えになった。 |
NIV | Jesus answered, "It is written: `Man does not live on bread alone.' " |
註解: 申8:3。マタ4:4にはさらに「神の口より出づる凡ての言による」を加う。「先ず神の国と神の義とを求むること」(マタ6:33)、神の口より出づる凡ての言に従って生きること、これがイエスにとっての真の生命であった。飢えて死ぬることが神の御旨である場合、これに従うことがすなわち真に生きることである。イエスの目は常に父の御面を離れなかった。それ故に機に臨み変に応じて適切なる神の御言を聴くことができた。
4章5節
口語訳 | それから、悪魔はイエスを高い所へ連れて行き、またたくまに世界のすべての国々を見せて |
塚本訳 | すると悪魔はイエスを高い所につれてゆき、瞬くまに世界中の国々を見せて、 |
前田訳 | 次に悪魔は彼を高いところに連れて行き、またたく間に世界のすべての国々を見せた。 |
新共同 | 更に、悪魔はイエスを高く引き上げ、一瞬のうちに世界のすべての国々を見せた。 |
NIV | The devil led him up to a high place and showed him in an instant all the kingdoms of the world. |
4章6節 『この
口語訳 | 言った、「これらの国々の権威と栄華とをみんな、あなたにあげましょう。それらはわたしに任せられていて、だれでも好きな人にあげてよいのですから。 |
塚本訳 | 言った、「あの(国々の)全支配権と栄華とをあげよう。あれは(神から)わたしに任されていて、だれにでも好きな人にやってよいのだから。 |
前田訳 | そしていった、「あのすべての権威と栄光とをあげよう。あれはわたしにまかされていて、だれでも好きな人に与えてよい。 |
新共同 | そして悪魔は言った。「この国々の一切の権力と繁栄とを与えよう。それはわたしに任されていて、これと思う人に与えることができるからだ。 |
NIV | And he said to him, "I will give you all their authority and splendor, for it has been given to me, and I can give it to anyone I want to. |
4章7節 この
口語訳 | それで、もしあなたがわたしの前にひざまずくなら、これを全部あなたのものにしてあげましょう」。 |
塚本訳 | それで、もしあなたがわたしをおがむなら、あれは皆あなたのものになります。」 |
前田訳 | もしわたしの前にひれ伏すなら、皆あなたのものです」と。 |
新共同 | だから、もしわたしを拝むなら、みんなあなたのものになる。」 |
NIV | So if you worship me, it will all be yours." |
註解: 第二の試誘 は神の子として当然有ち給うべき全世界の支配権に関するものであった。すなわち政治的試誘 ということができる。神の子でありながら、乞食の如き姿にて唯一人、何人をも伴わずに荒野に彷徨 することは果して正しいのであろうか。これで善いのだろうかとは、イエスの脳中を往来した疑問であったろう。またむしろ神の子たる力を用いて一挙にして全世界を支配し、しかる後に神の福音を宣伝すべきではないかとの政策的な思いも起ったことであったろう。第一の試誘 に失敗した悪魔はイエスの内心にあるこの慾求にその攻撃の矢を放った。否かかる要求を起させて全世界を眼前に浮ばさせることが、それ自身悪魔の計画であった(5節)。悪魔はこの世界の上に権威を「委ねられ」たこと(サタンは「この世の君」「この世の神」である。 ヨハ12:31。ヨハ14:30。ヨハ16:11。Uコリ4:4。エペ2:2。エペ6:12 )を主張し、これを与うる条件として彼を神として拝すること、すなわち彼に服従することを要求した。この世の支配者となるためには、現世においては神の子すらも悪魔に屈服せずには不可能であることをイエスは見破り給うたのであった。悪と妥協せずにこの世を支配することはできない。
辞解
[携へのぼり] 如何なる処に上ったのかが判らない。ルカはこれを問題にしない方がよいと考えたのであろう。
4章8節 イエス
口語訳 | イエスは答えて言われた、「『主なるあなたの神を拝し、ただ神にのみ仕えよ』と書いてある」。 |
塚本訳 | イエスは答えられた、「“あなたの神なる主をおがめ、“主に”のみ“奉仕せよ”と(聖書に)書いてある。」 |
前田訳 | イエスは答えられた、「『なんじの神なる主を拝み、彼にのみ仕えよ』と聖書にある」と。 |
新共同 | イエスはお答えになった。「『あなたの神である主を拝み、/ただ主に仕えよ』/と書いてある。」 |
NIV | Jesus answered, "It is written: `Worship the Lord your God and serve him only.' " |
註解: 申6:13。たとい我らの常識や、打算や、理性が至当であると判断したことでも、それが神の命にあらざる場合はこれに従ってはならない。純粋に唯神のみを拝し、神のみに事 えることが悪魔の試誘 を防ぐ最善唯一の方法である。イエスの眼はこの場合も同様に神から離れず、悪魔の敗北となった。
4章9節
口語訳 | それから悪魔はイエスをエルサレムに連れて行き、宮の頂上に立たせて言った、「もしあなたが神の子であるなら、ここから下へ飛びおりてごらんなさい。 |
塚本訳 | そこで悪魔はイエスをエルサレムにつれていって、宮の屋根の上に立たせて言った、「神の子なら、ここから下へ飛びおりたらどうです。 |
前田訳 | すると悪魔は彼をエルサレムに連れ行き、宮の屋根に立たせていった、「神の子なら、ここから下へ飛びおりなさい。 |
新共同 | そこで、悪魔はイエスをエルサレムに連れて行き、神殿の屋根の端に立たせて言った。「神の子なら、ここから飛び降りたらどうだ。 |
NIV | The devil led him to Jerusalem and had him stand on the highest point of the temple. "If you are the Son of God," he said, "throw yourself down from here. |
4章10節 それは「なんぢの
口語訳 | 『神はあなたのために、御使たちに命じてあなたを守らせるであろう』とあり、 |
塚本訳 | “神は天使たちに命じて、あなたを守ってくださる、” |
前田訳 | 聖書にあります、『天使たちに神は命じてあなたを守らせたもう』と。 |
新共同 | というのは、こう書いてあるからだ。『神はあなたのために天使たちに命じて、/あなたをしっかり守らせる。』 |
NIV | For it is written: "`He will command his angels concerning you to guard you carefully; |
4章11節 「かれら
口語訳 | また、『あなたの足が石に打ちつけられないように、彼らはあなたを手でささえるであろう』とも書いてあります」。 |
塚本訳 | また“手にてあなたを支えさせ、足を石に打ち当てないようにしてくださる”と(聖書に)書いてあります。(人々はそれを見て信じ、たちどころにあなたの国が出来ます。)」 |
前田訳 | また、『手であなたを支えさせ、足を石に打ちあてないようになさる』と」。 |
新共同 | また、/『あなたの足が石に打ち当たることのないように、/天使たちは手であなたを支える。』」 |
NIV | they will lift you up in their hands, so that you will not strike your foot against a stone.' " |
註解: 詩91:11。第三の試誘 は宗教的試誘 であった。イエスは神の子に相応しき奇蹟により衆人環視の前に神が特別の守護を彼に与え給うことを人々に示して、神の子たることを証し、かくして彼を拝せしめようとの考えが起って来るのを感じた。悪魔がかく彼を誘ったのである。加之 この考えは聖書の裏書がある。詩91:11がそれである。いずれの点から見てもこれは正しい途であると考えることはまことに陥りやすい結論であった。悪魔すら聖書を引用することを知っている。聖書に叶うことが必ずしも聖旨に叶うことではない。この種の誘惑は信仰を有っていると考える人間には殊に多い。
4章12節 イエス
口語訳 | イエスは答えて言われた、「『主なるあなたの神を試みてはならない』と言われている」。 |
塚本訳 | イエスは答えられた、「“あなたの神なる主を試みてはならない”と言ってある。」 |
前田訳 | イエスは答えられた、「『あなたの神なる主を試みるな』といわれている」と。 |
新共同 | イエスは、「『あなたの神である主を試してはならない』と言われている」とお答えになった。 |
NIV | Jesus answered, "It says: `Do not put the Lord your God to the test.' " |
註解: 申6:16。神の特別の命令によって自己を危険な地位に置かなければならない場合は勿論、一般に自己の義務や使命の遂行に際して危険な地位に陥る場合は、我らは詩91:11の神の守護を信じ、これに委 せて危険の中に飛び込むべきであるが、神が自分を守り給うや否やを試みるためとか、または己の虚栄または主張のため等に神の守護を必然と信ずるごときは「神を試みる」ことであり、不信の行為である。為すべき普通の義務を果さず、普通の注意をも怠りながら神の守護を頼りにするごときことも神を試みることである。この場合イエスは神よりかかる危険を冒すべきことを命ぜられていなかった。ゆえに彼は内心奇蹟によって人心を引き付けんとの欲求が起ったにしてもこの誘惑を退け給うた。なお、マタ4:11要義参照。
4章13節
口語訳 | 悪魔はあらゆる試みをしつくして、一時イエスを離れた。 |
塚本訳 | 悪魔はあらん限りの誘惑を終ると、ひとまずイエスから手を引いた。 |
前田訳 | あらゆる試みを終えると、悪魔はひとまず彼を離れた。 |
新共同 | 悪魔はあらゆる誘惑を終えて、時が来るまでイエスを離れた。 |
NIV | When the devil had finished all this tempting, he left him until an opportune time. |
註解: イエスはついに悪魔に打勝ち給うた。「我すでに世に勝てり」(ヨハ16:33)とはこのことを意味する。第一のアダムはサタンに敗北したけれども、第二のアダムはこれに打勝ち給うた。新しき世界の発端はここに開かれた。悪魔は「暫く」イエスを離れたけれども、これはやがてまた機を見て彼を試みんとの下心からであった。悪魔が「火と硫黄との池に投げ入れられる」(黙20:10)までは油断をしてはならない。
分類
3 ガリラヤ初期の活動 4:14 - 6:11
3-1 緒言 4:14 - 4:15
4章14節 イエス
口語訳 | それからイエスは御霊の力に満ちあふれてガリラヤへ帰られると、そのうわさがその地方全体にひろまった。 |
塚本訳 | イエスは御霊の力にあふれて、ガリラヤに帰られた。評判がその周囲全体に広まった。 |
前田訳 | イエスは霊の力に満ちてガリラヤへ帰られた。彼の評判はあたり一帯にひろまった。 |
新共同 | イエスは“霊”の力に満ちてガリラヤに帰られた。その評判が周りの地方一帯に広まった。 |
NIV | Jesus returned to Galilee in the power of the Spirit, and news about him spread through the whole countryside. |
4章15節 かくて
口語訳 | イエスは諸会堂で教え、みんなの者から尊敬をお受けになった。 |
塚本訳 | イエスはあちらこちらの礼拝堂で教え、皆にあがめられた。 |
前田訳 | 彼は諸会堂で教え、人々は皆彼をたたえた。 |
新共同 | イエスは諸会堂で教え、皆から尊敬を受けられた。 |
NIV | He taught in their synagogues, and everyone praised him. |
註解: これよりイエスのガリラヤ伝道が開始された。宣教の当初においてはイエスの名声は隆々たるものがあった。あまねく四方の地はフェニキヤ、イヅメヤ、テラコニテ、デカポリスの地方をも含むと見ることができる(ルカ6:17。マコ1:28。マコ3:7以下。マタ4:24以下)。この二節は13節と相呼応していて、一方全ガリラヤ伝道の要約または主題をなす。「御霊の能力をもて」は、悪魔に打勝てる結果、彼の確信とその使命に対する熱心が一層強化され御霊が豊かにその能力を発揮した。「諸会堂」はイエスの教訓の場所であった。ガリラヤの各地を巡回した。「かくて」は「而して彼自身」。
4章16節
口語訳 | それからお育ちになったナザレに行き、安息日にいつものように会堂にはいり、聖書を朗読しようとして立たれた。 |
塚本訳 | それからお育ちになったナザレに行って、安息の日にいつものとおり礼拝堂に入り、(聖書を)朗読しようとして立たれた。 |
前田訳 | 彼は育ちの地ナザレヘ来られ、いつものように安息日に会堂に入り、聖書を読みに立たれた。 |
新共同 | イエスはお育ちになったナザレに来て、いつものとおり安息日に会堂に入り、聖書を朗読しようとしてお立ちになった。 |
NIV | He went to Nazareth, where he had been brought up, and on the Sabbath day he went into the synagogue, as was his custom. And he stood up to read. |
口語訳 | すると預言者イザヤの書が手渡されたので、その書を開いて、こう書いてある所を出された、 |
塚本訳 | (係の者から)イザヤの預言書が手渡され、その巻物をお開けになると、こう書いた所が出てきた。── |
前田訳 | 預言者イザヤの書が渡された。巻物を開かれると、こう書かれた箇所であった、 |
新共同 | 預言者イザヤの巻物が渡され、お開きになると、次のように書いてある個所が目に留まった。 |
NIV | The scroll of the prophet Isaiah was handed to him. Unrolling it, he found the place where it is written: |
註解: イエスは幼時は勿論伝道の生涯に入り給うて後も、安息日には必ず会堂に入り、かつ自ら聖書を読んで会衆を教え給うた。会堂の礼拝の様式は最初に申命記の一部を朗読し(これをパラシヤという)、第二回の聖書朗読は預言書であった(これをハフタラという)。而して会堂司の指名によりまたは随意に何人もその朗読と解説を為すことができた。イエスこの時自ら立ちて聖書の朗読を為さんとし会堂の役員は彼にイザヤの書を附した。当 にイエスの語らんとし給う処の書が与えられたのであった。ルカがナザレにおけるこの出来事を最初に録したのは、イエスが御自身を神の子として公けに表明し給える最初の事件であり、荒野の試誘 の結果、イエスが獲得し給える神の子の意識の発表であったためと思われる。
註解: 強いてこれを神の導き(L2、B1)と解する必要はない。
4章18節 『
口語訳 | 「主の御霊がわたしに宿っている。貧しい人々に福音を宣べ伝えさせるために、わたしを聖別してくださったからである。主はわたしをつかわして、囚人が解放され、盲人の目が開かれることを告げ知らせ、打ちひしがれている者に自由を得させ、 |
塚本訳 | “主の御霊がわたしの上にある、油を注いで(聖別して)くださったからである。主は貧しい人に福音を伝えるためにわたしを遣わされた。囚人に赦免を、盲人に視力の回復を告げ、”“押えつけられている者に自由をあたえ、” |
前田訳 | 「主の霊がわが上にある、油をお注ぎくださったゆえに。貧しい人々に福音を伝えるよう、主はわたしをつかわされた。捕われ人にゆるしを、目しいに視力回復を告げ、被圧者を解放し、 |
新共同 | 「主の霊がわたしの上におられる。貧しい人に福音を告げ知らせるために、/主がわたしに油を注がれたからである。主がわたしを遣わされたのは、/捕らわれている人に解放を、/目の見えない人に視力の回復を告げ、/圧迫されている人を自由にし、 |
NIV | "The Spirit of the Lord is on me, because he has anointed me to preach good news to the poor. He has sent me to proclaim freedom for the prisoners and recovery of sight for the blind, to release the oppressed, |
口語訳 | 主のめぐみの年を告げ知らせるのである」。 |
塚本訳 | “主の恵みの年(の来たこと)を告げさせるために。” |
前田訳 | 主の恵みの年を伝えるために」と。 |
新共同 | 主の恵みの年を告げるためである。」 |
NIV | to proclaim the year of the Lord's favor." |
註解: イザ61:1、2bよりの引用であるが、ヘブル原典とも異なり、また七十人訳とも異なる。「盲人に」云々は原文になく七十人訳にあり。「壓 へられる者を放ち」はイザ58:6にあり、また「喜ばしき年」の次に「神の刑罰の日」につきては省略している。イエスの朗読し給える聖書がかかる聖書であったのではなく、ルカが自由に主イエスの使命に適せる語句を繋ぎ合わせたものと見なければならぬ。聖書の霊的引用とも称すべきものである。主イエスは聖霊に満されかつ神より油を注がれてメシヤとして立てられ、貧者・囚人・盲人・被圧迫者等、社会的・肉体的・政治的に最も憫むべき弱者を救わんがために来たり給えること、そして「主の喜ばしき年」すなわち五十年毎に回り来るヨベルの年(レビ25:1−55)にも比すべきイスラエルの救いの年を宣伝せしめんがために遣わされ給うたのであることを、この聖書の引用によって会衆に示さんとし給うた。すなわちヨベルの年はここではメシヤ時代に入ったことを示す。
辞解
[油を注ぐ] ▲「聖別する」際に用いた形式。
[壓 へられる者] ▲▲原語 throauô は「粉々にする」「屈服させる」等の意味あり。
4章20節 イエス
口語訳 | イエスは聖書を巻いて係りの者に返し、席に着かれると、会堂にいるみんなの者の目がイエスに注がれた。 |
塚本訳 | イエスは(読み終ると、)聖書を巻き、係の者に返して坐られた。礼拝堂にいる者の目が皆彼にそそがれた。 |
前田訳 | 彼は聖書を巻いて係に返してすわられた。会堂にいたものすべての目が彼にそそがれた。 |
新共同 | イエスは巻物を巻き、係の者に返して席に座られた。会堂にいるすべての人の目がイエスに注がれていた。 |
NIV | Then he rolled up the scroll, gave it back to the attendant and sat down. The eyes of everyone in the synagogue were fastened on him, |
註解: イエスの朗々たる声と、その自信満々たる態度と、聖霊に満され給える姿とは会衆を深く感動せしめたものと思われる。すなわちイエスと聖書の一致が強く感ぜられたので彼らの目はイエスの上に注がれた。
辞解
[巻き] 当時の会堂における聖書は巻物になっていた。
[坐す] 聖書の説明をする時は坐してこれを為す。
4章21節 イエス
口語訳 | そこでイエスは、「この聖句は、あなたがたが耳にしたこの日に成就した」と説きはじめられた。 |
塚本訳 | イエスは、「(今)あなた達が聞いたこの聖書の言葉は、今日(ここで)成就した」と言って話を始められた。 |
前田訳 | そこで彼は「あなた方が聞いたこの聖書の箇所はきょう成就した」といって語りはじめられた。 |
新共同 | そこでイエスは、「この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した」と話し始められた。 |
NIV | and he began by saying to them, "Today this scripture is fulfilled in your hearing." |
註解: (▲口語訳は意味の上からも文脈の上からも不適当である。)勿論イエスが御自身を指して言い給えることは会衆に大体感知されたであろう。イエスのメシヤたる自信はいよいよ確乎たるものとなり、しかも旧約聖書の預言の成就を自ら証明し給うた。
4章22節
口語訳 | すると、彼らはみなイエスをほめ、またその口から出て来るめぐみの言葉に感嘆して言った、「この人はヨセフの子ではないか」。 |
塚本訳 | 皆がイエスを誉めそやし、かつその口をついて出る言葉のうるわしさに驚いて、「これはヨセフの息子ではないか」と言った。 |
前田訳 | 皆が彼をほめ、彼の口から出る恵みのことばにおどろいた。そしていった、「この人はヨセフの子ではないか」と。 |
新共同 | 皆はイエスをほめ、その口から出る恵み深い言葉に驚いて言った。「この人はヨセフの子ではないか。」 |
NIV | All spoke well of him and were amazed at the gracious words that came from his lips. "Isn't this Joseph's son?" they asked. |
註解: 「誉む」「怪しむ」「言ふ」はみな未完了過去形で継続または繰返す動作を言う。すなわち会堂の会衆の間にこの種の風評や、驚きや、好評が一般的になって来た。彼らは一面イエスの霊的の能力と、その聡明とに驚きつつも、なおイエスの幼時およびその家庭を知っていることが、彼らをしてイエスを神の子として受くることを躊躇せしめた。
辞解
[恵の言] (1)「神の恩恵を示す言」(E0)、(2)「気持ちよき言」(B1、M0、Z0)の二つの解あり、前者を取る。
4章23節 イエス(かれらに)
口語訳 | そこで彼らに言われた、「あなたがたは、きっと『医者よ、自分自身をいやせ』ということわざを引いて、カペナウムで行われたと聞いていた事を、あなたの郷里のこの地でもしてくれ、と言うであろう」。 |
塚本訳 | 彼らに言われた、「どの道あなた達は『自分をなおせ、お医者さん』という諺を引いて、『いろいろなことをカペナウムでしたと聞いたが、郷里のここでもやってみろ』とわたしに言うにちがいない。」 |
前田訳 | 彼はいわれた、「きっとあなた方は、『医者よ、自らをなおせ』という諺を引いて、『カペナウムでなされたとわれらが聞くとおりのことを故郷のここでもなさい』といおう」と。 |
新共同 | イエスは言われた。「きっと、あなたがたは、『医者よ、自分自身を治せ』ということわざを引いて、『カファルナウムでいろいろなことをしたと聞いたが、郷里のここでもしてくれ』と言うにちがいない。」 |
NIV | Jesus said to them, "Surely you will quote this proverb to me: `Physician, heal yourself! Do here in your hometown what we have heard that you did in Capernaum.'" |
註解: イエスは彼らの心中を洞察し、彼らはイエスを信ぜずこれを批判して、イエスの欠点を指摘しまた彼を試み、他の町におけるごとくナザレにおいても奇蹟を行って、まず神の子たることの証拠を示さんことを要求するであろうことを告げ給うた。
辞解
「醫者よ、みづから己を醫せ」の俚諺 は、この場合に適切でないように思われるので、これを単に「他人よりもまず自分」の意味と解し、カペナウムに行うより先にまずナザレに行うべしとの意味と解する説もあるけれども適切ではない。要するにこれは不信の心よりする言い訳的批判に過ぎない。なおルカ伝にては本節より前にカペナウムにて奇蹟または他の大なる事蹟を行い給えることが録されておらず、後に32−37節に始めてそのことが録されていることが問題であるが、これはあるいは14、15節の声名の背後にかかることを包含しているものと見るか、またはルカが歴史の順序に従わず事件そのものの関連性に重点を置き31−37節より後に起った事件をその前に録したものであろう。
4章24節 また
口語訳 | それから言われた、「よく言っておく。預言者は、自分の郷里では歓迎されないものである。 |
塚本訳 | また言われた、「アーメン、わたしは言う、いかなる預言者も、その郷里では歓迎されない。 |
前田訳 | そしていわれた、「本当にいう、どの預言者も故郷ではもてはやされない。 |
新共同 | そして、言われた。「はっきり言っておく。預言者は、自分の故郷では歓迎されないものだ。 |
NIV | "I tell you the truth," he continued, "no prophet is accepted in his hometown. |
註解: 預言者は、その故郷では、幼時より知れており、また家族や親戚等も多い関係上、預言者の偉大さを認識しかねるために尊敬を受けない。
辞解
[喜ばれる] dektos 嘉納されること。
4章25節 われ
口語訳 | よく聞いておきなさい。エリヤの時代に、三年六か月にわたって天が閉じ、イスラエル全土に大ききんがあった際、そこには多くのやもめがいたのに、 |
塚本訳 | 本当にわたしは言う、(郷里でえらい働きをした預言者がどこにあるか。預言者)エリヤの時代に、三年六か月、天が閉じて(雨が降らず、)国中に大飢饉があった際、イスラエル人の中に多くの寡婦がいたのに、 |
前田訳 | 本当に、エリヤの時代、三年六か月の間天が閉じて雨がなく、全国に大飢饉があったとき、イスラエルにやもめは多かったのに、 |
新共同 | 確かに言っておく。エリヤの時代に三年六か月の間、雨が降らず、その地方一帯に大飢饉が起こったとき、イスラエルには多くのやもめがいたが、 |
NIV | I assure you that there were many widows in Israel in Elijah's time, when the sky was shut for three and a half years and there was a severe famine throughout the land. |
4章26節 エリヤは
口語訳 | エリヤはそのうちのだれにもつかわされないで、ただシドンのサレプタにいるひとりのやもめにだけつかわされた。 |
塚本訳 | そのだれの所にもエリヤは遣わされず、“(異教国)シドンのサレプタにいた一人の寡婦の所に”だけつかわされた。 |
前田訳 | エリヤがつかわされたのはそのいずれにでもなく、シドンのサレプタのやもめのところにだけであった。 |
新共同 | エリヤはその中のだれのもとにも遣わされないで、シドン地方のサレプタのやもめのもとにだけ遣わされた。 |
NIV | Yet Elijah was not sent to any of them, but to a widow in Zarephath in the region of Sidon. |
註解: T列17:1−24に録されてある事実をここに引用し、イスラエルの中に信仰なくかえってツロとシドンの間にある異邦の小邑サレプタの寡婦が信仰をもって預言者エリヤを受納れこれを養ったことを例示し、イエスはその故郷の不信をそれとなく責め給うた。
辞解
[三年六ヶ月] T列17:1。T列18:1とは年数がちがう、ユダヤの伝説によったもの。完全数七の半分である有限期間の意味を有する数。
4章27節 また
口語訳 | また預言者エリシャの時代に、イスラエルには多くのらい病人がいたのに、そのうちのひとりもきよめられないで、ただシリヤのナアマンだけがきよめられた」。 |
塚本訳 | また預言者エリシャの時、イスラエル人の中に多くの癩病人がいたのに、そのだれも清まらず、(異教人である)シリヤ人ナアマンだけがきよまった。(神の恵みはかえって異教人に与えられる。)」 |
前田訳 | また、預言者エリシャのときイスラエルにらい者は多かったのに、清められたのはそのいずれでもなく、シリアのナアマンだけであった」と。 |
新共同 | また、預言者エリシャの時代に、イスラエルには重い皮膚病を患っている人が多くいたが、シリア人ナアマンのほかはだれも清くされなかった。」 |
NIV | And there were many in Israel with leprosy in the time of Elisha the prophet, yet not one of them was cleansed--only Naaman the Syrian." |
註解: U列5:1−24の物語で預言者はその国人に受納れられずかえって異邦人が彼に非常なる敬意を表することの例としてこれを掲げ、その故郷なるナザレの冷淡さを間接に非難し給う。
口語訳 | 会堂にいた者たちはこれを聞いて、みな憤りに満ち、 |
塚本訳 | これを聞くと、礼拝堂にいた者が皆非常に憤慨し、 |
前田訳 | それを聞いて会堂にいたものは皆怒りに満ち、 |
新共同 | これを聞いた会堂内の人々は皆憤慨し、 |
NIV | All the people in the synagogue were furious when they heard this. |
註解: 彼らが非難されたことを悟ったためである。
4章29節
口語訳 | 立ち上がってイエスを町の外へ追い出し、その町が建っている丘のがけまでひっぱって行って、突き落そうとした。 |
塚本訳 | 総立ちになってイエスを町の外に突き出し、町の建っている山の崖のところまでつれていった。(そこから)突き落そうと思ったのである。 |
前田訳 | 総立ちになって、彼を町の外に追い出し、町の建っている山の崖まで連れて行って突き落とそうとした。 |
新共同 | 総立ちになって、イエスを町の外へ追い出し、町が建っている山の崖まで連れて行き、突き落とそうとした。 |
NIV | They got up, drove him out of the town, and took him to the brow of the hill on which the town was built, in order to throw him down the cliff. |
口語訳 | しかし、イエスは彼らのまん中を通り抜けて、去って行かれた。 |
塚本訳 | しかしイエスは人々の真中を通って、(目ざす所へ)進んでゆかれた。 |
前田訳 | しかし彼は人々の真ん中を通って去って行かれた。 |
新共同 | しかし、イエスは人々の間を通り抜けて立ち去られた。 |
NIV | But he walked right through the crowd and went on his way. |
註解: ナザレは山の傾斜面に立っている町であり、その郊外には急な崖がある。イエスが彼を殺さんとする群衆の中を巧みに抜け出で給うたことは、イエスにとりて未だにその生命を犠牲にすべき時が来なかったためであった。死ぬるに時あり、生くるに時あり。
要義 [イエスのメシヤたることの自証]16−21節においてイエスはイザヤ書の預言が御自身に成就したことを主張し給うたけれどもこの際も「我自身に」と言わず、間接に「汝らの耳に」と言い給うた。イエスは一回もそのメシヤたることを教義的に民衆に説明し給わなかった。最後にピラトの問いに対して明白に「然り」と答え給うただけであった(ヨハ18:37)。その他は唯間接に民衆や病人が「ダビデの子よ」と叫ぶのを否定し給わなかっただけであった (マタ9:27。マタ12:23。マタ15:22。マタ20:30、31。その他) 。かく消極的態度を取り給える所以は、イエスをメシヤすなわちキリスト、救い主なる神の子と信ずるのは我らの頭脳すなわち理性や理解力の問題ではなく、また我らの心すなわち感情の問題でもなく、我らの信仰の問題だからである。信仰は説明では判らない。説明で納得したと思う信仰は信仰ではない。信仰は飽くまで霊による直感である。イエスはナザレの会衆にもこの信仰を求め給うたのであった。またイエスが御自身神の子に在し給うことを確信しつつついにこれを説明し給わなかった所以はこのためである。
4章31節 かくてガリラヤの
口語訳 | それから、イエスはガリラヤの町カペナウムに下って行かれた。そして安息日になると、人々をお教えになったが、 |
塚本訳 | ガリラヤの町カペナウムに下られた。安息日に教えられると、 |
前田訳 | そしてガリラヤの町カペナウムに下られた。安息日にお教えになると、 |
新共同 | イエスはガリラヤの町カファルナウムに下って、安息日には人々を教えておられた。 |
NIV | Then he went down to Capernaum, a town in Galilee, and on the Sabbath began to teach the people. |
註解: カペナウムはイエスの本拠となっていた(マコ1:16、マコ1:21。マタ4:12以下)と思われる。ガリラヤ湖の北岸にあり、今日その会堂の遺跡が発掘されている。「下る」はその地が海面下二二〇メートルの低地にあるためである。その教えは権威があり(マコ1:22に「学者のごとくならず」とあり、ルカがマルコ伝を参照したにもかかわらずこれを除いたため印象がやや漠然となった)人々をいたく驚かした。なおこの二節はカペナウムにおけるイエスの伝道(その中に山上の垂訓も含まれるのであるが)の状況の概論のごときものと見るべきで、33節以下の事件と同じ安息日のことを言っている(Z0)のではないと見るべきであろう。▲イエスは安息日の集会に常に出席し、進んで会衆を教え給うた。聴衆から見た場合彼の言に特に権威があったのがその特徴であった。
4章32節
口語訳 | その言葉に権威があったので、彼らはその教に驚いた。 |
塚本訳 | 人々はその教えに感心してしまった。話に権威があったからである。 |
前田訳 | 人々はその教えにおどろいた。彼のことばに権威があったからである。 |
新共同 | 人々はその教えに非常に驚いた。その言葉には権威があったからである。 |
NIV | They were amazed at his teaching, because his message had authority. |
4章33節
口語訳 | すると、汚れた悪霊につかれた人が会堂にいて、大声で叫び出した、 |
塚本訳 | そのとき、礼拝堂に汚れた悪鬼の霊につかれた一人の人がいたが、大声をあげて叫んだ、 |
前田訳 | 会堂にけがれた悪鬼の霊につかれた人がいて、大声で叫んだ、 |
新共同 | ところが会堂に、汚れた悪霊に取りつかれた男がいて、大声で叫んだ。 |
NIV | In the synagogue there was a man possessed by a demon, an evil spirit. He cried out at the top of his voice, |
4章34節 『ああ、ナザレのイエスよ、
口語訳 | 「ああ、ナザレのイエスよ、あなたはわたしたちとなんの係わりがあるのです。わたしたちを滅ぼしにこられたのですか。あなたがどなたであるか、わかっています。神の聖者です」。 |
塚本訳 | 「ああ、ナザレのイエス様、“放っておいてください。”わたしどもを滅ぼしに来られたのか。あなたがだれだか、わたしにはわかっています。神の聖者(救世主)です。」 |
前田訳 | 「ああ、何のご用ですか、ナザレのイエス。われらを退治においでですか。あなたがどなたか知っています。神の聖者です」と。 |
新共同 | 「ああ、ナザレのイエス、かまわないでくれ。我々を滅ぼしに来たのか。正体は分かっている。神の聖者だ。」 |
NIV | "Ha! What do you want with us, Jesus of Nazareth? Have you come to destroy us? I know who you are--the Holy One of God!" |
註解: 悪鬼がその人の口を通して自ら叫んでいる。悪鬼はかえって人間よりもよくかつ精確にイエスを認識する能力を持つ。そしてイエスに抵抗し得ないことを知っている。イエスを最も嫌うのは人の中に宿る悪すなわちサタンの霊である。
辞解
[穢れし悪鬼の霊] 精神病的諸病の原因が、かかる霊的存在の作用であると考えられた。
[神の聖者] 神より聖別せられし者の意。
4章35節 イエス
口語訳 | イエスはこれをしかって、「黙れ、この人から出て行け」と言われた。すると悪霊は彼を人なかに投げ倒し、傷は負わせずに、その人から出て行った。 |
塚本訳 | イエスは「黙れ、その人から出てゆけ」と言って叱りつけられた。すると悪鬼はその人をみなの真中に投げ倒して、出ていった。何も怪我はなかった。 |
前田訳 | イエスはたしなめられた、「黙れ、その人を出よ」と。悪霊はその人を真ん中に投げ倒して出て行ったが、何の傷も負わせなかった。 |
新共同 | イエスが、「黙れ。この人から出て行け」とお叱りになると、悪霊はその男を人々の中に投げ倒し、何の傷も負わせずに出て行った。 |
NIV | "Be quiet!" Jesus said sternly. "Come out of him!" Then the demon threw the man down before them all and came out without injuring him. |
註解: 今日の医学から見れば、無意義な叫びのごとくであるが、心理療法の立場から見ただけでも、イエスの仕方は、極めて巧妙であると言える。しかしイエスはこれを一種の「術」として魔術的に行い給うたのではなく、真に全力を込めてその悪霊を叱咤し給うたのであった。
註解: その人が急に倒れたのを見て人々は如何なる結果になることかと固唾を呑んで待ったことであろう。然るにその人は無傷で立ち上がり、かつ悪鬼はその人より出でて健全な人間となっていた。まことに鮮やかな奇蹟的治癒であった。イエスには驚くべき霊の能力が充ち満ちていたことが判る。サタンの奴隷たる人類がイエスの教えに接してついに罪のために死して甦ることに酷似しているのも興味ある事実である。
4章36節 みな
口語訳 | みんなの者は驚いて、互に語り合って言った、「これは、いったい、なんという言葉だろう。権威と力とをもって汚れた霊に命じられると、彼らは出て行くのだ」。 |
塚本訳 | 皆がびっくりして、互いにこう語り合った、「この言葉はいったいどうしたのだろう。権威と力があって、この人が命令されると、汚れた霊まで出てゆくのだが。」 |
前田訳 | 皆が感心して互いにいった、「このことばはどういうのだろう。彼が権威と力で命じられると、けがれた霊が出て行くとは」と。 |
新共同 | 人々は皆驚いて、互いに言った。「この言葉はいったい何だろう。権威と力とをもって汚れた霊に命じると、出て行くとは。」 |
NIV | All the people were amazed and said to each other, "What is this teaching? With authority and power he gives orders to evil spirits and they come out!" |
註解: 「言」は35節のイエスの言と解すべきであろう。(「事柄」と訳す説あり)後半私訳「権威と能力とをもて穢れし霊に命ずれば、彼らすら出で去るとは」。
4章37節 ここにイエスの
口語訳 | こうしてイエスの評判が、その地方のいたる所にひろまっていった。 |
塚本訳 | イエスの噂がその周囲の地全体に広まっていった。 |
前田訳 | 彼の評判は周辺の地一帯にひろまっていった。 |
新共同 | こうして、イエスのうわさは、辺り一帯に広まった。 |
NIV | And the news about him spread throughout the surrounding area. |
註解: 14節参照。
4章38節 イエス
口語訳 | イエスは会堂を出てシモンの家におはいりになった。ところがシモンのしゅうとめが高い熱を病んでいたので、人々は彼女のためにイエスにお願いした。 |
塚本訳 | イエスは立って礼拝堂を出て、シモンの家に入られた。シモンの姑がひどい熱病に苦しんでいた。人々が彼女のことを願うと、 |
前田訳 | 会堂を立ち去って、シモンの家に入られた。シモンの姑(しゅうとめ)がひどい熱病にかかっていたので、人々が彼女の助けを求めた。 |
新共同 | イエスは会堂を立ち去り、シモンの家にお入りになった。シモンのしゅうとめが高い熱に苦しんでいたので、人々は彼女のことをイエスに頼んだ。 |
NIV | Jesus left the synagogue and went to the home of Simon. Now Simon's mother-in-law was suffering from a high fever, and they asked Jesus to help her. |
註解: 同じ安息日の出来事であった。シモン・ペテロその他の使徒の召命についてはルカは既知の事実のごとくに取扱い、唯ルカ5:1−11にペテロの召命とも思われる記事を掲ぐ、やや年代的に不精確なり。
シモンの
4章39節 その
口語訳 | そこで、イエスはそのまくらもとに立って、熱が引くように命じられると、熱は引き、女はすぐに起き上がって、彼らをもてなした。 |
塚本訳 | 近寄って身をかがめ、熱病を叱りつけられた。すると熱が取れ、彼女はすぐさま起き上がって、彼らをもてなした。 |
前田訳 | 彼が近よって身をかがめ、熱病をしかりつけられると、熱病はとれた。彼女はすぐ起きて人々をもてなした。 |
新共同 | イエスが枕もとに立って熱を叱りつけられると、熱は去り、彼女はすぐに起き上がって一同をもてなした。 |
NIV | So he bent over her and rebuked the fever, and it left her. She got up at once and began to wait on them. |
註解: 熱病は重くかつ長期にわたっていた(未完了過去)。それがたちどころに醫された処にイエスの霊の能力の偉大さがあった。
辞解
[おもき熱] 「大熱」。
[その傍らに立ち] 原文で医師が治療を加うる際のごとく病人の上に身体を曲げて立ち給う貌を描いている。医者ルカとして、目撃者以上にかかる点に気が付いたのであろう。
[彼ら] イエスとその随伴者。
[事 ふ] ここでは接待、歓迎のために事 えたのであろう。
▲口語訳に「熱が引くように命じられると」とあり原文の「熱を叱った」より弱くなったのは宜しくない。近代医学により熱は病菌を殺すための自然の作用故、熱そのものは大切な力であることが発見され、イエスの言が神の子の全知に反するとの批難が起ったのであったが、口語訳はあるいはこれに対する弁護的意図があったのかもしれないが、原語のままに訳すべきであった。
4章40節
口語訳 | 日が暮れると、いろいろな病気になやむ者をかかえている人々が、皆それをイエスのところに連れてきたので、そのひとりびとりに手を置いて、おいやしになった。 |
塚本訳 | 日が沈むと、(安息日が終ったので、)さまざまな病人をかかえている人々は皆、それをイエスの所につれてきた。イエスはひとりびとりに手をのせてなおされた。 |
前田訳 | 日が沈むと、いろいろな病人をかかえている人々は皆それらを彼のところへ連れて来た。彼はひとりひとりに手を置いていやされた。 |
新共同 | 日が暮れると、いろいろな病気で苦しむ者を抱えている人が皆、病人たちをイエスのもとに連れて来た。イエスはその一人一人に手を置いていやされた。 |
NIV | When the sun was setting, the people brought to Jesus all who had various kinds of sickness, and laying his hands on each one, he healed them. |
註解: イエスの奇跡的治癒を目撃した人々の中には種々の病に苦しんでいる家族を持つ人々が多くあった。彼らはその安息日に「日のいる時」すなわち安息日が終って重き荷を運搬しても差支えのない時の到来するや否や、待ちかねていたその病人をイエスの許に運んで来た。
註解: 一々手を置き給う処にイエスの愛があらわれ、かつその度ごとに如何にイエスがその全霊の力を注ぎ給うたかが窺われる。
4章41節
口語訳 | 悪霊も「あなたこそ神の子です」と叫びながら多くの人々から出ていった。しかし、イエスは彼らを戒めて、物を言うことをお許しにならなかった。彼らがイエスはキリストだと知っていたからである。 |
塚本訳 | 悪鬼も、「あなたは神の子だ」と叫びながら多くの人から出ていった。イエスは悪鬼どもが救世主だと知っているので、これを叱りつけ、口をきくことをお許しにならなかった。 |
前田訳 | 悪霊どもも、「あなたこそ神の子」と叫んで多くの人から出て行った。悪霊どもは彼がキリストと知っていたので、彼はしかりつけて口をおきかせにならなかった。 |
新共同 | 悪霊もわめき立て、「お前は神の子だ」と言いながら、多くの人々から出て行った。イエスは悪霊を戒めて、ものを言うことをお許しにならなかった。悪霊は、イエスをメシアだと知っていたからである。 |
NIV | Moreover, demons came out of many people, shouting, "You are the Son of God!" But he rebuked them and would not allow them to speak, because they knew he was the Christ. |
註解: 悪鬼は人間よりもかえってイエスの実体を認識していた。悪鬼も霊的存在であって、霊のことについて敏感だからである。しかし悪鬼が人間を通してイエスを神の子として証することをイエスは好み給わなかった。健全なる人間の証のみがイエスの欲し給う処であった故にかく語ることを禁止し給うた。
4章42節
口語訳 | 夜が明けると、イエスは寂しい所へ出て行かれたが、群衆が捜しまわって、みもとに集まり、自分たちから離れて行かれないようにと、引き止めた。 |
塚本訳 | 朝になると、人のいない所に出て行かれた。人々は捜しまわった末イエスのところに来て、自分たちをはなれて行かれないようにと、しきりに引き留めた。 |
前田訳 | 朝になると、彼は人のいないところへ出て行かれた。群衆は彼を探しつづけ、彼のところへ来て、自分たちを離れて行かれないよう引きとめた。 |
新共同 | 朝になると、イエスは人里離れた所へ出て行かれた。群衆はイエスを捜し回ってそのそばまで来ると、自分たちから離れて行かないようにと、しきりに引き止めた。 |
NIV | At daybreak Jesus went out to a solitary place. The people were looking for him and when they came to where he was, they tried to keep him from leaving them. |
註解: イエスは群衆が益々多く病人を御許に連れ来る気合を感じ、彼らを避けて荒野の原に出で給うた。父なる神に祈る必要を感じ給うたのも一つの原因であろう。イエスの使命は肉体を癒すことではなく、霊魂の医者であった。肉体の治癒は唯その愛の自然の発露であった。しかし彼の大使命はこの人情に基く愛を超越する必要を感じた。ゆえに彼らを避け給うたのであろう。
4章43節 イエス
口語訳 | しかしイエスは、「わたしは、ほかの町々にも神の国の福音を宣べ伝えねばならない。自分はそのためにつかわされたのである」と言われた。 |
塚本訳 | イエスは彼らに言われた、「わたしはほかの町々にも、神の国の福音を伝えねばならない。そのために遣わされたのだから。」 |
前田訳 | 彼はいわれた、「ほかの町々にもわたしは神の国の福音を伝えねばならない。そのためにつかわされたのだから」と。 |
新共同 | しかし、イエスは言われた。「ほかの町にも神の国の福音を告げ知らせなければならない。わたしはそのために遣わされたのだ。」 |
NIV | But he said, "I must preach the good news of the kingdom of God to the other towns also, because that is why I was sent." |
註解: 群衆の希望はイエスの教えを聴くことにもあったにしても、主として治病のためであった。イエスの使命観はイスラエルの町々に神の国の福音を宣伝えることの外無かった。悲しい哉何時の世にも、見えざる神の国の福音よりも、見ゆる政治、経済、健康の問題に関する福音を聴かんとする者の如何に多いことであろう。
4章44節 かくてユダヤの
口語訳 | そして、ユダヤの諸会堂で教を説かれた。 |
塚本訳 | それからユダヤ(人の国のあちらこちら)の礼拝堂で教を説いておられた。 |
前田訳 | そしてユダヤの諸会堂で教えを説いておられた。 |
新共同 | そして、ユダヤの諸会堂に行って宣教された。 |
NIV | And he kept on preaching in the synagogues of Judea. |
註解: 若干の写本にユダヤの代りにマコ1:39と同じくガリラヤとあり、この方前後の関係として無難であるが、おそらくユダヤが正しいであろう。ルカは「ユダヤ」の称呼の下にパレスチナ(ガリラヤ、ペレヤなどを含める)すなわち「イスラエルの地」を意味したものと見るべきであろう(ルカ6:17。ルカ7:17。ルカ23:5。使10:37、使10:39。使26:20)。