黙示録第16章
分類
3 この世の審判と救
4:1 - 18:24
3-(3) 第七のラッパ
11:14 - 18:24
3-(3)-(ハ) 第一
16章1節
口語訳 | それから、大きな声が聖所から出て、七人の御使にむかい、「さあ行って、神の激しい怒りの七つの鉢を、地に傾けよ」と言うのを聞いた。 |
塚本訳 | すると私は大きな声が聖所から(出て)七人の天使に(こう)言うのを聞いた、「行って、神の憤怒の(盛られた)七つの鉢を地に注げ!」 |
前田訳 | そしてわたしは宮から七人の天使に大声でいわれるのを聞いた、「行け、そして神の憤りの七つの鉢を地に注げ」と。 |
新共同 | また、わたしは大きな声が神殿から出て、七人の天使にこう言うのを聞いた。「行って、七つの鉢に盛られた神の怒りを地上に注ぎなさい。」 |
NIV | Then I heard a loud voice from the temple saying to the seven angels, "Go, pour out the seven bowls of God's wrath on the earth." |
註解: 七人の御使は神の命を受けて今まさに七つの金の鉢を順次に傾けんとしつつある。
辞解
[大なる声] 普通天使の発する声である故 (黙5:2。黙10:3。黙14:7、黙14:9。黙14:18) 本節の場合もかく解して差支えがない (黙14:15、黙14:18参照) 。ただし神自らの声と解する人もある。なお七つの鉢と七つのラッパの関係については前章末尾附記を見よ。
16章2節
口語訳 | そして、第一の者が出て行って、その鉢を地に傾けた。すると、獣の刻印を持つ人々と、その像を拝む人々とのからだに、ひどい悪性のでき物ができた。 |
塚本訳 | 第一の天使が行ってその鉢を地に注いだ。すると悪い痛い腫物が、獣の印を有つ者とその像を拝む人々(の身)に生きた。 |
前田訳 | 第一の天使が出てその鉢を地に注いだ。すると獣の目じるしを持ち、その像を拝む人々にひどい悪性の腫れものができた。 |
新共同 | そこで、第一の天使が出て行って、その鉢の中身を地上に注ぐと、獣の刻印を押されている人間たち、また、獣の像を礼拝する者たちに悪性のはれ物ができた。 |
NIV | The first angel went and poured out his bowl on the land, and ugly and painful sores broke out on the people who had the mark of the beast and worshiped his image. |
註解: 七つの鉢の禍害も四と三との二組に区別することができる。第一−第四は第一−第四のラッパに類似しており唯その程度および性質を異にするに過ぎない。第一の鉢は第一のラッパの禍およびエジプトにおける第六の禍害とに類似す、共に地の上に下れる審判である(黙8:7。出9:10)。エジプトの法術士が腫物に襲われしことを連想してこれを選んだものと思わる。かくしてこの損害を被る者はサタンを拝するものすなわち神に敵する者のみである。
辞解
[苦しき] ponêron は「意地悪の」「悪性の」というような意味で彼らを苦しめんことを欲するごとき腫物として描写されている。
16章3節
口語訳 | 第二の者が、その鉢を海に傾けた。すると、海は死人の血のようになって、その中の生き物がみな死んでしまった。 |
塚本訳 | 第二の天使がその鉢を海に注いだ。するとそれが死人(の体)から出たような血になり、海にいる生物は悉く死んでしまった。 |
前田訳 | 第二の天使がその鉢を海に注いだ。すると死人の血のようになり、海にある生きものは皆死んだ。 |
新共同 | 第二の天使が、その鉢の中身を海に注ぐと、海は死人の血のようになって、その中の生き物はすべて死んでしまった。 |
NIV | The second angel poured out his bowl on the sea, and it turned into blood like that of a dead man, and every living thing in the sea died. |
註解: 第二のラッパおよびエジプトにおける第二の禍害に対応し(黙8:8。出7:19−24)、神の大審判は海中の凡ての生物に及ぶ。
辞解
[生物] psychê zôês なる特殊の語を用いる「生命の魂」と直訳し得べき文字。神秘的にして表徴的である。
16章4節
口語訳 | 第三の者がその鉢を川と水の源とに傾けた。すると、みな血になった。 |
塚本訳 | 第三の天使がその鉢を河と水の源に注いだ。するとそれが血になった。 |
前田訳 | 第三の天使がその鉢を川や水の源に注いだ。すると血になった。 |
新共同 | 第三の天使が、その鉢の中身を川と水の源に注ぐと、水は血になった。 |
NIV | The third angel poured out his bowl on the rivers and springs of water, and they became blood. |
16章5節 われ
口語訳 | それから、水をつかさどる御使がこう言うのを、聞いた、「今いまし、昔いませる聖なる者よ。このようにお定めになったあなたは、正しいかたであります。 |
塚本訳 | そして私は水の天使が(こう)言うのを聞いた、「(今)在り給う者、(昔)在り給いし者、聖なる者よ、かく審き給うた汝は義しい。 |
前田訳 | わたしは水の天使がいうのを聞いた、「今いまし、昔いました全きもの、かくお裁きのゆえに義にいます。 |
新共同 | そのとき、わたしは水をつかさどる天使がこう言うのを聞いた。「今おられ、かつておられた聖なる方、/あなたは正しい方です。このような裁きをしてくださったからです。 |
NIV | Then I heard the angel in charge of the waters say: "You are just in these judgments, you who are and who were, the Holy One, because you have so judged; |
16章6節
口語訳 | 聖徒と預言者との血を流した者たちに、血をお飲ませになりましたが、それは当然のことであります」。 |
塚本訳 | 彼らは聖徒、預言者(を迫害してそ)の血を流し、(その報復として今)汝は彼らに血を飲ましめ給うたのであるから。(主よ、)それは当然である!」 |
前田訳 | 彼らは聖徒と預言者に血を流させ、なんじは彼らに血を飲ませたもう。彼らはそれにふさわしい」と。 |
新共同 | この者どもは、聖なる者たちと/預言者たちとの血を流しましたが、/あなたは彼らに血をお飲ませになりました。それは当然なことです。」 |
NIV | for they have shed the blood of your saints and prophets, and you have given them blood to drink as they deserve." |
註解: 第三の鉢の審判は水の上に下り淡水を血に変じて飲むことをできないようにした(黙8:10)。この時水を掌 る天使と祭壇とより各々この神の審判を讃頌 する声が発せらる。水を掌 る御使の言は、地に住む者は聖徒と預言者の血を流した故にこれに相当する報いとして、水が血に変ることの相応しきことをたたえている。
辞解
[血となれり] 第三のラッパでは苦艾 となつた。ここでは聖徒と預言者の血の復讐の意味で血に変つた。
[水を掌 る御使] 黙7:1辞解参照。「後来り給う」を省略せる所以はこの時すでに審判のために来り給えるとほとんど同一の程度に世の終りが切迫しているからである。
16章7節
口語訳 | わたしはまた祭壇がこう言うのを聞いた、「全能者にして主なる神よ。しかり、あなたのさばきは真実で、かつ正しいさばきであります」。 |
塚本訳 | すると私は祭壇が(これに応えて)言うのを聞いた、「然り、主なる神よ、全能者よ、汝の審判は真実にして義しい!」 |
前田訳 | わたしは祭壇からいわれるのを聞いた、「然り、全能の神なる主よ、み裁きは真また義」と。 |
新共同 | わたしはまた、祭壇がこう言うのを聞いた。「然り、全能者である神、主よ、/あなたの裁きは真実で正しい。」 |
NIV | And I heard the altar respond: "Yes, Lord God Almighty, true and just are your judgments." |
註解: 黙15:3に類似する頌詞 なり。声は祭壇そのものより出でているけれども、恐らく祭壇の下にある殉教者の魂か(黙6:9)または祈りつつある聖徒の声ならん。前者と見ることがこの場合一層適当である。神の審判の真にして誤らず、義にして審 くべきものを審 き給うことをたたえている。
16章8節
口語訳 | 第四の者が、その鉢を太陽に傾けた。すると、太陽は火で人々を焼くことを許された。 |
塚本訳 | 第四の天使がその鉢を太陽の上に注いだ。そしてそれは火で人を焼くことを許された。 |
前田訳 | 第四の天使がその鉢を太陽に注いだ。すると太陽が火で人々を焼くことをゆるされた。 |
新共同 | 第四の天使が、その鉢の中身を太陽に注ぐと、太陽は人間を火で焼くことを許された。 |
NIV | The fourth angel poured out his bowl on the sun, and the sun was given power to scorch people with fire. |
辞解
[上に] 第四乃至 第七の鉢の場合は epi を用う。第一−第三の場合には神の憤恚 が注がれし地、海、水そのものに変化を来したことを示すために eis を用いた。
[人] 定冠詞あり。多分2節の「人々」を意味するならん(A1)。
16章9節
口語訳 | 人々は、激しい炎熱で焼かれたが、これらの災害を支配する神の御名を汚し、悔い改めて神に栄光を帰することをしなかった。 |
塚本訳 | そこで人々は(その)烈しい熱で焼かれた。しかし彼らは(却つて)これらの災厄を支配する権を有ち給う神の名を涜した。そして悔い改めて彼に栄光を帰することをしなかった。 |
前田訳 | 人々は高い熱で焼かれ、これらわざわいの権限のある神の名を汚した。そして彼に栄光を帰すよう悔い改めはしなかった。 |
新共同 | 人間は、激しい熱で焼かれ、この災いを支配する権威を持つ神の名を冒涜した。そして、悔い改めて神の栄光をたたえることをしなかった。 |
NIV | They were seared by the intense heat and they cursed the name of God, who had control over these plagues, but they refused to repent and glorify him. |
註解: 第四のラッパの場合は(黙8:12)これに類似し天体の変動による暗黒が地上に臨み、本節の場合は非常なる熱となりて不信なる人々を苦しめる。かかる場合に彼らは神の権威の前に平伏しその罪を悔改むべきであるのに、彼らはエジプト王パロのごとく益々心を頑固にして神を涜した。天災は神の審判である。しかしながら神はこれによりて罪人を悔改めしめんとの熱望をもってこれを行い給う。
16章10節
口語訳 | 第五の者が、その鉢を獣の座に傾けた。すると、獣の国は暗くなり、人々は苦痛のあまり舌をかみ、 |
塚本訳 | 第五の天使がその鉢を獣の王座の上に注いだ。するとその王国は真暗になり、人々は疼痛のために舌を噛んだ。 |
前田訳 | 第五の天使がその鉢を獣の王座に注いだ。するとその国は暗くなり、人々は苦しさに舌をかみ、 |
新共同 | 第五の天使が、その鉢の中身を獣の王座に注ぐと、獣が支配する国は闇に覆われた。人々は苦しみもだえて自分の舌をかみ、 |
NIV | The fifth angel poured out his bowl on the throne of the beast, and his kingdom was plunged into darkness. Men gnawed their tongues in agony |
16章11節 その
口語訳 | その苦痛とでき物とのゆえに、天の神をのろった。そして、自分の行いを悔い改めなかった。 |
塚本訳 | そしてその疼痛と腫物のために天の神を涜し、自分の(悪い)業を悔い改めなかった。 |
前田訳 | 苦しみとただれのために天の神を汚した。そしてそのわざを悔い改めなかった。 |
新共同 | 苦痛とはれ物のゆえに天の神を冒涜し、その行いを悔い改めようとはしなかった。 |
NIV | and cursed the God of heaven because of their pains and their sores, but they refused to repent of what they had done. |
註解: 神の審判はますます進展するにもかかわらず、人々の心は益々頑陋 となり、その冒涜とその罪行とを継続する。
辞解
[獣の座位] 黙13:2註参照。サタンの座位の上に鉢を頃ける時これに服従する者の国の上に禍害下る。
[暗くなり] 黙9:2の光景を連想すべし、なお出10:21−23の禍害が標本となっていると見ることが適当である。
[獣の国] 獣すなわちサタンの支配の下にあるもの。
[痛により] 非常なる暗黒が大なる苦痛を与えたものと解すべきであろう。ただし多くの学者はこの「痛」は第一乃至 第四の災害により起れる苦痛で暗黒はこれを助長したものと解している(A1、B3、S3、H0)。けれどもそれよりはむしろサタンの襲撃によりヨブのごとき苦痛に陥るかまたは罪に陥りて良心の苦痛を甞 めることを指したものであろう。
[・・・とによりて] 「・・・の故に」の意。
16章12節
口語訳 | 第六の者が、その鉢を大ユウフラテ川に傾けた。すると、その水は、日の出る方から来る王たちに対し道を備えるために、かれてしまった。 |
塚本訳 | 第六の天使がその鉢を大ユーフラテス河の上に注いだ。するとその水が(皆)涸れてしまった。それは太陽の出る方から来る王達に道を備えるためであった。 |
前田訳 | 第六の天使がその鉢を大河エウフラテスに注いだ。するとその水がかれた。東の王たちの道がそなえられるためである。 |
新共同 | 第六の天使が、その鉢の中身を大きな川、ユーフラテスに注ぐと、川の水がかれて、日の出る方角から来る王たちの道ができた。 |
NIV | The sixth angel poured out his bowl on the great river Euphrates, and its water was dried up to prepare the way for the kings from the East. |
註解: 第六のラッパと同じく第六の鉢はユウフラテ河の禍である。当時ユウフラテ河の東にあるパルテヤ国がローマを襲うならんとの風説あり、ヨハネはこれを利用したのである(黙9:14註及辞解参照)。そしてローマの敵なるパルテヤもやがてはローマと連盟して神の敵となることが次節以下によりて知ることを得。河水の涸渇と徒渉 については出14:21以下の紅海の徒渉 、ヨシ3:13−17のヨルダンの徒渉 、およびイザ11:15等参照。
辞解
[日の出づる方] 黙7:2辞解参照。
16章13節
口語訳 | また見ると、龍の口から、獣の口から、にせ預言者の口から、かえるのような三つの汚れた霊が出てきた。 |
塚本訳 | また私は(サタンである)竜の口からと、(反キリストである)獣の口からと、(その手先である)偽預言者の口から、蛙のような(格好をした)三つの穢れた霊が出て来るのを見た。 |
前田訳 | そしてわたしは見た。竜の口からと獣の口からと偽預言者の口から、蛙のような三つの汚れた霊が出た。 |
新共同 | わたしはまた、竜の口から、獣の口から、そして、偽預言者の口から、蛙のような汚れた三つの霊が出て来るのを見た。 |
NIV | Then I saw three evil spirits that looked like frogs; they came out of the mouth of the dragon, out of the mouth of the beast and out of the mouth of the false prophet. |
註解: 龍は黙12:3のサタン、獣は龍より権威を授けられたる地的権威(黙13:1)、偽預言者は明かに黙13:11の第二の獣を指す、なお黙19:20、黙20:10参照。この三者はサタンの三位一体であってこの各々の口より蛙のごとき穢れし霊が出で行く。この三つの蛙は連合して神の敵を糾合 する。
辞解
[偽預言者] 黙13:11にはこの名称が無いけれども、その説明よりこれを知ることができる。
[蛙] 出8:2より取る。なお引照を参照すべし。
16章14節 これは
口語訳 | これらは、しるしを行う悪霊の霊であって、全世界の王たちのところに行き、彼らを召集したが、それは、全能なる神の大いなる日に、戦いをするためであった。 |
塚本訳 | これら(の蛙)は(不思議な)徴を行う悪鬼の霊である。彼らは全能者なる神の大なる日の戦闘のために、全世界の王達を集めようとして出て行く。── |
前田訳 | 奇跡をする悪鬼の霊である。それらは全世界の王たちのところへ行って、全能の神の大いなる日の戦いへと彼らを召集する。 |
新共同 | これはしるしを行う悪霊どもの霊であって、全世界の王たちのところへ出て行った。それは、全能者である神の大いなる日の戦いに備えて、彼らを集めるためである。 |
NIV | They are spirits of demons performing miraculous signs, and they go out to the kings of the whole world, to gather them for the battle on the great day of God Almighty. |
註解: 前節の「穢れし霊」の説明である。この三つの霊は、黙19:11−21に録される最後の決戦の準備として全世界の王らの連盟を画策する(なお黙17:14参照)。彼らは徴を行い、人を惑す偉大なる力を有っているが故に、これによりてその目的を達することができる。ただし第六の鉢はこの大戦闘に対する準備たるに止まり、未だ大戦闘は起らない。これは最後の事件として進展する。
辞解
[徴をおこなう] 黙13:13参照。
[全能の神の大なる日] 最後の審判の日を指す(ヨエ2:11。ヨエ4:14)。パウロは主の再臨の日を「主の日」「イエス・キリストの日」等と呼ぶ(Tコリ3:13引照2参照)。
[全世界の王等] 12節の「日の出づる方より来る王たち」とは別の諸王を指すと解するのが通説であるが(B3、S3、H0)、東方の諸王も神に敵する連盟に加入する者と見る方が適当であろう。全世界が神の民を攻める思想についてはエゼ38章−39章その他外典に多くの例あり。
16章15節 (
口語訳 | (見よ、わたしは盗人のように来る。裸のままで歩かないように、また、裸の恥を見られないように、目をさまし着物を身に着けている者は、さいわいである。) |
塚本訳 | (主言い給う、)視よ、我は盗人のように来る。幸福なる哉、(絶えず)目を覚まして自分の着物を守っている者!彼は(その時)裸で歩かず、またその恥所を見られない(で済む)からである。── |
前田訳 | 見よ、わたしは盗びとのように来る。さいわいなのは目ざめていて、裸で歩いて恥を見られないよう身仕度する人。 |
新共同 | ――見よ、わたしは盗人のように来る。裸で歩くのを見られて恥をかかないように、目を覚まし、衣を身に着けている人は幸いである。―― |
NIV | "Behold, I come like a thief! Blessed is he who stays awake and keeps his clothes with him, so that he may not go naked and be shamefully exposed." |
註解: 全世界の諸王が神の敵として相集うことは神の民にとりては由々しき事件である。それ故にここに卒然として主の御声が聞え、これによりてキリスト者を慰めまた戒めんとしているのである。主は盗人のごとくに思わざる時に来り給う。目を覚しているもの、主より賜る義の衣を守りて決してこれを脱ぎ棄てざるもののみが、主の救いに与ることができる。
辞解
[盗人の如く来らん] 主のしばしば教え給いし処、パウロ、ペテロもまたこれを強調した。黙3:3註および引照を見よ。
[裸] 黙3:18参照。
[幸福なり] 黙1:3註解参照。
16章16節 かの
口語訳 | 三つの霊は、ヘブル語でハルマゲドンという所に、王たちを召集した。 |
塚本訳 | 彼ら(三つの霊)はヘブライ語でハルマゲドンと呼ばれる処に王達を集めた。 |
前田訳 | 彼らは王たちをヘブライ語でハルマゲドンというところに召集した。 |
新共同 | 汚れた霊どもは、ヘブライ語で「ハルマゲドン」と呼ばれる所に、王たちを集めた。 |
NIV | Then they gathered the kings together to the place that in Hebrew is called Armageddon. |
註解: ここで神の軍とサタンの軍との決戦が行われんとするのである。
辞解
[ハルマゲドン] もとより表徴的の名称で実際の場所があるわけではない。ただし何を表徴しているかに関しては「ハル」はヘブル語にて「山」を意味し「マゲドン」は「メギドン」また「メギド」に通じ、ナザレの南方キション河の流域エスドレロンの平原の一市で要塞地の名称である。古来ここで多くの決戦が行われた(士1:27。士5:19。U列9:27。U列23:29以下。U歴35:22)。ゆえに神の軍勢とサタンの軍勢の決戦地の表徴として適当である。ただしこの地は平原であって山(ハル)ではない。恐らくヨハネはエゼ39:2よりイスラエルとその敵との決戦地が「イスラエルの山々」なるより「ハル」を附加したものであろう。このエゼ39章の光景は本節と最も関係深き黙19:17−21。黙20:7−10 の中に多く引用されているのを見てもこの解釈が最も適当であろう。要するに地上の具体的の地名ではなく神の軍とサタンの軍との関ケ原の戦場である。
16章17節
口語訳 | 第七の者が、その鉢を空中に傾けた。すると、大きな声が聖所の中から、御座から出て、「事はすでに成った」と言った。 |
塚本訳 | (最後に)第七の天使がその鉢を空中に注いだ。すると大きな声が(天の)聖所から、(神の)玉座から出て言うた──「(事は)成った」と。 |
前田訳 | 第七の天使がその鉢を空中に注いだ。すると宮から大声が出た。王座から「事は成った」といわれたのであった。 |
新共同 | 第七の天使が、その鉢の中身を空中に注ぐと、神殿の玉座から大声が聞こえ、「事は成就した」と言った。 |
NIV | The seventh angel poured out his bowl into the air, and out of the temple came a loud voice from the throne, saying, "It is done!" |
註解: これは全審判の最後のものであり21節までにその概況を叙述し、17−18章においてバビロンの覆滅 の詳細を論じてこれをもって神の憤恚 の最後の鉢の傾け尽されしことを示す。「事すでに成れり」はこの完結を予じめ叫んだものである。
辞解
[大なる声] 第1節の場合と同じ。
[事すでに成れり] gegonen なる一字をもって表わさる。
16章18節
口語訳 | すると、いなずまと、もろもろの声と、雷鳴とが起り、また激しい地震があった。それは人間が地上にあらわれて以来、かつてなかったようなもので、それほどに激しい地震であった。 |
塚本訳 | すると(たちまち)電光と轟きと雷とがあり、また大地震が起こった。人間が地上に出来て以来かつて無い程のもの──そんな大きな地震であった。 |
前田訳 | するといなずまとひびきと雷がおこり、人が地上に住んでから、未だなかったほどの大地震がおこった。それほどの激しい地震であった。 |
新共同 | そして、稲妻、さまざまな音、雷が起こり、また、大きな地震が起きた。それは、人間が地上に現れて以来、いまだかつてなかったほどの大地震であった。 |
NIV | Then there came flashes of lightning, rumblings, peals of thunder and a severe earthquake. No earthquake like it has ever occurred since man has been on earth, so tremendous was the quake. |
註解: この四種の天変地異は 黙8:5。黙11:19 と同じく大審判の始まらんとする合図のごときものである。小アジア地方は地震の多き地方で、殊にその当時しばしば大地震があった。それ故にヨハネは特にこれらの何れよりも大なる地震の起ることを録して最後の災害の恐るべきことを示している。
16章19節
口語訳 | 大いなる都は三つに裂かれ、諸国民の町々は倒れた。神は大いなるバビロンを思い起し、これに神の激しい怒りのぶどう酒の杯を与えられた。 |
塚本訳 | 大なる都は三つに分かたれ、諸国の町々も倒れた。大なるバビロンは(遂にその不義を)神の前に思い出され、神の怒りの憤怒酒(を飲むべく、そ)の酒杯が与えられた。 |
前田訳 | 大きな町は三つに割れ、諸国民の町々は倒れた。大きなバビロンは神の前に覚えられて、み怒りにたぎる酒の杯が渡される。 |
新共同 | あの大きな都が三つに引き裂かれ、諸国の民の方々の町が倒れた。神は大バビロンを思い出して、御自分の激しい怒りのぶどう酒の杯をこれにお与えになった。 |
NIV | The great city split into three parts, and the cities of the nations collapsed. God remembered Babylon the Great and gave her the cup filled with the wine of the fury of his wrath. |
註解: 黙11:13に比してこの地震の災害の激甚にして広汎なることを知ることができる。大なる都すなわちバビロンをもって表徴されるローマが全く分裂せるのみならず、「諸国の町々」も倒れ、この地震の与えし禍害の甚 しさが判明 る。そしてこのバビロンはこれまで神がその罪を見遁 し給うたのに、今や「神の前に思ひ出され」その審判を免れることを得ざるに至った。この神の怒りの葡萄酒を盛れる酒杯を飲みたるバビロンの姿は次の二章に録される処である。故にローマにとりては地震が災害の全部ではなかった。
辞解
[劇 しき御怒] thumos tês orgês「怒の憤恚 」黙14:10辞解参照。
16章20節
口語訳 | 島々はみな逃げ去り、山々は見えなくなった。 |
塚本訳 | (地震のために)島は悉く逃げ去り、山は見えなくなった。 |
前田訳 | 島はみな消え、山々は見えなくなった。 |
新共同 | すべての島は逃げ去り、山々も消えうせた。 |
NIV | Every island fled away and the mountains could not be found. |
16章21節 また
口語訳 | また一タラントの重さほどの大きな雹が、天から人々の上に降ってきた。人々は、この雹の災害のゆえに神をのろった。その災害が、非常に大きかったからである。 |
塚本訳 | また百斤ほどの大きな雹が天から人の上に降って来る。その雹の災厄が非常に大きいので、人々はその災厄の故に(また)神を涜した。 |
前田訳 | 大きな重い雹が空から人々へと降った。人々は雹のわざわいゆえに神を汚した。そのわざわいは、じつに大きかったのである。 |
新共同 | 一タラントンの重さほどの大粒の雹が、天から人々の上に降った。人々は雹の害を受けたので、神を冒涜した。その被害があまりにも甚だしかったからである。 |
NIV | From the sky huge hailstones of about a hundred pounds each fell upon men. And they cursed God on account of the plague of hail, because the plague was so terrible. |
註解: 地震による地殻の変動は島を水底に没し山を崩壊せしめた。しかしそれよりも恐るべきことは大なる雹の害であった(雹は昔よりイスラエルの敵に対する神の怒りの表徴であった。出9:24。ヨシ10:11)。かかる災害にもかかわらず神に叛ける人々はなおもその涜神的行為を罷 めなかった。かくして彼らは全き滅亡に陥るに至ったのである。
辞解
[百斤] 原語は「タラントの重量」の意味で一タラントの重量は時代と国とによりて種々ありて一定しない。平均十貫目内外のものであろう。
附記 [神の審判の特質]七つの封印、七つのラッパ、七つの金鉢の審判につき、その相互関係を観察することは神の審判の性質、その成立を知る上において極めて必要である。本書において註解せるごとく第七の封印は七つのラッパに展開し、第七のラッパは七つの鉢に展開したとするならば、結局において第七の封印が最後の災害となる訳である。これがさらに七つに分れ、その最後のものがさらにまた七つに分れたことは、神の審判として降る災害は今や最後に達したるがごとくに見える場合においても、終末は未だ至らず、さらに再び第一のラッパよリ始まるがごとき状態において展開するものなることを示すと解すべきであろう。殊に七つのラッパと七つの鉢とは下のごとくに相対応していることに注意すべし。
第一のラッパ 地 第一の鉢 地 第二のラッパ 海 第二の鉢 海 第三のラッパ 川 第三の鉢 川 第四のラッパ 天体 第四の鉢 天体 第五のラッパ サタン 第五の鉢 サタン 第六のラッパ ユーフラテ川 第六の鉢 ユーフラテ川
この事実が示す意義は神の審 きの災禍は、前述のごとく終りに近付けるがごとくにしてまたさらに始めより繰返されるのみならず、往々にして同一の災禍が繰返されるものであることを示す。
それ故にキリスト者は非常なる忍耐を要する。もしこの真理を知らずして、苦痛の余り今こそ最後の苦難が来たのであると思ったならば非常なる失望に陥り遂にその忍耐力を失うに至り、また反対に一つの災害終わってもなお世の終末が来たらずとして安心するならば思わざる時に終わりが来るであろう。
しかしながら以上の諸々の災害は決して単に無限に反覆されているのではなく、反覆のごとくに見える中に程度の増大があり、遂には最後の大苦難に到達するのである。
かくのごとくにして黙示録の第七の封印によりて凡ての審判は完成せられ新天新地が出顕するに至るのである。ヨハネのこの歴史観は黙示録を理解する上に非常に重大なる関係がある。
黙示録第17章
3-(3)-(ホ)-(乙) 大淫婦の審判
17:1 - 17:18
3-(3)-(ホ)-(乙)-(a) 淫婦の姿
17:1 - 17:6
註解: 本章は次章と共に第七の鉢の審判の詳述であって、大なる都バビロンなるローマは大淫婦と称せられ、この政治的大都市の権力保持者たる諸王は獣と七つの頭とをもって表徴せられ全世界の諸王は「十の角」をもって表示せられている。なお17、18両章の審判を堕落せる教会の審判と解する見方も多いけれども(ミリガンその他)本文の自然の意味としてはかく解し難い。
17章1節
口語訳 | それから、七つの鉢を持つ七人の御使のひとりがきて、わたしに語って言った、「さあ、きなさい。多くの水の上にすわっている大淫婦に対するさばきを、見せよう。 |
塚本訳 | すると(神の憤怒の盛られた)七つの鉢を持つ七人の天使の一人が来て、私に語って言うた、「さあ(此処に来い)、多くの水の上に坐っている大淫婦の審判(の異象)を(今から)お前に示そう。 |
前田訳 | 七つの鉢を持つ七人の天使のひとりが来た。わたしと語っていう、「来たれ、多くの水の上にすわる大淫婦の裁きを見せよう。 |
新共同 | さて、七つの鉢を持つ七人の天使の一人が来て、わたしに語りかけた。「ここへ来なさい。多くの水の上に座っている大淫婦に対する裁きを見せよう。 |
NIV | One of the seven angels who had the seven bowls came and said to me, "Come, I will show you the punishment of the great prostitute, who sits on many waters. |
17章2節
口語訳 | 地の王たちはこの女と姦淫を行い、地に住む人々はこの女の姦淫のぶどう酒に酔いしれている」。 |
塚本訳 | 地の王達は(皆)彼女と淫行をなし、地に住む者は彼女の淫行の葡萄酒に酔っぱらった。」 |
前田訳 | 地の王たちはそれと淫し、地に住むものはその姦淫の酒に酔った」と。 |
新共同 | 地上の王たちは、この女とみだらなことをし、地上に住む人々は、この女のみだらな行いのぶどう酒に酔ってしまった。」 |
NIV | With her the kings of the earth committed adultery and the inhabitants of the earth were intoxicated with the wine of her adulteries." |
註解: 大淫婦はサタンの姿であって地上の政治的、経済的、文化的、宗教的の姿を取り、その進歩と華美と奢侈 と能力とによりて地上の凡てのものを支配する。ヨハネはこの大淫婦がその座をローマ帝国の中心たるローマに占めて世界を風靡し殊にキリスト信徒に対してその毒牙を振っていることを示す。すなわち大淫婦はローマの都であり、地に住む者の権力文化の中心である(黙17:18節)。
辞解
[七人の御使の一人] すなわちこの後に録される審判は第七の鉢の審判の内容を為すことを意味す(B3)。第七の金の鉢の審判黙16:17より新天新地の完成に至るまでに現れる七人の御使 (黙17:1。黙18:1、黙18:21。黙19:17。黙20:1。黙21:9) はおそらく、みな金の鉢を傾けし御使ならんかと思わる。ただし明かにかくと録されるは本節と黙21:9のみなり。
[多くの水] 黙17:15節の解説に明かなるごとく多くの国民、民族を指す。エレ51:13よりその着想を取りたるもの、イザ8:7以下にも国民を水に譬えし例あり。
[地の王たち] この世の支配者たちの概称(S3)。
[淫を行う] 神を離れてこの地の権力、肉の快楽を神としてこれに仕えること。
[地に住む者] 黙3:10辞解参照。
[その淫行の葡萄酒] 「その」は「彼女の」、淫行は人を酔わせこれを堕落せしむる葡萄酒である。
17章3節
口語訳 | 御使は、わたしを御霊に感じたまま、荒野へ連れて行った。わたしは、そこでひとりの女が赤い獣に乗っているのを見た。その獣は神を汚すかずかずの名でおおわれ、また、それに七つの頭と十の角とがあった。 |
塚本訳 | そして彼は私を霊にて荒野に連れて行った。私は(其処で一人の)女が、(神を)涜す名にて(全身を)蔽われた、七つの頭と十の角のある緋色の獣に乗っているのを見た。 |
前田訳 | 天使は霊に感じたわたしを荒野へ連れ去った。わたしは緋色の獣の上にすわる女を見た。獣は神を汚す名で包まれ、七つの頭と十の角を持っていた。 |
新共同 | そして、この天使は“霊”に満たされたわたしを荒れ野に連れて行った。わたしは、赤い獣にまたがっている一人の女を見た。この獣は、全身至るところ神を冒涜する数々の名で覆われており、七つの頭と十本の角があった。 |
NIV | Then the angel carried me away in the Spirit into a desert. There I saw a woman sitting on a scarlet beast that was covered with blasphemous names and had seven heads and ten horns. |
註解: この御使は説明者であると同時に、案内者であった。ここにバビロンすなわちローマの都すなわちこの世の権力、交化とその王たち、その支配者たる権力保持者たちの姿がヨハネに示される。都は女性なるが故に女でありサタンと姦淫して神に叛く大淫婦である。その乗れる獣は 黙13:1、黙13:14。黙19:20 の獣と同一物である(黙13:1註参照)。唯ここに緋色とあるは黙12:3の龍と同色にしてサタン的なることを示すと同時にその華美壮麗さを示し(黙18:16)万人仰視の的であることを意味す、この女と獣とが「荒野」に在ることは一見殷賑 なるローマの都に相応わしからぬごとくに見えるけれども然らず、この世は神の都に比すれば霊的の荒野である。この荒野は教会の所在地であり (黙12:6、黙12:14) 教会が迫害される場所である。
辞解
[荒野] (1)淋しき内面的生活。(2)神なき生活の荒涼たる姿(S3)。(3)ローマが荒廃に帰したる後の姿。(4)別段の意味なく唯ヨハネが御霊に感じたる場所の光景に種々の変化を与うるため(B3)等種々に解せられるけれども前述の註のごとく黙12:6との関係においてこれを解した。
[緋色] 殉教者の血の色と解する説あれどこの場合適切でない。
17章4節
口語訳 | この女は紫と赤の衣をまとい、金と宝石と真珠とで身を飾り、憎むべきものと自分の姦淫の汚れとで満ちている金の杯を手に持ち、 |
塚本訳 | その女は紫と緋の衣を着、金と宝石と真珠とにて(身を)飾り、手に嫌悪むべきものと彼女の淫行の穢れとの一杯入った金の酒杯を持っていた。 |
前田訳 | 女は紫と緋色で装い、金と宝石と真珠で飾られ、手には悪事と姦淫の汚れに満ちた金の杯を持っていた。 |
新共同 | 女は紫と赤の衣を着て、金と宝石と真珠で身を飾り、忌まわしいものや、自分のみだらな行いの汚れで満ちた金の杯を手に持っていた。 |
NIV | The woman was dressed in purple and scarlet, and was glittering with gold, precious stones and pearls. She held a golden cup in her hand, filled with abominable things and the filth of her adulteries. |
註解: 紫色と緋とは相類似しており時に混用されることもある(マタ27:28辞解参照)。王者の姿または奢侈 の意味に用いられる。ここでは双方の意味を併有するものと見て差支えがない。金、宝石、真珠は何れも華美贅沢の貌、金の鉢は外観は立派であるけれどもその中には不信仰と不道徳とが充満している。これ実にバビロンの姿でありまた今日の世界文化の姿である。
辞解
[憎むべきもの] bdelugma マタ24:15。ダニ9:27。ダニ11:31。ダニ12:11。旧約聖書に多く用いられる語で嫌悪にたえざるものを指す。従ってイスラエル人にとりては偶像または偶像崇拝に関連せる事物につき用いられる場合が多い(T列11:6。T列20:26。U列16:3。U列21:2等)。本節の場合偶像崇拝とこれに伴う不道徳とを指すと解すべきであろう。なお黙21:27参照。
17章5節
口語訳 | その額には、一つの名がしるされていた。それは奥義であって、「大いなるバビロン、淫婦どもと地の憎むべきものらとの母」というのであった。 |
塚本訳 | そしてその額には(こういう)一つの名、すなわち奥義が書きつけてあった、「大バビロン、淫婦らと地の嫌悪むべきものとの母!」 |
前田訳 | そして額には名が書かれている。それは奥義で、「大バビロン、淫婦と地の悪事の母」である。 |
新共同 | その額には、秘められた意味の名が記されていたが、それは、「大バビロン、みだらな女たちや、地上の忌まわしい者たちの母」という名である。 |
NIV | This title was written on her forehead: MYSTERY BABYLON THE GREAT THE MOTHER OF PROSTITUTES AND OF THE ABOMINATIONS OF THE EARTH. |
註解: ローマの貴婦人たちは額にバンドを巻きその上に自己の名または所属を録す習慣があった。そのごとくこの大淫婦の額にも自己の本質を示す名称が録されていた。そしてその名は第一に「奥義」mystêrion であって福音の奥義と正反対の位置に立つ処のものであり、神に敵する神秘的の力である、第二の名は「大なるバビロン」であってこの世の凡ての権力と文化との結晶であり、第三の名は「地の淫婦らと憎むべきものとの母」で地上のあらゆる不信仰、偶像崇拝、不道徳、堕落の母として全世界にこれを産み出す処の原動力である。
辞解
[奥義] 「名」の同格名詞と見「神秘的なる名あり」または「名、すなわち奥義あり」とも訳することもできる。
[母] 一国の首都は常に母たる役割を演じ、その影響を全世界に及ぼす、バビロン然りローマ然り、今日もまた同一の事象を目撃する。
17章6節
口語訳 | わたしは、この女が聖徒の血とイエスの証人の血に酔いしれているのを見た。この女を見た時、わたしは非常に驚きあやしんだ。 |
塚本訳 | また私はその女が聖徒の(流した)血とイエスの証人達の血とに酔っぱらっているのを見た。彼女を見た時私は大なる驚きに打たれた。 |
前田訳 | そしてわたしは見た。女が聖徒の血とイエスの証人の血に酔っていた。その女を見てわたしは驚き入った。 |
新共同 | わたしは、この女が聖なる者たちの血と、イエスの証人たちの血に酔いしれているのを見た。この女を見て、わたしは大いに驚いた。 |
NIV | I saw that the woman was drunk with the blood of the saints, the blood of those who bore testimony to Jesus. When I saw her, I was greatly astonished. |
註解: ここに大淫婦の特徴の中最も著しくかつキリスト者に関係ある点を掲げている。これが本書にとっては最も重大な点である。すなわち一見非常に美わしく威儀堂々たるバビロンは、キリスト者の迫害者でありその血に酔う処の者である。
辞解
[聖徒、証人] 同一の人々を指すと解する学者があるけれども前者は一般のキリスト者であり後者はその中特に福音の証人として殉教せる者を指す(黙11:18辞解参照)。
3-(3)-(ホ)-(乙)-(b) 淫婦と獣との関係
17:7 - 17:14
17章7節
口語訳 | すると、御使はわたしに言った、「なぜそんなに驚くのか。この女の奥義と、女を乗せている七つの頭と十の角のある獣の奥義とを、話してあげよう。 |
塚本訳 | すると天使が私に言うた、「何故驚くのか。私がこの女と、それを背負っている七つの頭と十の角のある獣との奥義をお前に話してやろう。── |
前田訳 | すると天使はいった、「なぜ驚いたのか。わたしが女と女をになう七つの頭と十の角の獣との奥義をいおう。 |
新共同 | すると、天使がわたしにこう言った。「なぜ驚くのか。わたしは、この女の秘められた意味と、女を乗せた獣、七つの頭と十本の角がある獣の秘められた意味とを知らせよう。 |
NIV | Then the angel said to me: "Why are you astonished? I will explain to you the mystery of the woman and of the beast she rides, which has the seven heads and ten horns. |
註解: ヨハネは審 かるべき大淫婦およびその乗れる獣の姿のあまりに華麗なのに非常におどろいた。何人もこの世界都市ローマの文化的の姿を見て、これがやがて審 かるべきものであることを感じないであろう。それ故に御使がこれを説明することが必要であった。本節以下本章の終りまでは御使がヨハネに対して為せる説明である。ただし(1)主として獣の説明であって女につきては説明の少きこと。(2)獣とその頭と角との関係は必ずしも明瞭でないこと等の困難はあるけれども我らはこの説明によりてこの獣とそれに乗れる女の真相を闡明 しなければならない。
17章8節 なんぢの
口語訳 | あなたの見た獣は、昔はいたが、今はおらず、そして、やがて底知れぬ所から上ってきて、ついには滅びに至るものである。地に住む者のうち、世の初めからいのちの書に名をしるされていない者たちは、この獣が、昔はいたが今はおらず、やがて来るのを見て、驚きあやしむであろう。 |
塚本訳 | お前が見た獣は以前にはいたが今はいない。しかし(直にまた)奈落(の底)から上って来るであろう。そして(時期が来ると再び永遠の)滅亡に(落ち)行くのである。そして地に住む者で、宇宙開闢の時からその名を生命の書に記されていない者は、その獣が以前にはいたが今はいず、再び来るのを見て驚くであろう。 |
前田訳 | なんじが見た獣は前にいたが、今はいない。また奈落から上って滅びへと消えよう。地に住みながら世の初めからその名をいのちの書に記されていないものは、獣が前にいて今いず、また現われるのを見て驚こう。 |
新共同 | あなたが見た獣は以前はいたが、今はいない。やがて底なしの淵から上って来るが、ついには滅びてしまう。地上に住む者で、天地創造の時から命の書にその名が記されていない者たちは、以前いて今はいないこの獣が、やがて来るのを見て驚くであろう。 |
NIV | The beast, which you saw, once was, now is not, and will come up out of the Abyss and go to his destruction. The inhabitants of the earth whose names have not been written in the book of life from the creation of the world will be astonished when they see the beast, because he once was, now is not, and yet will come. |
註解: 黙13:3と同一の事実を異なりたる表顕をもって示したのである。同節註参照。死せるネロの復活に関する風説を利用したる表徴。サタンの権を与えられたる国家的権力は一時はキリスト教を迫害することを休止せるごとくに見えていてもまた間もなく復活するものであることを暗示する。
辞解
[前にありしも今あらず] 黙1:4等の神の形容と相類似し、「後に底なき所より上りて滅亡に往かん」はイエス・キリストが陰府 より甦りて最後の勝利を得給うことと相対応する。
註解: 黙13:8と同義で殆んど同一の語を用いるのを見ても同一事実を指すことを知る。
辞解
[世 の創 より] 神は世 の創 の先より我らをキリストの中にて選び給ふ(エペ1:4)。
口語訳 | ここに、知恵のある心が必要である。七つの頭は、この女のすわっている七つの山であり、また、七人の王のことである。 |
塚本訳 | 「知恵ある理知がここに要る!七つの頭(というの)はこの女の坐っている七つの山(のこと)であり、(同時に)また七人の王(のこと)である。 |
前田訳 | 知恵のある心はこれである。七つの頭は七つの山で女はその上にすわる。それらは七人の王である。 |
新共同 | ここに、知恵のある考えが必要である。七つの頭とは、この女が座っている七つの丘のことである。そして、ここに七人の王がいる。 |
NIV | "This calls for a mind with wisdom. The seven heads are seven hills on which the woman sits. |
註解: 黙13:18参照。読者の智慧とこれをもってする悟りの心はこの場合に必要である。然らざればこの表徴的記載の意義を悟ることができない。ヨハネはこの表徴をもって一般的真理を示すと共に、現に当時のキリスト者の目前に迫っているローマ国権の迫害に対して読者を強めまたこれを慰めんとしているからである。
註解: ローマの都には七つの丘あり七丘の都と呼ばれていた、従ってこの獣の七つの頭はローマの七丘を代表し、この獣はローマの都を中心とするローマ帝国を指す、またこの七頭は今一つの意味ありすなわち七人の王を指す(七人の王が何を指示するかにつきては次節註及本章末尾附記を見よ)。すなわち獣がローマ帝国ならばその頭はその王たちである。
17章10節
口語訳 | そのうちの五人はすでに倒れ、ひとりは今おり、もうひとりは、まだきていない。それが来れば、しばらくの間だけおることになっている。 |
塚本訳 | (その中)五人は(既に)倒れ、一人は今(現に)いる。他の(もう)一人はまだ来ていない。来れば(ただ)少しの間(だけ王位に)留まるはずである。 |
前田訳 | その五人は倒れ、ひとりは今おり、もうひとりはまだ来ない。来れば、しばしとどまらねばならない。 |
新共同 | 五人は既に倒れたが、一人は今王の位についている。他の一人は、まだ現れていないが、この王が現れても、位にとどまるのはごく短い期間だけである。 |
NIV | They are also seven kings. Five have fallen, one is, the other has not yet come; but when he does come, he must remain for a little while. |
註解: この場合も七たる数は全体を意味している。ローマの皇帝またはこれに匹敵すべきサタンの部下が過去にもあり現在も存在し、未来にも存するであろうけれどもこの最後の者の存続の期間は「暫時」に過ぎず、如何に彼らが暴威を振うとも、その終りは近付いている。汝ら耐忍ぶべしとの意を含む。第六が現在の王であることの意味は六と七との間に特別の意義を持たしむる他の場合と同様に(すなわち第六の封印と第七の封印との間、および第六のラッパと第七のラッパとの間のごとき)終末が近付いてしかもなお未だ終末に至らざることの表徴である。なおこの七人の王を歴史上におけるローマの諸王の何れにか適用せんとする試みの不当にして困難なることについては附記を見よ、なおヨハネはローマ国およびその皇帝を心に思ひ浮かべつつこれを録したのであるがヨハネの本旨はこれと同一の凡ての事実に適用される原理を指示するにあった。そしてこの原理は永遠に真理であって凡て地上の権力を握って神の民を迫害する凡ての者について適用せられる。
17章11節
口語訳 | 昔はいたが今はいないという獣は、すなわち第八のものであるが、またそれは、かの七人の中のひとりであって、ついには滅びに至るものである。 |
塚本訳 | また以前にいて今いない獣、それが第八(番目)であり、しかも(前の)七つ(の頭)から(出たの)である。そして(遂に)滅亡に(落ち)行く。 |
前田訳 | 前にあって今いない獣も自ら第八であり、七つの頭の出であるが、滅びへと消える。 |
新共同 | 以前いて、今はいない獣は、第八の者で、またそれは先の七人の中の一人なのだが、やがて滅びる。 |
NIV | The beast who once was, and now is not, is an eighth king. He belongs to the seven and is going to his destruction. |
註解: 最後に現わるべき第八の王は 黙13:3。黙17:8 に録される処の獣であって、すでに死してまた復活するとの噂があったネロ帝である。すなわち前の七人の一人であってこれがすなわち非キリストとして最も強くキリストとその信徒らに敵する者である。しかしながらこの最後の敵がついにキリストのために滅ぼされる(黙19:19−21)。ただしネロなる具体的王を代表的に指摘したのであって、実はキリスト者を迫害する権力の復活を意味する。なお第八の王はドミティアヌスであるとしネロとの類似をその理由としている説があるけれども(S3)ヨハネは具体的にこれを指したものとも思えない。
17章12節
口語訳 | あなたの見た十の角は、十人の王のことであって、彼らはまだ国を受けてはいないが、獣と共に、一時だけ王としての権威を受ける。 |
塚本訳 | またお前が見た十の角(というの)は十人の王(のこと)である。彼らはまだ王権を受けていないけれども、獣と共に一時王のような権力を受ける(であろう)。 |
前田訳 | なんじが見た十の角は十の王で、まだ王権を受けなかったが、獣とともに一時、王としての権威を受けよう。 |
新共同 | また、あなたが見た十本の角は、十人の王である。彼らはまだ国を治めていないが、ひとときの間、獣と共に王の権威を受けるであろう。 |
NIV | "The ten horns you saw are ten kings who have not yet received a kingdom, but who for one hour will receive authority as kings along with the beast. |
註解: 世界に暴威を振い、キリスト教徒を迫害しキリストに敵するような王権は必ずしも常に一人に集っているわけではない。例えばローマ帝国のごとくその領土内に皇帝に従属する多くの大名、諸侯があった。彼らは未だローマ国王のごとき権を持たないけれども、獣なるローマ皇帝と共力して王のごとき権威を振う、角は力を意味し、十は人間的完全の数、すなわち人間社会における権力の総体を意味す。
辞解
[十の角] ダニ7:7、ダニ7:24より取つた思想であるけれども内容は全く異なっている。なおこの十の角の何を指すかにつきては(1)小アジアにおけるローマの代官。(2)パルテヤ国の総督たち。(3)ローマ国の将来の未知の連盟国。(4)七人の王以外の三人の王(附記参照)。(5)将来ローマに代わるべき諸王等種々に解せらてているけれども適当ではない。
17章13節
口語訳 | 彼らは心をひとつにしている。そして、自分たちの力と権威とを獣に与える。 |
塚本訳 | 彼らは一つの思いをもって(獣を助け、)自分達の能力と権力とを獣に与える。 |
前田訳 | 彼らの持つ意図はひとつで、力と権威を獣に与える。 |
新共同 | この者どもは、心を一つにしており、自分たちの力と権威を獣にゆだねる。 |
NIV | They have one purpose and will give their power and authority to the beast. |
註解: 十の角をもって代表される諸侯は一致して獣なる非キリストを援助する。すなわち全世界の凡ての権力はみな一致して神とそのキリストとに反対する。そしてついに亡ぼされる(黙19:20)。
辞解
[心] gnômê は(1)知る性能。(2)知つた結果到達せる意見。(3)これを発表せる忠告承諾(ピレ1:14)等を意味す。本節は(2)に相当する。
17章14節
口語訳 | 彼らは小羊に戦いをいどんでくるが、小羊は、主の主、王の王であるから、彼らにうち勝つ。また、小羊と共にいる召された、選ばれた、忠実な者たちも、勝利を得る」。 |
塚本訳 | 彼らは仔羊と戦い、仔羊が彼らに勝ち給うであろう。(彼こそ)主の主、王の王にいまし給うからである。また召されて彼と共にある者、選ばれた者、忠実な者が共に戦い、共に勝つであろう。」 |
前田訳 | 彼らは小羊とともに戦おうが、小羊は彼らに勝とう。小羊は主の主、王の王で、彼とともにあるのは召され、選ばれた真実のものらである」と。 |
新共同 | この者どもは小羊と戦うが、小羊は主の主、王の王だから、彼らに打ち勝つ。小羊と共にいる者、召された者、選ばれた者、忠実な者たちもまた、勝利を収める。」 |
NIV | They will make war against the Lamb, but the Lamb will overcome them because he is Lord of lords and King of kings--and with him will be his called, chosen and faithful followers." |
註解: 御使は十の角の将来の運命をヨハネに示す。黙19:11−21のキリストと非キリストとの最後の戦闘をここに予示し、そして羔羊 の勝利および彼と偕に戦うキリスト者の勝利を予告する。その理由とする所は極めて簡単であって、キリストが諸王の王に在し給うことに帰している。
辞解
[主の主、王の王] 旧約聖書にもしばしば用いられる神の称呼(ダニ2:47。詩136:3。Tテモ6:15)。
[召されたる者] (ロマ1:6。Tコリ1:2等)。
[選ばれたるもの] (ロマ16:13。Tペテ1:2)。
[忠実なるもの] (エペ1:1。コロ1:2)。何れもキリスト者を呼ぶ名称。
[勝を得べし] 原文に無し。省略せられしものと見る。他の語を補允せんとする説あれど不可。なお本節がここに存することを不適当としてこれを除かんとする学者あれど、その理由薄弱なり。
17章15節
口語訳 | 御使はまた、わたしに言った、「あなたの見た水、すなわち、淫婦のすわっている所は、あらゆる民族、群衆、国民、国語である。 |
塚本訳 | すると天使が私に言う、「お前が見た(あの)淫婦の坐っている(多くの)水(というの)は、(諸々の)民と群衆と、国と国語である。 |
前田訳 | 天使はいう、「淫婦がすわるのをなんじが見た水は、民族と群衆と国民と国語である。 |
新共同 | 天使はまた、わたしに言った。「あなたが見た水、あの淫婦が座っている所は、さまざまの民族、群衆、国民、言葉の違う民である。 |
NIV | Then the angel said to me, "The waters you saw, where the prostitute sits, are peoples, multitudes, nations and languages. |
註解: 1節の説明ならびに14節より16節に連絡する鎖。ローマの都は種々の人種、国語、国民の集合よりなるローマ帝国の主都であるのでそれらの上に坐していることとなるわけである。これを水にたとえることについては1節註参照。なおイザ8:7。エレ47:2。
辞解
[民、群衆、国、国語] 黙5:10辞解参照、なお黙7:9。黙10:11。黙11:9。黙13:7。黙14:6(その他ダニ3:4、ダニ3:29。ダニ3:31。ダニ5:19。ダニ6:26。ダニ7:14)みな四つづつ並べられていることに注意すべし。
17章16節 なんぢの
口語訳 | あなたの見た十の角と獣とは、この淫婦を憎み、みじめな者にし、裸にし、彼女の肉を食い、火で焼き尽すであろう。 |
塚本訳 | またお前が見た十の角と、(淫婦を背負っている)獣──彼らが(今度は)淫婦を憎み、彼女を荒れ果てさせ、裸にするであろう。またその肉を喰い、彼女を火で焼くであろう。 |
前田訳 | なんじが見た十の角と、かの獣とは、淫婦を憎み、彼女を荒らし裸にして、その肉を食い、彼女を火で焼こう。 |
新共同 | また、あなたが見た十本の角とあの獣は、この淫婦を憎み、身に着けた物をはぎ取って裸にし、その肉を食い、火で焼き尽くすであろう。 |
NIV | The beast and the ten horns you saw will hate the prostitute. They will bring her to ruin and leave her naked; they will eat her flesh and burn her with fire. |
註解: これまで淫婦を乗せその栄華を自己の誇りとしていた十の角と獣、すなわちローマの王とローマ領内の諸侯とは、従来の同盟者なるその淫婦ローマ市を憎み、これを完き破滅に帰せしめるであろう。18章はその細説である。内乱と反逆とが相続いで起っていた当時のローマ国の状態を目撃しているものは本節の意義を容易に了解したことであろう。またこれは如何なる文化もそれ自身の中より崩壊することの事実を示す。
辞解
[荒涼、裸] ホセ2:3参照。
[肉を喰ふ] 詩27:2参照。何れも悲惨なる状態を表わす。かくしてローマはその支持者讃美者によりて亡ぼされる。その故は次節にこれを示す。
17章17節 (そは)
口語訳 | 神は、御言が成就する時まで、彼らの心の中に、御旨を行い、思いをひとつにし、彼らの支配権を獣に与える思いを持つようにされたからである。 |
塚本訳 | というのは、神が彼らの心を動かしてその御意を行わせ、彼らの思いを一つにして、神の御言が成就するまでは彼らの王権を獣に与えさせ給うたからである。 |
前田訳 | 神は彼らにその意図を行ない、ひとつの意図を行なって、王国を獣に与える心を与えられた。神のことばが成就するまでである。 |
新共同 | 神の言葉が成就するときまで、神は彼らの心を動かして御心を行わせ、彼らが心を一つにして、自分たちの支配権を獣に与えるようにされたからである。 |
NIV | For God has put it into their hearts to accomplish his purpose by agreeing to give the beast their power to rule, until God's words are fulfilled. |
註解: ローマがかくも案外なる途によりて亡ぼされるに至る所以は外ではない、神がこの世の権力を使役してその御旨を行わしめ給うが故である。すなわち十の角なる諸王は自らは意識せずに神に動かされて一致してローマ国王に支配権を与え、ローマの滅亡を企ててこれを実行するに至るというのである。この世の文化、富、権力は結局この世そのものの力によりて崩壊すること今日も同様である。ヨハネは本書によりてこの原理を最も明瞭に示している。
辞解
[思わしめ給ひたればなり] 「彼らの心に与え給えるが故なり」で前節の事実が実現する時より見て過去となる。
[御旨、心] 同一文字 gnômê でローマ滅亡に対する心持を示す。
[神の言の成就] 黙19:19以下にイエスの完全なる勝利あり。これによりて獣は亡ぼされるに至る。ローマを滅ぼすものがローマ自身であることは深い真理を含む、歴史もまたこれを実証する。文化は人間がこれを滅ぼす、しかしこの人間を支配するサタンはキリストこれを滅ぼし給う。
17章18節 なんぢの
口語訳 | あなたの見たかの女は、地の王たちを支配する大いなる都のことである」。 |
塚本訳 | そしてお前が見たあの女こそ、地の王達の上に王権を有つ大なる都(バビロン)である。」 |
前田訳 | なんじが見た女は地の王たちの上に王権を持つ大都市である」と。 |
新共同 | あなたが見た女とは、地上の王たちを支配しているあの大きな都のことである。」 |
NIV | The woman you saw is the great city that rules over the kings of the earth." |
註解: これはバビロンでありまたローマである。しかしながら同時にまた凡ての大都市、大国家の中心都市はこれと同一の運命に遭わなければならない。このことは事実として歴史がこれを裏書している。
要義1 [この世の権力とこの世の文化]第17章においてヨハネはこの世の権力とその文化との関係について極めて意義ある解釈を与えている。ヨハネによれば、この世の富、栄華、交通、商工業、科学、芸術等凡ての文化は一国の主都たる大都市に集中し、サタンの代表者たる地上の権を示す獣に乗っているとのことである。すなわち文化は都市においてその花を開き国家的権力を利用してその最高潮に達し、その華美を誇る。そしてこの世の文化は結局においてこの世の権力と淫を行い、神とその民とを迫害する。そしてこの世の権力たる獣もまた、大淫婦たる文化都市をその飾りとしてその権力行使の舞台とするというのである。
しかしながらついにはその大都市とその文化は地上の権力そのものによリて滅ぼされるに至るとのことである。そしてこれ神の経綸によることであって、神は往々にしてその敵を使役して御自身の経綸を実行し給う。神の御旨である場合、世界文化の粋を集めた大都市さえも一朝にして滅亡に帰してしまう。
要義2 [地上の権力とその運命]七つの頭と十の角を持てる獣はサタンよりその能力と座位と権威とを与えられたる地上の権力者である(黙13:1−2)。地上の権力者はことごとくサタンの僕であるというのではない (黙21:24。ロマ13:1-2) 。しかしながらローマ皇帝のごとくに神を涜 し、キリスト者を迫害する者は、明かにサタンの僕であり、そして事実この世の権力者の多くは神に事 えずしてサタンに事 える。ヨハネはその代表的たるものとしてローマの国権とその国王とを眼中に置いて本章を録したのである。そしてサタンの僕たる地上の権力者は七人の王であって完全数であり、如何なる世にも存在する。そして一時はその迫害の手が弛むごとくであっても再びそれが復活する。ゆえにキリスト来りてサタンとその僕たる国権とを滅ぼし給うまでは(黙19:19−20)絶ゆることが無い。
サタンの僕たる獣は七人の王であるのみならずまた十人の王として活躍する。ローマ帝国の実状よリ着想を得たものと思われる。かくしてサタンの僕たる全権力は、文化の擁護者であると同時にその破壊者であり、そして彼ら自身は遂にキリストの軍勢のために滅ぼされる。このヨハネの解釈が恐らく文化史論として最も深い理解を有つものというべきであろう。
附記 [七つの頭とローマ皇帝との関係]黙13:3および黙17:11等よリ「前にあって今あらず後又来るべき獣」の頭の一つは、当時ネロ帝がすでに殺されているけれども復活して再びローマを攻めんとするとの風説があったのを利用したものと思われる。しかしながらこれを強いてネロその人を指すと解する必要が無く、キリストおよびその弟子を迫害するこの世の力は、一旦死ねるがごとくに見えてまた盛返すことを表徴したものとも見ることを得。かつ非キリストは凡てにおいてキリストと正反対であり、キリストが屠られてまた甦り給いしと同じく獣の頭の一つも死ぬるばかりにしてまた甦ったものとして描かれたものとも解することができる。
多くの学者は七つの頭をローマの皇帝の七代に当はめんと努力する。しかしながらこの試みは非常なる困難を伴い結局成功しない。その理由は
(1)ローマの第一代皇帝をケーザルとするかアウグストゥスとするかにつき決定し難い。
(2)極めて短期間皇位にあり、普通皇帝として数えられざるガルバ、オソー、ヴィテリウスを数の中に入るべきか否かにつきても説が分れる。
以上の二つを組合せて下の四つの数え方が生れる。
皇帝名 年代 T U V W ケーザル 〜30 1 1 アウグストゥス 30 - 14 2 2 1 1 チベリウス 14 - 37 3 3 2 2 カリグラ 37 - 41 4 4 3 3 クラウディウス 41 - 54 5 5 4 4 ネロ 54 - 68 6 6 5 5 ガルバ 68 - 69 7 6 オーソー 68 - 69 8 7 ヴィテリウス 69 - 69 8 ヴェスパシアヌス 69 - 79 7 6 ティトゥス 79 - 81 8 7 ドミティアヌス 81 - 96 8
黙17:10によれば五人はすでに倒れ現在の皇帝は第六代であることとなる。然るに第六代はI、IIによればネ口でありVによればガルバでありWによるもヴェスパシアヌスとなる。然るに黙示録の録されたのは緒言にも述べた通りドミティアヌスの時代と見ることが最も適当している故この四つの計算法の何れとも適合しない(I、IIにより本書をネロ帝時代の作とする説がある)。
要するに七つの頭をローマの七人の王に当てはめんとせる凡ての試みは必ず何らかの欠点がこれに伴う故に成功しない。結局この七人の王も表徴的に見るべきであって、地上の王を示す完全数と見るべく、現在が第六代であるとの意味も、第六の封印第六のラッパ等と同じく、最後のものが未だ現わされざることを意味したものと解すべきであろう。マンダ教の神話がこれに類似しているとしこれによりて説明せんとする試みも結局無意義に終るであろう(ローマイヤー)。要するにヨハネをしてこの記述をなさしめた原因はローマの七丘や、ネロ帝に関する風説等であったとしても、ヨハネはあくまでも全体の表徴的構成に重きを置いたものと解すべきであろう。