マタイ伝第28章
分類
11 イエスの復活 28:1 - 28:20
11-1 女たちイエスの復活を示さる 28:1 - 28:10
(マコ16:1-8) (ルカ24:1-2)
註解: 本章はイエスの復活の記事であって、復活の事実そのものが神秘的であると同じく福音書の記事もまた神秘的である。我らはここに神の大能の特別の働きのあらわれを信じつつこの記事に対すべきである。
28章1節 さて
口語訳 | さて、安息日が終って、週の初めの日の明け方に、マグダラのマリヤとほかのマリヤとが、墓を見にきた。 |
塚本訳 | 安息日の(すんだ)後、週の初めの日[日曜日]の明け方に、マグダラのマリヤともう一人のマリヤとが墓を見に行った。 |
前田訳 | 安息日が終わって週の第一日の明け方、マグダラのマリヤとほかのマリヤが墓を見に来た。 |
新共同 | さて、安息日が終わって、週の初めの日の明け方に、マグダラのマリアともう一人のマリアが、墓を見に行った。 |
NIV | After the Sabbath, at dawn on the first day of the week, Mary Magdalene and the other Mary went to look at the tomb. |
註解: 日曜日の明け方のことであった。キリスト者が自然に土曜安息日を廃したのは、一は安息日がユダヤ人に与えられし律法であって、異邦人をモーセの律法をもって束縛すべきでないためと(使15:10、11)、一はキリストの十字架の贖によりて律法は終りとなったためである(ロマ10:4)。而して日曜日(主日、黙1:10)を聖日として記念するに至ったのは、この日にイエスが甦りたまいしがゆえである。ゆえに土曜の安息日と日曜の主日との間にはその起源並に性質を異にし、従ってこれを守る方法をも異にしているのである。
辞解
この一句の原語の意味がやや不明で異れる説明を生じているけれども、この訳の意義そのままが最も適当なる解釈であろう。
マグダラのマリヤと
註解: 最初に女の弟子がイエスの墓に行ったことはいかに彼らがイエスを思うことの深かりしかを示している。マコ16:1によれば彼らが墓に赴 いたのはイエスの屍体 に香料を塗らんがためであった。(注意)墓に赴 ける女の数については四福音書とも区々 の記録を残している(マコ16:1。ルカ24:10。ヨハ20:1)。恐らく復活の事実のあまりに大なる驚異であったために、附帯の事実については種々の言伝えを生じたのであろう。この不一致をもってこの記事を否定することはできない。又強いて一致せしめんとする試 は牽強付会 に陥るのみである。
28章2節
口語訳 | すると、大きな地震が起った。それは主の使が天から下って、そこにきて石をわきへころがし、その上にすわったからである。 |
塚本訳 | すると突然大地震がおこった。それは主の使が天からおりて来て(墓に)近寄り、(入口の)石をわきにころがし、その上に坐ったのである。 |
前田訳 | すると見よ、大地震がおこった。主の使いが天から下って近より、石をころがしてその上にすわった。 |
新共同 | すると、大きな地震が起こった。主の天使が天から降って近寄り、石をわきへ転がし、その上に座ったのである。 |
NIV | There was a violent earthquake, for an angel of the Lord came down from heaven and, going to the tomb, rolled back the stone and sat on it. |
註解: 視よ神は人間の固め(マタ27:64、66)をそれがいかに堅くとも容易に破り給う。この地震については他の福音書には記されていない。この現象殊に天使の出現そのものが筆をもって記すにはあまりに不思議なる現象であった。その目撃者以外の者の冷静なる批評眼に映じたものとして記されているのではないことを注意すべきである。天の使の数はルカ24:4。ヨハ20:12には二人として記されている。ヨハ20:12註参照。
28章3節 その
口語訳 | その姿はいなずまのように輝き、その衣は雪のように真白であった。 |
塚本訳 | その顔は稲妻のようにかがやき、着物は雪のように白かった。 |
前田訳 | その顔はいなずまのようで、衣は雪のように白かった。 |
新共同 | その姿は稲妻のように輝き、衣は雪のように白かった。 |
NIV | His appearance was like lightning, and his clothes were white as snow. |
註解: 変貌のイエス(マタ17:2)に似ていたけれどもその光輝の程度がやや劣っていた。天の使はこの後もこの姿をもって顕れた。使1:10。使10:30。
28章4節 守の
口語訳 | 見張りをしていた人たちは、恐ろしさの余り震えあがって、死人のようになった。 |
塚本訳 | 見張りをしていた者たちは恐ろしさのあまり震え上がって、死人のようになった。 |
前田訳 | そのおそろしさで見張りのものは震えあがって死人のようになった。 |
新共同 | 番兵たちは、恐ろしさのあまり震え上がり、死人のようになった。 |
NIV | The guards were so afraid of him that they shook and became like dead men. |
註解: 彼らの懼 れは後に至って復活の証を為すの結果となり(11節)、たとい彼らは口止めされたにしても、尚この恐怖の印象は彼らの口より洩れたことであろう。
28章5節
口語訳 | この御使は女たちにむかって言った、「恐れることはない。あなたがたが十字架におかかりになったイエスを捜していることは、わたしにわかっているが、 |
塚本訳 | 天使は女たちに言った、「恐れることはない。あなた達は十字架につけられたイエスをさがしているようだが、 |
前田訳 | 天使は女たちにいった、「あなた方はおそれるな。わたしは知っている、十字架につけられたイエスをあなた方が探していることを。 |
新共同 | 天使は婦人たちに言った。「恐れることはない。十字架につけられたイエスを捜しているのだろうが、 |
NIV | The angel said to the women, "Do not be afraid, for I know that you are looking for Jesus, who was crucified. |
註解: 番兵の恐怖に対しては何らの慰めもなかったけれども、主に在るものの恐怖は直ちに慰めを受くることができる。
辞解
[こたへて] 女の懼れし態度に対しての意、「なんぢら」は番兵と対立し、「番兵は懼れても汝らは懼れる必要が無い」との意味。
28章6節
口語訳 | もうここにはおられない。かねて言われたとおりに、よみがえられたのである。さあ、イエスが納められていた場所をごらんなさい。 |
塚本訳 | ここにはおられない。かねがね言われたとおり、もう復活されたのだから。来て、お体が置いてあった場所を見なさい。 |
前田訳 | 彼はここにはおられない、かつていわれたようによみがえられたから。来て、彼が置かれたところを見なさい。 |
新共同 | あの方は、ここにはおられない。かねて言われていたとおり、復活なさったのだ。さあ、遺体の置いてあった場所を見なさい。 |
NIV | He is not here; he has risen, just as he said. Come and see the place where he lay. |
註解: イエスの墓は空虚であった。彼の肉体は復活して霊体と化したのである(Tコリ15:44)。イエスの復活をその記事の不一致の点より否定せんとする者は、この墓の空虚であった事実を説明しなければならない。
28章7節 かつ
口語訳 | そして、急いで行って、弟子たちにこう伝えなさい、『イエスは死人の中からよみがえられた。見よ、あなたがたより先にガリラヤへ行かれる。そこでお会いできるであろう』。あなたがたに、これだけ言っておく」。 |
塚本訳 | それから急いで行って弟子たちに、『イエスは死人の中から復活された。あなた達より先にガリラヤに行かれる。そこでお目にかかれる』と言いなさい。これを言いにわたしは来たのだ。」 |
前田訳 | そして早く行って弟子たちに告げなさい、『彼は死人の中からよみがえられて、見よ、あなた方に先んじてガリラヤに行かれ、そこでお目にかかれる』と。これをあなた方に告げに来た」。 |
新共同 | それから、急いで行って弟子たちにこう告げなさい。『あの方は死者の中から復活された。そして、あなたがたより先にガリラヤに行かれる。そこでお目にかかれる。』確かに、あなたがたに伝えました。」 |
NIV | Then go quickly and tell his disciples: `He has risen from the dead and is going ahead of you into Galilee. There you will see him.' Now I have told you." |
註解: 事実その以前に、イエスは御自身を弟子たちに顕わし給うた。ルカ、ヨハネの記事参照。
註解: 「この通り確かに申し渡したぞよ」との意。
28章8節
口語訳 | そこで女たちは恐れながらも大喜びで、急いで墓を立ち去り、弟子たちに知らせるために走って行った。 |
塚本訳 | 女たちは恐ろしいが、また嬉しくてたまらず、(中には入らずに)急いで墓を立ち去り、弟子たちに知らせるために走っていった。 |
前田訳 | 彼女らはおそれつつも大よろこびで急ぎ墓を去り、弟子たちに知らせようと走って行った。 |
新共同 | 婦人たちは、恐れながらも大いに喜び、急いで墓を立ち去り、弟子たちに知らせるために走って行った。 |
NIV | So the women hurried away from the tomb, afraid yet filled with joy, and ran to tell his disciples. |
註解:懼 と歓喜、悲痛と歓喜、苦悩と歓喜は霊的の事柄においては同時に存在することができる。女たちもこの心に満され、一方に御使の稜威 と言とに懼 れつつ他方イエスの復活の事実をきき歓喜に耐えず、弟子たちに一刻も早くこれを知らせんとて走った。
28章9節
口語訳 | すると、イエスは彼らに出会って、「平安あれ」と言われたので、彼らは近寄りイエスのみ足をいだいて拝した。 |
塚本訳 | するとイエスがぱったり彼らに出合って、「お早う」と言われた。女たちは進み寄り、その足を抱いておがんだ。 |
前田訳 | すると見よ、イエスが彼女らに出会っていわれた、「ごきげんよう」と。彼女らは近よってお足を抱いてひれ伏した。 |
新共同 | すると、イエスが行く手に立っていて、「おはよう」と言われたので、婦人たちは近寄り、イエスの足を抱き、その前にひれ伏した。 |
NIV | Suddenly Jesus met them. "Greetings," he said. They came to him, clasped his feet and worshiped him. |
註解: ここに懼 れし、女たちを慰めんとてイエス自ら顕われて、最もこの場合に適切なる「安かれ」との御言を賜い、女たちはその畏敬と親愛との発露としてその御足を抱いて拝した。
28章10節 ここにイエス
口語訳 | そのとき、イエスは彼らに言われた、「恐れることはない。行って兄弟たちに、ガリラヤに行け、そこでわたしに会えるであろう、と告げなさい」。 |
塚本訳 | するとイエスは女たちに言われる、「恐れることはない。行ってわたしの兄弟たち[弟子たち]に、ガリラヤへ行くように言いなさい。そこでわたしに会えるのだから。」 |
前田訳 | そこでイエスはいわれる、「おそれるな。行ってわが兄弟たちにガリラヤに行くよう告げなさい。そこでわたしに会えよう」と。 |
新共同 | イエスは言われた。「恐れることはない。行って、わたしの兄弟たちにガリラヤへ行くように言いなさい。そこでわたしに会うことになる。」 |
NIV | Then Jesus said to them, "Do not be afraid. Go and tell my brothers to go to Galilee; there they will see me." |
註解: イエスもまた同じことを繰返し給うたのは重複でもなく又無意味でもない、これを特に強く彼らに印象せしめんがためである。イエスに対する信仰新なる福音の発祥地、中心地はエルサレムの神殿でもなく祭司パリサイ人でもなく、ガリラヤの湖畔であり、その漁夫であった。ここにユダヤ教の革命が起ったのである。イエスは彼らを「我が兄弟たち」と呼び給うた(引照参照)。
要義 [イエスの復活について]イエスの復活は、そのこと自身が信じ難いために、ギリシヤ人らの間には既に早くこれに対する不信を示すもの多く(使17:32)又キリスト者の中にもこれを信じないものができた(Tコリ15:12)。近世に至りて科学の進歩によりこれを非科学的として否定し、更に福音書の記事そのものの不一致を理由としてこれを事実にあらずと主張しているものがある。しかしながら(1)万能の神がこれを為し給う以上は不可能なはずはなく、使26:8。(2)イエスのごとき罪なき神の子は空しく墓に朽ち果て給うべきではなく、使2:24−32。(3)神は人類の中より神の子たちを選び出して、これに栄を与えて天国の民を創造せんとし給うのであって、イエスは復活してその初穂となり給うたに過ぎない、Tコリ15:20、23。ゆえにこの世の人類の観念をもってこれを判断することはできない。(4)而してイエスの復活は実にキリストの福音の宣伝の起源であって、もしイエスが復活し給わなかったならば、弟子たちは再びガリラヤの漁夫の生活を送ったに過ぎなかったであろう。彼らがその伝道に際していかにイエスの復活を高調したかは、使徒行伝を注意して読む者はこれを見逃すことができない。 使1:22。使2:24、使2:31-32。使3:15、使3:26。使4:2、使4:10、使4:33。使10:40-41。使13:30、使13:33-34、使13:37。使17:3、使17:18、使17:31-32。使23:6。使24:15、使24:21。使26:8、使26:23 。すなわち彼らの伝道の中心はイエスの十字架とその復活であったTコリ15:2。(5)その他、パウロの書簡その他にもイエスの復活のことが極めて重要なる信仰の内容として記されているのであって、イエスの復活を否定する者は、同時に我らの復活をも否定せざる可からざるに至り、これと共に聖書中の「希望」の内容は全部消失してしまうこととなるのである。ゆえにイエスの復活はその内外両面よりの証拠によりて、これが確実なる事実であったことを信ずることができる。復活の事実と復活の信仰とを区別し、事実は無かりしもその信仰は確実に存在したと説明するごときは、歴史的記録の確実さを否定し得ざる結果窮余の説明に過ぎない。その他種々の方法をもってこの復活の事実を否定しつつこの記事を説明せんとする試は皆信ずるに足りない。
28章11節
口語訳 | 女たちが行っている間に、番人のうちのある人々が都に帰って、いっさいの出来事を祭司長たちに話した。 |
塚本訳 | 女たちが(まだ)歩いているあいだに、数人の番兵は都に行って、出来事の一部始終を大祭司連に報告した。 |
前田訳 | 彼女らが歩いているとき、番兵が何人か都へ行って大祭司らに出来事のすべてを告げた。 |
新共同 | 婦人たちが行き着かないうちに、数人の番兵は都に帰り、この出来事をすべて祭司長たちに報告した。 |
NIV | While the women were on their way, some of the guards went into the city and reported to the chief priests everything that had happened. |
註解: 彼らは始めは事実をありのままに告げた、後に利益のために偽の証をなすようになったのである。事実を事実として述ぶることのできる心持は貴いものである。
28章12節
口語訳 | 祭司長たちは長老たちと集まって協議をこらし、兵卒たちにたくさんの金を与えて言った、 |
塚本訳 | 大祭司連は長老たちと集まって決議し、(警備をしていた)兵卒らにたっぷり金をやって、 |
前田訳 | 大祭司らは長老たちと集まって相はかり、兵隊にかなりの金を与えていった、 |
新共同 | そこで、祭司長たちは長老たちと集まって相談し、兵士たちに多額の金を与えて、 |
NIV | When the chief priests had met with the elders and devised a plan, they gave the soldiers a large sum of money, |
註解: 祭司長らは事実をききても尚これを信じなかった、かえって喰わすに利をもってして番兵らを沈黙せしめんとしたのである。商売化せる宗教家の態度は常にかくのごときものである。
28章13節 『なんぢら
口語訳 | 「『弟子たちが夜中にきて、われわれの寝ている間に彼を盗んだ』と言え。 |
塚本訳 | 言った、「『夜、弟子たちが来て、わたし達が寝入っているあいだにイエスを盗んでいった』と言え。 |
前田訳 | 「『弟子たちが夜来て、われわれが眠っている間に彼を盗んだ』といえ。 |
新共同 | 言った。「『弟子たちが夜中にやって来て、我々の寝ている間に死体を盗んで行った』と言いなさい。 |
NIV | telling them, "You are to say, `His disciples came during the night and stole him away while we were asleep.' |
註解: 虚偽はいかに巧 であっても真実に打ち勝つことができない。祭司長らは自ら信ぜざる罪に加うるに兵卒らをして偽を言わしむるの罪を重ねた。何れの世において最も罪深きものは職業的祭司階級である。
28章14節 この
口語訳 | 万一このことが総督の耳にはいっても、われわれが総督に説いて、あなたがたに迷惑が掛からないようにしよう」。 |
塚本訳 | もしこのことが総督の耳に入ったら、われわれが執成して、お前たちには心配をかけないようにするから」と。 |
前田訳 | もしこれが総督の耳に入ったら、われわれが取り持ってあなた方が迷惑しないようにしよう」と。 |
新共同 | もしこのことが総督の耳に入っても、うまく総督を説得して、あなたがたには心配をかけないようにしよう。」 |
NIV | If this report gets to the governor, we will satisfy him and keep you out of trouble." |
註解: 「聞えなば」は「総督の前にて裁判沙汰になるならば」との意味である(M0、B1)かかる点にまで意を用いなければならないのを見るならば、虚偽を行う場合の苦心の程を察することができる。
28章15節
口語訳 | そこで、彼らは金を受け取って、教えられたとおりにした。そしてこの話は、今日に至るまでユダヤ人の間にひろまっている。 |
塚本訳 | 兵卒らは金を受け取って、教えられたとおりにした。こうしてこの話は、今日までユダヤ人の間にひろまっている。 |
前田訳 | 彼らは金を受け取って、教えられたとおりにした。この話は今日までユダヤ人の間に伝わっている。 |
新共同 | 兵士たちは金を受け取って、教えられたとおりにした。この話は、今日に至るまでユダヤ人の間に広まっている。 |
NIV | So the soldiers took the money and did as they were instructed. And this story has been widely circulated among the Jews to this very day. |
註解: マタイがマタイ伝を記せる際には、常にユダヤ人に対するキリストの弁護をもってその目的としていた。イエスの屍体 を盗み去ったのであるとの説もユダヤ人の間にあったので特にこの説明を加えたのであって、他の福音書にこの事実を全く記さないのはユダヤ人以外の人に取っては興味なき事実なるが故である。
28章16節
口語訳 | さて、十一人の弟子たちはガリラヤに行って、イエスが彼らに行くように命じられた山に登った。 |
塚本訳 | さて、十一人の弟子はガリラヤに行き、イエスに命じられた山にのぼり、 |
前田訳 | 十一人の弟子たちはガリラヤのイエスに指示された山へ行き、 |
新共同 | さて、十一人の弟子たちはガリラヤに行き、イエスが指示しておかれた山に登った。 |
NIV | Then the eleven disciples went to Galilee, to the mountain where Jesus had told them to go. |
28章17節
口語訳 | そして、イエスに会って拝した。しかし、疑う者もいた。 |
塚本訳 | お目にかかっておがんだ。しかし疑う者もあった。 |
前田訳 | 彼にまみえてひれ伏した。しかし疑うものもあった。 |
新共同 | そして、イエスに会い、ひれ伏した。しかし、疑う者もいた。 |
NIV | When they saw him, they worshiped him; but some doubted. |
註解: マタイはこの他の主の顕現をすべて省略している。彼らの中に疑う者もあったのを見ても、復活の主の顕現が、この世のあらゆる現象とその趣を異にしたものであることを想像することができる。恐らく肉体と霊体の中間状態のごときものであったろう。信ぜしものは彼を「拝した」。これ彼らとして最も当然の態度である。
28章18節 イエス
口語訳 | イエスは彼らに近づいてきて言われた、「わたしは、天においても地においても、いっさいの権威を授けられた。 |
塚本訳 | イエスは近寄ってきて十一人に言われた、「(いまや)天上地上一切の権能が、(父上から)わたしに授けられた。 |
前田訳 | イエスは彼らに近よっていわれた、「天と地の全権がわたしに与えられた。 |
新共同 | イエスは、近寄って来て言われた。「わたしは天と地の一切の権能を授かっている。 |
NIV | Then Jesus came to them and said, "All authority in heaven and on earth has been given to me. |
註解: 神はイエスを甦らせて天上天下あらゆる権を彼に与え給うた。従来と雖 も神は彼に万物を委ね給うたけれども(マタ11:27。ヨハ13:3)今より後は肉の束縛なく完全なる主権を掌握し給う。而して彼はすべての敵を亡ぼして国をその父なる神に付し給うまで(Tコリ15:24)、この権を握り給う。彼が神の右に坐し給うはあたかも摂政 のごとく神より権を受けてこれを掌 っていることを意味する。而してこのことが彼が弟子を派遣して世界万国に伝道せしむる理由であった。何となれば天地の権を握り給うイエス・キリストが我らのために肉体を取りてこの地に来り、その贖を成就して神の右に坐し給う以上は、我らの罪はすべて赦され、神との平和は恢復 せられ、彼に従うことによりて神の子たることを得るの道が開けたからである。単に一の宗教を伝うるのではなく、宇宙の創造主に在 し天地の権を有ち給う神の子の福音を伝うるのである以上、弟子たちは権威をもってこれを為すことができる。
28章19節 されば
口語訳 | それゆえに、あなたがたは行って、すべての国民を弟子として、父と子と聖霊との名によって、彼らにバプテスマを施し、 |
塚本訳 | それゆえに、行ってすべての国の人を(わたしの)弟子にせよ、父と子と聖霊の名で洗礼を授け、 |
前田訳 | それゆえ、行ってすべての国の人を弟子にし、父と子と聖霊の名で彼らをきよめ、 |
新共同 | だから、あなたがたは行って、すべての民をわたしの弟子にしなさい。彼らに父と子と聖霊の名によって洗礼を授け、 |
NIV | Therefore go and make disciples of all nations, baptizing them in the name of the Father and of the Son and of the Holy Spirit, |
註解: 弟子たちは各地に赴きて諸国民を弟子とするの義務があった。これによりて福音は先づユダヤの地に伝えらるべきものであることの制限(マタ10:5)は除かれて、福音の万国的性質が確立した。「父と子と聖霊の名による」とはかかる名称を単に口に唱うることではなく、バプテスマによりて一旦死して更に甦 り、神の民の一人となり其の時天の神を父と呼び奉り、キリストを神の子とたたうる信仰を得、聖霊が宿って我らを新に創造 りかえるのである。かくして世のものなりし我らは全く神のものとなってしまうのである。此の事実を表示するものとしてバプテスマは最も適切なる形式である。唯この事実が最も重要なのであって、この事実ある場合には必ずしも三位の神の名を呼ぶことを要しない。使徒時代には多くの場合キリストのみの名によりてバプテスマを施していた(ロマ6:3。ガラ3:27。使8:16。使2:38)。又弟子たち自らこれを施すことを必要としない(Tコリ1:17註参照)。
辞解
[名によりて] eis to onoma は「名に入れて」又は「名の中に」の意味でバプテスマによりて信徒は三位の神の中に没入することを示す。
28章20節 わが
口語訳 | あなたがたに命じておいたいっさいのことを守るように教えよ。見よ、わたしは世の終りまで、いつもあなたがたと共にいるのである」。 |
塚本訳 | わたしがあなた達に命じたことを皆守るように教えながら。安心せよ、世の終りまでいつもわたしがあなた達と一しょにいるのだから。」 |
前田訳 | あなた方に命じたことをすべて守るよう教えよ。安んぜよ、わたしは世の終わりまでいつの日もあなた方とともにいるから」と。 |
新共同 | あなたがたに命じておいたことをすべて守るように教えなさい。わたしは世の終わりまで、いつもあなたがたと共にいる。」 |
NIV | and teaching them to obey everything I have commanded you. And surely I am with you always, to the very end of the age." |
註解: バプテスマを受くることが単に形式ではなく、これによりて父、子、聖霊の三位の神との霊的交通に入るのであるとするならば、その当然の関係においてキリストの命ぜじことを守るべきことを教えられなければならぬ。すなわち前者は神との関係であり、後者はその関係より生ずる人との関係である。信仰と神の命に遵 うこととの関係についてはヨハ14:15、ヨハ14:21、ヨハ14:23参照。
註解: 弟子たちがその伝道に際して多くの困難と迫害とに逢うべきことを予想し、これを力付けんがためにこの慰を与え給うた。天地の権を握り給う主イエス・キリストが世の終まで常に一刻も絶間なく我らと共に在 し給うことを知りて我らは最早や懼 るべきものを有 たない。力と慰安とは常に彼より来ることを経験することができる(ヨハ14:18−21)。
附記 [復活の記事の不一致について]四福音書中にある復活の記事の間に、種々の差異あることは著しき事実である又Tコリント一五の記事とも一致しない点がある。しかしこれは復活の事実が虚偽であることを証明するものではなく、むしろ各福音書はその所有する経験及び伝説により、又これを適宜に取捨し選択して記したのであって、この伝説がかかる神秘的なる事実に関しては必ずしも一定の形を取ることができず、従って種々の記録を生じたのである。ゆえに或はガリラヤにおける顕現を主として記し(マタイ)、或はユダヤにおけるそれを主として記し(ヨハネ)、又はある事実の一部分のみを記して他を省略し、又はある事実を全部省略する場合等によりて記事の間に差異を生じたのである。ゆえにこれらの記事の不一致は互に相排斥するものでなく、互に相補充するの性質を有っているものであると見なければならない。かく解することによりてこれらの記事の不一致より生ずる困難は除かれるであろう。