マタイ伝第13章
分類
5 イエス逆境に陥りたまう 11:1 - 16:12
5-3 イエス譬喩(ひゆ)をもてパリサイ人らを戒め給う 13:1 - 13:58
5-3-イ 種蒔の譬 13:1 - 13:9
(マコ4:1-9) (ルカ8:4-8)
註解: 山上の垂訓をもって天国の福音を説き給い、多くの能力ある業を行い給えるイエスは、ここに民衆の不理解と有識者階級の嫉妬のためにその運命の一転機に立ち給うた。ここにおいてイエスは多くの譬をもって天国について語り給うた。これ悟り得る者に取っては天国の状態を明瞭に思い浮ぶることを助け、今直ちに天国の真理を悟り得ざる者に取っては、これを記憶に留むることを得しめ後に至ってこれを思い出すことによりて天国においての真理を悟らしめんとし給うたのである。而してイエスの譬の実に巧なることはその簡単なる語の中に、多くの真理を包含していることと、しかも比喩が適切に事実に適応していることをもってこれを知ることができる。
13章1節 その日イエスは家を出でて、海邊に坐したまふ。[引照]
口語訳 | その日、イエスは家を出て、海べにすわっておられた。 |
塚本訳 | その日イエスは家を出て、湖のほとりに坐って(教えて)おられたが、 |
前田訳 | その日イエスは家を出て湖畔にすわっておられた。 |
新共同 | その日、イエスは家を出て、湖のほとりに座っておられた。 |
NIV | That same day Jesus went out of the house and sat by the lake. |
13章2節 大なる群衆みもとに集りたれば、イエスは舟に乘りて坐したまひ、群衆はみな岸に立てり。[引照]
口語訳 | ところが、大ぜいの群衆がみもとに集まったので、イエスは舟に乗ってすわられ、群衆はみな岸に立っていた。 |
塚本訳 | 大勢の群衆が集まってきたので、舟に乗って坐られた。群衆は皆岸に立っていた。 |
前田訳 | そこにあまり多くの群衆が集まったので彼は小舟に乗ってすわられた。群衆は皆岸に立っていた。 |
新共同 | すると、大勢の群衆がそばに集まって来たので、イエスは舟に乗って腰を下ろされた。群衆は皆岸辺に立っていた。 |
NIV | Such large crowds gathered around him that he got into a boat and sat in it, while all the people stood on the shore. |
註解: 山上の垂訓においてはイエスは山上に坐し弟子を中心として群衆にもこれを叙べ、もって地上における天国の民の高さを示し、ここにはイエス舟に坐し群衆を主とし弟子にも天国の民が最後の審判に至るまで、地上においていかなる状態に留まらなければならないかを示し給うた。
13章3節 譬にて數多のことを語りて言ひたまふ、『視よ、種播く者まかんとて出づ。[引照]
口語訳 | イエスは譬で多くの事を語り、こう言われた、「見よ、種まきが種をまきに出て行った。 |
塚本訳 | 譬をもって多くのことを語られた。──「種まく人が種まきに出かけた。 |
前田訳 | 彼は多くのことを譬えで語られた、「見よ、種まく人が種まきに出かけた。 |
新共同 | イエスはたとえを用いて彼らに多くのことを語られた。「種を蒔く人が種蒔きに出て行った。 |
NIV | Then he told them many things in parables, saying: "A farmer went out to sow his seed. |
13章4節 播くとき路の傍らに落ちし種あり、鳥きたりて啄む。[引照]
口語訳 | まいているうちに、道ばたに落ちた種があった。すると、鳥がきて食べてしまった。 |
塚本訳 | まく時に、あるものは道ばたに落ちた。鳥が来て食ってしまった。 |
前田訳 | まくうちに、あるものは道ばたに落ちて、鳥が来て食べた。 |
新共同 | 蒔いている間に、ある種は道端に落ち、鳥が来て食べてしまった。 |
NIV | As he was scattering the seed, some fell along the path, and the birds came and ate it up. |
13章5節 土うすき磽地に落ちし種あり、土深からぬによりて速かに萠え出でたれど、[引照]
口語訳 | ほかの種は土の薄い石地に落ちた。そこは土が深くないので、すぐ芽を出したが、 |
塚本訳 | あるものは土の多くない岩地に落ちた。土が深くないため、すぐ芽を出したが、 |
前田訳 | あるものは土の多くない岩地に落ちて、土が深くないのですぐ芽を出したが、 |
新共同 | ほかの種は、石だらけで土の少ない所に落ち、そこは土が浅いのですぐ芽を出した。 |
NIV | Some fell on rocky places, where it did not have much soil. It sprang up quickly, because the soil was shallow. |
13章6節 日の昇りし時やけて根なき故に枯る。[引照]
口語訳 | 日が上ると焼けて、根がないために枯れてしまった。 |
塚本訳 | 日が出ると焼けて、しっかりした根がないので枯れてしまった。 |
前田訳 | 日がのぼると焼けて、根がないので枯れた。 |
新共同 | しかし、日が昇ると焼けて、根がないために枯れてしまった。 |
NIV | But when the sun came up, the plants were scorched, and they withered because they had no root. |
13章7節 茨の地に落ちし種あり、茨そだちて之を塞ぐ。[引照]
口語訳 | ほかの種はいばらの地に落ちた。すると、いばらが伸びて、ふさいでしまった。 |
塚本訳 | あるものは茨の(根が張っている)間に落ちた。茨が伸びてきて押えつけてしまった。 |
前田訳 | あるものは茨の間に落ちて、茨がのびて押さえつけた。 |
新共同 | ほかの種は茨の間に落ち、茨が伸びてそれをふさいでしまった。 |
NIV | Other seed fell among thorns, which grew up and choked the plants. |
13章8節 良き地に落ちし種あり、あるひは百倍、あるひは六十倍、あるひは三十倍の實を結べり。[引照]
口語訳 | ほかの種は良い地に落ちて実を結び、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍にもなった。 |
塚本訳 | しかしあるものは良い地に落ちた。そしてあるいは百倍、あるいは六十倍、あるいは三十倍の実がなった。 |
前田訳 | あるものはよい地に落ちて、あるいは百倍、あるいは六十倍、あるいは三十倍の実がなった。 |
新共同 | ところが、ほかの種は、良い土地に落ち、実を結んで、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍にもなった。 |
NIV | Still other seed fell on good soil, where it produced a crop--a hundred, sixty or thirty times what was sown. |
註解: この譬の意義は、9節以下において主自ら説明し給うた。
辞解
[種播く人] 単数にして冠詞あり。すなわちキリストを指す。
[磽地] 礫多き地ではなく岩石の層の上を薄く土壌が覆うている地であって、種子は太陽の熱を受くること多く発芽は早いけれども根を張ることができない。
13章9節 耳ある者は聽くべし』[引照]
口語訳 | 耳のある者は聞くがよい」。 |
塚本訳 | 耳のある者は聞け。」 |
前田訳 | 耳あるものは聞け」と。 |
新共同 | 耳のある者は聞きなさい。」 |
NIV | He who has ears, let him hear." |
註解: マタ11:15註。
5-3-ロ 譬喩を用いる目的 13:10 - 13:17(マコ4:10-12) (ルカ8:9-10)
13章10節 弟子たち御許に來りて言ふ『なにゆゑ譬にて彼らに語り給ふか』[引照]
口語訳 | それから、弟子たちがイエスに近寄ってきて言った、「なぜ、彼らに譬でお話しになるのですか」。 |
塚本訳 | 弟子たちが進み寄って、「あの人たちにはなぜ譬をもって話をされますか」とたずねると、 |
前田訳 | 弟子たちが彼のところへ来ていった、「なぜ譬えで彼らにお話しになりますか」と。 |
新共同 | 弟子たちはイエスに近寄って、「なぜ、あの人たちにはたとえを用いてお話しになるのですか」と言った。 |
NIV | The disciples came to him and asked, "Why do you speak to the people in parables?" |
13章11節 答へて言ひ給ふ『なんぢら(に)は天國の奧義を知ることを[許され](賜はり)たれど、彼ら(に)は[許され](賜はら)ず。[引照]
口語訳 | そこでイエスは答えて言われた、「あなたがたには、天国の奥義を知ることが許されているが、彼らには許されていない。 |
塚本訳 | 答えられた、「あなた達(内輪の者)には、天の国の秘密をさとる力が授けられている(のでありのままに話す)が、あの(外の)人たちには授けられていないのだ。 |
前田訳 | 彼は答えられた、「あなた方には天国の奥義を知ることがゆるされているが、彼らにはゆるされていない。 |
新共同 | イエスはお答えになった。「あなたがたには天の国の秘密を悟ることが許されているが、あの人たちには許されていないからである。 |
NIV | He replied, "The knowledge of the secrets of the kingdom of heaven has been given to you, but not to them. |
註解: これを見てもイエスがこの譬を「彼ら」すなわち群衆を主として語り給うたことを見ることができる。蓋し群衆は未だ天国の深い事柄を理解する力を与えられていなかったのでメシヤの国が直ちに実現すべき外的の国と考えていたのを、その誤りを正して、それが内面的に心の中より発芽成長しなければならぬものなることを示さんとし給うたのである。▲マタイ伝の「天国」は他の福音書の「神の国」と同義に用いられている。「天国」は死後に行く処ではなく、神の支配の下にいる者すなわち「神の国」を指す。
13章12節 それ誰にても、有てる人は與へられて愈々豐ならん。されど有たぬ人は、その有てる物をも取らるべし。[引照]
口語訳 | おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう。 |
塚本訳 | だれでも持っている人は(さらに)与えられてあり余るが、持たぬ人は、持っているものまでも取り上げられるのである。 |
前田訳 | 持つものは与えられてあり余り、持たぬものは持っているものも取られよう。 |
新共同 | 持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。 |
NIV | Whoever has will be given more, and he will have an abundance. Whoever does not have, even what he has will be taken from him. |
註解: この事実は経済社会においてもこれを見ると同じく霊界においても真理である。有つ者はイエスの教えを保有する者、有たぬ者はこれをすてた者であるゆえに弟子たちはイエスの福音をきいて益々富み、群衆は彼を受けずして益々貧し。
13章13節 この故に彼らには譬にて語る、これ彼らは見ゆれども見ず、聞ゆれども聽かず、また悟らぬ故なり、[引照]
口語訳 | だから、彼らには譬で語るのである。それは彼らが、見ても見ず、聞いても聞かず、また悟らないからである。 |
塚本訳 | だから、あの人たちには譬をもって話すのである。“見ても見えず、聞いても聞えず、また悟らない”からだ。 |
前田訳 | それゆえわたしは彼らに譬えで語る。『見て見えず、聞いて聞こえず、悟らず』である。 |
新共同 | だから、彼らにはたとえを用いて話すのだ。見ても見ず、聞いても聞かず、理解できないからである。 |
NIV | This is why I speak to them in parables: "Though seeing, they do not see; though hearing, they do not hear or understand. |
註解: この一節は前後の関係上「これ彼らは見れども見えず、聞けども聞えずまた悟らぬゆえなり」とか又は一層直訳して「これ彼らは見て見ず、聞きて聴かずまた悟らぬゆえなり」と訳すべきであろう(ルカ8:10)。蓋し群衆は見る力を持っていながらわざと見ないという意味ではなく、彼らは「長い間イエスの行為を見ていながらこれを見分くる明がなく(ヨハ6:26、ヨハ6:36)、その教えを聞きながら聴き分くる力がなく又悟らなかった」(Z0)ことを意味しているからである。ゆえにイエスはその無辺の愛よりせめて、譬をもってなりとも彼らをして悟らしめんとして語り給うのである。
13章14節 かくてイザヤの預言は、彼らの上に成就す。曰く、「なんぢら聞きて聞けども悟らず、見て見れども認めず。[引照]
口語訳 | こうしてイザヤの言った預言が、彼らの上に成就したのである。『あなたがたは聞くには聞くが、決して悟らない。見るには見るが、決して認めない。 |
塚本訳 | こうしてイザヤの預言はあの人たちに成就した。──“あなた達は聞いても聞いても、決して悟るまい、見ても見ても、決してわかるまい。 |
前田訳 | イザヤの預言は彼らに成就する、いわく、『あなた方は聞きに聞いても決して悟るまい、見に見ても決してわかるまい。 |
新共同 | イザヤの預言は、彼らによって実現した。『あなたたちは聞くには聞くが、決して理解せず、/見るには見るが、決して認めない。 |
NIV | In them is fulfilled the prophecy of Isaiah: "`You will be ever hearing but never understanding; you will be ever seeing but never perceiving. |
13章15節 この民の心は鈍く、耳は聞くに懶く、目は閉ぢたればなり。これ目にて見、耳にて聽き、心にて悟り、飜へりて、我に醫さるる事なからん爲なり」[引照]
口語訳 | この民の心は鈍くなり、その耳は聞えにくく、その目は閉じている。それは、彼らが目で見ず、耳で聞かず、心で悟らず、悔い改めていやされることがないためである』。 |
塚本訳 | この民の心は鈍くなり、耳は遠くなり、その目は閉じてしまっているのだから。そうでないと、彼らは目で見、耳で聞き、心で悟り、心を入れかえて(わたし[神]に帰り)、わたしに直されるかも知れない。” |
前田訳 | この民の心はにぶり、耳は遠くなり、目は閉じているから。そうでなければ、彼らは目で見、耳で聞き、心で悟り、立ちかえって、わたしが彼らをいやすであろう』と。 |
新共同 | この民の心は鈍り、/耳は遠くなり、/目は閉じてしまった。こうして、彼らは目で見ることなく、/耳で聞くことなく、/心で理解せず、悔い改めない。わたしは彼らをいやさない。』 |
NIV | For this people's heart has become calloused; they hardly hear with their ears, and they have closed their eyes. Otherwise they might see with their eyes, hear with their ears, understand with their hearts and turn, and I would heal them.' |
註解: このイザヤの預言は成就した。ユダヤ人は心が腐敗しているがために、その腐敗が目、耳をも腐らしめ遂にイエスをすら認め得ざるに至ったのである。ユダヤ人の頑迷にしてイエスを受けざることの罪深さが、このイザヤの語をもって極めて適切に言い表わされているので、他に数回引用せられている。
13章16節 されど汝らの目なんぢらの耳は、見るゆゑに聞くゆゑに、幸福なり。[引照]
口語訳 | しかし、あなたがたの目は見ており、耳は聞いているから、さいわいである。 |
塚本訳 | だが、あなた達の目は見、耳は聞くから幸いである。 |
前田訳 | しかしあなた方の目は見、耳は聞くからさいわいである。 |
新共同 | しかし、あなたがたの目は見ているから幸いだ。あなたがたの耳は聞いているから幸いだ。 |
NIV | But blessed are your eyes because they see, and your ears because they hear. |
13章17節 まことに汝らに告ぐ、多くの預言者・義人は、汝らが見る所を見んとせしが見ず、なんぢらが聞く所を聞かんとせしが聞かざりしなり。[引照]
口語訳 | あなたがたによく言っておく。多くの預言者や義人は、あなたがたの見ていることを見ようと熱心に願ったが、見ることができず、またあなたがたの聞いていることを聞こうとしたが、聞けなかったのである。 |
塚本訳 | アーメン、わたしは言う、多くの預言者と義人とは、あなた達が(いま)見ているものを見たい見たいと思ったが見られず、あなた達が(いま)聞いているものを聞きたい聞きたいと思ったが、聞かれなかったのである。 |
前田訳 | 本当にいう、多くの預言者と義人はあなた方が見ているものを見たく思っても見られず、あなた方が聞いているものを聞きたく思っても聞けなかった。 |
新共同 | はっきり言っておく。多くの預言者や正しい人たちは、あなたがたが見ているものを見たかったが、見ることができず、あなたがたが聞いているものを聞きたかったが、聞けなかったのである。」 |
NIV | For I tell you the truth, many prophets and righteous men longed to see what you see but did not see it, and to hear what you hear but did not hear it. |
註解: 弟子たちは霊的の事柄を理解し、キリストの行為を見、その教えを聞きてこれを悟る力を有っていた。これほど幸いなることはない。昔から多くの預言者義人は神の霊に感じて唯キリストを望み、キリストにつき預言していたけれども(イザ53:1以下。ヨブ19:25等)弟子たちのごとく面のあたり彼を見、直接彼の御言を聞くの幸いを持つことができなかった。今日の我らは肉によれるキリストに接することができないけれども、キリストの遣わし給える「助手」が永遠に我らと共にい給うがゆえに(ヨハ14:16)、見ゆる目、聞ゆる耳を有つ者はこの弟子らと同じ幸いを得、然らざる者はユダヤ人のごとく不幸である。
5-3-ハ 種蒔の譬の解説 13:18 - 13:23(マコ4:13-20) (ルカ8:11-15)
13章18節 されば汝ら種播く者の譬を聽け。[引照]
口語訳 | そこで、種まきの譬を聞きなさい。 |
塚本訳 | だからあなた達には種まく人の譬を説明してあげよう。── |
前田訳 | それゆえあなた方は種まきの譬えを聞きえよう。 |
新共同 | 「だから、種を蒔く人のたとえを聞きなさい。 |
NIV | "Listen then to what the parable of the sower means: |
13章19節 誰にても天國の言をききて悟らぬときは、惡しき者きたりて、其の心に播かれたるものを奪ふ。路の傍らに播かれしとは斯かる人なり。[引照]
口語訳 | だれでも御国の言を聞いて悟らないならば、悪い者がきて、その人の心にまかれたものを奪いとって行く。道ばたにまかれたものというのは、そういう人のことである。 |
塚本訳 | だれでも御国の言葉を聞いて悟らないと、悪者[悪魔]が来て、心の中にまかれたものを奪ってゆく。これは道ばたにまかれた人である。 |
前田訳 | み国のことばを聞いて悟らないと、悪者が来て心にまかれたものをうばう。これは道ばたにまかれたものである。 |
新共同 | だれでも御国の言葉を聞いて悟らなければ、悪い者が来て、心の中に蒔かれたものを奪い取る。道端に蒔かれたものとは、こういう人である。 |
NIV | When anyone hears the message about the kingdom and does not understand it, the evil one comes and snatches away what was sown in his heart. This is the seed sown along the path. |
註解: いかに頑固にて道路のごとく固き心を持っている者も、一度天国の言を聞いた者はたといこれを悟らずとも既に種はその心に落ちているのであって、もし「悪しき者」すなわち悪魔をしてこれを奪わしめないならば、それが発育する見込みがある。ゆえにその心が頑固にしてその種を心に深く受入れない者は、その心を打ち砕き柔らかにしてこれを悟るようにしなければならぬ、もし打ち砕き得ざる程心の固き者はその心を主の御前にささげるならば、主イエスはこれを砕き給うであろう。
辞解
[悪しき者] 空の鳥は往々悪魔の例に用いられている(マタ8:20。エゼ31:6。ダニ4:9)。
[路の傍] 堅くして種を受入れない、これ道路は多くの人に踏まれているからである。ゆえに昔からの人の踏みならした伝統の道に固着している人の心は常に頑固であって、他の事柄を悟ることができない。ゆえにキリストをすら拒むに至るのである。
13章20節 磽地に播かれしとは、御言をききて、直ちに喜び受くれども、[引照]
口語訳 | 石地にまかれたものというのは、御言を聞くと、すぐに喜んで受ける人のことである。 |
塚本訳 | 岩地にまかれたもの、これは御言葉を聞いてすぐ喜んで受けいれるが、 |
前田訳 | 岩地にまかれたもの、それはことばを聞いてすぐよろこんでそれを受けるが、 |
新共同 | 石だらけの所に蒔かれたものとは、御言葉を聞いて、すぐ喜んで受け入れるが、 |
NIV | The one who received the seed that fell on rocky places is the man who hears the word and at once receives it with joy. |
13章21節 己に根なければ暫し耐ふるのみにて、御言のために艱難あるひは迫害の起るときは、直ちに躓くものなり。[引照]
口語訳 | その中に根がないので、しばらく続くだけであって、御言のために困難や迫害が起ってくると、すぐつまずいてしまう。 |
塚本訳 | 自分の中に(しっかりした信仰)の根がなく、ただその当座だけであるから、御言葉のために苦難や迫害がおこると、すぐ信仰から離れおちる人である。 |
前田訳 | 自らの中に根がなくて長つづきせず、ことばゆえに苦しみや迫害がおこると、すぐつまずく。 |
新共同 | 自分には根がないので、しばらくは続いても、御言葉のために艱難や迫害が起こると、すぐにつまずいてしまう人である。 |
NIV | But since he has no root, he lasts only a short time. When trouble or persecution comes because of the word, he quickly falls away. |
註解: 磽地のごとくに熱し易い人は頼りにならない、一時はその信仰が速やかに成長するごとくに見えるけれども「御言のために」起る故障によりて、直ちに躓くのはこの種の人である。
13章22節 茨の中に播かれしとは、御言をきけども、世の心勞と財貨の惑とに、御言を塞がれて實らぬものなり。[引照]
口語訳 | また、いばらの中にまかれたものとは、御言を聞くが、世の心づかいと富の惑わしとが御言をふさぐので、実を結ばなくなる人のことである。 |
塚本訳 | 茨の中にまかれたもの、これは御言葉を聞くが、(しばらく信じているうちに、)この世の心配や富の惑わしが御言葉を押えつけて、みのらない人である。 |
前田訳 | 茨の中にまかれたもの、それはことばを聞いても世のわずらいや富の惑わしがことばを押さえて実らなくなる。 |
新共同 | 茨の中に蒔かれたものとは、御言葉を聞くが、世の思い煩いや富の誘惑が御言葉を覆いふさいで、実らない人である。 |
NIV | The one who received the seed that fell among the thorns is the man who hears the word, but the worries of this life and the deceitfulness of wealth choke it, making it unfruitful. |
註解: 茨が発育し得る土壌は土が相当深く肥沃である。従って御言の種もそこに根を下し発育することができる、すなわち御言を悟ることはできる。唯、名誉、地位、成功、金銭等の心労や惑のために実を結ぶに至らず、結局無駄になってしまうものである。
13章23節 良き地に播かれしとは、御言をききて悟り、實を結びて、あるひは百倍、あるひは六十倍、あるひは三十倍に至るものなり』[引照]
口語訳 | また、良い地にまかれたものとは、御言を聞いて悟る人のことであって、そういう人が実を結び、百倍、あるいは六十倍、あるいは三十倍にもなるのである」。 |
塚本訳 | しかし良い地にまかれたもの、これは御言葉を聞いて悟る人で、きっと実を結び、あるいは百倍、あるいは六十倍、あるいは三十倍になるのである。」 |
前田訳 | よい地にまかれたもの、それはことばを聞いて悟るもので、たしかに実を結んで、あるいは百倍、あるいは六十倍、あるいは三十倍になる」と。 |
新共同 | 良い土地に蒔かれたものとは、御言葉を聞いて悟る人であり、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍の実を結ぶのである。」 |
NIV | But the one who received the seed that fell on good soil is the man who hears the word and understands it. He produces a crop, yielding a hundred, sixty or thirty times what was sown." |
註解: かかる者は悟るのみならず実を結ぶことができる。実を結ぶ程度の差異はその人の天稟によるのであって問題とするに足らない。
要義1 [四種類の土地]以上の譬によりて示されし四種の土地は、実に適切に人間性の種類を網羅したものと言うことができる。而して福音を受入れる上において最も困難なのは第一種の人々であって、彼らには多くの場合福音の種子が無益に播かれているのである。これに次いで望み少なきものは第二種の人々であって一度は教会の門に出入し、一時熱心なる信者であった人が後に消えて跡形なきに至っているのは、多くこの種の人である。第三の種類の人は中でも最も有望であって、もしその心より茨さえも除くことができるならば必ず実を結び得る望みがあるのはかかる人である。ゆえに彼らにとってはこの世の境遇が不孝に陥り、その財産を失い、健康を傷えるごとき場合にかえって福音の実を結び得ることは事実である。かくのごとくこの四種の人間性は神の言より見て最も適切なる順序に排列せられているのである。
要義2 [いかにして良き地となるべきか]福音の畑として見たる心の良否は、ある程度までその天性にもよるけれども、しかしたといいかなる天性に生れ付いたにしても、すべての人はこれを良き地として神の言を受入れなければならないはずである。而して悪しき地(すなわち路傍、石地、茨地)を良き地たらしむるにはやはり開墾より他に途があるはずがない。石を砕き草を採り土地を耕して、始めてそこに良き地ができるのである。しかしながら人間の心の土地は非常に開墾し難い場所であって、人間は全力を尽くしてこれを開墾せんとしても尚砕き得ざる石があり、又全力を注ぎて除草を行っても直ちに茨が繁茂することは事実である。ゆえに我らは遂に我らの心をすべて神の御前に投出さなければならない。その時神は我らの心の岩を打砕き給うであろう(エゼ36:26)。
5-3-ニ 麦と毒麦の譬 13:24 - 13:30
13章24節 また他の譬を示して言ひたまふ『天國は良き種を畑にまく人のごとし。[引照]
口語訳 | また、ほかの譬を彼らに示して言われた、「天国は、良い種を自分の畑にまいておいた人のようなものである。 |
塚本訳 | またほかの譬を群衆に示して言われた、「天の国は畑に良い種をまく人にたとえられる。 |
前田訳 | もうひとつの譬えを彼らに示していわれた、「天国は自らの畑によい種をまく人に似る。 |
新共同 | イエスは、別のたとえを持ち出して言われた。「天の国は次のようにたとえられる。ある人が良い種を畑に蒔いた。 |
NIV | Jesus told them another parable: "The kingdom of heaven is like a man who sowed good seed in his field. |
13章25節 人々の眠れる間に、(彼の)仇きたりて麥のなかに毒麥を播きて去りぬ。[引照]
口語訳 | 人々が眠っている間に敵がきて、麦の中に毒麦をまいて立ち去った。 |
塚本訳 | 人々が(夜)眠っている間に敵が来て、麦の中に毒麦をまいて行った。 |
前田訳 | 人々が眠っているうちに敵が来て麦の間に毒麦をまいていった。 |
新共同 | 人々が眠っている間に、敵が来て、麦の中に毒麦を蒔いて行った。 |
NIV | But while everyone was sleeping, his enemy came and sowed weeds among the wheat, and went away. |
辞解
[人々] 畑を見守る人々のこと(B1)。
[仇] 原語に「彼の仇」とあり、人々の仇にあらず、播く人すなわちキリストの仇である。
[毒麦] 麦に似て有害なる実を結ぶ草、ヘブル語のゾーニーン。
13章26節 苗はえ出でて實りたるとき、毒麥もあらはる。[引照]
口語訳 | 芽がはえ出て実を結ぶと、同時に毒麦もあらわれてきた。 |
塚本訳 | 苗が芽生えて実を結ぶと、その時毒麦も現われた。 |
前田訳 | 苗がのびて実ると、毒麦も現われた。 |
新共同 | 芽が出て、実ってみると、毒麦も現れた。 |
NIV | When the wheat sprouted and formed heads, then the weeds also appeared. |
註解: 実を結びて始めて毒麦なることが知られるのであって、苗の時は互いに酷似しており見分けがつかない。
13章27節 僕ども來りて家主にいふ「主よ、畑に播きしは良き種ならずや、然るに如何にして毒麥あるか」[引照]
口語訳 | 僕たちがきて、家の主人に言った、『ご主人様、畑におまきになったのは、良い種ではありませんでしたか。どうして毒麦がはえてきたのですか』。 |
塚本訳 | 使用人たちが来て家の主人に言った、『ご主人、畑には良い種をまかれたのではないですか。すると毒麦はどこから来たのでしょうか。』 |
前田訳 | 僕たちが来て家主(いえあるじ)にいった、『ご主人、ご自分の畑にまかれたのはよい種のはずですのに、毒麦はどこから来たのですか』と。 |
新共同 | 僕たちが主人のところに来て言った。『だんなさま、畑には良い種をお蒔きになったではありませんか。どこから毒麦が入ったのでしょう。』 |
NIV | "The owner's servants came to him and said, `Sir, didn't you sow good seed in your field? Where then did the weeds come from?' |
註解: 多くのキリスト者は彼らの間に悪魔が常に毒麦を播かんとしていることを知らずにいる、彼らは目をさましてこれを見守らなければならない。
13章28節 主人いふ「仇のなしたるなり」[引照]
口語訳 | 主人は言った、『それは敵のしわざだ』。すると僕たちが言った『では行って、それを抜き集めましょうか』。 |
塚本訳 | 主人がこたえた、『敵のしわざだ。』使用人たちが言う、『では、行って抜き取りましょうか。』 |
前田訳 | 彼はいった、『敵のしわざだ』と。僕たちはいう、『それならわたしたちが行って毒麦を集めましょうか』と。 |
新共同 | 主人は、『敵の仕業だ』と言った。そこで、僕たちが、『では、行って抜き集めておきましょうか』と言うと、 |
NIV | "`An enemy did this,' he replied. "The servants asked him, `Do you want us to go and pull them up?' |
註解: 主人すなわちキリストは仇の働きを知り給う。
僕ども言ふ「さらば我らが往きて之を拔き集むるを欲するか」
註解: 僕は麦と毒麦との区別を明かにすることができると信じていた。しかしこれは不可能である。
13章29節 主人いふ「いな、恐らくは毒麥を拔き集めんとて、麥をも共に拔かん。[引照]
口語訳 | 彼は言った、『いや、毒麦を集めようとして、麦も一緒に抜くかも知れない。 |
塚本訳 | 主人が言う、『いや、毒麦を抜き取ろうとして、麦まで一しょに引き抜くかも知れない。 |
前田訳 | 彼はいう、『いや、毒麦を集めれば麦もいっしょに抜きかねない。 |
新共同 | 主人は言った。『いや、毒麦を集めるとき、麦まで一緒に抜くかもしれない。 |
NIV | "`No,' he answered, `because while you are pulling the weeds, you may root up the wheat with them. |
註解: 人間の知識をもって信者と不信者との限界をあまりに明瞭にせんとする時は、往々にして不信者を除かんがために信者をも抜くことがある。而して一人の信者を排斥する罪は大なる罪である。何となれば彼もキリストの血によりて贖われし者であるから。それよりはむしろ毒麦を忍びても麦を犠牲にしない方が必要である。ただし茨と薊のごとく明瞭に麦と区別し得る者に対してはこれを除くべきことは勿論である。
13章30節 兩ながら收穫まで育つに任せよ。收穫のとき我かる者に「まづ毒麥を拔きあつめて、焚くために之を束ね、麥はあつめて我が倉に納れよ」と言はん」』[引照]
口語訳 | 収穫まで、両方とも育つままにしておけ。収穫の時になったら、刈る者に、まず毒麦を集めて束にして焼き、麦の方は集めて倉に入れてくれ、と言いつけよう』」。 |
塚本訳 | 両方とも刈入れまで育つままにしておけ。刈入れの時、わたしが刈入れ人たちに言いつける、まず毒麦を抜き取り、束にしばって焼きすてよ、麦の方は集めて倉に入れよ、と。』」 |
前田訳 | 両方とも取入れまで育つにまかせよ、取入れのとき取入れ人にいおう、まず毒麦を集めて、束にして焼け、そして麦をわが倉に集めよ』」と。 |
新共同 | 刈り入れまで、両方とも育つままにしておきなさい。刈り入れの時、「まず毒麦を集め、焼くために束にし、麦の方は集めて倉に入れなさい」と、刈り取る者に言いつけよう。』」 |
NIV | Let both grow together until the harvest. At that time I will tell the harvesters: First collect the weeds and tie them in bundles to be burned; then gather the wheat and bring it into my barn.'" |
註解: 人は審判の日に先立ちて自ら他を裁いてはならない、誤れば恐らく彼もまた裁かれるであろう。ゆえに毒麦はこれを除かずして収穫の日を待たなければならない。▲この譬は、一般に教会などで行われているように、信者と不信者とを人間的判断によって明白に区別することは不可能であり、人間的誤謬が必ずこれに伴うことを示す。
5-3-ホ 芥種の譬 13:31 - 13:32(マコ4:30-32) (ルカ13:18、19)
13章31節 また他の譬を示して言ひたまふ『天國は一粒の芥種のごとし、人これを取りてその畑に播くときは、[引照]
口語訳 | また、ほかの譬を彼らに示して言われた、「天国は、一粒のからし種のようなものである。ある人がそれをとって畑にまくと、 |
塚本訳 | またほかの譬を彼らに示して言われた、「天の国は芥子粒に似ている。ある人がそれを畑にまいた。 |
前田訳 | もうひとつの譬えを彼らに示していわれた、「天国はある人がつまんで自らの畑にまいたからし種に似る。 |
新共同 | イエスは、別のたとえを持ち出して、彼らに言われた。「天の国はからし種に似ている。人がこれを取って畑に蒔けば、 |
NIV | He told them another parable: "The kingdom of heaven is like a mustard seed, which a man took and planted in his field. |
13章32節 萬の種よりも小けれど、育ちては他の野菜よりも大く、樹となりて、空の鳥きたり其の枝に宿るほどなり』[引照]
口語訳 | それはどんな種よりも小さいが、成長すると、野菜の中でいちばん大きくなり、空の鳥がきて、その枝に宿るほどの木になる」。 |
塚本訳 | これはあらゆる種の中で一番小さいが、育つと、野菜の中で一番大きくなり、(大きな)木になって、“空の鳥が”来て“その枝に巣を作る”ようになるのである。」 |
前田訳 | 種という種のうちもっとも小さいが、育つと、野菜のうちでもっとも大きくなり、木になり、空の鳥が来て枝に巣くうほどになる」と。 |
新共同 | どんな種よりも小さいのに、成長するとどの野菜よりも大きくなり、空の鳥が来て枝に巣を作るほどの木になる。」 |
NIV | Though it is the smallest of all your seeds, yet when it grows, it is the largest of garden plants and becomes a tree, so that the birds of the air come and perch in its branches." |
註解: イエスが(人)御在世の間に蒔かれし福音の種は、唯ガリラヤの一角とユダヤの一部サマリヤの小部分に過ぎなかった。その弟子も極めて少なくイエスが十字架に釘き給える時には、彼らすら彼を捨て去るくらいであった。「その代の人のうち誰か彼が活ける者の地より断たれしことを思いたりしや」(イザ53:8)。しかるにこの種が発育して今日は、他のすべての野菜よりも大きい芥の樹となった。唯悲しいかな、勢力が増すに従い、その中に悪魔(空の鳥)が宿るに至るのであって、ローマ旧教会にも今日の新教教会にも悪魔の力のいかに強大であるかを見るならば、このイエスの御言の適切であることを知るであろう。
辞解
[芥種] 種子は小さいけれども成長すれば小潅木の高さとなる。
[人] イエス
[畑] 世界
[空の鳥] 悪魔を示すものと見るべきであろう。この譬の説明として最も適切なのはエゼ31:3−15であろう。次節付記参照。▲31−33節は神の国の拡大性とその腐敗性とが相伴っていることを示すもので、全く事実に叶った預言となった訳である。これは教会に対するイエスの警告であった。
5-3-ヘ パン種の譬 13:33(ルカ13:20-21)
13章33節 また他の譬を語りたまふ『天國はパンだねのごとし、女これを取りて、三斗の粉の中に[入るれ](かくせ)ば、ことごとく脹れいだすなり』[引照]
口語訳 | またほかの譬を彼らに語られた、「天国は、パン種のようなものである。女がそれを取って三斗の粉の中に混ぜると、全体がふくらんでくる」。 |
塚本訳 | またほかの譬を彼らに語られた、「天の国はパン種に似ている。女がそれを三サトン(二斗)の粉の中に混ぜたところ、ついに全体が発酵した。」 |
前田訳 | もうひとつの譬えを彼らにいわれた、「天国はパン種に似る。女の人がそれを取って三サトンの粉に入れると、みな醗酵した」と。 |
新共同 | また、別のたとえをお話しになった。「天の国はパン種に似ている。女がこれを取って三サトンの粉に混ぜると、やがて全体が膨れる。」 |
NIV | He told them still another parable: "The kingdom of heaven is like yeast that a woman took and mixed into a large amount of flour until it worked all through the dough." |
註解: 天国には腐敗の分子(パン種)が非常に入り易い。悪魔(女)がその少量を多量の粉の中に隠して置けば全体が直ちに膨れ出してしまう。教会主義、理智主義、新神学、高等批評、俗化主義等が始めは極めて少量であっても遂には全教会をこれに浸潤せしむるに至るのは恐るべきことである。
辞解
[パン種] 聖書において常に腐敗、世俗主義の代表として用いられている(引照を一々参照せよ)。
[粉] 神の享け給う素祭の材料で(レビ2:1−3)教会を示す。
[女] 標徴的意味においては悪しき者を意味する(黙2:20。黙17:1−6)。
附記 [芥種とパン種の譬について]通説はこの二つの譬を以上のごとくに解せずして、単に天国が非常な大きさに成長し膨張することを示すものと解せられているけれども、予は通説に反し上のごとくに解釈した、その理由は(1)「パン種」を善き意味に解することは聖書全体の解釈、殊にイエス御自身が他の場合に用い給いし意味(マタ16:6−12。マコ8:15)に反する例外を作ることとなり、(2)もしこれを天国が全く膨張してこの世界が、完全に神の国と化する意味であるとすれば、24−30節の毒麦の譬と矛盾することとなり、(3)粉の中にパン種を隠す行為は、畑に種を播く行為に比して、天国拡張の譬として適当ではないこと、(4)イエスが伝道の結果パリサイ人等の反対に遭い給い、その受難をも予知し給いて、天国が決して多くの人の予想するごとく、完全なる姿をもって実現せざることを示さんとせられたものであって、単に天国が容易に拡張すべしとの楽観主義を教え給うたのではないこと、(5)通説によれば「空の鳥」「女」等の語の比喩的意味を失ってしまうこと等である。(6)天国の拡張の意義ならば、芥種の譬のみにて言い尽くしていること等である。少数の註解書はこの解を採っている。
5-3-ト 麦と毒麦の譬の説明 13:34 - 13:43(マコ4:33-34)
13章34節 イエスすべて此等のことを、譬にて群衆に語りたまふ、譬ならでは何事も語り給はず。[引照]
口語訳 | イエスはこれらのことをすべて、譬で群衆に語られた。譬によらないでは何事も彼らに語られなかった。 |
塚本訳 | イエスはこれらのことを皆譬をもって群衆に語り、譬を使わずには何も語られなかった。 |
前田訳 | これらすべてをイエスは譬えで群衆に語られた。譬えなしでは彼らに何も語られなかった。 |
新共同 | イエスはこれらのことをみな、たとえを用いて群衆に語られ、たとえを用いないでは何も語られなかった。 |
NIV | Jesus spoke all these things to the crowd in parables; he did not say anything to them without using a parable. |
13章35節 これ預言者によりて云はれたる言の成就せん爲なり。曰く、『われ譬を設けて口を開き、世の創より隱れたる事を言ひ出さん』[引照]
口語訳 | これは預言者によって言われたことが、成就するためである、「わたしは口を開いて譬を語り、世の初めから隠されていることを語り出そう」。 |
塚本訳 | “わたしは口を開いて譬にて語り、世の始めから隠されていたことを打ち明けよう。”と、預言者をもって言われた言葉が成就するためであった。 |
前田訳 | これは預言者によることばの成就するためである。いわく、「譬えでわが口を開き、世のはじめからの奥義を語ろう」と。 |
新共同 | それは、預言者を通して言われていたことが実現するためであった。「わたしは口を開いてたとえを用い、/天地創造の時から隠されていたことを告げる。」 |
NIV | So was fulfilled what was spoken through the prophet: "I will open my mouth in parables, I will utter things hidden since the creation of the world." |
註解: かくイエスが普通の教訓法を離れて、譬にて語り給えることもマタイはこれを預言(詩78:2)の成就と見たのである。イエスにおいては偶然なことは一つもない。
13章36節 ここに群衆を去らしめて、家に入りたまふ。[引照]
口語訳 | それからイエスは、群衆をあとに残して家にはいられた。すると弟子たちは、みもとにきて言った、「畑の毒麦の譬を説明してください」。 |
塚本訳 | それから群衆を解散して家にかえられた。弟子たちが来て「畑の毒麦の譬を説明してください」と言うと、 |
前田訳 | そこで群衆に別れて家に入られた。弟子たちが彼のところに来ていうには、「畑の毒麦の譬えのご説明を」と。 |
新共同 | それから、イエスは群衆を後に残して家にお入りになった。すると、弟子たちがそばに寄って来て、「畑の毒麦のたとえを説明してください」と言った。 |
NIV | Then he left the crowd and went into the house. His disciples came to him and said, "Explain to us the parable of the weeds in the field." |
註解: 第一節に記された家のこと。
弟子たち御許に來りて言ふ『畑の毒麥の譬を我らに解きたまへ』
註解: マコ4:34に「弟子たちには人なき時に凡てのことを釋き給へり」とあり、群衆には形を示し弟子には内容をも示し給うた。
13章37節 答へて言ひ給ふ『良き種を播く者は人の子なり、[引照]
口語訳 | イエスは答えて言われた、「良い種をまく者は、人の子である。 |
塚本訳 | 答えられた、「良い種をまく者は人の子(わたし)である。 |
前田訳 | 答えていわれる、「よい種をまくものは人の子、 |
新共同 | イエスはお答えになった。「良い種を蒔く者は人の子、 |
NIV | He answered, "The one who sowed the good seed is the Son of Man. |
13章38節 畑は世界なり、良き種は天國の子どもなり、毒麥は惡しき者の子どもなり、[引照]
口語訳 | 畑は世界である。良い種と言うのは御国の子たちで、毒麦は悪い者の子たちである。 |
塚本訳 | 畑は世界である。良い種、これは御国の子供たちである。毒麦は悪者[悪魔]の子供たちであり、 |
前田訳 | 畑は世、よい種はみ国の子らである。毒麦は悪の子らで、 |
新共同 | 畑は世界、良い種は御国の子ら、毒麦は悪い者の子らである。 |
NIV | The field is the world, and the good seed stands for the sons of the kingdom. The weeds are the sons of the evil one, |
13章39節 之を播きし仇は惡魔なり、收穫は世の終なり、刈る者は御使たちなり。[引照]
口語訳 | それをまいた敵は悪魔である。収穫とは世の終りのことで、刈る者は御使たちである。 |
塚本訳 | それをまいた敵というのは悪魔である。また刈入れは世の終りであり、刈入れ人は天使たちである。 |
前田訳 | それをまいたものは悪魔である。取入れは世の終わりで、取入れ人はみ使いである。 |
新共同 | 毒麦を蒔いた敵は悪魔、刈り入れは世の終わりのことで、刈り入れる者は天使たちである。 |
NIV | and the enemy who sows them is the devil. The harvest is the end of the age, and the harvesters are angels. |
註解: 世の終末まで天国の子どもと悪魔の子どもとは混合して世界に存することは、主のこの御言によって明らかである。ある楽観的キリスト者の信ずるごとく、キリスト教の福音が世界に宣伝えられ、この世は次第々々に福音化せられて、遂に天国が完全にこの世に実現するであろうということは聖書の教えではない(ルカ18:8)。而して人間の罪性もこのことを裏書する。かかる安価なる楽観は人間の発見であって一種のパン種である。−「御使」マタ24:31。
13章40節 されば毒麥の集められて火に焚かるる如く、世の終にも斯くあるべし。[引照]
口語訳 | だから、毒麦が集められて火で焼かれるように、世の終りにもそのとおりになるであろう。 |
塚本訳 | だから世の終りには、ちょうど毒麦が抜き取られて火で焼きすてられるようであろう。 |
前田訳 | 毒麦が集められて火で焼かれる、そのように世の終わりもなろう。 |
新共同 | だから、毒麦が集められて火で焼かれるように、世の終わりにもそうなるのだ。 |
NIV | "As the weeds are pulled up and burned in the fire, so it will be at the end of the age. |
13章41節 人の子その使たちを遣さん。彼ら御國の中より凡ての顛躓と[なる物と]不法をなす者とを集めて、[引照]
口語訳 | 人の子はその使たちをつかわし、つまずきとなるものと不法を行う者とを、ことごとく御国からとり集めて、 |
塚本訳 | (すなわち)人の子(わたし)は自分の使たちをやり、“(人を)誘惑する者と不法を働く者とを”皆御国から抜き取って、 |
前田訳 | 人の子は彼の使いをやって彼の王国からすべてのつまずきと不法者を取り去り、 |
新共同 | 人の子は天使たちを遣わし、つまずきとなるものすべてと不法を行う者どもを自分の国から集めさせ、 |
NIV | The Son of Man will send out his angels, and they will weed out of his kingdom everything that causes sin and all who do evil. |
13章42節 火の爐に投げ入るべし、其處にて哀哭・切齒することあらん。[引照]
口語訳 | 炉の火に投げ入れさせるであろう。そこでは泣き叫んだり、歯がみをしたりするであろう。 |
塚本訳 | 火の燃える炉に投げ込み、彼らはそこでわめき、歯ぎしりするであろう。 |
前田訳 | 彼らを燃える炉に投げ入れる。そこではなげきと歯ぎしりがあろう。 |
新共同 | 燃え盛る炉の中に投げ込ませるのである。彼らは、そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。 |
NIV | They will throw them into the fiery furnace, where there will be weeping and gnashing of teeth. |
註解: ゆえに我ら天国の子となってこの災禍を免れなければならない。而して神の子と悪魔の子との区別はローマ法王を信ずるか信せざるかの区別ではない。洗礼を行うか浸礼を行うかの区別でもない、土曜日安息と日曜安息との区別でもない。唯神の子の躓きとなならぬこと、不法を行わないことである。我ら果して自ら天国の子であるか試して見なければならぬ。その試金石はUコリ13:5にあるごとく「イエス・キリスト」我らの中に在すや否やである。
13章43節 其のとき義人は父の御國にて日のごとく輝かん。耳ある者は聽くべし。[引照]
口語訳 | そのとき、義人たちは彼らの父の御国で、太陽のように輝きわたるであろう。耳のある者は聞くがよい。 |
塚本訳 | その時、“義人たちは”彼らの父の国で、太陽のように“照りかがやくであろう。”耳のある者は聞け。 |
前田訳 | そのとき義人は彼らの父の国で日のごとく輝こう。耳あるものは聞け。 |
新共同 | そのとき、正しい人々はその父の国で太陽のように輝く。耳のある者は聞きなさい。」 |
NIV | Then the righteous will shine like the sun in the kingdom of their Father. He who has ears, let him hear. |
註解: 彼らは既にキリストに在りて復活し又はキリストに取り上げられて(Tテサ4:17)、栄光の体と化し父の国においてキリストの花嫁として耀くであろう。
5-3-チ 畑に隠れたる宝の譬 13:44
註解: 以上四種の譬は一般の群衆に向って語られ、各々「また他の譬を語りたまふ」なる語をもって始まっている。而して内容は天国の中にいかに悪魔の働きの強烈なるかを示して、パリサイ人らのキリストに叛くことの当然なることを示し、又神の子らのこの世における生活を警戒し、次の三種は弟子たちに語り給えるものであって「天国は」をもって始められており、キリストの贖い及び終りの審判を示す。
13章44節 天國は畑に隱れたる寶のごとし。人見出さば、之を隱しおきて、喜びゆき、有てる物をことごとく賣りて其の畑を買ふなり。[引照]
口語訳 | 天国は、畑に隠してある宝のようなものである。人がそれを見つけると隠しておき、喜びのあまり、行って持ち物をみな売りはらい、そしてその畑を買うのである。 |
塚本訳 | 天の国は畑に隠されていた宝に似ている。人がそれを見つけると、(またそこに)隠しておいて喜んで立ち去り、持っているものをみな売って、その畑を買うのである。 |
前田訳 | 天国は畑に隠された宝に似る。人がそれを見つけて隠し、よろこんで出かけて全財産を売ってその畑を買う。 |
新共同 | 「天の国は次のようにたとえられる。畑に宝が隠されている。見つけた人は、そのまま隠しておき、喜びながら帰り、持ち物をすっかり売り払って、その畑を買う。 |
NIV | "The kingdom of heaven is like treasure hidden in a field. When a man found it, he hid it again, and then in his joy went and sold all he had and bought that field. |
註解: 前の譬に主の説明せられし如く「畑」は世界であり「人」はキリストである。「宝」は神の愛し給う人の魂である。現世においてはこの宝は世の中に隠れ未だその栄光を顕わさざるにいる、主はこれを見出し、これを「隠しおき」て大切に保存し給い、これを見出し給える喜びにより有てる物をことごとく売り、神の栄位をことごとく棄て、十字架上に己の生命をも棄て(ピリ2:6−8)てこの世界をその主人の悪魔より買取り給うたのである(Tペテ1:18)。ゆえにすべての罪人はキリストによりて贖われ、やがて悪魔は皆この世より逐い出されるであろう。信ぜざる者はこの新たなる不信の罪によりて亡ぼされるのである。尚異解につきては45節付記を見よ。▲この二つの譬諭は「付記」に掲げてある通説のように解釈する方が、一層適当であると考えるようになった。すなわち天国を得るためには人は自分に属するもののすべてを犠牲にしなければならないこと、そしてぜひともこれを獲得しようとの熱心を有たなければならないことを示したものと解する。この方が素直で自然な解釈だからである。すなわち44節は天国の神秘性とこれを得るための苦心や犠牲の大きさを示し、45、46節は天国の価値の大きさとこれを得るための努力の大きさを示す。
5-3-リ 真珠の譬 13:45 - 13:46
13章45節 また天國は良き眞珠を求むる商人のごとし。[引照]
口語訳 | また天国は、良い真珠を捜している商人のようなものである。 |
塚本訳 | さらに、天の国は良い真珠をさがしている商人に似ている。 |
前田訳 | また、天国はよい真珠を探す商人に似る。 |
新共同 | また、天の国は次のようにたとえられる。商人が良い真珠を探している。 |
NIV | "Again, the kingdom of heaven is like a merchant looking for fine pearls. |
13章46節 價たかき眞珠一つを見出さば、往きて有てる物をことごとく賣りて、之を買ふなり。[引照]
口語訳 | 高価な真珠一個を見いだすと、行って持ち物をみな売りはらい、そしてこれを買うのである。 |
塚本訳 | 高価な真珠を一つ見つけると、持っているものをことごとく売って、それを買うのである。 |
前田訳 | 高価な真珠ひとつを見つけ、出かけて全財産を売ってそれを買った。 |
新共同 | 高価な真珠を一つ見つけると、出かけて行って持ち物をすっかり売り払い、それを買う。 |
NIV | When he found one of great value, he went away and sold everything he had and bought it. |
註解: 前節が全人類に対するキリストの教えを示すものとすれば、本節は個々の霊魂の救いを示すものであろう。キリストは一匹の迷える羊のためにその全力全愛を注ぎ給う、パウロはキリスト「我がために」(我らのためではなく)十字架につき給うたことを言い表わしている(ガラ2:20)。我ら各もまたこの経験を持つものである。実に各人の霊は神の目に真珠のごとくに貴い(Tペテ3:4)キリストは己を十字架に釘けて一人の人の霊魂を買取り給うたのである。「汝らは値をもって買われたる者なり」(Tコリ6:20)。▲▲この二つの譬諭(44と45-46)は「付記」に掲げてある通説のように解釈する方が、一層適当であると考えるようになった。すなわち天国を得るためには人は自分に属するもののすべてを犠牲にしなければならないこと、そしてぜひともこれを獲得しようとの熱心を有たなければならないことを示したものと解する。この方が素直で自然な解釈だからである。すなわち44節は天国の神秘性とこれを得るための苦心や犠牲の大きさを示し、45、46節は天国の価値の大きさとこれを得るための努力の大きさを示す。
附記 [以上の二つの比喩の解釈について]通説は「宝」及び「真珠」をキリストの福音又はキリスト、又は天国と解し、人はこれを見出した時にはそのすべての所有を売ってこれを求めることと解し、44節と45節との差は前者を偶然の発見、後者を求めて為せる発見と解する。この解釈は多くの長所があり、求道者の熱心を激励するに足る解釈である。唯聖書全体の傾向に照らして左の困難あるを免れない。(1)「畑」「人」等の譬を前四種の比喩の場合と全く異なり、これを「信者」を意味すと解せざるべからざること、これこの解釈の一つの弱点である。(2)福音もキリストも神の国も隠れていない、公に宣伝えられている。(3)福音を見出してこれを「隠し置く」べきではない。世の光としてこれを耀かさなければならない。(4)我らに何ら売るべき価値あるものはない全く無価値である、我らの財貨はこれを売らずにすべてこれを神に捧げる。ゆえに売るというは当らない、(5)福音はこれを買わない、値なしにこれを受ける(マタ10:8)。キリストは神の賜であり恩恵である(ヨハ3:16。ロマ8:32)。以上のごとき理由によりて、この解釈を取るには相当の困難がある。唯キリストのためにこの世のすべての名誉も財貨もこれを塵芥のごとくに思いて、キリストを逐い求むべきことは勿論であってこのことを否定する意味ではない。尚畑の宝をイスラエル殊にその失われし種族、真珠を教会と解する説(G2)、畑を教会、宝をその中の真の信仰、真珠をキリストにある真理等と解する説(A1)その他種々あり。▲本付記に関しては前頁脚註参照(44、46節註)。難点(1)は根本的障害ではなく(2)(3)は福音の神秘性を示すと解すべき、(4)(5)はイエスに従うものは己を棄て己が十字架を負うのであるから、大きい犠牲であることの意味と解することにより、自然と理解される。
5-3-ヌ 網引の譬 13:47 - 13:50
13章47節 また天國は、海におろして各樣のものを集むる網のごとし。[引照]
口語訳 | また天国は、海におろして、あらゆる種類の魚を囲みいれる網のようなものである。 |
塚本訳 | さらに、天の国は地曳網を海におろしてあらゆる種類(の魚)を取るのに似ている。 |
前田訳 | また、天国は海に投げてあらゆる種類の魚をとる網に似る。 |
新共同 | また、天の国は次のようにたとえられる。網が湖に投げ降ろされ、いろいろな魚を集める。 |
NIV | "Once again, the kingdom of heaven is like a net that was let down into the lake and caught all kinds of fish. |
13章48節 充つれば岸にひきあげ、坐して良きものを器に入れ、惡しきものを棄つるなり。[引照]
口語訳 | それがいっぱいになると岸に引き上げ、そしてすわって、良いのを器に入れ、悪いのを外へ捨てるのである。 |
塚本訳 | 網が一ぱいになると岸に引き上げ、坐って、良いのは集めて入れ物にいれ、わるいのは投げすてるのである。 |
前田訳 | 網が満ちると岸に引きあげ、人々はすわってよいのは器に入れ、悪いのは外に投げる。 |
新共同 | 網がいっぱいになると、人々は岸に引き上げ、座って、良いものは器に入れ、悪いものは投げ捨てる。 |
NIV | When it was full, the fishermen pulled it up on the shore. Then they sat down and collected the good fish in baskets, but threw the bad away. |
13章49節 世の終にも斯くあるべし。御使たち出でて、義人の中より惡人を分ちて、[引照]
口語訳 | 世の終りにも、そのとおりになるであろう。すなわち、御使たちがきて、義人のうちから悪人をえり分け、 |
塚本訳 | 世の終りもそれと同じであろう。すなわち天使たちがあらわれ、義人の中から悪人どもを引き出して、 |
前田訳 | 世の終わりにもそのようになろう。み使いがきて義人の中から悪人を分け、 |
新共同 | 世の終わりにもそうなる。天使たちが来て、正しい人々の中にいる悪い者どもをより分け、 |
NIV | This is how it will be at the end of the age. The angels will come and separate the wicked from the righteous |
13章50節 之を火の爐に投げ入るべし。其處にて哀哭・切齒することあらん。[引照]
口語訳 | そして炉の火に投げこむであろう。そこでは泣き叫んだり、歯がみをしたりするであろう。 |
塚本訳 | 火の燃える炉に投げ込み、彼らはそこでわめき、歯ぎしりするであろう。 |
前田訳 | 彼らを燃える炉に投げ入れる。そこではなげきと歯ぎしりがあろう。 |
新共同 | 燃え盛る炉の中に投げ込むのである。悪い者どもは、そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。」 |
NIV | and throw them into the fiery furnace, where there will be weeping and gnashing of teeth. |
註解: 13:24−30の譬は悪魔の働きを示し、ここではキリストの審判を示す、同一事の重複ではない。キリスト必ずこの審判を行い給う。今日の人々は神の審判につきて厳粛に考えない、これ神をもって甘い父親のごときものに解しているのである。彼らは世の終りにおいて必ず哀哭切歯するに至るであろう。▲▲現世で正確に義人と悪人とを区別し、信者と不信者とを区別しようとする試みは失敗する。「教会以外に救いなし」という主張はカトリック教会の意味とすれば誤っている。
5-3-ル 新旧の宝庫の譬 13:51 - 13:52
13章51節 汝等これらの事をみな悟りしか』彼等いふ『然り』[引照]
口語訳 | あなたがたは、これらのことが皆わかったか」。彼らは「わかりました」と答えた。 |
塚本訳 | あなた達はこれが皆わかったか。」「はい」と弟子たちがこたえる。 |
前田訳 | あなた方はこれらがわかったか」。彼らは「はい」と答える。 |
新共同 | 「あなたがたは、これらのことがみな分かったか。」弟子たちは、「分かりました」と言った。 |
NIV | "Have you understood all these things?" Jesus asked. "Yes," they replied. |
13章52節 また言ひ給ふ『この故に、天國のことを教へられたる凡ての學者は、新しき物と舊き物とをその倉より出す家主のごとし』[引照]
口語訳 | そこで、イエスは彼らに言われた、「それだから、天国のことを学んだ学者は、新しいものと古いものとを、その倉から取り出す一家の主人のようなものである」。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「(これがわかれば、すべてがわかるのである。)だから天の国のことに通じた学者は皆、自分の倉から新しいものと古いものとを(心のままに)取り出す家の主人に似ている。(古い教えと新しい教えとを自由に使いこなすことが出来る。)」 |
前田訳 | 彼はいわれた、「それゆえ天国に学ぶ学者はだれでも、自分の倉から新しいものと古いものとを取り出せる家主に似る」と。 |
新共同 | そこで、イエスは言われた。「だから、天の国のことを学んだ学者は皆、自分の倉から新しいものと古いものを取り出す一家の主人に似ている。」 |
NIV | He said to them, "Therefore every teacher of the law who has been instructed about the kingdom of heaven is like the owner of a house who brings out of his storeroom new treasures as well as old." |
註解: イエスはここに弟子をもって「天国のことを教えられたる学者」と呼び、イエスに反対する学者パリサイ人等に対立せしめた。何となれば後者は天国のことを教えられていないからである(マタ13:11)。而して前者はその心の中に旧き真理、すなわち旧約聖書に記されしものを蔵すると同時に、イエスによりて啓示されし新しき真理、すなわち今日我らに新約聖書として与えられし真理をその倉に貯蔵し時に応じてこれを出す家主にも比すべきものである。旧のみに固執せる固陋者にあらず、新のみを持つ浮薄者でもない。
5-3-ヲ イエス故郷にて受納れられ給わず 13:53 - 13:58(マコ6:1-6)
13章53節 イエスこれらの譬を終へて此處を去りたまふ。[引照]
口語訳 | イエスはこれらの譬を語り終えてから、そこを立ち去られた。 |
塚本訳 | イエスはこれらの譬を終えると、そこを去り、 |
前田訳 | イエスはこれらの譬えを話し終えられてそこを去られた。 |
新共同 | イエスはこれらのたとえを語り終えると、そこを去り、 |
NIV | When Jesus had finished these parables, he moved on from there. |
13章54節 己が郷にいたり、會堂にて教へ給へば、人々おどろきて言ふ『この人はこの智慧と此等の能力とを何處より得しぞ。[引照]
口語訳 | そして郷里に行き、会堂で人々を教えられたところ、彼らは驚いて言った、「この人は、この知恵とこれらの力あるわざとを、どこで習ってきたのか。 |
塚本訳 | 郷里(ナザレ)に行ってその礼拝堂で教えられた。すると人々が驚いて言った、「この人はどこからこの知恵と、奇蹟とを覚えてきたのだろう。 |
前田訳 | そして郷に来て会堂で人々を教えられた。彼らはおどろいていった、「この人はこの知恵と力をどこから得たのか。 |
新共同 | 故郷にお帰りになった。会堂で教えておられると、人々は驚いて言った。「この人は、このような知恵と奇跡を行う力をどこから得たのだろう。 |
NIV | Coming to his hometown, he began teaching the people in their synagogue, and they were amazed. "Where did this man get this wisdom and these miraculous powers?" they asked. |
註解: 人間としてのイエスのみに心を奪われて、このイエスの神の子に在し給うことを信じない者は、この智恵と力との出所を解することができない。ゆえに遂にはイエスの奇蹟もその復活も否定するに至るのである。かかる者の間にイエスは留まり給わない。
13章55節 これ木匠の子にあらずや、其の母はマリヤ、其の兄弟はヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダにあらずや。[引照]
口語訳 | この人は大工の子ではないか。母はマリヤといい、兄弟たちは、ヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダではないか。 |
塚本訳 | これはあの大工の息子ではないか。母はマリヤで、兄弟はヤコブとヨセフとシモンとユダではないか。 |
前田訳 | この人は建築家の子ではないか、母はマリヤで兄弟はヤコブやヨセフやシモンやユダではないか。 |
新共同 | この人は大工の息子ではないか。母親はマリアといい、兄弟はヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダではないか。 |
NIV | "Isn't this the carpenter's son? Isn't his mother's name Mary, and aren't his brothers James, Joseph, Simon and Judas? |
13章56節 又その姉妹も皆われらと共にをるに非ずや。然るに此等のすべての事は何處より得しぞ』[引照]
口語訳 | またその姉妹たちもみな、わたしたちと一緒にいるではないか。こんな数々のことを、いったい、どこで習ってきたのか」。 |
塚本訳 | 女兄弟たちは、みんなわたし達の所に住んでいるではないか。するとこの人は、こんなことを皆どこから覚えてきたのだろう。」 |
前田訳 | 姉妹は皆われらのところにいるではないか。これらのことすべてをどこから得たのだろう」と。 |
新共同 | 姉妹たちは皆、我々と一緒に住んでいるではないか。この人はこんなことをすべて、いったいどこから得たのだろう。」 |
NIV | Aren't all his sisters with us? Where then did this man get all these things?" |
13章57節 遂に人々かれに躓けり。[引照]
口語訳 | こうして人々はイエスにつまずいた。しかし、イエスは言われた、「預言者は、自分の郷里や自分の家以外では、どこででも敬われないことはない」。 |
塚本訳 | こうして人々はイエスにつまずいた。しかしイエスは彼らに言われた、「預言者が尊敬されないのは、その郷里と家族のところだけである。」 |
前田訳 | そして彼につまずいた。イエスはいわれた、「預言者はおのが郷(くに)や家以外でははずかしめられない」と。 |
新共同 | このように、人々はイエスにつまずいた。イエスは、「預言者が敬われないのは、その故郷、家族の間だけである」と言い、 |
NIV | And they took offense at him. But Jesus said to them, "Only in his hometown and in his own house is a prophet without honor." |
註解: イエスを神の子と言い表わし得るに至るのは血肉の働きではなく、父なる神及び聖霊の御働きである(マタ16:17。Tヨハ4:2)。ナザレ人はこの聖霊の賜を受けなかったゆえにイエスを拒んだのである。我らはイエスに躓くことなく、彼を神の子と信ぜんがために聖霊を賜わらんことを願い求めなければならない。
イエス彼らに言ひたまふ『預言者は、おのが郷おのが家の外にて尊ばれざる事なし』
13章58節 彼らの不信仰によりて其處にては多くの能力ある業を爲し給はざりき。[引照]
口語訳 | そして彼らの不信仰のゆえに、そこでは力あるわざを、あまりなさらなかった。 |
塚本訳 | 彼らの不信仰のゆえに、そこではあまり奇蹟を行われなかった。(出来なかったのである。) |
前田訳 | 彼らの不信のゆえにそこでは多くの奇跡をなさらなかった。 |
新共同 | 人々が不信仰だったので、そこではあまり奇跡をなさらなかった。 |
NIV | And he did not do many miracles there because of their lack of faith. |
註解: 目ありても見ず、耳ありても聞えない人々は、イエスの人間としての生涯を見聞した結果、その以上のイエスを見ることも聞くこともできなかった、その結果最も幸福であるはずの(マタ13:16、17)イエスの故郷とその家庭とは最も不幸なものとなった。イエスがその不信仰に対して奇蹟を行い給わなかったのは一つは豚に真珠を投げ与えざらんがためであり、又一つは信仰なき処にイエスはその力を用いることがたとい可能であっても、これを為すことを欲し給わなかったからであろう。▲マコ6:5には「何の能力ある業を行うこと能わず」とあり、心理的に不可能であったことを示す。
マタイ伝第14章
5-4 イエス退きて弟子を訓練し給う 14:1 - 16:12
5-4-イ ヨハネの死とイエス 14:1 - 14:12
(マコ6:14-29) (ルカ9:7-9)
14章1節 そのころ、國守ヘロデ、イエスの噂をききて、[引照]
口語訳 | そのころ、領主ヘロデはイエスのうわさを聞いて、 |
塚本訳 | そのころ、イエスの評判が領主ヘロデ・アンテパスの耳にはいった。 |
前田訳 | そのころ領主ヘロデがイエスのうわさを聞いて |
新共同 | そのころ、領主ヘロデはイエスの評判を聞き、 |
NIV | At that time Herod the tetrarch heard the reports about Jesus, |
註解: ガリラヤの国守ヘロデ・アンテパスはヘロデ王の子であった。「宮廷には種々の出来事の噂が盛んに行われるものであるけれども、霊的な事柄はいかに広く知れ渡っても、めったにそこに達しない」(B1)。この頃になってようやくその噂が達したのである。この世のことに忙しきものは霊界の大事実を逸することが多い。
14章2節 侍臣どもに言ふ『これバプテスマのヨハネなり。かれ死人の中より甦へりたり、さればこそ此等の能力その内に働くなれ』[引照]
口語訳 | 家来に言った、「あれはバプテスマのヨハネだ。死人の中からよみがえったのだ。それで、あのような力が彼のうちに働いているのだ」。 |
塚本訳 | 「これは洗礼者ヨハネにちがいない。あれが死人の中から生きかえったのだ、それだからあんな(不思議な)力が彼の中に働いている」とヘロデは家来に言った。 |
前田訳 | 家来にいった、「これは洗礼者ヨハネだ。あれが死人の中から復活したからこそ彼の中に力がはたらいている」と。 |
新共同 | 家来たちにこう言った。「あれは洗礼者ヨハネだ。死者の中から生き返ったのだ。だから、奇跡を行う力が彼に働いている。」 |
NIV | and he said to his attendants, "This is John the Baptist; he has risen from the dead! That is why miraculous powers are at work in him." |
註解: ナザレはその同郷人なる理由をもって神の子イエスを拒み、ヘロデはイエスの能力を聞きつつも自己の良心の呵責より、彼を信ずることを得ずして、彼をヨハネの再来として彼に対して恐怖を有つに至った。肉はいずれの方面よりするも神の子を否むのがその本質である。
14章3節 ヘロデ先に、己が兄弟ピリポの妻ヘロデヤの爲にヨハネを捕へ、縛りて獄に入れたり。[引照]
口語訳 | というのは、ヘロデは先に、自分の兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことで、ヨハネを捕えて縛り、獄に入れていた。 |
塚本訳 | それにはこういう訳がある。──ヘロデは(前に)その兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことから、ヨハネを捕らえ、しばって牢に入れたことがあった。 |
前田訳 | それはこうである。ヘロデが兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことでヨハネを捕えてしばり、牢に入れた。 |
新共同 | 実はヘロデは、自分の兄弟フィリポの妻ヘロディアのことでヨハネを捕らえて縛り、牢に入れていた。 |
NIV | Now Herod had arrested John and bound him and put him in prison because of Herodias, his brother Philip's wife, |
14章4節 ヨハネ、ヘロデに『かの女を納るるは宜しからず』と言ひしに因る。[引照]
口語訳 | すなわち、ヨハネはヘロデに、「その女をめとるのは、よろしくない」と言ったからである。 |
塚本訳 | ヨハネがヘロデに、「あなたはあの婦人を妻にするのはよろしくない」と言ったからである。 |
前田訳 | それは、ヨハネが彼に、「あの女をめとるのはよくない」といったからである。 |
新共同 | ヨハネが、「あの女と結婚することは律法で許されていない」とヘロデに言ったからである。 |
NIV | for John had been saying to him: "It is not lawful for you to have her." |
註解: マコ6:20によればヘロデはヨハネを畏敬し、その教えを聞いたとのことである。彼にも神の与え給える良心はあった。然るにヘロデヤの誘惑に勝つことができず遂にその権力を濫用し、彼をマケラス(J)の獄に投じた。
14章5節 かくてヘロデ、ヨハネを殺さんと思へど、群衆を懼れたり。群衆ヨハネを預言者とすればなり。[引照]
口語訳 | そこでヘロデはヨハネを殺そうと思ったが、群衆を恐れた。彼らがヨハネを預言者と認めていたからである。 |
塚本訳 | ヘロデはヨハネを殺したいと考えたが、民衆はヨハネを預言者と思っていたので、彼ら(が騒ぎ出すの)を恐れた。 |
前田訳 | ヘロデは彼を殺したく思いつつも彼を預言者とあがめる群衆がこわかった。 |
新共同 | ヘロデはヨハネを殺そうと思っていたが、民衆を恐れた。人々がヨハネを預言者と思っていたからである。 |
NIV | Herod wanted to kill John, but he was afraid of the people, because they considered him a prophet. |
註解: 左右いずれにせんかと迷う時、悪を行わしめんとする原因とこれを行わしめざらんとする原因とが必ず共に存する。一方ヘロデヤがあると同時に他方群衆があった。ヘロデはこの間に板挿みとなって苦しんでいた。かかる際に取るべき途はいずれの事情をも顧みずして神に遵うことである。ヘロデヤはヘロデとピリポの姪に当っている。
14章6節 然るにヘロデの誕生日に當り、ヘロデヤの娘その席上に舞をまひてヘロデを喜ばせたれば、[引照]
口語訳 | さてヘロデの誕生日の祝に、ヘロデヤの娘がその席上で舞をまい、ヘロデを喜ばせたので、 |
塚本訳 | ところでヘロデの誕生祝いがあったとき、ヘロデヤの娘が満座の中で舞をまい、ヘロデを喜ばせた。 |
前田訳 | ヘロデの誕生祝いにヘロデヤの娘が皆の中でおどったのが彼の気に入った。 |
新共同 | ところが、ヘロデの誕生日にヘロディアの娘が、皆の前で踊りをおどり、ヘロデを喜ばせた。 |
NIV | On Herod's birthday the daughter of Herodias danced for them and pleased Herod so much |
14章7節 ヘロデ之に何にても求むるままに與へんと誓へり。[引照]
口語訳 | 彼女の願うものは、なんでも与えようと、彼は誓って約束までした。 |
塚本訳 | そのためヘロデは娘に、願うものはなんでもやろう、と誓いまで立てて約束した。 |
前田訳 | そこで彼は誓って、望みのものを彼女に与える約束をした。 |
新共同 | それで彼は娘に、「願うものは何でもやろう」と誓って約束した。 |
NIV | that he promised with an oath to give her whatever she asked. |
註解: ▲独裁専制者に共通の態度で、東洋の歴史にもこの例が多い。
辞解
[ヘロデヤの娘] サロメである。ヘロデヤとピリポとの間の子。
14章8節 娘その母に唆かされて言ふ『バプテスマのヨハネの首を盆に載せてここに賜はれ』[引照]
口語訳 | すると彼女は母にそそのかされて、「バプテスマのヨハネの首を盆に載せて、ここに持ってきていただきとうございます」と言った。 |
塚本訳 | 娘は母の入り知恵で、「洗礼者ヨハネの首を盆にのせて、今ここに戴きます」と言う。 |
前田訳 | 彼女は母にそそのかされて、「洗礼者ヨハネの首をここで盆にのせてわたしにください」という。 |
新共同 | すると、娘は母親に唆されて、「洗礼者ヨハネの首を盆に載せて、この場でください」と言った。 |
NIV | Prompted by her mother, she said, "Give me here on a platter the head of John the Baptist." |
註解: 昔淫婦イゼベルはエリヤを憎みし如く、今姦婦ヘロデヤは第二のエリヤなるヨハネを憎み、娘を教唆したのである。
14章9節 王憂ひたれど、その誓と席に在る者とに對して、之を與ふることを命じ、[引照]
口語訳 | 王は困ったが、いったん誓ったのと、また列座の人たちの手前、それを与えるように命じ、 |
塚本訳 | 王は悲しんだが、列座の人々の前で立てた誓いの手前、それを与えるように命じ、 |
前田訳 | 王は悲しんだが、誓いと客との手前それを与えよと命じ、 |
新共同 | 王は心を痛めたが、誓ったことではあるし、また客の手前、それを与えるように命じ、 |
NIV | The king was distressed, but because of his oaths and his dinner guests, he ordered that her request be granted |
註解: ヘロデは自己の良心の呵責と群衆の反対とを憂えたけれども、その席にある群臣の顔の前にその威厳を示す必要よりこれを実行した。神を知らざる王侯のこの種の行為は、古来いずれの国にも行われている。
14章10節 人を遣し獄にてヨハネの首を斬り、[引照]
口語訳 | 人をつかわして、獄中でヨハネの首を切らせた。 |
塚本訳 | 人をやって牢でヨハネの首をはねさせた。 |
前田訳 | 人をやって牢でヨハネの首をはねさせた。 |
新共同 | 人を遣わして、牢の中でヨハネの首をはねさせた。 |
NIV | and had John beheaded in the prison. |
14章11節 その首を盆にのせて持ち來らしめ、之を少女に與ふ。少女はこれを母に捧ぐ。[引照]
口語訳 | その首は盆に載せて運ばれ、少女にわたされ、少女はそれを母のところに持って行った。 |
塚本訳 | 首は盆にのせて持ってきて少女に渡され、少女は母に持っていった。 |
前田訳 | 首は盆にのせて持って来られて少女に渡された。彼女はそれを母に持って行った。 |
新共同 | その首は盆に載せて運ばれ、少女に渡り、少女はそれを母親に持って行った。 |
NIV | His head was brought in on a platter and given to the girl, who carried it to her mother. |
註解: これによりて祝宴は変じて凄愴たる光景を呈した。この世の歓楽には常にこの悲惨が踵を接している。マケラスよりチベリアスまで往復二日余を要することより、この祝宴はチベリアスではなくマケラスにて行われたのであろうとの節がある。
14章12節 ヨハネの弟子たち來り、屍體を取りて葬り、往きて、イエスに告ぐ。[引照]
口語訳 | それから、ヨハネの弟子たちがきて、死体を引き取って葬った。そして、イエスのところに行って報告した。 |
塚本訳 | ヨハネの弟子たちは来てなきがらを引き取って葬り、行ってイエスに報告した。 |
前田訳 | ヨハネの弟子が来て死体を引き取って葬り、イエスのところへ行って告げた。 |
新共同 | それから、ヨハネの弟子たちが来て、遺体を引き取って葬り、イエスのところに行って報告した。 |
NIV | John's disciples came and took his body and buried it. Then they went and told Jesus. -- Mt 15:32-38 |
5-4-ロ イエス5千人を養い給う 14:13 - 14:21(マコ6:30-44) (ルカ9:10-17) (ヨハ6:1-14)
14章13節 イエス[之を]聞きて人を避け、其處より舟にのりて寂しき處に往き給ひしを群衆ききて町々より徒歩にて從ひゆく。[引照]
口語訳 | イエスはこのことを聞くと、舟に乗ってそこを去り、自分ひとりで寂しい所へ行かれた。しかし、群衆はそれと聞いて、町々から徒歩であとを追ってきた。 |
塚本訳 | これを聞くと、イエスは自分(と弟子たち)だけ、そこから舟で人里はなれた所へ立ちのかれた。すると群衆はそれと聞いて、町々から陸を歩いてついて行った。 |
前田訳 | これを聞いてイエスはひとりそこを去って舟で人里遠くへ行かれた。群衆はそれを聞いて町々から徒歩で彼に従った。 |
新共同 | イエスはこれを聞くと、舟に乗ってそこを去り、ひとり人里離れた所に退かれた。しかし、群衆はそのことを聞き、方々の町から歩いて後を追った。 |
NIV | When Jesus heard what had happened, he withdrew by boat privately to a solitary place. Hearing of this, the crowds followed him on foot from the towns. |
註解: ヨハネの死とヘロデの言(マタ14:2)とを聞き給い、静かにヨハネのことを思いて祈り給わんため、又人々の風評が高まることによりて、益々ヘロデを恐れしめないがために人を避け給うたのであろう(マコ6:31によれば十二弟子が伝道旅行より帰って来て休養のためということになっている)。しかしながら群衆の熱心はイエスをして一人静かに在らしむることを妨げた、蓋しヨハネの死は群衆の悲憤を起し、その眼を益々熱心にイエスに向けるに至ったからであろう。五千人の群衆がどこまでも彼に従うことはそのためであったと想像される。
14章14節 イエス出でて大なる群衆を見、これを憫みて、その病める者を醫し給へり。[引照]
口語訳 | イエスは舟から上がって、大ぜいの群衆をごらんになり、彼らを深くあわれんで、そのうちの病人たちをおいやしになった。 |
塚本訳 | イエスは(舟から)上がって多くの群衆を見ると、かわいそうになり、その中の病人をなおされた。 |
前田訳 | 舟からあがると多くの群衆が見えた。そこで彼らをあわれみ、その中の病人をいやされた。 |
新共同 | イエスは舟から上がり、大勢の群衆を見て深く憐れみ、その中の病人をいやされた。 |
NIV | When Jesus landed and saw a large crowd, he had compassion on them and healed their sick. |
註解: イエスは遂に其の群衆を顧みざるを得ず、その祈りの場所より「出でて」その愛を群衆に注ぎ出し給うた。
14章15節 夕になりたれば、弟子たち御許に來りて言ふ『ここは寂しき處、はや時も晩し、群衆を去らしめ、村々に往きて、己が爲に食物を買はせ給へ』[引照]
口語訳 | 夕方になったので、弟子たちがイエスのもとにきて言った、「ここは寂しい所でもあり、もう時もおそくなりました。群衆を解散させ、めいめいで食物を買いに、村々へ行かせてください」。 |
塚本訳 | 夕方になると、弟子たちはイエスのそばに来て言った、「ここは人里はなれた所、それにもう時間も過ぎました。だから群衆を解散させ、村々に行って自分で食べる物を買わせてください。」 |
前田訳 | 夕になると弟子たちが彼のところに来ていった、「ここは人里遠く、もう時もおそくなりました。群衆を解散させて、村々に行って自分の食べ物を買わせてください」と。 |
新共同 | 夕暮れになったので、弟子たちがイエスのそばに来て言った。「ここは人里離れた所で、もう時間もたちました。群衆を解散させてください。そうすれば、自分で村へ食べ物を買いに行くでしょう。」 |
NIV | As evening approached, the disciples came to him and said, "This is a remote place, and it's already getting late. Send the crowds away, so they can go to the villages and buy themselves some food." |
14章16節 イエス言ひ給ふ『かれら往くに及ばず、汝ら之に食物を與へよ』[引照]
口語訳 | するとイエスは言われた、「彼らが出かけて行くには及ばない。あなたがたの手で食物をやりなさい」。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「買いに行くには及ばない。あなた達が自分で食べさせてやったらよかろう。」 |
前田訳 | イエスは彼らにいわれた、「行くに及ばない。あなた方が彼らに食べ物を与えなさい」と。 |
新共同 | イエスは言われた。「行かせることはない。あなたがたが彼らに食べる物を与えなさい。」 |
NIV | Jesus replied, "They do not need to go away. You give them something to eat." |
註解: 弟子たちの眼中には人間の自然性(飢)と周囲の事情(時刻、場所)とのみがあった。イエスは彼らに向いて信仰の上に立つことを教えんとし給うたのである。「汝ら」に注意せよ、イエスは群衆を食せしむる全責任を、弟子等の信仰による奇跡に負わしめたのである。
14章17節 弟子たち言ふ『われらが此處にもてるは、唯五つのパンと二つの魚とのみ』[引照]
口語訳 | 弟子たちは言った、「わたしたちはここに、パン五つと魚二ひきしか持っていません」。 |
塚本訳 | 彼らが言う、「ここにはパン五つと、魚二匹しか持ちあわせがありません。」 |
前田訳 | 弟子たちはいう、「ここにはパン五つと魚二匹しかありません」と。 |
新共同 | 弟子たちは言った。「ここにはパン五つと魚二匹しかありません。」 |
NIV | "We have here only five loaves of bread and two fish," they answered. |
註解: 彼らには打算より以上に出ることができなかった。
14章18節 イエス言ひ給ふ『それを我に持ちきたれ』[引照]
口語訳 | イエスは言われた、「それをここに持ってきなさい」。 |
塚本訳 | イエスは言われた、「それをここに持ってきなさい。」 |
前田訳 | 彼はいわれた、「それをわたしのところに持って来なさい」と。 |
新共同 | イエスは、「それをここに持って来なさい」と言い、 |
NIV | "Bring them here to me," he said. |
註解: 我らはすべての無力、無能にかかわらず、それをそのままイエスに携え行き、イエスの祝福を受くるとき、彼はいかなる境遇をもこれを祝福に変じ給う。
14章19節 かくて群衆に命じて草の上に坐せしめ、五つのパンと二つの魚とを取り、天を仰ぎて祝し、パンを裂きて、弟子たちに與へ給へば、弟子たち之を群衆に與ふ。[引照]
口語訳 | そして群衆に命じて、草の上にすわらせ、五つのパンと二ひきの魚とを手に取り、天を仰いでそれを祝福し、パンをさいて弟子たちに渡された。弟子たちはそれを群衆に与えた。 |
塚本訳 | それから群衆に命じて草の上に座らせ、(いつも家長がするように、)その五つのパンと二匹の魚を(手に)取り、天を仰いで(神を)讃美したのち、パンを裂いて弟子たちに渡されると、弟子たちは群衆に渡した。 |
前田訳 | そして群衆に草の上にすわるように命じ、パン五つと魚二匹をとり、天を仰いで感謝し、パンを裂いて弟子たちに与えられた。弟子たちはそれを群衆に与えた。 |
新共同 | 群衆には草の上に座るようにお命じになった。そして、五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで賛美の祈りを唱え、パンを裂いて弟子たちにお渡しになった。弟子たちはそのパンを群衆に与えた。 |
NIV | And he directed the people to sit down on the grass. Taking the five loaves and the two fish and looking up to heaven, he gave thanks and broke the loaves. Then he gave them to the disciples, and the disciples gave them to the people. |
註解: イエスが弟子たち又は群衆と食事を共にし給う時の態度は常にかくのごとく、ユダヤの家庭における家父の態度であった(マタ15:36。マタ26:26-27。ルカ24:30)。
14章20節 凡ての人食ひて飽く、裂きたる餘を集めしに十二の筐に滿ちたり。[引照]
口語訳 | みんなの者は食べて満腹した。パンくずの残りを集めると、十二のかごにいっぱいになった。 |
塚本訳 | 皆が食べて満腹した。そして余ったパンの屑を拾うと、十二の篭に一ぱいあった。 |
前田訳 | 皆が食べて満ち足りた。余りのくずを拾うと、十二の籠に満ちた。 |
新共同 | すべての人が食べて満腹した。そして、残ったパンの屑を集めると、十二の籠いっぱいになった。 |
NIV | They all ate and were satisfied, and the disciples picked up twelve basketfuls of broken pieces that were left over. |
14章21節 食ひし者は、女と子供とを除きて凡そ五千人なりき。[引照]
口語訳 | 食べた者は、女と子供とを除いて、おおよそ五千人であった。 |
塚本訳 | 食べた者は、女、子供ぬきで、男五千人ばかりであった。 |
前田訳 | 食べた人は女こどもを別にして五千人ほどであった。 |
新共同 | 食べた人は、女と子供を別にして、男が五千人ほどであった。 |
NIV | The number of those who ate was about five thousand men, besides women and children. |
註解: 五つのパンをもって五千人を養い給うキリストが、パンの余りを集め給うことは無用のごとくに見える。しかしながらキリストは全く無用なる我らをも拾いて救い上げ給うことを思う時、このことの理由を解することができる。▲この奇蹟及びマタ15:32−39の四千人の賜食の奇蹟は心理的なものかまた物質的なものか、また物質的変化とすれば、いかにしてかかることが可能であるか等は、現代の科学では説明が不可能であるが、将来説明の可能な時代が到来しないとも言えない。それまではその霊的意味を汲むに留めて置かなければならぬ。
要義 [イエス我らを養い給う]我らは生活上の問題については常に肉の思いに支配せられ、自己の収入のいかなりや、いかにしてパンを獲る途ありや、今の中にパンを求むる必要なきや等、種々の事情にのみ目を配り、打算によってのみ事を決せんとする場合が多い。弟子たちもその例に漏れなかった。彼らは五つのパンと二匹の魚とを見てこれでは到底足りないと信じた。日暮れて途遠し最早この機を失したならば彼らを飢えしむるであろうと憂慮した。今日キリスト教会においてもかかる憂慮が多い。空しく外界の事情のみを眺めて打算によりて事を行わんとする。かかることは肉の眼には賢く見ゆるけれどもこれ主の御旨ではない、主は我らがすべてを彼に任せて唯彼に従うべきことを命じ給う。而してすべての欠乏、すべての事情を「我に携え来れ」と宣う。而して我ら彼の御旨に従う時、彼はこれらの事情を祝福し、欠乏の究極より満盈の絶頂に我らを移し給うのである。「我は生命のパンなり、我にきたる者は飢えず」(ヨハ6:35)。我ら霊的のみならず肉的にもこの確信の上に立つべきである。
5-4-ハ イエス海の上を歩み給う 14:22 - 14:33(マコ6:49-52) (ヨハ[原書ではルカ、編者修正]6:14-21)
14章22節 イエス直ちに弟子たちを強ひて舟に乘らせ、自ら群衆をかへす間に、彼方の岸に先に往かしむ。[引照]
口語訳 | それからすぐ、イエスは群衆を解散させておられる間に、しいて弟子たちを舟に乗り込ませ、向こう岸へ先におやりになった。 |
塚本訳 | それからすぐイエスは弟子たちを強いて舟に乗らせ、向う岸に先発させられた、群衆を解散させる間に。 |
前田訳 | それからすぐ弟子たちを強いて舟に乗せ、彼が群衆を解散させる間に向こう岸へ先に行くようにされた。 |
新共同 | それからすぐ、イエスは弟子たちを強いて舟に乗せ、向こう岸へ先に行かせ、その間に群衆を解散させられた。 |
NIV | Immediately Jesus made the disciples get into the boat and go on ahead of him to the other side, while he dismissed the crowd. |
註解: ヨハ6:15の誘惑より弟子たちを遠ざけんが為に、「強いて」彼方の岸に渡らせたイエスは我らの信仰の鍛錬の為に時として強いて我らを離し給う。
14章23節 かくて群衆を去らしめてのち、祈らんとて竊に山に登り、夕になりて獨そこにゐ給ふ。[引照]
口語訳 | そして群衆を解散させてから、祈るためひそかに山へ登られた。夕方になっても、ただひとりそこにおられた。 |
塚本訳 | そして群衆を解散させると、祈りのため自分だけ山に上られた。暗くなってもひとりそこにおられた。 |
前田訳 | 彼は群衆を解散させてから自分だけ山に上って祈られた。夕方になってもひとりでそこにおられた。 |
新共同 | 群衆を解散させてから、祈るためにひとり山にお登りになった。夕方になっても、ただひとりそこにおられた。 |
NIV | After he had dismissed them, he went up on a mountainside by himself to pray. When evening came, he was there alone, |
註解: 唯独り神と共にいて、祈り給う瞬間が、イエスの休養であり又力の快復であった。イエスも我らと同じ人間性を完全に具備し給うたことがわかる。
辞解
[夕] 15節の「夕」は夕刻より夜半まで、本節は夜半より明方までをいう(M0)。
14章24節 舟ははや陸より數丁はなれ、風逆ふによりて波に難されゐたり。[引照]
口語訳 | ところが舟は、もうすでに陸から数丁も離れており、逆風が吹いていたために、波に悩まされていた。 |
塚本訳 | (弟子たちの)舟はすでに幾スタデオも(一スタデオは約五分の一キロ)陸を離れていたが、向い風のため波になやまされていた。 |
前田訳 | 舟はすでに陸から数スタデオも離れていて、向かい風のため波になやまされていた。 |
新共同 | ところが、舟は既に陸から何スタディオンか離れており、逆風のために波に悩まされていた。 |
NIV | but the boat was already a considerable distance from land, buffeted by the waves because the wind was against it. |
註解: 信者はイエスを離れる時必ずこの世の風浪に悩まされる。
14章25節 夜明の四時ごろ、イエス海の上を歩みて、彼らに到り給ひしに、[引照]
口語訳 | イエスは夜明けの四時ごろ、海の上を歩いて彼らの方へ行かれた。 |
塚本訳 | 第四夜回りのころ(すなわち夜明けの三時ごろ、)イエスは湖の上を歩いて彼らの所に来られた。 |
前田訳 | 夜明けの三時すぎに彼は湖の上を歩いて彼らのところへ来られた。 |
新共同 | 夜が明けるころ、イエスは湖の上を歩いて弟子たちのところに行かれた。 |
NIV | During the fourth watch of the night Jesus went out to them, walking on the lake. |
14章26節 弟子たち其の海の上を歩み給ふを見て心騷ぎ、變化の者なりと言ひて懼れ叫ぶ。[引照]
口語訳 | 弟子たちは、イエスが海の上を歩いておられるのを見て、幽霊だと言っておじ惑い、恐怖のあまり叫び声をあげた。 |
塚本訳 | 弟子たちはイエスが湖の上を歩いておられるのを見ると、幽霊だと思って肝をつぶし、恐ろしさのあまり叫んだ。 |
前田訳 | 弟子たちは彼が湖の上を歩かれるのを見ると、おどろいて、幽霊だといい、おののいて叫んだ。 |
新共同 | 弟子たちは、イエスが湖上を歩いておられるのを見て、「幽霊だ」と言っておびえ、恐怖のあまり叫び声をあげた。 |
NIV | When the disciples saw him walking on the lake, they were terrified. "It's a ghost," they said, and cried out in fear. |
註解: イエスの身体は時に地上の物質界の法則に支配せられざるごとき現象を呈した、或は彼の力によりて水を支配したものと見ることができよう。いずれにしてもこれが事実であったことは弟子たちの驚愕を見ても知ることができる。患難の中に苦しむ者にとって、イエスの援助は超自然的方法をもって来る。
14章27節 イエス直ちに彼らに語りて言ひたまふ『心安かれ、我なり、懼るな』[引照]
口語訳 | しかし、イエスはすぐに彼らに声をかけて、「しっかりするのだ、わたしである。恐れることはない」と言われた。 |
塚本訳 | しかしイエスはすぐ彼らに話しかけて言われた、「安心せよ、わたしだ。こわがることはない。」 |
前田訳 | イエスはすぐに語りかけられた、「安心なさい、わたしだ、こわがることはない」と。 |
新共同 | イエスはすぐ彼らに話しかけられた。「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない。」 |
NIV | But Jesus immediately said to them: "Take courage! It is I. Don't be afraid." |
註解: 我ら人生の荒波に船出してその風浪に漂わされ沈むは今かと死を待つ時に、イエスのこの語を思い出すべきである。その風波の最中にイエスは必ず我らに近付き、この言を語り給う。
14章28節 ペテロ答へて言ふ『主よ、もし汝ならば我に命じ、水を蹈みて御許に到らしめ給へ』[引照]
口語訳 | するとペテロが答えて言った、「主よ、あなたでしたか。では、わたしに命じて、水の上を渡ってみもとに行かせてください」。 |
塚本訳 | ペテロが答えた、「主よ、あなたでしたら、どうかわたしに命令して、水の上を歩いてあなたの所へ行かせてください。」 |
前田訳 | ペテロは答えた、「主よ、あなたなら、わたしに命じて水の上を歩いてそこまで行かせてください」と。 |
新共同 | すると、ペトロが答えた。「主よ、あなたでしたら、わたしに命令して、水の上を歩いてそちらに行かせてください。」 |
NIV | "Lord, if it's you," Peter replied, "tell me to come to you on the water." |
註解: この節より31節までは他の福音書にこれを欠く。イエスを迎うるペテロの熱心と歓喜とは彼をして、一刻の猶予をも待遠しと思わしめた。それにも関わらず彼は自己の熱心によりて行動せず、主の命を待ったのは彼の信従の態度の立派であったことを示す。
14章29節 『來れ』と言ひ給へば、ペテロ舟より下り、水の上を歩みてイエスの許に往く。[引照]
口語訳 | イエスは、「おいでなさい」と言われたので、ペテロは舟からおり、水の上を歩いてイエスのところへ行った。 |
塚本訳 | 「こちらに来なさい」とイエスが言われた。ペテロは舟から下り、水の上を歩いてイエスの所へ行った。 |
前田訳 | 彼はいわれた、「来なさい」と。そこでペテロは舟からおりて水の上をイエスのほうへ歩いて行った。 |
新共同 | イエスが「来なさい」と言われたので、ペトロは舟から降りて水の上を歩き、イエスの方へ進んだ。 |
NIV | "Come," he said. Then Peter got down out of the boat, walked on the water and came toward Jesus. |
註解: 主の命がある場合にすべての事情境遇困難を顧みず、即時にこれに従う時、主の力はこれに加わり奇跡的結果が生じて来るのである。ペテロが水の上を歩むことができたのも信仰によりて、絶対に主の御言に従ったからである(ヨシ3:15、16)。▲「精神」の本質とそれが物質に及ぼす力の物理的研究が進めば、この現象を説明し得るに至る時が来るであろう。
14章30節 然るに風を見て懼れ、沈みかかりければ、叫びて言ふ『主よ、我を救ひたまへ』[引照]
口語訳 | しかし、風を見て恐ろしくなり、そしておぼれかけたので、彼は叫んで、「主よ、お助けください」と言った。 |
塚本訳 | しかし(いま一足という所で)強い風を見たため、おじけがつき、沈みかけたので、「主よ、お助けください」と叫んだ。 |
前田訳 | しかし風を見ておそれ、沈みかけたので叫んだ、「主よ、お助けを」と。 |
新共同 | しかし、強い風に気がついて怖くなり、沈みかけたので、「主よ、助けてください」と叫んだ。 |
NIV | But when he saw the wind, he was afraid and, beginning to sink, cried out, "Lord, save me!" |
註解: 主を仰ぎ見つつある間はペテロは水上を歩くことができた。然るに一旦風に心が奪われるに及んで最早その力を失ったのである。これ我らの信仰生活の事実である。我ら専心に主を仰ぎ見て進む間はいかに困難なる境遇もこれを乗切ることができるけれども、一度困難なる事情に心が奪われ、主を離れるに至れば、人は皆その事情の中に没落してしまうのである。しかしたといかかる過に陥ることがあっても我らは絶望するに及ばない、「主よ、我を救いたまえ」と彼を呼びかけることができるからである。
14章31節 イエス直ちに御手を伸べ、これを捉へて言ひ給ふ『ああ信仰うすき者よ、何ぞ疑ふか』[引照]
口語訳 | イエスはすぐに手を伸ばし、彼をつかまえて言われた、「信仰の薄い者よ、なぜ疑ったのか」。 |
塚本訳 | イエスはすぐ手をのばし、ペテロをつかまえて言われる、「信仰の小さい人よ!なぜ疑うのか。」 |
前田訳 | ただちにイエスは手をのべて彼をつかんでいわれる、「小信もの、なぜ疑ったか」と。 |
新共同 | イエスはすぐに手を伸ばして捕まえ、「信仰の薄い者よ、なぜ疑ったのか」と言われた。 |
NIV | Immediately Jesus reached out his hand and caught him. "You of little faith," he said, "why did you doubt?" |
註解: 「主よ、我を救いたまえ」との叫びに応じて、主は御手を差出して我らを捉え給う、何等の恩恵であろうか(詩145:14)。しかしながら我らは主を仰ぎ見て少しも疑わず、いかなる困難をも顧みずして進むべきである。ロトのごとくに辛うじて救い出されるものは主の御心をあまりに多く傷め奉る者である。
14章32節 相共に舟に乘りしとき、風やみたり。[引照]
口語訳 | ふたりが舟に乗り込むと、風はやんでしまった。 |
塚本訳 | そして二人が舟に乗ると、風はやんだ。 |
前田訳 | 彼らが舟にあがると、風は凪いだ。 |
新共同 | そして、二人が舟に乗り込むと、風は静まった。 |
NIV | And when they climbed into the boat, the wind died down. |
14章33節 舟に居る者どもイエスを拜して言ふ『まことに汝は神の子なり』[引照]
口語訳 | 舟の中にいた者たちはイエスを拝して、「ほんとうに、あなたは神の子です」と言った。 |
塚本訳 | 舟にいた人たちは、「あなたは確かに神の子です」と言ってイエスをおがんだ。 |
前田訳 | 舟の中のものはひれ伏して彼にいった、「本当にあなたは神の子です」と。 |
新共同 | 舟の中にいた人たちは、「本当に、あなたは神の子です」と言ってイエスを拝んだ。 |
NIV | Then those who were in the boat worshiped him, saying, "Truly you are the Son of God." |
註解: イエスの栄光と奇蹟とを見て彼らはイエスを拝せざるを得ざるに至った。イエスに向って「汝は神の子なり」と告白することは天の父より与えられし聖霊の働きである(マタ16:16)。
5-4-ニ イエス、ゲネサレに還り給う 14:34 - 14:36(マコ6:53-56)
14章34節 遂に渡りてゲネサレの地に著きしに、[引照]
口語訳 | それから、彼らは海を渡ってゲネサレの地に着いた。 |
塚本訳 | ついに(湖を)渡ってゲネサレの地に着いた。 |
前田訳 | 湖を渡って彼らはゲネサレの地に来た。 |
新共同 | こうして、一行は湖を渡り、ゲネサレトという土地に着いた。 |
NIV | When they had crossed over, they landed at Gennesaret. |
14章35節 その處の人々イエスを認めて、あまねく四方に人をつかはし、又すべての病める者を連れきたり、[引照]
口語訳 | するとその土地の人々はイエスと知って、その附近全体に人をつかわし、イエスのところに病人をみな連れてこさせた。 |
塚本訳 | 所の人はイエスと知って、その付近に隅なく人をやっ(て知らせ)たので、人々は病人を皆イエスのところにつれて来て、 |
前田訳 | 彼と知ってそこの人々は周辺の地にくまなく人をつかわしたので、人々は病人を皆彼のところに連れて来た。 |
新共同 | 土地の人々は、イエスだと知って、付近にくまなく触れ回った。それで、人々は病人を皆イエスのところに連れて来て、 |
NIV | And when the men of that place recognized Jesus, they sent word to all the surrounding country. People brought all their sick to him |
14章36節 ただ御衣の總にだに觸らしめ給はんことを願ふ、觸りし者はみな醫されたり。[引照]
口語訳 | そして彼らにイエスの上着のふさにでも、さわらせてやっていただきたいとお願いした。そしてさわった者は皆いやされた。 |
塚本訳 | せめて着物の裾にさわらせてほしいとイエスに願った。さわった者はみな直った。 |
前田訳 | そして彼の着物の裾にだけでもさわらせてもらうよう願った。さわったものは皆いやされた。 |
新共同 | その服のすそにでも触れさせてほしいと願った。触れた者は皆いやされた。 |
NIV | and begged him to let the sick just touch the edge of his cloak, and all who touched him were healed. |
註解: ゲネサレはガリラヤの海の西北岸の平原である。イエスの福音を信じて人々をイエスの許に連れ来れ、さらば彼らは皆救われるであろう。