使徒行伝第10章
分類
3 ユダヤ、サマリヤに於ける使徒の活動
8:1 - 10:47
3-6 ペテロとコルネリオ
10:1 - 10:48
3-6-1 コルネリオ幻象を見る
10:1 - 10:8
10章1節
口語訳 | さて、カイザリヤにコルネリオという名の人がいた。イタリヤ隊と呼ばれた部隊の百卒長で、 |
塚本訳 | さて、カイザリヤにコルネリオという人がいた。いわゆるイタリヤ部隊の百卒隊の百卒長で、 |
前田訳 | カイサリアにコルネリオという人がいた。イタリア隊と呼ばれる部隊の百卒長であった。 |
新共同 | さて、カイサリアにコルネリウスという人がいた。「イタリア隊」と呼ばれる部隊の百人隊長で、 |
NIV | At Caesarea there was a man named Cornelius, a centurion in what was known as the Italian Regiment. |
註解: カイザリヤはパレスチナの西、地中海岸にあり、ローマがパレスチナを占領した当時その主都となり、五大隊(一隊約六百人)の兵が駐屯していた。福音が先づ異邦人の主都に侵入する処にこの記事の特別の重要さがある。今日は荒廃に帰し僅にその遺跡を止 む。
イタリヤ
註解: 駐屯軍は多く土人の兵卒であったが中にはイタリヤ隊と称えイタリヤ兵より成る軍隊も交っていた。
辞解
[隊] speira は一レギオン(約六千人)の十分の一の隊である。即ち約六百人で百人隊の六隊より成る。コルネリオはこの百人隊の長であった。
10章2節
口語訳 | 信心深く、家族一同と共に神を敬い、民に数々の施しをなし、絶えず神に祈をしていた。 |
塚本訳 | 家族一同と共に、敬虔であり敬神家[なかばユダヤ教に帰依した者]であって、(ユダヤ)国民に多くの施しをし、また絶えず神に祈りをささげていた。 |
前田訳 | 一家とともに敬虔で神をおそれ、民衆に多くの施しをし、つねに神に祈りをしていた。 |
新共同 | 信仰心あつく、一家そろって神を畏れ、民に多くの施しをし、絶えず神に祈っていた。 |
NIV | He and all his family were devout and God-fearing; he gave generously to those in need and prayed to God regularly. |
註解: 彼は普通の異邦人であったけれども、ユダヤ人の宗教に接してその神に対する信仰と、人に対する慈悲とその祈祷による神との交りとに於て卓越せる人であった。放逸無頼を以て常道とせる当時の兵士の中にありて、こうした人が在った事は全く特例であった。但し新約聖書には百卒長を賞揚せる多くの物語がある(使27:3。マタ8:5。ルカ7:9。ルカ23:47)。
辞解
[神を畏れ、神を畏れる人] 半改宗者即ち門の改宗者を指す、使2:10参照。
[全家族とともに] 彼の信仰は全家族を支配しこれに好き影響を与えていた。
[民] イスラエルの民を指す(E0)
口語訳 | ある日の午後三時ごろ、神の使が彼のところにきて、「コルネリオよ」と呼ぶのを、幻ではっきり見た。 |
塚本訳 | ある日の昼の三時ごろ、幻で、神の使が自分の所に来て「コルネリオ!」と言うのを、はっきり見た。 |
前田訳 | ある日の午後三時ごろ、彼は幻ではっきり神の使いを見た。天使は彼のところに来て、「コルネリオよ」といった。 |
新共同 | ある日の午後三時ごろ、コルネリウスは、神の天使が入って来て「コルネリウス」と呼びかけるのを、幻ではっきりと見た。 |
NIV | One day at about three in the afternoon he had a vision. He distinctly saw an angel of God, who came to him and said, "Cornelius!" |
註解: 原文「第九時頃とおぼしく」とあり、ユダヤ人は日に三回(午前九時、正午、午後三時)、定刻の祈祷を実行していた。コルネリオもこれに倣 ったのであろう。
註解: 祈祷の中に顕れし神の使のまぼろしは特にその神聖さを高める。幻影なるがゆえに彼の覚醒せる感覚を以て明かに認識したのであって、何等不確実なる事なくまた迷妄に類する事はない。
10章4節
口語訳 | 彼は御使を見つめていたが、恐ろしくなって、「主よ、なんでございますか」と言った。すると御使が言った、「あなたの祈や施しは神のみ前にとどいて、おぼえられている。 |
塚本訳 | 彼は天使を見つめたが、こわくなって言った、「主よ、何の御用でしょう。」天使が言った、「あなたのかずかずの祈りと施しとは神のところまで上っていって、(受けいれられ)記念されている。 |
前田訳 | 彼は天使を見つめておそろしくなり、「主よ、何でしょうか」といった。天使はいった、「あなたの祈りや施しは神の前まで上っていって覚えられています。 |
新共同 | 彼は天使を見つめていたが、怖くなって、「主よ、何でしょうか」と言った。すると、天使は言った。「あなたの祈りと施しは、神の前に届き、覚えられた。 |
NIV | Cornelius stared at him in fear. "What is it, Lord?" he asked. The angel answered, "Your prayers and gifts to the poor have come up as a memorial offering before God. |
註解: 神の稜威の顕現は恐るべきものである。罪人はこれにたえる事が出来ない(イザ6:1)。然るに御使の言によればコルネリオの信仰と善行とは恰 も犠牲にささげられしものの煙が天に神の御座に上る如く、また聖徒の祈が神の御座に達する如くに(黙8:4)神の御前に上って行き神の記憶に止められているとの事である。彼のおどろきと喜悦とは如何ばかりであろう。神はこの種の異邦人を無視し給う事はない。
10章5節
口語訳 | ついては今、ヨッパに人をやって、ペテロと呼ばれるシモンという人を招きなさい。 |
塚本訳 | さあすぐヨッパに人をやって、通り名をペテロというシモンを招け。 |
前田訳 | それで今すぐ人をヨッパにやって、ペテロとも呼ばれるシモンという人を招きなさい。 |
新共同 | 今、ヤッファへ人を送って、ペトロと呼ばれるシモンを招きなさい。 |
NIV | Now send men to Joppa to bring back a man named Simon who is called Peter. |
10章6節
口語訳 | この人は、海べに家をもつ皮なめしシモンという者の客となっている」。 |
塚本訳 | その人はシモンという皮なめしのところに泊まっている。家は海岸にある。」 |
前田訳 | その人は皮なめし職人のシモンという人のところに泊まっています。その家は海べにあります」と。 |
新共同 | その人は、革なめし職人シモンという人の客になっている。シモンの家は海岸にある。」 |
NIV | He is staying with Simon the tanner, whose house is by the sea." |
註解: 是以上の事は示されなかったけれども、コルネリオはこの中に、深き神の御旨がある事を感じて畏れかしこんだ。
辞解
[海辺] 皮剥の仕事は今日も海岸で行われている。
10章7節
口語訳 | このお告げをした御使が立ち去ったのち、コルネリオは、僕ふたりと、部下の中で信心深い兵卒ひとりとを呼び、 |
塚本訳 | 天使がこう言って立ち去ると、コルネリオは僕二人と、従卒のうちの敬虔な兵卒一人とを呼び、 |
前田訳 | 天使が語って去ると、コルネリオは僕をふたりと、部下の中の敬虔な兵卒ひとりとを呼び、 |
新共同 | 天使がこう話して立ち去ると、コルネリウスは二人の召し使いと、側近の部下で信仰心のあつい一人の兵士とを呼び、 |
NIV | When the angel who spoke to him had gone, Cornelius called two of his servants and a devout soldier who was one of his attendants. |
註解: ▲「従卒中の敬虔なる者一人」は直訳すれば「彼の身近に仕えている者の中の一人の敬虔なる兵卒」となる。
口語訳 | いっさいの事を説明して聞かせ、ヨッパへ送り出した。 |
塚本訳 | (今あったことの)一部始終を話してきかせて、ヨッパにやった。 |
前田訳 | 事をのこらず説明して、ヨッパにつかわした。 |
新共同 | すべてのことを話してヤッファに送った。 |
NIV | He told them everything that had happened and sent them to Joppa. |
註解: 従卒中にも敬虔なる者を持っていた事、また彼らに凡ての事を委細話した事は、如何に彼の周囲が信仰的雰囲気に満ちていたかを示す。
辞解
[僕] oiketês は doulos よりも一層家族に近き地位を有するもの、従卒は部下の軍人。
10章9節
口語訳 | 翌日、この三人が旅をつづけて町の近くにきたころ、ペテロは祈をするため屋上にのぼった。時は昼の十二時ごろであった。 |
塚本訳 | 翌日、彼らが旅行をつづけて(ヨッパの)町に近づいた昼の十二時ごろ、ペテロは(いつもの通りに)祈りをしようとして、(平たい)屋根に上がった。 |
前田訳 | あくる日、彼らが旅をつづけて町に近づいたころ、ペテロは祈ろうと屋上に上った。昼の十二時ごろであった。 |
新共同 | 翌日、この三人が旅をしてヤッファの町に近づいたころ、ペトロは祈るため屋上に上がった。昼の十二時ごろである。 |
NIV | About noon the following day as they were on their journey and approaching the city, Peter went up on the roof to pray. |
註解: ペテロも丁度ユダヤ人の祈の時刻に屋上に於て祈らんとしたものであった。彼はユダヤ人の習慣の保存すべきものは皆これを保っていた。ユダヤ地方の屋上は平坦で其上を歩みまたはそこに休息する事が出来る。
辞解
[昼の十二時ごろ] 原語「第六時頃」
10章10節
口語訳 | 彼は空腹をおぼえて、何か食べたいと思った。そして、人々が食事の用意をしている間に、夢心地になった。 |
塚本訳 | 空腹をおぼえ、(何か)食べたいと思っていた。そして人々が(食事の)支度をしているあいだに、ペテロは我を忘れた心地がして、 |
前田訳 | 彼は空腹になって何か食べたく思った。人々が用意しているうちに彼は恍惚となり、 |
新共同 | 彼は空腹を覚え、何か食べたいと思った。人々が食事の準備をしているうちに、ペトロは我を忘れたようになり、 |
NIV | He became hungry and wanted something to eat, and while the meal was being prepared, he fell into a trance. |
10章11節
口語訳 | すると、天が開け、大きな布のような入れ物が、四すみをつるされて、地上に降りて来るのを見た。 |
塚本訳 | 天が開け、大きな布のような器物が下ってきて、四隅で地上に吊りおろされるのを見る。 |
前田訳 | 天が開けて大きな布のような器が下って来て、四隅で地上に吊り下されるの見る。 |
新共同 | 天が開き、大きな布のような入れ物が、四隅でつるされて、地上に下りて来るのを見た。 |
NIV | He saw heaven opened and something like a large sheet being let down to earth by its four corners. |
註解: 昼食時の食欲を利用して神はその御旨を示し給う。この時のペテロの精神状態は無我忘我超我の状態であった。
辞解
[我を忘れし心地して] 原語「ekstasisが起った」である。英語の ecstasy で普通の意識を超越せる意識に入り、平常に於て感じ得ざる事物を感得する特種の精神状態を言う。
[布] 風呂敷の如きものでその四隅を以て天より地に縋り下された。
10章12節 その
口語訳 | その中には、地上の四つ足や這うもの、また空の鳥など、各種の生きものがはいっていた。 |
塚本訳 | その中にはすべての地の四足と爬虫類と、空の鳥とが入っていた。 |
前田訳 | その中には地上の四つ足の動物、はうもの、空の鳥のあらゆる種類が入っていた。 |
新共同 | その中には、あらゆる獣、地を這うもの、空の鳥が入っていた。 |
NIV | It contained all kinds of four-footed animals, as well as reptiles of the earth and birds of the air. |
註解: レビ11:1-47。申14:4-20等に規定せられ汚れたる動物も皆この中に含まれていた。魚類が無いのは布の中に水無き故であろう。
10章13節 また
口語訳 | そして声が彼に聞えてきた、「ペテロよ。立って、それらをほふって食べなさい」。 |
塚本訳 | すると、「ペテロ、立って、これを殺して食べよ」という声がきこえてきた。 |
前田訳 | すると彼に声が聞こえた、「立て、ペテロ、これを殺して食べよ」と。 |
新共同 | そして、「ペトロよ、身を起こし、屠って食べなさい」と言う声がした。 |
NIV | Then a voice told him, "Get up, Peter. Kill and eat." |
10章14節 ペテロ
口語訳 | ペテロは言った、「主よ、それはできません。わたしは今までに、清くないもの、汚れたものは、何一つ食べたことがありません」。 |
塚本訳 | ペテロが言った、「主よ、決して!わたしは今までただの一度も、不浄なものと汚れたものとを何一つ食べたことがありませんから。」 |
前田訳 | ペテロはいった、「主よ、とんでもありません。わたしは今まで不浄のものと汚れたものを何ひとつ食べたことがありません」と。 |
新共同 | しかし、ペトロは言った。「主よ、とんでもないことです。清くない物、汚れた物は何一つ食べたことがありません。」 |
NIV | "Surely not, Lord!" Peter replied. "I have never eaten anything impure or unclean." |
註解: ペテロは此時も尚お旧約の規定に従い、禁止せられし食物を口に入れなかった。即ち基督者となりて後も尚ユダヤ人の守れる律法を厳守して居り、マコ7:19の主の御言にも関らず、尚この旧き習慣を棄てなかった。福音にはこの自由がある(ロマ14:2)。尚何ゆえにアブラハムの場合の如く、直ちに服従しなかったかに就ては、この命令を左程動かし難きものと感じなかったからであろう。
10章15節
口語訳 | すると、声が二度目にかかってきた、「神がきよめたものを、清くないなどと言ってはならない」。 |
塚本訳 | 声がまた二度目にきこえてきた、「神がお清めになったものを、あなたが不浄なものとしてはならない。」 |
前田訳 | するとまた声が二度目に聞こえた、「神がお清めのものを不浄としてはならない」と。 |
新共同 | すると、また声が聞こえてきた。「神が清めた物を、清くないなどと、あなたは言ってはならない。」 |
NIV | The voice spoke to him a second time, "Do not call anything impure that God has made clean." |
10章16節
口語訳 | こんなことが三度もあってから、その入れ物はすぐ天に引き上げられた。 |
塚本訳 | こんなことが三度あって、すぐ器物は天にあげられた。 |
前田訳 | このことが三度あって、器はすぐ天に上げられた。 |
新共同 | こういうことが三度あり、その入れ物は急に天に引き上げられた。 |
NIV | This happened three times, and immediately the sheet was taken back to heaven. |
註解: 神が旧約時代に於て食物に汚れたる物と潔き物とを区別し給える所以は、これによりてイスラエルと他民族との区別を日毎の事実を以て示さんとし給うたのであった。即ち汚れたる物を食う異邦人はイスラエルより見て汚れたる民である事となる。夫ゆえに食物に区別が無くなれば、自然イスラエルと異邦人との間の区別の理由が無くなる訳である。神はペテロに先づ食物を以て無差別の原理を示し給うた。
10章17節 ペテロその
口語訳 | ペテロが、いま見た幻はなんの事だろうかと、ひとり思案にくれていると、ちょうどその時、コルネリオから送られた人たちが、シモンの家を尋ね当てて、その門口に立っていた。 |
塚本訳 | ペテロがいま見た幻はいったい何(の意味)であろうかとひそかに思いとどまっていると、その時、コルネリオからの使がシモンの家を尋ねだして玄関に近寄り、 |
前田訳 | ペテロがいま見た幻はいったい何かと心に思い迷っていると、見よそのとき、コルネリオからつかわされた人たちが、シモンの家をたずね出して戸口に来た。 |
新共同 | ペトロが、今見た幻はいったい何だろうかと、ひとりで思案に暮れていると、コルネリウスから差し向けられた人々が、シモンの家を探し当てて門口に立ち、 |
NIV | While Peter was wondering about the meaning of the vision, the men sent by Cornelius found out where Simon's house was and stopped at the gate. |
10章18節
口語訳 | そして声をかけて、「ペテロと呼ばれるシモンというかたが、こちらにお泊まりではございませんか」と尋ねた。 |
塚本訳 | 案内を乞うて、通り名をペテロというシモンがここに泊まってはいないかとたずねた。 |
前田訳 | そして声をかけて、ペテロとも呼ばれるシモンがここに泊まっているか、たずねた。 |
新共同 | 声をかけて、「ペトロと呼ばれるシモンという方が、ここに泊まっておられますか」と尋ねた。 |
NIV | They called out, asking if Simon who was known as Peter was staying there. |
註解: ペテロは平静なる精神状態に復したる後、その幻影の意味を反省したけれども解決し兼ねて居た際、丁度訪い来れるコルネリオの使によりてその解決の鍵が与えられた。内外相呼応して問題の解決が示されたのである。
辞解
[門] pulôn は普通の門よりは大きく建物の壁に穿 てる入口で内庭に通ずる処。
10章19節 ペテロなほ
口語訳 | ペテロはなおも幻について、思いめぐらしていると、御霊が言った、「ごらんなさい、三人の人たちが、あなたを尋ねてきている。 |
塚本訳 | ペテロが(なおも)幻について考えこんでいると、御霊が言われた、「そら、二人の人があなたをたずねている。 |
前田訳 | ペテロが幻について考え込んでいると、み霊がいわれた、「見よ、三人の人があなたを探している。 |
新共同 | ペトロがなおも幻について考え込んでいると、“霊”がこう言った。「三人の者があなたを探しに来ている。 |
NIV | While Peter was still thinking about the vision, the Spirit said to him, "Simon, three men are looking for you. |
10章20節
口語訳 | さあ、立って下に降り、ためらわないで、彼らと一緒に出かけるがよい。わたしが彼らをよこしたのである」。 |
塚本訳 | さあ立って下りていって、すこしもためらわずその人たちと一緒に行け。彼らはわたしが、よこしたのだから。」 |
前田訳 | さあ、立って下り、少しもためらわずに彼らといっしょに行きなさい。わたしが彼らをつかわしたのです」と。 |
新共同 | 立って下に行き、ためらわないで一緒に出発しなさい。わたしがあの者たちをよこしたのだ。」 |
NIV | So get up and go downstairs. Do not hesitate to go with them, for I have sent them." |
註解: 御霊は更にペテロに遅疑逡巡せずして異邦人と共に往くべき事を告げ給うた。マタ28:19の主の命令あるにも関らず、尚こうした点を教えられる必要ある事は、旧来の陋習 を脱する事の如何に難きかを示す。但しペテロはこの御霊の言によりて幻影の意味を覚る事が出来た。
辞解
20節の初頭に alla 「されど」がある。「汝は躊躇するかもしれないが併し云云」の意。
[我なり] 「我なればなり」と訳すべきである。
10章21節 ペテロ
口語訳 | そこでペテロは、その人たちのところに降りて行って言った、「わたしがお尋ねのペテロです。どんなご用でおいでになったのですか」。 |
塚本訳 | そこでペテロはその人たちの所に下りていって、言った、「このわたしがおたずねのペテロです。お出での御用向きは。」 |
前田訳 | ペテロはその人たちのところへ下りていって、「おたずねのものはこのわたしです。おいでのご用は何ですか」といった。 |
新共同 | ペトロは、その人々のところへ降りて行って、「あなたがたが探しているのは、このわたしです。どうして、ここへ来られたのですか」と言った。 |
NIV | Peter went down and said to the men, "I'm the one you're looking for. Why have you come?" |
10章22節 かれら
口語訳 | 彼らは答えた、「正しい人で、神を敬い、ユダヤの全国民に好感を持たれている百卒長コルネリオが、あなたを家に招いてお話を伺うようにとのお告げを、聖なる御使から受けましたので、参りました」。 |
塚本訳 | 彼らが言った、「百卒長コルネリオは正しい人で敬神家で、ユダヤ国民全体に評判のよい人ですが、聖なる天使から、あなたを家に招いて御言葉を聞けとのお告げを受けたのです。」 |
前田訳 | 彼らはいった、「百卒長コルネリオは、正しい人で神をおそれ、ユダヤの国民全体に認められていますが、あなたを家にお招きしてお話をうかがうよう、聖なるみ使いからお示しを受けました」と。 |
新共同 | すると、彼らは言った。「百人隊長のコルネリウスは、正しい人で神を畏れ、すべてのユダヤ人に評判の良い人ですが、あなたを家に招いて話を聞くようにと、聖なる天使からお告げを受けたのです。」 |
NIV | The men replied, "We have come from Cornelius the centurion. He is a righteous and God-fearing man, who is respected by all the Jewish people. A holy angel told him to have you come to his house so that he could hear what you have to say." |
註解: コルネリオの使たちの答弁はまことにその主を辱しめざる処のものであった。是によりてペテロは、幻影の意味、御霊の言の意味及びコルネリオ自ら来らずしてペテロを招ける所以を悉 く明にする事が出来た。使がその主人を極力賞揚せるはペテロの心を動かしてコルネリオの家に招かんが為であった。
口語訳 | そこで、ペテロは、彼らを迎えて泊まらせた。翌日、ペテロは立って、彼らと連れだって出発した。ヨッパの兄弟たち数人も一緒に行った。 |
塚本訳 | そこでペテロは彼らを内に入れて、泊めた。翌日立って、彼らと一緒に出かけた。ヨッパの数人の兄弟も一緒に行った。 |
前田訳 | それでペテロは彼らをうちに入れて泊めた。あくる日、ペテロは立って彼らとともに出かけた。ヨッパの兄弟の数人もいっしょに行った。 |
新共同 | それで、ペトロはその人たちを迎え入れ、泊まらせた。翌日、ペトロはそこをたち、彼らと出かけた。ヤッファの兄弟も何人か一緒に行った。 |
NIV | Then Peter invited the men into the house to be his guests. The next day Peter started out with them, and some of the brothers from Joppa went along. |
註解: ペテロは異邦人たる故を以て彼らを嫌わず未知の人たるを以て彼らを疎 じなかった。
註解: 数人の同行者と云うは六人であった(使11:12)。彼らはペテロの力ともなりまたその証人ともなった。兄弟たちは或はペテロを未知の異邦人の手に委ぬる事を不安と考へたのかも知れない。
10章24節
口語訳 | その次の日に、一行はカイザリヤに着いた。コルネリオは親族や親しい友人たちを呼び集めて、待っていた。 |
塚本訳 | 翌日カイザリヤに着いた。コルネリオは親類や親しい友人たちを呼びあつめて、待っていた。 |
前田訳 | あくる日、彼らはカイサリアに来た。コルネリオは親戚や近しい友人を呼び集めて、彼らを待っていた。 |
新共同 | 次の日、一行はカイサリアに到着した。コルネリウスは親類や親しい友人を呼び集めて待っていた。 |
NIV | The following day he arrived in Caesarea. Cornelius was expecting them and had called together his relatives and close friends. |
註解: カイザリヤまではヨツパより二日路である。コルネリオは真理を多くの人に示さんとしてこれを自宅に招いていた。濫りに多数の人を誘引する事は危険なきに非ざるも同胞を信仰に導かんとの熱心より此事を為したのであった(C1)。
10章25節 ペテロ
口語訳 | ペテロがいよいよ到着すると、コルネリオは出迎えて、彼の足もとにひれ伏して拝した。 |
塚本訳 | ペテロが玄関に入ってくると、コルネリオは出迎え、足元にひれ伏しておがんだ。 |
前田訳 | ペテロが入ってくると、コルネリオは出迎えて、足もとにひれ伏して拝んだ。 |
新共同 | ペトロが来ると、コルネリウスは迎えに出て、足もとにひれ伏して拝んだ。 |
NIV | As Peter entered the house, Cornelius met him and fell at his feet in reverence. |
註解: コルネリオはペテロを神より遣されし人と信じて最敬礼をなした。但しこれを以てペテロを神とした意味では無い。
10章26節 ペテロ
口語訳 | するとペテロは、彼を引き起して言った、「お立ちなさい。わたしも同じ人間です」。 |
塚本訳 | ペテロが起こして言った、「立ちなさい、このわたしも同じ人間です。」 |
前田訳 | ペテロは彼を起こしていった、「お立ちなさい。わたしも同じただの人間です」と。 |
新共同 | ペトロは彼を起こして言った。「お立ちください。わたしもただの人間です。」 |
NIV | But Peter made him get up. "Stand up," he said, "I am only a man myself." |
註解: ペテロがかく振舞ったのは一は彼の謙遜からと一はコルネリオがかく振舞う事によりて人間崇拝に陥るの虞 があったからである。尚要義参照。▲「我も」は原文「我自身もまた」。
10章27節
口語訳 | それから共に話しながら、へやにはいって行くと、そこには、すでに大ぜいの人が集まっていた。 |
塚本訳 | そしてコルネリオと語り合いながら(部屋に)入り、多くの人が集まってきているのを見ると、 |
前田訳 | そして話し合いながら内に入り、多くの人が集まっているのを見て、 |
新共同 | そして、話しながら家に入ってみると、大勢の人が集まっていたので、 |
NIV | Talking with him, Peter went inside and found a large gathering of people. |
註解: ペテロとコルネリオとは一見旧知の如く相語った、信仰は信仰と相呼応する。
10章28節 『なんぢらの
口語訳 | ペテロは彼らに言った、「あなたがたが知っているとおり、ユダヤ人が他国の人と交際したり、出入りしたりすることは、禁じられています。ところが、神は、どんな人間をも清くないとか、汚れているとか言ってはならないと、わたしにお示しになりました。 |
塚本訳 | 彼らに言った、「御承知のとおり、(わたし達)ユダヤ人は他国人と交際すること(はおろか、その家に)立ち寄ることを(すら)律法上許されない。しかし神は(こんど)わたしに、どんな人をも不浄とか汚れているとか言ってはならぬとお示しになった。 |
前田訳 | 彼らにいった、「ご承知のとおり、ユダヤ人がよそものと付き合ったり、訪ねたりすることは不法です。しかし神はこのわたしにさえ、どんな人をも不浄とか汚れているとかいってはならない、とお示しでた。 |
新共同 | 彼らに言った。「あなたがたもご存じのとおり、ユダヤ人が外国人と交際したり、外国人を訪問したりすることは、律法で禁じられています。けれども、神はわたしに、どんな人をも清くない者とか、汚れている者とか言ってはならないと、お示しになりました。 |
NIV | He said to them: "You are well aware that it is against our law for a Jew to associate with a Gentile or visit him. But God has shown me that I should not call any man impure or unclean. |
註解: 申7:3の規定の精神が次第に拡張せられユダヤ人と異邦人との間の交際は非常に制限され、食物の関係もこの状態を助長し、遂に伝統的にユダヤ人は他国民との交際を罪と考えるに至った。この事はユダヤがローマの統治の下に服し異邦人と混合するに及ぴ一層甚だしくなった(S1第4巻353-414頁)。
辞解
[交り] kollaomai は親密にする事。
[律法に適わぬ] と訳せられし athemitos はモーセの律法に反すると云う意味ではなく道徳律に反すと云う如き強き意味。
[外の国人] 「他の族」なる語を用い、軽蔑的の「異邦人」なる語を用いて居ない。
註解: ペテロはその幻影についても語ったであろう。
10章29節 この
口語訳 | お招きにあずかった時、少しもためらわずに参ったのは、そのためなのです。そこで伺いますが、どういうわけで、わたしを招いてくださったのですか」。 |
塚本訳 | それゆえ(あなた達他国人から)呼ばれたとき、とやかく言わずに来たのです。それでたずねるが、どういう理由でわたしを呼んだのですか。」 |
前田訳 | それゆえ、お迎えを受けたとき、とやかくいわずに来ました。そこでお尋ねしますが、どういうわけでわたしをお迎えでしたか」と。 |
新共同 | それで、お招きを受けたとき、すぐ来たのです。お尋ねしますが、なぜ招いてくださったのですか。」 |
NIV | So when I was sent for, I came without raising any objection. May I ask why you sent for me?" |
註解: ペテロはコルネリオの使の言を聞いて、カイザリヤに来たけれども、是から何を為すべきかにつき今彼らの要求を聴かんとしているのである。
辞解
[躊躇わずして] 「反対せずに」の意「愚図々々云わないで」と云う如き心持ならん。
口語訳 | これに対してコルネリオが答えた、「四日前、ちょうどこの時刻に、わたしが自宅で午後三時の祈をしていますと、突然、輝いた衣を着た人が、前に立って申しました、 |
塚本訳 | コルネリオが言った、「今から四日前のこの時刻、昼の三時に、わたしが家で祈りをしていると、突然、輝く着物を着た一人の人が前に立って、 |
前田訳 | コルネリオがいった、「四日前のこの時刻、午後三時に、わたしが家で祈りをしていますと、突如、輝く衣を着た人がわたしの前に立って、 |
新共同 | すると、コルネリウスが言った。「四日前の今ごろのことです。わたしが家で午後三時の祈りをしていますと、輝く服を着た人がわたしの前に立って、 |
NIV | Cornelius answered: "Four days ago I was in my house praying at this hour, at three in the afternoon. Suddenly a man in shining clothes stood before me |
註解: 足懸四日前のこと、カイザリヤよりヨツパまでは五十五キロあり途中一泊を要す。ゆえにコルネリオが使をヨツパに遣したのは四日前となる。
註解: 原文「第四日目よりこの時刻まで」と直訳される如き書き方で文法的に難解であるけれども現行訳の如き意味であろう(M0、ヴイーネル)。
10章31節 「コルネリオよ、
口語訳 | 『コルネリオよ、あなたの祈は聞きいれられ、あなたの施しは神のみ前におぼえられている。 |
塚本訳 | 言う、『コルネリオ、あなたの祈りは聞きいれられ、かずかずの施しは神に記念されている。 |
前田訳 | いいました、『コルネリオよ、あなたの祈りは聞かれ、施しは神の前に覚えられています。 |
新共同 | 言うのです。『コルネリウス、あなたの祈りは聞き入れられ、あなたの施しは神の前で覚えられた。 |
NIV | and said, `Cornelius, God has heard your prayer and remembered your gifts to the poor. |
10章32節
口語訳 | そこでヨッパに人を送ってペテロと呼ばれるシモンを招きなさい。その人は皮なめしシモンの海沿いの家に泊まっている』。 |
塚本訳 | ヨッパに使をやって、通り名をペテロというシモンを呼びよせよ。その人は海岸の皮なめしシモンの家に泊まっている』と。 |
前田訳 | それで、ヨッパに人をつかわしてペテロとも呼ばれるシモンを招きなさい。その人は海岸にある皮なめし職人のシモンの家に泊まっています』と。 |
新共同 | ヤッファに人を送って、ペトロと呼ばれるシモンを招きなさい。その人は、海岸にある革なめし職人シモンの家に泊まっている。』 |
NIV | Send to Joppa for Simon who is called Peter. He is a guest in the home of Simon the tanner, who lives by the sea.' |
註解: 4-6節参照。字句の些少の差はコルネリオ自身がその幻影につきて言う場合だからである。
10章33節 われ
口語訳 | それで、早速あなたをお呼びしたのです。ようこそおいで下さいました。今わたしたちは、主があなたにお告げになったことを残らず伺おうとして、みな神のみ前にまかり出ているのです」。 |
塚本訳 | そこでさっそく迎えにあげたのです。お出でくださってありがたい。それで今わたし達は皆神の前に出て、主があなたに命じられたことを残らずうかがおうとしているのです。」 |
前田訳 | そこですぐあなたのところに人をつかわしたのです。ようこそおいでくださいました。今われらは皆、神の前に出て、主があなたにお命じのことをすべてうかがおうとしております」と。 |
新共同 | それで、早速あなたのところに人を送ったのです。よくおいでくださいました。今わたしたちは皆、主があなたにお命じになったことを残らず聞こうとして、神の前にいるのです。」 |
NIV | So I sent for you immediately, and it was good of you to come. Now we are all here in the presence of God to listen to everything the Lord has commanded you to tell us." |
註解: 神の使はコルネリオにペテロを招けと命じ給えるのみでペテロに聴けとは命じ給わなかった。恐らくコルネリオは祈の中に神に関する知識を増し加へえられん事を求めていた際ペテロを招けと命ぜられたので、かく了解したのであろう。彼及び彼と共なる者の謙遜なる而も真剣なる求道的態度は実に求道者の模範である。彼らは「神の前にあり」と云う心持であった。福音を学ばんとする者はこの心持でなければならない。
口語訳 | そこでペテロは口を開いて言った、「神は人をかたよりみないかたで、 |
塚本訳 | 口を開いてペテロが言った、「本当に”神はえこ贔屓をするお方でなく、” |
前田訳 | ペテロは口を開いていった、「本当にわかります、神は不公平をなさらない方で、 |
新共同 | そこで、ペトロは口を開きこう言った。「神は人を分け隔てなさらないことが、よく分かりました。 |
NIV | Then Peter began to speak: "I now realize how true it is that God does not show favoritism |
註解: 重大なる発言をなさんとする貌。
『われ
註解: 直訳「神は偏り視たまう者にあらず」偏り視たまう者とは prosôpolêmpsês で人の上辺 によりて其人を判断する事、多く悪しき判断につき用う、神はこうした御方ではない。この事は旧約聖書にも屡々 録されて居り(申10:17。U歴19:7。ヨブ34:19)ペテロは既にこれを知っていたけれどもこの時これを「まことに」知ったのであった
10章35節
口語訳 | 神を敬い義を行う者はどの国民でも受けいれて下さることが、ほんとうによくわかってきました。 |
塚本訳 | 神を恐れ、正しいことを行う人でさえあれば、どんな民族であろうと歓迎されることが、わたしにはよくわかっています。 |
前田訳 | どの民でも神をおそれ、義を行なう人はお受け入れになります。 |
新共同 | どんな国の人でも、神を畏れて正しいことを行う人は、神に受け入れられるのです。 |
NIV | but accepts men from every nation who fear him and do what is right. |
註解: 神を畏れ義を行うと云う事は信仰の別名である。この信仰さえあれば、神の前には人種の差別は無い。ペテロその他の使徒は真に神を畏れ敬う者は、必ずキリストを神の子として信ずる事を少しも疑わなかった。夫ゆえにここに「キリストを信ずる者を容れ給う」と云わずとも差支がない。未だイエスの事を語らない前にかく言う事は出来なかった。但し本節の主眼は「何れの國の人にても」に在る事に注意すべし。
辞解
[敬ひ] 22節の「畏れ」と同一の語。
[容れ] 嘉納し給う事。
10章36節
口語訳 | あなたがたは、神がすべての者の主なるイエス・キリストによって平和の福音を宣べ伝えて、イスラエルの子らにお送り下さった御言をご存じでしょう。 |
塚本訳 | “神は御言葉をイスラエルの”子孫に“おくり、”イエス・キリストをもって、“(御自分との間の)平和の福音を伝えられました。”──イエスは万人の主であります。── |
前田訳 | 神はイスラエルの子孫にみことばを送り、イエス・キリストによって平和の福音をお伝えでした。イエス・キリストは万人の主です。 |
新共同 | 神がイエス・キリストによって――この方こそ、すべての人の主です――平和を告げ知らせて、イスラエルの子らに送ってくださった御言葉を、 |
NIV | You know the message God sent to the people of Israel, telling the good news of peace through Jesus Christ, who is Lord of all. |
註解: 36-38節は文章の構成やや不規則にして難解なり、「平和」は神と人との平和であり(ロマ5:1)、従って人と人、ユダヤ人と異邦人との間の平和である(エペ2:14-17)。イスラエルの子等に送られし言は即ちこの平和の福音であった(B1、E0)。「イエス・キリストによる平和」と読む説あり(B1)、前後の関係上この方が適切である。
10章37節
口語訳 | それは、ヨハネがバプテスマを説いた後、ガリラヤから始まってユダヤ全土にひろまった福音を述べたものです。 |
塚本訳 | あなた達は(洗礼者)ヨハネが洗礼を説いた後、ガリラヤから始まってユダヤ中にゆきわたった出来事を知っておられる。 |
前田訳 | あなた方は、ヨハネが説いた洗礼ののち、ガリラヤからはじまって全ユダヤにおこったことをご存じです。 |
新共同 | あなたがたはご存じでしょう。ヨハネが洗礼を宣べ伝えた後に、ガリラヤから始まってユダヤ全土に起きた出来事です。 |
NIV | You know what has happened throughout Judea, beginning in Galilee after the baptism that John preached-- |
註解: ヨハネのバプテスマからイエスの伝道及びその死に就きては一般に、殊にこの種の事柄に注意を払う人々に知られていた。
10章38節 これは
口語訳 | 神はナザレのイエスに聖霊と力とを注がれました。このイエスは、神が共におられるので、よい働きをしながら、また悪魔に押えつけられている人々をことごとくいやしながら、巡回されました。 |
塚本訳 | すなわち、“神が”いかに聖“霊”と(大いなる)力と“をもって”ナザレのイエスに“油を注がれ(て聖別され)た”か、このイエスが(あちらこちらを)巡回しながら、恩愛を施し、悪魔におさえつけられている者を皆直されたかを。神がご一緒におられたからです。 |
前田訳 | それはナザレのイエスのことです。神は彼に聖霊と力で油を注がれました。彼は、神が共にいましたので、各地を巡ってよいわざをし、悪魔に圧えられたものをすべでお直しでした。 |
新共同 | つまり、ナザレのイエスのことです。神は、聖霊と力によってこの方を油注がれた者となさいました。イエスは、方々を巡り歩いて人々を助け、悪魔に苦しめられている人たちをすべていやされたのですが、それは、神が御一緒だったからです。 |
NIV | how God anointed Jesus of Nazareth with the Holy Spirit and power, and how he went around doing good and healing all who were under the power of the devil, because God was with him. |
註解: ペテロは凡ての中心をイエスに置きイエスを示さんとしていながらも、尚且つ異邦人の初歩の人に対する注意を忘れず、先づ何人にも理解し易き方面を彼らに語っている。ここにイエスの三年間の伝道の生涯の主要の特徴が巧に網羅されているのである。
辞解
[制せらる]厭 えつけられる事。
10章39節
口語訳 | わたしたちは、イエスがこうしてユダヤ人の地やエルサレムでなさったすべてのことの証人であります。人々はこのイエスを木にかけて殺したのです。 |
塚本訳 | ──(使徒たる)わたし達は、イエスがユダヤ人の地、ことにエルサレムでされた一切のことの証人です。──このイエスを人々は“(十字架の)木にかけて”処刑した。 |
前田訳 | われらは彼がユダヤ人の地やエルサレムでなさったすべてのことの証人です。その彼を人々は木にかけて殺しました。 |
新共同 | わたしたちは、イエスがユダヤ人の住む地方、特にエルサレムでなさったことすべての証人です。人々はイエスを木にかけて殺してしまいましたが、 |
NIV | "We are witnesses of everything he did in the country of the Jews and in Jerusalem. They killed him by hanging him on a tree, |
註解: ペテロはここに始めて彼及び他の使徒の職務を明かにした。彼らはイエスの証人である。基督教の伝道の中心はイエスを証するにある。
註解: 「亦」は「他の迫害の外に亦」の意、木にかけて殺す事は当時の極刑でこの事実は普通の場合イエスを全く非道の悪人と思わしむるに充分である。併しこの事実は信仰の中心点である故これを隠す事は出来ない。
10章40節
口語訳 | しかし神はイエスを三日目によみがえらせ、 |
塚本訳 | (しかし)神はこの方を三日目に復活させ、(人の目にも)見えるようにされた。 |
前田訳 | この方を神は三日目によみがえらせ、現われさせたまいました。 |
新共同 | 神はこのイエスを三日目に復活させ、人々の前に現してくださいました。 |
NIV | but God raised him from the dead on the third day and caused him to be seen. |
註解: イエスの復活とその顕現は基督教の誕生と密接不離の関係にある。この点を無視して基督教は存在しない。
10章41節
口語訳 | 全部の人々にではなかったが、わたしたち証人としてあらかじめ選ばれた者たちに現れるようにして下さいました。わたしたちは、イエスが死人の中から復活された後、共に飲食しました。 |
塚本訳 | (ただし)国民全体でなく、神からあらかじめ選ばれていた証人であるわたし達、すなわちイエスが死人の中から復活されたあとで、一緒に飲み食いした者(だけ)に見えたのです。 |
前田訳 | ただすべての民衆にではなく、神によってあらかじめ定められていた証人であるわれらに現われたもうたのです。われらは彼が死人の中から復活なさったのちに、彼とともに飲食したものです。 |
新共同 | しかし、それは民全体に対してではなく、前もって神に選ばれた証人、つまり、イエスが死者の中から復活した後、御一緒に食事をしたわたしたちに対してです。 |
NIV | He was not seen by all the people, but by witnesses whom God had already chosen--by us who ate and drank with him after he rose from the dead. |
註解: 復活のイエスは一般のユダヤ人に己を現し給うたのではなく主として使徒たちに現われ給うた。使徒と云うのは神が預じめ選び給える証人であり、またイエスの復活の後にしばしば彼と共に飲食した人々であった。パウロが此中に含まれて居ないのはパウロの使徒たる事が充分に明かにされて居なかった頃であるからである。
辞解
[死人の中より甦へり給いし後] を「共に飲食せし」にかけ、ルカ24:30、ルカ24:43。ヨハ21:12?の事実を指すとする説(M0、C1、E0、A1、H0、ラツカム)と「現し給いしなり」に懸ける説(B1)とあり、ベザ写本等より見るも前者が正しい
10章42節 イエスは
口語訳 | それから、イエスご自身が生者と死者との審判者として神に定められたかたであることを、人々に宣べ伝え、またあかしするようにと、神はわたしたちにお命じになったのです。 |
塚本訳 | そして神はわたし達に命じて、この方こそ神に定められた、生きている者と死んだ者との審判者であると、国民に説きまた証しさせられるのです。 |
前田訳 | 彼はわれらに命じて、この方こそ神によって定められた生者と死者との裁き主であることを民に伝えて証するようにおさせです。 |
新共同 | そしてイエスは、御自分が生きている者と死んだ者との審判者として神から定められた者であることを、民に宣べ伝え、力強く証しするようにと、わたしたちにお命じになりました。 |
NIV | He commanded us to preach to the people and to testify that he is the one whom God appointed as judge of the living and the dead. |
註解: 私訳「民に宣伝えて証することを我らに……」。ここに使徒たちがイエスより命ぜられし使命を叙述している。イエスはその再び来たまう時、生き残っている者と既に死にたる者とを共に審き給う(Tコリ15:51、52。Tテサ4:17。マタ28:18。ヨハ5:22、ヨハ5:27)。
10章43節
口語訳 | 預言者たちもみな、イエスを信じる者はことごとく、その名によって罪のゆるしが受けられると、あかしをしています」。 |
塚本訳 | 預言者たちは皆、彼を信ずる者はことごとく、その名のゆえに罪の赦しを受けることを、彼について証明しています。」 |
前田訳 | この方について預言者は皆、彼を信ずるものはだれでもみ名のゆえに罪の許しを受けることを証しています」と。 |
新共同 | また預言者も皆、イエスについて、この方を信じる者はだれでもその名によって罪の赦しが受けられる、と証ししています。」 |
NIV | All the prophets testify about him that everyone who believes in him receives forgiveness of sins through his name." |
註解: イザ33:24。イザ53:5。エレ31:31-34 其他旧約聖書全体がイエスを指し、従って彼による罪の赦を示す。以上の如くにしてイエスが真に救主である事が明かであるはずである。ペテロの伝道は徹頭徹尾イエスを証するに在った。
口語訳 | ペテロがこれらの言葉をまだ語り終えないうちに、それを聞いていたみんなの人たちに、聖霊がくだった。 |
塚本訳 | ペテロがまだこれらの言葉を話しおわらぬうちに、聖霊が全聴衆に下った。 |
前田訳 | ペテロがまだこのことどもを話しているときに、聖霊が、みことばを聞いているものすべてに下った。 |
新共同 | ペトロがこれらのことをなおも話し続けていると、御言葉を聞いている一同の上に聖霊が降った。 |
NIV | While Peter was still speaking these words, the Holy Spirit came on all who heard the message. |
註解: 彼は尚も語り続けんとしていたけれども、聖霊は既に充分にその働を示し給うた。聖霊の働なしに人間の活動は徒労である。
註解: 活けるキリストを信じて主と仰ぐ者に聖霊は降り給う。かくして彼らはペテロの説教により全く一変してしまった。驚くべき変化が彼らの上に臨んだのである。他の場合には按手またはバプテスマを受くる際聖霊が降った例もあった(使8:17。使19:5、6)。本節の場合はバプテスマも按手も無しに聖霊が降っている。聖霊の活動は形式を超越して自由自在である。
10章45節 ペテロと
口語訳 | 割礼を受けている信者で、ペテロについてきた人たちは、異邦人たちにも聖霊の賜物が注がれたのを見て、驚いた。 |
塚本訳 | ペテロと一緒に来た割礼のある信者たちは、(割礼のない)異教人にも聖霊の賜物が注がれたのに、あきれかえった。 |
前田訳 | 割礼ある信者でペテロといっしょに来た人々は異邦人にも聖霊の賜物が注がれたのにおどろきいった。 |
新共同 | 割礼を受けている信者で、ペトロと一緒に来た人は皆、聖霊の賜物が異邦人の上にも注がれるのを見て、大いに驚いた。 |
NIV | The circumcised believers who had come with Peter were astonished that the gift of the Holy Spirit had been poured out even on the Gentiles. |
10章46節 そは
口語訳 | それは、彼らが異言を語って神をさんびしているのを聞いたからである。そこで、ペテロが言い出した、 |
塚本訳 | 彼らが霊言を語り、神をあがめているのを聞いたからである。そこでペテロが言った、 |
前田訳 | 彼らが異言を語り、神をあがめるのを聞いたからである。そこでペテロはいった、 |
新共同 | 異邦人が異言を話し、また神を賛美しているのを、聞いたからである。そこでペトロは、 |
NIV | For they heard them speaking in tongues and praising God. Then Peter said, |
註解: 使2:1以下の五旬節の時と全然同一では無いにしても類似の現象が異邦人の上にも起こり、これによりて割礼ある信者との間に何らの差別なき信仰状態を異邦人においても見ることができたのであった。ユダヤ人の驚きは大であった。▲この場合彼らの国語で神を賛美したと見て差支えがないと思う。
辞解
[異言] 使2:4附記参照。
10章47節
口語訳 | 「この人たちがわたしたちと同じように聖霊を受けたからには、彼らに水でバプテスマを授けるのを、だれがこばみ得ようか」。 |
塚本訳 | 「わたし達と同じく聖霊を受けたこの人たちに、だれが洗礼の水をこばむことが出来よう。」 |
前田訳 | 「だれが水をさし止めてこの人たちが洗礼を受けないようにできましょうか。彼らはわれらと同じく聖霊を受けたのです」と。 |
新共同 | 「わたしたちと同様に聖霊を受けたこの人たちが、水で洗礼を受けるのを、いったいだれが妨げることができますか」と言った。 |
NIV | "Can anyone keep these people from being baptized with water? They have received the Holy Spirit just as we have." |
註解: 異邦人だからとて、聖霊を受けし以上我らと同じ基督者である。従って我らと同様バプテスマを受けて少しも差支が無いはずではないかとの意。かくしてペテロは理論的にも実践的にも異邦人とユダヤ人との区別を撤廃したのであった。其後ガラ2:12に於ける彼の行動は一種の信仰の弛緩であった。
10章48節
口語訳 | こう言って、ペテロはその人々に命じて、イエス・キリストの名によってバプテスマを受けさせた。それから、彼らはペテロに願って、なお数日のあいだ滞在してもらった。 |
塚本訳 | そしてイエス・キリストの名で洗礼を受けるようにと彼らに命じた。それから彼らはペテロに頼んで、(なお)数日(そこに)泊まってもらった。 |
前田訳 | そして彼らにイエス・キリストの名によって洗礼を受けるよう命じた。彼らはペテロに数日とどまるよう頼んだ。 |
新共同 | そして、イエス・キリストの名によって洗礼を受けるようにと、その人たちに命じた。それから、コルネリウスたちは、ペトロになお数日滞在するようにと願った。 |
NIV | So he ordered that they be baptized in the name of Jesus Christ. Then they asked Peter to stay with them for a few days. |
註解: ペテロ自身バプテスマを授けなかった。当時は何人がこれを授くるや等の事を問題としなかったのである。
註解: 尚進んでペテロより種々の事を学ばんが為、またペテロと一層主に在る交を深めんが為であろう。
要義1 [コルネリオの入信]純然たる異邦人が主イエスを信ずるに至れる著しき例である。神は凡ての人類に不完全乍ら幾分の度に於て御自身を啓示し給う。夫ゆえに真実なる人は、この不完全なる啓示の中より神の姿を仰ぎ見る事が出来る。この点より見て諸国民に行われる宗教や道徳は或意味に於て福音に至るの準備と見る事が出来る。コルネリオとユダヤ教との関係の程度は不明であるが、純然たる異邦人としてイエスを受くるに何等の差支なき事は我らに取りても喜ばしき事実である。
要義2 [コルネリオの敬礼]25節のコルネリオの敬礼は、彼が上官や王者に対する態度を、ペテロに対して尊敬のあまリ用いたのであって、勿論ペテロを神としたのではあるまい。併しカルヴインの言う如く「この世の王や在上者に対する場合は、危険はそれ程ではない。其故はその前に跪く者は地的、政治的尊敬の範囲内に止るからである。しかしながらキリストの牧者に対する場合はこれと異る。其故は其職が霊的なる故、その前に跪く時はこの敬意の中に霊的なるものを含むからである。夫ゆえに我らは地的の敬礼(人々が社会秩序を尊敬して相互の間に用いるもの)と宗教的敬礼、即ち神の光栄を直接に尊敬する場合とを区別しなければならぬ」。単に敬礼なる形式、または跪 きて拝する態度そのものをペテロが禁止したのではない。
要義3 [神の前に在る事]33節にコルネリオは「いま我等はみな主の、なんぢに命じ給いし凡てのことを聴かんとて神の前に在り」と云っている。この態度は今日の我らに多くの事を教えるのであって、人は神の言を人のロより学ぶ際、または聖書其他の書籍によりて読む際、神の前に在る心持を以てすべきである。然らざれぱ結局凡ては徒労に終るであろう。
要義4 [信仰なしに救われるや」35節に神は何れの国人にても神を畏れて義をおこなう者を容れ給うとあり、信仰なしにも救わるかの如くに見えるけれども然らず、神を畏れる事、義をおこなう事は、もしこれが神に対する純真なる態度を以て為されているならば、これは取りも直さず信仰そのものである。こうした心にキリストが宣伝えられる場合、そのままその信仰の内容となる。夫ゆえにキリストの十字架に対する信仰以外にもまたその以前にも(アブラハムやダビデの如くに)信仰は有り得るけれども、この信仰は決してイエスの十字架を拒まない、否拒む事が出来ないはずである。其故はそれがその信ずる神の賜物だからである。尚ロマ2:6-16の要義2参照
使徒行伝第11章
分類
4 異邦人教会の始
11:1 - 12:25
4-1 エルサレムのユダヤ人の反対とペテロの弁明
11:1 - 11:18
11章1節
口語訳 | さて、異邦人たちも神の言を受けいれたということが、使徒たちやユダヤにいる兄弟たちに聞えてきた。 |
塚本訳 | すると(割礼のない)異教人も神の言葉を受け入れたことが、使徒たちとユダヤにいる兄弟たちとの耳に入った。 |
前田訳 | 異教徒も神のことばを受け入れたことが使徒たちとユダヤにいる兄弟たちとの耳に入った。 |
新共同 | さて、使徒たちとユダヤにいる兄弟たちは、異邦人も神の言葉を受け入れたことを耳にした。 |
NIV | The apostles and the brothers throughout Judea heard that the Gentiles also had received the word of God. |
註解: この事が彼ら使徒たち兄弟たちに取りて異常なる出来事の如くに思われたのであった。主の御言を聴きつつ(マタ28:19)尚かれらの耳はこれを聴きて聞えなかったのである。
辞解
[ユダヤに] 原語では「ユダヤの各地に」「ユダヤ中に」等の意味あり。
11章2節
口語訳 | そこでペテロがエルサレムに上ったとき、割礼を重んじる者たちが彼をとがめて言った、 |
塚本訳 | そこでペテロがエルサレムに上ってきた時、割礼のある者たちが詰問して |
前田訳 | そこで、ペテロがエルサレムに上ったとき、割礼のある人々が彼を責めて、 |
新共同 | ペトロがエルサレムに上って来たとき、割礼を受けている者たちは彼を非難して、 |
NIV | So when Peter went up to Jerusalem, the circumcised believers criticized him |
11章3節 『なんぢ
口語訳 | 「あなたは、割礼のない人たちのところに行って、食事を共にしたということだが」。 |
塚本訳 | 言った、「あなたは割礼のない人たちの所に行って、一緒に食事をしたというではないか。」 |
前田訳 | 「あなたは割礼のない人々のところへ行って食を共にした」といった。 |
新共同 | 「あなたは割礼を受けていない者たちのところへ行き、一緒に食事をした」と言った。 |
NIV | and said, "You went into the house of uncircumcised men and ate with them." |
註解: 使10:28註に示せる如くユダヤ人は伝統によりて異邦人と共に食する事を嫌い、これを非常に大なる罪の如くに考えた。新しき信仰に入りたる者に於てすら、旧き伝統や習慣を脱却する事の如何に難きかを見よ。コルネリオにバプテスマを施した事は非難されなかった、律法主義者は常に小事に拘泥して大事を逸する。
辞解
[詰る] diakrinomai は納得が出来ないと云って詰めよること、「一体それは如何云う訳か」と云う如き意、ペテロはカイザリヤより直ちにエルサレムに帰ったらしい(12節)。
[割礼なき者] の表顕方が普通と異る為或はこれを憤激(M0)、反対(E0)を表すと見、またはこれを緩和せる話法と見る(B1)見方あれど、単に強調せる言い方と見るべきであろう。
11章4節 ペテロ
口語訳 | そこでペテロは口を開いて、順序正しく説明して言った、 |
塚本訳 | ペテロは順序ただしく(次のように)説明をはじめた。 |
前田訳 | ペテロは語りはじめ、順序正しく説明していわく、 |
新共同 | そこで、ペトロは事の次第を順序正しく説明し始めた。 |
NIV | Peter began and explained everything to them precisely as it had happened: |
11章5節 『われヨツパの
口語訳 | 「わたしがヨッパの町で祈っていると、夢心地になって幻を見た。大きな布のような入れ物が、四すみをつるされて、天から降りてきて、わたしのところにとどいた。 |
塚本訳 | 「(ある日)わたしがヨッパの町で祈りをしていると、(いつしか)我を忘れた心地で幻を見た。大きな布のよう器物が四隅で天から吊られて下ってきて、ついにわたしの所まで来た。 |
前田訳 | 「わたしがヨッパの町で祈っていますと、恍惚として幻を見ました。大きな布のような器が四隅で天から吊られて下がってきて、わたしのところまで来ました。 |
新共同 | 「わたしがヤッファの町にいて祈っていると、我を忘れたようになって幻を見ました。大きな布のような入れ物が、四隅でつるされて、天からわたしのところまで下りて来たのです。 |
NIV | "I was in the city of Joppa praying, and in a trance I saw a vision. I saw something like a large sheet being let down from heaven by its four corners, and it came down to where I was. |
註解: 使10:10、11参照。平信徒がペテロに対して詰問する点より見ればペテロの権威が必ずしも強からざるが如くに見えまたペテロが彼らに対し命令的高圧的態度に出でずして、丁寧にこれを説明せる点より見ても使徒の主班としてのペテロの権威を疑わしむるものがある。しかしながら是によりて却って当時の使徒の権威なるものが法律的にあらずして、人格的、事実的である証拠を見出す事が出来る。
11章6節 われ
口語訳 | 注意して見つめていると、地上の四つ足、野の獣、這うもの、空の鳥などが、はいっていた。 |
塚本訳 | (驚いて)それに目をとめ、よく見ていると、地の四足と野獣と爬虫類と空の鳥とが見えた。 |
前田訳 | それに目を向けてじっと見ていますと、地上の四つ足の動物、野獣、はうもの、空の鳥が見えました。 |
新共同 | その中をよく見ると、地上の獣、野獣、這うもの、空の鳥などが入っていました。 |
NIV | I looked into it and saw four-footed animals of the earth, wild beasts, reptiles, and birds of the air. |
註解: 「野の獣」は使10:12に無し。「四足のもの」の一種類と見るべきである。
11章7節 また「ペテロ
口語訳 | それから声がして、『ペテロよ、立って、それらをほふって食べなさい』と、わたしに言うのが聞えた。 |
塚本訳 | またこう言う声が聞こえた、『ペテロ、立って、これを殺して食べよ。』 |
前田訳 | そして声が聞こえました、『立て、ペテロ、これを殺して食べよ』と。 |
新共同 | そして、『ペトロよ、身を起こし、屠って食べなさい』と言う声を聞きましたが、 |
NIV | Then I heard a voice telling me, `Get up, Peter. Kill and eat.' |
註解: 使10:13と同じ、かく繰返せるは、ルカがこの事実を重視している証拠である。
11章8節
口語訳 | わたしは言った、『主よ、それはできません。わたしは今までに、清くないものや汚れたものを口に入れたことが一度もございません』。 |
塚本訳 | わたしは言った、『主よ、決して!不浄なものや汚れたものを、わたしは今までただの一度も口に入れたことがありませんから。』 |
前田訳 | わたしはいいました、『主よ、とんでもございません、今まで不浄のもの、汚れたものはわが口に入ったことはありませんから』と。 |
新共同 | わたしは言いました。『主よ、とんでもないことです。清くない物、汚れた物は口にしたことがありません。』 |
NIV | "I replied, `Surely not, Lord! Nothing impure or unclean has ever entered my mouth.' |
註解: 使10:14と略 同一。
11章9節
口語訳 | すると、二度目に天から声がかかってきた、『神がきよめたものを、清くないなどと言ってはならない』。 |
塚本訳 | 二度目に声が天から答えた、『神がお清めになったものを、あなたが不浄なものとしてはならない。』 |
前田訳 | 二度目に天から声がしました、『神がお清めのものを不浄としてはならない』と。 |
新共同 | すると、『神が清めた物を、清くないなどと、あなたは言ってはならない』と、再び天から声が返って来ました。 |
NIV | "The voice spoke from heaven a second time, `Do not call anything impure that God has made clean.' |
註解: 使10:15。
11章10節
口語訳 | こんなことが三度もあってから、全部のものがまた天に引き上げられてしまった。 |
塚本訳 | こんなことが三度あって、また一つのこらず天に引き上げられた。 |
前田訳 | このことが三度あって、すべてがまた天に上げられました。 |
新共同 | こういうことが三度あって、また全部の物が天に引き上げられてしまいました。 |
NIV | This happened three times, and then it was all pulled up to heaven again. |
註解: 使10:16。
11章11節
口語訳 | ちょうどその時、カイザリヤからつかわされてきた三人の人が、わたしたちの泊まっていた家に着いた。 |
塚本訳 | するとその時、さっそくカイザリヤ(の異教人コルネリオ)から来た三人の使が、わたし達がいた家に近寄った。 |
前田訳 | ちょうどそのとき、三人の人がわれらのいた家に近づきました。彼らはカイサリアからわたしのところにつかわされたのです。 |
新共同 | そのとき、カイサリアからわたしのところに差し向けられた三人の人が、わたしたちのいた家に到着しました。 |
NIV | "Right then three men who had been sent to me from Caesarea stopped at the house where I was staying. |
註解: 使10:17。「我ら」はペテロ自身及び皮工シモンの家族を念頭に置きたる語。
11章12節
口語訳 | 御霊がわたしに、ためらわずに彼らと共に行けと言ったので、ここにいる六人の兄弟たちも、わたしと一緒に出かけて行き、一同がその人の家にはいった。 |
塚本訳 | 御霊がわたしに、すこしもためらわずその人たちと一緒に行けと言われた。この六人の兄弟もわたしと一緒に行って、わたし達はその人の家に入った。 |
前田訳 | み霊がわたしに、『少しもためらわずに彼らといっしょに行くように』と仰せでした。そこでこの六人の兄弟もわたしといっしょに行って、その人の家に入りました。 |
新共同 | すると、“霊”がわたしに、『ためらわないで一緒に行きなさい』と言われました。ここにいる六人の兄弟も一緒に来て、わたしたちはその人の家に入ったのです。 |
NIV | The Spirit told me to have no hesitation about going with them. These six brothers also went with me, and we entered the man's house. |
註解: 使10:19参照。
註解: 使10:23に「数人」とありし兄弟は六人であった事が判明る。ペテロはこの六人を更にエルサレムまで連れて行った。エルサレムの信徒たちに対する証人として立てんとしたのであろう。
11章13節
口語訳 | すると彼はわたしたちに、御使が彼の家に現れて、『ヨッパに人をやって、ペテロと呼ばれるシモンを招きなさい。 |
塚本訳 | するとその人は、天使がその家にあらわれ、『ヨッパに使をやって、通り名をペテロというシモンを呼べ。 |
前田訳 | その人は、み使いがその家の中に立ってこういうのを聞いた模様を告げました、『ヨッパに使いをやって、ペテロとも呼ばれるシモンを招きなさい。 |
新共同 | 彼は、自分の家に天使が立っているのを見たこと、また、その天使が、こう告げたことを話してくれました。『ヤッファに人を送って、ペトロと呼ばれるシモンを招きなさい。 |
NIV | He told us how he had seen an angel appear in his house and say, `Send to Joppa for Simon who is called Peter. |
11章14節 その
口語訳 | この人は、あなたとあなたの全家族とが救われる言葉を語って下さるであろう』と告げた次第を、話してくれた。 |
塚本訳 | 彼はあなたも家族一同も救われる御言葉を語ってくれる』と言うのを見たことを、わたし達に報告した。 |
前田訳 | 彼はあなたと家じゅうが救われることばを語るでしょう』と。 |
新共同 | あなたと家族の者すべてを救う言葉をあなたに話してくれる。』 |
NIV | He will bring you a message through which you and all your household will be saved.' |
註解: 使10:5、6参照。使10:4を省略し本節に幾分内容を附加している。
11章15節
口語訳 | そこでわたしが語り出したところ、聖霊が、ちょうど最初わたしたちの上にくだったと同じように、彼らの上にくだった。 |
塚本訳 | わたしが話を始めると、聖霊が彼らの上に下った、最初(あのペンテコステの時)にわたし達に下ったように。 |
前田訳 | わたしが語りはじめると、聖霊がはじめわれらに下ったように彼らに下りました。 |
新共同 | わたしが話しだすと、聖霊が最初わたしたちの上に降ったように、彼らの上にも降ったのです。 |
NIV | "As I began to speak, the Holy Spirit came on them as he had come on us at the beginning. |
辞解
[出づるや] 原語「初 むるや」で、使10:35-43はペテロの説教の序のロであった事がわかる。「我らに降りし如し」は使2:1以下の五旬節の聖霊降下を指す、但しこれに伴える諸現象は必ずしも同一たる事を要しない。
11章16節 われ
口語訳 | その時わたしは、主が『ヨハネは水でバプテスマを授けたが、あなたがたは聖霊によってバプテスマを受けるであろう』と仰せになった言葉を思い出した。 |
塚本訳 | わたしは主の言葉を思い出した──『ヨハネは水で洗礼を授けたが、あなた達は聖霊で洗礼を授けられるであろう』と主は言われた。 |
前田訳 | わたしは主のことばを思い出しました、『ヨハネは水で洗礼したが、あなた方は聖霊で洗礼されよう』と主は仰せでした。 |
新共同 | そのとき、わたしは、『ヨハネは水で洗礼を授けたが、あなたがたは聖霊によって洗礼を受ける』と言っておられた主の言葉を思い出しました。 |
NIV | Then I remembered what the Lord had said: `John baptized with water, but you will be baptized with the Holy Spirit.' |
註解: この語は使1:5にのみあり福音書にはヨハネの言として録さる。マタ3:11。尚ヨハ14:16以下の主の御言はこの事を示す。ペテロはこの言を引用して、異邦人に聖霊の下りしは主の約束の成就である事を強調した。
11章17節
口語訳 | このように、わたしたちが主イエス・キリストを信じた時に下さったのと同じ賜物を、神が彼らにもお与えになったとすれば、わたしのような者が、どうして神を妨げることができようか」。 |
塚本訳 | だから主イエス・キリストを信じた彼らに、わたし達と同じ賜物を神がお与えになった以上、何者なればわたしは神の邪魔をすることが出来よう。」 |
前田訳 | それで、神が主イエス・キリストを信じた彼らにわれらにと同じ賜物をお与えになった以上、どうしてわたしに神のじゃまができましょう」と。 |
新共同 | こうして、主イエス・キリストを信じるようになったわたしたちに与えてくださったのと同じ賜物を、神が彼らにもお与えになったのなら、わたしのような者が、神がそうなさるのをどうして妨げることができたでしょうか。」 |
NIV | So if God gave them the same gift as he gave us, who believed in the Lord Jesus Christ, who was I to think that I could oppose God?" |
註解: 「神が異邦人にも同じ賜物を給いし以上、彼らを我らと同一に待遇すべきである。ゆえに彼らと共に食事する事は正しい行為である」と云うのがペテロの意味であって、彼らにバプテスマを施した事を正しいとしたのではない。これは当然として問題とならなかったのである。
11章18節
口語訳 | 人々はこれを聞いて黙ってしまった。それから神をさんびして、「それでは神は、異邦人にも命にいたる悔改めをお与えになったのだ」と言った。 |
塚本訳 | これを聞いて人々は沈黙し、「それでは異教人にも、神は(永遠の)命を得させる悔改めをお与えになったのだ」と言って、神を讃美した。 |
前田訳 | 人々はこれを聞いて静まり、神をたたえていった、「かくて神は異邦人にもいのちへの悔い改めをお与えでした」と。 |
新共同 | この言葉を聞いて人々は静まり、「それでは、神は異邦人をも悔い改めさせ、命を与えてくださったのだ」と言って、神を賛美した。 |
NIV | When they heard this, they had no further objections and praised God, saying, "So then, God has granted even the Gentiles repentance unto life." |
註解: 食事の問題と云う如き小問題に就きて抗議を提出せる是等の人々はこの偉大なる事実を示されて其心打たれて一時は沈黙した、而してこの不思議なる事実の前には唯神を讃美するより外無きに至った。かくして彼らはその抗議のあまりに些事なる事を自然に知ったのであった。
要義1 [信仰家は小事に拘泥して大事を逸し易し]主イエスがパリサイ人を叱責して「蚋 を漉 し出して駱駝を呑むもの」と宣ひし如く、律法的傾向を有する人は信仰に入リて後も習慣や伝統の束縛を脱し得ない場合が多い。こうした事はそれ自身として罪ではないけれども、これによりて他人を審く場合、そこに誤謬が生ずる。ロマ14:1以下にパウロが注意を与えているのもこの種の基督者に対するものである。参照すべし。
要義2 [異邦人に対するユダヤ人の態度]ペテロのコルネリオに対する態度は神よリ直接に示されし正しいものであったにも関らず、後にガラ2:11、12に記される如き、これと矛盾する行動に出た事は一見不可解である。またエルサレムの信徒もこのペテロの説明を納得して居り乍ら尚使15:1以下の如き問題を起したのみならず彼らは進んで異邦人と交らなかった様である(ガラ2:12)。要するに旧慣を超越し、これより自由となる事は何人にも困難な事であって、初代のユダヤ人らも基督者となっても尚この習慣を棄て得なかったのである。ペテロの前後矛盾の行動に出でし事も、この人間的弱さの結果と見るべきである。
註解: 使8:4と照応すべし。
11章19節
口語訳 | さて、ステパノのことで起った迫害のために散らされた人々は、ピニケ、クプロ、アンテオケまでも進んで行ったが、ユダヤ人以外の者には、だれにも御言を語っていなかった。 |
塚本訳 | さて、ステパノ(殉教)のためにおこった苦難の結果(エルサレムから四方に)散らばった者たちは(あちらこちら巡回しながら)ピニケ(地方)、クプロ(島)、(シリヤの都)アンテオケまでも行ったが、ただユダヤ人のほか、だれにも御言葉を語らなかった。 |
前田訳 | さて、ステパノのことでおこった苦難のために散った人々は、フェニキア、キプロス、アンテオケまで行ったが、ユダヤ人のほかだれにもみことばを語らなかった。 |
新共同 | ステファノの事件をきっかけにして起こった迫害のために散らされた人々は、フェニキア、キプロス、アンティオキアまで行ったが、ユダヤ人以外のだれにも御言葉を語らなかった。 |
NIV | Now those who had been scattered by the persecution in connection with Stephen traveled as far as Phoenicia, Cyprus and Antioch, telling the message only to Jews. |
註解: 是等は多くギリシヤ語のユダヤ人らであったので、自然ユダヤ人のみに伝道した、異邦人伝道と云う事は彼らの念頭に上り難かった。主の御言使1:8を実行に移す事は容易ではない。
辞解
[ステパノによりて] 「ステパノの事の為に」の意。
[ピニケ] ツロ、シドンを含む地中海に沿える南北約百二十哩の地方。
[クプロ] 島。
[アンテオケ] オロンテス川に沿えるシリヤの大都市で当時ローマ、アレキサンドリヤに亜 ぐ大市街であった。享楽主義の盛なる市で紛争混乱も多く行われた。こうした市街に異邦人教会の最初のものが起った事は、奇しき事実である。
11章20節 その
口語訳 | ところが、その中に数人のクプロ人とクレネ人がいて、アンテオケに行ってからギリシヤ人にも呼びかけ、主イエスを宣べ伝えていた。 |
塚本訳 | しかしそのうちに数人のクプロ人とクレネ人とがいて、アンテオケに行ったとき異教人にも語り、主イエスの福音を伝えた。 |
前田訳 | しかしその中に何人かのキプロス人とクレネ人がいて、アンテオケに来たときギリシア人にも語り、主イエスの福音を伝えた。 |
新共同 | しかし、彼らの中にキプロス島やキレネから来た者がいて、アンティオキアへ行き、ギリシア語を話す人々にも語りかけ、主イエスについて福音を告げ知らせた。 |
NIV | Some of them, however, men from Cyprus and Cyrene, went to Antioch and began to speak to Greeks also, telling them the good news about the Lord Jesus. |
註解: かくしてエルサレムに於ける基督者の迫害は、思いがけなくも福音を全世界に散布する原因となった。神は人の反逆を利用して反逆者自身の口を塞ぎ給う。
辞解
[その中] 「散されたる者の中」の意。
[ギリシヤ人] Hellenes は有力なる写本に「ギリシヤ語のユダヤ人」Hellenistaiとあれどこの方は誤と見るべきである。使6:1辞解參照。
11章21節
口語訳 | そして、主のみ手が彼らと共にあったため、信じて主に帰依するものの数が多かった。 |
塚本訳 | (神なる)主の御手が彼らに働き、多数の者が信じて主(イエス)に帰依した。 |
前田訳 | 主のみ手が彼らとともにあり、信じて主に心を向けたものの数は多かった。 |
新共同 | 主がこの人々を助けられたので、信じて主に立ち帰った者の数は多かった。 |
NIV | The Lord's hand was with them, and a great number of people believed and turned to the Lord. |
註解: Tコリ3:6。主の御手が加わるにあらずば人は何事をも為す事が出来ない。彼らの伝道が思いがけなくも多くの果を結んだ。平信徒の伝道はむしろ伝道の本体である。
11章22節 この
口語訳 | このうわさがエルサレムにある教会に伝わってきたので、教会はバルナバをアンテオケにつかわした。 |
塚本訳 | この噂がエルサレムにある集会の耳に入ったので、彼らは(事を確かめるため)バルナバをアンテオケに送った。 |
前田訳 | この知らせがエルサレムにある集まりに達したので、彼らはバルナバをアンテオケにつかわした。 |
新共同 | このうわさがエルサレムにある教会にも聞こえてきたので、教会はバルナバをアンティオキアへ行くように派遣した。 |
NIV | News of this reached the ears of the church at Jerusalem, and they sent Barnabas to Antioch. |
註解: 他人の播きしものを刈り取らんが為ではなく、地方の信徒を助けてその信仰を強め、またエルサレムの母教会と親密なる関係に入らんが為である。
辞解
[バルナバ] 使4:36参照。尚おアンテオケに伝道せるクプロ人はバルナバの同郷の知人であったろうと思われる。
11章23節 かれ
口語訳 | 彼は、そこに着いて、神のめぐみを見てよろこび、主に対する信仰を揺るがない心で持ちつづけるようにと、みんなの者を励ました。 |
塚本訳 | 彼は行って神の恩恵(が注がれている有様)を見て喜び、決してその決心を動かさず主を離れずにいるようにと、皆に勧めた。 |
前田訳 | 彼はそこに着いて神の恩恵を見てよろこび、皆に心を堅くして主に忠実であるよう勧めた。 |
新共同 | バルナバはそこに到着すると、神の恵みが与えられた有様を見て喜び、そして、固い決意をもって主から離れることのないようにと、皆に勧めた。 |
NIV | When he arrived and saw the evidence of the grace of God, he was glad and encouraged them all to remain true to the Lord with all their hearts. |
註解: 異邦人信徒の中に溢れている神の恩恵の表れは美しかったに相違ない。バルナバはこれを見て如何に喜んだ事であろうか、こうした新なる信徒に取りて最も重要なる事は、不動の態度を以て主イエスに堅く依りすがる事である。
辞解
[主に居る] prosmenô を用い、単なる menô よりも一層強き意味を表す。
11章24節
口語訳 | 彼は聖霊と信仰とに満ちた立派な人であったからである。こうして主に加わる人々が、大ぜいになった。 |
塚本訳 | バルナバという人はりっぱな、聖霊と信仰とに満ちた人であったからである。そして大勢の人が主に導かれた。 |
前田訳 | 彼はりっぱな、聖霊と信仰に満ちた人であった。そして多くの人が主へと導かれた。 |
新共同 | バルナバは立派な人物で、聖霊と信仰とに満ちていたからである。こうして、多くの人が主へと導かれた。 |
NIV | He was a good man, full of the Holy Spirit and faith, and a great number of people were brought to the Lord. |
註解: 前節の理由を示す、前節は簡単ではあるがバルナバがアンテオケに於て如何に一同に親しみを持ったかが窺 はれる。而してルカはその理由をバルナバの信仰と人格とに帰している。
辞解
[聖霊と信仰に満ちたる] 詳しく云えば堅き信仰を有ち聖霊が豊に与えられている事。
註解: アンテオケに於てかくして最初の異邦人教会が出来上った。
辞解
[多くの人々] 原語「若干の群」。
11章25節
口語訳 | そこでバルナバはサウロを捜しにタルソへ出かけて行き、 |
塚本訳 | 彼はまたサウロを捜しにタルソに出かけ、 |
前田訳 | バルナバはサウロをたずねてタルソヘ出かけ、 |
新共同 | それから、バルナバはサウロを捜しにタルソスへ行き、 |
NIV | Then Barnabas went to Tarsus to look for Saul, |
11章26節
口語訳 | 彼を見つけたうえ、アンテオケに連れて帰った。ふたりは、まる一年、ともどもに教会で集まりをし、大ぜいの人々を教えた。このアンテオケで初めて、弟子たちがクリスチャンと呼ばれるようになった。 |
塚本訳 | 見つけると、アンテオケにつれてきた。そして二人は丸一年ものあいだ(アンテオケ)集会に一緒にいて、大勢の人を教えた。このアンテオケではじめて(主の)弟子たちをクリスチャンと呼んだ。 |
前田訳 | 彼を見つけてアンテオケへ連れて来た。彼はまる一年集まりとともにあって多くの人を教えた。アンテオケではじめて弟子たちがクリスチャンと呼ばれるようになった。 |
新共同 | 見つけ出してアンティオキアに連れ帰った。二人は、丸一年の間そこの教会に一緒にいて多くの人を教えた。このアンティオキアで、弟子たちが初めてキリスト者と呼ばれるようになったのである。 |
NIV | and when he found him, he brought him to Antioch. So for a whole year Barnabas and Saul met with the church and taught great numbers of people. The disciples were called Christians first at Antioch. |
註解: サウロはかって(使9:30)バルナバと別れてエルサレムよりタルソに帰った。エルサレムの使徒たちはむしろサウロを遠ざけた事を喜んだであろうけれども、バルナバはサウロを愛し彼に逢わん事を望んでいたのでこの機会を利用して彼をアンテオケに伴って来たのであろう。そこにはエルサレムの如き反サウロ的傾向は無かったからである。尚バルナバの純にして野心なき心を見よ、彼はアンテオケに於けるその活動の結果を彼一人の功に帰せんとする如き慾心は少しも無かった。まことに「善き人」である。
辞解
[尋ねんとて] anazêteô は一所懸命に探す事。
[逢い] heuriskô は「見付ける」事でバルナバはサウロの居所や起居を熟知して居なかった事が解る。
[教会の集会に出で] 「教会に共に集められ」と訳すべき文字。
[多くの人] 「若干の群」前節辞解参照。
註解: キリステアン即ちクリスチアノスは「キリストのもの」の意味で、必ずしも軽蔑または嫌悪の意味を持って居ない。但し一般に基督者に対する嫌悪の情はこの名称にも感染し得た事は日本の「ヤソ」と云う語よりこれを察する事が出来る。基督信徒自身は、聖徒、兄弟、弟子、選ばれし者、信者等と称していた。
要義 [アンテオケ教会の意義]ユダヤ教の内部から生れ出たキリストの福音が、エチオピの権官、コルネリオ等のユダヤ人以外の個人を改宗せしめた例は以前にも有ったけれども、異邦人の団体をその旗下に集めたのはアンテオケが始であった。是によりて基督教の世界的宗教たる意義が、いよいよ明かに事実的に証明されるに至ったのであった。尚アンテオケのみならず初代の教会は何れも平信徒によりてその基を置かれた事は注意を要する点である。バルナバもパウロも別に使徒としての権威を使徒たちよリ賦与せられた訳でもなかった。かくして異邦の教会は唯信仰のみの上に建て上げられたのであって、人間社会の資格の如きは何等問題とはならなかった。
11章27節 その
口語訳 | そのころ、預言者たちがエルサレムからアンテオケにくだってきた。 |
塚本訳 | このころ預言者たちがエルサレムからアンテオケに下ってきたが、 |
前田訳 | そのころ預言者たちがエルサレムからアンテオケに下ってきた。 |
新共同 | そのころ、預言する人々がエルサレムからアンティオキアに下って来た。 |
NIV | During this time some prophets came down from Jerusalem to Antioch. |
註解: 何の為の下向かは明かにされて居ない。基督者の中に預言の賜物を受け居る者は相当に多かった(使13:1。使15:32、Tコリ12:10。Tコリ14:29-33。エペ4:11)。彼らは主として神の御旨を示されてこれを人に語る任務を帯びていた。その一つの表れとして未来の出実事をも預言した。
11章28節 その
口語訳 | その中のひとりであるアガボという者が立って、世界中に大ききんが起るだろうと、御霊によって預言したところ、果してそれがクラウデオ帝の時に起った。 |
塚本訳 | そのうちの一人のアガボという者が立って、全世界に大飢饉が来ようとしていると御霊によって予言していたところ、はたして(皇帝)クラウデオの時にあった。 |
前田訳 | そのひとりのアガボというものが立って、「全世界に飢饉がおころうとしている」と、み霊によって預言していたが、はたしてクラウデオの治世におこった。 |
新共同 | その中の一人のアガボという者が立って、大飢饉が世界中に起こると“霊”によって予告したが、果たしてそれはクラウディウス帝の時に起こった。 |
NIV | One of them, named Agabus, stood up and through the Spirit predicted that a severe famine would spread over the entire Roman world. (This happened during the reign of Claudius.) |
辞解
[アガボ] 使21:10を見よ。
[全世界] 当時の全文明世界、但しこうした広汎なる飢饉につきては記録なし。
[クラウデオ] ローマ皇帝の名、紀元41-45年の間支配す。その第四年即ち44年にパレスチナに飢饉があった事とその他41-48年の間に各地に殊にパレスチナに激しき飢饉があった事が記録されている。
11章29節
口語訳 | そこで弟子たちは、それぞれの力に応じて、ユダヤに住んでいる兄弟たちに援助を送ることに決めた。 |
塚本訳 | そこで(主の)弟子たちはめいめい分相応、ユダヤに住んでいる(気の毒な)兄弟たちに援助を送ることに決めた。 |
前田訳 | そこで弟子たちはおのおのの分に応じて、ユダヤに住む兄弟たちに援助を送ることに決めた。 |
新共同 | そこで、弟子たちはそれぞれの力に応じて、ユダヤに住む兄弟たちに援助の品を送ることに決めた。 |
NIV | The disciples, each according to his ability, decided to provide help for the brothers living in Judea. |
註解: 母教会より受けし霊の賜物に対する謝恩の印として、また、兄弟愛の発露として醵金 しこれをユダヤに居る兄弟たちに送る事とした。全く未知の兄弟に対する美しき愛の行為である。主にある兄弟姉妹の関係は何物にも比較し得ざる美しさを有する。
辞解
[力に応じて] 無理に過分に献金する事は信仰的ではない(Tコリ16:2。Uコリ8:3、4)。
[扶助] 原語 diakonia 奉仕の意。
11章30節
口語訳 | そして、それをバルナバとサウロとの手に託して、長老たちに送りとどけた。 |
塚本訳 | それを(すぐに)実行し、バルナバとサウロとの手で、(エルサレムの)長老たちに送った。 |
前田訳 | 彼らはそれを実行し、バルナバとサウロとの手で長老たちに届けた。 |
新共同 | そして、それを実行し、バルナバとサウロに託して長老たちに届けた。 |
NIV | This they did, sending their gift to the elders by Barnabas and Saul. |
註解: バルナバがサウロよりも上に置かれる事に注意すべし、当時の基督教会の評価がここに反映せるものである。またバルナバとサウロの二大柱石を派遣した事は、この寄附の事を非常に重大視していた事の証拠である。「長老」については附記を見よ、なお本節は使12:25に連続する。▲慈善的行為はキリスト教とは不可分である。
附記1 [長老について]長老 presbyteros なる文字は単に老人の意味にも用いられ(ルカ1:18。使2:17。Tテモ5:1、2。Tペテ5:1-5)またユダヤ教に於ける長老の意味にも用いられ(マタ16:21。マタ21:23等々)また基督信徒の間の長老の場合にも用いらる(使11:30。使14:23。使20:17其他)。如何なる程度に於て特定せられし職名であったかは不明である。使20:17、使20:28。テト1:5、6、7等には長老と監督とは差別なきものの如くに記されて居り、Uヨハ1:1、Vヨハ1:1には使徒ヨハネ(の書簡とすれば)は自己を長老ヨハネと呼んで居る。要するに漠然たる名称で、我が国人の用うる、[年寄株]と云う如き意味と解し度いと思う。従って本節(11:30)の場合にも使徒たちを除外したものと解する必要なく、唯一般的に年寄株を指したと見て可なりと思う。使徒が当時エルサレムを遁亡 していたろうとか、または使徒たちに食卓の事を煩はさせない為であろう等の考え方をする必要は無い。但しこの解釈は凡てを職名と解し、職掌の限界等を定むる事を好む欧米の学者の所説と異る事は勿論である。
附記2 [パウロの第二回エルサレム行に就て]ガラ2:1によればパウロの第二回エルサレム行は十四年後で使15:2に相当する。従って使11:30のエルサレム行は省略されている事となる。その理由としてパウロはエルサレムまで行かずに途中より引返したと想像する學者(M0)もあるけれども、むしろこのエルサレム行は唯一片の使者に過ぎずパウロの信仰上の問題とは没交渉なる為であると解すべきであろう。ガラ2:1註参照。
要義 [初代異邦人教会の特質](1)聖霊の直接の活動によりて成立せる事。ペテロとコルネリオの事件の如きその例である。伝道協会等の如き人為的手段方法によらなかった処に初代教会の力があった。(2)迫害によって散されし人々によりて福音が伝えられ、従って伝道者の権威、その教養、その資格等問題ではなく、その信仰のみが認められた事。(3)イエス・キリストとその十字架とその復活のみが伝えられ、現代の伝道事業の如く欧米文化を加味せる不純なる伝道でなかった事。(4)イエスを信ずる者は、母教会の困難を援助すべき義務を負える事は、欧米伝道会社の如く金銭を以て信徒を潤した事実とは正反対であった事。以上の如き諸事実が初代異邦人教会の力の源であった。