黙示録第12章
分類
3 この世の審判と救
4:1 - 18:24
3-(3) 第七のラッパ
11:14 - 18:24
3-(3)-(第五挿景) サタンと教会
12:1 - 12:18
3-(3)-(第五挿景)-(a) 地上の教会の成立とサタン
12:1 - 12:6
註解: 1−6節に録される女とその男子の表徴は極めて難解である。一般に女はマリヤ、男子は第5節よりキリスト・イエスと解せられているけれども、本書においては(1)キリストは屠られ給える
羔羊 として既存の事実であり、今更ここに生れ給うはずがなく、また(2)キリストは天上に生れて直ちに神の御座の下に挙げられ給うたのではなく、一旦地上に下り、死して甦りて後天に挙げられ給うたのであり、(3)本書においてキリストは常に神と御座を共にし給うように記されその下に(「前に」5節)あるように録されていない (黙5:6。黙7:9。黙22:1、黙22:3) 。それ故にこの男子はキリストをもって代表される神の国の子らを意味し、これを生む女は旧新約を貫く霊の神の国(教会もその一つの相)であり、その子らは世の創めの先よりキリストの中に選ばれ(エペ1:4)キリストと共に神の中に隠れ在る生命(コロ3:3)であると見るを可とす。あたかも黙11:6にモーセとエリヤとを連想せしむる二つの人物をもって一般の「証人」を代表せしめしと同じく、ここにキリストを連想せしむる人物をもって一般の神の子らを代表せしめ、神の子らとサタンとの戦を記載したものであると解する。すなわちサタンはその本質として神の子らを嫌いこれに敵対するものである。その事実が地上にあらわれたのが現在の教会の姿であることを記述せんがためにヨハネはまず天上におけるサタンと神の子との関係を原理的に示したのが1−6節である。なおこの表徴が如何なる資料によるかにつきて博学なる学者たちはエルサレム、ギリシャ、バビロニヤ、ペルシャ、エジプト等の神話を引用して、これと関連せしめんとしているけれども、何れも適切ではない。もしこの部分を上記のごとくに解するならば、キリスト教の一般的観念より自然に創造し得る表徴であって、他にその資料を求める必要はない。従来このキリストを一つの原理と見ずキリスト御自身と見んとしたことが多くの困難の原因であった。
12章1節 また
口語訳 | また、大いなるしるしが天に現れた。ひとりの女が太陽を着て、足の下に月を踏み、その頭に十二の星の冠をかぶっていた。 |
塚本訳 | また大きな徴が天に顕れた──太陽を着た(一人の)女が、足の下には月を足台とし、頭には十二の星の冠を戴いていた。 |
前田訳 | そして天に大きな徴が見えた。それは太陽を着た女で、月はその足もとにあり、その頭には十二の星の冠をいただき、 |
新共同 | また、天に大きなしるしが現れた。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた。 |
NIV | A great and wondrous sign appeared in heaven: a woman clothed with the sun, with the moon under her feet and a crown of twelve stars on her head. |
註解: この女は神の国の天における姿を表徴する。すなわちイスラエルおよび教会を一貫せる神の支配の天における姿である。これが地上に実現せるものがイスラエルでありまた教会である。神の国の天における姿の如何に壮大無比なるかを見よ。この一節は難解にして種々に説明せられているけれども、ここにかく解する所以は(1)それが天にあること、(2)日を着、月を足の下に踏むことによりて天における最高の地位を占むることを示し、(3)十二の星は十二なる神の国の数(緒言参照)に因 み、十二支族十二使徒を連想せしめ、(4)そしてこの女がキリストをもって表徴される神の国の民の母なるが故である(5節)。これを主イエスの母マリヤと解することは後の13−18節に差支えを生ずる。
12章2節 かれは
口語訳 | この女は子を宿しており、産みの苦しみと悩みとのために、泣き叫んでいた。 |
塚本訳 | そして懐妊していて、子を産もうとする痛みと苦しみのために(大声に)叫んでいる。 |
前田訳 | 身ごもっていて、生みの痛みと苦しみで叫んでいる。 |
新共同 | 女は身ごもっていたが、子を産む痛みと苦しみのため叫んでいた。 |
NIV | She was pregnant and cried out in pain as she was about to give birth. |
註解: この子は5節の男子を指しメシヤをもって表徴されるキリスト者を意味する。なお5節参照。神の子が生れるがためには天に大なる苦悩がある。そはサタンに対する神の戦の開始であるから。信仰の復興を出産の苦痛に譬えし例は多くある(ミカ4:10。ヨハ16:21。ガラ4:19)。
12章3節 また
口語訳 | また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、大きな、赤い龍がいた。それに七つの頭と十の角とがあり、その頭に七つの冠をかぶっていた。 |
塚本訳 | するともう一つ(他)の徴が天に顕れた。そして視よ、大きな赤い竜が七つの頭と十の角を有ち、その頭には七つの冠があった。 |
前田訳 | もうひとつの徴が天に見えた。見よ、火のように赤い大きな竜で、七つの頭と十の角を持ち、頭には七つの王冠をいただいている。 |
新共同 | また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、火のように赤い大きな竜である。これには七つの頭と十本の角があって、その頭に七つの冠をかぶっていた。 |
NIV | Then another sign appeared in heaven: an enormous red dragon with seven heads and ten horns and seven crowns on his heads. |
註解: この龍はかつてアダムとエバとを誘えるサタンであり(創3:1)、また悪魔 Diabolos または古き蛇 (黙12:9。黙20:2) と称えられ神の敵であり、従って神の国の破壊者、神の民の迫害者である。その形は「大」にして天地に充ち、その色は火のごとく「赤」くして罪の色をなし、「七つの頭」はその智慧の完きことを示し、「十の角」はその力の強きことを示す、七つの王冠は彼が「この世の君」たることを示す。
辞解
[冠冕 ] diadêma は1節の冠冕 stephanos と異なる。前者は王の着する王冠であり後者は勝利の栄冠である。本節および 黙13:1。黙19:12 の場合はこれを王冠と訳して区別すべきである。
[赤] 血の色で殺人を意味す(ヨハ8:44)と解することもでき、また緋の色のごとく罪を示すとも見ることができる(イザ1:18)。
12章4節 その
口語訳 | その尾は天の星の三分の一を掃き寄せ、それらを地に投げ落した。龍は子を産もうとしている女の前に立ち、生れたなら、その子を食い尽そうとかまえていた。 |
塚本訳 | またその尾は天の星の三分の一を引き摺って、それを地に(投げ)落とした。竜は子を産もうとしている女の前に立ち、子を産んだならば(直に)その子を食い尽くそうとして(待ち構えて)いた。 |
前田訳 | その尾は天の星の三分の一を引きずり、それらを地上に投げた。竜は生もうとしている女の前に立った。生むときその子を飲み込むためである。 |
新共同 | 竜の尾は、天の星の三分の一を掃き寄せて、地上に投げつけた。そして、竜は子を産もうとしている女の前に立ちはだかり、産んだら、その子を食べてしまおうとしていた。 |
NIV | His tail swept a third of the stars out of the sky and flung them to the earth. The dragon stood in front of the woman who was about to give birth, so that he might devour her child the moment it was born. |
註解: サタンの力の偉大なることを示す。神の力にも比すべきほどである(黙8:12。ダニ8:10参照)。
註解: 女の生まんとするものは神の子である、そしてサタンは神の子を嫌いこれを迫害する。従って神がその国の民たらしめんとして産まんとする神の子らはサタンの攻撃の的である。そしてこの攻撃は最も強くキリストに向けられたことは勿論である(マタ2:23要義1参照)。
12章5節
口語訳 | 女は男の子を産んだが、彼は鉄のつえをもってすべての国民を治めるべき者である。この子は、神のみもとに、その御座のところに、引き上げられた。 |
塚本訳 | 彼女は(遂に子を)──鉄の杖を以て凡ての国民を牧すべき男の子を産んだ。するとその子は(竜が手出しをする前に、)神の御許に、その御座の許に挙げられた。 |
前田訳 | 彼女は男の子を生んだ。その子はすべての民を鉄の杖で牧しよう。その子は神のところ、王座のところへと移された。 |
新共同 | 女は男の子を産んだ。この子は、鉄の杖ですべての国民を治めることになっていた。子は神のもとへ、その玉座へ引き上げられた。 |
NIV | She gave birth to a son, a male child, who will rule all the nations with an iron scepter. And her child was snatched up to God and to his throne. |
註解: 「鉄の杖を以て諸種の国人を治むる」ことはユダヤ人がメシヤに関して期待している思想であった。この意味において詩2:9はメシヤの預言と見られていた。ゆえに本節はまず第一にキリストに当てはまる(黙19:15参照)。しかしながらこの思想はまた一般キリスト者が神の国を嗣ぐ場合にも適用される処であって(黙2:27)、本節の場合は直接にキリストを指すのではなく、キリストの姿を例として一般にキリスト者に関する原理を指したるものと解するを可とす。すなわちサタンは天にありて神の子に対して迫害を加えんとしていることと、サタンが如何に本質的に神の子を憎むかを示す。黙11:3(参照箇所との連携が不明であるが原典のまま記す:編者)の場合も同様なり(同節註参照)。
辞解
[男子] huios と arsen なる二語を重複せしめて意味を強めている(エレ20:15)。
[鉄の杖] 力を示す、征服者の被征服者に臨む態度。
[諸種の国人] メシヤの来臨によりてユダヤ人は凡ての異邦人を支配することの確信を持っていた。
かれは
註解: この男子をキリストと見る場合は、その受難も十字架の死も復活もなく、またすでに神の御座の前に坐し給うキリスト(黙5:6)と重複することとなる。ゆえにこれは神の子らの生命は神の特別の守護の下にありすでにキリストと共に神の許 に隠れていて (エペ1:3。エペ2:6。コロ3:3) サタンの攻撃に対して安全であることを示すものと解すべきである。すなわちキリストに類似せる一表徴をもって神の子たちの本質を示したのである。
口語訳 | 女は荒野へ逃げて行った。そこには、彼女が千二百六十日のあいだ養われるように、神の用意された場所があった。 |
塚本訳 | またその女は(竜を)逃げて荒野に行った。──其処には千二百六十日の間彼女を其処で養うために、神の備え給うた場所がある。 |
前田訳 | 女は荒野へ逃れた。そこに千二百六十日の間養われるよう神から備えられた場所がある。 |
新共同 | 女は荒れ野へ逃げ込んだ。そこには、この女が千二百六十日の間養われるように、神の用意された場所があった。 |
NIV | The woman fled into the desert to a place prepared for her by God, where she might be taken care of for 1,260 days. |
註解: 神の子の生命は神の御座の下にあるにもかかわらず、神の子を産む母体たる神の国、神の教会自らは、この世の荒野にさまよわなければならない。これは一層強くサタンに迫害されんがためである。キリストの荒野の試誘 を見よ。そしてこの世はその中に快楽と罪が充ちており、神の民に対しては全くの荒野でありその中に霊の養となるべきものがない。あたかもイスラエルにとりての四十年の荒野の生活のごときものである。
註解: 霊のイスラエル、神の教会はあたかも荒野の中のイスラエルのごとく、荒野の中においても神これを養い給う。神かかる場所を備え給うが故に少しも心配はない。その期間は千二百六十日すなわち三年半で不完全なる一定期間を意味し、また教会が地上において苦しむべき期間に等しい(黙12:14。黙13:5)。ダニ7:25。
辞解
[千二百六十日] 一ケ月を三十日として計算せる三年半である。七年の半分すなわち完全数の半分である(黙11:3参照)。
要義1 [神の国と教会]天国または神の国という名称の示すがごとく、この国(すなわち神の支配)は天地を貫ける一つの事実であることに充分の注意を向けることが必要である。神の御旨の中には神の国はすでに存在し、天においてキリストの中に選ばれし神の民は、この神の国の民たるべく選ばれ預言されているのである。神の選民たる神のイスラエルまたは霊のイスラエルはこれである (ガラ6:16。ロマ2:28-29) 。そしてこの霊のイスラエルの何たるかを知らしめんために、神はアブラハムとその子孫を特に選び別ち給い、そして後にイエスによリ贖われし教会をその花嫁として聖別し給うた。これらの神の国の民は、その天にある生命についていえば栄光の教会であり、その地上における地位よりいえば荒野における戦闘の教会である。何れも神の国の一つの姿であるということができる。
要義2 [荒野における教会]神はその教会を荒野に逐いやり、そこに隠家を備え給うた。これ神を目の当りに見ることなく、唯信仰によりて神につらなり、これによリて荒野の苦難の試練に耐え、サタンの試誘 に打勝つことを学ばしめんがためであった。荒野の苦難と試誘 は信仰の必要なる道場である。かくしてサタンは天において神の子を迫害することによりて、教会を荒野に逐いやり彼女をして益々苦難と試練に耐うる力を養わしめ、遂にサタンは如何にしても教会に打勝つことを得ざるに至らしめられ、かくしてサタンの計画は全く破壊されるに至ったのである。そこにも神の経綸の驚くべき深さがあらわれているのである。
12章7節
口語訳 | さて、天では戦いが起った。ミカエルとその御使たちとが、龍と戦ったのである。龍もその使たちも応戦したが、 |
塚本訳 | すると天に戦闘が起こって、(天使の首なる)ミカエルとその使い達が竜と戦った。そして竜もその使い達も(一所にこれに対して)戦ったけれども、 |
前田訳 | そして天に戦いがおこり、ミカエルとその天使たちが竜と戦おうと現われた。竜とその使いたちは戦いはじめた。 |
新共同 | さて、天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが、竜に戦いを挑んだのである。竜とその使いたちも応戦したが、 |
NIV | And there was war in heaven. Michael and his angels fought against the dragon, and the dragon and his angels fought back. |
12章8節
口語訳 | 勝てなかった。そして、もはや天には彼らのおる所がなくなった。 |
塚本訳 | 勝つことが出来なかった。そして最早天には彼らの(いる)場所が無くなった。 |
前田訳 | しかし力足らず、天にはもう彼らの場所がなかった。 |
新共同 | 勝てなかった。そして、もはや天には彼らの居場所がなくなった。 |
NIV | But he was not strong enough, and they lost their place in heaven. |
註解: サタンは神の子を殺さんとしてその目的を達せざりしが、なお神に敵対することをやめず、天において神の子らを襲撃せんとしたので、神の御使の主座を占むるミカエルは天使の軍を率いて龍と戦い、龍はついに敗れて天にその居所を失った。
辞解
[ミカエル] イスラエルの守護の天使で(ダニ10:21。ダニ12:1)最も重きをなす御使である。7節は文法的に難解であるが意味は改訳に異なる処はない。本節のサタンの反逆は種々に解せられているけれども上述のごとくに解するを可とす。エデンの園におけるサタンの反逆ではなく、また天をもって教会を意味すと見ることも誤っている。
12章9節 かの
口語訳 | この巨大な龍、すなわち、悪魔とか、サタンとか呼ばれ、全世界を惑わす年を経たへびは、地に投げ落され、その使たちも、もろともに投げ落された。 |
塚本訳 | かくて(この)大きな竜は(天から)落とされた──(昔エバを惑わしたあの)旧い蛇、悪魔またサタンと呼ばれ、全世界を惑わす者は、地に(叩き)落とされた。その使い達もまた彼と共に落とされた。 |
前田訳 | 大きな竜は投げられ、悪魔またサタンと呼ばれ、全世界を惑わす古い蛇は地に投げられ、その使いたちももろともであった。 |
新共同 | この巨大な竜、年を経た蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれるもの、全人類を惑わす者は、投げ落とされた。地上に投げ落とされたのである。その使いたちも、もろともに投げ落とされた。 |
NIV | The great dragon was hurled down--that ancient serpent called the devil, or Satan, who leads the whole world astray. He was hurled to the earth, and his angels with him. |
註解: 天におけるサタンの襲撃のために教会は荒野なる地上に逃れた。然るにサタンはその後も天において神の国なる天の教会の生める神の子を迫害せんとして神に敵対し、天において戦争となったことは前節の録す処であった。そしてサタンは敗れ天より地に落されてついに地上における神の国なる教会を迫害することとなるのである。サタンについてはマタ4:11要義1参照。旧約時代に比し新約時代においてサタンの働きが著しくなって来たことは事実である。これ一方に神の国が地上に実現したためであって、光のある処暗黒が益々深まると同様、教会が地上に来りてサタンもまた地上にその暴威を振うに至ったのである。
辞解
[サタン] ヘブル語で本来「敵」を意味す、人格的名称としては十九回(ヨブ記に多く用いられその他ゼカ3:1等)、「敵」または「敵す」る意味において十四回用いられている。ギリシャ語においてもこの音のままにこれを用い、新約聖書においては二十四回何れも人格的意味において用いられていることは著しい事実である。
[悪魔] diabolos はギリシャ語でサタンと同義に用いらる。
[古き蛇] 創3:1以下の物語にある蛇はサタンの代表である。サタンは昔から今日に至るまでその活動を止めない。
[地に落さる] ルカ10:18。ヨハ12:31 参照。活動の場所が変更したものと見られたのである。聖霊もキリストの昇天と共に地上に降り(ヨハ14:16)そこに聖霊とサタンとの戦が今も行われている。
[まどわす] Uコリ2:11。Uコリ11:3。Tテモ2:14 および引照の箇所参照。
12章10節
口語訳 | その時わたしは、大きな声が天でこう言うのを聞いた、「今や、われらの神の救と力と国と、神のキリストの権威とは、現れた。われらの兄弟らを訴える者、夜昼われらの神のみまえで彼らを訴える者は、投げ落された。 |
塚本訳 | すると大きな声が天で(こう)言うのを私は聞いた──今や我らの神の救いと権能と王国と、そのキリストの権力とは来た。われらの兄弟達を訴うる者、昼も夜も彼らを神の前に訴うる者が(地に)落とされたからである。 |
前田訳 | そしてわたしは天に大きな声を聞いた。いわく−− 「今や成る、われらの神の救いと力と王権と、そのキリストの権威とが。われらの兄弟の訴え手、彼らを、日夜、神の前に訴えるものが投げられたから。 |
新共同 | わたしは、天で大きな声が次のように言うのを、聞いた。「今や、我々の神の救いと力と支配が現れた。神のメシアの権威が現れた。我々の兄弟たちを告発する者、/昼も夜も我々の神の御前で彼らを告発する者が、/投げ落とされたからである。 |
NIV | Then I heard a loud voice in heaven say: "Now have come the salvation and the power and the kingdom of our God, and the authority of his Christ. For the accuser of our brothers, who accuses them before our God day and night, has been hurled down. |
註解: 天上において神の国は既に完成しキリストの権威は確立した。その故はサタン地上に投落されたからである。「救」と「能力」と「国」(支配を意味す)とは神の働きの三方面で人および万物に及ぶ。
辞解
[神のキリスト] 「神の受膏者」イエス・キリストを指す。
[訴ふるもの] 現在分詞形で訴うることをその仕事とするものを意味す。
[訴うる] 悪しざまに言うこと。サタンを指すことは勿論である(ヨブ1章参照)。
12章11節
口語訳 | 兄弟たちは、小羊の血と彼らのあかしの言葉とによって、彼にうち勝ち、死に至るまでもそのいのちを惜しまなかった。 |
塚本訳 | (然り、今や)彼ら(兄弟達)は仔羊の血により、また彼らの(立てた)証明の言によって、彼に勝ったのである。──彼らは死に至るまで(羊のために戦い、少しも)自分の生命を愛しなかった。 |
前田訳 | 兄弟は小羊の血によって、また彼らの証のことばによって彼に勝ち、おのがいのちをおしまずに、死に至った。 |
新共同 | 兄弟たちは、小羊の血と/自分たちの証しの言葉とで、/彼に打ち勝った。彼らは、死に至るまで命を惜しまなかった。 |
NIV | They overcame him by the blood of the Lamb and by the word of their testimony; they did not love their lives so much as to shrink from death. |
註解: すでに死してその霊が神の御許にある聖徒たちにつきてその勝利を歌っている。すなわち彼らは(兄弟たちは)二つの原因によりて勝利を得た、その一はキリストの十字架の贖罪の血で(黙7:14)この血によりて、人類の罪は贖われ、死は滅ぼされ、サタンはその働き場所を失い、敗北に帰した。その二は兄弟たちの証の言、すなわち自ら人の前にその信仰を告白したことによりサタンの弟子にあらざることを明かにした、彼らはかくして勝利を得、死に至るまで、その生命を惜まなかった。己が救い主のためにその生命を棄ててかかったのである。かくして天において神とキリストとそして兄弟たちとの全体の勝利の凱歌が奏でられたのである(10、11節)。
辞解
[惜む] 「愛する」で「勝つ」と共に不定過去形を用いている、恐らくその全生涯を一つのものとして見たる表顕法であろう。
12章12節 この
口語訳 | それゆえに、天とその中に住む者たちよ、大いに喜べ。しかし、地と海よ、おまえたちはわざわいである。悪魔が、自分の時が短いのを知り、激しい怒りをもって、おまえたちのところに下ってきたからである」。 |
塚本訳 | この故に、喜べ、天とその中に住む者達!(しかし)禍なる哉、地と海!悪魔が時の迫ったことを知り、大なる憤怒をもってお前達の所に下り(て行っ)たからである。 |
前田訳 | このゆえによろこべ、天とそこに住むものよ。わざわいなのは地と海。悪魔がなんじらのところに下り、余命いくばくもないと知って怒り狂っているから」と。 |
新共同 | このゆえに、もろもろの天と、/その中に住む者たちよ、喜べ。地と海とは不幸である。悪魔は怒りに燃えて、/お前たちのところへ降って行った。残された時が少ないのを知ったからである。」 |
NIV | Therefore rejoice, you heavens and you who dwell in them! But woe to the earth and the sea, because the devil has gone down to you! He is filled with fury, because he knows that his time is short." |
註解: サタンが地上に落されてより天と地との間に大なる差異が起った、地上の教会は苦しまなければならない。
辞解
[天に住めるもの] 「住むもの」と訳すべきである。skênoô「幕屋を張る」 (黙7:15。黙13:6) なる文字を用いたのはUコリ5:1のごとくに一時的住居の意味ではなく本書においては神の国を神の幕屋と見ているので(黙21:3)この文字を用う。それ故に「地に住むもの」に用いられている katoikeô とは異なる意義に用いられている。「天に住むもの」は天使なりとの解あれど(S3、H0、ブーセット)、前後の関係および黙13:6よりやはり天にある聖徒(黙7:9以下)と解すべきである。「地に住むもの」に対する意味においては凡てのキリスト者は霊的意味において天に住むものと称することを得。
[地と海] 全世界を指す、かつ次章の二つの獣と関連す(黙13:1、黙13:11)。
[おのが時の暫時なるを知り] サタンが地上よりさらに深き「底なき所」、また進んで「火と硫黄との池」に投入れられる時が近付いたことを知ったから(黙20:3、黙20:10)。
[大なる憤恚 ] この憤恚 をキリストの教会に向けて晴らさんとするのがサタンの活動である。13章の光景がそれである。
12章13節
口語訳 | 龍は、自分が地上に投げ落されたと知ると、男子を産んだ女を追いかけた。 |
塚本訳 | かくて竜は自分が地に落とされたのを見た時、男の子を産んだ(かの)女を迫害した。 |
前田訳 | 竜は地に投げられたと知ると、男の子を生んだ女を迫害した。 |
新共同 | 竜は、自分が地上へ投げ落とされたと分かると、男の子を産んだ女の後を追った。 |
NIV | When the dragon saw that he had been hurled to the earth, he pursued the woman who had given birth to the male child. |
12章14節
口語訳 | しかし、女は自分の場所である荒野に飛んで行くために、大きなわしの二つの翼を与えられた。そしてそこでへびからのがれて、一年、二年、また、半年の間、養われることになっていた。 |
塚本訳 | すると女に大鷲の両の翼が与えられた。荒野にある(神の予め備え給うた)彼女の場所に飛んで行って、其処で蛇の顔を避けて一年と二年とまた半年の間養われるためであった。 |
前田訳 | そして女に大鷲のふたつの翼が与えられた。荒野の彼女の場所へと飛ぶためである。そこで彼女は蛇をのがれて三年半養われる。 |
新共同 | しかし、女には大きな鷲の翼が二つ与えられた。荒れ野にある自分の場所へ飛んで行くためである。女はここで、蛇から逃れて、一年、その後二年、またその後半年の間、養われることになっていた。 |
NIV | The woman was given the two wings of a great eagle, so that she might fly to the place prepared for her in the desert, where she would be taken care of for a time, times and half a time, out of the serpent's reach. |
註解: 男子を生みし女なる神の国は地上に逃れてそこに寄寓することとなった。サタンはその全力を挙げてこの教会を迫害することを始めた。しかしながらエホバはイスラエルをその翼をもって保護し給いしごとく(出19:4。申32:11。イザ40:31)、教会は自ら飛ぶ両翼を与えられて、そのおるべき荒野に飛び去り、蛇の前を離れ、蛇よりの害を被らずにいることができた。この状況は今日に至っている。すなわちたとえ教会に対するサタンの迫害は絶えることなく、また教会の中の個々の信徒(裔の残れるもの、17節)はその迫害を被ったけれども、神の教会は今日に至るまで、荒野の中に神より養われているのである。その期間は三年半、すなわちある有限の期間であって必ず終る時がある。この終る時はサタンが亡ぼされて教会が完全なる勝利と栄光とに達する時である。
辞解
[一年、二年、また半年] 「一期、二期、また半期」で、ダニ7:25。ダニ12:7と同語、意味は改訳と同一で四十二ケ月(黙11:2。黙13:5)も千二百六十日(黙11:3。黙12:6)も同じ期間である。聖徒が敵に迫害される期間。
12章15節
口語訳 | へびは女の後に水を川のように、口から吐き出して、女をおし流そうとした。 |
塚本訳 | 蛇はその口から(大)河のような水を女の後に吐き出して、彼女を浚おうとしたけれども、 |
前田訳 | 蛇は女を溺れさせようと、口から女の背へ川のように水を吐いた。 |
新共同 | 蛇は、口から川のように水を女の後ろに吐き出して、女を押し流そうとした。 |
NIV | Then from his mouth the serpent spewed water like a river, to overtake the woman and sweep her away with the torrent. |
12章16節
口語訳 | しかし、地は女を助けた。すなわち、地はその口を開いて、龍が口から吐き出した川を飲みほした。 |
塚本訳 | 地が女を助け、地がその口を開けて、竜の口から吐き出した河(の水)を(悉く)飲み干した。 |
前田訳 | すると地が女を助けた。地は口を開いて、竜がその口から吐いた川を飲み干した。 |
新共同 | しかし、大地は女を助け、口を開けて、竜が口から吐き出した川を飲み干した。 |
NIV | But the earth helped the woman by opening its mouth and swallowing the river that the dragon had spewed out of his mouth. |
註解: サタンは全世界の「諸々の民、群衆、国、国語」すなわち全世界の国民を総動員することによりて教会を滅亡せしめんとするけれども、不思議にも地は教会を助け、諸国民を呑み尽し、諸国民が滅びて教会は永続している。この事実は16−18章の審判においてあらわれているけれども、本書が録されし当時はなお充分に事実とならなかった。今日よりこれを見ればこれは偉大なる預言であったことが判る。従ってこれはローマ軍、ユダヤ民族、またはローマ政府の迫害等のごとき特定の事実のみを指したとする解釈の不適当であることは勿論である。
辞解
[「水」また「川」] これの何たるかにつきては古来種々の解釈あり、また 詩18:4。詩32:6。詩124:4 以下等に悪の力を大水にたとえし場合あれど本節は黙17:15により上記のごとくに解した。なお審判の力強さを水にたとえた場合もある(黙1:15。黙14:2。黙19:6。ホセ5:10)。
12章17節
口語訳 | 龍は、女に対して怒りを発し、女の残りの子ら、すなわち、神の戒めを守り、イエスのあかしを持っている者たちに対して、戦いをいどむために、出て行った。 |
塚本訳 | そこで竜は女を怒り、彼女の裔の残っている者、すなわち神の戒律を守り、イエスの証明を有っている者達と戦闘をするために出て行った。 |
前田訳 | 竜は女を怒り、彼女の末の残りと戦いをするために出て行った。彼らは神のおきてを守り、イエスの証を持っている。 |
新共同 | 竜は女に対して激しく怒り、その子孫の残りの者たち、すなわち、神の掟を守り、イエスの証しを守りとおしている者たちと戦おうとして出て行った。 |
NIV | Then the dragon was enraged at the woman and went off to make war against the rest of her offspring--those who obey God's commandments and hold to the testimony of Jesus. |
口語訳 | そして、海の砂の上に立った。 |
塚本訳 | 彼は海の砂の上に立った。 |
前田訳 | 竜は海の砂浜に立った。 |
新共同 | そして、竜は海辺の砂の上に立った。 |
NIV |
註解: サタンは終りまで神に敵せずにいることができない、始めに男子を責め、次に、女を責め、何れも失敗して遂に女の裔の残れるものと戦闘を挑まんとするのである。而して彼は一時女の裔に勝つに至るのである (黙13:7、黙13:15) 。この残れるものとはキリスト者を意味することは、それが神の誡命を守りイエスに対する信仰を証する者なることをもって知ることを得、龍は海辺の砂の上に立ちてまさに現れんとする二つの獣を見守るがごとき貌である。
辞解
[女の裔 ] 創3:15より取りたるもの、キリストの預言であると同時にキリストに属する凡ての者を指すと解することができる。キリストは凡ての兄弟の嫡子に在し(ロマ8:29)教会はその母である(ガラ4:26)。
[立てり] 異本に「我立てり」とあり。この方劣っている。
要義1 [教会の成立およびその性質]本章より教会の性質を推論すれば(1)教会と霊的神の国とは本来同一物である。その故は本章の女はイスラエルではないことは、それが天上に在ること(1節)とその裔がイエスの証を有つこと(17節)とをもってこれを知ることができ、また彼女が地上の教会のみを指さないことは、それがメシヤの母であること(5節)よりこれを知ることができる。(2)教会はサタンが天において神の国と神の子を甚だしく嫌い、神の子を襲撃せる結果、霊的神の国が地上に逃れて成立するに至ったものと見られている(6節)、すなわち霊的神の国の一つの態様である。パウロが教会をもって新たに啓示せられし奥義であると言ったのもこの意味である(エペ3:4−6)。(3)神の国および教会の生める子らはメシヤすなわちキリストを始めとしてみな天に住み、サタンの襲撃より安全に保護せられ(5節、10−12節)、教会のみサタンの迫害の中に残される。(4)しかしながら遂にはサタンとその使たちは凡て審かれ教会はその子らなる聖徒よりなる新しきエルサレムとして天より降りキリストの花嫁となる(黙21:9)。
要義2 [サタンの活動]旧約時代におけるサタンの活動は徴々たるものであった。始めにアダムとエバとを誘えることは著しき事実であるがその後ヨブを誘えること以外にはサタンとしての活動は極めて少い(サターンなる文字は「敵」なる意味において用いられていることはマタ4:11要義1参照)。然るに新約時代に至りてその活動が著しく強くなったことは注意を要することであって、サタンはまずイエスを誘い、その後凡ての聖徒を誘いまた苦しめることを止めない。これを本書においてヨハネはサタンが天より地上に落され専ら地上において活動しつつあるものと解したのである。この解釈は最も当を得たものであって、聖霊が地上に降り給いて (ヨハ16:7-8。使2:2−4) 、教会を形成することに対し、サタンはその全力をもってこれを妨害せんとし、地に住む者はサタンとその使なる獣とを拝して聖徒を迫害するのである。神の力の強く働く所にサタンもまたその力を振うことは当然であって、新約の世界となってサタンの力が一層強くなったのはそのためである。ゆえに我らはこれと戦い苦難の下に忍耐しなければならない。
附記 本章は黙示録中最も難解の一章である。その故は
(1)もし5節の男子をキリストと解する時はその地上の生活、十字架の死および復活等を全く無視する点が不可解となること。
(2)17節より見れば「女」は明かに教会を指すがごときも、教会がキリストを生む(5節)ということは考え得ざること。
(3)イスラエルはキリストを生むと考えることができるけれども、イスラエルはその以前に地上にあり(6節と矛盾し)またイスラエルはキリスト者の母にあらず(17節と矛盾する)、そこに難解の点あること。
以上のごとくこの一章はキリスト教的にもあらずユダヤ教的にもあらざるをもって註解家は非常にその取扱いに困窮しあるいはこれをキリスト者の作にあらずとし、ユダヤの黙示文学の一片をここに挿入せしものとして説明せんとし、あるいはこれをユダヤ人の間に伝われる古き神話の改竄であるとなし、従ってまたこの一章は一つの統一せるものではなく、多くの断片の集輯 であるとなし、編集者が種々加除せるものとして想像せられているけれども、かく解することによりて益々本章の意味が不明となり、結局において編集者がかかるものを作り出したる目的を解し得ないこととなる。多岐亡羊、学者はその材料の多きに迷わされてヨハネが示さんとする根本原理を見失ったのである。本章の註解のごとくに解するならば、ヨハネの思想が統一せる一つの思想であることが判明 りまた聖書全体の立場とも一致することとなるであろう。
黙示録第13章
3-(3)-(第六挿景) サタンの輩下
13:1 - 13:18
3-(3)-(第六挿景)-(a) 地上の権力者たる獣
13:1 - 13:10
註解: 本章には二つの獣につき録されている。その一つは(1−10節)地上の権力たる国王およびローマ教会のごときものを表徴し、他の一つは偽預言者を表徴する。この二者はサタンの僕として最も激しく教会を迫害し誘惑する処のものである。龍とこの二つの獣とはサタンの三位一体を形成し、最後に凡て
羔羊 によりて亡ぼされる (黙16:13。黙19:19−21。黙20:10)。
13章1節
口語訳 | わたしはまた、一匹の獣が海から上って来るのを見た。それには角が十本、頭が七つあり、それらの角には十の冠があって、頭には神を汚す名がついていた。 |
塚本訳 | また私は十の角と七つの頭とを有った(一匹の)獣が海から上って来るのを見た。その角には十の冠が被されて居り、またその頭には(神を)涜す名が記されてあった。 |
前田訳 | そしてわたしは見た。海からひとつの獣が上った。それは十の角と七つの頭を持ち、角には十の冠、頭には神を汚す名がある。 |
新共同 | わたしはまた、一匹の獣が海の中から上って来るのを見た。これには十本の角と七つの頭があった。それらの角には十の王冠があり、頭には神を冒涜するさまざまの名が記されていた。 |
NIV | And the dragon stood on the shore of the sea. And I saw a beast coming out of the sea. He had ten horns and seven heads, with ten crowns on his horns, and on each head a blasphemous name. |
註解: ヨハネは当時のローマの国家的権力をもってサタンの顕現ともいうべき神の敵と解した。これを海より出づる獣をもって表徴している。十の角、七つの頭、十の王冠はその外貌のサタンなる龍と同形であることを示す。すなわち力と智慧と支配力との完全さを示す。ただしこの獣の場合においては「七つの頭は七つの山また七人の王」で(黙17:9)ローマとその諸王とを指し、十の角はこれに類する「十人の王」(黙17:12)であって地上の王たちを指し、龍の権力が地上の権力保持者に具体化しているのを見る。頭の上に神を涜す名あり、当時ローマの王は己を「神」または「神の子」と呼ばしめた。これ神を無視し神を涜す処の名称である。かくのごとくヨハネはその眼前に大なる国家的権力として存していたローマ帝国をこの獣をもって表徴せしむることによりて、一般にこの種の権力および権力者を指しているのである。サタンはこれを利用して巧に神の民を迫害する。
辞解
[冠冕 ] 黙12:3の場合と同じく「王冠」である。なお本節の表徴につきてはダニ7:2以下参照。
13章2節 わが
口語訳 | わたしの見たこの獣はひょうに似ており、その足はくまの足のようで、その口はししの口のようであった。龍は自分の力と位と大いなる権威とを、この獣に与えた。 |
塚本訳 | 私が見たその獣は豹に似ていた。またその足は熊の足のよう、その口は獅子の口のようであった。そして(曩に天から落とされた)竜が、自分の(有っている)権能と、自分の王座と、大なる権力とをそれに与えた。 |
前田訳 | わたしが見たこの獣は豹に似ていた。その足は熊のそれのよう、口は獅子の口のようである。そして竜はその力と王位と大権とをそれに授けた。 |
新共同 | わたしが見たこの獣は、豹に似ており、足は熊の足のようで、口は獅子の口のようであった。竜はこの獣に、自分の力と王座と大きな権威とを与えた。 |
NIV | The beast I saw resembled a leopard, but had feet like those of a bear and a mouth like that of a lion. The dragon gave the beast his power and his throne and great authority. |
註解: ダニ7:3-6の三つの獣をここに引用したので、この三つの獣の特徴を一身に集めていることとなる。ダニエル書の動物がバビロン、メディヤ、ペルシャを示すとすれば、本節の獣は、これら三つの国をもって代表される国家的権力の化身であることが察せられる。すなわちこの獣の特徴はその強さと残忍さとにおいて他に秀でている。
註解: 従って本節の獣は龍の代理として龍と同じ地位に自己を置き、同じ権力を握っている。国権は本来神の立て給えるものであるけれども(ロマ13:1)それが時には本節のごとくサタンの代理として活躍する。ゆえにキリスト者は国家的権力の強き圧迫の下に迫害せられる。
辞解
[己が能力、己が座位、大なる権威] 原文によれば一つ一つ強調されている、ヨハネは当時のローマの国権の中に、サタンの凡ての性質を感得したのであろう。
13章3節
口語訳 | その頭の一つが、死ぬほどの傷を受けたが、その致命的な傷もなおってしまった。そこで、全地の人々は驚きおそれて、その獣に従い、 |
塚本訳 | またその一つの頭は(剣で)打たれて死んだようであったけれども、(不思議にも)その致命の傷が癒されたのを私は見た。すると全地の人々は獣の(癒された)ことを(見て)驚き、 |
前田訳 | その頭のひとつは瀕死の打撃を受けたかに見えたが、致命傷はいやされた。すると全地はおどろいて獣に従い、 |
新共同 | この獣の頭の一つが傷つけられて、死んだと思われたが、この致命的な傷も治ってしまった。そこで、全地は驚いてこの獣に服従した。 |
NIV | One of the heads of the beast seemed to have had a fatal wound, but the fatal wound had been healed. The whole world was astonished and followed the beast. |
註解: 七つの頭は七つの王を意味する故(黙17:9)、その王者の一人が重傷を受けて死なんとし、その獣すなわち国権もまさに滅びんとするかのごとくに見えしにもかかわらず、その〔獣の〕死の傷いやされて王権は再び確立し、全地は驚きと懼れとをもって獣に従った。ヨハネがかかる幻象を録したる所以は紀元六十八年六月ネロ帝は元老院より遣されし刺客によりて暗殺されたにもかかわらず、彼はまだ生存しているとの風説が行われ、その後ネロと称して王位を窺う者がしばしば顕われ、ネロの生存復起説が一つの伝説となった。ヨハネはこれをここに応用しドミティアヌス帝のキリスト教徒迫害をもってネロの復活と見なしてここにこれを暗示したのであろう。こうして他の凡ての場合と同じく、これを一般の場合に敷衍すれば、地上の権力はその保持者の生死や盛衰によっては左右されないことを意味する。なおヨハネはサタンの受肉とも云うべきネロを神の言の受肉のキリストと相対応せしめキリストの復活に因みてネロの復活を考えたものとも見ることを得。
辞解
[傷けられて] 「屠られて」で黙5:6の「屠られたる如き」と同語。
[その死ぬべき傷] 「彼の死の傷」で彼は獣を指す、ゆえに単に一人の王の死の意味ではなく、国権の消長を表徴する。
13章4節 また
口語訳 | また、龍がその権威を獣に与えたので、人々は龍を拝み、さらに、その獣を拝んで言った、「だれが、この獣に匹敵し得ようか。だれが、これと戦うことができようか」。 |
塚本訳 | 竜を拝んだ。彼が獣にその権力を与えた(ためにこんな不思議が行われたと思うた)からである。そして獣を(も)拝んで言うた、「誰がこの獣のように偉いか。誰が彼と戦うことが出来るか。」 |
前田訳 | 獣に権力を授けたとて竜を拝み、また獣を拝んでこういった、「だれがこの獣にかなおうか、だれが彼と戦えようか」と。 |
新共同 | 竜が自分の権威をこの獣に与えたので、人々は竜を拝んだ。人々はまた、この獣をも拝んでこう言った。「だれが、この獣と肩を並べることができようか。だれが、この獣と戦うことができようか。」 |
NIV | Men worshiped the dragon because he had given authority to the beast, and they also worshiped the beast and asked, "Who is like the beast? Who can make war against him?" |
註解: 全地の人間はここにおいて龍すなわちサタンとその代理者なる国王とを神として礼拝するようになる。この世の権力を懼れて神の義を行わざるものは、この世の君なるサタンを神とする者である。神に従わずしてサタンの僕たる国王に従うものはすなわち獣を拝するものである。かくして彼らその獣に讃美をささげ、その暴力の前に慴伏 する。
辞解
[たれかこの獣に等しきものあらん] 出15:11。 詩35:10。詩89:6。詩113:5。 イザ40:25。イザ46:5等にエホバの比類なき神に在し給うことを讃美せる言と同一の語法を用いしもの、すなわち神を拒みて獣を神として拝せることを意味す。
[誰かこれと戦うことを得ん] 獣を拝する理由が単にその暴力を懼れるためなることを示す。
13章5節
口語訳 | この獣には、また、大言を吐き汚しごとを語る口が与えられ、四十二か月のあいだ活動する権威が与えられた。 |
塚本訳 | するとその獣に、大言(壮語)し、(神に向かって)涜言をいう口が与えられ、また四十二か月の間それを実行する権力が与えられた。 |
前田訳 | そして彼に豪語とけがしをいう口が与えられ、四十二か月間、行動する権威が与えられた。 |
新共同 | この獣にはまた、大言と冒涜の言葉を吐く口が与えられ、四十二か月の間、活動する権威が与えられた。 |
NIV | The beast was given a mouth to utter proud words and blasphemies and to exercise his authority for forty-two months. |
註解: 本節は獣の権力の本質を示し、6、7節はその活用を示す。地的の権力は己に敵するものなき時、周囲に向って大言壮語をもって誇り、神をも無視してこれを涜す、その活動の期間は一定有限の期間であって 黙11:3。黙12:6、黙12:14 の期間と一致する。従って教会はこの世の荒野に生存する間サタンの下にある国家的権力に迫害せられる。
辞解
[働く] 「過す」と訳すべしとの説あり。なお本節はダニ7:8、ダニ7:20、ダニ7:25等に擬せるものである。
13章6節
口語訳 | そこで、彼は口を開いて神を汚し、神の御名と、その幕屋、すなわち、天に住む者たちとを汚した。 |
塚本訳 | そこで彼は口を開き、神に向かって涜言をいうた──その御名と、(天にある)その天幕、(すなわち)天に住む人々とを涜した。 |
前田訳 | そして神へのけがしをいう口を開いた。み名と幕屋を、また天に幕屋を張るものらを汚すためである。 |
新共同 | そこで、獣は口を開いて神を冒涜し、神の名と神の幕屋、天に住む者たちを冒涜した。 |
NIV | He opened his mouth to blaspheme God, and to slander his name and his dwelling place and those who live in heaven. |
註解: 地上の権力が暴威を振うとき、神とその民とを冒涜することは彼らの快とする処であり、彼らはまたこれによりていよいよその誇を高めんとする。
辞解
[幕屋] 神の住み給う処また神の民の住む処である。
[天に住む者] 「住む」は黙12:12の場合と同じく幕屋の中にいることで、キリスト者はその新しき生命としては天に住む者である。
13章7節 また
口語訳 | そして彼は、聖徒に戦いをいどんでこれに勝つことを許され、さらに、すべての部族、民族、国語、国民を支配する権威を与えられた。 |
塚本訳 | また彼は聖徒達と戦争をしてこれに勝つことを許され、且つ凡ての種族と民と国語と国とを支配する権が与えられた。 |
前田訳 | また、聖徒たちと戦いをして、彼らに勝つことを許された。そして彼にすべての族と民族と国語と国民への権力が与えられた。 |
新共同 | 獣は聖なる者たちと戦い、これに勝つことが許され、また、あらゆる種族、民族、言葉の違う民、国民を支配する権威が与えられた。 |
NIV | He was given power to make war against the saints and to conquer them. And he was given authority over every tribe, people, language and nation. |
註解: サタンの代理者たる獣、すなわち地上の権力者はキリスト者を迫害しこの世においてはこれに勝つ力がある。神を涜し、聖徒を涜し、聖徒と戦うことにおいては当時のローマの国のごときはその最も著しき例であった。そしてこの獣は世界万国を掌る権威を与えられていること、ローマの国権が全世界に及んでいる様なものである。実に偉大なる力を有するものはサタンとその臣下である。
辞解
本節はダニ7:21−23より思想を借りたるもの。
[戦を挑みて] 「戦を為して」で実際戦うこと、古き写本に本節前半を欠くもの多し、筆写の際この一行を見落したものと解することが普通であるが、あるいは教会が決してサタンに勝たれること無しとの立場(黙12:16)より見て後日これを除いたと見る説もある。しかしながらここでは「聖徒に勝つ」はこの世的の意味であって霊的の意味ではない(Tヨハ5:4、5)。
[族・民・国語・国] 黙5:10辞解参照。
13章8節
口語訳 | 地に住む者で、ほふられた小羊のいのちの書に、その名を世の初めからしるされていない者はみな、この獣を拝むであろう。 |
塚本訳 | かくて凡て地に住む者、宇宙開闢の時からその名を屠られた仔羊の生命の書に記されていなかった者は、彼を拝むであろう。 |
前田訳 | 地に住むものは皆彼を拝もう。彼らはすべて、世のはじめこのかた、その名がほふられた小羊のいのちの書にしるされていないものである。 |
新共同 | 地上に住む者で、天地創造の時から、屠られた小羊の命の書にその名が記されていない者たちは皆、この獣を拝むであろう。 |
NIV | All inhabitants of the earth will worship the beast--all whose names have not been written in the book of life belonging to the Lamb that was slain from the creation of the world. |
註解: 人はキリストによりて神を拝するか、キリストを離れてサタンを拝するかの何れかに結着する。そしてキリストを拝せざる凡てのものはサタンを拝しその代理たるこの世の権力を神として拝す。当時ローマのカイザルが自己を神として拝せしめし事実を表徴として録したものであるがいずれの時代にもそれは適応する。
辞解
[地に住む者] 「天に幕屋住いする者」(6節)の反対で、神の選に与らざるものすなわちその名が生命の書に記されざる者である。この生命の書は屠られ給いし羔羊 の権に属する (黙3:5。黙21:27)。なお黙17:8。黙20:12、黙20:15参照。
口語訳 | 耳のある者は、聞くがよい。 |
塚本訳 | (聞く)耳あらば(私の言を)聴け── |
前田訳 | 耳あるものは聞け。 |
新共同 | 耳ある者は、聞け。 |
NIV | He who has an ear, let him hear. |
註解: 深き注意と、文字の裏に徹する洞察力とを喚起せんとする命令語。次節に関していえるもの(黙2:7、黙2:11、黙2:17)。
口語訳 | とりこになるべき者は、とりこになっていく。つるぎで殺す者は、自らもつるぎで殺されねばならない。ここに、聖徒たちの忍耐と信仰とがある。 |
塚本訳 | 牢屋に行かねばならぬならば(素直に)牢屋に行け。剣で他人を殺すならば、自分が剣で殺されねばならぬであろう。ここに聖徒の忍耐と信仰がある! |
前田訳 | とりこへと定められたものはとりこになり、剣で殺されるべきものは剣で殺されねばならぬ。ここに聖徒の忍耐とまことがある。 |
新共同 | 捕らわれるべき者は、/捕らわれて行く。剣で殺されるべき者は、/剣で殺される。ここに、聖なる者たちの忍耐と信仰が必要である。 |
NIV | If anyone is to go into captivity, into captivity he will go. If anyone is to be killed with the sword, with the sword he will be killed. This calls for patient endurance and faithfulness on the part of the saints. |
註解: エレ15:2の語調によりたるもの、すなわち来るべき運命は必ず来るが故に、虜にせらるべきものは静にこれに従い行くべきで決して抵抗または狼狽すべきではない。
註解: マタ26:52のごとく暴力による抵抗の無効を教え給いしもの、すなわち迫害者を剣にて殺すごときことを為すべからず、唯従順に迫害を受くべしと教えしものである。キリスト者は真理を剣をもって擁護せんとしない。本節はまたキリスト者を剣にて殺すローマ人はまたやがて剣にて殺されんとの意味に解することもできる。
註解: ヨハネはここにキリスト者を慰藉 奨励し、すでに来り、またまさに来らんとする迫害に備えしめんとしているのである。迫害に際しては暴力をもって抵抗せず、唯希望をもって忍耐し、信実をもって一貫してその主を裏切ることをしないことが唯一の必要である(ロマ5:3参照)。
辞解
[忍耐] hupomonê は困難の下に耐えること(コロ1:11辞解参照)。
[信仰] ここで「信実」と訳すべしとの説あり(B3)、迫害に対して変節せざる態度を示すものとしてこの方(信仰)が優っている(Uテサ1:4)。
要義1 [この世の権力とその迫害]この世の権力、例えば財的、政治的、宗教的権力のごときは、本来神を拝することを欲せず、自己を神の地位に置かんことを欲する。それ故にこの世の権力が、思い上りて絶対的権威を恣 にせんとする時、必ずキリスト者を迫害する。何となれば「地に住む者」すなわち天に神の幕屋にその居所を有せざる凡ての人間は、如何なる有力者といえどもみなこの獣なるサタンの権力を拝するのである故、この世の権力はその横暴を恣 にすることができるけれども、唯キリスト者のみは神と主イエスとに対する信実の故に、この世の権力を恐れず、正を正と呼ぶが故に彼らはこれを迫害するのである。多少とも迫害はこの世に絶えることがないけれども、大なる迫害は以上のごとく、この世の権力がその横暴を恣 にせんとする時に必ず起る。
要義2 [迫害の際における忍耐と信実]迫害に際しての第一の重要事は、信仰をもってその望む処を疑わずに確保し、そしてこの希望の確保によって患難の下に忍耐することである。この忍耐なしにキリスト者は迫害に際してその終を全うすることができない。大なる迫害に際しては大なる忍耐を必要とする。そして第二に重要なることはその信実にある。主イエスに対し、また父なる神に対してその全心をささげ、絶対に彼を裏切らず死をもって彼に事 うる信実を必要とする。
要義3 [無抵抗主義]キリスト者は迫害に対して抵抗してはならない。いわんや暴力をもって迫害者を膺懲 すべきでもない。この世の力は神を涜しキリストを涜し、聖徒を迫害してこれに勝つように定められているのである。唯その迫害の下に忍び、その剣の下に死することによりて、かえって迫害者に勝つことができる。
要義4 [凡ての権は神より出づ]ロマ13:1以下、Tペテ2:13、14等に凡ての権は神より出づるが故に、人は上に在りて権を取る者に従うべきことを教えているのに対し、本章および黙示録全体の態度は、地的権力はサタンの代理者としてキリスト者を迫害すべきことを宣べていることは互に矛盾せずやとの疑問は起り得ることである。たしかに聖書に「権は神よリ出づ」とあるは必ずしもその権を握る者が神に服従していることを意味せず、唯神の許可なくしては何人も他人の上に権を取ることを得ずとの意味である。ゆえに神を知らざるこの世の支配者が神を涜すことは有り得ることでありむしろ当然である。従ってキリスト者が迫害されることも当然であることとなる。そしてかかる権力者を審判 き給うことは神の御手の中にあるが故に、キリスト者は唯その迫害を忍耐するのが義務であることとなる。ゆえに神を涜しサタンに事 うる権力者を、神に反するの故をもって暴力をもって位より下さんとするごときはキリスト者の為すべきことではない。
口語訳 | わたしはまた、ほかの獣が地から上って来るのを見た。それには小羊のような角が二つあって、龍のように物を言った。 |
塚本訳 | また私はもう一つ(他)の獣が地から上って来るのを見た。それには仔羊に似た二つの角があって、竜のように語った。 |
前田訳 | そしてわたしは見た。別の獣が地から上った。それは小羊に似たふたつの角を持ち、竜のように語った。 |
新共同 | わたしはまた、もう一匹の獣が地中から上って来るのを見た。この獣は、小羊の角に似た二本の角があって、竜のようにものを言っていた。 |
NIV | Then I saw another beast, coming out of the earth. He had two horns like a lamb, but he spoke like a dragon. |
註解: 第二の獣は海より出でず地より出づ、海と地とをもって全地球を代表し得ると同じく、この二つの獣をもって全世界を代表することを得、実にこの二獣は全世界に君臨するサタンの代表者である。
これに
註解: その外貌はキリストのごとく、その言う所はサタンすなわち龍のごとくである。「羊の扮装して来れる狼」(マタ7:15)であり、すなわち 黙16:13。黙19:20。黙20:10 等に現われる偽預言者である。第一の獣なる国権は外よりキリスト者を迫め、第二の獣は内よりこれを誘う。その働きは次節以下に示すごとくである。龍と獣と偽預言者とは神とキリストと聖霊のごとくに三位一体を形成す。
13章12節
口語訳 | そして、先の獣の持つすべての権力をその前で働かせた。また、地と地に住む人々に、致命的な傷がいやされた先の獣を拝ませた。 |
塚本訳 | そして第一の獣の(有つ)凡ての権力を彼(に代わってそ)の前に行い、地とそこに住む者とをして、致命の傷を癒された(かの)第一の獣を拝ませる。 |
前田訳 | それは第一の獣のすべての権力をその目の前で行使する。そして地とそこに住むものが、死の痛手をいやされた第一の獣を拝むようにする。 |
新共同 | この獣は、先の獣が持っていたすべての権力をその獣の前で振るい、地とそこに住む人々に、致命的な傷が治ったあの先の獣を拝ませた。 |
NIV | He exercised all the authority of the first beast on his behalf, and made the earth and its inhabitants worship the first beast, whose fatal wound had been healed. |
註解: 偽預言者の任務は人を欺きて神を離れサタンを拝せしめんとするに在る。第一の獣は龍よりその権威を与えられ第二の獣は第一の獣がその権を行うのを助けこれに事 えつつその前にこの権威を行使する。それ故にこの第二の獣の任務は人をして第一の獣を崇めしむるに在る。あたかもキリストは父なる神の権威を受けてこれを自ら行使し給い、聖霊はキリストがその権威を行使し給うことの助を為し給う。神、御子、聖霊の関係と同じく龍、第一の獣、第二の獣の三位一体の関係がここに成立しているのである。
辞解
[彼の前にて行ひ] 僕の形(ルカ1:74、76)を示すことである。ここでは聖霊とキリストとの関係を示す。
[死ぬべき傷の醫されたる先の獣] この世の権力とその保侍者を指す(3節)。
13章13節 また
口語訳 | また、大いなるしるしを行って、人々の前で火を天から地に降らせることさえした。 |
塚本訳 | 彼は(驚くべき)大きな徴をする──天から火を(呼び、)地に、人々の(目の)前に降らせる(ようなことをすらする)。 |
前田訳 | そして大きな徴を行なう。すなわち火を人々の目の前で天から地へと降らせる。 |
新共同 | そして、大きなしるしを行って、人々の前で天から地上へ火を降らせた。 |
NIV | And he performed great and miraculous signs, even causing fire to come down from heaven to earth in full view of men. |
13章14節 かの
口語訳 | さらに、先の獣の前で行うのを許されたしるしで、地に住む人々を惑わし、かつ、つるぎの傷を受けてもなお生きている先の獣の像を造ることを、地に住む人々に命じた。 |
塚本訳 | また(第一の)獣の前で行うことを許された(種々の)徴によって、地に住む者を惑わし、剣の傷を受けて(死んだようになり、再び)生き(返っ)た(かの)獣(を崇めるために、そ)の像を作るように地に住む者に言う。 |
前田訳 | そして獣の前で行なうことを許された徴によって地に住むものを惑わし、剣の痛手を受けつつも生きのびた獣の像を作るようにと、地に往むものにいった。 |
新共同 | 更に、先の獣の前で行うことを許されたしるしによって、地上に住む人々を惑わせ、また、剣で傷を負ったがなお生きている先の獣の像を造るように、地上に住む人に命じた。 |
NIV | Because of the signs he was given power to do on behalf of the first beast, he deceived the inhabitants of the earth. He ordered them to set up an image in honor of the beast who was wounded by the sword and yet lived. |
註解: 偽預言者も真の預言者のごとくに大なる徴を行う力がある。そして預言者は神の前にこれを行い、偽預言者は獣の前にてこれを行う。預言者は人をして神を拝せしむることをその目的とし、偽預言者は獣の像を造りてこれを拝せしむることを目的となす。たしかに当時の偽預言者はあたかもキリストのごとくに装いて、偉大なる能力を顕わし、人をして彼を信ぜしめ、これによりて人々をカイザルの像を神として拝するカイザル礼拝に導かんとしたのである。当時ローマのカイザルはその権力を強大ならしむる目的をもってカイザル礼拝を強行し、これによりてこれに従わざるキリスト者を迫害した。
辞解
[火を天より地に降らせ] T列18:38のエリヤの力に匹敵することを示す。
[獣の前にて] 「神の前にて」と同様、その僕としてとの意味。
[惑わし] あたかもそこに真の信仰と能力とがあるかのごとくに思わしめる。
[剣に打たれてなお生ける] 私訳「剣の傷を負いて生き返れる」でネロに関する当時の風説に因みて、地上の主権を握りて神を蔑 する者を意味す。キリスト者にとりて最も重大なる罪は、神を離れてサタンとその使とを拝するに至ることである。そしてヨハネの当時においてはそれがネロ、ドミティアヌス等ローマの国権およびその国王の形においてあらわれた。
[像を造る] 具体的および抽象的の双方の意味に取るべきである。
13章15節
口語訳 | それから、その獣の像に息を吹き込んで、その獣の像が物を言うことさえできるようにし、また、その獣の像を拝まない者をみな殺させた。 |
塚本訳 | 且つ彼はその獣の(生命の)息を吹き入れて獣の像に口を利かせ、また獣の像を拝まない者をば誰でも殺すことを許された。 |
前田訳 | そして獣の像に霊を与えることが許された。それは、獣の像が口もきけるため、獣の像を拝まぬものは皆殺されるためであった。 |
新共同 | 第二の獣は、獣の像に息を吹き込むことを許されて、獣の像がものを言うことさえできるようにし、獣の像を拝もうとしない者があれば、皆殺しにさせた。 |
NIV | He was given power to give breath to the image of the first beast, so that it could speak and cause all who refused to worship the image to be killed. |
註解: 偽預言者はさらに進んで大なる徴を行い獣の像に生命を与え、物言わしめまた己を拝せぬものを殺さしめる。その意味は当時のカイザル礼拝の強要は、カイザルの像をあたかも生命あるもののごとくに取扱い、またこれを拝せざるものを殺したことを指示したものである。獣の像が物言い、また人を殺す、偽預言者の狡計の極致でありサタンの力の如何に強きかを示す。
辞解
[息] また「霊」で生命の息を意味す。
13章16節 また
口語訳 | また、小さき者にも、大いなる者にも、富める者にも、貧しき者にも、自由人にも、奴隷にも、すべての人々に、その右の手あるいは額に刻印を押させ、 |
塚本訳 | そして小さい者も大きい者も、金持ちも貧乏人も、自由人も奴隷も、悉くその右手かあるいは額に印をつけさせ、 |
前田訳 | そして小さいものも大きいものも、富むものも貧しいものも、自由人も奴隷も、すべて右手か額に目じるしをつけるようにした。 |
新共同 | また、小さな者にも大きな者にも、富める者にも貧しい者にも、自由な身分の者にも奴隷にも、すべての者にその右手か額に刻印を押させた。 |
NIV | He also forced everyone, small and great, rich and poor, free and slave, to receive a mark on his right hand or on his forehead, |
註解: 獣を拝する者は一人の例外なしにその徽章 を何人にも見得る場所に押印または彫刻せられ、これによりて獣の所属なることが明かにせられる。これはあたかも神の僕がその額に印されるがごときものである(黙7:3)。これによりサタンが己が民を区別してこれを保ちこれを守ることを意味する。
辞解
[手、額] 何人にも見易き場所で隠れることができないことを意味す。または額は告白、手は活動の意味とも見ることができる(A2)。
[徽章 ] 押捺または彫刻せられし表示であるがこの場合は黙7:3の「印」と同じく具体的の徽章 ではなく一つの表徴である。サタンは己のものを知り、これを区別しこれを確保することを示す。ゆえにこの徽章 が(1)公文書に押されし王の印、(2)皇帝デキウス(二四九−二五一)の迫害の際における安全保証票、(3)兵士、奴隷、信徒等の額に押されし王、所有者、宗教の印等の何れかを指すと決定する必要はない、ただしヨハネは恐らくこの(3)より示唆を得たものであろう。
[受けしむ] 原文「彼らに与えしむ」で複数主格が省略されているので種々の解釈があるけれども、単に偽預言者の命を受けて働く者どもの意ならん。
13章17節 この
口語訳 | この刻印のない者はみな、物を買うことも売ることもできないようにした。この刻印は、その獣の名、または、その名の数字のことである。 |
塚本訳 | 【そして】その獣の印かあるいはその(獣の)名の数をつけている者でなければ売買が出来ないようにする。 |
前田訳 | それは獣の名かその名の数かの目じるしなしのものは、だれも売り買いできないためである。 |
新共同 | そこで、この刻印のある者でなければ、物を買うことも、売ることもできないようになった。この刻印とはあの獣の名、あるいはその名の数字である。 |
NIV | so that no one could buy or sell unless he had the mark, which is the name of the beast or the number of his name. |
註解: サタンの迫害の巧なる手段は人をその生活において脅かすに在る。当時のキリスト者も一般に嫌忌せられし結果常にその営業上の迫害を受けたことであろう。キリスト者に対し売買を禁ずる法令が発せられたことは歴史上に見出し得ず、またヨハネは必ずしもかかる場合を考えたのではない、唯実際上これに相当するごとき迫害が起りまた起ることを予想したのであろう。
その
註解: 16節の徽章 の性質がここに説明せられている。この「獣」は第一の獣を指すと見るべきである。
辞解
[もしくは] 「すなわち」の意味に解して可なり(S3)。「換言すれば」に等し。
13章18節
口語訳 | ここに、知恵が必要である。思慮のある者は、獣の数字を解くがよい。その数字とは、人間をさすものである。そして、その数字は六百六十六である。 |
塚本訳 | ここに知恵が(蔵されて)ある。理知ある者は(この)獣の数をかぞえよ。それは人間の数である。(人の名である。)そして(その人の名を数うれば、)その数は六百六十六! |
前田訳 | ここに知恵がある。心あるものは獣の数をかぞえよ。それはひとりの人の数である。その数は六百六十六。 |
新共同 | ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は六百六十六である。 |
NIV | This calls for wisdom. If anyone has insight, let him calculate the number of the beast, for it is man's number. His number is 666. |
註解: この数は古来種々に解せられたけれども十九世紀末より多くの学者によりネロ帝を指すとと解せられ、この解が最も適切である。ヨハネは死にてまた生くべき風説を有する皇帝ネロをもってサタンの化身なる獣と見、彼をもって神に敵するあらゆるサタンの力の代表者とした。ゆえにヨハネはネロを用いて神に敵する地上のサタン的力を一般に意味したものと見るべきである。そして当時においてはこれを明白に表顕することが危険であったので、当時多く行われし方法により数字をもって人名を表顕したのである。「茲に智慧あり」これをさとるには聖き智慧をもってしなければならぬ。「心ある者」すなわち理解力ある者はヨハネの言わんとする処を解してこの数字を読むことができるであろう。
辞解
[六百六十六] ギリシャ文字およびヘブル文字はそれぞれ数字上の価値を代表していた。それ故に人名を組立てる各文字の数値を加算して六百六十六に相当するものが、ここに言わんとする人名である。古代教父はギリシャ文字によりこれを Teitan または Lateinos または Gaios Kaisar 等と解していたが近代に至り「皇帝ネロン」に相当するヘブル文字の数値が六百六十六なることが発見され、またこれを「皇帝ネロ」とすれば六百十六となり黙示録の異本に相当することよりこの説最も有力となり、他の諸説(トラヤヌス、ハドリヤヌス、ヴェスパシアヌス、開闢 時代の混沌、ローマ皇帝等々)を排除した。ヘブル文字は NRON KSR でそれぞれ 50+200+6+50:100+60+200 に相当する。
要義1 [偽預言者の働き]13:11−16の偽預言者が如何なる種類の人を指しているかは困雖なる問題であるが、ヨハネは必ずしも当時のローマにおける祭官や宗教家等にしてカイザル礼拝の讃美者を指したのではなく、如何なる時代においても必ず起るべき種類の預言者、教師、宗教家、すなわち当時の権力に阿附 して、それを讃美擁護し、もってサタン礼拝の正しきことを人々に宣伝し、神を拝する者を非としてこれを迫害する理由を造り出す処の人々を指したものと見るべきである。この世の力、すなわちサタンの権を受けたる獣の暴威を振う処には必ずこの種の偽預言者あらわれ出で、もってキリスト者の立場を益々困難に陥れるのである。この種の偽預言者は実によくサタンの性質をあらわしている。
要義2 [偽預言者の性質]11節の示すがごとく、形は羔羊 のごとくにして龍のごとくに語るものが偽預言者である。人は往々外形を見て心を見ることができないために偽預言者に惑わされるに至るのである。偽預言者はサタンとその代理とを拝することがあたかも神を拝すると同一であるかのごとくに人をして感ぜしむる力を有っている。これが偽預言者の恐るべき点であって、サタンに対する注意を怠らないことの必要がここにある。
要義3 [偶像としてのローマ皇帝]ローマ皇帝がその臣民に己を神として礼拝せしめ、これを死をもって強要したのは、政治上の統一の目的のためであった。日本人民の日本の皇室に対するごとき国民の宗家としての自然の崇敬とは性質を異にしていた。それ故にローマ皇帝を拝することは、ローマ皇帝以外に全く神無きことを認めることであり、すなわち彼を神父またはキリストの地位に置くことであって、キリスト者にはそれができなかった。それ故に自己の権力を恣 にせんとし、自己の悪事をもこれを神の行為と認めしめんとする暴君は必ずキリスト者を迫害した。
要義4 [売買の禁止]売買の禁止は営業の停止であり、また日用必要品の購入禁止である。かくてキリスト者はその生活の手段を奪われてしまうのである。免職、同業者よりの排斥、家庭または故郷よりの逐出し等は今日もキリスト者の受けつつある迫害の手段であって、結局において売買することをできないようにされることとなる。