ルカ伝第23章
分類
10 イエスの受難 22:1 - 23:56
10-3 イエスの裁判 23:1 - 23:25
10-3-イ ピラトの法廷 23:1 - 23:5
(マタ27:1-5、11-14) (マコ15:1-5)
23章1節 民衆みな起ちて、イエスをピラトの前に曳きゆき、[引照]
口語訳 | 群衆はみな立ちあがって、イエスをピラトのところへ連れて行った。 |
塚本訳 | そこで法院全体が立ち上がって、イエスを(総督)ピラトの前に引いていって、 |
前田訳 | 全会衆が立ちあがって、彼をピラトの前に引いて行った。 |
新共同 | そこで、全会衆が立ち上がり、イエスをピラトのもとに連れて行った。 |
NIV | Then the whole assembly rose and led him off to Pilate. |
註解: ピラトはローマの政府より遣されている総督である。常識に富める政治家であったがイエスの真の価値を認識する能力と謙遜さに欠けていた。
23章2節 訴へ出でて言ふ『われら此の人が、わが國の民を惑し、貢をカイザルに納むるを禁じ、かつ自ら王なるキリストと稱ふるを認めたり』[引照]
口語訳 | そして訴え出て言った、「わたしたちは、この人が国民を惑わし、貢をカイザルに納めることを禁じ、また自分こそ王なるキリストだと、となえているところを目撃しました」。 |
塚本訳 | 「われわれはこの男が国民を惑わし、皇帝に貢を納めることを禁じ、かつ、自分が救世主、すなわち王だと言っていることを確かめた」と言って訴え始めた。 |
前田訳 | そして彼を訴え出た、「この人は民を惑わし、貢を皇帝に納めるのを禁じ、みずからを王であるキリストというのを目撃しました」と。 |
新共同 | そして、イエスをこう訴え始めた。「この男はわが民族を惑わし、皇帝に税を納めるのを禁じ、また、自分が王たるメシアだと言っていることが分かりました。」 |
NIV | And they began to accuse him, saying, "We have found this man subverting our nation. He opposes payment of taxes to Caesar and claims to be Christ, a king." |
註解: 民衆の訴えは祭司長・長老・学者ら(ルカ22:66)の教唆による。その論告の目的はローマ政府の代表者たるピラトをしてイエスの罪を重視せしめるためであった。すなわち第一はユダヤ人を惑わして当局や伝統に対する信頼と従順とを失わしめること、第二は納税義務を否定してローマ政府の施設に妨害を与えること、第三は自ら「王」と称してカイザルに対する反逆者たるを示していることである。
23章3節 ピラト、イエスに問ひて言ふ『なんぢはユダヤ人の王なるか』答へて言ひ給ふ『なんぢの言ふが如し』[引照]
口語訳 | ピラトはイエスに尋ねた、「あなたがユダヤ人の王であるか」。イエスは「そのとおりである」とお答えになった。 |
塚本訳 | ピラトがイエスに問うた、「お前が、ユダヤ人の王か。」答えて言われた、「(そう言われるなら)御意見にまかせる。」 |
前田訳 | ピラトは彼にたずねた、「そちらはユダヤ人の王か」と。彼は答えられた、「仰せのとおり」と。 |
新共同 | そこで、ピラトがイエスに、「お前がユダヤ人の王なのか」と尋問すると、イエスは、「それは、あなたが言っていることです」とお答えになった。 |
NIV | So Pilate asked Jesus, "Are you the king of the Jews?" "Yes, it is as you say," Jesus replied. |
註解: かくピラトに答え給うたことはイエスにとって死の覚悟を要したこと勿論であった。
註解: この問いにマコ15:3−5。マタ27:12−14の事件があった。
23章4節 ピラト祭司長らと群衆とに言ふ『われ此の人に愆あるを見ず』[引照]
口語訳 | そこでピラトは祭司長たちと群衆とにむかって言った、「わたしはこの人になんの罪もみとめない」。 |
塚本訳 | ピラトが大祭司連と群衆に向かって、「この人にはなんの罪も認められない」と言うと、 |
前田訳 | ピラトは大祭司や群衆にいった、「この人に何の罪も認められない」と。 |
新共同 | ピラトは祭司長たちと群衆に、「わたしはこの男に何の罪も見いだせない」と言った。 |
NIV | Then Pilate announced to the chief priests and the crowd, "I find no basis for a charge against this man." |
註解: 政治的判断力を有ったピラトはイエスが訴えられるような悪人ではないことを知ったのでこれを放免しようとした。なおこれについてマタ27:19−20にピラトの妻が夢の中にイエスのことを見てピラトにこの義人に関係しないように言い送ったことが録されている。この事実も幾分ピラトの心境に影響を及ぼしたものと見ることができる。
23章5節 彼等ますます言ひ募り『かれはユダヤ全國に教をなして民を騷がし、ガリラヤより始めて、此處に至る』と言ふ。[引照]
口語訳 | ところが彼らは、ますます言いつのってやまなかった、「彼は、ガリラヤからはじめてこの所まで、ユダヤ全国にわたって教え、民衆を煽動しているのです」。 |
塚本訳 | 彼らはますます強く言い張った、「この男はユダヤ人(の国)全体に(自分の)教えを説いて民衆を煽動し、ガリラヤから始めてここまで来ている。」 |
前田訳 | しかし彼らはますます主張した、「この人はユダヤ全体に教えを説いて民を煽動し、ガリラヤをてはじめにここまで来ています」と。 |
新共同 | しかし彼らは、「この男は、ガリラヤから始めてこの都に至るまで、ユダヤ全土で教えながら、民衆を扇動しているのです」と言い張った。 |
NIV | But they insisted, "He stirs up the people all over Judea by his teaching. He started in Galilee and has come all the way here." |
註解: ピラトの弱腰を見て、己らの目的が達せられなくなることを恐れて益々強く主張した。
辞解
[ますます言い募り] epischuô は「強さが加わる」こと。
[騒がし] anaseiô は「扇動する」こと。
10-3-ロ ヘロデとイエス 23:6 - 23:12
23章6節 ピラト之を聞き、そのガリラヤ人なるかを問ひて、[引照]
口語訳 | ピラトはこれを聞いて、この人はガリラヤ人かと尋ね、 |
塚本訳 | これを聞くとピラトは、この人は(たしかに)ガリラヤ人かと尋ね、 |
前田訳 | ピラトはこれを聞いて、この人はガリラヤ人かとたずね、 |
新共同 | これを聞いたピラトは、この人はガリラヤ人かと尋ね、 |
NIV | On hearing this, Pilate asked if the man was a Galilean. |
23章7節 ヘロデの權下の者なるを知り、ヘロデ此の頃エルサレムに居たれば、イエスをその許に送れり。[引照]
口語訳 | そしてヘロデの支配下のものであることを確かめたので、ちょうどこのころ、ヘロデがエルサレムにいたのをさいわい、そちらへイエスを送りとどけた。 |
塚本訳 | ヘロデ(王)の領内(ガリラヤ)の者だと知ると、イエスをヘロデの所に送りとどけた。ヘロデもそのころ、(祭のためピラトと)同様にエルサレムにきていたのである。 |
前田訳 | ヘロデの領地のものと知ると、彼をヘロデのところに送った。彼もそのころエルサレムにいたのである。 |
新共同 | ヘロデの支配下にあることを知ると、イエスをヘロデのもとに送った。ヘロデも当時、エルサレムに滞在していたのである。 |
NIV | When he learned that Jesus was under Herod's jurisdiction, he sent him to Herod, who was also in Jerusalem at that time. |
註解: イエスがガリラヤ人であるのとヘロデが当時おそらく過越の祭のためにエルサレムに在るのとを幸いに、ピラトはイエスをヘロデの許に送って責任の回避と転嫁とを企てたのであった。6−16節の記事はルカのみにあり。
23章8節 ヘロデ、イエスを見て甚く喜ぶ。これは彼に就きて聞く所ありたれば、久しく逢はんことを欲し、何をか徴を行ふを見んと望み居たる故なり。[引照]
口語訳 | ヘロデはイエスを見て非常に喜んだ。それは、かねてイエスのことを聞いていたので、会って見たいと長いあいだ思っていたし、またイエスが何か奇跡を行うのを見たいと望んでいたからである。 |
塚本訳 | ヘロデはイエスを見ると非常に喜んだ。というのは、イエスの噂を聞いて、だいぶ前から会ってみたいと思っており、また何か奇蹟をするのを見たいと望んでいたからである。 |
前田訳 | ヘロデはイエスを見て大よろこびした。イエスのことを聞いていて、かなり前から会いたいと思っており、何か奇跡をするのを見たいと望んでいたからである。 |
新共同 | 彼はイエスを見ると、非常に喜んだ。というのは、イエスのうわさを聞いて、ずっと以前から会いたいと思っていたし、イエスが何かしるしを行うのを見たいと望んでいたからである。 |
NIV | When Herod saw Jesus, he was greatly pleased, because for a long time he had been wanting to see him. From what he had heard about him, he hoped to see him perform some miracle. |
註解: ヘロデはおそらく主としてイエスの奇蹟について聞き及んでいたのであろう。イエスを見て非常に喜んだのは、イエスの行う徴を見たいからであった。かかる卑しい不真面目な動機のヘロデに対するイエスの態度を我らは次節に見ることができる。
23章9節 かくて多くの言をもて問ひたれど、イエス何をも答へ給はず。[引照]
口語訳 | それで、いろいろと質問を試みたが、イエスは何もお答えにならなかった。 |
塚本訳 | それで言葉をつくして問いかけたが、イエスは何もお答えにならなかった。 |
前田訳 | それであれこれといってたずねたが、彼は何もお答えにならなかった。 |
新共同 | それで、いろいろと尋問したが、イエスは何もお答えにならなかった。 |
NIV | He plied him with many questions, but Jesus gave him no answer. |
註解: イエスは真面目なる霊魂の求むる処に応えんため、また神の栄光を揚げんためにこの世に来給うた。不真面目な心に対して答える必要がなく、また自己を擁護せんとして語る必要がなかった。ヘロデの前に沈黙し給うたのはこのためである。同様にイエスはピラトの前にも不要なる答を与え給わなかった(マタ27:12−14。マコ15:3−5)。
23章10節 祭司長・學者ら起ちて激甚くイエスを訴ふ。[引照]
口語訳 | 祭司長たちと律法学者たちとは立って、激しい語調でイエスを訴えた。 |
塚本訳 | 大祭司連と聖書学者たちは(わきに)立って、必死になってイエスを訴えた。 |
前田訳 | 大祭司と学者らはそばに立って、激しいことばで彼を訴えた。 |
新共同 | 祭司長たちと律法学者たちはそこにいて、イエスを激しく訴えた。 |
NIV | The chief priests and the teachers of the law were standing there, vehemently accusing him. |
23章11節 ヘロデその兵卒と共にイエスを侮り、かつ嘲弄し、華美なる衣を著せて、ピラトに返す。[引照]
口語訳 | またヘロデはその兵卒どもと一緒になって、イエスを侮辱したり嘲弄したりしたあげく、はなやかな着物を着せてピラトへ送りかえした。 |
塚本訳 | (埒があかないのに業を煮やした)ヘロデは兵隊と一しょになって、イエスに侮辱を加えたり、なぶったりしたあげく、派手な着物をきせてピラトに送りかえした。 |
前田訳 | ヘロデは兵卒といっしょに彼をはずかしめたりあざけったりしてから、はでな着物を着せてピラトヘ送り返した。 |
新共同 | ヘロデも自分の兵士たちと一緒にイエスをあざけり、侮辱したあげく、派手な衣を着せてピラトに送り返した。 |
NIV | Then Herod and his soldiers ridiculed and mocked him. Dressing him in an elegant robe, they sent him back to Pilate. |
註解: ここにイエスはさらにヘロデとその兵卒とに嘲弄せられ、侮られ、その玩弄物とされた。人類全体がイエスの死に対して責任があると言わなければならない。ピラトはイエスをヘロデに送った目的を達せず、ヘロデはイエスを見て喜んだのが無駄であった。
23章12節 ヘロデとピラトと前には仇たりしが、此の日たがひに親しくなれり。[引照]
口語訳 | ヘロデとピラトとは以前は互に敵視していたが、この日に親しい仲になった。 |
塚本訳 | ヘロデとピラトは以前には犬と猿の仲であったが、この日(この事件によって)互に仲良しになった。 |
前田訳 | ヘロデとピラトは、前には互いに敵であったが、この日に友だち同士になった。 |
新共同 | この日、ヘロデとピラトは仲がよくなった。それまでは互いに敵対していたのである。 |
NIV | That day Herod and Pilate became friends--before this they had been enemies. |
註解: ユダヤの総督ピラトとガリラヤの国守ヘロデとは、とかく利害の衝突があったことは自然であった。それがこの際親密となったことはこの世の政治界においてしばしば行われる離合集散の一場面である。
10-3-ハ ピラトの判決 23:13 - 23:25(マタ27:15-26) (マコ15:6-15)
23章13節 ピラト、祭司長らと司らと民とを呼び集めて言ふ、[引照]
口語訳 | ピラトは、祭司長たちと役人たちと民衆とを、呼び集めて言った、 |
塚本訳 | ピラトは大祭司連をはじめ、(最高法院の)役人たち、および民衆を呼びあつめて、 |
前田訳 | ピラトは大祭司や役人や民を呼び集めていった、 |
新共同 | ピラトは、祭司長たちと議員たちと民衆とを呼び集めて、 |
NIV | Pilate called together the chief priests, the rulers and the people, |
23章14節 『汝らこの人を民を惑す者として曳き來れり。視よ、われ汝らの前にて訊したれど、[其](汝ら)の訴ふる所に就きて、この人に愆あるを見ず。[引照]
口語訳 | 「おまえたちは、この人を民衆を惑わすものとしてわたしのところに連れてきたので、おまえたちの面前でしらべたが、訴え出ているような罪は、この人に少しもみとめられなかった。 |
塚本訳 | 言った、「お前たちはこの人を民衆をあやまらせる者だと言って引いてきたので、このわたしがお前たちの目の前で取り調べたが、訴えの廉では、この人に何の罪も認められなかった。 |
前田訳 | 「あなた方がこの人を民を惑わすものとして引いて来たので、このとおりわたしがあなた方の前で調べたが、訴えているような罪は何もこの人に認められなかった。 |
新共同 | 言った。「あなたたちは、この男を民衆を惑わす者としてわたしのところに連れて来た。わたしはあなたたちの前で取り調べたが、訴えているような犯罪はこの男には何も見つからなかった。 |
NIV | and said to them, "You brought me this man as one who was inciting the people to rebellion. I have examined him in your presence and have found no basis for your charges against him. |
23章15節 ヘロデも亦然り、彼を我らに返した(ればな)り。視よ、彼は死に當るべき業を爲さざりき。[引照]
口語訳 | ヘロデもまたみとめなかった。現に彼はイエスをわれわれに送りかえしてきた。この人はなんら死に当るようなことはしていないのである。 |
塚本訳 | ヘロデでもそうらしい。送りかえしたのだから。たしかにこの人は、何一つ死罪に当ることをしていない。 |
前田訳 | へロデもそうだ、送り返して来たから。たしかに、この人は死に当たることは何もしていない。 |
新共同 | ヘロデとても同じであった。それで、我々のもとに送り返してきたのだが、この男は死刑に当たるようなことは何もしていない。 |
NIV | Neither has Herod, for he sent him back to us; as you can see, he has done nothing to deserve death. |
23章16節 されば懲しめて之を赦さん』[引照]
口語訳 | だから、彼をむち打ってから、ゆるしてやることにしよう」。 |
塚本訳 | だから鞭うった上、赦すことにする。」 |
前田訳 | よって、鞭打ってからゆるそう」と。 |
新共同 | だから、鞭で懲らしめて釈放しよう。」 |
NIV | Therefore, I will punish him and then release him. " |
註解: ピラトの判決である。ユダヤ人やその祭司長・長老・学者らの嫉妬が事の起りであることをピラトは発見したので、彼らの訴えを取り上げなかったことは賢明であった。
註解: 本17節はルカ伝には次節のバラバを赦せと求める理由が掲げられてないのでマタ27:15。マコ15:6から引用して挿入したものと見られる。主要の写本にこれを欠く。
23章17節 [なし][引照]
口語訳 | 〔祭ごとにピラトがひとりの囚人をゆるしてやることになっていた。〕 |
塚本訳 | [無シ] |
前田訳 | 〔祭りごとに囚人ひとりをゆるすことになっていた〕。 |
新共同 | (†底本に節が欠落 異本訳)祭りの度ごとに、ピラトは、囚人を一人彼らに釈放してやらなければならなかった。 |
NIV | |
23章18節 民衆ともに叫びて言ふ『この人を除け、我らにバラバを赦せ』[引照]
口語訳 | ところが、彼らはいっせいに叫んで言った、「その人を殺せ。バラバをゆるしてくれ」。 |
塚本訳 | すると人々が一斉に声をあげて叫んだ、「その男を片付けろ。バラバの方を赦してくれ。」 |
前田訳 | 人々はいっせいに声をあげていった。「その人を殺せ。バラバをゆるせ」と。 |
新共同 | しかし、人々は一斉に、「その男を殺せ。バラバを釈放しろ」と叫んだ。 |
NIV | With one voice they cried out, "Away with this man! Release Barabbas to us!" |
23章19節 此のバラバは、都に起りし一揆と殺人との故によりて、獄に入れられたる者なり。[引照]
口語訳 | このバラバは、都で起った暴動と殺人とのかどで、獄に投ぜられていた者である。 |
塚本訳 | バラバは都におこった暴動(に関係したの)と人殺しとの廉で、牢に入れられていた者である。 |
前田訳 | これは都でおこった暴動と殺人の廉(かど)で、牢に入れられていたものである。 |
新共同 | このバラバは、都に起こった暴動と殺人のかどで投獄されていたのである。 |
NIV | (Barabbas had been thrown into prison for an insurrection in the city, and for murder.) |
註解: 祭の間に一人を赦す習慣をこのバラバに適用し、イエスを除かんとするのが民衆の声であった。何れの時代でも民衆は利害と扇動家に欺かれやすい。
23章20節 ピラトはイエスを赦さんと欲して、再び彼らに告げたれど、[引照]
口語訳 | ピラトはイエスをゆるしてやりたいと思って、もう一度かれらに呼びかけた。 |
塚本訳 | ピラトはイエスを赦したいので、ふたたび人々に呼びかけたが、 |
前田訳 | ピラトはイエスをゆるそうとして、ふたたび人々に呼びかけたが、 |
新共同 | ピラトはイエスを釈放しようと思って、改めて呼びかけた。 |
NIV | Wanting to release Jesus, Pilate appealed to them again. |
23章21節 彼ら叫びて『十字架につけよ、十字架につけよ』と言ふ。[引照]
口語訳 | しかし彼らは、わめきたてて「十字架につけよ、彼を十字架につけよ」と言いつづけた。 |
塚本訳 | 人々は(ただ)、「十字架につけろ、それを十字架につけろ」とどなりつづけた。 |
前田訳 | 人々は叫びつづけた、「十字架に、十字架に」と。 |
新共同 | しかし人々は、「十字架につけろ、十字架につけろ」と叫び続けた。 |
NIV | But they kept shouting, "Crucify him! Crucify him!" |
23章22節 ピラト三度まで『彼は何の惡事を爲ししか、我その死に當るべき業を見ず、故に懲しめて赦さん』と言ふ。[引照]
口語訳 | ピラトは三度目に彼らにむかって言った、「では、この人は、いったい、どんな悪事をしたのか。彼には死に当る罪は全くみとめられなかった。だから、むち打ってから彼をゆるしてやることにしよう」。 |
塚本訳 | 三度目にピラトは彼らに言った、「いったいどんな悪事をこの人がはたらいたというのか。わたしはこの人に何一つ死罪にあたる罪を認められなかった。だから鞭うった上、赦すことにする。」 |
前田訳 | ピラトは三度目に彼らにいった、「この人は何の悪をしたのか。わたしはこの人に何も死に当たる罪を認めなかった。よって、鞭打ってからゆるそう」と。 |
新共同 | ピラトは三度目に言った。「いったい、どんな悪事を働いたと言うのか。この男には死刑に当たる犯罪は何も見つからなかった。だから、鞭で懲らしめて釈放しよう。」 |
NIV | For the third time he spoke to them: "Why? What crime has this man committed? I have found in him no grounds for the death penalty. Therefore I will have him punished and then release him." |
23章23節 されど人々、大聲をあげ迫りて、十字架につけんことを求めたれば、遂にその聲勝てり。[引照]
口語訳 | ところが、彼らは大声をあげて詰め寄り、イエスを十字架につけるように要求した。そして、その声が勝った。 |
塚本訳 | しかし人々は十字架につけることを大声でせがみつづけ、とうとうその声が勝った。 |
前田訳 | しかし人々は大声で詰めよって、彼を十字架につけるよう要求した。そして彼らの声が勝った。 |
新共同 | ところが人々は、イエスを十字架につけるようにあくまでも大声で要求し続けた。その声はますます強くなった。 |
NIV | But with loud shouts they insistently demanded that he be crucified, and their shouts prevailed. |
註解: ピラトは二度ならず三度までもイエスを赦そうとしたけれどもついに民衆の声に勝つことができなかった。ルカはピラトの態度に充分に同情し、凡ての責任がユダヤ人の上にあることを明かにしようとして書いているように思われる。パウロもルカも当時のローマの政府に対しては好意を持っていた。
23章24節 ここにピラトその求の如くすべしと言渡し、[引照]
口語訳 | ピラトはついに彼らの願いどおりにすることに決定した。 |
塚本訳 | ピラトは彼らの願いをかなえることに決定して、 |
前田訳 | ピラトは彼らの願いをかなえることに決めて、 |
新共同 | そこで、ピラトは彼らの要求をいれる決定を下した。 |
NIV | So Pilate decided to grant their demand. |
23章25節 その求むるままに、かの一揆と殺人との故によりて獄に入れられたる者を赦し、イエスを付して彼らの心の隨ならしめたり。[引照]
口語訳 | そして、暴動と殺人とのかどで獄に投ぜられた者の方を、彼らの要求に応じてゆるしてやり、イエスの方は彼らに引き渡して、その意のままにまかせた。 |
塚本訳 | 暴動と人殺しとの廉で牢に入れられていた者を願いどおりに赦し、イエスの方は彼らの思うようにさせた。 |
前田訳 | 暴動と殺人の廉で牢に入れられていたものを願いどおりにゆるし、イエスは彼らの思うままにさせた。 |
新共同 | そして、暴動と殺人のかどで投獄されていたバラバを要求どおりに釈放し、イエスの方は彼らに引き渡して、好きなようにさせた。 |
NIV | He released the man who had been thrown into prison for insurrection and murder, the one they asked for, and surrendered Jesus to their will. |
註解: 死刑はローマの官憲によって宣告され執行されるのであるけれども、ピラトはできるだけイエスの処刑に深入りすることを避けようとする態度を取り、ユダヤ人らにその勝手にするようにイエスを付したのであった。
要義 [人民の声]人民の声を圧迫して支配者の独裁的意思のみを人民の上に強行することは、たといその意思内容が善である場合でも、人民を無人格者として取扱う点に欠陥がある。反対に人民の声が自由に聴かれる場合でも、その人民に神を信ずる信仰がないならばその声は神の御旨に叶わない。イエスを十字架につけよと叫んだ民の声はかかる声であった。神を信ぜざる民の声は多くはその民を滅亡に導く結果となる。
10-4 十字架と死 23:26 - 23:5610-4-イ クレネのシモン 23:26
註解: 前節と本節との間に種々の出来事が起ったのであり(マタ27:27−31。マコ15:16−20)、ルカがこれを省略したために事件の進行が中断せらるかのごとき感が深い。それ故これを脳裡に補充しつつ本節を読まなければならない。
23章26節 人々イエスを曳きゆく時、シモンといふクレネ人の田舍より來るを執へ、十字架を負はせてイエスの後に從はしむ。[引照]
口語訳 | 彼らがイエスをひいてゆく途中、シモンというクレネ人が郊外から出てきたのを捕えて十字架を負わせ、それをになってイエスのあとから行かせた。 |
塚本訳 | (兵卒らが)イエスを(刑場へ)引いてゆく時、シモンというクレネ人が野良から来(て通りかかっ)たので、つかまえて(イエスの)十字架を背負わせ、イエスの後から担いでゆかせた。(イエスにはもう負う力がなかったのである。) |
前田訳 | 彼を引いて行くとき、シモンというクレネ人が田舎から来たのをつかまえて十字架を負わせ、イエスのあとからかついで行かせた。 |
新共同 | 人々はイエスを引いて行く途中、田舎から出て来たシモンというキレネ人を捕まえて、十字架を背負わせ、イエスの後ろから運ばせた。 |
NIV | As they led him away, they seized Simon from Cyrene, who was on his way in from the country, and put the cross on him and made him carry it behind Jesus. |
註解: シモンについてはマコ15:21註を見よ。強いて負わせられたるは苦痛であったに相違がないけれども、これがやがてシモンの一生の幸福となったことと想うならば、これは結局彼にとって非常に幸福であった。
10-4-ロ エルサレムの娘を戒め給う 23:27 - 23:32
註解: 27−32節もルカ伝特有の部分である。
23章27節 民の大なる群と、歎き悲しめる女たちの群と之に從ふ。[引照]
口語訳 | 大ぜいの民衆と、悲しみ嘆いてやまない女たちの群れとが、イエスに従って行った。 |
塚本訳 | 民衆と、イエスのために悲しみ嘆く女たちとの大勢の群が、あとにつづいた。 |
前田訳 | 民と、彼のために悲しみなげく女たちとの、大勢の群れがあとにつづいた。 |
新共同 | 民衆と嘆き悲しむ婦人たちが大きな群れを成して、イエスに従った。 |
NIV | A large number of people followed him, including women who mourned and wailed for him. |
註解: 祭司長らに使嗾(そそのかす意)された群衆の声が圧倒的であり、全民衆がイエスを十字架に釘ることを望んでいたかのごとくに見えたにもかかわらず、その中にもこれらの女たちのようにイエスを愛し、これを理解して彼のために歎き悲しむ者もあったことは喜ぶべきことである。キリスト者は何時も少数の深い理解者・同情者を持つ、徳は孤ならずである。
23章28節 イエス振反りて女たちに言ひ給ふ『エルサレムの娘よ、わが爲に泣くな、ただ己がため、己が子のために泣け。[引照]
口語訳 | イエスは女たちの方に振りむいて言われた、「エルサレムの娘たちよ、わたしのために泣くな。むしろ、あなたがた自身のため、また自分の子供たちのために泣くがよい。 |
塚本訳 | イエスは女たちの方に振り向いて言われた、「エルサレムの娘さんたち、わたしのためには泣いてくれなくともよろしい。それよりは自分のため、自分の子供のために泣きなさい。 |
前田訳 | イエスは振り向いていわれた、「エルサレムの娘たち、わたしのために泣かないで、むしろ自分のため、自分の子どものために泣きなさい。 |
新共同 | イエスは婦人たちの方を振り向いて言われた。「エルサレムの娘たち、わたしのために泣くな。むしろ、自分と自分の子供たちのために泣け。 |
NIV | Jesus turned and said to them, "Daughters of Jerusalem, do not weep for me; weep for yourselves and for your children. |
23章29節 視よ「石婦、兒産まぬ腹、哺ませぬ乳は幸福なり」と言ふ日きたらん。[引照]
口語訳 | 『不妊の女と子を産まなかった胎と、ふくませなかった乳房とは、さいわいだ』と言う日が、いまに来る。 |
塚本訳 | いまに人々が、『石女と、(子を)産んだことのない胎と、飲ませたことのない乳房とが羨ましい』と言う(恐ろしい)日が来るのだから。 |
前田訳 | 『さいわいなのはうまずめと、子を産まなかった胎と、養わなかった乳房』と人々がいう時が来よう。 |
新共同 | 人々が、『子を産めない女、産んだことのない胎、乳を飲ませたことのない乳房は幸いだ』と言う日が来る。 |
NIV | For the time will come when you will say, `Blessed are the barren women, the wombs that never bore and the breasts that never nursed!' |
註解: 今イエスの上に臨みつつある運命のために汝らは泣いているけれども、イエスを殺すエルサレムは、やがて神の審判を受けなければならず、その時には非常に大きい苦難が汝らの上に、また汝らの子の上に臨むであろう。汝らはこの来るべきことを思って泣くべきである。その時には子をいだく母親、乳を哺まする乳房は、それらの子たちのために苦難より遁れ出でることができずかえって子を持たない女たちの幸福をうらやむようになるであろう。なお「エルサレムの娘」は表徴的にイスラエルの民を指す故(引照参照)この預言は全イスラエルに関するものと見るべきである。
23章30節 その時ひとびと「山に向ひて我らの上に倒れよ、岡に向ひて我らを掩へ」と言ひ出でん。[引照]
口語訳 | そのとき、人々は山にむかって、われわれの上に倒れかかれと言い、また丘にむかって、われわれにおおいかぶされと言い出すであろう。 |
塚本訳 | その時人々は“山にむかっては、『われわれの上に倒れかかって(殺して)くれ』、丘にむかっては、『われわれを埋めてくれ』と言い”続けるであろう。 |
前田訳 | そのとき人々は、山々には、『われらの上に倒れかかれ』といい、丘には、『われらを埋めよ』といいだそう。 |
新共同 | そのとき、人々は山に向かっては、/『我々の上に崩れ落ちてくれ』と言い、/丘に向かっては、/『我々を覆ってくれ』と言い始める。 |
NIV | Then "`they will say to the mountains, "Fall on us!" and to the hills, "Cover us!"' |
23章31節 もし青樹に斯く爲さば、枯樹は如何にせられん』[引照]
口語訳 | もし、生木でさえもそうされるなら、枯木はどうされることであろう」。 |
塚本訳 | (罪のない)生木(のわたし)でさえ、こんな目にあわされるのだ。まして(罪にくされた)枯木は、どうなることであろうか!」 |
前田訳 | 生木のときにこうされるなら、枯木のときはどうなろう」と。 |
新共同 | 『生の木』さえこうされるのなら、『枯れた木』はいったいどうなるのだろうか。」 |
NIV | For if men do these things when the tree is green, what will happen when it is dry?" |
註解: 人々は死よりも苦しい苦難の中に山や岡に向って己の上に倒れかかって己らを殺すことを懇願するほど甚だしい苦難がエルサレムの娘の上に臨むであろう。かくいう所以は(hoti)青樹ともいうべき年若きイエスの上に彼ら祭司長・学者・長老・群集たちがかかる残虐な行為を為すのであるから、枯樹ともいうべき生命なき彼らの上には如何なる審判が下ることであろう。想像するだに恐ろしいことだからである。かく言いてイエスはここに復エルサレムの滅亡とユダヤ民族の上に下るべき神の審判について預言し給うた。
23章32節 また他に二人の惡人をも、死罪に行はんとてイエスと共に曳きゆく。[引照]
口語訳 | さて、イエスと共に刑を受けるために、ほかにふたりの犯罪人も引かれていった。 |
塚本訳 | ほかに二人の罪人も、処刑されるためイエスと共に引かれていった。 |
前田訳 | ほかにふたりの罪びともイエスとともに処刑されるために引かれて行った。 |
新共同 | ほかにも、二人の犯罪人が、イエスと一緒に死刑にされるために、引かれて行った。 |
NIV | Two other men, both criminals, were also led out with him to be executed. |
註解: 愆人と共に数えられんとの預言が文字通り実現した。神が人となり給うことすら驚くべき事実であるのに、それが罪人の一人のごとくに取扱われるということは人類の罪の無限の深さを示すと共に、かくまでにしても人類を救わんとし給う神の愛の無限の深さを示す。
10-4-ハ 十字架に釘き給う 23:33
23章33節 髑髏といふ處に到りて、イエスを十字架につけ、また惡人の一人をその右、一人をその左に十字架につく。[引照]
口語訳 | されこうべと呼ばれている所に着くと、人々はそこでイエスを十字架につけ、犯罪人たちも、ひとりは右に、ひとりは左に、十字架につけた。 |
塚本訳 | 髑髏という所に着くと、(兵卒らは)そこでイエスを十字架につけた。また罪人も、一人を右に、一人を左に(十字架につけた)。 |
前田訳 | されこうべといわれるところへ来ると、そこで彼を十字架につけた。罪びとをも、ひとりを右に、ひとりを左に十字架につけた。 |
新共同 | 「されこうべ」と呼ばれている所に来ると、そこで人々はイエスを十字架につけた。犯罪人も、一人は右に一人は左に、十字架につけた。 |
NIV | When they came to the place called the Skull, there they crucified him, along with the criminals--one on his right, the other on his left. |
註解: ルカはゴルゴタの名称とその意義とについて説明せず直ちにその訳語を名称として掲げている。テオピロにヘブル語の説明をする必要を感じなかったからであろう。なおルカはマルコ、マタイの順序に従わず自由な編集法を取っており、その中に次節や39−43節のごとき重要なる材料を加えている。
10-4-ニ 第一言 23:34 - 23:38
23章34節 かくてイエス言ひたまふ『父よ、彼らを赦し給へ、その爲す所を知らざればなり』[引照]
口語訳 | そのとき、イエスは言われた、「父よ、彼らをおゆるしください。彼らは何をしているのか、わからずにいるのです」。人々はイエスの着物をくじ引きで分け合った。 |
塚本訳 | するとイエスは言われた、「お父様、あの人たちを赦してやってください、何をしているか知らずにいるのです。」“彼らは籤を引いて、”イエスの“着物を自分たちで分けた。” |
前田訳 | イエスはいわれた、「父上、あの人たちをおゆるしください。何をしているか知らないのですから」と。彼らはくじを引いて彼の着物を分けあった。 |
新共同 | 〔そのとき、イエスは言われた。「父よ、彼らをお赦しください。自分が何をしているのか知らないのです。」〕人々はくじを引いて、イエスの服を分け合った。 |
NIV | Jesus said, "Father, forgive them, for they do not know what they are doing." And they divided up his clothes by casting lots. |
註解: 己を殺さんとする敵の罪をも赦されんことを父に祈るその愛こそ、神の愛そのものである。「汝の仇を愛し、汝を責むる者の為に祈れ」とのイエスの教訓(マタ5:44)を、イエス自身ここで実行し給うたこととなる。「彼ら」を単にイエスを処刑する任務を遂行しつつあるローマの兵卒と解する説もある(Z0)けれども、むしろイエスを殺さんとする敵の全部に対するイエスの祈りであると解すべきであろう。この節がBD等の重要な写本に欠けていることは種々の問題を投じているけれども、他の重要な写本には存しており、古代教父の書にも引用または存在を暗示されている点より、ルカの独自の資料をここに置いたものと見て差支えがない。あるいは本節およびルカ23:46節が使7:59、60のステパノの殉教の叫びと略同一である点からBD写本成立の際問題視されたのではあるまいか。
彼らイエスの衣を分ちて鬮取にせり、
註解: マコ15:24。ヨハ19:23−24参照。詩22:18の実現と見られ、死刑囚の衣服はこれに携わった刑吏の間に分配される習慣があった。
23章35節 民は立ちて見ゐたり。司たちも嘲りて言ふ『かれは他人を救へり、もし神の選び給ひしキリストならば、己をも救へかし』[引照]
口語訳 | 民衆は立って見ていた。役人たちもあざ笑って言った、「彼は他人を救った。もし彼が神のキリスト、選ばれた者であるなら、自分自身を救うがよい」。 |
塚本訳 | 民衆は立って“見物していた。”(最高法院の)役人たちは“鼻で笑って”言った、「人を救ったのだ、(今度は)自分を救えばいいのに、神の救世主、(神に)選ばれた者なら!」 |
前田訳 | 民は立って見ていた。役人たちも鼻で笑っていった、「ひとを救ったのだ。自分を救うがよい、神のキリストで、選ばれたものなら」と。 |
新共同 | 民衆は立って見つめていた。議員たちも、あざ笑って言った。「他人を救ったのだ。もし神からのメシアで、選ばれた者なら、自分を救うがよい。」 |
NIV | The people stood watching, and the rulers even sneered at him. They said, "He saved others; let him save himself if he is the Christ of God, the Chosen One." |
註解: 「兵卒」はイエスの衣を分配することに夢中になっており、「民」は観覧人の態度を示して好奇心からイエスの処刑を見物し(なおルカ23:48節参照)ていた。その時「司たち」すなわち議会の議員たちはイエスを嘲弄し始めた。彼らはイエスが「神のキリスト、選ばれし者」(私訳、ただし現行訳に近き写本もある)であると言われている事実を知っていただけで、それであればこそ己を捨てて人を救うのであることを彼らは知らなかった。彼らにとっては己を救い得ないイエスがキリストであるはずがないと思い、かかる嘲弄の言を発することによりイエスの生涯を徹底的に批判し、否定したものと愚かにも考えたのであった。
23章36節 兵卒どもも嘲笑しつつ、近よりて酸き葡萄酒をさし出して言ふ、[引照]
口語訳 | 兵卒どももイエスをののしり、近寄ってきて酢いぶどう酒をさし出して言った、 |
塚本訳 | 兵卒らも近寄って、”酸っぱい葡萄酒を”(その口許に)差し出しながら、イエスをなぶって |
前田訳 | 兵卒たちも近よってすっぱいぶどう酒を差し出しながら彼をあざけっていった、 |
新共同 | 兵士たちもイエスに近寄り、酸いぶどう酒を突きつけながら侮辱して、 |
NIV | The soldiers also came up and mocked him. They offered him wine vinegar |
23章37節 『なんぢ若しユダヤ人の王ならば、己を救へ』[引照]
口語訳 | 「あなたがユダヤ人の王なら、自分を救いなさい」。 |
塚本訳 | こう言った、「お前がユダヤ人の王様なら、自分を救ってみろ。」 |
前田訳 | 「ユダヤ人の王なら、自分を救え」と。 |
新共同 | 言った。「お前がユダヤ人の王なら、自分を救ってみろ。」 |
NIV | and said, "If you are the king of the Jews, save yourself." |
23章38節 又イエスの上には『これはユダヤ人の王なり』との罪標あり。[引照]
口語訳 | イエスの上には、「これはユダヤ人の王」と書いた札がかけてあった。 |
塚本訳 | イエスの(頭の)上には こ れ が ユ ダ ヤ 人 の 王と書いた札までも(悪ふざけに)かけてあった。 |
前田訳 | 彼の上には、「これはユダヤ人の王」と書いた札さえかけてあった。 |
新共同 | イエスの頭の上には、「これはユダヤ人の王」と書いた札も掲げてあった。 |
NIV | There was a written notice above him, which read: THIS IS THE KING OF THE JEWS. |
註解: 初めにイエスの衣の分配に余念がなかった兵卒どもも、面白半分にイエスを嘲弄した。「酸き葡萄酒」oxos をさし出した行為も嘲弄的であると解することは(M0)適当でない(Z0)。これは死刑囚の最後に対する処刑者の事務的行動であったろう。彼らは38節の罪標の文字を読みながら、格別に深い考えがある訳でもなく、また「司たち」のごとき深い悪意があるわけでもなく、極めて不真面目な態度でイエスを嘲弄したのであろう。この種の態度をもってイエスを見る人は、今日も多く存在する。
10-4-ホ 第二言 23:39 - 23:43
23章39節 十字架に懸けられたる惡人の一人、イエスを譏りて言ふ『なんぢはキリストならずや、己と我らとを救へ』[引照]
口語訳 | 十字架にかけられた犯罪人のひとりが、「あなたはキリストではないか。それなら、自分を救い、またわれわれも救ってみよ」と、イエスに悪口を言いつづけた。 |
塚本訳 | 磔にされている罪人の一人がイエスを冒涜した、「お前は救世主じゃないか。自分とおれ達を救ってみろ。」 |
前田訳 | はりつけにされた罪びとのひとりが彼を冒涜した、「おまえはキリストではないか。自分とわれらを救え」と。 |
新共同 | 十字架にかけられていた犯罪人の一人が、イエスをののしった。「お前はメシアではないか。自分自身と我々を救ってみろ。」 |
NIV | One of the criminals who hung there hurled insults at him: "Aren't you the Christ? Save yourself and us!" |
註解: 39−43節はルカ特有の記事。なぜこの一人の悪人がイエスを冒涜したのか。その理由は示されていないけれども、死ぬまで悔改めない頑固な罪人の反抗的心理を示していることは事実である。自己の罪を悔改めない者は、他人を批難することにおいて執拗であり、神の子をすら批難せずにいることができない。
23章40節 他の者これに答へ禁めて言ふ『なんぢ同じく罪に定められながら、神を畏れぬか。[引照]
口語訳 | もうひとりは、それをたしなめて言った、「おまえは同じ刑を受けていながら、神を恐れないのか。 |
塚本訳 | するともう一人の者が彼をたしなめて言った、「貴様は(このお方と)同じ(恐ろしい)罰を受けていながら、それでも(まだ)神様がこわくないのか。 |
前田訳 | するともうひとりのものが彼をたしなめた、「同じ刑を受けながらおまえは神をおそれないのか。 |
新共同 | すると、もう一人の方がたしなめた。「お前は神をも恐れないのか、同じ刑罰を受けているのに。 |
NIV | But the other criminal rebuked him. "Don't you fear God," he said, "since you are under the same sentence? |
23章41節 我らは爲しし事の報を受くるなれば當然なり。されど此の人は何の不善をも爲さざりき』[引照]
口語訳 | お互は自分のやった事のむくいを受けているのだから、こうなったのは当然だ。しかし、このかたは何も悪いことをしたのではない」。 |
塚本訳 | おれ達は自分でしたことの報いを受けるのだから当り前だが、このお方は何一つ、道にはずれたことをなさらなかったのだ。」 |
前田訳 | われらはしたことの報いを受けているから当り前だが、この方は何もまちがいをなさらなかった」と。 |
新共同 | 我々は、自分のやったことの報いを受けているのだから、当然だ。しかし、この方は何も悪いことをしていない。」 |
NIV | We are punished justly, for we are getting what our deeds deserve. But this man has done nothing wrong." |
註解: 今一人の罪人は、前者とは正反対に十字架の上でイエスを見、イエスの義と自己の不義とを知り、ここに心から悔改めたのであった。その結果第一に先の罪人を叱咤し、その罪を犯しながら神を畏れざることを責め、イエスの義人たることを認めずに彼を冒涜したのも神を畏れる心が無いからであることを明かにし、次に(41節)自分らが罪に定められたことの正当であることを告白して、自己の罪に対する悔改めの心を示し、第三にイエスの義人であることを告白して彼を信ずる信仰を示した。
23章42節 また言ふ『イエスよ、御國に入り給ふとき、我を憶えたまえ』[引照]
口語訳 | そして言った、「イエスよ、あなたが御国の権威をもっておいでになる時には、わたしを思い出してください」。 |
塚本訳 | それから(イエスに)言った、「イエス様、こんどあなたのお国と共にお出でになる時には、どうかわたしのことを思い出してください。 |
前田訳 | そしていった、「イエスさま、あなたが王としておいでのとき、わたしを思い出してください」と。 |
新共同 | そして、「イエスよ、あなたの御国においでになるときには、わたしを思い出してください」と言った。 |
NIV | Then he said, "Jesus, remember me when you come into your kingdom. " |
23章43節 イエス言ひ給ふ『われ誠に汝に告ぐ、今日なんぢは我と偕にパラダイスに在るべし』[引照]
口語訳 | イエスは言われた、「よく言っておくが、あなたはきょう、わたしと一緒にパラダイスにいるであろう」。 |
塚本訳 | イエスが言われた、「アーメン、わたしは言う、(その時を待たずとも、)あなたはきょう、わたしと一しょに極楽に入ることができる。」 |
前田訳 | 彼はいわれた、「本当にいう、あなたはきょう、わたしといっしょに天国(パラダイス)にいよう」と。 |
新共同 | するとイエスは、「はっきり言っておくが、あなたは今日わたしと一緒に楽園にいる」と言われた。 |
NIV | Jesus answered him, "I tell you the truth, today you will be with me in paradise." |
註解: この罪人は自己の罪の悔改めとイエスの義とを告白した後さらに改めてイエスに請い、イエスが死んで神の国に入る時にはせめてかかる罪人があったことを思い出してもらいたいことを願った。これに対してイエスは「神の国に入る時」というような不定の時ではなく、また「思い出す」といような漠然たることではなく「今日直ちに汝は我と共にパラダイスに入るであろう」ことを断言し給うた。すなわちイエスは今日死と共にパラダイスに入り、その罪人もイエスと偕にそこにいることができるというのである。この一語は多くのことを我らに示す驚くべき福音である(要義参照)。ただしこのイエスの御言がパウロ的神学の表顕法とは一見甚だ異なった表顕を用いており、かつその後のキリスト教会の信仰としては神の国に入るのはキリストの再臨により聖徒が復活してからのことであるので、この信仰に比較して「今日」ということも「パラダイスに入る」ということも古い時代から多くの問題を起した一節であった。あるいは「今日」を前文にかけ「われ今日誠に汝に告ぐ」と読む説も多く行われたのであるが、イエスの御言は一方に何ら公式的なるものに拘泥しない特徴があると共に他方その当時の一般の信仰をそのまま用い給うたことは著しい事実であって、当時一般のユダヤ人の間には死後義しい人間の霊魂は、黄泉の一部のパラダイスと呼ばれる処に入って復活の朝を待っているとの信念があったのをイエスはそのまま用い給うたのである(Z0、M0)。なおパウロすらピリ1:23のごとき表顕を用いていることに注意すべし。この一節はイエスの最後の十字架上の七語の一つとして極めて重要であることを思わねばならぬ。
要義 [今日汝は我と偕にパラダイスに在るべし]イエスのこの一語は我らに種々のことを教える。すなわち(1)人は悔改むるときはそれがたとい死の一歩手前であっても、永遠の国に彼を入れることとなること、(2)パラダイスに在るとは神と共に、またキリストと共に住む生活である以上、その場所は我らに知られていないけれども我らが信仰に入ると共に我らはパラダイスの生活を送っていると考え得ること、(3)この罪人の場合と同様、洗礼式の必要もなく信仰箇条の承認の必要もなく、信仰のみでそのまま救われること、(4)信仰とはキリストと共にいること等である。大なる福音であると言わなければならない。
10-4-へ 第三言 − 終焉 23:44 - 23:49
23章44節 晝の十二時ごろ、日、光をうしなひ、地のうへ徧く暗くなりて、三時に及び、[引照]
口語訳 | 時はもう昼の十二時ごろであったが、太陽は光を失い、全地は暗くなって、三時に及んだ。 |
塚本訳 | すでに昼の十二時ごろであったが、地の上が全部暗闇になってきて、三時までつづいた。 |
前田訳 | すでに昼の十二時ごろであったが、闇が全地をおおって三時に及んだ。日は光を失っていた。 |
新共同 | 既に昼の十二時ごろであった。全地は暗くなり、それが三時まで続いた。 |
NIV | It was now about the sixth hour, and darkness came over the whole land until the ninth hour, |
23章45節 聖所の幕、眞中より裂けたり。[引照]
口語訳 | そして聖所の幕がまん中から裂けた。 |
塚本訳 | 日蝕だったのである。すると宮の(聖所の)幕が真中から(二つに)裂けた。 |
前田訳 | 宮の幕が真ん中から裂けた。 |
新共同 | 太陽は光を失っていた。神殿の垂れ幕が真ん中から裂けた。 |
NIV | for the sun stopped shining. And the curtain of the temple was torn in two. |
註解: 地上の暗黒は世の光として来り給えるイエスの死に相応しく、聖所の幕が真中から裂けたことはイエスの肉体を経て至聖所への途が開かれたことに相当する(ヘブ10:20)。
23章46節 イエス大聲に呼はりて言ひたまふ『父よ、わが靈を御手にゆだぬ』斯く言ひて息絶えたまふ。[引照]
口語訳 | そのとき、イエスは声高く叫んで言われた、「父よ、わたしの霊をみ手にゆだねます」。こう言ってついに息を引きとられた。 |
塚本訳 | その時イエスは大声をあげて言われた、「お父様、”わたしの霊をあなたにおあずけします。”」こう言われるとともに、息が絶えた。 |
前田訳 | そのときイエスは大声をあげていわれた、「父上、わが霊をみ手にゆだねます」と。こういって息を引きとられた。 |
新共同 | イエスは大声で叫ばれた。「父よ、わたしの霊を御手にゆだねます。」こう言って息を引き取られた。 |
NIV | Jesus called out with a loud voice, "Father, into your hands I commit my spirit." When he had said this, he breathed his last. |
註解: マタ27:50。マコ15:37の「大声」の内容がここにルカのみに録されている。この十字架上の叫びは詩31:5を叫び給うたのでありイエスがその生存中も自己の全生命を神に委せ給うたと同じくその死後の霊魂を神の御手に委ね給い、神がその御意のままに為し給うようにそれを神の御手に付し給うたのであった。すなわちイエスは神に審かれてその霊魂をゲヘナに投げ込まれたのではなく、平安をもって神に付して今日直ちにパラダイスに入ることを確信し給うたのであった。かくして彼は息絶え給うたのであった。
23章47節 百卒長この有りし事(ども)を見て、神を崇めて言ふ『實にこの人は義人なりき』[引照]
口語訳 | 百卒長はこの有様を見て、神をあがめ、「ほんとうに、この人は正しい人であった」と言った。 |
塚本訳 | 百卒長はこの出来事を見て、「この方はほんとうに正しい人であった」と言って神を讃美した。 |
前田訳 | 百卒長はこの出来事を見て、神を讃美していった、「本当にこの方は義人であった」と。 |
新共同 | 百人隊長はこの出来事を見て、「本当に、この人は正しい人だった」と言って、神を賛美した。 |
NIV | The centurion, seeing what had happened, praised God and said, "Surely this was a righteous man." |
註解: 刑吏としての兵卒の首であった百卒長もイエスの十字架上の種々の出来事を見て心から彼の義人であったことを告白して神を崇めた(マタ5:16)。
23章48節 これを見んとて集りたる群衆も、ありし事どもを見て、みな胸を打ちつつ歸れり。[引照]
口語訳 | この光景を見に集まってきた群衆も、これらの出来事を見て、みな胸を打ちながら帰って行った。 |
塚本訳 | 見物に来た野次馬も皆、これらの出来事を見て(心を刺され、)胸を打ちながら帰っていった。 |
前田訳 | この光景を見に集まった群衆も皆出来事を見て胸を打ちながら帰って行った。 |
新共同 | 見物に集まっていた群衆も皆、これらの出来事を見て、胸を打ちながら帰って行った。 |
NIV | When all the people who had gathered to witness this sight saw what took place, they beat their breasts and went away. |
註解: 次にルカは群衆の批判を掲げる。この群衆は見物のために集っていた者であった(ルカ23:35節)。中にはイエスを十字架に釘けよと叫んだ者もいたであろう。それらの民衆も、イエスの死の姿を見てこれに打たれあるいは彼に対する同情より、あるいは自己の良心の苦痛より、悲しみの心を表わし胸を打ちつつ帰路についた。
23章49節 凡てイエスの相識の者およびガリラヤより從ひ來れる女たちも、遙に立ちて此等のことを見たり。[引照]
口語訳 | すべてイエスを知っていた者や、ガリラヤから従ってきた女たちも、遠い所に立って、これらのことを見ていた。 |
塚本訳 | またすべてのイエスの“知人”とガリラヤからついて来た女たちも、“遠くの方に立って”これを見ていた。 |
前田訳 | 彼の知人すべてと、ガリラヤからついて来た女たちも、遠くに立ってこれを見ていた。 |
新共同 | イエスを知っていたすべての人たちと、ガリラヤから従って来た婦人たちとは遠くに立って、これらのことを見ていた。 |
NIV | But all those who knew him, including the women who had followed him from Galilee, stood at a distance, watching these things. |
註解: イエスの十字架の許には、その知人、およびガリラヤより従い来った女たちもいた。かくしてイエスの十字架の周囲には全世界のあらゆる種類の人々が代表されていたのであった。
要義1 [ルカの録せるイエスの死]ルカ伝全体を通し殊に十字架の死の記事においてルカはイエスの死の性質を神の怒りの表顕と見ていないことは注意すべき点である。ルカによればイエスの死は神の御旨の成就であり、イエスは平安な心をもってその霊魂を神の御手に委ね、死後直ちにパラダイスに入ることを確信し、己を十字架に釘ける仇たちのために罪の赦しを祈りつつ死に給うた。ルカが「エリ、エリ」の叫び声を録していないことは、それを排除したためと見ることはできないけれども、おそらくルカは彼の強調せんとする真理をその記録において明示しようとしたのであろう。パウロの愛弟子ルカとしてかかる態度を取ったことに注意しなければならない。
要義2 [十字架と全人類]イエスの十字架はその当時のエルサレムのユダヤ人とローマの官憲および兵卒によって実行されたのであるが、ルカはこれをあたかも全人類による出来事のごとくに取扱っている。すなわち(1)イエスを殺さんとした祭司長・学者・宮守頭(ルカ22:4)、(2)イエスを裏切った十二弟子の一人なるユダ(ルカ22:6)、(3)彼を否んだペテロ(ルカ22:54−62)、(4)彼を訊問した民の司たち(ルカ22:66)、(5)彼を審いたピラトとヘロデ(ルカ23:1−12)、(6)彼を十字架に釘けよと叫んだ群衆(ルカ23:18-23)、(7)彼のために嘆き悲しんだ女たち(ルカ23:27)、(8)彼を処刑した兵卒、(9)彼を嘲弄したユダヤの司たちとローマの兵卒(ルカ23:35、36)、(10)彼を見物した群集(ルカ23:35)、(11)彼を譏った罪人(ルカ23:39)、(12)彼を信じた罪人(ルカ23:40−42)、(13)彼を崇めた百卒長(ルカ23:47)、(14)彼のために胸打った群衆(ルカ23:48)、(15)彼を悲しみをもって見送った知人と女たち(ルカ23:49)である。今日の全世界の人々は凡てこれらの中の何れかに属することであろう。かくしてイエスは全世界の前に全人類によって十字架に懸けられ給うたのであった。
10-4-ト イエスの埋葬 23:50 - 23:56(マタ27:57-61) (マコ15:42-47)
23章50節 (見よ)議員にして善かつ義なるヨセフといふ人あり。[引照]
口語訳 | ここに、ヨセフという議員がいたが、善良で正しい人であった。 |
塚本訳 | さてここにヨセフという人があった。最高法院の議員で、りっぱな、信心深い人であった。 |
前田訳 | ここにヨセフという名の議員があり、善良で正しい人で、 |
新共同 | さて、ヨセフという議員がいたが、善良な正しい人で、 |
NIV | Now there was a man named Joseph, a member of the Council, a good and upright man, |
23章51節 ――この人はかの評議と仕業とに與せざりき――ユダヤ(人)の町なるアリマタヤの者にて、神の國を待ちのぞめり。[引照]
口語訳 | この人はユダヤの町アリマタヤの出身で、神の国を待ち望んでいた。彼は議会の議決や行動には賛成していなかった。 |
塚本訳 | ──この人は(イエスの処分について、)同僚たちの(今度の)決議と行動とに賛成しなかった。──ユダヤの町アリマタヤ生まれで、神の国(の来るの)を待ち望んでいた。 |
前田訳 | 人々の決議や行動には賛成しなかった。ユダヤの町アリマタヤの出で、神の国を待ち望んでいた。 |
新共同 | 同僚の決議や行動には同意しなかった。ユダヤ人の町アリマタヤの出身で、神の国を待ち望んでいたのである。 |
NIV | who had not consented to their decision and action. He came from the Judean town of Arimathea and he was waiting for the kingdom of God. |
註解: ヨセフは「イエスの弟子で富める人」(マタ27:57)であり、「神の国を待望める貴き議員であった」(マコ15:43)彼は「ユダヤ人を恐れて密かにイエスの弟子となっていた」人であったが(ヨハ19:38)、本来「善かつ義」なる人であったので、この度イエスを殺そうとする謀議とその実行には参画しなかった。49節の「相識の者」の中にはおそらく彼もいたことであろう。またヨハ19:41の園はおそらく彼の所有地で、イエスを葬った墓は、彼の家族のための私有の墓地であったろう。
23章52節 此の人ピラトの許にゆき、イエスの屍體を乞ひ、[引照]
口語訳 | この人がピラトのところへ行って、イエスのからだの引取り方を願い出て、 |
塚本訳 | この人がピラトの所に行ってイエスの体(の下げ渡し)を乞い、 |
前田訳 | この人がピラトのところに行ってイエスのなきがらを求め、 |
新共同 | この人がピラトのところに行き、イエスの遺体を渡してくれるようにと願い出て、 |
NIV | Going to Pilate, he asked for Jesus' body. |
註解: 彼の身分はかかることを為すに適しており、元来勇気に欠けていた彼も、イエスの死によって何人をも恐れない勇気を持つようになった。ピラトはイエスの死を確めて後(マコ15:44、45)屍を彼に与えた。
23章53節 これを取りおろし、亞麻布にて包み、巖に鑿りたる未だ人を葬りし事なき墓に納めたり。[引照]
口語訳 | それを取りおろして亜麻布に包み、まだだれも葬ったことのない、岩を掘って造った墓に納めた。 |
塚本訳 | これを(十字架から)下ろして亜麻布で包み、まだだれも葬られたことのない、岩に穿った墓に納めた。 |
前田訳 | それを取りおろして亜麻布に包み、まただれも葬られたことのない、岩にうがった墓に納めた。 |
新共同 | 遺体を十字架から降ろして亜麻布で包み、まだだれも葬られたことのない、岩に掘った墓の中に納めた。 |
NIV | Then he took it down, wrapped it in linen cloth and placed it in a tomb cut in the rock, one in which no one had yet been laid. |
註解: アリマタヤのヨセフの勇敢な行為により罪人イエスは普通の死人同様の処置を受け、充分なる尊敬をもって新しい墓に葬られたのであった。かかることは異例に属すること勿論である。
辞解
[巌に鑿りたる墓] すなわち土に掘ったのでも築き上げたのでもなく、自然の岩盤に屍体を横たえるための穴を鑿り、これに屍体を横たえ、その口を石で塞ぐ、下方に鑿り下げたものや横に鑿ったもの等あり。亜麻布で包み香料と香油にて臭気を防ぐのがユダヤ人の埋葬の習慣であった(56節)。
23章54節 この日は準備日なり、かつ安息日近づきぬ。[引照]
口語訳 | この日は準備の日であって、安息日が始まりかけていた。 |
塚本訳 | この日は支度日[金曜日]であったが、(もう夕方で、)安息日[土曜日]が始まろうとしていた。 |
前田訳 | この日は準備日(そなえび)であったが、安息日がはじまりかけていた。 |
新共同 | その日は準備の日であり、安息日が始まろうとしていた。 |
NIV | It was Preparation Day, and the Sabbath was about to begin. |
註解: 金曜日は翌日の安息日のために種々の準備をする日なので準備日 paraskeuê と称していた。「近づきぬ」は原語「明けんとす」であるが、これは主観的な意味で夕六時頃から安息日となる。
23章55節 ガリラヤよりイエスと共に來りし女たち後に從ひ、その墓と屍體の納められたる樣とを見、[引照]
口語訳 | イエスと一緒にガリラヤからきた女たちは、あとについてきて、その墓を見、またイエスのからだが納められる様子を見とどけた。 |
塚本訳 | イエスと一しょにガリラヤから来た女たちは(ヨセフの)あとについて行って、墓と、イエスの体が(そこに)納められる様子とを見とどけ、 |
前田訳 | ガリラヤからイエスにお伴して来ていた女たちはヨセフについて行って、墓と、お体が納められる模様とを見とどけ、 |
新共同 | イエスと一緒にガリラヤから来た婦人たちは、ヨセフの後について行き、墓と、イエスの遺体が納められている有様とを見届け、 |
NIV | The women who had come with Jesus from Galilee followed Joseph and saw the tomb and how his body was laid in it. |
23章56節 歸りて香料と香油とを備ふ。[引照]
口語訳 | そして帰って、香料と香油とを用意した。それからおきてに従って安息日を休んだ。 |
塚本訳 | 帰って、香料と香油を用意した。女たちは掟に従って安息日を休み、 |
前田訳 | 帰って、香料と香油とを用意した。そしていましめに従って安息日を休んだ。 |
新共同 | 家に帰って、香料と香油を準備した。婦人たちは、安息日には掟に従って休んだ。 |
NIV | Then they went home and prepared spices and perfumes. But they rested on the Sabbath in obedience to the commandment. |
註解: 49節で最後までイエスの死を見守った女たちはヨセフのピラトに対する交渉にもイエスの屍骸を十字架から下すのにも、またその埋葬にもみなこれに従って行ったことであろう。そして埋葬を涙をもって見届けた後、安息日になる前にと急ぎエルサレムの町に「帰り」埋葬用の香料と香油とを買い求めて準備をした。
かくて誡命に遵ひて、安息日を休みたり。
註解: この間に神はイエスの屍骸を復活せしむる準備を為し給うたことであろう。
ルカ伝第24章
分類
11 復活 24:1 - 24:53
11-1-イ 空虚なる墓 24:1 - 24:12
(マタ28:1-10) (マコ16:1-8)
24章1節 一週の初の日、朝まだき、女たち備へたる香料を携へて墓にゆく。[引照]
口語訳 | 週の初めの日、夜明け前に、女たちは用意しておいた香料を携えて、墓に行った。 |
塚本訳 | (翌日、すなわち)週の始めの日[日曜日]、夜の引明けに、用意しておいた香料(をまぜた香油)を持って墓場に行った。 |
前田訳 | 週の第一日の夜明け前に、用意しておいた香料を持って女たちは墓へ行った。 |
新共同 | そして、週の初めの日の明け方早く、準備しておいた香料を持って墓に行った。 |
NIV | On the first day of the week, very early in the morning, the women took the spices they had prepared and went to the tomb. |
註解: 夜の明けるのを待ち兼ねていたことが窺われる。文章としては前章の末尾と密接に(mên・・・de)関連している。屍骸を完全に手入れして葬るために、前々日に求めた香料や香油を携えて墓に行った。女たちの主なる者の名は10節に記されている。
24章2節 然るに石の既に墓より轉し除けあるを見、[引照]
口語訳 | ところが、石が墓からころがしてあるので、 |
塚本訳 | 墓(の入口)から石がころがしてあるのを見て |
前田訳 | 見ると、石が墓から転がしてあったので、 |
新共同 | 見ると、石が墓のわきに転がしてあり、 |
NIV | They found the stone rolled away from the tomb, |
24章3節 内に入りたるに、主イエスの屍體を見ず、[引照]
口語訳 | 中にはいってみると、主イエスのからだが見当らなかった。 |
塚本訳 | 中に入ったが、主イエスの体は見えなかった。 |
前田訳 | 中に入ると、主イエスの体が見えなかった。 |
新共同 | 中に入っても、主イエスの遺体が見当たらなかった。 |
NIV | but when they entered, they did not find the body of the Lord Jesus. |
24章4節 これが爲に狼狽へをりしに、視よ、輝ける衣を著たる二人の人その傍らに立てり。[引照]
口語訳 | そのため途方にくれていると、見よ、輝いた衣を着たふたりの者が、彼らに現れた。 |
塚本訳 | そのため途方にくれていると、見よ、かがやく着物をきた二人の人が(現われて)彼らに近づいた。 |
前田訳 | そのため途方にくれていると、見よ、かがやく着物を着たふたりの男が近づいた。 |
新共同 | そのため途方に暮れていると、輝く衣を着た二人の人がそばに現れた。 |
NIV | While they were wondering about this, suddenly two men in clothes that gleamed like lightning stood beside them. |
註解: 「主イエスの」はD写本に欠けている。マタ28:1−10の記事との間に若干の共通点と差異の点とがあることに注意すべし、種々の言伝えがあったことは止むを得ない。二人の人は天の使いであると考えられている。
24章5節 女たち懼れて面を地に伏せたれば、その二人の者いふ『なんぞ死にし者どもの中に生ける者を尋ぬるか。[引照]
口語訳 | 女たちは驚き恐れて、顔を地に伏せていると、このふたりの者が言った、「あなたがたは、なぜ生きた方を死人の中にたずねているのか。 |
塚本訳 | ぞっとして面を垂れると、彼らに言った、「なぜ死人の中に生きた者をさがすのか。 |
前田訳 | おそれて顔を地に伏せると、彼らはいった、「なぜ生きた人を死人の中に探すのか。 |
新共同 | 婦人たちが恐れて地に顔を伏せると、二人は言った。「なぜ、生きておられる方を死者の中に捜すのか。 |
NIV | In their fright the women bowed down with their faces to the ground, but the men said to them, "Why do you look for the living among the dead? |
24章6節 彼は此處に在さず、甦へり給へり。尚ガリラヤに居給へるとき、如何に語り給ひしかを憶ひ出でよ。[引照]
口語訳 | そのかたは、ここにはおられない。よみがえられたのだ。まだガリラヤにおられたとき、あなたがたにお話しになったことを思い出しなさい。 |
塚本訳 | ここにはおられない。もう復活されたのだ。まだガリラヤにおられたとき、あなた達に言われたことを思い出してみよ。 |
前田訳 | ここにはいらっしゃらない。復活なさった。まだガリラヤにおいでのころ、あなた方にいわれたことを思い出せ、 |
新共同 | あの方は、ここにはおられない。復活なさったのだ。まだガリラヤにおられたころ、お話しになったことを思い出しなさい。 |
NIV | He is not here; he has risen! Remember how he told you, while he was still with you in Galilee: |
24章7節 即ち「人の子は必ず罪ある人の手に付され、十字架につけられ、かつ三日めに甦へるべし」と言ひ給へり』[引照]
口語訳 | すなわち、人の子は必ず罪人らの手に渡され、十字架につけられ、そして三日目によみがえる、と仰せられたではないか」。 |
塚本訳 | 『人の子(わたし)は罪人どもの手に引き渡され、十字架につけられ、三日目に復活せねばならない』と言われたではないか。」 |
前田訳 | 『人の子は罪びとどもの手に引き渡され、十字架につけられ、三日目に復活せねばならない』と」。 |
新共同 | 人の子は必ず、罪人の手に渡され、十字架につけられ、三日目に復活することになっている、と言われたではないか。」 |
NIV | `The Son of Man must be delivered into the hands of sinful men, be crucified and on the third day be raised again.'" |
註解: 二人の天使は女たちにイエスの復活し給うたことと、ルカ9:22その他においてイエスが十字架の死と復活とについて預言し給うたことを憶い出させんとした。これらの預言はしばしば繰返されたけれども、彼らには「辨へぬやうに隱され(ルカ9:45)」ていたので、彼らはこの時天使の言によってそれら凡てを憶い出したことであろう。絶望の中に陥っていた彼らにとっては、全く蘇生の思いを与えた復活の嘉信であった。
辞解
[死にし者] 神と共に生きる者以外は人間はみな「死にし者」である(マタ8:22。エペ2:1)。我らは肉の人間、すなわち死にたる人間の中にイエスを求めてもこれを見出すことはできない。
[彼は此處に在さず、甦へり給へり] D写本に欠けている。意味には関係がない。またガリラヤに往き給うこと(マタ28:7)および彼らに顕れ給うたこと(同8)を欠く、ルカは主としてエルサレム中心の伝説を録す。
24章8節 ここに彼らその御言を憶ひ出で、[引照]
口語訳 | そこで女たちはその言葉を思い出し、 |
塚本訳 | 女たちはイエスの言葉を思い出して、 |
前田訳 | 女たちはイエスのことばを思い出して、 |
新共同 | そこで、婦人たちはイエスの言葉を思い出した。 |
NIV | Then they remembered his words. |
24章9節 墓より歸りて、凡て此等のことを十一弟子および凡て他の弟子たちに告ぐ。[引照]
口語訳 | 墓から帰って、これらいっさいのことを、十一弟子や、その他みんなの人に報告した。 |
塚本訳 | 墓から帰り、十一人(の使徒)とそのほかみんなの人に、一つのこらずこのことを知らせた。 |
前田訳 | 墓から帰り、十一人とほかのみんなにこのことのすべてを告げた。 |
新共同 | そして、墓から帰って、十一人とほかの人皆に一部始終を知らせた。 |
NIV | When they came back from the tomb, they told all these things to the Eleven and to all the others. |
24章10節 この女たちはマグダラのマリヤ、ヨハンナ及びヤコブの母マリヤなり、而して彼らと共に在りし他の女たちも、之を使徒たちに告げたり。[引照]
口語訳 | この女たちというのは、マグダラのマリヤ、ヨハンナ、およびヤコブの母マリヤであった。彼女たちと一緒にいたほかの女たちも、このことを使徒たちに話した。 |
塚本訳 | これを使徒たちに話したのは、マグダラのマリヤとヨハンナとヤコブの母マリヤと、および、この女たちと一しょにいたほかの女たちとであった。 |
前田訳 | 女たちはマグダラのマリヤとヨハンナとヤコブの母マリヤで、いっしょのほかの女たちも、使徒たちにこのことを話した。 |
新共同 | それは、マグダラのマリア、ヨハナ、ヤコブの母マリア、そして一緒にいた他の婦人たちであった。婦人たちはこれらのことを使徒たちに話したが、 |
NIV | It was Mary Magdalene, Joanna, Mary the mother of James, and the others with them who told this to the apostles. |
註解: ルカの記事によればこの女たちの中、誰も復活のイエスを見た者はなかったが、復活の事実を確信して使徒たちに告げたのであった。「ヤコブ」は小ヤコブと称えられた十二使徒の一人、アルパヨの子、その他の女についてはルカ8:2、3参照。
24章11節 使徒たちは其の言を妄語と思ひて信ぜず。[引照]
口語訳 | ところが、使徒たちには、それが愚かな話のように思われて、それを信じなかった。〔 |
塚本訳 | しかし使徒たちはこの話が冗談のように見えたので、女たちを信じなかった。 |
前田訳 | しかし、使徒たちにはこの話がたわごとのようにみえたので、女たちを信じなかった。 |
新共同 | 使徒たちは、この話がたわ言のように思われたので、婦人たちを信じなかった。 |
NIV | But they did not believe the women, because their words seemed to them like nonsense. |
註解: 女子の妄語を信じないだけならば有りがちなことであるが、使徒とも称えられる者が主イエスの預言を全然念頭に置いていなかったことは全く驚くべき事実である。人間の肉は霊のことに関してはかくも無感覚である。
24章12節 [ペテロは起ちて墓に走りゆき、屈みて布のみあるを見、ありし事を怪しみつつ歸れり][引照]
口語訳 | ペテロは立って墓へ走って行き、かがんで中を見ると、亜麻布だけがそこにあったので、事の次第を不思議に思いながら帰って行った。〕 |
塚本訳 | [無シ] |
前田訳 | 〔しかしペテロは立って墓へ走り行き、かがんで見ると、亜麻布だけがあったので、出来事におどろいて帰った〕。 |
新共同 | しかし、ペトロは立ち上がって墓へ走り、身をかがめて中をのぞくと、亜麻布しかなかったので、この出来事に驚きながら家に帰った。 |
NIV | Peter, however, got up and ran to the tomb. Bending over, he saw the strips of linen lying by themselves, and he went away, wondering to himself what had happened. |
註解: ヨハ20:3−6よりここに挿入されたものと思われる。D写本にこれを欠く。
11-1-ロ エマオ途上のキリスト 24:13 - 24:35
註解: 13節以後の復活のイエスに関する記事はルカ特有であり、これにヨハネ伝にある若干の記事に類する伝説を加えて編纂されている。
24章13節 視よ、この日二人の弟子、エルサレムより三里ばかり隔りたるエマオといふ村に往きつつ、[引照]
口語訳 | この日、ふたりの弟子が、エルサレムから七マイルばかり離れたエマオという村へ行きながら、 |
塚本訳 | するとちょうど同じ日に、二人の弟子がエルサレムから六十スタデオ[十一キロ半]離れたエマオという村へ歩いてゆきながら、 |
前田訳 | 同じ日に弟子たちのふたりがエマオという村へ歩いていた。それはエルサレムから六十スタデオ離れていた。 |
新共同 | ちょうどこの日、二人の弟子が、エルサレムから六十スタディオン離れたエマオという村へ向かって歩きながら、 |
NIV | Now that same day two of them were going to a village called Emmaus, about seven miles from Jerusalem. |
24章14節 凡て有りし事どもを互に語りあふ。[引照]
口語訳 | このいっさいの出来事について互に語り合っていた。 |
塚本訳 | これらの出来事をあれやこれやと話し合っていた。 |
前田訳 | 彼らはこのすべての出来事を話しあっていた。 |
新共同 | この一切の出来事について話し合っていた。 |
NIV | They were talking with each other about everything that had happened. |
註解: 二人の弟子は9節の他の弟子の中の二人であろう。その一人の名がクレオパであることは18節に記されている。このクレオパについて古い伝説はイエスの父ヨセフの兄弟であるとされており、今一人はその息子シメオンで、その従兄に当るイエスの兄弟ヤコブの死後エルサレムの二代目の監督になった人であると伝えられており、教父オリゲネスのごときはこれを既定の事実のごとくに取扱っている(Z0参照)。エマオの位置については諸説あり、「三里」は原文「六十スタディオイ」で異本に「百六十スタディオイ」とあり、前者が正しいであろう。その場所は確定できない。カロニエ(またはクロニエ)説、クベベ説等あり。11節における不信の後三日の時間を経過した後の事であった(21節)。
24章15節 語りかつ論じあふ程に、イエス自ら近づきて共に往き給ふ。[引照]
口語訳 | 語り合い論じ合っていると、イエスご自身が近づいてきて、彼らと一緒に歩いて行かれた。 |
塚本訳 | 二人が(こうして)話したり議論したりしていると、(いつの間にか)御本人のイエスが近づいてきて、一しょに歩いておられたが、 |
前田訳 | 話したり論じたりしていると、イエスご自身が近づいていっしょに歩いておられた。 |
新共同 | 話し合い論じ合っていると、イエス御自身が近づいて来て、一緒に歩き始められた。 |
NIV | As they talked and discussed these things with each other, Jesus himself came up and walked along with them; |
24章16節 されど彼らの目遮へられて、イエスたるを認むること能はず。[引照]
口語訳 | しかし、彼らの目がさえぎられて、イエスを認めることができなかった。 |
塚本訳 | 二人は目をくらまされていたので、それと気がつかなかった。 |
前田訳 | しかし彼らの目がさえぎられて、彼を認めえなかった。 |
新共同 | しかし、二人の目は遮られていて、イエスだとは分からなかった。 |
NIV | but they were kept from recognizing him. |
註解: 「論ず」 zeteô は熱論する意味がある故、イエスの死と復活に関する論議に彼らは熱中していたことが判る。イエスの復活体は非常に特異なものであったことがここにも表われている。すなわち目に見えていながらイエスであることが判明らず、歩み、語り、パンを取りて祝し、しかも突然に消え去り(31節)、觸ることができるけれども(39節)また、閉じられた戸を通して室に入ることもできる等の事実(36節)を併せ考えるならば、復活体は我らの経験世界の外にある事実であることが判明る。「彼らの目遮へられて」とある点から見れば、視力に変化を起させられたことになるのであるが、孰れが事実かを決定することは困難である。
24章17節 イエス彼らに言ひ給ふ『なんぢら歩みつつ互に語りあふ言は何ぞや』かれら悲しげなる状にて立ち止り、[引照]
口語訳 | イエスは彼らに言われた、「歩きながら互に語り合っているその話は、なんのことなのか」。彼らは悲しそうな顔をして立ちどまった。 |
塚本訳 | 二人に言われた、「歩きながら何をそんなに論じ合っているのです。」暗い顔をして二人は立ち止まり、 |
前田訳 | 彼はいわれた、「何のことですか、あなた方が歩きながら論じあっているのは」と。彼らは悲しい顔をして立ち止まり、 |
新共同 | イエスは、「歩きながら、やり取りしているその話は何のことですか」と言われた。二人は暗い顔をして立ち止まった。 |
NIV | He asked them, "What are you discussing together as you walk along?" They stood still, their faces downcast. |
註解: 「語り合う」は antiballô で「投げ合う」こと、議論の激しさを示す、おそらく復活の事実に対して疑う者と信ずる者との間の議論であったろう。突然イエスに言葉をかけれらたので彼らは始めて己に帰り、その興奮を恥ずるかのごとく悲しげに立ち止まった。
24章18節 その一人なるクレオパと名づくるもの答へて言ふ『なんぢエルサレムに寓り居て、獨り此の頃かしこに起りし事どもを知らぬか』[引照]
口語訳 | そのひとりのクレオパという者が、答えて言った、「あなたはエルサレムに泊まっていながら、あなただけが、この都でこのごろ起ったことをご存じないのですか」。 |
塚本訳 | 一人のクレオパという方が答えた、「(見れば御巡礼のようだが、)エルサレムに滞在していながら、あなただけは、この二三日の間にそこで起ったことを何も知らないのですか。」 |
前田訳 | そのひとりのクレオパというものが答えた、「エルサレムにご滞在なのに、あなただけがこのごろそこでおこったことをご存じないのですか」と。 |
新共同 | その一人のクレオパという人が答えた。「エルサレムに滞在していながら、この数日そこで起こったことを、あなただけはご存じなかったのですか。」 |
NIV | One of them, named Cleopas, asked him, "Are you only a visitor to Jerusalem and do not know the things that have happened there in these days?" |
註解: クレオパについては14節註参照。「寓り」は過越の祭のためにエルサレムに上りそこに宿っていたこと。このクレオパの言から判断すれば、当時イエスの死とその復活の噂は全エルサレムに広まっていたものと思わなければならない。この事件を知らないことの方が驚くべきことと思われたのであった。
24章19節 イエス言ひ給ふ『如何なる事ぞ』[引照]
口語訳 | 「それは、どんなことか」と言われると、彼らは言った、「ナザレのイエスのことです。あのかたは、神とすべての民衆との前で、わざにも言葉にも力ある預言者でしたが、 |
塚本訳 | 彼らに言われた、「なんのことです。」彼らが言った、「ナザレ人イエスのことです。──この方はだれが見ても、神の目にさえも、業に言葉に力のある預言者であったのに、 |
前田訳 | 彼はいわれた、「なんのことですか」と。彼らはいった、「ナザレ人イエスのことです。彼は神とすべての民の前にわざとことばに力ある預言者でしたが、 |
新共同 | イエスが、「どんなことですか」と言われると、二人は言った。「ナザレのイエスのことです。この方は、神と民全体の前で、行いにも言葉にも力のある預言者でした。 |
NIV | "What things?" he asked. "About Jesus of Nazareth," they replied. "He was a prophet, powerful in word and deed before God and all the people. |
註解: 知らないふりをし給うた。彼らの信仰を引出すためである。
答へて言ふ『ナザレのイエスの事なり、彼は神と凡ての民との前にて、業にも言にも能力ある預言者なりしに、
24章20節 祭司長ら及び我が司らは、死罪に定めんとて之を付し遂に十字架につけたり。[引照]
口語訳 | 祭司長たちや役人たちが、死刑に処するために引き渡し、十字架につけたのです。 |
塚本訳 | 大祭司連をはじめ(最高法院の)役人たちが(ローマ人に)引き渡して死刑を宣告し、十字架につけてしまったのです。 |
前田訳 | 大祭司や役人たちが引き渡して死刑にし、十字架につけました、 |
新共同 | それなのに、わたしたちの祭司長たちや議員たちは、死刑にするため引き渡して、十字架につけてしまったのです。 |
NIV | The chief priests and our rulers handed him over to be sentenced to death, and they crucified him; |
24章21節 我らはイスラエルを贖ふべき者は、この人なりと望みゐたり、然のみならず、此の事の有りしより今日ははや三日めなるが、[引照]
口語訳 | わたしたちは、イスラエルを救うのはこの人であろうと、望みをかけていました。しかもその上に、この事が起ってから、きょうが三日目なのです。 |
塚本訳 | ほんとうにわたし達は、この方こそイスラエル(の民)をあがなってくださる人だと望みをかけていたのに!そればかりか、かてて加えて、そのことがあってから、きょうはもう三日目になったのです。(もはや生き返られる望みもありません。) |
前田訳 | われらは彼こそイスラエルをあがなう方と望みをかけていましたのに。そればかりか、あのことがおこってからきょうでもう三日目です。 |
新共同 | わたしたちは、あの方こそイスラエルを解放してくださると望みをかけていました。しかも、そのことがあってから、もう今日で三日目になります。 |
NIV | but we had hoped that he was the one who was going to redeem Israel. And what is more, it is the third day since all this took place. |
24章22節 なほ我等のうちの或女たち、我らを驚かせり、即ち彼ら朝夙く墓に往きたるに、[引照]
口語訳 | ところが、わたしたちの仲間である数人の女が、わたしたちを驚かせました。というのは、彼らが朝早く墓に行きますと、 |
塚本訳 | ところがまた、仲間の女たちがわたし達をびっくりさせました。──この女たちは朝早く墓に行ったが、 |
前田訳 | それに、仲間の女たちがわれらをおどろかせました。女たちは朝早く墓に行きましたが、 |
新共同 | ところが、仲間の婦人たちがわたしたちを驚かせました。婦人たちは朝早く墓へ行きましたが、 |
NIV | In addition, some of our women amazed us. They went to the tomb early this morning |
24章23節 屍體を見ずして歸り、かつ御使たち現れて、イエスは活き給ふと告げたりと言ふ。[引照]
口語訳 | イエスのからだが見当らないので、帰ってきましたが、そのとき御使が現れて、『イエスは生きておられる』と告げたと申すのです。 |
塚本訳 | お体が見つからずにかえって来て、天使たちがあらわれ、あの方は生きておられる、と告げたと言うのです。 |
前田訳 | お体が見つからぬまま帰って来て、『彼は生きておられる』という天使の姿を見たと申します。 |
新共同 | 遺体を見つけずに戻って来ました。そして、天使たちが現れ、『イエスは生きておられる』と告げたと言うのです。 |
NIV | but didn't find his body. They came and told us that they had seen a vision of angels, who said he was alive. |
24章24節 我らの朋輩の數人もまた墓に往きて見れば、正しく女たちの言ひし如くにしてイエスを見ざりき』[引照]
口語訳 | それで、わたしたちの仲間が数人、墓に行って見ますと、果して女たちが言ったとおりで、イエスは見当りませんでした」。 |
塚本訳 | そこで仲間の男が二三人墓に行って見ると、はたして女たちの言うとおり(墓は空っぽ)だったが、(生きておられるという)その方は見えなかったのです。」 |
前田訳 | それで、仲間が何人か墓へ行って見ますと、女たちのいったとおりで、彼は見えませんでした」と。 |
新共同 | 仲間の者が何人か墓へ行ってみたのですが、婦人たちが言ったとおりで、あの方は見当たりませんでした。」 |
NIV | Then some of our companions went to the tomb and found it just as the women had said, but him they did not see." |
註解: 以上はクレオパと他の一人との答の要約であるが19節はイエスが如何なる人であったかについて、20節はイエスに対する祭司長や司たちの態度と十字架の死、21節はイエスに対するクレオパその他の弟子の信仰と期待およびこれに対する失望、21−24節はイエスの復活を主張する女たちおよびこれに関するペテロたちの証言を掲げている。そしてクレオパらがこれに対して未だ明確なる信仰と確信に到達しないことが言外に現われていることはイエスにも明らかに見えたのであろう。次節のごとく答え給うた。
24章25節 イエス言ひ給ふ『ああ愚にして預言者たちの語りたる凡てのことを信ずるに心鈍き者よ。[引照]
口語訳 | そこでイエスが言われた、「ああ、愚かで心のにぶいため、預言者たちが説いたすべての事を信じられない者たちよ。 |
塚本訳 | 彼らに言われた、「ああ、預言者たちの言ったことを何一つ信じない、悟りの悪い、心の鈍い人たちよ! |
前田訳 | すると彼はいわれた、「ああ、愚かで心の鈍いものよ、預言者のいったことを何も信じないとは。 |
新共同 | そこで、イエスは言われた。「ああ、物分かりが悪く、心が鈍く預言者たちの言ったことすべてを信じられない者たち、 |
NIV | He said to them, "How foolish you are, and how slow of heart to believe all that the prophets have spoken! |
24章26節 キリストは必ず此らの苦難を受けて、其の榮光に入るべきならずや』[引照]
口語訳 | キリストは必ず、これらの苦難を受けて、その栄光に入るはずではなかったのか」。 |
塚本訳 | 救世主は栄光に入るために、そのような苦しみを受けねばならなかったのではないのですか。」 |
前田訳 | キリストはこれらの苦難を受けてから栄光に入るよう定められていたではないか」と。 |
新共同 | メシアはこういう苦しみを受けて、栄光に入るはずだったのではないか。」 |
NIV | Did not the Christ have to suffer these things and then enter his glory?" |
24章27節 かくてモーセ及び凡ての預言者をはじめ、己に就きて凡ての聖書に録したる所を説き示したまふ。[引照]
口語訳 | こう言って、モーセやすべての預言者からはじめて、聖書全体にわたり、ご自身についてしるしてある事どもを、説きあかされた。 |
塚本訳 | そして(預言者)モーセから始めて、すべての預言者が御自分につき聖書全体において言っていることを説明された。 |
前田訳 | そして、モーセやすべての預言者からはじめて、ご自身についてのことを聖書全体にわたって彼らに説明された。 |
新共同 | そして、モーセとすべての預言者から始めて、聖書全体にわたり、御自分について書かれていることを説明された。 |
NIV | And beginning with Moses and all the Prophets, he explained to them what was said in all the Scriptures concerning himself. |
註解: イエスは彼らの態度を見てその愚にして心鈍きことを叱責し、キリストの受難とその栄光(復活による)とは聖書の預言する処であって、人々は単純率直にこれを信ずべきであることを彼らに説明し、そしてモーセの五書や預言書によってイエスに関する預言の部分を引用して彼らに説明し給うた。これは彼らを信仰に導くに非常に役立ったことであろう。それでも彼らはそれがイエスであることを悟らなかった。
24章28節 遂に往く所の村に近づきしに、イエスなほ進みゆく樣なれば、[引照]
口語訳 | それから、彼らは行こうとしていた村に近づいたが、イエスがなお先へ進み行かれる様子であった。 |
塚本訳 | とかくするうちに目指す(エマオの)村に近づくと、なお先へ行くような様子をされたので、 |
前田訳 | めざす村に近づくと、彼はなお先へ行く様子をされたので、 |
新共同 | 一行は目指す村に近づいたが、イエスはなおも先へ行こうとされる様子だった。 |
NIV | As they approached the village to which they were going, Jesus acted as if he were going farther. |
24章29節 強ひて止めて言ふ『我らと共に留れ、時夕に及びて、日も早や暮れんとす』乃ち留らんとて入りたまふ。[引照]
口語訳 | そこで、しいて引き止めて言った、「わたしたちと一緒にお泊まり下さい。もう夕暮になっており、日もはや傾いています」。イエスは、彼らと共に泊まるために、家にはいられた。 |
塚本訳 | 二人はこう言って無理に引き留めた、「わたし達のところにお泊まりなさい。間もなく夕方で、日もはや傾いたから。」そこで彼らのところに泊まるために、(家に)入られた。 |
前田訳 | ふたりは無理にお引きとめしていった、「わたしたちのところにお泊まりください。夕暮は近く、日ははや傾きましたから」と。そこで彼らのところに泊まるために家に入られた。 |
新共同 | 二人が、「一緒にお泊まりください。そろそろ夕方になりますし、もう日も傾いていますから」と言って、無理に引き止めたので、イエスは共に泊まるため家に入られた。 |
NIV | But they urged him strongly, "Stay with us, for it is nearly evening; the day is almost over." So he went in to stay with them. |
註解: 「進みゆく様なれば」は「進みゆく振りをしたので」とのこと、彼らはなおもイエスの教えを聴かんとして強いて彼を引留めた。「我らと共に留れ」はおそらく彼らの家がエマオにあったのであろう。ただし本文からはそのことを証明することはできない。
24章30節 共に食事の席に著きたまふ時、パンを取りて祝し、擘きて與へ給へば、[引照]
口語訳 | 一緒に食卓につかれたとき、パンを取り、祝福してさき、彼らに渡しておられるうちに、 |
塚本訳 | 一しょに食卓について、(いつものように)パンを(手に)取り、(神を)讃美したのち、裂いて渡されると、 |
前田訳 | 共に食卓について、パンを取って讃美し、裂いて渡されると、 |
新共同 | 一緒に食事の席に着いたとき、イエスはパンを取り、賛美の祈りを唱え、パンを裂いてお渡しになった。 |
NIV | When he was at the table with them, he took bread, gave thanks, broke it and began to give it to them. |
24章31節 彼らの目開けてイエスなるを認む、而してイエス見えずなり給ふ。[引照]
口語訳 | 彼らの目が開けて、それがイエスであることがわかった。すると、み姿が見えなくなった。 |
塚本訳 | (その時)二人の目が開けて、その方とはっきりわかった。すると(また)その姿が見えなくなった。 |
前田訳 | 彼らの目が開けて、彼とわかった。すると彼は見えなくなった。 |
新共同 | すると、二人の目が開け、イエスだと分かったが、その姿は見えなくなった。 |
NIV | Then their eyes were opened and they recognized him, and he disappeared from their sight. |
註解: 彼らはイエスに食卓の主人役を依頼したのであろう。そのパンを擘く態度によって彼らの目に突然イエスを認識することができた。彼らは神によってイエスを見る目が開かれたからである。彼らがイエスを認めるや否やイエスは見えずなって彼らを離れ給うた。この事実は徹頭徹尾夢のような事件で彼らもこれを顧みて現実と夢幻との境を彷徨するごとき心地がしたことであろう。復活そのものもまたこれに類する事実であるに相違ない。
辞解
[目開け] 16節の「目遮へられ」と対応する。
[見えずなり給ふ] 「見えずなりて彼らを離れ給う」の意(M0)。
24章32節 かれら互に言ふ『途にて我らと語り、我らに聖書を説明し給へるとき、我らの心、内に燃えしならずや』[引照]
口語訳 | 彼らは互に言った、「道々お話しになったとき、また聖書を説き明してくださったとき、お互の心が内に燃えたではないか」。 |
塚本訳 | 二人は語り合うのであった、「(そう言えば、)道々わたし達に話をされたり、聖書を説き明かされたりした時に、胸の中が熱くなったではないか」と。 |
前田訳 | 彼らは語りあった、「彼が道でわれらに語って、聖書を説かれたとき、心が燃えたではないか」と。 |
新共同 | 二人は、「道で話しておられるとき、また聖書を説明してくださったとき、わたしたちの心は燃えていたではないか」と語り合った。 |
NIV | They asked each other, "Were not our hearts burning within us while he talked with us on the road and opened the Scriptures to us?" |
註解: 彼らはイエスが見えずなり給うて後に、彼と語り始めてからのことを回想し、彼の説明を聴いている時に彼らの心が心中に燃えていたことを思い出したのであった。そしてそれが復活のイエスのためであったことを悟った。
24章33節 かくて直ちに立ちエルサレムに歸りて見れば、十一弟子および之と偕なる者あつまり居て言ふ、[引照]
口語訳 | そして、すぐに立ってエルサレムに帰って見ると、十一弟子とその仲間が集まっていて、 |
塚本訳 | 時を移さず二人は立ち上がってエルサレムに引き返して見ると、十一人とその仲間とが集まっていて、 |
前田訳 | すぐさま立ちあがって彼らはエルサレムに帰った。すると、十一人とその仲間が集まっていて、 |
新共同 | そして、時を移さず出発して、エルサレムに戻ってみると、十一人とその仲間が集まって、 |
NIV | They got up and returned at once to Jerusalem. There they found the Eleven and those with them, assembled together |
24章34節 『主は實に甦へりて、シモンに現れ給へり』[引照]
口語訳 | 「主は、ほんとうによみがえって、シモンに現れなさった」と言っていた。 |
塚本訳 | 「ほんとうに主は復活して、シモン(・ペテロ)に御自分を現わされた」と話してくれた。 |
前田訳 | 「本当に主は復活してシモンに現われられた」と話しているところであった。 |
新共同 | 本当に主は復活して、シモンに現れたと言っていた。 |
NIV | and saying, "It is true! The Lord has risen and has appeared to Simon." |
註解: 彼らは復活のイエスに逢ったことをエルサレムの弟子たちに告げることを一刻も猶予することができず、「直ちに」「同時刻に」立ちてエルサレムに帰った。そこではその前に主はすでにペテロに現れ給うたので、そのことを二人に告げ、かくて主の復活の事実が益々彼らに確実になった。
24章35節 二人の者もまた途にて有りし事と、パンを擘き給ふによりてイエスを認めし事とを述ぶ。[引照]
口語訳 | そこでふたりの者は、途中であったことや、パンをおさきになる様子でイエスだとわかったことなどを話した。 |
塚本訳 | それで二人も、(エマオへの)道であったことや、また、どうしてパンを裂かれたことで(主と)わかったかを物語った。 |
前田訳 | それで彼らも、道であったことやパンをお裂きになって彼とわかったことを物語った。 |
新共同 | 二人も、道で起こったことや、パンを裂いてくださったときにイエスだと分かった次第を話した。 |
NIV | Then the two told what had happened on the way, and how Jesus was recognized by them when he broke the bread. |
註解: 二人はまたその経験せる処を十一弟子およびその他の弟子たちに告げた。
11-1-ハ エルサレムにおける復活のイエス 24:36 - 24:43
24章36節 此等のことを語る程に、イエスその中に立ち[『平安なんぢらに在れ』と言ひ]給ふ。[引照]
口語訳 | こう話していると、イエスが彼らの中にお立ちになった。〔そして「やすかれ」と言われた。〕 |
塚本訳 | 二人がこう話しているところに、(突然)御自身でみなの真中に出ておいでになった。 |
前田訳 | 彼らがこう話しているところへ、彼が真ん中に立たれた。 |
新共同 | こういうことを話していると、イエス御自身が彼らの真ん中に立ち、「あなたがたに平和があるように」と言われた。 |
NIV | While they were still talking about this, Jesus himself stood among them and said to them, "Peace be with you." |
註解: ヨハ20:19。[ ] 内はD写本にこれを欠く。
24章37節 かれら怖ぢ懼れて、見る所のものを靈ならんと思ひしに、[引照]
口語訳 | 彼らは恐れ驚いて、霊を見ているのだと思った。 |
塚本訳 | ぞっとして震えあがり、幽霊でも見ているように思っていると、 |
前田訳 | おどろきおそれて、幽霊を見ていると思っていると、 |
新共同 | 彼らは恐れおののき、亡霊を見ているのだと思った。 |
NIV | They were startled and frightened, thinking they saw a ghost. |
24章38節 イエス言ひ給ふ『なんぢら何ぞ心騷ぐか、何ゆゑ心に疑惑おこるか、[引照]
口語訳 | そこでイエスが言われた、「なぜおじ惑っているのか。どうして心に疑いを起すのか。 |
塚本訳 | 彼らに言われた、「なにをうろたえるのか。なぜ心に疑いを起すのか。 |
前田訳 | 彼らにいわれた、「なにをおじけるのか。なぜ心に疑いをおこすのか。 |
新共同 | そこで、イエスは言われた。「なぜ、うろたえているのか。どうして心に疑いを起こすのか。 |
NIV | He said to them, "Why are you troubled, and why do doubts rise in your minds? |
24章39節 我が手わが足を見よ、これ我なり。我を撫でて見よ、靈には肉と骨となし、我にはあり、汝らの見るごとし』[引照]
口語訳 | わたしの手や足を見なさい。まさしくわたしなのだ。さわって見なさい。霊には肉や骨はないが、あなたがたが見るとおり、わたしにはあるのだ」。〔 |
塚本訳 | わたしの手と足とを見てごらん。だれでもない、わたしだよ!さわってごらん、幽霊には肉も骨もないが、わたしには、それがあるのがわかるから。」 |
前田訳 | わが手わが足を見なさい。わたし自身だ。さわってごらん。幽霊には肉と骨はないが、わたしにはごらんのとおりそれがある」と。 |
新共同 | わたしの手や足を見なさい。まさしくわたしだ。触ってよく見なさい。亡霊には肉も骨もないが、あなたがたに見えるとおり、わたしにはそれがある。」 |
NIV | Look at my hands and my feet. It is I myself! Touch me and see; a ghost does not have flesh and bones, as you see I have." |
24章40節 [斯く言ひて手と足とを示し給ふ][引照]
口語訳 | こう言って、手と足とをお見せになった。〕 |
塚本訳 | [無シ] |
前田訳 | 〔こういって、手と足をお見せになった。〕 |
新共同 | こう言って、イエスは手と足をお見せになった。 |
NIV | When he had said this, he showed them his hands and feet. |
註解: イエスの復活につき語り合っていた彼らでありながら、現実に彼らの真中にイエスが立ち給うたのを見て彼らは怖じ懼れた。イエスの幽霊が現れたのではないかと疑ったからである(37節)。これに対しイエスは彼らの心の動揺と疑惑を叱責し給い(38節)、その手足を示し、もし幽霊であるならば肉も骨もないはずであるのに、我にはそれがあることはこの通りであるから我はイエスそのもの、すなわち復活したイエスであるといい、彼らに信仰なきを責め給うた(39節)。40節はD写本にない。多分ヨハ20:20からの挿入であろう。この事実から見てイエスの復活体は純然たる霊ではなく、また我らの肉体と同じ肉体でもなく、その中間的性質を有していたことが考えられる。われらの復活体もおそらくかかるものであろう。
24章41節 かれら歡喜の餘に信ぜずして怪しめる時、イエス言ひたまふ『此處に何か食物あるか』[引照]
口語訳 | 彼らは喜びのあまり、まだ信じられないで不思議に思っていると、イエスが「ここに何か食物があるか」と言われた。 |
塚本訳 | 喜びのあまり、彼らがまだ信じられずに怪しんでいると、「ここに何か食べるものがあるか」と言われた。 |
前田訳 | 彼らがよろこびのあまり、まだ信じられず、不思議がっていると、彼はいわれた、「ここに何か食べ物があるか」と。 |
新共同 | 彼らが喜びのあまりまだ信じられず、不思議がっているので、イエスは、「ここに何か食べ物があるか」と言われた。 |
NIV | And while they still did not believe it because of joy and amazement, he asked them, "Do you have anything here to eat?" |
24章42節 かれら炙りたる魚一片を捧げたれば、[引照]
口語訳 | 彼らが焼いた魚の一きれをさしあげると、 |
塚本訳 | 焼いた魚を一切差し上げると、 |
前田訳 | 焼いた魚を一切れ差しあげると、 |
新共同 | そこで、焼いた魚を一切れ差し出すと、 |
NIV | They gave him a piece of broiled fish, |
24章43節 之を取り、その前にて食し給へり。[引照]
口語訳 | イエスはそれを取って、みんなの前で食べられた。 |
塚本訳 | 受け取ってみなの前で食べられた。 |
前田訳 | 受け取って皆の前で食べられた。 |
新共同 | イエスはそれを取って、彼らの前で食べられた。 |
NIV | and he took it and ate it in their presence. |
註解: 再びイエスを彼らの間に見ることができたことの歓喜は非常であったのであるが、それが直ちにイエスの復活し給うたことの信仰となり得ず、彼らの心は怪異の念に充されていた。死に給うた以前の生活に逆戻りしたようにも感ぜられ、また現実か夢か判明らないようにも感ぜられたのであろう。これに対しイエスは食物を求め、炙った魚を自ら食し給うことによって、単なる霊でもなくまた弟子たちの錯覚でも夢でもないことを証明し給うた。イエスの復活体は食物を摂取することさえできたのであった。
要義 [イエスの復活体について]ルカ伝およびその他の福音書の記事より推測する処によれば、イエスの復活体は、我らの経験および想像を超越せる特異なる体であった。墓が空虚になっており、また手足には十字架の痕跡が有ったとのことであるから(ヨハ20:27)屍体そのものが生き反ったのであった。それにも関らずエマオへ行く途中の弟子たちに現れ給うた時も直ちにそれを認め得ず、またマリヤも他の弟子たちも、復活の主を誤認したとある点から見れば(ヨハ20:14−16。ヨハ21:4)、生前の肉体と全く同一でなかったことが判る。殊に戸が閉じられている室に入り(ヨハ20:19)または室内より忽然として消え去り給うた点(ルカ24:31)より見れば普通の肉体が有する物質的制限を有たないように思われ、また食物を取ること、言語をもって語ることなどは普通の肉体と同一であるようにも見える。かかるものがイエスの復活体であった。すなわち物質であるけれども我らの経験し得る物質とは異なっており、霊であるけれども単なる霊ではなく体を備えており、自在に現れ自在に消え、時間空間の制約を突破せる不思議な存在であった。これにより我ら自身の復活体の如何なるものかをほのかに想像し得る以外、我らこれに関し今日の科学による証明を期待し得ず、また科学が証明し得ないとの理由のみでこれを否定し去ることのできない事実である。それは神の新たなる創造 ─ 第二の創造 ─ に関る問題だからである。
11-1-ニ 最後の言
24:44 - 24:49
24章44節 また言ひ給ふ『これらの事は、我がなほ汝らと偕に在りし時に語りて、我に就きモーセの律法・預言者および詩篇に録されたる凡ての事は、必ず遂げらるべしと言ひし所なり』[引照]
口語訳 | それから彼らに対して言われた、「わたしが以前あなたがたと一緒にいた時分に話して聞かせた言葉は、こうであった。すなわち、モーセの律法と預言書と詩篇とに、わたしについて書いてあることは、必ずことごとく成就する」。 |
塚本訳 | それから彼らに言われた、「(あなた達が見聞きした)これらのことは、わたしがまだあなた達と一しょにいたとき、わたしについてモーセの律法と預言書と詩篇と[聖書]に書いてあることは一つのこらずきっと成就する、と話したその言葉(が実現したの)である。」 |
前田訳 | そして彼らにいわれた、「わたしがまだあなた方といっしょにいたとき話したことばは、わたしについてモーセの律法と預言書と『詩篇』とに書かれてあることは皆成就する、ということであった」と。 |
新共同 | イエスは言われた。「わたしについてモーセの律法と預言者の書と詩編に書いてある事柄は、必ずすべて実現する。これこそ、まだあなたがたと一緒にいたころ、言っておいたことである。」 |
NIV | He said to them, "This is what I told you while I was still with you: Everything must be fulfilled that is written about me in the Law of Moses, the Prophets and the Psalms." |
註解: 本節と前節との間に時間的に如何なる間隔があったかについてルカはこれを明かにしていない。原文のみから見れば引き続き言い給うたようにも見える(de)けれども、思想的にはやや時間の隔りがあったと見る方が相応しい。「これらの事」は何を指すかについて問題あり、前節と本節との間に別にイエスの長い教訓があったのをルカが省略または脱落したもの(Z0)との見解もあるけれども、むしろ次のごとくに私訳し、「これらの事」は「聖書の預言は成就すべきである事」と解すべきであろう。すなわち「これらはわが汝らと偕に居りし時汝らに語れる我が言(なり)、すなわちモーセの律法および預言者および詩篇に録されし凡てのことは必ず成就すべきことなり」(私訳)で、これは重要な真理であるので復活のイエスはさらに弟子たちに向ってこれを強調し給うたのであろう。「律法と預言者」は旧約聖書を指す常用語であるが、旧約聖書の第三部「聖文書」中の「詩篇」をここに加えたのは、これによって旧約聖書の全体という意味を強めたと見るよりも聖文書中殊にイエスに関する多くの預言を含むと見られている詩篇だけを加えたと見る方が適当であろう。
24章45節 ここに聖書を悟らしめんとて、彼らの心を開き(給へり。而し)て言ひ給ふ、[引照]
口語訳 | そこでイエスは、聖書を悟らせるために彼らの心を開いて |
塚本訳 | それから聖書をわからせるために彼らの心を開いて |
前田訳 | そこで、聖書をわからせようと彼らの心を開いて、いわれた、 |
新共同 | そしてイエスは、聖書を悟らせるために彼らの心の目を開いて、 |
NIV | Then he opened their minds so they could understand the Scriptures. |
24章46節 『かく録されたり、キリストは苦難を受けて、三日めに死人の中より甦へり、[引照]
口語訳 | 言われた、「こう、しるしてある。キリストは苦しみを受けて、三日目に死人の中からよみがえる。 |
塚本訳 | 言われた、「救世主は苦しみをうけて、三日目に死人の中から復活する。 |
前田訳 | 「聖書にこうある、『キリストは苦難を受けて三日目に死人の中から復活し、 |
新共同 | 言われた。「次のように書いてある。『メシアは苦しみを受け、三日目に死者の中から復活する。 |
NIV | He told them, "This is what is written: The Christ will suffer and rise from the dead on the third day, |
24章47節 且その名によりて罪の赦を得さする悔改は、エルサレムより始りて、もろもろの國人に宣傳へらるべしと。[引照]
口語訳 | そして、その名によって罪のゆるしを得させる悔改めが、エルサレムからはじまって、もろもろの国民に宣べ伝えられる。 |
塚本訳 | また罪を赦されるための悔改め(の福音)が、その名においてすべての国の人に説かれる、エルサレムから始まって、と(聖書に)こう書いてある。 |
前田訳 | 罪のゆるしへの悔い改めがその名によってすべての民に伝えられる、エルサレムからはじまって』と。 |
新共同 | また、罪の赦しを得させる悔い改めが、その名によってあらゆる国の人々に宣べ伝えられる』と。エルサレムから始めて、 |
NIV | and repentance and forgiveness of sins will be preached in his name to all nations, beginning at Jerusalem. |
24章48節 汝らは此等のことの證人なり。[引照]
口語訳 | あなたがたは、これらの事の証人である。 |
塚本訳 | あなた達はこの(苦しみと復活との)証人である。 |
前田訳 | あなた方はこのことの証人である。 |
新共同 | あなたがたはこれらのことの証人となる。 |
NIV | You are witnesses of these things. |
24章49節 視よ、我は父の約し給へるものを汝らに贈る。汝ら上より能力を著せらるるまでは都に留れ』[引照]
口語訳 | 見よ、わたしの父が約束されたものを、あなたがたに贈る。だから、上から力を授けられるまでは、あなたがたは都にとどまっていなさい」。 |
塚本訳 | 待っておいで、わたしが父上のお約束のもの[聖霊]をあなた達におくるから。あなた達は(この)天よりの力を身につけるまで、都に止まっていなさい。」 |
前田訳 | たしかに、わたしは父上のお約束のものをあなた方におくる。あなた方は上からの力を身につけるまで、都にとどまっていなさい」と。 |
新共同 | わたしは、父が約束されたものをあなたがたに送る。高い所からの力に覆われるまでは、都にとどまっていなさい。」 |
NIV | I am going to send you what my Father has promised; but stay in the city until you have been clothed with power from on high." |
註解: 弟子たちの心を開きて聖書を悟る能力を与え給うて後、44節の預言をさらに詳細に内容別に示し給うた。すなわち聖書の預言している処は(1)イエスの受難(イザ53:1以下のごとき)、(2)その復活(ヨナ2:1。マタ12:39、40)、(3)罪の赦しとその宣伝(旧約の祭事、イスラエルの選びとその罪に関する預言者の声)であり、聖書は凡てこれらイエスに関することを預言しているのであるから、もし弟子たちが聖書を悟る心が開かれるならば、もはやイエスの復活について疑うことができず、イエスこそ聖書に預言されている救い主であること、そしてその福音はエルサレムから初まって万国に宣伝えらるべきであろう事を悟るであろう。それなればイエスは弟子たちこそこれらの事、すなわちイエスの死と復活と罪の赦しに関する証人であることを告げ(使2:32)、而して最後に彼らが証人として働くに必要な能力はやがて約束通り(イザ44:3。ヨエ3:1)彼らの上に聖霊が注がれ(使2:2−4、使2:16−21、使2:32、33)ることによって与えられるであろう。それまでは弟子たちはエルサレムに留まって聖霊の降下を待たなければならない。以上によって明かである通り44−49節はイエスの最後の言として、最も根本的なものであり、聖書の全体を要約し、イエスの死と復活とイエスの名による罪の赦しとをその根本とすることを明かにし、弟子たちがその証人であることと、またそれに必要な能力が聖霊として与えられるであろうことを告げている。かくして弟子たちはもはやイエスの死の意義もその復活の事実もまた彼らの使命をも疑い得ざるものとされたのである。この中心点からやがて弟子たちの活動が起ったことをばルカはその第二の著使徒行伝に録している。
11-1-ホ イエスの昇天
24:50 - 24:53
24章50節 遂にイエス彼らをベタニヤに連れゆき、手を擧げて之を祝したまふ。[引照]
口語訳 | それから、イエスは彼らをベタニヤの近くまで連れて行き、手をあげて彼らを祝福された。 |
塚本訳 | それから、彼らを(オリブ山の頂上の)ベタニヤ道のところまでつれてゆき、手を挙げて祝福された。 |
前田訳 | それから彼らをベタニアの近くまで連れて行き、手をあげて祝福された。 |
新共同 | イエスは、そこから彼らをベタニアの辺りまで連れて行き、手を上げて祝福された。 |
NIV | When he had led them out to the vicinity of Bethany, he lifted up his hands and blessed them. |
註解: 使1:3によれば復活より昇天まで四十日の間隔があったけれども本節からはその点がわからない。ルカはこれを省略して使徒行伝に明細を譲ったのであろう。「ベタニヤに連れゆき」は「ベタニヤの方向まで連れゆき」でエルサレムより橄欖山の方に進みベタニヤ行きの途が分かれる辺までの意ならん(Z0)。
24章51節 祝する間に、彼らを離れ[天に擧げられ]給ふ。[引照]
口語訳 | 祝福しておられるうちに、彼らを離れて、〔天にあげられた。〕 |
塚本訳 | そして祝福しながら、(天へと)はなれてゆかれた。 |
前田訳 | そして祝福しながら彼らを離れて行かれた。 |
新共同 | そして、祝福しながら彼らを離れ、天に上げられた。 |
NIV | While he was blessing them, he left them and was taken up into heaven. |
註解: [ ] 内は重要なる数種の写本に欠けている。「離れ給ふ」とすれば必ずしも昇天を意味しないけれども、ルカは昇天の記事をば使1:4−14に譲ったものと見るべきであろう。
24章52節 彼ら[之を拜し]大なる歡喜をもてエルサレムに歸り、[引照]
口語訳 | 彼らは〔イエスを拝し、〕非常な喜びをもってエルサレムに帰り、 |
塚本訳 | 彼らは大喜びでエルサレムに帰り、 |
前田訳 | 彼らは大よろこびでエルサレムヘ帰り、 |
新共同 | 彼らはイエスを伏し拝んだ後、大喜びでエルサレムに帰り、 |
NIV | Then they worshiped him and returned to Jerusalem with great joy. |
24章53節 常に宮に在りて、神を讃めゐたり。[引照]
口語訳 | 絶えず宮にいて、神をほめたたえていた。 |
塚本訳 | いつも宮にいて、神をほめたたえていた。 |
前田訳 | いつも宮にいて神を讃美していた。 |
新共同 | 絶えず神殿の境内にいて、神をほめたたえていた。 |
NIV | And they stayed continually at the temple, praising God. |
註解: 41節はイエスが現れ給うたことの歓喜の余り信仰が明かになり得なかったのであるが四十日後の今日、もはや彼らの確信は動かないものとなり、イエスが彼らを祝福して彼らを離れ給うた後でも彼らは一層の歓喜に充されてエルサレムに帰り、常に宮に在りて讃美を神にささげていた。彼らの霊の目は益々明かにせられ後に五旬節に聖霊の降下により彼らは全く新たに生れるに至ったのであった。彼らは神の子イエスを救い主と仰ぐことによって永遠の勝利を獲得したのであった。