黒崎幸吉著 註解新約聖書 Web版黙示録

黙示録第8章

分類
3 この世の審判と救 4:1 - 18:24
3-(2) 第七の封印すなわち七つのラッパの審判 8:1 - 11:13
3-(2)-(イ) 序曲 8:1 - 8:5

註解: 第7章の中間挿景を終えて再び審判の光景が展開され、第七の封印が開かれてそれが七つのラッパに分れる。第一乃至(ないし)第六の封印の審判が一般普通の出来事であるのとは反対に、七つのラッパの審判は、極めて特異的でありその被害もまたそれぞれ特別の方面に及んでいるのを見る。これによりて見るときは第七の封印による審判は、いよいよ世の終りの切迫せるために異常にして激甚なる患難が増加していることを示すものと見なければならない。

8章1節 第七(だいしち)封印(ふういん)()(たま)ひたれば、(おほよ)半時(はんとき)のあひだ(てん)(しづか)なりき。[引照]

口語訳小羊が第七の封印を解いた時、半時間ばかり天に静けさがあった。
塚本訳かくて仔羊が(最後に)第七の封印を開いた時、およそ半時の間天が静かであった。(歌は止み、御使い達は固唾を飲んで次に起ころうとすることを待った。)
前田訳(小羊が)第七の封印を開くと、天に半時間ほど、静けさがおとずれた。
新共同小羊が第七の封印を開いたとき、天は半時間ほど沈黙に包まれた。
NIVWhen he opened the seventh seal, there was silence in heaven for about half an hour.
註解: 暴風雨の前の静寂のごとく、大なる審判の前兆としてこの長き時間の沈黙があった。この間四つの獣も二十四人の長老も御座の廻りの天使も群衆もみな固唾を呑んで何事の起るならんかを待ったことであろう。かくして凡ての上に大なる畏怖が襲い来ったことであろう。劇的効果の偉大なる静寂である。ただしこれは(ただ)に劇的であるというに止らず、実際においても非常なる平穏無事がかえって大なる禍害の序曲である場合が多い。

8章2節 われ(かみ)(まへ)()てる七人(しちにん)御使(みつかひ)()たり、(かれ)らは(なな)つのラッパを(あた)へられたり。[引照]

口語訳それからわたしは、神のみまえに立っている七人の御使を見た。そして、七つのラッパが彼らに与えられた。
塚本訳すると七人の御使いが神の前に立っているのを私は見た。そして彼らに七つのラッパが与えられた。
前田訳そしてわたしは見た。神の前に立った七人の天使に七つのラッパが与えられた。
新共同そして、わたしは七人の天使が神の御前に立っているのを見た。彼らには七つのラッパが与えられた。
NIVAnd I saw the seven angels who stand before God, and to them were given seven trumpets.
辞解
[七人の御使] 定冠詞を伴う故に、ユダヤ人の間に常識となっていた処の天使で、神の御座の前にいる七人の御使を指すと見るべきであろう。その名はウリエル、ラファエル、ラグエル、ミカエル、サリエル、ガブリエル、レミエルである。ラッパは審判の際に天使により吹かれるものと考えられていた(マタ24:31Tコリ15:52Tテサ4:16)。

8章3節 また(ほか)一人(ひとり)御使(みつかひ)(きん)香爐(かうろ)()ちきたりて祭壇(さいだん)(まへ)()ち、(おほ)くの(かう)(あた)へられたり。これは(すべ)ての聖徒(せいと)(いのり)(くは)へて御座(みくら)(まへ)なる(きん)香壇(かうだん)(うへ)(ささ)げんためなり。[引照]

口語訳また、別の御使が出てきて、金の香炉を手に持って祭壇の前に立った。たくさんの香が彼に与えられていたが、これは、すべての聖徒の祈に加えて、御座の前の金の祭壇の上にささげるためのものであった。
塚本訳するともう一人(他)の御使いが来て、(手に)金の香炉を持ち、香壇の前に立った。すると沢山の香が彼に与えられた。それは凡ての聖徒達の祈りのため(、これに力を添えるため)に、玉座の前の金の香壇に供えるのであった。
前田訳そしてもうひとりの天使が来て、金の香炉を手にして祭壇に立った。そして彼に多くの香が与えられた。それは王座の前の金の祭壇に、すべての聖徒の祈りにそえてささげるためであった。
新共同また、別の天使が来て、手に金の香炉を持って祭壇のそばに立つと、この天使に多くの香が渡された。すべての聖なる者たちの祈りに添えて、玉座の前にある金の祭壇に献げるためである。
NIVAnother angel, who had a golden censer, came and stood at the altar. He was given much incense to offer, with the prayers of all the saints, on the golden altar before the throne.
註解: 半時間の沈黙の後に現われたのは香炉を持てる天使で、3−5節においてラッパの吹かれる前に聖徒の祈が神にささげられ、この祈に応えてラッパの審判が下るもののごとくに録されている。▲「香壇」は前の「祭壇」と同語、訳語はこれを統一する方宜し。口語訳を見よ。
辞解
[他の一人] 七人の天使とは違う一人。
[祭壇] 黙6:9の場合と異なり馨香(かおり)の壇である。
[凡ての聖徒の祈] 黙6:10の殉教者の祈よりもさらに一般的であるが、迫害の下にある聖徒の祈故同一の祈と見て可なり。
[金の香炉] 出30:1以下参照。

8章4節 (しか)して(かう)(けむり)御使(みつかひ)()より聖徒(せいと)たちの(いのり)とともに(かみ)(まへ)(のぼ)れり。[引照]

口語訳香の煙は、御使の手から、聖徒たちの祈と共に神のみまえに立ちのぼった。
塚本訳香(は焚かれた。そ)の煙が聖徒達の祈りのために御使いの手から神の前に立ち上がった。
前田訳聖徒の祈りとともに香の煙は天使の手から神の前へと上った。
新共同香の煙は、天使の手から、聖なる者たちの祈りと共に神の御前へ立ち上った。
NIVThe smoke of the incense, together with the prayers of the saints, went up before God from the angel's hand.
辞解
[祈とともに] 3節の「祈に加えて」と同語で「祈の加勢をして」というごとき意味。

8章5節 御使(みつかひ)その香爐(かうろ)をとり(これ)祭壇(さいだん)()()りて()()げたれば、數多(あまた)雷霆(いかづち)(こゑ)電光(いなづま)と、また地震(ぢしん)おこれり。[引照]

口語訳御使はその香炉をとり、これに祭壇の火を満たして、地に投げつけた。すると、多くの雷鳴と、もろもろの声と、いなずまと、地震とが起った。
塚本訳(遂に祈りは聴かれた)──御使いが(再びその)香炉を取り、これに香壇の火を盛って(天から)地上に投げつけた。すると(たちまち恐ろしい)雷と轟と電光と(大)地震とが(地上に)起こった。
前田訳天使は香炉を取り、それを祭壇の火で満たして地に投げつけた。すると雷とひびきといなずまと地震とがおこった。
新共同それから、天使が香炉を取り、それに祭壇の火を満たして地上へ投げつけると、雷、さまざまな音、稲妻、地震が起こった。
NIVThen the angel took the censer, filled it with fire from the altar, and hurled it on the earth; and there came peals of thunder, rumblings, flashes of lightning and an earthquake.
註解: 第4節において聖徒の祈は香の煙に助けられて神の前に達した。第5節においてこの香炉は反対に審判の具に用いられ、神の怒の祭壇の火を盛りて地に投げられた。「雷霆(いかづち)」「声」「電光(いなづま)」「地震」の四者は審判が始まらんとする時の神の合図のごときものであると見られている。黙11:19黙16:18も同様である。なおエゼ10:2参照。

3-(2)-(ロ) 第一乃至(ないし)第四のラッパ 8:6 - 8:12

8章6節 ここに(なな)つのラッパをもてる七人(しちにん)御使(みつかひ)これを()(そなへ)をなせり。[引照]

口語訳そこで、七つのラッパを持っている七人の御使が、それを吹く用意をした。
塚本訳すると七つのラッパを持った七人の御使いが、(それを)吹く準備をした。
前田訳七つのラッパを持つ七人の天使は、それを吹く用意をした。
新共同さて、七つのラッパを持っている七人の天使たちが、ラッパを吹く用意をした。
NIVThen the seven angels who had the seven trumpets prepared to sound them.
註解: 次に来るべき七つのラッパによる禍害も四と三との二種に分つことができる。始めの四つは地、海、水、天体等自然界に対する神の審判で人間は唯間接にこれに影響されるに過ぎず後の三つは直接に人間の上に及ぶ災害である。この順序は黙16章の七つの金の鉢の審判の順序と同一である。災害の多くは出7章−10章にあるエジプトの災害に(ちな)めるものであり(他にもあれど)、これによりて神に敵する者に及ぶべき大審判を予告しているがごとくに思われる。

8章7節 第一(だいいち)御使(みつかひ)ラッパを()きしに、()(まじ)りたる(へう)()とありて、()にふりくだり、()三分(さんぶん)(いち)()()せ、()三分(さんぶん)(いち)()()せ、もろもろの(あを)(くさ)()()せたり。[引照]

口語訳第一の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、血のまじった雹と火とがあらわれて、地上に降ってきた。そして、地の三分の一が焼け、木の三分の一が焼け、また、すべての青草も焼けてしまった。
塚本訳第一の御使いがラッパを吹いた。すると血の混じった火が起こって、地上に降った。そして地の三分の一が焼かれ、樹の三分の一が焼かれ、(その三分の一の地にあった)青草が悉く焼かれ(てしまっ)た。
前田訳第一の天使がラッパを吹いた。すると、血のまじった雹と火があらわれて地に降って来た。地の三分の一が焼け、木の三分の一が焼け、すべての青草が焼けた。
新共同第一の天使がラッパを吹いた。すると、血の混じった雹と火とが生じ、地上に投げ入れられた。地上の三分の一が焼け、木々の三分の一が焼け、すべての青草も焼けてしまった。
NIVThe first angel sounded his trumpet, and there came hail and fire mixed with blood, and it was hurled down upon the earth. A third of the earth was burned up, a third of the trees were burned up, and all the green grass was burned up.
註解: 第一のラッパは地に対する審判であって、普通に見ることができない災害であることと地の三分の一だけが害を受け、全地に及ばないことがその特徴である。
辞解
[雹と火] 出9:23−25の災禍に類似し、「血」は出7:20以下の災害を連想せしめる。
[三分の一] 三は天に(ちな)める数であって天より降れる審判故この数を用いたのであろう。全部ではないが大部分という意。なお後続の黙8:8−12節、黙9:15黙9:18黙12:4参照。
[もろもろの青草] 直訳「凡ての青草」で一見全地の青草みな焼け失せたように見えるけれども(A1、S3)恐らく地の三分の一の上に生ぜる青草の意味ならん。黙9:4を見よ(B1、H0)。

8章8節 第二(だいに)御使(みつかひ)ラッパを()きしに、()にて()ゆる(おほい)なる(やま)(ごと)きもの(うみ)()()れられ、(うみ)三分(さんぶん)(いち)()(へん)じ、[引照]

口語訳第二の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、火の燃えさかっている大きな山のようなものが、海に投げ込まれた。そして、海の三分の一は血となり、
塚本訳第二の御使いがラッパを吹いた。すると火に燃えている大きな山のようなものが海の中に放り込まれた。そして海の三分の一が血になり、
前田訳第二の天使がラッパを吹いた。すると、火の燃える大きな山のようなものが海へ投げ込まれた。海の三分の一は血になり、
新共同第二の天使がラッパを吹いた。すると、火で燃えている大きな山のようなものが、海に投げ入れられた。海の三分の一が血に変わり、
NIVThe second angel sounded his trumpet, and something like a huge mountain, all ablaze, was thrown into the sea. A third of the sea turned into blood,

8章9節 (うみ)(うち)(つく)られたる生命(いのち)あるものの三分(さんぶん)(いち)()に、(ふね)三分(さんぶん)(いち)(ほろ)びたり。[引照]

口語訳海の中の造られた生き物の三分の一は死に、舟の三分の一がこわされてしまった。
塚本訳生命を有つ海中の被造物の三分の一が死に、舟の三分の一が破壊された。
前田訳海の中の被造物でいのちのあるものの三分の一が死に、船の三分の一が沈んだ。
新共同また、被造物で海に住む生き物の三分の一は死に、船という船の三分の一が壊された。
NIVa third of the living creatures in the sea died, and a third of the ships were destroyed.
註解: 第二のラッパは海に対する審判である。火にて燃ゆる大なる山のごときものが海に投入れられたことがヴェスヴィアスまたはその他の小アジヤ地方の噴火山の噴火より連想せるものとする説あれど(S3)かく考えることは本文との間に一致しない。経外典エノク書にやや類似の一節あれどこれより取りたるものとも思われず、ヨハネに与えられし特別の黙示であり、具体的の事実によりてこれを説明することはできない。天より降る審判なることを示さんがために天より海中に投入れられしことを描いたのであろう。四つのラッパはみなこの形を取る。
辞解
[血に変じ] 水が血に変化することは出7:17以下の災害を連想せしめる。この天変が何であるかを具体的に考えるべきではない。

8章10節 第三(だいさん)御使(みつかひ)ラッパを()きしに、燈火(ともしび)のごとく()ゆる(おほい)なる(ほし)(てん)より()ちきたり、(かは)三分(さんぶん)(いち)(みづ)源泉(みなもと)との(うへ)におちたり。[引照]

口語訳第三の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきた。そしてそれは、川の三分の一とその水源との上に落ちた。
塚本訳第三の御使いがラッパを吹いた。すると炬火のように燃えている大きな星が天から落ちた。そして河の三分の一と水の源(の三分の一)との上に落ちた。
前田訳第三の天使がラッパを吹いた。すると、たいまつのように燃える大きな星が天から落ちた。それは川の三分の一とそれらの水源に落ちた、
新共同第三の天使がラッパを吹いた。すると、松明のように燃えている大きな星が、天から落ちて来て、川という川の三分の一と、その水源の上に落ちた。
NIVThe third angel sounded his trumpet, and a great star, blazing like a torch, fell from the sky on a third of the rivers and on the springs of water--

8章11節 この(ほし)()苦艾(にがよもぎ)といふ。(みづ)三分(さんぶん)(いち)苦艾(にがよもぎ)となり、(みづ)(にが)くなりしに()りて(おほ)くの(ひと)()にたり。[引照]

口語訳この星の名は「苦よもぎ」と言い、水の三分の一が「苦よもぎ」のように苦くなった。水が苦くなったので、そのために多くの人が死んだ。
塚本訳その星の名を苦艾という。そして水の三分の一は(そのため)苦艾(のよう)に(苦く)なり、多くの人は水が苦くなったので(飲むことが出来ずに)死んだ。
前田訳その星の名は「にがよもぎ」といわれ、水の三分の一が「にがよもぎ」になった。水がにがくなったので多くの人が死んだ。
新共同この星の名は「苦よもぎ」といい、水の三分の一が苦よもぎのように苦くなって、そのために多くの人が死んだ。
NIVthe name of the star is Wormwood. A third of the waters turned bitter, and many people died from the waters that had become bitter.
註解: 第三のラッパは水に対する審判であって、苦艾(にがよもぎ)茵陳(いんちん)とも訳せらる、エレ9:14エレ23:15)は神の懲戒を意味し、これによりて水はその味を失い多くの人死するに至る。
辞解
[水の源泉の上] 三分の一の意味と見て可なり。一つの星が如何にして川の三分の一と水の源泉の三分の一の上に堕ち得るや等の問題は本書の性質上無益の穿鑿(せんさく)である。要するに上より降れる大なる審判が地の諸種の方面に及ぶことを言ったに過ぎない。また世の終りにおいてグルチハル Gurzihar なる星が天より隕ちるというペルシャの神話を強いてここに関係せしむる必要は無い。「苦艾(にがよもぎ)」はそれ自身毒ではない、人が死んだのは水を飲用し得なかつたため。

8章12節 第四(だいし)御使(みつかひ)ラッパを()きしに、()三分(さんぶん)(いち)(つき)三分(さんぶん)(いち)(ほし)三分(さんぶん)(いち)()たれて、その三分(さんぶん)(いち)(くら)くなり、(ひる)三分(さんぶん)(いち)(ひかり)なく、(よる)(また)おなじ。[引照]

口語訳第四の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、太陽の三分の一と、月の三分の一と、星の三分の一とが打たれて、これらのものの三分の一は暗くなり、昼の三分の一は明るくなくなり、夜も同じようになった。
塚本訳第四の御使いがラッパを吹いた。すると太陽の三分の一と月の三分の一と星の三分の一とが撃たれて、(各々)その(光の)三分の一が暗くなり、昼もその三分の一は(太陽が)照らず、夜も同様に(三分の一は暗く)なった。
前田訳第四の天使がラッパを吹いた。すると、日の三分の一と月の三分の一と星の三分の一とが打たれ、これらの三分の一が暗くなり、昼はその三分の一が光らず、夜も同じであった。
新共同第四の天使がラッパを吹いた。すると、太陽の三分の一、月の三分の一、星という星の三分の一が損なわれたので、それぞれ三分の一が暗くなって、昼はその光の三分の一を失い、夜も同じようになった。
NIVThe fourth angel sounded his trumpet, and a third of the sun was struck, a third of the moon, and a third of the stars, so that a third of them turned dark. A third of the day was without light, and also a third of the night.
註解: 第四のラッパは天体に対する審判であって、出10:21以下の災害に類似している。この天体の三分の一に対する異変が如何なる状態において起るかは本節の文字よりこれを決定し難く、本節もこの点につき不精確であるけれども、ヨハネの目的は他の場合と同じく驚くべき天変地異が神の御旨に従って行われ人類に警戒を与えんとし給うことを述ぶるに在るが故に、この文字の表面に余りに拘泥すべきではない。
辞解
[日、月、星の三分の一] 光の強さの三分の一か、面積または数の三分の一か等の問題もこれを研究する必要がない。昼の三分の一についても同様である。

3-(2)-(ハ) 三つの禍害の宣言 8:13 - 8:13

8章13節 また()しに(ひと)つの(わし)中空(なかぞら)()び、(おほい)なる(こゑ)して()ふを()けり。(いは)く『()()める(もの)どもは禍害(わざはひ)なるかな、禍害(わざはひ)なるかな、禍害(わざはひ)なるかな、(なほ)ほかに三人(さんにん)御使(みつかひ)()かんとするラッパの(こゑ)あるに()りてなり』[引照]

口語訳また、わたしが見ていると、一羽のわしが中空を飛び、大きな声でこう言うのを聞いた、「ああ、わざわいだ、わざわいだ、地に住む人々は、わざわいだ。なお三人の御使がラッパを吹き鳴らそうとしている」。
塚本訳すると(その時)私は見た、そして一羽の(大)鷲が中空を飛びながら大声で(こう)言うのを聞いた、「禍なる哉、禍なる哉、禍なる哉、地に住む者、三人の御使いが吹こうとしている残るラッパの声の故に!」
前田訳そしてわたしは見た。一羽の鷲が中空を飛び、大声でいうのを聞いた、「わざわい、わざわい、わざわいなのは地に住む人々、なお三人の天使がこれから吹こうとしているラッパのひびきのゆえに」と。
新共同また、見ていると、一羽の鷲が空高く飛びながら、大声でこう言うのが聞こえた。「不幸だ、不幸だ、不幸だ、地上に住む者たち。なお三人の天使が吹こうとしているラッパの響きのゆえに。」
NIVAs I watched, I heard an eagle that was flying in midair call out in a loud voice: "Woe! Woe! Woe to the inhabitants of the earth, because of the trumpet blasts about to be sounded by the other three angels!"
註解: この一節により七つのラッパが明かに四と三の二部に分たれていることを知る。そして後の三つのラッパにおいて、一層大なる禍害が地に住むものすなわち神に背ける者の上に下ることを警戒しているのである。
辞解
[鷲] 往々にして審判と連想せられている(マタ24:28)。
[中空] 空の頂点。
[地に住める者ども] 天国の民の反対、神を信ぜざるものを指す(黙3:10辞解参照)。他の場合と同じく「地に住む者ども」と訳すべきである。
[禍害なるかな] ouai 三唱せるは次に来るべき三つのラッパに当てはめたものである。
要義1 [四つのラッパの意義]第一より第四に至るラッパの審判は普通に起り得ざる特種の天変地異に過ぎず、霊的に何ら意義なきごとくに見えるけれども、実はこれらによリて審判がいよいよ進展し、禍害が益々(おそ)るべき形において降り、神の特別の御手によりて特別の審判が行われることあたかもエジプトにおけるモーセとパロとの争いの場合におけるがごとくであることを示したのである。それ故に我らはこの記事を読みつつ特別なる審判の前に立ちて(おそ)(おのの)かなければならない。その奇矯(ききょう)なるの故をもって我らと関係なきもののごとくに考え、文字に拘泥してその背後にある重大なる真理を見逃してはならない。
要義2 [神の義と愛との顕現]四つのラッパの審判は神の義と神の愛との現れである。ゆえに我らもし異常なる天変地異の襲い来るに会う時はそこに明かに神の御顔を拝し奉らなければならない。神はかくしてその義を示し給うと、同時に、全地を亡ぼさしてなお幾分を残すことによリて全人類を救わんとするその愛を示し給う。我らは異常なる出来事に直面して、直ちにこの義と愛との神を見奉るべきである。
附記 [四つのラッパの審判の種々の解釈について]この四つのラッパが何を意味するかにつきては種々の解釈がある。あるいはこの各々を五世紀頃までにローマに侵入してこれを荒せる種々の蛮族に譬え、あるいはこれを教会内の種々の異端、悪思潮、法王権等に譬え、またはこの世の政治界宗教界実業界等の大立物にたとえる等種々の見方があるけれども何れも牽強付会(けんきょうふかい)を免れず、一々これを実際の歴史に当てはめんとすることは無意義である。

黙示録第9章
3-(2)-(ニ) 第五のラッパ(第一の禍害) 9:1 - 9:11

註解: 本章よりラッパの審判の第二部に入る。そして第五、第六のラッパはサタンの配下が種々の形相において人間殊に未信者を苦しめる有様を叙述す。

9章1節 第五(だいご)御使(みつかひ)ラッパを()きしに、われ(ひと)つの(ほし)(てん)より()()ちたるを()たり。この(ほし)(そこ)なき(あな)(かぎ)(あた)へられたり。[引照]

口語訳第五の御使が、ラッパを吹き鳴らした。するとわたしは、一つの星が天から地に落ちて来るのを見た。この星に、底知れぬ所の穴を開くかぎが与えられた。
塚本訳(やがて)第五の御使いがラッパを吹いた。すると私は(今し)天から地上に落ちた(一つの)星を見た。それに奈落の坑の鍵が与えられた。
前田訳第五の天使がラッパを吹いた。すると、わたしは見た。ひとつの星が天から地に落ちて、それに奈落の底への鍵が与えられた。
新共同第五の天使がラッパを吹いた。すると、一つの星が天から地上へ落ちて来るのが見えた。この星に、底なしの淵に通じる穴を開く鍵が与えられ、
NIVThe fifth angel sounded his trumpet, and I saw a star that had fallen from the sky to the earth. The star was given the key to the shaft of the Abyss.
註解: 第五のラッパは(いなご)の災害であって、星はそのための準備を為す役目に用いられている。この星はルカ10:18のごとくサタンまたはその使を意味すと見るべきであろう。
辞解
[()ちたるを見たり] ()ちているを見たり」ですでに()ちて今地上に在る星を意味す(S3)。星の人格化は古代の文献に多く散見する。
[底なき(あな)] 「底なき処の(あな)」と訳すべし。「底なき処」abyssos は「淵」(創1:2)、「地の深き所」(詩71:20)、「黄泉(よみ)」(ロマ10:7)等の意味あり、本書においてはこの意味に用いられている(黙9:2黙9:11黙17:8黙20:1黙20:3)サタンの住家である。

9章2節 (かく)(そこ)なき(あな)(ひら)きたれば、(おほい)なる()(けむり)のごとき(けむり)(あな)より()ちのぼり()(そら)(あな)(けむり)にて(くら)くなれり。[引照]

口語訳そして、この底知れぬ所の穴が開かれた。すると、その穴から煙が大きな炉の煙のように立ちのぼり、その穴の煙で、太陽も空気も暗くなった。
塚本訳そしてそれが奈落の坑(の戸)を開けると、大きな炉の煙のような煙が(もうもうと)坑から立ち上って、太陽も空気も(その)坑の煙で暗くなった。
前田訳それは奈落の底を開いた。すると煙が底から大きな炉の煙のように上って、日も空も底の煙で暗くなった。
新共同それが底なしの淵の穴を開くと、大きなかまどから出るような煙が穴から立ち上り、太陽も空も穴からの煙のために暗くなった。
NIVWhen he opened the Abyss, smoke rose from it like the smoke from a gigantic furnace. The sun and sky were darkened by the smoke from the Abyss.
註解: 創19:28出19:18。深き所の(あな)より立上る煙は黄泉(よみ)より出てこの世を暗黒に(おとしい)れるものとして恐怖をもって見られることは当然である。この煙は聖徒の祈なる香の煙(黙8:3)と反対の性質を表わしまた神が光に在し給うことに対して暗黒を作るサタンの働きを示す。

9章3節 (けむり)(うち)より(いなご)地上(ちじゃう)()でて、()(さそり)のもてる(ちから)のごとき(ちから)(あた)へられ、[引照]

口語訳その煙の中から、いなごが地上に出てきたが、地のさそりが持っているような力が、彼らに与えられた。
塚本訳そして、煙の中から蝗(の大軍)が地上に出て来た。それに地の蝎が有っている力のような、(人間を苦しめる)力が与えられた。
前田訳煙から蝗が地の上へ出て来た。彼らに地の蝎が持つような権力が与えられた。
新共同そして、煙の中から、いなごの群れが地上へ出て来た。このいなごには、地に住むさそりが持っているような力が与えられた。
NIVAnd out of the smoke locusts came down upon the earth and were given power like that of scorpions of the earth.

9章4節 ()(くさ)、すべての(あを)きもの(また)すべての()(そこな)ふことなく、ただ(ひたひ)(かみ)(いん)なき(ひと)をのみ(そこな)ふことを(めい)ぜられたり。[引照]

口語訳彼らは、地の草やすべての青草、またすべての木をそこなってはならないが、額に神の印がない人たちには害を加えてもよいと、言い渡された。
塚本訳そして地の草も、あらゆる緑のものも、あらゆる樹も害せず、ただ額に神の印の無い人間(だけ)を害するように言われた。
前田訳彼らに告げられた、額に神の印を持たぬ人々のほか、地の草もどんな緑も木も損なわぬように、と。
新共同いなごは、地の草やどんな青物も、またどんな木も損なってはならないが、ただ、額に神の刻印を押されていない人には害を加えてもよい、と言い渡された。
NIVThey were told not to harm the grass of the earth or any plant or tree, but only those people who did not have the seal of God on their foreheads.
註解: (いなご)の害は非常に深刻広汎であって当時の人がいたくこれを恐れていた。出10:12以下およびヨエ1章-2章の記事は本項の基礎をなす記事である。ただしこの(いなご)は普通の(いなご)ではなく、(さそり)のごとき力あり、植物を害せずして神を信ぜざるものを害することを命ぜられた。人間の良心がサタンに束縛せられ、罪のために苦しむ姿はあたかも(いなご)軍に苦しめられる野の草木のごとくである。人はその生涯に一度は、かかる罪の苦悶を持ち、人生の意義につき迷うことがある、またある時代には人類の多くの者がかかる苦痛を()める時が来る。

9章5節 されど(かれ)らを(ころ)すことを(ゆる)されず、五月(いつつき)のあひだ(くる)しむることを(ゆる)さる、その苦痛(くるしみ)(さそり)()されたる苦痛(くるしみ)のごとし。[引照]

口語訳彼らは、人間を殺すことはしないで、五か月のあいだ苦しめることだけが許された。彼らの与える苦痛は、人がさそりにさされる時のような苦痛であった。
塚本訳且つそれを殺すのではなく、(ただ)五か月の間苦しめること(だけ)が許された。彼らの苦痛は蝎が人を刺した時の苦痛のようである。
前田訳しかし、その人々を殺さぬように、彼らが五か月間苦しめられるように、と命ぜられた。その苦しめ方は人を刺す蝎のようである。
新共同殺してはいけないが、五か月の間、苦しめることは許されたのである。いなごが与える苦痛は、さそりが人を刺したときの苦痛のようであった。
NIVThey were not given power to kill them, but only to torture them for five months. And the agony they suffered was like that of the sting of a scorpion when it strikes a man.
辞解
[五月の間] おそらく(いなご)の活動期間が約五ケ月なるより取れる数ならん。

9章6節 このとき人々(ひとびと)()(もと)むとも見出(みいだ)さず、()なんと(ほっ)すとも()()()るべし。[引照]

口語訳その時には、人々は死を求めても与えられず、死にたいと願っても、死は逃げて行くのである。
塚本訳そしてそれらの日において、人間は(苦痛のあまり)死を求めるけれども、決してそれを見出さないであろう。死のうと切に望むであろうけれども、死は彼らから逃げる。
前田訳その日になって人々は死を求めても見出さず、死のうと欲しても、死が彼らから逃げよう。
新共同この人々は、その期間、死にたいと思っても死ぬことができず、切に死を望んでも、死の方が逃げて行く。
NIVDuring those days men will seek death, but will not find it; they will long to die, but death will elude them.
註解: 彼らは非常なる良心の苦痛の下に、生よりもむしろ死を欲してしかも死ぬことができない状態に置かれなければならない。不信者のみかかる状態に陥ることはサタンの奴隷たる状態を脱せざる当然の結果である。

註解: 7−11節はこの(いなご)に関する詳細の説明である。大体においてヨエ1章-2章により軍馬との相似点を基礎として(いなご)の形状および運動を描いているけれども、その他に特異の点あり普通の(いなご)をもって説明することはできない。この(いなご)は何を表わすかまたこれらの個々の形状や性質が如何なる事柄の表徴であるかについては、解釈の主義方針如何により、無数の差異が起り得るけれども上述のごとくこれをサタンの配下のものと解することによりこれらの表徴の意義が明かになることと思う。

9章7節 かの(いなご)(かたち)戰爭(いくさ)(ため)(そな)へたる(うま)のごとく、[引照]

口語訳これらのいなごは、出陣の用意のととのえられた馬によく似ており、その頭には金の冠のようなものをつけ、その顔は人間の顔のようであり、
塚本訳 蝎の外観は戦争の用意をした(軍)馬に似て居り、その顔には金に似た(輝きを有つ)冠のようなものがあった。またその顔は人間の顔のようであった。
前田訳蝗の姿は戦いに備えた馬に似、頭には金の冠に似たものがあり、顔は人の顔のようである。
新共同さて、いなごの姿は、出陣の用意を整えた馬に似て、頭には金の冠に似たものを着け、顔は人間の顔のようであった。
NIVThe locusts looked like horses prepared for battle. On their heads they wore something like crowns of gold, and their faces resembled human faces.
註解: (いなご)の顔付やその堅き皮殼がやや軍馬に似ていることは否み難い、殊にその大群の発する羽音は9節のごとくであってヨエ2:4以下はこれによる記載である。そしてこれはサタンの力の強きことを示す。
辞解
[具えたる] 「準備したる」ですなわち武装したる馬のこと、馬が鎧を着けた姿は殊に(いなご)に似ている。

(かしら)には(きん)()たる冠冕(かんむり)(ごと)きものあり、

註解: サタンは常に人間を支配し勝者として振舞っていることを示すと見ることができる。必ずしも(いなご)の頭の形が冠冕(かんむり)を戴けるがごとくであると見る必要はない。

(かほ)(ひと)(かほ)のごとく、

註解: サタンの智慧と能力とを顕わす。これはこの(いなご)特有の形貌であってヨハネの創造せるもの、以下もまた然り。

9章8節 (これ)(をんな)頭髮(かみのけ)のごとき頭髮(かみのけ)あり、[引照]

口語訳また、そのかみの毛は女のかみのようであり、その歯はししの歯のようであった。
塚本訳女の髪の毛のような髪の毛があり、その歯は獅子の歯のようであった。
前田訳女の髪のようなものを持ち、歯は獅子のようであった。
新共同また、髪は女の髪のようで、歯は獅子の歯のようであった。
NIVTheir hair was like women's hair, and their teeth were like lions' teeth.
註解: その美わしさまた狡猾さを示す。(いなご)の触角を形容せるものと解する説あれどむしろ普通の(いなご)と異なれる姿と見るを可とす。

()獅子(しし)()のごとし。

註解: 非常なる強さを持つことを示す。

9章9節 また(てつ)胸當(むねあて)のごとき胸當(むねあて)あり、[引照]

口語訳また、鉄の胸当のような胸当をつけており、その羽の音は、馬に引かれて戦場に急ぐ多くの戦車の響きのようであった。
塚本訳また鉄の胸鎧のような胸鎧を著け、その羽音は戦車と多くの馬とが戦争に駈け行く音のようであった。
前田訳鉄の胸当てのようなものを持ち、翼の音は戦いへと走る多くの馬の戦車の音のようであった。
新共同また、胸には鉄の胸当てのようなものを着け、その羽の音は、多くの馬に引かれて戦場に急ぐ戦車の響きのようであった。
NIVThey had breastplates like breastplates of iron, and the sound of their wings was like the thundering of many horses and chariots rushing into battle.
註解: 軍馬の鎧のごときものをもって鎧い、敵の襲撃を防ぐの力あり、以上の二者はサタンがよく他を襲いてこれを殺すけれども自分は他の攻撃を防ぐに充分なる防備を有つことを示す。

その(つばさ)(おと)軍車(いくさぐるま)(とどろ)くごとく、(おほ)くの(うま)戰鬪(たたかひ)()せゆくが(ごと)し。

註解: 私訳「その翼の音は戦闘に馳せゆく多くの軍馬車の音のごとし」(いなご)が群を成して飛び行く時は囂々(ごうごう)たる音を発する事実に(ちな)める形容でその威力の恐るべきことを示す。
辞解
「軍馬車」といいて「馬」なる文字が不要に見える故(異本にこれを除けるもあり)これを二つに分け馬車の音と馬の音とに解する説あれど(A1)文法上やや無理なリ。

9章10節 また(さそり)のごとき()ありて(これ)(とげ)あり、この()五月(いつつき)のあひだ(ひと)(そこな)(ちから)あり。[引照]

口語訳その上、さそりのような尾と針とを持っている。その尾には、五か月のあいだ人間をそこなう力がある。
塚本訳そして蝎に似た尾と刺があり、その尾(の刺)に五か月の間人間を害する力がある。
前田訳蝎に似た尾を持ち、それにとげがあり、尾に人々を五か月間苦しめる権力があった。
新共同更に、さそりのように、尾と針があって、この尾には、五か月の間、人に害を加える力があった。
NIVThey had tails and stings like scorpions, and in their tails they had power to torment people for five months.
註解: 3節の詳述で、「(さそり)のもてる力」(3節)はその尾に在ることを示す。かくしてサタンの軍勢たるこの(いなご)は、頭より尾に至るまで、サタン的の力と智慧と勢と毒とに充るものであることが判明(わか)る。「五月の間」は5節辞解参照。

9章11節 この(いなご)(わう)あり。(そこ)なき(ところ)使(つかひ)にして()をヘブル()にてアバドンと()ひ、ギリシヤ()にてアポルオンと()ふ。[引照]

口語訳彼らは、底知れぬ所の使を王にいただいており、その名をヘブル語でアバドンと言い、ギリシヤ語ではアポルオンと言う。
塚本訳彼の上に王がある。奈落の使いであって、その名をヘブライ語では破壊者(といい)、ギリシヤ語では破壊者という。
前田訳彼らは王として奈落の天使を持ち、その名はヘブライ語でアバドン、ギリシア話でアポリュオン(破壊者)であった。
新共同いなごは、底なしの淵の使いを王としていただいている。その名は、ヘブライ語でアバドンといい、ギリシア語の名はアポリオンという。
NIVThey had as king over them the angel of the Abyss, whose name in Hebrew is Abaddon, and in Greek, Apollyon.
註解: (いなご)には本来王なしと云われていた(箴30:27)けれどもこの(いなご)には王あり、この王は「底なき所の使」である。あたかも風、火、水等にそれぞれ御使があるのと同様 (黙7:1黙14:8黙16:5) 「底なき所」の黄泉(よみ)にもまたその「使」がある。すなわちサタンである。アバドンは破壊破滅を意味し、これを七十人訳にて apô1eia と訳している、これをアポルオン apolluôn としたのは人格化して「破壊者」の意味を持たせたのであろう。これによって見ればこの王の本質は他を破壊破滅に至らしめるものであることが判明(わか)る。サタンは人間を誘いこれを苦しめて破滅に至らしめる。
要義 (いなご)禍害(わざわい)について]この(いなご)がサタンの力を代表していることは、その王が「底なき所の使」でありまた破壊者であること等より推してこれを断定することができる。そしてこの(いなご)の有する力も智慧も美も毒もみなサタンの性質に相応しい所のものである。そしてこの(いなご)が「額に神の印なき人のみを害うことを命ぜらる」ることは人間の心の苦痛はサタンに支配されるがためであることを示したのであって人間の罪を深く洞察して見るならば、この記事の極めて深い真理であることを見ることができる。すなわち人間の悪は、神の直接の審判を受けなければならないことは勿論であるが、それまでに神は悪の力によりて悪を苦しめ給うということである。ロマ7章に記されしパウロの苦悩はこのサタンによる苦悩であった。

3-(2)-(ホ) 第六のラッパ(第二の禍害) 9:12 - 9:21

9章12節 第一(だいいち)禍害(わざはひ)すぎ()れり、()よ、()(のち)なほ(ふた)つの禍害(わざはひ)きたらん。[引照]

口語訳第一のわざわいは、過ぎ去った。見よ、この後、なお二つのわざわいが来る。
塚本訳(斯くして)第一の禍は過ぎた。(しかし)視よ、この後なお二つの禍が来る!
前田訳第一のわざわいは終わった。見よ、この後、なおふたつのわざわいが来る。
新共同第一の災いが過ぎ去った。見よ、この後、更に二つの災いがやって来る。
NIVThe first woe is past; two other woes are yet to come.
註解: 黙8:13の三つのウーアイ ouai 「禍害(わざわい)なるかな」に関連す。「第一の禍害(わざわい)」は原語「第一のウーアイ」でこれを名詞として取扱っている。本節により来るべき二つの禍害(わざわい)の重大さが明かに認識される。13−21節は第六のラッパの災害で、ユウフラテ川の辺より攻め寄する無数の騎馬兵のために起こされる処のものである。ただしこの馬は奇怪なる貌をなし人を(そこな)う力を持っているのを見れば普通の軍隊および軍馬を意味せずサタンの力を示していることは明かである。なお大軍隊の侵入は預言書および黙示文学において世の終りの徴として常に用いられる処の事件である(エゼ38:14以下、イザ5:28エレ1:14以下、エレ6:22以下、ヨエ4:9以下等)。なお紀元前一世紀以下は東方ユウフラテ河辺の強国パルテヤがローマに侵入するならんとの風評が盛んであり、さらにこれに加えるにネロが復活しパルテヤ軍を率いて来らんとすとの評判が行われていたのでヨハネはこれを利用したものであろう。

9章13節 第六(だいろく)御使(みつかひ)ラッパを()きしに、(かみ)(まへ)なる(きん)香壇(かうだん)()つの(つの)より(一つの)(こゑ)ありて、[引照]

口語訳第六の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、一つの声が、神のみまえにある金の祭壇の四つの角から出て、
塚本訳第六の御使いがラッパを吹いた。すると私は神の前の金の香壇の四つの角から一つの声が出て、
前田訳第六の天使がラッパを吹いた。すると、わたしは神の前の金の祭壇の四つの隅からひとつの声を聞いた。
新共同第六の天使がラッパを吹いた。すると、神の御前にある金の祭壇の四本の角から一つの声が聞こえた。
NIVThe sixth angel sounded his trumpet, and I heard a voice coming from the horns of the golden altar that is before God.

9章14節 ラッパを()てる第六(だいろく)御使(みつかひ)に『(おほい)なるユウフラテ(がは)(ほとり)(つな)がれをる四人(よにん)御使(みつかひ)()(はな)て』と()ふを()けり。[引照]

口語訳ラッパを持っている第六の御使にこう呼びかけるのを、わたしは聞いた。「大ユウフラテ川のほとりにつながれている四人の御使を、解いてやれ」。
塚本訳ラッパを持っている第六の御使いに(こう)言うのを聞いた、「大ユーフラテス河の辺に縛られている四人の御使いを解き放て!」と。
前田訳それはラッパを持つ第六の天使にいった、「大川エウフラテスにつながれている四人の天使を解放せよ」と。
新共同その声は、ラッパを持っている第六の天使に向かってこう言った。「大きな川、ユーフラテスのほとりにつながれている四人の天使を放してやれ。」
NIVIt said to the sixth angel who had the trumpet, "Release the four angels who are bound at the great river Euphrates."
辞解
[四つの角より] 出づる一の声は恐らく黙8:3−5の聖徒たちの祈に対する答の意味であろう。従ってこの祭壇は馨香(かおり)の壇である。
[大なるユウフラテ川] イスラエルの理想としての領土の東端にあり(創15:18申1:7ヨシ1:4)バビロンおよびアッシリヤに接するが故に神の審判は常にそこより来るものとして恐れられていた(イザ8:7、8。エレ46:10)。
[四人の御使] 黙7:1の四人の御使とは別であって、サタンの使として地の上に審判を行う任務を持つ御使の意味ならん。「四人」は地に関する数である以外に別に意味は無い。

9章15節 (かく)てその(とき)、その()、その(つき)、その(とし)(いた)りて、(ひと)三分(さんぶん)(いち)(ころ)さん(ため)(そな)へられたる四人(よにん)御使(みつかひ)は、()(はな)たれたり。[引照]

口語訳すると、その時、その日、その月、その年に備えておかれた四人の御使が、人間の三分の一を殺すために、解き放たれた。
塚本訳そしてその時、その日、その月、その年のために(長い間)準備されていた四人の御使いは、(今やその時期満ちて)人間の三分の一を殺すために解き放たれた。
前田訳すると四人の天使は解放された。彼らは人々の三分の一を殺すように、この時と日と月と年のために備えられていた。
新共同四人の天使は、人間の三分の一を殺すために解き放された。この天使たちは、その年、その月、その日、その時間のために用意されていたのである。
NIVAnd the four angels who had been kept ready for this very hour and day and month and year were released to kill a third of mankind.
註解: 私訳「斯て人の三分の一を殺さんためにその時、日、月、年のために備えられたる四人の御使は解き放たれたり」神の目には凡ての事件は分秒までも精確に定められていると考えられていた。四人の使はその時まで繋がれておりその時のために備えられていた。今や彼らは解放(ときはな)たれ、神の定め給える審判が行はれるに至ったのである。サタンは神の許可の下に神の審判を行う手先となる。ヨブの場合のごとし。「三分の一」は第一 − 第四のラッパの災害と同じく、災害が全部に及ばないことを示す。

9章16節 騎兵(きへい)(かず)二億(におく)なり、(われ)その(かず)()けり。[引照]

口語訳騎兵隊の数は二億であった。わたしはその数を聞いた。
塚本訳そしてその(御使い達に従う)騎兵(の大)軍の数は二億(ばかり)であった──(見渡すことは出来なかったが、)私はその数を聞いた。
前田訳騎兵の軍勢の数は二億。その数をわたしは聞いた。
新共同その騎兵の数は二億、わたしはその数を聞いた。
NIVThe number of the mounted troops was two hundred million. I heard their number.
註解: ここにヨハネは四人の御使の存在を忘れたるもののごとく、また彼らと騎兵との関係をも明かにせずして突然騎兵の数を記載する。四人の天使はこの軍隊の代表に過ぎないからであろう。「二億」は原語「一万の二万倍」で騎兵の数の莫大なることを示す。この大軍は大なる世界戦争を意味するものと見ることを得、また後節より見れば悪霊の大軍が人類を霊的に襲撃するものと見ることができる。「聞けり」は自ら数を数うることができないから。

9章17節 われ幻影(まぼろし)にてその(うま)(これ)()(もの)とを()しに(かれ)らは()(けむり)硫黄(いわう)(いろ)したる胸當(むねあて)()く。(うま)(かしら)獅子(しし)(かしら)のごとくにて、その(くち)よりは()(けむり)硫黄(いわう)()づ。[引照]

口語訳そして、まぼろしの中で、それらの馬とそれに乗っている者たちとを見ると、乗っている者たちは、火の色と青玉色と硫黄の色の胸当をつけていた。そして、それらの馬の頭はししの頭のようであって、その口から火と煙と硫黄とが、出ていた。
塚本訳そして、私が幻影で見た馬とそれに乗っている者とはこうであった──彼らは火色と紫色と硫黄色の胸鎧を著けていた。馬は頭は獅子の頭のようであり、、その口からは(胸鎧の色に応じて)火と煙と硫黄とが出ている。
前田訳わたしは幻の中に馬とその騎士たちをこのように見た。彼らは真紅と青玉色と硫黄色の胸当てをつけていた。馬の頭は獅子の頭のようで、口から火と煙と硫黄が出ている。
新共同わたしは幻の中で馬とそれに乗っている者たちを見たが、その様子はこうであった。彼らは、炎、紫、および硫黄の色の胸当てを着けており、馬の頭は獅子の頭のようで、口からは火と煙と硫黄とを吐いていた。
NIVThe horses and riders I saw in my vision looked like this: Their breastplates were fiery red, dark blue, and yellow as sulfur. The heads of the horses resembled the heads of lions, and out of their mouths came fire, smoke and sulfur.
註解: 馬もその騎士も共に馬のロより出づる三種の毒に相当する色の胸当を着けている。馬の頭は獅子の頭のごとくしてその強さをあらわしている。かくしてこの災害は主としてこの馬より出づることを見ることができる。この三種の毒は黄泉(よみ)より出づる処のものであって悪の力を示すものと見るべきであろう。なお黙16:13の三つの穢れし霊と対照せよ。
辞解
[火・煙・硫黄の色したる] 「煙」は原語 hyakinthinos でヒアシンス色または青玉(黙21:20)色を意味し、濃藍色または紫色を意味す、原語に「煙」の意味は無い。ただし次節に馬の口より出づる煙 kapnos がこの濃藍色または紫色を呈している意味であることは三つの対照よりこれを推定することができる。

9章18節 この()つの苦痛(くるしみ)、すなはち()(くち)より()づる()(けむり)硫黄(いわう)とに()りて(ひと)三分(さんぶん)(いち)(ころ)されたり。[引照]

口語訳この三つの災害、すなわち、彼らの口から出て来る火と煙と硫黄とによって、人間の三分の一は殺されてしまった。
塚本訳この三つの災厄で、(すなわち)彼らの口から出る火と煙と硫黄とで、人間の三分の一が殺された。
前田訳この三つの災害、すなわち彼らの口から出る火と煙と硫黄で、人々の三分の一が殺された。
新共同その口から吐く火と煙と硫黄、この三つの災いで人間の三分の一が殺された。
NIVA third of mankind was killed by the three plagues of fire, smoke and sulfur that came out of their mouths.
註解: パルテヤ軍の侵入のごとくに見えた第六のラッパの災害も、ここに至ってその然らざるを知るのであって、結局は獅子のごとき頭を有する奇怪なる軍馬の口より出づる三つの禍害(わざわい)が神の審判の本体である。すなわちサタンの偉大なる力があらわれて人間の大部分が殺されることの意味である。これおそらくサタン的悪思想の結果起るべき世界戦争または人類相互の殺戮をいったものであろう。
辞解
[苦痛] plêgê は出エジプト記におけるエジプトの禍害(わざわい)に用いられる語。

9章19節 (うま)(ちから)はその(くち)とその()とにあり、その()(へび)(ごと)くにして(かしら)あり、(これ)をもて(ひと)(そこな)ふなり。[引照]

口語訳馬の力はその口と尾とにある。その尾はへびに似ていて、それに頭があり、その頭で人に害を加えるのである。
塚本訳というのは、(この)馬の力はその口とその尾にあるからである。すなわち、その尾は蛇に似て居り、(尾の端に蛇の)頭があって、それで(噛んで人を)害するのである。
前田訳馬の力はその口と尾にある。尾は蛇に似て頭を持ち、それで災害を加える。
新共同馬の力は口と尾にあって、尾は蛇に似て頭があり、この頭で害を加えるのである。
NIVThe power of the horses was in their mouths and in their tails; for their tails were like snakes, having heads with which they inflict injury.
註解: ここにヨハネは馬が如何にして人を殺しまた害を与うるかを説明する。すなわち馬の力(権)はその口と尾とに在り、口をもって人を殺すことはこれを前節に述べ、本節においては尾をもって人を害する有様を録している。口と尾とに力があることはこの馬が徹頭徹尾人を害しまた殺すために存在することを示す。尾が蛇のごとくであることはサタンを表徴する。

9章20節 これらの苦痛(くるしみ)にて(ころ)されざりし(のこり)人々(ひとびと)は、おのが()(わざ)悔改(くいあらた)めずして、なほ惡鬼(あくき)(はい)し、()ること、()くこと、(あゆ)むこと(あた)はぬ(きん)(ぎん)(どう)(いし)()偶像(ぐうざう)(はい)せり、[引照]

口語訳これらの災害で殺されずに残った人々は、自分の手で造ったものについて、悔い改めようとせず、また悪霊のたぐいや、金、銀、銅、石、木で造られ、見ることも聞くことも歩くこともできない偶像を礼拝して、やめようともしなかった。
塚本訳しかしこれらの災厄(にも拘らず、これ)で殺されなかった残りの(三分の二の)人々は(ますます頑固になった。彼らは)その手の行為を悔い改めず、悪鬼や、見ることも聞くことも歩くことも出来ない金や銀や銅や石や木の偶像を拝することを廃めず、
前田訳この災害で殺されなかった残りの人々は、自らの手のわざを捨てず、悪霊と見も聞きも歩きもしえない金、銀、銅、石、木の偶像を拝むことをやめなかった。
新共同これらの災いに遭っても殺されずに残った人間は、自分の手で造ったものについて悔い改めず、なおも、悪霊どもや、金、銀、銅、石、木それぞれで造った偶像を礼拝することをやめなかった。このような偶像は、見ることも、聞くことも、歩くこともできないものである。
NIVThe rest of mankind that were not killed by these plagues still did not repent of the work of their hands; they did not stop worshiping demons, and idols of gold, silver, bronze, stone and wood--idols that cannot see or hear or walk.

9章21節 (また)その殺人(ひとごろし)咒術(まじわざ)淫行(いんかう)竊盜(ぬすみ)悔改(くいあらた)めざりき。[引照]

口語訳また、彼らは、その犯した殺人や、まじないや、不品行や、盗みを悔い改めようとしなかった。
塚本訳またその殺人をもその呪術をもその淫行をもその窃盗をも悔い改め(ようとし)なかった。(より大なる災厄は来なければならぬ。
前田訳また、その殺人、魔術、不身持ち、盗みを悔い改めなかった。
新共同また彼らは人を殺すこと、まじない、みだらな行い、盗みを悔い改めなかった。
NIVNor did they repent of their murders, their magic arts, their sexual immorality or their thefts.
註解: 殺されざりし三分の二は神の審判が現実に行われしを見て速にその偶像崇拝(20節)と不道徳(21節)から悔改むべきであった、本来神が審判を下して信ぜざるものの三分の一を殺し給うことは他の者を救わんとの思召(おぼしめ)しである。然るにもかかわらず彼らは全く悔改めることをしない。かかる頑固なる心を有する者は如何なる災害もその過去るやたちまち全くこれを忘れてしまう。
辞解
[苦痛] 黙9:18節辞解参照。
「残の人々」も不信仰であるのを見れば殺されし三分の一も不信仰の人々を意味することが判明る(黙9:4節参照)。
[手の業] その作れる偶像を意味す(申4:28)。
[悪鬼] 真の神にあらざる霊。
「殺人云々」の四種は神を知らざる者の間に行われる最も普通の不道徳。なお21節の原語は「またその殺人をもその咒術をもその淫行をも窃盗をも悔改めざりき」とあり一々繰返して意を強めている (黙21:8黙22:15参照) 。なお第六のラッパはこれにて終り黙11:14−19の第七のラッパに連絡する。
要義1 [第六のラッパの審判の性質]東方の国パルテヤおよびその軍馬をもって表示する兵力、獅子をもって表示する国家的権力、蛇をもって表徴するサタン的思想がこの第六のラッパの審判の中心思想である(黙16:12−16参照)。すなわち神に対する反逆者は、第五のラッパのごとく悪そのものによりて審判(さば)かれるのみならず、この世の兵力や国家的権力やまたこれらを支配するサタン的勢力によりてあるいは殺され、あるいは苦しめられる。彼らはこれをもって神の審判と考え、恐れ(おのの)きてその罪を悔改むべきであるにもかかわらず、依然としてその偶像崇拝とその不道徳を改めない。これまで神は幾度か人類を戒めてその罪より立還らしめんがために、この種の世界的戦乱の力を用いて災害を人類の上に下し給うた。然るに人類は依然としてその罪を悔改めないこと黙示録のこの部分に預言せられている通りである。恐るべきは神の個々の審判よリも、ぞの審判によりても悔改めずして最後の審判に至ることである。
要義2 [サタンは結局において自らの徒党を殺す者である]神はその子らに生命を与え給うに反しサタンは結局においてその仲間を殺す、悪の力は自らを主張せんとしてこの世の戦争を起す、然るにこの戦争は遂にその徒党たるサタンの子らを殺す結果となる。サタンの子らは神より審かれる前にまずサタンによりて殺されることを知らなければならない。これが速やかに起らないのは神がその使を引留め給うからである。
要義3 [神は最後に至るまで自ら手を下して人を審き給わない]黙示録は審判の書であるにかかわらず最後まで神は自ら手を下して人類を審き給わない。黙18章のバビロンの覆滅さえも、サタンの子らがその同類に対して反逆を為せる結果であった(黙17:16、17)。これは神が如何に人を愛し給うかを示す最も著しき事実である。