黒崎幸吉著 註解新約聖書 Web版使徒行伝

使徒行伝第4章

分類
2 エルサレムに於ける使徒の活動 3:1 - 7:60
2-1 ペテロとヨハネの活動 3:1 - 4:31
2-1-3 ペテロ、ヨハネ捕はる 4:1 - 4:4

4章1節 かれら(たみ)(かた)()るとき、[引照]

口語訳彼らが人々にこのように語っているあいだに、祭司たち、宮守がしら、サドカイ人たちが近寄ってきて、
塚本訳二人が(なお)人々に話していると、祭司たちと宮の守衛長とサドカイ人たちとが近寄ってきた。
前田訳彼らが民に話していると、祭司と宮の司とサドカイ人らが近づいて来た。
新共同ペトロとヨハネが民衆に話をしていると、祭司たち、神殿守衛長、サドカイ派の人々が近づいて来た。
NIVThe priests and the captain of the temple guard and the Sadducees came up to Peter and John while they were speaking to the people.
註解: 彼らの伝道はその最初の奇蹟が行われると同時に妨害が起って来た。▲▲必ずしも奇蹟のためのみではなく、宮とその権威を無視した態度に対する迫害である。
辞解
[民] ▲laosはイスラエル人の群集について多く用いられる語。口語訳の「人々」は誤訳とはいえないが実感に乏しい。

祭司(さいし)ら・宮守頭(みやもりがしら)

註解: その下に多くの宮守りが居る。宮守頭は祭司の中より任命せられしもの。

およびサドカイ(びと)

註解: 文化主義のユダヤ人で復活を信じなかった。

(ちか)づき(きた)りて、

4章2節 その(たみ)(をし)へ、(また)イエスの(こと)()きて死人(しにん)(うち)よりの復活(よみがへり)()ぶるを(うれ)ひ、[引照]

口語訳彼らが人々に教を説き、イエス自身に起った死人の復活を宣伝しているのに気をいら立て、
塚本訳二人が人々に教え、イエスを例に引いて死人の中から復活を宣言しているので、腹を立てたのである。
前田訳彼らが民衆を教え、イエスにおこった死人からの復活をのべ伝えているのに憤ったのである。
新共同二人が民衆に教え、イエスに起こった死者の中からの復活を宣べ伝えているので、彼らはいらだち、
NIVThey were greatly disturbed because the apostles were teaching the people and proclaiming in Jesus the resurrection of the dead.
註解: 祭司はその職務を侵蝕される事を憂い、宮守頭は宮の秩序が乱される事を恐れ、サドカイ人らは復活を信ぜず従ってその教義異るため、及びその中の多くのものが祭司であったのでその地位を失はざらん為にペテロ等の説教に反対した。
辞解
[イエスの事を引きて] イエスによりて、イエスを基礎として等の意。△口語訳はD写本(即ちベザ写本、6世紀)によったものと思われる。
[死人の中よりの復活] 「死人の復活」と異り、前者はある人が死人の中より甦れる事を意味し後者は死人の復活なる一般的事実を指す。
[憂い] 使16:18とに用いられるルカ特有の文字。

4章3節 ()をかけて(これ)(とら)へしに、はや(ゆふべ)になりたれば、()くる()まで留置場(とめおきば)()れたり。[引照]

口語訳彼らに手をかけて捕え、はや日が暮れていたので、翌朝まで留置しておいた。
塚本訳彼らは二人に手をかけて(捕え、)次の日まで留置した。もう夕方だったからである。
前田訳彼らに手をかけて捕え、もう夕方であったのであくる日まで留置した。
新共同二人を捕らえて翌日まで牢に入れた。既に日暮れだったからである。
NIVThey seized Peter and John, and because it was evening, they put them in jail until the next day.
註解: イエスに対する信仰に充され、跛者をも立たしめしペテロ、ヨハネ等を捕えたのである。宗教的嫉妬心は最も卑劣なる行動を取るに至るものであって、宗教家に政治的権力を賦与する場合、多くの悪事が行われる事は古来の事実である。
辞解
[夕] いわゆる第ニ夕刻で午後六時頃ならん。裁判を開く刻限が過ぎた。

4章4節 ()れど、その(ことば)()きたる人々(ひとびと)(うち)にも(しん)ぜし(もの)おほくありて、(をとこ)(かず)おほよそ()(せん)(にん)となりたり。[引照]

口語訳しかし、彼らの話を聞いた多くの人たちは信じた。そして、その男の数が五千人ほどになった。
塚本訳しかし話を聞いた者の多数は信じたので、男の(信者の)数が五千人ばかりになった。
前田訳しかし話を聞いたものの多くが信じ、男の数がおよそ五千人になった。
新共同しかし、二人の語った言葉を聞いて信じた人は多く、男の数が五千人ほどになった。
NIVBut many who heard the message believed, and the number of men grew to about five thousand.
註解: 一方に迫害に遭いつつも神の言は益々進んで()まない(Uテモ2:9)。人数次第に増し加わりて(使5:14使6:1使6:7)遂に数万となった(使21:20)。真理は迫害によりて之を滅す事は出来ない。▲一回の説教で数千人の改宗者があったことは、イエスの復活が次第に事実であると認められて来て、又ペテロの説教が民の待望せるメシヤの来臨に一致したためであろう。
辞解
[男の数] 従って女子及小児はこの以外と見るべきである(異説あり)。

2-1-4 ペテロ、ヨハネの訊問と答弁 4:5 - 4:12

4章5節 ()くる()(つかさ)長老(ちゃうらう)學者(がくしゃ)ら、エルサレムに(くわい)し、[引照]

口語訳明くる日、役人、長老、律法学者たちが、エルサレムに召集された。
塚本訳次の日、(最高法院の)役人、長老、聖書学者たちがエルサレムに集まって(会議が開かれ、)
前田訳あくる日のこと、ユダヤ人の指導者、長老、学者らがエルサレムに集まった。
新共同次の日、議員、長老、律法学者たちがエルサレムに集まった。
NIVThe next day the rulers, elders and teachers of the law met in Jerusalem.
註解: 重大事件の発生と見て会議を召集した。人は自己の利害には極めて鋭敏であり、神の真理については鈍感である。
辞解
[司] 裁判権警察権を握れる当局者、「祭司長」と同意義に取る学者もあるけれども(E0〕一層範囲の広い語、多くサドカイ人より出でしものの如し。
[学者] 専門の律法家、パリサイ主義の人が多い。
[エルサレム] 異本には eis(▲▲ただしネストレは en となっている) を用い、各地より集合し来れる意味がある。

4章6節 (だい)祭司(さいし)アンナス、カヤパ、ヨハネ、アレキサンデル(およ)(だい)祭司(さいし)一族(いちぞく)みな(つど)ひて、[引照]

口語訳大祭司アンナスをはじめ、カヤパ、ヨハネ、アレキサンデル、そのほか大祭司の一族もみな集まった。
塚本訳大祭司アンナスとカヤパとヨハネとアレキサンデルと大祭司一族の者すべても一緒に集まった。
前田訳大祭司アンナスとカヤパとヨハネとアレクサンデルと大祭司一族のすべてもいた。
新共同大祭司アンナスとカイアファとヨハネとアレクサンドロと大祭司一族が集まった。
NIVAnnas the high priest was there, and so were Caiaphas, John, Alexander and the other men of the high priest's family.
註解: イエスを裁ける大祭司(ヨハ18:12-24)はその一族と共に又その弟子たちをも迫害した。この新信仰の興起は彼ら一族の大打撃であったからである。真理の迫害者は常に職業宗教家か又は偽愛国者である。
辞解
当時の大祭司はカヤパであったけれども「アンナス」は尚大祭司と称せられ、又その実権をも有っていた。カヤパはアンナスの養子である。(ヨハ18:13)「ヨハネ、アレキサンデル」の二人につきては不明。

4章7節 その(なか)にかの二人(ふたり)()てて()ふ『如何(いか)なる能力(ちから)いかなる()によりて()(こと)(おこな)ひしぞ』[引照]

口語訳そして、そのまん中に使徒たちを立たせて尋問した、「あなたがたは、いったい、なんの権威、また、だれの名によって、このことをしたのか」。
塚本訳そして二人を真中に立たせてたずねた、「お前たちはそもそも何の力、また、だれの名で、あんな(病気を直すような)ことをしたのか。」
前田訳そして彼らを真ん中に立たせて問うた、「お前らは何の力、だれの名でこのことをしたのか」と。
新共同そして、使徒たちを真ん中に立たせて、「お前たちは何の権威によって、だれの名によってああいうことをしたのか」と尋問した。
NIVThey had Peter and John brought before them and began to question them: "By what power or what name did you do this?"
註解: 大祭司等はイエスの弟子たちを以て一種の魔術者の如くに考え、他の神の名と能力とによりてこの奇跡を行ったのであると解して、申13:1-3の精神によりその罪を問わんとしたのである。イエスの名を知らざる者はその弟子の能力の源を知ることが出来ない。
辞解
[二人] △原文「彼ら」使3:3使4:13から「二人」としたのであろう。ペテロとヨハネである。

4章8節 この(とき)ペテロ(せい)(れい)にて滿(みた)され、(かれ)らに()[引照]

口語訳その時、ペテロが聖霊に満たされて言った、「民の役人たち、ならびに長老たちよ、
塚本訳そこでペテロは聖霊に満たされて彼らにこたえた、「国の役人と長老の方々、
前田訳そこでペテロは聖霊に満たされて彼らにいった、「民の指導者と長老の方々、
新共同そのとき、ペトロは聖霊に満たされて言った。「民の議員、また長老の方々、
NIVThen Peter, filled with the Holy Spirit, said to them: "Rulers and elders of the people!
註解: 神は必要に応じてその選びの器に聖霊を充して之をしてその充分の能力を発揮せしめ給う。

(たみ)(つかさ)たち(およ)長老(ちゃうらう)たちよ、

4章9節 (われ)らが()める(もの)になしし()(わざ)()き、その如何(いか)にして(すく)はれしかを今日(けふ)もし(ただ)さるるならば、[引照]

口語訳わたしたちが、きょう、取調べを受けているのは、病人に対してした良いわざについてであり、この人がどうしていやされたかについてであるなら、
塚本訳わたし達がきょうお取り調べを受けるのが、あの病人に対する(わたし達の)善行のゆえ、(また、)何でこの人が直ったかということであるからには、
前田訳われらがきょう調べられるのが病人へのよいわざについてであり、この人がどうして救われたか、であるならば、
新共同今日わたしたちが取り調べを受けているのは、病人に対する善い行いと、その人が何によっていやされたかということについてであるならば、
NIVIf we are being called to account today for an act of kindness shown to a cripple and are asked how he was healed,

4章10節 (なんぢ)一同(いちどう)およびイスラエルの(たみ)みな()れ、この(ひと)(すこや)かになりて(なんぢ)らの(まへ)()つは、ナザレのイエス・キリスト、(すなは)(なんぢ)らが十字架(じふじか)()け、(かみ)死人(しにん)(うち)より(よみが)へらせ(たま)ひし(もの)()()ることを。[引照]

口語訳あなたがたご一同も、またイスラエルの人々全体も、知っていてもらいたい。この人が元気になってみんなの前に立っているのは、ひとえに、あなたがたが十字架につけて殺したのを、神が死人の中からよみがえらせたナザレ人イエス・キリストの御名によるのである。
塚本訳あなた方御一同はもとより、イスラエル国民全体も、このことを知ってほしい。ナザレ人イエス・キリスト──あなた方が十字架につけ、神が死人の中から復活させられた方──その名で、この人がよくなって、あなた方の前に立っているのです。
前田訳皆さんもイスラエルの民全体も知っていただきたい。あなた方が十字架につけ、神が死人の中からお起こしになったナザレ人イエス・キリストの名によって、この人が元気になってあなた方の前に立っているのです。
新共同あなたがたもイスラエルの民全体も知っていただきたい。この人が良くなって、皆さんの前に立っているのは、あなたがたが十字架につけて殺し、神が死者の中から復活させられたあのナザレの人、イエス・キリストの名によるものです。
NIVthen know this, you and all the people of Israel: It is by the name of Jesus Christ of Nazareth, whom you crucified but whom God raised from the dead, that this man stands before you healed.
註解: (▲イエス・キリストの名を呼び、キリストは来たりてこの力を与えたまう。)ここにペテロは実際起りし事実と、之に対する自己の確信とをそのまま述べているに過ぎず、しかも司、長老たちに対して充分に礼儀正しき言葉を以て語っているに過ぎないけれども、この言葉はそのまま彼らに対する根本的弾劾であった。その故はもしこの跛者が医されしことが、イエス・キリストの名によったのであるとするならば、彼を十字架に釘けしこれ等の人々は、彼を甦らせ給える神に敵する者となるからである。最も力強き真理は理論ではなく事実である。事実を以て示す事の出来ない信仰は無力である。
辞解
[善き業] 語そのものの中にペテロの自己弁護の力が含まれている。
[如何にして] 又「誰によりて」とも読む事が出来るけれども、むしろ「如何にして」を可とす。

4章11節 このイエスは(なんぢ)造家者(いえつくり)(かろ)しめられし(いし)にして、(すみ)首石(おやいし)となりたるなり。[引照]

口語訳このイエスこそは『あなたがた家造りらに捨てられたが、隅のかしら石となった石』なのである。
塚本訳この方は、(聖書にある)“大工の”あなた方から”投げ捨てられ、隅の土台石になった石”です。
前田訳この方は『あなた方家造りに捨てられて隅の土台石になった石』です。
新共同この方こそ、/『あなたがた家を建てる者に捨てられたが、/隅の親石となった石』/です。
NIVHe is "`the stone you builders rejected, which has become the capstone. '
註解: メシヤ預言としてしばしば引用される詩118:22によりペテロはイエスのメシヤたる事を証明し、その十字架の死は隅の首石が造家者に捨てられし事に相当する事を示す。この詩は本来イスラエルが神の建物たるこの世界の最も重要なる役目を果すべき国民であるにも関らずこの世界はイスラエルを棄てし事を意味する詩であるけれども、これが預言的意味に於て最も良くイエスに適応する。
辞解
[隅の首石] 壁と壁が相会する隅の基礎たる大なる石であるとも解せられ、又はアーチ形の入口の頂点を支持する石とも解せられる(イザ28:16)。
[汝ら造家者] ペテロはかく言いて司、祭司長らを直接に指摘している。ペテロの勇気は当るべからざるものがあった。尚この詩は新約聖書にしばしば引用せられている(マタ21:42マコ12:10ルカ20:17Tペテ2:4Tペテ2:7)。尚イエスが建物の基礎に譬えられし事についてはTコリ3:11エペ2:20参照。

4章12節 (ほか)(もの)によりては(すくひ)()ることなし、(あめ)(した)には(われ)らの()りて(すく)はるべき(ほか)()を、(ひと)(たま)ひし(こと)なければなり』[引照]

口語訳この人による以外に救はない。わたしたちを救いうる名は、これを別にしては、天下のだれにも与えられていないからである」。
塚本訳この方のほかのだれによっても救いはない。天下ひろしといえども、わたし達が救われるべき名はこれ以外、人間に与えられていないからです。」
前田訳この方をおいてほかに救いはありません。われらを救うべき名としては、これ以外、天下のだれにも与えられてはいません」。
新共同ほかのだれによっても、救いは得られません。わたしたちが救われるべき名は、天下にこの名のほか、人間には与えられていないのです。」
NIVSalvation is found in no one else, for there is no other name under heaven given to men by which we must be saved."
註解: 救は神の与えたまう途によるより外にない。神は多くの預言者を遣したもうたけれども、彼ら自身はメシヤではなく、メシヤを指すに過ぎなかった。救は神の賜う賜物であって人間がその思想や経験によりて勝手に定め得るものではない。而してイエスのみ神の立て給える唯一の救の途である事は、弟子たちの確信であった。弟子たちがかく確信する所以はイエスの全く罪無き生涯と、その十字架の死と復活とを目撃せる事と、これが聖書に預言せられている事とであった。
辞解
[救] 9節の場合は跛者の肉体の救につき語っているけれどもここでは霊的の救に就き語る。二者同一の力の顕れである。
要義1 [唯一の救]「何れの宗教によるも結局に於て救われる事は同じである」と云う人がある。如何にも広量であり且つ真理らしく聞える。之に反し「他の者によって救を得ることなし」と云うは如何にも狭量にして固陋(ころう)の如くに見える。しかしながら数千年のイスラエルの歴史とその預言とを通してイエス・キリストを見る時、我らはここに神の預定し給える唯一の救の経綸がある事を信ずる。イエス以前(▲▲(+)および以外)の多くの途は、結局人をしてイエスに来らしむべき準備に過ぎない。
要義2 [如何にして救の唯一なる事を証明し得るや]イエスが神の独子に在し給う事を知れる者に取りてはイエス以外に神なく従ってイエス以外に救がある事を考うる事が出来ない。而してイエスを神の子と信ずる事は血肉の働でなく、天の父が御霊を以て之を我らに示し給うよリ外に無い(マタ16:17)。従ってキリストに在る救の唯一性は理知的に証明する事は出来ず、純信仰的の問題である事となる。▲勿論イスラエルの歴史及び世界の歴史を通じてイエスの父なる神の救済史を見ることができるのであるが、これさえ信仰の目を以って見なければその中にある神の働きを見ることができない。

2-1-5 ペテロ、ヨハネの審判 4:13 - 4:22

4章13節 (かれ)らはペテロとヨハネとの(おく)することなきを()、その無學(むがく)凡人(ただびと)なるを()りたれば、(これ)(あや)しみ、(かつ)そのイエスと(とも)にありし(こと)(みと)む。[引照]

口語訳人々はペテロとヨハネとの大胆な話しぶりを見、また同時に、ふたりが無学な、ただの人たちであることを知って、不思議に思った。そして彼らがイエスと共にいた者であることを認め、
塚本訳人々はペテロとヨハネとの大胆不敵な態度を見て、しかもそれが無学な人間で、全くの素人であることがわかると、不思議でたまらなかった。そして彼らがもとイエスの弟子であると知り、
前田訳人々はペテロとヨハネの大胆さを見、しかも彼らが無学で平信徒(ひらしんと)と知っていぶかりはじめた。そして彼らがイエスとともにいたことがわかり、
新共同議員や他の者たちは、ペトロとヨハネの大胆な態度を見、しかも二人が無学な普通の人であることを知って驚き、また、イエスと一緒にいた者であるということも分かった。
NIVWhen they saw the courage of Peter and John and realized that they were unschooled, ordinary men, they were astonished and they took note that these men had been with Jesus.
註解: 無学にして文字を知らず、一の平信徒にして何等特別の教理上の専門知識を有せざる彼らが、かくも大胆に祭司たちの前に所信を述ぶるを見て、彼らはいたく驚いた。神は智き者を辱しめんとて世の愚なる者を選び給う(Tコリ1:27)。且つペテロやヨハネは単に軽々しくイエスの名を用いて魔術を行っていたのではなく、実際イエスの弟子として彼と共にいた人々である事が判明した。これ等の凡ての事実は何人も之を非難する事が出来ず、之を打消す事が出来ない。
辞解
[凡人] idiotês 「平民」「素人医者」「素人詩人」「一兵卒」等凡て専門家又は特別の階級に属せざるものの意味である。ここでは、専門の神学者又は伝道者又はラビならざる平信徒を指す。
[且そのイエス・・・・・・] 以前に知らなかった事となり、不合理であるとする説をなす学者(E0、ラムゼー)があるけれども註の如くに解するを可とす。

4章14節 また(いや)されたる(ひと)(これ)とともに()つを()るによりて、(さら)()()(ことば)なし。[引照]

口語訳かつ、彼らにいやされた者がそのそばに立っているのを見ては、まったく返す言葉がなかった。
塚本訳また(足を)なおされた男が彼らと一緒に(そこに)立っているのを見ると、なんの返事も出来なかった。
前田訳いやされた人が彼らとともに立っているのを見ては、何もいえなかった。
新共同しかし、足をいやしていただいた人がそばに立っているのを見ては、ひと言も言い返せなかった。
NIVBut since they could see the man who had been healed standing there with them, there was nothing they could say.
註解: 医やされたる跛者はペテロ、ヨハネの事を気遣いその処に馳せ参じたのであろう。彼にもこの驚くべき勇気と大胆とが与えられた、彼の証人としての侍立(じりつ)は非常に有力であった。

4章15節 (ここ)に、(めい)じて(かれ)らを衆議所(しゅうぎしょ)より退(しりぞ)け、(あひ)(とも)(はか)りて()ふ、[引照]

口語訳そこで、ふたりに議会から退場するように命じてから、互に協議をつづけて
塚本訳そこで彼らに命じて(しばらく)法院の議場から退場させたのち、互に評議して
前田訳それで彼らに議場の外に出るよう命じて、互いに相談して
新共同そこで、二人に議場を去るように命じてから、相談して、
NIVSo they ordered them to withdraw from the Sanhedrin and then conferred together.

4章16節 『この人々(ひとびと)如何(いか)にすべきぞ。(かれ)()によりて顯著(いちじる)しき(しるし)(おこな)はれし(こと)は、(すべ)てエルサレムに()(もの)()られ、(われ)(これ)(いな)むこと(あた)はねばなり。[引照]

口語訳言った、「あの人たちを、どうしたらよかろうか。彼らによって著しいしるしが行われたことは、エルサレムの住民全体に知れわたっているので、否定しようもない。
塚本訳言った、「あの人たちをどうしよう。彼らが著しい(不思議な)徴を行ったことは、エルサレムに住んでいる人全体に知れわたっていて、(いまさら)もみ消しようもないから。
前田訳いった、「あの人たちをどうすべきか。彼らによって徴が行なわれたことはエルサレムに住むものすべてによく知られており、われらも否定しえない。
新共同言った。「あの者たちをどうしたらよいだろう。彼らが行った目覚ましいしるしは、エルサレムに住むすべての人に知れ渡っており、それを否定することはできない。
NIV"What are we going to do with these men?" they asked. "Everybody living in Jerusalem knows they have done an outstanding miracle, and we cannot deny it.
註解: 事実は之を否定する事が出来ず、善事は之を罰する事が出来ない。正しき信仰を迫害する口実を見出す事は容易ではない。

4章17節 ()れど愈々(いよいよ)ひろく(たみ)(うち)()(ひりま)らぬやうに、(かれ)らを(おびや)かして、(いま)より(のち)かの()によりて(たれ)にも(かた)(こと)なからしめん』[引照]

口語訳ただ、これ以上このことが民衆の間にひろまらないように、今後はこの名によって、いっさいだれにも語ってはいけないと、おどしてやろうではないか」。
塚本訳今はただ、このことがこのうえ民衆のあいだに噂にならぬよう、もうこれ以上、だれにも、この(イエスの)名を使って話をしてはならぬとおどかそうではないか。」
前田訳しかしこのうえこのことが民衆に拡がらぬように、もはやこの名によってだれにも話さないよう彼らをおどそう」と。
新共同しかし、このことがこれ以上民衆の間に広まらないように、今後あの名によってだれにも話すなと脅しておこう。」
NIVBut to stop this thing from spreading any further among the people, we must warn these men to speak no longer to anyone in this name."
註解: 凡てが結果より見たる政策的所置であって、真理を忠実に行う者の態度ではない。祭司長等の願はこの教の人民の間に広まらない事であって、この教が真理なりや否やは問題とされて居ない。又その方法は使徒等を威嚇する事であって真理を以て説得する事ではない。

4章18節 (すなは)(かれ)らを()び、一切(いっさい)イエスの()によりて(かた)り、また(をし)へざらんことを(めい)じたり。[引照]

口語訳そこで、ふたりを呼び入れて、イエスの名によって語ることも説くことも、いっさい相成らぬと言いわたした。
塚本訳そこで二人を(また議場に)呼び出して、(今後)イエスの名を使っては、絶対に口をきいても教えてもいけないと言い渡した。
前田訳そこで彼らを呼んで、イエスの名によって語ることも教えることも、全くあいならぬといい渡した。
新共同そして、二人を呼び戻し、決してイエスの名によって話したり、教えたりしないようにと命令した。
NIVThen they called them in again and commanded them not to speak or teach at all in the name of Jesus.
註解: イエスの御名を信ずる者の増加が、彼らの最大の憂慮であった。本来イスラエルの祭司たちは先づ第一に神の子イエスを拝すべきであった。然るに彼らは神に仕うべき祭司の職務を忘れ、之を自己の為の一の職業と化してしまった。その故にイエスの御名を宣伝うる事を妨げたのである。▲職業宗教家にとっては、その職業や地位が彼らの神であるので、神は彼らの心の中から追放される。

4章19節 ペテロとヨハネと(こた)へていふ『(かみ)()くよりも(なんぢ)らに()くは、(かみ)御前(みまへ)(ただ)しきか、(なんぢ)(これ)(さば)け。[引照]

口語訳ペテロとヨハネとは、これに対して言った、「神に聞き従うよりも、あなたがたに聞き従う方が、神の前に正しいかどうか、判断してもらいたい。
塚本訳ペテロとヨハネとが答えた、「神よりもあなた方の言うことを聞く方が、神の前に正しいかどうか、判断してください。
前田訳ペテロとヨハネが答えた、「神よりもあなた方のいうことを聞くのが神の前に正しいかどうか、判断なさい。
新共同しかし、ペトロとヨハネは答えた。「神に従わないであなたがたに従うことが、神の前に正しいかどうか、考えてください。
NIVBut Peter and John replied, "Judge for yourselves whether it is right in God's sight to obey you rather than God.
註解: 実に大胆なる挑戦である。神の祭司と自称している人々を前にして、その命令の神命に反する事を断言し、神の直接の黙示を信じ之に従う事の態度を明かにした。新しき生命はかくして旧き形式に挑戦する。

4章20節 (われ)らは()しこと()きしことを(かた)らざるを()ず』[引照]

口語訳わたしたちとしては、自分の見たこと聞いたことを、語らないわけにはいかない」。
塚本訳わたし達は自分で見たり聞いたりしたことを、話さないわけにはゆかない。」
前田訳われらは自ら見、また聞いたことを、いわないではいられません」と。
新共同わたしたちは、見たことや聞いたことを話さないではいられないのです。」
NIVFor we cannot help speaking about what we have seen and heard."
註解: 使徒たちの第二の主張はその目撃せる事実、聴聞せる言葉を語らざるは卑怯であるとの事である。事実に基ける主張程力強きはない。キリストの福音が空なる観念ではなく、イエス・キリストなる一の事実に基礎を置く事が最大の強味である。

4章21節 (たみ)みな()()りし(こと)()きて(かみ)(あが)めたれば、(かれ)らを(ばっ)するに(よし)なく、(さら)にまた(おびや)かして(ゆる)せり。[引照]

口語訳そこで、彼らはふたりを更におどしたうえ、ゆるしてやった。みんなの者が、この出来事のために、神をあがめていたので、その人々の手前、ふたりを罰するすべがなかったからである。
塚本訳しかしながら彼らは二人を更におどかした上で赦した。罰する方法が見つからなかったのであり、民衆の手前もあった。皆の者がこの出来事のために神を讃美していたからである。
前田訳しかし彼らはおどしたうえで釈放した。彼らは民衆のゆえにどう罰すべきかわからなかった。それは、皆がこの出来事のために神をあがめていたからである。
新共同議員や他の者たちは、二人を更に脅してから釈放した。皆の者がこの出来事について神を賛美していたので、民衆を恐れて、どう処罰してよいか分からなかったからである。
NIVAfter further threats they let them go. They could not decide how to punish them, because all the people were praising God for what had happened.
註解: 祭司らの立場は民の人気を己に集める以外に無い。彼らの使徒等を罰しなかったのは、それが正しいと信じたからではなく、民の反対を恐れたからであった、使徒たちの大胆さと祭司たちの臆病の態度とを比較せよ。

4章22節 かの(しるし)によりて(いや)されし(ひと)四十歳(しじっさい)(あまり)なりしなり。[引照]

口語訳そのしるしによっていやされたのは、四十歳あまりの人であった。
塚本訳ことにこの癒しの徴が行われた人は、四十歳を越していた。
前田訳このいやしの徴がなされた人は、四十歳を過ぎていたのであった。
新共同このしるしによっていやしていただいた人は、四十歳を過ぎていた。
NIVFor the man who was miraculously healed was over forty years old.
註解: 長年の病者すらかく医される事は著しい力である。ルカは年齢を記載すること多し(使9:33使14:8ルカ8:42ルカ13:11
要義1 [使徒等とその信仰の力]無学の平信徒なるガリラヤの漁夫も、イエスを信ずる信仰によりて学者、パリサイ人、大祭司等よりも遥に勝れる人格と態度とを得るに至れる所以は、イエスを神の子と信ずる事によりて父なる神を知る事が出来、之によりて神に従う者となり、何者をも恐れざる勇気を与えられたからである。この単純にして徹底せる信仰のみ、人を神の子となす事が出来、罪の子を神の子らしき人間となす事が出来る。
要義2 [信仰による大胆さ]臆する事なく信仰につき語る事は使徒等の特徴であった。神が彼らをして語らしむる事の確信を有っているが為に、彼らは何者をも恐れなかったからである。之に反し祭司長らは、民衆の離反を恐れ、自分の職業の蚕食(さんしょく)せられん事を恐れ、自己の確信に向って大胆に進む事が出末ない。この両者の対比は信仰の力の何たるかを示す善き実例である。

2-1-6 釈放と使徒達のよろこび 4:23 - 4:31

4章23節 (かれ)(ゆる)されて、その(とも)(もと)にゆき、祭司長(さいしちゃう)長老(ちゃうらう)らの()ひし(すべ)てのことを()げたれば、[引照]

口語訳ふたりはゆるされてから、仲間の者たちのところに帰って、祭司長たちや長老たちが言ったいっさいのことを報告した。
塚本訳赦された二人は仲間の所に行って、(最高法院の)大祭司連や長老たちが言ったことを報告した。
前田訳彼らは釈放されて仲間のところに行き、大祭司や長老たちがいったことをすべて伝えた。
新共同さて二人は、釈放されると仲間のところへ行き、祭司長たちや長老たちの言ったことを残らず話した。
NIVOn their release, Peter and John went back to their own people and reported all that the chief priests and elders had said to them.

4章24節 (これ)()きて(みな)(こころ)(ひと)つにし、(かみ)(むか)ひ、(こゑ)()げて()[引照]

口語訳一同はこれを聞くと、口をそろえて、神にむかい声をあげて言った、「天と地と海と、その中のすべてのものとの造りぬしなる主よ。
塚本訳聞くと彼らはいっせいに、神に向かって声をはりあげて祈った、「主よ、”あなたは、天と地と海とそれらの中の一切の物とをお造りになりました。”
前田訳聞いたものは、そろって神に向かって声をあげていった、「大君よ、天と地と海とそれらの中にある万物をお造りの方よ、
新共同これを聞いた人たちは心を一つにし、神に向かって声をあげて言った。「主よ、あなたは天と地と海と、そして、そこにあるすべてのものを造られた方です。
NIVWhen they heard this, they raised their voices together in prayer to God. "Sovereign Lord," they said, "you made the heaven and the earth and the sea, and everything in them.
註解: 祭司長・長老らの迫害はいよいよ彼らの団結心を強くし、益々彼らの神に対する信頼の心を深くするに過ぎなかった。
辞解
[その友] idioi は主として使徒たちの一団を指すと考うべきであるけれども、その他の近接者をも加えている事を妨げない。
[心を一つにし] ここでは「一斉に」の意、如何にして一斉に声をあげて同一の祈を為す事を得しやにつき種々の説明があるけれども問題とするに足りない。

(しゅ)よ、(なんぢ)(てん)()(うみ)()(なか)のあらゆる(もの)とを(つく)(たま)へり。

註解: 彼らは彼らの主が万物の造主に在す事を信じて、この主に向って呼びかけるのであった。この祈が応えられる時、天地の間に何物も彼らに敵する事が出来ない。
辞解
[主よ] despotaで一家の主人と言う如き親しき呼びかけ、

4章25節 (かつ)(せい)(れい)によりて(なんぢ)(しもべ)、われらの先祖(せんぞ)ダビデでの(くち)をもて、[引照]

口語訳あなたは、わたしたちの先祖、あなたの僕ダビデの口をとおして、聖霊によって、こう仰せになりました、『なぜ、異邦人らは、騒ぎ立ち、もろもろの民は、むなしいことを図り、
塚本訳あなたはわたし達の先祖、あなたの僕ダビデの口をもって、聖霊により、こう言われました。“なにゆえ異教人らは騒ぎたち民どもは空しいことをたくらむのか。
前田訳あなたはわれらの先祖、あなたの僕ダビデの口をとおして、聖霊によって仰せでした、『なぜ異邦人は騒ぎ、民どもはむなしさをたくらむのか。
新共同あなたの僕であり、また、わたしたちの父であるダビデの口を通し、あなたは聖霊によってこうお告げになりました。『なぜ、異邦人は騒ぎ立ち、/諸国の民はむなしいことを企てるのか。
NIVYou spoke by the Holy Spirit through the mouth of your servant, our father David: "`Why do the nations rage and the peoples plot in vain?
註解: この部分文法的に難解である。従って種々の異本がある。

(なに)ゆゑ異邦人(いはうじん)(さわ)()ち、(たみ)らは(むな)しき(こと)(はか)るぞ。

4章26節 ()王達(わうたち)(とも)()ち、(つかさ)らは(ひと)つに(あつま)りて、(しゅ)および()のキリストに(さから)ふ」と宣給(のたま)へり。[引照]

口語訳地上の王たちは、立ちかまえ、支配者たちは、党を組んで、主とそのキリストとに逆らったのか』。
塚本訳地上の王たちは勢ぞろいをし主権者たちは一緒に集まって主とその(油注がれた)救世主とに反抗する。”
前田訳地の王たちは立ちあがり、司たちは共に集まって主とそのキリストにさからう』と。
新共同地上の王たちはこぞって立ち上がり、/指導者たちは団結して、/主とそのメシアに逆らう。』
NIVThe kings of the earth take their stand and the rulers gather together against the Lord and against his Anointed One. '
註解: 使徒たちは詩2:1、2(七十人訳より引用)がそのままキリストの預言となる事を見出していたく駭いた。これ天地の創造主たる神が聖霊によりダビデをして語らしめ給うたからである。即ちキリストを十字架につけたのはローマの兵卒(異邦人)、ユダヤ人(祭司学者その他の民ら)、王等(ヘロデ)、司ら(ピラト)であった。しかもこれらは神とその受膏者(キリスト)に対する反逆であって結局空騒ぎであり無効である。
辞解
詩篇を凡てダビデの作と称する古来の習慣によったもの。詩第2篇は恐らくソロモンにつきて歌えるものならんも確かではない。
[騒ぎ立ち] 本来馬が(いなな)いてたけり立つ貌を指す語、転じて騒乱を起す事を意味す。

4章27節 (はた)してヘロデとポンテオ・ピラトとは、異邦人(いはうじん)およびイスラエルの(たみ)()とともに、(なんぢ)(あぶら)そそぎ(たま)ひし(せい)なる(しもべ)イエスに(さから)ひて()(みやこ)にあつまり、[引照]

口語訳まことに、ヘロデとポンテオ・ピラトとは、異邦人らやイスラエルの民と一緒になって、この都に集まり、あなたから油を注がれた聖なる僕イエスに逆らい、
塚本訳(そして、この預言は成就しました。)実際ヘロデ[アンテパス](王)と(総督)ポンテオ・ピラトとは”異教人らや”イスラエル人の“民ども”と共に、“あなたに油を注がれて(救世主として聖別され)た、”あなたの聖なる僕イエスに敵対してこの(エルサレムの)都に“集まり、”
前田訳集まったのは実にこの都で、あなたが油そそがれた聖なる僕イエスに向かってでした。それはヘロデとポンテオ・ピラトとが異邦人やイスラエルの民とともにしたことです。
新共同事実、この都でヘロデとポンティオ・ピラトは、異邦人やイスラエルの民と一緒になって、あなたが油を注がれた聖なる僕イエスに逆らいました。
NIVIndeed Herod and Pontius Pilate met together with the Gentiles and the people of Israel in this city to conspire against your holy servant Jesus, whom you anointed.

4章28節 御手(みて)御旨(みむね)とにて、()()るべしと(あらか)じめ(さだ)(たま)ひし(こと)をなせり。[引照]

口語訳み手とみ旨とによって、あらかじめ定められていたことを、なし遂げたのです。
塚本訳あなたの力強い御心をもって実現しようとあらかじめ定められていたことを、なしとげたからであります。
前田訳彼らはあなたのみ手とみ心がなしとげるよう、あらかじめお定めのことを実現したのでした。
新共同そして、実現するようにと御手と御心によってあらかじめ定められていたことを、すべて行ったのです。
NIVThey did what your power and will had decided beforehand should happen.
註解: 前節註にも示せる如く詩第2篇の預言はそのままキリストの上に実現した。この事を知らずに居るユダヤ人らは事実神とそのキリストとに対する反逆者である。
辞解
[民等] 「民」の複数でイスラエルの諸族を指す、祭司長等をもこの中に含むと見るべきである。
[御手にて・・・預じめ定め給う] と云う語法は適切では無いが「御手」を「御力」の意味に解してやや困難は滅ずる。
[事をなせり] ピラト以下の人々は皆神に叛き乍ら却て神の預定のままにその御旨を行った事となる。

4章29節 (しゅ)よ、(いま)かれらの脅喝(おびやかし)御覽(みそなは)し、(しもべ)らに御言(みことば)(いささ)かも(おく)することなく(かた)らせ、[引照]

口語訳主よ、いま、彼らの脅迫に目をとめ、僕たちに、思い切って大胆に御言葉を語らせて下さい。
塚本訳だから、今、主よ、彼らの(わたし達に対する)おどかしをよく御覧ください。そして出来るかぎり大胆に御言葉を語る力を、(わたし達)あなたの僕どもにさずけてください。
前田訳それで今、主よ、彼のおどしにお目をとめて、あなたの僕たちにあらゆる大胆さでみことばを語る力をお与えください。
新共同主よ、今こそ彼らの脅しに目を留め、あなたの僕たちが、思い切って大胆に御言葉を語ることができるようにしてください。
NIVNow, Lord, consider their threats and enable your servants to speak your word with great boldness.

4章30節 御手(みて)をのべて()(ほどこ)させ、(なんぢ)(せい)なる(しもべ)イエスの()によりて(しるし)不思議(ふしぎ)とを(おこな)はせ(たま)へ』[引照]

口語訳そしてみ手を伸ばしていやしをなし、聖なる僕イエスの名によって、しるしと奇跡とを行わせて下さい」。
塚本訳御手をのばして、あなたの聖なる僕イエスの名のゆえに、癒しや徴や不思議なことを行わせてください。」
前田訳み手をのばして、あなたの聖い僕イエスの名によっていやしと徴と不思議が行なわれるようにしてください」と。
新共同どうか、御手を伸ばし聖なる僕イエスの名によって、病気がいやされ、しるしと不思議な業が行われるようにしてください。」
NIVStretch out your hand to heal and perform miraculous signs and wonders through the name of your holy servant Jesus."
註解: 使徒らの祈願は、迫害と脅喝とを恐れずして大胆に神の言を宣伝うる事とイエスの名によりて奇蹟と神癒とが彼らによりて行われん事とであった、『「彼らを粉砕し打ち滅し給え」と祈らなかった事に注意せよ』(C1)小数の弟子たちはその当時の全宗教界全政治的権力を向うに廻して戦わなければならなかった。彼らの心は自ら緊張せざるを得ない。

4章31節 (いの)()へしとき()(あつま)りをる(ところ)(ふる)(うご)き、みな(せい)(れい)にて滿(みた)され、(おく)することなく(かみ)御言(みことば)(かた)れり。[引照]

口語訳彼らが祈り終えると、その集まっていた場所が揺れ動き、一同は聖霊に満たされて、大胆に神の言を語り出した。
塚本訳こう彼らが祈りおわると、(たちまち)集まっていた所が揺れ、だれもかれも聖霊に満たされて、大胆に神の言葉を語った。
前田訳彼らが祈り終えると、集まっていた所がゆれ、皆が聖霊に満たされて、大胆に神のことばを語った。
新共同祈りが終わると、一同の集まっていた場所が揺れ動き、皆、聖霊に満たされて、大胆に神の言葉を語りだした。
NIVAfter they prayed, the place where they were meeting was shaken. And they were all filled with the Holy Spirit and spoke the word of God boldly.
註解: 神は彼らの祈に応えて地を震わしめ給うた。一羽の雀すら神の許なしに地に落ちない、況んや大なる天地の異変の背後には必ず神の御旨がある。使徒たちはこの迫害によりていよいよ豊に聖霊を与えられ、益々大胆に神の言を語った。神はその愛する者を常に訓錬し給う、基督教に迫害は附き物であり、迫害は益々基督教を広める力となる。
要義 [世とキリスト]世は常に「主とそのキリスト」とに逆う、この世の精神はキリストの精神に反するからである。この意味に於て昔は預言者を迫害し、キリストの時に彼を十字架につけ、今の世に基督者の迫害となって顕れる。しかしながら人は神を殺す事が出来ず、神の力を無に帰せしむる事が出来ない。迫害によりて聖霊の力はいよいよ加わり、之によりて福音はいよいよ世に広まリ遂に完全に世に勝つ事が出来る。

2-2 初代信徒の経済生活 4:32 - 5:12
2-2-1 信仰的共産生活 4:32 - 4:37

4章32節 (しん)じたる(もの)(むれ)は、おなじ(こころ)おなじ(おもひ)となり、(たれ)一人(ひとり)その所有(もちもの)(おの)(もの)()はず、(すべ)ての(もの)(とも)にせり。[引照]

口語訳信じた者の群れは、心を一つにし思いを一つにして、だれひとりその持ち物を自分のものだと主張する者がなく、いっさいの物を共有にしていた。
塚本訳信者の団体は一つ心一つ思いで、一人として持ち物を自分のものと言わず、一切の物が共有であった。
前田訳信徒の集まりはひとつ心ひとつ思いで、だれひとり持ち物を自分のものといわず、いっさいが共有であった。
新共同信じた人々の群れは心も思いも一つにし、一人として持ち物を自分のものだと言う者はなく、すべてを共有していた。
NIVAll the believers were one in heart and mind. No one claimed that any of his possessions was his own, but they shared everything they had.
註解: 心による財産の共有である。法律の力による強制的共有は、財産に対する権利関係の変化を来さしめるけれども心の変化を来さない。基督者に取りて大切なのは先づ心が一変して、凡ての資産を自己のものと思わない事である。これさえ出来るならば貧富の差は何等の問題とはならない。而してかかる状態は凡ての人が同一の心情を持っている場合最も美しき社会としてあらわれる。尚32-35節は使2:44、45と同一の事を云うのであるけれども使2:44、45は主として各個人につきて言い、本節以下は主として教会全体の状態を記述しているものと見るべきである。
辞解
[心、思] kardia と psychê の意味は前者は主として心情の方面、後者は生物としての人間の心の活動の総体を指す。
[己が物と謂はず] 法律による所有権の剥奪ではなく、自ら自己のものを神にささぐるの態度である。

4章33節 (かく)使徒(しと)たちは(おほい)なる能力(ちから)をもて(しゅ)イエスの復活(よみがへり)(あかし)をなし、みな(おほい)なる恩惠(めぐみ)(かうむ)りたり。[引照]

口語訳使徒たちは主イエスの復活について、非常に力強くあかしをした。そして大きなめぐみが、彼ら一同に注がれた。
塚本訳また使徒たちは大なる力をもって主イエスの復活を証明し、(神の)大きな恵みが彼ら一同の上にあった。
前田訳大きな力で使徒たちは主イエスの復活を証し、大きな恵みが彼らすべてにのぞんだ。
新共同使徒たちは、大いなる力をもって主イエスの復活を証しし、皆、人々から非常に好意を持たれていた。
NIVWith great power the apostles continued to testify to the resurrection of the Lord Jesus, and much grace was upon them all.
註解: 使徒たちはその生活のために苦労する必要が無く聖霊の力にその身を充分に委せる事が出来、大なる能力を与えられた。主の復活を証する事は伝道の基礎であった。福音の証をしている使徒たちの上に神からも人からも多くの恩恵が臨んだ。
辞解
[恩恵] 「人の好意」と解する説と「神の恩恵」を意味すとする説とがある、予はB1と共にこの双方を含むものと解す。

4章34節 (かれ)らの(うち)には一人(ひとり)(とぼ)しき(もの)もなかりき。[引照]

口語訳彼らの中に乏しい者は、ひとりもいなかった。地所や家屋を持っている人たちは、それを売り、売った物の代金をもってきて、
塚本訳実際、彼らの中にはだれ一人乏しい者がなかった。なぜなら、地所や家を持っている者はみな、それを売っては、売れた物の代金を持ってきて、
前田訳実に彼らの中にはだれも乏しいものがなかった。それは、土地や家を持つものが皆それを売って、売れたものの代金を持ってきて、
新共同信者の中には、一人も貧しい人がいなかった。土地や家を持っている人が皆、それを売っては代金を持ち寄り、
NIVThere were no needy persons among them. For from time to time those who owned lands or houses sold them, brought the money from the sales
註解: まことに理想的の社会状態であって、信仰と愛との最高の表顕である(B1)

これ地所(ぢしょ)あるいは家屋(いへ)()てる(もの)、これを()り、その()りたる(もの)(あたひ)()(きた)りて、

4章35節 使徒(しと)たちの足下(あしもと)()きしを、各人(おのおの)その(よう)(したが)ひて()(あた)へられたればなり。[引照]

口語訳使徒たちの足もとに置いた。そしてそれぞれの必要に応じて、だれにでも分け与えられた。
塚本訳使徒たちの足元に置いたからである。それがひとりびとりの必要に応じて分けあたえられた。
前田訳使徒たちの足もとに置いたからである。必要とするものに応じて、それがそれぞれに分け与えられたのである。
新共同使徒たちの足もとに置き、その金は必要に応じて、おのおのに分配されたからである。
NIVand put it at the apostles' feet, and it was distributed to anyone as he had need.
註解: 一人の家長の下に生活する一家族の如く、完全に調和を有する経済団体となった。「売る」「置く」「持ち来る」「分け与う」等の動詞の未完了形なるより見て、これ等の行為が必要に応じて一部分づつ繰返されたものであって一時に全部を売却分配せるにあらざる事が判明る。又、これは信徒の自由意思によったものであって何等の強制も無かった。又使徒の足下に置いた事は、使徒の人格に対する尊敬とその処置に対する全幅の信頼との表顕であった。かかる社会こそその中に贅沢華美は許容されず、貧困窮迫に陥る者なく、各人その力の限りを尽しつつ互に相助くる最も美しき社会であると云わなければならない。徹底せる完き信仰の前提の下にのみかかる世界は存在する事が出来る。
要義 [理想的共産社会]凡ての物は神の物である事を信じ、互に隣人の事を思いやる事が出来る社会、即ち信仰と愛との存する社会に於てのみ理想的共産社会が存在する事が出来る。殊にその最も優れし心と判断とを有する一人又は数人に正しき判断を求むる事が出来る様な場合、一層この社会は完全なる共産社会となる事が出来る。かかる社会はまことに望ましき処のものであるけれども、事実としては決して容易に実現し得ない。この事につき我らは神の前に信仰と愛の欠乏を懺悔しなければならぬ。

4章36節 (ここ)にクプロに(うま)れたるレビ(びと)にて、使徒(しと)たちにバルナバ(()けば慰籍(なぐさめ)())と(とな)へらるるヨセフ、[引照]

口語訳クプロ生れのレビ人で、使徒たちにバルナバ(「慰めの子」との意)と呼ばれていたヨセフは、
塚本訳ヨセフは使徒たちからバルナバ[訳すれば「慰めの子」]とも言われた、クプロ(島)生まれのレビ人であったが、
前田訳ヨセフは使徒たちにバルナバ(訳せば「慰めの子」)とも呼ばれた、キュプロス生まれのレビ人であったが、
新共同たとえば、レビ族の人で、使徒たちからバルナバ――「慰めの子」という意味――と呼ばれていた、キプロス島生まれのヨセフも、
NIVJoseph, a Levite from Cyprus, whom the apostles called Barnabas (which means Son of Encouragement),

4章37節 (はた)ありしを()りて()(かね)()ちきたり、使徒(しと)たちの足下(あしもと)()けり。[引照]

口語訳自分の所有する畑を売り、その代金をもってきて、使徒たちの足もとに置いた。
塚本訳畑を持っていたので、売って、その金を持ってきて使徒たちの足元に置いた。
前田訳畑を持っていたので、それを売り、代金を持ってきて使徒たちの足もとに置いた。
新共同持っていた畑を売り、その代金を持って来て使徒たちの足もとに置いた。
NIVsold a field he owned and brought the money and put it at the apostles' feet.
註解: 32-35の記事の最も著しき例としてバルナバを掲げたのは、彼のこの行為が特に多く使徒たちを力づけ、之か慰め、且つ他の信徒の行動の模範となったからであろう。
辞解
[バルナバ] 十二使徒以外に於ける最も傑出せる人の一人であって使徒たちにパウロを紹介せるは彼であり(使9:27)、パウロと共に手づから働きて生活し(Tコリ9:6)、その後アンテオケに赴きパウロと共に一年間その処に働いた。後パウロの第一伝道旅行に同行し(Tコリ13:12-)、又エルサレム会議(Tコリ15:1-)に於てはパウロと共に純信仰の為に戦ったけれども(ガラ2:9)、後マルコの故によりてパウロと別れなければならなかった(使15:37-40)。後パウロと和解した形跡はあるけれども(コロ4:10) バルナバの活動につきては詳細の記事が無い。寛容にして公平であり、温厚にして事の是非善悪を正しく認識し、柔和にしてしかも断然たる行動を取るの強さを有する傑出せる人物であった。パウロの如き徹底さと強烈さとは無かったけれども、ルナンの賞揚する如く初代に於ける最も有力なる使徒の一人であった事は争われない。
[慰藉の子] 原語バル・ネブーアーは「預言の子」とも訳し得る文字であるけれども「預言する事」は当時「慰めの言を語る事」を意味していたので(Tコリ14:3)この意味に訳したのであろう(ダイスマン、クローステルマン等の異説は採用し難し)。この名を与えし時機は不明、「売る」「持ち来る」「置く」は何れも不定過去形で一度に完了せる行動であった事を示す。恐らく多額の資産であったろう。
[畑ありしを] レビもパレスチナに資産を持つ事が出来た事はエレ32:7より之を知る事が出来る。或はクプロに於ける所有財産であったかも知れぬ。

使徒行伝第5章
2-2-2 アナニヤとサッピラの事件 5:1 - 5:11

5章1節 (しか)るにアナニヤと()(ひと)、その(つま)サツピラと(とも)資産(しさん)()り、[引照]

口語訳ところが、アナニヤという人とその妻サッピラとは共に資産を売ったが、
塚本訳ここにアナニヤというひとりの男は妻のサッピラと共に、地所を売り、
前田訳さて、アナニヤという人が妻サッピラとともに財産を売ったが、
新共同ところが、アナニアという男は、妻のサフィラと相談して土地を売り、
NIVNow a man named Ananias, together with his wife Sapphira, also sold a piece of property.

5章2節 その(あたひ)幾分(いくぶん)(かく)しおき、(のこ)幾分(いくぶん)()ちきたりて使徒(しと)たちの足下(あしもと)()きしが、(つま)(これ)(あづか)れり。[引照]

口語訳共謀して、その代金をごまかし、一部だけを持ってきて、使徒たちの足もとに置いた。
塚本訳その代金をごまかして、一部分(だけ)を持ってきて使徒たちの足元に置いた。妻も承知の上であった。
前田訳その代金を隠し、妻もそれを知っていたが、彼は一部だけを持ってきて使徒たちの足もとに置いた。
新共同妻も承知のうえで、代金をごまかし、その一部を持って来て使徒たちの足もとに置いた。
NIVWith his wife's full knowledge he kept back part of the money for himself, but brought the rest and put it at the apostles' feet.
註解: (▲信仰にあって最も大切なのは真実である。形式的信仰は不真実を許容し易い。)前章末尾又は2章末尾を見るならば初代教会は実に天使の集団の如くに見える。しかしながらサタンは最も激しくかかる集団を攻めその聖徒を捕囚とする。バルナバは前者の例であり、アナニヤとサツピラは後者の最も著しき一例であった。彼等がその資産を売りて寄進せんとせる動機は、信仰によったのではなくバルナバその他の信徒の行為に倣わんとする虚栄心からであった。純粋に神のみを仰ぎ()て行ふ行為との差異は外部より之を知る事が出来ないけれども、サタンは必ずかかる隙に乗じて彼らを誘い、その結果彼らは信仰とは正反対なる虚偽の罪に陥った。即ち彼らは全部を献げずして全部をささげし如くに見せかけんとしたのであった。人もしサタンの手中に陥るならば彼は神を見失ひ、神の審判を懼れず神をも欺き得る如く思うに至るものである。ここに於て彼を支配するものは人の前に美しからんとする虚栄心(全部をささげる如くに装い、且つ使徒の足下に置きて人々に誇った事)と、財宝に(つか)うる私慾心(幾分を自己に保留した事)と、人を欺かん為の虚偽(使徒たちに偽った事)とであった。
辞解
[アナニヤ] 又「ハナニヤ」とも読まれ「神恵み給う」の意、「サツピラ」は「美し」の意味で双方とも名実相反する名である。
[與れり] 知識を共にするとの意味でこころに知っていた事を意味す。

5章3節 (ここ)にペテロ()ふ『アナニヤよ、(なに)(ゆゑ)なんぢの(こころ)サタンにて滿()ち、(せい)(れい)(たい)(いつは)りて、地所(ぢしょ)(あたひ)幾分(いくぶん)(かく)したるぞ。[引照]

口語訳そこで、ペテロが言った、「アナニヤよ、どうしてあなたは、自分の心をサタンに奪われて、聖霊を欺き、地所の代金をごまかしたのか。
塚本訳するとペテロが言った、「アナニヤ、悪魔に心を占領され、聖霊に嘘をついて地所の代金をごまかすとは、なんということだ。
前田訳そこでペテロがいった、「アナニヤ、何とてあなたは悪魔に心を満たされて聖霊をいつわり、土地の代金を隠したのか。
新共同すると、ペトロは言った。「アナニア、なぜ、あなたはサタンに心を奪われ、聖霊を欺いて、土地の代金をごまかしたのか。
NIVThen Peter said, "Ananias, how is it that Satan has so filled your heart that you have lied to the Holy Spirit and have kept for yourself some of the money you received for the land?
註解: ペテロはその霊的直感によりてアナニヤの虚偽を看破した。純真なる信仰のみよくサタンの姿を認識する。アナニヤはサタンにその心を占領せられその結果かかる行動に陥ったのであって、之は単にペテロを欺いただけではなく彼の心に宿り給う聖霊(Tテサ4:8)に対し(いつわ)る事であり、聖霊を逐い出してサタンにその所を得しむる事であった。即ちペテロに対する虚偽の行為は結局彼自身の信仰的破滅を意昧する。

5章4節 ()りし(とき)(なんぢ)(もの)なり、()りて(のち)(なんぢ)(けん)(うち)にあるに(あら)ずや、[引照]

口語訳売らずに残しておけば、あなたのものであり、売ってしまっても、あなたの自由になったはずではないか。どうして、こんなことをする気になったのか。あなたは人を欺いたのではなくて、神を欺いたのだ」。
塚本訳(売らずに)のこしておけばあなたのもの、売れても、代金はあなたの自由ではないか。なんでこんな(恐ろしい)ことを考えたのか。これは人間に嘘をついたというよりは、神に嘘をついたのだ。」
前田訳売らずにおけばあなたのもの、売れてもあなたの思うままになったではないか。なぜこんなことを考えたのか。あなたは人をでなく神を欺いたのだ」と。
新共同売らないでおけば、あなたのものだったし、また、売っても、その代金は自分の思いどおりになったのではないか。どうして、こんなことをする気になったのか。あなたは人間を欺いたのではなく、神を欺いたのだ。」
NIVDidn't it belong to you before it was sold? And after it was sold, wasn't the money at your disposal? What made you think of doing such a thing? You have not lied to men but to God."
註解: 夫故に汝の信仰の量に従い「(おし)むことなく、強てする事なく、その心に定めし如く」(Uコリ9:7)振舞い、正直に適宜の額を寄進すれば善かったのである。全部寄進しなければいけないとは誰も云はなかったのである。尚この一句は当時のエルサレム教会の共産生活は法律的強制的ならず信仰的任意的であった事の証拠となる使2:43-47要義1参照。

(なに)とて(かか)ることを(こころ)(くはだ)てし。なんぢ(ひと)(たい)してにあらず、(かみ)(たい)して(いつは)りしなり』

註解: 代金の半分を以て全部の如くに見せる事は単に対人関係の罪だけではなく神を欺く事の最大の罪である。これ神に対する忠誠を装いつつ、実は己の慾に支配せられているからである。
辞解
[人に対してにあらず] 神に対する罪たる事を強調せんが為に、対人関係の方を否定せる話法であって、人に対しても罪である事は勿論である。但し如何なる罪も結局神の誠命に反する意味に於て神に対する罪であるけれどもこの場合、単なる詐欺と異り神に対する献金の形に於て行われる詐欺故、その罪一層重大である。

5章5節 アナニヤこの(ことば)をきき、(たふ)れて(いき)()ゆ。[引照]

口語訳アナニヤはこの言葉を聞いているうちに、倒れて息が絶えた。このことを伝え聞いた人々は、みな非常なおそれを感じた。
塚本訳アナニヤはこの言葉を聞くと、(その場に)倒れて息が絶えた。聞いた者すべてに、大きな恐れが臨んだ。
前田訳アナニヤはこのことばを聞くと、倒れて息が絶えた。聞いたものすべてに大きなおそれがのぞんだ。
新共同この言葉を聞くと、アナニアは倒れて息が絶えた。そのことを耳にした人々は皆、非常に恐れた。
NIVWhen Ananias heard this, he fell down and died. And great fear seized all who heard what had happened.
註解: アナニヤは勿論彼の行動につき内心不安を感じていた。ペテロの言は適切にこの心の隙を衝いた為に彼の良心は非常なる打撃を受けてその畏れの為に気絶した。尚この死を以て単に神の罰の結果と見、アナニヤの内心の状態如何を全然問題としない見方があるけれども、それはあまりに実状より懸離れている。又之を偶然の出来事と見、丁度その時に死が彼を襲ったのであると見る事はこの記事を無意味のものと化する欠点がある。
辞解
[息絶ゆ] ekpsychô 医術語でルカ特有である(使5:10使12:23)。

これを()(もの)みな(おほい)なる(おそれ)(いだ)く。

註解: 罪人の上に神の審判が下る光景ほど恐ろしいものは無い。神の聖と義とがその完全なる稜威に於てあらわれるからである。

5章6節 若者(わかもの)ども()ちて(かれ)(つつ)み、()(いだ)して(はうむ)れり。[引照]

口語訳それから、若者たちが立って、その死体を包み、運び出して葬った。
塚本訳若者たちは立って彼(の死体)を包み、かついでいって葬った。
前田訳若者たちが立って彼を包み、かつぎ出して葬った。
新共同若者たちが立ち上がって死体を包み、運び出して葬った。
NIVThen the young men came forward, wrapped up his body, and carried him out and buried him.
註解: 即座に彼を葬り去った事は如何にも無慈悲の如くに見えるけれども、初代教会はこの一事件の中に神の敵サタンの襲撃を感じ、一挙に之を撲滅するの必要を感じたのである。人情を云々すべき場合では無かった。尚ユダヤ人は死体を出来るだけ速に葬る習慣がある。
辞解
[若者] 一の職名と見る説(M0)は適切ではない。
[包み] 原語は難解で(1)移す(L1)、(2)四肢を縮めて堅く縛る事(M0)、(3)埋葬の準備をする事等の訳を主張する学者があるけれども「包む」が最も適当ある。
要義 [アナニヤの罪]アナニヤの罪は凡ての方面より見て極めて重要なる性質を有する事に注意しなければならない。之を単に献金額を偽りたる虚偽の行為としてのみ観察するならば、この事件の重大なる意義を見失う。(1)サタンの活動。神の国の襲撃はサタンの最も力を尽くす所である。エルサレム初代教会の美しき信仰の姿はサタンの嫉視の的であった。彼はアナニヤを捕えてその襲撃を開始したのである。サタンには一歩も場所を与えてはならない。今日の教会の堕落はかかる場合サタンに侵入を許す事から起る。(2)アナニヤの罪。彼は自ら喜んで資産を献げんとしたのではなく周囲の人々の態度に引摺られたのであった、そこに彼の虚栄心がある。彼は全部を献げる事に於て生活の不安を感じた、そこに彼の不信仰がある。彼は半分を全部として偽った、そこに彼の詐欺がある。殊に彼は神に対する忠実を装ひつつこの詐欺を働いていた点に於て神に対する詐欺である。これが最大の罪であり最も恐るべき事であった。(3)一の罪は他の罪を生む。彼は最初より神を欺かんとしたのではあるまい。しかし一の罪は他の罪を生み、遂に神をも欺かんとするに至るものである。誡命の一つを犯すは凡てを犯すのである、罪は要するに一の総括的全体的存在であり、サタンの働きであり、神に対する反逆である。

5章7節 (おほよ)(さん)時間(じかん)()て、その(つま)この()りし(こと)()らずして()(きた)りしに、[引照]

口語訳三時間ばかりたってから、たまたま彼の妻が、この出来事を知らずに、はいってきた。
塚本訳三時間ばかりたって、その妻がこんなことがあったとは知らずに入ってきた。
前田訳三時間ほど経ってのこと、彼の妻が出来事を知らずに入ってきた。
新共同それから三時間ほどたって、アナニアの妻がこの出来事を知らずに入って来た。
NIVAbout three hours later his wife came in, not knowing what had happened.

5章8節 ペテロ(これ)(むか)ひて()ふ『なんぢら(これ)(ほど)(あたひ)にてかの地所(ぢしょ)()りしか、(われ)()げよ』(をんな)いふ『(しか)り、(これ)(ほど)なり』[引照]

口語訳そこで、ペテロが彼女にむかって言った、「あの地所は、これこれの値段で売ったのか。そのとおりか」。彼女は「そうです、その値段です」と答えた。
塚本訳ペテロが自分の方から彼女に向かって口を切った、「たずねるが、あなた達は(たしかに)これだけ(の値段)であの地所を売ったのか。」「そうです、それだけで」と彼女は答えた。
前田訳そこでペテロが話しかけた、「いってもらいたい、あなた方は土地をこれだけの値に売ったのか」と。彼女はいった、「はい、それだけにです」と。
新共同ペトロは彼女に話しかけた。「あなたたちは、あの土地をこれこれの値段で売ったのか。言いなさい。」彼女は、「はい、その値段です」と言った。
NIVPeter asked her, "Tell me, is this the price you and Ananias got for the land?" "Yes," she said, "that is the price."
註解: ペテロがサツピラにこの問を発したのは、之によりて彼女に悔改の機会を与えんが為であった。夫の死を予め知らせなかったのは、之を知りて後の悔改は真の悔改でないからである。
辞解
[向いて] 原語「答えて」で緊張せる場面を示す。
[これ程] 「かく少額の」の意味に取る必要なし。

5章9節 ペテロ()ふ『なんぢら(なん)(こころ)(あは)せて(しゅ)御靈(みたま)(こころ)みんとせしか、()よ、なんぢの(をっと)(はうむ)りし(もの)(あし)門口(かどぐち)にあり、(なんぢ)をもまた(かき)(いだ)すべし』[引照]

口語訳ペテロは言った、「あなたがたふたりが、心を合わせて主の御霊を試みるとは、何事であるか。見よ、あなたの夫を葬った人たちの足が、そこの門口にきている。あなたも運び出されるであろう」。
塚本訳そこでペテロが彼女に、「なんであなた達はぐるになって主の御霊を試したのか。そら、あなたの夫を葬りに行った者の足が(いま)門口に(帰って来て)いる。あなたも(墓に)かついでゆかれるであろう。」
前田訳ペテロはいった、「何とてあなた方はいっしょになって、主のみ霊を試したのか。ごらん、あなたの夫を葬った人々の足が戸口に来ている。あなたも運び出されよう」と。
新共同ペトロは言った。「二人で示し合わせて、主の霊を試すとは、何としたことか。見なさい。あなたの夫を葬りに行った人たちが、もう入り口まで来ている。今度はあなたを担ぎ出すだろう。」
NIVPeter said to her, "How could you agree to test the Spirit of the Lord? Look! The feet of the men who buried your husband are at the door, and they will carry you out also."
註解: ペテロのこの一言は神の審判の()であって、サツピラの心を射通した。神に(いつわ)る事は同時に「主の御霊を試みる事」である。即ち「主の御霊が果して我が虚偽を知り之を罰し給うであろうか」との心が彼女の内心を動かしていたのである。妻もこの罪に共鳴し夫に加担した事はこの罪をして弥々(いよいよ)その重さを増さしむる所以であった。

5章10節 をんな立刻(たちどころ)にペテロの足下(あしもと)(たふ)れて(いき)()ゆ。[引照]

口語訳すると女は、たちまち彼の足もとに倒れて、息が絶えた。そこに若者たちがはいってきて、女が死んでしまっているのを見、それを運び出してその夫のそばに葬った。
塚本訳彼女はたちどころにペテロの足元に倒れて、息が絶えた。青年たちは入ってきて彼女が死んでいるのを見ると、かついでいって夫のそばに葬った。
前田訳たちまち彼女はペテロの足もとに倒れて、息が絶えた。若者たちが入ってきて、彼女が死んでいるのを見、かつぎ出して夫の側(そば)に葬った。
新共同すると、彼女はたちまちペトロの足もとに倒れ、息が絶えた。青年たちは入って来て、彼女の死んでいるのを見ると、運び出し、夫のそばに葬った。
NIVAt that moment she fell down at his feet and died. Then the young men came in and, finding her dead, carried her out and buried her beside her husband.
註解: アナニヤの場合と同じくサツピラの良心はペテロの言によりて致死的の打撃を受けた、これ取りも直さず、神の審判が彼女の上に下ったのである。アナニヤとサツピラの死が神の愛に矛盾せずや、又他の多くの偽善者が何故に同一の審きを受けざるや等に就ては要義を見よ

若者(わかもの)ども()(きた)りて、その()にたるを()、これを(かき)(いだ)して(をっと)(かたは)らに(はうむ)れり。

註解: かくして夫妻二人は僅かに三時間を隔てて共に神の審判に服した。かくして初代教会の上に神の義が輝き出でたのである。

5章11節 (ここ)(ぜん)教會(けうくわい)および(これ)()のことを()(もの)みな(おほい)なる(おそれ)(いだ)けり。[引照]

口語訳教会全体ならびにこれを伝え聞いた人たちは、みな非常なおそれを感じた。
塚本訳集会全体とこれを聞いた者すべてとに、大きな恐れが臨んだ。
前田訳集まり全体とこれを聞いたすべてのものに大きなおそれがのぞんだ。
新共同教会全体とこれを聞いた人は皆、非常に恐れた。
NIVGreat fear seized the whole church and all who heard about these events.
註解: (▲今日のキリスト教会にこの厳粛さがない。道徳的判断は麻痺し、正義に立って動かないような強い筋金がない。キリスト教伝道の振るわないのはこのためである。)使5:5の反覆である。その処の註参照、本書に於て「教会」なる文字はここに始めて用いられている。
要義1 [何故にかかる厳罰の必要ありしや]アナニヤとサツピラの罪は死を以て罰された。何故に他に多く存する偽善、虚偽の罪が同様に所罰せられないかとの問題を起す者がある。蓋し神は教会の純潔を保たんが為には如何に厳格にサタンの侵入を警戒しなければならないかをこの所罰の例によりて示し給うたのである。もし教会がその後とも、かく厳格にその純潔を保っていたならば、教会の今日は更に力強いものであったろう。
要義2 [教会の訓練]教会はキリストを首とするその体である(エペ1:23)。夫故にキリストに反するものは凡て之を体の中より除き去らなければならない。教会は人間の集合にして人間は皆肉を有つ、故に教会内に弱さの存在する事は当然である。しかしながらキリストに反するもの即ち虚偽、偽善、不信の存在を許してはならない。もしこれ等が見出されし場合、速に悔改めて教会の純潔を保持しなければならぬ。
要義3 [サツピラの例の我らに対する教訓]今日の教会に於てサツピラの如く多額の献金を為すものあれば、たといそこに不信や虚偽があってもその献金を受くる如き場合が有り勝ちである。教会がかかる誘惑に陥る場合、直ちに之に打ち勝たなければならぬ。又罪が厳格に所罰される事は我らに取ってよき警戒である。之によりて我ら自己を反省し、自己の罪を除く事が出来るからである。罪に慣れる事は最も恐るべき堕落である。
要義4 [永遠の刑罰]アナニヤとサツピラが永遠の滅亡に入りしや否や等の問題は我らの思考を超絶せる事項である。神はもし欲し給うならば、彼らの霊をして悔改めしめ、遂に救に入れ給うであろう。彼らの所罰の目的は教会の訓練に在り、神は必要に応じ自由にその力を用い給う。我等濫りに神の領分に立入りて(ほしいまま)なる推論を為す事は避けなければならぬ。

2-3 使徒等の奇蹟活動 5:12 - 5:42
2-3-1 使徒たちの行える奇蹟 5:12 - 5:16

5章12節 使徒(しと)たちの()によりて(おほ)くの(しるし)不思議(ふしぎ)(たみ)(うち)(おこな)はれたり。[引照]

口語訳そのころ、多くのしるしと奇跡とが、次々に使徒たちの手により人々の中で行われた。そして、一同は心を一つにして、ソロモンの廊に集まっていた。
塚本訳また使徒たちの手で多くの徴や不思議なことが民衆の間におこなわれた。そして(使徒たちも信じた者も)皆が心を一つにしてソロモンの回廊に(集まって)いた。
前田訳使徒たちの手で多くの徴や不思議が民衆の間になされた。そして皆がひとつ心でソロモンの廊に集まっていた。
新共同使徒たちの手によって、多くのしるしと不思議な業とが民衆の間で行われた。一同は心を一つにしてソロモンの回廊に集まっていたが、
NIVThe apostles performed many miraculous signs and wonders among the people. And all the believers used to meet together in Solomon's Colonnade.
註解: 12-16節は使徒たちの奇跡的活躍に対して迫害が起る事を述ぶる準備として当時の教会内外の実況を記載している。当時使徒たちは聖霊に満されていたのでその能力によりて多くの奇蹟的治癒が行われた。

(かれ)らはみな(こころ)(ひと)つにして、ソロモンの(らう)にあり。

註解: ソロモンの廊は宮の囲の内にある広場で(使3:11参照)彼らの集合の最も適当なる場所であった。彼らの一団としての存在の基礎はその「心の一つ」なる点に存し、他に何物も無かった。

5章13節 (ほか)(もの)どもは(あへ)(ちか)づかず、(たみ)(かれ)らを(あが)めたり。[引照]

口語訳ほかの者たちは、だれひとり、その交わりに入ろうとはしなかったが、民衆は彼らを尊敬していた。
塚本訳ほかの者は(なんとなく近寄りがたくて、)だれ一人敢えて彼ら(の仲間)に加わろうとしなかったが、それでも民衆は彼らを尊敬していたので、──
前田訳ほかの者はだれひとり、あえて彼らに加わろうとしなかったが、民は彼らを尊敬していた。
新共同ほかの者はだれ一人、あえて仲間に加わろうとはしなかった。しかし、民衆は彼らを称賛していた。
NIVNo one else dared join them, even though they were highly regarded by the people.
註解: 「近づく」は「眤懇(じっこん)になる事」「親しむ事」(ロマ12:9)を意味す。「他の者ども」とは恐らく「他の重立ちたる者」即ち祭司、サドカイ人らを指したものであろう。(17節)。彼らは敬遠主義を取り遠方より形勢を観望していた。使徒たちの勢に恐れたからである。一般の「民」は信徒たちの信仰を見て之を賞揚した。何等の非難すべき点なく、その信仰の強さと美しさとに感じたからであった。しかし何時の時代も同様、進んでその信仰に入らんとする者はその中の少数である。
辞解
[近づかず] ▲口語訳「その交わりに入ろうとはしなかった」はkollaomaiの訳語として適当ではない。「交わり」koinôniaと混同し易い欠点がある。
[他の者ども] (1)信徒以外の人、(2)使徒たち及びその周囲の信徒以外の一般信徒(3)新に信仰に入りし人、等の解釈があるけれども註の如き意味に解す。

5章14節 (しん)ずるもの男女(なんにょ)とも増々(ますます)おほく(しゅ)()けり。[引照]

口語訳しかし、主を信じて仲間に加わる者が、男女とも、ますます多くなってきた。
塚本訳ますます主を信ずる男女の群が(増し)加えられた──
前田訳そして男も女も大勢、主を信ずるものが加えられてきた。
新共同そして、多くの男女が主を信じ、その数はますます増えていった。
NIVNevertheless, more and more men and women believed in the Lord and were added to their number.
註解: 多くの人々が嫉視、敬遠、躊躇しつつある中に、勇敢に信仰を告白して彼らの群に入り、主イエスに帰するに至った者も非常に多くあった。当時の信徒団の有様を巧に描いている。

5章15節 (つひ)には人々(ひとびと)()める(もの)大路(おほじ)()ききたり、寢臺(ねだい)または(とこ)(うへ)におく。(これ)()のうち(たれ)にもせよ、ペテロの()ぎん(とき)、その(かげ)になりと(おほ)はれんとてなり。[引照]

口語訳ついには、病人を大通りに運び出し、寝台や寝床の上に置いて、ペテロが通るとき、彼の影なりと、そのうちのだれかにかかるようにしたほどであった。
塚本訳その結果、人々は病人を大通りまでかついで来て寝床や担架の上にねかし、ペテロが(そこを)通るとき、そのうちのだれかが、せめて彼の陰にでもおおわれ(て病気を直され)るようにした。
前田訳ついに病人を大通りにまで運び出し、寝台や担架の上に置いて、ペテロが通るとき、彼らのうちのだれかに、せめてその影がおおいかかるようにした。
新共同人々は病人を大通りに運び出し、担架や床に寝かせた。ペトロが通りかかるとき、せめてその影だけでも病人のだれかにかかるようにした。
NIVAs a result, people brought the sick into the streets and laid them on beds and mats so that at least Peter's shadow might fall on some of them as he passed by.
註解: 何れの時代にも人間の最初にして最大の要求は肉体の病の治癒である。治癒の力がペテロに与えられているを見て群衆は彼の許に集り、彼に対して迷信的崇拝心をすら持つに至った。之によりて当時のペテロの嘖々(さくさく)たる名声を知る事が出来る。しかしペテロはこの名声を利用して自己を神の地位に置く如き事をしなかった、尚ペテロの影によりて病が癒されしや否やは記されて居ない、次節より見ればこれらのものも癒されし如くである。
辞解
[寝台] klinarion は病者用寝台の事で医者ルカの特に用いし語。

5章16節 (また)エルサレムの周圍(まはり)町々(まちまち)より(おほ)くの人々(ひとびと)()める(もの)(けが)れし(れい)(なやま)されたる(もの)(たづさ)へきたりて(つど)ひたりしが、みな(いや)されたり。[引照]

口語訳またエルサレム附近の町々からも、大ぜいの人が、病人や汚れた霊に苦しめられている人たちを引き連れて、集まってきたが、その全部の者が、ひとり残らずいやされた。
塚本訳またエルサレムの周囲の町々の住民が、病人や汚れた霊に苦しめられている者をつれて集まってきたが、一人のこらずなおされた。
前田訳またエルサレム周辺の町々からも大勢が集まり、病人や汚れた霊に悩まされている人々をつれて来たが、それらは皆いやされた。
新共同また、エルサレム付近の町からも、群衆が病人や汚れた霊に悩まされている人々を連れて集まって来たが、一人残らずいやしてもらった。
NIVCrowds gathered also from the towns around Jerusalem, bringing their sick and those tormented by evil spirits, and all of them were healed.
註解: ペテロの名声はエルサレムの周囲の町々にまで及び、彼らの病者の多くが医された。マタ4:23-25のイエスの伝道の初期の状況に髣髴たるものがある。病を癒す能力は聖霊の賜物の中の重要なる一つである(Tコリ12:9)。
辞解
[みな] ▲口語訳の「全部のものが一人残らず」は強すぎる。
要義 [治病の能力]信仰の熾烈なる時、それが治病の能力となって顕われる事は必ずしも基督教のみに限られた現象ではない、蓋し疾病の要素の大部分が精神的欠陥であるとすれば、信仰の力によりて病が癒される事は当然の事実である。唯多くの宗教に於ては治病の力を有する人間そのものが崇められるに反し、基督教に於ては神が崇められる。之れ治病の能力が聖霊の賜物なるが故である。

2-3-2 使徒たちの投獄とその奇蹟的脱出 5:17 - 5:32

5章17節 (ここ)(だい)祭司(さいし)および(これ)(とも)なる(もの)(すなは)ちサドカイ()人々(ひとびと)、みな(ねたみ)滿(みた)されて()ち、[引照]

口語訳そこで、大祭司とその仲間の者、すなわち、サドカイ派の人たちが、みな嫉妬の念に満たされて立ちあがり、
塚本訳すると大祭司と、その一派の者すなわちサドカイ派の者全体とは、(これを見て烈しい)嫉妬にかられて立ち上がり、
前田訳大祭司とその仲間全体は当時サドカイ派であったが、嫉妬にかられて立ち上がり、
新共同そこで、大祭司とその仲間のサドカイ派の人々は皆立ち上がり、ねたみに燃えて、
NIVThen the high priest and all his associates, who were members of the party of the Sadducees, were filled with jealousy.

5章18節 使徒(しと)たちに()をかけて(これ)留置場(とめおきば)()る。[引照]

口語訳使徒たちに手をかけて捕え、公共の留置場に入れた。
塚本訳使徒たちに手をかけて(捕え、)国の牢屋に入れた。
前田訳使徒たちに手をかけて公の留置場に入れた。
新共同使徒たちを捕らえて公の牢に入れた。
NIVThey arrested the apostles and put them in the public jail.
註解: 大祭司アンナス(使4:6)及び復活を否定するサドカイ派の人々はペテロとその一党の隆々たる勢力に深き嫉妬を以て満たされた。由来嫉妬は宗教家の特徴である。彼らは真理を求めずして自己の利益を求め真理を腕力を持って圧迫せんとし弟子たちを公けの留置場に入れた。
辞解
[派] hairesisは「選択」「選択せられしもの」の意味より転じて「選択せられし意見」にも用いられ、「主義」なる訳語が最も適合している様である。(▲このhairesisはheresy(異端)の原語。)サドカイ主義の人々は復活を否定した。

5章19節 (しか)るに(しゅ)使(つかひ)(よる)(ひとや)()をひらき、(かれ)らを()()して()ふ、[引照]

口語訳ところが夜、主の使が獄の戸を開き、彼らを連れ出して言った、
塚本訳しかし主の使が夜、牢の戸をあけ、使徒たちをつれだして言った、
前田訳しかし主の使いが夜、牢の戸をあけ、彼らを連れ出していった、
新共同ところが、夜中に主の天使が牢の戸を開け、彼らを外に連れ出し、
NIVBut during the night an angel of the Lord opened the doors of the jail and brought them out.

5章20節 ()きて(みや)()ち、この生命(いのち)(ことば)をことごとく(たみ)(かた)れ』[引照]

口語訳「さあ行きなさい。そして、宮の庭に立ち、この命の言葉を漏れなく、人々に語りなさい」。
塚本訳「行け、そして宮に出ていって、この命の言葉をのこらず民衆に語れ。」
前田訳「行って宮の中に立ち、このいのちのことばをすべて民に語りなさい」と。
新共同「行って神殿の境内に立ち、この命の言葉を残らず民衆に告げなさい」と言った。
NIV"Go, stand in the temple courts," he said, "and tell the people the full message of this new life."
註解: 使徒たちはかくも易々と主の使の手によりて留置場より脱出した。かかる奇蹟的救出は(使12章参照)使徒たちに取りては異とするに足らなかった事柄である為に、極めて淡々たる叙述を以て之を録したのであろう。訊問の際にこの事が問題とならなかった為、又は後に再び捕われた為、この釈放は無用の事であったとしてこの事実を否定する説、又はこの事実を地震、雷等の天災の為とか又は親切なる友人の(ひそ)かな援助によるものと解する説は根拠が無い。又之を12章の物語の重複とも見る事が出来ない。この記事の歴史的精確さは問題となり得るけれども、以上の如き説明を以て之を変更又は抹消し去る事は出来ない。主の使が彼らを釈放せる目的は「生命の言」を語らしめんが為であった。福音は永遠の生命なるキリストの言であり又このキリストに関する言である。
辞解
[この生命の言] 「この生命」と殊に強く指示せるものと解す(E0)。但し之を「生命に関するこれ等の言」と解する説もある(ヴイーネル、M0、B1)。

5章21節 かれら(これ)()き、夜明(よあけ)がた(みや)()りて(をし)ふ。[引照]

口語訳彼らはこれを聞き、夜明けごろ宮にはいって教えはじめた。一方では、大祭司とその仲間の者とが、集まってきて、議会とイスラエル人の長老一同とを召集し、使徒たちを引き出してこさせるために、人を獄につかわした。
塚本訳彼らはこれを聞き、夜の明けるのを待って宮に入って教えはじめた。その時、大祭司とその一派の者とは集まってきて、最高法院とイスラエルの子孫の全長老会議とを召集した。そして使徒たちを引き出すために、牢屋に人をやった。
前田訳彼らはこれを聞き、夜明けに宮に入って教えはじめた。
新共同これを聞いた使徒たちは、夜明けごろ境内に入って教え始めた。一方、大祭司とその仲間が集まり、最高法院、すなわちイスラエルの子らの長老会全体を召集し、使徒たちを引き出すために、人を牢に差し向けた。
NIVAt daybreak they entered the temple courts, as they had been told, and began to teach the people. When the high priest and his associates arrived, they called together the Sanhedrin--the full assembly of the elders of Israel--and sent to the jail for the apostles.
註解: かれらは何をも恐れず、主の命じ給える使命にしたがい、生命の言を宮に於て語った。「夜明がた」は夜の明くるを待ち兼ねた為であろう。但し日中暑き時には人々は早朝宮に集る習慣が有った為かも知れない。

(だい)祭司(さいし)および(これ)(とも)なる(もの)ども(つど)ひきたりて議會(ぎくわい)とイスラエル(びと)元老(げんらう)とを()びあつめ、使徒(しと)たちを()(きた)らせんとて、(ひと)牢舍(らうや)(つかは)したり。

註解: 彼らは使徒たちの脱出の事実を知らずに議会を召集した。神に逆う者は勝つ事が出来ない。
辞解
[イスラエルの元老] 「議会」の別名と見るか---この場合「議会即ち」と訳す---又は之を議会の議員に加へて更にイスラエルの老人株を召集したものと見るかにつき説が分れる。後説を採る。この会議の重要さを示さんが為に附加したものであろう。但し「元老」gerousia を議会 synedrion の別名に用いし例は七十人訳にもその他にも見出される。

5章22節 下役(したやく)ども()きしに、(ひとや)のうちに(かれ)らの()らぬを()て、(かへ)りきたり()げて()ふ、[引照]

口語訳そこで、下役どもが行って見ると、使徒たちが獄にいないので、引き返して報告した、
塚本訳下役らが行って見ると、彼らは牢の中にいないので、引き返してきて報告した、
前田訳下役らが行ってみると、彼らが牢に見当たらないので、引き返して
新共同下役たちが行ってみると、使徒たちは牢にいなかった。彼らは戻って来て報告した。
NIVBut on arriving at the jail, the officers did not find them there. So they went back and reported,

5章23節 『われら牢舍(らうや)(かた)()ぢられて、()(まへ)牢番(らうばん)()ちたるを()しに、(ひら)きて()れば、(うち)には(たれ)()らざりき』[引照]

口語訳「獄には、しっかりと錠がかけてあり、戸口には、番人が立っていました。ところが、あけて見たら、中にはだれもいませんでした」。
塚本訳「牢屋はとてもしっかり錠がかかっていて、戸の前にはそれぞれ牢番が立っていました。しかしあけて見ると、中にはだれもいませんでした。」
前田訳告げた、「牢屋は完全に錠がかけてあって、戸口には番人が立っていました。しかし、あけて見ると、中にはだれも見当たりませんでした」と。
新共同「牢にはしっかり鍵がかかっていたうえに、戸の前には番兵が立っていました。ところが、開けてみると、中にはだれもいませんでした。」
NIV"We found the jail securely locked, with the guards standing at the doors; but when we opened them, we found no one inside."
註解: 使徒たちの脱出は神の力により全然奇蹟的に行われた事を知る事が出来る。神の為し給う事は人の目に奇しとする処である。

5章24節 宮守頭(みやもりがしら)および祭司長(さいしちゃう)ら、この(ことば)()きて如何(いか)になりゆくべきかと、(まど)ひいたるに、[引照]

口語訳宮守がしらと祭司長たちとは、この報告を聞いて、これは、いったい、どんな事になるのだろうと、あわて惑っていた。
塚本訳宮の守衛長も大祭司連もこの言葉を聞くと、これはいったいどうなることかと、彼らのことですっかり不安になっていた。
前田訳宮の守衛長や大祭司らはこのことばを聞くと、これが一体どうなることかと、彼らのことでとまどった。
新共同この報告を聞いた神殿守衛長と祭司長たちは、どうなることかと、使徒たちのことで思い惑った。
NIVOn hearing this report, the captain of the temple guard and the chief priests were puzzled, wondering what would come of this.

5章25節 (ある)(ひと)きたり()げて()ふ『()よ、(なんぢ)らの(ひとや)()れし(ひと)は、(みや)()ちて(たみ)(をし)()るなり』[引照]

口語訳そこへ、ある人がきて知らせた、「行ってごらんなさい。あなたがたが獄に入れたあの人たちが、宮の庭に立って、民衆を教えています」。
塚本訳ところへ人が来て、「御覧なさい、あなた方が牢に入れた人たちは、(いま)宮に立って民衆を教えています」と報告した。
前田訳そこへ人が来て知らせた、「ごらんなさい、あなた方が牢に入れた人たちは、宮の中に立って民を教えています」と。
新共同そのとき、人が来て、「御覧ください。あなたがたが牢に入れた者たちが、境内にいて民衆に教えています」と告げた。
NIVThen someone came and said, "Look! The men you put in jail are standing in the temple courts teaching the people."
註解: 議会の議事に与る人々は、使徒たちの奇蹟的脱獄をきき、その異常なる力を見て恐怖逡巡(しゅんじゅん)した。堅固なるユダヤ教の陣営が僅かに十二人の使徒によりて揺り動かされているのである。聖霊の力の満つる処世界を動かすの力がある。然るに使徒たちは福音を宣ぶる事以外に何も無く、自己の安全を求むる如き心は全く無かった。夫故に再び捕えられ、前よりも多くの危険にさらされる処の多分にある事を知りつつも、彼らは神の使の御言に従い平気で又々宮の中に民を教えていた。彼らの眼中には唯福音を宣伝うる以外に何も無かったのである。

5章26節 (ここ)宮守頭(みやもりがしら)下役(したやく)(ともな)ひて()でゆき、(かれ)らを()(きた)る。されど手暴(てあら)きことをせざりき、これ(たみ)より(いし)にて()たれんことを(おそ)れたるなり。[引照]

口語訳そこで宮守がしらが、下役どもと一緒に出かけて行って、使徒たちを連れてきた。しかし、人々に石で打ち殺されるのを恐れて、手荒なことはせず、
塚本訳そこで守衛長は下役を連れて行って、彼らを(宮から)引いてきた。しかし手荒いことはしなかった。(民衆が同情を寄せているので、)自分たち(の方)が石で打ち殺されはしないかと、民衆を恐れたのである。
前田訳そこで守衛長は下役を連れて出かけ、彼らを連れてきたが、手荒くはしなかった。それは自分たちが民に石打ちされないかとおそれたからである。
新共同そこで、守衛長は下役を率いて出て行き、使徒たちを引き立てて来た。しかし、民衆に石を投げつけられるのを恐れて、手荒なことはしなかった。
NIVAt that, the captain went with his officers and brought the apostles. They did not use force, because they feared that the people would stone them.
註解: 宮守頭等の態度は飽く迄も政治家的であって人民の動向を見るに(さと)い。当時の人民は使徒たちに対しそれほどの熱心を示していた。即ち使徒たちが宮守頭や下役より暴行を受けなかったのは、彼らが使徒たちを尊敬したからでは無かった。尚当時ローマの政権の下にありながらユダヤ人の祭司等にある程度の警察権が与えられていた。

5章27節 (かれ)らを()(きた)りて議會(ぎくわい)(なか)()てたれば、(だい)祭司(さいし)()ひて()ふ、[引照]

口語訳彼らを連れてきて、議会の中に立たせた。すると、大祭司が問うて
塚本訳彼らを引いてくると、法院(の真中)に立たせた。大祭司が問うた、
前田訳彼らを連れてきて法院の中に立たせた。大祭司は彼らにたずねた、
新共同彼らが使徒たちを引いて来て最高法院の中に立たせると、大祭司が尋問した。
NIVHaving brought the apostles, they made them appear before the Sanhedrin to be questioned by the high priest.

5章28節 我等(われら)かの()によりて(をし)ふることを(かた)(きん)ぜしに、()よ、(なんぢ)らは()(をしへ)をエルサレムに滿(みた)し、かの(ひと)()(われ)らに()はせんと((ほつ))す』[引照]

口語訳言った、「あの名を使って教えてはならないと、きびしく命じておいたではないか。それだのに、なんという事だ。エルサレム中にあなたがたの教を、はんらんさせている。あなたがたは確かに、あの人の血の責任をわたしたちに負わせようと、たくらんでいるのだ」。
塚本訳「あの(男の)名を使って教えてはならぬと(あれほど)堅く申し付けておいたのに、こんなにエルサレム(中)をお前たちの教義で一ぱいにしてしまった。お前たちはあの男の(流した)血(に対する罰)をわれわれに負わせようと思っているのだろう。」
前田訳「あの人の名を使って教えてはならぬときびしく命じておいたのに、このようにエルサレムをお前らの教えでいっぱいにした。そしてお前らはあの人の血の責任をわれらに負わせようとしているのではないか」と。
新共同「あの名によって教えてはならないと、厳しく命じておいたではないか。それなのに、お前たちはエルサレム中に自分の教えを広め、あの男の血を流した責任を我々に負わせようとしている。」
NIV"We gave you strict orders not to teach in this name," he said. "Yet you have filled Jerusalem with your teaching and are determined to make us guilty of this man's blood."
註解: 使徒たちに対する論告は二つの点よりなされた。その一は上司の命令(使4:18)に違反せる事、その二はイエスの殺戮の罪を大祭司等に負わせんと欲した事であった。前者に対する答弁は29節後半、後者に対しては30、31節、而して32節はこの両者に対する答弁である。
辞解
[かの名] 「イエス」と云わなかったのは之をロにするだに()んだのであろう。
[負わせんと(欲)す] と言いて使徒たちの悪意を責めているけれども、使徒たちにはかかる悪意はなく唯事実を事実として宣べたのみであった。

5章29節 ペテロ(およ)(ほか)使徒(しと)たち(こた)へて()ふ『(ひと)(したが)はんよりは(かみ)(したが)ふべきなり。[引照]

口語訳これに対して、ペテロをはじめ使徒たちは言った、「人間に従うよりは、神に従うべきである。
塚本訳ペテロを始め使徒たちが答えて言った、「人は人間(の命令)よりも神(の命令)の方に従うべきであります(から、神の命令にわたし達は従っているのです)。
前田訳ペテロはじめ使徒たちはいった、「人よりも神に従うべきです。
新共同ペトロとほかの使徒たちは答えた。「人間に従うよりも、神に従わなくてはなりません。
NIVPeter and the other apostles replied: "We must obey God rather than men!
註解: 使4:19よりも一層断定的に彼らの態度を明にし、彼らがイエス・キリストを宣伝うる所以は、神の命に従っているのであって如何なる権力者と雖も彼等を沈黙せしむる事が出来ない事を断言しているのである。尚お要義参照。

5章30節 (われ)らの先祖(せんぞ)(かみ)はイエスを(おこ)(たま)ひしに、(なんぢ)らは(これ)()()けて(ころ)したり。[引照]

口語訳わたしたちの先祖の神は、あなたがたが木にかけて殺したイエスをよみがえらせ、
塚本訳わたし達の先祖の神は、あなた方が(十字架の)“木にかけて”殺害したイエスを復活させられました。
前田訳われらの先祖の神は、あなた方が木にかけて殺したイエスを復活させたまいました。
新共同わたしたちの先祖の神は、あなたがたが木につけて殺したイエスを復活させられました。
NIVThe God of our fathers raised Jesus from the dead--whom you had killed by hanging him on a tree.
註解: 彼らがその名に於て語る事を禁止したイエスこそ使徒たちに取りて最も大切なる神の子メシヤであり、従って之を十字架に付けて殺したイスラエルの罪は神を拒む最大の罪である。
辞解
[我らの先祖] と言いてペテロにユダヤ教より分離せんとの意思なかりし事を自然に示している。
[起す] egeirô は之を「甦えらしむる」と訳すべしとする説が多い(C2、A1、M0、H0、W2、W1等)けれども日本訳の如く之を「起す」と解する説もある(B1、C1、E0)。第一説を取り「---神は汝らが木に懸けて殺したるイエスを甦らせ給えり」の方が相手を攻撃する力が強い様に思われる。尚お使3:26註参照。
[殺す] diacheirizomai は「手づから殺す」「手をかけて殺す」の意、ユダヤ人の罪の大さを表す。
[木] 「十字架」と云わなかったのは、木にかけられる事はユダヤに於て「呪われる事」を意味するからである。(ガラ3:13申21:23

5章31節 (かみ)(かれ)(きみ)とし救主(すくひぬし)として(おの)(みぎ)にあげ、悔改(くいあらため)(つみ)(ゆるし)とをイスラエルに(あた)へしめ(たま)ふ。[引照]

口語訳そして、イスラエルを悔い改めさせてこれに罪のゆるしを与えるために、このイエスを導き手とし救主として、ご自身の右に上げられたのである。
塚本訳この方を神は、イスラエルに悔改めと罪の赦しとを与えるために、(命の)先達また救い主として御自分の右に挙げられたのです。
前田訳この方を神は、イスラエルに悔い改めと罪の許しとを与えるために、指導者また救い主として御自らの右にお挙げでした。
新共同神はイスラエルを悔い改めさせ、その罪を赦すために、この方を導き手とし、救い主として、御自分の右に上げられました。
NIVGod exalted him to his own right hand as Prince and Savior that he might give repentance and forgiveness of sins to Israel.
註解: 私訳「神はイスラエルに悔改と罪の赦とを与えん為に彼を君とし救主とし己が右にあげ給えり」神はイエスを甦らしめ給えるのみならず彼を昇天せしめその右に坐せしめ給うた、これイスラエルの罪を審かん為ではなく、イスラエルをして悔改めしめ、之に罪の赦を与へんが為であった。「このイエスこそ汝らの救主に在し給うたのである」と言いてペテロは最後に強き一突を敵の喉元に与えている。尚「神の右に」ついては使2:33辞解参照。

5章32節 (われ)らは()(こと)證人(しょうにん)なり。[引照]

口語訳わたしたちはこれらの事の証人である。神がご自身に従う者に賜わった聖霊もまた、その証人である」。
塚本訳わたし達はこれらの事柄の証人であります。神が御命令に従う者にお与えになる聖霊も、同じくその証人であります。」
前田訳われらはこれらの事どもの証人です。神が御自らに従うものにお与えの聖霊もまたその証人です」と。
新共同わたしたちはこの事実の証人であり、また、神が御自分に従う人々にお与えになった聖霊も、このことを証ししておられます。」
NIVWe are witnesses of these things, and so is the Holy Spirit, whom God has given to those who obey him."
註解: イスラエルに取りて、否全人類に取りてこれ程重大なる問題はない。我らはその証人として神に召されし者である。如何にして黙する事が出来ようか、我らが語っているのは汝らにイエスの血を流せる罪を負わしめんとする如き動機からでない(28節参照)。
辞解
[この事] 「これらの言葉」で「これらの事柄」の意。

(かみ)のおのれに(したが)(もの)(たま)(せい)(れい)もまた(しか)り』

註解: イエスがキリストである事は聖霊を与えられて始めて之を知る事が出来る。故に聖霊は以上の事柄の証人である。ペテロはかく言いてペンテコステの日の聖霊降下の事実を暗示し、祭司等に対する証拠とした。
要義 [上司に対する服従の限界]ユダヤ人の議会即ち sanhedrim は祭司、学者、長老等より成る最高法院で当時に於ても宗教上の事物に関しては最上の権力保持機関であった(マタ5:22辞解参照)。上にある権威に従うべき事を命じているペテロが(Tペテ2:13)何故に祭司等の命令(使4:18)に従わなかったのであるか。それはペテロに取ってはイエスを宣伝うる事は明かに神の命であると確信したので、この神の命に反する事を命ずる祭司等は、その職務違反の事又職務以外の事を命じていると信じたからであった。神に立てられたる権力者がその権限の範囲を超えて神の国の領域までその手を伸ぶる時、神の民は之に服従する義務から免ぜられるのは当然である。その処では神に従うべきであって人に従うべきではない。

2-3-3 ガマリエル使徒たちを救う 5:33 - 5:42

5章33節 かれら(これ)をききて(いかり)滿()ち、使徒(しと)たちを(ころ)さんと(おも)へり。[引照]

口語訳これを聞いた者たちは、激しい怒りのあまり、使徒たちを殺そうと思った。
塚本訳これを聞いた者たちは真赤になっておこり、彼らを殺そうと思った。
前田訳これを聞いた者たちは怒り狂って彼らを殺そうと思った。
新共同これを聞いた者たちは激しく怒り、使徒たちを殺そうと考えた。
NIVWhen they heard this, they were furious and wanted to put them to death.
註解: 大祭司始め長老たちはペテロによりて神に対する反逆者たる烙印を押されたので彼らの誇は粉砕され、その怒骨髄に徹した。彼らは使徒たちを殺さずに置く事が出来なかった程の忿怒であった。
辞解
[怒に満ち] 原語 diapriô は「(のこぎり)を以て挽き割く」事を意味し(のこぎり)にて挽かれる程の苦痛を感じた事を意味す(ヘブ4:12)。
[思えり] 「欲せり」の意、異本には「相談せり」なる文字を用うるものもある。

5章34節 (しか)るにパリサイ(びと)にて(すべ)ての(たみ)(たふと)ばるる教法(けうほふ)學者(がくしゃ)ガマリエルと()ふもの、議會(ぎくわい)(なか)()ち、(めい)じて使徒(しと)たちを(しばら)(そと)(いだ)さしめ、議員(ぎゐん)らに(むか)ひて()ふ、[引照]

口語訳ところが、国民全体に尊敬されていた律法学者ガマリエルというパリサイ人が、議会で立って、使徒たちをしばらくのあいだ外に出すように要求してから、
塚本訳そのとき、ガマリエルという、パリサイ人で、全国民に尊敬されている律法学者である人が法院に立ち、その人たちを少しのあいだ外に出すようにと命じて、
前田訳そのとき、ガマリエルという名のパリサイ人で、律法学者として民全体に尊敬されている人が法院の中に立ち、その人たちをしばらく外に出すよう命じ
新共同ところが、民衆全体から尊敬されている律法の教師で、ファリサイ派に属するガマリエルという人が、議場に立って、使徒たちをしばらく外に出すように命じ、
NIVBut a Pharisee named Gamaliel, a teacher of the law, who was honored by all the people, stood up in the Sanhedrin and ordered that the men be put outside for a little while.
註解: このガマリエルは有名なるラビ・ヒレルの孫で議会の議員の一人であり、議長ではなかったけれども非常に有力なる一人であった事は歴史に録されている。彼はパウロの師であった(使22:3)。激烈なる性格のパウロが真理の前に正直であり、異邦人に対して同情を持ち得たのはこのガマリエルに負う所多いのであろう。35節以下の彼の態度を悪意に解し(サドカイ派に対する反感、基督者に対する秋波、偽善者等)ている学者もあるけれども、正当なる解釈ではない。

5章35節 『イスラエルの(ひと)よ、(なんぢ)らが()人々(ひとびと)()さんとする(こと)につきて(こころ)せよ。[引照]

口語訳一同にむかって言った、「イスラエルの諸君、あの人たちをどう扱うか、よく気をつけるがよい。
塚本訳それから言った、「イスラエル人諸君、諸君はあの人たちに何をしようとしているのか、よく考えてみるがよかろう。
前田訳皆にいった、「イスラエルの方々、この人々をどう扱うべきか、お気をつけなさい。
新共同それから、議員たちにこう言った。「イスラエルの人たち、あの者たちの取り扱いは慎重にしなさい。
NIVThen he addressed them: "Men of Israel, consider carefully what you intend to do to these men.
註解: 正しき人は重要なる機会にその同胞を罪より救う、但し多くの人の意向に反して正しき事を言う事は勇気を要する。

5章36節 (まへ)にチウダ(おこ)りて、(みづか)(おほい)なりと(しょう)し、(これ)附隨(つきしたが)(もの)(かず、)おほよそ()(ひゃく)(にん)なりしが、(かれ)(ころ)され、(したが)へる(もの)はみな(ちら)されて跡無(あとな)きに(いた)れり。[引照]

口語訳先ごろ、チゥダが起って、自分を何か偉い者のように言いふらしたため、彼に従った男の数が、四百人ほどもあったが、結局、彼は殺されてしまい、従った者もみな四散して、全く跡方もなくなっている。
塚本訳なぜなら、(御承知のとおり)さきごろチゥダが立って、自分を何か(えらい者)のように言いふらしたので、彼に付いた男の数が四百人ばかりもあったが、(間もなく)チゥダは殺され、その口車に乗った者は皆、散って跡形もなくなったからである。
前田訳先ごろチゥダが立って、自らをひとかどのもののようにいったので、彼について行った男の数はおよそ四百人ほどでした。しかし彼は殺され、従ったものは皆散らされて、何もなくなりました。
新共同以前にもテウダが、自分を何か偉い者のように言って立ち上がり、その数四百人くらいの男が彼に従ったことがあった。彼は殺され、従っていた者は皆散らされて、跡形もなくなった。
NIVSome time ago Theudas appeared, claiming to be somebody, and about four hundred men rallied to him. He was killed, all his followers were dispersed, and it all came to nothing.
註解: ガマリエルは実例を以て議会を説得せんとして先づチウダの例を引用した。政治や宗教が混沌としている時代には、チウダの如き野心家が起って政治界や宗教界を攪乱する事が多い。しかしガマリエルの言いし如く、神より出でざるものは真に偉大なる事を為す事が出来ない。
辞解
[チウダ] ヨセフスの歴史に預言者と自称するチウダなる反逆者に関しこの記事に類似せる記事があるけれどもその年代は紀元44年以後の事であって年代が一致しない、従って(1)本節の記事は同名異人に関する別の事件であるか、(2)ヨセフスが誤謬に陥ったのであるか、(3)ルカが誤った伝説をそのまま記載したのであるか、或は(4)この種の事件が当時しばしば起ったのでその一つがチウダの名によりて伝ったのであるか種々に考えられるけれどもその中の一も確証を得る事が出来ない。

5章37節 そののち戸籍(こせき)登録(とうろく)のときガリラヤのユダ(おこ)りて(おほ)くの(たみ)(さそ)ひ、おのれに(したが)はしめしが、(かれ)(ほろ)(したが)へる(もの)もことごとく(ちら)されたり。[引照]

口語訳そののち、人口調査の時に、ガリラヤ人ユダが民衆を率いて反乱を起したが、この人も滅び、従った者もみな散らされてしまった。
塚本訳彼のあとで、人口調査の時にガリラヤ人ユダが立って、民衆を自分の方におびき寄せて(謀反させ)た。しかし彼(自身)も滅び、その口車に乗った者は皆、(蜘蛛の子のように)ちりぢりになってしまった。
前田訳その後人口調査のとき、ガリラヤ人ユダが立って、民をさそってそむかせましたが、彼も滅び、従ったものは皆散らされました。
新共同その後、住民登録の時、ガリラヤのユダが立ち上がり、民衆を率いて反乱を起こしたが、彼も滅び、つき従った者も皆、ちりぢりにさせられた。
NIVAfter him, Judas the Galilean appeared in the days of the census and led a band of people in revolt. He too was killed, and all his followers were scattered.
註解: 紀元6年ユダヤはシリヤの一州としてローマ帝国の一部となり、クレニオ、シリヤの總督来りて戸籍登録を行った(ルカ2:1、2の戸籍登録は之より以前の出来事である)之に反対してユダが起ち人民を煽動してロマの政府に反対せしめんとした事があった。ヨセフスはこのユダを或はガマラのユダと称し或はガリラヤのユダとも呼ぶ。ガマラはガリラヤの市邑と考えられたからである。いわゆる熱心党は之より起った。チウダは宗教的の一揆でありユダは政治的の一揆である。而してこの双方とも不成功に終った。

5章38節 ()れば(いま)なんぢらに()ふ、この人々(ひとびと)より(はな)れて、その()すに(まか)せよ。()しその企圖(くわだて)その所作(しわざ)(ひと)より()でたらんにはおのづから(たぶ)れん。[引照]

口語訳そこで、この際、諸君に申し上げる。あの人たちから手を引いて、そのなすままにしておきなさい。その企てや、しわざが、人間から出たものなら、自滅するだろう。
塚本訳だから今のところ、わたしは諸君に言う。あの人たちから手を引いて、(そっと)放っておきなさい。それは、もしあの企てやすることが人間(の考え)から出たものならば、(手を下すまでもなくひとりでに)ほろびるであろうし、
前田訳それで今申しますが、あの人々から手を引いて、放ってお置きなさい。もしその計画や行動が人から出たものならば、自滅するでしょう。
新共同そこで今、申し上げたい。あの者たちから手を引きなさい。ほうっておくがよい。あの計画や行動が人間から出たものなら、自滅するだろうし、
NIVTherefore, in the present case I advise you: Leave these men alone! Let them go! For if their purpose or activity is of human origin, it will fail.

5章39節 もし(かみ)より()でたらんには(かれ)らを(やぶ)ること(あた)はず、(おそ)らくは(なんぢ)(かみ)(てき)する(もの)とならん』[引照]

口語訳しかし、もし神から出たものなら、あの人たちを滅ぼすことはできまい。まかり違えば、諸君は神を敵にまわすことになるかも知れない」。そこで彼らはその勧告にしたがい、
塚本訳神から出たものなら、(どんなにしても)彼らをほろぼすことは出来ないのだから。そうでないと、諸君は神に手向かう者にならぬとはかぎらない。」そこで彼らはその勧告に従って、
前田訳しかしもし神から出たものならば、あなた方は彼らを滅ぼすことはできますまい。ことによると、あなた方は神に敵するものになります」と。彼らは説得され、
新共同神から出たものであれば、彼らを滅ぼすことはできない。もしかしたら、諸君は神に逆らう者となるかもしれないのだ。」一同はこの意見に従い、
NIVBut if it is from God, you will not be able to stop these men; you will only find yourselves fighting against God."
註解: このガマリエルの判断及び態度は宗教に対する政策の上乗なるものと云う事が出来る。即ち一の宗教運動は、それが治安を害し公序良俗を損せざる限り、自由放任の政策に出づべしと云うのである。もしそれが人間の智慧や慾求の所産であるならば、敢て之を弾圧するを要せずして皆壊滅に帰するであろう、又は弾圧の必要を生じて来たならばその時でも遅くは無いであろう。しかしながらもしそれが神より出でしものであるならば人間の力は之を如何ともする事が出来ず、又強て之を弾圧するならば神の敵となり、神に対して戦う事となる。キリストの福音があらゆる迫害を通過して今日に至ったのも、それが神より出づる事の証拠である。今後と雖も真の信仰は神の守護の下に永遠に死なない。尚ガマリエルに就ては彼が異邦人や異教徒に対する同情ある賢明なる所置を為せる事が記録に残って居り、又柔和にして寛大なる性格につき録されているのである。尚お彼が基督者となったとの伝説があるけれども信じ難い。

5章40節 (かれ)()その勸告(すすめ)にしたがひ、(つい)使徒(しと)たちを()(いだ)して(これ)(むち)うち、イエスの()によりて(かた)ることを(かた)(きん)じて(ゆる)せり。[引照]

口語訳使徒たちを呼び入れて、むち打ったのち、今後イエスの名によって語ることは相成らぬと言いわたして、ゆるしてやった。
塚本訳使徒たちを呼びいれて(鞭で)打ち、(今後決して)イエスの名を使って話をしてはならないと命令して、釈放した。
前田訳使徒たちを呼びよせて鞭うち、イエスの名によって語るなと命じて釈放した。
新共同使徒たちを呼び入れて鞭で打ち、イエスの名によって話してはならないと命じたうえ、釈放した。
NIVHis speech persuaded them. They called the apostles in and had them flogged. Then they ordered them not to speak in the name of Jesus, and let them go.
註解: 彼等はガマリエルに説服された。唯使徒たちを理由無しに尋問した事となるのは甚だ拙であるのみならず彼等の心の怒は中々解けず、結局使徒たちを笞刑(ちけい)に処して放免した、問題は使徒等が「イエスの名によりて語る事を堅く禁じられた」時に如何に返答したかの点である。ルカはこの事を記載せず唯彼らが釈放されるや否や直ちにイエスのキリストなる事を宣伝えて止まざる事(42節)を記しているに止まる。察する処使徒たちは祭司等の命令に対し沈黙して返答を与えなかったのではあるまいか。

5章41節 使徒(しと)たちは御名(みな)のために(はづか)しめらるるに相應(ふさは)しき(もの)とせられたるを(よろこ)びつつ、議員(ぎゐん)らの(まへ)()でされり。[引照]

口語訳使徒たちは、御名のために恥を加えられるに足る者とされたことを喜びながら、議会から出てきた。
塚本訳さて、彼らは御名のために恥を受けるに足る者とされたことを喜びながら、法院から出ていった。
前田訳彼らはみ名のためはずかしめられるに値するものとされたので、よろこんで法院から出て行った。
新共同それで使徒たちは、イエスの名のために辱めを受けるほどの者にされたことを喜び、最高法院から出て行き、
NIVThe apostles left the Sanhedrin, rejoicing because they had been counted worthy of suffering disgrace for the Name.
註解: イエスより斯くあるべしと教えられし使徒たちは(マタ5:10-12)それが実現して、イエスの御名の為に辱しめられるに相応しき者とせられし事を却て喜んだ。最も崇高なる歓喜である、彼らは天に於ける報を疑はなかったからである。基督者は常に御名の為に辱しめられるに至らなければならぬ。

5章42節 (かく)日毎(ひごと)(みや)また(いへ)にて(をしへ)をなし、イエスのキリストなる(こと)宣傳(のべつた)へて()まざりき。[引照]

口語訳そして、毎日、宮や家で、イエスがキリストであることを、引きつづき教えたり宣べ伝えたりした。
塚本訳そして毎日、宮や家々で教えること、すなわち救世主イエスの福音を伝えることを、やめなかった。
前田訳そしていつの日も宮や家で教え、キリストであるイエスをのべ伝えることを止めなかった。
新共同毎日、神殿の境内や家々で絶えず教え、メシア・イエスについて福音を告げ知らせていた。
NIVDay after day, in the temple courts and from house to house, they never stopped teaching and proclaiming the good news that Jesus is the Christ.
註解: 使徒たちの態度は以前と少しも異らず宮にて又家々にてイエスを宣伝えて止まなかった。これが彼らの神より命ぜられし使命であったからである。斯くして彼らは死に至るまでその使命に忠実であった。
辞解
[家にて] 「家々にて」と訳する事も出来、その方が優っている(使2:46註。使20:20参照)。
要義1 [ガマリエルの宗教行政論]ガマリエルの方針は絶対的自由放任主義の如くであるけれども、その例証として挙げし二つの場合は何れも軍隊の干渉によりて破滅に帰したのであって、必ずしも絶対無干渉を主義とするものと見る事が出来ない。ガマリエルの思想は、ある宗教が神よリ出づるものであるならば如何なる権力の圧迫によりても之を滅す事が出来ず、反対にそれが人より出づるものであるならば之を自由に放任して置いてもやがてはそれは社会の公序良俗、安寧秩序に関する点に於て破滅の原因を作るに至り、自然に国家的又は社会的に排撃されるに至るとの意味であらう。もし然りとすればこの考は基督教的に考察して正しき態度であると云わなければならぬ。何となれば信仰の世界は純粋に内面的霊的問題であって、之を人間の制度や規則を以て律する事は出来ず、従って政治的の問題となり得ない。之は神と人間とのみの対立の世界であって他の人間によりて判断せられ得ない場所である。しかしながらこの信仰が種々の形に於て外部に表はれる時、そこには政治上の問題を起し得るのであって、この場合は絶対無干渉主義は成立たない。社会の安寧秩序を乱し公序良俗に反するものは権力の干渉を必要とする。カルヴインはガマリエルのこの放任の態度を非難しているけれども、それはカルヴインが信仰そのものまでも政治上の問題として取扱う事を神の御旨と考えたからであって、この点にカルヴインの誤謬がある。
要義2 [宗教と政治]宗教と政治とは互に相助けて行くべきである。宗教なしに政治のみにて社会は成立たず、反対に政治なしに宗教のみにて社会を治める事は出来ない。この両者は互に相助けて行くべきものである。しかしこの両者には各々独立の範囲がある。純粋に霊的の世界に対しては政治的権力の干渉は不可能であり又不適当である。政治は宗教の外的表題に対してのみ干与する事の必要と能力とを有するに過ぎない。信仰の自由はこの意味に於てあらゆる政治の根本原理でなければならないと同時に、信仰の対社会の影響が政治上の問題となる場合、即ち社会の安寧秩序を害し、公序良俗に反する場合は之を政治的権力を以て干捗する事も亦必要にして正当なる処置である。